男「緩やかに死ぬらしいのだ」(8)


男「妖怪とは不便よな、おれのように不死ではないのだから」

妖怪「仕方なかろ、そのかわり何度も産まれるのよ」くつくつ

妖怪「わしにはお前が不便に思うよ、死なぬということは面倒が多いだろうに」

男「なに、不便も永い時の中では娯楽、悦楽というものよ」けらけら


妖怪「なあ、お前、わしはお前の名前を呼んだことがない」

男「それはおれも同じよ、おれたちは互いの名を知らぬではないか」

妖怪「それもそうだ、長いこと一緒におったのになあ」くつくつ

男「ふぅむ、今更も今更、なぜ今おれの名を知ろうとする?」

妖怪「わしがもうじきに死ぬからよぉ……
長らくの相方の名前も知らぬとは寂しいのよ」

男「そうか、死ぬのか、お前が
ならば教える、おれは男というのだ」

妖怪「それは、いい名前だな、わしは妖怪というのだ
ふむ……嗚呼、おかしな縁だったなぁ……ふう、さらば男、わしの友」

男「さらば妖怪、おれの友」

そういうと妖怪は目を閉じた。
その齢実に千と四百といくらか、永い間おれの友だった。


おれはこいつの生まれ出てくるところに出くわしたのだ。

そして今死んだ。

永い時の中、一番の友だった。

生まれた頃から死ぬまで姿の変わらなかったこいつ。

おれも姿が変わることがなかったものだから仲良くなった。

まあ、死んでしまったものは仕方なかろ。

おれは退屈になってしまった。

妖怪、妖怪。

またお前のような友に会えるのか?

返事は、ない。

期待してる


どこへ行こうか、おれは道を歩く、歩く、歩く。

永く生きているおれには超常の力がある。

妖怪もおれの力を見て驚いていたものだ。

いかんな、涙が出てきたではないか。

そうか、久しく忘れていた。

これは、『悲しい』だ。

感情はいつまでも残るものらしい。

忘れても、いつか思い出す。

妖怪のことも、いつか忘れ、また、思い出すのだろうな。

ん?

終わりか?

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