星妖精 「盗賊荒野の夜?」 吟遊詩人A (偽善者の城) (182)



オアシスの町 砂漠側出口



吟遊詩人A 「…………」


逆さ門番 「よお、旅人さん。お出かけかい」


吟遊詩人A 「…………」


逆さ門番 「おいおい、何か言えよ」

逆さ門番 「それとも、アーチから逆さに立っているような門番は信用できないってかい?」


吟遊詩人A 「…………」


モゾ モゾ


星妖精 「………ぷほぇあっ」

星妖精 「ごめんなさい、コウモリの人」

星妖精 「彼って、私に愛を囁くときと歌うとき以外しゃべれないの」


逆さ門番 「へえ、そいつはご立派だ」

逆さ門番 「おれと同じで仕事中毒ってこったね」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420063225



逆さ門番 「こっから先は海ほどひろい荒野が続く」


星妖精 「盗賊荒野といわれているところね」


逆さ門番 「東から来ればここは最後の町で、逆に西から来れば、ここは最初の町だ」

逆さ門番 「つまり、あんたがたにとって荒野の前にある最後の町ってことさ」

逆さ門番 「そんな準備不足丸出しの格好で出て行くのは、逆におすすめしないぜ」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「逆にご心配なく。私たち、こう見えて旅は長いんだから」


逆さ門番 「おいおい、そういう思い上がりが逆に危険なんだ」

逆さ門番 「この西門がどうして出口って言われているか分かるかい?」

逆さ門番 「ここから出て行く者はあれど、入ってくるものはなし、ということなのさ」




星妖精 「大丈夫。私たちは旅人だもの」

星妖精 「行きっぱなしは、こなれたものよ」

星妖精 「ねえ?」


吟遊詩人A 「…………」


逆さ門番 「………ま」

逆さ門番 「そこまで言うなら逆に止めはしないさ」

逆さ門番 「盗賊荒野の盗賊たちに、命を盗まれないよう気をつけな」

逆さ門番 「通ってよーし!」


ガコン ガラガラガラ


吟遊詩人A 「…………」


ザッ ザッ ザッ



オリジナル系
ほのぼのファンタジー系

ほのぼのなのか。期待しちゃうよ



盗賊荒野 東



サク サク サク


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「いきなり景色が寂しくなっちゃったわね」

星妖精 「これまでのオアシスの町は珍しい織物とか、顔料みたいに鮮やかな香辛料とか」

星妖精 「装飾品やら楽器の音やらで賑やかだったものね」


吟遊詩人A (目も耳も、鼻までうるさいと言っていたくせに)


星妖精 「でも、これはおとなしすぎよ」

星妖精 「遠くに山影も見えない、ひたすら続く砂、砂、砂に雲一つない空、空、空。木かと思えば岩」

星妖精 「盗賊どころか、生き物の息遣いも聞こえてきそうにないわ」




星妖精 「こんな場所でお話なんて集まるのかしら」


吟遊詩人A (どうだろうね)

吟遊詩人A (だけど、盗賊には会えるみたいだよ)

吟遊詩人A (ほら、あそこ)


星妖精 「ええっ!?」

星妖精 「どこ、どこ!?」



太陽



星妖精 「って、太陽じゃない!」

星妖精 「冗談はやめてよね」


吟遊詩人A (冗談じゃないさ)

吟遊詩人A (現に、喉のうるおいがどんどん盗まれている)


星妖精 「うん?」


吟遊詩人A (盗賊は、何も人どころか生き物ばかりとは限らないということさ)




…………






メラメラ ユラユラ

パチ パチ


吟遊詩人A 「…………」


ビヨン ボン

ポロロロロ ロロン……


星妖精 「日中進んだけど、行けば行くほど砂、砂、砂」

星妖精 「進んでいるつもりでも、ちゃんと進んでいるのかどうか実感できないって」

星妖精 「思った以上に不安で辛いわね」


吟遊詩人A (人生と似ている)


星妖精 「そうかしら」

星妖精 「……あんまり似てないわよ。こっちは立ち止まったら死んじゃうもの」




ユラユラ パチ パチ

ボォン ディロロロ


星妖精 「……でも、すごい夜空星。降り注ぐよう」

星妖精 「地平線まで色とりどりの輝くカーテンがかかっているみたい」

星妖精 「あたりに何もなくて、静かだから、余計に圧倒されるわ」


吟遊詩人A 「…………」


ジャロン ティロロ ロロロロ


星妖精 「これからは、夜を楽しみにこの荒野を進むことにしましょう」

星妖精 「うふふ……」


ヒュウウ


星妖精 「へえっくしょん!!」

星妖精 「うぅブルルッ……ひえてきたわね」


吟遊詩人A (懐に入っているかい?)


星妖精 「そ、そうするわ……」


フヨフヨフヨ

モゾ


シャルロッ亭さんかな?



モゾ ゴソ


星妖精 「ふう、あったかい」

星妖精 「……この襟の深さがちょうど良いわ」

星妖精 「顔を出しやすいもの」


吟遊詩人A (私は寒いのだけどね)


星妖精 「私が入っておくから良いじゃない」


吟遊詩人A (それもそうか)




チュイン ティヨン ジャラララ


星妖精 「……これからどうするの」

星妖精 「運がよければ30日ほどで荒野を抜けられるそうだけど」

星妖精 「運よくことを運ぶ気なんてないんでしょう?」

星妖精 「寄り道しないと面白いお話には出会えないもの」


吟遊詩人A (今回かぎりは、寄り道しない方が良いと思うよ。へたに迷えば、一生出られなくなるかもしれない)

吟遊詩人A (こうやって満点の星の下、物言わない影になって弦をはじいているだけというのも、悪いものじゃない)


星妖精 「物言わないのはいつもでしょう」

星妖精 「……でもまあ、静かな夜も良い感じよね」


吟遊詩人A 「…………」



ディロロ トロロン ロロロ



この吟遊詩人の話も久々だなぁ。期待



パチ パチ

メラメラ


星妖精 「そうそう、旅トレント……賢樹の子供から聞いたのだけど」

星妖精 「新しい町ができたそうよ」

星妖精 「魔法の糸巻きとリボンで入れる、迷宮の町ですって」

星妖精 「まだ小さいけれどけっこう人が集まっているみたい。迷宮狙いの冒険者と、商人たちが」

星妖精 「……つくったのは誰だと思う?」


吟遊詩人A (糸巻きとリボンか)

吟遊詩人A (彼女らしいのかもしれないね)


星妖精 「なんだ、知っていたの」


吟遊詩人A (知り合いの細工師の使い魔から聞いた)


星妖精 「ふうん。つまんない」

星妖精 「私の知っていることを、あなたも知っているなんて」


吟遊詩人A (一緒に旅をしているんだ。しかたないさ)


星妖精 「思うに、人間の結婚の弊害ってそれと似たようなものだと思うのよね」

星妖精 「長い時間を一緒に過ごすってことは、お互いの知らない知識を交換するのも少なくなってしまうことだもの」


吟遊詩人A (人ではなくて家族という単位になってしまうからね。別のものを見ることもなくなるのだろう)


星妖精 「無理に決まっていると思うのよ」

星妖精 「それぞれあらばらに心のある人たちが、ひとつの生き物として振舞うなんて」


モゾ モゾ




>>14

星妖精 「それぞれあらばらに心のある人たちが、ひとつの生き物として振舞うなんて」

星妖精 「それぞればらばらに心のある人たちが、ひとつの生き物として振舞うなんて」



ティウン キュイン

ポロロロロ


星妖精 「………」

星妖精 「くぁ……」


モゾ モゾ


星妖精 「じゃあ私、先に寝ているわね」


吟遊詩人A (おやすみ)


ガサゴソ モゾ


星妖精 「あったかい。うふふ、小さい妖精でよかった」

星妖精 「……ムニャ」


吟遊詩人A 「…………」


ポロン ポポロ トロロロ


星妖精 「…………」

星妖精 「……スゥ」


……

…………

ドォン!


星妖精 「!?」




星妖精 「な、何!?」


吟遊詩人A (爆発のように聞こえた。火薬の匂いもする)


星妖精 「近いのね」

星妖精 「ひとっ飛びで見てくるわ」


キロロロロロ


吟遊詩人A (万が一のこともある。私も行こう)


ザッ サッ゙ ザッ ザッ




…………



盗賊荒野 砂ゴーレム地帯



モクモクモクモク


盗賊姉 「……よっしゃ、あとかたもない!」

盗賊姉 「へっへへへ、ざまみろってんだモンスターども。特製トリカブト爆弾の力、思い知ったか」

盗賊姉 「アタイたち天下の盗賊姉妹を襲うからこうなるんだ!」


ピョーン ピョーン


盗賊妹 「…………」


??? 「……ザザ」

??? 「ザザザザザ……」


盗賊妹 「!!」

盗賊妹 「お、お姉ちゃん!」


盗賊姉 「あん?」


盗賊妹 「あそこの地面、砂が……!」


ザザザザザ


盗賊姉 「!?」

盗賊姉 「な、なんだ、砂が盛り上がって……」


ザザザザザザ

ザザザザザザ


??? 「…………」

砂ゴーレムたち 「…………」

砂ゴーレムたち 「ウガー」




砂ゴーレムたち 「…………」


ジリ ジリ


盗賊妹 「あわわわ……」


盗賊姉 「な、なんだよこいつら。爆弾で吹っ飛んだんじゃないのかよ」

盗賊姉 「ぴんぴんしてやがる!」


砂ゴーレムたち 「…………」


盗賊妹 「き、聞いたことあるよお姉ちゃん」

盗賊妹 「砂ゴーレムにつかまったら、巣に連れて行かれて脳みそのシワまで砂を詰められるって……!」

盗賊妹 「うえええん……」


盗賊姉 「泣くな妹よ。勇気と機転で針の穴くらいの活路を爆弾でこじあけるのが一流の盗賊だ」


盗賊妹 「で、でも、こんなに囲まれちゃったら……”」


砂ゴーレムたち 「…………」


ジリ ジリ ジリ ジリ

ザザザザザザ


盗賊妹 「うわああん、砂袋にされちゃうよう!」


盗賊姉 「く、くっそーー……!」


ザザザザザ




??? 「そこを通してもらえるかな」


砂ゴーレムたち・盗賊姉妹「!?」


シイン


盗賊妹 「……な、なに、いまの声」

盗賊妹 「巨大な氷ゴーレムの手でお腹の底を握られるような……」


盗賊姉 「さ、さあな」

盗賊姉 「だが見ろ、モンスターたちを」


砂ゴーレムたち 「…………」


オロオロ ウカウカ


盗賊姉 「何だか知らないがうろたえてやがる」


盗賊妹 「あいつらのボスが来たのかな」


ザザザザザ


盗賊姉 「群れが割れた」

盗賊姉 「かまえろ妹。来るぞ!」


ザッ ザッ ザッ ザッ


??? 「…………」

吟遊詩人A 「…………」




…………


パチ パチ

ユラユラ


盗賊姉 「へえ、魔王の声を盗んだのかい」

盗賊姉 「あんたもなかなかの盗賊じゃないか」


吟遊詩人A 「…………」


盗賊妹 「お、お姉ちゃん。そんなこと言ったら失礼よ」


星妖精 「盗賊なんかじゃないわ」

星妖精 「欲しくて手に入れたんじゃないんだから」


盗賊姉 「くれるつもりのないものを手に入れたんなら盗んだのと同じさ」

盗賊姉 「しかし、それでどんな魔物も一発で追い払えるようになったのは良いけど」

盗賊姉 「おかげで普段おいそれと話すことができなくなっちまうとはねえ」

盗賊姉 「はっはは。そこがアマチュアだな」




盗賊姉 「アタイらは違う。プロだからね」

盗賊姉 「世の中が不公平だってことをよーく知っている」

盗賊姉 「何かを得たら何かを失わなきゃならないなんてのは」

盗賊姉 「頭でっかちな馬鹿の妄言さ」

盗賊姉 「アタイは何かを得たからといって、何も失ったりなんかしない」

盗賊姉 「盗んで盗みまくって、得て得まくるのさ」


星妖精 「ふんだ」

星妖精 「それはあなたが気づいてないだけよ。馬鹿はどっちだか」

星妖精 「盗むたびに、あなたは心の美しさを失っているのよ」


盗賊姉 「そりゃ良いや」

盗賊姉 「そっちの方がアタイにとっちゃ綺麗に見えるさ」

盗賊姉 「というか馬鹿って言うな!」


星妖精 「馬鹿ほど馬鹿って言葉に反応するのよ!」


盗賊姉 「なんだと、馬鹿!」


星妖精 「なんですってえ!?」


ガミガミガミガミ


盗賊妹 「や、やめようよお、みんな……」


吟遊詩人A 「…………」


パチ パチ

メラメラ




盗賊妹 「妖精さん、あなたたちは、どうしてここに来たの?」


星妖精 「すごい荒野があると聞いて、何か面白い話を拾えるかと思ったの」

星妖精 「それ以外はとくにないわ」


盗賊姉 「物好きだねえ」


星妖精 「あら、じゃああなたたちはどうなの」

星妖精 「どっかで悪さして、ヘマして逃げてきたとか?」


盗賊姉 「アタイらはそんなヘマしない」

盗賊姉 「……ふむ、そうだな」

盗賊姉 「なあ、あんた」


吟遊詩人A 「…………」


盗賊姉 「アタイらと一緒に行かないかい?」




盗賊姉 「あんたらがいりゃ、モンスターも怖くない」


星妖精 「待って。行くって、この荒野を抜けるってことで良いの?」


盗賊姉 「そうさ」

盗賊姉 「ただ、ちょっとばかし寄り道はするけどね」


星妖精 「……寄り道ね」


盗賊姉 「ああ」


どこへ連れて行かれるんだか分かったもんじゃないな



盗賊姉 「この荒野のどこかに、大きな城がある」

盗賊姉 「盗賊荒野の盗賊たちが盗んだものの一切が、そこに隠されているそうだ」


星妖精 「そこに寄っていくってことね」


盗賊姉 「ああ、そのとおり」


星妖精 「つまり」

星妖精 「この荒野のどこかにあるという城に盗みに入るあなたたちを」

星妖精 「私たちが護衛しろってことね」


盗賊姉 「まあ、そうとれるかもしれんね」


星妖精 「…………」

星妖精 「どうする?」


吟遊詩人A (良いじゃないか。面白い話が拾えそうだ)

吟遊詩人A (断る手はないよ)


星妖精 「あなたって、そういうとこあるわよね」

星妖精 「……分かったわ」

星妖精 「盗賊の護衛、引き受けましょう」


盗賊姉 「へへ。そんじゃ、これからよろしく」




…………


盗賊荒野 昼



ザッ ザッ 


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……やっぱり今日も、行けども行けども砂、砂、砂」

星妖精 「生き物どころか、モンスターも出てこない」

星妖精 「本当にこんなところに城なんてあるのかしら」


盗賊姉 「間違いないさ」

盗賊姉 「なにせ、真実商の館から拝借した情報だから」


星妖精 「あきれた」

星妖精 「盗んでばかりなのね、あなた」


盗賊妹 「……盗人の荒野に黄金をはらむ城あり」

盗賊妹 「朝日の門より入れ」

盗賊妹 「空の赤リンドウをなぞり」

盗賊妹 「薔薇の化石の門をくぐれ」

盗賊妹 「最後の門はそこにある」

盗賊妹 「……情報にはそうありました」

盗賊妹 「真偽定め済みの部屋にあったので、間違いないと思います」





星妖精 「相変わらず回りくどいわよね、真実商の商品って」


吟遊詩人A (星占いからうまれた、予言に近い商売だ)

吟遊詩人A (熟達の術師ならはっきりと言葉にできるだろうけれど、数える程もいない)

吟遊詩人A (多くが抽象的になってしまうのはしかたない)


星妖精 「やっぱり、そういう技術は大衆化させるものではないわね」

星妖精 「……で、盗賊さん」

星妖精 「その情報、もちろん解読できているのよね」


盗賊姉 「まあね。こんなの簡単な方さ」




盗賊妹 「盗人の荒野。朝日の門より入れ」


盗賊姉 「朝日の門ってのは、あんたらも通っただろう町の門さ」

盗賊姉 「盗賊荒野に、朝日の出る方向つまり東から入れってことだな」


盗賊妹 「空の赤リンドウをなぞり」


盗賊姉 「空の赤リンドウってのは、ちょうどこの季節に見られる星座さ」

盗賊姉 「赤色二等星を五つ結んでできる赤リンドウ座」

盗賊姉 「これを、根にあたる星を始めとして旅人の歩きかたでなぞると」

盗賊姉 「西、北西、北西、北、西」

盗賊姉 「一日ごとに順番で、合計五日間歩けってことだな」

盗賊姉 「旅人の歩きかたに則って五日だ。だから歩幅に気をつけてなきゃいけない」


星妖精 「ここってけっこう星が多いけれど?」


盗賊姉 「盗賊の目をなめるんじゃないよ」




盗賊妹 「薔薇の化石の門をくぐれ」


盗賊姉 「これが微妙なところでね」

盗賊姉 「砂漠の薔薇のことかとも思ったが」

盗賊姉 「そのまま、石造りの門なのかもしれない」


星妖精 「ダメじゃない」


盗賊姉 「そこは臨機応変に現場で解決するんだ」

盗賊姉 「あとは最後の門だけだし」


星妖精 「……はあ」

星妖精 「それでよく今までやってこれたわね」


盗賊姉 「細かく計画をたてる奴ほど実は失敗するものさ。アタイらの仕事では」




…………



盗賊荒野 夕方



ザッ ザッ



吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……今日で五日」

星妖精 「次は薔薇の化石の門だったかしら」


盗賊姉 「ああ」

盗賊姉 「だけど……」


盗賊妹 「……どこにもないね、それらしいもの」


星妖精 「相変わらず砂、砂、砂だらけ……」


ザッ ザッ


吟遊詩人A 「…………」


ザッ……


星妖精 「?」

星妖精 「どうしたの、急に立ち止まって」


吟遊詩人A (……いや)

吟遊詩人A (暗くなってきたね)


星妖精 「ええ。このまま何も見つからないまま明るくならないと良いけど」




星妖精 「でもまあ、盗賊の仕事が駄目になるのは喜ばしいことなのかしら……」


カラカラカラカラ


星妖精 「……ん?」


盗賊妹 「ひっ……」


盗賊姉 「車輪の音。馬車だな」

盗賊姉 「こんなところでいきなり……」


カラカラカラカラ


吟遊詩人A 「…………」


カラカラカラカラ



骨馬車



盗賊姉 「何だあれ。骨の馬が馬車をひいてるぞ!?」


盗賊妹 「ゆ、幽霊馬車……!?」

盗賊妹 「ど、どうしようお姉ちゃん。こっちへ来るよ」


盗賊姉 「え、ええい、落ち着け妹よ」


カラカラ カラカラ

カララ


星妖精 「……とまった」




??? 「…………」


星妖精 「無人ではないみたいね。でも……」


??? 「…………」

薔薇御者 「…………」


星妖精 「人でもないみたい」

星妖精 「人の形をした薔薇の木が、紳士の格好を真似ている」


薔薇御者 「…………」


ザワザワ バキ パキ


盗賊妹 「ひっ……」


盗賊姉 「怯えるな妹よ。怯えると目がくもっちまう。大事なものが見えなくなっちまう」


星妖精 「顔? ……を、こちらに向けたのかしら」


薔薇御者 「…………」

薔薇御者 「旅人……で、ございますか」


星妖精 「……喋った」


こっちもあっちもそっちも待ってるよ



薔薇御者 「お運びいたしましょうか」


吟遊詩人A (君のお仲間かい)


星妖精 「うーん……」

星妖精 「ううん。こんな刺々しい妖精、しらないわ」


薔薇御者 「……お運び、いたしましょうか」


盗賊妹 「ば、馬車に乗せてくれるのかな」


盗賊姉 「まさか霊柩車ってんじゃあないだろうな」


星妖精 「ありえるかもね、黒いし」




薔薇御者 「お運び、いたしましょうか」


盗賊妹 「この御者、同じことばかり言ってくるよ。何か答えないといけないのかな」


盗賊姉 「あー……」

盗賊姉 「お気遣いいたみいるけどね、薔薇の紳士どの。どこに運んでくれるってんだい?」


薔薇御者 「お運び、いたしましょうか」


バキ パキパキ

ガザザザザ


星妖精 「腕が何本も、急成長する枝みたいに伸びて……!」


盗賊姉 「くるぞ、よけろ!」


ブン ブン ブオン


盗賊妹 「わっ、わわ、わっ」


星妖精 「もう、いきなり攻撃なんて失礼ね!」

星妖精 「茨の鞭なんて、そんなんだから馬車馬も骨になっちゃうのよ!」


薔薇御者 「お運びいたしましょうか」

薔薇御者 「ご主人様も、それを望んでいらっしゃる」


ヒュン ヒュン ブオン


星妖精 「ほっ、はっ、よっ……!」

星妖精 「お気遣いといっても」


盗賊姉 「ああ、アタイたちを気遣ってるってわけじゃあなさそうだっ」



薔薇御者 「お運びいたしましょうか」


ギュルル ギチギチ ブオン


盗賊妹 「きゃあっ!」


盗賊姉 「!!」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「たいへん、妹の方の盗賊が捕まっちゃったわ」

星妖精 「ねえA、あなたの声で何とか……」


盗賊姉 「妹を離せこのやろォ!」


ザ タタタ


星妖精 「ああっ、だめよ、そんな無闇に突っ込んじゃ……」


盗賊姉 「てやあああああ!」


薔薇御者 「歓迎いたします、旅人さま」


バチン


盗賊姉 「きゃっ……!」


盗賊妹 「お姉ちゃん!」


星妖精 「そらみたことか。短剣なんか簡単にはじかれちゃって!」




ギュルルル


盗賊姉 「うわっ、離せ、離せこの……!」


星妖精 「二人とも捕まっちゃった……」


薔薇御者 「収穫、収穫でございます」

薔薇御者 「ご主人様にお運びする旅人と、今日はよく出会う」


ギチ ギチ


盗賊姉 「くそっ、くそっ……!」


盗賊妹 「え、えいっ、えいっ……!」

盗賊妹 「ダメだよお姉ちゃん。こいつ、切りつけた先から傷が塞がる!」


盗賊姉 「何だってんだよ、この薔薇の……っ」

盗賊姉 「薔薇……?」


ギチ ギチ



星妖精 「A、声よ、声であの薔薇のモンスターを撃退して!」


ギュルルル ギチチ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「あっさり捕まっちゃってどうするの!!」




薔薇御者 「旅人さまは、これで全部でしょうか」


ギチギチギチ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ちょっと、もっと優しく縛ってくださらない。他の人たちと違って、私、小さいんだから」


盗賊妹 「お姉ちゃあん……」


盗賊姉 「なさけない声をだすな妹よ」

盗賊姉 「気分は最悪だが、じつは、事態はそんなに悪くないかもしれない」


盗賊妹 「?」


星妖精 「あら、この状態から抜け出す良い方法でもあるの」


盗賊姉 「抜け出す必要もあるのかどうかってことさ」

盗賊姉 「薔薇の化石の門が、わざわざやってきてくれたとしたら」




星妖精 「化石どころか育ち盛りじゃない、腕とか」


盗賊姉 「ささいなことさ」

盗賊姉 「おい、妹よ。じっとしてろ」


盗賊妹 「う、うん……」


吟遊詩人A 「…………」


薔薇御者 「……旅人さま、お運びいたします」

薔薇御者 「馬車内では少々揺れることもありますので、お気をつけて」


ガチャ 

ブン


盗賊妹 「きゃあっ」


ドシャ


盗賊姉 「うわっ」


星妖精 「いたた。あーあ、落ち葉みたいに仲良く骨の馬車に放り込まれちゃって」


吟遊詩人A 「…………」




骨馬車



カララ カララララ


星妖精 「動き出した……」


盗賊妹 「すごいよ、お姉ちゃん」

盗賊妹 「ここ、貴族の部屋みたい。大きなベッドに敷物、お菓子にお茶もある」


盗賊姉 「馬車の中とは思えない広さ。魔法の馬車ってやつだね」

盗賊姉 「へたな貴族も手を出せない高級品。しかも中に置いてあるものも高価そうなものばかり」

盗賊姉 「持ち主はそうとうお高い身分のやつだろうさ」

盗賊姉 「たとえば、城ひとつ持っててもおかしくないようなね」


星妖精 「城ね……」

星妖精 「あなたは何か感づいていたの?」


吟遊詩人A (こっちの方が面白そうだと思っただけさ)


星妖精 「どうだか」




…………


カララララ カラララ



奴隷少女 「お屋敷の仕事が辛くて逃げ出したの」

奴隷少女 「ガルムの群れに捕まらないよう必死に走っていたら、いつの間にかこの砂漠にいたわ」


井戸掘り 「夜の砂嵐に捕まってもうだめかと思ったら、あの御者に助けられていたよ」


ろうそく職人 「師匠、勇者さまー、どこですかあ! ……乗る馬車、まちがっちゃいましたかね」


作家 「城から不思議な歌声が聞こえたと思ったら、都にモンスターが押し寄せてきた」

作家 「私は逃げ遅れ、もう駄目かと思ったら何故かここにいたの」


ザワザワ


盗賊妹 「いつの間にか、人がたくさんになっちゃったね」


盗賊姉 「うーん、砂漠にこんなに人がいたってのか?」




星妖精 「ね、ねえ、見て見て窓の外。夜空が……」


吟遊詩人A (そんなに身を乗り出したら危ないよ)

吟遊詩人A (……真っ黒だね)


星妖精 「気味が悪いわ。雨が降ってるわけでもないのに、昨日まであったおびただしい数の星が今は一つもないなんて」

星妖精 「地平線の向こうまで真っ暗。星のない砂漠が、こんなにも悲しいなんて」


??? 「さあて、ないのは星だけかな」


星妖精 「?」


??? 「外は真っ暗闇というだけで」

鬼角侍 「昼か夜かは分かっていないということだ」




星妖精 「あら。真っ暗闇なら夜じゃないの、二本角の剣士さん」


鬼角侍 「もしも太陽が盗まれたとしたら、たとえ昼でもこんな風に真っ暗闇になるのではないか」

鬼角侍 「と言いたいのだ、おれは」


星妖精 「太陽を盗むなんて。明星より途方もなく罪深いことを誰がするっていうの」


鬼角侍 「はっはっは! 違いない」

鬼角侍 「しかし、この大砂原のすべてを盗む大盗賊の城が、やはりこの大砂原にある」

鬼角侍 「という話を伝え聞いてな」

鬼角侍 「馬鹿者なりに、おかしなことも考えてしまったわけだ」


星妖精 「ふうん……」




星妖精 「この砂漠から盗まれたのは昼か、はたまた夜か、か……」

星妖精 「まあ、何もないんじゃ昼でも夜でもおんなじよね」


鬼角侍 「いやいや、同じではないぞ」


星妖精 「?」

星妖精 「なあに、急に真面目な顔して」


鬼角侍 「真昼間から飲む酒と夜に飲む酒とでは、天と地ほどに違うからな」

鬼角侍 「はっはっは!」


星妖精 「ああ、そう……」




鬼角侍 「ところで、そちら」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「芸人と見受けたが」


星妖精 「まあ、ええ、そうよ」


鬼角侍 「おお。では、妖精つきの歌うたいということか」

鬼角侍 「さぞ素晴らしい歌を持っておるのだろうなあ」


星妖精 「集めてはいるけど、歌えないの」


鬼角侍 「ほう? これはおかしな」


星妖精 「彼、人前で声を出せないのよ。演奏なら誰にも負けないけど」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「そうか。うむ……すまんな、立ち入るべきではなかった」


星妖精 「お気遣いありがとう。だから気にしないでと言っておくわ」

星妖精 「こう見えてけっこう楽しんでいるの、私たち」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「はっはっは! それは良い」





星妖精 「……ねえ」

星妖精 「この馬車って、やっぱりお城に向かっているのかしら」

星妖精 「黄金をはらむっていう」


鬼角侍 「ああ、その通り、城行きだ」

鬼角侍 「しかし、黄金をはらむか。それは初耳だ」


星妖精 「あら、そうなんだ?」


鬼角侍 「あまねく砂の海原にて、差し出される茨の手」

鬼角侍 「恐れずその手をとることあたえば、もれなく、大盗賊の城へ道はひらかれる」

鬼角侍 「……おれはそう聞いた」


星妖精 「私たちの聞いた話と違うわね」

星妖精 「朝日の門から入ってあれやこれやで黄金をはらむ城、だもの」


吟遊詩人A (しかし、同じものをさしているのだろうね)

吟遊詩人A (同じものを見ても、思うこと、伝えかたは人それぞれということだろう)


星妖精 「ふうん」


鬼角侍 「はっは、なるほど良いことを言う」


星妖精 「!?」




星妖精 「あなた、この人の言うことが聞こえたの?」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「なんだ、やはり歌うたいどのの言葉だったか」

鬼角侍 「同じものを見ても思いや伝え方は人それぞれ、だったか」


星妖精 「……聞こえてるわね」

星妖精 「どういうことかしら。魂で繋がった私にしか聞こえないはずなのに」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「そうか。ふむ、不思議なこともあるものだ」

鬼角侍 「……おれはこの刀一本で旅をしているが、ときにこの世ならざるものの声を聞くこともある」

鬼角侍 「これもそういうことのうちなのだ」

鬼角侍 「と、納得しておくこととしよう」

鬼角侍 「はっはっは!」


星妖精 「う、うーん……」




カラララ カラカラカラ



鬼角侍 「ほう、魔王の声か」

鬼角侍 「普通に話せば人を恐れさせ魔物も遠ざけ、歌えば魔物を呼び寄せるとは」

鬼角侍 「いや、なかなか不便そうだ」


星妖精 「さいわい、私とこの人は意思疎通できるのだけどね」


鬼角侍 「魔法の会話、というものだったか」


星妖精 「ちょっと違うわね」

星妖精 「他の魔法使いの人と魔法の会話を試してみたことがあったんだけど」

星妖精 「そのときも、魔王の声の効果はあらわれたし」


鬼角侍 「ほう」

鬼角侍 「無口な翼腕の種族、ハルピュイアといったか、あれとはどのようにしても意思疎通ができないのだが」

鬼角侍 「似たようなものか」




星妖精 「あれはまた特別というか、分かっていないことが多いんだけど」

星妖精 「確かに、少し工夫したぐらいでどうにかなるわけじゃないところは、そうかしらね」


鬼角侍 「ふむ。だとしたら、おれが歌うたいどのと意思疎通できるのは……」


星妖精 「ええ、とても驚くべきことなのよ」


鬼角侍 「まれにみるラッキーということだな」

鬼角侍 「はっはっは!」


星妖精 「はあ……」




鬼角侍 「しかし、この砂原のすべてを盗む大盗賊の城か」

鬼角侍 「どうなのだろうな」


星妖精 「何が」


鬼角侍 「いやな、すべてを盗まれた場合、いったいそこに何が残るのだろう」


星妖精 「何も残らないんじゃないの?」


鬼角侍 「そうなのだろうが」

鬼角侍 「太陽や月を盗まれて、昼も夜もそういったものがすべてなくなってしまったら」

鬼角侍 「まあ、たとえば今のようなときを、どう呼べば良いのだろうな」


星妖精 「さあ。新しい呼び方ができるんじゃない?」


吟遊詩人A (それも盗まれてしまうと考えると、きりのない話だ)


鬼角侍 「はっはっは! まったくだ」

鬼角侍 「酒のさかなにはもってこいだな!」

鬼角侍 「さかなが尽きないなら酒も尽きないということだ」

鬼角侍 「はっはっはっはっ……!」


星妖精 「飲みすぎて首をとられないよう気をつけるべきね」




…………


ワイワイ ガヤガヤ

カチャカチャ


ドラゴニュート 「はむっ、はむっ……まあ、おいしい!」


手乗りドラゴン 「ひ、姫様、そんな下品な食べ方はおやめください」

手乗りドラゴン 「これ、お前たちも姫様を……」


リザードマンA 「ああ、最高だぜ! バクバク」


リザードマンB 「ああ、やめられんぜ! モグモグ」


手乗りドラゴン 「やれやれ……」


ゴトゴト カチャカチャ


星妖精 「……不思議よね。決まった時間にどこからともなく食べ物が出てくる」

星妖精 「本当に決まった時間かは分からないけれど」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「警戒して手をつけない人の方が多かったけど」

星妖精 「逆転しつつある……」


鬼角侍 「ゴクッゴクッゴクッ……うまい!」

鬼角侍 「いや、砂漠の酒もなかなかいけるな!」


ハハハハハ ドワハハハ


星妖精 「……真っ先に飛びついたわよね、あの人」

星妖精 「あの辺、宴会みたいになっているし……」




盗賊姉 「食べないのかい、妹よ」


盗賊妹 「だ、だって、こんなの絶対罠だよ」

盗賊妹 「こんな風に食べ物が出てくるなんて、おかしい。あやしい」


盗賊姉 「ああ、そうだな……」


星妖精 「何回か食事は出て、食べた人はどうもなっていない」

星妖精 「でも、用心するにこしたことはないわね」


吟遊詩人A 「…………」


コツ コツ コツ


??? 「……やあ、いや」

三白眼 「良いですね、あなたがた」




星妖精 (いやあね。黒づくめの紳士って不吉な感じ)

星妖精 (帽子の下の顔も、骨みたいに白い)


吟遊詩人A (言葉に出さなくなったのかい。成長したね)


盗賊妹 「お姉ちゃん……」


盗賊姉 「ひいていろ、妹よ」


三白眼 「……おや、怖がらせてしまいましたかね」

三白眼 「私は混じりけなしに、あなたがたを褒めているつもりですよ」


盗賊姉 「そりゃどうも」

盗賊姉 「だがそういうもんは、よそのお偉い方々に恵んでやってくれ」

盗賊姉 「なにせアタイたちは」


三白眼・盗賊姉 「親に褒められるのも迷惑なもんで」


盗賊姉 「…………!」

盗賊姉 「あんた……」


三白眼 「やあ、いや、失礼。仕事柄、そういうことが得意でして」




三白眼 「いけない、いけない」

三白眼 「休暇だというのに、悪い癖だ」


盗賊姉 「預言者の類ってわけかい」


星妖精 「じゃなかったら言葉泥棒かしら」


三白眼 「やあ、いや、そんな大層なもんじゃありゃしません」

三白眼 「ただの、使いっぱしりのプロンプター」

プロンプター 「セリフを忘れた演者に助け舟を出すことを生業にしております」


星妖精 「あら、演劇関係の人」


星妖精・プロンプター 「どちらかというと、こちらのご同業だったのね」


プロンプター 「おや、そちらも。いや、うすうす分かっていましたが」


星妖精 「……やな感じ」


プロンプター 「申し訳ございませんね。仕事に熱心なもんで」

プロンプター 「いけない、いけない、今はただの旅行者」

三白眼 「仕事なんか忘れて、楽しまなくては」




盗賊姉・妹 「…………」


三白眼 「やあ、どうも本格的に警戒させてしまったようだ」

三白眼 「時間を置きましょう。物事が良くなっていることもある」

三白眼 「……あなた」


盗賊妹 「!」


三白眼 「良いですよ」

三白眼 「物事は疑ってかからなくては。理由のわからない親切を受けるなんてもってのほか」

三白眼 「とくに、これから向かうところはね」


盗賊姉 「妹を」


盗賊姉・三白眼 「怖がらせるんじゃないよ」


盗賊姉 「…………」


三白眼 「おや」


盗賊姉・三白眼 「これは失礼」


三白眼 「……一本とられてしまった」


盗賊姉 「ふんっ……」


三白眼 「では、失礼いたします」

三白眼 「そちら様も」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ええ、良い休暇を」


三白眼 「やあ、いや、これはありがたい」



コツ コツ コツ コツ


……




星妖精 「変なのによく会うわね」

星妖精 「今回の旅は当たりだったかしらん」


吟遊詩人A (さあ、どうだろう)


カララララ

カラララララ

ガコン


盗賊妹 「!!」


星妖精 「……馬車が止まった」

星妖精 「窓の外は……何もないわね」


カシャン パリン

バラララ カリィン コォン


星妖精 「何かが崩れる音。外からね……」


吟遊詩人A 「…………」





鬼角侍 「どれ」


ツカ ツカ ツカ


桃髭ドワーフ 「おい、あんた、まさか外に出るんじゃないだろうな」


鬼角侍 「馬車がとまったなら出ろということだろう」

鬼角侍 「出るほかあるまい」


桃髭ドワーフ 「よせ、危ないぞ」


手乗りドラゴン 「そうですぞ。ここは慎重に考えませんと」


ザワザワ ドヤドヤ


鬼角侍 「はっはっ! 心配するな。おれはたしかに馬鹿者だが」

鬼角侍 「信じたくないものの出した飯など、はなから食っておらんよ」


木偶人形 「なに言っとるんだ、あんた」


雪幼女 「飯よか酒ばっか飲んどったじゃろー、あーた」


鬼角侍 「はっはっは!」


ツカ ツカ ツカ

バタン


星妖精 「行っちゃった」


盗賊姉 「へへへ、ああいう馬鹿がいてくれると助かるぜ」




カチッ コチ

カチッ コチ


時商人 「……うーむ、けっこう時間がたったぞ」

時商人 「何の音沙汰もないのは……」


吟遊詩人A (窓から、彼の姿は見えたかい?)


星妖精 「いいえ……」


乗客たち 「……ゴクリ」

乗客たち 「…………」


ガチャ


乗客たち 「!」


ヒョコ


鬼角侍 「…………」

鬼角侍 「どうした、待っておるのに誰も出てこんではないか」

鬼角侍 「言っておくが、御者が扉を開けるのを待っておっても無駄だぞ」

鬼角侍 「彼はいまたいそう忙しい」




盗賊荒野 移動馬車置き場



ゾロゾロゾロ


井戸掘り 「ういしょっ、と」

井戸掘り 「おお、こりゃあ……」


薔薇と骨の門


星妖精 「茨と、馬の骨が絡み合うようにして門のかたちに……」

星妖精 「この馬車の御者と馬車馬でできているのね」


盗賊妹 「お姉ちゃん、もしかして……」


盗賊姉 「ああ。きっとこれが二つ目の門だ」


ドラゴニュート 「手乗り、これは……」


手乗りドラゴン 「はい、姫様。これこそ、このあかずの書に記されし」

手乗りドラゴン 「太陽を食らいし都を守る、屍の門」


鬼角侍 「大盗賊の城まであと少しといったところか」


乗客たち 「おおお……!」


ゾロゾロゾロゾロ





星妖精 「まさか、門の方が訪問者を訪問してまわっていたとはね」


吟遊詩人A (そういうこともあるさ)


星妖精 「さてさて、門の向こうで何が待っているのやら」


吟遊詩人A (ずいぶん楽しそうだ)


星妖精 「妖精って、何が入っているか分からない箱を開ける瞬間が好きなものよ」


盗賊姉 「いいか、アタイのうしろにいて、危ないと思ったら逃げるんだよ」


盗賊妹 「う、うん……」


ゾロゾロゾロ




ガコン ギイィ……


乗客たち 「……うわっ!?」


星妖精 「きゃっ……」

星妖精 「門の向こう、すごい光。目が潰れちゃいそう……」


ドォン


盗賊妹 「ふわぁあ!?」


星妖精 「今度はお腹の底を殴りつけてくるようなすごい音……っ!」



盗賊荒野の城 城市 巨大門前



ズン ヒュルルル

……ドォン パラパラパラパラ 

ズン ヒュルルル……


盗賊姉 「花火……」


星妖精 「星がいっぱいの夜空に打ち上がる花火、地に降った太陽みたいに明るい、空にのびる都」

星妖精 「さっきまで砂の色まで消えて、月のない凪の海原のようだったのに」

星妖精 「別世界に来たみたい」




向こうに出てきた三白眼どっかで見たことあると思ったらここか

待ち



ドォン パラパラパラ


盗賊妹 「綺麗な花火。私たちを歓迎しているみたい」


盗賊姉 「やめろ妹よ、歓迎だなんて。盗む気が失せちまう」

盗賊姉 「……だが、へへへへ、こりゃあ盗みごたえのありそうな城だぜ」


星妖精 「まったく、この人……」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ねえ。目の前の盗賊たち、放っておいて良いの?」


吟遊詩人A (それは、門の向こうの人たちの仕事で良いんじゃないかな)


星妖精 「……それもそうか」

星妖精 「こういう堅いとこ、私って旅人に向いていないのよね」




ドォン ドォン

パラララ


盗賊妹 「でも、ねえ、お姉ちゃん。何か嫌な予感もする」

盗賊妹 「あの門をくぐるの、怖い……」


盗賊姉 「ああ、そりゃあただの間抜けな貴族の城ってわけじゃないだろう」

盗賊姉 「注意は怠るなよ。アタイと離れないように」


盗賊妹 「うん……」


三白眼・盗賊妹 「絶対はなれない」


盗賊妹 「!? きゃあっ!」


三白眼 「いや失礼、また驚かせてしまった」


星妖精 「唐突に現れるわね、この人……」




盗賊姉 「あんた……!」


三白眼 「おやまあ、時間を置いても良くなっていないようで」


盗賊姉 「何千時間たとうが、あんたとお近づきになりたくなんかならないね」

盗賊姉 「さっさとアタイたちから離れな。でなきゃこのナイフで体に教えることになるよ」


三白眼 「寂しいことだ。ともにこの世に生きているということで、私たちは十分お近づきになっているでしょうに」

三白眼 「分かりました。ひきさがりましょう」

三白眼 「ですが、良いですよ、あなたたち」


盗賊姉妹 「…………」


三白眼 「疑うことです。ここではみんな疑うことです」

三白眼 「疑うということは、考えるということ」

三白眼 「何を信じたら良いのか、他人の頭を使わずに自分の頭でしっかりと考えることです」

三白眼 「門の向こうの、正しい名前を知っていますか」

三白眼 「偽善者の城です」

三白眼 「では、お先に」


ザッ ザッ ザッ





盗賊荒野の城 城市 巨大門



ドン ドオン パパラパラ

ワイワイ ガヤガヤ


盗賊妹 「偽善者の城……」


盗賊姉 「まだ考えているのか。あんな野郎の言うことなんか忘れちまいな」

盗賊姉 「それこそ、信用ならないやつさ」


盗賊妹 「う、うん……」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「門番も置いていないなんて。ここまで警戒されないと、馬鹿にされているようにも思えるわね」

星妖精 「……あら、あそこ」


逆さ娘 「…………」


星妖精 「……門のアーチのとこ、誰かぶら下がっているわ」

星妖精 「うーん、遠くてよく見えない。たぶん女の人みたいだけど」


吟遊詩人A (座っているようにも見えるね。逆さ向きに)


星妖精 「あれが門番? 逆さ向きの門番がはやっているのかしら」


吟遊詩人A (服装や、そばに吊るしている荷物を見るに、旅人のようだ)


星妖精 「ふうん。目が良いのね、私より……」




城市 門前広場



ザワザワ ワイワイ


ドラゴニュート 「クンクン……」

ドラゴニュート 「ああ、このにおいは焼いた何かしらのお肉だわ。ジュージューと旨みはじける分厚い何かしらのお肉とペッパー……」

ドラゴニュート 「あっちの道ね!」

ドラゴニュート 「お肉、きゃ~~~!」


スタタタ


手乗りドラゴン 「お、お待ちください、姫様ーー!」

手乗りドラゴン 「これ、お前たち、わしを乗せて姫様を追いかけ……」


リザードマンA・B 「きゃ~~~!」


手乗りドラゴン 「ああっ、わしを置いていくなあ!」


ワイワイ ザワザワ


星妖精 「砂色の壁に色鮮やかな布を渡す、積み木みたいに重なった家」

星妖精 「きのこみたいに伸びる、不思議な形の屋根の白い塔……ごみごみした小さな砂漠の都って感じ」

星妖精 「門の外から見たときほど、大きくは感じないわね」


吟遊詩人A 「…………」


露天商 「どうだい、この剣。あんたの腰のやつの、きっと五倍は良いものだよ」


桃髪勇者N 「ふむ……おや、これはいつか捨てたはずの……」


ガヤガヤ ワイワイ


星妖精 「お祭りってわけでもなさそうだけど、にぎやかね」

星妖精 「建物が縦に積み重なっている上に、道が狭いから余計にそう感じるのかしら」





城市 西区 看板柱



看板職人 「この城市の人間は、たくさんの看板がついたこの柱を看板の木って呼ぶんだ」

看板職人 「都中の店の場所が、この看板柱一本で丸分かりさ」

看板職人 「店を出すならオレに言ってくれ。とびっきりの看板を四つつくってやるよ」

看板職人 「たくさんの人の目に触れるものだからな。自作なんて無理せず職人にまかせるべきだ」

看板職人 「まけとくぜ。何ならタダでも良い」


ガヤガヤ


盗賊姉 「よっ、と。登りやすい木だぜ。しかも盗み先の情報までたくさん集まって、まさに金のなる木ってやつだ」

盗賊姉 「へへへ、さあて、お宝をたっぷりためこんだっていう城はどこかな」


盗賊妹 「うーん。このくらいの高さじゃ、どこに城があるか分かりにくいね……」


ガヤガヤ


星妖精 「……ああ、もう。大声で泥棒って叫びたい」


吟遊詩人A 「…………」




星妖精 「せめて目の届かないところでやってほしいわ」

星妖精 「悪いことするための情報収集なんて」


吟遊詩人A (まあまあ)

吟遊詩人A (私も、仕事を始めよう)


星妖精 「はいはい」

星妖精 「……お客さん、集まると良いわね」


吟遊詩人A 「…………」


ジャラン

ポロン ポロロロ

ディロロロロロ




吟遊詩人A 「…………」


ポロン ジャラララ ビョイン

ティロティロ コイーン ジャララン


商人A 「へえ、良い演奏じゃないか」


商人B 「妖精つきの芸人に外れはないというが、これはなかなか……」


青年A 「本当に感動するなあ」


青年B 「本当に鳥肌がたつなあ」


ワラワラ


ポロン ポポロン



雪幼女 「……ほや」

雪幼女 「何じゃ、あの人だかりから良い音がする」


鬼角侍 「ほう……」


雪幼女 「うーむ、近くで聞きたいんじゃが」

雪幼女 「押しくらまんじゅうは苦手じゃのー。困ったのー……」


ディロロロ ロン ポロロロロロ……




吟遊詩人A 「…………」


ジャラン


観客たち 「…………」

観客たち 「おお……!」


パチパチパチパチ

パチパチパチパチ


星妖精 「みなさま、ありがとうございます、ありがとうございます」

星妖精 「それでは、ここで私も手品をひとつ」

星妖精 「ひょいと拝借したこの吟遊詩人の帽子」

星妖精 「ひっくり返すと……」


クルリ


星妖精 「お金のたまる袋に早変わり」


ワハハハ……

ポイ ポイ チャリン チャリン


星妖精 「ああ、お優しい皆様。心づくしありがとうございます、ありがとうございます」

星妖精 「願わくば、あと少しだけ尽きませぬよう」


フヨ フヨ フヨ

ワハハハ パチパチパチ チャリン チャリン


盗賊妹 「良い演奏だったね、お姉ちゃん」


盗賊姉 「……ああ」




コツ コツ コツ


??? 「…………」


観客たち 「………!」


ザワ ザワ


??? 「…………」


星妖精 「……あら? 静かになったと思ったら」

星妖精 「人垣が割れて、誰か出てきたわ」

星妖精 「見るからに身分の高そうな、若い人」


吟遊詩人A 「…………」


??? 「…………」

殺人王 「いやあ、素晴らしいなあ……!」


パチ パチ パチ パチ




殺人王 「私はこの城の主。散歩の途中で、あなたがたの素晴らしい演奏を耳にしました」

殺人王 「新しくやってきた旅のかたですね」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ええ、そうですわ王さま」

星妖精 「私は妖精の星妖精。こっちは、口なしの吟遊詩人A」

星妖精 「お声をかけていただけるなんて、光栄のかぎりです」


殺人王 「これはご丁寧に」

殺人王 「こちらこそ、あなたがたと出会えて良かった。出向いた先で妖精つきに会えるなど」

殺人王 「巡り神というものを信じたくなります。美しいリャノーン・シー」


星妖精 「おほほほほ……」

星妖精 (高慢ちきな立場と服のわりに、良い人のようね)


吟遊詩人A (そのようだ)




殺人王 「それで、実はお願いしたいことがあるのですが」


星妖精 「あら、何でしょう王さま」


殺人王 「私たちの城に来ていただけないでしょうか」

殺人王 「ほかの王たちにも、あなたがたの素晴らしい演奏をきかせてあげたいのです」

殺人王 「一番のお客様としてもてなします」


星妖精 「まあ、何という嬉しいおはなし」

星妖精 「でも、王さまは他にもいらっしゃるのですか、王さま」


殺人王 「ええ。この城には、私のほかに三人の王がいます」

殺人王 「私たち四人で、この城と民を見守っているのです」


星妖精 「まあ、それはそれは」


殺人王 「みなこの城の大切な民。四人では足りないくらいです」

殺人王 「どうでしょう。来ていただけますでしょうか」


星妖精 (どうしましょうか、A)


吟遊詩人A (断る理由も無いね)


星妖精 「はい、喜んで」


殺人王 「それは、ありがたい」




青年 「おお、王さま直々のお招きだ」


豚耳娘 「素敵な演奏だものね。あの王さまに誘ってもらえるなんて、うらやましいわ」


パチパチパチパチ ワイワイ


星妖精 (ここの王さまは、ずいぶん慕われているみたいね)


吟遊詩人A (良いことじゃないか)


殺人王 「……上のおふたかた!」


星妖精 「? 上って……」



…………


盗賊姉 「……やべ、目をつけられたぞ」


盗賊妹 「ど、どうしようお姉ちゃん」


…………



殺人王 「……あなたがたも、新しくやってきたかたがたですね!」

殺人王 「いかがでしょう、私たちの城に来ませんか?」

殺人王 「一番のお客としてもてなします!」


星妖精 「ちょ、ちょっと、いえ……あの人たちは……」


殺人王 「良いのです。これもめぐり合わせ」


吟遊詩人A 「…………」


ワイワイ

パチパチパチ




偽善者の城 広間



ジャララ ポロン ディロロロロ

ワアア パチパチパチパチ


…………


最古の王 「……いやあ、ありがとう詩人どの。素晴らしい演奏でした」


星妖精 「これは王様、ありがたいお言葉ですわ」

星妖精 「しかもこのような豪華なお料理に、部屋まで用意していただいて」


最古の王 「我らはお願いして、城の中ではお目にかかれないものをいただくのです。当然のこと」

最古の王 「さあ、無礼講。遠慮なく食べて、飲んでください」


星妖精 「ありがとうございます。では思い切り飲み食いさせていただきますわ」


ガツガツ ペロリ ガツガツ ゴクゴク


最古の王 「やあ、元気な妖精さまでらっしゃる。ほほほ……」




カチャ キン カチャカチャ ワイワイ


食人王 「君は不思議な魔法が使えるね、尻尾の多い娘。とても楽しかったよ」

食人王 「しかもチョコレートと言ったっけ、とても美味しい食べ物まで持っている」


ろうそく職人 「ムシャムシャ……むふっ……はい、師匠からも、自分にはもったいないよくできた弟子だと常日頃から暇さえあれば言われております」


処刑王 「この花の咲く銃は、君がつくったのかね」

処刑王 「こういうものは、正しく動かなくなって久しいと聞くが……」


桃髭ドワーフ 「さよう。ほとんど魔法の力で動くように組み立てておる」


手乗りドラゴン 「これ姫さま、はしたないですぞ」

手乗りドラゴン 「姫として、食べてばかりいないでこの城の王たちと話を……」


ドラゴニュート 「でも手乗り、とてもおいしいんですもの、この何かしらの植物!」


リザードマンA 「この肉も止められんぜ!」


リザードマンB 「この魚もやめられんぜ!」


ガツガツ ムシャムシャ


手乗りドラゴン 「はあ……。一国の姫ではなく、大食い芸人として招かれるとは」

手乗りドラゴン 「王さま、王妃さま、申し訳ありませぬ。よよよ……」


ワイワイ カチャカチャ


星妖精 (私たちのほかにも、お呼ばれした人たちがいるのね)

星妖精 「でも……」


盗賊姉 「…………」


盗賊妹 「…………」


星妖精 「……良かったのかしら」


吟遊詩人A 「…………」



盗賊妹 「ね、ねえお姉ちゃん」

盗賊妹 「やっぱり駄目だよ。こんなとこにいちゃ……」


盗賊姉 「びくびくするな妹よ」

盗賊姉 「労せず城に入れたじゃないか」


ヒソヒソ


殺人王 「やあ」


盗賊妹 「ひゃっ!?」


盗賊姉 「!」


殺人王 「楽しんでいただけていますか」

殺人王 「あまり料理に手をつけていないようですが……」


盗賊姉 「……あ、ああ」

盗賊姉 「ふん、悪いね、見たこともないような豪華な食事で、戸惑ってるところだよ」

盗賊姉 「育ちがよろしくないもんでね」


盗賊妹 「お、お姉ちゃん、そんなに刺々しい言いかた……」


殺人王 「育ちに良いも悪いもありません」

殺人王 「暑いところで生まれたか、寒いところでうまれたか、その程度のこと」


盗賊姉 「…………」




殺人王 「何か興味をひかれるものはありませんか」

殺人王 「言ってくだされば、およせしましょう」


盗賊妹 「あ、あの……」


盗賊姉 「じゃあ雪女のミルクでももらおうか」


殺人王 「雪女の……?」


盗賊妹 「お、お姉ちゃん」


殺人王 「申し訳ない……。ここにはないようです」


盗賊姉 「だったら良いさ。勝手にやってるから、アタイらにかまわず他の奴らの世話でも焼いてくれよ」

盗賊姉 「その方があんたにとっても有意義だろうさ、王さま」


盗賊妹 「お、お姉ちゃん……!」


殺人王 「おっしゃった品は、あなたがたの滞在中に手に入ったらきっとお渡ししましょう」

殺人王 「そしてあなたがたは大切なお客さま。遠慮せずに何でもおっしゃってください」


盗賊姉 「ふんっ」

盗賊姉 「……ああ、そうだ。じゃあ教えておくれよ、王様」


殺人王 「はい」


盗賊姉 「お手洗いはどこかな」

盗賊姉 「アタイたち、仲良くもよおしたもんでね」




殺人王 「メイドに案内させましょうか」


盗賊姉 「言って教えてくれるだけで良いさ」


ワイワイ カチャカチャ


星妖精 「……ムシャムシャ」

星妖精 (ガツガツ……いよいよ仕事にかかるってわけかしら)

星妖精 (お城でうっかり迷って宝物庫に出ちゃって……ゴクゴク……そのままドロンとか……ゴックン)


吟遊詩人A (食べる音が頭のなかに響いているよ……)




…………


シャン シャン

ドヤドヤ





偽善者の城 綺麗な部屋



トロン ポロロン


星妖精 「この城、ちゃんと昼と夜があるのね」

星妖精 「夜でも地上は明るくて賑やかだけど」

星妖精 「……うーっぷ、お腹がぱんぱんで風船みたいだわ」


吟遊詩人A (うん。食べ過ぎだね)


ジャラ ティロロ ロロ トロロン


星妖精 「だって、食べてなきゃあの盗賊姉妹のことを考えてしまって大変だったんですもの」

星妖精 「ああ、やだわやだわ。こうしている間に、こそこそ仕事をしているのねあの盗賊、とくに姉」

星妖精 「けがらわしいわ、不潔だわ」


ポン ポン


吟遊詩人A (そんなふうにお腹を叩きながら言われてもね……)


ティロロ ポロロ ポォン




ポロロ トロロ ポォン ジャラン


星妖精 「ああ、窓からの夜風が良い気持ち。頬が冷えていくわ」


シャン シャン ザワザワ


星妖精 「城市の光もあたたかい色で、夢見心地。とっても良い気分……」


吟遊詩人A 「…………」


トロロ ポン ポロン

ジャララ ピィン ピヨン ポロロ


星妖精 「…………」

星妖精 「………グゥ」


吟遊詩人A 「…………」


ポロロロ トロン ポロ……



ドタドタドタ ヒソヒソ ザワザワ



吟遊詩人A 「…………?」




殺人王の声 「あっちの部屋だ。用意しておいてください」

殺人王の声 「きみは呪術師をむかえに」


メイドの声 「はい」


韋駄天兵の声 「すぐに」


ドタドタ ガチャガチャ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……ムニャ?」


ムクリ


星妖精 「…………」

星妖精 「なあに、騒がしいわね。せっかく良い気持ちだったのに」


吟遊詩人A (近くの部屋に誰か運び込まれたようだ)


星妖精 「あら……」




偽善者の城 黒廊下



ガチャ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……あら」


韋駄天兵 「あの部屋です、呪術師さま!」


呪術師 「わかりました。ありがとう、韋駄天兵さん。ここからは私の足で走りますのでおろしてください」


タッ タッ タッ

ガチャ バタン


星妖精 「……あの部屋ね」




偽善者の城 綺麗な部屋2



ガチャ


吟遊詩人A 「…………」


最古の王 「おや、これは」


殺人王 「詩人どの……」


メイド 「危険です。いま中に入ってこられては」


呪術師 「大丈夫です。もう呪いは去りましたよ」


星妖精 「いきなりごめんなさい。部屋の外が慌ただしくなったので、心配で来てしまいました」


殺人王 「そうでしたか。じつは……」


盗賊妹 「ううう、お姉ちゃん、お姉ちゃん……」


盗賊姉 「……っ。………」


星妖精 (盗賊姉だわ。ベッドでのびてる。妹の方は無事みたいね)

星妖精 (兵士に見つかってぶちのめされでもしたのかしら)


吟遊詩人A (そういうわけでも、ないようだ)




殺人王 「彼女は、宝物庫にしかけてあった死神サソリの呪いの罠にかかってしまったのです」


星妖精 「死神サソリ……間抜けな響きだけど、ずいぶん物騒な呪いね」


殺人王 「ええ。魂にまで毒が食い込む、恐ろしい苦痛の呪いです」

殺人王 「情けないことですが、この城には、私も知らないことがまだまだ眠っているようでして」

殺人王 「死神サソリの毒は、もう全部消えたと思っていたのですが」


盗賊妹 「私のせい。私をかばって、お姉ちゃんは……!」

盗賊妹 「ううう、お姉ちゃん……!」


盗賊姉 「…………」


星妖精 「…………」

星妖精 (……こう言ってしまうと妹ちゃんには悪いけど)

星妖精 (ざまあないわよね)


吟遊詩人A (星妖精)


殺人王 「もう大丈夫ですよ、妹さん」

殺人王 「呪術師が、毒をきれいに消してくれました」


呪術師 「ああ。だけど、何日かは安静にすることです」

呪術師 「心や魂の傷は、体の傷より治りにくいこともあるから」


盗賊姉 「…………」




星妖精 「大丈夫みたいで良かったわ」


吟遊詩人A (盗賊姉妹の仕事も、うまくいかなかったようだ)


星妖精 (うふふ、盗みに入ったとこの人に介抱されるなんて、赤っ恥よね)

星妖精 (良い物語? ……を、拾えたじゃない)


最古の王 「……妹さん」


盗賊妹 「グスッ……は、はい……」


最古の王 「これは、お姉さんのものですね」


折れた盗賊の短剣


盗賊妹 「……! はい……」


最古の王 「鍛冶職人に頼んで修理してもらっておきましょう」


盗賊妹 「……え、ええと、それは」


最古の王 「…………?」


盗賊妹 「い、いいえ、はい。お願いします……」






偽善者の城 外



フヨ フヨ フヨ


星妖精 「うう……」

星妖精 「昼も近いのに、きのう食べたものがまだお腹に残ってる」

星妖精 「……あら、あれは」


逆さ娘 「…………」


星妖精 「この城市に入るときに見た、逆さ向きの人だわ」

星妖精 「窓のひさし……? から、ぶら下がっているのかしら。器用ね……」


逆さ娘 「…………」


星妖精 「何を熱心に見ているんだろ」

星妖精 「というか、覗きよね、あれ」

星妖精 「あの部屋は、たしか盗賊姉妹の……」

星妖精 「…………」


フヨ フヨ フヨ




逆さ娘 「…………」


星妖精 「はあい」


逆さ娘 「おわっ?」

逆さ娘 「……って、なんだ、妖精かあ」

逆さ娘 「びっくりさせないでよ。大声出しそうになったじゃない」


星妖精 「何をしているの、こんなところで」


逆さ娘 「うん。あれ、あれ……」


星妖精 「どれどれ……」





偽善者の城 綺麗な部屋2



盗賊姉 「…………」


殺人王 「ずいぶん良くなったようですね」


盗賊姉 「…………」


殺人王 「ですが、どこか顔色は優れません」

殺人王 「まだ安静にしておくことです」


盗賊姉 「…………」


殺人王 「妹さんは、水汲みでしたか」

殺人王 「良い妹さんですね」


盗賊姉 「…………」

盗賊姉 「ぜんぶ分かってんだろ、あんた」




殺人王 「…………」

殺人王 「私が案内を怠ったばかりに、あなたがたは城内で迷って」

殺人王 「宝物庫の罠にかかってしまった」

殺人王 「本当に、申し訳ないかぎり」


盗賊姉 「とぼけんな!」


ガバ


殺人王 「…………」


盗賊姉 「鍵がかかっていたはずの宝物庫で、アタイが倒れていた」

盗賊姉 「これがどういうことか、誰だってわかるだろう!」


殺人王 「…………」


盗賊姉 「……何だってアタイを生かしてんだ」

盗賊姉 「こんな、生殺しみたいに。妹なんかびくびくしっぱなしだ」

盗賊姉 「みじめなアタイらを見て笑いたいってのか」


殺人王 「……あなたは私の招いた、大切なかた」

殺人王 「それで良いのです」

殺人王 「さあ、横になって、ゆっくり休んで」


盗賊姉 「…………~~!」

盗賊姉 「ちっ……!」





殺人王 「……そうだ。渡すものがあったのでした」


盗賊姉 「なんだよ……」


殺人王 「これを」



雪幼女のミルク



盗賊姉 「これは……」


殺人王 「宴の席で、あなたがおっしゃっていたものです」

殺人王 「今朝、ちょうど手に入りました」


盗賊姉 「あんた……」


殺人王 「遅くなりましたが、どうぞ」




盗賊姉 「わざわざ、探して持ってきたってのかい」


殺人王 「あなたは私の招いた、大切なかたですから」

殺人王 「まあ、その、兵たちにもだいぶ手伝ってもらいましたが……」


盗賊姉 「…………」

盗賊姉 「あんたみたいな大馬鹿な王様、はじめて見るよ」


殺人王 「はい。たくさんのかたに担いでもらって、やっと冠を戴いています」


盗賊姉 「はんっ……」

盗賊姉 「……本当にあるなんてね、こんなもん」


殺人王 「え?」


盗賊姉 「口から出まかせに決まってるだろ、あんなの」

盗賊姉 「雪女のミルクを飲みたいなんて、思ったこともないよ」


殺人王 「ええっ」

殺人王 「これは……まいったなあ……」


盗賊姉 「……ふ」

盗賊姉 「ふふふふ……」

盗賊姉 「あっはははははは……!」


殺人王 「お、お姉さん?」


盗賊姉 「本当にはじめてだよ、あんたみたいな奴!」

盗賊姉 「ありがたくいただいとくよ、これ……くく、ふふふ……」


殺人王 「ええ。ははははは……」


アハハハハ ウフフフフ……



星妖精 「…………」


逆さ娘 「…………」



……………





偽善者の城 綺麗な部屋



ディロン ジャララ


星妖精 「……それで、なーんか良い雰囲気になっちゃったのよ」

星妖精 「あると思う? みんなに慕われる優しい王さまが、よりによって盗賊とだなんて」


吟遊詩人A (優しいからこそ、という気もするね)


トロロ ポロロン


星妖精 「よくできた人ほど、ダメな人が気になるってことかしら……」

星妖精 「……まだ、ここでゆっくりするのよね?」

星妖精 「四人の王さまたちも、長く居てほしいと言ってくださっているし」


吟遊詩人A (そうだね。そうするのも良いかもしれない)

吟遊詩人A (ここを出ると、どれくらい歩けば良いかも分からないし)


星妖精 「そうね」

星妖精 「暖かい光の灯る、賑やかでどこかのどかな夜の街にもおりてみたいし、ゆっくりするのも良いわよね……」


吟遊詩人A 「…………」


キロロ ポン ポロロ

ジャラン……




………

……………




偽善者の城 空中庭園



シャン シャララン


盗賊妹・星妖精 「…………ふぅ」


星妖精 「幻想的な光と薫香ただよう砂漠の街に、満点の星」


盗賊妹 「なんだか夢の中みたいだよね……」


盗賊妹・星妖精 「…………うーっぷ」


星妖精 「食べ過ぎちゃったわね」


盗賊妹 「うん」

盗賊妹 「こんな生活……本当に夢を見ているみたい」




星妖精 「お姉さんは、どうしているのかしら」


盗賊妹 「王さまと一緒……たぶん」


星妖精 「……さびしい?」


盗賊妹 「うん。私たち、一緒にいるのが当たり前だったから……」

盗賊妹 「でも、お姉ちゃん、あんなふうに穏やかに人と話すのは初めて」

盗賊妹 「いつもは……仕事が仕事だし、私みたいな弱虫な妹も守ろうとして気を張って」

盗賊妹 「周りの人に刺々しくして、遠ざけようとしてた……」


星妖精 「ふうん」

星妖精 「まあ、そんな感じよね」

星妖精 「それにしてもべったりだったわよね、あなたたち姉妹」


盗賊妹 「ずっと、二人きりの家族だったから……」




星妖精 「なるほどねえ」

星妖精 「でも、まあ良い機会じゃない?」

星妖精 「お互いに独り立ちするには」


盗賊妹 「ひとり!? わ、私、そんな……」


星妖精 「どう? これを機に、盗賊稼業とも縁を断ち切ってみては」


盗賊妹 「ともって。お姉ちゃんとは縁をきってないよ……!?」

盗賊妹 「……無理だよ。私……」


星妖精 「このまま一生盗んで暮らすの? としもとるのに」


盗賊妹 「一生のことなんて。先のことなんて考えたことない。そんな余裕ないもの」

盗賊妹 「……そりゃあ、悪いことしてるって思うよ。盗みに入ったところの人には、申し訳ないと思うよ」

盗賊妹 「でも……無理だよ。これしか生きかた知らないもの」


星妖精 「うーん」

星妖精 「私もあの人のそばにいる以外に生きかたを知らないから」

星妖精 「そう言われると弱いわね……」




盗賊妹 「それに私はトロいもの。ひとりで他のことなんて、きっとできないよ」

盗賊妹 「今の仕事も、お姉ちゃんがいないと満足にできないもの」


星妖精 「…………」

星妖精 (たしかに、そんな感じよね)


盗賊妹 「……ど、どうしよう」

盗賊妹 「このままお姉ちゃんと離れることになったら」

盗賊妹 「私、何もできない」

盗賊妹 「ひとりで盗賊もできない。本当に何もできない……」

盗賊妹 「ど、どうしよう、これからどうしよう。私、私……」


星妖精 「い、妹ちゃん、そんな深刻に……」


盗賊妹 「……う」

盗賊妹 「うわあああん!」

盗賊妹 「怖いよう、お姉ちゃん、お姉ちゃあん!」

盗賊妹 「お姉ちゃんがいなくなったら、私、何もできないよう!」

盗賊妹 「うええええん! うわああああん! ああああん! びええええん!」


星妖精 「お、落ち着いて妹ちゃん。きっとお姉ちゃんはいなくならないから……!」


盗賊妹 「ううぅう、うえぇ……」

盗賊妹 「ご、ごめんなざっ……いきなりっ、泣き、出して………グズ……ううぅ」


星妖精 「おぉ、よしよし」

星妖精 「………ものすごく遠い未来で、あなたたちみたいな二人と出会う気がするわ」

星妖精 「こう、桃色の髪の女の子と、すごく揺れる女の人の組み合わせで」

星妖精 「……気がするだけで、ぜったい無いだろうけど」


盗賊妹 「……? グスッ」





…………


盗賊妹 「……グスッ」 


星妖精 「ほら、私が悪かったから泣き止んで」

星妖精 「ああもう、お顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃ……」


三白眼 「これでお拭きなさい」


邪悪なハンカチ


星妖精 「あ、どうも」

星妖精 「って、ぎょわっ!?」


三白眼 「いやいや、良い夜ですな。お久しぶりです」





三白眼 「なんというか……千とか一とかの夜というか、アラビアンな夜というか、アラビアンなナイトというか」

三白眼 「アラベナイッ……というか」

三白眼 「そんな幻想的な都ですな。このようなところから眺めると、いっそう」


盗賊妹 「……ぁ、あ」


星妖精 「いつの間に……というか」

星妖精 「あなたもこの城に招かれていたの?」


三白眼 「招かれたような、招かれなかったような」


星妖精 「どっちなのよ……」


盗賊妹 「…………ひっ」


ササ


星妖精 「ちょ、ちょっと、無茶よ妹ちゃん。私のうしろに隠れようなんて」


盗賊妹 「う、うぅ……」


三白眼 「ふむ」

三白眼 「どうやら、あなたがたにとっては招かれざる客のようで」


星妖精 「やかましいわよ」




星妖精 「招かざるだか招かれざるだか分からないけど」

星妖精 「じゃあ、あなた、ここにいて良いの?」


三白眼 「さあ」


星妖精 「何それ」

星妖精 「仮にもプロンプターを名乗る人が、自分の立ち位置も分からないなんて駄目じゃない」


三白眼 「休暇中なもので」

三白眼 「それより、あなた」


盗賊妹 「…………!」


三白眼 「良いですよ」




盗賊妹 「…………」


三白眼 「ちゃんと自分で考えようとしている」

三白眼 「何かについて自分で考えるということは、その何かとひとりで向き合うこと」

三白眼 「ひとりで何かと向き合うということは、思いのほか恐ろしいこと」

三白眼 「なぜなら、すべて、人はとても弱い生き物から」


盗賊妹 「弱い……」


三白眼 「あなたがそんなにも恐ろしいと感じているのは」

三白眼 「それだけ、あなたが真摯に向き合おうとしているということ」

三白眼 「考えているということ。良いですよ。それはとても良いことです」


星妖精 「ほめているの?」


三白眼 「良いと言ったのは、つまり、そのつもりですが」




星妖精 「ふうん……」


三白眼・星妖精 「不思議というか、変な人」


三白眼 「誰でもそういった面はあるでしょう」


星妖精 「……やっぱりあなた、嫌な感じ」


三白眼 「職業病でして」

三白眼 「そして、あなた」


盗賊妹 「……!」

盗賊妹 「は、はい……」


三白眼 「考えて、良くなりそうですか」


盗賊妹 「……い」

盗賊妹 「いいえ……」


三白眼 「そうでしょう、しかたのないことです」




三白眼 「生きていれば誰だってそうなることはある」

三白眼 「日々、どんなに注意深くすごしていても、何かを見失って立ち往生してしまうときがある」

三白眼 「だから、私のついているような職があるのです」


星妖精 「さすがプロンプターさん。大きなこと言うじゃない」


三白眼 「そう、私は、その通り」

三白眼 「舞台の上で、おのれの在り処や台詞を見失った人に、外からそっと囁く」

三白眼 「私はプロンプター」




ヒュウ ボウ ボウ


盗賊妹 「なまあたたかい風が……」


星妖精 「……普通の風じゃないわ。不穏な感じ」


三白眼 「……世界は舞台であり、人はそこを行き交う役者である」

三白眼 「舞台と客席の境はなく、役者と客の境はなく」

三白眼 「ならばいったい人は、役者であり、そして客であるのです」

三白眼 「光と影の溶け合う混沌とした、世界という大きな舞台から逃れることのできない」

三白眼 「誰かにとっての役者であり、誰かにとっての客なのです」


ボウ ヒュウウ



盗賊妹 「…………」


三白眼 「怯えていますね。けっこう」

三白眼 「ですが安心なさい」

三白眼 「私は、この世界で迷う人のためのプロンプター」


星妖精 「お休みじゃなかったの」


三白眼 「困っている人は放っておけません」


星妖精 「ずいぶん、親切な人ね」


三白眼 「そりゃそうです」

三白眼 「役者と脚本なくしては、食べていけないものなので」


星妖精 「人がいなきゃって……それってまるで悪魔とか死神じゃない」


星妖精・三白眼 「獲物がいないと生きていけない捕食者みたい」




三白眼 「めたくそな言われようだ」

三白眼 「分かれ道で足元が草ぼうぼうの木の標識……くらいのつもりでございますよ、私は」


星妖精 「この不穏な風を呼んできている人が、何を言っているのよ」

星妖精 「あなたを中心に、空気がざわざわしてるのよ」

星妖精 「親切ぶって分かれ道に立っているのが悪魔でしょう」


盗賊妹 「あ、悪魔……!?」


三白眼 「……さすがは妖精。自然の声がよくお聞こえになる」

三白眼 「えいっ」


パチン パリン


盗賊妹 「……?」


星妖精 「…………」

星妖精 「…………クカー」


フラ ヒュルル 

ポトリ


盗賊妹 「妖精さん!?」


星妖精 「スピー……クカー……プヒュルルル」


盗賊妹 「すごく寝てる……」

盗賊妹 「お、起きて、妖精さん……!」


星妖精 「スピー……スピー……」







星妖精 「プヒャー……」


盗賊妹 「どうしよう、起きない……」


三白眼・盗賊妹 「招かれざるのはそちらも同じ。眠っていなさい」


盗賊妹 「!?」

盗賊妹 「違う。私、そんなこと言うつもりじゃ……どうして……」


三白眼 「さて、あなた」


盗賊妹 「ひっ……。あ、悪……」


三白眼 「悪魔と呼ばれても良いですがね」

三白眼 「しかし、あなた、今のままで良いのですか」


盗賊妹 「い、いや、近づかないで………」


三白眼 「今、もっとほかに、立つべき位置ってもんが、あるんじゃありませんか」

三白眼 「あなた、妹なんでしょう」


盗賊妹 「……っ! お、お姉ちゃん………」

盗賊妹 「お姉ちゃんは、私なんかより王さまといた方がきっと……」


三白眼 「その王さまなんですがね」

三白眼 「あなた」

三白眼 「あなたがいつまでも自分の立ち位置を見失っていたら」

三白眼 「このままじゃあ姉さん、大変なことになってしまいますよ」


アラベナイッww ww



偽善者の城 玉座の間



盗賊妹 「…………」

盗賊妹 (玉座の後ろの壁にかかったカーテン。これをめくると……)


シャサッ


盗賊妹 「…………!」


黒い扉 白い扉


盗賊妹 (……扉、本当にあった。目つきの怖い人の言っていた通りだ)



ポワ ポワ ポワ


回想の三白眼 「白い扉の方に耳をくっつけて聞いてごらんなさい」

回想の三白眼 「それでみんな分かります」


ポワ ポワ ポワ



盗賊妹 (白い扉……)


ピト


盗賊妹 「…………」

盗賊妹 「…………」


ワハハハハハ


盗賊妹 (……! 扉の向こうで誰かが話してる)




盗賊妹 (よく聞いてみよう……)



…………



偽善者の城 円卓



食人王 「森の家で……鶏を飼っていたんだ」

食人王 「すごくうまそうな鶏でな、まるまる太るのを楽しみにしていた」

食人王 「ところが、そこでおれの弟だ。あの野郎、おれが寝ている間にその鶏を勝手にさばいて食っちまった」

食人王 「本当にうまそうな鶏だった……」

食人王 「おれはあんまり悔しくて、弟を石で殴って、腹の中にまだ残っているかもしれない鶏を食おうとした」

食人王 「……結局、鶏は食えなかったが、腹いせに食った弟の肉が思いのほかうまくてなあ」

食人王 「それ以来、人を石で殴っては、腹をかっさばいて食いまくった」


最古の王 「ほほほほ、最低な男だ」


処刑王 「おれは、雨のにおいがするとしみじみ、人の肉と骨を斬りたくなってなあ」

処刑王 「だから、ある女の主人の罪をでっちあげて殺してやったのさ」

処刑王 「どうせ生きていてもしょうがない罪人だ。上の奴ら、ろくに調べもせずに断頭台送りにしやがった」

処刑王 「まあ、先に殺してから罪をでっちあげたことも、たくさんあったがね。そっちの方が楽だ」

処刑王 「でも、牢屋の囚人をほとんど殺しちまったら、上の奴らもさすがに不審がってなあ……」



…………



盗賊妹 「…………!」




処刑王 「……おれが殺そうと思っていた女を殺した男が、初めての処刑相手だったとは」

処刑王 「いま思い返しても感慨深い」


最古の王 「ほほほほ」

最古の王 「良い。今夜も、良い」


殺人王 「…………」


食人王 「おい、殺人王」


殺人王 「なんだい」


処刑王 「お前さん、今日はずいぶん無口だ。何か話さないのかい」


食人王 「そうだ、聞きたいな」

食人王 「あれが良い。酒場で出会ったお忍びの貴族エルフの娘を、巻き煙草の煙で殺したっていう話だ」


殺人王 「……よせよ。もう何回も話して飽き飽きだ。吐き気がするね」


処刑王 「そりゃあ、おれだって同じさ」


食人王 「そうだ。こうやって昔の悪行三昧を話すのが、おれたちの唯一の楽しみじゃないか」


殺人王 「…………」

殺人王 「だからって、もっと楽しいことを逃すのは、もったいないと思わないかい」




食人王 「もっと楽しいことがあるってのかい?」


殺人王 「ああ、あるね」


処刑王 「それは、何だい」

処刑王 「もったいぶらずに話してくれよ」


殺人王 「…………」

殺人王 「今から人を殺すのさ」

殺人王 「むかし殺した奴を何回も殺すより、その方が楽しいだろう」


最古の王 「……今から殺すのか」


殺人王 「ああ、そうだね」

殺人王 「たとえば、薄汚れた泥棒姉妹の姉とかさ」

殺人王 「今夜、月が赤さそり座の尾にかかるころ、ここに来るように言ってあるんだ」



…………



盗賊妹 「!!」

盗賊妹 (……お姉ちゃん!)




処刑王 「おお、そりゃあ良い!」

処刑王 「首はおれに落とさせてくれ」


食人王 「だったら、おれはあの女の肉を食わせてもらおう!」


殺人王 「ああ、好きにすると良いさ」

殺人王 「だけど、最初の一突きはおれだぜ」


処刑王・食人王 「良いとも」


最古の王 「……ほほほ。これは楽しみ、楽しみ」

最古の王 「もてなしの準備をして待つとしよう」


ワハハハハ




盗賊妹 (目つきの悪い人の言っていた通りだ)

盗賊妹 (……は、はやくお姉ちゃんにしらせなきゃ)


ヨロ ヨロ


盗賊妹 (足に力が入らない……)

盗賊妹 「……うあっ」


ガクン ズサッ


盗賊妹 (転んだ……)

盗賊妹 「う、うぅ……」

盗賊妹 (は、はやくここから逃げなきゃ……)


殺人王の声 『何だろう。外ですごい音がしたが』

殺人王の声 『盗賊姉さんだろうか』


コツ コツ


盗賊妹 「……!!」

盗賊妹 (く、来る。早く逃げなきゃ……立ち上がらなきゃ……!!)


殺人王の声 『誰かいるのですか』


ガチャ


盗賊妹 「!!」

盗賊妹 (見つかった!)


殺人王 「…………」


盗賊妹 「あ、うああ……」


殺人王 「……おや」

殺人王 「これはこれは」




殺人王 「盗賊妹さんではありませんか」

殺人王 「どうしたのですか、こんなところで」


盗賊妹 「わ、わた……おね……」


殺人王 「そうだ、中に入っていかれませんか」

殺人王 「ちょうどお茶を用意していたのです」


盗賊妹 (う……嘘だ。中で私を殺すつもりなんだ。聞いちゃいけないことを聞いたから……!)


殺人王 「他の王たちもいます。みんな、あなたを歓迎しますよ」

殺人王 「じつは、あなたのお姉さんも……」


盗賊妹 「!!」

盗賊妹 (……お姉ちゃん)

盗賊妹 (そうだ、この人はお姉ちゃんを騙していたんだ。騙して殺そうとしていたんだ)

盗賊妹 (お姉ちゃん。お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん)

盗賊妹 「お姉ちゃん」


殺人王 「はい。もうすぐここに……」


盗賊妹 「……う」

盗賊妹 「うわあああああ!」


ガバ ザクッ




偽善者の城 白い円卓の間



パキ パリイン

ガタン ドシャ ズサア


最古の王・食人王・処刑王 「!?」


殺人王 「うぐ、うう……!!」


最古の王 「どうしました、殺人王さま。外で何が……」


殺人王 「腕を刺されました……! あの、ナイフを持った盗賊妹さんに」


盗賊妹 「フーッ……! フーッ……!」

盗賊妹 「お姉ちゃん。お姉ちゃんを守る……!」


処刑王 「ほ、本当だ。しかし、何故こんなところに」

処刑王 「私たちが教えないかぎり、この場所は分からないはずなのに」


食人王 「恐ろしい形相だ。どうしてこんな……」


殺人王 「彼女は気が動転しているのです」

殺人王 「私が彼女のお姉さんに危害を加えようとしていると、思い込んでいるのです」

殺人王 「王さまがた、近づかない方が良い。彼女は私を狙っている……」


盗賊妹 「……ううぅ」

盗賊妹 「うわあああああ!」


ダダダダダダ

ザクッ




…………


偽善者の城 廊下 ギャラリー



星妖精 「………グゥ」


逆さ娘 「おおい、起きて」


ペシ ペシ


星妖精 「う、うーん……ムニャ」

星妖精 「…………!」


ムク


星妖精 「……おはよう」


逆さ娘 「おはよう。夜中にこんなところで寝ていたら、風邪ひくよ」


星妖精 「大丈夫、私は妖精だから……ヘックショイ!」

星妖精 「バーロォ……ここは?」


逆さ娘 「お城のソファだよ」

逆さ娘 「こっそり天井を散歩してたら、廊下の真ん中で寝ているあなたを見つけて」

逆さ娘 「ここまで運んだの」


星妖精 「そう、ありがと」

星妖精 「……あれ。私、たしかお城の庭にいたような……」

星妖精 「!」

星妖精 「そうだわ、あのたぶん悪魔!」


逆さ娘 「たぶん悪魔?」




星妖精 「そうよ。こういう……針みたいな嫌な奴!」


逆さ娘 「針は嫌な奴じゃないと思うけど」

逆さ娘 「その人に眠らされたの?」


星妖精 「たぶん」

星妖精 「ああ、屈辱だわ。妖精が眠らされるなんて……!」

星妖精 「あなた、見なかった? こう……ごぼうみたいな嫌な男!」


逆さ娘 「ごぼうは美味しいよね」

逆さ娘 「男の人は見回りの兵士くらいしか見てないなあ」


星妖精 「じゃあ、女の子は」

星妖精 「この城の人じゃない子で、あなたと私が一緒に窓から覗いた盗賊姉の妹」

星妖精 「その子が危ないの。ううん……もう手遅れかも」

星妖精 「こう……もやしのヒゲみたいな嫌な男の毒牙にやられて!」


逆さ娘 「とりあえずひょろ長いんだね、その男の人」

逆さ娘 「……うーん、その女の子は見なかったと思うけど」

逆さ娘 「私たちが一緒に窓から覗いた人なら、ついさっきあっちの方へ歩いていったよ」


星妖精 「なんとっ!」




星妖精 「うーん、何か関係あるのかしら」

星妖精 「手がかりもないし、とりあえず盗賊姉の向かったという方へ……」


コツ コツ コツ


逆さ娘 「誰か歩いてくる。まずいな、ここの兵士かな」


星妖精 「これは……いいえ、違うわ」


コツ コツ コツ……

カツン


吟遊詩人A 「…………」




…………


タッ タッ タッ タッ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……ほんと、次に会ったらあいつ、耳にマンドラゴラを突っ込んでやるんだから」

星妖精 「それにひきかえ、私を心配して探してくれるなんて、さすが私の詩人……!」


吟遊詩人A (城で妖精を遊ばせるなという言葉もあるからね)


星妖精 「何か言った?」


吟遊詩人A (何も)


逆さ娘 「こっちだよ」



タ タ タ タ




偽善者の城 玉座の間



吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「四つ並んだ玉座」

星妖精 「……の、うしろ。隠し扉があったのね。しかも二つも」


逆さ娘 「片方はひしゃげているけど」


ゴニョゴニョゴニョ

ゴニョゴニョゴニョ


星妖精 「ひしゃげた扉の方から、話し声が聞こえる」


逆さ娘 「…………」


コン コン コン コン


星妖精 「……無事な方の扉の前で、あなたは何をしているの」


逆さ娘 「ノック。誰かいるかと思って」


星妖精 「いたとして、何故こんなときに、わざわざこっちの存在を教えるようなことするのよ……!」


逆さ娘 「あ、そうか」

逆さ娘 「でも、こっちは中に誰もいないみたい」


星妖精 「じゃあ、先にこっちのひしゃげた方を調べましょう」

星妖精 「せーの……」


バタン




偽善者の城 玉座の間



吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……これは」


最古の王 「おや。ほほ、今日はお客さまが多い……」


盗賊妹 「…………」


盗賊姉 「ああ、妹。どうしてこんなことに」


星妖精 「ぐったりした盗賊妹の肩、盗賊姉が抱いている……」


吟遊詩人A (妹は息があるようだけれど……)


食人王 「…………」


処刑王 「うう………」


星妖精 「王さまが勢ぞろいで、最古の王さま以外はひどい怪我」

星妖精 「中でも、もしかしてあの王さまは……」


殺人王 「……はい。食人王さまは死んでいます」




殺人王 「盗賊妹さんは、ナイフで私を殺そうとしました」

殺人王 「他の王さまは彼女と私の間に入り、身を呈して私を守ろうとしたのです」

殺人王 「その結果、食人王さまは……」


最古の王 「処刑王さまも……危ないかもしれません」


星妖精 「そんな、盗賊妹ちゃんがそんなことを!? あんなに臆病な子が……」

星妖精 「これは、やっぱりそうだわ」

星妖精 「あの嫌な奴が、盗賊妹ちゃんに何かしたのよ!」


盗賊姉 「……アタイのせいだ!」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「盗賊姉……」




盗賊妹 「…………」


盗賊姉 「アタイが、この子をないがしろにしたからだ」

盗賊姉 「ちゃんと一緒にいるべきだったんだ……!」


殺人王 「だったら、それは私のせいだ。あなたと妹を引き離すようなことをしてしまった」

殺人王 「それにね、妹さんはあなたを守ろうとしたのです」

殺人王 「彼女は、私があなたを手にかけようとしていると思い込み、こんなことをしてしまったのです」


盗賊姉 「なんだって! ああ、妹よ、どうしてそんなことを思ったんだ……」


盗賊妹 「…………」


星妖精 「……盗賊妹ちゃんは?」


最古の王 「大丈夫、生きています」

最古の王 「しかし、もう盗賊妹ではなく、王さまと呼ぶべきでしょうが」





最古の王 「ここは、そういう場所なのです」

最古の王 「かつて、悪を憎むほど善の心を持つ王さまが」

最古の王 「国中の魔法使いたちに命じてつくらせた魔法。それに縛られた場所なのです」

最古の王 「魔法は、かつての王さまの心がそうであったように、国土を善で満たすものでした」

最古の王 「魔法は王さまの民たちによく効きました」

最古の王 「その国は王さまの思い描く限りの善に満ち、一切の悪事は消えたといいます」

最古の王 「しかしそれは、あくまでも王さまの民たちにしか働きませんでした」

最古の王 「……外から来たある者の手によって王さまが暗殺されたとき」

最古の王 「魔法は狂ってしまいます」

最古の王 「死をも悪として許さず、もしも外からもたらされる者によって民の命が減るようなことがあれば」

最古の王 「その者を善で塗りつぶし、かわりの民として迎えるようになったのです」

最古の王 「何故そうなったのかはわかりません」

最古の王 「死してなお消えない、王さまの狂気的な善の精神がそうさせたと言う者もありました」

最古の王 「……この城市は呪われているのです」

最古の王 「強欲な、善の魔法に」




最古の王 「嘆くことではありません」

最古の王 「めでたい。めでたいこと」

最古の王 「新しい王さまの誕生です。悪に汚れた魂が赤くあらわれ、全くの善となるのです」


盗賊妹 「…………」


逆さ娘 「どういうこと? あなたの男語りより分からないよ」


星妖精 「この子が、この子の殺した王さまのかわりに王さまになるってことかしら」

星妖精 「男語りって、何よそのひどい言い草」


吟遊詩人A 「…………」


盗賊姉 「そんな……」


最古の王 「お喜びなさい」

最古の王 「あなたの妹は、全き善の国の王として、永遠に生きるのです」


盗賊妹 「…………」





盗賊姉 「そんなの、喜べるもんか……!」


盗賊妹 「…………」


盗賊姉 「……さあ行くぞ、妹よ!」


ユサ ガシ


最古の王 「新たな王さまをそんな乱暴に担いで。どうしようというのです」


盗賊姉 「ここから連れ出す」

盗賊姉 「妹を、わけ分からない呪いの奴隷になんかさせない」


最古の王 「それはいけない!」


殺人王 「そうです。お願いします、お待ちください……!」


盗賊姉 「…………っ」

盗賊姉 「どいてくれ……どけ!」


ダ ダ ダ ダ


星妖精 「行っちゃった……」




最古の王 「お、追わなくては……しかし、逃げる者を追いかけるなどそんな乱暴なこと……」


殺人王 「あの人が望むことなら、それを邪魔するような悪いことなんて……」


オロ オロ


星妖精 「何を悩んでいるの、この人たち……」


逆さ娘 「とりあえず、生きている方の手当てをした方が良いと思うけど」


吟遊詩人A 「…………」


……ドシンッ 


星妖精 「……? 何の音?」


ドシン ミシ

ドシン ミシ ドシン ミシ


星妖精 「重たいものが扉を押しているような音……」


吟遊詩人A 「…………」


ドシン ドシン ドシン ドシン

…………

ドカッ バアン





グラ グラ カタカタカタ


星妖精 「な、何、すごい音と揺れ。何が起きたの!?」


逆さ娘 「あいたた、天井に尻餅ついちゃった」

逆さ娘 「部屋の外みたいだけど……」


殺人王 「最古の王さま。これは……」


最古の王 「……はい。目覚めてしまったようです」

最古の王 「黒い扉の部屋の竜が」


逆さ娘・星妖精 「ドラゴン!?」




偽善者の城 玉座の間



ミシ ミシ グラグラグラ


人面竜 「…………」


逆さ娘 「うわあ、巨大すぎる長すぎる太すぎる気持ち悪すぎる!」

逆さ娘 「何これ、蛇……じゃなくて人の首? 爬虫類と人の首のあいのこ? うねうねしてる……」


星妖精 「黒い扉から、長い首をつかって覗き込んでいるみたい……」


最古の王 「これこそ呪いの番人。かつての王の、善の心のなれの果て」

最古の王 「民の善を守り、民を善から逃さない、魔法そのもの」


人面竜 「………お゛お゛お゛お゛」

強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛……」




最古の王 「あれは絶対の法であり、善の執行者」

最古の王 「しかし我々と違い、命を奪うことを許された、この城市唯一の存在」


星妖精 「本当の王さまってわけね」


逆さ娘 「あっ! あそこ……」


盗賊姉 「…………」


盗賊妹 「…………」


星妖精 「二人重なるように倒れて……死んでる?」


吟遊詩人A 「…………」




強欲な善 「お゛お゛お゛………」


盗賊姉妹 「…………」


星妖精 「なんか、今にもあの姉妹をバクリといきそうなんだけど、あのドラゴン(?)……」


逆さ娘 「まさかあんなもの飼ってたなんてね」

逆さ娘 「玉座の後ろに白い扉と黒い扉、ふたつある時点でおかしいなあとは思ったけど……」


最古の王 「安心なさい」

最古の王 「竜は殺すことはあれど、公平になさる。全くの善であるから」


星妖精 「それは誰にとっての善なのかってことよ」


最古の王 「真実、善はひとつ」

最古の王 「そして国の体現者たる王を盗むなど、極刑ものの悪でしょう」


星妖精 「それじゃあ……」


殺人王 「……! 盗賊姉を守らねば!」


ダダダ


最古の王 「なんと……!」

最古の王 「殺人王さま、そちらに行ってはなりません!」

最古の王 「竜の前に立ちはだかろうなどと!」




逆さ娘 「おお、やるじゃないあの王さま」

逆さ娘 「竜から女の子を守ろうだなんて、勇者さまみたい」


星妖精 「ええい、一緒に旅したよしみよ」

星妖精 「吟遊詩人A、あの姉妹のために歌って!」


吟遊詩人A (そうしよう)

吟遊詩人A (何が誰のためになるのか、分からないものだけれど)






盗賊姉妹 「…………」


強欲な善 「お゛お゛お゛……」


グバ


殺人王 「お待ちください、善き竜よ!」


ダダダダ ザザ


殺人王 「このかたは私の大切なかた」

殺人王 「はじめて出会った、大切なかた!」

殺人王 「どうか慈悲をいただけないか!」


強欲な善 「…………」

強欲な善 「う゛う゛う゛う゛………」

強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛!!」


グバ ゴオオ


殺人王 「………!!」

殺人王 「だめか……!」



ジャララ ジャラアン

ラー ラー……



強欲な善 「……!!」


殺人王 「……吊り竪琴の音と、歌声?」


強欲な善 「…………」


殺人王 「竜の動きが、止まった……」




ジャララ ディロロロロ 


吟遊詩人A 「ラー、ララー……勇者は桃色の髪をなびかせて」

吟遊詩人A 「黒い髪の魔王の娘と駆け落ちアレコレドレソレ……」


ジャン ジャアン


星妖精 「……よし、やったわ」

星妖精 「竜の動きが止まった」


逆さ娘 「その人ったら声だせるんじゃない」

逆さ娘 「すごく上手……だけど、こんなのでドラゴンをどうにかできるの?」


星妖精 「まだまだ」

星妖精 「この人の声は魔王の声」

星妖精 「歌えば魔物を呼び集め、そして話せば人も魔物も恐怖で追い払う」


逆さ娘 「集めてどうするの」


星妖精 「ちょっとだけだし、小声だから大丈夫よ」


逆さ娘 「これで小声!?」


吟遊詩人A 「ズババババーン、ワーラーゲー」


ジャ ジャ ジャラ ジャ ジャララ

ララー ラララー



強欲な善 「…………」



逆さ娘 「うわあ、こっち見てる、こっち見てるよ」

逆さ娘 「気持ちわるいなあ。目も死んでいるし」





ティロロロ ジャラン……


逆さ娘 「あ、歌が止まった」


吟遊詩人A 「…………」


コツ コツ コツ


強欲な善 「…………」


吟遊詩人A 「……おい、寝起きの悪いドラゴンくん」


強欲な善 「……!」



最古の王・逆さ娘 「………!!」


最古の王 「なんだ、この心臓を凍りつかせるような声は……!」


逆さ娘 「ひゃは……腰が抜けそう」


星妖精 「これが、魔物も人も震え上がらせて恐怖で支配する魔王の声よ」



強欲な善 「…………」


吟遊詩人A 「そんなに寝起きが不機嫌なら、戻ってまた眠ると良いんじゃないかな」


強欲な善 「…………」

強欲な善 「…………」

強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


グネ グネ

ミシミシ グラグラ


逆さ娘 「……! なんか、暴れ出したけど……っ?」


星妖精 「…………」

星妖精 「……おっかしいわね」




強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛!!」


グラグラグラ ゴゴゴゴ

ガシャガシャ ガタガタガタガタ


最古の王 「い、いけない、城が……」


逆さ娘 「うわわわ、シャンデリアが。シャンデリアの鉄槌が天井をバッタンバッタン……!」

逆さ娘 「なんか、ぜんぜん元気だけど……っ?」


星妖精 「おほほほほ……」

星妖精 「どどど、どういうこと吟遊詩人A!?」

星妖精 「なんであのドラゴン、声が届かないの!?」


吟遊詩人A (あれはただのドラゴンじゃないということさ)

吟遊詩人A (魔物でもなく、そして人でもない)


グラグラ ビシ ゴゴゴゴ


星妖精 「ど、どういうこと」


吟遊詩人A (ごめんよ、私も分からない)

吟遊詩人A (ただ、人が作り出してしまった、神さまのようなものなのかもしれないね)




グラグラグラグラ


強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


殺人王 「……は、早く彼女たちをつれて逃げ……」


ズキン


殺人王 「……! ぐうぅ……」


盗賊姉 「…………」

盗賊姉 「……!」

盗賊姉 「これは……い、妹、妹は……」


盗賊妹 「…………スゥ」


盗賊姉 「良かった。生きてる……」


殺人王 「早く逃げなさい!」


盗賊姉 「……王さま」


殺人王 「竜がまたあなたを狙う前に、妹をつれて早く!」


盗賊姉 「あんた、怪我して……」


殺人王 「早く!!」


盗賊姉 「……!!」


ヨロ ヨロ


強欲な善 「……お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


ギュルルル ゴオオオ


殺人王 「! いけない! 盗賊姉さん、避け……!!」


盗賊姉 「!!」




??? 「……ぜぇいっ!!」


ガキ ギギギ ガキン


強欲な善 「…………!」


??? 「……うむ。ははは」

鬼角侍 「なんという、おどろおどろしい竜だ」

鬼角侍 「鬼の骨刀をもってして、少しも刃が立たんとは」


盗賊姉 「……あんた」


殺人王 「あなたは、旅の……」


鬼角侍 「逃げられよ、王に娘たち。ここはおれが凌ぎきる」

鬼角侍 「こういうものはよく相手にしているのでな」




強欲な善 「…………」


ユラ ユラ


鬼角侍 「なんと巨大なものよ。首だけでこの大きさ、この強さ」


??? 「じゃが変てこじゃー」


ヒョコ


??? 「なんちゅうか」

雪幼女 「どでかい、ろくろ首みたいじゃのー」


鬼角侍 「こら、こいつめ、出てくるなと言ったろうに」

鬼角侍 「わからん奴め」


雪幼女 「なんじゃ、そっちの方がわからん奴め」

雪幼女 「うちが、あーたの言いなりになると思ったら大間違いじゃ」


盗賊姉 「…………」


鬼角侍 「どうした、旅の娘。早く逃げよ」


盗賊姉 「む、無茶を言うな!」

盗賊姉 「こっちは三人とも大怪我しているんだぞ」




鬼角侍 「ふむ、困った」

鬼角侍 「おれも三人かかえては、逃げるも戦うもままならん」 


雪幼女 「うちもおるじゃよー」


鬼角侍 「四人かかえては、逃げるも戦うもままならん」


雪幼女 「こりゃ」


強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛……!」


ズズズ


盗賊姉 「くそ、こっち見るなよ……!」


鬼角侍 「ほう。竜め、娘のことしか目に入らんと見える」


強欲な善 「お゛お゛お゛!」


ギュルル


殺人王 「また……!」


盗賊姉 「!」


雪幼女 「いかん、娘をやる気ぞー」


鬼角侍 「むっ!」


ガキン ギイン


強欲な善 「…………!」


鬼角侍 「お前の相手はこのおれよ」

鬼角侍 「できれば、よそ見をしないでもらえるとうれしいが……!」


雪幼女 「無理な相談らしいの。もう目がうちらから離れとる」





雪幼女 「うちに任せい」

雪幼女 「そーれいっ」


ヒュラララ パキ パキ


強欲な善 「…………」


グネグネ パララ


雪幼女 「……効かんのー。おかしいのー」

雪幼女 「氷漬けで動きがカチンコチンに止まるはずじゃったのにのー」


鬼角侍 「竜に術なぞ、そうそう効くものか」


強欲な善 「…………」


ユラ ユラ


鬼角侍 「さて、どうひきつけたものか……」


吟遊詩人A 「……そろそろベッドに戻ったらどうだい、ドラゴンくん」


オオオオオ


殺人王 「ううっ……!?」


盗賊姉 「あの詩人。砂のモンスターを追い払ったあれか……!」


雪幼女 「にゃんっ!?」


鬼角侍 「……むう、なんとも心臓に悪い声だ」




強欲な善 「…………」


グネ グネ


吟遊詩人A 「……うん、やはり効きが悪いな」


星妖精 「いちおう、話しているうちは動きが鈍るのね」

星妖精 「でも……」


逆さ娘 「ひえー」


星妖精 「……味方の方がもたないわね」

星妖精 「もう逃げ出しちゃう? そこまで頑張ることもなし」


吟遊詩人A 「…………」



鬼角侍 「おおい、詩人どのー! すまんが頼みがある!」



吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……何なのかしら」


鬼角侍 「今のやつを続けてくれんかあ! どうやら、竜の動きがにぶるようなのだ!」


星妖精 「…………」

星妖精 「あなたの動きの方が鈍っちゃうわよー!」


鬼角侍 「心配無用だ。へその下に力を込めたら問題ない!」


星妖精 「……んなアホな」

星妖精 「どうする?」


吟遊詩人A 「…………」

吟遊詩人A 「承知した、侍の人!」




吟遊詩人A 「でんでんムシムシ出ん出らりゅう。お池にはまってヨー、セイ、hooo!」

吟遊詩人A 「むかしむかし、あるところに、アエーシャマという角つき男がおりました」

吟遊詩人A 「いつも膝をかかえて谷の向こうを眺める臆病なアエーシャマの隣には、それはそれは見事な白い絹の……」


オオオオオ オオオオオ


逆さ娘 「ブクブクブク……」


最古の王 「う、ぐうう……」


星妖精 「うわあ、みんな苦しそう」

星妖精 「さて……」



強欲な善 「……! ………!」


鬼角侍 「ほうりゃ! おりゃあ!」


ガキン ギン ギイン


鬼角侍 「ようし、これならば何とか釘付けにできるぞ!」


キン ガキン ギギギィン



星妖精 「……飛び回っているし」

星妖精 「何なのよ、あの人」




偽善者の城 玉座の間 出口側



オオオオオ

キン ギイン


雪幼女 「キュウ……」


鬼角侍 「ぬんっ……たあっ!」


強欲な善 「…………!」


ガキ ギイン

オオオオオ


殺人王 「……なんと、恐ろしい声……」

殺人王 「皮膚から染み出すほどの絶望で、おぼれてしまいそうだ……っ」


盗賊姉 「くう……」




鬼角侍 「根性を見せよお前たち! 這ってでも逃げよ!」


盗賊姉 「う、う……」


盗賊妹 「…………」


盗賊姉 「…………」

盗賊姉 「…………う」

盗賊姉 「くぅああ……!」


ノソ ズル ズル

ノソ ズル ズル


盗賊姉 「あ、アタイの、妹……!」

盗賊姉 「こんな……誰かの押し付ける正義なんかに、妹の一生なんてやれるもんか……!」


盗賊妹 「…………」


ノソ ズル ズル ズル


強欲な善 「……!」

強欲な善 「お゛お゛お゛お゛お゛……!」


吟遊詩人A 「ぼうぼうと吹く風を帆にうけて、船は鈍く青光る大海原を……」


鬼角侍 「おおおりゃあ!」


ガギイン


強欲な善 「……!!!」

強欲な善 「~~~……!!」


鬼角侍 「おれもまだまだ修行が足りんな……っ!」

鬼角侍 「首を叩き斬れば……止めるにここまで苦労すまいに!」


ギギギギギ


強欲な善 「……! ………ッ!」


盗賊姉 「ハアッ……ハアッ……!」


ノソ ズル ノソ ズル

ノソ……




盗賊姉 「一緒にここを出るぞ、妹よ……」

盗賊姉 「そして自由に、アタイたちは誰にも縛られずに……」


盗賊妹 「…………」


カツン カツン カツン カツン 


??? 「そりゃあ、無理というものでしょう」


盗賊姉 「…………!」

盗賊姉 「あんた……!」


カツン カツン カツン


??? 「空が空で、海が海である限り、私らは不自由なものです」


カツ


??? 「……私らは用意された舞台で、できることをやるだけ。いただいた役割をまっとうするだけ」

三白眼 「この世は、空を天蓋とした無限大の棺にすぎないのです」





星妖精 「……ああっ、あいつ。目つきの悪い嫌なやつ!」

星妖精 「バーカ! バーカ!」


三白眼 「やあ、いや、遠くで虫の羽音が。風流だなあ」


盗賊姉 「……何なんだよ、あんた!」


三白眼 「いえ、本当はもっと早くちょっかいを出すつもりだったんですがね」

三白眼 「何やら父の雷のごとく恐ろしい声が聞こえてきて、気絶してしまっておりました」


盗賊姉 「今は、あんたと……ふざけている暇は、ないんだ」

盗賊姉 「どけ……!」


三白眼 「ふざけてくれたことなんて無いくせに」

三白眼 「しかし、良いのですか、あなた」

三白眼 「このまま私の立つここから玉座の間を出れば」

三白眼 「いよいよ、あなたは王を盗んだ盗賊になってしまいますよ」


盗賊姉 「良いんだよ、それで。のぞむところさ、アタイはもともと……!」


三白眼 「逃れられないと思うんですがね」


盗賊姉 「どけっ!」


三白眼 「……妹さん、本当はどうなんでしょうかね」


盗賊姉 「…………!」


盗賊妹 「…………」




三白眼 「そりゃ、まっとうに生きているとは言えませんよ」

三白眼 「ですがね、先の見えない盗人稼業よりかは、ずいぶん良いかと思いますよ」

三白眼 「王さま暮らしというものは」


盗賊姉 「はっ、王さまかい。自分の権力に尻尾振って、酔っ払った豚みたいに暮らせってのか」


三白眼 「やあ、いや、ずいぶん王さまというものが嫌いなようで」

三白眼 「……ここの王さまがたも、あなたの言うような王さまだったんでしょうかね」

三白眼 「すこし違ったのでは?」

三白眼 「背景に呪いがあったとはいえ」


盗賊姉 「…………」


三白眼 「だからこそ、その殺人王に惹かれたのでは」

三白眼 「妹さんの場面に一切出てこなくなるくらいに」

三白眼 「……だったら呪いに感謝しても良いくらいですよ、あなた」


盗賊姉 「……う、うるさい!」




三白眼 「どうでも良いですがね」

三白眼 「しかしあなた、直接聞いたのですか」

三白眼 「妹さんが、王さま暮らしより盗人暮らしをしたいなんて言っているのを」

三白眼 「……というより、妹さんがあなたに遠慮しないで妹さんの頭で考えたことを、聞いたことあるのですか」


盗賊姉 「良いから、どけ!」


三白眼 「這いつくばって強気なことだ」

三白眼 「あの王さまと、二度と会えなくなりますよ」


殺人王 「…………」


盗賊姉 「……だ、黙れ。悪魔の囁きみたいに次から次へ!」

盗賊姉 「もうアタイは迷ったりしない。アタイは……と、盗賊だ。ちゃんと妹と一緒にいるんだ……」


盗賊妹 「…………」


三白眼 「まあ、何と呼ばれようと構わないのですがね」

三白眼 「ですが、どうせ盗賊だったら、妹さんのついでに地位も王さまも手に入れたら良いと思うのですよ」

三白眼 「ほら、こことは真逆のところに転がっているじゃありませんか」

三白眼 「まだ、生きていると良いんですがね」




偽善者の城 玉座の間 出口側



オオオオオ

ガキ ギイン


強欲な善 「…………!」


鬼角侍 「ぬうう……!」

鬼角侍 「……うん?」


カツン カツン


三白眼 「…………」


盗賊姉 「…………」


カツン カツン


鬼角侍 「お、おい、そちらは……」


強欲な善 「お゛お゛お゛お゛!」


ギュオオ


鬼角侍 「! ええい、こちらだ、竜よ!」


ガキ ギギギ


強欲な善 「…………」


鬼角侍 「ぬうっ……!」


三白眼 「ご苦労様です」


カツン カツン カツン




偽善者の城 玉座の間 玉座側



吟遊詩人A 「夜光の杯は白い港の……」


オオオオオ

カツン カツン カツン


三白眼 「…………」


盗賊姉 「…………」


三白眼 「やあ、恐ろしい声をお持ちだ、詩人どの」


星妖精 「あなた……」


三白眼 「先ほどはどうも」

三白眼 「よくお眠りになられていたので、廊下の真ん中に置いておきました」

三白眼 「善の支配する城ですから、無防備に眠る妖精を見つけたとして、隠し持とうなんてよからぬことを考える者もいないでしょうし」


星妖精 「うるさい! あなたが盗賊妹ちゃんに何かしたんでしょ」

星妖精 「こんな場所までやってきて、この出しゃばり。何がプロンプターよ!」


三白眼 「休暇中です」

三白眼 「考えて行動したのは彼女」

三白眼 「私の言葉の力なんて高が知れとります」


星妖精 「それが悪魔の常套句よ。この悪魔!」


三白眼 「何と呼ばれようが、構いませんがね」

三白眼 「そうですね。私はいつか彼女に疑うことを説きましたが、彼女はまず自分を疑うべきだったのかもしりゃしません」

三白眼 「では、失礼」


盗賊姉 「…………」


カツン カツン カツン カツン


星妖精 「バーカ! バーカ! 間抜け、魔抜けバーカ!」




偽善者の城 円卓



カツ カツン


三白眼 「……おや」


最古の王 「…………」

最古の王 「詩人どのの声は、老いた身に毒でして」

最古の王 「恥ずかしながら、ここに逃げ込んでおります」


三白眼 「良いですよ。体は大事にしなくては」


盗賊姉 「…………」


コツ コツ コツ コツ


食人王の死体 「…………」


処刑王 「…………っ」


盗賊姉 「……息がある」


三白眼 「それはけっこう」




最古の王 「……やるのですね」


盗賊姉 「…………」


最古の王 「止めることはできません」

最古の王 「処刑王さまは、もはや助からない」

最古の王 「どのみち、新しく来た者の中から新しい王を探さなくてはならなかったのだから」


三白眼 「大変でございますね、骨馬車と薔薇の御者も」

三白眼 「……おや、お茶会の準備をしていたのですか」

三白眼 「これはどちらかというと女性が好みそうな……」


最古の王 「どうにか、つつがなく」

最古の王 「……早くなさい盗賊姉さん」

最古の王 「あなたから預かっていたものを返しましょう」


盗賊の短剣・改


盗賊姉 「……ああ」


チャキ


最古の王 「あなたが処刑王さまを殺せば、あなたは盗人ではなく新たな王さまとして」

最古の王 「あの竜に、この城市の魔法に認められることとなりましょう」

最古の王 「それからは殺人王さまや私、妹さんとともにこの国を治めることになります」


盗賊姉 「…………」

盗賊姉 「……っ!」


ヒュ ザクッ


最古の王 「……悪いことはありません」

最古の王 「我々にも、この円卓の間はあるのだから」



…………



…………


偽善者の城 城市


ドン パパン 

ワアアアア


花御者 「…………」


カラカラカラカラ


ドラゴニュート 「見て、手乗り」

ドラゴニュート 「花の御者が繰る花の馬車。清らかで綺麗だわ」

ドラゴニュート 「ああ、みずみずしく甘い香り。天国のお花のよう……!」


手乗りドラゴン 「これ姫さま、身を乗り出しては危ないですぞ」

手乗りドラゴン 「しかし、うーむ、今日になっていきなり新しい王の戴冠式とは……」


ひっつめ髪の娘 「盗賊姉王さま、盗賊妹王さま、ばんざい!」


チョッキの中年 「盗賊姉王さま、盗賊妹王さま、ばんざい!」


ワアアア ワアアアア

カラカラカラカラ


盗賊妹王 「……見て、見て、お姉さま」

盗賊妹王 「通りだけじゃないわ。二階も、三階の窓からも、みんな私たちに手を振ってくれているわ」

盗賊妹王 「私たちを祝ってくれているわ」


盗賊姉王 「うふふ……妹王ったらそんなにはしゃいで」

盗賊姉王 「だから言ったでしょう。心配しなくても、ここに暮らすのはきっと優しい人ばかりだって」


殺人王 「それだけではありません」

殺人王 「あなたたち姉妹を王として迎えることができて、みな心から喜んでいるのです」


最古の王 「ほほほ、良いこと、良いこと……」


ワアアアアア

カラカラカラカラ






盗賊妹王 「……姉さま」


盗賊姉王 「……なあに、妹王」


盗賊妹王 「私、とても幸せだわ」

盗賊妹王 「憧れていたきらきらのティアラを乗せて、こんな素敵な国の王さまになれるなんて!」


盗賊姉王 「そう……」


殺人王 「あはは……! 私も、何だか愉快な気持ちになってきたよ。いつも幸せなはずなのに」


最古の王 「ほほ。これ、殺人王さま、身を乗り出しては危ないですぞ」


ワアアアア ワアアアア

カラカラカラカラ


盗賊妹王 「あはは、あはははは、わあい……!」


殺人王 「ははは……!」


最古の王 「ほほほ、これこれ二人とも……」


ワアアア

カラカラカラカラ


盗賊姉王 「……ええ」

盗賊姉王 「私も、とても幸せだわ……」


ワアアア ワアアアア

ドン パパパ パラパラパラパラ

カラカラカラカラ




…………

ワアアア ドヤドヤドヤ



偽善者の城 城市 木の宿



ポロロ ディロロロロ


吟遊詩人A 「…………」


三白眼 「……最初に王を殺した来訪者は四人いたそうです」


鬼角侍 「ほう」


雪幼女 「……クゥ。スピー……ムニャムニャ」


三白眼 「それはどうでも良いとして」

三白眼 「呪いも、人の心すべてを支配することはできませんでした」

三白眼 「すべての人を善い行いしかできないようにはしましたが」

三白眼 「しかし、すべての人を根っからの善人にすることはできなかったのです」




逆さ娘 「うーん、この天井もなかなか……」


三白眼 「他人から見れば完璧に善人の言動をとるのですが」

三白眼 「じっさい心の中では悪いことを考えているかもしれない」

三白眼 「しかし、やはり他人から見れば完璧に善人の言動しかとらないので」

三白眼 「じっさい心の中で悪いことを考えているかもしれなくても、それを憂う必要はない」


星妖精 「バーカ、バーカ」


三白眼 「暮らす人びとは分かっているのです。みな偽善であると」

三白眼 「しかし、それは絶対に胸の内より外には出さない」

三白眼 「いくつもの鍵とドラゴンに守られた宝のように」

三白眼 「かつての王が思い描いた善と限りなく似ていて、絶対に非なるもの」

三白眼 「それが、この偽善者の城なのです」



鬼角侍 「……なるほど」


逆さ娘 「分かったような、分からんような」


雪幼女 「ムニャスピー……」


吟遊詩人A 「…………」


ディロロ…… ロロ


三白眼 「伴奏ありがとうございました」

三白眼 「やあ、不思議と気持ちよく話せました」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「一生の思い出にしなさいよね、三バカ眼」


三白眼 「私は一人ですが」




星妖精 「……で」

星妖精 「あなたは盗賊妹ちゃんに何をしたのよ、この悪魔」


三白眼 「何と呼ばれても構いませんがね」

三白眼 「悪魔も天使も、役割が違うだけで忠実な神さまのしもべという話もあります」

三白眼 「光栄としておきましょう」

三白眼 「では、伴奏をお願いします。一生の宝にしますので」


星妖精 「お願うな」


吟遊詩人A 「…………」


チヨン チヨン ビヨン


星妖精 「弾きだすな」


ヂョン ティロロロロロン




三白眼 「話した通り、城市の人々は呪いで善い行いをさせられますが、根っからの善人にはなれません」

三白眼 「心のある部分にドロドロとした悪を飼い、それは四人の王も同じでした」

三白眼 「あの王たちは、偶然か必然か何然か、それぞれいわくつき。大の悪人です」

三白眼 「善の最高峰のように振舞わなければならないのは、彼らにとってどれほどの苦痛だったか」


鬼角侍 「…………」


三白眼 「抑圧された悪い心は、彼らの胸のうちで肥大化してさらに醜悪に変貌していきました」

三白眼 「それは、これからも決して表に出ることはありませんが……」

三白眼 「ただ、あの円卓の間でのみ、彼らは本音を語ることができたのです」

三白眼 「もともと王の位についていた者が、一人だったせいかどうかは分かりませんが」

三白眼 「四人の王の間でのみ、それは共有することができました」


星妖精 「盗賊妹ちゃんは、その本音を聞いたというわけ?」


三白眼 「その通り」




三白眼 「どうせ、これまでの悪事のことやら、新しい悪巧みを披露していたのでしょう」

三白眼 「だからといって、彼女は別にどうこうする必要は無かったのです」

三白眼 「なぜなら、四人の王はあの円卓で悪巧みはできても、呪いのせいで実行することは絶対にできないのだから」

三白眼 「よしんば獲物をあの部屋におびき寄せたとして、できたのはお茶を振る舞うことくらいでしたでしょうに」

三白眼 「……まさか、殺してしまうとは」

三白眼 「いやあ、武器を持った子供の思い込みと行動力というものは、恐ろしいですな」


星妖精 「まあ、白々しい」

星妖精 「あなたが、そうなるように意味ありげに吹き込んだんでしょ」

星妖精 「この悪魔」


三白眼 「何と呼ばれようが構いませんがね」

三白眼 「やあ、いや。実際、休暇中でも仕事熱心なのは、私の反省すべきところでしょう」

三白眼 「放っておけば、こんなこともなく」

三白眼 「あの姉妹も先の短かろう盗人人生を謳歌できたでしょうよ」

三白眼 「……臆病な人間一人おんぶした少女が、ぐるりを敵だらけにして生きていけるほど、人生は甘くはないでしょうに」


星妖精 「嫌な言い方」


三白眼 「あなたがただって、物語を収集できたのでは?」


星妖精 「む………」


三白眼 「……私もね、つくづく嫌になりますよ。ですが仕事ですからね」

三白眼 「私の仕事の内容があなたの気に入らないものであるのは、悲しいことですが、しかたないのです」

三白眼 「でも、そこは割り切っていこうではありませんか」

三白眼 「私の仕事以外のところでは、仲良くしましょう。私も芸事は好きです」

三白眼 「あなたがたは本当に素晴らしい詩人だ」


星妖精 「……なんか、やっぱり嫌な感じ」


吟遊詩人A 「…………」


ティロロロ シャラララ……





…………



盗賊荒野 骨馬車



カラカラカラカラ


雪幼女 「モチュモチュモチュ……ゴックン」

雪幼女 「ここのオモチはうまいのー。この馬車、持っていけんかのー」


鬼角侍 「おれとこれは、あの宿で世話になっていたんだがな」

鬼角侍 「そこの主人夫婦も、おれたちの寝込みを襲い殺し金品を奪う相談をしていた」


星妖精 「返り討ちにしちゃったの?」


鬼角侍 「だったら、おれはここに居なかったであろうよ」

鬼角侍 「……一宿一飯の恩があったからな。かかってきたら叩き斬るつもりだったが」

鬼角侍 「まあ、夫婦はついにおれの寝込みを襲うことはしなかったよ」

鬼角侍 「とにかく、そのことが、おれがあの城市のからくりを知るきっかけにはなったな」


雪幼女 「モチュモチュモチュ……」


鬼角侍 「こいつは食ってばかりだったな」


雪幼女 「失礼な男じゃの。他にもいろいろやったぞ」

雪幼女 「あのな、四人のうちの誰じゃったか王さまに頼まれてのー……」


 



カラカラカラカラ


逆さ娘 「だけど、あの気持ち悪いドラゴンのことは大変だったね」

逆さ娘 「何やっても傷を負わないんだもの」

逆さ娘 「結局、あのお姉さんの方も王さまになってどうにか丸くおさまったから」

逆さ娘 「帰っていったってだけでしょう」


鬼角侍 「うむ。あれに勝てる気はしない」

鬼角侍 「というか、勝ち負けの通用する相手ではないように思ったよ」


星妖精 「あんなの反則よ」

星妖精 「あれが今も玉座のすぐ後ろ、扉一枚の向こうで眠っているなんて」

星妖精 「私が王さまだったら気が狂いそう」


吟遊詩人A 「…………」




雪幼女 「放っておいて良いのかのー、あのろくろ首もどきの竜もどきは」


星妖精 「それについては、しゃくだけどあの三パック百円が別れ際に言っていた通りで良いんじゃないかしら」

星妖精 「あそこはあそこで、もう一つの形が完成しているもの」

星妖精 「無理につついて壊しても、きっと不都合が出てしまうわ」

星妖精 「私たちがどうこうする必要は無いと思う」


雪幼女 「じゃのー」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「……しかし、どうなのだろうな」


星妖精・雪幼女 「?」


鬼角侍 「心の中でどう思っていても、それを隠して」

鬼角侍 「他人の気に入るように動いたり話したりするというのは」

鬼角侍 「それは、別にあのように呪われた場所でなくとも、多くの者が当たり前にやっていることなのではないか」


星妖精 「そりゃあ……ぜんぶ自分のやりたいようにってわけにもいかないでしょう」

星妖精 「ときには相手の気持ちを考えて我慢するのも、まあ必要なことでしょうよ」


逆さ娘 「ねえ、気になってたんだけど星妖精のそのハネって何。ヘドロゴキブリのハネ?」


星妖精 「……じゃないと個人単位で戦争が起きるわよ」


雪幼女 「ゴキブリかー」


星妖精 「違う」




逆さ娘 「奴らはすごいからね。天井だろうがお構いなしに張り付いてくるからね。走るからね」


雪幼女 「うちものー、雪山から初めておりたとき、あれを見て驚いたもんじゃ」

雪幼女 「何じゃあれ、地獄の使者かと思ったからのー」


吟遊詩人A 「…………」


鬼角侍 「……この世は空を天蓋とする棺にすぎない、か」

鬼角侍 「妹とあの王、不自由ながら二つの愛を選んだあの姉は」

鬼角侍 「良かったのかもしれんな」


星妖精 「そんなわけないでしょう」

星妖精 「まあ、でも、円卓の間は使わないことをすすめたいわね」


カラカラ カララ

ガチャ


薔薇御者 「……到着しました。オアシスの町です」

薔薇御者 「みなさま、さようなら」



…………

……




…………



坂の草原



ザッ ザッ

フヨ フヨ フヨ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「あっという間に二人になったわね」

星妖精 「これが普通だから良いんだけど、いきなり人が減るのは寂しい感じ」


吟遊詩人A (彼らも旅人らしいから、運が良ければまた会えるさ)


星妖精 「会ったら会ったで、疲れそうな人たちよ」

星妖精 「うん、とりあえず、あのサンダープリンにだけは会いたくないわね」


吟遊詩人A (ご苦労様)


星妖精 「……ねえ、あなたはどうなの」

星妖精 「たしかに収穫はあったけど、あの呪われた城市は」


吟遊詩人A (私は弦を弾くだけさ。そういうことは分からない)

吟遊詩人A (だけど、そうだな)

吟遊詩人A (みんなが正解どおりに動くより、間違っていてもいろいろな考えを持って動いた方が)

吟遊詩人A (物語は楽しくなるのかもしれないね)


星妖精 「ふうん」


吟遊詩人A (心の中に天使も悪魔も飼っていた方が、何かと面白いものさ)


星妖精 「そういうものかしら」


吟遊詩人A (さあね。正解は知らない)


星妖精 「……あなたもけっこういい加減よね」



ソヨ ソヨ

ザアアア


ザッ ザッ ザッ

フヨ フヨ フヨ


吟遊詩人A (さて、次はどこへ行こうか)


星妖精 「砂ばっかりだったから、うーん、そうね、緑の多いところか」

星妖精 「ああ、水のたくさんあるところが良いわ。海とか」


吟遊詩人A (海。船旅かな、楽器の音が消されないと良いけれど)


星妖精 「列車も良いわよ」

星妖精 「海沿いの崖を走る、大陸列車」


吟遊詩人A (それも良い)


ザッ ザッ ザッ

フヨ フヨ フヨ


星妖精 「あとは、そうね、やっぱり最近彼女がつくったという糸巻きの町……」


吟遊詩人A 「…………」


ザッ ザッ

フヨ フヨ ヨ



星妖精 「そして……」


吟遊詩人A 「…………」



フヨ ヨヨ ヨ……

ザッ ザッ……


ザアアア

ソヨ ソヨ

ザアアア……



………………

…………

……






おわり



おまけ




幼女魔王Nの城 玉座



淫魔幼女 「……というわけだ」


猫耳蛇娘 「うーん、めでたしめでたし。今日もためになったのう」

猫耳蛇娘 「淫魔幼女の淫語りは」


幼女魔王N 「…………」


母性巫女 「…………」

母性巫女 「……あ、あの、魔王さま」

母性巫女 「せっかく話してもらったのだから、何か感想を……」


幼女魔王N 「…………」

幼女魔王N 「クカー!」


ZZZ...


母性巫女 「魔王さま!?」




幼女魔王N 「冗談よ、冗談」

幼女魔王N 「むふっ!」


母性巫女 「もう、魔王さまったら、うふふ……」


淫魔幼女 「死ね」


ゴゴゴゴゴ


幼女魔王N 「ひえっ……ほ、本気で言わないでよ!」

幼女魔王N 「私だって忙しい政務の合間にちょっとくらい冗談を言うわよ!」


淫魔幼女 「何がちょっとだ、何が政務だ馬鹿。基本玉座の上で魔法遊戯ペニーステーションポータブル、略してPSPをやっとるだけだろうが」


幼女魔王N 「あら、今は売女よ。ペニーステーション売女(ヴァイタ)、略してPSV」


淫魔幼女 「黙れ賞味期限切れ処女が」

淫魔幼女 「冗談というのは、ちゃんと生きている奴にのみ許される遊びだ」

淫魔幼女 「毛虫から毛がもれなく抜け落ちたような貴様がやっていいものではない」

淫魔幼女 「基本的に貴様は大自然の大いなるバグで生かされているようなものだと肝にめいじろ」


幼女魔王N 「…………」

幼女魔王N 「うわーん、母性巫女ー!」


母性巫女 「よしよし」

母性巫女 「今度からこういうとき、冗談はほどほどにしましょうね」




幼女魔王N 「……で、なんだっけ。何の話だったっけ」

幼女魔王N 「ああ、そうだ」

幼女魔王N 「強欲な善(笑)……だっけ?」

幼女魔王N 「ぷふふっ」


淫魔幼女 「貴様……」


猫耳蛇娘 「なんでじゃ、格好いいじゃろうが強敵っぽくて!」


母性巫女 「魔王さまも、けっこう似たようなこと言っているじゃありませんか」

母性巫女 「地獄大根おろしとか、タバスコ千夜一夜とか」


幼女魔王N 「え、き、聞いてたの!?」

幼女魔王N 「い、いや……ふ、ふーんだ、あれは、違うもん! あれは演技のお稽古だもん!」

幼女魔王N 「あと、勇者が来たときにびっくりさせるためだもん!」


淫魔幼女 「勇者が来たときに貴様が選べるコマンドは、逃げる、土下座、体を売る、だけだろうが」


猫耳蛇娘 「ちゅーか、地獄大根おろしでびびるような勇者は、魔王の城にたどり着くどころか旅立てんと思うがの」




淫魔幼女 「まったく、これだからコミュ障のクソ幼女は」


猫耳蛇娘 「そうじゃぞ、今の吟遊詩人の物語には、もっと心に留めるべき部分があったじゃろうが」

猫耳蛇娘 「そう」

猫耳蛇娘 「雪女は幼女でも母乳が出るっちゅうことじゃ!」

猫耳蛇娘 「あー驚いた!」


幼女魔王N 「……ええっ!?」

幼女魔王N 「雪幼女のミルクって、そういうことだったの!?」


淫魔幼女 「おい」


幼女魔王N 「……むむ。幼女、貧乳……乳がない」

幼女魔王N 「男も乳がない……つまり貧乳」

幼女魔王N 「まさか、男のミルクの謎はそこに……」


母性巫女 「魔王さま、何の話を……?」


淫魔幼女 「ここの幼女は馬鹿だらけだ……!」




母性巫女 「……二人とも女の子なんですから、そんなことを大声で話すのは控えてくださいね」


幼女魔王N・猫耳蛇娘 「面目ない」


淫魔幼女 「……たとえ偽善だとして、絶対に偽善だとばれず善にしか見えないとしたら、果たしてそれは偽善と呼んで良いのか」

淫魔幼女 「心からの善と上辺だけの善、まったく違うがどちらも同じに見えるなら、ではそこに違いはあるのか」

淫魔幼女 「そういう話もできるだろうが。どうして雪女のミルクなんだ馬鹿」


猫耳蛇娘 「おう、そうか。ふむ、身近な現実を例にすると」

猫耳蛇娘 「母性巫女はいつも幼女魔王Nに優しくして、あたかも幼女魔王Nのこと大好きっぽく見せておるが」

猫耳蛇娘 「実際、心の中では死ぬほど幼女魔王Nのことが嫌いでしかたない」


幼女魔王N 「えっ……」


猫耳蛇娘 「でも絶対にそれを表に出すことはないから、その辺はまあどうでも良いじゃん」

猫耳蛇娘 「母性巫女は幼女魔王Nが大好きってことにしておいて丸くおさめとこうぜ」

猫耳蛇娘 「ってことじゃな」


淫魔幼女 「まあ、身近な現実を例にするとそうだな」


母性巫女 「ちょっと、二人とも」


幼女魔王N 「……そうなんだ。母性巫女、やっぱり私のこと嫌いなんだ」

幼女魔王N 「そうよね……私、カスのゴミクズ魔王だし……レベル上がるほど弱くなるし、髪ピンクだし……」

幼女魔王N 「夜ひとりでトイレいけないし、しもべほとんど触手だし……」


母性巫女 「ああ、魔王さまが自己嫌悪のドツボに……」

母性巫女 「よしよし、大丈夫ですよ。私はそんな魔王さまのことが一番大好きですよ」


ギュ ナデナデ


幼女魔王N 「うう、グスッ……母性巫女ぉ……」


母性巫女 「よしよし」


幼女魔王N 「えへへへ……」


母性巫女 「うふふ……」


淫魔幼女 「本当は死ぬほど嫌いだがな」

淫魔幼女 「お願いだから死んでくれと思っているがな」


猫耳蛇娘 「もう今まさに頭の中でパーとグーで殴りまくっておるからな」

猫耳蛇娘 「右手はパーで左手はグーでタコ殴りじゃからな」


幼女魔王N 「うわーん!!」


母性巫女 「もうっ! 二人とも!」



…………


幼女魔王N 「……それで、何なのよ。ほら、さっさと出しなさいよ」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「……はて?」


幼女魔王N 「はて? ……じゃ、ないわよ! わざとらしく言ってるんじゃないわよ」

幼女魔王N 「あなたがこういう話をするときはあれじゃない、何かの押し売りじゃない」

幼女魔王N 「まったく、こっているわよね。あんな作り話まで用意して」

幼女魔王N 「あーあ、はいはい、脱帽脱帽。負けました。さすがは外道商人の淫魔幼女さま」

幼女魔王N 「あなたの世界観に鳥肌がたちました。これからも頑張ってくーださい」


猫耳蛇娘 「お、ほーっ。むっ…………かつくのぉー、こやつ。隠す気もなく上辺だけのコメントを出しおったぞ」

猫耳蛇娘 「スライム以下のくせに」


淫魔幼女 「作り話じゃないが」

淫魔幼女 「……まあ良いだろう」


ゴソゴソゴソ




ゴト


でかい毛玉? 「…………」


幼女魔王N 「……なにこれ」


母性巫女 「毛玉? 毛玉にはちょっときつい思い出が……」


淫魔幼女 「かつて偽善者の城があったと言われる砂漠で見つかった、よく分からない毛玉だ」


猫耳蛇娘 「一点ものじゃぞ」


幼女魔王N 「知らんわよ。本当に何これ。まあ、買うけど……」


チャリン


淫魔幼女 「……お買い上げどうも。こう言うのもあれだが」

淫魔幼女 「きさま正気か?」


猫耳蛇娘 「ひっからびた毛玉じゃぜ?」


幼女魔王N 「ホントに何なのよあなたたちは!」





母性巫女 「うーん、どうしましょう、この毛玉」

母性巫女 「……とりあえずお湯をかけてみましょうか」


タポタポタポ


猫耳蛇娘 「この娘はこの娘で、変なところでためらいが無いのう……」


幼女魔王N 「お湯って、そんな、干しシイタケ水でもどすわけじゃないんだから……」


タポタポタポ


でかい毛玉? 「…………」

でかい毛玉? 「…………!」


ボワン


幼女魔王N 「ええっ!?」


猫耳蛇娘 「変身じゃあ!?」


モク モク モク モク


でかい毛玉? 「…………ケホ、ケホ……もふっ」

多尾獣耳娘 「ここはいったい……」

多尾獣耳娘 「……ややっ」


幼女魔王N 「あわわわ…………」


多尾獣耳娘 「…………」

多尾獣耳娘 「…………し」

多尾獣耳娘 「師匠!!」


幼女魔王N 「ええっ!!?」






…………


『淫魔幼女「魔法少女狩るついでに魔王に売りつけた毛玉が毛玉じゃなかった」』


おわり



ありがとうございました


おつおつ

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