【オリキャラ】ファンタジー世界で異能バトル【地の文】 (220)




・オリキャラを創作していただいて、そのキャラたちを戦わせようというスレです。

・チュートリアルが終わったら、安価を出します。

・特に説明もなく安価下処理を行う場合がありますのでご了承ください






全種族が結束して【魔王】を打倒してから500年。

共通の敵を失った【人間族】【エルフ族】【獣人族】の三種族は、三つ巴の争いを繰り広げていた。



そんなある日、世界に再び【魔王】が復活したという噂が流れる。



やがて三種族は世界の覇権を握るべく、競い合うようにして【魔王】を探し始めたのだった。






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419916653




●人間
身体:☆☆☆
技巧:☆☆☆☆☆
精神:☆☆☆
魔力:☆☆☆
頭脳:☆☆☆☆☆
容貌:☆☆☆☆☆
協調:☆☆☆☆☆

・人間族は個体数が他種族の5倍

武装:剣、槍、盾、斧、鈍器、鞭、銃、鎧、爆弾、狩猟罠、etc…



●エルフ
身体:☆☆
技巧:☆☆☆☆
精神:☆☆☆☆
魔力:☆☆☆☆☆
頭脳:☆☆☆☆
容貌:☆☆☆☆☆
協調:☆☆☆☆☆

・エルフ族は寿命が他種族の10倍

魔法:火鞭、爆発、水砲、遊泳、風刃、飛行、土槍、隆起、幻影、結界、転移、治癒
武装:短剣、弓、杖



●獣人
身体:☆☆☆☆☆
技巧:☆☆☆
精神:☆☆☆☆☆
魔力:☆☆☆
頭脳:☆☆☆
容貌:☆☆☆☆☆
協調:☆☆☆☆☆

・獣人族は身体能力が他種族の数倍

種類:犬、猫、鳥、兎、虎、馬、牛、羊、猿、魚、etc… (実在する生物から)
武装:鎧





☆はステータスの最大値を示しています
各項目へと★を計20個まで割り振れます。ただし各項目には最低でも★1つは割り振ってください。

また、★5つと引き換えにして、【異能】というオリジナル能力を付加させることができます





身体 … 筋力、持久力、瞬発力、耐久力、感覚機能、耐久力
   … この項目の★の数だけ、武装を持ち運べます

技巧 … 器用さ、繊細さ
   … 技術的な行動の成功率が決まります

精神 … 精神力、集中力、直感
   … 緊張を伴う場面での行動や、不意打ちなどに対する反応が決まります

魔力 … 魔法や異能の威力、範囲、応用力、魔力への感知能力
   … ★の数が多いと異能が強力になる代わりに、発動まで時間がかかります
   … この項目の★の数だけ、エルフ族は魔法を扱えます

頭脳 … 思考力、発想力、想像力
   … 交渉や頭脳労働での成功率が決まります
   … ★3つ以上で、500年前に開発された【三種族共通言語】を習得しています
   … ★5つで、他種族の言語も習得しています

容貌 … 外見的魅力、内面的魅力、求心力
   … ★4つ以上で同種族、★5つで他種族にも、対人スキルに補正が入ります

協調 … 組織力、結束力、連携能力、協調性
   … コミュニケーション能力や、騙されやすさが決まります。
   … キャラ同士の★の合計が7つ以上で、仲間になる可能性があります(他種族の場合は★9つが必要)




●敵を見つけた場合の対応 … 【アタック】or【カウンター】or【ネゴシエーション】

【アタック】
問答無用で相手を攻撃します。ネゴシエーションを仕掛けてきた相手には大ダメージ
こちらが一方的に相手を見つけた場合、戦闘スタイルに合わせて積極的に攻撃します

【カウンター】
相手の攻撃を受け流して、カウンターを狙います。アタックを仕掛けてきた相手に大ダメージ
こちらが一方的に相手を見つけた場合、相手を尾行します

【ネゴシエーション】
カウンターを構えている相手を言いくるめて先手を取れます。
また、相手もネゴシエーションを仕掛けてきた場合は【仲間】になれる可能性があります
こちらが一方的に相手を見つけた場合、話しかけるために呼びかけます



●戦闘スタイル … 【決闘】or【暗殺】or【罠】

【決闘】
正々堂々、真正面から戦います。どんな状況でも万全で戦えるタイプ

【暗殺】
相手がこちらを認識していない状況から、一方的に不意打ちを仕掛けます
きちんと準備できていない状況だと逃走を優先します

【罠】
敵と出会う前に罠をまき散らして、戦いに持ち込ませない間接戦闘タイプ





●チュートリアル




名前【モータル】

種族:人間

性別:男
外見年齢:32歳

職業:傭兵
魔王を探す目的:王国の研究所から魔族の死体を回収する依頼を受けた

備考:傭兵歴20年のベテラン。容姿や声はダンディだが嫌煙家で甘党。銃の腕は一流だが、好戦的な性格ではない
外見:鷲鼻で神経質そうな目つきをした、白髪交じりの壮年男性。最近下っ腹が出てきたことが気になっている

異能名【―――】
能力要旨【―――】

武装:銃、ナイフ

敵を見つけた場合の対応 … 【カウンター】
戦闘スタイル … 【暗殺】

身体:★★★
技巧:★★★★★
精神:★★★
魔力:★☆☆
頭脳:★★★★☆
容貌:★★☆☆☆
協調:★★☆☆☆





名前【ゲゲログ】

種族:獣人

性別:雄
外見年齢:21歳

種類:ワニ

魔王を探す目的:武勲を上げるため

備考:仲間の中では一番の武闘派だが、自分勝手で横暴な性格が敬遠されているワニの獣人。主な武器は牙と爪。強烈なアゴに噛みつかれれば岩でも砕ける

外見:身長2メートル30センチ、体重160キロ。ゴジラのような外見だが、さらに同族内でも醜いとされる顔立ち

異能名【悪魔の沼(ボトムレス)】
能力要旨【自分の足元、半径10メートルの地面を底無し沼に変える】

武装:―――

敵を見つけた場合の対応 … 【アタック】

戦闘スタイル … 【暗殺】

身体:★★★★★
技巧:★☆☆
精神:★★★☆☆
魔力:★★★
頭脳:★★☆
容貌:★☆☆☆☆
協調:★☆☆☆☆





名前【ルーナ・ディーテ】

種族:エルフ

性別:女
外見年齢:12歳

魔法:水砲、飛行、結界、転移、治癒

魔王を探す目的:魔王の実在を確かめるため

備考:魔法の才能にあふれる天才少女。長命なエルフ族の例にもれず120歳だが、精神的には幼く、また幼さゆえの無邪気さが残酷なことも
外見:銀髪・碧眼の美少女。髪はショートボブで、表情は無邪気で快活。薄着の上から長いマントを羽織っている。つるぺたなのがコンプレックス

異能名【―――】
能力要旨【―――】

武装:杖

敵を見つけた場合の対応 … 【ネゴシエーション】

戦闘スタイル … 【決闘】

身体:★☆
技巧:★☆☆☆
精神:★★☆☆
魔力:★★★★★
頭脳:★★★☆
容貌:★★★★☆
協調:★★★★☆





 ―――First Stage―――





 絡みつくような霧が立ち込める、鬱蒼と茂った森。

 その奥深くを歩くのは、一体の獣人だった。


「……ったく、マジでこんなトコに【魔王】がいやがんのかよ?」


 そんな愚痴を漏らすのは、獰猛に裂ける巨大な口。

 ナイフのように研ぎ澄まされた牙がまっすぐに並び、血なまぐさい吐息をまき散らしている。

 鎧のような鱗に覆われた両足で木の根を踏みしめながら、彼―――ゲゲログは暗い森を進む。

 目的はただ一つ。自分を煙たがり、敬遠する仲間たちを見返すため。

 【魔王】を仕留めた武勲で、奴らの鼻を明かすため。


「ん?」


 ゲゲログの縦に裂けた瞳が、前方遠くを見据える。

 その先には、この霧深い大自然に相応しくない人工物―――遺跡が存在していた。


「アレに【魔王】が住んでるってか?」


 ゲゲログはそう独り言ちながらも、爪と鱗に覆われた巨大な足を進める。その足取りに迷いはない。

 なにが待ち受けていようと、ただ蹴散らすだけなのだから。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 その三〇メートル手前。

 生い茂る木々の隙間を縫うようにして這うのは、一人の男だった。

 モータルというその男は、神経質そうな目を細めながら、前方の獣人を追う。

 ほんの一瞬も気を抜かず、静かに、静かに、後を尾ける。

 目的を達するため、ただ静かに息を殺す。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 森の奥に存在する、石造りの巨大な遺跡。


「…………」


 その中心で、ゲゲログは困惑していた。

 現在、彼が前にしている石版に、【全種族共通言語】らしき文字が書かれているのは、なんとなくわかる。

 そして自分はそれを読めないため、先へは進めない。

 ……というのは、実際どうでもよかった。

 問題なのは、もう一つの方。


「こんにちわ! 私はルーナ・ディーテ! よろしくねっ!」


 やけににこやかに話しかけてくる、銀髪碧眼のエルフ。もちろん初対面だ。

 ゲゲログには知るすべもないが、彼女が操っているのは太古に開発された【全種族共通言語】だった。

 ただし彼にはそれを理解するだけの教養はなく、つまり彼女がなにを言っているのかも、さっぱり理解できなかった。

 だからゲゲログは、“とりあえず”。

 彼女を殺すことに決めた。





「!」


 ゲゲログの足元に魔力が集中するのを感じた少女・ルーナは、驚いて一歩後ずさる。

 彼女が魔力の動きを察知してからきっかり三秒後。

 ルーナがなにか行動を起こす前に、“それ”は発動した。


「―――『悪魔の沼』!!」


 ずぶっ……という違和感を感じ取った時には、もう遅い。

 銀髪碧眼のエルフは、人懐っこい笑顔を驚愕の表情に変える。すでに足首までが泥の沼に飲み込まれ、身動きが取れない。


「ちょっ、ちょ……!? いきなりなに!?」

「どうせなに言ってるかわからねェなら、生かしといても意味ねェだろ」


 ゲゲログは両手両足を泥の沼につけ、泳ぐようにしてルーナへと突進する。


「死ねッ!!」


 ゲゲログの凶悪な爪が一閃。

 とっさに身体を庇ったルーナの左腕が切り裂かれ、血しぶきを上げる。

 続けてゲゲログの、岩をも砕く牙がルーナの幼い身体を喰いちぎろうとした、その瞬間。


「『転移』!!」


 一瞬でルーナの身体が消失し、ゲゲログの牙が空を切った。

 なにが起こったのかは理解できなかったが、どうやらあのエルフの少女もなにかしらの能力を持っていたのだろうとゲゲログは結論する。

 彼は異能『悪魔の沼』を解除して、地面を石畳へと戻す。するとそこには、少女の血痕だけが残った。


「……俺以外にも、ここに来てるヤツがいやがったのか」


 ゲゲログは注意深く遺跡の内部を見渡す。

 見たところ人の気配はないが、少なくともエルフが一人、息を潜めていることは確実だ。

 立体的なこの遺跡では、隠れるところはたくさんある。不意打ちする側が圧倒的に有利な立地であると言えよう。

 しかしあの出血なら、そう動き回ることもできないはず。

 どうせ遺跡の石板を読むことができないのなら、まずは邪魔者を排除してから、ゆっくりと探索しよう。

 そう結論したゲゲログは、素早く遺跡の陰に姿を隠した。



 ・・・・・・





 これにてチュートリアル終了です。

 それでは安価でオリキャラを募って行こうと思いますので、ご協力よろしくお願いします。


 ちなみにすべてのキャラは、同じ種族や同じ出身であっても、全員【初対面】という扱いとなります。


 募ったキャラは、このゲゲログたちが火花を散らす遺跡での戦いに参加してもらいます。

 【ボスキャラ】もいますが、能力の相性が悪かった場合、下手をすれば全滅もあり得ます。


 また、文章と★が食い違っている部分は、★の方を優先させていただきます。


 それでは、よろしくお願いいたします。



 ↓+2 から、3人までのキャラを参加させたいと思います(安価下処理があった場合はくり下がっていきます)。




皆さん、ご協力ありがとうございます。

それではこのオリキャラたちで書いていきたいと思います。




 ・・・・・・



 追跡対象であった獣人―――ゲゲログが遺跡の陰に姿を隠したことで、モータルは薄く眼を細めた。


(……さて、どうするか)


 一応、あの獣人が消えた方角はわかっているので追跡は続行できる。

 しかし先ほどの女エルフとの接触によって、獣人は周囲を警戒しているはずだ。

 獣人は勘が鋭い上に感覚器官が他種族とは段違いだ。迂闊に近づけば気づかれてしまうかもしれない。

 ましてや、あのいかにも強固そうな鱗だ。モータル自慢の銃弾やナイフが、皮膚に通るかさえ怪しい。

 となれば魔法や異能に頼りたいところだが、あいにくモータルにはどちらの心得もない。


(……その上)


 モータルはナイフを取り出して、その磨き抜かれた刀身の反射で背後をうかがう。

 そこには浮浪者か奴隷のようにみすぼらしい姿の獣人が、非常にお粗末な追跡をしている様子が映っていた。

 おそらくそのターゲットはモータルだろうが、あれでどうしてバレていないと思えるのだろう。モータルは不思議で仕方がなかった。


(あのワニ獣人の仲間か? 目的は何だ? なにかの能力にハメる準備でもしているのか?)


 獣人同士がグルだった場合、モータルの尾行もバレているということであり、挟み撃ちを食らう危険性がある。

 モータルはしばし目を伏せ、それから、


(遺跡のどこかで先ほどのような戦闘が起こったら、その混乱に乗じて“石版”の文字を読みに行くか)


 先ほどワニ獣人が不思議そうに眺めていた、あの石版。

 ワニ獣人はまったくもって解読できなかった様子だが……あそこに、この遺跡の重要な秘密が記されているのかもしれない。


(まぁ、なんだ。とりあえず、私も後ろの尾行を撒くとしよう)


 そう決心したモータルは、遺跡の角を曲がると同時に、全力で走り抜けるのだった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



「アナタ、獣人族のくせに、よくもルナたちエルフ族に歯向かってくれたわね!」


 ゲゲログが遺跡の隙間を縫うように走っていると、真上から突然、脳みそがトロけそうなほど愛らしい声が響いた。

 仰ぎ見ると、そこには人間族の子供が持っていそうな人形にも似た、絵に描いたような美少女が立っていた。

 その容貌は、獣人族のゲゲログさえも一瞬見とれてしまうほどの美貌。

 しかしゲゲログはすぐに思い直して、瞳孔の縦に割れた黄色い瞳でエルフ少女を睨み付ける。

 少女は余裕たっぷりといった表情で微笑むと、


「まったく、この世界でいちばん可愛い“ルナ・ミナルデイマ”ちゃんにはふさわしくない醜さね。でも、どうしてもって言うなら下僕にしてあげましょうか?」


 そんなルナの挑発はエルフ語だったため、ゲゲログに通じたはずもないが、しかしそれを聞いたゲゲログはすぐに行動した。

 石畳を蹴り、壁を蹴り、ゲゲログを見下ろしていたルナの立つ場所まで、瞬時に登り詰めたのだった。

 そして、


「テメェも死ぬか?」


 目を丸くして立ちすくむルナに飛びかかり、その美しい顔に、巨大な口でかぶりついた。


「―――ッ!?」


 ……と思った瞬間、ゲゲログは前のめりに転倒した。

 恐怖の表情を浮かべるルナを噛み砕いたはずが、ゲゲログの牙は、その体を“すり抜けた”。


「やっぱり獣人って、おばかさんばっかりね。……“幻影”よ」


 その声が背後から聞こえた瞬間、ゲゲログは振り返りざまに攻撃を仕掛けようとしたが、


「『メロメロ』」


 すでに勝負は決まっていた。

 ゲゲログがルナの存在に気が付く前から、ルナは能力の準備をしていたのだ。

 ルナの魔性の瞳を直接見てしまったゲゲログは、攻撃の意思を、敵意を、完全に奪われてしまっていた。

 彼はもう、ルナの操り人形だった。





「ふふ……どんなに強くたって、こうなっちゃえばただのお人形ね。男である限り、ルナの異能から逃れることはできないわ!」


 美しすぎる顔を喜悦に歪めるルナは、それから退屈そうな視線をゲゲログの身体に這わせる。


「うーん、強そうだけど、残念。ルナの美的感覚が、アナタを死刑って言ってるわ。……まぁ、そういうことだから」


 ルナは宝石のように美しき蒼い瞳で、意思を奪われた哀れな獣人を射抜くと―――


「“今すぐ死んで”」


 無情にも、その命令を下すのだった。



「…………」
 


 …………。



「……あら?」



 しかしいつまで経っても、ゲゲログはなんのアクションも起こさない。

 それどころか、彼は瞳にハートマークを浮かべて、ルナに飛びかかってきた。


「きゃあああっ!? なに!? なんでルナの命令が効かないの!?」


 体重160キロのゲゲログに飛びかかられたルナは、苦しそうにじたばたともがく。

 しかしそれからいくら命令しても、この獣人は言う事を聞かない。

 まるで言葉が聞こえていないかのように。

 まるで言葉が通じていないかのように。






「……ああーっ!! そういえばこの獣人、エルフ語がわからないんだったわ!!」


 そう、獣人がエルフ語なんてわかるはずがない。

 しかしそれならば、【三種族共通言語】で話しかければ、もしかしたら通じるかも……


「……って、ルナそんなの喋れないしーっ!!」


 ルナはその美貌で、大抵のことは許されてきた。……そう、運動や勉強の成績が最底辺でも。

 言葉が通じないということは、ルナはゲゲログに命令を下せないということになる。

 さらにルナは知る由もないが、そもそもゲゲログは【三種族共通言語】も通じない。

 この能力は一定範囲の対象一人だけにしか使えない。しかし他の対象に能力を使うためにゲゲログへの能力を解除したら、その瞬間に喰い殺されるだろう。


「……て、『転移』!!」


 かろうじて魔法を発動したルナは数メートル隣にワープするが、ゲゲログはすぐにルナを捕捉して飛びかかってくる。

 かと言って、あまり遠くに移動してしまうと、異能の効果が切れてしまう。


「ちょっとーっ、これどうするのよ~!!」


 顔面をペロペロ舐められそうになるのを必死にガードするルナの悲痛な叫びは、しかし誰にも届かなかった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 一方、ゲゲログの攻撃を受けて左腕を負傷したエルフ少女、ルーナ・ディーテは、遺跡の陰で身を隠していた。


「……『治癒』」


 痛々しく血を流す裂傷を、淡い光が包み込む。

 苦痛に顔をゆがめていたルーナの表情が少しだけ柔らいだが、しかし痛みが酷く、魔法に集中できずにいた。


(うぅ……ただ話しかけただけなのに、ヒドイ……。やっぱり獣人族って乱暴な人ばっかりなんだ)


 激痛は皮膚や筋肉だけでなく骨にまで及び、もしかすると骨折してしまっているのかもしれない。

 こんな状態でさっきの獣人に襲われたらひとたまりもない。

 先ほどの攻防において、襲われたことによるパニックで痛みを感じなかったのは不幸中の幸いだった。おかげでとっさに魔法を使うことができたのだから。

 しかし今度はそうもいかない。次に襲われたら、今度こそ……

 などと考えていると、ルーナの耳に足音が届いた。


「―――っ!?」


 びくりと小さな体を震わせたルーナは、より一層建物の陰に身を隠そうとする。

 しかし左腕から漏れ出た血液が、石畳の溝を流れていってしまう。

 足音はどんどん近づいてきて、やがてルーナの目の前で止まった。

 かくなる上は先手必勝と、魔法を発動しようとした……その時。



「わっ、ひどいケガ!! だ、だ、大丈夫ですか!?」



 ルーナはぱちくりと目を丸くする。そこに立っていた人物は、彼女が想定していた相手とはなにもかも違っていた。

 どうやら人間族の少年のようだが、エルフ族のルーナが思わず息を呑むほどに整った顔立ちの少年だった。

 身なりもきちんとしており、服の生地はかなり上等なものだ。胸には複雑な紋様―――家紋かなにかだろうか―――が刺繍されている。

 そんな小柄な美少年は、腰に提げていた袋から小さな筒を取りだすと、


「これ、ほんとは麻痺毒として矢じりに塗るんですけど……傷口にちょっと塗るだけなら、麻酔薬代わりになります! ど、どうぞ!」


 そう言って、その毒を差し出してくる少年。





「…………」


 ルーナがどうしたものかと考えこんでいると、少年は急に慌てたように、


「あ、あれ!? もしかして【三種族共通言語】がわからなかったりしますか!? わわっ、それじゃあどうしよう……!!」

「えっと、そうじゃなくって……言葉はわかるんだけど」

「あ、そうでしたか! そ、それじゃあ、これどうぞ!!」


 ルーナは少年の差し出した麻痺毒と、おどおどした表情を交互に見据える。

 ルーナは見るからに満身創痍だ。そんな彼女に害をなそうというのであれば、こんな回りくどいことせずとも襲いかかればいいだけの話だろう。

 そう結論したルーナは、少年に言われた通りに少しだけ麻痺毒を傷口に垂らしてみた。


「んっ……」


 しばらくピリピリとしていたが、やがて傷口の感覚がなくなって、痛みがすっかりひいてしまった。

 これなら『治癒』の魔法に集中できそうだ。それに、少しならまた戦えるかもしれない。


「あの、ありがとう。えっと……」

「わっ、申し遅れました! ボ、ボクの名前は“三ッ橋 ナユタ”、です。」

「ナユタ……くん。私は“ルーナ・ディーテ”だよ! たすけてくれて、ありがとうっ!」

「いえいえ、エルフの人でも、困ってたら助けるのは当たり前ですから!」


 柔らかく微笑むナユタに、ルーナは少しだけドキッとしてしまった。

 しかし慌てて首を振ると、表情を引き締めて、


「ここにはいきなり襲いかかってくる危ない獣人族がいるから、気をつけたほうがいいよ。この傷も、その獣人にやられたの」

「そ、そうなんですか!? こ、困ったなぁ……ボク、戦うのは得意じゃないんだけど……」

「そうなの? ……それじゃ、よかったらしばらく一緒に行動しない? 私、ちょっとは戦えるから」

「ほ、ほんとですか!? そうしてもらえると、その、助かります……! ありがとうございますっ!!」


 ルーナとほとんど同じくらい小柄なナユタは、安心したようにホッと息をついた。

 彼は戦闘とか以前に、一人でいるのが心細かったのかもしれない。

 ……ともあれ。


「よろしく、ナユタくん!」

「よ、よろしく、ルーナ……ちゃん」


 かくしてここに、異種族タッグが誕生したのだった。


 
 ・・・・・・






 ・・・・・・



 遺跡中央からそれなりに距離があったが、その異変をルーナは確かに感じ取っていた。

 エルフ族の中でも魔力の扱いに天才的に長けていた彼女だからこそ、気が付くことができたのだ。


「……なんだろう? あっちの方に、すごく嫌な気配を感じる」

「えっ?」


 もちろんその異変を、人間族であり魔力の扱いにまったくと言っていいほど素養のないナユタには、感じ取ることはできなかった。

 しかし人を疑う事を知らないナユタは、ルーナの真剣な顔つきを見て、すぐに気を引き締める。


「あ、あの、それってもしかして……【魔王】ですか?」

「そこまではわかんないけど、でも、なにかの能力が発動してるみたい」

「能力?」

「うん。強い魔力の集中を感じたから、魔法とか異能が発動したんだと思う」


 ルーナはそう言うと、左腕に施していた治癒の魔法を解除して立ち上がる。





「あっ、ルーナちゃん! まだじっとしてないと……!」

「ううん、大丈夫。それよりも、魔力の源がなんなのか確かめないと」


 実際、ナユタの麻酔薬のおかげで魔法に集中できたルーナは、すでにある程度は左腕を治療できていた。

 麻酔がきれれば痛みはぶり返すだろうが、ひとまず出血は治まっている。


「私、【魔王】が本当に復活したのかを確かめに来たの」

「!」

「最近、噂になってるでしょ? だからそれが本当なのかを、この目で確かめたいの」

「……【魔王】は復活してます」

「え?」


 急に声のトーンを落としたナユタに、ルーナはびくりと肩を震わせた。

 そのことに気が付いたナユタは顔を赤くして、


「あっ、ごめんなさい! えっと、その……」

「なにか知ってるの?」

「知ってるというか……ボクの大切な人が、【魔王】に殺されたんです」

「……え?」

「ボクはその場面を直接見たわけじゃないですけど……ボクの恩人だった人が、街ごと焼き払われたんです……」


 そう言って瞳を潤ませるナユタに、ルーナはそれ以上深く追求することはできなかった。

 しかし彼のように臆病で、そして心優しい少年が、どうしてこんな場所まで足を運んできたのかという疑問には納得がいった。

 ルーナは動かない左腕を体に縛り付けて固定すると、右手をナユタへと差し出した。


「それじゃあ、目的は同じだね。いっしょに【魔王】を探そう!」

「ルーナちゃん……。うん……!」


 ナユタはルーナの手を取ると、二人で異変の渦中―――遺跡中央へと向かうのだった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 突如として上空から現れた子供と相対する、モータルとハエスキー。

 二人は別段仲間というわけでもないし、言葉さえ通じない関係性ではあるが……

 それでも自分たちを見下ろす“黒い子供”への対応が最優先事項であるという見解は一致していた。

 モータルは噛まれた首筋を抑えながら、自慢の銃を取りだそうとする。しかし……


「……!!」


 指先に力が入らない。かろうじて引き金を引くくらいのことはできそうだが、手になじんでいるはずの銃が、まるで岩のように重い。

 それと、頭に靄がかかったかのように思考がまとまらない。【三種族共通言語】さえも思いだせなくなっていた。

 極め付けに……あの子供に“まったくと言っていいほど勝てる気がしない”。

 そんなモータルを尻目に、ハエスキーが一歩前へと進みながら口を開いた。


「君が【魔王】って奴かい?」

「うん? ああ、そうそう。ぼくが【魔王】。よろしくね」


 そう言って、にっこり笑いながら手を振る子供―――【魔王】は、直後に凶悪な笑みを見せて、


「―――つって。今すぐこれからぶっ殺しちゃうんだし、よろしくもなにもないんだけどさ。あははっ」


 【魔王】はそう言うと、手にしていた石の杯を口元へと持っていき、中に注がれていたモータルの血液を一気に飲み干した。


「ぐっ……うぁ……!?」


 すると、ハエスキーの傍らでうずくまっていたモータルが突然苦しみだした。

 ハエスキーは怪訝そうに、その大きな複眼でモータルと魔王を同時に見据える。

 口の端から血をこぼす魔王は愉快そうにほほ笑むと、


「ああ、これはね……ぼくの異能―――【同気相吸(サックバス)】―――血液を通して、“相手の力を奪う”能力さ」


 中身のなくなった杯を投げ捨てると、魔王は黒い翼を翻して空を舞う。


「さーて、どれくらい力を吸い取ったか、試させてよ」


 そう言いながら突進してくる魔王を、ハエスキーは……




 目にもとまらぬ速さで蹴り飛ばした。








「ごぶっ……!?」


 すさまじい勢いで吹き飛ばされた【魔王】は、数メートル先の遺跡の壁へと叩きつけられる。

 一方で、ハエスキーは着ていたボロボロな布きれを突き破って、背中から透明な翅を生やす。

 ブゥーン、という耳障りな音を響かせて、ハエスキーは遠くの屋根で膝をついていた【魔王】の目前へと一瞬で移動した。


「話を聞いてみれば、べつにどうということはない能力だな。たかが人間一人の能力を上乗せしたところで、この私には遠く及ばない」

「げほっ……あはは、痛いなぁ……ぼくを蹴るなんて、やってくれたね、ハエのおじさん」

「ふっ……生憎私の腕は、麗しのレディたちを抱くためにあるのでね。敵は足蹴にするに限る」

「言ってくれるよね。……まぁでも、今ので大体“わかった”よ。もう油断はしないし」


 【魔王】はよろよろと立ち上がると、蹴られた左腕をさする。

 油断はしないというその言葉は、決して負け惜しみではなかった。事実、先ほどの攻撃に対しても、ギリギリでガードは間に合っていた。

 ハエスキーは一撃で【魔王】の首をへし折る攻撃を繰り出していたのだが、【魔王】はそれを直前でいなしていた。

 ほとんど不意打ちに近い攻撃を、ほぼ完璧に防いでみせた【魔王】を恐るべきと言うべきか。

 はたまた完全に防がれて尚、数メートルも吹き飛ばすハエスキーの脚力を褒めるべきか。


「ハエのおじさん。きみは獣人のパワーにかまけて、技術がとっても疎かだね。もうきみの攻撃がぼくに届くことはないよ」

「……ほう? ならば、この力にはどう対応するかね」


 そう言うと、ハエスキーの全身に魔力がみなぎる。

 【魔王】はそれに対し、腰を低くして攻撃に備えるが……


「受けてみよ、我が力―――【この世は情酒(ナサケ)】!!」


 ハエスキーの異能が発動した瞬間、【魔王】は強烈な眩暈を覚えた。

 足元もおぼつかず、なにかしらの状態異常にかけられたのだと認識する。


「ふっ……私の周囲50メートルに、“酩酊フィールド”を展開させてもらった。すべての者は酔いに溺れる」

「なんだって……?」

「この領域にいる者は全員、何人たりともこの能力から逃れることはできない! 何人たりとも―――そう、この私自身でさえも!!!」


 そう言うや否や、ハエスキーはその場にひっくり返ってしまった。


「…………なにそれ?」


 彼がなにをしたかったのかまったくわからなかったが、とりあえず【魔王】はふらふらとした足取りでその場を立ち去ることにした。

 ……後に残されたのは、すっかり酔っぱらった挙句、屋根の飾りに話しかけるハエスキー、ただ一人だった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 遺跡中央にたどり着いたルーナとナユタの二人は、そこで衝撃の光景を目にすることとなった。


「……あ。そういえばきみたちもいたんだっけ」


 ミイラのように土気色にしぼんだ、“成人男性だったもの”。そして、それの首筋に噛みついている黒い子供。

 かつて“モータル”という名前で呼ばれていたそれをゴミのように捨てると、その子供はにっこりと無邪気に笑った。


「どうもはじめまして、ぼくは【魔王】だよ。よろしくね」


 ナユタは思わず腰が抜けて、その場にへたり込んでしまった。

 一方ルーナも似たようなもので、ごくりと生唾を飲み込んだきり、その場から動けなくなっていた。

 そんな二人の様子を眺めていた【魔王】はつまらなそうに目を細めると、


「えーっと、あと残り五人だっけ。“語り部”は一人でいいから……この二人は殺しちゃおっかな」


 そう呟きながら、なんの気なしに二人へと気軽に歩み寄ってくる【魔王】。

 ナユタはそこでようやく我に返ると、武器である吹き矢を取りだして構えた。

 それから震える声で、果敢に【魔王】を睨み付けながら問い詰める。


「き、きみが、ほんとに、【魔王】なの……!?」

「あー、うん。そうだけど?」

「じゃあ、東の島国で、街を焼き払ったのも、きみなの……!?」

「え? さぁ、いろいろやってきたからなー。よく覚えてないや」


 そんな【魔王】の、「なんてつまらないことを聞くんだこいつ」という態度が、ナユタの闘争心に火をつけた。

 普段は臆病でも、大切な人を殺したこいつだけは勇気を振り絞って倒さなければならない。

 ナユタは全身の力を振り絞って、【魔王】に毒の吹き矢を構え、そして放った。





「うん?」


 その渾身の一発を、【魔王】はさも当然のように、ほんの少し首を傾けるだけでかわしてしまった。


「―――えっ」

「なに、今の?」


 人間の動体視力からすると、こんな至近距離で吹き矢をかわすなんてありえないことだ。

 しかし現在の【魔王】からすれば、「まぁちょっと速かったかな」くらいのスピードでしかない。

 直後、道端の石ころでも蹴るような緩慢な蹴りがナユタに炸裂し、それだけで彼は冗談みたいな距離まで吹っ飛ばされていった。


「ナユタくん!!」


 ようやく我に返ったルーナは彼の身を案じて叫ぶが、目の前に【魔王】がいる状況で余所見をするなど愚行でしかなかった。

 【魔王】はルーナの口を覆うように顔面を掴むと、そのまま遺跡の壁へと叩きつけた。


「むぐっ……!?」


 それにより軽い脳震とうに陥ったルーナは、それっきりぐったりとして動かなくなる。魔法を唱えられないように口を塞いだが、特に意味はなかったかもしれない。

 そして【魔王】は、すぐにその細い首筋に噛みついた。

 すると、その時。


「ん?」


 【魔王】の視界の端で、なにかがゆらりと立ち上がった。見れば、それは先ほど【魔王】自身が放り捨てた人間だった。

 ミイラのように萎びたモータルが、ゾンビのような動きで【魔王】へと飛びかかってきた。

 しかし対する【魔王】は、まるで意に介さない。


「あはは、なにそれ。その程度の“幻影”には惑わされないよ」


 モータルの“幻影”は空しく【魔王】の身体をすり抜けるばかりで、ダメージを与えることはなかった。

 すると、遺跡の陰から見目麗しい美少女が姿を現す。幻影と魅了を操るエルフ、ルナ・ミナルデイマだ。





 彼女は不愉快そうに目を細めると、


「アナタが【魔王】? ずいぶん小さいけど」

「まぁそうだねー。よろしく」

「ふんっ。魔族風情と仲良くするつもりなんてないわ!」

「奇遇だね。ぼくもきみのことは殺すつもりだったよ」


 二人の間に、見えない火花が散る。

 魔王はルーナの血を吸うのを中断して、彼女を脇に放り投げる。


「魔族風情が、エルフ族の高貴な血を……」

「他人の心配してる場合? きみ程度の魔力で、ぼくをどうこうできるとか本気で思ってるの?」

「たしかにルナの魔力は他のエルフ族より弱いから、アナタにはルナの幻影は通用しないみたい。……でもね」


 ルナが端正な顔立ちを不敵に歪めると同時に、【魔王】のすぐ隣の壁が爆発するように吹っ飛んだ。

 【魔王】が振り返ると、その奥から突進してくるのはワニの獣人・ゲゲログだった。


「ルナの魔力でも、おばかさんな獣人を惑わせることくらいは十分できるわ!」


 ゲゲログには、【魔王】がルナを襲っているという幻影が見えている。

 当然、ルナに魅了されているゲゲログは【魔王】へ猛然と襲い掛かる……

 が、しかし。


「ちょっとタイミングが遅かったね」


 ゲゲログの獰猛な突進を、しかし【魔王】は幼児のような小柄な体の、しかも片手だけで止めてしまった。

 そしてルナとゲゲログが目を瞠る間に、瞬時にゲゲログの頭上へと移動した【魔王】は、


「死んじゃえ」


 その小さな足でのかかと落としによって、ゲゲログの両腕によるガードもろとも、彼の脳天を蹴り砕いてしまった。

 さらに【魔王】が仰向けで倒れ行くゲゲログの胸に両足を揃えて着地すると、ボギゴギッ、という鈍い音が響いた。

 白目を剥いて、噴水のように血と吐しゃ物をまき散らしたゲゲログは、冗談みたいにあっけなく死んでしまった。


「さて、と」


 後に残されたのは、恐怖で後ずさりするルナと、いまだ脳震とうから回復しないルーナ、遠くで横たわるナユタ……

 そして。



「やれやれ、私はもう目的を果たしたので帰還しても良いのだが……ふっ、難儀なことに、レディを残して帰る足を、持ち合わせてはいないのだ」



 そんな彼らを見下ろすように空を舞う、醜い救世主・ハエスキーだった。



 ・・・・・・




 ・・・・・・



「んっ……あ、あれ……?」


 ルーナが目を覚ますと、そこは薄暗い遺跡の内部だった。

 そして傍らには人間族の少年、ナユタ。

 さきほどゲゲログが破壊した壁の穴から、意識を失っていたルーナをナユタが引っ張り込んだのだ。


「ルーナちゃん! よかった、目が覚めたんだね!」

「……ナユタ、くん……? あっ!!」


 自分たちが置かれていた状況を思い出し、慌てて起き上がろうとするルーナ。

 しかし身体に力が入らず、それはかなわなかった。おまけに頭もまったく回らない。

 その上、


「ま、魔力が……私の魔力が、ほとんどなくなってる……」

「えっ?」


 ルーナやナユタには知る由もないが、すでに彼女の力のほとんどは【魔王】の異能によって奪われてしまっていた。

 もうまともに魔法を使うことはできない。


「……ねぇナユタくん、きっとこのままじゃ、みんなやられちゃうよ……」

「そ、それじゃあ今は逃げよう! さ、ボクに掴まって!」


 そう言ってルーナを担ごうとするナユタだったが、彼の筋力では人を担いで移動するのはかなり困難だった。おそらく逃げ切ることはできないだろう。

 ナユタ自身もそのことは悟っていたが、一度仲間になったルーナを見捨てるなんてことはできない。

 そんな彼のひたむきさを見たルーナは……“覚悟”を決めた。


「……ナユタくん、さっきのお薬、まだある?」

「薬って、麻痺毒のこと? 傷が痛むの?」

「ううん、そうじゃなくって……せめて……せめて、さ」


 遺跡の上空から激しい戦闘の余波が降り注ぐ中、今度はナユタが覚悟を決める番だった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 遺跡の上空でぶつかり合う二つの影は、徐々にその勢いの差を広げていく。

 ひときわ高い塔の頂上に着地したハエスキーは、すでに満身創痍。

 一方、それを見下ろす【魔王】はほとんど無傷で、不敵な笑みを浮かべている。


「なんだ、もう終わり? 思ったよりつまんないね」


 ハエスキーは口元をぬぐいながら、自分が追いつめられていることをどうしようもなく自覚する。

 ついさっき戦った時とは、【魔王】の動きが段違いになっていた。

 【魔王】がゲゲログの血を吸う前に襲撃したため、まだパワーやスピードではハエスキーに分がある……が。

 さきほど【魔王】に指摘されたように、ハエスキーは獣人としてのパワーとスピードで押し切る戦いを得意とする。

 一方で【魔王】は、ハエスキーの動きを先読みして受け流すような戦い方をしてくる。

 【魔王】の攻撃はまだそこまで重くないが、それでも一方的に攻撃を受け続けていれば徐々にダメージは蓄積していく。


「……前言は撤回しよう。思ったよりは厄介な能力だな」

「そう? まだまだこんなもんじゃないんだけど……ま、そろそろ遊んでないで終わりにするかな」


 そう言うと、【魔王】はちらりと地上を盗み見る。

 念のために地上からはかなりの距離を取っているが、ルナの行動には常に気を配っておかなければならない。

 【魔王】は上空から、この遺跡を訪れた者たちをしばらく観察していた。

 そこで最も厄介だと感じたのが……男を虜にするという、ルナの洗脳能力だったのだ。





「じゃ、ばいばい―――ハエのおじさん」


 【魔王】は翼を翻し、塔の頂上にいるハエスキーへと突進する。

 ハエスキーも耳障りな羽音を響かせながら飛び立ち、両者は上空で激突する。


「―――ッ!?」


 先ほど【魔王】を吹き飛ばした、ハエスキーの渾身の蹴り。それが今度は【魔王】の片手によって、あっさりと防がれている。


(やはりおかしい……か弱いエルフ族の少女一人の血を吸ったところで、これほど強くなるか……!?)


 そんな疑問を抱いたのもつかの間、続いて【魔王】のかかと落としがハエスキーに襲い掛かる。


「ぐっ!?」


 かろうじて脳天への直撃は避けたが、右肩に襲い掛かったすさまじい衝撃により肩の関節が砕けた感触があった。

 そのまま錐揉み回転をしながら吹き飛びそうになったところを、ハエスキーはかろうじて【魔王】の足を掴むことで踏みとどまる。


「―――【この世は情酒】!!」


 そしてすぐに発動した異能によって、二人の平衡感覚が消失する。

 空を飛んでいられなくなった二人は、たまらず羽のコントロールを失って落下していくが……

 その落下地点に人影が。


「『メロメロ』!」


 ゲゲログのせいで今まで発動できなかった異能を、落下してくる【魔王】へと発動したルナ。

 今までずっとタイミングを見計らっていただけあって、絶好のタイミングだった。

 落下しながらもルナの瞳を見てしまった【魔王】は、その異能の影響をまともに受けてしまうが……


「だから、もう遅いんだって」


 足を掴んでいるハエスキーを蹴落とした【魔王】は、酩酊状態にありながらどうにか翼を制御してルナへと襲い掛かる。

 すでにモータルとルーナの力を奪っている【魔王】は、その圧倒的な精神力と魔力によって、ルナの異能による影響を力ずくで抑え込んでいた。





 そして、ハエスキーの異能によって眩暈に苦しむルナへと襲い掛かったところで、


「!」


 突然その突進に急ブレーキをかけた【魔王】。……死角から飛んできた“矢”をかわしたのだ。

 物陰から吹き矢を放ったナユタは、完全な不意打ちをかわされたことに息を呑む。

 もう少し前の【魔王】になら通じたかもしれない不意打ちも、もはやあらゆる生物をはるかに超越した感覚を得た【魔王】には通用しない。

 畳みかけるように次々と襲い来る攻撃に、【魔王】は高らかに哄笑する。


「あははははっ!! そう、“これ”だよ! ぼくたちは“これ”を求めていたんだ!!」


 再び上空へと飛び立った【魔王】は遺跡を見下ろして、引き裂くようにニヤリと笑った。

 【魔王】を襲っていた三人からは離れたところに、ぐったりと横たわる人影があった。

 それはさきほど【魔王】が、血を吸っている途中で投げ捨てたエルフの少女。

 絞りかすではあるが、まだ奪い取る“力”は残っているはずだ。その力を得て、もっと圧倒的にあの三人を蹴散らすとしよう。

 そう考えた【魔王】は、上空から急降下でルーナへと襲い掛かった。


「ルーナちゃん!!」


 地上では、それに気が付いたらしい人間族の男が喚いていたが……助けが間に合うはずもない。

 石畳に横たわるルーナは、すでに蝋のように真っ白な顔色だった。

 しかしそんなことには構わず、【魔王】はルーナの髪の毛を掴んで引き起こし……

 その首筋へと再びかぶりついた。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 ハエスキー、ルナ、ナユタの三人が遺跡中央―――ルーナの元へとたどり着くと、そこには……


「ルーナちゃん!!」


 すでに肌が土気色となって動かなくなったルーナと、そして……


「…………なん、だ、コレ……!?」


 地面にうずくまっている【魔王】が、そこにはいた。

 【魔王】はルーナの血を吸おうとして首筋に噛みつき、彼女の持つ最後の力まで奪い取ろうとした。

 実際、血液と共に力は奪い取った。しかし、その血液の味があまりにおかしいことに驚いて飛びのいたのだ。

 すると直後、【魔王】の身体は感覚を失っていった。

 身動きの取れなくなった【魔王】へと真っ先に近づいていったのは、事の真相を知っているナユタだった。


「……ルーナちゃんの身体には今、大量の麻痺毒が回っているんだ……」

「毒、だって……!?」

「死に至る量ではないけど、そんな毒の混じった血液を吸えば……そうなるのは当たり前だよ」


 【魔王】は立ち上がろうとするが、しかし手足の末端の感覚はすでになく、それはかなわなかった。

 ナユタは【魔王】などに目もくれず、ルーナの元へと駆けつけるが……その身体はすでに、ゾッとするほど冷え切っていた。


「そんな……ルーナちゃん……!!」


 この“罠”は、ルーナの提案によるものだった。

 モータルが血を吸いつくされて死んだ場面を目撃していたルーナは、いつか自分も同じ目に遭う事を予見していた。

 その時に、せめてもの反撃ができるようにと……麻酔薬としてではなく麻痺毒として作用するほどの量の毒を、自ら体内に摂取したのだ。

 当然ながら、【魔王】にもう一度血を吸われれば、今度こそ死に至ると言うことは想像に難くなかった。

 それでも【魔王】に一矢報いるために、その身を犠牲にしたのだ。


「ルーナちゃん……!!」

「エルフ族を、よくも……!」

「……っ」


 ルーナの犠牲は、三人の闘志を燃やすのに十分な効果を発揮した。





 しかしそれは、逆もまた然り。


「やってくれるじゃないか……ちっぽけな虫たちが……」


 とうとう石畳に倒れ伏した【魔王】は、けれどその威圧感をさらに増していた。

 先ほどまでの余裕は消え失せ、地の底から響くような、地獄的な声色へと変貌していく。


「一人や二人は見逃してやろうかと思ってたけど……やめにするよ」


 それなりの魔力を備えているルナやハエスキーはともかく、ほとんど魔力を備えていないナユタにさえもハッキリわかるほどの、圧倒的な魔力の集中。

 そしてその奔流が……爆発した。



「この場にいる全員、皆殺しだァァァァァァ!!!!!」



 グシャリ、という音を立てて、ハエスキー、ルナ、ナユタの三人はすさまじい勢いで地面に叩きつけられた。

 【魔王】は地面に倒れたまま、一歩も動いてはいない。

 それなのに三人は、まるで見えない腕に押さえつけられるかのように地面へと叩きつけられたのだ。


「第二の異能……【五里夢中(ナイトメア)】!!」


 もはや体が動かせないだとか、そんな次元ではない。

 そのまま直接、骨を、内臓を押し潰すような絶望的な力だった。


「きみたちのおかげで強化されたこの異能で……このまま地面の模様に変えてあげるよ!! あははははっ!!」


 石畳に押し付けられた額や頬骨が、ミシミシという音を立てる。

 頭蓋骨の崩壊を待たずに、脳が激痛を発している。

 胃が押し潰されているが、食道も押し潰されているため胃液の逆流さえ起こらない。

 肺の中の空気が無理やり排出され、再び息を吸うことも、声を発することも許されない。

 全身の至るところで関節が甲高い悲鳴をあげ、毛細血管が千切れて皮膚が変色していく。


(こ……このままじゃ……)


 ナユタは目の前のルーナへと腕を伸ばそうとするが、指先一つさえも動かすことはできなかった。

 そして徐々に意識が遠のいてゆき……

 完全に気を失う、その直前。



 【魔王】の足元から、まるで髪の毛のように蠢く『闇』が噴出した。





「―――っ!?」


 【魔王】は目を丸くしたまま、その『闇』の中にずぶずぶと飲みこまれていく。

 しばし呆然としていた【魔王】だったが、やがて、


「ちぇっ、時間切れみたいだ。もうちょっと遊んであげたかったけど、しょうがないね」


 そう言って、三人を押し潰そうとしていた異能を解除する【魔王】。

 やっと呼吸ができるようになった三人は一斉に咳き込むと、満身創痍の身体を引きずるようにして【魔王】を見る。

 【魔王】はゆっくりと蠢く『闇』の中へと飲みこまれていたが、ふと思い出したかのように、


「あ、そうそう。あの人間族のおじさんが『杯』を満たしたから、遺跡の入口に“地下への階段”が出てるはずだよ」


 不敵な笑みを浮かべた【魔王】は、完全に飲み込まれてしまう前に、そんなことを言い残した。


「……【魔王】の真実が、そこに書き記してあるよ。知りたければ見て行きなよ。……ま、後悔しないようにだけ気をつけてね」


 とぷん、と【魔王】の全身が『闇』へと沈み、やがてその『闇』も小さくなって、すっかり消えてしまった。



「…………」



 後に残された三人は……ボロボロの身体をゆっくりと起こし、自分たちがかろうじて生き残ったことを実感する。

 そして誰からともなく顔を見合わせ……

 それから【魔王】の言葉を理解することのできたナユタが、【魔王】が最後に言い残した、遺跡の入り口の方へと視線を向けた。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 松明に灯した火を頼りに、カビとホコリの匂いに満たされた地下へと下っていく、ハエスキー、ルナ、ナユタの三人。

 そのうちの二人が【三種族共通言語】を習得していないおかげで、三人の間に会話はない。

 ついでに言えば、ナユタの言葉がわからない他の二人は、どうして魔王がルーナの前で苦しんでいたのかもさっぱりわかってはいなかった。

 が、それはともかくとして、モータルの生き血によって現れた遺跡の地下階段を下ること数分。


「……!!」


 そこは、小さな四角い部屋だった。内壁はびっしりと文字で埋め尽くされており、それは【三種族共通言語】で書かれたものだ。

 当然ながらハエスキーとルナはそれを読むことができないわけだが……

 ただ一人、それを読むことのできるナユタだけが、その場に膝をつき、頭を抱えてうずくまってしまった。


「そんな……こんなことって……!!」


 悲痛な声をあげるナユタを、怪訝な顔で見るハエスキーとルーナ。

 しかしナユタにはそんな人目を気にする余裕もなく、その事実を受け止めることもできず……

 ただ、その場にうずくまることしかできなかった。



 ・・・・・・




First Stageはこれにて終了です。ご覧いただきまして、ありがとうございました。

引き続き、Second Stageへと移行したいと思いますので、どうぞお付き合いください。


Second Stageは場所もキャラクターも一新したいと思いますので、新キャラ安価を行わせていただこうと思います。

まずはチュートリアルを書くため、新キャラ安価は明日行いますので、よろしければご参加ください。


First Stageのキャラは、再び登場するチャンスがある予定です。

……が、次のStage以降は募集キャラにも死人が出始めるかもしれないため、出ない方が幸せかもしれません。


名前【三ッ橋 アマタ】

種族:人間

性別:女
年齢:15歳

職業:流浪人
魔王を探す目的:魔王を探しに家を出ていった義兄を探すため

備考:三ッ橋家の出身。義兄は写真でしか見たことがない。異能を利用して、さいきんでは食い逃げばかりしてる。
外見:長い黒髪を下ろしている。

異能名【楼花乱々】
能力要旨【相手の認識を操る。例えば、戦闘中、敵の認識から自分を外せば、相手は自分を認識できなくなる。認識を「ずらす」「改変する」「すり替える」「消す」「増やす」ことが可能。】

武装:毒ボウガン、毒ナイフ、日本刀

敵を見つけた場合の対応 … 【アタック】
戦闘スタイル … 【暗殺】

身体:★★★
技巧:★★☆☆☆
精神:★☆☆
魔翌力:★★☆
頭脳:★☆☆☆☆
容貌:★★★★★
協調:★☆☆☆☆


ご協力ありがとうございます。それでは、上記の>>69までの内容で書いていきたいと思います。




 ・・・・・・



 『この街へ向かった者は二度と帰ってこない』と噂されるゴーストタウンは、たしかに雰囲気のある廃墟だった。

 今に幽霊でも現れそうな街を前にして、“三ッ橋 アマタ”はごくりと生唾を飲む。


「だ、誰かいませんかぁー……?」


 恐ろしく整った端正な顔立ちを歪めて、そんなことを呟いてみるアマタ。

 基本的にビビリである彼女は、この街へ足を踏み入れる勇気がなかなか絞りだせずにいた。


「しょ、小心だという噂のお義兄様が、こんなところを訪れるとは思えないけど……」


 そういう自分こそ小心者であるアマタがこんなゴーストタウンを訪れたのは、人探しのためだった。

 彼女の母親が“三ッ橋家”に嫁いだその日、近隣の町で突然起こった大惨事。

 そのどさくさに紛れて、アマタの義理の兄であるところの少年が、「仇を取る」と言い残して家を飛び出してしまったのだ。

 そして無鉄砲で有名なアマタはいてもたってもいられず、こうして義兄を探すための旅に出たわけである。

 例の惨事は魔王によるものだと噂されていることから、義兄は魔王を追っているに違いない。

 つまり魔王がいると噂されている土地へ向かえば、彼とも合流できるかもしれないと考えたのだが……

 自分の無鉄砲さを激しく悔やみながら、目の前の恐ろしい廃墟を見据えるアマタ。

 そうしてかれこれ三十分ほどが経過した頃、ようやく彼女は震える足を一歩、踏み出すことができた。


「が、がんばるのよ、アマタ……私は仮にも三ッ橋家の一員になったのだから……!」


 まだ昼間だというのに、この辺りは霧深く、そのせいで少し薄暗い。

 そして大国に挟まれた立地のせいか、付近の村や里も過疎化が進んでおり、耳が痛くなるような静寂に沈んでいた。

 ここは誰の目にも映らない、忘れられた街。


「お、おじゃましまぁーす……」


 おっかなびっくり忍び足で、アマタは“ゴーストタウン”へと足を踏み入れた。

 まったく人の気配を感じない廃墟の群れは、しかし心なしか暗がりの向こうから視線を感じるような気さえしてくる。

 鳥肌の立つ腕をさすりながら、せわしなく周囲を見渡していると、一つの建物がアマタの目に留まった。


「……教会」


 このおどろおどろしい廃墟の中で唯一、なけなしの神聖さを感じないでもない場所。

 アマタは神に祈ったことなど生まれてこの方一度もなかったが、今日だけは神を信じようという都合のいい決心を固める。

 そして艶やかな長い黒髪をなびかせながら、彼女は早足で教会へと向かうのだった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 アマタが教会の前までたどり着くと、なにやら半開きになった教会の扉から、声が漏れ聞こえてきた。

 こっそり聞き耳を立ててみると、


「―――ですので、わたくしを魔王に会わせてください。お願いします!」

「いや、だからダメだって! そもそもアンタ、魔王様のことを誤解してるし……!」

「ですから、どのような誤解かとお尋ねしているではありませんか」

「そ、それは……アンタにゃ言えないんだっつの!」

「どうしてですか!」

「どうしてもなんだって!」


 なにやら、いかにも良いとこの出自ですと言わんばかりの金髪お嬢様と、ガッシリとした体形の青年が言い争っている。

 しかも会話の内容からして、どうやら青年は魔王となにかしらの関係があるようだ。


(ま、魔王ってほんとにいたんだ……!? え、じゃあ今もこの街にいるの!?)


 教会の扉に張り付きながら、端正な顔を真っ青にするアマタ。

 見たところ、どうやら言い争っている二人は人間族のようだ。……人間語で喋っているのだから、当たり前と言えば当たり前ではあるが。


(あの男の人が魔王に操られてて、それをあの女の子が説得してる? ……うん、たぶんそんな感じ!)


 それならば、やるべきことは簡単だ。

 アマタは“三ッ橋家”に伝わる毒の塗りこまれたナイフを取りだすと、勢いよく教会の扉を開け放った。


「魔王の手下め、覚悟!!」


 あの男が魔王の手下だというなら、アマタの義兄のこともなにか知っているかもしれない。

 しかし魔王の手下が、素直にアマタの質問に答えるとも思えない。ならばまずは動けなくさせてしまえばいい。

 およそ可憐な少女の思考回路とは思えない三段論法によって、アマタは凶器を片手に突進する。





 だがそこで、


「ま、待ってください!」


 なぜか青年と言い争っていたはずの金髪少女が、青年を庇うように両手を広げたのだった。

 アマタは一瞬困惑したが、しかし問題ない。アマタにとって、少女のその行動は意味がないのだから。

 むしろ青年の方が対処に困っているくらいだった。


「ば、馬鹿、どけっ!!」


 青年は少女を横に突き飛ばすと、慌てて戦闘態勢に入った。

 そして眼光鋭くアマタを睨み付け、


「―――『プラス・ゼロ』」


 ボッ!!! という、人間が出すには似つかわしくない音と共に、青年のこぶしがアマタの腹部、そのど真ん中へ吸い込まれた。

 ……ように見えた。


「ッ!?」


 しかし青年のこぶしに手ごたえはなく、一瞬遅れて、攻撃が空振りに終わったのだということに気が付く。

 じつはその瞬間、アマタは「1メートルほど右」を走っていた。

 『楼花乱々』と名付けた、この異能。

 他人の認識を操るこの異能によって、青年にアマタの位置を1メートル誤認させたのだ。

 青年が放った大砲のような一撃の風圧を受けてちびりかけたアマタだったが、なんとか恐怖を抑え込んで……振りかぶったナイフを青年に―――


「ひぎゃんっ!?」


 ……振り下ろそうとしたところで、アマタの全身が突然激痛を発し、彼女はそのまま床に転がってしまった。





 青年は、痛みでもんどりうつアマタを見下ろして、それから教会の奥、暗がりの方へと視線を向ける。


「す、すんません、助かりました……“ケール”さん」

「ふん。幻影系の能力者だ、油断するなよ、“グラン”」


 冷たく突き放すような声色が教会の奥から響き、その声に向かって。グランと呼ばれた青年はへこへこ頭を下げていた。

 どうやらまだ仲間がいたらしい……と、激痛に耐えるアマタが認識したところで、彼女の両腕はグランによって捻りあげられてしまう。


「いたたたたっ!?」

「ケールさん、トロスさん、ラピッチさん……この子はどうします?」


 グランの呼びかけに、教会の奥から三つの足音が近づいてくる。


「オレの『収縮』がきれる前に、さっさと殺してしまえ」


 つまらなそうにそう言い捨てるのは、メガネをかけたインテリ風な男、ケール。26歳。


「その前に、そいつの異能を魔王様に抜き取ってもらったらどうだ」


 そう言うのは、窮屈そうなシャツを見にまとう小太りの中年、トロス。35歳


「か、かわいそうですから、モスお爺ちゃんに記憶を消してもらって、どこかに置いてきちゃいませんか……?」


 涙目でそんなことを訴えるのは、ゴスロリに身を包んだ童顔の女性、ラピッチ。25歳。

 三者三様の意見を聞いて、グランが余計に頭を悩ませていると、


「ら、乱暴なことはいけません!」


 そう言って、先ほどグランに突き飛ばされた金髪の少女がアマタに駆け寄る。

 そして彼女の持っていたナイフやボウガン、長刀を遠くへ放り捨てると、アマタの腕を拘束していたグランの手をぺちぺち叩いて離させる。


「わたくしたちは、話し合えばどのようなことでも平和的に解決できるのです! 武器や魔法などに頼ってはいけません!」


 グランからアマタを引きはがした少女は、アマタを守るように抱き寄せて、それから力強い意思を感じさせる声で高らかに宣言した。


「この“ベルフレア・イグノラント”の目の届くところでは、誰にも血は流させませんっ!!」



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 一方、そんな教会の外ではもう一つ、息を殺している人影があった。

 名を“ゼバ・ゾルゲニズム”。顔には幾重にも包帯を巻いており、外気に晒されているのは眼と口だけ。

 ギョロギョロと血走った眼は教会へと向けられており、口元はニタニタと歪んだ笑みを浮かべている。

 廃屋の影にその巨体を潜ませながら、彼は外見に似合わない冷静な思考を重ねていく。


(……この街を訪れた時、魔力の“膜”を感じた……恐らくはなにかしらの能力……それも感知系のものだ)


 血走った眼を、一瞬だけ“ある一点”へと向けるゼバ。

 そして口元の笑みをさらに凄惨なものにしながら、


(魔力を使えば……オレのように魔法に精通したエルフには位置が手に取るようにわかるぞ……)


 つまり、ゼバの位置を特定している何者かの位置を、ゼバもまた特定しているという状況だった。

 それでいて、互いに動かない。


(……オレが教会の連中を襲うのを待っているのか……それともソイツは戦闘能力を持ち合わせていないのか……)


 ゼバは再び教会へと視線を向ける。


(ああ……戦いは好きではない……非生産的で、非合理的だからな……戦いは避けたいところだが……)


 しかしながら、どうやらこの街にはなにかしらの秘密があり、それを誰かに尋ねる必要があるようだった。

 そのためには誰かを拘束して、情報を引き出せる状況にしなければならない。

 最も手っ取り早いのは、誰かを拉致して直接訊くか、はたまたそいつを人質にした上で別の者から聞き出すか。

 ゼバは、体内に秘める莫大な魔力を練り始める。いつでも魔法を発動できるように。


(……魔力を操ると……傷が疼く……)


 包帯で覆い隠している無数の火傷跡が、ゼバにその存在を主張する。……それは彼自身の過去を象徴する傷跡。

 その疼痛にさえも、彼は高揚感を感じる。


(ああ……早く暴きたい……魔王を解体して……その部位の一つ一つを薬品に漬けてラベルを貼って……)


 歯茎をむき出しにして引き裂くように笑うゼバは、右手に持つ大きな杖を愛おしそうにひと撫ですると、


「……さて、いくか」


 その巨体をのっそりと動かして、教会の扉へと向かうのだった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



「……えっと、これ、どうするんすか?」


 困ったように頬を掻く青年・グランが、傍らの仲間たちに縋るような目を向ける。

 しかし彼らもどうしたものかと考えているようで、すぐに答えは返ってこなかった。

 その代わり、問題の中心にいる金髪の美少女・ベルフレアが、豊満な胸を張りながら、


「今や魔王の出現により三種族が手を取り合っていかなければならないこの状況で、わたくしたち人間族が内輪揉めをしている場合ではありません!」


 ベルフレアは顔を赤くして熱弁しながら、一切の揺らぎがないまっすぐな瞳で全員を見据える。


「そもそもどうして貴方がたは、魔王に与するに至ったのですか? いったいどのような事情が……」

「与するっていうか……オレたちは魔王様に守ってもらってる立場だからな」

「……守って、もらっている?」

「おい、グラン!!」


 グランがうっかり口を滑らせたことに、メガネの青年・ケールが声を荒げた。

 それによって自らの失言に気が付いたグランは、慌てて口をつぐむ。


「…………」


 そしてベルフレアによって守られた、長い黒髪の美少女・アマタは、静かに息をひそめていた。

 状況が呑み込めないからとりあえず黙っているというのもそうだし、そもそもアマタは目の前の青年をナイフで奇襲している。

 今はとにかくベルフレアの陰に隠れて大人しくしておいて、その事実をうやむやにしてしまおうと企んでいるのだった。

 アマタは母親に常日頃言われていることを思いだしていた。

 『あなたは黙って動かないでいれば素晴らしい女の子なんだから』

 ……そんなことを母親に言われたらおしまいだと思うが、今ならなんとなくその意味が分かる気がした。

 今現在、自分の身の安全は「可愛さ」でどうにか持ちこたえているような気がするのだ。複雑な気分だが、贅沢を言える状況ではない。


「そうやって隠し事をされては、話が進みません! 事情を話せないのであれば、魔王と直接お話しさせてください!」

「いや、だからそれは……」


 グランがたじたじになりながらもベルフレアをなだめようとした、その時。



 話をするため一ヶ所に集合していたグランやベルフレアたちの真ん中に、“ボキュッ”という音を立てながら小さな光球が出現した。





 グランやその仲間たちの対応は迅速だった。

 まずグランは、ベルフレアやアマタに飛びかかって押し倒し、

 ケールは傍らのラピッチの襟を掴んで後ろに引っ張り、光球から距離を取る。

 そして小太りの男・トロスは、光球に向かって一歩近づいた。



 次の瞬間、光球は爆炎と衝撃波を纏いながら、周囲一帯へとすさまじい勢いで襲い掛かる。



「―――『モラトリアム』」


 そのすべての被害は、トロスの突き出した右手に触れた瞬間にすべて停止した。

 空中で爆炎が、爆風が、衝撃波が、すべて時間が止まったかのようにピタリと止まる。


「ラピッチ!」

「は、はいっ!」


 爆発を停止させたトロスに呼びかけられたラピッチは、すぐに両手の親指と人差し指で長方形を作り、


「―――『エラー・ウィンドウ』!!」


 すると今度は停止していた爆発が、綺麗さっぱり消滅した。

 呆気にとられるベルフレアとアマタをよそに、彼女たちに覆いかぶさっていたグランは周囲を見渡す。

 そして爆発から後ろに遠ざかっていたケールとラピッチの二人……その背後に巨大な人影を見た。


「ラピッチさん、後ろ!!」


 グランの叫びも空しく、状況はさらに進行する。


「『隆起』」


 抑揚のおかしな、不気味にしわがれた声が教会に響く。

 次の瞬間、教会の地面が突然盛り上がって、グランたちとラピッチたちの間に高さ5メートルほどの『壁』が出現した。

 壁のこちら側には、ベルフレアとアマタ、そしてグランとトロス。

 壁の向こう側には、ケールとラピッチ。

 続いてさらに地面が隆起するような音が響き、教会の入り口の扉を塞ぐように壁が出現し、そして壁の向こう側でも同じような音が聞こえた。






 あまりにも急な展開にまるでついていけないアマタが、ようやくそこで「攻撃を受けている」ということを認識した。


「な、なに!? 魔王が来たの!?」

「違う、魔王様じゃない! エルフ族が襲ってきた!!」


 パニックに陥るアマタに答えながら、グランは魔法によって出現した巨大な壁へと走り、


「『プラス・ゼロ』!!」


 先ほどアマタへと放った一撃を、壁に向けて放つ。

 けたたましい破壊音を響かせながら、壁に巨大な亀裂が入る……が。

 さすがに一撃では破壊される様子はない。壁を完全に破壊するには、同じ攻撃があと数発は必要に見えた。


「くそっ……!!」


 グランは歯噛みしながら再び攻撃を繰り出そうとするが、それをベルフレアが制する。


「グランさん。壁を壊す時間よりも、壁を作る時間の方がはるかに早いです。壊しても、またすぐに新しい壁を作られるだけかと」

「だ、だけどよ……!!」

「それに襲撃者がエルフ族だとすれば、さきほど突然わたくしたちの背後に現れたのは『転移』の魔法によるものだと思われます」

「……あっ」

「闇雲に壁を壊して迫っても、人質を取られた上に逃げられるだけではないでしょうか」


 ベルフレアの冷静な指摘に、「うぐっ……」と言葉を詰まらせるグラン。

 一方で、小太りの中年・トロスは神妙な顔で頷いた。彼女の指摘が的を射ていると認めたのだろう。

 ベルフレアは宝石のような緑色の瞳を壁に向けながら大きく息を吸い込み、


「エルフさん! わたくしは貴方の目的を知っています。そして、それはわたくしの目的とも一致します……どうか話し合いませんか?」


 壁の向こうへと、“エルフ語で”呼びかけた。

 突然、異種族の言葉を話し始めたベルフレアに他の三人が目を丸くする中、ベルフレアは壁の向こう側へと言葉をかける。


「彼らは魔王の仲間のようですが、どうやら普通の人間のようです。彼らを無闇に襲えば、魔王は姿をくらませるでしょう。協力しましょう」


 壁の向こう側からは返事はない。しかし、争うような声や物音も聞こえてこない。

 あるいはすでに、壁の向こう側には誰もいないのか……一同がそう考えかけた、その時。





「……エルフ語を操るとは……面白い人間がいたのものだな」


 再びグランやベルフレアたちの背後から、あのしわがれた声が響いた。

 全員が慌てて振り返ると、そこには巨大な黒衣に身を包んだ、全身包帯まみれの男が立っていた。

 そしてその男に後ろから首を抱え込まれて捕らわれているラピッチ。どうやらメガネの青年・ケールは壁の向こう側に残されたままらしい。

 包帯の男―――ゼバは、その血走った眼でギョロリとベルフレアを見下ろして、


「……オレの目的を知っていると言ったな……人間の小娘」

「はい。どうやら魔王に用があるということで間違いなかったようですね」

「……ただのハッタリか?」

「それもありますが、まず魔王に滅ぼされたという街へ訪れたこと、そして『爆発』ではなく『隆起』の魔法を選んだことも理由の一つです」

「……たしかに、ただお前たちを殺すつもりなら……『爆発』を連発すれば事足りたことだ……」

「それなのに、『隆起』でわたくしたちを分断したのを見て、もしかすると情報を引き出したいのではないかと思いました」

「侮れん小娘だ……ククク……」


 ゼバは歯茎をむき出しにして引き裂くように笑うと、血走った眼を細める。


「……協力するというのはブラフか?」

「いいえ、それは本当です。どうにもわたくしだけでは、魔王に会わせていただくことはできないようですので。そしてそれは貴方も同じこと」

「……クク……どうかな……人間の小僧どもの口を割らせるくらい……わけないことだ」

「彼らは魔王を信頼しているようですが、逆もまた然りとは限りません。隠れ蓑に利用するだけ利用して、容易に切り捨てない保障などないですよね?」

「ほう……?」


 エルフ語で話を進める二人を、他の四人は怪訝そうな目で見守っている。

 二人はそんな視線など意に介さず、相手の思惑を見透かしながら、個人の思惑を押し付けようと画策する。


「何事も、まずは魔王と会わせていただくことが最優先です。そのためには、そちらの彼女を離してあげてくださいませんか?」

「……メリットが見当たらんな……」

「これからわたくしたちが行うのは、脅迫ではなく交渉であるべきなのです。人間の人質が、魔王に通用するとは限らないことですし」

「…………」

「脅迫を交渉へと昇華させ、貴方を“話せるヒト”と認知させることがメリットです」

「……結局は……お前が人質を解放させたいだけだろう」

「互いにメリットがあるなんて、素敵ですね」


 にっこりと微笑むベルフレアに、ゼバはつられるように笑みを濃くする。


「……クク……面白い人間だ」





 そう言って、ゼバは拘束していたラピッチを突き飛ばして解放する。

 よろよろとつんのめったラピッチをグランが受け止めたのを見て、ベルフレアは教会内の人間に“人間語”の大きな声で伝える。


「皆さん、エルフは魔力の流れを感じ取ることができます。そしてエルフの魔法は、人間の異能よりもずっと早く発動します。発動は控えてください」


 ベルフレアの説得により、せっかく束の間の休戦に漕ぎつけたのだ。異能による不意打ちは通用しないということについて、念を押しておく必要があった。

 聞こえているかはわからないが、それは教会の外に待ち構えているであろう人間たちに向けたメッセージでもあった。

 ベルフレアはグランへと視線をやって、


「あらためてお願いします。魔王に会わせてください」

「だ、だけどなぁ……」

「なにか条件を付けてくださっても構いません。全員いっぺんにというのが無理なら、一人ずつでも。攻撃の手段を封じるような制限を課しても……」

「……う、うぅん……」

「ああ、いい考えがあります。わたくしが……」


 ベルフレアがグランを説得するため、新たに提案をしようとしたところで……


「いいえ、それには及びません」


 突如教会に響いた、新たな声。

 最初にゼバの血走った眼がギョロリと動き、続いてベルフレアの透き通った緑眼が“それ”を捉えた。

 ……そしてずっと話に置いてかれていたアマタが視線を向けた、その先には―――



 のっぺりとした白い仮面に、深く被ったフード。

 さらに全身をすっぽりと覆うマントによって一切の露出がない人物が、なんの脈絡も前触れもなく、そこに立っていた。





「どうも初めまして。私が【魔王】です」





 ・・・・・・





 これにてチュートリアル終了です。

 それでは安価でオリキャラを募って行こうと思いますので、ご協力よろしくお願いします。


 ちなみにすべてのキャラは、同じ種族や同じ出身であっても、全員【初対面】という扱いとなります。


 募ったキャラは、この『カルドラント』での戦いに参加してもらいます。

 前回の反省を生かし、今回はどこへ行くかといったことはこちらで勝手に決めさせていただきます。


 文章と★が食い違っている部分は、★の方を優先させていただきます。

 それでは、よろしくお願いいたします。



 ↓+2 から、3人までのキャラを参加させたいと思います(安価下処理があった場合はくり下がっていきます)。


名前【スカム】
種族:エルフ
性別:男
外見年齢:13歳
魔法:火鞭、遊泳
武装:短剣(二本)
魔王を探す目的:魔王を倒せば皆に認めてもらえると思ったため

備考:孤児。実年齢103歳。エルフに似つかわぬ容姿の所為で奴隷のような扱いを受けてきて、その中で戦争に参加した経験もある。
異能を使えば脱出や反撃は容易であったが、自分の居場所が欲しいという感情に漬け込まれただただいいように使われてきた。
すれた印象を受けるが、根は子供。戦闘の際は短剣による二刀流・魔法・異能、全てを駆使する。

外見:ボサボサの白髪・影の落ちた赤眼に浅黒い肌を持つ少年。同族に焼かれたり実験台にされたりなどで全身傷とアザだらけだが、特に顔左

半分の損傷が酷いため、金属片を眼帯のように装着し被覆している。他の部分もある程度隠すために黒いフードも着用。

異能名【魔翌力の傷跡(スカー)】
能力要旨【空間ごと魔翌力を裂く。範囲は狭いが正確に狙えば異能の発動を阻止したり、魔法を霧散させたりすることが可能。勿論攻撃にも使え

る】

敵を見つけた場合の対応 … 【カウンター】
戦闘スタイル … 【決闘】

身体:★★ 技巧:★★★★ 精神:★☆☆☆ 魔翌力:★★☆☆☆ 頭脳:★★★☆ 容貌:★☆☆☆☆ 協調:★★☆☆☆

名前【メビウス】

種族:憑依対象依存/人間(生前)

性別:憑依対象依存/男

外見年齢:憑依対象依存/12

職業:憑依対象依存/生前は魔法研究者、今は悪霊

魔王を探す目的:乗り移り、真なる永遠を成し遂げる

備考:
魔法生物。生前狂ったように求めた研究テーマ"永遠"を、悪霊然とした霊魂になることで体現した、幼きマッドサイエンティストの成れの果て。
とにかくこの世に残り続けることを最優先に行動する。12歳という元の年齢を加味しても幼稚で残忍な自己中ガキ。頭脳と執念は分不相応に本物なのでタチ悪い。

外見:憑依対象依存/赤黒い鬼火

異能:【永遠】

要旨:
身体的、或いは精神的に弱っている生命体へ憑依することが出来る。その際、昇天していなければ元の魂とは同居する形になるが、元の魂は支配され魔翌力へと転化させられていく
体が死滅すると本体の魂が出てきて、それを魔法攻撃で滅すれば殺せる。あくまでそういう魔法というだけで、特別聖なる魔法が弱点という訳ではない。

身体:☆☆☆

技巧:★★★☆☆

精神:★★★

魔翌力:★★★

頭脳:★★★★★

容貌:☆☆☆☆☆

協調:★☆☆☆☆

武装:憑依対象依存+霊魂炸裂(本体の魂を勝手に切り崩し魔翌力弾として発射する必殺技)

敵を見つけた場合の対応:【アタック】

戦闘スタイル…暗殺


ご協力ありがとうございます。
それではこのキャラたちで書いていこうと思いますので、少々お待ちください。




 ・・・・・・



 カルドラントという小国には、いくつか出入り口がある。

 まず東西南北に大きな門があり、そこには番兵が大量に配置されている。

 門以外の王国外周は、高く分厚い壁に囲まれており、その壁の上にはいくつもの兵舎が設置されている。

 エルフが転移魔法で国内に侵入できる距離まで近づいて来たり、獣人が空を飛行してくるのを、早急に発見して攻撃を仕掛けるためだ。

 そのため国内に入るには、王国からやや離れたところでカルドラントの兵士による厳重なボディチェックを受ける必要がある。

 当然ながらエルフ族や獣人族は門前払いを受けるか、その場で捕縛されるケースさえある。

 ではエルフ族の少年である“スカム”が、どのように王国へと侵入したかと言うと……


「…………ごぼごぼっ」


 国内外を繋ぐ、もう一つの“接点”……王国を横断するように流れる“川”を泳いで潜り込むという力技だった。

 エルフ族である彼は“遊泳”の魔法を駆使して、一度も川底から浮上することなく約6キロの距離を泳ぎきったのだ。

 いかに魔法で息が続き、かつ素早く泳げるとはいえ、川底と同じ色の布に隠れながらそれだけの距離を泳ぐことは困難を極める。

 しかしその困難を押してでも、彼には王国へ侵入しなければならない理由があった。

 スカムは水車に巻き込まれそうになりながら、どうにか王国の外周壁を潜り抜ける。

 ここから先の川は地下に潜っているらしく、このまま水路を進んでも王城の付近に上陸することができるか、わからなかった。

 水路を進むエルフ族や獣人族への対処として、そういった設計になっていることは想像に難くない。つまり、ここからは陸路を進むしかないようだった。

 スカムは慎重に川面から顔をだし、人目に付かない川岸を探す。

 しばらくして、彼は荒い息を吐きつつ地上へと上がると、ずぶ濡れの身体を“火鞭”の魔法で乾かし始める。





(……どうにか潜入できた)


 スカムは滴る水によってできた水たまりに映る、自分の姿を見た。

 白い髪に、浅黒い肌。顔の左半分は眼帯のような金属片に覆われ、露出している右目は炯々と赤く輝いていた。

 持って生まれた、この“異形”。

 エルフ族特有の透き通るような白い肌でも、輝くような金髪でもない。

 赤い瞳は“魔眼”などと呼ばれて疎まれ、それらの“異形”によって、本来は同族意識の強いはずのエルフ族に、ずっと陰惨な仕打ちを受け続けてきた。

 スカムは黒いフードを深く被って、醜い姿を覆い隠す。


(きっと……きっと、【魔王】を倒せば……)


 エルフの里にも、戦場にも、他の場所にも……スカムの居場所はどこにもなかった。

 誰かに認めて欲しい。

 安心できる居場所が欲しい。

 当たり前に帰って来られる場所が欲しい。

 だからスカムは、立ち上がる。無限に思える地獄のような世界で、残された赤い瞳をしっかりと開いて。




「本当に浅ましい種族ですね……エルフ族」




 スカムはビクリと肩を震わせると、声のした方角へと目を向ける。

 人目に付かない奥まった場所へと上陸したせいで、スカムは現在、袋小路の最奥にいた。

 その袋小路における唯一の出口を塞ぐ形で、切れ長の目を冷たく細めた男が立っていた。さらに男の周囲には、武装した兵士たちが連れ添っている。





 その男―――護衛団長・スクニーロは、整った顔にかかる長髪をゆっくりとかき上げて、『三種族共通言語』でスカムへと語りかける。


「やはり昨日の“予告状”は、エルフ族の仕業でしたか。その姿は変装のつもりですか?」


 スクニーロが右手を前にかざすと、周囲に控える兵士たちが一斉に銃を構える。


「汚らわしいエルフ族め……貴方の首を捧げることで、陛下にご安心いただくとしましょう」


 スクニーロの言う“予告状”というのは、スカムも何のことか理解はできていた。

 昨日、この国に特別厳戒態勢が敷かれて、国民の約2割ほどが一時的に国外へと退避した。

 わざわざカルドラントに近づかなくとも、彼らから“魔王の予告状”という単語を聞きだすことは容易だったのである。

 しかしその予告状がスカムによる悪戯だとされるのは問題だ。自分が捕まればその場で処刑は確定、さらに特別厳戒態勢も解かれてしまうかもしれない。

 スカムはそんな大惨事を引き起こすために、わざわざこんな苦労をして王国に潜入したわけではない。

 つまり、少年の取るべき行動は一つ。


「―――『魔力の傷跡(スカー)』!!」


 スカムは傍らの石壁に短剣を突き刺すと、そのまま丸くくりぬくように動かして、素早く穴を開ける。


「―――っ!! 殺しても構いません、撃ちなさい!!」


 スクニーロの張り上げた声に重なるように銃声が響くが、スカムは間一髪のところで壁の穴に飛び込み、難を逃れる。

 兵士の一人がその穴を潜って追いかけようとすると、


「ぐああっ!?」


 兵士の肩から鮮血がほとばしる。

 よく見れば、スカムが潜った穴には『×』を描くように、空間へ“切れ込み”が入っており、どうやら兵士はそれに触れたせいで斬られてしまったらしい。





 スクニーロは眉根を寄せて舌打ちすると、


「能力は短剣による持続性の空間切断! 罠に気をつけて中距離を保ちつつ、散開・包囲し銃殺してください!」


 そして背後に控える部下たちを振り返り、


「A班はこのまま追走、B班はこの近辺でヤツの仲間の捜索、そしてC班は私と王城へ直行します!!」


 テキパキと指示を飛ばしたスクニーロは、近くへ待機させておいた馬車へと乗り込む。

 そしていざ王城へ向かおうとした、その時。


「隊長! スクニーロ隊長!」


 馬車の背後……王国外周壁の方角から兵士が一人、軍馬を駆って現れた。


「どうしました?」

「それが、王国外周門で不審者が暴れておりまして……!」

「不審者? こちらにも侵入者が現れ、手が離せません。番兵たちで対応してください」

「し、しかし恐ろしく強い人間と、おかしな獣人を抑え込むのはかなり困難でして……」

「暴れているのは2人なのですか……?」

「はい! それも、人間は北門で、獣人は東門で暴れています!」





 それを聞いたスクニーロはますます眉間の皺を深くして、思考に没頭する。


(……外周門で騒ぎを起こし、それに乗じてエルフを送り込むという計画か? なぜ異種族が協力してカルドラントを狙う?)


 スクニーロは後頭部で一つにまとめている長髪を右手で弄びながら、目を伏せる。

 隊長のその仕草は、問題の推理中であることを知っている部下たちは、息をひそめて彼を見守っていた。


(いや、そもそも私が“水路”にまで目を光らせていたのは、敵も想定外のはず……。ならば騒ぎを起こす意味は、水路から目を逸らさせること以外にある)


 数秒が経過してスクニーロは目を開くと、推理を中断する。

 この段階で答えを導き出すには、まだパーツが少なすぎると判断したのだ。


「目標を変更します!! C班は王城へと向かい警備! B班は私と共に“獣人”への対応! そして……」


 スクニーロは情報を伝えに来た兵士を指さすと、


「貴方は一度 王城へ寄って、城の衛兵と“ギンジさん”に状況を報告し、そのまま彼を連れて北門の“人間”へと対応してください!」

「はっ!!」


 王城へ向かおうとしていた馬車が方向転換し、スクニーロを乗せた馬車は一路、獣人が暴れているという“東門”へと走りだす。

 こうして【魔王】の予告状に指定された波乱の一日が、幕を開けたのだった。



 ・・・・・・


熱出たので今日はここまでです。プロットはできてます。




 ・・・・・・



 今もなお人と建物が増え続けているカルドラントという小国家には、“裏路地”というものが無数に存在する。

 それこそ大通りを避けて走るなら迷路のように入り組んだ構造となっており、追う側はもちろん、逃げる側のスカムも非常に難儀していた。

 見覚えのある道が何度も現れ、角をいくつも曲がるうちに自分がどの方角へ走っているのかがわからなくなる。

 かと言って大通りには兵士の目が光っているだろうし、立ち止まっていては追走してくる兵士に見つかってしまう。

 いっそ『魔力の傷跡』で壁をくりぬいて進みたくもなるが、そんなことをすれば自分の居場所を宣伝しているようなものだ。

 どうやら今のところ、この国に事件らしい事件は起こっていないようだ。もし【魔王】が現れて城下町がパニックになれば、少しは動きやすくもなるのだろうが……

 などと悠長なことを考えていると、背後から複数の足音が聞こえてくる。


「いたぞ! あの黒いフードの子供だ!!」


 ゾクリ、と背筋に冷たいものが走る。スカムが忌まわしげに背後を振り返ると、兵士たちは躊躇うことなく銃を構えていた。

 背後から銃撃を受けないように急いで裏路地を左折するが、その判断は迂闊だった。


「……!!」


 考えなしに飛び込んだ狭い路地は一本道で、その先には喧噪が賑やかな大通りが広がっていた。

 今更引き返すことなどできないし、かと言って大通りに飛び出すなどもってのほかだ。

 この国の“エルフ嫌い”が筋金入りだということは、スカムもよく聞き及んでいる。大通りに出ればあっという間に民衆に取り囲まれて、身動きが取れなくなるだろう。

 ならばスカムに残された道は一つ、彼の異能である『魔力の傷跡』によって壁をくり抜くしかないのだが……

 壁の向こうがどうなっているかわからない以上は、どうしても一種のギャンブルになってしまう。

 悩んでいる間にも、背後の靴音は大きくなり、確実に迫ってくる。

 いっそここで戦ってしまうか……と、スカムが腰の短剣を握りしめた、その時。


「お兄ちゃん、こっち!」





 スカムはそんな囁き声を聞いた途端、突然死角から腕を引っ張られて、どこかへと引きずり込まれた。

 直後、背後の兵士たちがスカムを追って裏路地を左折すると、彼らはその先に広がっている大通りを目撃した。

 そしてその大通りに至るまでの路地には、“曲がり角”も“人影”も見当たらない。


「なに!? くそ、大通りに出やがったか!」

「相手はエルフ族だ、もしかしたら飛行魔法や転移魔法を使ったのかもしれん!」

「チッ、大通りで聞き込みするぞ!」


 複数の兵士たちが裏路地をバタバタと走り抜けてゆき、その先の大通りへと飛び出す。

 そして周囲を見渡してみるが、人混みのせいで黒いフードの後ろ姿を見つけ出すことはできず、どこかで騒ぎが起こっている様子もなかった。

 仕方なく散り散りとなって捜索を再開した兵士たちの足音が遠くなってゆき、それらがすっかり聞こえなくなった頃……


「……もういいかな?」


 兵士たちが通り過ぎて行った“裏路地”に、幼い声が響いた。

 そして一本道になっている路地にたった一ヶ所だけある、幅60センチ、奥行き80センチほどの“窪み”。

 本来は業務用ごみ箱などを押し込んでおくのであろうスペースから、8歳ほどの少女がひょこっと顔を出す。

 そして、右を確認。左を確認。一応、上も確認。


「うん、もうだいちょうぶみたい! お兄ちゃん、出てきてもいいよ!」


 少女に促されるままに窪みへ身を隠していたスカムは、バツの悪そうな顔をしながら窪みから這い出てきた。

 スカムは自分の収まっていた窪みを振り返って、改めて驚く。

 光のあまり届かない薄暗い裏路地のため、こんなところに窪みがあるなんてまったく気が付かなかった。

 それによくよく見てみると、窪みはかなり狭い。この少女とスカムが小柄な子供だったからこそギリギリ隠れる事ができた場所だろう。





 そしてスカムは、自分を窮地から救ってくれた少女をまじまじと観察する。

 肩までの黒い髪に、くりっとつぶらな瞳。典型的な“人間族”の子供であり、幼さの割には流暢な『三種族共通言語』を操る不思議な少女だった。

 なにより目を引くのは、少女の全身を覆う包帯だった。

 見えている部分だけでも、顔の右半分、首元、左手首に包帯を巻いており、右肘から先にはギプスを嵌めて、首からつりさげていた。

 ……おそらくは、露出の少ない衣服に隠された全身にも、同じような処置が施されているのだろうことを予感させる姿だった。

 スカムがふと我に返ると、少女の方からも自分の姿が観察されていることに気が付く。そして、


「あっ……!」


 不覚にも、先ほどのごたごたのせいでフードが外れてしまっていた。

 褐色の肌も、ボサボサの白い髪も、エルフ族特有の尖った耳もすべてが晒されている。

 どうしてわざわざ少女が『三種族共通言語』を使って話しかけてきたのか、その理由に今更ながら気付くスカムだった。


「……? どうかしたの、エルフのお兄ちゃん?」

「え?」


 しかしそれでも少女には嫌悪や警戒の色はまったく感じられず、エルフ嫌いのカルドラント国民らしからぬ反応だ。

 そんなスカムの困惑を感じ取ったのか、人間族の少女は「ああ、なるほど」といった顔をして、


「あたしはカルドラントの人間だけど、エルフ族は嫌いじゃないよ?」

「……そんなわけあるか。どういうつもりでオレに近づいた、言え」


 スカムは片方だけの赤い目を不愉快そうに細めて、少女に詰め寄った。

 だが少女の方も負けじと、頬をぷくっと膨らませて猛抗議してくる。





「もう、そんなわけあるよ! たしかにカルドラントを襲ってくる悪いエルフもいるけど……でもね、あたしがもっとちっちゃかった頃、エルフのお友達が1人いたの!」

「人間とエルフが友達? ……ふん、夢でも見たんじゃないのか」

「夢じゃないもん! お兄ちゃんみたいに、いじわるなエルフじゃなかったけどね~っだ!」


 そう言った少女は、「言ってやったぜ」みたいな顔をして、悪戯っぽく舌を出した。……軽くイラつくスカム。

 エルフと人間が友達と聞いて、スカムはにわかには信じられないような気持ちになりながらも……

 それと同時に、幼い少女が『三種族共通言語』を操るという理由としては、納得できないこともなかった。

 ……そして、少女の全身を覆う痛ましい傷跡の正体も、なんとなく……


「!」


 するとスカムは、少女が大きな瞳でスカムの容姿を食い入るようにじーっと見つめていることに気が付いた。

 すなわち彼のコンプレックスである“異形”をまじまじと観察されているわけで……

 過去の無数のトラウマを想起して、いったいなにを言われるのかと、スカムは思わず自身の体を隠すように抱きしめるが、


「すごーい! へんな色のエルフもいるんだね! かっこいい!!」


 褒めているのか貶しているのか微妙なことを、少女は表情を輝かせて無邪気に言った。

 しかし生まれて初めて容姿を“かっこいい”などと言われたスカムは、思わず顔が熱くなるのを感じてしまうが……

 けれども頭をブンブンと振って、浮ついた思考を追い出す。今はそんなことを喜んでいられる状況ではない。

 スカムは大通りと、それから自分が走ってきた裏通りへと落ち着かない視線をやる。いつ何時追っ手に見つかるか、わかったものではないのだ。





 するとそれを見た少女は


「エルフのお兄ちゃん、なんで追われてるの?」

「……お前には関係ない」

「じゃあ、あたしが助けてあげるっ!」


 少女はなんの迷いもなく、はなまる100点笑顔を浮かべてそんなことを言いだす。

 ……自分で聞いておきながら、“なんで追われているのか”は別にどうでもいいらしい。

 たかが子供になにができるのかとか、そもそも彼女は包帯だらけの満身創痍だしなぁ、とか、スカムはいろいろなことを考えるが、


「あたし、この街でいっぱい探検ごっこしてるから、誰も知らない道、いっぱい知ってるよ?」


 少女の申し出は、土地勘のまったくないスカムにとってはかなり魅力的なものだった。

 しかし人間族を信用できるものかとか、無関係な子供を巻き込んでいいのかとか、やっぱりスカムはいろいろなことを考える。

 すると、そんな葛藤などどこ吹く風といった様子の少女は、スカムの返答も聞かずに、彼の手を握って歩き出す。


「それじゃあ、しゅっぱーつ!」

「うわ、おい……! オレはまだ一言も……」

「あたし、“ルリム・シャルルナーゼ”! ルリムって呼んでね! お兄ちゃんは?」

「え……」

「名前だよ、名前っ!」

「……す、“スカム”だけど」

「そっか、よろしくね、スカム!」


 流れるように自己紹介が終わってしまったことに驚愕しながらも、しかしルリムと名乗った少女の勢いを突っぱねることもできず……

 こうしてスカムは単身乗り込んだ新たな戦場で、奇妙な協力者を得たのだった。



 ・・・・・・





 ・・・・・・



 スクニーロがまず驚いたのは、その被害の規模だった。

 いいや、もはや被害という表現が当てはまるかどうかも疑問だ。

 獣人が暴れているというくらいだから、スクニーロはてっきり、もっと悲惨な光景を想像していたのだが……

 カルドラントの最東端、王国の内外を繋ぐ“東門”。

 そのすぐ脇、普段は厳重に施錠されている警護団専用通路から外周壁の外に出たスクニーロ。

 そして東門の外側で彼が見たのは、はたしてどう受け止めたら良いものか、非常に対処に困るような光景だった。


「だから言っておろう、【魔王】なぞ私は知らぬと、私が探しているのは【魔王】ではなく、【魔王】を追っている者なのだ」


 その獣人は番兵たちに取り囲まれながら、それでも圧倒的な余裕を崩さず不遜な態度を示していた。

 日差しを強く照り返す真っ白な羽毛に、赤いトサカが鮮烈なアクセントになっている独特なカラーリング。

 文献でさえ滅多にお目にかかれないような珍しい種類―――ニワトリの獣人だった。

 中肉中背で、獣人にしてはかなり貧弱な個体のようだ。そのくせ肉体を見せびらかすような、海パン一丁という変態的な格好である。

 顔つきはやけに凶悪だが、逆に言えばただそれだけ……正直、スクニーロが陣頭指揮を執りに来なくても、番兵だけで十分に対処できそうに思える。

 しかしながらここまで来てしまったものは仕方ない。さっきのエルフ族か北門の人間の応援に向かうためにも、さっさと事態を収拾させてしまうべきだろう。

 スクニーロはそう結論付けると、迷わず獣人へと近づいていった。


「獣人がこの国に、どのようなご用件でしょうか?」


 スクニーロが『三種族共通言語』で声をかけると、そのニワトリの獣人は超然とした眼差しで彼を見据えた。


「ふむ……少しは話せそうなのが出てきたようだな」





 ……繰り返すが、このニワトリ獣人は決して強そうには見えない。というか実際強くはない。

 しかもカルドラントになにかしらのコネを持っているわけでも、アポイントを取っているわけでもない。

 だというのに、他種族の国の前で騒いでおきながらこの態度はなんなのか……スクニーロはつくづく業腹だった。

 しかしここで相手のペースに呑まれるわけにはいかない。努めて大人な対応を心掛けるスクニーロ。


「どうも初めまして、警護団長のスクニーロと申します」

「私は“ガザドリ”という」

「ではガザドリさん。せっかくですので、聞くだけ聞いて差し上げます。ご用件は?」

「この国に今日、【魔王】が現れると小耳に挟んだ。確かな情報筋だ」

「予告状のことを言っているのですか?」

「左様。だから私はこの場所を訪れたのだ。用があるのはこの国や貴様らではない」


 スクニーロは、ガザドリと名乗った得体の知れないニワトリ獣人を見据えながら考える。

 この獣人は、さっきのエルフと関係があるのか? もしあるとすれば、それはどういった関係なのか?

 まずはそれを確かめることが、なにより優先されるべきことだとスクニーロは判断した。


「その予告状に関することでしたら、ついさきほど解決しましたよ」

「なに?」

「さきほどエルフが国内に侵入したので捕らえたのですが……予告状は、この国に混乱をもたらすためにそのエルフが書いた偽物であったと確認が取れました」

「それは本当か?」

「ええ、間違いありません」

「そうか……ではこんな国に用は無いな」





 ガザドリはあっさりそう言うと、羽毛でモサモサした両腕を組んで、落胆したように溜息をつく。

 スクニーロの見る限り……「エルフを捕らえた」と言われた時、ガザドリに動揺した素振りはまったくなかった。

 あのエルフが捕まることなど想定内なのか、はたまた本当に両者の間にはなんの接点も関係性もないのか。


「ちなみにですが、仮に【魔王】が本当に現れたとしたら、どうしていたのですか?」

「用があるのは、【魔王】ではなく【魔王】を追っている者だ」

「……どういうことです?」

「私の目的は、我が父の編み出したる“ニワトリ拳法”を広めることにあるのでな」

「……は?」


 スクニーロは、目の前の変態獣人の口から出た奇想天外なワードに、しばし思考停止に陥った。

 とても本気で言っているとは思えないが、仮に本気だとすれば、正気ではないことは確かだろう。

 そして本気で言っているにせよ、そうでないにせよ、この獣人と話を続けることに生産性は皆無だろうということも確かだ。

 そう結論付けたスクニーロは、番兵たちに命じてさっさとこの変態獣人を遠くの山にでも捨てさせようとしたのだが……


「スクニーロ隊長!!」


 その指令を口にするより早く、警護団専用通路の向こうから、警護団の1人が血相を変えて現れた。


「……何事です? 例のエルフに関する報告ですか?」

「そ、それが……!!」




 ここからが、このカルドラントにおける“地獄”の始まりだった。




 ・・・・・・


とりあえずここまで
すみません、インフルでへばってました
ぼちぼち更新していきます




 ・・・・・・



 時は少し遡り……

 日の光も満足に届かないような狭い路地裏を、2つの人影が歩いていた。

 一方は、褐色の肌にボサボサの白髪、無骨な金属片で顔面の左半分を覆った異形のエルフ族・スカム。

 そしてもう一方は、身体の露出している部分のほとんどを包帯で覆った、人間族の少女・ルリム

 スカムはフードと金属片のせいで大幅に視界を制限されているため、より神経質に周囲へ気を配りながらも、


「……おい、いつまでオレについてくるんだよ」

「?」


 苛立たしげなスカムの視線に、しかし黒髪少女のルリムは不思議そうに首をかしげるだけだった。


「ねぇねぇ、スカム。どこに向かってるの?」

「お前には関係ないって言ってるだろ」

「ふーん。でもこの先には、ゴミ捨て場しかないよ?」

「…………」


 大通りを堂々と歩けるのならともかく、なるべく人目に付かないように裏路地だけを歩くとなると、このカルドラントはまるで迷路のようだ。

 当然ながら、今日初めてこの国を訪れたスカムが、迷うことなく自在に歩き回ることなどできようはずもない。

 スカムはおもむろに立ち止まると、しばし思考に没頭する。

 スカムの目的は「自分の居場所を手に入れること」。

 そのための手段は「魔王を倒すこと」。

 魔王を倒すためには、魔王が現れるよりも早く、魔王が狙う場所へと先回りしていることが望ましい。

 つまり現時点における、スカムの最善の選択は……





「……おい」

「なぁに?」

「城はどこにある」


 ここは一時の恥を忍んででも、目的を達成するために、人間族の幼い少女の力を頼ることにしたスカム。

 すると頼られたことが嬉しかったのか、ルリムはにんまりと満足げに微笑んで、


「えへへ~、王様が住んでるお城はね、方向で言ったら“あっち”だね」


 ルリムはざっくりと城のある方向を指さしてから、


「な~んだ、スカムはお城に行きたかったんだ。それならもっと早く言ってくれればよかったのに」

「……口うるさいやつだな。聞かれたことだけ答えられないのか」

「ほらほら、お城に行くにはこっちが近道だよ」


 スカムの悪態をあっさりと聞き流したルリムは、ギプスで首に吊っていない方の手でスカムを引っ張りながら歩いていく。

 最初は少女の手をいちいち振り払っていたスカムだったが、何度振り払ってもまた握り直してくるので、今はもう半ば諦めている状態だ。

 ……べつに、久しぶりに感じる他人の体温に思う所があったわけではない、と、スカムは誰に責められているわけでもないのに内心で弁解する。

 スカムがそんなことに気を取られていると、彼は不意になにかとぶつかった。

 見れば、前を歩くルリムが突然立ち止まったようだった。


「おい、どうした?」

「……あれ」


 そう言ってルリムが指さした方向には、大通りが広がっているのだが……

 どうやら、なにか騒ぎが起こっているようだった。





「誰かがケンカしてるのかな?」


 そんなルリムの言葉を聞いて、スカムはふと頭によぎった可能性について考える。

 まさか【魔王】が現れたのだろうか―――と。


「あっ、スカム! どこいくの!?」


 ルリムの制止も聞かず、早足で騒ぎの起こっている大通りへと近づくスカム。

 そしてスカムは大通りから見つからないように、身を小さくしながらこっそりと顔を覗かせてみる。

 するとその視線の先では、


「お前、なかなかイイ眼をしてるじゃねェか。喜べ、この俺様……“ロミオド=ブレイクス”の眼鏡に適ったぞ!」


 大通りの衆人環視の中で、見えない火花を散らせている二人の男。

 “北門”の方角から現れて、ロミオド・ブレイクスと名乗ったのは、二十代半ばの若い男だった。

 黒と金という、およそまともな感性を持っていれば組み合わせないような二つの色のみで全身を固めており、その自己顕示欲は他の追随を許さない。

 恐ろしく整った顔立ちをしたその男は、どういった能力によるものか、鉄屑を寄せ集めて造ったような3メートルほどのゴーレムを従えていた。


「……見ない顔だ。どうやら“北門”で暴れていた人間というのはお前のようだな。もうこんなところまで来ていたのか」


 それに相対するのは、いかにも軍人か傭兵ですとでも言わんばかりな肉体の男だった。

 歳は四十を過ぎており、短く刈った黒い髪には白髪も多く交じり、肉体的には全盛期をとうに過ぎているはずだ。

 しかしその無駄のない引き締まった筋肉と、そして猛獣のようにギラギラとした眼光を見れば、彼を老兵などと呼べる者はいないだろう。

 名を“八ッ橋ギンジ”。かつて東の島国で“外郷守護”という傭兵部隊を率いていたこともある、歴戦の猛者だった。





「えーっと、魔王……じゃないみたいだね?」


 いつの間にかスカムの横で一緒にのぞき込んでいたルリムが、どこか緊張感の足りない声で呟いた。

 【魔王】ではないのはもちろんだが、しかしスカムの目には、どちらも十分に危険な存在として映っていた。

 ずっと幼い頃から戦場を渡り歩いてきたスカムは、睨み合う二人がかなりの実力者であることを肌で感じ取っていたのだ。

 おそらく正面からぶつかれば、スカムでもかなり苦戦しかねない二人である。勝手に潰し合ってくれるのなら、それほど嬉しいことはない。

 スカムは裏路地から乗り出していた身体を引っ込めると、ルリムの襟をぞんざいに引っ張って、


「おい、行くぞ」

「え~? 見ていかないの?」

「きっと今に増援が来て、オレたちまで身動きが取れなくなる。そうなる前に、さっさとずらかるぞ」

「ちぇっ。は~い」


 ルリムはつまらなそうに返事をすると、おとなしくスカムの後をついて行こうとしたが……


「……あれ?」

「おい、なにしてる。さっさと城まで案内しろ」

「ねぇスカム、あれってなんだろ?」

「は?」


 ルリムが指さした場所を、スカムはつられて目で追いかける。

 大通りがあり、そこで二人の男が向かい合っており―――さらにその向こう、立ち並ぶ家々の屋根に……




 のっぺりとした白い仮面に、全身を覆い尽くす黒衣。

 どう見ても異質な“ソレ”が、さながら今までずっとそこに存在し続けてきたかのような自然さで、景色と一体化していた。






「……なんだ……あれ?」


 思わずスカムも呆然と言葉を漏らすが、しかし何故だろうか―――

 理解を超えた“ソレ”がどのような名を冠しているかを、彼は本能的に、当たり前のように知っていた。


「…………魔……王……」


 スカムがその名を呟いた瞬間……

 【魔王】は大きく両手を広げると、なにかをまき散らすかのように手を振った。

 最初は、遠くで観察していたスカムには、なにが起こっているのかまったくわからなかった。

 まず、ところどころで建物がゆっくりと黒く変色し始める。

 その時点でようやく、大通りを歩いていた民衆の一部と、その中心で睨み合っていた二人が【魔王】の存在に気が付いた。

 続いて、黒く変色した箇所に触れた人間が、壮絶な断末魔をあげながら黒く変色し始める。

 それによって民衆はやっと危機感を覚え、大通りに爆発的なパニックが広がった。

 人が、物が、次々と異臭を放ちながら黒く染まってゆき、次第にグズグズと“崩壊”していく。

 やがて『あの“黒”に触ったら死ぬ』という共通認識が急速に拡散するが、“黒”はそれ以上の速度で広がり民衆を取り囲んでいく。

 出来上がるのは、阿鼻叫喚と死屍累々の坩堝……

 そこはまさしく“地獄”だった。


「……!」


 そんな地獄絵図を少し離れたところから見ていたスカムは、【魔王】の動きにいち早く気が付くことができた。

 【魔王】はフワリと宙に浮くと、そのまま自在に空を飛び、ある方角へと一直線に向かって行った。

 その先にあるのは……


「あ、あっちにはお城が……!」


 ルリムのそんな言葉を聞いて、スカムは自分が後手に回ってしまったことに歯噛みする。

 “予告状”は本物だった。そして【魔王】の狙いはほぼ間違いなく、この国の王―――ウェルサンドロ17世の首。





 スカムは傍らでオロオロと困惑しているルリムへ視線をやって、


「おい、お前は国外に逃げろ!」

「えっ……スカムはどうするの?」

「オレは城に向かって、【魔王】を倒す! オレが倒さなくちゃいけないんだ!!」

「でも、お城までの道は……」

「もうこれだけパニックになってれば、大通りを走っても関係ないだろ!」

「ううん、そうじゃなくって……!」


 大通りに飛び出そうとするスカムの腕を、ルリムは必死に引っ張って引き止める。


「大通りは、あの“黒いの”がいっぱい広がっちゃってるよ! やっぱり裏路地から行かないと……!」

「……ちっ、くそ!!」

「だいちょうぶ、お城はけっこう近いから、近道すればすぐにつくよ!」


 そう言いながら、ルリムは薄暗い裏路地へと小走りで駆けていく。

 スカムは一瞬、あんな強力な呪いを操る【魔王】の元へ、目の前の少女を近づけて良いものかと考えるが……

 事ここに至れば、もはや国のどこにいたって危険なことには変わりない。

 それなら自分の近くにいたほうが安全だろうと結論してから、どうして自分が見ず知らずの人間族のために気を揉まなくてはいけないのかと嘆息する。


「うっ……あぐ……!!」


 すると突然、スカムを先導してくれようとしていたルリムが、その場にうずくまってしまった。

 スカムは一瞬、まさか“黒”に触れてしまったのかと疑ったが、どうやらそうではないらしい。


「お、おい……どうした?」

「だ、だいちょうぶ……なんでもない……」


 見れば、ルリムは包帯に包まれた体を抑えて苦しんでいるようだった。もしかすると、どこかの傷口が開いてしまったのかもしれない。

 しかし彼女は気丈に笑ってみせると、ふらつく足取りでスカムを城へと案内しようと再び走りだす。

 それを見たスカムは少し考えて、それから……


「……ほら、おぶされ」

「え?」

「そんなペースじゃ間に合わないだろ。オレが担いでいったほうが速い。進む方向だけ指示しろ」


 戸惑うルリムを半ば強引に背中へ乗せると、スカムは彼女の指示した方角へ猛然と走りだす。

 そして死を運ぶ“黒”はカルドラントの各地で勢いを増し、新たな犠牲者を生み出していく。

 地獄は、まだ始まったばかりだ。



 ・・・・・・


現状わざわざ異能とる必要性がない気がする……
それならエルフで魔翌力全振りしたほうが強いっぽいし

>>167
ちょこっと考察してみた

全パラメーターに少なくとも★1は振らないといけないから、実質的に自由に振り分けられる★の数は13個

ここに異能を取るとなると、その数は★8まで減る

でも魔翌力★5にするだけなら振り分けられる★の数は9

この時点で★1つのアドバンテージ

魔翌力の説明に「魔法や異能の威力、範囲、応用力、魔翌力への感知能力」とあることから、異能の威力は魔翌力に依存していることが解る

つまり異能を実用的に運用したいのなら魔翌力も上げる必要がある

そうなると戦闘に必要な技能の身体、頭脳、精神にまともに★が振れなくなる

つまり異能を取るなら「相手は死ぬ」くらいの効果じゃないときついかな

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