戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」 (198)

 IS<インフィニット・ストラトス>と仮面ライダー鎧武のクロスSSになります。
 舞台およびストーリーのベースはIS(の、クラス対抗戦までです)。
 ISの世界に鎧武の駆紋戒斗が乱入した形となります。
 
 あ。なるべく減らしますが、どうにもならない時は地の文が入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419961833


■序幕 述懐
<入学式・ホール>

一夏(強くなりたい)

一夏(《白騎士事件》から10年。女性しか使えない超兵器IS《インフィニット・ストラトス》は、世界を変えた)

一夏(今や世界は女尊男卑だ。町中ですれ違った、なんて理由だけで女にパシらされる男の姿も珍しくない)

一夏(男はISを使えないから。……男は何も守れないと、思われているからだ)

一夏(でも。何の因果か、俺は世界で唯一の『ISを動かせる男』になった!)

一夏(強くなりたい。せめて、今日まで俺を守り続けてくれた千冬姉を守れるくらいには……!)

■第一幕 二十歳の高校生
<入学式当日SHR(ショートホームルーム)・1年1組>

一夏(気になることはたくさんある。どうして千冬姉がIS学園の教師をしていて、しかも俺の担任なんだ、とか。でも、それよりももっと、奇妙な奴がいるんだ)

戒斗「…………」

一夏(気になる……)

一夏(同い年に見えないんだよなぁ。って言うか、なんでIS学園の制服を着てないんだ。あの赤と黒のコートはどこの制服なんだ)

一夏(それに、あの強い瞳。……なんか、千冬姉みたいだ)

山田「――はい。みんな自己紹介できましたね」

「はいはーい! 先生、質問いいですかー!」

千冬「いいだろう」

「それじゃあ……。駆紋くん! 駆紋くんって、いくつなんですか!」

一夏(それ聞いちゃうのかよ!? そりゃ確かに、高校生って言うにはちょっと老けてる気がするけど……)

戒斗「二十歳だ」

一夏(なん……だと……)

戒斗「俺からも一つ質問をさせてもらおう」

一夏(えっ。あいつ、他人に興味を持つような奴だったんだ)

戒斗「授業外でのISの貸し出しはしているのか?」

一夏(違ったー!? やっぱり一匹狼だったー!?)

千冬「訓練機なら放課後も使えるぞ。ただし、機体とアリーナの使用は事前申請が必要だ。くくっ。駆紋、リベンジはいつでも受けてやるぞ」

戒斗「……ふん」

一夏(え? 千冬姉が笑ってる……?)

千冬「じゃあ、そろそろ授業を始めるぞ。お前達を一年で使い者になるように育て上げなければならないんだ。時間はいくらあっても足りないからな」

一夏(どういうことだよ。千冬姉と戒斗は、俺の知らないところで何かあったのか? ……千冬姉と)ギリッ

<1時間目休み時間・1年1組>

一夏「戒斗!」

戒斗「何だ。……ああ、織斑か」

一夏「そうだ、よろしく! ――じゃ、ない! お前、どういうことだよ!」

戒斗「何がだ」

一夏「千冬姉だよ! いつの間に千冬姉と仲良くなったんだ!!」

戒斗「千冬?」

一夏「織斑千冬だよ! 俺の、世界でたった一人の家族だ!」

戒斗「ああ。そういえば貴様はあいつの弟だったな」

一夏「あいつ!? な、ななな、なんでそんなに親しげなんだよ!」

戒斗「…………」

一夏「何とか言えよ!」

戒斗「やかましい」

一夏「な、なんだとぉっ!?」

戒斗「織斑千冬は、俺の入試の対戦相手だった。ただそれだけの話だ」

一夏「それだけって。だったら、なんで千冬姉は笑ってたんだよ!」

戒斗「本当にやかましいな、お前は……」

一夏「これは俺にとっては大事なことなんだ!」

戒斗「……ふん。お前は姉がそんなに大事なのか?」

一夏「大事だ!」

戒斗「…………」

戒斗「いいだろう」

一夏(戒斗の表情が変わった……?)

戒斗「強い男は嫌いじゃない。あいつは、そう言っていた」

一夏「強い男……?」

戒斗「そうだ、強い男だ。織斑、姉が欲しければ強さを示せ」

一夏「強さを示す……。って、俺は別にそんなんじゃ!?」

戒斗「ふん。話は終わったろう、消えろ」

一夏「わかった、わかったよ!」

一夏(駆紋戒斗。……こいつは一体、何なんだ)

<3時間目・1年1組>

千冬「では、クラス代表を決める」

一夏「千冬姉、クラス代表って何する――いでぇっ!?」

千冬「学校では『織斑先生』だろうが、このバカ者が」

一夏「……御指導ありがとうございます、織斑先生」

千冬「よろしい。それで、クラス代表の役割だったな。いわゆるクラス長だ。生徒会の開く会議や委員会への出席の義務を負うことになる。それと」

一夏「それと?」

千冬「再来週に行われる、クラス対抗戦に出場することになる。だからまあ、強い者。いや、強くなりたい者がなるべきだな」

一夏「強くなりたい者……」

 ――織斑、姉が欲しければ強さを示せ。

一夏「…………」

一夏(千冬姉が欲しいとか、そんなんじゃない。でも、俺は……)

千冬「自推、他推は問わない。誰かいないか?」

戒斗「俺がやる」

一夏(戒斗!?)

千冬「ふむ。他に候補者がいなければ、駆紋で決まりに――」

一夏「待った! 俺、クラス代表に立候補する!」

千冬「織斑か。他にいないか?」

 シーン……

千冬「ふむ。候補者2人か、どうやって絞るか」

戒斗「決まっているだろう。戦って勝利した者がなればいい」

千冬「くくっ。それもそうだな」

一夏(千冬姉、また笑ってる)ギリッ

千冬「それでは一週間後にクラス代表をかけた試合を行う。織斑、駆紋。がんばれよ」

<放課後・屋上>

戒斗「ここは静かだな」

戒斗「……」

戒斗「あれが織斑一夏か。俺は、あれを育てなければならないのか……」

戒斗「……。ふん」ヘンシン

戒斗(ロードバロン)「そこに隠れている奴、出てこい」

束「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃじゃーん! 私が天才の~束さんだよー!」

戒斗「……」チャキ

束「女の子に無言で剣を突きつけるのはよくないと思うなー」

戒斗「ここでお前を斬れば厄介事の大半が片付くからな」

束「ふうん。いっくんを育てることと私を殺すことは、同じことなんだ?」

戒斗「なるほど、その耳は盗み聞きのためにあるわけか」

束「それだけじゃないよお。例えば――お前を食べちゃうためにあるのさあ!」ブンッ

戒斗「!」ガキンッ

束「女の子といっくんしか使えないはずのISを君が動かせる理由、何となく分かったよ。ばいばーい!」

戒斗「待て! ……ッチ。逃がしたか」

戒斗「……」

戒斗「まったく。葛葉の奴、いい加減な掃除を……!」

<放課後・学生寮1025室>

一夏「そうだよな。男子は二人しかいないんだから、戒斗と同じ部屋になるよな……」

戒斗「ふん。何が不満だ」

一夏「決闘相手と寝起きを共にするなんてありえないだろ!?」

戒斗「安心しろ。俺は寝首を掻くような弱い真似はしない」

一夏「そういう問題じゃなーい!」

戒斗「やかましい。俺は寝る。お前も朝まで黙っていろ」

一夏「あ、ちょ! ……電気消しやがった」

一夏(駆紋戒斗。俺と同じ、ISを動かせる特別な男。そして、鉄面皮の千冬姉を笑わせられる男)

一夏(……俺は、お前に負けたくない)

■第二幕 クラス代表決定戦!
<朝・1年1組>

「そういえば、他のクラスってクラス代表はどうするんだろうね」

「3組はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットじゃないかな? ほら、専用機持ちだし」

「2組にはあの篠ノ之束の妹がいるらしいじゃん。だったら、その子じゃないかな」

「4組も専用機持ちがいるらしいから、たぶんその子だよね」

「そして、うちのクラスは……」

「織斑一夏くん!」「駆紋戒斗くん!」

「「「「むむむむむ」」」」

「織斑くんよ! だってIS世界大会(モンド・グロッソ)の初代優勝者の織斑千冬様の弟君なのよ!」

「戒斗よ! あの貪欲に強さを求める彼こそクラス代表――いえ、王者にふさわしい逸材だわ!」

「「「「むむむむむ」」」」

<4時間目・1年2組>

箒(一夏は1組なのか……)

箒(噂では、クラス代表の座を賭けて決闘するとか。もしかしたら、ISの特訓を口実に接点が持てるかもしれない)

箒(けれどあいつは、私のことを覚えているだろうか……)

箒(……。ええい、何を恐れる必要がある! こうして再び一夏と同じ学び舎で過ごせるのは、きっと、運命なんだ。大丈夫。一夏はきっと私を覚えてくれている)

箒(きっと……)



<4時間目・1年3組>

セシリア(駆紋戒斗を籠絡せよ、ですか。ISを動かせる男性。その存在はとても意味がありますわ。本国からそういった指示が来るのも、不思議ではないかもしれません)

セシリア(でも。わたくしは、自分の相手は自分で決めますわ。……夫は、強い人でなければだめよ。父のように、弱い人では……)

セシリア(しかし、どうして駆紋戒斗と指定されたのでしょう。もう一人がいますのに……)

セシリア(考えても仕方がありませんわ。どの道、接点は持ってみるつもりでしたもの。お昼休みに会ってみましょう)

セシリア(そういえば、駆紋戒斗と織斑一夏はクラス代表の座をかけて決闘するとか……。うまく使えば、口実にできるかもしないわ)

<昼休み・1年1組>

セシリア「ちょっと、よろしくて!」

一夏「な、なんだお前!?」

セシリア「あなたが駆紋戒斗さんね」

一夏「……俺は織斑一夏だ。戒斗は、あっち」

セシリア「…………」

一夏「…………」

セシリア「…………//」

 スタスタスタ

セシリア「ちょ、ちょっと、よろしくて!」

戒斗「またやかましいのが来たな」

セシリア「ん、んまあ!? このセシリア・オルコットに向かってやかましいとは! 未開の島国はこれだから困りますわ。野蛮で、粗暴で、文明後進国なんですもの」

戒斗「ふん」ガタッ スタスタスタ

セシリア「ちょ、ちょっとどこに行くんですの! 貴族を前にその無礼な振る舞いは万死に値しますわよ! ……ちょっと! 待ちなさい!」

戒斗「やかましい。演説がしたいなら、骸骨にでも語っておけ」

セシリア「く、くきーっ!」

セシリア(っは!? こ、これでは接点を持つどころではありませんわ)

セシリア「駆紋戒斗。あなた、クラス代表の座をかけて決闘をするそうじゃありませんの」

戒斗「それがどうした」

セシリア「あなたが初めてISを動かしたのは3月の終わりだと聞いています。まともな操縦もできないのではありませんか? 本当にその状態で決闘に臨むのですか?」

戒斗「む。……何が言いたい」ピタッ

セシリア「わたくしがあなたにISの基礎を教えてさしあげてもいいですわ。このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットが!」

戒斗「……ふん」スタスタスタ

セシリア「ちょ! こんなサービス滅多に無いんですのよ!」

戒斗「お前に教わることなど何も無い」

セシリア(ぐ、ぐぬぬ。失礼な殿方ですわ……。けど、彼みたいな人ならプライドを刺激すれば絶対に喰いついてくるはず! わたくしには分かりますわ!)

セシリア「あなた。織斑先生に負けたそうですわね」

戒斗「む」

セシリア「勝利、したくはありませんの?」

戒斗「……ふん」

セシリア(絶対に、絶対に喰いついてくるはず……っ)

戒斗「いいだろう。セシリアとか言ったな。少しの間だけ貴様を師と仰いでやる」

セシリア「ふふん。賢明な判断ですわ。それでは放課後に、また」スタスタスタ

戒斗「ふん」スタスタスタ

<昼休み・戒斗が去った1年1組>

一夏「師……か。そうだよな、誰かに教えてもらうのが手っ取り早いかもしれないな」

「織斑くん!」

一夏「お、おわっ!?」

「だったら私が教えてあげる!」
「私よ!」
「いやいや、私と一緒に特訓しましょう! 朝から晩まで! そして朝まで!」

一夏「ちょ、ちょ、ちょっと待って! そんないっぺんに来られても――」

箒「一夏!」バンッ

一夏「うえっ!? ……え。え! お、お前、まさか、箒か!」

箒「そうだ。ちょっと来い」グイッ

一夏「あ、ちょ」ズルズル

「……ありゃ。織斑くん、連れていかれちゃった」
「今の誰かなあ?」
「あれよ、あれ。2組の篠ノ之束の妹よ」
「へー、そうなんだ」
「織斑くんと知り合いみたいだったね」
「でも」
「うん」

「横から掻っ攫って行くって、なんか感じ悪いね」

<昼休み・廊下>

一夏「六年振りだな、箒」

箒「ああ。お前は六年見ない間にずいぶんと軟弱になったみたいだな、一夏」ギロッ

一夏「そ、そんなことはないぞ!」

箒「ならどうして女子に囲まれて鼻を伸ばしていた!」

一夏「そんなことないって! ……あ。それよりも、箒」

箒「なんだ」

一夏「俺さ。六日後に、クラス代表をかけて決闘するんだよ」

箒「知っている。学校中の噂になっているぞ、『男子が決闘する』ってな」

一夏「そうなのか。じゃあ、話は早いな」

箒「うん?」

一夏「俺さ、ISのことってほとんどさっぱりでさ。よければ稽古を付けてくれないか」

箒「……っ。わ、私が、か?」

一夏「ああ。戒斗には負けたくないんだよ。だから、頼む」

箒(ね、ねねね、願ってもない状況になった!? 私は夢を見ているのか!? い、いや、きっと。……これは。これは一夏と私の運命なんだ!)

箒「い、いいだろう」

一夏「本当か!?」

箒「本当だ。放課後、とりあえず剣道場に集合だ」

一夏「わかった。箒、本当にありがとう!」

箒「ふふっ。どういたしまして」

一夏「あ、それと」

箒「?」

一夏「去年、中学の剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう!」

箒「~っ!? お、お前、どうしてそれを知っている!」

一夏「新聞で見たからな」

箒「どうして新聞なんて見ている!」

一夏「そこをどうしてって言われても……」

箒(い、いいい一夏は私を見ていてくれた!? 気にしていてくれた! 一夏。一夏。一夏。一夏。一夏。一夏。一夏! ……//)

<放課後・アリーナ>

セシリア「さ。特訓を始めますわよ! 訓練機は打鉄でよろしくて?」

戒斗「ああ。打鉄は入試でも使っているからな」

セシリア「なるほど。……さて。日も少ないですし、スパルタで行きますわよ。今日はわたくしと戦ってもらいます!」

戒斗「どの程度動けるか確認する、というわけだな。いいだろう」

セシリア「察しが良くて助かりますわ。それでは、始めますわよ!」

 ――しばらくして。

セシリア「……判断に困りますわね」

戒斗「そうか」

セシリア「明日までに訓練メニューを考えておきます。今日はこの辺にしておきましょう」

戒斗「分かった。じゃあな、“師匠”」

セシリア「ええ、ごきげんよう」

セシリア「…………」

セシリア「不思議。いえ、変、な方ですわ」

セシリア「ISの扱いはまるで素人。でも、とても戦い慣れている。傭兵でもしていたのかしら……」

セシリア「駆紋戒斗。二十歳の高校生。……よくわかりませんわ」

<放課後・剣道場>

箒「全然だめだっ! この六年間、お前は何をしていたんだ!! 剣道は、剣道はどうした!」

一夏「止めちまったよ。少しでも千冬姉の負担を減らしたくて、ずっとバイトしてたんだ」

箒「うぐっ。……そうか。千冬さんと二人暮らしだもんな」

一夏「ああ。やっぱりさ。千冬姉に迷惑かけたくなくてさ」

箒「むう。その心掛けは立派だが、先ずは決闘をどうにかしなければならないぞ」

一夏「まずいか?」

箒「まずい。IS以前の問題だ。……よし。明日からお前をシゴキ抜いてやる。覚悟しろよ!」

一夏「……人選間違えたかも」

箒「何か言ったか!?」

一夏「な、なんでもありません!」



<放課後・学生寮1025室>

一夏「シャワー先に使うぞ……」

戒斗「好きにしろ。俺は夜風に当たりに行く」

一夏「ずいぶんと余裕があるなぁ。あのセシリアってのと特訓してたんだろ?」

戒斗「軟な鍛え方はしていないからな」

一夏「ふーん……」

戒斗「織斑」

一夏「なんだよ」

戒斗「身体が貧弱なままでは勝負にもならないぞ」

一夏「わ、分かってるよ!」

一夏(……箒の特訓。絶対にやり遂げてやる!)



 ――時は流れた。

<決闘前日の放課後・剣道場>

箒(一夏には戦いの才能がある)

箒(覚えは早いし、勘も良い。奴の剣筋を見ていると千冬さんの弟なのだと実感する)

箒(六年間のサボりで鈍っていた身体もマシになってきたみたいだ。これなら、なんとかなるかもしれない)

箒(ああ、しかし)

箒(……一夏の真剣な横顔は、いい//)



<決闘前日の放課後・アリーナ>

セシリア(ここ数日の特訓で分かりました。ええ)

セシリア(よっっっっっっく分かりましたわ! 駆紋さんは不器用なのよ!)

セシリア(言葉遣いも! 戦い方も! ……生き方も!)

セシリア(誰の理解も求めてない。ただ前だけを見て、進み続ける)

セシリア(度し難いですわ。そんな生き方はきっと、寂しくて、辛い、茨の道)

セシリア(でも……。だからあの人は、強いのですね)



<決闘の前日・学生寮1025室>

一夏「今日は先にシャワー使っていいぜ、戒斗」

戒斗「ほう。どうやらこの一週間を無駄に過ごしたわけではないようだな」

一夏「当たり前だ! 俺はお前に勝って、強さを証明するんだからな!」

戒斗「ふん。こっちも、負けるつもりはない」

一夏「言ってろ! 明日はその余裕の態度をぶっ飛ばしてやるからな!」

戒斗「くくく。楽しみにしておいてやる」

<決闘の当日・アリーナ控え室>

山田「それじゃあ、ルールの確認です」

山田「公式戦と同じく、先にシールドエネルギーが切れた方の負けとなります。また、二人共使用するISは訓練機の打鉄でいいですね」

戒斗「待て」

山田「なんでしょう、駆紋くん」

戒斗「織斑には専用機が届いていると聞いている。そっちを使うといい」

一夏「な、何だよそりゃ!?」

戒斗「織斑。貴様、身体は鍛えたようだが肝心のIS操縦訓練はしたのか?」

一夏「そ、それは……」

戒斗「勝負の見えている決闘をしたいなら打鉄のままでも構わんがな」

一夏「ぐっ! そういわれて!」

千冬「待て、織斑。駆紋がこう言っているんだ。専用機の『白式』に乗っておけ」

一夏「でも、千冬姉! ――あでっ!?」

千冬「織斑先生だ」

一夏「……。織斑先生、ご指導ありがとうございます」

千冬「よろしい。白式はこれからお前のパートナーになる機体だ。共に初陣を経験することは、とても重要だ」

一夏「わかった。わかったよ!」

千冬「さて。アリーナを使える時間も限られている。すぐに決闘を始めるぞ」

<アリーナ>

戒斗(『白式』その名の通り、白いISか……。呉島貴虎を思い出させる。結局、奴に雪辱を果たす機会は失われてしまったな)

一夏「戒斗! 俺は絶対にお前に勝つからな!」

戒斗「ふっ。やれるものならやってみろ!」



<アリーナ・モニタールーム>

千冬「なんだ、お前達も来たのか」

セシリア「わたくし達は彼らの特訓に付き合いました。見届ける権利はあると思いますわ」

箒「私も同じです」

千冬「ふっ。いいだろう」

セシリア「それで、戦況は……」

山田「駆紋くんの優勢ですね。射撃武器を上手く使いながら、確実にシールドエネルギーを削っています」

千冬「白式には近接武器しかないからな。まあ、妥当な戦法だろう」

箒「えっ」

千冬「白式はそういう機体なんだ。文句なら束に言え。……まあ。取りまわしは難しいが、悪い機体じゃない。私だって同じコンセプトの機体で、モンド・グロッソの優勝をもぎ取っている」

セシリア「えっ」

山田「先輩って、雪片一本で優勝しちゃいましたもんねえ」アハハ

箒・セシリア「えっ」

千冬「……だから。あのバカだって、やってやれないはずはないんだ」

山田(いやその理屈はおかしい。……んじゃ、ないでしょうか先輩)

<アリーナ>

一夏(くそっ、近づけねえ! 戒斗の奴、いやらしい戦い方しやがる)

一夏(シールドエネルギーはまだまだある。でも、このままじゃジリ貧だ。何とかしなきゃ。千冬姉の前で無様な姿は見せたくない!)

戒斗(……ふん)

戒斗(よく粘る。素人にしては大したものだ)

戒斗(しかし。こんなつまらない戦い方に負けるようなら、まだまだだな)

戒斗(織斑一夏。姉を大事だと言い切った時の、あの気迫を見せてみろ!)

一夏「――ッ。うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

戒斗「ほう! ダメージ無視の特攻か。そいつを待っていた! ようやく面白くなってきたぞ!」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「駆紋くんが銃を捨てた!?」

セシリア「そんな。あのまま、遠距離から撃ち続けていれば楽に勝てたのに……」

千冬「それではつまらんだろう」

セシリア「はい?」

千冬「駆紋戒斗。あいつは、真っ向勝負を挑まれれば必ず応える男だ」

セシリア「あの。織斑先生?」

千冬「なんだ」

セシリア「その。……ずいぶんと駆紋さんのことを理解されているのですね」

千冬「……」

セシリア「……」

千冬「忘れろ」

セシリア「えっ」

千冬「忘れろ。いいな?」

セシリア「アッハイ……」

<アリーナ>

戒斗「なかなかどうして。剣技だけは様になっているじゃないか!」

一夏「箒にさんざんしごかれたからな!」

戒斗「だが甘い!」

一夏「まだまだァッ!」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「互角、ですね……」

千冬「純粋な戦闘経験では駆紋の方が上だろうが、機体のスペック差が実力差を埋めているな」

山田「織斑先生。織斑くんの機体、そろそろ一次移行《ファーストシフト》します」

千冬「ふむ。これはひょっとすると、ひょっとするかもな」

箒「一夏は勝ちます」

千冬「言い切るな、篠ノ之。その根拠は何だ?」

箒「一夏が、織斑一夏だからです」

千冬「……。くくっ。ベタ惚れなんだな、お前は」

箒「な、なぁっ!? そ、そそ、そんなことはありません!」

セシリア(あら。篠ノ之さんはツンデレなのですね)

<アリーナ>

一夏「わっ!? なんだ、白式が……!?」

戒斗「一次移行か」

一夏「一次移行!? そうか、これが……」

戒斗「そうだ。初期化《フォーマット》と最適化《フィッティング》。その機体をお前専用機とする、第一歩だ」

一夏「俺の専用機……」

一夏(ウェポンパネルに新しい武器が表示されている。『雪片弐型』。これは、千冬姉の武器『雪片』の発展形だろう。千冬姉……)

一夏(千冬姉の剣を持つんだ。この戦い、いや、これから先ずっと、俺は誰にも負けられない!)

戒斗(ほう。織斑の顔つきが変わったな。……いい顔をするじゃないか)

一夏「戒斗! これで、ケリをつけてやる!」

戒斗「ふっ。勝つのはこの俺だ!」

 ――そして、二人の剣は交わった。

<夜・学生寮1025室>

戒斗「まだ信じられんのか」

一夏「……悪いかよ」

戒斗「いいや。せいぜい、勝利の味に酔いしれるがいい」

一夏(……決闘は、俺が勝った。でも、今でも勝ったって実感がない。夢を見ているみたいに、ぼんやりとしている)

一夏(俺は本当に勝ったのだろうか? 本当は負けていて、偽りの夢を見ているのだろうか)

一夏「なあ、戒斗」

戒斗「何だ、織斑」

一夏「もう一度戦ったらさ。どっちが勝つかな」

戒斗「俺が勝つに決まっているだろう」

一夏「あ、あはは」

戒斗「急に笑いだしてどうした。妙な奴だな」

一夏「いや、そうだよな。戒斗ならそう言うよな」

戒斗「ふん……」

一夏(試合には勝った。でも……俺はたぶん、決着をつけられていないんだと思う。この奇妙なクラスメイトに自分の強さを証明できなきゃ、きっと……)

一夏(俺の強さ。……強さって、何だろうな……)

■幕間 ヘルヘイムの残滓
<3月初旬・呉島邸>

貴虎「50年、か……」

貴虎「私も歳を取るわけだ。しかし、まだまだやるべきことは残っている」

貴虎「IS。あの兵器を見ていると胸騒ぎがする。私が生きている間に決着をつけなくては……」

戒斗「その役目、俺に任せてもらおうか」

貴虎「お、お前は!? 駆紋戒斗……!」

戒斗「50年ぶりだな、呉島貴虎」

貴虎「何故お前が生きている。それも、当時の姿のままで……」

戒斗「安心しろ、俺は死人だ。いや、神か」

貴虎「どういうことだ」

戒斗「言葉通りの意味だ。50年の信仰が俺を神にした。くくっ、今の俺は人類の護り神らしいぞ。この俺がな」

貴虎「……なるほど。そういうことか」

戒斗「ずいぶんあっさりと納得するんだな」

貴虎「沢芽の御神木が君だということは葛葉から聞いているよ。ああ、そうだ。遅くなったが――ありがとう。メガヘクスとの戦いでは世話になった」

戒斗「……ふん」

戒斗「貴様のことだ。俺の目的も察しているだろう」

貴虎「IS、だな」

戒斗「その通りだ。あの兵器は弱者が虐げられる世界を生む。その存在を許すわけにはいかない」

貴虎「それだけではないのだろう?」

戒斗「……」

貴虎「これは勘でしかないが。IS――インフィニット・ストラトスのコアは、ヘルヘイムの果実だ」

戒斗「……さあな」

貴虎「駆紋戒斗。君がISの秘密を調べてくれるなら、私は全面的に支援しよう」

戒斗「……ふん。勝手にしろ」

ひとまずここまでになります。お付き合いありがとうございました。
サムイ…… オヤスミナサイ……

わあああああレスがついてる!? ありがとうございます。ありがとうございます!
年内に終わらせるために、さくさく投下していきます。


■第3幕 嵐を呼ぶ転校生
<モノレール・客席>

鈴(恋する乙女なんて似合わない。あたしはそんなキャラじゃない。そんなことは分かってる)

鈴(でもあたしは一夏が好きで。一夏のお嫁さんになりたくて。料理とか、家事とか、いっぱい覚えた)

鈴(一夏、あの約束ちゃんと覚えてくれてるかな……)

鈴(…………)

鈴(もうすぐ、一夏に会える)

<1時間目・グラウンド>

千冬「それでは、1組と2組の合同訓練を始める。今日はISの基本的な飛行操縦だ。織斑、試しに飛んでみせろ」

一夏「お、おう! ……えっと、ISの展開方法は」

千冬「早くしろ。熟練したIS操縦者は1秒とかからんぞ」

一夏「そんなこと言ったって!」

千冬「口応えするな、バカ者が。貴様も日本男児なら結果を見せてみろ」

戒斗(……ふん。織斑千冬め、弟が可愛いらしいな。ことあるごとに機会を与えている)

戒斗(ブラコンとシスコンの姉弟か。お似合いだな)

戒斗(しかし……)

千冬「織斑。急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表10センチだ」

一夏「わ、分かった!」

 ヒューン ……ズドン!

千冬「……馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

戒斗(織斑の育成は前途多難だな)

<1時間目・IS学園正面ゲート前>

鈴「本校舎1階事務受付……。って、どこよ!」ウガー

鈴「あーもー……めんどくさいなー……」



<1時間目休み時間・グラウンド付近>

一夏「とほほ。何か、千冬姉に叱られてばっかりだったよ」

箒「失敗ばかりだったんだ、仕方ないだろう」

一夏「そりゃそうなんだけどさ。何かこう。悔しいじゃんか」

セシリア「織斑さんはシスコンですわねぇ……」

一夏「そ、そそ、そんなことないぞ!?」

箒「本当にか?」

一夏「なんでそこで疑うんだよ、箒!?」

戒斗「貴様の普段の態度がシスコンのそれだからだろう」

一夏「戒斗までぇっ!?」

戒斗「毎夜毎夜姉への愛にあふれた寝言を聞かされている俺だ。これくらい言う権利はあるだろう」

箒「なん……だと……」

セシリア「まあ! 筋金入りですのね」

箒「一夏ァッ! ま、ままままさかお前実の姉のことを……!」ガシッ

一夏「誤解! 誤解だよ! 箒、待てって、誤解だって!」ガクガクガク

箒「いいや! 思えばお前は昔から千冬さんにべったりだったじゃないか! 二人きりの生活で間違いが起こっていないとも限らない! 吐け! 真実を吐くんだ、一夏!」

一夏「だから誤解だって言ってるだろー!?」

戒斗「ふん」

一夏「笑ってないで助けてくれよ戒斗ぉっ!」



<同時刻・グランド付近>

鈴「何あれ」

鈴(一夏と知らない女の子。すごく仲良さそう)

鈴(何で。何で何で何で何で。一夏、その子は誰。どうしてそんなに楽しそうにしてるの)

鈴(約束、忘れちゃったの……?)

鈴(……)

鈴(…………)

鈴(……私との約束なんてどうでもよかったのかな)

<2時間目・廊下>

2組担任「凰さんは2組になるわ」

鈴「そうなんですか……」

2組担任「元気ないわね。長旅で疲れちゃった?」

鈴「大丈夫です。……大丈夫」

2組担任「そう? ……ところで凰さんって、専用機持ちよね?」

鈴「そうですよ。龍咆の試験機、甲龍《シェンロン》があたしの専用機です」

2組担任「実はね。凰さんにお願いがあるの。クラスのみんなの了解も得なきゃいけないことなんだけど――クラス代表、やってくれないかしら?」

鈴「クラス代表……?」

2組担任「ええ。クラス代表ってね、今度行われる学年別クラス対抗戦に出ることになるんだけど……」

鈴(なんだろう。先生の顔が、ちょっと怖いような)

2組担任「1組に負けたくないのよ!」

鈴「は、はあ」

2組担任「1組の担任にはちょーっっっっっと因縁があってね! 負けるわけにはいかないのよ! 専用機持ちの凰さんがクラス代表になってくれれば心強いわ!」ガシッ

鈴「まあ。そんじょそこいらの操縦者には負けませんけど……」

2組担任「だったらお願い! クラス代表になって1組のクラス代表――織斑一夏くんを、倒して!」

<2時間目・家庭科室>

「はーい、今日はデザートを作りまーす!」

一夏(不安だ……)

一夏(高校に入って初めての調理実習。俺はいい。千冬姉が安心して働けるように、一通りの家事は身につけている)

一夏(不安なのは戒斗の班だ)

戒斗「……」フンッ

クラスメイト1「とりあえずマヨネーズだよ! マヨネーズ!」

クラスメイト2「私は調理実習でも頂点に立つ女だ!」

クラスメイト3「ハッピバースディ! 新しいデザートの誕生だ!」

一夏(不安だー! って言うか、彼女達は本当に女の子なのかー!?)

「じゃあみんな、がんばって食べられるものを作ってね!」

一夏(先生、丸投げじゃないですかね!?)

「織斑くーん。何作ろー?」
「ねえねえ、織斑くんってデザートは何が好き?」
「キライジャナイワ! キライジャナイワ!」

一夏「あー……えっと。簡単なところで、プリンでも作ろうか」

一夏(戒斗達は――な、何をしているんだあいつらは!?)

戒斗「もっと素早く、しかし丁寧に泡立てろ! マヨネーズの泡立てを思い出せ!」

クラスメイト1「うおおおおおおおっ!」ガチャガチャガチャッ

戒斗「そうだ。お前の剣はイチゴのスライスにおいて頂点に立つんだ!」

クラスメイト2「ク・モーン! 君の友情に応えよう!」

戒斗「貴様、ケーキ作りは中々の腕と見た。スポンジは任せたぞ!」

クラスメト3「大船に乗ったつもりでいたまえ! すばらしいっ!」

一夏(連携取れてるー!?)

「戒斗くんカッコイー!」
「駆紋戒斗の言葉で班が一つにまとまった。……やはりあの男、王の器……」

一夏(まさか戒斗の奴が料理上手だったなんて)

戒斗「ふっ。最後はこの俺が直々に仕上げてやろう!」

一夏(意外な一面だなあ)

<昼休み・学食>

一夏「ってわけで。俺も一口もらったんだけど、戒斗達の作ったケーキがすげえ美味かったんだ」

セシリア「あら。そんなに美味しいなら、わたくしもいただいてみたいですわね」

戒斗「昔取った杵柄、という奴だ。別段誇ることでもない」

一夏「いやいやいや、あれは自慢になるって! まるでパティシエみたいだったぞ」

戒斗「……ふん」

一夏(照れてるな)

セシリア(照れてますわね)

箒「ところで、一夏」

一夏「なんだ、箒?」

箒「明後日は学年別クラス対抗戦だな」

一夏「そうだな。箒は2組の代表だっけ。……ああ、それじゃあ一緒に練習するのはマズいよなあ」

箒「いや、それなんだが……。私は代表ではなくなった」

一夏「なんだって!? 一体どうして」

箒「それは……」

鈴「あたしがクラス代表になったからよ!」

一夏「!?」

一夏「り、鈴!? お前、どうしてここに!?」

鈴「転校してきたのよ! 聞いてない? 中国から専用機持ちの代表候補生が来る、ってさ」

一夏「俺、そういうの疎いからなあ」

鈴「そっか。ま、いいわ。とにかくそういうことだから、またよろしくね」

一夏「おう!」

箒「……。一夏。お前は凰と知り合いなのか?」

一夏「幼なじみだ」

箒「お、幼なじみは私だろう!?」

一夏「そりゃそうなんだけど。鈴も幼なじみなんだよ。箒は小4の終わりに引っ越していっただろ? で、鈴が小5の頭に転校してきたんだ。それから中学2年の終わりまで一緒にいた、ってわけさ」

箒「い、一緒に!?」

鈴「そゆこと♪ ふっふーん。そりゃもう、ずっっっと一緒にいて、遊び回ったんだから!」

箒「ぐ、ぐぬぬ……」

セシリア(……。あら。これはもしかして修羅場かしら)

戒斗「……」コソッ

セシリア(ああ! 駆紋さんがめんどくさそうな空気を察して離脱しましたわ! やっぱり修羅場なんですわ、これ!?)

箒「だ、だが! 私と一夏だって長い付き合いだ! 何度も食事を共にしたし、遊びだって!」

鈴「ご飯ならあたしだって何度も一緒に食べてるわよ! 一夏はしょっちゅうあたしの家に遊びに来てたんだから!」

箒「な、なあぁっ!? ……ぐ、ぐぬぬぬぬ」

セシリア(――逃げましょう。巻き込まれる前に、迅速に。可及的速やかに)

一夏「セシリア」

セシリア「(逃げ損ねましたわ!?) ……な、何かしら、織斑さん」

一夏「あの二人、なんで妙に張り合ってるんだろう……?」

セシリア「…………」

一夏「…………」

セシリア「織斑さん。あなた、お馬さんに蹴られておしまいなさい!」

一夏「ええっ!?」

<5時間目・1年2組>

鈴(篠ノ之箒。一夏と仲良くしてた娘。……まさか、一夏の幼なじみだったなんて)

鈴(知ってる。知ってたわ。一夏ったら昔から何度も『箒って幼なじみがいる』って話を聞かせてきたんだもん)

鈴(すごく、楽しそうに……)

鈴(篠ノ之箒。あの子があたしのライバルだ……!)


箒(凰鈴音。まさか私以外に一夏の幼なじみがいたなんて)

箒(離れ離れになった幼なじみ。その二人の、再会。……まるで運命みたいじゃないか)

箒(待て待て待て! 一夏は私の運命の人だ! 私の!)

箒(でも。……鈴を前にした一夏は、私が見たこともないような顔をしていたな。あんな、楽しそうな顔……)

箒(凰鈴音。あいつが私のライバルだ……!)

<放課後・アリーナ>

箒「……凰。どうしてここにいる」

鈴「クラス対抗戦が近いんだもん。練習しなきゃ。それとも、あたしがここにいたら都合が悪いの?」

箒「……ッ」

セシリア(醜い争いですわ……。ああはなりたくないものですわね)

戒斗「織斑。俺に勝ったお前だ、無様な戦いをしないようみっちり鍛えてやる」

一夏「うへぇ。お手柔らかに頼むぜ、戒斗」

セシリア(こっちはこっちで、何と言うかマイペースなことで……)

一夏「それにしても。セシリアは3組のクラス代表だろ。一緒に訓練って、大丈夫なのか?」

セシリア「微妙なとこですけど。織斑さんは、わたくしが指導した駆紋さんに勝利していますわ。そのあなたには、それなりの戦いをしてもらわないとわたくしの面子が立ちませんの」

一夏「つ、つまり」

セシリア「わたくしもスパルタですわよ」

一夏「う、うへぇ……」

<放課後・学食>

セシリア「織斑さん達とご一緒しなくていいんですの?」

戒斗「今日はすさまじくやかましくなりそうだからな」

セシリア「ですわね……」

戒斗「他者が自身に向けている感情に気づかない。織斑のそういうところは、あいつに似ている……」

セシリア「あいつ?」

戒斗「……。失言だった、忘れろ」

セシリア「先週の特訓の指導料として教えてくれてもいいんじゃないかしら」

戒斗「ッチ」

戒斗「葛葉紘汰という男がいた。愚直で視野の狭い男だった」

セシリア「その葛葉さんも、やはり修羅場に巻き込まれましたの?」

戒斗「修羅場か……。そう言ってもいいかもしれないな。男ばかりだったが」

セシリア「まあ!」

戒斗「何だ、妙に嬉しそうだな」

セシリア「そ、そそ、そんなことはありませんわ!」

戒斗「ふん」

セシリア「……ねえ、駆紋さん」

戒斗「……」

セシリア「その葛葉さんという方は、あなたにとってどんな存在ですの?」

戒斗「指導料ならもう払い終えた。答える理由はない」

セシリア「なら、今度は前借りで」

戒斗「……」

セシリア(にっこり)

戒斗(代表候補生に貸しを一つ作っておくのも、悪くはないか)

戒斗「強いと認めた男だ」

セシリア「……」

セシリア「まあ!」

戒斗「その気色悪い笑みをやめろ! 今すぐだ!」

セシリア「そ、そそ、そんな笑い方はしていませんわよ。おほほほほ」

戒斗「ッチ」

戒斗(判断を間違えたかもしれん)

<同時刻・学食>

一夏(針のむしろ)

箒「ぐぬぬぬぬぬ」

鈴「ぐむむむむむ」

一夏「なあ。二人とも、どうしてそんな険悪なんだ」

鈴「あんたがそれを聞くの!?」

箒「この馬鹿者が!」

一夏「え、ええ……」

<夜・学生寮1025室>

一夏(つ、疲れた……)

戒斗「ずいぶんとくたびれているな。特訓はそんなに辛かったか」

一夏「分かってんだろ……。鈴と箒に挟まれて、気疲れしたんだよ」

戒斗「あれの原因は貴様だ」

一夏「そう言われても、俺には何が何だか分かんねえよ……」

戒斗「ふむ」

戒斗「……そうだな。織斑、貴様は黄金の果実だ」

一夏「は?」

戒斗「黄金の果実を掴めるのはただ一人。勝ち残った、ただ一人だ。篠ノ之と凰はそういう戦いに身を置いている」

一夏「ますます分かんねーよ……」

戒斗「ならば覚えておけ。『与える』か『求める』か。貴様がどちらになりたいかを」

一夏「は、はあ……?」

戒斗「話はここまでだ。貴様に客だ」

一夏「え?」

鈴「……ちょっといい?」

一夏「鈴!?」

<夜・学生寮廊下>

戒斗(黄金の果実……か)

戒斗(この世界にとって、織斑一夏という存在は黄金の果実に等しい)

戒斗(女だけが使える超兵器、インフィニット・ストラトス。その存在は、女尊男卑社会を完成させた)

戒斗(そこに現れた『ISを使える男』が織斑一夏だ。その価値は計り知れない)

戒斗(織斑。貴様は黄金の果実だ。だが、貴様には貴様自身の意思があるだろう?)

戒斗(賞品になるか、勝者になるか。選ぶのは、貴様自身だ)

戒斗(……そのために、強くなれ)

<同時刻・学生寮1025室

一夏「こんな時間にどうしたんだよ。明日じゃだめなのか」

鈴「だめかもしれないし、だめじゃないかもしれない、かな」

一夏「うん? 大事なことなのか?」

鈴「大事よ!」

一夏「そ、それならやっぱり今日中が良さそうだな」

鈴「そ、そうね。……やっぱり、ここで決着をつけないとだめよね」

一夏「鈴? 妙に顔が赤いけど大丈夫か。風邪か?」

鈴「違うわよ! ああもう、一夏のバカ!」

一夏「バカってお前。バカって言う方がバカなんだぞ、このバカ!」

鈴「な、なんですってぇっ!」

一夏「……」

一夏「あはは」

鈴「なんで笑うのよ!」

一夏「いや。なんだか懐かしくってさ。中学の頃はいっつもこんな感じだったよなあ」

鈴「……ずるいよ、一夏」

一夏「え、何だって?」

鈴「一夏のバカって言ったのよ」

一夏「な、なんだとおっ!?」

鈴「ふふん。……ねえ、一夏。約束、覚えてる?」

一夏「約束? …………」

鈴「覚えて、ないの……?」

一夏「…………。いや、ほら。小学5年から中学2年まで、鈴とはたくさん約束をしたからさ。『また明日遊ぼう』とか『漫画貸して』とか、『お湯貸して』とか。だから、何て言うか、頭ん中でごっちゃになってて。んー……」

鈴「……」

一夏「あ! もしかして、あれか! 『料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』って奴!」

鈴(覚えててくれた……!)

鈴「それよ、それ!」

一夏「なんだ。鈴、料理上手くなったのか?」

鈴「なったわよ! お店に出したって恥ずかしくないレベルだわ!」

一夏「へー。んじゃあ、その料理を食べられる俺は幸せ者だなあ」

鈴「そ、そうよ。感謝しなさい!」

一夏「顔赤いぞ。やっぱり、風邪じゃあ……」

鈴「違うわよ。ばか」

一夏「うーん?」

一夏「……ま、いっか。いやー。しかし、タダ飯食わせてもらえるってのはありがたいよなー」

鈴「え?」

一夏「え、違うのか? 俺はてっきりそういう意味かと……」

一夏「……」

一夏「もしかして。『毎日味噌汁を~』的な意味だったのか……?」

鈴「……」

鈴「…………」

鈴「………………そ。そんなわけないじゃない。やだなあ。あはは」

一夏「そうだよなー。あの鈴が俺にプロポーズなんてするわけないよなー」

鈴「そうよー。あははははー」

鈴「……」

鈴「一夏」

一夏「ん?」

 ――バシッ!

鈴「アンタなんて大っ嫌いよぉっ!」

一夏「え、ちょ、鈴! …………。俺、なんで今叩かれたんだ」

<夜・学生寮鈴の部屋 布団の中>

鈴(あああああああああああああたしのばかぁっ!)

鈴(違うのに! 本当は違うのに! 本当は告白だったのに!)

鈴(いくじなしスカタンばかばかアンポンタン!)

鈴(…………)

鈴(……。でも)

鈴(一夏。約束、ちゃんと覚えててくれた)

鈴(一夏は……。うん。変わってなかった。あたしが好きな一夏から、変わってなかった)

鈴(やっぱりあたし、一夏がいい)

鈴(……。よし、がんばろう)

第三幕終わり……。残りは第四幕だけですが、ちょっと外出してきます。
ここまでお付き合いありがとうございました。

「ここにモブ的なセリフが欲しいけどなー。どうしようかなー」。そんな時、京水さんが便利なんですよ。
はい。終幕まで投下していきます。

■第四幕 決戦!クラス対抗戦!
<朝・掲示板>

一夏「これがクラス対抗戦の対戦表か」

戒斗「織斑の1回戦の相手は4組のクラス代表のようだな」

一夏「で。鈴の相手はセシリアみたいだな」

鈴「おはよ、一夏!」バシーン

一夏「おわっ!? お、おはよう、鈴」

鈴「うん。おはよ。昨日は叩いちゃってごめんね」

一夏「いや。よく分からないけど俺が怒らせちゃったみたいだし、こっちこそごめん」

鈴「ふふっ。……あ。戒斗もおはよ」

戒斗「くくっ」

鈴「な、なんで笑うのよ」

戒斗「貴様といい篠ノ之といい、分かりやすいな」

鈴「なな、ななな、なんのことよ!」

戒斗「さてな。くくっ」

鈴「う、うがー!」

一夏「鈴!? 抑えて、抑えて。どうどう」

鈴「あたしは馬か!」

一夏(似たようなもんだろ。って言ったら怒るよなあ。黙っとこ)

鈴「それよりも、一夏!」

一夏「なんだよ、妙に気合い入れて」

鈴「1回戦、絶対に勝ちなさいよ!」

一夏「負けるつもりはないぞ」

鈴「絶対勝つの! あんたが勝てば2回戦はあたしと当たるわ。だから、賭けをしましょ」

一夏「賭け?」

鈴「そう。負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞く、っていう賭け」

一夏「何をたくらんでるんだ?」

鈴「ふっふっふっ。それは秘密。で、受けるの? 受けないの?」

一夏「いいぜ。でも、負けないからな!」

鈴「それはこっちのセリフよ!」

<昼休み・学食>

一夏「っていうことになったんだ」

鈴「なったのよ」

セシリア「……凰さん。あなた、わたくしに勝利すること前提で話を進めていません?」

鈴「そうよ。だって勝つもん。あたし強いから」

セシリア「く、くきーっ! そうまで言われて『はい、そうですか』なんて言えませんわ! 1回戦の勝者は、このセシリア・オルコットですの!」

鈴「ふふーん。明日になれば分かるよ。どっちが強いか、ってね」

セシリア「くきー! くきー! その余裕の態度が腹立たしいですわー!」

箒「一夏。お前、本当に凰の言うことを何でも聞くつもりか?」

一夏「そういう約束だからな。でも、勝つのは俺だよ。――千冬姉の剣を持つんだ。俺は誰にも負けない」

戒斗「シスコンめ」

セシリア「シスコンですわね」

鈴「一夏のシスコンはやっぱり治らなかったんだ……」

箒「このシスコン」

一夏「みんなひどいな!?」

<放課後・アリーナ>

「お呼出を申し上げます。駆紋戒斗くん。お荷物が届いておりますので、本校舎1階事務受付までお越しください」

戒斗「む?」

一夏「何か心当たりあるか?」

戒斗「いや。まあ、行けば分かるだろう」スタスタスタ

鈴「本校舎1階事務受付はグラウンドの向かいよー!」

一夏「よく知ってるな」

鈴「転校初日にさんざん探し回ったからね。それより、特訓始めちゃいましょ」

一夏「そうだな」



<放課後・本校舎1階事務受付>

「これがお荷物になります」

戒斗「呉島貴虎からか」

戒斗「……」



<放課後・アリーナ>

箒「一夏と組まず私と組んだのは何か理由があるのか」

鈴「あるわ。あなたに宣戦布告しなきゃいけないもん」

箒「……」

鈴「あたし、一夏が好きよ。学年別クラス対抗戦であたしが勝ったら告白するわ」

箒「そう、か」

鈴「あなたはどうするの、ファースト幼なじみさん」

箒「……。私は」

鈴「ふうん」

箒「何故笑う」

鈴「あなたのこと、ライバルだって思ってた。でも、違うみたいだから」

箒「何だと……!?」

鈴「だってあなた。告白する勇気、無いでしょ?」

箒「――!?」

<同時刻・学生寮1025室>

戒斗「呉島貴虎め。こんな物を渡されては、礼を言わなければならないではないか」

戒斗「戦極ドライバーにロックシード。ありがたく使わせてもらおう」

戒斗「そして、この写真」

戒斗「カメ子……」

戒斗「自身の天寿は全うしても、その子孫は生きているのだな」

戒斗「ザックとペコの孫達が世話をしていると、わざわざ添え書きまでしてある」

戒斗「ふん。……50年、か」

戒斗「ザック、ペコ、カメ子」

戒斗「みんな死んでしまったか……」

<夜・学生寮1025室>

戒斗「織斑。貴様、今の世界をどう思う?」

一夏「何だよ藪から棒に」

戒斗「答えろ」

一夏「うー……ん」

一夏「悔しい、って思う」

一夏「世界は女尊男卑になった。いや、男尊女卑がいいってわけじゃないんだけどさ。何だか、行き過ぎてる気がするんだ」

一夏「男はISを動かせない。男は役に立たない。男は何もできない。男は――何も、守れない」

一夏「みんな、そう思ってる。女も、男も」

一夏「でもさ、違うと思うんだ。ISが動かせるとか、動かせないとか、本当は関係なくて。男だって守りたいものを守ることはできるはずなんだ。そう、思ってて。いや、ISを動かせる俺が言っちゃ結局何なんだよってなるけどさ」

一夏「みんな諦めてて、決めつけてて。それが悔しいなぁって思うんだよ」

戒斗「ふむ」

一夏「……笑うなよ」

戒斗「ん。俺は笑っていたか?」

一夏「ああ、笑ってた。俺はそんなにおかしなことを言ったのか?」

戒斗「いや。――織斑。貴様は、本当は既に強者なのかもしれないな」

一夏「は?」

戒斗「しかしまだ弱い」

一夏「うっ」

戒斗「強くなれ、織斑。貴様の意思を貫き通すために」

一夏「分かってるよ!」

<同時刻・学生寮鈴の部屋>

鈴(父さんと母さんは離婚した)

鈴(好き合って結婚しても、上手くいかないことはある)

鈴(あたしと一夏だって上手くいくかは分からない。あたしの想いが通じるかも……。でも)

鈴(傷つくことを怖がってたら、前に進めない!)

鈴(あたしは一夏が好き。でも、あたしだけが一夏を好きなわけじゃない)

鈴(だったら、戦わなくちゃ!)



<同時刻・中庭>

束『よしよし、いいこいいこ』

箒「電話越しにあやされても……」

束『こういうのは気持ちが通じればいいんだよ』

箒「……」

束『うーん。でも、その凰鈴音って子、邪魔だねえ。だって、私の箒ちゃんを悲しませたんだもん!』

箒「邪魔って。別に、そういうわけじゃ」

束『分かってる分かってる。分かってるよ箒ちゃん! おねーちゃんに任せなさい!』

箒「別に何かしてもらおうなんて気は――。って、切られたか」

箒「……凰鈴音」

箒「ああ、そうだ。私に告白する勇気なんて……」

<学年別クラス対抗戦当日・アリーナ観客席>

戒斗(1回戦第1試合はオルコットと凰か。さて、どちらが勝つか)

戒斗(試合を見届けたかったが……。そうも、いかないようだな)

戒斗(妙な気配がする。これは、篠ノ之束か……?)

戒斗(上手くすれば、奴を叩けるかもしれんな)



<1回戦第1試合・アリーナ>

セシリア「さーて、凰さん。ぼっこぼこにしてさしあげますわよ!」

鈴「その前に!」

セシリア「な、何ですの?」

鈴「鈴でいいよ」

セシリア「へ?」

鈴「一緒に特訓して、一緒にご飯食べて。あたし達、もう友達でしょ? だから鈴でいいよ」

セシリア「…………」

セシリア「分かりましたわ、鈴さん。わたくしのこともセシリアでいいですわ」

鈴「うん! それじゃあ、セシリア。手加減はしないからね!」

セシリア「当然ですわ!」

<1回戦第1試合・アリーナ控え室>

一夏「これが代表候補生同士の戦い……」

一夏(俺と戒斗の決闘とはレベルが違う。二人ともISに乗り慣れてて、その上で戦い慣れているんだ)

一夏(鈴の見えない砲撃も、セシリアのビットも、俺には対処方法が分からない。でも、二人はちゃんと対応している)

一夏(強い)

一夏(……。『強くなれ』。戒斗、お前はそう言ってたけど。俺は眩暈がしそうだよ)

<1回戦第1試合・アリーナ>

セシリア(――不本意ですが、ここまでのようですわ)

セシリア(龍砲の一つこそ潰しましたけど、こちらはオールレンジ攻撃用兵器《ブルー・ティアーズ》を全て失いました。悔しいですが、わたくしの負けです)

セシリア(……この様では、駆紋さんに笑われてしまいますわね)

鈴「セシリア! 何ぼうっとしてるの!」

セシリア「ふふ、ごめんなさい。でも、最後に一矢報いるくらいはしますわよ!」

鈴「違う! 上!」

セシリア「上……?」



<同時刻・アリーナ観客席>

箒「何だ、あれは……」

箒(アリーナの上空に謎のISが浮いている。全身装甲《フルスキン》の、奇妙なISだ)

箒(学園の者ではないだろう。だが、それなら何者が)

箒「……まさか、姉さん!?」



<同時刻・アリーナ観客席>

戒斗(動いたか)

戒斗(さて。こちらはどう動くか……)

戒斗(……)

戒斗(観客が邪魔だ。一先ず、避難させるか……)

<アリーナ>

鈴「セシリア。あれ、何だと思う」

セシリア「お友達ではないことだけは確かですわね」

鈴「そうね。嫌なものを感じるわ」

セシリア「! 鈴さん、避けて!」

鈴「!?」



<アリーナ控え室>

一夏「あのIS、アリーナの遮断シールドをぶち破った!? 嘘だろ、あれ、ISと同じ防御力を持ってるんだぞ!?」

一夏「……! 鈴が危ない!」



<アリーナ>

セシリア「鈴さん、大丈夫ですか!」

鈴「い、一応ね。でも、正直やばいわ……」

セシリア「わたくしが囮になります。鈴さんは脱出を」

鈴「そんなことできるわけないでしょ! それに……逃がしてくれそうにないわよ」

謎のIS「…………」

セシリア「っく。戦うしかありませんの……」

<アリーナ・モニタールーム>

山田「織斑先生、遮断シールドシステムがハッキングされてます!? アリーナ内に救援を送れません。逃げることも……」

千冬「とにかく遮断シールドの破壊を優先。破壊でき次第、すぐに救援部隊を送り込むんだ」

山田「はい!」

千冬「凰、オルコット。しばらくの辛抱だ。耐えてくれ……」

山田「織斑先生。あの、その、言いにくいのですが」

千冬「報告があるなら手短に」

山田「は、はい! アリーナに、白式の反応があります!」

千冬「何?」

山田「アリーナに織斑くんがいるんです!」

千冬「あの馬鹿……!」



<アリーナ>

一夏「二人とも、無事か!」

鈴「い、一夏!? あんた、どうしてここに……」

一夏「控え室にいたからな。飛びこんできたんだよ」

セシリア「直情型ですのね。でも、正直、この状況での援軍は心強いですわ」

謎のIS「…………」

一夏「二人ともシールドエネルギーはどれくらい残ってる?」

鈴「あたしは160。武器は双天牙月2本に、龍砲が1門よ」

セシリア「わたくしはシールドエネルギーが100、スターライト……レーザーライフル1丁だけですわ」

一夏「そして俺が、シールドエネルギー満タンに武器が雪片弐型、だな」

セシリア「なら陣形は決まったようなものですわね」

鈴「一夏が前衛。あたしが中衛。セシリアが後衛、ね」

一夏「よし! 行くぞ二人とも!」

鈴「気をつけなさいよ一夏! あのIS、一撃でISを破壊できるはずだから!」

一夏「分かってる!」

<アリーナ観客席>

箒(間違いない。あの謎のISは姉さんの差し金だ)

箒(凰を……。始末、するために送り込んだんだろう)

箒(望んでない。姉さん、私はそんなことは望んでない!)



<アリーナ>

セシリア「埒があきませんわ!」

鈴「龍砲でもだめ! 硬すぎて効いてない!」

謎のIS「!」

一夏「ビーム兵器!? 鈴、セシリア!」

鈴「だ、大丈夫よ……。でも、龍砲を持っていかれたわ」

セシリア「こちらもスターライトを……」

一夏「俺の雪片弐型だけが頼りか……」

鈴「あの装甲に剣一本じゃどうにもならないわよ」

一夏「いや。雪片弐型にはシールドバリアーを切り裂ける零落白夜がある。それを叩き込めれば……」

鈴「そういうのがあるなら最初から使いなさいよ!?」

一夏「エネルギー消費がやばすぎんだよ! 使ったらすぐに動けなくなるんだ」

鈴「な、なるほど。一撃限りの必殺武器、ってわけね」

セシリア「けれど。今はその必殺武器に賭けるしかなさそうですわ」

一夏「問題は、どうやって近づくか、だ。あいつ、大きいくせに結構速いぞ」

鈴「…………」

鈴「あたしが囮になる」

一夏「何言ってんだよ、鈴!?」

鈴「さっきから気になってたんだけど、あのISはあたしを狙ってる。だったらそれを利用してやるのよ」

一夏「でも、危険だ!」

鈴「そうね」

一夏「分かってるなら!」

鈴「だから、一夏が守ってよ」

一夏「……え」

鈴「だめ? ……自信、ない?」

一夏「……」

 ――男はISを動かせない。男は役に立たない。男は何もできない。男は――何も、守れない。

一夏「……守る! 俺が鈴を守ってみせる!」

鈴「うん! 信じてるよ、一夏」

セシリア(み、見せつけられましたわ)

<アリーナ・観客席>

戒斗「こっちだ! 急げ! だが、慌てるなよ! 一人でも転べば面倒なことになる!」

戒斗(避難はあらかた終わらせた。そろそろ頃合いだろう)

戒斗「そこの女達」

クラスメイト1「みなまで言うな。あとは任せな!」

クラスメイト2「ク・モーン! 君は君の戦いに向かうといい!」

クラスメイト3「すばらしい! その欲望を解放したまえ!!」

戒斗(……)

戒斗(人選を間違えたかもしれん)



<アリーナ>

一夏(俺が鈴を守るんだ――ッ!)

鈴「一夏、今!」

一夏「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 ――ザシュッ

セシリア「やりましたわ!」



<アリーナ・モニタールーム>

山田「所属不明機、機能停止しました!」

千冬「……ふむ」

山田「織斑くん、がんばりましたね」

千冬「ふん。日本男児ならあれくらいできて当然だ」

山田「ふふ。織斑先生、頬が緩んでますよ」

千冬「……」

山田「ふふふ」

千冬「……むう」

<アリーナ>

一夏(勝った、のか……?)

一夏(……なんだ、この、違和感)

一夏(……!)

一夏「二人とも、あのISから離れろ!」

鈴「え、何で? ……嘘。何あれ」

セシリア「IS中から植物の蔓が伸びてますの……?」

一夏「それだけじゃない。中からあふれた植物がISに絡まって……」

 ――謎のISは、光に包まれた。

一夏「なんだよあれ。なんなんだよ……」

セシリア「モンスター……かしら。狼男みたいですわ」

鈴「何でもいいけど、あれ、動くみたいよ」

一夏「まずいな。零落白夜のせいで、もうシールドエネルギーが無くなりかけてる……」

鈴「こっちも残り一桁よ。セシリアは?」

セシリア「同じく、ですわ」

一夏「絶対絶命の大ピンチってわけか」

一夏「……」

一夏「鈴。それと、セシリア」

鈴「まさか今さら逃げろとか言わないわよね?」

一夏(説得は無理そうだな……)

一夏「ああ。二人は俺が守る。だから、手を貸してくれ」

鈴「当然」

セシリア「ふふっ。了解ですわ」



<アリーナ・モニタールーム>

千冬「どうなっている!」

山田「わ、分かりません……」

千冬「遮断シールドの破壊状況は?」

山田「そちらも。あと、10分はかかりそうです」

千冬「10分……。長すぎる……」

千冬(一夏。どうか、切り抜けてくれ……)

<アリーナ>

一夏(本格的にやばい!)

一夏(ビームこそ撃ってこなくなったが、それだって、『撃てない』のか『撃たない』のか分からない。相手は未知数で、こっちはガス欠寸前だ)

一夏(武器だってほとんど無い。零落白夜が、1秒。有効打を与えられるのはそれだけだ)

一夏(…………)

鈴「1発ももらえないってのは、結構神経使うわね!」

セシリア「いい経験にはなりますわ」

鈴「無事に生き残れたら、だけどね!」

一夏(二人も、もう限界だ。1発もらったらシールドエネルギーが無くなる、当然だ。俺だってそんな状態だ)

一夏(零落白夜を使うにはシールドエネルギーがいる。でも、1発もらったらシールドエネルギーは無くなる)

一夏(そして。今の俺の強さじゃ、1発ももらわずに零落白夜の間合いに入るのは無理だ)

鈴「まったく。セシリアがもっと弱かったら楽だったのに。そしたら、龍砲が一門残ってた」

セシリア「おほほほほ、自分の才能が恨めしいですわ。ま、鈴さんがもう少しだけ技量が低ければ、私の《ブルー・ティアーズ》で制圧してたのでしょうけど」

鈴「ふふふふふ」

セシリア「ふふふふふ。……と、無理にでも笑わなければ、やっていられませんわね」

鈴「ほんとにね!」

一夏(迷ってる暇は無い!)

セシリア「一夏さん、何をしていますの!?」

一夏(まずは急上昇で、奴の上を取る! そして――)

鈴「ば、馬鹿! なんでISを解除するのよ!」

一夏(これでいい! ようは、ISが1発も喰らわなきゃいいんだ! 近づくまでの打撃は、身体で受ける!)

謎のIS「!」ブンッ

鈴「一夏ァッ!」

一夏「ぐうっ! 死ぬほど痛い……。けど、とりついたぞ。――白式展開。零落白夜発動! うぉおおおおおおっ!」

 ――ザシュ

一夏「これで――どうだあっ!」

謎のIS「!?」

鈴「一夏!」

<アリーナ・モニタールーム>

千冬「あいつ、なんて無茶を……!」

山田「織斑くん、振り落とされました。……凰さんに回収されました! バイタル反応、確かにあります!」

千冬「よし、なら私が消す余地は残っているな」

山田「お、織斑先生!?」

千冬「私にこれだけ心配させたんだ、あの馬鹿者め!」

山田「織斑先生! 謎のIS、まだ動きます!」

千冬「なんだと!?」

<アリーナ>

鈴「一夏! しっかりしてよ、一夏!」

一夏「……そんな怒鳴らなくたって聞こえてるよ」

鈴「ああ。一夏。一夏。……ああ、もう。ばか。ばかばかばか」

一夏「はは、ひどい言われようだな。……それよりも、あいつ、どうなったんだ」

鈴「そんなのあんたが倒し……。嘘……」

一夏「どうやら、1秒の零落白夜じゃ足りなかったみたいだな……。ごめん」

鈴「あんたが謝ることじゃないわよ!」

セシリア「ごめんなさい、鈴さん。お話に割り込んでもいいかしら?」

鈴「セシリア……」

セシリア「状況は最悪ですわ。織斑さんはこの状態ですし、わたくし達の残りの装備ではあれを倒すことはできないでしょう」

鈴「そうね……」

セシリア「でも、もうじき救出部隊が来るはず。それまでの間、わたくし達は負傷者の盾になりましょう」

鈴「うん。……ありがと、セシリア」

セシリア「ふふっ。わたくしが恋をした時は協力してくださいね?」

鈴「相手が被らなきゃね!」

一夏(……鈴とセシリアが飛ぶ。負傷者――俺を、守るために)

一夏(俺は無力だ)

一夏(悔しいな。俺は負けられないのに。負けたくないのに)

一夏「俺は……。弱者だ」

 ――いいや。それは違うぞ。

一夏「……その声は」

一夏(観客席に、見なれてしまった男がいる。二十歳の高校生という、奇妙なクラスメイト。赤と黒のコートをたなびかせて、強い瞳で俺を見ている)

戒斗「織斑、貴様は強さを示した」

一夏(なんだ、アレは。黒いベルト……? それに、錠前?)

 ――バ・ナーナ!

一夏(だめ、だ。意識が遠のく……)

 ――ロックオン!

戒斗「貴様の強さ――勇気に、この戦いを捧げてやる。変身!」

 ――カモン! バナナアームズ!

 ――Knight・of・spear!

戒斗(バナナ・アームズ)「遮断シールドめ。邪魔だ!」

 ――カモン! バナナ・スカッシュ!

<アリーナ・モニタールーム>

山田「そ、空からバナナが降ってきた!?」

山田「あ!? く、駆紋くん、遮断シールドを破壊しました……。すごい……」

千冬「あれは……」

山田「お、織斑先生。あれもISなんでしょうか……」

千冬「いや、あれは……」

山田「駆紋くん、所属不明機と交戦開始しました!」

千冬(戦極ドライバー……。現存していたのか)

<アリーナ>

戒斗(やはりインベス化したか、ISめ)

戒斗「貴様は俺が倒す。行くぞ!」

 ――カモン! バナナ・スパーキング!

戒斗「ハァッ!」

謎のIS「!? !! !?!?!?」

セシリア(あ、あのISを一撃で破壊しますの……!?)

戒斗「ふん」

<夕方・保健室>

一夏(あれ……。ここは?)

鈴「おはよ」

一夏「鈴!? あ、あいててて」

鈴「無理しないの。しばらくは痛いってさ、身体」

一夏「そ、そうか。……まあ、生きてる証拠だな!」

鈴「何よそれ」

一夏「何だろうな?」

鈴「もう。ばかなんだから。……昔っから、ずっと」

一夏「いいだろ。性分なんだ。きっと、ずっと変わらないよ」

鈴「本当に?」

一夏「本当に」

鈴「そっか。……ねえ、一夏。クラス対抗戦は中止になるんだって」

一夏「まあ、そりゃそうだろうな」

鈴「あたしとの賭け、どうしよっか」

一夏「そりゃお流れだろ。試合、できないんだし」

鈴「……そうね」

一夏「残念そうだな」

鈴「まあ、ね。ちょっとしたきっかけが欲しくて、クラス対抗戦をそれにしようとしてたんだけど。あてが外れちゃったからね」

一夏「ふうん」

鈴「ねえ、一夏」

一夏「ん?」

鈴「明日からお弁当作ってあげる」

一夏「例の、毎日酢豚を食べさせてくれるって奴か?」

鈴「そうよ。土下座したくなるくらい美味しいんだからね」

一夏「なあ、鈴」

鈴「何よ」

一夏「……流石に毎日酢豚だと、飽きるからな?」

鈴「分かってるわよ。あんたの好きそうなものなら、ちゃーんと何でも作れるようになったわよーだ」

<同時刻・中庭>

箒「……姉さん。あのISは姉さんが」

束『何のことかなー?』

箒「またそうやってとぼける……!」

束『んっふふー。とにもかくにも、箒ちゃん。箒ちゃんがいっくんの隣に立つには、専用機がいるよね? 分かってる分かってる。箒ちゃんのための専用機、お姉ちゃん一生懸命作ってるからね!』

箒「は、はあ!? ……もう切られてる」

箒「姉さん。あなたは何度私を振り回せば気が済むんだ……」

<同時刻・グラウンド>

セシリア「駆紋さん」

戒斗「どうした」

セシリア「お聞きしたいことがいくつかありますわ」

戒斗「一つだ」

セシリア「はい?」

戒斗「一つだけなら答えてやる」

セシリア「……」

セシリア(戒斗さんが見せた力は何なのか。あの謎のISは何だったのか。疑問はいくつもありますわ。でも、一つしか聞けないというのなら……)

セシリア(この方が、何でも一つだけ答えてくれるというのなら)

セシリア「あなたの目的は何ですの?」

戒斗「……」

セシリア(さあ。なんて返すのかしら)

戒斗「葛葉紘汰は奇跡だったのか。俺は、それを知りたい」

セシリア「へ?」

戒斗「質問には答えた。じゃあな」

セシリア「あ、ちょ!」

セシリア「……ああ、もう」

セシリア「まったく分かりませんわ!」

セシリア「駆紋さんったら、誰の理解も求めてなくて、ただ前だけを見て、進むんですもの」

セシリア「度し難いですわ。そんな生き方はやっぱり寂しくて、辛い、茨の道ですわよ」

セシリア「……」

セシリア「強くなければ歩めない道ですわ」

<夜・学生寮1025室>

一夏「何か俺、結局いいとこ無しだったな……」

一夏(あのISは戒斗が倒した。一撃、だったらしい。俺ももっと強ければ、戒斗みたいに戦えただろうか)

一夏(鈴を、自分の手で守れたのだろうか)

戒斗「織斑」

一夏「な、何だよ」

戒斗「俺があのISを一撃で葬れたのは、貴様が楔を打ち込んでいたからだ」

一夏「は、は?」

戒斗「俺は貴様が傷をつけた箇所に攻撃を重ねた。……それだけだ。もう寝る」

一夏「…………」

一夏「あ、あはははは」

一夏(駆紋戒斗。二十歳のクラスメイト。相変わらずよくわかんない奴だけど)

一夏(俺はこいつが、嫌いじゃない)

■終幕

<夜・篠ノ之束の研究所 吾輩は猫である《名前はまだ無い》>

束「んー。やっぱりまだ制御が難しいなあ」

束「ヘルヘイムの果実。面白いんだけど、んー……」

束「どうしようかなー……」

 ――ずいぶんとお悩みのようだねぇ。

束「誰!?」

 ――おやおや、薄情な娘だ。親の顔を忘れたのかい?

 ――しかし、まあ、せっかくだ。自己紹介をしてあげよう。

 ――戦極凌馬。今は、電子の海のカウボーイだ。



戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」 了

はい。一先ず本編はここで終了。いくつかの短編を投下したら、HTML化依頼を出します。
続きの物語(IS原作2巻のエピソード。いわゆるシャル&ラウラ編)は、本文が完成したら、またスレ立てを行います。
お付き合いありがとうございました。

年内に区切りがついてよかった……。

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
さて。今回は短編になります。

■短編 感傷
<土曜夜・学生寮1025室>

一夏「え。戒斗、明日沢芽市に行くのか」

戒斗「ああ。顔を見せておきたい奴がいてな」

一夏「へー。戒斗にもそういう人がいるんだなあ」

戒斗「ふん」

一夏「あれ。ってことはもしかして、戒斗の実家も沢芽市にあるのか?」

戒斗「……」

一夏「戒斗?」

戒斗「生まれは沢芽だ」

一夏「あ、そうなのか! いいとこだよな、沢芽市! 治安は良いし、何よりシャルモンがある!」

戒斗「何だ、シャルモンの常連か?」

一夏「ああ。家は誕生日もクリスマスもシャルモンだ! 千冬姉も好きなんだぞ」

戒斗「そうか」

戒斗(シャルモンか。あの店はまだあるのだな)

<同時刻・学生寮セシリアの部屋>

セシリア「外出許可も取りましたし! ついにシャルモンのケーキをこの舌で味わう日が来るのですわ!」

セシリア「ああ……! 憧れのシャルモン! イギリスにいた頃から一度でいいからと焦がれていた絶品のスイーツを、ようやく! ようやく!」

セシリア「…………」

セシリア「……こ、興奮しすぎて眠れませんわ」

<日曜日・沢芽市 駅>

戒斗(変わらないのは、風に混ざる潮の香りだけか……)

戒斗(50年、か。町並みもすっかりと変わってしまったな)

戒斗(何より、今の沢芽にはユグドラシルタワーが無い)

戒斗(…………)

戒斗(俺は、まだなりたての神だ。この姿を保てるのは、長くて夏までだろう)

戒斗(次に人の姿を取れるのが何年後になるかは、分からん)

戒斗(今日を逃しては、あいつらの足跡をたどれなくなる)

戒斗(……ふん)

戒斗(もしかしたら今の俺は、人間であった頃より人間らしいのかもしれないな)



<同時刻・沢芽市 駅>

「あれは……。いや、流石に見間違いだろう」

「さて。このもやもやを振り切りに行かなきゃな……!」

<DrupeRs跡地>

戒斗(坂東の店はなくなってしまったか……)

戒斗(ビートライダーズのホームもなくなっていた)

戒斗(さて、どうするか)



<シャルモン>

「いらっしゃいませ、お客様」

セシリア(ここが憧れのシャルモン……!)

セシリア(分かります、分かりますわ! 外観がプロフェッショナル! 内装がプロフェッショナル! 空気がプロフェッショナル! この店は『一流のこだわり』で出来ています! ああ、来てよかった……!)

セシリア(あら。あそこに飾られているのは……)

セシリア(クラス対抗戦の時に駆紋さんが着けていた黒いベルト……?)

<呉島邸>

戒斗「よう」

貴虎「駆紋か。その手にあるのは?」

戒斗「羊羹だ。年寄りとの長話には必要だろう」

貴虎「ふむ。どこの店のものだ」

戒斗「俺が作ってきた」

貴虎「ふっ。そういえば、チーム・バロンの食事は君が作っていたらしいな。ザックとペコに何度も聞かされたよ。『チーム・バロンは戒斗の強さに魅せられて、料理に胃袋を掴まれた男達の集まりだった』とな」

戒斗「あいつら、食事には拘りが強くてな。作る方もやり甲斐があった」

貴虎「それで、今日は何を聞きに来たんだ?」

戒斗「みなの生き様だ。貴様が死ぬ前に聞いておかなければ、知る手段を失ってしまうからな」

貴虎「そうだな。私が最後の一人だからな……」



<シャルモン>

「――っというわけで。あの壊れたベルトとロックシードは、初代と二代目の絆なのでございます」

セシリア「まあ、そうでしたの! 素敵な物語ですわね」

「そうおっしゃっていただけて、亡き御二方も喜んでおられるでしょう」

セシリア「シャルモンを起こした凰蓮・ピエール・アルフォンゾ様。その腕を受け継いだ城乃内様。彼らの作品を味わえないのは、残念でなりませんね……」

「ご安心ください、お客様。当店は先達の味を守り続けております。必ずやご満足いただけるでしょう」

セシリア「ふふ。それは楽しみですわ」

セシリア(アーマードライダー。あの黒いベルト……戦極ドライバーによって変身する、戦士)

セシリア(駆紋さんもアーマードライダーですの……?)

<呉島邸>

戒斗(白いアーマードライダー、呉島貴虎。圧倒的な戦闘力を誇った、最強の一人)

戒斗(しかし)

貴虎「――で。これがその光実の息子が3歳の時の写真だ。見るか? 見るか? 小さい頃の光実に似ていてとても可愛らしいぞ」

戒斗(50年という歳月は本当に長い……)

戒斗「話を戻させてもらおう。それで、ザックの最後はどうだったんだ」

貴虎「――ああ」

貴虎「車に轢かれそうになっていた子供を助けて、身代りになった。すぐに病院に担ぎ込まれたが……」

戒斗「そうか……」

貴虎「『強くありたい。戒斗のように』ザックの口癖だったよ。あいつは多くの人を助けた」

貴虎「ザックだけじゃない。あの戦いを生き残ったアーマードライダー達は、みんな英雄だった」

戒斗「……まるで葛葉のように、か?」

貴虎「ああ、そうかもしれないな」

戒斗「ふん」

貴虎「50年前。26歳の私は、葛葉紘汰は特別な人間なんだと思っていた」

貴虎「自分の使命はみんなを救うことである。そう規定されている勇者のように思っていた。そんな時期もあった」

貴虎「だがな。――50年生きてみると、別の思いを抱くようになったよ」

貴虎「誰もが葛葉紘汰になれるんだ、と」

貴虎「優しさを失わないまま強くなれるのだ、と」

戒斗「……」

貴虎「駆紋。この世界もまだまだ捨てたものじゃない。76歳となった今の私は、そう思うよ」

<街中>

セシリア「あら。あれは、駆紋さん?」

セシリア「どこに向かうのかしら」

セシリア「…………」

セシリア(駆紋さんのことがほんの少しでも分かるかもしれないわ……)

セシリア「追いかけて、みましょうか」

<呉島邸>

貴虎「今日は客人の多い日だ」

「すみません、突然押し掛けてしまって」

貴虎「いや、妻に先立たれた寂しい老人の私だ。いつ訪ねてくれてもかまわないさ」

「……ありがとうございます」

貴虎「面を上げてくれ。それよりも、今日はどうしたんだ」

「……。世界は、平和になりましたよね」

貴虎「ん? そうだな。緊張状態にある地域はあるが、ヘルヘイムや怪人の脅威は消えた」

「ええ。50年前。正確には、49年前から」

貴虎「……泊。君はいったい、何の話をしようとしているんだ?」

進ノ介「実は俺。現役時代から引っかかってた件を、改めて洗ってるんです」

<墓地>

セシリア(うう。ちょっと怖いですわ……。日本の墓地って、どうしてこう、奇妙な不安を煽られるのでしょうか……)

戒斗「……」

セシリア(戒斗さんが立ち止まりましたわ。あ、お花を添えて……)

戒斗「久しぶりだな、耀子。ふっ。こんなことをしている俺を笑ってもいいぞ」

セシリア(ヨウコ? 女性の名前? ……もしかして、恋人だったのでしょうか?)

セシリア(恋人……)

戒斗「今の俺はある男を育てている。中々見どころのある男だ。あいつが優しいままに強くなれたら……」

戒斗「いいや、まだ言葉にはしないでおこう」

戒斗「何年後になるかは分からないが、次は結果の報告に来る」

戒斗「俺は、俺の全ては結果で示す」

戒斗「……」

セシリア(目、目が合いましたわ!?)

戒斗「こっちに来い、オルコット。この際だ、紹介してやる」

戒斗「湊耀子という、俺の女を」

<呉島邸>

進ノ介「仮面ライダー連続殺人事件。俺はこの事件をそう名付けました」

貴虎「また、ずいぶんと大事だな……」

進ノ介「苦労しましたが、いくつかの事件はなんとか裏も取れました。例えば――ザックの死も」

貴虎「なんだと!?」

進ノ介「ザックが助けたはずの子供なんですが。戸籍は巧妙に偽造されたものでした。あの子は、架空の人物でしたよ」

進ノ介「それだけじゃない。凰蓮さん、城乃内……。アーマードライダー達の死に、いくつか不審な点が見つかりました」

貴虎「待ってくれ、泊。それはつまり……」

進ノ介「ええ。光実も恐らく、事故にみせかけて殺されたんだと思います」

貴虎「そんな……」

進ノ介「これは恐ろしい事件です。ホシは狡猾で、残忍で、恐ろしく長期的な計画を立てています」

貴虎「凰蓮の死から光実の死までが同一犯によるものだとしたら……」

進ノ介「ええ。犯人は40年かけてアーマードライダー達を秘密裏に殺していることになります」

進ノ介「正直な話、俺は犯人が恐ろしいです……。その執念も、知能も」

貴虎「だが、アーマードライダーを殺したいだけなら私を殺せば終わりだろう。事件はそれで終わるはずだ」

進ノ介「いいえ。残念ながら、それだけで終わりはしないでしょう」

進ノ介「これはアーマードライダー連続殺人事件ではありません。仮面ライダー連続殺人事件、なんです」

貴虎「……まさか」

進ノ介「ええ。殺されていましたよ。この世界の仮面ライダー達が……。殺せなさそうなライダーも事件性の無い老衰で世を去っていました……」

進ノ介「……貴虎さん。世界は、平和になりましたね?」

貴虎「あ、ああ……」

進ノ介「ロイミュード、ヘルヘイム、怪人。そういった脅威は49年前から発生していません」

進ノ介「だからね。俺――仮面ライダードライブが、最新の仮面ライダーなんですよ。七十過ぎの、この俺が」

進ノ介「まあ。ベルトさんに死なれちまった俺はもう変身はできませんが……」

貴虎「は、はは。泊、お前は何を言っているんだ。それじゃあまるで……!」

進ノ介「ええ、貴虎さんの予想通りですよ」

進ノ介「犯人は仮面ライダーを秘密裏に抹殺した。そして、新たな仮面ライダーが生まれないように、世界を平和にした」

進ノ介「馬鹿みたいな出来事をほとんど完遂したということになります」

貴虎「そんなことができる人間なんているものか! それは神の所業だ!」

進ノ介「神。そうかもしれません」

進ノ介「――ホシの当たりはついています」

貴虎「本当か!?」

進ノ介「そもそも、今の社会は仮面ライダーがいたならば成立していないはずなんですよ。だって男――仮面ライダーは、人々を守れます。ISが無くても」

進ノ介「けれど現実では、仮面ライダーはいなくなってしまった。そして10年前に発表されたISは、世界を変えてしまった」

進ノ介「世界に仮面ライダーがいれば、ISは今ほどの影響力は持たなかったでしょう」

貴虎「つまり……」

進ノ介「ISの普及もまた犯人の計画の一部。だからISの開発者、篠ノ之束はホシ――ないしは、事件の中心に最も近い人物なんじゃないかと思っています」

<黄昏時・帰りの電車の中>

セシリア(心中複雑ですわ)

セシリア(別に、わたくしが駆紋さんを好きだったとか、そういうわけではありませんの)

セシリア(ただ……)

セシリア(湊耀子さんという女性のことを語る駆紋さんの、どこか優しげな表情が――)

セシリア(頭から消えなくて。胸を締めつけますの)

セシリア(はあ……)

<夜・学生寮1025室>

一夏「おかえり、戒斗」

戒斗「……」

一夏「な、なんだよ変な顔して」

戒斗「織斑。俺が『ただいま』なんて返すと思って『おかえり』と言ったのか?」

一夏「そんなわけじゃないけど。でも、そう言いたいじゃんか。『おかえり』と『ただいま』は大事だぜ。千冬姉との二人暮らしって、実はほとんど一人暮らしみたいなもんだったからさ。言葉のやり取りの大切さって、身に染みたよ」

戒斗「シスコンめ」

一夏「うるせー! とりあえずやってみようぜ、戒斗。おかえり!」

戒斗「……」

一夏「やらないのかよ!?」

戒斗「夜風に当たってくる」

一夏「ちょ、おい!」

一夏「行っちまった。……相変わらず、変な奴」

<夜・屋上>

戒斗(…………)

 ――戒斗おかえり! いやー、待ちくたびれちまったよ。腹減っちまってさー。

 ――戒斗さん、おかえりなさい! ってザック、お前ちょっと戒斗さんに失礼じゃないかその態度!?

戒斗「悪いな、織斑。俺の『ただいま』は、あいつらのものなんだ」

 以上になります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 今回がIS要素激薄だったので、次回は逆にISキャラ(一夏と鈴)メインのしょーもない短編になります。
 それでは、また!

 あ。遅レスになりますが、乙ありがとうございました!

 えっと。なるべく作品で語りますので細かなレスはしませんが。
「それぞれの仮面ライダーをどうやって[ピーーー]か」は、本当は僕も誰かに答えを教えていただきたいところでございます(しろめ
 そちらは本筋ではないので、詳細なシーンを書くことは無いと思いますががが。

 さて。今回も短編。一夏と鈴の話です。そして、二人っ切りの話はこれが最初で最後かなぁと思います。
 今回は途中に地の文の入るパートがあります。
 はい。
 当スレは良い子でも閲覧できる健全なスレでございます。


■短編No.2 『幼なじみ』の断層
<日曜朝・学生寮鈴の部屋(シャワールーム)>

鈴(……あたしには修正不能の欠点がある)

鈴(努力はしたけど、どうにもならなかった)

鈴(もしかしたら欠点にならないかも! なんて、淡い期待を抱いたこともあったけど……)

鈴(だめだった。やっぱり欠点だった。あいつの目線を追ってたら、嫌でも分かったわ)

鈴(…………)

鈴「やっぱり貧乳は罪よ……」グスッ

<日曜朝・学食>

一夏「鈴。よく朝からラーメンなんて食えるなあ」

鈴「あたしにはご飯と牛乳を一緒に食べられるあんたの方が不思議よ」

一夏「うまいぞ?」

鈴「……ところで、戒斗は?」

一夏「ほら、今日は沢芽に行く日だよ」

鈴「あ、そっか。沢芽かー。ドルーパーズのフルーツパフェが懐かしいなー」

一夏「そういやドルーパーズ、鈴が引っ越してすぐに移転したんだぜ」

鈴「あ、そうなんだ。今もあそこでバイト……って、してるわけないわよね」

一夏「ああ、3月で辞めちまった。中学生の俺にバイトさせてくれてさ、すげえお世話になったから心苦しかったんだけど……」

鈴「IS学園に入るんじゃ、しょうがないわよね」

一夏「そうなんだよなぁ……」

「あなたが織斑一夏君ね!」

一夏「へ!? ど、どちら様ですか……?」

「私は3年の――」

鈴(む。……お、大きいわね。あ、一夏の奴、おっぱいちら見した! ぐぬぬぬぬ)

「それで」

鈴「お引き取りください!」バンッ

「ちょっと、あなた――」

鈴「お・ひ・き・と・り・く・だ・さ・い!」ギロッ

「…………ッ」

「……貧乳のくせに」ボソッ

鈴「~っ!? な、なぁああああああんですってぇええええええええっ!」

一夏「抑えて! 鈴! 抑えて! 抑えて!!」

鈴「離してよ一夏! あたしはね! あたしのことを貧乳と言った奴は誰一人例外無く沢芽の御神木の養分にするって決めてるのよ! 離しなさいよ!」

一夏「そ、そこをなんとかー!!」

<昼・学生寮1025室>

鈴「……ふんっ」

一夏「いい加減機嫌直してくれよ。そりゃ、お前が……その。ずっと気にしてるのは俺だって知ってるけどさあ」

鈴「あたしだって、好きで貧乳やってるんじゃないのよ! なのに! なのに……!」

一夏(あー。これは口を挟むと悪化するパターンだなー……)

鈴「牛乳も! お風呂上がりのマッサージも! 怪しげな通販のサプリメントも! 掃除機みたいな豊胸器も! 試してみたけどみんなダメだった! ……ダメだったの。ダメだったのよぉ……」グスッ

一夏(こ、これは俺が聞いちゃいけない話なんじゃないか……?)

一夏「り、鈴。俺ちょっと用事を思い出したから……」

鈴「待ちなさいよおっ!」ガシッ

一夏「い、いやでもほら、そういう話はさ、男が聞いちゃいけない話だと思うんだ」

鈴「誰のせいでこんなに悩んでると思ってんのよ、このバカ!」

一夏「え、ええー……」

鈴「だいたいね! どうして男はおっぱいを見るのよ! あれか、赤ん坊なのか! 吸いたいのか! うあああああああああっ!」

一夏「お、俺に聞かれても……」

鈴「あんただから聞いてんのよぉっ!」

一夏「り、理不尽だあっ!?」

鈴「…………ひっく。ぐす」

一夏「り、鈴?」

一夏(…………)

一夏(な、泣いてる……?)

<同時刻・職員寮千冬の部屋>

山田「地獄絵図です……」

山田「だから先輩を酔わしちゃいけないって言ったのに。みんな、面白がって飲ますから……」

山田「……」

山田「よし。ここは織斑君に何とかしてもらいましょう!」

<学生寮1025室・織斑一夏視点>

 鈴の泣き顔を見るのは、初めてじゃない。
 長い付き合いだ。偶然目撃したこともあれば、俺のせいで泣かせてしまったこともある。
 だから。幸か不幸か、俺は鈴の慰め方を知っていた。

「いちかぁ……」

 鈴の背中にそっと腕を回す。小柄な身体を抱きしめると、鈴の体温を感じた。……一年振りだ。
 最後に鈴を抱きしめたのは、『転校する』と告げられた日。
 あの日もこうして鈴を慰めた。抱き締めた身体のぬくもりと涙の熱さは、今も忘れていない。

「何かよくわかんないけどお前が……鈴が落ちつくまでこうしてるからさ」
「うん。ありがと……」

 かける言葉の中に意識して『鈴』と名前を捩じ込んだのは、ちゃんと理由がある。名前を優しく呼んでやると明らかに安心するんだってことを、経験しているからだ。
 名前を呼ぶことは今回も効果があったようだ。強張っていた鈴の身体から、ほんのちょっとだけだけど、力が抜けていた。

<鈴視点>

「何かよくわかんないけどお前が……鈴が落ちつくまでこうしてるからさ」
「うん。ありがと……」

 一夏の優しさがもどかしい。
 一年振りの抱擁はあたたかくて、力強くて、よけいに涙があふれた。
「やっぱりあたしは一夏が好きなんだな……」と「だからあたしは一夏が好きなのよ」が一緒になって、身体の芯を熱くする。
 一夏の優しさは嬉しい。
 けれど。やっぱり、もどかしい。
 一夏があたしを慰める『儀式』は、ある残酷な事実を浮き彫りにしていた。

 ――織斑一夏は、凰鈴音を女の子として見ていない。

 一夏にとってのあたしは『気心の知れた幼なじみ』であって、それ以上でもそれ以下でもない。年頃の女の子を、こんなにあっさりと抱き締めてしまえるのがその証拠だ。
 ……あたし自身の距離感の無さがそれに拍車をかけていることは、分かっている。けれど身体付きが貧相で『女』としての魅力に欠けるあたしは、どんな形でも一夏に触れ続けることでしかアピールができないんだ。
 ひどい矛盾だと思う。
 あたしはこんなに『女』なのに、あたしの身体は一夏に『女』を感じさせられない。
 
 ――顔を埋めた胸板は一年前より逞しくて、あたしの『女』を疼かせた。

 胸いっぱいに一夏のニオイを吸い込むと、頭がくらくらした。芯から蕩けてしまいそうな、そんな感覚に酔いしれる。
 いつしか、身体中が熱くなっていた。掌がじっとりと汗ばんでいるのが分かる。緊張か興奮かよく分からないものは、口の中を粘つかせていた。

 ――手を伸ばして欲しい。

 一夏の心が欲しい。
 小さくて、貧相な、肉付きの薄い身体だけど。一夏に求めて欲しい。

「あのね、一夏」

 口を突いて出た言葉に、その声色に。自分でも驚いてしまった。
 こんな甘ったるい『女』の声が、あたしに出せるなんて……。

「お願いがあるの」

 顔を上げて、一夏の瞳を覗き込む。真っ黒な瞳の中に――あさましい『女』の顔が映っていた。

<一夏視点>

「お願いがあるの」

 目の前にいるのは、本当にあの凰鈴音なのだろうか……。うるんだ瞳、艶めかしく熱い吐息、妙に頭をぼうっとさせるニオイ。
 まるで女の子みたいだ、と思って。その妙な感想に、内心、首を傾げた。

「あたしね。まだ一つだけ、たった一つだけ試してないことがあるの」

 鈴の、初めて聞く声色。
 小猫のような甘え声は、『抗う』という意思を破壊してしまう。
 知らない。
 こんな鈴、知らない……。

「おっぱいってね。男の子に揉まれると大きくなるんだって」

 だから、と。告げながら鈴は首を伸ばした。耳元に、粘っこい吐息がかかる。

「あたしのおっぱい、一夏が育てて」

<学生寮・1025室前廊下>

 ――コンコン。コンコン。

山田「織斑くーん。織斑くーん、ちょっといいですかー?」



<学生寮・1025室>

「織斑くーん。織斑くーん、ちょっといいですかー?」

一夏「――!? は、はい! ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいね!」

「はーい。あ、でも、なるべく早くお願いします」

一夏「わ、わかりました!」

一夏「…………」

一夏(あ、危なかった……。何だかよく分からないけど、危なかった)

鈴「……」

一夏「あ、その、鈴」

鈴「山田先生、呼んでるわよ。行ってきなさいよ」

一夏「お、おう」

一夏「……そ、その」

鈴「うっさい何も言うなとっと行けぇっ!」

一夏「りょ、了解しましたぁっ!?」

<学生寮・1025室>

「中から女の子の声が聞こえたような……?」
「気のせいです、気のせいです先生! それより行きましょう、迅速に! 可及的速やかに!」
「あ、ちょっと、置いてかないでぇっ!」

鈴「…………」

鈴「はあ。何やってんだろ、あたし……」

鈴「…………」

鈴「れ、冷静に考えるとただの痴女よね? おっぱい揉んで育ててとか、ば、ばかじゃないの! ばかじゃないの! あ、あはははは――」

鈴「う、うああああああああああああああああっ!? 殺してぇっ! 誰かあたしを殺してぇええええええええええっ!!」

鈴「…………」

鈴「…………あ。あう」

鈴「下着、とりかえないと……」

 以上になります。
 次はたぶん、戒斗と一夏の日常っぽい話。(土日は千年戦争アイギスの復刻イベントでツインテ可愛いカルマちゃんの下限スキルマを目指すので)今日中に完成しなかったなら、投下は月曜日以降かなぁと思います。

 それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 はい、三つ目の短編は戒斗と一夏の日常(戒斗と一夏の日常とは言ってない)です。
 しかし。何て言うか……『ロブスター』。

■短編No.3 50年後の世界
<4時間目・家庭科室>

「音声認識。親子丼、作り方」
「えーっと。形状変化。刺身包丁」
「音声認識。強火でさくっと!」

戒斗(50年……か。世の中、ずいぶんと変わったものだ)

戒斗(料理のレシピは音声一つで呼びだせる。包丁は真の万能包丁となり、火加減や煮込み時間も自動で調整される)

戒斗「しかし、それは偽りの調理実習だ!」

戒斗「この俺が貴様らに真の調理実習を見せつけてやる……! 親子丼を作るぞ、準備はいいな!」

クラスメイト1「おう! これが親子丼用のマヨネーズだ!」

クラスメイト2「高貴なる者は高貴な振る舞いをせよ。ノブレス・オブリージュ。美しい響きだ……」

クラスメイト3「文明の利器をあえて使わずに料理を作る。すばらしい! すばらしいよ駆紋くん!」

「きゃー! 駆紋くんかっこいー!」
「料理できる男の子っていいよねー!」
「誰の未来を見届けるか、これでようやく分かったわ……!」

一夏(最近、調理実習が戒斗オンステージになりつつある件について)

<昼食・屋上>

一夏「っていうわけで、戒斗の親子丼が美味かったんだ」

鈴「前々から思ってたけど、戒斗って凝り性よね。あと掃除好きなイメージあるわ」

一夏「そういえば、寮の部屋もちょくちょく掃除しているような気が……?」

箒「っと言うか、掃除はマメにすべきだろう」

セシリア「そんなものは業者にさせればいいんですわ」

鈴「お嬢様か!」

セシリア「わたくしは正真正銘の貴族ですわよ鈴さん。ふふん」

鈴「あー……。そーいや、そーだったっけ」

セシリア「何ですの、その微妙な反応!? もしやわたくしが貴族に見えないとでも!?」

戒斗「貴族を名乗るなら、それらしく振る舞ってみせることだな」

セシリア「んま!? く、駆紋さんまでそのようなことを……」

戒斗「高貴なる者は高貴な振る舞いをせよ。だろう?」

セシリア「そ、その通りですわよ! ……むぅ」

鈴「そうむくれないの。……にしても、やっぱ戒斗って変わってるわよね」

一夏「そうだなあ。いまだによくわかんないからな」

戒斗「……」

セシリア「駆紋さんって、もしかして医療時間旅行者《コールド・トラベラー》だったのでしょうか?」

戒斗「何だ、それは」

セシリア「あら、ご存知ありませんの? 冷凍睡眠に入った、不治の病の患者のことですわ。その時代には不治の病でも、未来では治療法が確立されているかもしれない。そういう希望を抱いて眠りについた人々がおりますのよ」

戒斗「俺はそういったものではない」

セシリア「なるほど……。デバイスの扱いに不慣れなようでしたので、てっきり」

一夏「そういや、最初はVC《ヴァーチャル・コンソール》の呼び出し方も知らなかったよな。部屋に備えつけの。VC1! とか叫べばいいだけなのに」

鈴「あ、そうなんだ? うーん、そうね。確かに駆紋って、今の時代の人間って! 感じはしないわね」

セシリア「むしろ、レトロ・ヒーローのライバルと表現した方がしっくりきますわ」

鈴「そうそう、それそれ! 自分の信念を貫いて生き抜く男! って感じよね」

箒「……駆紋は、やはり時間旅行者なのかもしれんな」

一夏「何でだよ?」

箒「駆紋の人間性が、IS登場以前の男のそれだからだ」

戒斗「……」

戒斗「ふん」

<夜・学生寮1025室>

 ――戒斗が空中に投影されたスクリーンを眺めていた。

一夏「あれ。VCで何見てんだ、戒斗」

戒斗「うぇぶ亀人権論争、という記事だ」

一夏(戒斗ってちょくちょく亀関連のニュース検索してるよな)

一夏「あー、一時期話題になったよな、それ。『Web上に意識をアップロードされた亀には人権を与えるべきだ!』って話だろ」

戒斗「ああ。中々に興味深い」

一夏「どの辺が?」

戒斗「人間の定義が、だな」

一夏「そもそも人間とは何か? って奴だっけ」

戒斗「そうだ」

一夏「えーっと」

一夏「身体が人間だったら、人間だ」

一夏「あるいは。自分は人間だって思ってたら、そいつは人間だ」

一夏「けど」

一夏「Web上に意識をアップロードされた人間は、どうやって人間って定義する?」

一夏「データになったら0と1だ。肉体は消えちまう」

一夏「じゃあ、自分は人間だって思っていれば人間なのか? ――それなら、アップロードされた亀が『自分は人間だ』って思ったら、人間なのか?」

一夏「って、奴だな」

戒斗「そうだ。意識をアップロードされた亀に人権を与えないなら、意識をアップロードされた人間にも人権を与えることができない」

戒斗「故に、Web上に意識をアップロードされた亀には人権を与えるべきだ。そういう、言葉遊びだ」

一夏「戒斗はどう思うんだよ」

戒斗「馬鹿な質問をするな。例えデータになっても、亀は亀。人間は人間だ」

一夏「その判別はどうするのさ。データになったら、結局、どっちも0と1だろ」

戒斗「いいや。人間には、魂がある」

一夏「…………」

一夏「ぶふっ」

一夏「あ、あはははははははは! 戒斗! お前、魂って。魂って! あはははははは!!」

戒斗「何がおかしい」

一夏「ごめんごめん。なんか戒斗がロマンチストに見えてさ、おかしくなっちまったよ」

戒斗「……ふん」

一夏「拗ねるなって。……お詫びに、一つ教えてやるから」

戒斗「何をだ?」

一夏「その、うぇぶ亀人権論争ってさ。『うぇぶ亀人権宣言!』っていう、チラシみたいなデータから始まったんだよ」

一夏「そのデータはある日、インターネットに繋がっている全ての端末に、同時に表示された」

一夏「『うぇぶ亀人権宣言!』ってのは、世界中のパソコンや携帯端末を全部ハッキングしたわけなんだ」

一夏「誰が『うぇぶ亀人権宣言!』と発表したのか、みんな知らない。世界中のネット端末を全部ハッキングしちまったような危ない天才だぜ? 世界各国がその正体を探ってる。でも、いまだに犯人は分かってない」

一夏「でも。俺、知ってるんだよ。『うぇぶ亀人権宣言!』は誰が発表したのか、ってさ」

戒斗「ほう」

一夏「束さんだ。篠ノ之束。箒の姉さんだよ」

戒斗「……何?」

一夏「『うぇぶ亀人権宣言!』をぶち上げた奴はさ、こう名乗ったんだ――カメ子三世」

一夏「これさ。束さんが飼ってる亀の名前なんだよ」

戒斗「……」

戒斗「なんだと……?」

<某所>

凌馬「うぇぶ亀人権論争。いいね、実に興味深いテーマだ」

凌馬「今の私にとっては熟考に値する」

凌馬「しかし」

凌馬「束。あの子もなかなかに、電子の海のカウボーイだねぇ」

 以上になります。
 本編に入る前に消化しなければならない短編はあと三つ。
「戒斗のいびつなIS操縦」「ぼっちなう」「不屈の魂」となります。
 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 K(カルマが)K(下限に)N(なったので)。
 短編投下いたします。

■短編No.4 戒斗のイビツなIS操縦
<夕方・アリーナ・いつもの特訓>

一夏「あ。戒斗がまた負けた」

鈴「ねえ、一夏。あたし、戒斗が勝つとこ見たことないんだけど」

一夏「……く、クラス対抗戦ではあの正体の分からないISに勝ったから」

鈴「あの時の戒斗はIS使ってなかったでしょ!?」

一夏「そ、そうだけど」

一夏(……そう)

一夏(戒斗、箒、鈴、セシリア、そして俺で放課後に特訓をするようになってから結構経った。けど、IS戦で戒斗が勝利する姿を一度も見ていない)

一夏(とは言え、戒斗の機体は訓練機の《打鉄》。他のメンバーは、箒以外は専用機。負けるのも、仕方ないのかもしれない)

一夏(と思えば。授業中にクラスメイトと打鉄同士で模擬戦をした時も負けてた……)

一夏(……)

一夏「なんで勝てないんだろうな、戒斗」

鈴「んー……。そもそも、戒斗の動きって変なのよ。何て言うか、運動音痴みたい」

一夏「どういうことなんだ、それ。……って、鈴に聞いても無駄だよなあ」

鈴「どーいう意味よ!」

一夏「ずばばっと入ってぐわーっときてどーんといけばいい! みたいな説明する奴に期待なんてできるか!」

鈴「分かりやすいじゃない、何が不満なのよ!」

一夏「分かんねーよ!!」

箒(…………)

箒(一夏と凰、楽しそうだな……)

<夜・学生寮セシリアの部屋>

セシリア「ISの操縦はまるで素人、けれど戦い慣れしている」

セシリア「駆紋さんのことを、最初はそう思っていましたけれど」

セシリア「やはり、おかしいですわ」

セシリア「ISは人が得た翼……。大空を自由に翔る力を与えてくれるもの」

セシリア「けれど、駆紋さんにとってのISは翼ではないみたい。むしろ、拘束具のよう……」

セシリア「どうしてそう感じるのかずっと考えていましたけれど。わたくしは、もしかしたら解答の糸口を見つけたかもしれません」

セシリア「ISのレスポンスが遅すぎるのよ」

セシリア「操縦者が反応してから実際にISが動くまで、本来ならコンマ1秒もかからないはず。けれど、駆紋さんはそうではないみたい」

セシリア「恐らく『考えて』から『ISが動く』まで1秒以上かかっているはず。戦い慣れている駆紋さんだから、何とかごまかしが効いているのでしょうけど……。本来なら、試合にもならない状況のはずですわ」

セシリア「何が問題なのかしら……。戒斗さんの機体は学園から貸し出された訓練機。なら、機体の問題ではないでしょう」

セシリア「……」

セシリア「この謎を追いかけることは、駆紋さんの秘密に迫るということ」

セシリア「駆紋さんにより近づくということ」

セシリア「けれど……」

セシリア「より深く彼を知って、それで、わたくしはどうするつもりなのでしょう……」

<深夜・アリーナ>

戒斗「……ふん」

戒斗(本来、俺はISの適応者ではない。しかし、ISのコアはヘルヘイムの果実だ)

戒斗(オーバーロードの力を使えば、強引にだが動かすことはできる)

戒斗(しかし、『動かせるだけ』では無意味だ。いずれ来るべき時のために『戦える』ようにならねばならん)

戒斗(何より。負けっぱなしは我慢ならん!)

千冬「どうした。今日のリベンジマッチはもう止めておくか?」

戒斗「馬鹿を言うな。今日が、俺が貴様を倒す日になるのだから!」

千冬「くくっ。わくわくする台詞だが、年度始めから毎日聞いていると流石に飽きてくる。そろそろ本当にして欲しいものだな」

戒斗「ああ、本当にしてやる。――俺の強さを、貴様に見せつけてな!」

 以上になります。
 次の短編は『ぼっちなう』。(この話では2組にてクラスメイトになっている)箒と鈴の話になります。
 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 乙ありがとうございます! 反応があると励みになります!
 さて、今回は短編5本目。(このスレでは)クラスメイトの箒と鈴の話になります。

■短編No.5 ぼっちなう
<2時間目・1年2組>

2組担任「はーい。二人組作ってー」

鈴(と先生が言うと、必ず余る子がいる)

箒「……」

鈴(……。そして、何の因果かその『余る子』はあたしの恋敵)

「鈴、一緒に組もうよ!」

鈴「うん、いいよ」

箒「……」

鈴(やっぱり余ってる……)

<昼休み・屋上>

箒「まったく。たるんでるぞ一夏!」

一夏「箒が厳しすぎるだけじゃあ……」

箒「何か言ったか」

一夏「イエ、ナンデモアリマセン」

鈴(そういえば。箒が一夏以外と話しているところも、ほとんど見ない気がする)

鈴(こうしてみんなで話していても、いつも一夏だけを見てる)

鈴(……)

鈴(う、うーん。何だろうなぁ、何かもやもやするよのねぇ……)

<同時刻・1年2組>

「篠ノ之さんってどう思う?」
「んー。何て言うか、近寄りがたいよね。いつもツン! ってすましててさ。仲間になる前のライバルみたい」
「あんた少年漫画の読み過ぎだよ」
「それに放課後になるとすぐに教室から出てっちゃうから、話しかけるタイミングも無いよね」
「そうねー。篠ノ之さんって友達いるのかな?」
「……」
「あー。その沈黙答えだわ」

<夜・学生寮鈴の部屋>

鈴(篠ノ之箒。一夏のファースト幼なじみで、沢芽の篠ノ之神社の家の子)

鈴(お姉さんは、あの篠ノ之博士。だからたぶん、重要人物保護プログラムに振り回されて転校を繰り返した……んだと思う)

鈴(……あー、そっか。あの子も転校したことがあるのか)

鈴(あたしは小学生の時に1回と中学生の時に1回転校した。仲良い子とも……好きな子とも別れるのは、すごく辛かった)

鈴(……何度も何度も転校するって、どんな気持ちになるのかな)

鈴(……)

鈴「あー! 考えてもしょーがない!」

<翌日・4時間目・1年2組>

2組担任「はーい、二人組作ってー」

箒「……」

鈴(今日もあの子は一人)

箒「……」

鈴(自分から動く気配も無い)

鈴(……)

「鈴、一緒に組も!」

鈴(あー、もうっ。もやもやするなぁ……!)

「鈴?」

鈴「――あ。ごめん、ちょっと考え事してた」

「珍しいね」

鈴「珍しいって何よ!? あたしに悩んでる姿は似合わないって言いたいわけ! ……その通りよ!」

「えっ。……あ、うん。……うん?」

鈴「ごめんね! あたし今日は別の子と組む。また今度誘ってくれると嬉しいよっ」

「あ、うん」

鈴(さて、と)

鈴「おいこら、箒!」

箒「……何だ?」

鈴「先生が二人組作って、って言ってるところで声かけるなんて理由は一つしかないでしょ!」

箒「……?」

鈴「不思議そうな顔すんな! 箒――あたしと組みなさい!」

箒「……」

箒「……。断る」

鈴「何でよ!?」

箒「……私だって、クラスで孤立していることくらいは理解している。迷惑をかけるのは忍びない。それに……凰に情けをかけられると、ひどく惨めになる」

鈴「……」

鈴「っ~! ふっざけんなっ!」

箒「っ!?」

鈴「いいからあたしと組みなさい! で、その仏頂面やめて笑え! 今がよくないって分かってるなら、行動して、変えてみせなさいよ!」

箒「……ど。どうして、私に構うんだ。私達は、その……恋敵だろう」

鈴「そうよ! でも、それだけじゃない! 一緒にご飯食べて、一緒に練習して、一緒に同じ人を追いかけて――あたし達、友達だもん。ほっとけないわよバカ!」

箒「…………」

箒「分かった。よろしくお願いする」

鈴「うん、よろしく!」

<昼休み・1年2組>

「篠ノ之さんと鈴って友達だったんだ……」
「鈴って誰とでも友達になれるよね」
「そうねー。鈴ってちっちゃいけど太陽みたいに明るくて、なんかこー、するっと心の中に入ってきちゃうのよねー」
「ねえねえ。友達の友達は友達理論でいくと、篠ノ之さんと私達も友達になるのかな?」
「だからあんた、少年漫画の読み過ぎだって」
「でも……」
「うん?」
「篠ノ之さんって、あんな風に笑うんだね。ちょっといいな、って思っちゃった」
「んー? 今度声かけてみる?」
「そうしてみよっか」

 以上になります。
 次は最後の短編『不屈の魂』。戒斗と一夏と千冬の話になります。
 ここまでお付き合いありがとうございました。

こんばんわ。最後の短編、戒斗と一夏の物語になります。

■短編No.6 不屈の魂
<2時間目・グラウンド>

一夏(強さって、何だろう)

一夏(誰にも負けなければ強いのか? 最強は、本当に強いのか……?)

一夏(よく分からない)

一夏(強くなりたい、って思ってた。千冬姉を守れる力が欲しかった)

一夏(でも……。強さって、何だろう)

一夏(ただ敵を倒す力、ではないんだと思うんだ。だって)

クラスメイト4「大丈夫かい、戒斗くん。ボクのフェイントに釣られちゃったかな?」

戒斗「……。もう一度だ!」

一夏(駆紋戒斗)

一夏(自分でも不思議なんだけど、俺はこの負け続けているクラスメイトに『強さ』を感じているんだ)

<昼休み・屋上>

鈴「ごめん! 今日の放課後はあたしと箒は特訓パスで!」

一夏「いいけど、箒も一緒ってのは珍しいな。……いや、初めてか?」

セシリア「初めてですわね。篠ノ之さん、入学式の次の日から放課後は毎日織斑さんと特訓していましたもの」

箒「わ、私は一夏に特訓の相手を頼まれたんだ。だったら、たとえ一夏が嫌がっても引きずって鍛えるのが筋だろう!」

セシリア(……愛が重すぎますわ)

戒斗「なのに、今日の特訓は参加しない。どういう心境の変化だ」

箒「それは……」

鈴「女の子には色々あるのよ! や、女子会するだけなんだけどね」

一夏「そっか。友達付き合いは大事だもんな。箒、鈴、楽しんでこいよ」

鈴「もちろんよ! ね、箒」

箒「……ああ!」

<放課後・アリーナ>

一夏(セシリアと戒斗が戦っている)

一夏(セシリアのIS『ブルー・ティアーズ』は、オールレンジ攻撃用兵器《ブルー・ティアーズ》の試用機。1対1では絶大な制圧力を発揮する)

一夏(戒斗は巧く立ち回っているけど、針に糸を通すような、ぎりぎりの戦いだ)

一夏(あ。被弾した。……どんどん追い込まれてる)

一夏(……)

一夏(今日も、戒斗は負け続けている)

セシリア「今日はここまでにしますか?」

戒斗「いいや、もう一度だ!」

セシリア「ふふっ。それでこそ駆紋さんですわ!」

一夏(結局、戒斗は一度も勝てなかった)

<夜中・学生寮1025室>

戒斗「……」コソッ

一夏(夜になると、決まって戒斗は部屋を抜け出す)

一夏(どこに行って何をしているかは、知らない)

一夏(でも)

一夏(……今日は、後をつけてみようと思う)

<アリーナ>

千冬「お前もこりないな、駆紋。あと何回辛酸を舐めるつもりだ? いい加減諦めてもいいんじゃないか」

戒斗「諦める……? ふん。勝つか死ぬか、俺にあるのはその二つだけだ」

千冬「長生きは望めない生き方だな」

戒斗「……」

千冬「っと、すまない。失言だった」

戒斗「気にするな。それより、そろそろ始めるぞ」

千冬「ああ。今日こそ駆紋がISで私に勝つところを見たいものだな」

戒斗「すぐに見せてやる。楽しみにしているがいい!」



<アリーナ・観客席>

一夏(戒斗と千冬姉がISで戦っている……)

一夏(あ。戒斗が負けた)

一夏(でも……)

一夏(戒斗は立ち上がって、また戦い始めた)

一夏(あ。また戒斗が負けた)

一夏(……)

一夏(もしかしてあいつ、このために毎夜部屋を抜け出してたのか……?)

一夏(あ。また戒斗負けた……)

<深夜・学生寮1025室>

一夏(戒斗が帰ってきた)

一夏(結局、戒斗は一度も千冬姉に勝てなかった)

一夏(もしも戒斗が入学してからずっと千冬姉に挑み続けているとしたら)

一夏(あいつは何度負けたんだろう)

一夏(何度、立ち上がったんだろう)

一夏(……)

戒斗「織斑、寝たふりを止めろ」

一夏(!?)

戒斗「貴様が俺の後をつけていたことは分かっている。……見ていたんだろう?」

一夏「……ああ。その」

戒斗「慰めはいらん。貴様の見たものが全てだ。俺は負け続けている。織斑千冬にも、他の誰にも。織斑、貴様にもだ」

一夏「……」

一夏(こいつは……)

一夏「もしかして戒斗は、負けるのが悔しくないのか……?」

戒斗「馬鹿を言うな、悔しいに決まっているだろう。敗北の味ほど苦く惨めなものはない」

一夏「だったら、諦めてもいいんじゃないか。負け続けるのはしんどいだろ……」

戒斗「織斑。それは弱者の考えだ」

一夏「え……?」

戒斗「確かに、敗北の味は苦い。悔しさは涙を滲ませる」

戒斗「だが、それがどうしたというのだ」

戒斗「諦めて何を得られる?」

一夏「それは……」

戒斗「貴様も理解しているだろう。何も得られない、とな」

一夏「……でも」

一夏「戦って、挑戦し続けても……。何も得られない、かもしれない」

一夏「そういう可能性だって、あるだろう?」

戒斗「その時は――その時だ」

一夏「それでいいのかよ!?」

戒斗「そういうこともある。全てを賭した戦いに負けることも、あるんだ。世界は残酷なのだから」

戒斗「だが、俺は諦めたくない。死んでもだ」

一夏「……だから戒斗は立ち上がるのか? 何度負けても。何度でも」

戒斗「そうだ。勝利は、戦う者しか掴めないのだからな」

一夏(……)

一夏(ああ、そうか……)

一夏(絶対に諦めない、不屈の魂。それが、俺が戒斗に見ている『強さ』なんだ……!)

一夏「戒斗は強いな」

戒斗「いいや、俺は強くなれなかった」

一夏「……」

一夏「え……?」

戒斗「覚えておけ、織斑。俺はな」

 ――仮面ライダーになれなかった男だ。

 これにて短編は終了。次の投下がいつになるかちょっと分からないので、このスレはHTML化依頼を出して終了いたします。
 次はIS原作2巻(アニメ5話から~8話)のストーリーをベースにした本編。スレタイ、

戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」

 にてお会いしましょう。
 それではみなさま、ここまでお付き合いありがとうございました。

次の話が思ったより早く出来上がったのですが、こちらは既にHTML化申請を出していますので、次スレを立てました。
次スレ↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420913661/)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom