京太郎「またこんなとこで本読んでんのか」 (90)

・細かいことは気にしないで書いてきます

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春の日差しは暖かく、風は涼しい。
外に出て運動するには絶好の日で、用事が無くても何となく散歩に出かけてみたくなる、そんな日。

京太郎「けど、なぁ」

だからと言って、屋上にシートを敷いて読書に勤しむのは彼女くらいだろう。
呆れたような溜息で彼女はやっと俺に気付いたらしく、読んでいた本を閉じてそっと俺に手を伸ばしてきた。

俺は白く細いその手をとって、ゆっくりと彼女を起き上がらせた。


京太郎「それじゃ、行こうぜ……照」

レディースランチ。
手頃な量と味を両立させた素晴らしいメニュー。

残念ながら、その名の通り女子専用メニューなので今日も照に代わりに頼んで貰ったわけだが。


照「……」じー

ガン見である。
手元の本に視線を落とさず、俺をガン見している。

京太郎「……それ、読まないの?」

照「もう読み終わったから」

京太郎「……あ、そう」


照「……」じー


ガン見である。

「おっす。また嫁さんつれてメシ?」

照「どうも、旦那が世話になってます」


嫁さん違います。

尭深「おつかれさまです」

京太郎「ありがとう」

部室に顔を出すと、後輩がお茶を淹れてくれた。
熱過ぎず温過ぎず、甘過ぎず苦過ぎずな丁度いい塩梅。

京太郎「うん、うまい……渋谷、結婚してくれ」

尭深「え、あ……」

照れている。可愛い。
ちょっとしたジョークにこんな反応をしてくれるのは渋谷くらいのもの。

色んな意味で嫁に欲しい逸材である。

菫「あまり後輩を困らせるなよ」

そんな小言を引っ提げながらやってきたのは我らが部長。
顔良し、スタイル良し、性格良し――なれどチーム虎姫で婚期を逃しそうな女子No.1と密かに陰で囁かれている苦労人こと、弘世菫さんである。


菫「ああ、あと少しプリント運ぶのを手伝ってほしいんだが……」

京太郎「おっす、了解」


なのでまぁ、せめて卒業するまでは色々と手伝ってやろうと思う。
俺は菫の後を追って、部室を後にした。


尭深「……」ズズッ

京太郎「ふー……」

菫「ありがとう。大分楽になった」

京太郎「いいってこんぐらい」

菫「そうか……ところで、もし良かったら今度――」


誠子「あ、おつかれさまです!」


京太郎「お、おつかれー」

誠子「あ、そだ。先輩、今度の日曜空いてます? ボーリングの券貰ったんですけど」

京太郎「いいね、空けとくわ」



菫「……」

菫「……」クシャッ

放課後。
部活が終わってさあ帰ろう、という時。

淡「せーんーぱーいー」

不意に背中に感じる重み。
すわ心霊現象か、視界の端に髪の毛らしきものが映る。

淡「あーそーぼーおーよー」

幻聴まで聞こえる。
恐らく疲れているのだろう、早いとこ帰って寝よう。


淡「せんぱいー? どこいくのー? あ、もしかして私お持ち帰りされちゃう?」


訂正。
ちょっとだけ寄り道して帰ろう。

よく喋るお荷物を女子寮に送り届け、さて帰ろうとした矢先。

照「それじゃ、帰ろうか」

何故か、照が俺の後を着いて来る。


照「……どうしたの?」

京太郎「いや、お前がどうしたの」

照「今日明日明後日といないから、京ちゃんをよろしくってお義母さんが」


京太郎「……まじか」

照「うん」

照「夕飯はなにがいい?」

京太郎「確か昨日の麻婆がまだ残ってる」

照「じゃあ、明日の朝ごはん」

京太郎「朝もトーストとかでさっさとやっちゃうからなぁ」

照「……じゃあ、昼は」

京太郎「学食の日替わりランチを食べたい。明日は確かハンバーグだし」



照「むぅ……京ちゃんはワガママ」

京太郎「そうか?」

照「うん」

京太郎「そうか」

京太郎「……」

照「……」


会話が止まる。
何となく、気まずい。


京太郎「そういやさ」

照「?」

京太郎「妹さんも……もう、高1だっけ?」

照「……」


照「……うん」

京太郎「そっか。元気だといいな」

照「会えるよ」

京太郎「……?」


照「多分、会える。インターハイで。そんな気がする」


京太郎「そうか……」

照「……」


京太郎「照がそう言うなら、会えるんだろうな」


照は、小さく頷いた。

照「……ん」


照が控え目に手を握ってきたので、少し強めに握り返す。

小さい手が、ちょっとだけ震えていた。


京太郎「……妹さんへの挨拶、考えといた方がいいかなぁ」


そんなことを考えながら、俺は照と並んで帰路に着いた。





カンッ

とりあえず第1話完
ここから個別ルート的なの書いてきますがそんな長くならないと思います

――拝啓、残暑の候うんたらかんたらで。


咲「せ、セックス!?」


将来の義妹の第一声がコレだったんですが――こんな時、俺はどんな顔すりゃいいんだろうか。

残念ながら、どう頑張っても引きつった笑いしか出て来ない。

今回のインターハイ決勝戦。
照にとってはチャンピオンの座を守る防衛戦であるのと同時に、もう一つ重要な意味を持っていた。


『よろしくお願いします……!』


強い闘志を瞳に宿し、チャンピオンを見据える宮永咲。
3年間、照の隣で色々な魔物クラスの女子を見てきたけれど、アレはモニター越しでも響くものがあった。

そんな妹さんと、一対一で話してほしいと、照は言った。

確かに、考えてみれば。

このまま照との関係が続けば、将来的には義理の妹にもなる相手。
深い付き合いになるわけだし、仲良くするのは大事だ。

それにいくら麻雀が強くて『魔王』だなんて渾名が付いてるからといって、私生活でも恐ろしいヤツだとは限らない。
照との長い付き合いを通して、それはよく身に染みている。

『大丈夫。咲も京ちゃんもいい子だから』

そんな照の言葉に見送られて、妹さんが待つという喫茶店に訪れたら――待ち受けていたのは、さっきの言葉。


京太郎「……えーっと……」

咲「あ、あぅ……い、今のは、違くてぇ……!」


完全にオーバーヒートしている妹さん。
目はグルグルに回っているし、顔は湯気が出そうなくらい真っ赤っかだ。

理不尽なレベルで麻雀が強いヤツはどこかしら変なヤツが多かったが、こんな子には会ったことがない。

放って置くとガチ泣きしそうな妹さんを宥めるのにかなりの時間を費やして。


京太郎「落ち着いた?」

咲「ごめんなさい……」

シュンと縮こまる妹さん。
心なしか角みたいな髪先も萎れているように見える。

京太郎「まぁ……どうせ、照が変なこと言ったんだろ?」

咲「……はい」


個人戦の後に妹と仲直りした照は、これ以上ないくらいに上機嫌だったし。
昂るテンションのままに、あることないこと吹き込んだに違いない。


だから、その――妹さんのバックからチラッと覗く官能小説の表紙らしきものも、きっと俺の勘違いなんだろう。

いったん切ります、次は咲視点で始めます

「お姉ちゃんの彼氏って……どんな人なの?」


姉と仲直りして、色々なことを話して。
咲が一番気になることを聞いた時、照は少しだけ驚いたように目を見開いた。

照「知ってたの……?」

咲「うん……ごめん、見ちゃったんだ……キス、してるとこ」


それも、ディープなヤツを。

照「……ん」

ほんのりと、照れて頬を赤くする姉の姿はかなりレアである。
昔、一緒に暮らしていた頃ですらあまり見れるものじゃなかった。

咲「お姉ちゃん?」

照「……京ちゃんはね、いつも私を助けてくれたよ」

咲「そうなんだ……優しい人なんだね」

照「うん……お調子者で、情け無いところもあるけど」


照「でも……私の、大好きな人」

出会った日のこと、一緒に出かけたこと、部活でのこと、結ばれた日のこと。

つらつらと恋人とのことを述べる姉の顔。
それは文字の世界でしか知る事がなかった、恋する乙女の眼差し。

この姉にこんな顔をさせる男の人は、どんな人なんだろう。
咲の興味は、どんどん強くなっていく。


照「それでね」

咲「うん!」

色恋沙汰とは縁の遠い環境にいるとはいえ、咲も一人の女子高生。
気が付けば、身を乗り出すように姉の話に聞き入っていた。


照「アッチの相性も抜群なんだ……!」

咲「……うん?」

アッチとは、ドッチだろう。
すっとぼけたい気持ちはあるけど、姉がそれを許さない。

照「初めての夜は、決勝の後だったんだけど――」

どう返したものか、と咲が悩んでいる間に姉は変なスイッチが入ってしまったらしい。
聞いてもいないのに、情事の様子をこと細かく、無駄に文学的な表現を添えて教えてくれる。


咲(……ってか、決勝後って……)


咲が感動やら興奮やらで寝付けなかった夜、姉は愛しの彼としっぽりすっぽり致していたらしい。

……そこはかとなく、残念な気持ちが胸の中を塗り潰した。

……まぁ、姉の情事については置いといて。
件の彼――『京ちゃん』が優しい人であることに間違いはないようである。


咲「私も……会ってみたいな、その人に」

照「……」

咲「お姉ちゃん……?」


照「あげないよ」

咲「いらないよ」


妹を何だと思っているのか、この姉は。

そんなこんなで、姉がセッティングしてくれた日の朝。


咲(将来の義兄さんだし……しっかり挨拶しなきゃ)


この時の咲の思考は、何も問題がなかった。

咲が選択を間違えたとすれば、待ち合わせまでの時間を、近場の本場で潰そうとしてしまったことである。

立ち寄った本屋で欲しかった本の新刊を見つけた咲は、やや上機嫌で店内を歩き回る。

咲(……まだ、結構時間あるなぁ……)

普段よく立ち寄るコーナーを隅々まで見渡して、それでもまだ時間に余裕がある。
好奇心のままに店内を見回して、ふっと目に付いた本の煽り文。


――理想のカップル、身長差――


先日の姉の言葉を思い出すまで、時間はかからなかった。

普段なら気にも留めないその本を、手に取ってパラ見してみる。

咲(身長差かぁ……お姉ちゃんが160くらいだから……あの人は180くらいだよね?)


そんなことを考えながら、ページをめくっていく。


咲(一番キスしやすい身長差が12cmで……理想のカップルが15cm……)

咲(へぇ、お姉ちゃんとあの人、身長差は理想じゃないんだ……)

咲(あ、あった……これかな。身長差、22cmは……!)



咲「い、一番セックスがしやすい身長差……」


後悔、先に立たず。

咲「……こほん」


誰に聞かせるでもなく、わざとらしく咳払い。

そっと本を棚に戻して、浮かんできた想像を振り払うように再び店内を歩き回る。

だがしかし、先日の姉の熱弁もあって中々イメージは消えてくれない。

イメージを消そうとすればするほど、思考は残念な方向に傾いていき――



咲「……なんで私、こんなの……」


気が付いた時には、鞄の中には一冊の官能小説が。

イメージを引きずったまま、待ち合わせ場所で待つこと数十分。

煮詰め立った頭で義兄への挨拶を考えても、当然思考はまとまらない。

朝には落ち着いていた筈の心が、今になってさざめき出す。


焦り、緊張、恥ずかしさ、色んな気持ちがグルグルに煮詰まって、爆発した結果が――


咲「せ、セックス!?」



……後に。

『私に、そんな妹はいない』と。

目を逸らしながら、彼氏にそう語る元チャンピオンがいたそうな。

ここで中断します

総合スレで理想の身長差の話を見てから書きたかったネタでした

『この本でいいか?』

私が本棚の高いところを睨み付けていたら、彼は手を伸ばして目当ての本を取ってくれた。
同じクラスで、隣の席の男の子。


名前は確か……須賀京太郎くん、だったかな。

『よろしくな、宮永』

クラス委員決めの時。
私は風邪で休んでいてその場にいなかったので、勝手に決められていた。

図書委員だから、別に不満はなかったけど。
少し驚いたのは、彼も図書委員になったこと。

ジャンケンで決まったって、彼は言ってた。

『え……家、隣だったのか』


少し、驚いたような顔。
言われてみると、彼と一緒に帰ったのは初めてだった。

彼はハンドボール部で、私は麻雀部。
こうして帰るタイミングが重なるのは、珍しかった。

『照』



『名前で、いいよ』


『改めて、よろしくお願いします?』



『ふふ……』



『よろしくね、京ちゃん』

『良かったらさ、今度の試合見にこないか?』

ハンドボール……のルールはよくわからないけど。
練習試合の中で、背が高めの京ちゃんはよく目立っていた。

将来はスポーツ選手になったりするのかなって、『この時は』思ってた。

『ん? ま、レギュラーだし自信はあるけど……考えたことはねぇなあ』

何となく進路の話をしてみたら、返ってきたセリフ。
あれだけ目立ってたら引く手数多な筈なんだけど、どうも自覚はないみたいだった。


……なんて、考えてたんだけど。

京ちゃんが特別に目立っていたわけじゃなくて――私が京ちゃんしか見てなかったんだって、気が付いたのはもっと後の話。

『ほら、危ないぞ』


本を読みながら通学路を歩いていたら、京ちゃんが私の手を引いた。

数歩先にある段差。このまま歩いていたら、足を引っ掛けて転んでしまうところだったみたい。


『ありがとう』

『なら本はしまえよ。また転ぶぞ?』


そしたら、京ちゃんがまた引っ張ってくれるでしょ?
そう言ったら、京ちゃんは私のおデコを軽く小突いた。

『ばーか』って、京ちゃんは笑って。



それからずっと、京ちゃんは私の隣で手を握ってくれた。

そして、今。


あの日みたいに、京ちゃんは私の手を取って。



京太郎「俺と、結婚してください」



私の指に。

ダイヤモンドの、指輪をはめた。

驚きとか、喜びとか。

色んな気持ちがぐちゃぐちゃで、爆発して。

何かを言いたくても言葉にならなくて。


「……はい!」


私は、泣きながら、頷くことしかできなかった。

……さて。

普通なら、めでたしめでたしで終わる話なんだけど。


「おめでとうございますっ!!!」


焚かれる無数のフラッシュに、けたたましいシャッターの音。

我に返って現状を振り返ると。


「……あっ」


ここは、優勝記者会見を終えた後の、廊下だった。

自分で言うのもなんだけど、私は新人プロとして大きく注目を浴びている。

こんな時に、パパラッチが食いつかないわけがなかった。

マイクやカメラを向けられても、いつもみたいに気の利いたコメントは言えない。



「よっと」


固まっている私の腰に手を伸ばして、京ちゃんは私を抱き上げた。

お姫様だっこ。密かに菫が憧れていた状態。


注目を浴びる京ちゃんは、そのままカメラの前で、見せ付けるように――私に、キスをした。

再度、湧き上がる歓声。焚かれるフラッシュ。


「すいません、ちょっと通りますよ」


京ちゃんは私を抱き上げたまま、群がる報道陣の波をかき分けるように進んでいく。

情けなかったり、ヘタれることも多いクセに。


今夜の彼は、凄く強引で。

お陰様で、この後の予定を全てすっぽかしてしまった。


その後も、色んなことがあった。


私をアイドル的に売り出そうとしていた人が頭を抱えたりだとか。

先輩と試合をすると、必ず私が優先的に狙われたりだとか。

子どもが牌のおねえさんにハマったりだとか。

ストーカーみたいな人がいたりとか。


とにかく、色んなことが目まぐるしくあって。

私が転びそうになった時は、いつも京ちゃんが引っ張ってくれた。

――春の日差しは暖かく、風は涼しい。


同窓会で久しぶりに訪れた母校の屋上から見る景色は、結構変わっていた。

アレから何年も経っているから、当たり前だけど。

やっぱり、寂しいと思う気持ちはある。

卒業アルバムの写真と、眼下のグラウンドを比べて見ても、細かいところが変わってるし。



流石に年をとったなぁ、と実感する。


……こう言うと、恐ろしい顔をする先輩方を見てうちの子が泣くから、口には出せないけど。

……でも、絶対に変わらないこともあって。


「また、こんなとこで本読んでんのか」


後ろから、苦笑と溜息。

振り向かなくたって、例え声がなくたって、誰だかわかる。

私はアルバムを閉じて、ゆっくりと振り向いた。



「それじゃ、行こっか――京ちゃん」




カンッ

ふと書きたくなった話を書きたいシーンだけ書きました

次は淡か菫か亦野かさんかたかみーか
いずれにせよそんな長くならないです


もしくはHTML依頼出してまた別の話を書くかもしれません
プロ勢あたりではやりんとかを

ちょっとだけ淡の小ネタ投下します

京太郎「なぁ」

淡「んー?」

人の家のソファでポッキーを咥えながら持ち込んだファッション雑誌を読む淡。
足をパタパタさせて、まるで我が家のように振舞っている。

まぁ可愛いからいいかって――そう思う気持ちが浮かんでくる俺も、きっと大概なんだろうな。


京太郎「大学1万年生って、結局なんなんだ?」

淡「あー、それはね!」


雑誌をソファに置いて、淡はすくっと立ち上がった。
瞳が爛々と輝いて、実にイキイキしている。

淡「高校1年生の時の私が、大体高校100年生分の強さだから」

京太郎「うん?……まぁ、うん」


淡「今の私はあの時の100倍強いから! だから大学1万年生!!」


100×100=10000。

実に単純で、シンプルな答えである。



京太郎「淡は可愛いなぁ」なでなで

淡「でしょーっ!!」


ふふんと、鼻を鳴らして胸を張る淡。

昔は慎ましやかだったスタイルも、今では立派なおもちに成長したなぁと思う。


けど、


京太郎「淡はバカだなぁ」

淡「なんでっ!?」



ちょっぴりアホな子ほど可愛いっていうのは、本当のようである。

以上、淡小ネタでした

牌のおねえさんフォーエバーの話とちょっとだけリンクしてます(ステマ)

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