阿良々木暦「僕の三日間」 (271)

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  ──壹日目・午後參時──


ひたぎ「阿良々木くん、先に色々決めておきたいのよ」

暦「え、何をだよ」

ひたぎ「ここがどういう時系列なのか、私たちは原作でいうところの、
    どの部分にいるのかとか」

暦「もっと楽しくやろうぜ!」

ひたぎ「楽しくお話するのにも、最低限のルールってものがあるのよ阿良々木くん。
    後々面倒なのよ、細かく野暮なツッコミをする輩がいるのだから、
    しょうがないじゃないの」

暦「いや、戦場ヶ原。すでに色々突っ込まれそうな気がしてならないんだけど……」


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ひたぎ「まあいいわ。いくらこうして弁明しようとしたって、彼らには関係ないものね。
    原作信者とかにとってこうした細かい設定、文章ってのはとても重要で、
    作品に対する敷居がどうしても高くなってしまっているものね」

ひたぎ「原作をいくら真似ているつもりでも、彼らにはこうしてネットで書かれたお話なんて、
    やっぱり偽物にしか見えないのよ」

ひたぎ「もしかしたら本物が、
    こうしてカタカタ暇つぶしに打ち込んでいるのかもしれないのにね」カタカタ

暦「そんなわけがあるか」

暦「しょうがないんじゃねえか? それだけ原作者の文章が魅力的なわけだし、
  実際僕たちのお話だって、憧れに近い感情から生まれたものなんだろうし」

ひたぎ「だからこそよ。そうして原作者を半ば崇拝するかのような態度を信者が止めない限り、
    作品自体の敷居が高いままになってしまうのよ」

ひたぎ「初見が入り辛いじゃないの」

ひたぎ「いったい何様なんでしょうね。自分が書いた作品でもないくせに」

暦「お、おい……」

ひたぎ「とにかく、『原作っぽくない』とかわざわざケチをつけているから、
    原作信者はいつまでも嫌われるのよ」

暦「戦場ヶ原にも一理あるかもしれないけれど、それにしても言いすぎだぞ」

ひたぎ「あら、いいじゃない。これで少しでも夢から覚めてくれれば……そう思っているわ」

ひたぎ「まあこれを書いている当人は、こう偉そうに息巻いている割には、
    まだ『傾物語』までしか原作を読んでいないのだけれど」

暦「アウトーッ!」

 ────
  ──

暦「ったく、いきなり何を話し出すかと思えば……まあいいや。
  気を取り直して何か話そうぜ、戦場ヶ原」

ひたぎ「いえ、もうそれなりに話したし、勉強に戻りたいと思っていたのだけれど」

暦「勉強はさっき死ぬほどしただろ……」

ひたぎ「死ぬほど? 大げさね、阿良々木くんはもう本当に死ぬほどの経験をしているというのに。
    え、もしかしてそれほどのものだったのかしら」

暦「こ、言葉の綾って言うか……って、大げさに捉えるなっ」

ひたぎ「確かに阿良々木くんのあってないような脳みそには、少し大変すぎたのかもね。
    殴ると頭の中で脳みそがコロコロ鳴っているし、ちっちゃ」

暦「馬鹿は僕の妹専門だから、戦場ヶ原」

ひたぎ「まあでも不思議よね。脳みその質量なんてあまり違わないというのに、
    なんで物覚えの悪い人間とか、優劣ができてしまうのでしょうね」

暦「……なんでだろうな」ズキッ

ひたぎ「むしろ脳みそ自体、男性の方が重いのよね。
    ねぇ、なんでかしら阿良々木くん?」

暦「文脈から読み取らせるのはやめろ!」

ひたぎ「は? 文脈も何も、私は阿良々木くんが阿呆でトンチンカンだなんて、
    言っていないじゃない」

暦「え?」

ひたぎ「まあそんなこと周知の事実なのだけれど。
    そこで文脈という言葉を使う意味が分からないわね。
    えっと……今話したことは理解できているかしら」

暦「なんでそこまで馬鹿扱いされてるんだ!?」

ひたぎ「馬鹿と童貞がうつるから唾を飛ばさないでくれる?」

暦「戦場ヶ原、僕たちの関係って恋人なんだよな……?」

ひたぎ「え……阿良々木くんの恋人は羽川さんでしょ」

暦「えっ」

ひたぎ「えっ」

暦「……あのな戦場ヶ原。言っていい冗談と悪い冗談が」

ひたぎ「世界線が変動したのよ」

暦「いい冗談だった!」

ひたぎ「ちょっと似ていると思わない? 
    きっとあの科学思考のキャラクター、私のパクリなのよ」

暦「世界とまではいかないけれど、かなりの人を敵に回したな!」

ひたぎ「髪長いし」

暦「子供みたいな指摘! てか戦場ヶ原、お前は髪切るじゃんかよ」

ひたぎ「えっと……きっとあの……白痴の子は私のパクリね。トゥットゥルー」

暦「お前は僕を含めた大勢の人間を敵に回したぞ……!!」

暦「あと物真似やるんだったら、もう少し感情を込めろよな」

ひたぎ「細かいわね」

 相變ハラズノ棒讀ミ。

ひたぎ「あっ……こんな阿良々木くんと仲良くしていたら、
    羽川さんに怒られちゃうわね」シュン…

暦「その冗談まだ続けるのか……」

ひたぎ「私にまで強い既視感があるなんて、世界は残酷なのね」

ひたぎ「阿良々木くんこの前『頭がくらくらする……』って言っていたじゃない」

暦「え、ああ。あの時か」

ひたぎ「あの時、世界線が変動したのよ」

暦「戦場ヶ原、僕の頭を殴ったことを適当な理由で片付けようとするな!」

ひたぎ「頭の上にハエがいたのよ」

暦「もし本当にいたんだったら、せめてパーで叩けよ」

ひたぎ「パーなら頬を叩くわ」

暦「暴力ふるいたいだけなんだなそうなんだな!?」

ひたぎ「あっ。この世界線だと、私と阿良々木くんが卒業式の日に殺されるわ」

暦「やけにリアルだから!!」

ひたぎ「早く過去に行って世界を再構築してきてよ、阿良々木くん」

暦「戦場ヶ原、風呂敷を広げればいいって問題じゃないからな?」

ひたぎ「ああ、それなら……」

今日はここまで。

再開

 ────
  ──

 僕ハ歸リ道ヲ歩イテイタ。
 勉強ハマヅマヅ。
 ホドホドニ何トカ、成績ハ上ガツテイツテイルト思フ。

暦「……」キコキコ

 例ニヨツテ例ノ如ク。僕ハ戰場箇原ニ徹底的ニ絞ラレタノダツタワケデ、
 其レデモ昔ヨリハタフニ成ツタモノダト、半バ殊勝氣味ニ、感慨ニ滲ルノダツタ。 

暦「って、何か忘れているような……」

暦「僕らしくもなく、投げっぱなしなことをしてしまったような」

 キコキコ──

暦「……おっ」

 キョロキョロ… キョロキョロ…

暦「……っ、……!」

 キコキコキコキコキコキコ────

暦「──とうっ!」

真宵「……っ!」キョロ─

暦「はーちーくーじー!!」

真宵「破道の八十九ッ!!」ズビシッ

暦「ぐあっ!?」

真宵「ふふんっ、どうもアレルギーさんお久しぶりです」ドヤァ

暦「お前……いつからオサレ漫画のキャラクターになったんだ……?」

真宵「カルピスの原料を薄めたものをさらに薄める……どこか、何か共通点があると思うのです」

真宵「しっかりときっぱりと、話をいいところでやめておけば良かったと思いませんか?」

暦「戦場ヶ原に負けないくらいのブラックジョークだから、
  そこについてはあまり言及しないが、しかし八九寺、
  遅ればせながらもここに関しては突っ込ませてもらおう」

暦「僕を免疫過剰扱いするな、僕の名前は阿良々木だ」

真宵「失礼、噛みました」

暦「違う、わざとだ……」

真宵「かみまみたっ」

暦「わざとじゃない!?」

真宵「call me lonely turn !!」

暦「訳文が悲しすぎる……!」

 ────
  ──

真宵「ほほう、あの方のお家でお勉強ですか。
   阿良々木さんも賢くなりましたね」ニヤニヤ

暦「お前が言う”賢い”とは何かを問いたいところだけれど、
  まあいい。こうして八九寺と出会えたことを素直に喜ぶことにしようか」スッ

真宵「そう言いながらも手を出そうとしている時点で、
   私が阿良々木さんに言ったことを、早速訂正する羽目になりそうなのですが」

暦「何言ってるんだ八九寺。トークで気を引きながら行動することは、
  十分賢い方法のうちに入るものだと思うんだがな」

真宵「この掛け合いは正直賢い会話とは言えませんね」

暦「”賢い”のニュアンスがずれ過ぎだな。よし八九寺、お互いにもう少し賢くいこうぜ」サワサワ

真宵「さっそく交渉決裂しそうな気配なのですが!? ──ガウッ!!」

暦「どうどう、まあ落ち着け……聞けよ八九寺。僕はファンサービスをしているのであって、
  決してお前の貞操なんて考えちゃいないんだぜ!」

真宵「ガウッ、それを聞いて落ち着くと思ったのですか!?」

暦「ああ、って、くっそ暴れるな……!」ガシッ

真宵「がうぅうッ! がぁあぁぁぁあ!!」ジタバタ

暦「どうだ。原作購読者倍増のためにも、
  ここは賢い行動を取るべきじゃないのか、なぁ八九寺!?」ワキワキ

真宵「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

暦「おらおら久々だろう! そう、僕はいま風になったんだ八九寺。
  エッチな風が、吹いているぞぉ!!」

真宵「いやぁあぁぁあああああああああああ!!」

 ポカポカポカポカ──

真宵「ふんぬっ!」ドスッ

暦「ぐあぁ!?」

暦「あ、ぁぁああ……」ガクガク 

真宵「……本当最低最悪、悪の権化のような人ですね阿良々木さんは」

暦「みぞに入った……!」ガクッ

真宵「しかし私の攻撃に対してあそこまでやれるとは、
   正直驚きですよ」

暦「お前はどこで何を修行してきたんだよ……」

真宵「精神と時の部屋で三日間、ちょこっとだけ」

暦「三日!? 待てよ、あそこには二日までしかいられないはずだぞ!
  ちょこっとって!」

真宵「私にとって三年なんてあっという間なんですよ」ニコッ

暦「切ない!」

 ────
  ──

暦「ったく、僕たちは何回戦えばいいんだよ」

真宵「運命(さだめ)なのですよ、ムササビさん」

暦「いくら戦力差があるからといって、
  僕を飛行可能の小動物みたいな名前で呼ぶな」

真宵「モモンガさん」

暦「反省してない上に遠のいちゃった!」

真宵「失礼、噛みました」

暦「違う、わざとだ……」

真宵「かみまみた」

暦「わざとじゃない!?」

真宵「冷めました」

暦「ついにこの流れが終わるのか!? うわぁ! もうおしまいだぁ!」

真宵「まったく、阿良々木さんは落ち着きがないですね」

暦「うるせぇ」

真宵「落ち着きがないと言えば、阿良々木さん。
   私、最近少しばかり遠出したりしているんですよ」

暦「遠出? 歩いてか?」

真宵「ちょこっと湘南の風を浴びてきました」

暦「だからお前のちょこっとの範囲おかしいって!」

真宵「いいではないですか。どこで話が繰り広げられているかも、
   定かではないのですから」

暦「あのな八九寺。直江津って地域は日本で一箇所しかねえんだよ」

真宵「湘南でジェロに会ってきました」

暦「あの野郎出雲崎捨てやがったな!?」

真宵「私たちの街って色々なところからトレースされていますから、
   明確な聖地はないのですよ」 

真宵「いくら自分の出身県が聖地少な目だからって、
   無理やりこじつけようとしないで下さい」

暦「それ、誰に言ってるんだ……?」

真宵「どこもかしこも聖地聖地と……そんなに町興しがしたいのなら、
   それなりに頑張らなければいけないのです」

真宵「アニメに頼って何になるんですかねぇ。
   その土地を護ってきた、ご先祖様が泣いちゃいますよ」

暦「まあ、宣伝はして無駄にはならないだろうし、 
  確かにアニメに頼るのもどうかとは思うが……」

暦「若者を引き寄せるっつったら、他に案があるかな」

真宵「毎日授業参観のある中学校とかはどうでしょう?」

暦「意味がよく分からないんだが、八九寺」

真宵「一般人入場可、市民はチケット無料です」

暦「犯罪チックすぎるだろ」

暦「もっとこう、まともな案はないのか?」

真宵「うーん……畑仕事も流行りませんからねー、
   そういうアニメは増えた気もしますが」

暦「相変わらずだが、八九寺ってその手の話に、
  やけに詳しかったりするよな」

暦「メタとか言ってたらキリがないけれど、
  どこかから情報を仕入れてるのか?」

真宵「登校中のみなさんの後ろについてトレンドファッションを聞いたり、
   流行のアニメや、時事問題にも耳を傾けたりしています」

暦「ほお」

真宵「いつもニコニコあなたの後ろに這いよる幽霊、八九寺真宵ですっ」

暦「いつもウロウロの間違いだろ」

暦(可愛い)

真宵「いつもピョコピョコです」

暦「余計に可愛い!」

今日はここまで。

真宵「それにしても毎日ですか」

暦「ああ、まあアイツと同じ大学に行くためだ。
  どんな過酷な道だろうと、そこが僕の行く道なんだよ」

真宵「そうですか。その道を進んでいく、いえ、その道ではなくとも、
   時間が経ち阿良々木さんが大人になれば……」

暦「あ? 何が言いたいんだよ八九寺」

真宵「いえ、なんでもありません。ただの子供のわがままです」ニコッ

真宵「ただ、こうして阿良々木さんとお話をしている時間は、
   自分が幽霊であって然るべき、という半ば制約のようなものを、
   きれいに忘れていられますから」

暦「……」

真宵「……ラギさん」

暦「そのニックネームは我が後輩がつけたもので、
  必然なのか偶然なのかは分からないけれど、八九寺……」

真宵「そんな顔しないで下さい。私は今みたいに、変わらず、
   いつもの阿良々木さんといるのが、大好きなんです」

真宵「今の時間を大切に……この時間に、迷い続けていたいです」

暦「……それはだめだ八九寺。僕だって、楽しいさ。いつかの僕がもしかしたら、
  お前のためになら一生迷ってやるとか、
  僕ならきっと、きっとそう言うだろうけど」

暦「一生迷うことなんてない。
  人は絶対に答えを、いつか見つけるものだから」

真宵「……阿良々木さんは、本当に賢いですね」

暦「僕は賢くなんかない。賢くもないし、何も学べていないんだ。
  ただ僕の心の赴くままに、滅茶苦茶に走り回っているだけで」

暦「僕はお前を助けたかった。助けなきゃいけなかったんだ。だからこそ、
  今の時間がある」

暦「また、新しい時間はあるんだ八九寺。僕はお前を忘れないし、
  忘れさせない。どうしようもないことかもしれないけれど、
  たとえ進学したって、僕とお前の関係は終わらない」

暦「僕が終わらせない。終わってたまるか」

 其ノ思ヒニ迷ヒハ無イ。

真宵「……本当に、たまにかっこいいですよね、阿良々木さんって」

暦「うるせぇ。作品に対するロリ枠が減るのが、ただ本能的に嫌なだけだ」

真宵「でもロリキャラってけっこう、すでにいるんですよね。
   そろそろ私も、腰を落ち着けるべきでしょうか」

暦「は?」

真宵「初代ロリ王として、落ち着くべきなのかと」

暦「初代って……色々突っ込むところがあるぞ」

真宵「古代ロリ王として」

暦「強そうだけれど!」

暦「でも八九寺。お前と同じような容姿のキャラクターが多いとして、
  だからといって、会話の内容まで一緒とは限らないんだよ」

真宵「情けないですね~……私がいなくても大丈夫でしょ、阿良々木さん」

暦「待て待て。いや、おい、ちょっと、待て待て八九寺」

真宵「言葉に中身がまるでないのですが」

暦「……」

 壹息。

真宵「……」

暦「ずっと近くにいて下さい……!」

真宵「結局ですか……」

 ドレダケ格好良イ言葉ヲ竝ベテモ、
 何ダカンダデ、八九寺ニハ近クニイテホシイ。
 タダ其レダケナノダト、僕ハ自覺シタノダツタ。

 ────
  ──

真宵「それでは阿良々木さんっ、またお会いしましょう」

暦「おう、じゃあな八九寺」

真宵「次に会うのは……多分次の次の日、明後日のお昼ごろでしょうか」

暦「だからお前は一体何者なんだ!?」

真宵「美人マネージャー真宵ですっ」

暦「色んな意味で信用できないマネージャーだ……」

真宵「阿良々木さんのお金を管理します」

暦「マネージャーの”マネー”は、言っておくが金銭とは関係ないからな」

真宵「知ってますよ」

暦「ならなお悪いわ」

真宵「ではではまた明後日ということで、阿良々木さん。
   それまでに私を飽きさせない話のネタを考えてきてくださいねーっ」

暦「なんて理不尽で難しい課題なんだ……!」

真宵「えへへっ、それでは阿良々木さん」ニコッ

暦「……じゃあな、八九寺」

 何モ變ハラナイ、他愛ノ無イ挨拶デ。
 僕ハマタ、歸リ道ヲ進ミ始メタ。

今日はここまで。

再開

 ────
  ──

暦「ただいまー」

 …………。

暦「……あれ」

 テクテク…

暦「……リビングか?」ガチャッ

火憐「……お、兄ちゃんお帰りー」

暦「おい、ちゃんと玄関まで来て迎えてくれよ。
  僕が寂しくて死んじゃうだろうが」

火憐「……おー」ボー…

暦「……なんだよ、張り合いのない」

火憐「……」ボー…

暦「……」

暦「……」モミッ

火憐「……兄ちゃん」

暦「なんだよ」

火憐「……」

火憐「……やめた方がいいぜ、そういうの」

 ────
  ──

暦「死にたくなった……」

月火「ふーん……」ポチポチ

暦「……月火ちゃん。火憐ちゃんに何かあったか、知らないか?」

月火「私と一緒ー……」ポチポチ

 …………。

暦「……ふーん」

暦「……」

月火「……」ポチポチ

暦「……」モミッ

月火「……お兄ちゃん」

暦「なんだよ」

月火「ハサミとって」

暦「ほい」

 ────
  ──

暦「死にそうになった……」

忍「妹御の乳房を揉む事が、お前様の習慣なのか……?」

暦「まるで当たり前のように、
  まるでいつも揉んでいるような言い方はやめろ、忍」

忍「儂が大人サイズならのう。お前様を、
  快楽の底にまで引き摺り下ろすことも容易であろうに……」サワサワ

暦「お前は幼女のままでいい、その方がいい」

暦「それより、あいつ等どうしちまったんだ。あれだけ大人しい妹たちも、 
  まあ珍しいから、今のうちに楽しんでおくのも案の一つだけれど」

忍「いや、ちっちゃい方の妹御は大人しくはなかったじゃろ」

暦「それは僕が、まるで当たり前のように胸を揉んだからだ」

忍「悪びれも無く公言するなこの戯け」

暦「妹だからいいんだ」

忍「妹以前に女じゃろうに……女の敵が」ギロッ

暦「ごめんなさい強がってました……!」

忍「ふむ……儂の勘じゃと、あれは男じゃな」

暦「なに?」

忍「男絡みじゃよ。あの二人、二人共じゃ」

暦「……あの二人には彼氏がいるからな。
  僕の中ではいないことになっているけど、そう、いないんだ」

忍「なんじゃその訳の分からん日本語は」

忍「とにかく。お前様がしたことは女からしたら、
  深い傷に陰部を擦り付けられるぐらいの、ひどい陵辱なんじゃぞ。
  そこは弁えていたか、お前様」

暦「死んでくる」ガラッ

忍「死んでも償いきれんよ」ガシッ

暦「まあお前様の妹御じゃ。すでにそれなりに慣れてしまっているから、   
  そこまででもないかもしれんがの」

暦「……助けてノブえもん」

忍「ふ~む。まあいいのじゃが、儂の場合は強硬手段しか思いつかんからの。
  今の世の中、そんなもの流行らんし、そもそも流行らせてくれんし」

忍「とりあえず……儂なりのアドバイスをするのなら、
  『男を襲え』としか言えんの」

暦「火憐ちゃんたちに耳打ちしやがったらぶっ飛ばすからな」

忍「儂に恋の相談は向かん」

暦「難しいなぁ、恋の悩みか……」

忍「それよりお前様。相談に乗ってあげたところで、ほれ、見返りを寄越せ」

暦「なんの役にも立ってねえだろ」

忍「寄越せ、さもないと襲うぞよ?」

暦「ぞよって……」

忍「カカッ、儂にドーナツを献上するだけで、お前様の生命は保証されるのだから。
  これほどまでに良心溢れる商談はないぞ?」

暦「商談に持ち込むほど我慢できてないだろ、お前は」

忍「……?」

暦「可愛いつもりか」

忍「っ!」

暦「なんか可愛いかも」

暦「ってこんなことしてる場合じゃねえ。お前は頼りにならないし、他に──あっ」

 ────
  ──

 prrrrr… prrrrr…

駿河『神原駿河だっ』

駿河『神原駿河、得意技は難聴だ』

暦「どれだけの後輩を泣かせてきたんだよ、お前は……」

駿河『え、なんだって?』

暦「なんでもないよ」

駿河『お、その素っ気無さは阿良々木先輩か』

今日はここまで。

再開。

暦「神原、お前絶対、僕からの電話だって気付いてるだろ」

駿河『……え、なんだって阿良々木先輩。
   よく聴こえなかったぞ』

暦「ずるいよそれ!!」

暦「まあいいや。神原、ちょっとお前に頼みたいことがあってさ」

駿河『なんだ阿良々木先輩。一人で何でもこなしてしまう、
   聡明なお方からの頼みとは恐れ入る。私にそれが務まるとは到底思えないのだが、
   しかし阿良々木先輩からのお願いだ、全力で研鑽させてもらおう。
   あぁ、だったら早く内容を教えてくれ阿良々木先輩。私のスイッチを押したのなら、
   それをしっかり制御してもらう必要がある。まずは落ち着くために、キスでもしようか。
   今からそちらに向かうから、ベッドを温めておいてくれ。
   阿良々木先輩の初夜は、私のものだ』

暦「……」

駿河『ん、阿良々木先輩? ……そうか、ベッドのシーツを取り替えているのか!』
   
暦「お前の溢れる感情はありがたいけれど、ベッドのシーツは別に変えないし、
  家の鍵は何重にも掛けておくことにするから」

駿河『私に気を遣うことはないぞ阿良々木先輩。私は阿良々木先輩とならいつでも、
   どこでも、いくらでもの女だ。よろしくなっ』

暦「話を聴け神原!!」

暦「どうやらお前を、これからは本格的に、
  我が家の敷地内に入れさせることを禁じなくちゃいけないようだな」

駿河『そうか……侵入し甲斐があるな!』

暦「犯罪予告されちゃった!」

駿河『私の左手、先輩殺し”コヨミブレイカー”があれば、阿良々木先輩のお部屋、
   つまり二階の窓に飛び移ることなど、造作もないのだ……』

暦「厨二な上にブラック!」

 戰慄シタゾオイ。

暦「おい、そろそろ本題に入っていいか?」

駿河『阿良々木先輩。結婚したいという先立つ気持ちはありがたいのだが、ならまずは、
   えっとだな……私に少し時間をくれないか。
   おばあちゃんの許可を取ってからではないと、いやしかし、
   どうだろう阿良々木先輩。むしろ二人で逃避行してしまうという選択肢も、
   また捨てがたいと思うのだ。戦場ヶ原先輩のしがらみから解放され、
   どこか静かな村で二人暮らしていく……素晴らしい。
   こんな未来もあっていいのではないだろうか、阿良々木先輩。あ、子供は五人ぐらい欲しいぞ』

暦「今日は一段とめんどくせえな!!」


駿河『久々の掛け合いが楽しいのだ、ハハハッ!』

暦「また今度、いや、明日にいくらでも話してやるから、
  とりあえず話を聞け神原」

駿河『明日? あぁ、そうか明日は掃除の日か』

暦「おう、今のうちに少しは纏めておけ」

駿河『相分かった。それでは阿良々木先輩。本当にそろそろ、内容を教えてくれないか』

暦「よし。簡単に説明するなら、恋の相談」

駿河『ほう、それは阿良々木先輩の?』

暦「違う、妹二人の恋愛についてだ。理由はまだ分からないけれど、
  何か様子がおかしいんだ。だから詳しい話は明日に持ち越しになる。
  これから何があったか、意地でも聞き出すからさ」

駿河『そうか、それならしょうがない。明日へ持ち越しだな、あ、それと、
   阿良々木先輩はあれか? 私が後輩から慕われていると思ったから、
   こうして相談を持ちかけたのか?』

暦「まあな。お前なら後輩から色々な相談をされているだろうし、
  適任かなって」

駿河『そうか……ふふふんっ』

暦「あ? どうしたいきなり」

駿河『ふふっ、阿良々木せんぱ~い』

暦「な、なんだよ気味が悪い」

駿河『むぅ……何でもない。そうか、期待に応えることは出来るか定かではないが、分かった。
   その相談引き受けよう。また明日、詳しい話を聞かせてくれ』

暦「じゃあ、明日の午前からでいいか? 掃除もきちんとやりたいし」

駿河『うむ、ではおばあちゃんにお昼を作ってもらおう。
   明日が楽しみでしょうがないなぁ!』

暦「はいはい。じゃあ、そろそろ切るぞ神原。また明日な」

駿河『うむ、それではな阿良々木先輩っ』ピッ

 ツー… ツー… ツー… ツー…

暦「……さて」

 ────
  ──

暦「火憐ちゃん。なぁ、さっきは悪かったよ」

火憐「……おー。まあ、別に気にしちゃねえよ。悪いな兄ちゃん、
   今そんな気分じゃなくてさー。いつものあたしなら、
   気の利いた体術をいくつか並べていたところだけど」

暦「気の利いた体術って……」

暦(ただの暴力じゃねえか)

暦「……何があったんだ火憐ちゃん。彼氏と、喧嘩でもしたか」

火憐「ぅ……」

暦「……」
 
 取リ敢ヘズ見守ル。

火憐「っ、そ、そんなんじゃねえよ」

暦「わかりやすっ」

火憐「うあ~! あたしとしたことが、
   こんなことで心を読み取られるなんて。兄ちゃん、
   今のあたしは見なかったことにしてくれっ」

暦「今更なにを……お前の恥ずかしいところなんて、飽きるほど見てんだよ」

火憐「……ちょっと、な。大したことではないんだけど。疎遠になったというか、
   一緒にいても心ここに在らずというか……」

火憐「喧嘩ってわけでもないんだけどさ。もういっそのこと、
   有情拳で二人共楽に死んでしまおうか」

暦「恐ろしいことを言うなアホ。それと、 
  簡単に北斗神拳を使おうとするんじゃない」

火憐「師匠が少し使えるからさ、真似できるかなって」

暦「すげぇ!! 少しでもすげぇ!!」

 師匠スゲエ。

今日はここまで。

再開。

火憐「これがカレン流北斗神拳だぁ!」

暦「さっさと塔からおっこちて死ね」

暦「……火憐ちゃん。その悩み、僕が解決してしんぜよう」

火憐「えっ、何? 兄ちゃんが?」

暦「おう」

火憐「ばーか、無理だよ無理無理。童貞だもん」

暦「は!? お前、童貞差別をしたな! 童貞を馬鹿にしたな!?」

火憐「あたしより背も小さいし」

暦「関係ない、ってか、お前は僕になんの恨みがあるんだ!」

火憐「……適当に言っただけだよ、そんな怒んなってー」

暦「……」

火憐「いいよ分かった。兄ちゃんとあたしの悩み、どっちが勝つか──」


 火憐「──楽しみにしてる」

 ────
  ──

暦「……」スタスタ

暦(あいつ……相当重症だな)

暦「……月火さーん?」ガチャッ

月火「……、お兄ちゃん?」

暦「先程は誠に申し訳御座いませんでした。月火さんの気持ちを踏み躙り、
  凌辱したこの不束者をどうかお許し下さい」

月火「うざ」

暦「……」

 謝ツタノニウザガラレテシマツタ。

暦「……火憐ちゃんの一緒、とか言ってたよな。じゃあお前も、火憐ちゃん同様、
  彼氏と喧嘩したのか」

月火「……もう、いつもながら、
   お兄ちゃんは妹のことに首突っ込みすぎ」

暦「違う。僕のセンサー範囲内に、お前らが首を突っ込んでくるんだ」

月火「めちょめちょなこと言って」

暦「その擬音はない」

月火「……まあ、そんな大したことじゃないよ。喧嘩っていうかさ、
   もう喧嘩以前の問題なんだよね」
 
暦「は?」

月火「童貞には分からないよ」

暦「だから童貞は関係ねえだろ!!」

月火「お兄ちゃんは、戦場ヶ原さんとはどうなの?」

暦「どうって……なにがだよ」

 慥カニ血縁ノ人間ニ戀愛事情ヲ訊カレルノハ、
 何カ、生理的ニキツイ。

月火「何て言うんだろう……戦場ヶ原さんのいる生活が、
   当たり前になってたりしない?」

暦「……いまいち掴み辛い言い方だな」

暦「そりゃ、月火ちゃんの言うとおりではあるけれど」

月火「お兄ちゃんも気をつけて。カメラ撮りがカメラとも言うから」

暦「映画泥棒かよ」

 ────────────────
  ──貳日目・午前壹拾時──

駿河「よくきたな阿良々木先輩、ささ、どうぞ中へ」

暦「おう」

駿河「それにしても遅かったな。阿良々木先輩が午前からと言うものだから、
   しっかりと夜中のうちからベッドを二つ用意していたというのに。
   まあ阿良々木先輩のようなお方なら、夜這いなどという、
   下劣な行為をするとも思えなかったのだがな」

暦「時間の概念を覚えたばかりの、小学生みたいな行動してんじゃねえよ」

駿河「え、いや……小学生で行為に至るというのはちょっと」

暦「そっちじゃねえ!」

駿河「行為までとはいかないが、実際小学生のうちに男友達とキスをしたとか、
   そういう話を聴いたことはあるな」

暦「まあ、爛れた関係とかではないだろうけど。どちらにしろ背伸びしすぎっつーか、
  子供にはまだまだ早すぎる」

駿河「うーむ、阿良々木先輩はあれだな。娘ができたとして、
   その子がキスなんかした日には大変なことになりそうだな」

暦「大変なことになるな」

駿河「火憐ちゃんと月火ちゃんに対する感情に近い、かな」

暦「否定はしないよ」

 ────
  ──

駿河「さて、では話を聞かせてくれ阿良々木先輩」

暦「おう、どうやらあいつ等御両人、どちらとも原因は同じらしいんだよ」

駿河「ふむ……」

暦「まあ、なんとなくだけど掴むことはできたよ。
  どうやら付き合っているはいるが、
  その関係が惰性になってしまっているらしい」

駿河「……うむ、よく聞く話だな」

駿河「例によって、いつも後輩にはこう言っている」

暦「ほう」

駿河「男を襲え、と」

 …………。

暦「帰るぞ、掃除は自分でやれ」

駿河「待ってくれ阿良々木先輩、話を聞いてくれ。えっと……えっとだな、
   うむ、正直に話そう」

駿河「恋愛話に関しては色々聞いてはいるのだが、
   私自身恋愛に詳しいわけではないのだ」

暦「お前、先輩としてそこは正直にだな……」

駿河「いや、強硬手段ではあるがそこから、もう少し補足してはいるのだぞ阿良々木先輩。
   誘惑してみろ、とか。色々男子には言えないようなお下劣な案を出したりな」

暦「僕の女性像が崩れていくぞ」

暦(いや、神原や戦場ヶ原と出会ってる時点で崩壊してしまっているけれど)

駿河「成功率は80%だ」

暦「そんな馬鹿な!!」

駿河「しかし阿良々木先輩のことだ。火憐ちゃんと月火ちゃんにこの案はいけないな、
   だとすると私はこれ以上アドバイスすることは出来なそうだが……」

暦「うむ……」

駿河「これから考えるのもいいかもしれないな。うんうん、阿良々木先輩。
   どうだろうか、一緒に代替案を考えようではないか」

暦「それしかないよな……よし、ここは可愛い妹のために一肌脱ぐとするか」

今日はここまで。

再開。

駿河「脱ぐか、よし」

暦「予想してはいたが服を脱ごうとするんじゃねえ」ガシッ

駿河「しかし阿良々木先輩、こういう恋愛話となると若干ではあるが、  
   心の高揚が必要であると思うのだ。
   ドキドキする気持ちから生まれる案もあるかもしれないだろ?」ジタバタ

暦「相変わらずお前の言うことは、行為に及ぶ前の適当な言い訳にしか聞こえないんだよ」

駿河「妹さんのためだと思えば安かろう。私の裸体を見て幻滅することもないだろうし、
   どうだ。阿良々木先輩にデメリットはないと思うのだが」

暦「そうだとしてもその後が怖すぎんだよ。後先考えろってんだ」

駿河「ふむ、戦場ヶ原先輩のことか。確かに邪魔だな、邪魔でしょうがない。
   殺してしまおう」

暦「尊敬する先輩だったんじゃないのか!?」

駿河「まあ冗談はここまでにするとして、阿良々木先輩。
   この問題は阿良々木先輩が中心となって、考えるべきではないだろうか」

 空氣ガ變ハル。

暦「あ? なんでだよ」

駿河「実際付き合っているではないか。阿良々木先輩は」

暦「…………」

暦「……そう、なるよな」

駿河「そうならなかったとして、どうなると思ったのだ阿良々木先輩。
   確かに後輩の悩みを聞いてあげている身の私としては、
   私に訊くことは賢明な判断であったとは思うが、しかしやはり、
   今回はほんの少しばかり、憤りを感じずにはいられなかったぞ」

暦「……ごめん」

駿河「謝ることでもないが、阿良々木先輩……戦場ヶ原先輩のことを、
   もう少しだけ、考えてあげてほしい」

暦「……」

暦(そう、神原の言うとおりだ。僕は火憐ちゃんと月火ちゃんの悩みを、
  解決しようとした。僕がどういう状況で、どういう接し方をしているか。
  彼女と──戦場ヶ原との経験を、活かそうとした)

暦「……でも、分からないんだ」

駿河「……」

 沈默。

暦「僕がどうして戦場ヶ原とうまくできているのか、彼氏と彼女という、
  関係性を紡ぎ続けられているかが。僕には、分からなかったんだ」

暦「本当に好きなのかも、分からない」 

駿河「……阿良々木先輩っ」

暦「ごめんな、神原」

暦「だけど、それでも僕は戦場ヶ原が好きなんだ。確かな決定論であって、
  滅茶苦茶なことかもしれないけれど、確かに好きなんだ」

暦「何故かと訊かれると、不安になる。それが──……」

暦(ああ、そうか……)


     「お兄ちゃんは、戦場ヶ原さんとはどうなの?」

   「どうって……なにがだよ」

      「戦場ヶ原さんのいる生活が、当たり前になってたりしない?」

 「……いまいち掴み辛い言い方だな」

 
      
         「お兄ちゃんも気をつけて」



暦「お兄ちゃんも、気をつけて……か」

駿河「阿良々木先輩……?」

暦「──ミイラ取りが、ミイラだ」

今日はここまで。

 ────
  ──

駿河「まずは妹さん達への呼称の雑な変化、謝らせてもらおう。
   すまない阿良々木先輩」

暦「いや、別に僕の妹をどう呼ぼうかなんて勝手だけどさ、神原」

駿河「だから続きをさっさと読めと言っているのに……」

暦「どうしてもアニメから見たいんだとさ」

駿河「それで、結局は阿良々木先輩も妹さん達同様、
   恋の悩みの対象となってしまったわけだが」

暦「うっ……」

駿河「変化がないことを恐れているのか……その気持ちは確かに、
   分からなくもない」

駿河「私も中学の頃はそうだった。戦場ヶ原先輩と仲良くなり、
   毎日のようにくっ付いていたが、それが段々と怖くなったものだ」

暦「神原……」

駿河「仲が良い。それが当たり前すぎて、当たり前が嬉しさの価値を下げてしまう。
   本来の価値を、霞ませてしまう」

駿河「惰性で付き合っているというのも、それと同じ状況だろう」

暦「なるほどな……やればできるじゃないか、神原」

駿河「阿良々木先輩が悩んでいるのだからな、
   私はそれを解決しなければならない」

暦「……ありがとうな」

駿河「お二人には、是非幸せになってほしいからな」ニコッ

駿河「あと妹さん達にも」

暦「ついでみたいに言うな」

駿河「阿良々木先輩に次いで幸せになってほしい」

暦「うまくない」

駿河「阿良々木先輩は、優しさと厳しさが対であるお方だ」

暦「うまくない!」

 ────
  ──

駿河「それで、解決法を思案せねばならないのだが、どうだろう阿良々木先輩。
   今日一日限定この場限りこの時だけは、私の彼氏になってくれないか」

暦「はぁ!? な、なんでそうなるんだよ」

駿河「お、案外揺らぐのだな阿良々木先輩」ニヤニヤ

暦「先輩をいじって楽しいか、神原!」

駿河「阿良々木くんって、脆くて弱いから……」

暦「似てねぇ」

駿河「別にふざけて言っているわけではないぞ阿良々木先輩。
   私と一度カップルを演じることによって、
   一時的に付き合いたての頃の感覚を思い起こそう、という思い付きだ」

暦「あぁ、なるほど」

駿河「では、早速……んーっ」

暦「って、おいちょっと!?」サッ

駿河「……なんだ阿良々木先輩、今私たちはカップルなのだぞ。
   そりゃ阿良々木先輩の最初は、戦場ヶ原先輩がいいだろう。
   そこは保証するにしても、キスぐらいならノーカウントだろう」

暦「付き合って間もなくキスなんてするかぁ!」

駿河「同人のキャラクターはみんなバンバンしているというのに……」

暦「漫画だろ!?」

駿河「まあまあ。まずは掃除でもしながら、
   自然に設定を溶け込ませていこうではないか」

暦「戦場ヶ原はどちらかというと会話に示してたけどな。
  行動でってよりは、いちいち恥ずかしいこと言ったりだとか」

駿河「ふーん」

暦「前にも言ったが、真面目な話、お前でも誰でも戦場ヶ原の代わりになんて、 
  なれないんだけどな」

駿河「……阿良々木先輩。なんでこういう時に、他の女性の話をするのだ?」

暦「へっ?」

駿河「二人きりの時ぐらい、少しは、甘えたっていいだろう?」チラッ

暦「……」

暦(役に成りきっている……!!)

駿河「……、ねぇ……」スッ─

暦「……あの、神原さん。くっ付かれると掃除がし辛いのですが」

駿河「ね~ぇ」スススス─ダキッ

暦「ひぃいっ!」ゾワワワワ─…

暦(なんだこの状況。僕はどうして神原に抱きつかれているんだ? 
  そもそもなんで神原の家にきたんだっけ)

 早速、後輩ノ色香ニブレブレニ搖ラグ僕ナノダツタ。

暦「……神原、あのな」

駿河「んー、なんだ阿良々木先輩?」

暦「っ……──」

暦「後でいくらでも可愛がってやるから、掃除をさせてくれ」

駿河「……もう、つれないな阿良々木先輩は」パッ

再開の合図忘れてたけど、今日はここまで。

再開。

 ────────────
  ──壹時間後──

暦「どうなるかと思った……」

駿河「でも、どうだ阿良々木先輩? 私が相手だから、
   その抵抗は省くとしても、いい思いはできたのではないか?」

暦「……おお、確かに!」

暦(その大部分が、抱きつかれた時にあった様々な柔らかい感触だとは、
  口が裂けても言えないぞ)

駿河「その身に感じてほしかったのだ、阿良々木先輩。今ある状況が、  
   どれだけ恵まれていて、どれだけ幸せであるか」

暦「当たり前……そう感じちまってるんだよな」

駿河「阿良々木先輩にとっては当たり前のことが、
   私にとってどれだけ羨ましいことかということも、再認識してほしい」

暦「……」

暦(これは、これだけの話じゃない。怪異現象はどこでも起きている、
  それを認識してしまっているこの状況を、僕は当たり前と思っちゃいけないんだ)

暦(戦場ヶ原……)

駿河「……さて、事は解決したところで掃除もそこそこに、
   私を可愛がってくれないだろうか、阿良々木先輩」ジリジリ

暦「えっ!? い、いや神原。可愛がるって言ったってな……」

駿河「後輩を可愛がることは、先輩の義務でもあるのだぞ阿良々木先輩。
   私だって戦場ヶ原先輩だって、どれだけ後輩達の頭を撫でてきたことか」

暦「……ほーん」

暦「……なでなで」ナデナデ

駿河「っ、あっ……」ビクッ

暦「なんだ、こんなもんか」ナデナデ

駿河「こ、こんなもんとはっ、ご挨拶だな阿良々木せ、先輩……」

暦「ははは、神原。キャラを壊しかねないぞー」ナデナデ

暦(まさかこの話でナデナデプレイが出来るとは思ってなかったぜ)

駿河「き、気持ちがいいのは認めるがこれはいささか──ふぁあ!」ビクンッ

暦「どうした神原後輩。いつもの御堅い敬語で、饒舌に話してみてくれよ」ナデナデ

駿河「む、むむむ~~……! ──っえい」ピトッ

暦「な、なにっ!?」

駿河「ふふふふっ、意表を突かれたな阿良々木先輩。知っているぞ、
   阿良々木先輩はアホ毛を強く握られると力が抜けるのだ!」ギュッ

暦「そんな設定ないぞ!?」

駿河「阿良々木先輩~……」ギュッ

暦「……ったく、懐っこい後輩だ」

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ────

駿河「阿良々木先輩。やはりこういう行為は、
   どんな異性でもドキドキするものなのだろうか」

暦「当たり前だ。何も感じないやつなんて、それこそ大仏や菩薩ぐらいなもんだ」

駿河「そうか……特別、私であるからというわけでもないのだな」

暦「あ?」

駿河「なんでもない」

駿河「……戦場ヶ原先輩のこと、頼むぞ。あの人だけは特別に、
   想ってあげてくれ阿良々木先輩」

暦「……当たり前だ」

 ────
  ──

駿河「よし、ここからはフリートークだ。ストーリーパートもやったし、
   お疲れ様阿良々木先輩」

暦「とりあえずこっちの世界に帰って来い、神原」

駿河「ふむ、しかし阿良々木三兄妹が全員恋の悩みとは。いつも皆を助けている阿良々木先輩も、
   いつも皆を助けていると専らの噂の妹さん達も、こればかりは敵わないわけか」

暦「うるせぇ。僕達は別に、超人のヒーローってわけじゃないんだよ」

駿河「実は私は……恋の悩みが顕現した存在なのだ」

暦「もしかして、お前を倒せば解決するのか!?」

駿河「元の身体はここにはないぞ」

暦「思ったより面倒くさそう!」

今日はここまで。

再開。

駿河「実際強敵なんてそんなものだろうし、恋もまた同じだろう?」

暦「なんかさ、まるで怪異みたいだよなって。まあこうやって安易に、
  適当なこと言ってると、どこかから忍野に小突かれそうな気もするけれど」

駿河「おぉ、うまく繋げたな」

暦「元々考えてたから!」

暦「結局は自分次第なんだよな。そう思えばそうなんだろうし、
  思わなければそれもまた正しいんだろうぜ」

駿河「……あの、阿良々木先輩。そろそろウジウジ言っているのが、
   段々と腹立たしくなってきたのだが」

暦「ぐっ……」

駿河「結論は出たのだから、もう何も思案することなく歓談に勤しむのも、
   また一興であると思うのだが阿良々木先輩。
   まあ別に私が聞き役になってもいいのだが、
   そう、我慢するのは後輩の仕事でもあるのだからな。
   阿良々木先輩の全てを受けきる、それが神原駿河の生まれついての使命なのかもしれない。
   だから選んでくれ阿良々木先輩。私と行為に及ぶか私をエロ奴隷にするか、どちらか一択だ」

暦「腹立たしいのはこっちの方だ!」

駿河「いいではないか。歓談を行為と言い換えるのも、話を聞くことをを奴隷と言い換えるのも、
   さほど意味は変わらないだろう」

暦「お前の基準で言葉を言い換えるな。まともに話せなくなるだろうが」

駿河「私と話すのにまともさを期待されても困るぞ阿良々木先輩。
  私はエロ枠だ」

暦「変に自覚してんじゃねえ!」

 マア、間違ツテハイナイ。

駿河「私に会いにきたということは、つまりは阿良々木先輩。  
   ……欲求不満なのだな!」

暦「不満なのは変わりないけどさ!」

駿河「それで話を戻すが阿良々木先輩。私と行為に及ぶか──」

暦「戻らなくていい。行為になんて及ばないし、エロ奴隷もお断りだっ」

駿河「そうか、別にエロ奴隷が行為に及んではいけない道理などないものな。
   いや、失敬した。選択肢を作ったせいで視野が狭まってたようだ。
   いいぞ阿良々木先輩、好きにしてくれ。私はいっこうに構わないから」

暦「……」

 ソロソロ、エロネタモ飽キテキタゾ。

暦「なあ神原。お前が自分を理解してるのは分かったけどさ、
  身を犠牲にしすぎてないか?」

駿河「ん? そうか? まあ確かに阿良々木先輩は変に私の存在を定義していそうだが、
   本当に本来の私をさらけ出すとすると、話の内容が濃く、暗くなってしまうからな」

暦「その自覚も、変な自信があって何かアレだけれど……」

駿河「私が真面目なキャラだったら面白くないだろう? 
   阿良々木先輩との歓談を主なセールスポイントにしているとすれば、
   それは決定的な欠陥だ」

駿河「雑談に重きを置いている、ましてや根本のストーリーさえも無視した話ならば、
   やはりどうしても面白さが必要だろう」

暦「まあ、そうだけどさ。話のテーマのことをもうちょっと考えようぜ」

駿河「私は、うん……そうだな、エッチなネタが大好きだ」

暦「もういいよ!」

 ────
  ──

暦「今日はありがとうな神原。おかげで課題は山積したけれど、
  解決案は導き出せそうだよ」

駿河「うむ、あとは自分次第だ。私はここまでしか応援できない。
   まあもっとも、戦場ヶ原先輩に関しては心配に及ぶまでもなさそうだがな」

暦「あ? そうか?」

駿河「うむ……」


 駿河「こう言ってはなんだが、戦場ヶ原先輩は、阿良々木先輩にぞっこんだ」


暦「……そりゃ、光栄だ」

駿河「……妹さん達の復縁を祈っておくとしよう」

暦「僕達の仲は祈るまでもない、か」

駿河「絶縁を願っておこう」

暦「今までの全てを無駄にする一言だな!?」

暦(恐ろしい後輩だ……) 

駿河「ふふふ、その時は私の元に来てもいいぞ阿良々木先輩。
   いくらでも慰めてあげよう」ニコニコ

暦「はいはい。じゃあ神原、またな。
  あとそろそろ、自分だけで掃除出来るようになれよー?」

駿河「はいはい」

暦「はいはいじゃねえよ! 本当に失礼なやつだな!」

駿河「おっと失言失言。ではな阿良々木先輩、お気をつけて」ニコッ

暦「ったく……じゃあな」

今日はここまで。

再開。

 ──────────────
  ──午後陸時──

暦「それでだなファイヤーシスターズ。お前らの悩みを解決しようと、
  僕は頑張ってきたわけだけれど」

火憐「いちいち正座させてまで話すことか、兄ちゃん?」

月火「わざわざ改まってまで言うことなの、お兄ちゃん?」

暦「黙って僕の話を聞け」

火憐「つまらない話だったらぶっ飛ばすぞ」

暦「……」

暦(下手したら……下手しなくてもぶっ飛ばされそうだ)

月火「早く話さないとぶっ飛ばすぞ」

暦「ぶっ飛ばすぞ月火ちゃん」

暦「お前ら、いや……僕にも言えることだけど、
  相手を疎遠に感じることはよくあることらしい。
  それだけ、その人のことを想っているからこそ、だ」

火憐「むぅ……まあ、考えてるっちゃ、考えてはいるけど」

月火「お兄ちゃんにも言えることなんだ」

暦「僕の話はどうでもいい。つまりは、考えすぎってことだ。
  考えすぎて、それが当たり前になってしまっている」

月火「ふぅん……なんとなくだけど、まあ私が考えてたことと一緒かなぁ」

火憐「うん、嫌いになったってことはねーからな。
   多分兄ちゃんの言うとおりだと思うぜ」

暦「そう、ここで問題なのが、その当たり前ということを、
  どう価値のあるものに変化させるということなんだ」

月火「むむ?」

火憐「おぉ?」

暦「変化というよりは認識かな。だって実際僕たち、彼氏彼女がいてさ。
  言ってしまえば心身充実してるじゃないか」

月火「あまり調子に乗らないほうがいいと思うけど、お兄ちゃん」

火憐「そうだぞ、兄ちゃんよりいい男なんていくらでもいるんだから」

暦「どうでもいい茶々を入れるな」

暦「まあ……だからこうした状況がどれだけ幸せなのかを、
  意識的に認知できれば、僕たちの問題は解決するってことだ」

 戦場ヶ原、萬歳。

暦「無意識下で働いてしまっている”当たり前”を掘り起こすのは難しいけれど、
  それをしない限り、意識してしまっている悶々とした考えを、拭い切れないからな」

月火「え、何なにお兄ちゃん。メンタリストにでもなったの?」

暦「アドバイスをもらって、それから自分でちょっと付け足した。それだけだよ」

火憐「なるほどなー……そっか、あたしも思い切ってキスぐらいしてみようかな」

暦「……は? どうしてそうなるんだよ」

火憐「言葉とかよりも、先に身体が動いちまうってかさー。
   あたしのそういうところは、兄ちゃんが一番知ってるだろ?」

暦「……」

暦(忍と神原のアドバイスがなくても変わらない、だと……?)

月火「じゃあ私も、そうしてみよっかな……」

暦「いや、やっぱりこの作戦はだめだ! 新しく何か思案しなくちゃいけないな!」

火憐「さっきの兄ちゃんはどこに行ったんだ」

月火「せっかくのいいアドバイスだったのに、もう、
   お兄ちゃんったら妹のこと気にしすぎだって」

暦「しかし、キスだぞ……? キスっていうのは、
  そんなホイホイ簡単にしていいもんじゃねえんだよ」

暦「お前らの唇が奪われるんだったら、僕が奪っておいたほうがいいと思う」

火憐・月火「「思わない」」

暦「ふん、大人ぶりやがって」

月火「お兄ちゃんぶりすぎて迷走してるよね、お兄ちゃん」

暦「まあ……そこらへんは、お前たちのないに等しい信頼に賭けるとして、
  僕がお前らに助言できるようなことは、これくらいだから」

暦「後は自分の力で、なんとかしろ」

火憐「ふふんっ。兄ちゃんに言われなくても分かってる、まかせておけ!」

月火「お兄ちゃんこそ。見捨てられないように必死にしがみ付くといいよ」

暦「ばーか。妹なんかに言われなくても、僕は──いや、僕たちは」

暦「しがみ付き合ってみせるさ」

今日はここまで。

 ────
  ──

ひたぎ『しがみ付くって、本当に気持ちの悪い言葉よね』

暦「戦場ヶ原、電話切ってもいいか?」

ひたぎ『だめよ。私と阿良々木くんとのラブラブコールタイムじゃないの』

暦「だったら電話の始めから、僕の心を両断するようなことを言うんじゃない」

ひたぎ『しがみ付いてでも食らいつけ、とか。しがみ付いたら離すな、とか。
    下品ったらありゃしないわ』

暦「僕さっき”しがみ付き合ってみせる”とか、堂々と口に出してたんだけど」

ひたぎ『うわ、なにそれ。阿良々木くん、
    それってもしかして私と貴方がってことなのかしら』

暦「そ、そうだよ……」

ひたぎ『これからは、私から半径十キロメートル内には近づかないで頂戴』

暦「町を出ることになるぞ!?」

ひたぎ『私に近づくと被爆するわよ』

暦「毒舌に関してはそれだけの威力はありそうだけれど!」

ひたぎ『……でも、どうしてそんなこと?』

暦「え、いや……なんていうかさ、僕たちこうやって話すことが当たり前になってさ、
  それがマンネリに感じてたりしないかな、とか考えちゃって」

ひたぎ『ふぅん……阿良々木くん、窓を開けておきなさい』

暦「え、なんで?」

ひたぎ『阿良々木くんを切り裂きに行くからよ』

暦「はぁ!? いや、ちょっと待て戦場ヶ原! 僕の話を──」

ひたぎ『何かしら、今なら断末魔ぐらいは聞いてあげる』

暦「それ話聞く気ないじゃん!」

ひたぎ『いえ、一度死ぬぐらいの痛みを味わえば、
    阿良々木くんの気持ちが変わるかと思って』

暦(形は違えども神原と療法が似てるな……)


暦「待てって、話をきけ!」

ひたぎ『どうぞ』

暦「……だから、戦場ヶ原を好きでいたいから。これからは、
  しがみ付いてでも、戦場ヶ原を好きでいようって、そう決めたんだ」

暦「今あるこの状況を、しっかりと心に刻んで」

ひたぎ『……あらそう。阿良々木くん、私といるのに暢気に構えていたっていうの』

暦「そんなつもりじゃ……」

ひたぎ『随分と余裕なこと。本当に、すぐに振り解けそうなぐらい』

暦「……ごめんな、戦場ヶ原。でも、これからはお前を好きで──」

ひたぎ『分かったわ、分かったから。もう、
    そんなに好きを連発されても、私が困るからやめなさい』

暦「……好きだよ、戦場ヶ原」

ひたぎ『……私はもうしがみ付いているんだから。
    阿良々木くんも、死ぬ気でしがみ付いてきなさい』

暦「ああ、分かってるよ」


ひたぎ『それで、話って何かしら阿良々木くん』

暦「え? いや、今話したのが本題なんだけど……」

ひたぎ『……呆れた。いいえ、この場合は違うわね』

暦「呆れてくれていいんだぞ?」

ひたぎ『あ、キレた』

暦「素直に呆れて下さい!」

ひたぎ『こんなことのために電話代を使用したの? ただでさえ我が家の財政難には、
    お父さん共々、頭を抱えているって言うのに。
    こうなったらこれから毎日もやしまつりを開催するしかないわね。
    ええそうしましょう。うっうー』

暦「合わねぇ……」

ひたぎ『合う合わないはともかく。阿良々木くんにはそのパーティに、
    是が非でも参加してもらうわよ』

暦「……」

暦「へっ?」

ひたぎ『明日の放課後、私の家に来て頂戴。あ、買い物に付き合ってもらった方がいいわ。
    意外ともやしってかさ張るのよね』

暦「え、おい戦場ヶ原──」

ひたぎ『あぁ、電話代が』ピッ

暦「あ、おいこら! ……電波だろ、そこは」

暦「…………」

 …………。

暦「……──ぅうおっしゃああああああああああ!!!」

今日はここまで。

再開。

 ────────────────
  ──參日目・午前漆時──


暦「……ふぅ」ガララ──

翼「おはよう阿良々木くん」ニコッ

暦「おはよう、羽川。早いな」

翼「……ふーん、今日は随分と機嫌がいいね」フキフキ

暦「分かるのか?」サッサッ

翼「ねぇ知ってる? 機嫌って言葉って仏教用語なんだよ?」

暦「雑誌にでも新聞にでもついてくる、
  アウトプット全開記事みたいな入り出しだな……」

 唐突ナ展開。


翼「記事だと……もっと文語調だけどね」ニコッ

暦「羽川翻訳のままでいい」

翼「この言葉は『大般涅槃経』聖行品第七之一に出てくる戒律からきているもので、
  人が不愉快と思うような言動は慎みなさい、という『息世譏嫌戒』が元になってるんだ」

暦「羽川翻訳のレベルたけえ」

翼「だから心情を窺うような、細かい心の動きを表す文字に『機』が使われるんだよね」

翼「機械なんて言葉も、そういうところから来てるんだろうね。
  機械を修理する人なんかは、まさにマシーンのご機嫌を伺ってるんだよね。
  とか、あははっ。そんなこと思うと面白いよね、どっちが偉いんだって」

暦「……ホント、お前は何でも知ってるな」

翼「何でもは知らないわよ、知ってることだけ」

翼「でも、実際機械が人よりも優れていて、
  コンピュータが人の力を越していく。そんな時代なんだよね、今って」

翼「チェスチャンピオンがコンピュータに負けたって話が有名だね。
  いつかレジスターの仕事がなくなったり、人間のすべきことがどんどん制限されていく」

翼「自由を求めて不自由になっていく。
  なんだかおかしいよね、今も昔も変わらないんだろうけどさ」

翼「でも、こんな時代だからこそ、人間がやるべきこと、
  人間にしか出来ないことを伸ばしていくべきなんだと、私は思う」

暦「……」ポカーン

翼「……え、どうしたの阿良々木くん。
  口の形がかまぼこみたいになってるよ?」

暦「……」ニコッ

翼「逆、かまぼこ?」

暦「ったく、思わずびっくりしたぜ。
  朝の教室で話す内容じゃないぞ、羽川」

翼「手、止まっちゃう?」フキフキ

暦「掃除もままならない」

翼「じゃあ、ルンバにまかせよっか?」

 …………。

暦「いや、是非僕にやらせてくれ」サッサッ

翼「ふふっ、はいはい」

今日はここまで。

再開。

 ────
  ──

暦「よし、掃除終わりっと」

翼「お疲れ様、阿良々木くん」

翼「それで、どうしてそんなに上機嫌なの?」

暦「え、いや別に上機嫌ってほどでもないけどさ。
  羽川には隠す必要なんてないし、
  そもそも隠し通せるとは思えないから言うけれど」

暦(無意識を認識されている……)

暦「結婚しよう」

翼「ごめんなさい」

暦「戦場ヶ原の家に呼ばれてさ。昨日、唐突に」

翼「一緒にお勉強でもするの?」

暦「いや、夕飯を食べにこいとか何とか……」

翼「ふーん、戦場ヶ原さんの料理かぁ。美味しかったなー、すっごく」

暦「まあ、それなりに美味いよな。素直に言ってやれてないけれど」

翼「えー、それは可哀想だよ。ちゃんと言ってあげなきゃ」

暦「……そうだな」

暦(そう、羽川の言うとおり。
  言わなければいけない、変に意識することなく、変に恥ずかしがらずに)

暦(今の当たり前を変える、これからの当たり前を作る。それが、僕が今するべきことだ)

暦「言うべきことを無理して言わない。ははっ、そう思うと、なんか変だな僕って」

暦「無理をして、無駄なことを言って。所詮それは、ただの戯言なのに」

暦「何無駄にかっこつけてんだよ、僕は」

翼「……別に阿良々木くんが間違ってるわけじゃないよ。
  言うべきことを言わない、言えないのが人間なわけで」

翼「人には感情以前に、心があるから」

暦「それは、何か違いがあるのか羽川?」

翼「阿良々木くん。さっき機械の話をしたよね?」

翼「人に作られた、人よりも優れた存在。そこに心は存在しなくても、
  確かに人為的に作られた感情はある」

翼「まあ、機械の感情って言っても、
  ただ同じ工程を繰り返すだけの一方通行なものだけれど」

翼「でもそれは明らかに、確かに感情ではあるんだよ?」

翼「つまりは感情の赴くまま、正直にあっけらかんに物事を言うことは、
  機械にも出来ることなんだよ阿良々木くん」

暦「それは、極論だろ」

翼「そうだね、そうかもしれない。でも、いずれは機械も発展していって、
  お手伝いロボットぐらいは完成する時がくるんじゃないかな」

翼「ほしいなぁネコ型ロボット」

暦「僕はネコ型羽川が欲しい」

翼「一億円ね?」ニコッ

暦「羽川にしては雑な返しだ!」

翼「でも、お手伝いロボットは、本当にお手伝いしか出来ない。
  どんなにすごい技術でも、人の表面しかなぞれないんだよ。
  奥底の気持ちには触れられない」

翼「感情と心って、そういうこと」

暦「そういう、もんか」

翼「阿良々木くん、戦場ヶ原さんのこと、ちゃんと想ってあげて。
  阿良々木くんの気持ちを、心で、しっかりと」

翼「別に、阿良々木くんは間違ってるわけじゃない。
  ただ少し、分からなくなってただけでしょ?」

暦「羽川……」

翼「まったくもう、阿良々木くんはポンコツだなぁ」

暦「羽川ぁ!?」

翼「ふふ、冗談だよ。ポンコツなのがいいんだから、人間は」

暦「お前がそれを言うか……」

翼「私だからって特別なわけじゃない、私だって例外じゃない、
  誰だってポンコツなんだよ。だから、いつも言ってるでしょう?」

翼「『何でもは知らないわよ、知ってることだけ』って」

翼「知らないことは、初めはうまく出来ないよね」

暦「誰だってポンコツ、ね……はは、なんか悶々と考えてるのが、
  馬鹿らしくなってきたよ。羽川、ありがとな」

翼「うんうん。まあ今までのくだりを簡単に要約するとなると、
  『ウジウジしてないでさっさと彼氏らしくアタックしなさい!』ってことだから、
  頑張るんだよ、阿良々木くん」ニコッ

暦「端的で刺さる言葉だ……」

今日はここまで。

再開。

翼「出番作ってもらうの大変なんだから。
  こう遠まわしに私らしく話したつもりだけれど、
  だからこそ、ここからは私の力なしで頑張りなさい」

暦「出番って……もっと羽川と話したいぐらいなんだけどな。僕は」

翼「そうもいかないでしょ。私だって楽しいよ? 私だってこうして、
  この早朝の学校で、ずうっと阿良々木くんとお喋りしていたい」

翼「でも、無理でしょう。ダメでしょう」

暦「もう他の生徒が来るって、そういうことか?」

翼「違う違う。そんな時間概念的なことを言ってるんじゃないんだよ阿良々木くん。
  もう、阿良々木くんはポンコツだなぁ。随一のポンコツだよ、私の知ってる範囲では」


暦「お前の知ってる範囲で随一って……それかなりやばいんじゃ……」

翼「まあ、随一であって、唯一なんだけどね」

暦「唯一って……そこまでポンコツなのかぁ……!」

翼「……」ジトー

暦「……なんだよ、羽川?」

翼「……ほんっと、ポンコツだよもうっ」プイッ

暦「お、おい羽川っ」

翼「もうしーらないっ。阿良々木くんはそのまま壊れちゃえばいいんだー」

暦「いきなりどうしたんだよ……」

翼「阿良々木くんは戦場ヶ原さんに壊されちゃえばいいんだー」

暦「恐ろしいことを軽々口にするな……!」ゾワッ

翼「もう……阿良々木くんの恋人は、戦場ヶ原さんでしょ」

暦「え、まあ……そう、だな」

翼「だから、私の出番はここでおしまい。いい加減終わらせてよね阿良々木くん」

翼「阿良々木くんは阿良々木くんで出ずっぱりだけれど、まだ出番残してる子もいるんだから。
  しっかり、最後までやり遂げなさい」

暦「……はい」

翼「じゃあ、私ちょっと職員室に用があるから。またね阿良々木くん」

暦「ああ、また後でな」

翼「またねじゃなくて、じゃあねだね」

暦「またホームルームになれば会うんだから、寂しいこと言うなよ」

翼「踏ん切りがつかないでしょ。私も、阿良々木くんも、この会話にも」

 ガラララ─

暦「わかったよ。じゃあな、羽川」

翼「うん。じゃあね、阿良々木くん」

 ガラララ─ピシャン

 此ノ後、羽川ハ普通ニ教室ニ戻ツテクル。普通ニ話ス、普通ニ笑フ。
 然シ、話ノ都合上ト言フカ、踏ン切リニ「ヂヤアネ」ト言フ言葉ハ、兔角便利ナ言葉ダツタ譯デ。
 
暦「……さて」

 特ニ羽川ニ關スル怪異譚ハ起コラナイ、何モ始マラナイ。
 ダツテ此ノ時點デ、羽川トノ物語ハ、終ハリヲ迎ヘタノダカラ。

今日はここまで。

 ────
  ──

ひたぎ「阿良々木くん、今日の放課後一緒にスーパーに行きましょう」

暦「まあ、そりゃな。ご馳走してもらう身としては当たり前のことだけれど、
  荷物持ちぐらいはやらせてくれ」

ひたぎ「あーん」

暦「あー……ん」パクッ

暦「と、突然なんだよ……」

ひたぎ「赤くなっちゃって、可愛い」

暦「……」

ひたぎ「……阿良々木くん、私たちって周りから見たらラブラブに見えるのかしら」

暦「教室でこんなことする勇気も、させる勇気もない」

ひたぎ「いくじなし」

暦「あのな戦場ヶ原。その言葉けっこう傷つくんだからな」

ひたぎ「ならよかったわ」

暦「……」

ひたぎ「ところで阿良々木くん。いくじなしの阿良々木くん。
    いくじなしくん」

暦「ついに呼称が悪口になった!」

ひたぎ「しがみ付き合うことになった私達は、
    さて、一体どんなことをこれからしていけばいいのかしら」

暦「そりゃ、普通にだよ。今までしてきたことを、
  普通に、特別に感じることが大切なんだ」

ひたぎ「ふーん、なんだ大して変わることはないのね」

ひたぎ「それこそ教室で食べさせあいっこしたり、
    そういうことをするのかと思ってたのだけれど」

暦「受験生には目に毒だろそれ」

ひたぎ「大学に行くとこんな人生が貴方を待っています」

暦「無駄に夢を持たせるんじゃない」

ひたぎ「差し詰め私達は、夢の中にいるのかもね」

暦「夢のような時間の中に、だろ。夢じゃない」

ひたぎ「夢じゃなくても覚めないでほしいわね、冷めないでほしい」

暦「だから、しがみ付き合うんだ」

ひたぎ「心も体も一つになるのね?」

暦「人類を補完しようとするんじゃない」

ひたぎ「でも実際、阿良々木くんは心も体も一つになりたくはないの?」

暦「…………それは、エヴァ的な意味でなのか?」

ひたぎ「そうね」

 唐突ナエヴア談義。


暦「僕は、なりたくはないな」

暦「やっぱり人間て、究極的には一人なんだと僕は思うわけだ」

ひたぎ「いたっ」

暦「超傷ついた!!!」

ひたぎ「冗談、続けて」

暦「……でさ、人間はその一人という状態から関係を築いていくじゃないか。
  まずは母親、そして父親と。どんどん関係を大きくしていく」

暦「いずれは自分と違う価値観の人間が、目の前に現れるかもしれない。
  そんな奴はいくらでもいて、自分とまったく同じ思考の人間なんて、
  それこそいくらもいないわけだ」

ひたぎ「ふんふん」

暦「人生の中で人間関係の問題はたくさん起こると僕は思う。
  だけど、それが人間なんじゃねーのかと僕は思う」

暦「人は決して分かり合えないのかもしれないけれど、
  その溝を互いに埋めていく。しがみ付き合っていく。
  それが人が生きるって、人生ってものなんじゃないかな」

暦「あと、これはアスカの受け売りだけれど、
  みんなと交わっちゃ、ガハラさんは特別じゃなくなるだろ?」

ひたぎ「アンタばかぁ?」

暦「な、なんだよ……」

ひたぎ「そんなまどろっこしいことはどうでもいいのよ。
    阿良々木くん、私と二人だけの世界に行きましょう」

暦「それエヴァじゃねーから!!」

ひたぎ「交響詩篇も大好きよ」

暦「あっそ……あ、戦場ヶ原」

ひたぎ「なによ」

暦「今日も美味しかったよ、ご馳走様でした」

ひたぎ「はい、お粗末な阿良々木くんでした」

暦「返答になってない!」

ひたぎ「はぁ、ツッコミもお粗末ね」

暦「それ言われたら僕の存在価値が……!」

ひたぎ「……結論、阿良々木くんは私と一つになりたくないわけね」

暦「えっ」

今日はここまで。

おつおつ
買い物から晩飯に場面変わる時みたいに場面変わる時は三点リーダ入れるとかでわかるようにしてほしいなーって

>>183 ? 
  
 ────

  ──    

これがシーン変化のつもりだったけど、
まあこのまま続けるね

再開。

ひたぎ「エヴァ的な意味じゃ、なくて」

暦「……うーん、どうなんだろうな。
  こうした時間を大切に思うことは、出来ていると思う」

ひたぎ「じゃあ、こうした時間の先は?」

暦「先?」

ひたぎ「みなまで言わなくても分かるでしょう。
    私の誕生日、七夕の日。星空の下で」

暦「……その、また先か」

ひたぎ「と、言うか。別に隠して言うことでもないのだけれど、
    なんだか阿良々木くん、やけに過敏になっている気がするから」

暦(あの時は貝木関連の事件を済ませて、
  その場の雰囲気みたいなものが、僕を後押ししていて)

暦(あの時も、惰性みたいなものだったんだな)

暦「改めて考える、と……──」

暦「…………やっぱり僕は、戦場ヶ原と一つになるのが怖い」

暦「当たり前も怖いけど、その後に待っている世界も怖いんだ」

暦「僕は、お前を失うのが──怖い」

ひたぎ「失いなんてしないわよ、だって現にこうして一緒じゃないの」

暦「そう、だな。別に疎遠になったわけじゃなかったんだ。
  お前を近くに感じることが当たり前になっていて、
  近付きすぎて、それで、分からなくなって」

暦「そこから枝分かれして色々な負荷がかかるんだよ。
  それを思うと、どうしようもなく不安になる」

ひたぎ「…………」

暦(何、言ってるんだ僕は。なんだこの状況は。
  今こそ、それこそ別れる手前みたいな雰囲気じゃないか)

ひたぎ「放課後、楽しみにしているわね。先に教室に戻っているわ」

暦「あ、ああ……」

暦(恋ってのは、よっぽど怪異よりも、厄介だ)

 ────
  ──

暦「はぁ……」

暦(どうしてこんなことになったんだ。
  そもそも、火憐と月火の話を聞かなきゃよかったのか?)

暦(いや、いずれ行き着いていたんだろうな。
  僕と戦場ヶ原との、この問題に)

暦(……まあ、大半は僕の問題なんだろうけど)

?「何やら落ち込んでいるようで」

暦「へっ?」

暦「……お前、なんでここにいるんだよ」

?「何やら意気轟沈しているようで、キサラギさん」

暦「お前のいつも通りの語句間違えを指摘する前に言わせてもらうが、八九寺。
  僕の名前を今この文章を書いている時点で話題になっている、
  某ブラウザゲームのキャラクターみたいな名前で呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」

真宵「失礼、噛みました」

暦「違う、わざと……って、この流れ飽きたとか言ってなかったか?」

真宵「飽きまみた」

暦「わざとじゃない!?」

真宵「お昼ごろにまたお会いするという制約を、取付けておいたものですから。
   来ちゃいましたっ」ニコッ

暦「学校にまで憑いてきやがったか……」

真宵「それで、どうしたのですか阿良々木さん。
   豆鉄砲を鳩が食らったような顔をして」

暦「どんな顔だよ」

真宵「……したり顔?」

暦「お前には僕がしたり顔しているように見えるのか」

真宵「どちらかと言うとしっとり顔でしょうか」

暦「男にその表現はちょっと……」

暦「いや、それがさ……」

 ペチャクチャペチャクチャ

今日はここまで。

再開。

 ペチャクチャペチャクチャ

真宵「なるほど、恋愛沙汰ですか」

暦「そこまではいってねぇ」

真宵「阿良々木さんらしくもないですね。
   私の知っている阿良々木さんでしたら、
   まず真っ先に行動していると思いますけど」

暦「う、うん……」

真宵「それにこんな言葉もあります」

真宵「恋愛沙汰も金次第って」

暦「やけに現実味を帯びている……!」

真宵「でもあまり使いたくはない手ですね。ましてや阿良々木さんのように、
   まだろくに働いてもいない高校生が使う手ではありません」

暦「……」

真宵「総論を申し上げると、いい加減にしろ、とのことです」

暦「え、何がだよ」

真宵「もしこれが物語として成り立っているとして、
   その読者からのメッセージを代弁してみました」

暦「それって少なからず、いや、大半はお前の意見でもあるよな……」

真宵「私は阿良々木さんではありませんし、
   阿良々木さんのすべてを知っているわけではありませんから」

暦「いつもメタな位置にいやがるお前が何を……」

真宵「そもそもこうして事情を話されただけの私が、
   こうして総論と声高々に言うのも些か早計かと思うのですが、
   それ以上に阿良々木さんの行動力は、早計のまた先を行っていると私は思っています」

暦「確かに、そうかもしれない。でもな八九寺。
  行動している時点でそれは僕の全ての意思なんだ。
  僕の行動は、僕の中の総計だ」

暦「だから、下手に動けないんだよ。まだ、考えがまとまってないんだ」

 (いい加減にせんか、お前様)

暦「っ!? 忍、まだ昼だぞ」

真宵「忍さん?」

忍(ここ二日、お前様がず~~~~っと煩くて堪らんわい。
  忘れているのかは分からんがお前様の心の動きも全てが、 
  少なからず儂とペアリングされておるのじゃぞ?」

暦「うっ……」

真宵「心中お察しします忍さん」

忍「おう、ロリっ子ではないか。聞いてくれこの阿呆ずっと、
  あのツンデレ娘のことしか考えてないのじゃ」

忍「昨日から好き好き好き好きと煩くてしょうがない……。
  とか思ったら次は幸せに出来るかとか、いつから捻れたのかは知らんが、
  ブツブツと悩みだすし……」

真宵「うわぁ……」

暦「普通に引くんじゃない!」

忍「ずっとコイツと一緒にいる儂から言わせてもらうと、
  いい加減にしろ、の一言に尽きるわい。これが総論じゃ」

真宵「いつかのかっこいい阿良々木さんは、
   やはり私の見間違いでしたか……」

忍「かっこいい? コイツが? 
  笑わせるなよロリっ子。
  かっこいいと言うのは三浦春馬のような男を指すのじゃ」

暦「乙女みたいな答えだな!?」

忍「戯け、儂だって女じゃ」

暦(歳に関するツッコミがし辛い状況だ……)

真宵「私にあんなにいい事を言ってくれたのに、
   その本人がこれじゃあ説得力の欠片もありませんね」

暦「お前に……僕が……?」

真宵「『一生迷うことなんてない。
   人は絶対に答えを、いつか見つけるものだから』」

真宵「『また、新しい時間はあるんだ八九寺。僕はお前を忘れないし、
   忘れさせない。どうしようもないことかもしれないけれど、
   たとえ進学したって、僕とお前の関係は終わらない』」

真宵「とかなんとか、くさいことを」

忍「うわぁ……」

暦「その反応やめて下さい!」///

真宵「一言一家間違えませんでしたっ」

暦「仲が良さそうにない家族だな……」

忍「お前様は考えの幅が狭すぎじゃ。もう少し、
  周りの見えるやつだと思っていたのにのう……」

忍「いや、見えてはいるか。ロリっ子にくっっっさい説教するぐらいだからの」

暦「言い方に悪意を感じるぞ!?」

忍「台詞に”っ”を入れると可愛いと聞いたのじゃっ」

暦「入れる位置と数に悪意しか感じない!」

真宵「阿良々木さん」

暦「あ、はい」

真宵「世界は回っています。どんなに阿良々木さんが苦しくても、
   楽しい時間を過ごしていても、世界は回っています」

真宵「今話しているこの瞬間だって、世界は回っているのです」

暦「そ、そうだな……?」

真宵「阿良々木さんが戦場ヶ原さんをどう思おうと、
   それは阿良々木さんの勝手なのかもしれないですが、
   しかしそうして考えている間にも、世界は回り続けているのです」

真宵「この意味、分かりますか?」

暦「いや、いまいち掴めないというか。話が壮大すぎるというか──」

忍「だからお前様は考えの幅が狭いと言ったのじゃ。
  黙ってこのロリっ子の話を聞いておけ」

暦「ぐっ……」

真宵「阿良々木さんは余裕ですよね本当に。
   平和ボケのし過ぎではないでしょうか」

暦「えっ、なんだよそれ……僕が、平和ボケ?」

真宵「いつ世界が回るのを止めるのか、分からないのですよ?」

暦「そんな、馬鹿な……」

真宵「分かりました、例えのレベルを下げましょう」

真宵「いつ阿良々木さんの目の前に、とてつもない怪異が現れるのかも、
   いつ戦場ヶ原さんが交通事故に遭うのかも、分からないのですよ?」

暦「っ、それは……」

真宵「大切なものがいつ消えてしまうのか、そんなこと誰にも分からないのです。
   阿良々木さんが戦場ヶ原さんを幸せに出来るのかなんて、分かりませんよ」

真宵「出来るのかもしれません、出来ないのかもしれません。それもこれも、
   どれもこれも、この世界は分からないことだらけです。不思議だらけです」

真宵「だからこそ、私達が出来ることと言えば、
   今を貪欲に生きることなのです」

真宵「それこそ起きる事態は、どうしようもないことなのですから」

真宵「私達が警戒すべきなのは、私達が住む世界自体そのものだと、
   そう思います。そう、思わせてくれたんです」

真宵「ありがとう、ございます」

暦「え……僕が、か?」

真宵「はい」ニコッ

真宵「怖くなったんですよ。私って、幽霊じゃないですか」

真宵「私を存在させてくれているのって誰なんだろうって。
   私、死んでいるんですよ?」

暦「八九寺は、生きてるよ。今、僕の目の前にいるじゃないか。
  一緒に、話している、話せているじゃないか」

真宵「……そう、言ってくれる人が私にはいる。すっごく、嬉しいことです」

暦「…………」

真宵「だけど、阿良々木さんと道端で会って、話して、
   別れて、から……私、どうしようもなく怖くなるんです。
   独りなのが怖い、世界が、私を置いて行ってしまうんじゃないかって」

真宵「置いて行かれるのが、怖い」

真宵「だから、私は世界にしがみ付くんです」

暦「っ!」

真宵「しがみ付いてでも、阿良々木さんに憑いていきますっ」

暦「八九寺……」

 キーンコーンカーンコーン

真宵「おっと、そろそろ時間ですか。……阿良々木さん」

 抱擁ガ、解ケル。

暦「八九寺……僕は……」

忍「お前様、お昼休みは終わりじゃ。行くぞ」パシッ

暦「おい、忍っ……待て、離せよ!」

暦「僕は、コイツのためだったら遅刻したって、学校を休んだっていいんだよ。
  それだけたくさんのものを貰ったし、助けてもらった。
  だけど今回は、今までのことを覆すぐらいに、それくらいに八九寺の貢献は大きすぎる」

忍「いつまでも休んどるわけにもいかんだろうに。
  お前様が今重要視すべきなのは、このロリっ子ではなく、
  ツンデレ娘じゃ」

暦「忍、そんな言い方──」

真宵「いいんです。私は、阿良々木さんとお話が出来ればそれで、  
   それだけでいいんです」

真宵「私と阿良々木さんのペアは、雑談がメインですから。雑談担当ですっ」

暦「変に、自覚してんじゃねぇよ……」

真宵「私の貢献は、私のためのものでもあるんですから」

真宵「だから阿良々木さん。戦場ヶ原さんを、大切に想ってあげてください」

暦「……」

真宵「……っ」ニコッ

暦「……ありがとうな、八九寺」

真宵「応援してますよ、阿良々木さん」

忍「……ほれ、お前様」

暦「あ、ああ」

今日はここまで。

再開。

 ────
  ──

 キーンコーンカーンコーン

暦「授業が終わった……、と」チラッ

ひたぎ「……」ジィー

暦(めっちゃこっち見てる……)

ひたぎ「……」コツコツ

暦「……」

ひたぎ「行きましょう、阿良々木くん」

暦「お、おう」

 ────
  ──

ひたぎ「これとあれとそれとどれと」ポイッ ガサッ

暦「まだ、買うのか? かごがいっぱいになりそうだけど……」

暦「ていうか、経済状況がピンチだったんじゃなかったのかよ」

ひたぎ「阿良々木くんを呼ぶための口実よ」

暦「清々し過ぎるだろ」

 マア、嬉シイケレド。

ひたぎ「もやしがいっぱいコレクションね」

暦「いや、別にジブリ風に言わなくてもいいから」

ひたぎ「もやしがいっぱいコレクション第一弾、豆の茎を買うしか」

暦「うまい!?」

ひたぎ「でも、実際は制作順じゃないのよねあのコレクション。
    ナウシカは何番目だったかしら……」

暦「ボケに崇高さを求めてるな、お前……」

ひたぎ「目指さない理由がないわ」

暦「かっけぇなおい」

ひたぎ「……なんだか阿良々木くん、感じが変わったわ」

暦「……分かるのか?」

ひたぎ「ええ、お昼の阿良々木くんはどこへやら。
    まあ、これなら大丈夫そうね」

ひたぎ「これからの、色々なこと」

暦「……うん」

ひたぎ「……さて」

 ────
  ──

ひたぎ「はい、上がって」

暦「お邪魔し……」

ひたぎ父「……」

ひたぎ「さて、パーティの支度をしなくちゃ。るんるんっ、
    あ、お父さんはそこに座っていて。一家の大黒柱は柱らしくジッとしていてね」

ひたぎ父「……ああ」

暦「……」

ひたぎ「阿良々木くん、貴方って挨拶も出来ない人間だったかしら。
    お父さんごめんなさいね、こんな非常識な人間を──」

暦「お久しぶりですお父さんっ。本日は、お邪魔させて頂きます」

ひたぎ父「そんなに、畏まらなくていい」

暦「は、はい」

ひたぎ「空気が和らいだようでよかったわ」

暦「……」

暦「せ……ひたぎさん、手伝うよ」

 ────
  ──

暦「……」

ひたぎ「……」トントントントンン…

ひたぎ父「……」ペラッ

暦(か、帰りたい……!)

暦(お父さんがいるなんて聞いてないぞ戦場ヶ原……!
  え、何これもしかしてもしかすると、
  三人でちゃぶ台を囲んで、夕御飯を戴くことになるのか?)

忍(そうなるじゃろうな)

忍(……お前様、昨日今日の動揺を超えそうなのじゃが)

暦(…………)

暦「戦場ヶ原さん……」コソッ

ひたぎ「なによ」トントン…

暦「パーティ、だよな?」

ひたぎ「パーティよ、超大盛り上がり」

暦「僕、盛り上げ要員?」

ひたぎ「期待してるわ」

暦「……」チラッ

ひたぎ父「……」

暦「……分かった、やる。やってみせるぞ……!」

ひたぎ「口より手を動かして頂戴」

暦「……」

今日はここまで。

最後の再開。

 ────
  ──

暦「えー……では、いただきますっ」

ひたぎ・ひたぎ父「「いただきます」」

暦「ご馳走だなぁ。もやしだけでこれだけ作れるなんて、
  見直したぜ戦場──」

ひたぎ「ですってお父さん、良かったわね褒められているわよ」

暦「さすがひたぎさんだなぁ!」

暦「ていうか言い間違いを訂正させる余裕をくれよ」

ひたぎ「もぐもぐ」

暦「ぐっ……」

ひたぎ「ほら、阿良々木くん。おかず取ってあげるわ」

暦「あ、ああ。ありがとう」

ひたぎ「お父さんより先に取ってもらえるなんて、
    偉くなったものね」ヒョイ

暦「そっちから取るかって訊いてきたんじゃん!」

ひたぎ「これから数年後に社会に出るというのに、
    気の利かない男ね」ヒョイ

暦「……すみませんお父さん」

ひたぎ父「いいよ。ひたぎもあまりからかうな」

ひたぎ「あら、お父さんが意見だなんて珍しい。
    いつもなら一言で終わるのに、これも阿良々木くん効果かしら」ヒョイ

ひたぎ「アララギコヨミクス効果かしら」トンッ

暦「なげぇよ、合ってねぇよ」

ひたぎ「ほら、お父さん」

ひたぎ父「ああ」

暦「……あ、うまい」

ひたぎ「あらそう。いつも正直な阿良々木くんにしては珍しい意見ね。
    私とっても嬉しいわ」ヒョイ

暦「なんか棘のある言い方だな……」

ひたぎ「いつも美味しいって言ってくれないくせに」ヒョイ

暦「……照れ隠しだよ、現に今日は素直に言ってるだろ」

暦「そういや昼の時は気付かなかったな。
  僕、ちゃんと『今日も』って言ったはずだけど」

ひたぎ「そうだったかしら。ふーん」ヒョイ

暦「うん」

ひたぎ父「……」

ひたぎ「お父さんが気まずそうじゃないの、阿良々木くん」トンッ

暦「え、僕か!?」

ひたぎ父「阿良々木くん。ひたぎの料理、美味しいかね」

暦「え、あ、はいっ。とても」

ひたぎ父「家事を殆ど任せきりにしてしまっていた、僕の功績だな」

暦「……え、えっと」

ひたぎ「いばれることじゃないわよお父さん」

ひたぎ父「なんちゃって」

ひたぎ「……もう、お父さんが可哀想じゃない阿良々木くん」

暦「え、今の、もしかして突っ込んでも良かったのか?」

ひたぎ父「阿良々木くん。こうして食卓に一緒にいる時点で、
     遠慮はいらないよ。大方ひたぎが君を呼んだのだろうが、
     僕は邪険にしたりはしない。むしろ喜ばしいくらいだ」

暦「き、恐縮です」

ひたぎ「あのね阿良々木くん。お父さんは寡黙で、
    ぶっきらぼうな人間とは言ったけれど、
    別に冗談が通じない、冗談を言わない人間だとは言っていないのよ私」

暦「は、はぁ……」

暦(まあ、前に初めて会った時に冗談はすでに言われていたのだけれど)

ひたぎ「むしろ、私と似ているわ」

暦「お前と似てるなんてことは、まずないと思うぞ」

ひたぎ「会社では毒舌」

暦「よりにもよってそこが似てるのか!?」

ひたぎ父「なんちゃって」

暦「お父さんが言うんですか!?」

ひたぎ「あら、やるじゃない阿良々木くん」

暦「ひたぎさん。思ったよりこれ疲れるよ……」

ひたぎ「初級編はクリアね」

暦「この先まだあるのか!?」

 ────
  ──

暦「ご馳走様でしたっ」

ひたぎ・ひたぎ父「「ご馳走様でした」」

ひたぎ父「ひたぎ、美味かったよ」

ひたぎ「阿良々木くんから聞きたい台詞ね」

暦「おい、お父さんに失礼だろ」

ひたぎ父「いいんだ阿良々木くん。僕はいつものことだから」

ひたぎ「お父さんはいつものことだもの。
    むしろ、なんで開口一番に阿良々木くんが言ってくれないのよ。
    刺すわよ箸で」

暦「随分な暴論だな!?」

ひたぎ「美味しかった?」

暦「そりゃ、美味かったよ」

ひたぎ「そりゃよかったわ」

暦「……」

ひたぎ父「……じゃあひたぎ、留守を頼む」

ひたぎ「分かったわ。気をつけてね、お父さん」

暦「え、こんな時間からどこかに出掛けるんですか?」

ひたぎ父「会社で、ちょっと立て込んだ用があってね」

暦「それは、大変そうで……」

ひたぎ父「会社で毒を吐いてくるよ」

暦「本当に毒舌なんですか!?」

ひたぎ父「また、いつでも来てくれていい。これから阿良々木くんも受験だろうから、
     そうたくさんもこうしてパーティもしていられないだろうが」

暦(それなりに盛り上がったけれど、
  しかしこれをパーティと言い張るのは戦場ヶ原だけだと思っていたけれど……)

ひたぎ父「ひたぎのことは僕が一番知っているつもりだ。この子の学力を鑑みた上で、
     僕も君とひたぎの受験勉強を許している。ひたぎを守るのは君の仕事かもしれないが、
     君も、いくらでもひたぎを頼ってくれていい」

暦「情けない限りですが、そのつもりです。頑張ります」

ひたぎ父「もし今日みたいに家にいる時は、僕が手を振るうとしよう。
     またいつか、こうして歓談に勤しみたいものだ」

暦「それこそ、僕だけじゃなくて、僕の家族とかも一緒に。
  その方がより、パーティらしいですよ」

ひたぎ「良いわねそれ。私も、妹さん達ともたくさん話したいし」

ひたぎ父「……じゃあ、行ってくる」ガチャッ

ひたぎ「行ってらっしゃい」

暦「お勤め、頑張ってください」

 バタンッ

暦「……ふぅ」

ひたぎ「はぁ、楽しかったわね」

暦「盛り上げられた気は、あまりしないけどな」

ひたぎ「あんなに話すお父さんを見るのは、本当に久しぶりよ。
    どれだけすごいことか、阿良々木くんには分かり辛いでしょうけどね」

ひたぎ「なんだか、安心しちゃった。お父さんは、やっぱりお父さんだって。
    それくらいに、すごいこと」

暦「……光栄だよ」

ひたぎ「阿良々木くんは、やっぱり私の大切な人」

暦「うん、僕もそう思ってる」

ひたぎ「ねぇ。キス、してもいいかしら」

暦「やけに唐突だな……」

ひたぎ「唐突に愛しくなったのよ」

暦「……否定する意味もないし、否定するつもりもない」

ひたぎ「ほっぺは0.5、口は1.5、ベロチューは5.0」

暦「え、なんだよその数字は」

ひたぎ「その行為に費やすキロバイト数」

暦「ムードの欠片もねえな! ていうかベロチューに使いすぎだろ!」

ひたぎ「物語の地の文が増えるわ」

暦「そこに力入れなくていいから! これSSだから!」

ひたぎ「ちなみにこれは0.02」

暦「!?」

ひたぎ「なによ、その顔は」

暦「お、お前……! 何故それを手に持っている……?」

ひたぎ「万が一の時のためよ。いくら私と阿良々木くんが愛し合ったって、
    しがみ付き合ったって、まだ子供は作れないわよ。
    そうね、大学を卒業して数年経ったらなら……ね」

暦「お前の将来設計はどうでもいい! 女子がそれを買う行為は、
  男が最も屈辱に思──」

ひたぎ「うるさいお口に、はい」

暦「んぐ……」

ひたぎ「……、ふう」

暦「……うわ、なんかすっげぇどこかへ飛び出したい」

ひたぎ「テンションが上がったことをいちいち報告しなくてもいいわよ」

暦「……」

ひたぎ「私だって恥ずかしいんだから、そんな黙らないでよ」

暦「ちょっと赤くなった?」

ひたぎ「うるさい」ズビシ

暦「あぶねっ、目はやめろ目は!」

ひたぎ「目には指を、歯にはドリルを」

暦「虫歯じゃないぞ僕は」

ひたぎ「目にはドリルを、歯にもドリルを」

暦「用途がだいぶと違う!?」

ひたぎ「こんな間違った言葉の使い方、いけないわね」

ひたぎ「正しくは目には目を、ハニワにはニーハオよ」

暦「間違ってるよ! アイマス的にはあってるけど間違ってるよ!
  てかネタが細けぇよ!」

ひたぎ「うるさいお口に」

暦「……もう、何でもいいや」

ひたぎ「……っ」

暦「っ……」

ひたぎ「──……ふぅ。では唐突に、ここで同じ質問」

ひたぎ「阿良々木くんは、私と一つになりたくないわけね」

暦「……」

暦「ここ三日間で感じたことって言えば、
  人間の関係なんて一瞬で消えうせるし、一瞬で構築されるってことだ。
  世界はその都度色を変えるし、色を無くす」

暦「そして色は褪せていく。人は当たり前に、
  当たり前の価値を見誤ってると思う。当たり前が、僕は怖い」

暦「この当たり前に起きている事態が、
  いつ僕の目の前から消えてしまうのかと思うと──」

ひたぎ「消えないわ」ヒシッ

暦「戦場ヶ原……」

ひたぎ「阿良々木くん。随分と大仰な振る舞いで大口叩いていた割には、
    そんなつまらない言い訳ばかりで……呆れたわ」

暦「キレては、ない?」

ひたぎ「ないわよ、なんで私が貴方に対して殺意を覚えるのよ」

暦「その直列な思考はなんとかしてくれ……」

ひたぎ「しがみ、付き合うんでしょう? 
    もう、これから大丈夫なの本当に。
    私、不安でしょうがないのだけれど」

暦(不安を煽っちまったか……)

暦「……もう、怖くない」

暦「この後に待っている世界が、どんなものなのか」

暦「僕は、お前を失うのが──怖い。
  だけどそれ以上に、お前とこの先も歩んでいきたい」

暦「歩んで、それからまた物語は、永遠に続いていく」

暦「怖がってる場合じゃねえんだ。時間は進むし世界は変わっていく。
  僕は、僕達はそれに必死になって置いてかれないようにしていくだけで、
  だから」

暦「これから一緒に、物語の続きを見に行こう」

ひたぎ「……」

暦「お前のことを考えて考え込んで、考え抜いて。
  後押しされて、それから出た僕の──総論だ」

ひたぎ「……」

暦「……」ゴクッ

ひたぎ「……きも」

暦「超傷ついたァ!」バッ─

ひたぎ「放さないわよ」ガシッ

暦「ちょ、戦場ヶ原……苦し……」

ひたぎ「絶対に、放さない」

ひたぎ「本当にもう、最後の最後までいくじなしなんだから……──」

暦「戦場ヶ原……」


 其ノ言葉ニ、酷ク傷附ケラレ乍ラ、僕ハ。

 ──────────────
  ──午後拾壹時──


暦「ただいまー」

火憐・月火「「おかえりーっ!」」

火憐「なんだよ遅かったじゃねーかよ兄ちゃん。
   危うく待ち死にするところだったぜー」

月火「随分と遅い帰りだねお兄ちゃん。
   どうせ戦場ヶ原さんの家だろうけど、
   頑張って勉強してたんだね」ニコッ

暦「当たり前じゃないかー……それで、やけに上機嫌じゃないかお前たち」

月火「お兄ちゃんも大概だけどね。そう、聞いてよ聞いてよ!
   蝋燭沢くんったら──」

火憐「瑞鳥くんと今日さー……いやー、あっはっはっはっはー!」

月火「火憐ちゃん詳しく話さないなら話す意味ないじゃん! 
   私の自慢話に割って入ってこないでよ!」

火憐「いーじゃねーかお互い色々あったんだからさー」ニコニコ

暦「あまり詳しく聞かないでおこう。
  現実逃避じゃないぞこれは、現実戦略的撤退だ」スタスタ

月火「いや、訳分かんないからお兄ちゃん」

暦「子供は早く寝ろ」

火憐「もう子供じゃないもーん!」

月火「もーん!」

暦「蝋燭沢くんと瑞鳥はいつか殺します」

火憐「父さんに事前に捕まえてもらうからなー!」

月火「寝ている間にお母さんが逮捕しに行くから!」

暦「……」

 ────
  ──

暦「しおらしい方がよかったな、あいつら……」

忍「抜かせ、喜んどる癖に」

暦「…………キス、だけだよな? あいつら」

忍「お前様と同じかもしれん。最後まで……あれじゃ、同じ穴のムジナじゃ」

暦「最低最悪の誤用だ!!」

 prrrr… prrrr…

暦「電話? こんな時間に……」

暦「……」

 ピッ

暦「もしもし、千石?」

撫子『暦、お兄ちゃん。久しいね、久しぶりだね』

暦「忘れてたわけじゃない」

撫子『えっ?』

暦「いや、なんでもない。で、どうしたんだよ夜遅くに」

撫子『フリートークコーナーだよ』

暦「自覚してるのかよ!!」

撫子『だって、ここ三日間暦お兄ちゃんが、
   全然撫子のところに来てくれないから……。
   今の撫子のポジションはすごく曖昧な位置にあるけど、気にしないでね。
   気兼ねなく話してくれていいからね、暦お兄ちゃんっ』

暦「は、はぁ……」

撫子『本物の雑談担当だよー』

暦「……ごめんな、千石」

撫子『え、ううんっ。こういうかたちだけど暦お兄ちゃんと話せるんだもん。  
   撫子、嬉しいよ?』

暦「そうは言ってもさ……物語の上で話したいわけだよ僕は。
  千石が動かされているなんて考えたくもないんだよ……」

撫子『でも、バイトみたいなものだし……』

暦(バイトみたいなものなのか……)

撫子『話す気があればオーケーな仕事なんて、願ったり叶ったりだよ。
   ましてやその相手が暦お兄ちゃんなんだもん』

暦「その、なんだ。求人情報でもあるのか?」

撫子『ネットページの端っこにあったバナーをクリックしたら……』

暦「怪しいやつだよそれ!」

撫子『ご、ごめんなさいっ。で、それでそこからなんかよく分からないうちに、
   頭の中に指令が出てきて』

撫子『電話しなきゃ、って』

暦「千石、頼むからそういう怪しいサイトに繋がるような場所を、
  クリックしないでくれ。僕はお前が心配でしょうがないよ」

撫子『でもこんな話をしているけど、これも全部辻褄合わせなんじゃ──』

暦「もうそれを言うな……!」

撫子『でも話したいと思ったのは、撫子の意思だよ……?』

暦「千石……」

撫子『「いつ物語を終わらせるか分からない」ってメッセージもあるし……。
   撫子の戦いはこれからなのに……』

暦「打ち切り確定かよ!?」

撫子『だからね、早く何か話そう暦お兄ちゃん』

撫子『何の話がいい? 最近読んだ漫画の話とかかな?』

暦(焦ってる千石の声、聞いていてとても辛くなる)

暦「漫画か……漫画の話に限らないけどさ、一人の主人公の半生というか、
  長い道のりを描いた物語は最高だと思う」

撫子『「めぞん一刻」みたいな漫画?』

暦(そこで『めぞん一刻』が出てくる千石は一体何者なんだろう……)

暦「まあ、当てはまるかな。こんな作品いくらでもあるんだけどさ、
  なんて言うんだろう。そのキャラクターの人生をずっと見てるとさ、
  どんどん感情移入していくっつーかさ」

撫子『最初から読んでて成長したなぁって感慨深くなる時は、  
   確かにあるかも』

暦「ジャンルは基本何でもいいんだよ。ただ、そこにいるキャラクターが、  
  物語を通して成長しているかがミソだな」

暦「最近『砂時計』って少女漫画を読んでさー。いや、少女漫画も侮れないなって」

撫子『少女漫画の成長は、身体的にとかじゃなくて、
   精神的な成長がリアルに描かれてるなって思うよ。
   読んでてすっごくドキドキするし。
   五代くんもギャグパートを潜り抜けて成長したんだもんねー』

暦「それが時間を通しての成長だと、より現実味が出るんだろうなぁ。
  短い時間だと現実性に欠けるっていうか、漠然と考えていると共感出来ないって言うか」

撫子『その違和感を補ってくれるのが、物語に流れている時間なんだよね。
   まさに時間が解決してくれるってことなのかな』

暦「おいおい、それじゃあ本質的に成長出来てないように聞こえるだろうが」

撫子『うふふっ』

暦「あははっ」

暦(楽しい)

撫子『心の底から湧き出てくるものは、
   暦お兄ちゃんが話したような作品でしか出てこないのかな』

暦「一概には言えないけれど、少なからず僕の経験からはそういう結論になりそうだな」

撫子『成長物語かぁ……』

撫子『長いとその分、間延びする可能性も孕んでくるから大変そうだけど』

暦「そういう物語はどちらかというと、
  視聴者からそっちの世界に馴染んでもらわないと成り立たない気もする」

暦「アニメでいう掴みの三話、小説でいう掴みの一文目みたいなものは、
  あくまでも視聴者を引き付けるための、火付け役のようなもので、
  そこから先は視聴者が付いてくるかの問題だと思うから」

暦「そういう物語は、自然と自分から付いていくのが正解なんだと思う。
  付いていかせるのが難しいんだろうけどな」

撫子『読んでる間はあっという間だもんねー。
   撫子も大長編ドラえもん観てると、時間を忘れちゃう』

暦「いつも言ってるけど、鉄人兵団は名作だよ」

暦「あれこそ、リルルの成長が顕著に見て取れる傑作だ」

撫子『いくじなしっ、ってリルルが言うところが撫子好きだなぁ』

暦「自分で話を振っておいて、傷を抉っちゃった……」

撫子『え?』

暦「いや、なんでもない」

撫子『……暦お兄ちゃんは、この三日間で成長できた?』

暦「……はは、それを聞くか」

撫子『変な質問しちゃったかな……』

暦「いや、いいよ。成長かぁ……」

暦「これから、成長するのかな。その、下準備がこの三日間だったんだと思う」

撫子『下、準備?』

暦「これからの僕の、僕の物語が紡がれることにおいて、その前提条件みたいなものを、
  今回でクリア出来た気がする」

暦「僕の本当の戦いはこれからだ! ってな感じだ」

撫子『じゃあある意味、成長出来たんだね』

暦「……ああ」

撫子『……そろそろ、終わりかな?』

暦「え、おいおい。まだ話し足りないぞ、そんなこと言うなよ」

撫子『別に撫子達の会話が途切れることはないんだよ?
   ただ、この物語が終わるだけなんじゃないかな』

撫子『お兄ちゃんが成長したってことは、もうこの物語にこれから先を書く意味は、
   もう存在しないってことなんだと思う』

暦「そんなこと……」

撫子『少なからず、暦お兄ちゃんは一つ大きくなったんだよ?』

暦「……ありがとう、千石」


暦「でもまた、先の物語があるさ」

暦「この三日間僕は色々な経験をして、色々な話をした。
  その中に千石がいなかったことは僕の失態と言うか何と言うか、
  まあ物語の欠陥であるけれど」

暦「そんなことは忘れて、僕はまたお前と話したい。
  てか話そうぜマジで、教えてくれよ。お前の好きな物語をさ」

撫子『……うんっ、暦お兄ちゃんっ』

暦「じゃあ、かたちだけでも。本当に電話を切るなよ?」

撫子『うん』

暦「じゃあな、千石」

撫子『うん、じゃあね。暦お兄ちゃん』


 此レカラモ、續イテ行ク。
 
   僕ノ、物語。




                               ──終──

ここまで読んでくれた方、ありがとうございましたー
撫子には今度殺されてくるということで乙!

おまけ

忍「お前様。儂にドーナツは?」

暦「は? お前になんでドーナツをやらなきゃならないんだ」

忍「この三日間、儂の手助けなしではお前様は成長できんかったじゃろ」

暦「分かった。僕も鬼じゃない、鬼だけど鬼じゃない。
  忍が自身の功績を僕に教えてくれたら、それ相応の対価を払おうじゃないか」

忍「この三日間、儂の手助けを経てお前様は成長したじゃろ?」

暦「……」

忍「この三日間、儂の手助け……のぅ、お前様……?」

暦「言い回しがだいぶと変わったな……」

 ドンダケドーナツ食ベ度インダヨ。

 ──── 
  ──

忍「一仕事した後のドーナツは格別じゃの♪」

暦「どうしても活躍したことにしたいんだな、お前は……」

忍「儂がうん百年生きている示しがつかんじゃろうが」

暦「ドーナツを頬張っている時点で、示しもくそもねぇよ」

忍「尊厳の失墜はお互い様じゃろうて」

暦「ははっ、まぁな」

忍「……しかし実際、今回のお前様はなっっっっっさけなかったのう……」

暦「そこまで溜めるか!?」

忍「下手したらあのツンデレ娘とお前様、別れておったぞ」

暦「……」

忍「んーっ、んまい!」

暦「暢気だなお前は……まあ、結果良い方向に進んだし、
  良かったよ本当に」

忍「儂が手を引いてやらなければ、
  お前様はロリっ子と午後の授業をほうって、
  デートに行っていたからのー。危ない危ない」

暦「そのくらいの気概は、確かにあったけどさ」

暦(今度八九寺に会ったら、どこかに連れて行ってやらなくちゃな)

忍「ほら、儂の功績。ドーナツ五個追加じゃ」

暦「今食べてたのが功績分だ」

忍「……」

暦「……」

忍「いやじゃいやじゃドーナツ食べたいんじゃいやじゃいやじゃー!」ジタバタ

暦「うわぁ……」

 ────
  ──

忍「んぐ、んむ……んーっ!」

暦「つくづく僕って甘いよなぁ……」

忍「儂、幸せじゃ……」トローン

暦「身を滅ぼすな、これは……まじでドーナツは、
  お前にとっての麻薬なんじゃないか?」

忍「LSDポップじゃな」

暦「ミスドに喧嘩売りたいのかお前は!?」

忍「振ったのはお前様じゃい」

暦「そ、そうだけどさ……」

忍「まあとにかく、お前様の問題も解決。
  妹御達もどうやらうまくいったみたいじゃし」

忍「儂もこうして……むぐっ、ドーナツにあり付けたわけで。
  まさにこれが大団円、というやつではないかの?」

忍「それこそドーナツの輪のように、じゃ」

暦「ちょっとうまいが、お前に纏められるのは何か納得いかない……」

忍「カカッ、この先ドーナツていくのかは、全てお前様次第じゃよ」ニヤリ

暦「ぜんっぜんうまくねぇ!!」



 
                               ──終──       

ではでは乙

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