アンジュ「惑星エリア?」 (340)




※このSSはクロスオーバーとなっております。そういった作風に嫌悪感を感じる方はお手数をおかけしますが、「閉じる」を選択願います。
※どちらかの作品、または両方の作品を誹謗中傷するモノでは御座いません。
※それではどうぞお楽しみ下さいませ。





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420175629

天より降り注ぐは星の光。
地より照りつけるは人工の輝き。



天地を睥睨するその間において、交わるは二つの"影"。



―――ゴキィィン……!!



影が交差する度に、幻想的な光のカーテンにはおよそ似つかわしくはない硬質な音が鳴り響く。



―――ズガァァン……!
―――ガキィィィ……!



天空を疾駆するは"紅色"の残像。



ヒトのカタチをしていながら人間に非ず。
光に照らし出される硬質な金属の皮膚と、火を噴き上げる筒を全身に身につけた紛い物達…。





片方の"紅"が、相手に狙いを定めるように右腕を突き出すと。


―――バヅン!!!


周辺の空気を震わす破裂音と共に衝撃が響き渡り。


ソレを容易く回避したもう片方が腕を振るわば。


―――シュバン!!!


星の光も霞むほどの閃光と共に、「く」の字に輝く"何か"が正面の敵を強襲する。



???「…………!!!」


が、構わず間合いを踏み込む紅色の眼前で、閃光は「バチン!」という音と共に霧散する。



"両者"は夜闇を切り裂くように空を飛び、ぶつかり合い、凌ぎを削る。



???1「……大したモノだな……!」

???2「…………、」



目まぐるしく変化する視界の中で、片方の"紅"から感嘆したような声が漏れる。
が、もう片側の"紅"はひたすらに無言を貫く。





???1「…喋らないのか、それとも喋る必要が無いというのかは解らんが」



―――だが。

"男"は決心したように胸中で呟き手に持つ操縦桿を固く握り締める。


???1「お前にこれ以上時間を割いてやる訳にはいかん。…一気に決めさせて貰うぞ」


言い放ち、右腕に取り付けられた…鈍い輝きを放つ"突起物"を低く構えた。


???2「………、」


相手も男の意思を感じ取ったのか。
先程飛ばした閃光とは比較にならない程の光量が腕より発せられたと思いきや、それはまるで刀剣のような形を形成し。



―――それを、突き出すように構えた。





一瞬の静寂。
そして。










???1「―――、勝負…!」






???2「――――――、」






―――ゴオオオオオオオオオッ!!!!





先程までのぶつかり合いが戯れあいと錯覚せしめる程の速度と、それにより生み出される大出力の暴風が周辺を轟々と揺らす。
時間にして数秒にも満たぬ程の刹那の後。





―――紅色の右腕の突起物が。
―――紅色の左腕の閃光剣が。





炸裂した。


……筈、だった。




???1「―――む!?」


男は訝しげな声を上げた。
相当量の出力を以て叩きつけた筈の右腕が、敵に届いていない。
否、"届いていない"のではない。




???1「静止、している…!?」


見れば相手も同じ状態に陥っていた。
振り下ろした閃光剣は自分の右腕と鍔競り合う形になるようにして…中空でピタリと止まっている。
操縦桿を動かそうとしてもピクリとも反応しない。


やがて。




???1「―――何だ…!?」


両者の間を起点としたかのように、突如閃光が―――爆発ではない―――男の視界と肉体を丸ごと包み込むようにして広がった。









そして光が収束すると。




その後に残るは。











………………………。




一切の無音。
まるで二つの紅など最初から存在していなかったかの如く寒々とした空間が唯そこに有るのみだった…。




―――ザ…。
―――ザザザ…ザザ……。




???3「(―――ピッ!)………中尉?」

???3「おい、嘘だ……ろ…反応……消……クソ、ノ…ズが………」

???3「こち……リュ……セ……テ……中……尉…応………答、キョ…ウ……」













これは、"惑星エリア"と呼称された恒星における戦乱の最中に起こった。
ほんの一幕の出来事。






…の、筈だった。












――――――…………。




そして、場面は移ろい変わる。





青い空、紺碧の海が何処までも広がる自然豊かな景色。
しかしながら人々の心を潤す筈の情景は今正に。



阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。



―――ギャア、ギャアギャアギャアギャアギャア……!


空では、喉奥から絞り出すような重たい"鳴き声"がそこかしこで響いていた。
ウミネコでも、周辺の海域に生息している鳥類にも該当しないその醜悪な声は耳にする者を否応なく恐怖と不安に引き込む程。

それも1匹だけではない。
幾重にも折り重なるようにして放たれるソレは。

…そう。

まるで、"獲物を求める肉食獣"さながらの―――。


否。



"さながら"ではない。






"そのもの"だった。





―――ギャア、ギャアギャアギャアギャアギャア……!
―――グギャア、ギャアギャアギャアギャアギャア…!




口蓋から覗くは鋭い牙。
背より生えるは己が体よりも巨大な二対の翼。
陽光を弾くぬめついた鱗が特徴的な生物。
人はそれを。








―――"ドラゴン"と呼んだ。








彼等が何処から来て。
何の目的で"我々"を襲うのかは定かではない。

明確に解っている事は二つ。

ドラゴンは我々の敵であり。
ドラゴンにとっての我々は捕食欲を満たす為の、ただの……。












―――ああ、やっぱり私、死ぬんだ…。










風に煽られ堕ちてゆく奇妙な感覚に囚われながら、少女…"ミランダ・キャンベル"は胸中でボンヤリと呟いた。




自分を取り囲むようにして飛翔する小型のドラゴンの群れが視界に映る。



「パラメイル」から放り出された瞬間…否。同期の"ココ・リーブ"が爆炎に飲まれた瞬間…いや。

彼女(ココ)が敬愛していたミスルギの姫に付いていったその時から自分の運命は決まっていたのかもしれない。

覚悟はしていたつもりだった。

"ノーマ"である自分は所詮奴隷同様の暮らししか出来ないのだ。

天寿を全う出来るとは端から思っていなかったし、ここで戦い、いずれ果てる。
それが多少早まっただけなのだ。


ミランダ「………」


吹き上がる風を感じながらふと視線を上の方に向けると。
そこには隊長の機体にしがみつく、"姫"の機体があった。



それを見た瞬間、彼女の胸中に渦巻くのは。

恨みでもなければ呪詛の言葉でもない。







―――いいなあ。







純粋な、羨望であった。




隊長ならば上手くこの場を切り抜けてくれるんだろう。
"あの人"はまだ生き残る事が出来る。生き続けられる。

私は無理だ。

ドラゴンが待ちきれないと言わんばかりにその口蓋を開くのを感じた。
数秒後には自分は彼等の餌となるだろう。

痛いのだろうか、苦しいのだろうか…出来ることならどちらも感じることなく一瞬で逝きたい…。


その残酷な事実を、ミランダは受け入れるしかなかった。


しかし、それでいて。


ミランダ「…………?」


ミランダは己の目から流れ落ちる液体を知覚し―――泣いているんだ―――望洋とした脳裏が急速に冷えるのを感じた。

覚悟していた筈なのに、抗っても無駄なのに。

ココと一緒の所に行くだけなのに。

涙を流すほどに、私…私…。








ミランダ「―――――――――死にたく、無いよぉ……!」







叫びと共に流れ出た大粒の涙はしかし。
無常にも風に吹き消され―――。








その時だった。








―――バチ―――!

―――バチ、バチバチバチバチバチ…―――!!





火花が爆ぜるような音が、少女の耳を打った。

そして次の瞬間には。










真白の光が、視界一杯に満ち溢れた。





膨れ上がる輝きに。



ドラゴン「―――ガ?」

ドラゴン「―――グギャ?」



"獲物"に食らいつこうとしていたドラゴン達はその動きを止め。


それに応戦していた"彼女等"も、また。




???「―――ちょっと!何が起こってんの!?」


???「―――わ、私に言われたって…!」


???「―――あの痛姫女が何かしたっての?」


???「―――何も見えない…!」


???「―――ふわぁ~!すっげえ~!!」



―――???




???「―――何だ!?ドラゴンどもの増援か!」


オペレーター1「わ、解りません!計測不能!!」


オペレーター2「データに無い反応値を示してます!」


オペレーター3「光源、更に増大して行きますぅ!!」






視界を焼き尽くさんばかりの巨光は、風船が萎むようにして徐々に収束して行き。
後に残された…否。








―――"生まれ出でたモノ"は―――




ミランダ「……………………あ、あれ…?」


強い光に思わず瞳を閉じてから、どのぐらいの時間が経っただろうか?
恐る恐る瞳を開けば、視界に入るは自分の掌。



ミランダ「どこも…痛く、ない?」



思わず全身をまさぐるが、齧られた所は一つもなく血も流れて居なかった。


ミランダ「な、なんで…?それに私…」


しかもだ、自分は海面に向かって落下している最中であったにも関わらず、全く体が濡れていない。
そもそもとして、幾ら水面であったとしてもあれ程の高所から落下して平気である筈が…。
いやそれよりも。





今、自分が横たわっているこの固くてひんやりした地面のようなモノは一体―――?




ミランダ「……???」



そこで初めて。
彼女は自分の頭上に―――目を向けた。




そこに居た…否、"あった"のは。

自分を見下ろすようにして、鈍く光るは緑色の瞳。
現れた時に浴びたであろう水滴に反射するは、炎を溶かし込んだかのような"紅色"。
頭頂部の一本…まるで自分たちが乗る「パラメイル」のアンテナのような"角"は昔、資料室で見かけた騎士の兜を彷彿とさせ…。





何よりも驚くべきはその大きさ。
"頭部"だけで自分の身長の何倍もの…。








―――"頭部"?コレを"頭"と定義したのか、自分は。










すると、自分が横たわっている"ここ"は……。




もしや。




ミランダ「―――ひっ!?」


"地面の切れ目"から顔を出したミランダは思わず頓狂な声を漏らす。
眼下に広がるは渦を巻き、思わず吸い込まれそうになりそうな青い海。

紛れもなく、これはこの"巨人"の……。






ミランダ「―――指いいいいいいいいいいっ!?」






ゴツゴツと節榑立つ金属の指を持つ巨人が、自分を覆い隠すようにして掴んでいた。
目まぐるしく変化する己の環境に脳の処理が追いつかずに、つい尻餅をついてしまうミランダ。





―――そこの!!



ミランダ「―――ひゃ、ひゃいっっ!!」



ノイズ混じりに響いた大声に、思わず彼女は直立の姿勢を取る。
…嗚呼、こんな時でも発揮してしまうしまう悲しき奴隷根性…。

などと、現実逃避気味に考えている暇も無く。



―――今からハッチを開く、滑り込め!



立て続けに降り注ぐ声はミランダを急かし立てるように響く。


ミランダ「………?」


何をそんなに、と彼女が振り向けば…。








小型ドラゴンA「―――グガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
小型ドラゴンB「―――ギガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
小型ドラゴンC「―――キシャアアアアアアアアアアアアッ!!」











ミランダ「―――ひいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!??」


光による硬直が解けたドラゴンの群れが…否、仲間のパラメイルへと攻撃を加えていた個体達も一斉にこちらに向かって来ているではないか。
ぞわりと先程までの恐怖が一気に蘇ったミランダは1も2も無く…。


"バシュン!"と開いた巨人の胸部へと―――飛び込んだ。


ミランダ「ぜえっ!ぜえっ!ぜえっぜえっ!!」


息も絶え絶えに入ったソコでは。
見た事もないような機械類が並び立つ空間と。

その真ん中に鎮座する。


???「―――無事か?」


こちらを気遣う声。


ミランダ「は、はひ……」


半ば鸚鵡返しのように返答したが、この人(?)は一体何者なのだろう?
外の巨人と同じような赤い、見た事もないような分厚い服と、これまた見た事が無い、頭部を包み込む黒い兜(自分達が付けている"バイザー"に似ているような…)のようなアクセサリのせいで顔すら解らない。



赤い人(とミランダは定義した)は何やらポチポチとボタン?のような物体を押しつつ。


赤い人「…第4及び第6スラスターに変調…左腕ガトリングも一部砲門が塞がっている、か…幸いテスラ・ドライブには異常は無いようだが…」


ぶつぶつとこれまた訳の解らない単語を呟いている。


ミランダ「(ま、マナ使いの呪文か何かなのかな…?)」


しかしどうにも目の前の赤い人がマナ使いとは思えない。
かと言って自分たちと同じ"ノーマ"かと言われても妙な感覚に陥るような…。
そんな事をぐるぐると考えていると。


ミランダ「……へっ?」







自分の背後に、足を放り投げるようにして寝そべる一人の人間の…少女の姿。





ミランダ「…そ、んな、でも……」


まさか。
そんな。
でも。


ソレを否定する単語の羅列が幾重にも浮かび上がる。
だが。


少女「―――、―――、」


カクリと。
不意にこちらに向けられた少女の顔が目に入り…。
ミランダは。


ミランダ「…………あ…」


くしゃりと、自分の表情が歪むのを感じる。
恐怖によってではないソレは、歓喜によるモノだ。
鼻の奥からツンとしたモノが湧き上がるのを止めようともせず、彼女は衝動のままに。











ミランダ「――――――――――――ココォッ!!!」










瞳を閉じた少女…同期のココ・リーブの小さな身体を抱きしめた。





ココ「―――、―――」


ミランダ「…ひぐっ、うぐっ…ゴゴ…良かっだ…生ぎでる…!!」


瞳こそ開かず、身体はびしょ濡れで、顔の所々が煤ぼけているが紛れもなくその小さな胸の上下を感じた。


赤い人「仲間か?」


ミランダ「…は、い…ぞうです…!目の前で、爆発して…でも、どうして…」


赤い人「海面を漂っているのを回収させて貰った。ある程度の処置は済んであるが、早く医者に見せた方がいい」


ミランダ「は、い…はい…!ありがとう…ありがとうございます…!!うっうう…!」


赤い人「……礼を言うのはまだ早いぞ」


ミランダ「………へっ?」


涙をぬぐい、赤い人の方を向けば。












ドラゴンの群「「「「「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」










ミランダ「―――ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!??」





モニターらしき機械より映し出される景色を見て、ミランダは卒倒しそうになった。
先程まで数匹だったドラゴン達が、今やその数十数匹にも及び…。
出現した大半がこちらに向かって来ている事になる。


ミランダ「な、何で…?」


赤い人「どうやらこちらを早急に排除する必要があるとアタリを付けられたらしいな」


ミランダ「ほ、他の人達は…」


縋るように目線を向けるが、他のパラメイルは数匹残ったドラゴンの討伐に勤しむ者。
こちらを遠巻きに見ている者。
奥で身構える大型ドラゴンに編隊で向かう者と。
援護をしてくれそうな機体は何処にも居なかった。





ミランダ「ど、どうして…!?」


赤い人「…。"ここ"が"どこ"かは知らんが、戦場に突然現れた正体不明機を味方と思う程平和ボケはしてはいないんじゃあないか?」


ミランダ「だ、だって!私とココが居るんですよ!?」


赤い人「…………それを、向こうは知っているのか?」


ミランダ「…………………………えっ?」





赤い人「………………………」
ミランダ「……………………」

ココ「―――、―――、」スースー





そういえば、私もココも、ドラゴンに撃墜されてたし。
救助も一瞬の事だったろうし…。





ミランダ「…あ!それじゃあ通信機!基地か他の部隊の人に交信出来れば…!」


赤い人「生憎と、通信機の調子も悪くてな。修理は可能だがこの状況では無理だ」


ミランダ「…………………」


ミランダ「さっきの大―――」


赤い人「"拡声器"の事を言っているなら、この鳴き声の最中で届くかどうか試してみるか?この爬虫類もどきに追い立てられながら、だが」






―――ギャアギャアギャアギャアギャアギャア!!
―――グエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!
―――キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!








赤い人「………………」
ミランダ「……………」

ココ「―――、―――」スースー









ミランダ「―――もうダメだあああああああああああああああ!私達生き餌決定なんだあああああああああああ!!」





元から掃き溜めのような人生とはいえ、上げて落とすなんて酷すぎる!
神様なんてこの世にはやっぱりいないんだ!
だったらさっき食べられていれば…嘘ですやっぱり食べられるのは嫌です生きていたいんです這いつくばってでもry





赤い人「……おい」


ミランダ「―――?な、なんですかぁ…?」グスン


赤い人「…一つ所問いたいんだが、"アレ"はお前達の敵なんだな?」


ミランダ「"アレ"って、"ドラゴン"の事ですか?…そ、そうですよ決まってるじゃあないですか!」


こちらを襲い、挙句の果てには喰らうのだ。
それが敵ではなくて何と言おう。
それともこの人はドラゴンを見た事が無いというのだろうか。




…そんな人間、居る訳はないだろうに。




赤い人「…ふむ」



少女の憤懣など何処吹く風といった感じに、赤い人は顎に手をやり思案する。





ミランダ「…って、何やってんです!?に、逃げなきゃ…!」



モニター映像はこちらを取り囲み、逃がさぬよう包囲網を作りつつ距離を詰めるドラゴン達の姿。



赤い人「…逃げられんな」

ミランダ「―――そ、そんな…!」


ポツリと呟いた一言は、全くその通りとなり。
巨人は周辺を取り囲んだドラゴン達によって覆い尽くされ。










―――その身に爪と牙をまともに受ける事となった。




―――???



オペレーター1「ドラゴン群、アンノウンを取り囲んで行きます!」


???「―――、」フー


オペレーターの報告を耳に入れつつ、手に持つ紫煙を燻らせる"義手"の女性は別のオペレーターに尋ねる。


???「アンノウンの動きはどうだ?」


オペレーター2「そ、そこまでは流石に…!」


オペレーター3「…でも、ああなってしまったら、もう…」


???「…………、」





海面に広がる光景は、さながら円形のドームか芋虫の蛹か。
小型、中型のドラゴン達は包んだ獲物を逃さぬよう圧殺せしめんと筋肉と、その隙間から絶えず爪を繰り出して揺すり続ける。


沈黙を続ける巨人の表面には、しかして目に付く傷はついてはいない。

だが、その内部では…。



―――ガシュン!ガシュン!ガシュン!ガシュン!!
―――ギリギリギリギリギリギリギリギリギリ…!!



ミランダ「…い、いやああああああああああああああああああああっ!!!」



絶えず響き渡る圧迫音と金属音に、ミランダは堪えきれずにココを抱きしめながら蹲る。
ついぞ耳慣れない不快音は彼女を恐慌状態に引き戻すに十分過ぎた。




だが、それでも"赤い人"は。


赤い人「…………………、」


断続的な攻撃に対して狼狽えも、身じろぎ一つ、呻き声一つ上げない。
唯黙って傍らの…操縦桿を握り締めて、その時を待つ。

そして。


赤い人「――――――!」


閉じていた瞳をカッ!と見開く。
それに呼応して。





巨人「――――――!」ギュイン!!





巨人の双眸が、強い輝きを発した―――。


赤い人「逃げられ(逃げる必要があるとは言っていない)んな」

途中で申し訳ありません、席を外さなければならなくなりました。
夜の19時頃に再開致します故暫しお待ちください。それでは。

早めに用事が終わりました。では再開。

―――???


???「…他の戦況はどうか?」


義手の女性が、痺れを切らしたようにオペレーターに状況を尋ねた。


オペレーター1「は?は、はい…!ええとですね…!」




―――その時だった。




オペレーター2「―――!?司令、アンノウンに動きアリ。でも、これは…!」


司令「…何か?」


オペレーター3「ほ、包囲しているドラゴンの一角が―――」



そこから先をオペレーターが言い切る前に。



巨人を包囲していたドラゴンの内数体が。








―――膨張の後。








―――ボゴン!!―――









という重音と共に、文字通り"爆散"した―――。









その様を、遠巻きに見ていた"メイルライダー"達。
追いすがるドラゴンの残党を捌いていた者。
大型ドラゴンの進行を止めるべく奮闘していた者。

果ては、その当事者の大型ドラゴンですら。





全員「「「「「――――――、」」」」」





全員が全員、完全に時が止まったかのような錯覚に陥り…。



―――ベチャリ…!





メイルライダー1「…?な、何よこれ…?何かヌルヌルする…?」

メイルライダー2「…血…。…血だわ!!これ!?」




その静止を解除せしめたのは。
天空より降り注ぐ、かつて"ドラゴンであったモノ"の一部。



そして。





戦闘BGM:
https://www.youtube.com/watch?v=g81yI53qfeo




赤い人「―――行くぞ。悪いが気遣っている暇は無い」


ミランダ「へ…えっ、ええっ!?」


何が起こったのか理解すら追いついていないミランダを尻目に、赤い人は。


赤い人「しっかり掴まっていろ!!!」


足のペダルを―――思い切り踏み入れた。



―――ズバン!!!


空気の破裂音と共にドラゴンの包囲網を抜け出た影一つ。
紛れもない、あの"紅の巨人"である。



ドラゴン「―――ぐ、ぐぎゃ…!!」



一部が弾けとんだその跡は、まるで破り捨てられた卵の殻。
生き残った殻の一部が逃しはすまいと飛び立とうとした、その瞬間を。






赤い人「―――邪魔だ!!」



―――ドババババババババババ……!!!!!!!!





ドラゴン「ぎ…ギャアアアアアアアアアアアッ!!」





急速反転した巨人が己の左腕を突き出し、手の甲部分に応る場所から弾丸が雨霰のように降り注いだ。
並の銃弾であれば被弾したとしても即座に行動出来るほどの装甲とタフネスを持つドラゴンであったが、巨人のソレは一線を画していた。

弾丸がその皮膚をかするだけでも龍鱗はおろか肉が爆ぜ、骨が砕け…次々に飛ぶことは愚か二度と動き出すことすら叶わなくなる。

数秒も経たぬ内に"卵の殻"は赤黒い肉の塊へと整形される事となった。



その、巨人の背後から。



ドラゴン「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


赤い人「―――!」



敵接近の警告音。
振り向けば中型と思しき龍が口蓋を開いて押し迫る。

こちらを丸齧りにでもする算段なのだろうか。

だが。


赤い人「当てが外れたな…!」


"俺"も"コイツ"も、爬虫類もどきの食事になってやる義理は無い。
呟いて、巨人は主の挙動を正確にトレースする。



腰を沈め。



右腕の拳を握り。




―――それを真っ直ぐに、ドラゴンの口内へと叩き入れた。





ミランダ「食べ……!」


られちゃう!とミランダが目を覆うが。


赤い人はどこまでも冷静に、握る操縦桿のボタンを。

押した。









赤い人「―――トリガー!」










―――ドムン!!!!!




一発目で、炸薬と共にドラゴンの頭蓋が吹き飛んだ。


ドラゴン「ぐ―――が―――!」


尚も中型は巨人に縋ろうと両腕を伸ばす。
何という生命力だろうか。
だが。




―――ドムン!!!!!




ドラゴン「―――!!!!―――、―――」





二発目で、辛うじて繋がっていた首ごとドラゴンの顔面が粉々になった。





ドラゴン「グガア―――ガバアッ!!??」



三発目、同類ごとこちらを攻撃せんと接近したドラゴンのボディを、"諸共"粉砕した。


―――四発目。

―――五発目。

―――六発目。


右腕に取り付けられた弾倉が引金を引くたびに周り、排出される薬莢が落ちると同時にドラゴンの生命も堕ちて行く。



ドラゴン「―――ァ、―――カ―――」



ずるり、と。
物言わぬ残骸と化したドラゴンから引き出されるは、鮮血に紅く輝く突起物。
剣でも無ければ槍でも、況してや銃でもない。
しかしながらこの正体不明の獲物は紛れもなく中型クラスのドラゴンを、モノの数分で数体も沈めた大業物である。



その異業を見た。



大型ドラゴン「……………!」



此度の襲撃の首謀と思しき大型ドラゴンは何を思っただろうか。
尚も硬直している人間達に背を向け…。




―――一目散に逃走を開始した。





???「―――ちょっと、アイツ逃げるわよ!?」


???「…はっ…あ、…ぜ、全機、攻撃を…ここで逃すわけには…!」



大型ドラゴン「……………、」



硬直が解けたばかりの散発的な攻撃では己が害される事など無いという安堵だろうか。
大型ドラゴンの飛翔速度に低下は見られず。




大型ドラゴン「…………」



眼前に視線を向ければ中空に"歪み"のような亀裂が見て取れた。





―――あそこまで。
―――あそこまで、行きさえすれば…!





そう大型ドラゴンが思考したかどうかまでは解らない。
唯、己の同胞を幾匹も屠った紅い巨人へと目を向ければ。





巨人「―――、」シャコン!


右手から何かを排出しているようだが。
己とは大分距離が離れている。

左の銃は確かに強力だが己の命を一瞬で絶命させるには至らないだろう。
右の槍を使おうにもここまで届きはすまい。



―――人間め、次こそはこうは行かぬぞ。戦力を整え、必ずや…。





己を逃せる"門"まで後数十―――!






―――ガクン!





大型ドラゴン「…………!!!???」





"何"だ?
急に己の翼が重くなった気がする。


―――否。


"重い"のでは無い。


翼が、"全く動かない"―――!?




―――一体、ナニが―――?




鎌首をもたげ背後を睨む。




すると。






そこには。











―――一つ。
―――勘違いをしているようだが。










己の翼を掴み、噴射炎を以てその歩みを阻む。

遥か遠くに居た筈の、"紅"の―――。




赤い人「幾らこちらのブースターが本調子でないとしても…」








―――この距離で追いつけない道理は何処にも無いぞ。






その言葉の意味を、大型ドラゴンは理解したのか、それともしてないのか。




―――巨人の鈍く光る緑色の瞳が、死神のように大型ドラゴンを見据えた。




大型ドラゴン「―――、――――――、」


大型ドラゴン「――――――、――――――ギ」


それは断末魔だったのか、はたまた最後の抵抗であったのか。









大型ドラゴン「―――ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」



赤い人「喧(やかま)しい」






大型ドラゴンの咆哮を、一言で切って捨てた赤い人は。
そのまま、大型ドラゴンを"海に向かって"放り投げた。


大型ドラゴン「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」


その巨体が、海面へとぶつかるかと言うほんの数秒の間に。


―――バシャリ!と。


巨人の肩が扇の様に大きく開いた。
そして。


赤い人「―――クレイモア…!!」


―――ズバババババババババババババババ!!!!


蜂の巣の様な内部を露出した巨人の肩から射出されたのは、何百にも及ぶ鉄の球体。
左腕に装備された銃弾よりも巨大なソレらは、超速を以て大型ドラゴンに襲いかかった。








大型ドラゴン「―――ガッ!?、ゴッ!!、ギッ…ゲッ…!?―――ア、グゲ…!!!」





散弾と化した鉄塊群は、容易に防ぎきれるモノでもなく。
降り注ぐ鉄球は、氷に突き立てられたアイスピックのように敵の身体を梳り。
やがて、骨とボロ雑巾同然となった皮膚切れを晒した大型ドラゴンの身体は海中へと没し。









轟!!―――という水しぶきを挙げ、二度とその身を浮かび上がらせる事は無かった。




―――???



司令「……………………残敵はどうか?」


芯、と静まり返った室内で、司令官はオペレーターに問うた。
惚けたように大型ドラゴンの最後を見ていたオペレーター達は、その言葉にハッと我に返ると急いでコンソールを確認した。


オペレーター1「………あっ………は、はい!今確認します……!」


オペレーター2「…残存するドラゴン群は確認出来ません。完全に沈黙…え?何、これ……?」


司令「どうした?」


オペレーター3「アンノウンよりノイズ…い、いえ…全方位に向けて、"電波のようなモノ"が発信されています…!」


司令「内容は?」


オペレーター1「それが、雑音が酷くて…!こちらで修正をかけてみます!」

オペレーター2「……きました!解析結果、流します!!」






―――ブツン……!


―――ザ…ザザザザザザザザザ―――!!





ザザザ…ビッ…!!






―――そちらの武装組織に告げる。


―――当方にはそちら側と敵対する意思は無い。


―――繰り返す。当方はそちら側と敵対する意思は無い。






司令「―――、」チラリ


オペレーター3「ま、間違いありません。アンノウンからの全方位通信です!」






オペレーターからの報告を確信付けるようにするかの如く。






―――紅の巨人は、己の上空を舞う機体群へと両腕を挙げた。









赤い人「―――言葉を重ねさせて戴く。当方はそちら側に属するであろう女性隊員2名の身柄を保護…………」チラリ







ミランダ「………セカイ、が……ぐるぐる…まわって……うぶ、………ないぞう、が、とび、だしそうで…うぐぅ……おげ……」ピクピク


ココ「―――、―――」スースー







赤い人「(ゴホン!)―――確保させて戴いている。内1名は早急に医療行為が必要と見られ、この通信が届いているのであれば直ちに返答願いたし。繰り返す―――」





オペレーター1「(今なにか咳払いが聞こえたような…?)」

オペレーター2「ど、どうしましょうか…司令…?」


司令「……………、」フー


司令は、口中の紫煙を意味ありげに吐き出すと。
手元のボタンの一つに指を置いた。


―――カチリ。


司令「……通信は傍受した。こちら"ローゼンブルム王家管轄、アルゼナル基地"司令官の"ジル"だ。……貴官の所属と姓名を明らかにされたし」



―――、―――。


幾許か、巨人の方で躊躇うかのような息遣いが流れたが、やがて。


赤い人「―――こちらは…」


"赤い人"は己の正体を、この世界に宣言した。








―――こちらは、地球連邦軍北米コロラド地区管轄…。






―――実践特務部隊"ATXチーム"所属……。











――――――"キョウスケ"――――――。



―――"キョウスケ・ナンブ"………中尉。







それは嘗て、"地球"という惑星において、3度に渡って繰り広げられた大戦を生き抜いた男の名。

そして彼が操る巨大な人型兵器―――PT(パーソナル・トルーパー)―――の名は。








型式番号:PTX-003C-SP1


通称:古の鉄巨人(アルトアイゼン・リーゼ)





キョウスケ「…………」



応急修理をした通信機を片手に、キョウスケ・ナンブは思案する。
おとぎ話に出てくる「龍」のようなあの生き物達もそうだが、上空を旋回している鳥のような機動兵器群。
…あんなモノは見た事が無い。

イスルギのリオンシリーズともマオ社のゲシュペンストシリーズとも。

…無論、"先程まで"自分が居た。"惑星"エリアの機動兵器とも。

"ウィンター"と呼ばれた男が呼び出した…あの"紅い戦闘機"とも。

該当する情報が何処にも無ければ。

己の存在を知る人間の姿も、また。





キョウスケ「(……リュウセイとも、マサキとも連絡はつかない、か……)」



特定周波数で全方位に向けて電波を発信しているのだが、拾ったのは(後ろで呻いている)少女達のボスと思しき女性の声のみだ。

何一つ。

己を取り巻く環境を、何一つ理解できないままでありがなら。

それでいて、初めてでは決してない微妙な感覚。


キョウスケ「……ままらなんな。どうにも……」


一人ごちり。
常人ならば受け入れがたい状況を少しづつ受け入れながら、彼は瞳を閉じた。



傾き始めた陽は、そんな"彼等"をひっそりと包み込むように、茜色に輝いていた。









―――第一話:「紅の来訪者」
―――了。



「次回予告」:
促されるままに基地へと向かうキョウスケとアルトであったが、"ある尋問"を受けた瞬間。状況は一変する。
拘束され独房へと入れられた彼の前に基地司令より一つの"提案"が差し出される…。
女の園でキョウスケを待ち受けるモノとは、果たして。


次回、「彷徨いの咆哮」


―――例えどんな世界であろうとも。ただ、撃ち貫くのみ…!

第一話はこれにて終了でございます。

何だかこのクロスオーバーを衝動的に書きたくなったので書きなぐってみました。
少しでも楽しんでもらえると幸いです。

…あれ、そういえばアンジュの出番があんまり…。仕方無しとはいえ…次こそは必ず…。

それでは今回はコレにて。

えーでもヴァジュラくらいには遇ったっしょーw

これ>>1の理想のキョウスケ?
なんか違和感がすごいんだけど

>>75 多少…ヤツフサ=テイスト的にタフネスとバイタリティをUPしておりますが。
そ、そんなに違和感凄いですかね…。
続きは辞めておいた方がいいっすかねこりゃあ…。

面白そうだから俺としては続けて欲しい

お待たせしました。2話の前編途中までですが投下させていただきます。

>>77
これが処女作なものでして、それでも"面白そう"と言って下さってありがとうございますありがとうございます…。
精一杯頑張る所存ですので。

>>74
…まあ、「こういう手合いには非常に慣れている」というかそういう感じでww

第二話:「彷徨いの咆哮」




キョウスケ「―――見えた。アレがそうか…」


通信機から傍受した音声に従って海面を移動していると、前方にそれらしき"孤島"を視認した。
切り立った絶壁に、恐らく機動兵器群を収納しているであろう甲板のような施設が見える。
なるほど防御の観点からすれば天然の要塞としてこれ程適任の場所は無いのだろう。


キョウスケ「…だが」


何やら妙な違和感を覚える。
どこがどう、というワケではないのだが。
何故だかキョウスケはこの"基地"の事を。






―――まるで、"牢獄"のようだと一瞬感じた。




キョウスケ「…おい。もうじきで基地に到着出来そうだが、それまで耐えられそうか?」


コクピットの後ろに声をかけると。





ミランダ「………あ~……う~?ら、らいじょうぶですよぜんぜんへいきれすよのーまはこんらことじゃへこんでられないんですよ………ウプゥ………」ゲホォ


ココ「―――、―――う~ん、プリン…そんなに食べられません…ムニャムニャ…」





…………うむ。
取り敢えず返答が返ってくるので無事ではあるようだ。




キョウスケ「(…しかし、それ程重い機動は行っていない筈だが…)」


何しろ、こちらの機体は本調子では無いのだ。
……先程の戦闘でつくづくソレを痛感させられた。


キョウスケ「(…加速度が緩くなり過ぎている。今の所勘でトリガータイミングを調節して誤魔化しているが…)」


あの爬虫類モドキにはそれでも通じたから良かったモノの。
これがもし、惑星エリアで戦ったあの"紅の戦闘機"のような手練を相手取るとなると…。


キョウスケ「(………"転移"の影響か、それともあの戦いで無理をさせ過ぎたか………)」


解らないが、兎に角も。
この少女達が所属している基地にたどり着く事ができれば、修理を依頼…。
それが叶わなくとも最低限の補給さえ受ける事が出来れば少しはマシになるだろう。





今は、そう願うしかない。


―――ローゼンブルム王家管轄、アルゼナル基地。
―――甲板。





???「―――ここでク~イズ! あのデカくてゴツくて真っ赤っか!なヤツは敵でしょうか?それとも味方でしょうか~?」


???「…何よ、"ヴィヴィアン"。まーたやくたもないクイズ?」


海風を浴びながら無邪気に問題を問いかける、棒キャンディを咥えた少女は―――"ヴィヴィアン"。
捲くれ上がる赤い髪を手で押さえつけながら、鬱陶しげに返答するは―――"ヒルダ"。



???「そんなん…ドラゴンを攻撃してたんだし、味方……に、決まってるじゃん……だよな?」


???「………でも、あんなの見た事無いよ。新型のパラメイル?」


自信無さげに己の意見を述べるオレンジ髪の少女は―――"ロザリー"。
その後ろで、隠れがちになりながらぼそぼそと喋るそばかすの少女―――"クリス"。



???「パラメイルにしてはちょっと大き過ぎるわよねぇ……あら、"サリア"ちゃん。隊長は?」


???「……今は医務室に。怪我自体は命に関わるモノでは無いみたいだけど…暫く療養が必要になるかもしれないわ」


顎に指を当てつつ背後の人影に気づく豊満な女性は―――"エルシャ"。
一拍遅れて集団に合流した青髪の少女は―――"サリア"。



ヒルダ「…………ま、怪我で死ぬような女(ひと)じゃ無いでしょうしね」

クリス「隊長…良かった」


ロザリー「―――に、してもさあ……」


ロザリーが周辺へと目を配らせると…。







メイルライダーA「―――ワイワイ」
メイルライダーB「―――ガヤガヤ」


整備員A「―――キョロキョロ」
整備員B「―――ウロウロウロ」





少女達「「「「「―――ザワザワ…ザワザワザワ……!」」」」」キャッキャッ







ロザリー「………多すぎじゃね?」



この基地の甲板が広いとは言え、そこかしこにぞろぞろとパイロットや整備員や挙句の果てに内勤の連中までが列挙している…。
まさか、アルゼナルの人員全てがここに集まってきているとでもいうのだろうか。


…有り得なくもないのが、また恐ろしい。


ヒルダ「幾ら娯楽に飢えてるからって暇人ばっかね…」


エルシャ「…まあ、私達も似たようなモノでしょうけど」


何しろ戦闘が終了してからこっち、帰還して一目散に甲板へと駆け出したのだ。

…報告その他は副長のサリアに丸投げして。



―――副長:サリア。
―――ヒルダ。
―――ヴィヴィアン。
―――エルシャ。
―――ロザリー。
―――クリス。



彼女達こそ、このアルゼナル基地が"所有"する戦乙女であり、先程から口々にしている「パラメイル」という名の機動兵器群のパイロットでもある。
そして、今はこの場に居ない"隊長"と、"もう一人"………。




ヴィヴィアン「あり?そーいえば……"アンジュ"は?」


ヴィヴィアンが何気なく発した一言で。



―――ピシリ。

と、周囲の空気が冷たく固まった。



ヒルダ「…悪いけど。今はあの"痛姫"の名前なんて聞きたくもないね」

ロザリー「…そーそー。あの赤いのが乱入してきてくれたおかげで、こっちから意識が逸れてくれたから良かったけどさあ…ヘタすると隊長まで撃墜されてたんだぜ?」

クリス「そうなってたら、アイツ…絶対許さない…」



三者三様に、"アンジュ"なる人物を口々に酷評する。
しかも、言葉の端々に殺気すら感じられる程に。




エルシャ「……それで、サリアちゃん。アンジュちゃんは……?」


サリア「……"敵前逃亡"と"戦闘妨害"による味方を危険に晒した罪で暫くは独房入りになるとの事だわ」


ロザリー「マジかよ!?それって軽すぎじゃねえの!」


命は助かったようだが、新兵二人の生命を脅かした上に貴重な"ノーメイク"も2機大破。

どう考えても功罪と釣り合っていないと思うのはロザリーだけではない。
下手をしなくとも即銃殺というのも十分に有り得る程だ。


サリア「私に言わないでよ…!」


こちらはただ、司令から告げられた命令を伝えているだけなのだ。
不満があるのは、こっちも同じなのだ。



ヴィヴィアン「……お?な~んか見えて来た、見えて来た!!」


重苦しい雰囲気を破ったのはこれまたヴィヴィアンの言葉だった。
それに倣い目を凝らすと、確かに水しぶきを上げる点がこちらに迫って来ていた。

点は丸になり丸は秒を刻む毎に徐々に大きさを増し、そして―――。



―――ヒュゴオオオオオオオオオッ!!!



甲板に吹き荒れる一際強い風。
が、それも一瞬の事。


巨人「――――――、」ギュイン


中空に浮かぶボディを直ぐ様安定させた巨人が、甲板の先端に…脚を下ろした。


巨人「――――――、」ヒュウゥゥゥゥゥン!


数刻経たずに、眼と思しき部分から輝きが消える。
動力を切ったのだろうか?とすれば、いよいよか。




ロザリー「(そ、それにしてもよう……)」

ロザリー「(―――デッケーえなあ……やっぱ)」




こうして目の前にすると改めて思う。
基地の甲板は確かに広いが、この巨人の歩幅の前ではそれも霞んでしまう。
単純に見ただけでも自分たちの乗るパラメイルの大凡3倍くらいはありそうだ。

―――グビリ。

中型ドラゴンもかくやと言わんばかりのその威圧感に、思わずロザリーの喉が鳴った。
変わらず巨人の両腕は空へと挙げられているが、よくよく考えると本当にコイツは信用出来るのだろうか?
敵でないと思われる根拠は仲間を救った事とドラゴンに敵対していた事だけで(普通ならそれで十分だろうが)本当はどこかの国からアタシら(ノーマ)を抹[ピーーー]る為に送り込まれた殲滅兵器で、救助とかその他が全てブラフだったとしたら…?

若しくは急に気が変わったと、騙して悪いが~なんて襲いかかられたとしたら…?

未知への恐怖か、彼女の生来の気の弱さ故か。
思考がどんどん悪い方へと傾いてゆく。



ロザリー「―――、」チラリ


目線を仲間の方に向ければ。


ヒルダ「…………、」
サリア「…………、」
エルシャ「………、」


他の連中の内幾人かは懐の銃器に手を沿え。
そして自分たちの背後では。


パラメイルA「………、」
パラメイルB「………、」
パラメイルC「………、」


待機状態のパラメイルが、砲身を構えていつでも甲板上の巨人を狙撃出来るようにしていた。


ロザリー「(だ、大丈夫なのかよぉ……)」


何しろ相手はドラゴンの集団を、たった一機で鬼神の如く屠ったヤツであって……。
あれ?そう考えたらなんでアタシは呑気にこんな所に立ってんだろう?

天下のパラメイル第一中隊とはいえ、自分は大した実力なんて無いっちゅーに。
…自分で言ってて泣けてくる。正直言うのならとっととここから逃げたい。
けど逃げたら後でヒルダあたりからの追求が怖いだろうし、報酬減らされそうだし…。

などと、ぐるぐる思考をループさせていたら。







その時は、訪れた。







―――プシュウウウウウ…!




巨人から微かに白煙が漏れ出す。
思わず身構える各員であったが、やがて。


―――バカリ、と。
―――胸の辺りが開け放たれた。




全員「「「「「―――――――――ゴクリ………!」」」」」




甲板に居る全員が固唾を呑みながら見守る前で。

現れたのは……。









ミランダ「………………………………………………………オエップ」

ココ「―――すぅ、―――すぅ、―――わぁ~まるで魔法使いみたいです~…ムニャ」








キョウスケ(フルフェイス)「……………………、」



少女二人を小脇に抱えた、全身を真っ赤な服で包んだ見るからに怪しい奴。
しかも、しかもだ。

黒張りのガラス?みたいなのを嵌め込んだ兜みたいなのでご丁寧に顔面も覆っている為、彼女達は目の前の人物(?)が同じ人間であるのかどうかを錯覚してしまった。


ロザリー「(……なぁ、撃っていいんじゃね?アレ?)」ヒソヒソ

ヴィウィアン「(えー、何で~?カッコい~いじゃんアレ!)」ヒソヒソ

ロザリー「(…マジか?マジ言ってんのかソレ?)」ヒソヒソ

クリス「…真っ赤で、真っ黒…」


ヒルダ「(…どう思う?)」

サリア「(い、今の所怪しい動きは見せていないし…)」

エルシャ「…あ。降りてくるみたいよ?」


ワイヤーロープを使い、器用に少女二人を抱えたまま甲板に降り立つ…"赤い人"。
そのまま新兵達は駆け寄った救護班の担架に乗せられて運ばれてゆく。


…はて、それにしても通信では(大分ノイズが酷かったとはいえ)負傷兵は一人だけと言っていたような?






ミランダ「…………………ス、スイマセン……もう二度と訓練をサボりません……だから、急降下は…急降下はヤメテクダサイ……」





傍目から見るに、あっちの…確か新兵の―――"ミランダ"だったか―――が最も酷いようだが。
何やらブツブツと急降下がどうとか呟いているが…そんなに上空から叩き落とされた事が怖かったのだろうか?
そうこうしていると。


ヴィヴィアン「………あ」

エルシャ「どうしたの、ヴィヴィ?」


ヴィヴィアン「あの赤い人、こっち見てるよ」





キョウスケ「―――――――――、」


確かに、言われてみると首がこちらを向いている、ような…。
黒張りのせいで目線まで見て取れるワケではないが。


ロザリー「……ゲ!お、おいこっちに来てんじゃねえか!?」


キョウスケ「―――――――――、」



―――カツッ…!カツッ…!



ヴィヴィアンの言葉を証明するように、赤い人は一歩、また一歩と間違いなくこちらに向けて歩を進めていた。
銃で狙おうとしたのがバレたのだろうか?
いやそれならば巨人に乗っている時にアクションを起こすだろう。
どうするべきかとほぼ全員が一瞬で考えを巡らせて…。


ヴィヴィアン「―――、」
ロザリー「―――――、」
クリス「――――――、」
エルシャ「―――――、」
ヒルダ「――――――、」




チラリと、全員の目線が等しく青髪の少女の方へ集まる。









サリア「―――は?えっ…わ、私!?」






確かに(このメンバーでの)階級ならそうなるかもしれないけど…。
狼狽する副長に対し。



ヴィヴィアン「がんばれー、サリアー(棒)」

ロザリー「副長の意地、見せてやれよー(棒)」

クリス「応援してるー(棒)」

エルシャ「サリアちゃんなら大丈夫よ!(ニッコリ)」

ヒルダ「あー、アタシはめんどいからパスで(笑)」



サリア「~~~~~~~~~~っっ」プルプル



こ、こいつら…都合の良い時だけ副長呼ばわりしてからに…。
こんな肝心な時に限って隊長は入院だし。
そもそも、コレは副長の仕事なのだろうか?いいや絶対に違うだろうそもそも私の仕事は戦闘における隊の連携云々…。



等と、ウダウダしているサリアに向かって。





―――失礼。


サリア「――――――?」




何処か硬さのある、けれども決して不快なモノじゃない"音"がサリアとその後ろの仲間達の耳朶を打った。


それが、自分達の前まで来ていた赤い人から発せられた"声"だという事を理解する前に―――。


その人物は。




キョウスケ「――――――、」




自らの顔を覆っているモノへと、手をかけた。







―――ファサッ。






初めに目に入ったのは、夕日を浴びてキラと棚びく"金色"の髪と。
真一文字に引き結ばれた唇と切れ目がかった瞳は、一見して表情が抜け落ちているようにも思えて。
だけども"冷たい"という印象は感じられなく。



いや。


それよりも。


何よりも。


目の前に差し出された人物の顔立ち…というか、"そのもの"を見た瞬間。
私(サリア)はおろか、他の仲間達も。



ヴィヴィアン「……………、」
ロザリー「…………………、」
クリス「……………………、」
エルシャ「…………………、」
ヒルダ「……………………、」


サリア「……………………、」



口を開け、呆けたように固まった。
無論。



整備員「……………………、」
メイルライダー「…………、」
オペレーター「……………、」



取り囲んでいたほかの娘達も、同様に。






"それ"についての事は勿論知っているし、この世に生まれ落ちた人間は必ずそのどちらかに分けられるモノである。
しかしながらこの基地に居る殆どの少女達は皆"ノーマ"であり。
であるが故に、人生の全てを"ソレ"から隔絶させられるようにして生きてきたのだ。


それ程までに、自分達の目の前に現れた人物は強烈なモノで。



キョウスケ「―――基地司令はどちらに?」


サリア「……………、」


キョウスケ「……?」




目の前の人物がナニか言っているようだったが、正直こちらはそれ所ではなく。
漸くに硬直が解けた誰かが。

震える唇で。





―――お。
―――お、お……!















――――――お、お、お、……"オトコ"だ――――――!!!














素顔を顕にした"赤い人"―――否、"男性(おとこのひと)"を指差した。

ここまでです。なんだかゆっくりしてしまってすみません。
それではこれにて失礼します。

※描写をササッとにしてしまいましたが、隊長以下新兵2人はフラグを建てられたので見事生存です。ヤッタネ。
…今の所、は。

キョウスケ、リュウセイ、マサキの3人はタイプ違うけど女にはなびかないよな…
主人公はほとんどそうかな?

>>101

あ、すいません…今の所出てくるのはキョウスケだけなんですよ…。
確かに後"2人"ぐらいの参戦をと思ってるんですが、ACEからではなく純粋にOGからの出演をと考えております。

>>女になびかない~
キョウスケ=コブ付き リュウセイ=ロボオタ(一方的ながら意中の相手アリ) マサキ=キョーミネー(一方的ながry)

他諸々と、OGシリーズはその点隙がないからスゲーと思ってます。("主人公"という枠組み故むしろ当然かもしれませんが)
今回も「そういうスタンス」で行くつもりです。




キョウスケ「(…どうなっている?)」



通信では"甲板に着陸されたし"とだけ通達され、その通りにしたのだが―――。
降り立ってみれば、辺りを埋め尽くさん程の人、人、人の波。

空中で急制動をかけてなければ、そのまま風圧で数人を吹き飛ばしていたかもしれないと思うと冷や汗が流れる。



キョウスケ「(それにしても、だ)」

キョウスケ「("女"、ばかりなのか……?)」



周りをぐると見回すと、瞳に映った人間の性別が全てが女性である事に違和感を禁じえない。
男性職員はここには来ていないのか、はたまた奥に引っ込んでいるのか。
いやそれとも。



そも、この基地自体が女性のみで構成されているとしたら…。






キョウスケ「(無きにしも非ず、か)」



事実、キョウスケが体験した過去の戦い(DC戦争)においても、トロイエのような部隊が存在していた事例がある。
しかし、一つの基地規模で徹底された部隊というのは(ここの全容は知らないがかなりの大規模施設に見えた)少しばかりケタが違う。



キョウスケ「(己の身を考えれば些か窮屈に感じるが、背に腹は変えられん)」



昔話に出てくる女部族(アマゾネス)でもなかろうし、男がやって来た程度で四方や生命が害される事もあるまい。



そう、思っていたのだが。






キョウスケ「……………、」



サリア「…………………、」

以下5名「「「「「…………、」」」」」








キョウスケ「(………むう)」






別にキョウスケに他意は無かった。
いつまで経っても責任者らしき人物の姿が見えないので。
"偶然"近くに居たサリア以下5名に取り敢えず挨拶がてら基地司令の居場所でも訪ねてみるかとヘルメットを外したら―――。





―――男だあああああああああああああっ!?





と、まるで珍獣でも見つけたかのように叫ばれた。
挙句の果てには。




サリア「………………、」

固まられ。



クリス「はわ…はわわわわわわわわ…」

震えられ。



ヴィヴィアン「へー、ふーん…おおー…!」

ジロジロ見られ。



ロザリー「………は、初めて見たぜ………」

珍しがられ。



ヒルダ「………………へぇ~」

妖しい輝きを投げかけられ。



エルシャ「………………ポッ///」

ジロジロ…いや何か違うような。









―――お、"男"よねあれ多分…いや絶対…!
―――何で?何で男がこの基地に来るの?
―――ここ、"ノーマ"の施設なのに…。
―――本当に居たんだ、男って…。






―――ヒソヒソ…ヒソヒソヒソヒソ……。






他にも何か色々な感情が綯交ぜになった視線で、四方から射られているような感覚を味わい。



キョウスケ「……………、」



何故だろう。
別に法を犯したワケでも無いというに、この場に物凄く居辛い空気が立ち込めているのは気の所為か。
女所帯に男性である自分が紛れ込んでいるのが矢張り彼女達の不安を駆り立てているのか。

…いや。

原因はもっと別の…根本の部分から"自分"と"彼女"達の間で、何かが決定的に噛み合っていないような。

だが、今はそれを問うてるべき時では無い。



キョウスケ「…失礼、自分の顔に何か?」



キョウスケは諸々生まれた疑念をあえて身の内に押しやりつつ、話を進めるべく努めて冷静に声をかける。





サリア「―――はっ…?え?い、いいええ!!別に、別になんでもあり、ありま、あり…!」

ロザリー「(ガチガチじゃねえかよ…)」


普段見ることのない副長の姿に、思わずロザリーは額に手をやる。
緊張の余り声が上ずっているのがバレバレだ。



ヒルダ「(…………へぇ、"あの"堅物サリアがねぇ)」ニヤニヤ

エルシャ「失礼よヒルダちゃん、サリアちゃんだって乙女さんなのよ?」

ヒルダ「…口に出してないのに、人の思考を読むの止めてくんない?」

エルシャ「あら、ごめんなさい♪」テヘペロ









ヴィヴィアン「―――なあなあなあ、兄ちゃん名前なんてんだい!?」

サリア「な!ちょっ…―――ヴィヴィアン!?」





ある種空気の読めてない彼女の行動に驚く一同。
だが男(キョウスケ)はその勢いのある質問にたじろぐ様子もなく、ごく自然体で質問を返す。



キョウスケ「…そういう君は、ここの職員か?」

ヴィヴィアン「おう、アタシはヴィヴィアン!よろしくだにゃ!!」



言って、彼女はキョウスケの目の前に右手を差し出す。



サリア「ヴィヴィアン………!?」

ヒルダ「(あんの、ノーテンキ娘……)」



幾ら何でも気安すぎるその態度に、サリアの表情が真っ青に染まり。
ヒルダもまた眉根を潜めてヴィヴィアンを見据える。






…"男"が自分達"ノーマ"からの握手なんて、受ける訳がないだろうに…。




しかし。








キョウスケ「―――キョウスケ。キョウスケ・ナンブだ」ギュ…!





男は(無表情のままだったが)不快感を全く顕にせずにその手を握り返す。



サリア「え―――?」
ヒルダ「………は?」






―――どよ…どよどよどよどよ……!!


各々の予期せぬその結果に、周囲が重くどよめいた。






キョウスケ「(…何なんだ)」



自分からすればごくごく一般的な行動を取っているだけなのだが。
どうもそれが尽く彼女達の"ナニか"に触れてるようで…。



ヴィヴィアン「………、」



握手を受けている"ヴィヴィアン"と名乗った少女も、何故か呆けたようにこちらを見ている。
先程からこちらにおいて、全く話が進む気配が無い。



キョウスケ「(どうしたものか)」



などと、キョウスケが思案している所に―――…。















???「―――お前達、揃いも揃って何をやっている!!!」












甲板中に響き渡らんかという硬質的な、それでいて凛とした声。

それを耳にした少女達は、どよめきを一瞬にして止め。
奥の人垣を割るようにして中から現れたのは、憲兵を引き連れた…片腕に義手と思われるアタッチメントを装着した相齢の女性。



???「帰還後の自由はある程度許されているとはいえ、規律を乱す行いを推奨した覚えは無いぞ?」


全員「「「「「―――い、イエス・マム!!!!!」」」」」



統率性を多分に含んだ物言いに、瞳の奥に輝くは強い意志。
もしかしなくとも間違いない、自分の眼前に現れたこの女性こそが…。




ジル「―――さて。部下共が失礼したな、キョウスケ・ナンブ……中尉だったか。私がこのアルゼナル基地の司令官を賜らせて戴いている"ジル"だ」


キョウスケ「…キョウスケ・ナンブです。受け入れを感謝致します、司令」



手馴れた敬礼の後、キョウスケは差し出された"右手"を当然のように握り返した。



ジル「おや?義手程度では物怖じせんか?」

キョウスケ「…戦いの場に身を置く者としては、見慣れた物ですので」

ジル「フッ……そうか」



若き司令は何処か喜々としたように目線を細めるが。

それも一瞬の事。






ジル「中尉。貴官が何者であり、こちらもまた何者であるか、互いに説明を求めねばならない事は数多いが…その前に」



言葉をそこで打ち切った司令は、キョウスケの前に"あるモノ"を提示する。



キョウスケ「(……これは、何だ?)」



差し出されたのは白地に麻で編まれたごく変哲の無い…何処からどう見ても"唯のロープ"にしか見えないが。
一体コレを自分にどうせよと言うのだろうか。



ジル「何、別段私は難しい事を言うつもりは無いさ―――」






―――貴官はコレを、"手を使わずに結べるか否か"。
―――それを訪ねたいだけだ。





キョウスケ「(……???)」



司令からの謎の問いに、無表情が常のキョウスケが珍しく眉根を潜め当惑の表情を見せた。

出会い頭で、しかもこのような非常時にする質問にしては稚拙が過ぎる。



キョウスケ「(何かの符合か、まじないの類か?)」



しかし、いずれにせよ。






キョウスケ「…申し訳ありませんが、出来かねます」



ジル「―――なんだと?」



キョウスケ「ですから、自分にはそのような呪い師もどきのような力などは無い。と言っているのです」



これがタスク辺りならまた別だろうが(アレは手品の類だが)、少なくとも自分はそんな芸当は持ってない。

それがキョウスケ・ナンブという男の共通認識であり、己の価値感から導き出した正当な結論だった。






だが。

その一言が、決定的となる。









―――ザワ…ザワザワザワ……!





周囲から再びざわめきが、しかし今度は珍しさからではなくもっと別の。





―――何か、見てはならないモノを見てしまったかのような驚愕に彩られた表情で、こちらを見ている。





ジル「―――フッ」



司令もまた、喜色なのかそうでないのか妙な雰囲気で口角を釣り上げる。






キョウスケ「(…何だ?)」



周囲の空気が突如硬質化して迫るような圧迫感。
まるで、大勝負の最中にカードを開く直前で大負けを提示させられたような……。



キョウスケ・ナンブのその予感は的中していた。

尤も。








ジル「―――憲兵!至急この男を拘束せよ!!」バッ!!








気づいた時には、既に手遅れであったが。


タスク(かっぺー)「へー。お前もタスクって言うんだな」

タスク(宮野)「う、うん……。(誰だろうこの人?)」


第2話前半戦これにて終了となります。拘束されたキョウスケの運命や如何に。
それでは失礼致します。

スイマセン。なんやかんやあって遅くなりました。
…と思ったら沢山レスついてて楽しすぎて狂っちゃいそうになりましたヒャッハー!!
…いや、ほんとうに…。

本日分投下しますがこっから先日常…というかアルゼナルパートが続きますがご容赦願います。

>>リーゼ飛行~
飛行云々はレスにもある通り「短期間飛行出来る」のとジ・インスペクター等の媒体において「水面に浮いてる(ホバー)」移動を行っているので描写的にはそのように。
…っていうかゲームじゃ沈むのに…浮かせてよ…地形適応的な意味でゲフン。





キョウスケ「(―――まぁ、別に初めての事ではないが)」



情報部に拘束され尋問を受けるという経験がそうそうあって堪るモノでも無いだろうが。
最も、あの時はSRXチームの面々が主だったか…。



あっという間だった。
左右より銃を突きつけられては幾ら何でもどうしようも出来ず。
引き摺られるようにして連れて行かれた先は―――。






―――アルゼナル基地。
―――独房。



キョウスケ「…………、」



取り付けられた簡易式ベッドに横になりながら、目を閉じ、何がどうなっているのか状況を整理する。



キョウスケ「(―――"ノーマ"に―――"ドラゴン"、か―――)」



ここに入れられる直前に、ジルと名乗った基地司令が幾許かこちらに話した"この世界"特有の単語。
どれもキョウスケにとっては耳慣れないモノであり、"ここ"が自分の知る地球ではない"何処か"というのは確定であろう。



キョウスケ「で、あるならば…」



これから先どう動くか、考えを纏めたいが情報が少なすぎる。
"惑星エリア"の時とはまた状況が違う。
己の存在がこの世界でどういった意味と立場を持つのか、情報(カード)を切る瞬間さえ計りかねているのだ。



キョウスケ「(…いかんな)」



こういった空気は好ましくない。
相手の手札が判らないというのに安手で大勝負を仕掛けるようなモノだ。
とにかくも、こういう時は…。



キョウスケ「……………………寝るか」



動けぬならばいっそ事態が動くまで動かぬのみ。
半ば開き直りのように呟き、本格的に思考を切り意識を暗闇に沈めようとして―――。





…………ッ…………ッッ………。



キョウスケ「(―――む)」



視覚を閉じた彼の耳に、"ソレ"は確かに聞こえてきた。



………ッ…ぅぅ…ッぅぅ……!



蚊の鳴くような、か細い声…これは…。

泣いているの、か?



……ぅぅぅ……ぉとぅ……さ……!



キョウスケ「……………」



先約が居たのか。
どういった事情でここに入れられたかは知らないが。


……ぅぅぅ……ぅッ……ぅぅ……!


キョウスケ「(…………ふぅ)」


声をかける訳にもいかずに。
格子窓から漏れる月の光と何者かのすすり泣く声を背景にしながら。
キョウスケ・ナンブは溜息を付きつつ惑星エリアからこちら、久方ぶりの眠りにつく事となった…。




そして。

この世界での、最初の夜が明ける。


―――……。
―――…………。
――――――………。



―――アルゼナル基地。
―――幼年部、教室。






教員「…………以上です、皆さん解りましたか~?」





子供達「「「「「「―――は~い!!!!」」」」」」




年の瀬は2桁に届くか届かないかであろうか。
規則正しく並べられた机にノートを広げ、教鞭を取る女性職員の問いに答えるは年端も行かぬ少女達。





教員「はい、とてもいい返事ですね~!」

教員「今皆さんに見て頂いた通り、我々の世界に侵略してくる―――」



教員が手元のボタンを押す度、教材となっているテレビモニタの画像が目まぐるしく変わる。
桃色、青色、緑色、紫色…。

カラフルな色を基調としていながらも。

長い翼、或いは首、手があるモノ、羽と一体化しているモノ…。

これは生物の授業だ。

ただ、学ぶのは普通の生命体では無い。



教員「"Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes"。それぞれの頭文字を取って―――」









―――ドラゴン(DRAGON=次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物)。








教員「これらが、我々"ノーマ"が打ち倒さなくてはならない"敵"です」

教員「ドラゴンが何故、どうして、どのように我々の世界を侵略するのか…その理由は今を以て明らかになっておりません」

教員「ですが、"ノーマ"である皆さんがソレを考える必要はありません」

教員「何故なら―――」




―――ノーマは"マナ"に適応しない、

―――反社会的で不要であり、悪であり異物なのです。

―――よってノーマに生きる価値はありませんが、ドラゴンと戦う兵器としてでのみ価値があるのです。




教員「……宜しいですか、皆さん?」






子供達「「「「「「―――は~い!!!!!!」」」」」」







―――"マナ"。



気の遠くなるような進化の果て。
人類は"マナ"という、物質に干渉する特別な力場のような超常的な力を手に入れた。
それらは日々の生活においての補助だけでなく、マナを扱う人間同士によるコミュニケーションすら行う事が出来。
これにより人類は富む者が貧ずる者から搾取するという旧世代のような悪しきシステムから解放され。

エネルギー問題や食料、果ては宗教に端を発する戦争全てを"行う必要が亡くなった"人類はそれらに対し必然的に終止符を打つ事となり。

世は平和の二文字に包まれ、今日に至るまで人々は争いの無い、穏やかな時を日々享受している。


…"表向き"、は。






―――"ノーマ"。



一見して平和に見える人類であったが、その全体の一定量に"バグ"のような異物が見られたのだ。
肌の色や瞳の色、果ては人種に至るまで、全く関係無く抗いようのない病原菌のように"ソレ"は生まれ出でた。

外見は普通の人間=マナ使いと同じではあるのだが。

決定的な違いがあった。



―――"マナが使えない"。

―――或いはマナそのものに"適応しない"。



原因は不明。
遺伝によるものなのか病気によってなのか定かではないが。

マナによるシステムを構築してきた昨今の世界において、このことは正しく人類の根底を揺るがす事態であるとされ。


ある時何者かが。
こう提言した。



"マナに適応しないモノが生まれ続けるのであれば、いっそソレらを隔離してしまったらどうだ?"と。


月日が経つと、普通の人間―――マナ使い―――はそうしたモノ達を忌み嫌った。
社会をに適応しない生き物それ即ち。


欠陥品。
化物。
社会の屑。


エトセトラエトセトラエトセトラ…。
そういった言葉と行動により生まれたモノ達への差別用語こそが"ノーマ"という単語であり。

ノーマの烙印を押されたモノ達の隔離施設であり利用価値を見出す為の再利用所として…。

または侵略者たちを排除する、そのものずばり"駒"として…。





ジル「………この"アルゼナル"が創られた。理解して頂けたかな―――」

ジル「―――中尉?」

























キョウスケ「………………………………………………………………………………………………………ええ、"とてもよく"」








ジル「それは何よりだ」


キョウスケ「………………………。」








満足そうに肩を竦める基地司令を尻目に。
教室の最奥で、子供達と同じように席に座ったキョウスケは。
飽くまでも無表情で。




教員「――――――、」


子供A「―――キャッキャ」
子供B「―――ハ~イ!!」
子供C「―――エ~ット…」




和気藹々と授業に勤しむ教師と生徒を見やる。
どこからどう見ても微笑ましい教育活動の一旦に思える。

だがその内容は…。


"自分達はただの駒であり、人間ではない"。


その真の意味を、果たしてあすこで手を挙げている子供達の何人が理解出来ているというのだろうか。





キョウスケ「(……成程な)」



ココとミランダという新兵を送り届ける時、キョウスケはこの基地を"牢獄"みたいだと感じたが。

その理由はコレだったか。

いや、

生まれ落ちた瞬間…人間としての生か、兵器として使い潰される緩やかな死か。

その二択が必然的に確定してしまう世界。


前者として生まれ落ちた人間は、運が良かったという事を露程にも考えずに後者を平然と死刑場に送る。

ただ、マナという力が"使えない"。

その一点のみで。




…ある種ここは。



"牢獄以下"だな。





キョウスケ「(…………などと、言えた義理では無いか)」



臍を噛みつつ、思う。
自分達が居た世界でも、似たような差別や迫害は確かに存在していた。



―――コロニー育ちというだけで何もかもを迫害し、あまつさえテロに見せかけ虫けらのように虐殺し。

―――自らを生かす為だけに下々の者を平然と侵略者に売り渡し。

―――或いは己の好奇や知識欲を満たす為だけに生命を弄り回し。

―――ゲーム感覚で容易く人殺しに興じる。



全て人間が、同じ人間対して行った事だ。

しかし。
そんな世界の出ではあるが。


何も心に覚えるモノはないのかと問われれば…。






子供A「―――せんせ~!しつもんで~す!!」


教員「はい!なんでしょうか?」


子供A「"のーま"っておんなのひとだけしかうまれないんですか~?」


教員「とてもいい質問ですね!その通りです、"ノーマ"は有史以来 女 性 特 有 の症状として現れて―――」


子供A「じゃあ―――」










―――"あのひと"はなんですか~?








少女の指差す方向には。





キョウスケ「……………………む」





真っ赤な服を来た生徒1名(成年男子)。





教員「…………………………………………ええと」



饒舌に話していた教員も、キョウスケの姿を確認した瞬間言葉を濁した。



教員「(できるだけ、視界に入れないようにしていたのに…)」



ぶっちゃけ言うとこっちが聞きたかった。
突然司令が。



ジル「―――邪魔をする」



って連れてきたモノだから何も言えずに授業進めてたけども…。
男の人にも見えるが―――っていうか絶対男だろう―――ここ(アルゼナル)の新しい職員なのだろうか。…でも男だし。
昨日から基地内部が随分騒がしかったようだが何か関係しているのだろうか?(←内勤で"その時"は不在だった)



教員「(もしかしてノーマ…いいえそんな訳無いわ歴史で習ったもの男性のノーマなんてそれこそ前代未聞よ…!)」



これもまた原因が全く判明していないことだが。
"ノーマ"と確認されたモノの中で、男性体はこれまでの人類の歴史の中では"ゼロ"…唯の一人も居ない、という事になっている。





教員「(嗚呼、聞いてみたい…司令は何も言ってくれないし…でもでも安易に訪ねたりなんかしたら私の教師としての威厳が…!)」



云々かんぬん悶えていると。



子供A「あのう…あなた…も、のーまなんですか~?」



という子供の無邪気な質問に。



キョウスケ「…ああ。"この世界"の定義に照らし合わせるなら、そうなる」



然程躊躇わずにイエスと答える、男。





―――ざわわっ!



俄かに教室はざわめき、それを静止する筈の教師もまた目を白黒させながらこちらを見る。

…甲板での"あの一件"と同じように。



キョウスケ「………………………。」



今再び好奇の視線にさらされながら、漸くに得心がいったと心の中で頷く。
何故逐一自分の行動が彼女達の関心を寄せたのか。

こんな環境ではさもありなんだろう。

男が珍しいというよりも、下手をすれば"男という生き物と触れ合ったというそれ自体"が異例中の異例となるのだから。


しかし。



キョウスケ「(………………ふぅ)」



原因が解ったからと言って、それに慣れるかどうかといえば全くの別である。
キョウスケは相も変わらずざわつく教室の中心で、人知れず溜息をつく。
そして。





子供A「せんせ~!のーまのおとこのひとってほかにもいるんですかー?」

子供B「せんせい!わたしたちまちがったことおそわってたんですかー?」

子供C「せんせー!のーまって―――」



―――せんせー!せんせー!!せんせー!!!



教員「いや…あの…その…み、みなさん落ち着いて………!」




最早完全に授業の体を成していない子供達からの質問攻撃に教員も涙目になりながら応対し。






ジル「―――さて、出るか中尉」

キョウスケ「…宜しいのですか?」

ジル「夕刻まで子供に混じって授業を受けたいというのであれば止めはせんが?」

キョウスケ「……いえ、もう十分です」



少なくとも、こちらが知りたい情報は得られたのだ。
教師にはまあ……気の毒には思うが。






ジル「では行こう。悪いが時間が惜しいのでな」

キョウスケ「……………………。」



この司令に良いように転がされている気がしないでも無いが、仕様がないのも事実。
喧騒をそのままにして、教室を立ち去る"3つの影"。

基地司令ジルと。
ジルに牽引されるキョウスケと。

その後ろより一定の距離を開けて付いてくる、眼鏡と特徴的な白帽子を被った…。



眼鏡の女性「……………、」

キョウスケ「……………。」

眼鏡の女性「……………、」ジ~ッ




キョウスケ「…………何か?」



眼鏡の女性「………………。」

眼鏡の女性「―――フン!」プイッ




キョウスケ「(………何なんだ?)」






まあ大方の察しは付くが。
それにしても。


通りすがりA「―――ちょっと、見てよ"アレ"」

通りすがりB「"アレ"って例の…?」

通りすがりC「アタシ甲板に行けなかったのよね~」

通りすがりD「ウワサじゃ私達と同じ"ノーマ"だって…」

通りすがりE「バッカ!んなわけないじゃんウワサよウワサ…!!」

通りすがりF「でも司令は兎も角態々"管理官"が付いているし―――」




―――ヒソヒソ…ヒソヒソヒソヒソ…!!




見かければ即耳打ちやら指差しやら。
これで何度目か数えるのも億劫になった。



キョウスケ「(まるで、猿回しの猿だな)」



自嘲気味に思い。
そして、それでいて…。






キョウスケ「(…はぐれものは、こちらも同じか)」







この世界での己の立ち位置を、嫌と言う程理解した瞬間でもあった。

以上です。今回は「キョウスケ君の歴史授業」となっております。
しかしこうして教育風景を箇条書きにしてみるとつくづく狂ってやがる!…とはいえ統制された世界だとそう(ノーマ=モノ)考えて当然になっちゃうんでしょうなあ…。

次回は「キョウスケ、お披露目」回となっております…やばい思ったより長くなりそうだ…早くアンジュ出したい…今回少し出たけど…。
ヴィルキスもこのままだと倉庫で風化しちまう…。

それではこれにて。




アンジュは掘られた直後だったのか( ゚д゚)

ちょっと煮詰まり中…。近日中には少しだけでも上げられれば。

>>156
あ、すません時系列的には「2話後半」―――(ここでキョウスケが来る)―――「3話前半」ぐらいとなっております。
誰とは言いませんが「独房に入れられているヒト」は敵前逃亡+戦闘妨害+機体大破+(他人の)生命危機その他諸々のコンボで謹慎中です。

後初期ということもあって純粋に泣きながらクサクサしているだけという…ホント、解りづらくてすんません…。

本日分アップ…あーでもホント進まない!ここを越えれば少しはマシに…いや微妙だなあ。






―――単刀直入に言おう、中尉。貴官の力を、我々に貸しては貰えんだろうか?

―――無論、"ただで"とは言わんさ。

―――この基地…「アルゼナル」の施設は世界で有数の軍事技術の粋が集まる…"皮肉なこと"に、な。

―――スタッフも優秀な人材を揃えている。

―――貴官の機体の整備補給は全面的に請け負おう。そして…。

―――貴官が望むのであれば、我が方の世界の情報は全て受け渡そう。








―――如何だろうか、キョウスケ・ナンブ中尉。







早朝、独房から憲兵に起こされ連行された先の司令室にて。
ジルと名乗った女性司令官は、出会い頭にこう言った。



キョウスケ「………」



心の底からと思しきモノでありながら、何処か有無を言わさぬ強い意思をも孕んだその言葉。

己の存在自体がこの世界において、特効薬となるかはたまた劇薬となるか未だ計りかねている為に直ぐにその場で返事というワケにはいかなかったのだが…。



キョウスケ「(確かに、コレではな…)」



先のあの言葉には言外に「必ず自分は協力する事になる」という確証が滲み出ていた。
最初は洗脳の類を疑ったりもしたが、先刻の教室での授業に混じった時…漸く得心を獲た。








―――キョウスケ・ナンブは何の力も持たない「極普通の人間」である。






しかし、それは"自分の世界"での定義であり…ここでは"全く違う"。
この世界の法に沿って照らし出されるのであれば、自分もまたここで言う所の…"ノーマ"に他ならない。





…即ち是れ、"人間ではない"という事になる。






そんなモノが外界をウロついていたとして、素直に救援を受け入れてくれる国や地域が果たしてどれだけあるというのだろう。
先程の授業内容を鑑みるに、恐らく可能性はゼロに等しかろう。


それ程までに、マナ使いとやらとノーマの間にある溝は深く、仄暗い感情を感じさせられた。




況してやこちらはPT(兵器)持ち。
下手をすれば国一つが丸々自分の敵となる可能性とて存在するのだ。



唯でさえアルトが完調ではない現状でそんな事になれば…余り考えたくない事態になるのは明白だ。





キョウスケ「…………。」



思わず頭に手をやる。

簡単に言うのであれば。



情報を求めるにしても元居た世界に帰るにしても何にしても、自分はここ(アルゼナル基地)に寄り添うしか端から選択肢が無いという事だ。


そして、行き場が無いというのであれば、当初の司令官の条件を受け入れるしかなさそうという事もまた必然か。


如何ともし難い情報が次々に舞い込み、頭痛を覚えそうになるが。







キョウスケ「(敢えて火中の栗を拾うという選択も有り、か)」










ジル「……………………、」コッコッコッ…

キョウスケ「……………、」カツッカツッカツッ…





眼鏡の女性「……………、」オソルオソル…





無言で廊下を歩みながら、思う。
次に連れて行かれる場所は自分には解らないが。
落ち着いた所で司令にはこちらの決意を伝えた方が良さそうだ。


そう、キョウスケは取り敢えずの断を下したのだが。


このすぐ後。







ソレが全くの無意味であったという事を、彼はつくづく思い知らされる事になる。



―――アルゼナル基地。
―――食堂。





―――キャッキャッ…!!
―――キョウノメニューハァ…
―――ヤダ~バッカデ~!





いつの世の中も、人の心を解すのは美味しい食事と良く言ったモノであり…。



時刻は昼過ぎ、アルゼナル基地の一角に設置された食堂では。
ある者は空腹を満たし、またある者は退屈を紛らわせる為に仲間とお喋りに興じていた。

ここは生を縛られたノーマが自由を許される、数少ない場所であった。


そこに。





―――全員、傾注!!






活気とはまた違う、猛声が鳴り響いた。




それを耳にした途端。





少女達「「「「「「―――――――――!!」」」」」」ッバッ!!





食事を造る手、食べる手を止め。
和気藹々としていたた笑顔をキリと引き締め。


全員が食堂の中央に集まった。


遅れた職員は誰一人として居ない。
それもその筈、声を張り上げた人物は他でもない。




ジル「―――ふむ、取り敢えずは揃っているようだな」


眼鏡の女性「……の、ようですね」メガネクイッ



自分達を束ねる階級者二名。



…ん?






キョウスケ「…………………。」




否。

正しくは、+1名。
なのだが。



少女A「(……ねぇねぇねぇ?もしかして噂の"アレ"って…アレよね?)」ヒソヒソ

少女B「(あんたね、こういう場合は"カレ"って単語を使うのよ)」ヒソヒソ

少女C「(基地司令と…あれって"エマ管理官"よねぇ?)」ヒソヒソ

少女D「(司令と管理官は兎も角…何で男?)」



指令の傍らに居たキョウスケの存在を確認した途端。
先程までの規律全とした態度は何処へやら。

皆こぞって疑問を口々に、小声で伝え合う。




―――ヒソヒソヒソヒソヒソ…!!




が、如何に声量を絞っていようとも次々に波及する音は次第に重なり合い、大きくなってゆく。





ヴィヴィアン「(ここでク~イズです!しれーかんは一体ここに何をしに―――むぐぐ)」モゴモガ

サリア「(…司令の前よ、控えなさいヴィヴィアン)」ヒソヒソ

エルシャ「(でも本当に何をしに来たのかしら。ええっと…確か…)」ヒソヒソ


ヴィヴィアン「(―――"キョウスケ"!キョウスケ・ナン…むぐぐぐ!)」

サリア「(だ・か・ら!今は叫ばないでって言ってるのよ!…後その物言いすっっっごく馴れ馴れしいわ)」グギギギギ…

エルシャ「(あの…サリアちゃんもうその辺で…)」



集団の中にはサリア以下パラメイル第一中隊の面々の姿もあり。



ロザリー「(……………。)」ウ~ム

ヒルダ「(…何やってんの、アンタ…?)」


ロザリー「(い、いやなんつーか。アイツ仏頂面だけどなんかこう、いい顔してんな~って…)」デヘヘ

クリス「(そういうの、雑誌で見たことあるよ。確か…"イケメン"ってやつ?)」ヒソヒソ

ロザリー「(そうそう、ズバリそれだぜそれ!イケメン!)」

ヒルダ「(……そぉ?確かに悪かない顔だけどムッツリしてて何考えてるかわかりゃしないわよ、アレ)」




各々が好き勝手な評価を彼に対して下している最中。
その渦中の人物はというと…。





キョウスケ「………………。」



彼にしては本当に、本当に珍しく。
どこか、遠い目をしながら事態の行く末を見つめるしかなくなっていた。

突然このような場所に、訳も分からず連れて来られたのだ。
どう発言しどう動いたものか、それさえも掴めぬこの状況。




キョウスケ「(一体、何を始めるつもりだ?)」



―――ザワザワ…ヒソヒソ…!



喧騒は留まる事を知らず、最早第三者であるキョウスケの視点からでも緩んだ空気が如実に感じ取れている始末だ。






キョウスケ「……………、」チラリ



両隣を見やれば。



眼鏡の女性「…………、」ビキビキ



不快感を隠そうともしない眼鏡の女性(確か、道行く"人間"からは"管理官"と呼ばれていたか?)と。



ジル「……………。」



意外にも、ジルの方はこの事態を積極的に止めようとする動きを見せず…。



ジル「――――――、」チラッ


キョウスケ「(…何だ?コチラを見た…?)」



ほんの一瞬であったが、何故かソレだけで。
本能的な"嫌な予感"が背筋を這った。

具体的には、




"不具合が起きやすい欠陥機に無理矢理乗せられて「空を飛べ、そしてほぼ失敗するが空中変形を試せ」"。




などと宣われた時のような…。


そして。








ジル「―――諸君らの中にはもう見知っている者も居るかと思うが…」





唐突に、基地司令は喧騒の中声を響かせた。
静かな、それでいて透き通るようなその声は、瞬く間に食堂全体に響き渡る。





全員「「「「「――――――、」」」」」





同時に食堂内のほぼ全員が無言となり、司令の次の言葉を固唾を飲んで待つ。



ジル「この男…"キョウスケ・ナンブ"は種々の検査の結果……」












―――我々と同じ"ノーマ"である事が判明した。














刹那。










――――――ピシッ!!!!










食堂全体の空気が凍りついた。














ジル「よって、彼は本日付で我がアルゼナル管轄のノーマとして所属される」

ジル「…各自、"ノーマ"らしく先哲の礼節を持って受け入れるように」



ジル「…以上だ」





キョウスケ「……………………。」


……………―――何?

今、何と言ったのだ?








ジル「(カチン!シュボッ!)……………フー」



キョウスケの視線なぞ何処吹く風か。
言うだけ言った司令は一本だけ取り出した煙草に火を点け、それを無表情のままで吸い始めた。







キョウスケ「…………………。」

管理官「……………………。」


少女達「「「「「「………………………………。」」」」」」



ジル「…………………プハー」



時が止まった世界で、煙草の煙だけがゆらゆらと浮いて行き…。




―――――――3。






やがて。



――――2。



ギリギリまで引き絞られた糸が切れるように。



少女A「…………い」

少女B「……………………い」

少女C「……………――――――い、いいい…」



この場にいる、ほぼ全員が。





――1。










少女達「「「「「「いぃぃぃぃぃいやっっっっっっったあああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!」」」」」」















―――感情を、爆発させた。















キョウスケ「……………………………………………………………。」





少女A「男よ!正真正銘男が来たのよ!!」
少女B「しかも私達と同じ"ノーマ"だなんて!!」キャアキャア!!

少女C「でも男のノーマって居ないんじゃあ…?」
少女D「そんなことどうでもいいじゃない!!これから一緒に暮らせるのよ!!」

少女E「お、男の人って私達とどう違うんでしょう…?」
少女F「ねえ、アンタ聞いてみなさいって!」
少女G「やぁだ!私そんな事言えない~!!」




―――ワイワイ…!ガヤガヤ…!ギャアギャア…!!







管理官「…………げ、下品な……これだからノーマは……!」ワナワナ


キョウスケ「(…ノーマだとかそういう問題では無い気がするが)」



さも汚らわしいモノを見るかのように肩を戦慄かせる管理官に、他人事のようにキョウスケは(心の中で)ツッコんだ。
女三人寄れば姦しいと書くが、これは最早そんなレヴェルでは無かった。



ジル「…………スー」



そして惨状を作り出した張本人はと言うと。
相も変わらず紫煙を燻らせつつ、横目でキョウスケを見遣り。












―――ようこそアルゼナルへ。
―――キョウスケ・ナンブ中尉。









いけしゃあしゃあと、のたまった。








キョウスケ「…………………。」




ああ、成る程。


つまりだ。


自分はまんまと。







キョウスケ「(―――ハメられた、という訳か…)」








―――ねえ、誰か話しかけなさいよ!
―――やだ怖い!アンタが行きなさいよ!
―――じゃあ私が…!
―――駄目に決まってん(だろ!)(でしょ!!)




今にもこちらに襲いかかって来そうな程の威圧感を肌でビシバシ感じつつ。
一先ずは無言を貫くしか、今の彼には手札が無く…。




キョウスケ「(…こんなザマは、"アイツ"には見せられんな…)」




半ば現実逃避気味に。









"ここ"ではない"どこか"に思いを馳せ始めた。





―――???






―――ふ、ぅ…えっくしゅん!!





???1「……あらん?もしかしてダーリンからのラブコールだったりとかして♪」グシュッ


???2「少尉…幾ら中尉が恋しいからって妄想に耽るのはどうかと…」


???1「…ちょいと、それどういう意味?」


???3「お疲れでしたら、特製ドリンク持ってきますけど…?」


???1&2「「―――いえ、結構です」」





???3「(今度のは絶対美味しいのに…)」シュン




本日はここまでです。おめでとう中尉、おめでとう(白目)。

未だ話の途中でイベントは全部終わってないのですが―――。


【―――ロザリーポイントが+1されました―――】ピロン♪


こんな風に物語終了時に各キャラクターのポイントやイベントトリガー等を加算していきます。
今回はロザリーですがコレは特に恋愛に直結しているとかそういうのではありません。

具体的には某サリアンなどはコレを積み重ねていくと…?
俗に言う【ifルート】に突入します。まぁゾーラ隊長が存命している時点で十分ifルートなんですけどね…今はね、今は…。

それではこれにて。

本日分投下しますー。まだですまだ戦闘シーンじゃないんですよねぇ、オネガイデスイシヲナゲナイデクダサイ。

―――アルゼナル基地。
―――食堂。












―――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ…ン!!!











ジル司令官よりの衝撃発言に、今や食堂内部は。










―――一度も男と出会う事もなく人生終了と思ってたのにい!!ヒャッハー
―――これってアタシにもワンチャンあるってコトなの!?神様信じていいの!?
―――アタシ今体温何度あるのかなァーっ!!!














興奮のるつぼと化していた。








キョウスケ「…………………………………………。」





最早暴動一歩寸前までにヒートアップした集団に対し。
矢面に立たされているキョウスケには打てる手段は何も無い。


事態の収拾を願えるのは両隣の人物達なのだが…。



キョウスケ「…………、」チラリ



管理官「……………ッ」タジタジ



勢いに気圧されており、全身から「こりゃダメだ」オーラが滲み出ている。
ならば残るは司令官のみであるが…。



キョウスケ「(……む?)」


ジル「…………、」ゴソゴソ



見れば既に吸い終わった煙草を握り潰し、何やら懐に手を入れているようだが。








キョウスケ「―――! ……管理官」


管理官「―――あ、へ…はい!?」



その動きに何かを察知したキョウスケは傍らの管理官に。



キョウスケ「…"耳を塞いだほうが宜しいかと"」





と、言ったが早いか遅いか―――。








―――ド ン ! ド ン !! ド ォ ン!!!




喧騒を砕くように、連続で放たれた轟音に。





少女達「「「「「――――――ひいっ!?!?」」」」」」





少女達は身を強ばらせ。





管理官「~~~~~~~ッッッ!!」キーン!!



管理官はあまりの事にジンジンする耳を押さえ。





キョウスケ「……………………。」



既の所で間に合ったキョウスケは耳から手を離した。







ジル「……………………………………………、」




司令官は―――未だ煙を噴いている―――手に持った拳銃を全員に見せびらかすように突き上げ。
口角のみを歪めた笑顔を少女達に向け、一言。



ジル「喧しいぞ、貴様ら?」ニッコリ



少女達「「「「「「―――い―――」」」」」」









―――イエス!!!マム!!!!!!―――









キョウスケ「………………。」



統率力、と言ってしまって構わないのだろうか?
兎に角強引にもこの場の全員を黙らせた手腕に、胸中ですら何も言えなくなった。



ジル「全く揃いも揃ってだらしのない…」フゥ


キョウスケ「(そうさせたのはそちらだと思うが)」


ジル「第一、だ。貴様ら何か勘違いをしているようだから言っておくぞ?」



少女達「「「「「――――――???」」」」」






ジル「中尉と×××な関係にあわよくばなろうと考えているのならば…全くの無駄だ」


管理官「…ば、ば、ば……×××……!?!?」ワナワナ


キョウスケ「(身も蓋もない物言いだな)」



だが、自分を強制的にせよここへと収容するからにはそういった問題はついて回る(キョウスケ自身は微塵もそういう危険は無いと考えているが)。
それが"全くの無駄"と?一体どういう事だ。



キョウスケ「―――!(まさか…)」






思い当たる点が一つあった。

それは―――食堂に到着する少し前の事…。




―――アルゼナル基地。
―――医務室。






???「まさかこの歳になって男の身体に触れるなんてねぇ~…役得役得」


キョウスケ「……………」



頬に赤みが差した女性がテキパキとした動作でキョウスケの肉体に触れ、脈拍その他のデータを収集して行く。
最初はその赤みは羞恥から来るモノと思っていたが。
軽い口調で喋る度、口中から漂うアルコール臭…明らかに医療用のソレではない独特の臭気。

医療従事者としてソレはどうなのだと考えるかもしれないが、周りに居る者は誰一人として気にも留めていない。
きっとそれが彼女…アルゼナルで唯一の医師である、"マギー"にとっての普通なのだろう。






マギー「ほぉら~今度は注射の時間だよ~。血が吸われてくねぇ~、真っ赤だねぇ~、痛い?痛いかい??」ワクワク


キョウスケ「…………いえ、特にはこれと言って」



実際に、針が沈んだ箇所は殆ど痛みを感じない。
掛け値なしに良い腕だというのが解る。



マギー「…………何だ、つっまんないの」



思った事をそのまま口にしただけだったのだが。
どうにも女医はその反応がお気に召さなかったようだ。

キョウスケの鉄面皮に嘆息したマギーは、採取した血液を直ぐに机の上に置かれた器具に注いで行く。





ジル「…どうだ、マギー?」


マギー「んー……各種病気の羅患は無し…健康そのもの。としか判断付けられ無いねえ、ここでは」


ジル「…そうか」



それは然したる問題では無いとして。



ジル「マギー、頼んでおいた"例のモノ"は出来ているか?」


キョウスケ「(……例の?)」



殊更に強調された、その一文が妙に引っかかった。





マギー「…まあ、出来てるっちゃ出来てるけどさ…アンタも良くやるよ、全く…」ブツブツ


キョウスケ「(何だ?)」



ぶつぶつ呟くマギーが懐から取り出したのは黒色の…直径数センチ程しか無い"輪っか"だった。
一見して何の変哲も無い唯の円状のモノに見えるが…。



ジル「中尉、左右どちらでも構わんからコレを手首に取り付けて貰えまいか?」


キョウスケ「………一体これは?」


ジル「何、唯の脈拍を測る機械だ。何処にでもある極有り触れた、な」


キョウスケ「…………………、」



脈拍を測る?今測定し終えたばかりではないのか。
それともコレでやらなければならない理由でもあるのか?





ジル「…どうした?付け方が解らないとでも?」

ジル「それとも優しく取り付けて貰うのが趣味かね?」



言外に「はよ付けろ」と急かしてくる。
流石にこの状況で強く拒否する事も出来ず。



―――カチリ。



言われるがままに、右の手首にバンドとして取り付けたのだった…。



―――。
―――………。
―――……………。






キョウスケ「(あの時に付けたコレか…)」


ジル「(―――フ)」



チラとリストバンドに向けた視線に対し。
ジルは流し目で「その通りだよ中尉」と肯定した。



ジル「中尉の右手首に取り付けられた物体は唯のアクセサリでは無い」

ジル「常に中尉の脈拍をリサーチし、ある種の状態…言ってみれば過度の興奮を覚えた瞬間…」




















ジル「―――ボ ン !と爆発する仕組みになっている」














―――ザワザワザワザワザワザワザワ…!!



余りの言葉に、周囲が今一度さざめいた。
それにも構わず、司令官は言葉を締めくくる。





ジル「―――これも基地内の規律を重んじての判断と理解して頂きたい」

ジル「…血に塗れてもいいからまぐわいたいというのであれば話は別、だがな……」









―――シ~ン………。





水を打ったように静寂に包まれる食堂内と。




キョウスケ「………………。」



瞳を閉じ、何事かを思案するキョウスケ。
色々と仕組まれ、思う所が無いワケでは無いが…。

ここまで周到だと、いっそ清々しい。

要は基地の規律を乱す行為をしななければ害は無いとの事、それならば特に問題は無い。


つう、と。
キョウスケは左手で懐に忍ばせた"貴金属"をなぞり。
決心したように瞳を開く。

同時に。



ジル「ではこれにて総員解散とする!!」






―――イ、イエス・マム!!!!!!―――




諸々の感情の渦を置きつつ…集会は終了した。


そして。



ジル「―――"サリア"は居るか!」



―――は、はい…!!



司令に呼ばれ、食堂奥から顔を出す青い髪の少女…。



キョウスケ「(………あれは)」



自分がこの基地に来た時に顔を見せた…。






サリア「―――お呼びですかジ……司令!」




ジル「お前に辞令を通達する」

ジル「中尉はこれよりパラメイル第一中隊預かりとする。アルゼナルの流儀をきっちり教育しておけ」



サリア「…は!?い、いえその、…しかし…」

サリア「―――、」チラッ


キョウスケ「…………?」



ジル「ゾーラは負傷中の身だ。よって必然的にお前が第一中隊の最上位指揮官となる…何か不都合でもあるか」


サリア「………い、いえ……命令とあれば…従い、ます…」




ジル「ならばいい―――中尉」

ジル「彼女は"サリア"……貴官がこれから所属するパラメイル第一中隊の副長だ」







キョウスケ「…副長?」



という事は部隊でのナンバー2に等しい存在という事になる。
歳は自分よりも遥かに若いように…いや。


戦士として戦う人間に、年齢や性別など然したる問題では無いという事は。


様々な戦いを経た、己が一番良く解っている。


故に。




キョウスケ「宜しく願います―――サリア副長」






敬礼し挨拶を述べ、右手を差し出す。
今の己が出来うる限りの、最上級の敬意であった。

しかし。



サリア「………………、」


キョウスケ「(……………む?)」




どうした事か、差し出された手を前にして青髪の少女が固まっていた。
何か、知らぬ間に無礼でもしてしまっていたのだろうか。
始めて顔を合わせた時もこうであったような。






ジル「………………サリア、中尉が困っているぞ」


サリア「…………へ?……あ、……す、すみません!よ、宜しく、お願い、します……」



途切れ途切れに返答し、恐る恐るといった感じに…手を握り返す。



サリア「………………、」ニギニギ



若干、頬が赤いように見えるのは気の所為か?



サリア「そ、それでは…隊の皆を紹介す…します。ついて来…来て、下さい。………"中尉"」


キョウスケ「……了解しました、副長」




ギシギシと、壊れた発条人形のように不自然な動作で誘導するサリアと。
特に指摘する事もせず、粛々とその後に続くキョウスケ。

傍から見ればどちらが上の階級か解ったモノではない。





ジル「…………あの、馬鹿。色気づきおってからに」



誰にも聞こえないようにポツリと呟く。
この環境では無理無き事かもしれないが、それで手心を加えられる程我々の"計画"は生易しい物などではない。


さて。
これで中尉に首輪は付けた。

手駒が増えるに越した事は無い、後は…この行動が吉と出るか凶と出るか、だ。



ジル「――――――、」フー



もう一本煙草に火を入れ吸う。
揺らめく白煙の向こうに怨敵の存在を見据え。

そう、全ては。





神気取りの支配者をその座から引きずり落とす為の……。






―――あ、あの~。司令……。



ジル「……………?」


少女A「……お気持ちよくお吸いになっている所恐縮なのですが、食堂は全館禁煙でして……」



ジル「………………。」

ジル「…………そうか」



未だ大分吸い口が残っているソレを口から離し。


―――グシャリ!


義手部分で種火諸共握り潰す。



少女A「ひっ………!」


ジル「以後、気をつける」





豪快な行動に慄く少女職員だったが、別段ジルは怒ったワケではない。
ただ。



ジル「(ままならんモノだな、どうにも―――)」



遅々として進まぬ"計画"も。
いずこかへ雲隠れした"騎士"の行方も。
未だ倉庫の奥で乗り手が不在となっている"アレ"の存在をも含めて。





何もかも。
この世は何一つとてままならない事ばかり。



すいません、ちと中断します。
続きは本日中には必ず。

相も変わらず上司に恵まれない男、キョウスケ・ナンブ。

再開します。お待たせしてすみません。

>>過度の興奮~
何処かの発言かは忘れたのですが、某テラーダさんによればエクセレン関係以外でキョウスケの心臓はどうにかならない~みたいな旨があったので、それを組み込んでみました。

後、戦闘その他による興奮と性的興奮における差異は一応あるようでして、ただ、どの道鉄の心臓なんで危険性はほぼゼロとなっております、「これ」は。





―――おお来た来た!ヤッホー、キョウスケ~!!




食堂奥のテーブルから勢い良く飛び出した少女は、一目散にキョウスケの下に駆け寄り。




―――クイズです!あなたの目の前に居る私は一体誰でしょうか~?



キョウスケ「………………、」




忘れようもない。
つい先日甲板で互いに挨拶を交わしたばかりなのだから。









キョウスケ「―――ヴィヴィアン、か」






ヴィヴィアン「はーい、正解でーす!!」



当たった事が嬉しいのか、それともどちらにせよ元来の性格がこうなのか。
ヴィヴィアンは花のような笑顔で全身を使って「○」のポーズを取った。






―――ほ、ホントに男が来ちまったよ…、しかもウチらの隊だってよ…。


―――ど、どうしよう…?


―――どうしようったってそりゃお前…。




キョウスケ「………?」



声はすれども姿は見えず…と思いきや。
テーブルの影で、こちらと真逆の方を向き、何事かを囁き合う二組の背中。
このグループに属しているという事は…。



キョウスケ「彼女等も中隊員なので?」


サリア「―――え?…ええ、まあ…」





二人「「―――!!」」ビックウ!!





二人組の丸まった背中が震え、そのまま"ええいままよ"といった風にこちらを振り向いた。







―――お、おい…このヤロー!




キョウスケ「…………?」





―――お、男のノーマだか何だか知らねえけどな!
―――ここではアタシ等の方が先任なんだぞ!
―――そこんとこ、解ってんだろうな!!





キョウスケ「…………はあ」



唐突にまくし立てられても鸚鵡返しに返事をするしかない。
つまりは、どういう事か。






キョウスケ「失礼、そちらは?」




―――あ、アタシ!?アタシは……




ロザリー「……"ロザリー"。んで、こっちは"クリス"だ。解ったかテメーこのヤロー!」

クリス「……………。」



オレンジ髪の少女が乱暴に自己紹介をし、その後ろから銀髪の少女がおっかなびっくりとキョウスケを見ていた。
ともすればかなりの失礼に当たる態度だが。
それで気を損ねるほど、キョウスケ・ナンブという男の度量は小さくは無い。



キョウスケ「…キョウスケです、宜しく願います」スッ



そういう事であるならばと。
最大限の敬語で握手を求める。





ロザリー「―――へっ?」



ロザリーからしてみれば、唯の牽制というか自分の地位を守る為の小さなプライドという感じであったのだが。
そうも素直に返されると、逆に不気味というか何というか。



ロザリー「…あ、ああ…ええっと、その…」



途端にしどろもどろとなり、思わず手を差し出した相手の表情を、伺う。



キョウスケ「……………………、」



言葉とは裏腹に。
目が、笑っていなかった。
というか口元もピクリとも動いて居ない。



"能面"という表現が、正にピッタリだった。






ロザリー「な、何ガンつけてんだテメー!」


キョウスケ「…………?いえ、別にそのような事は」(※本人は至って普通のつもりです)


ロザリー「だ、だったらこっちを睨むんじゃねえよ!」


キョウスケ「…睨んではおりませんが」




生来の無愛想なのは自覚しているが、こればかりは如何んともし難く。






ロザリー「………………っ」グヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ…!!

キョウスケ「……………、」シーン





ロザリー「………………っっ」ギニニニニニニニニニ…!!

キョウスケ「………………、」シラ~ッ





舐められて堪るか(唯でさえ最近の"新人"にぞんざいにされてるのに)っつーんだ、舐められて…舐めら………。











キョウスケ「………………………………………………………………、」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

ロザリー「――――――、」






ロザリー「…………………すみません、もういいっす………」

クリス「(弱っ!!)」


キョウスケ「宜しいので?」


ロザリー「………あ、敬語とかも、その、いいんで……タメ語でさ……アハハ……」



キョウスケ「そうか、それでは―――宜しく頼む、ロザリー」


ロザリー「……あ。う、うん……ど、どうも……」ニギニギ



キョウスケ「…………、」チラリ


クリス「―――ビクッ!!」


キョウスケ「―――宜しく頼む」


クリス「……………は、はい……」ニギニギ



(何故か)燃え尽きたロザリーとクリス、両名につたないながらも握手を交わし…。






ヴィヴィアン「―――ほら、"エルシャ"もこっちに来なってばあ!」





―――ちょ、ちょっとヴィヴィちゃん!そんなに引っ張らないで…!
―――あっ……!!





キョウスケ「……!おっと……!」



ヴィヴィアンに強く牽引されたピンクの髪の女性はバランスを崩し、あわや転倒という所で。

キョウスケにはしと抱き留められた。




―――………え?




キョウスケ「…大丈夫、か?」







―――………。

――――――!!!!!!

―――す、すみません!私ったら失礼な真似を……!!




キョウスケ「…いや、怪我がなければそれで…君は?」



エルシャ「え、エルシャと申し、ます……はい……!」

エルシャ「………………、」ジ~ッ



キョウスケ「……………何か?」


エルシャ「……えっ。あ、その……ごめんなさい、私……!」

エルシャ「その、赤ん坊の頃からここ(アルゼナル)に居るもので…だから…男の人と話したりするのは初めてで……!」



そう言って。
俯き、貝のように萎縮してしまう。





キョウスケ「……………それは、また……」



境遇には多々同情するが、同じ部隊となってしまったからには関わり合いにならないというのも難しい。
任務以外ではなるべく傍に寄らない方法を取った方が良いだろうか?

すると、そんな思考が顔に出ていたのか。



エルシャ「……いえ、違うんです!キョウスケ…さんの所為ではなくて…私が慣れてないだけなので、その…」

エルシャ「ふ、ふつつかものですが宜しくお願いします…」



言って、彼女の方から手を差し出した。

その言い方には多大な語弊があるように思えるが。



キョウスケ「ああ、宜しく。エルシャ」



精一杯の歩み寄りには精一杯の敬意で応える。






―――"男"のノーマねえ…。
―――居ないっつーのもおかしな話と思ってたけど、いざ実物を前にすると、ねえ…。




キョウスケ「…………?」



背後からの声に振り向けば。


―――スッ。


と、己の頬に指が触れる、感触。




―――へぇ、結構滑らかな肌してんのね。ちょっと意外。




キョウスケ「………君は?」







―――アタシ?アタシは―――




ヒルダ「―――"ヒルダ"よ。宜しく色男さ・ん♪」スッ




サリア「―――なっ!?」
ロザリー「―――おおっ!?」
クリス「うわ、大胆……!」



ヒルダと名乗った赤髪の少女は、そのまま体重を前に倒して、キョウスケしなだれ掛かるように顔を寄せた。
見る者が見れば随分と艶かしい光景だった。


が。



キョウスケ「……キョウスケだ。世話になる」



対する男は。
鉄面皮のまま、動じずに。
直立姿勢のままで、器用に相手の手を握った。









ヒルダ「…………………………………………………………、」






サリア「………………」
リザリー「……………」
クリス「………………」


キョウスケ「………………………………。」ニギニギ







―――うわ、あれキッツイわー。

などと、様子を見ていた誰かが呟いて…。








ヒルダ「―――何よ、つっまんないヤツ。…後宜しく、副隊長サン」





その反応にプライドが傷ついたのか。
ヒルダはふんと鼻を鳴らし、スタスタと食堂を後にし始めた。



ロザリー「お、おい待てよヒルダ…!」

クリス「………!」



ロザリーとクリスもその後に続き。
後に残ったキョウスケは。



サリア「……………す、すみません中尉。ウチの隊の者が……」



何故かサリアに謝られていた。



キョウスケ「………いえ、ああいうノリは嫌いではありません」


サリア「え"っ…………?(い、意外…)」



あの場では挨拶を優先した結果だったが。
ふと、古巣を懐かしく感じる空気たった。






サリア「(気を取り直して)そ、それでは中尉…これから基地内の施設を、司令に代わってご案内しますので…」


キョウスケ「了解しました、宜しく願います。サリア副長」



サリア「………………………、」



キョウスケ「……?何か?」


サリア「い、いえ……それでは、私の後に付いて来て下さい」





ヴィヴィアン「なんだよー、キョウスケもう行っちゃうのか~?」

エルシャ「ヴィヴィちゃん、サリアちゃん達はお仕事なんだから…」



口を尖らせるヴィヴィアンに。



キョウスケ「…何はともあれ、同じ隊になったんだ。話は、またの機会にな」

ヴィヴィアン「本当かー?うーん……ならオッケー!」

エルシャ「ヴィヴィちゃんったら、もう…!」



ころころ表情を変えるヴィヴィアンと、それに苦笑するエルシャ。

こんな空気は悪くない。

それは本心だ。

しかし。







―――惜しむらくは、出会ったこの場所が血と硝煙に塗れた戦場でなければ。
―――そうも、思った。


一番書いててチンピラ(ロザリー)ちゃんが酷く動かし易い事実に苦笑。

あ、すいません。そのヒト魅了耐性最高なんですよ…=精神汚染無効。「関係無いと言った!!」

次からは格納庫に行っての「なぜなにアルトちゃん」か。
謎また謎の「ジャスミン・モール」の二本立てとなっております。

それではこれにて。

訳あって暫く投稿出来なくなるかもですので、出来た分だけ投下しますです。

「整備編導入部」までとなっております。






―――コツッ、コツッ、コツッ…。




長い通路を、サリアが先行して案内をし。
キョウスケがその後に続いて歩く。



サリア「………………、」


キョウスケ「…………、」



二人揃って、無言のまま。
偶に喋る事と言えば。



サリア「中尉、ここが図書室です」


キョウスケ「ほう」



サリア「中尉、ここがロッカールームです」


キョウスケ「なるほど」



サリア「中尉、ここが…」



等々、簡素な答えに簡素な案内を一言二言交わすのみ。
一応、キョウスケからの質問があったりするのだが…。







キョウスケ「失礼ですが、浴場その他の共同施設を使わなければならない場合、自分は何処を使用すれば良いのでしょうか?」





その大半は、女の園であるアルゼナルならではの問題点であり。
無論。



サリア「……も、申し訳ありません。私にはそれに答えるだけの権限は…」



彼女には答える事が出来ず、言葉を濁してしまう。



キョウスケ「そうですか」



キョウスケとしては何気なく尋ねているだけなので、それならそれで構わないといったスタンスなのだが。
そんなこんなで。



キョウスケ「…………、」


サリア「………………、」



次の施設に行くまで、また無言の時間が始まる。
生来喋りが得意では無い方である為(案内とはいえ任務中である事もあり)、キョウスケ的には全く構わないのだが…。







サリア「(………ど、どうしよう……)」


サリア「(話が、続かない―――!!)」





サリア的には、全然大丈夫じゃあ無かった。
表面上は「キリリッ!」と唇を引き結んではいるモノの。

内心では冷や汗が滝のように流れていた。

キョウスケの事を嫌っているワケでは無い、寧ろその逆である。
初めて出会う、夢にまで見た「オトコノヒト」なのだ。
出来うる事なら楽しくお喋りしたいし、あわよくばキョウスケの事を「中尉」ではなくきちんと名前で呼びたいという欲求も、ある。
と、いうかアレク…ジル司令が言ってたから思わず自分も「中尉」と呼んでしまったが、中尉って何だ何処かの軍人なのか。



…軍人?珍しい男性体とはいえ、私達と同じノーマなのに?

というより。





―――中尉はそもそも。
―――一体何処から来たのだろうか。






サリア「(―――いえ、今はそんな事を考えてる場合じゃないわ…)」



頭を振って余計な思考を追い出す。
自分が考えても詮無き事だ。
それよりも、今は。



サリア「(一体(沈黙を破るには)どうすればいいのかしら…)」トボトボ



兎に角も、持って生まれてしまったプライドは如何ともし難い硬さを持って彼女を縛っており。
中々思うような事を実行出来ずにいた。

こういう時、ヴィヴィアンやヒルダのようなお気楽さが凄く羨ましくなる…(本人達には決して言えないが)。





サリア「(嗚呼、私って本当に馬鹿…。)」ヨヨヨ



キョウスケから見えない角度で器用にもさめざめ泣きながら己の捨てられぬ自尊心を儚んだ。
こうなったら、後で"あそこ"で思い切り自分を慰めよう…。


そうだ、"いつもの"衣装の他にも期間限定のパワーアップパーツなんか付けたりしちゃったりして…。



"その時"を想像して思わずサリアの唇が「ニヤァ…!」と妖しく歪んだ、と同時に。





キョウスケ「―――サリア副長」



サリア「―――はいいいいいいいいいいっ!?何↑ですか↓中尉ッッ!!」グリンッ






不意に声を掛けられたモノだから、素っ頓狂な声が漏れてしまう。






キョウスケ「…………は?」

サリア「いえだいじょうぶですすいませんでしたですからどうかおきになさらずにおいてくださいちゅうい」



キョウスケ「―――、」

サリア「―――、」ニッコリ


キョウスケ「…そういう事でしたら、了解しました…」



サリア「それで、何か…?」

サリア「(あ、危なかった…!)」セーフセーフ



キョウスケ「いえ、そういえば自分の"アルト"が何処へ格納されたか気にかかりまして…」


サリア「アル、ト…?」キョトン


キョウスケ「…失礼しました。"アルト"というのは、自分が乗っていた人型兵器の名称でして…」


サリア「あ…ああ!」



あの紅くて巨大な"パラメイル"か。
あれなら、確か…。





サリア「―――こちらです。案内します、中尉」



―――アルゼナル基地。
―――広場。







司令の命令により接収されたアルトは、そのままではとても格納庫に入りきらないという事で。(※パラメイルは約7m、アルトは約21m)
何本ものワイヤーと輸送員を使用し、カタパルト上部の広場に仮置させられていた。

簡易的な格納庫として設定されたそこは、周辺を濃い陣幕で覆い、取り敢えずの板金で足場を造っただけの粗末なモノで。
地面には投げ出されたわんだコンセントの類いが散乱し、その上を足を取られそうになりながらもあちらこちらへ動き回る幾重もの"影"。

ある者は手にレンチやスパナ等を持ち。
またある者は手元のモニターに何事かを必死に打ち込んでいた。

その中でも、特に多い仕事量に汗を流しつつ、モニタリングと整備を同時に行う一人の少女が居た。



―――ここも、ブースター。

―――あそこも、ブースター。

―――んー、でもってあれもブースター。

―――更に足の方もブースター……。


―――………………。


―――んがあああああああ!!もう頭がこんがらがってきた!!

―――何で!?何でこんなにブースターの量が多いワケ!?どういう構造なのさ!!

―――ヤケに分厚い造りだなと思ってたら背面の殆どがエネルギーラインに直結してるし!後ろに被弾したらどうするんだ!?

―――オマケに左右の内部に取り付けられた大型ユニットは何なの!?こんな重りつけて転倒しないってどういうバランスよ!?





などと、ぶつぶつ呟いていたら。






―――め、メイ整備班長~。



部下の一人が情けない声を上げて自らの上司…アルゼナル整備班長である"メイ"の名を呼んだ。



メイ「…何?今度はどうしたの?」



辟易とした顔を隠そうともせず、部下に報告を促した。



部下A「肩の部分の点検が先ほど終わりまして、あの…その…」


メイ「…ああ、あのブースターね。それならあそこに整備部品が…」


部下A「いえ、そうじゃなくて、あの、何て言うか…」


メイ「…報告はキッチリと正確に!些細なミスが撃墜の元!!それが我々整備員のモットーだろう!?」



唯でさえ進まない整備に多少の苛立たしさも加え、つい語気を強めてしまう。







部下A「は、はあ…解りました。あのですね…」





部下A「―――アレ、ブースターじゃありませんでした」バーン


メイ「………………。」

メイ「えっ?」



部下A「加えて報告するのなら、爆発物反応もありましたので、その…」

部下A「炸薬式の武器に相当するナニカであるというコトでして、はい…」


メイ「……………、」ポカーン

メイ「―――すぐ後ろ、ブースターだよね?」


部下A「は、はい…だから最初は予備エネルギータンクだと思ってたんですけど…」


メイ「…なのに爆薬?」


部下A「ええと、それだけでなくて…爆発の余波で何かを飛ばすタイプらしく…内部の質量の大きさであの形になったんじゃあないかと…」







メイ「……………、」





―――ブチン!







メイ「―――んんんんなんっっっっっっじゃあそりゃああああああああああっっ!!!」ガチャーン!!







遂に、堪忍袋の緒が切れた。
もうダメだ、もう我慢出来ない。
夕べからこっちアレクトラに頼まれて整備がてらデータ収集を行っていた…のだが。

見れば見る程に、こちらの常識とかプライドとかそういったモノが次々に打ち砕かれてゆく。

兵器としての欠陥云々を問うのならば、戦闘中のパイロットの生命が直接危機に晒されるパラメイルもどっこいだろうが、コイツは何というか次元が違う。

推力方向の整備一つとっても、通常のパラメイルならば一人で事足りるモノをコレには複数人がかりで行っていた。
よって必然的にその他の整備にかまける時間も器具も人材もまるで足りやしない。



―――右手の弾倉と一体化した武装は何だ?銃なのか?それならば先端の突起物はどういう意味があるんだ!?

―――頭部の角は指揮官用の装飾品だと思っていたが何故ソレが態々エネルギーラインに繋がっているのだ!?

―――確認できるブースターだけで有に通常のパラメイルの数倍の出力があるし、幾ら風防があっても乗り手が加速に耐えられるのか!?

―――……まだ左腕に取り付けられた銃器の方が分り易い…いや口径とかその他諸々ツッコミたいけど。



そして極めつけは両肩の武装と思しき部分…。

造りや使用しているエネルギーや部品等に特異な点は見られない(精々内部に取り付けられた巨大な力場発生器のみ)、寧ろ原始的な造形に近い。

だからこそ意味不明というか何というか。

何故これで兵器としての面目が立っているのだ、何かの間違いだと思いたいがコイツはドラゴンを一機で複数倒したという実績がある。

今まで様々なパラメイルを整備点検してきた自分の力をもってしても、意味不明な事ばかりだったが。

唯、一つだけハッキリと解る事があった。
それは…。













―――こんなん造ったヤツは。
―――確実に天才か"あっち側"の人間だ、という事だ…!!








―――???







―――く、しゅん……っ!







???1「…風邪かね、マリー。君にしては珍しいな」


???2「…誰かが噂しているのかしら?後その呼び方は止めてくださいましと何度も…」グス





途中までですがここまでで。整備員泣かせの機体、アルトアイゼン・リーゼ。
お前もマ改造してやろうかあ!!(迫真)

というか専門知識あっても予習なしでリーゼみたいな機体を放られたらそらこうなるわ、みたいな。
自分だったら逃げます(白目)。

というか箇条書きにしてもつくづくなんでこんな兵器が存在出来るのでしょう。大好きだけど。

それではこれにて。

本日分短いですが投下シマス。
出せる時に出してゆくスタイル。

格納庫編終了までです。

―――再びアルゼナル。



メイ「訳分かん無いよ本当…炸薬で何打ち出すっていうんだよ…銃弾?に、しちゃ随分デカいし…」ブツブツ




―――銃弾ではなく。
―――"ベアリング"、だ。




メイ「…ああもう!ベアリングだろうがエンゲージリングだろうが訳解らないのはじじ……つ?」



突如、聞き慣れぬ硬めな声が背後から聞こえ。
振り向けばそこには。



キョウスケ「………………、」


メイ「…………………、」



むっつりへの字の長身が、自分を見下ろすように立っており…。





メイ「―――わっ!男の人!?」ガタタッ



思わず叫び、手の中の機器を取り落としそうになった。



サリア「メイ、整備は順調?」


メイ「サリアが男を連れてきた!?」


サリア「…殴るわよ貴女」



更に続いてきた顔見知りに脳内はオーバーヒート寸前だったが。
構わず男は言葉を重ねる。



キョウスケ「副長に、自分の機体はここだと案内されたもので。整備の進捗情報も尋ねたいと言ったらここに通されたのだが…」


メイ「……そういえば、アンタがこの妙ちきりんな機体のパイロットなんだよね?」


キョウスケ「(妙、ちきりん?)…"アルトアイゼン・リーゼ"のこと、か?」


メイ「"古い鉄巨人"?…名前まで妙ちきりんだし…」


キョウスケ「失礼、そちらは…」


メイ「あたし?あたしはここの整備班長を勤めている、"メイ"だよ。そちらのサリアとは顔なじみでさ」


キョウスケ「整備、班長…君が?」



見た目はヴィヴィアンと変わらぬ年頃に見えるが、班長という事はここのメカニックを統括する責任者という事になる。





メイ「…何。なんか文句ある?」ジト…



見た目で侮られたと感じたのか、メイの眉根が不愉快そうに歪む。
だが。



キョウスケ「…いいや」



キョウスケ穏やかな口調で、それを否定した。
自分の世界にもそういう歳で、一流のメカマンとして活躍する人物は大勢居た。
年齢や見た目等は能力の指針を測るのに大した起点にならない。

あるのはいい腕か、そうでないかという点のみ。


それらを鑑みるに…。



キョウスケ「……………、」チラリ



横目で見れば、陣幕の内外で少女(メイ)の部下らしき者が大勢、けれども浮き足立たずに粛々と己の作業に没頭している。
上司としての指示の確かさや技術における信頼度がなければ、とてもこうはならないだろう。



キョウスケ「ここは、紛れもなく良いメカニックが揃っている。…自分のアルトを宜しく願います、メイ整備班長」ビッ



敬礼し、己の半身を託す事を男は確かに了承した。






メイ「……え。あ、うん……ど、どうも……」



な、なんだろう。
最初は無愛想で仏頂面のヘンなヤツとばかり思ったのだが。
こうもストレートに褒められると胸の奥がこそばゆいようなかゆいような不可思議な気持ちになるようで…。



メイ「ま、まあ…それは兎も角として…」



ゴホンと咳払いをして空気を入れ替える。
パイロットが直々にここに来たのなら丁度良い。
この機にアルトとか言うマシンの事を色々聞くだけ聞いておこう。





―――…などと、軽く考えていた数分前の自分をぶん殴りたい。






―――後に、メイ整備班長は部下にこう述懐した。






メイ「ええと…キョウスケだっけ?さっきアンタ"ベアリング"がどうとか言ってたけど?」


キョウスケ「ああ。肩に装填された特注合金を炸薬で打ち出す―――拡 散 型―――の射出兵装で…」




メイ「――――――、」ヒク…

メイ「今、何て言ったの?」


キョウスケ「…?…合金を拡散して打ち出す兵装と…」





………。

拡、散……?








メイ「―――待って、ちょっと待って。何?あの射角で拡散型なの!?てっきり単発式だとばかり…いやそれでもおかしいけどさ!」


キョウスケ「…?何かおかしな点が?」


メイ「何もかもがだよ!!―――あ、いや、ゴメン…技術者が頭ごなしに否定しちゃダメだよね、うん…現にソコにあるんだからさ…」ブツブツ

メイ「で、でもさ…固定されてたらほぼ前方にしか飛ばせないし…第一、拡散させちゃ味方を巻き込むし、それに距離による威力減衰だって―――」


キョウスケ「整備班長」


メイ「な、何…?」





キョウスケ「…あれは 近 接 兵装ですが?」





メイ「―――、―――、」







一瞬、とてつもない目眩に襲われた。
何だ、目の前の男は自分に何と言ったのだ、近接?

あのトンでもなくバカでかい炸薬がたっぷり詰まった爆弾を抱えて敵の目の前で撃ち出せと?

なるほど、それなら確かに味方を巻き込む必要はないし射角がどうとか威力減衰とかどうのとか関係無いな。



………。



いやいやいやいやいやいやいや。





サリア「…どうしたの、メイ。顔が真っ青よ?」←直接見ているので「そういうものか」と思ってる。※麻痺している、とも言う。


メイ「…え?ああ、うん…大丈夫、大丈夫…おーるおっけー…」

メイ「そういうもんなら、しょうがないよね…うん」




諸々吐き出してしまい感情を、全て飲み込んだ。
理論は兎も角として原理は単純だ…単純?
整備は容易くは無いけど簡単そうだ…簡単?







―――その後も。




メイ「右手の兵装なんだけど…」


キョウスケ「ああ。あれは"リボルビング・バンカー"と言って―――」


メイ「……くい、うち、き?(杭打ち機)何でそんな射程もへったくれもない武器を腕に……」


キョウスケ「その為に増設されたブースターの加速力を用いて、一気に敵の懐に入り―――」


メイ「……不必要なまでに付けられたブースターの謎は(解りたくないけど)解ったよ。だけどもし誘爆したら……」


キョウスケ「…装甲の硬い部分で受ければ 問 題 無 い か と。 その為のバリアシステムも一応設置されているので」


メイ「―――、―――、」パクパクパク




開いた口が塞がらなかったりしながらも。
説明(という名の悪夢)は続き…。






メイ「左手の機関銃は…」


キョウスケ「あれは牽制用です」シャゲキハニガテナノデスガ


メイ「けんせっ…!?い、いや思ったよりマトモな使用方法なの、かな…(口径とか諸々ツッコミたいけど)」


メイ「まあ、これだけ接近戦闘に特化してるのなら、少しくらいは射撃武器はあるよねそりゃ…」


キョウスケ「…?アルトは接近戦は不得手ですが?」


メイ「…………………え"っ?」



キョウスケ「武装の大半がブースターの加速度を加えての威力増加が前提なので」

キョウスケ「十分な加速が得られない、ショートレンジからの攻撃となるとどうにも…」



敵が近すぎるとバンカーの初撃が逸れる上にクレイモアもほぼ当たらない。
現に、そこを付かれて昔死ぬような目に合わされた経験がある。
尤も、その経験こそがリーゼが誕生する切欠だったのだが。






メイ「待って待って、ちょっと待ってよ…さっきアンタ兵装は近接武器って言ったよね!?」


キョウスケ「はい、言いましたが」


メイ「なのに接近戦が苦手!?」


キョウスケ「加速が得られればそれには値しませんが」


メイ「牽制と射撃が左手だけなのに!?それって兵器として破綻してない!?」


キョウスケ「いえ、そのようなことは…」



ああそうでしょうよ。
何てったってドラゴン倒した実績アリなんだから。
正直、実はウソでしたって誰かに言って欲しい気持ちが満々だが。






メイ「…………そもそも、コレを造る際のコンセプトって、何だったの………?」



強襲用だとか近接戦闘特化だとか、そういうのを造るにしてももっと効率の良い方法があった筈だ。
だというのにここまで造り手の趣味全開にまで偏らせたのだから、そりゃもう止事無き理由があったに違いない。



……と、思ってたのだが。



キョウスケ「……そう、ですね……」



呟いて、瞳を閉じる。
自分は技術畑の人間ではないし、また弁もそこまで立つ方ではない。

リーゼに…いや、「ATX計画」込められた想いを端的に、かつ正確に表すならば…。









―――この言葉が、尤も的確だった。


























キョウスケ「―――"先 手 必 勝"―――"一 撃 必 殺"」ドン!!!



















キョウスケ「―――以上です」



キョウスケ「(………む?)」







メイ「………………………………………………………………………………、」







何故かは知らないが、整備班長は形容しがたい表情のまま固まってしまっていた。

いかんな。矢張り言葉遣いが抽象的過ぎたかもしれない。


ここは前隊長の言葉を借りて、"二の太刀要らず"とでも言っておけば良かっただろうか?






メイ「………………………………もういいよ、ありがと」


キョウスケ「宜しいので?」



それにしては急に元気が無くなったように見えるが。
整備の疲れが出てしまったのだろうか。



メイ「うん、あとはこちらでやっておくから、きちんとせいびはおわらせるから、おねがいだからひとりにしといてくんない?」


キョウスケ「そういう事でしたら…了解です。では失礼します、整備班長」ビッ



敬礼を忘れずに、サリアに連れ立って仮設格納庫を後にするキョウスケ。
一人、そこに残ったメイはというと…。



メイ「………………負け、た………?」




言い知れぬ敗北感に包まれつつ、呆けた表情で整備案を纏めるのだった…。


ATXチーム!頭のイカれた奴らを紹介するぜぇ!!


現隊長「兎にも角にも全機突貫」←迫り来る的である筈なのに攻撃当てても怯まず何故かこっちがやられてる。


アサルト2「蝶のように舞い蜂のように刺しちゃうわよん♪」←当たれば落ちる筈のに当たらず当てられる。


アサルト3その1「一意専心!狙いは一つ!!」←何か被弾してでも突っ込んでくるor分身したり長物出したりヌンチャクしたりドリルしたり吠えたり。


アサルト3その2「えーと、えーと……栄養ドリンク持ってきました♪」←汁。


アサルト4「援護しちゃったりしなかったりしちゃいますことよ」←遠距離近距離両方こなしつつ高火力ぶっぱしてくる。


前隊長「眼前の敵は、全て打ち払うのみ!!」←デカァァイッ!説明不要!!



こいつら全員おかしいよぅっ!!

それでは本日はこれにて。

もしアルトが発表されてなくて次元やらスフィアやらの機体が闊歩している今のスパロボシリーズにアルトが主人公として参戦したらやはりゲテモノ機体と呼ばれるのだろうか

>>268
パイルバンカーの元祖がいるから大丈夫

なんだかんだでテスラドライブだけは解析出来なさそう

全高3倍、火力装甲指数関数倍の化け物に生身で戦わされる〝向こう側〟の男衆も気の毒に・・・

本日分投下しますー。今回で遂に…。

>>268
D-フォルト如き貫けそうで怖い、いやカッコイイ。
今時超常的な力を使わない機体の方が珍しいのやもしれません。

>>269
キリコ  「所詮、遊びだ」ムスッ
キョウスケ「所詮、遊びだ」ムスッ

うーん、この違和感の無さよ。

>>270
アレはクロアン世界の人間からしてみれば「ソレ、何が凄いの?ただのバランサーでしょ?」って真の意味を理解出来るヒトがどれだけ居るか…メイとマギー女史は辟易しそうですが。

>>271
しかも使っているモノは唯の鉄の塊だけって言う…パラメイルにも必殺の凍結バレットがありますがね。
その内、リーゼにも…?




サリア「―――中尉、あそこがパラメイルを発進させるカタパルトデッキです」


キョウスケ「成る程…ん?」





―――コンドハアンタノバンヨ!
―――コノイロクスンジャッテルノヨネ~!
―――ヨッシャ、イッチョアタラシイブキヲ…!!





キョウスケの耳に飛び込んで来たのは。
食堂とはまた違った少女達の活気に満ち溢れた声。

その方向を振り向けば、そこには…。



キョウスケ「何だ…?」



移動型の金属板で仕切られている謎の空間があった。
隙間から見えるはハンガーに立てかけられた、服だろうか。

その他にも空間は奥に広がっているようだったが、ここからでは皆目解らない。






キョウスケ「副長、あれは…?」


サリア「え?…ああ、"ジャスミン・モール"の事ですか?」


キョウスケ「…"モール"…?」



市場という単語から察するに、あの一角は商業施設か。
いや、それよりはP.X(酒保)と言い換えた方が軍事施設的には通りが良いか。



サリア「私達ノーマは必然的にここ(基地)以外には出られませんので…だからあそこを仮市場として、そこで品物を売買しているんです」

サリア「化粧品、洋服、武器弾薬やパラメイルの装備に至るまで…あそこで揃わない商品はほぼありません」

サリア「一応、ビリヤード等のアミューズメントもありますが…」


キョウスケ「…成る程」



要は戦闘で消耗した兵士のガス抜きも兼ねているという事か。





キョウスケ「(…そういえば)」



朝の目通りの際。司令官がこのように言っていたのを思い出した。





―――中尉、アルゼナルにはちょっとした商業施設がある。
―――あの"アルト"とか言う機体の武器弾薬に関する処置は、そこの店主に相談してみるといい。





キョウスケ「(あそこが、その施設か)」






今現状でアルトの整備…主にユニット各部位の損耗はメイ整備班長達に任せているが。
先のドラゴンとの戦闘で使用してしまった分の弾薬の補充はだけはどうにもならない。


この基地で配備されている…"パラメイル"と通称される機動兵器群の事は、朝の授業と格納庫を見学する際に目にしたが。
機体のサイズからして、とてもリーゼに流用できるような規格ではなかった。


故に、どうにかして補給物資を外部から流用するようにするしか手立ては無い。
今の所は装填された弾薬には若干数の余裕がある。
が、それとて後1、2回の戦闘で直ぐ底を付いてしまうだろう。


唯でさえ、アルトという機体は色々な意味で損耗が激しい機械でもあるのだから。






キョウスケ「副長、あそこに立ち寄る事は可能でしょうか?」


サリア「え?…あ、はい。大丈夫ですが…」


キョウスケ「でしたら、是非」



良い機会だった。
何とかあそこで補充の目処を立たせられれば、これから先のコトに当たるのも容易になる。






出来るかどうかは。
正直、出たとこ勝負でしかないが。



―――アルゼナル基地。
―――商業施設、ジャスミン・モール。






サリアに連れ立って"市場"の中に入ったキョウスケを迎えたのは…。
隙間からでは見るコトが出来なかった…専用ラックに立てかけられた巨大な武器や銃器類と。




―――わあっ!!!!!




と湧き上がる、彼の存在に気づいた他のアルゼナル職員の黄色い歓声だった。

尤もキョウスケとしては不用意に返事が出来る立場では無いし(イルム中尉ならば上手くやれるのだろうが…)。
話しかけようとしてきた人員の大半は。



サリア「―――!!」ギロ…!



サリアがひと睨みで追い返していた。
そうして掻き分ける(というより勝手に避けてゆく)ようにして進んだ先には。







―――やぁれやれ。
―――"ブラジャーからミサイルまで何でも揃う"がココのモットーだったんだがね。
―――たったの"花"一輪に物珍しさで負ける、とはね。


―――尤も、こんな"いかつい花"は流石のアタシでも用意出来んがね。




室内の中心で座椅子に座り、足元に犬を携えた初老の女性。



サリア「―――"ジャスミン"。この人が、その…」




―――ジルから聞いてるよ。キョウスケとか言う世にも珍しい男のノーマ、だったかね?




女性は悪戯っぽく笑い、キョウスケに対して、まるで値踏みでもするかような視線を向けた。
施設の名を、そのまま冠したこの女性こそがこの市場の責任者である…。







ジャスミン「ようこそ我が城へ。アタシがここ、"ジャスミン・モール"の店主―――"ジャスミン"さ」

ジャスミン「くれぐれも、呼ぶ時は名前か"お姉さん"と付けるのを忘れんじゃないよ、ボウヤ?」



キョウスケ「了解しました、ミス・ジャスミン。自分は…」ビシッ



敬礼、後、名乗り。
愚直なまでに素直に、一連の動作を行おうとして。



ジャスミン「…………。」



ポカンと、女主人から妙な顔を向けられた。
はて、何か失礼に当たったのだろうかと首を捻ったと同時に。



ジャスミン「――――――ふ」

ジャスミン「ふ、ふふふふ……」





ジャスミン「―――あは、ははははははははははははははははははっ!!」





ジャスミンは心底おかしいというように朗らかに笑い。
普段の主人を知る周辺の人間や、伏せている飼い犬、そして知古のサリアは揃ってぎょっとした表情で何事かと目を向けた。






ジャスミン「ははは……!いや、失礼失礼。ここで店主をやって随分経つが、面と向かって"ミス"なんて単語を使われたのは初めてだったからねえ」

ジャスミン「それも、アンタみたいな色男から言われるたぁ…まんざらこの世も悪くはないかもね」

ジャスミン「惜しむらくはちょいと仏頂面が過ぎるけどねぇ」



キョウスケ「………。」



それは、褒められているのだろうか?



ジャスミン「褒めてるさ十分に―――さて。横道に逸れちまったけど、態々ここまでやってきたんだ。何ぞ入用かい?」

ジャスミン「今日は色々と機嫌が良くなったからねえ、ちょいと無理をする品物でも色をつけて渡してやろうじゃあないか」






キョウスケ「では……これを」



そう言ってキョウスケが懐から取り出したのは…一枚の紙片。



ジャスミン「これは?どれ………」



ペラリと捲り、中を読み進めてゆく。
すると。



ジャスミン「………………」

ジャスミン「………ふぅむ」



内容が進む度、ジャスミンの表情に、先ほどの笑顔とは真逆の険しさが差した。



ジャスミン「…………こいつは結構難儀するが、まあ用意出来なくは無いさね」


キョウスケ「そうですか…」



内心でほんの微かにほぅと息をつく。
これで補給が無事可能になれば、戦力で荷物になるような事態だけは避けられるだろう。





ジャスミン「……………しかしねぇ」


キョウスケ「………?」


ジャスミン「………まあ、アンタが良ってんならいいがねえ………」



何とも言えない表情でこちらに向けてくる視線と言葉が妙に引っかかった。
何だ、司令が用意した紹介状に何事か書かれていたのだろうか。


疑問を、キョウスケが口にしようとした。







その時だった。


















―――ヴイィィィィィィィィィィィィィィィ…!!
―――ヴイィィィィィィィィィィィィィィィ…!!


















スピーカーより流れる甲高い音が辺りを埋め尽くす。


そして。








―――総員、第一種遭遇警報発令!
―――繰り返す、第一種遭遇警報発令!

―――所定のメイルライダーは直ちにカタパルトデッキに集合せよ!

―――繰り返す…。










キョウスケ「………!」



弾かれたように顔を上げたのは自分だけでは無かった。
サリアも、そしてこのモールに居る全ての人員の顔が変貌した。



キョウスケもよく知る。




戦う人間の顔に。






ジャスミン「やぁれやれ、これから稼ぎ時だったてえのに…」



女主人は嘆息しつつも、手馴れた動作で椅子を畳み。



サリア「―――中尉」


キョウスケ「―――了解しました、副長」



サリアの目配せに頷き、彼女とは別口の方向へと駆け出そうとして。



ジャスミン「―――ちょいと待ちな、色男」



呼び止められた。







キョウスケ「………?」


ジャスミン「…商売人が品物を頼まれて、依頼人に渡せなかったら名折れになる」





ジャスミン「―――死ぬんじゃないよ、くれぐれもね」




キョウスケ「…………、」

キョスウケ「――――――、」ビシッ



言葉では返答せず、敬礼にて肯定の意を示す。

そして、走り出した背中を見ながら。





ジャスミン「………ま、とはいえ。そんな心配は余計な世話になりそうだがね」



一言付け加える。
顔付きが、とでも言えば良いのだろうか。


戦場を前にしても、尚微動だにしない鉄面皮。


あの度胸の座り具合はどうも、修羅場を一度や二度潜った程度じゃあ身につかない代物だ。
ジル…いや、"アレクトラ"の奴は丁度良い手駒を手に入れた程度でしか思っては無いだろうが。





―――下手をすると。
―――繋いだ鎖ごと食い破られちまうかもしれないよ。





と、ここには居ない司令官に向けて呟いた。



サーボモーター関連は代用品でどうにか持たせるにしてもほぼ専用品となる火薬鉄塊類は如何ともし難い面倒ユニット…アルトアイゼン・リーゼ。
原始的構造故の穴、だから武器はEN基準にしろと…(by開発者の元夫)

司令の紹介書(意味深)で少しでも打開出来ればいいんですがねえ。

そして遂に遂に!次回戦闘!!
時系列的にはクロアン3話のBパートら辺となっております。


それでは短いのですが本日はこれにて。

ENとかほぼ合体攻撃時にくらいしか使わないからなあ。
だが弾数制限のみの機体はやはりロマンがある。
いざとなりゃ角で戦えばいいし・・・アニメの描写からしてブーストと角だけで射程8か9くらいあってもいいんじゃねww

クロスアンジュ未見だけど完璧引き込まれて脱帽
今更気になっちゃう

ACERな……ゲームとしちゃ残念だったけど設定は色々夢があったよな……
OGで回収されたりしないかな……

本日分投下します。
出撃から前哨戦までとなっております。

>>292
角はマップ兵器でもいいんじゃね?ってアニメで見て思いました。
そういえばかつてクレイモアは…インパクト…うっ、頭が…。


>>293
ど、どうも…かなり嬉しいです、はい。
どうもですガンバリマス…。
ACERはOGが出るってんで購入したんですがねえ…何故ああなってしまったのか。

―――アルゼナル基地。
―――広場・仮設格納庫。






メイ「手の空いている者はカタパルトデッキに!ここはアタシと数人だけでいいから!!」



整備員達「「「「「―――イエス・マム!!!」」」」」



メイ「…全く、こんな時に出撃がかかっちゃうなんて…!」



班員達を誘導しつつも、手に持つモニターを打ち込む動きは止めない。

未だアルトに対する整備は、終了の目処が立たず。
やれて各関節の応急修理が関の山だった。
それとて今さっき終わるか終わらぬかの間際であったというのに…。

額に溜まった汗を拭いもせず、一心不乱に残りの工程を少しでも多く終わらせるべく手を動かす。

やがて。



キョウスケ「―――失礼、整備班長。アルトは…?」


メイ「………、」






時間切れ、か。
完遂出来なかったのは整備員としての名折れになるが、状況が差し迫っている。

メイ(整備員)は、パイロット(キョウスケ)に現状をありのままに伝えた。

すると。



キョウスケ「―――上等です。感謝します」



こちらの不甲斐なさを糾弾するでもなく、なじるでもなく。
一言の短さに、ありったけのお礼の言葉を詰め込まれ。



メイ「…あ。いや、そこまで言われる程の事は何も…」



こそばゆくなっていたら。


―――バッ!


と、突然にオトコノヒトが着ていた上着を脱ぎ始めたので。



メイ「―――ひゃあっ!?」



いきなりの行動に、思わず両手で顔を覆って目を背けた。







メイ「(み……見ちゃった……!)」



網膜に焼き付いたのは黒いインナーと、僅かに顕になった二の腕のみであったが。
その一瞬の映像ですら少女には些か刺激が強すぎたようで。
耳まで真っ赤になりつつ。



メイ「(サリアに言ったら悔しがるだろうなあ…)」



怒られる事も目に見えているので絶対に言わないが。
等々、悶々考えていたら。



キョウスケ「お見苦しい所を失礼。搭乗しますので、整備班長は退避を願います」



いつもの赤いジャケットから、これまた真っ赤なパイロットスーツへと瞬時に着替えたキョウスケがメイに離れるよう促す。



メイ「……へっ。あ、うん。解った……」

メイ「―――じゃない!?待った、ちょっと待った!!」


キョウスケ「……?何か??」


メイ「それに乗ったら―――…"あっち!"あっちの方から飛んでね!!」



その、指差す方向には…。







整備員A「―――わっせ!わっせ!!」
整備員B「―――よいせ!よいせ!!」
整備員C「―――せっせ!せっせ!!」




彼女に指示されたと思しき少女が数名、運動場の脇の空き地を忙しなく動き回っていた。
その手には長いコードと…あれは、小型の回転灯か。



メイ「あれも即席だけど、一応カタパルト…に、なるのかな?」

メイ「ここ(アルゼナル)のカタパルトからじゃ大きすぎて発進出来ないし、せめてもの雰囲気を出そうかな、と」



後、アレ(アルト)の噴射炎で諸々吹き飛ばされぬよう施設からは離れた位置で飛んで欲しい。
という思惑もあったりするが。






キョウスケ「…了解」



短く肯定し。
ロープを伝い、コクピットに乗り込むと。
バシュン!という軽い空気音と共にハッチが閉じ、完全に外界と切り離された空間となる。



キョウスケ「………、」



暗く閉め切られた無音の中。

手馴れた動作で手元のボタンを短く押すと。



―――ウゥゥゥゥゥゥン……!



獣の唸り声のような起動音が鳴り。

数秒後。

彼の眼前に様々な輝きが無機質な字幕となって提示される。









―――「TC-OS」起動中…。
―――システム・オールチェック。

―――エネルギーラインに若干の損耗を確認。
―――技術員に問題点を提示するよう強くお勧めします。

―――左腕、火器管制ラインに異常発生。
―――誘爆の危険性アリ。ただちに…。

―――ブースター各部チェック……一部損傷。
―――損傷部位のエネルギーラインを一時カットして立ち上げます…。









キョウスケ「………、」



傍から見れば芳しくない内容のオンパレードであったが。
キョウスケは特に気にせず機体の立ち上げを急いだ。



キョウスケ「あの時間で、よくここまで修繕出来た物だ…」



初めて触る機体であったにも関わらず。
これならば問題なく戦闘行動に耐えうるだろう(普通の人の"問題"と比較してはいけません)。







―――エネルギー量はほぼMAX。飛べる。

―――推進剤も補充されている。充分だ。



エンジンに火が灯り。

同時に、真紅の機体の眼光が緑色に輝く。

起動直後に、全天モニターのラグを確認する。



―――メインモニタ、サブカメラ…共に異常無し。

―――左腕以外の火器管制、問題無し。

―――マニュピレーター、脚部関節。完璧に動く。



キョウスケ「よし…!」



ハンドグローブを締め直し、操縦桿を握り締め。







―――最初の一歩を、踏み出した。









整備員A「……回転灯のチェック終了!こっちはいつでも!!」

整備員B「ズレとかない!?向こうはもうじき来るよ!!」

整備員C「―――来た!…凄い、本当に歩いてる…!!」



―――ズシン…!―――ズシン…!



大地を踏み締める度に響く振動。
自分達が普段から整備しているモノ(パラメイル)とは違う。
迫り来る大質量に若干の慄きを感じつつ。
今度は誘導灯を手に持ち替え、それをアルトに向けて掲げるようにして振る。

弧を描いで揺らめく光の軌跡は、無事簡易式カタパルトに巨人を誘導し。


―――!
――――――!!


定位置に付いたリーゼより感覚の空いたフラッシュが2、3回。
発進を知らせる合図だった。

巻き込まれてはマズいと一目散に、その場より整備員達が退避し切った…直後に。

巨人の背後にある噴射口が火を噴いた。

巻き起こる強風は周辺に吹き渡り、運動場に設置された機材や遠く離れた仮説格納庫の陣幕すらも大きく揺らした。

数秒後、完全に姿勢が安定した事を確認し。

ふわり、と。
巨大な鉄塊が浮き始めた。


そして。












キョウスケ「……"アサルト1"」















―――発進する…!!












誰に報告するでなく、己が使い慣れたコールサインを名乗り。




――― バ オ ッ ッ ッ ッ !!!!!!




空間が破裂したような音を轟かせ、飛び出した紅の"線"は断崖を越え。



―――ウゥゥゥゥゥゥ……ン………!





周囲に残響を残しつつ、海中…ではなく、海面に"着地"して滑るようにそこを疾走。
ものの数秒も立たずに、波間に大きな斜線を残して小さな豆粒と化して行った。





―――一方で。

広場に残ったアルゼナルの整備員達は。



整備員A「……………。」

整備員A「………生き、てる……?」ムクッ



被った瓦礫を手で払い。



整備員B「ぺっぺっ…!!草噛んじゃったよ…!うえぇ~」



口に入った草を吐き出しつつ。



整備員C「は、はんちょ~……コレ、どうしましょう………」



涙目になり。



メイ「……………………………、」



次いで指示を出さねばならぬ立場であるにも関わらず、呆然と。


―――吹き飛ばされ崩れ去った仮設格納庫の陣幕+その他諸々の機材であったモノの残骸を前にして固まっていた。







メイ「…………………………、」



十分な距離を開けて発進させたのにも関わらずにこの惨状である。
正直泣いていいのか、恐るべしと唸るべきなのか。

それは解らないが。

取り敢えず解っている事は一つ。



メイ「………………今日も徹夜かなあ………」



次はもう少しばかり頑丈な作りにしよう。
何処か遠い目をしながらも、性根はしっかり整備員である自分に若干の誇りを感じつつ。


少女はそう、締め括った。



―――アルゼナル基地。
―――作戦司令室。





ジル「―――状況はどうか?」



オペレーター1「はい。"シンギュラー"より出現したドラゴンの数、凡そ……何これ!?」


ジル「……どうした?」



モニターに映し出された光点を見ていたオペレーターの一人、"オリビエ"が驚きの声を挙げ。
それを補足するようにして金髪の女性、"パメラ"が発言する。



パメラ「―――失礼しました、マム」

パメラ「ドラゴンの構成は、大型の…ブリッグ級と思しきモノが1。それに随伴する小型が約50と推測されます」


ジル「……ふむ」



推測される、というのはレーダーが捉えた光点が多すぎる為の事だろうが。
それにしても50とは…類を見ない、という訳では無いが些か多すぎる。

今回偶然に"こちら側"へと飛ばされた数が多かっただけなのだろうか?

それとも…。



ジル「(まさか…)」





―――中尉を警戒しての事、か?







ジル「(まさかな…)」



疑念を払うように頭を振る。
中尉が戦闘に参加したのは先の1回のみだ。
幾ら"あの"ドラゴン共が多少の知恵を持つからと言って直ぐにソレに対する動きを整えられる筈が無い。

だが…。

もしもこのドラゴンの出現に、少なからず"それ"が絡んでいるのだとしたら…。



オペレーター3「どうしましょう、司令?パラメイル第二、第三中隊にも待機命令を出しましょうか?」



3人目のオペレーターである"ヒカル"が、指示を乞うて来た。
小型主体とは言え規模が規模である。
普通であれば、被害を最小限に留めるべく別の隊が直ぐに応援に駆けつけられるようにすべきなのだろうが。





ジル「…いや、構わん」

ジル「このまま第一中隊の面々だけで敵の掃討に当たらせろ」


パメラ「しかし、それでは…!」


ジル「…構わん。と言ったぞ?」ジロリ




パメラ「………、」
ヒカル「………、」
オリビエ「……、」




パメラ「…イエス、マム」


ジル「……………、」



飽くまでも自分達はオペレーターである。
作戦の全ての主導権を握る司令から、こうも言われてしまっては言い返す事など出来る筈もなく。
命令を肯定したパメラは回線を開き、出撃したサリア以下第一中隊に敵の規模を通達する。



ジル「……中尉はどうした?」


オリビエ「は、はい。…ええと、ですね…」


ジルに尋ねられたオリビエがモニターに向き直った。


その直後。







――― バ オ ッ ッ ッ ッ !!!!!!








ジル「―――!!」


パメラ「キャッ―――!?」

オリビエ「ヒイッ――!?」

ヒカル「うわっ―――!?」



司令室全体を揺らす轟音と、それに伴った衝撃波で強化ガラスが罅割れ。




管理官「な…………何ですか、今のは!?!?」



指令の隣に座っていた(飽くまでもお飾りだが)オブザーバーであるエマ管理官に至っては衝撃で椅子から転げ落ちてしまっていた。






ジル「……何が起きた?」


オリビエ「え、ええと…あ、メイ整備班長から通信です。"無事、中尉は出撃されたし"……だそうです」



窓に目を向ければ、成る程島から遠ざかる赤い機体の姿が見て取れた。



ジル「……敵の攻撃で無いのならば、いい。パメラ、中尉にサリア達との合流を急がせろ」



…それでドラゴン共の動きも多少変わるやもしれん。

そうでなくとも、此度の戦闘はあの男の試金石とも言える物にもなる。

精々ドラゴン掃討の重要な一角となるならばそれで良し。

でなければ。






―――ただ、死ぬだけだ。




すいません一時中断します。
続きは午後辺りに投下します。

遅ればせて大変申し訳ありません。再開します。

そんな司令部の思惑はさて置き。
無事飛翔…否、着水したキョウスケは。



パメラ「―――…通達は以上です。無事の帰還を、中尉」


キョウスケ「―――アサルト1、了解」



司令室からの通信を受けつつ、サリア達と合流するべく海面を疾駆する。
やがて。



キョウスケ「……む」



レーダーに感アリ、加えて肉眼でも確認出来る…6つの光点。
間違いない、あれが………。



―――アルゼナル基地。
―――周辺・上空。







ロザリー「……に、してもよぉ。何だってこんな事になっちまったんだ……」

クリス「………、」



轟々と風が吹き付ける空を切り裂くように飛ぶ、飛行機状の物体群。
その中心には、まるで"バイク"のようなサドル、ハンドルと思しき機器が取り付けられ。
跨った少女達は手馴れた動作でそれを動かしていた。

その内の一機…黄色の機体色を持つパラメイル…"グレイブ"に乗ったロザリーは、先程からグチグチとぼやきを止めず。
その後ろに随伴する、緑色のパラメイル…"ハウザー"に乗るクリスもまた、沈痛な表情を隠そうともしない。



ヒルダ「さっきからうっさいよロザリー。何がそんなに不満なのよ、アンタ」



前を意気揚々と飛ぶはヒルダの乗る赤色のパラメイル…"グレイブ"。
機体こそロザリーのそれと同じだが、各種兵装とパーツに彼女独自のカスタマイズを施した逸品であった。






ロザリー「だ、だってよヒルダ……50だぜ50!!アタシの実力じゃ生きて帰れるかどうか…」


クリス「……それに、隊長も居ないし……」


ヒルダ「………はん」



怯え切ったロザリーとクリスの言葉に、ヒルダは鼻白んだ。
普段からゾーラの腰巾着姿勢が抜けてないからいざって時にそうなるのだ。

まあ、尤も。

クリスの言葉にだけは若干同意出来る部分はある。




ゾーラの代わりの"隊長代理"が、"あれ"じゃあねえ…。



ヒルダ「………………、」チラ








サリア「―――何。何か言いたい事でも?」






ヒルダ「…いや、べっつにぃ~。精々アタシらを稼がせて頂戴ね…た・い・ちょ・う・さ・ん」


サリア「―――っ!」


ヒルダ「おお怖…!」



刺さるようなサリアからの視線を、ヒルダはけらけら笑って受け流す。



サリア「………、」



そんな侮蔑するような態度にも関わらず、サリアは黙って臍を噛むしかない。
こういう手合いには言葉では通じない、行動を以て示せば良い。

それは、解っているのだが…。





エルシャ「そんなに気負っちゃダメよサリアちゃん。普段通りにやればきっと上手く行くわ」


ヴィヴィアン「そーそー!いつも通りグワーッとやってヴァーッと倒せば問題ナッシング!」



そんな彼女を気遣ってか。
両脇より接近した、ピンクの機体…"レイザー"に乗ったヴィヴィアンと。
オレンジを基調とした砲撃専用の…"ハウザー"に乗るエルシャがにこやかに声をかけてきた。



サリア「…あ、ありがと…」



その言葉に、ほんの少しばかり気が軽くなる。
ヴィヴィアンの言葉には少しばかり素直に頷けない一面があるが…。



ヴィヴィアン「―――あり?そういえば、キョウスケは?」

ヴィヴィアン「……あ、居た!!」





下方に視線を落せば、パラメイル編隊の後方より水しぶきを挙げ海上を進む機体の姿が一つ。
宵闇の中であって、その存在感を余す所なく発揮する紅色の装甲は見間違う筈も無く。



ヒルダ「…何よ、アレ。あんなデカいナリしてて満足に空も飛べないの?」



確か前の戦闘ではもっとこう…良くは見て取れなかったがグイグイ動いていたような気がするが。
敢えてそうしようとしてないのか、それとも前回が特別だったのか。
ヒルダの目には、眼下の巨人(といっても今は小さく映っているが)が鈍重な亀にしか見えなかった。



キョウスケ『―――…申し訳ありません副長、遅くなりました』



すると、当の本人から(音声のみだが)通信が入った。
どこまでも抑揚の無い、鉄か何かとでも会話しているような硬質な声。
紛れもなくあのキョウスケとか言う男のノーマのものであった。



ヒルダ「重役出勤とはいいご身分じゃあない?」


キョウスケ『すまんな、道が混んでてな』


ヒルダ「……はぁ?」



なんだそりゃ、洒落のつもりか。
からかってやろうとしたのはこちらからだが、余りにもらしくないその言葉に、続ける機先が削がれてしまった。
この男、ムッツリしているようでいて実は結構ノリの良い方なのか?

まぁ、どうだとしてもアタシには知った事じゃあないが。







ヒルダ「そうだ、色男。アンタ今回は下で大人しくしといてくんない?」


キョウスケ『―――…?』


サリア「なっ―――!」



突然何を言い出すのかとサリアが息を呑むが、構わずヒルダは続け。



ヒルダ「別にいいじゃん。数が多いと言っても雑魚ばかりだし、要の大型さえ仕留めれば後は楽勝だろう?」

ヒルダ「それに、あのデカいの(アルト)との連携パターンだってまだ作って無いんだろ。パワーはあるようだけど…それで万が一こちらが巻き込まれたりしちゃ堪んないわよ」



サリア「………、」



確かに、ヒルダの言う事にも一理あった。
中尉と、彼の乗る機体の戦闘能力は凄まじい物である事は以前の戦闘で解っている。
だが、それを自分達の戦術として組み込めるかと言われればそれはまた別の問題となる。

彼が何が出来て何が出来ず、そしてこちらはそれに対してどう動くか。

ただでさえ顔を合わせたのが1日と少しばかりしかないのだ。
そんな状態で、いきなりそれらの連携をスムーズに行えるだろうか。

出来るかと問われれば…返答に詰まってしまうのが正直な所であった。



ヒルダ「それとも…自信が無いのかい、隊長サン?」


サリア「―――っ」



こちらの胸の内を見透かしたような挑発に、完全に何も言えなくなってしまう。
沈黙は肯定として伝播し。



キョウスケ『…了解した』



男もそれに同意する。






ヒルダ「決まりだね。そんじゃ精々楽してなよ」


ロザリー「お、おいヒルダ…いいのかよ?」


ヒルダ「…何だよ、また何か文句あんの?」


ロザリー「そ、そうじゃねえけど…態々こっちの戦力を減らすような真似しなくてもさ…」


ヒルダ「馬鹿、考えようによっちゃチャンスだろうが。唯でさえ前はあの痛姫様と色男に邪魔されて"稼げ"なかったんだからさ」



キョウスケ「(……"稼ぐ"……?)」



一体何を"稼ぐ"というのだろうか。撃墜数の事か?
妙に喜色張ったその単語が、妙に気になる。



ヒルダ「ここで少しでもドラゴンをやっておかなきゃ、アタシはいいけどアンタ今週おけらよ。それでもいいってえの?」


ロザリー「そりゃあ…嫌、だけどさあ…」


ヒルダ「…アタシに付いてくりゃ、少しはお零れを渡してやっからさ」


ロザリー「…え。でもそれ、いいのかよ…?」


ヒルダ「…アタシの腕が信用できないっての?」


ロザリー「い、いや…!んな事はねえよ…!!」


ジロリとした視線とプレッシャーがロザリーに突き刺さる。
信用出来ない所か、"その点"においては第一中隊1、2を争う程の腕なのだ。
下から数えた方が早い腕しか持たない自分としては、口を挟む方がおこがましいと言えた。





ロザリー「わ、解った。頼むよ…オネガイシマス…」


ヒルダ「(ふん…)」



散々っぱら渋っておいてそれか。
ならさっさと了承しときゃあいい物を。
んで…。



クリス「…………、」


ヒルダ「(今度はこっちか)」

ヒルダ「……アンタはどうすんの、クリス?」


クリス「…わ、私は…」


ヒルダ「ま、ドラゴン50が相手なら尻込みする気も分かんない訳じゃあないけど…」

ヒルダ「少なくとも力を合わせりゃ切り抜けられなくも無い」

ヒルダ「でもそれには個々での実力じゃちょいとキツイ。解る、言いたい事?」


クリス「………、」


ヒルダ「稼ぎたきゃ稼がせてやるし、守って欲しけりゃそれ相応にしてやるよ」

ヒルダ「頼りになるゾーラは今はベッドでおネンネなんだ。アタシと組んどいた方が今は得だと思うけどね」


クリス「う……」



それは全くその通りであった。
ロザリーと同じように、クリスもまた大した実力もなく第一中隊の重砲兵に収まっている。
それはひとえに、隊長であるゾーラからの寵愛による物であり決して己の実力で勝ち取った物ではない。

故に戦闘における自信なぞ雀の涙。
このままいけば間違いなく……。





クリス「わ、解った……よ」



おずおずとヒルダからの提案に乗る。
そんな彼女からの返答に、ヒルダは。



ヒルダ「(単純な奴)」



と、内心でほくそ笑んだ。
二人に話を持ちかけたのは何も100%からの善意だけではない。

クリスに言った通り、50ものドラゴンを相手取ったら幾らヒルダであっても実の所苦戦は免れないだろう。

それ故に。



ヒルダ「(使えそうな奴は何でも…ってね)」



利用できる物は何でも利用する。
時には利己的に、時には利他的に。

残酷だとは思わない。
明日をも知れぬ命はこちらとて同じ、ならば少しでもソレを永らえようとして何が悪いというのか。

金も絆も、想いだろうが情けだろうが。
何もかもを売り払ってでも生き延びてやる。



それが私の流儀だ。

そして。



生き抜いた暁には……。






ヒルダ「(…おっと)」



考えに没するのはここまで。
もうじき戦闘に入る、気を抜いた挙句に撃墜なんてことになったら目も当てられない。



ヒルダ「………、」チラリ



会敵の直前。
不意に眼下が気になり視線を下げる。

海面には、馬鹿正直に一定の速度でこちらに追随する紅の機体。

根回しは一応済んだが、それでも少しばかりの懸念は残る。

こればかりはある意味どうしようも無いのだが…。



ヒルダ「―――…ま、精々こっちの邪魔にだけはならないでよね」




誰に聞こえるでもなく。
呟かれた言葉は風の音に紛れて掻き消えた。


本日はここまでです。まだフェスタ前なので油断のならない女ヒルダのまま。
…でもクロアン20話まで見るていると印象が…どうしてああなった?いやいいんだけど。

サリアンもまた、ゾーラは生きてるけども負傷中なのでここが初の隊長代理としての戦闘となります。
…でもクロン20話ry…どうしてああry…いやいい…いやちっともよくねえ。くたばれ神様。

次回は戦闘開始直後からになります。
それではこれにて。

ちなみに、第一中隊内部での「現時点での」リーゼの扱いというか印象は…。
例えば機動戦士ガンダムにおいて、"旧式だけど少数精鋭で頑張ってたMS中隊"に突然総帥辺りから。


ギレン「君達頑張ってるから新型のMAと新入隊員配備してあげるよ…"ビグザム"ってんだけど」


とかいう通達を出したもんだから。


隊員達「「「「いや、デカすぎだし少数精鋭なのにどう使えってんだよ!流れ弾当たったらどうすんだよ!!コエーよ!!!」」」」


しかも何考えてんだか解らない新人との抱合せで。
馬力はあるのは解るけど最早嫌がらせに近いぞ。
単騎で無双させりゃあよかろうけどもこちらにゃそれをさせられぬ事情もあるし。

…ってな感じ?少しばかし違うか。

はてさてどうなるか。
それでは。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月10日 (土) 14:17:59   ID: BAH89W6J

クロスアンジュと何のクロスだろうか?

2 :  SS好きの774さん   2015年01月10日 (土) 21:01:40   ID: eaFQhtpY

クロスアンジュとスーパーロボット大戦OGっていう作品よ

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