咲「クク…是非に及ばず…」 (545)

咲「……」ペラッ

和「……」スタスタ

咲「……」ペラッ チラッ

咲(有象無象…我と同じ一年か…無駄な脂肪を胸に抱えおって…)

咲(まァ我は実質高校100年生分くらいのアレだがな…有象無象など相手にもならぬ)

和「……」スタスタ

咲「……」ペラッ

和(今の人…眼帯に包帯グルグル巻き…どこか悪いのでしょうか?)

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京太郎「咲~!」

咲「ム。京の字か」

京太郎「おう。こんなとこにいたのか」

咲「フッ。今日は大気中の魔力が濃い。即ち我が身体も本来の姿に近くなるということ。いざという時のことを考えると人の近くにはおれぬわ」

京太郎「あーはいはい。それより学食いこうぜ。レディースランチがうまそうだから食いたいんだ」

咲「フッ。我を出汁にしようとするのは貴様くらいのものだ。よかろう、それもまた一興…」

京太郎「悪いね」

 学食

咲「そら。存分に喰らうが良い」ガタッ

京太郎「おう、サンキュー」

モブ「いやー咲ちゃんはいい嫁さんだねー」

咲「よ、よめッ…!…などではない。此奴はいわば我が下僕、世話をするのは当然の理」

京太郎「ハイハイ」

モブ「あいかわらず独特なキャラだねぇ」

京太郎「んぐんぐ…」ピッ

咲「なんだ?電脳魔界よりの使者でも来たのか?」

京太郎「ナニソレ…麻雀だよ麻雀」

咲「…京の字よ、貴様麻雀を嗜むか」

京太郎「まーな。最近始めたんだよ。まだ役もロクに覚えてないけど」

咲「フン…斯様な児戯…」

京太郎「え、咲お前麻雀知ってんの?」

咲「…ちょっとだけ」

京太郎「へぇ~」

咲「…奪われることを学んだ、それだけのこと。麻雀など…」

京太郎「そのキャラには一抹の不安を感じるが…まぁできるならかまわんか…」

咲「何を自己完結している、薄気味悪い」

京太郎「ついでにもひとつ付き合ってよ。メンツが足りないんだ」

京太郎「麻雀部」

咲「……!」

京太郎「旧校舎の屋根裏に部室があるんだ」

咲「ホゥ…」

京太郎「ようこそ、お姫…ってカンジじゃねーな。…殿下?」

咲「良きにはからえ」

京太郎「カモ連れてきたぞー」ガチャ

和「!」

咲「ン?」

和「お客様…?」

咲「クッ…頭が疼く…この記憶は…?」

和「先程橋のところで真っ黒な本を読んでいた…」

咲「あ、さっきの」

京太郎「なに、知り合い?」

咲「ウム。擦れ合う運命の好敵手よ」

和「???」

京太郎「和は去年の中学校大会の優勝者なんだぜ」

咲「フン。何事かと思えばその程度、取るに足らず」

和「むっ」

優希「いやいや、これはすごいことだじぇ!」

咲「なんだこのちまいのは」

優希「どーん!学食でタコス買ってきたじぇ!」

咲「汰孤栖…成程な」

和「今お茶をいれますね」

咲「ブラックで頼む。泥水のように濃い、な」

和「はぁ…」

優希「のどちゃんはすごいんだじぇ!インターミドルがうんぬん親はかんぬん」

咲「へー」

京太郎「部長は?」

和「奥で寝てます」

咲(ム…眠れる虎の気配…成程な。武超…大方組織が送り込んだ尖兵だろう。フッ、ならば此処で始末するか…)

京太郎「じゃうちらだけでやりますか」

和「ですね」

咲(や、殺る!?え、本当に!?)

京太郎「25000点持ちの30000点返し、ウマなし」ギシッ

咲(あっ、麻雀か)

咲「……」ピリッ

優希「チー!だじぇ!」

咲「…フン、下らぬ」

優希「じぇ?」

咲「先程からチーポンとやかましい!よちよち歩きの鳴き麻雀は他所でやれ!」ズアッ

優希「ひっ」

咲「カン!」バッ

和(優希の三副露に対してカン!?)

咲「もいっこカンッ!」バッ

咲「さらにもいっこカンだッ!!」ジャッ

京太郎「三連続カン!?」

和「セオリーを無視した、なんと荒々しい闘牌…ッ!」

優希「ど、どうなっちゃうんだじょ…?」アセ

咲「我が名を刻め、有象無象共――」ズズ…

和(なんなんですかこの感覚は…!)

優希(の、呑み込まれる…!?)

咲「嶺の上に咲き誇るは大輪の花」キュ

咲「――嶺上開花」シュタァン

和(三連続カンからの…)

優希「…嶺上開花ツモ三暗刻三槓子ドラ5……」

京太郎「ってーと…ひーふーみー…数え役満か!?」

和「三倍満です」

咲「――是非に及ばず」ニヤリ

咲(くぅ~~~~~~っ!決まったぁ!)

優希「東パツでこんなのって…」

和「…オカルトですね」

京太郎「なんだよ咲…お前強かったのか…?」

咲「フン。この程度か有象無象共。もっと我を興じさせてみよ。さすれば我が記憶の断片に名を残せるやもわからぬぞ?」

和「……」キッ

咲「ぅえっ!?」

優希「……」

京太郎「……」

和「……」ジロリ

咲「……」アセ


 ゴロゴロゴロ…ザーーーーー

京太郎「お…」

和「降ってきましたね」

久「うそっ!傘持ってきてないわ!」ガバッ

咲「!!」

咲「奴は…ッ!!」

京太郎「ヘンなこと言うなよ頼むから」

咲「ウ、ウム…」

和「麻雀部部長です」

優希「おはー」

久「おはー。あなたが今日のゲスト?もう終わったの?」チラッ

久「え…なにこれ」

咲「あ、えと…か、帰りますっ!じゃない…フフハ!撤退!」ダダッ

久「あ、ちょっと!」

 ガチャ バタン

<ワッ!ア、アブナイアブナイ…コロブトコダッタ…

久「…行っちゃった」

和「あの人は一体…?」

京太郎「宮永咲っていう、俺達と同じ一年…のはずだ」

優希「ありえないじぇ…」

久「ふむ…」

和「……」

久「あの子がうちの部に入ってくれたら…」ククッ

京太郎「たら…?」

久「――全国、狙えるかもよ?」



 ザーーーーーッ
 ゴロゴロゴロ


咲「雷鳴か…フン。弱い者程よく吼える」ガクガクガク

 ピカッ!

咲「うひっ!?」ビビクン

 ゴロゴロゴロゴロ…

咲「…はやく帰ろう」ヘンナコエデタ…

 翌日

まこ「よー」

久「まこ」

まこ「きいたわー」

久「なにがよ」

まこ「不可解なカンから連カンして嶺上和了る一年がおるそうじゃね」

久「あぁ」

まこ「和はヘコまされたんか?」

久「対局はそこまで行ってないみたいだけど、さてどうかしら?」

咲「クッ…鎮まれ…久し振りの対局に興奮しているのはわかるが…」グググ

久「何が静まれって?」

咲「ホッ!?あ、いえーあのその」アタフタ

久「やァ」

咲「あ、かいちょ…ンンッ!生徒会の走狗か…」

久「一応私がトップなんだけど…まァそれは置いておくとして」

久「コレ」カチッ

咲『クッ…鎮まれ…久し振りの対局に興奮しているのはわかるが…』

咲「!?!?!?!?」

久「コレをお昼の放送で延々垂れ流されたくなければ、一つお願いを聞いてほしいんだけれども…」

咲「~~~~~っ!おに、あくまっ!」

 部室

久「待ち人きたるー」

和「!」

咲「!」

和「……」ジロリ

咲(ふぁっきんしっと…めちゃくちゃ怒ってるよぉ…)

久「須賀君、優希を呼んできて」

京太郎「うっす」

まこ「え、てゆーこたァこの痛々しいんが例のリンシャンカン子か?」

久「今頃気付いた…ってフツー気付かんか」

京太郎「おーい、メンツ揃ったぞ」

優希「今いくじぇー」

咲「ン?」

優希「あばばば」

咲「あァ…貴様か」

優希「帰りたいじょ」

久「だめ」

優希「ふぇぇ…」

久「宮永さん、和、まこ、優希で半荘ね」

京太郎「会長やらないんすか」

久「私が入ったらみんなトンじゃうでしょ」

咲(あ、今の格好いい…『我の手にかかれば皆灰塵と化すぞ』…うーんイマイチかなぁ)

まこ「言ってんさい」

久「25000点持ちの30000点返しね」

優希「はじめるじぇ…」カラカラカラ

咲(例の音声を消すため…それだけだ)チャッ

和(昨日の三連続カンからの嶺上開花…あれがただの偶然か否か、確かめる…)チャッ

優希「親リーだじぇ!」

和(はやい…!)スッ

まこ(二巡目…こがぁな読めんわ)タン

咲「……カン」チャッ

優希「」ビクッ

まこ「お。さっそくかの」

和(二萬カン…)

優希(一瞬で手が死んだじょ…)

咲「……」スッ

まこ「なんじゃ和了らんのか」

咲「……」チラッ

優希「」ビビクン

咲「……フッ」ニヤリ

優希(……え?え?)

久(東場での爆発力に定評のある優希の待ちを完璧に読み、そしてそれらを完全に止める…人間業じゃないわね…)

和「ロンです」

優希「うぇっ!?」


まこ「ツモじゃ」

咲「ウム」


久(ここまでは一見して宮永さんに動きはない…か)

咲「それだ。ロン」

まこ「はっとったかー」

久(おかしい…この拭いきれない違和感…)

咲「ツモ」

久(え…?なにその手は…!?さっきまで満貫手だったのにいつの間にかノミ手に変わってる…!?)

咲「終焉、だな」フッ

優希「最初はどーなるかと思ったけど、今回は蓋を開けてみたらのどちゃんの一人勝ちだったじぇー」

まこ「結構本気出したんじゃがのう。情けなぁ結果になってしまったわ」

久(トップは和…それはいい。宮永さんは!?)バッ

久(プラマイゼロ……?)

久(プラマイゼロ自体は決してありえないことじゃない…でも、これが意図的に導かれた結果だとしたら…?)

久(尋常ならざる読みと運、それなのに時折見せる不可解な打ち方…まさか)

咲「これで満足か、悪魔かいちょーよ」

久「……」ゾワッ

咲「さあ、約束のブツを…」

久「あなた、うちの部に入りなさい!」

咲「ホ?」

久「あなたがいれば…全国も夢じゃないわ!」

まこ「おいおい…」

和「……」

咲「いや、いやいや、いやいやいや。約束は?」

久「知らぬ存ぜぬ」

咲「嘘ぉ!?」

久「これは命令よ?」

咲「……承服…しかねる…」

久「んじゃーコレを放送部に…」

咲「入る!はいるからぁっ!」

久「よしよし」ニッコリ

咲「うえぇぇ…ひどいよぉ…」グスッ

和「っ」ドキッ

和(あ、あれっ?なんかさっきまで釈然としなくてもやもやしてたのに…宮永さんのなっさけない泣き顔を見てると胸が…)ドキドキ

久「とりあえず全国ね」

咲「全国決まったら破棄?」

久「たぶん」

咲「絶対!」

久「はいはい」

咲「今度こそは必ず約束を果たすのだぞ!」

久「ういー」

 カン!

よし!
とりあえず寝るます

京太郎「いい加減にしろ!テレビ映ってんのわかんねぇのか!!」
咲「あう!あう!あう……」

何それ見てみたい。

これどこまでやりゃいいの

和(――目をつぶればまぶたの裏にあの人のなっさけない泣き顔が浮かんできてあまり眠れなかった…)

和父「和」

和「?」

和「ずいぶんと夜更かししてたみたいじゃないか。わかっているとは思うが…遊びはほどほどにしておきなさい」

和「はい、お父さん」ガチャ

和「行って参ります」

和「……」スタスタ

咲『うえぇぇ…ひどいよぉ…』グスッ

和「……」ボー

咲「ム。貴様…」

和「…宮永さん」

咲「フン。よもやこんなところで巡り会おうとはな…如何にしようと逃れられぬ運命…クフフ」

和「……」

咲「良かろう。共に学び舎まで行くことを許す」

和「……」フイッ スタスタ

咲「え、ちょ…」

和「……」スタスタ

咲「ま、待つがいい!」アタフタ

和(さすがにこれくらいじゃ泣きませんか…)

和(…でもうろたえる姿もそれはそれで…)キュンキュン

和(私はいったいどうしてしまったんでしょうか…)

咲「待っのわあああ!?靴かたっぽ吹っ飛んだー!!」

和(あの宮永さんと全国まで…)

和(……っ)ゾクゾク

咲「ちょ…くっ」ケンケン

和(ああ…)ポワー

 清澄

咲「それではな。昼餉の刻に再会を果たさん」

和「……」スタスタ

咲「こっちから赴くからな!!」

京太郎「咲…」

咲「ム。京の字」

京太郎「お前和と仲良くなったのか?」

咲「仲良く?フッ、戯言を。奴とはいずれ我らに相応しい決着が待っている…それまでしばしの戯れよ」

京太郎「昼一緒に食うの?…俺も一緒させてもらっていいですか?」

咲「フン…貴様の態度次第だな」

京太郎「オナシャス!!」ガバッ

咲「ちょ!こんなとこで土下座とかやめて!」

 昼休み

優希「おっそーい!もうはらぺこだじょ」

咲「ホゥ…」

優希「おじょじょじょ」

咲「そこまで腹を空かしておるとはな…ならば喰らうか?我が四槓子…」ニヤリ

優希「うぇぇ…」

京太郎「おらタコス娘詰めろ」グイッ

咲「ム」

優希「きょーたろー!」パァァ

京太郎「ほら咲も座れよ」

咲「何を偉そうに…貴様も招かれし者側の人間であろうが」

優希(ナイス!たすかったじぇ!)

京太郎「咲は…なんだまたブラックサンダーだけか?」

咲「フッ。漆黒の稲妻が我の体内を駆け巡る…それ以上のことがあろうか?いやない」モグモグ

咲「」グゥゥウ

咲「いやいまのはちがっ」アタフタ

京太郎「お前お菓子ばっかだもんな…だからお小遣いもすぐなくなってこうなんだよ」

咲「ちがうぅぅぅぅ」

和「……よろしければいかがですか?多めに作ってしまったので」

咲「っ」パァァア

咲「う、ウム。口直しには丁度良い。然らば貴様の料理の腕前、仕方なく確かめてやるとしよう。我がゴッド・タンでな!」

和「あーん↑」スッ

咲「あーんっ」

和「あーん↓」サッ

咲「あーん!」

和「あーん↑」スッ

咲「あーーーーー」

和「あーん↓」サッ

咲「ふざけんなーーーーーーー」

和「……っ」ゾクゾク

咲「こんなものーーーーーーー!」ガシッ

京太郎「おいおい手づかみかよ…」

優希「今のはさすがにのどちゃんが悪いじょ…」

咲「むわーーーーーーーーーー!」ムシャムシャ

咲「……おいしい」

和「そうですか。よかったです。手は拭いてくださいね」

咲「貴様!原田とか言ったな!やるではないか!」

和「原村です。空腹のせいで腑抜けられても…困りますから」

優希「のどちゃんは私の嫁だじぇ!」

京太郎「よ、嫁?」

京太郎「嫁かァ……」

咲「フン、我が妾にしてやろうか?ン?光栄に咽び泣くがよいぞ」

和「いいですよ」

咲「ホ?」

和「では」バッ

咲「ギャァーーーーッ!?ちょ、まっ!?」

和「冗談です」

咲「こ、こいつ…!」

優希「残念ながらのどちゃんは男より…」

京太郎「うーん…」

京太郎「ってアレ?俺の肉まんは?」

京太郎「おいタコス」

優希「私じゃないじょ!奪おうとしたらもうなかった!」

京太郎「じゃーだれが…」

咲「まむまむ」

京太郎「お前かよぉぉぉぉおお」

 放課後

久「はいちゅーもーく。タコス食ってる子も寝てる子も謎の本読んでる子もあつまれー」

優希「む」

咲「フン…」

和「ふわ」

京太郎「なにその…なっさけない顔の枕」

和「マイ枕です」

久「というわけで。来月頭に県予選あるんでヨロシク」

優希「PC使うじぇ!」

優希「…え、なにこいつ。咲ちゃん並におかしいじぇ…」カチカチ

久「龍門渕の天江衣ね」

久「去年、名門風越の連続出場を妨げた脅威のニューフェイスよ」

久「風越が惨敗を喫した龍門渕のレギュラー…去年の一年よ。つまり今年も全員出てくる」

優希「ん~…まー咲ちゃんとのどちゃんがどーにかしてくれるじょ。今年はうちが胸囲のニューフェイス!」

咲「面倒事は御免被りたいのだがな…世界がそうはさせてくれんのだろうな…」トオイメ

京太郎「そいうや今日は染谷先輩こないんすか?」

久「ああ、忘れてた。素で」

京太郎「先輩…」

久「まこの家が雀荘でね。バイト足らないらしいのよ。宮永さんと和ヘルプヨロ」

咲「ホ?」

和「は?」

京太郎「部長はいかないんですか」

久「ほら、私まだ18歳なってないから。学校祭の準備もあるし」

咲「我はまァ一万とんで15歳だからかまわんのだが…原岡はまだ15であろう?」

和「原村です。優希と混ぜないでください」

久「んじゃひとりでいく?」

咲「よろしくな!」

和「……」ジトー

咲「うっ」タジッ

和「……まぁいいですけど」

久「部員以外の打ち方見るのも勉強よ?」

咲「フン…ものは言いようだな」

久「県予選に向けての特訓ってことで!」

咲「よく回る舌だ…」

和「……」スタスタ

咲「あ、待て!」タタタッ

 麻雀ルーフトップ

まこ「おーこっちじゃ」

まこ「これ着んさい」

和「これ…なんですか?」

まこ「メイド服じゃ。こうでもせんとやっていけんからのー。メイド雀荘じゃ!」

和「……悪くはないですね」

咲「ウム」ガシャガシャ

まこ「なんじゃその格好」

咲「ン?その辺にあった甲冑」

和「なぜその辺に甲冑が…」

まこ「渡した服は?」

咲「ああああああんな破廉恥なもの着られるかっ」

まこ「…まーええわ」

和「よくはないような…」

まこ「んじゃさっそく入ってきんさい。ここはノーレートじゃけえ」

咲(面倒だし家族麻雀で身につけた接待麻雀でいいかな)

まこ「アツシボでーす」

 ― なんやかんや ―

客「いやーお嬢ちゃんたち強いねー」

咲「それほどでも…」テレッ

 ぞわっ

まこ「いらっしゃい」

藤田「あら」

咲「……」ジロッ

藤田「今日のバイトはかわいらしいのね」

咲(有象無象…に変わりはないが…少しばかりやれそうだな…)

咲「ククッ…」ニヤリ

和(悪い顔を作ってますね宮永さん…そんな悪そうに見えないけど)

藤田「いつもの大盛り」

まこ「カツ丼ですね」

藤田「よろしく」ザッ

和「……」キッ

咲「フン」

藤田「……」ガツガツ

和「……」チャッ

藤田「ごち」ドン

咲(一トン爆弾かな…?カツ丼おいしそー)

藤田「……」チャッ

まこ(三面張…良形で聴牌じゃな)

藤田「……」スチャ タン

まこ(リーチせず?)

客「よし、リーチ」

和(手が伸びきらないうちの親リー…逃げ切りたいのに)

和(宮永さんの打牌を見る限りじゃ萬子は切りづらい…)

和(かといってこっちは親に対して切れない…ここは二筒対子落とし)タン

藤田「……」

藤田(いい読みだ。が、故に惜しいな。負けの目を避ける打ち方はそれだけ勝ちから遠ざかる)

藤田(さて、こっちは…)

咲「ククク…」

藤田(何考えてんだかわかんねーな)

藤田「……」キュ

藤田(ふむ…)

藤田「カン!」ニヤッ

和「!?」

咲「……」

和(親リー相手にカンだなんて…!)

藤田「……」スッ カッ

藤田「……」タン

咲「…おい、有象無象」

藤田「――っ!」ゾワッ

咲「魔王が領分をこうも易々と侵すとはな。――縊り殺されても文句は言えんぞ?」ゴッ

藤田(この感じ…!天江衣と同じ…!?)

咲「王牌…読んで字が如く、王のみが使うことの許される領域。そこに踏み入って只で帰れると思うなよ…!」ズズ…

藤田(久…まさかこいつもそうだというのか…?)

藤田(牌に愛されし子――!)

咲「この半荘はくれてやる」フッ

和「……?」タン

藤田「…ロンだ」

和「!」

藤田「タンヤオドラ1…60符、3900」

和(三面張を捨てて私の二筒対子落としを狙い打ち…!?)

藤田「まくった、か」

まこ(この打ち方は和にゃ理解できんじゃろーのう…しかしこっちは)

咲「脱ぐぞ」

和「!?」

咲「グッ…甲冑邪魔…かがみづら…」ガッチャガチャ

まこ「くつした…?なんでそがぁなこと…」

咲「我が力をこの魔足布によって封じておったのよ」ニヤリ

まこ「どっからどうみてもふつーのくつしたじゃけえ…」

藤田(なるほど…フットレスがうんぬん)

和「……」ゴクリ

咲「さぁて…征くぞ、十把一絡げの有象無象よ。――せめてもの抵抗くらいはしてくれよ?」ゴッ

藤田「……!」ゾクゾク

 清澄

京太郎「はァ…和のコスプレみてーなー」

優希「そんなコトもあろーかと鹿老渡!」

京太郎「あん?」

優希「服借りてきてるじぇ!」

京太郎「ふーん」

優希「ほれパンチラ」ピラッ

京太郎「パンツ…?」

久「なに馬鹿なことやってんのよ」

京太郎「あいつら大丈夫かなァ」

優希「心配無用だじぇ。咲ちゃんがいるし今頃二人とも勝ちまくってるんじゃないか?」

久「それじゃ特訓にならないでしょ」フフ

久「ちょーっと知り合いのプロに頼んでね。あの二人をヘコませるように…」pipipi

久「んー?まこかしら」

久「もしもし?」

藤田『負けました。なにあいつやべーよ天江衣並じゃんかよ』

久「は?」

藤田『もーやすこカツ丼やけ食いするぅ~~~~~~!』ブチッ

久「……」

京太郎「なんて?」

久「うん。順調ね。順調順調…」

咲「フフハ!実に愉快痛快!」

和「……」

和(まだ県予選まで10日ある…強くならないと!)

咲「愉悦~喜悦~♪」

和「……」カチッ


咲『我が力によりて一切合切無に帰すがいい!…うーん違うなぁ…我の手に…無尽…』ブツブツ


咲「…ホ?」

和「……」カチッカチッカチッ


咲『我が力により『我が力『我がち『我が力によりて――』


咲「やめてええええええええええ」

和「……」ゾクゾク

咲「なんでそんなことするのぉぉ!?やめてよ消してよぉぉ!」

和「特に理由はありません」カチカチ

咲「いやああああああああ!」

和「なんならうちに来ます?振りつきの動画もありますよ?」

咲「鬼畜ぅぅぅぅううう!うわあああああああああん」

和(ああ…堪らない…っ)ウットリ


久「…さっさと来い……」イライラ

 カン!

久「強化合宿やる。異論は認めない」

和「はぁ…」

優希「合宿!修行パートだじぇ!」

咲「くだらん…」ペラッ

久「もう合宿棟は押さえてあるわ」

京太郎「なに読んでんの咲?」

咲「Weekly麻雀TODAYだ。父君が買ってきたので暇潰しに、な」ペラッ

京太郎「ふーん」

久「そこ!無駄口叩くな!強くなりたくはないのか!?」

咲「莫迦莫迦しい…我はすでにさいつよ…修行など弱者の考え…ン?」ペラッ


『高校麻雀特集!女子編注目選手ピックアップ “天照大神”』


咲「……」ペラッ


『昨年、突如として現れた長野のモンスター 天江衣』
『言わずと知れたインハイ王者、今最強の女子高生 宮永照』
『白糸台の期待の新星、希代の才覚 大星淡』
『その闘牌、神懸かり!鹿児島の巫女雀士 神代小蒔』


咲「……は?咲の字は?」

咲「ん~~~~…視力悪くなったかなぁ」ゴシゴシ

咲「……は?」

咲「おいおいおいおいおい。正気?」

咲「姉君はわかる、百歩譲って。この、ティェン・チアンイー?とか大星タン?とか神代小蒔とか誰それ?」

咲「天照大神とか明らかに名前負けしてるよ。咲照咲咲でいいでしょこれ」

咲「名前が格好いいだけに不快ここに極まれりだよ」

和「ああ。それ私もインタビューされましたね」

咲「…こんなことは許されない」

和「宮永さんは現時点じゃ無名の有象無象ですから。有象無象」

咲「……」

和「この評価を有象無象ひっくり返すには…全国に有象無象いくしかないですよ有象無象」

咲「うぞむぞうぞむぞ五月蠅いよっ!」

和「あら、すみません。つい有象無象が出ちゃってました。私有象無象なので」

咲「ぐぬぬ…こうなったら…全部ゴッ倒す!」

久「その意気よー宮永さん」

久「合宿で強くなって…全国いくわよー!」

まこ優希京「おーっ!」

和「おー」

咲「応ッ!!」ゴッ

和「――ただいま帰りました」ガチャ

和「……」パチッ

 しーん

和(今日も遅いんだ…)

和(……)

和「そうと決まったら宮永さんのなっさけない動画や音声、画像を整理しましょうかね」

和父『いや回想しろよ』

 清澄

久「そんじゃ、合宿に入るまでに各個の問題点を確認するわよ」

久「それぞれ配ったプリント見て自分の課題を確認してねー」

和「リアル情報…」

まこ「咲の存在とかかのう」ニヤッ

和「……」チラッ

咲「?」

和「ありえませんね」

まこ「ほうかのー」

和「まぁ…ツモ切りの動作等は極めて損はありませんから。やりますよ」

咲「我の欄だけ白紙なのだが…?」

久「あーうん。あなたは自ら見つけること。今こそ己を見つめ直すのよ!」

まこ(テキトーすぎじゃろ…)

咲「ム。此度は我自身が敵ということか…クク、滾る!」

まこ(えー…)

まこ「よかったのう、今年は有望な一年が四人も入ってくれて」

久「ここらへんで麻雀やる子は風越とかにいくからねえ」

まこ「県ベスト8くらいには残れるとええのう」

久「なに言ってんの。私は今年で最後…全国優勝の夢をみさせてよ」

まこ「…ほーか」

久「それに…」

久(うちにはごっついのがいるしねぇ…)

まこ(咲がおるからなぁ…)

京太郎「とりあえずネト麻でもやり方覚えてみろよ」

咲「ウム」

京太郎「こうやって…」

咲「ニックネーム…『雀魔王アウフブリューエン』っと」カチッ シュゥゥゥン…

咲「あれ?おい京の字よ。此奴、ボタンを押した瞬間に気絶しおったぞ?」

京太郎「はぁ?電源落ちたか?お前なにやったんだよ」

咲「ボタン押しただけ」

京太郎「機械オンチってレベルじゃねーぞ…」

和「……」キュ

和「……」スッ

和「……」ピシッ

和「……」キュ

和「……っ」ズキッ

 ポロッ

和「……!」ダッ

 ばふっ

和「……」

和(負けたら…)

和(…宮永さんのなっさけない泣き顔、しかもとびきりすごいのが見れる…?)

和(だめだめ!そしたらそれを最後に、ここにはいられない――)

和「……」キュ


咲「るうむを作ってメンバーをぼしゅー…?何言ってんだコイツ…?」カチカチ

京太郎「まだ始まってすらいねーのかよ…」


 そして――強化合宿の幕が開ける――

これで一巻分っすよ…



まこ「合宿風景?そがぁなもん誰も見たくないじゃろ」



 県予選初日――

久「合宿から6日…やれるだけのことはやった!」

久「さァ…行こうか!」

「「「おー!」」」


 会場

京太郎「うーわー…人多いなー」

久「年々増えるわねー」

優希「咲ちゃんがいないじょー」

和「え?」

久「はぐれたかー。あいかわらず抜けてるわねー」

まこ「あいつはケータイもっちょらんけぇのう」


 会場内・某所

咲「……」

美穂子「……」

睦月「……」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … 


咲(……此奴等――尋常の者では無い!!)

美穂子「…こんにちは」ニコッ

睦月「どうも」ペコッ

咲「あァ」

咲(こっちのセーラーの方…封じられしその右目――幽かに魔性が洩れている…っ!)

美穂子「私はすこしお手洗いにと思ったんですが…お二人は?」

睦月「うむ。私もだ」

咲(こちらのブレザーは一見して凡人…しかし我には理解!此奴は牌を握ることで真価を発揮する者!!)

美穂子「あなたは?」ニコッ

咲「……」ジロリ

美穂子「あら、こわいわ」

咲「隠してないで、見せたら如何だ?」

美穂子「…なにをかしら?」

咲「狸めが。その…」ピッ

咲「右瞳、宿しているんだろう?」

美穂子「……」

美穂子「…そう。どうしてか…あなたには隠せないようね…?」スゥー…

咲「ッ!?」ザワッ

咲(この威圧感…此奴――人の理の外側に身を置く者か――!?)

美穂子「……」…ゥー…カッ!!

咲「そ…それは…!!」

睦月「…魔眼」ポツリ

美穂子「――そう。忌避すべき魔性の瞳…魔眼。あなたたちは…私の視線に多少は耐えられるようね?普通ならば即死してもおかしくはないのだけれども」

睦月「うむ…凄まじい圧だ…さすがに牌がなければ厳しいか……」

咲「……」

美穂子「あらあら?泣いちゃったかしら?」クスクス

咲「……フ」

美穂子「?」

咲「フフハッ!!愉悦ッ!此を愉悦と言わずして如何するッ!?」

美穂子「!?」

咲「是非に及ばず……魔眼の女神よ、我が面前に伏すがよい。魔王が許す、道化てみせろ――!」

美穂子「くっ…なんて傲岸な!」

華菜「キャプテーン…なにやってるんですかぁ~」

美穂子「あっ///華菜いたの!?見てた…?」

華菜「ばっちり」

美穂子「わっ、わすれて!ごめんなさいね二人とも…私はちょっと後輩が呼びにきたので抜けるわね…」カァー

睦月「う、うむ」

美穂子「それじゃ…」ソソクサ

華菜「キャプテン…その歳になってそのヘンな趣味はやめた方がいいですよ…」

美穂子「いいじゃない、楽しいんだから…」

智美「お、むっきーこんなところにいたのかー」ワハハ

睦月「部長!」

睦月(よかった、後すこし遅かったら私も見られてた…危ない危ない。あんなの見られてたら学校いけないよ)

智美「はやくいくぞー」

睦月「すみません。その前にトイレに」

咲「……」ポツーン

咲(あの人たち、名前聞いとけばよかったなぁ。どこの学校の人だろ?)

咲「じゃないや。我もはやく戻らない…と…」

和「……」●REC ジー

咲「……あの、いつから?」

和「わりと最初の方からですが」●REC

咲「止めろ!撮んな!カメラ止めろ!おい!」バタバタ

和「はやく戻りますよ」

久「和まだかしら…」

まこ「和がおれば大丈夫じゃろ」

 ワァァァァァァ!

モブ「風越女子だ!」

モブ「去年は県二位!部員80名を擁する強豪…!」

美穂子「……」スタスタ

美穂子(この野次馬を極太ビームで薙ぎ払えたら…『オプティックブラスト』!!…なんてね)

美穂子「あら」

久(でたな…)

モブ「龍門渕がきたぞ…!」

モブ「前年度県予選優勝校――!」

モブ「昨年の四天王は二年になっても健在だ――ッ!!」

美穂子(四天王…最弱はだれかしら)

一「あーぁ…ボク目立つの苦手だなー」

透華「なにをいってますの!?目立ってなんぼですわ!さァ、奇行なさい!」

一「やだよ…」

藤田「天江衣がいないな」

西田記者「藤田プロ!」

藤田「こんにちは」

西田記者「今日は解説ですか」

藤田「ですです」

西田記者「団体は風越・龍門渕の一騎打ちですかね」

藤田「どーだろうな」

西田記者「やはり見所は天江衣ですか」

藤田「まぁ、そうなるだろうが…」

西田記者「珍しく歯切れが悪いですね?」

藤田「いやなに。魔物はひとりではないからな」

西田記者「?」

藤田「さてさて…」

西田記者「あっ!原村和!」ビシッ

和「戻りました」

久「遅かったわね…咲は?」

和「え?」クルッ

和「……」キョロキョロ

和「……どうやらまたはぐれたみたいで」

久「なにやってんのよ…」

和「さっきまで手を握ってたのに…あの人はワープでも使えるんですか」

咲「まったく…ハラショーの奴め、私からはぐれるとは愚か者め」

咲「この建物も造りが複雑怪奇すぎて苛々する。貫してやろうか…」


純「衣おせーなァ」

透華「また目覚ましを壊してるに違いありませんわ」

純「オレ、昨日あいつんトコいって目覚まし尽くしにしてやったんだぞ。文字通り」

一「うわぁ」

咲(うわ…なんか不良っぽい人たちだ…)

咲(アテとこ)ズアッ


純「っ!!」ゾク

一「!!」ゾワワ

透華「ッ!?」ゾゾゾ

透華「っ」バッ


咲「……」トテトテ

一「……」

純「……」

智紀「…清澄高校の制服」ボソッ

純「! じゃああれが原村和か!?」

透華「いえ…原村和はもっとこう、胸のあたりに無駄な脂肪がついたカンジですわ」

一「衣に似た空気を感じたよ…」


咲「…クッ!まだッ…まだだ…!収まれ…我が内に秘めたる暴虐よ…っ!!」ヨロッ


一「…あー」

純「考えたくはねーが…」

透華「まさか…衣みたいなのがそうそう他にいてはたまりませんわ…」

咲「あ、いた」

和「戻ってきましたね」

久「あなたねぇ…連れ戻しにいった和からさらにはぐれるってどんだけよ…」

咲「はぐれたのはハラミの方だ」

和「原村です。どう酌量してもみんなからはぐれてるのは宮永さんですけど」

咲「ぐぬぬ…」

咲「…フッ。しかし凄いな」

和「?」

咲「面白そうな奴輩がそこそこおったわ。見所も十二分!我も胸が躍る…!」

和「…躍るほど胸はないのでは」

咲「は?」

和「いえ」

久「まぁまぁ。これが全国制覇への初めの一歩よ。気合いれていきましょう!」

まこ優希京「おー!」

和「おー」

咲「クク…戯れてくれるわ」

咲(死に物狂いで乗り越えた合宿の…)

咲(あれ?そーいえば私普通に打つかパソコンと格闘してただけなような…)

咲(…合宿?知らんな。我が勝つ。それが必定)


久「変わったわね、あの子」

まこ「本音でいうてみい」

久「変人っぷりは変わらないわね、あの子」

まこ「うむ」


久「その時その時のメンバーが対局室で正々堂々打ち、」

久「他のメンバーはこの観戦室のモニターで観る」

京太郎「応援の声が届かないのはつらいっすね」

久「んじゃオーダー発表~」

久「先鋒優希、次鋒まこ、中堅私、副将和、大将咲ね」

咲「フン、妥当か。まァ、本来であれば先鋒我次鋒我中堅我副将我大将我が理想なのだがな」

和「なにをたわけたこと言ってるんですか」

久「一回戦で残りが16校に、午後からの二回戦で4校までふるいにかけられるわ」

優希「うちみっけー」

咲「有象無象めが…」

和「たしかに、中学の時よりはるかに多いですね」

まこ「激戦区の大阪に比べりゃ大したもんでもないがのう」

門松「一回戦ぬるいなー」

田中「らくしょーじゃん」

田中「清澄ってあれでしょ。原村和」

門松「あー。胸がでかいだけのやつっしょ」

田中「他は冴えないやつばっかだし、マジちょろいわー」


咲「……」ズアッ


門松「ぬるるるるるるるるる」ガクガク

田中「ちょろろろろろろろろ」ビクビク


咲「フン…」


優希「大儲けだじょー」にぱ~


まこ「こんなもんじゃな。おつかれ!」


久「んじゃいってくるわ」

京太郎「がんばってください!」

久「うむ」

久「咲と和はなんか食べてきなさい。バナナとかバナナとかバナナとか」

和「はい。いきましょうか」

咲「漆黒の稲妻はないのか」

和「探せばあるいは」

咲「ウム」

和「部長なら心配いりませんしね」

咲「むしろちょっと叩かれろあの悪魔め。どうせ我にさえ回れば我らが勝つ」

和「だめですよそんなこと言ったら」


一(あの子――さっきの清澄の…)

純「透華のヤローどこほっつき歩いてんだヨ」

一「ねぇ」

純「ん?」

純「あ!おいそこの!」

咲「身体が稲妻を求めている…雷雲の中を駆け巡れとな…!」

和「死にますよ実際」

純「おい!」

咲「死ぬ?この魔王が?ハッ、失笑」

和「じゃあ逝ってみますか?」

純「おーいーっ!」

咲「五月蠅いな」

和「なんです?」

純「やっと反応しやがった…お前が原村和か?」

咲「は?そんな名前の奴は知らぬ」

和「私です」

純「……」

一「……」

純「こっちか!」

和「そーですよ」

純「透華はなんでこんなの意識してんだ?」

一「『こんなの』は失礼でしょ」

純「じゃあお前はなんなんだ!」ビシッ

咲「痴れ者めが。魔王の御前ぞ」

純「……」

一「…やばくないこれ?」

純「…考えたくはないが……」

咲「……」ズアッ

一「」ビクン

純「お、おう!時間取らせてわるかったな!んじゃ!」ダッ

いつの間にか書き溜め尽きてたっす

咲「…なんだったんだ彼奴等は」

和「……龍門渕高校」

咲「なにそれ」

和「……」ハァー

アナウンス『E卓中堅戦終了です』

咲「ム」

和「部長、終わったみたいですね。ずいぶん早かったですが…」

咲「よもやトんだのではなかろうな…」

和「まさか。次は私ですし急ぎましょう」ダダダ(全力疾走)

咲「あっ!ちょ、置いてくな!」トテテ

純「…あの短髪…」

一「これはいよいよもしかするかもしれないね…。それに原村和…彼女が、本当に透華の言う通りのどっちだとしたら…」

純「…いや。透華には悪いが、のどっちどころじゃねえかもな…」

一「…少なくとも、もう一人の方、彼女が龍門渕の脅威になりうることはほぼ確定的だからね」

純「たとえ相手が誰であろうと…うちら五人に負けはないけどな」

一「まぁ今は透華も衣もいないんだけどね」

純「そうだった!あいつらァ~~~~」

久「ただいま~」

和「ずいぶん早かったんですね」

まこ「安い手ばかりで回しよったからのう」

久「次はあなたの番よ、和」

和「はい」

久「私より早く決めちゃいなさい」

和「…はいっ!」

和「では行ってきます!」ギュ

咲「ぁいたたたた!なに!?なにすんの!?」

和「すみません。エトペンと間違えました」

京太郎「本物はこっちな」

和「ありがとうございます」

咲「え、なに?このなっさけない顔した謎の生命体Xと我を間違えたと申すか?」

和「行ってきます!」

咲「おい!聞け!答えろ!おいっ!」

モブ「原村和がやるってよ」

モブ「どこ?」

モブ「E卓」

モブ「清澄ってどこ?」

モブ「なんでそんなとこ行ったんだろ」


咲「……」イライラ

京太郎「落ち着けよ…」

咲「有象無象が増えてきた。煩い、酸素濃度が薄くなる」

透華「……」

透華(ホホホ…潜入成功ですわ!)

透華(原村和がこんなに人気なのは気に入りませんが…その実力――)

透華(いかほどのものか、はっきり見させていただきますわ!)


モブ「おい…前列のあれ…」

モブ「バカ!見るな!」

モブ「いや…サングラスにトゲ付き肩パッドにマントって…」

モブ「関わったら死ぬほど後悔するぞ!」

和「よろしくお願いします」


稔「なんでしょうかあのぬいぐるみは」

藤田「なっさけない顔だな」

稔「今検査が行われているようですが…」

稔「おっと、問題ないようですねー。あれはなんなんでしょうか藤田プロ」

藤田「私に聞くなよ」

藤田(久の入れ知恵か?)

久「うけてるうけてる」

まこ「ほうか…?」

優希「がんばれ~」

久(部室で寝る時にも抱いてるくらいだからもしかしたらと思って持たせたけど…さてさて、本番での効果の程はどうかしらね?)

久「まぁ半分くらいはネタのつもりだったけど」

まこ京「……」

久「まぁまぁ。実際合宿中は効果が見られたんだから試す価値はあるでしょ?」

久「さ。あの卓にネット最強と噂に高いのどっちが降臨するわよ」



まこ「まー対局中のこたぁ原作の方を読んでくれい」


和「戻りました」

久「おつかれさま。どうだった?」

和「はい。おそらく高い手を張っていた今宮女子の人がノミ手でそれを流された時の顔…最高でした」

久「お、おう」

和「でもやはり一番は宮永さんですね」

久「お、おう」

透華「いちだいじですわっ!」

一「あ、帰ってきた」

純「なんだその…世紀末な格好は」

透華「やはり原村和はのどっちでしたわ!」

一「そのことなんだけどさ…わぷっ」

純「待てよ国広君」ムギュ

純「…今透華のやつに例の短髪のこと話したらどうなると思う?」ボソボソ

一「…たぶん今度はそっちを見にどっか行くね」ボソボソ

純「…だろ。とりあえず黙っとこうぜ」ボソ

透華「原村和がのどっちならば…私が圧勝できませんわ!」キィー

純「大した自信だなぁ」

一「透華は副将だから原村和と当たるんだね」

透華「アイドル決定戦ですわね」

一「アハハ…」

和「ぶっちゃけもはや宮永さんの出る幕でもないですけど」

久「さ、一回戦のラスト、締めてきちゃいなさい」


咲「ウム。――それでは派手に参ろうか!」ザッ



 ざわ・・・  ざわ・・・

モブ「おい聞いたか!」

モブ「なにが?」

モブ「清澄高校だよ!」

モブ「原村和?」


透華「また原村ですの!?」キィ-

モブ「ちげぇーよ!原村の次に出てきた五人目!」

モブ「五人目?」


純「!」

一「!!」


モブ「そいつがやべーんだよ!他の三校をまったいらにした上で親の役満ツモって他校を全部トばしたんだよ!」

モブ「え、なにそれ魔王じゃん…」


純「……」

一「…そんな目でこっちを見ないでよ」

純「…すまん」

透華「は!?なんですのそれは!?」

智紀「…こいつぁやべぇナ」

久「――では一回戦突破を祝して!乾杯!」

「「「カンパーイ」」」

優希「しっかし咲ちゃんにはおったまげたじょ」

まこ「各所じゃ早くも魔王とか呼ばれとるみたいじゃのう」

咲「クフフ…おべっか使うのはよせ。もっと褒め称えろ」

和「どっちなんですか」

咲「おべっか倍プッシュだ!」

和「もっと考えてから口を開きましょうね」

咲「クク…他者を蹂躙する…麻雀って楽しいよね!」

咲「この調子で天江衣もゴッ倒してくれるわ…クッフフハ!!」


藤田「やべーよあいつ…とてもじゃねーけど入っていけねーよ…」

藤田(あいつは大将だったか…このまま決勝までいくと…)

藤田(天江衣が壊されかねない――!!)

久「あんま増長されるのもねー…約束の前にうっかり手が滑って全国ネットにあの音声がアップしちゃうかも」

咲「ちょっとおおおおおお!約束は守るものでしょう!?」

久「仕方ないわよ。人間なんだから時にはミスもあるわ」

咲「ふ、フン。致し方なし。手心のひとつも加えてやるのも強者の務め。のぶれすおぶりーじゅというやつよな」

和「ちょっと違いますけどね」

咲「揚げ足取るな」

和「足といえば…なんで宮永さんは裸足で歩きまわってるんですか?」

咲「ン?では逆に訊くが、これから戦に赴く者がその身に戒めを負ったまま戦場に出ると思うか?」

和「ちょっと何言ってるかわかりませんね」

咲「脳足りんめ。臨戦態勢というやつだ。まったく、栄養は全部この胸に行ってるのではないか」モニュ

和「……」ジロリ

咲「……エヘ」

和「公共の場ですよ、まったく」

久「なにバカなことやってんのよ…」

アナウンス『間もなく二回戦がはじまります』

優希「む」

久「よし。行こうか!」

「「「はいっ!」」」

 カン!

カンは投下の区切りだったり本当に終わったりする
とりあえず県予選まではやる予定

京太郎「うわ…がらがら」

久「そりゃそうよ。二回戦からはシード校が出てくるもの、ほとんどの人は風越と龍門渕を見に行くでしょ」


 なんやかんやで四時間が経ち――

モブ子「もう麻雀やめるっ!」ダッ

稔「二回戦H卓終了―――!」

稔「圧勝!風越女子―――!伝統の風越が帰ってきたッ!」

美穂子「おつかれさま、華菜」

華菜「ありがとうございますキャプテン」


モブ「風越すげー!」

モブ「今年は龍門渕もあぶねーぞ!」


華菜(もっと言ってもっと…!)

美穂子「明日もこの調子で頑張って」

華菜「はいっ!」


 風越控室

 パァン!

美穂子「……」

久保「なんださっきの試合は!キャプテンのお前が生ぬるいから下があんな打ち方するんだ!」

 ざわっ

久保「池田ァァッ!」クルッ

華菜「は、はいっ!」

久保「てめぇさっきの…池田ァァッ!」

華菜「っ」ビクッ

久保「相手がちょろかったからお前…池田ァァッ!」グイッ

華菜「うぅ…」

久保「あんな腑抜けたなぁ…打ち方…お前、池田ァァッ!」ギリギリ

華菜「……っ」

久保「去年もお前…アレがなんだ、そんな感じでうちの伝統によォ…なぁ池田ァァッ!?」

美穂子「――おやめなさい」フッ

久保「あァ!?」

美穂子「彼女のミスは私のミス…殴るのは私だけにしてください」ググッ

久保「……」

美穂子「池田は校内ランキング二位…OBとの勝率も三割強。先程の打ち方だって状況を鑑みれば最善の選択でした」

華菜(きゃ、キャプテン…!)ジワッ

美穂子「…それに――去年の天江衣…あれはもはやヒトの為せる業では有り得なかった…魔物でも憑いて…いえ、魔物そのものといっても過言ではなかった。あれには私でさえ喰われていたかも…」

未春(キャプテン…なんだか楽しそう)

華菜(助けてもらって嬉しいけどなんかフクザツ…)

美穂子「でも、華菜はその魔物を前にして尚心折れずに、この一年反省と研鑽を積み重ねてきました。そんな彼女を――私は誇りに思っています」フンス

久保「あーそーかい」チッ

久保「帰ったらみっちりミーティングだからな!」バターン

文堂「キャプテン!」

美穂子「…他の三校は?」

未春「え?」

美穂子「他の三校は決まった?」

未春「あ、はい。龍門渕は当然として、他は鶴賀学園と清澄高校というところです」

美穂子「龍門渕は上がってきたのね。よかった」ニコリ

文堂「……」

未春「……」

美穂子「卓上でつけられた敗北の屈辱…雪ぐにはやはり卓上――対局でしかないわ」

美穂子「龍門渕…さぁ、昨年のリベンジといきましょう」

美穂子「コーチにも龍門渕にも…遍くすべてに見せつけるのよ。我々風越が、真に最強だということを――!」ウキウキ

華菜(キャプテンたのしそうだなぁ…)

親父「へいラーメンお待ち」

久「私のおごりだから決勝に備えてたっぷり食べなさいね」

優希「おいしそーだじぇ」

和「……」

咲「クク…禍々しさすら感じるこのどろりとしたスープ…暴力的なまでに存在感を放つ叉焼…慾望と混沌から這い出る麺…何気に美味いしなちく…堪らんなぁ」

和「……」チラッ

咲「クク…」フーフーフーフーフー

優希「のどちゃんはラーメンはじめてか?」

和「ら、ラーメンくらい知ってますっ」チラッチラッ

優希「そーか」ズズ ズルルル

咲「あち」フーフーフーフーフー

和「……」スッ チュルル

和(おいしい…)

優希「親父おかわりー!」

咲「むぐっ、おごりならば負けられグフォ…っ」ゲホゲホ

まこ「みんな思うたより緊張しとらんのう」

久「今はね。私は今夜あたり部屋の隅で膝抱えて震えるわ」

まこ「そりゃ…本気でも冗談でも笑えんのぅ…」

久「あら、私だって繊細な女の子なのよ?」

咲「ブフッ」

久「…あー、今夜あたりミスってなんか流出しそー」

咲「ちがっ!今のは笑ったとかじゃなくて…そう!麺が気管に…あちっ!」アタフタ

和「おかわりお願いします。この特盛というのを」ドン

親父「おう」

優希「親父タコスラーメン!」

親父「あるよ」


 宮永家

咲「クク…それでは父君よ、我はしばしの眠りに就く故」

界「であるか…ゆるりと休むがよい…今は、な。クク…」


咲「つかれたよー」ボフン

咲(つかれた…けど…楽しかったなぁ…)スゥ…


 そして――決勝戦当日――

咲「ム。貴様か」

和「……」スタスタ

咲「待て!おい!んぎゃっ!はぁぁ、一段踏み外したっ、死んだかと思っ…ンンッ、黄泉路を渡ることになるかと思うたわ」

和「……」ゾクゾク

優希「おーう二人ともおはよーだじぇ!」チリンチリン

和「おはようございます」

咲「ウム」

久「んじゃいくわよー忘れ物とかない?」

まこ「大丈夫じゃ」

京太郎「ウッス」

久「よーし!全員乗り込めー」


稔「さぁ!ついに始まりました県予選決勝戦!」

稔「泣いても笑っても全国にいけるのは一校のみ!」

稔「今年はどんな戦いを見せてくれるのか…!!」

 カン!

別居理由が親父の厨二病だって母ちゃんが言ってた。しらんけど

久「一人半荘二回ね」

優希「タコスがない」

京太郎「買ってくるわ」

優希「まかせたじぇ」

優希「いってくる!」


華菜「キャプテンがんばってください!」

美穂子「……」ニコッ


佳織「が…がんばってぇ…」

睦月「うむ…私なりに精一杯」


純「ちょっくら遊んでくるわ」


稔「清澄からは一年片岡優希、風越からは三年福路美穂子、鶴賀からは二年津山睦月、龍門渕からは井上純!」

稔「決勝先鋒戦――間もなく開始です!」


優希「タコス持ち込んでもいい?」

係員「開始までに食えよ」

優希(やっぱり一個だけじゃ不安だじょ)

純「うめえ」

優希「」

美穂子「タコさんウィンナーならあるわよ」

優希「マジか」

美穂子「はい」ジャン

優希(タコと名の付くものはすべて私の力になる)モグモグ


稔「決勝先鋒戦、開始です!!」

文堂「キャプテン…どうして敵にお弁当をあげたりなんか…」

華菜「キャプテンがそういう人なのは一年生でもわかってることだろ」

純代「……」

華菜「いつも部室の掃除をしてたのは?」

文堂「キャ、キャプテンです…」

華菜「合宿の買い出しに行ってたのは?」

文堂「キャプテンです」

華菜「みんなの分の洗濯をやっていたのは…」

文堂「キャプテンです!」

華菜「一人になると途端に痛々しい一人芝居を始めてたのは!?」

文堂「キャプテンです!!」

華菜「この前部室で見つけた長ったらしい必殺技名がつらつらと書き連ねてあったノートの持ち主はっ!?」

文堂「キャプテンですッッッ!!!」

「「「……」」」

文堂「私…たまりかねてキャプテンに聞いたことがあるんです…」


文堂『キャプテン!キャプテンとの会話中によくわからない単語がしばしば出ますが、あれは一体なんなんですか!?』

美穂子『あら?』

文堂『私…調べても出てこなくてすごく気になってるんです!』

美穂子『…そうね。調べてもわからないと思うわ、文堂さん』

文堂『あっ、名前…』

美穂子『だって――全部私の想像/創造だもの』ニッコリ

華菜「……」

文堂「すごい…輝かしいドヤ顔でしたよ…」

華菜「あの人らしいなぁ…」トオイメ

未春「ちょっとヘンなとこがあるけど…でもミスをかばってくれたりするし、基本的には聖母のような人だよね」

華菜「うん。これに負けたら今日がキャプテンの最後の試合になっちゃう…」

華菜「勝つしかない――勝ってキャプテンと八月を楽しむんだ!」

美穂子「……」チャ

美穂子(あまり進みがよくない…)チラッ

優希(東場では無敵を誇る私がやっと一向聴…やっぱりタコさんじゃよわいのかー?)

純(タコス女の手が進んだ…この流れは断っておきたい)

純「ポン」


まこ「なんでそこでポン!?」

久「流れを変えたいとかじゃない」

和「非科学的です…」

咲「科学など魔道の前では無力也…クク、そら、言ったそばから。あのポンが無ければタコスが聴牌だったな」

優希(ツモ切り…)タン

純「チー」

美穂子(あらら…)

睦月「……」タン

純(出すやつがいるとはな…)

純「ロン!」

純「チー」

優希(タコス力が足りないことを抜きにしてもやりづらいじょ…)タン

純「ロン」

優希「!」

優希(あれ…今南場だっけ…?)

純「ツモ!」

優希(東場なのに…全然和了れないじょ…)タン

純「ロンだ」

優希(このままじゃ…タコスだけじゃなくなにもかも持ってかれる――!)

稔「前半戦終了――!」


優希(だめだじょ…)

純(物足りない)

美穂子(どうしましょうか…)

睦月「……」フゥ

美穂子「……」ペコリ スッ

優希(一回も和了れなかった…)

京太郎「なにしょぼくれてんだよ!」

優希「じょ?」

京太郎「遅くなって悪かったな。ほれタコス」

優希「おお!でかした、えらいぞ京太郎!」

京太郎「まぁ俺もタコスは嫌いじゃないしな」

優希「なぬ?お前もタコス好きの呪われし血族か?」モシャモシャ

京太郎「呪われてねーよメキシコに謝れ」


咲「ム…成程な。漆黒の稲妻に魅入られた呪われし血族…悪くないぞ…クッフフ」

和「特別良くもないですよ」

稔「先鋒戦後半開始――!」


優希(タコス力は充電完了だじぇ!)

純「タコスより焼き鳥の方が似合ってるんじゃねえの?」

優希「なにおう!」

美穂子「まぁまぁ」

優希(アホぐち叩けるのも今のうち…半荘二回ということは私の得意な東場も二回あるということ!)

純(タコスにいい手がいってるか…)

睦月「……」タン

純(チッ、そいつは鳴けねぇ)

純(この差ならほっといても平気か?)タン

美穂子(彼女、調子が出てきたかしら?)タン

優希(キタ!)カッ

優希「リーチだじぇ!」

睦月「……」タン

純(――いや、ほっとけねぇ!)

純「チー!」


京太郎「なんですかあの鳴きは…」

久「前半戦でも同じようなことがあったのよね」

和「偶然ですよ…」

咲「クク…偶然も重なれば必然…その節穴を凝らしてみろ」


優希(一発ならず…)タン

睦月(發……)キュ カッ

稔「龍門渕の井上選手は不可解な鳴きが多いんですよね」

藤田「流れとかそんなんじゃね」

稔「はぁ…」

優希(結局何もできないまま南入…そーいえば合宿でもこんなコトあった…)

優希(――そうだ!諦めないこと!下を向かないこと!そしてのどちゃんがおっぱいでイカサマしてること!)

優希(それだけは何があろうと変わらないじぇ!)

優希(取り返せないとか無理とかじゃなく――今自分にできることをする!)

優希(すこしでも多く…1点でも多く終わらせる!)

優希「失礼」グルングルン

純「なんだぁ?」

美穂子(まだ大丈夫みたい)クスッ

優希「気合入れ直したじぇ!」ギャギャ

優希(ここからが勝負――!)

優希(前に進むことを諦めない…そうすれば!)チャッ

純(タコスの手が伸びていきやがる…しかも流れを変えるチャンスがない…!)タン

優希(チートイドラ3もいいけど…もっと高めだじょ!)タン

純(手出しドラ切り…。お、聴牌。リーチして脅すか)

純「リーチ!」

優希(ぐぬっ!あの捨て牌、ドラが切りづらいじょ…)

純(おそらく萬子で染めてるんだろうが…そのまま縮こまってな!)

美穂子(さて…そろそろかしら)スゥー

美穂子(――視ッ!)カッ!!

美穂子(この子の理牌のクセ、視点移動からして端の一牌を除いてすべて萬子…リーチに対してドラが切れなくて困ってるのね)クスッ

美穂子(大丈夫…私が和了へと導いてあげるわ…!)スッ タン

純(こいつ…!)

美穂子(私の魔眼――『千里眼』ディメンションサイトにかかればすべてお見透し…七筒は安牌よ)

優希(七筒は通る!)チャッ

優希「リーチ!だじぇ!」タン!

純(くそっ!しくったか!?風越の――)

美穂子「……」ニコッ

純(清澄のタコスをサポートしてオレを削る気か!)

純(だが…なんであろうと、めくりあいで勝てばいいだけのこと!)キュ

純「……!」

優希「ローン!」

純(24000…!デカいのもらっちまったな…)

美穂子「……」タン

優希「ポン!」

美穂子「……」タン

優希「チー!」

純(おいおい…!勘弁してくれよ…)タン

優希「ロン!」

純(くそっ…!)

優希(このおねーさん…)チラッ

美穂子「……!」ニコッ

優希(味方!)

純(風越がタコスを調子づかせてやがる…この流れは断たねば!)

純「ポン…」

美穂子「ロンです」

優希(おねーさんもやるじぇ…)

純(今度はこっちかよ…)

美穂子「ツモ」

優希(あ、あれ…?)

純(やっぱりこうなったか…)タン

美穂子「ロン」

純「…っ!」

純(この女…!)

優希(おねーさん…味方なんかじゃなかったじょ…!)

美穂子「ロンです――」

美穂子(オーラス…これで風越の一人勝ち…悪く思わないでね、清澄さん…これも勝負のひとつの形なのよ…)


未春「やったっ!」

華菜「キャプテンダントツだよ!」

未春「…これで」

華菜「うん…あの、利用したであろう清澄に哀しみを湛えた瞳を向けて浸ってなかったら…」

文堂「すごい稼いでくれたんですから素直に喜びましょうよ!」アセ

睦月「……」

睦月(――これでいい……)

睦月(私のトウ牌は…所詮『だれかを傷付ける為のもの』でしかないのだから…)

睦月(傍観者でいれば、少なくとも誰も傷付かない…失った点数分、私が頭を下げればそれで済む…)

睦月(果敢無むな、哀れむな、何より自らを貶めるな…安い卑下は、即ち私と共に卓を囲んだ彼女らを侮辱することになるのだから――)

睦月(…とか言ってたら負けててもなんだか楽しい…うむ、切り替えていこう)


稔「先鋒戦終了――!!風越、圧倒的リードで次鋒へバトンを渡します――!!」

ハギヨシ「衣様!」

衣「……」プラプラ

ハギヨシ「透華お嬢様がお呼びです」

衣「うん、わかってる」ピタッ

衣「透華はすこし短気すぎる」スクッ

ハギヨシ「それだけ衣様に期待しておられるのですよ」ニコッ

衣「当然…――!」パチッ…



衣「有象無象の下等生物が…衣に勝てるわけないんだからっ!!」バチチッ!! ドン




咲「――!」ゾクッ

久「? どうしたの?」

咲「……」

和「ふわわ」


咲「フハッ、成程な…化生は同類を引き寄せる、か。クク…少しは面白くなりそうだ――ッ!」ズズズ

 カン!

二巻終了
つかれるわもー

和「ふわ…」

久「和、さっきから眠そうだけど?」

和「今朝早かった上に昨日あまり眠れなくて…」

久「うーん…それは困ったわねぇ」

久「それなら仮眠室で寝てきたら?副将戦まで五時間はあるし」

和「え…でも先輩たちの応援をせずに寝るなんてさすがにできませんよ」

久「応援がないことより眠くてぬるい麻雀を打たれる方がいやよ」

まこ「ほうじゃほうじゃ」

咲「クク…そういうことだ。観念して永遠の眠りに就くがよい」

久「ついでだから咲も寝ときなさい」

咲「ホ?」

久「大将戦はもっと先になるんだから万全を期してね」

咲「ウム…まァよかろう」

優希「たーだいまー…今帰ったじぇ…」トボトボ

久「おかえり」

まこ「頑張ったのう」

優希「……」グッ

和「……」

咲「フン…我に回れば勝利は約束されたもの、とはいえ少々不甲斐ないのでは…」

和「……」ゲシッ

咲「ホッ!?」

和「宮永さん、仮眠室にいきますよ」グイッ

咲「ちょっ…脛が…ッ!」ヨロッ

和「はやくっ」グイグイ

咲「引っ張らないでっ!ほねっ、折れてるかもっあああああ!」バタバタ

優希「……」

久「あの面子相手に二位だなんて大健闘だわ」ポン

優希「……」

久「よくやった!」ニコッ

優希「……うぅ~」ジワッ

まこ「カタキはとっちゃるけえ」

優希「うわああああぁぁ!」ガバッ

久「よしよし」

咲「ぐぬぉ…青くなったらどうしてくれる…」イタタ

和「すこしは空気を読んでください。私たちがあそこにいたらゆーきも泣くに泣けないでしょう。追い討ちをかけるなんてもってのほかです」

咲「……ム」ションボリ

和「麻雀が強いのはいいことですけど、すこしは周りのことにも目をやってはどうですか?あなた一人じゃ麻雀はできないんですよ?」

咲「……」

稔『次鋒戦間もなく開始です――!』

和「もうすぐ始まりますね…はやく寝てしまいましょう」

咲「……もー寝る」バッ ゴロン ガバッ

和「あ」

布団「……」

和「……もう」

和「それにしても誰もいませんね…」サッサッ

和「スピーカーも切って…よいしょ」

和「……もう寝ましたか?」

布団「……」

和「……おやすみなさい。いっしょにがんばって、全国にいきましょうね」

布団「……」

和「……」スゥ




 がちゃ

門松「あーれれー先客いるじゃん…お?あそこで寝てるの原村じゃね?」

田中「うっわマジだ。あのクソなっさけないペンギンも一緒だし…よし、イタズラしてやるか」スッ

 がしっ!

田中「ヒッ…!?」

咲「………魔王の閨に忍び入るとは大した度胸だな…?」ギロリ

田中「お前は…!」

咲「我は今すこぶる機嫌が悪い…即刻去ね。我が貴様を貫してしまわぬ内にな…」ズアッ

田中「ちょろろろろろろろろ」ビクビク

門松「逃げるぞ!はやくしろっ!」ガシッ ダダダ

 バタン!

咲「フン…雑魚が」

咲「……やっぱりよくないのかな…でもやめられそうにないよ…」

布団「……」モゾッ


稔『風越二年吉留未春!鶴賀二年妹尾佳織!清澄二年染谷まこ!龍門渕二年沢村智紀!決勝次鋒戦、開始です――!!』


優希「全員メガネさんだじぇ」

久「文科系部活の大会だしねぇ…でも、一人メガネじゃなくなるわ」


まこ(さてと…かわいい後輩のカタキをとらにゃあな)チャッ


優希「染谷先輩はなんで試合ではメガネを外すのだ?牌が見えなくなっちゃうじょ」

久「それは原作をチェックよ」

優希「なるほどなー」

未春「リーチ」

まこ(先制されたか…さて、一向聴からこのツモ…似たシーンを見たことがある…)


稔「これは振り込みますかね」

藤田「私ならオリるが…どうするかな」


まこ「……」タン


一「オリたね」

透華「あそこから攻めるようなタワケが決勝にいるわけがありませんわ」

佳織(中…いらないよね?)タン

未春「ロン」


美穂子「リーチ一発目に二向聴から生牌の中…まさかとは思うけど…彼女、何かあるのかしら…?」

華菜「ただの素人ですよ、いけーみはるん!」


まこ(鶴賀は素人じゃったか…どうりでようわからん打ち方じゃと…)

まこ(素人の麻雀なんてよー見んから困ったのう…)

智美「あいかわらず佳織はへたっぴだなー」ワハハ

ゆみ「だが…彼女が入ってくれたおかげで我々は今こうして此処にいられる…」

智美「出れただけで満足ーとか思ってたけど、まさか決勝までこれるとはなー」

ゆみ「だな。しかし…人間の欲とは際限無きもの」

モモ「ここまできたら全国いきたいっすねー」

睦月「うむ」

智美「ワハハ、この欲張りさん共がー」

ゆみ「全国大会は八月…今日を乗り切れば妹尾を育てることもできよう」

ゆみ(そう――ここさえ乗り切れば――!)

佳織「みっつずつ…みっつずつ…」チャッ

佳織「あっ…でで、できました…!リーチします!」

未春「リーチ棒は…?」

佳織「あっ!すみません…」ドキドキ

まこ「……」キュ

まこ「――っ!」ゾクッ

まこ(八萬…これは…)チラッ

佳織「……」ドキドキ

まこ(くっ…わけわからん捨牌しよってからに…!読めん…が、これは振れんか…?)

まこ(…オリるか……)パシッ

佳織「……」チャッ

佳織「っ!」

佳織「ツモ!…です!」

佳織「裏ドラは…ありません」

まこ「手牌は…?」

佳織「あっ!」

佳織「リーチツモ…トイトイ?でしょうか…」パラッ

まこ「……っ!」

未春「そ、それは…」

智紀「……」

まこ「四暗刻じゃ…ッ!」

佳織「え?な、なんですかそれ…?」

未春「役満ですよ。子ですから32000点です」

佳織「あわわ…」

智紀(これはビギナーズラック…?いえ…そう決めつけ捨て置くのは尚早…鶴賀の…この子もまた――)

まこ(親っかぶりでマイナス16000…あそこで八萬切っとったら8000で済んどった…完全に判断ミスじゃ)

まこ(最悪の立ち上がりじゃな…)



まこ「わしのなさけのぉとこはカットじゃカット!」


京太郎「ただいま戻りましたー…ってなんすかこれ!次鋒戦なにがあったんです…?」

まこ「いやー不甲斐のぉてすまんのー。あんな打ち手がいるとは思わんかった、授業料は高くついたわ」

久「まぁしょうがないわ。あんなの誰も予想してなかったでしょうし」

優希「相手は京太郎より初心者だったじぇ」

京太郎「マジで?」ドサッ

久「お昼はさんで次は私ね。なるべく取り返すよう努力するわ」

透華「とーもーきー!なんて使えない子なのかしら!」プンプン

一「まぁまぁ…ともきーとは相性が悪い相手だったもん、しょうがないよね」

智紀「……」コクコク

智紀(只者じゃない――!とか言って通ぶって様子見てたらいつの間にか終わってたなんて言えない…)

透華「相性とか!関係ありませんわ!たとえ相手がどこであろうと龍門渕が三位だなんてあってはなりませんのよ!」

一「はいはい…」

一「ま、ボクがなんとかするからさ。まかせといてよ」

透華「…大した自信ですけど、ここから私たち二人でどこかをトバして終わらせるのはちょっと厳しいですわよ」

透華「今日ばかりは五人目にきていただかないと困りますわ!」


 タタタ…

警備員「ん?あっ、コラ!子供はそっちに入っちゃいかん!」

警備員「そっちは出場選手のみの…ん?学生証…?天江衣…ってあの…失礼しました!」

 タタタ…

警備員(あれが昨年のMVP選手…全国区の魑魅魍魎のひとり…!)

警備員(対面するとこうも…クッ…今頃になってブルってきやがったゼ…フフ)

藤田(…遅いご登場だね)

衣「――におうね、この会場」ゾゾゾ…

藤田(天江衣――!)

衣「美味そうなにおいがする――」バチッ

藤田「昼休みだからなぁ…カレーの匂いかな?」

衣「ちがうっ!衣の生贄達のにおいだ!」コロコロ

藤田「うーん…かわいいなーおまえはー」ギュッ

衣「やめろっ!抱きつくな!」

藤田「こんな子供がほしー」クンカクンカスーハースーハー

衣「こどもじゃない!ころもだ!お前なんか衣に負けたゴミ雀士のクセにっ」

藤田「なんだと?」

衣「事実だろ!」

藤田「…ほら、あの試合は変則的だったし…直接負けたわけじゃないからノーカンよノーカン」

衣「声が震えてるぞ?とゆーかその言い方だと直接やれば勝てるとでも言ってるみたいだが?三流にふさわしいめでたい脳みそだな、片腹大激痛!」

藤田「ぐぬっ…でもあの試合はホントに強いやついなかったし…」

衣「え?それって自分で弱いって認めてるようなもんじゃ…?」

藤田「……」グスン

衣「なんか噂だと片田舎の雀荘でもボロ雑巾のように大敗を喫したとかナントカ」

藤田「うっせーわ!」ゴリゴリ

衣「ギャ―――――!」


門松「やべーよ…田中はトチ狂ったままだし結局ペンギン持って来ちゃったし…」

田中「これは大竹林ですか?いえアウストラロピテクスです。あ、その北京原人ポンです、大四喜から小三元の竪穴式住居」

藤田「ん?おいそこの!」

門松「あ!」

藤田「ここは決勝進出校以外立ち入り禁止だぞ!」

衣「あ、ペンギン!」

藤田「そのなっさけない顔…たしか原村和の」

門松「お嬢ちゃん!これ欲しい?ならあげる!私から貰ったっていうのはナイショだぞー?お姉さんとの約束ネ☆んじゃ!」ドヒューン

藤田「…なんだありゃ」

衣「うわこれ裂けてる」

藤田「あーあーひどいもんだ」

衣「ハギヨシに頼もう!そして私がそのハラムラノノカの下に連れてってやる!」

藤田「大丈夫かぁ?はじめてのおつかいだろ?」

衣「子供じゃないっ」ガー

藤田(まぁ…参加校同士のなれ合いも悪くないか)

藤田「じゃあ頼んでみるか」

衣「うん!任せといて!!」ニパッ

 カン!

はしょるの下手くそなんだすまんな
合間合間にキャラを患わせるために原作通りの展開書く場合もあるからイランという人は適当に読み流しとくれ
どうりで決勝戦入ってからめっちゃ疲れると思ってたよ


透華「――これでいいですわ」カチャ

一「これ苦手だな…」ギギギ

透華「万が一『手品』を使ってしまわないようにですわ」

一「やったら絶対バレて即失格なんだからやらないよ」

透華「万が一ですわよ万が一」

一(…ああ…たったひとつの過去の罪が『鎖』となってボクを縛り続けるんだな…)

智紀「……」

智紀(『手品』といい鎖といい、おそらくふとした時の思考も…一には素養があると思うけど…)

一(信用を取り戻すのは大変みたいだ…)グッ

智美「いやー佳織よかったよ!大活躍だったな!」

佳織「あ…あれでよかったのかなぁ」

ゆみ「十分すぎる。あの収支に不満はない」

ゆみ「麻雀は運ではない――が、半荘数回程度では素人がプロに勝ち越すことだって有り得る」スッ

ゆみ「――蒲原」パチン!

智美「あい」

ゆみ「射程に入った的を逃がすな」

智美「撃ち落とせばいいんだろう?――風越を!!」ニヤッ

佳織(…今の指ぱっちんに一体なんの意味があったんだろ…?)

睦月(うむ。あいかわらず部長と加治木先輩のコンビは自然でかっこいい)

文堂「いつにも増して機嫌よさそうですね、キャプテン」

華菜「みはるんよく凌いでたって褒められてたし!くぅ~、あたしもはやく褒められたいし!」

文堂「…次は私の番ですね…」

華菜「柄にもなく緊張か?」

文堂「…こんな大舞台生まれて初めてですし…それに、あの牌譜…」

文堂「清澄の中堅と大将の牌譜…おかしくないですか?」

華菜「ぐ、偶然だろ?」

文堂「…だといいんですけど」

久「……」グイ キュッ コキッ

久「それじゃあとお願いね」グルグル

京太郎「頑張って下さい!」


稔『決勝中堅戦――!折り返しを制するのはどの高校か――!!』

美穂子「…竹井久…って…上埜さん…!?」

未春「?」

美穂子(やっぱり…苗字は変わってるけど…)

美穂子(三年前のインターミドル…あの運命の日――私の人生を大きく変えた人――!)

美穂子(過激な打ち方で私のそれまでの価値観を打ち壊し…その強さで会場を震わせた…でも、三回戦から突然会場にこなくなって…)

美穂子(翌年――彼女が風越に入ってくることはなかった……)

美穂子(あぁ、文堂さん――)

美穂子(アレを間近で見られるなんてうらやま…じゃなくて!彼女とまともにぶつからないで――!)

久(んー…微妙な手)チャッ

久(配牌五向聴から和了れる確率はどれくらいだったかな…和ならそういうこともごく自然に考慮してそうだけど)

久(…難しく考えて打つなんて私らしくもないか…緊張してるのかも)

久(ないものねだりしてもしょうがない。私らしくいきましょう)キュ


久(…うわー。完全に裏目ったー…)

久(…いえ、このツモに意味があると考えましょう。となると――)

久(――来た!)

久「リーチ!」ガカッ!


京太郎「なんだか悪い待ちですね…?」

まこ「部長は大会じゃ悪い待ちが多いけぇ。和が入部した頃もそのことで揉めとったのう…」


和『わざわざ悪い待ちで待つなんておかしいです!』

久『うーん…でも私だって常にそうなわけじゃないのよ?普段は合理的に打ってるでしょ?』

和『でも…大会でもしあんなことされても困りますし…』

久『私って大会だと良い待ちで和了れることって少ないのよね…で、悪い待ちだと不思議と和了れちゃうわけ』

和『そんなの偶然です!一時的なランダムの偏りを流れとかジンクスとかだと思い込んで心縛られてるだけです!』

久『和。世の中にはいろんな考え方の人がいるわ。和みたいに理論で長期スパンでの勝率を上げようとする考えもあれば、その場その場の流れを読み、ツモひとつに意味があるという考えもある』

久『中には能力や支配力なんていう曖昧な概念に依って打つ、魔物なんて呼ばれてる人たちもいるわ』

和『そんなオカルトありえません』


久『理論に従って打つべき、それは分かっているんだけど、ここ一番で信じられるのはやっぱり自分なのよね』

和『ここ一番だからこそ、そういったものに流されずに論理的に打つべきでは…』

久『じゃああなたは――たった一度の人生も論理と計算ずくで生きていくつもりなの?』

和『……っ。それとこれとは話が違いますし…そもそも麻雀はなにも一度きりではないですし…』

久『そうね…でも私の夏は、今年一度きりなのよ』

和『……』

久『それにね、それで負けたら理論派にでもなってるけど――生憎といつも勝っちゃうのよね』ニヤリ



京太郎「…なんつーか…いつもアレな咲の言動に埋もれがちですけど、部長も結構…」

まこ「あの人は天然でアレじゃけぇのう…」

和「――ん…部長…」ブルッ

和(あれ…私、仮眠室で寝てたんでしたっけ…もう中堅戦は始まってる…)ムクッ

和(部長なら心配いりませんよね…)チラッ

咲「……」スゥ スゥ

和「……」スッ ムギュー

咲「…はう…にゃめろ…ぶれいものめ…」ムニャ

和「……」ムギュンギュゥー

咲「んんー…はらむらさ、やめてったら…やめっ…んにゃっ」ムニャホラ

和「……和ちゃん」ボソッ ムギュギュ

咲「ひゃめてよう…のどかちゃん…ひゃめだって…」ウーン

和「……ふふっ」ポフッ

咲「あぅ…」スゥ…


文堂(聴牌――した、けど…清澄の人…)

文堂(一萬は通る…?普通なら通るだろうけど…一萬で待つとすれば地獄単騎…そしてこの人の牌譜…!)

文堂(…勝ちにいくなら、これを通して和了らなきゃ!キャプテンと全国にいくには…)

文堂「とおらばリーチ!」

久「――通らないな」ニヤッ

文堂「……!」

久「ロン」パララッ

文堂(キャプテン――!)

一(なんだこの人…ただのバカなのか…それとも――衣に近い生き物なのか…?どちらにせよ…)

智美(まさか完全に把握していたわけじゃないだろうがあの手牌、そして直前の打牌…なかなかに曲者だなー)

和(そーいえば…さっき起きた時…なにか違和感があったような…)

和「――っ!?」ガバッ

和「エトペンが…いない?」

咲「えとぺん…?」

和「『エット…自分すか?まじっすか?ペンギン』です。私の友達…」

和「って寝言ですか…」

咲「えとぺんかぁ…おいしいかなぁ…」ウヒヒ

和「…探しにいかなきゃ……」キュッ

衣「ハギヨシ素敵滅法で根堅洲国から舞い戻ったペンギン!もーすぐご主人様の下に連れてってやるからな!」ピョンコピョンコ

衣「ハラムラノノカは褒めてくれるかなっ!友達になってくれたりして!」

衣「ハラムラ~~ノノカ~~~!」ピョンコ

和「?」

衣「あうっ」ドテッ

エトペン「Oh…」コロコロ

和「エトペン!」

衣「あ!おまえがノノカだな!」

和「はぁ」

衣「おっぱい確認よーし!そのペンギンなんだけど…」

和「縫った跡がある…」

衣「かくかくしかじかの致し方ない事情があって…その…」

和「そーですか…それならあなたは悪くないですね。直してくださってありがとうございます。すごく綺麗な縫い跡ですね…」

衣「やたっ」パァァ

衣「それはとーかの執事がな…」



稔『中堅前半戦終了――!!』


和「!」

衣「!」

和「すみません…私は戻りますね!」タタッ

衣「あ、ああ…行っちゃった」シュン


 時間は少し遡り――

文堂(よし、聴牌…今度こそ)

文堂(河を見る限り五筒を通る…さっきはリードを守ることを優先してオリるべきだったのかもしれないけど…)

文堂(今度はさっきの失点分を取り戻す!)

文堂「リー…」

久「ロン」

文堂「」

久「18000」パラッ

文堂(そんな…)

一(この人…)

智美(またかー。でも風越を撃ち落としてくれたし、結果オーライ?)

文堂(くっ…たった二局で…)

一(これでボクの一人沈みかー…え!?)

久「……」ピンッ

一「な…!」

久「ツモ!」パシィン!

智美「えー…」


美穂子「出たっ!」

華菜「マナー悪いなー…」

未春「牌はもっと大事にしてほしいですね…」

美穂子(文堂さんがつらい目にあってるのに…悔しい!でも憧れちゃう!)

                 ~~    ~~
                   -―――-    ~
              ~ .....::::::::::::::::::::::::::::::::.::::::::::::`丶
            /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\  }

            } .:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::. {
           { /::::::::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.
           .:::::::::::::::::::::::::::│::::::::::|\:::|\::::|:::::::::::::::::::::::. }
         } /::::::::::::::::::|::::: / | ::|:::::::ト- ::|--∨\ ::::::::::::::::| {
       { /::::::::::::::::::/|::::::|ノ|:八 ::::| _..斗-=ミ\| ::::::::::|::::|
      /::::::::::::::| :: /-匕-=ミ\|\|  〃⌒゙ヾⅥ :::::::: |::::|  }  「私に妹はいない……!」ビクビクッ
        ̄ ̄ |::::::|::イ /〃⌒ヾ     {{    }} }|/| ::::::|::::|  {
      {  |:: 八ハ{ {{   }}     ゞ==(⌒) | :: /:::::|

       } |/|::: {. ハ (⌒)==''         ///  |/}:::::|
            |:::: ヽ_| ///              __,ノ :::::|  }
.          { |:::::::::八     _.. ‐~‐-、   イ:::::::::::::::|  {
.          } |::::::::::::个 .._ (_,,.. ‐~~' イヘ::::::::::::::::::|
           レヘ::::::::::::::::::::::_≧=一ァ  〔/⌒T:iT7ス::::/
            ∨\::/r ̄ ̄ ̄7____/    / ∧/  }
               {  ∧    |   /    /   / ∧ {
                } / {\/⌒)_∠__/|    / ∧
              /  ゙T{  二(__ `ヽ        _ヽ
            /   ∨ハ.  {_  /     \/  _〉
.            { /\ _ |  ノ   _) 人._     |_/|/ }
              } \_____,|/  /i:i\     ̄ ̄`ヽ  j  {
             ∨ /   /|i: ハ:i:\            |
              /     /:i:i:i:ハ:i:i:i:i:丶 ... ______丿
               〈      i:i:i:i/   :i:i:i:i:i|    |    }
              、___/:i:i:i:i/    Ⅵ:i/    |   {

一(…手が疼く…)

一(別に『手品』を使いたいわけじゃない…ただ――ピンチになると、幾つかの記憶が蘇るんだ…――)

一(透華と出逢い…そして――衣と出遭った時のことを――)


透華『お父様曰く…天江の子供に近付くな――アレは理解の遥か外にいる、と』

衣『今度の玩具は金剛不壊に出来てる?それは衣の莫逆の友となるか――贄か供御となるか』


一「……ッ」ゾクッ

一(そうだ…『あの夜』に比べればこんな状況なんてことはない…)

一(あの衣がうちの大将なんだ…だから心配はいらない。ボクは…透華たちの信じてくれた、正攻法のボクでいく――!)

一「リーチ!」

久「ふむ…」タン

一(めちゃくちゃな待ちをするのにオリる時はしっかりオリるんだな…)

一(さすがにこの大舞台に出揃った役者達…出和了りは期待できない…けど!)

一「ツモ!」

一(ボクだって――負けられないんだ!)

稔『中堅前半戦終了――!!』

稔『風越を撃ち落とした清澄の圧勝かと思いきや龍門渕が食らいつき四校まったいらに並びました――!』


美穂子「文堂さん…」

文堂「キャプテン!すみません、私のせいで…!」

美穂子「大丈夫よ…落ち着いて…あなたが悪いわけじゃないわ」ギュッ

文堂「キャプテン…」ジワッ

美穂子「気負わず、楽しんでいきましょう。それと、ひとつアドバイス…」チラッチラッ

久「?」

久(風越のキャプテン…どっかで見たことある気がするのよねぇ…)

和「ただいま戻りました」ガチャ

優希「のっどちゃーん」

京太郎「おかー」

まこ「ちゃんと寝れたかー」

和「はい。おかげさまで。宮永さんはまだ寝てるみたいなので後で起こしに行ってあげてください」

和(この次は私…さすがに決勝ともなると緊張しますね…)ギュッ

和(…あっ。あの子の名前を聞くの忘れてました)

久(うーん…さすがに後半になると警戒されちゃうかー)

文堂(キャプテンのアドバイス通りに…)

一「リーチ」タンッ

久(このツモの意味は…)

久「リーチ!」ニヤッ

稔『清澄追っかけリーチ――!しかもこれは…空聴!悪待ちにもほどがあるぞ―――ッ!!』


久(このリーチは和了るためではなく、前半に見せた和了りの幻を利用した威嚇――!)

文堂(この人がリーチをかけたらもう安牌は現物だけになる…!)

一(ボクの親リーが怖くないのか…?)

智美(一向聴からだと厳しいかー。清澄が怖いしここはベタオリ…)


 流局――

久「テンパイ」

一(ボクの当たり牌を止めた上に空聴リーチ…!?)

一(どこまでも予想の斜め上をいく…でも)

一(面白い人だなー…)クスッ

稔『中堅戦終了――!!』

稔『そして、全国高校生麻雀大会長野県予選、ついに副将戦を迎えます――!!』

稔『風越二年深堀純代!鶴賀一年東横桃子!龍門渕二年龍門渕透華!清澄一年原村和!』

稔『間もなく試合開始です――!!』


和(今から私があそこに……)

和「……」スーハー

和「っ!」キッ ザッ


咲「んにゃ…ム…といれ…」ムクッ

 カン!

三巻終了
まさか年跨ぐとは
来年もよろしくなのよー

和(宮永さんのなっさけな…一緒に歩く景色…試合に負けたらもうそれを見ることも叶わない)

和(勝ってみんなで全国へ行きたい…八月のインターハイへ!)


久「バナナ食べた?」

和「食べました」

久「よし、じゃあ後はお任せね。頑張って」

和「はい」

一「ごめん、逆転できなかったよ」

透華「いえ、むしろよくやりましたわ。これで私が原村和を華麗にまくって大逆転!いっそう目立ちますわ!」

一(たくましいなぁ…)ハハ

透華「それは置いとくにしても、本当によくやってくれましたわ。もう、その鎖は必要ないかもしれませんわね」

一「ん…いや、ボクはこのままでいいよ」

透華「どうしてですの?」

一「これは…透華との絆、だから…」

透華「?…はぁ」

透華(この子もたまによくわからないことを言いますわね…?)

透華「ところで衣はまたなんですの?」

一「みたいだね。でも萩原さんが迎えに行ってるから大丈夫なんじゃないかな」



ハギヨシ「衣様」

衣「ハギヨシか…出迎え大儀」

ハギヨシ「どうしてまたこのようなところに」

衣「衣は人の犇く処とマスコミを疎む。ハラムラが行ってしまった以上彼処に些かの未練も無い」

衣「大将戦といえど、所詮は退屈凌ぎに過ぎない」

ハギヨシ「…それはどうでしょうね?」

衣「……」ピクッ

ハギヨシ「今年はそうはならないかもしれませんよ?如何に衣様でも楽にはいかぬやも…」

衣「そうか…居るのか、妖異幻怪の気形が!!」ニヤリ

衣「よし!戻るぞハギヨシ!!其を玩弄して打ち毀す!!」

ハギヨシ「は」



咲「……!」ブルッ

咲(寝冷えしたのかな…それとも)

咲「……」

咲「副将戦…いかなきゃ」

和「……」スタスタ

和(この部屋で打つのは去年の個人戦以来…)

和(宮永さん……)

和(…負けられない!)


 タタタ…バンッ!


咲「原村ッ!…サン」ボソッ

和「!」

咲「――我の前の座興…無様を晒すこと、まかりならぬぞ!!」

和「……」

和(そうですね…――絶対勝ちますよ!)グッ

咲「ウム!心せよ!」

係員「関係者以外は出てってね」

咲「あ…はいっ、すみませんっ」ぺっこりん

咲(…頑張って…!)チラッ

和「……」ポフポフ

咲「我帰参せり」ガチャ

優希「おかえりおはよう咲ちゃん」

久「ちょうど始まるわよ」

咲「……」ポフッ


稔『副将戦開始――!!』

透華(原村和…!そのふざけた胸ごと徹底的に叩き潰してさしあげますわ!)

透華(――と言いたいところですけれど…互いに理論派、この短期決戦で実力の違いを見せつけることは到底無理…)

透華(それは口惜しいですが…それはそれとして、私は私の打ち方であなたに勝ち、龍門渕を勝利へと導いてみせますわ!)キュ



藤田「もったいないな…」

稔「…と、言いますと?」

藤田「今年は色々とルールが偏っている。特に運の要素が強い。この副将戦に集まった選手のような、堅実で現実的な、いわゆる理論派の打ち手としてはさぞ納得のいかない結果もあるだろう」

稔「はぁ…しかしそれも仕方ないのでは?」

藤田「そうかな…まるで今年のインハイは『特殊な子供』を選り分けるシステムみたいに思えるんだが…」

純代「…リーチ」

和「……」ヒュッ タン


京太郎「和は即オリかぁ」

優希「のどちゃんらしいじぇ」

透華「……」スッ チャ


純「透華もオリたか…オレならツッパるなぁ」

一「大丈夫。透華は負けないよ」

一(徹底的に理論を追求して、その為にあらゆる情報を吸収し…そうして透華は去年よりずっと強くなってるんだから…!)

一「それに…今回の相手はあの原村和だからね」

純「たしかにな…あいつは相手が強ければ強いほど…」

一「そう。相手が強いほど燃え上がり、けれど一方ではもう一人の…ひどく冷たい透華が顔を見せる」

一(それは…ボクたちにさえ一分の隙も見せないほどの――)

和「ロン」

純代「はい」


稔「副将戦最初の和了りは清澄・原村!」

藤田「略して清原か」

稔「ずいぶん地味な手だがこれはどうなるか――!」

藤田「無視かオイ」

稔「それにしてもやっと和了りが出ましたね」

藤田「…まぁいいけど。堅いメンツだし、ダマで攻めたり迷彩をうまく使うなどの工夫に気を遣わなければなかなか場が動かんかもな」

透華(悪くない配牌ですわね)タン

和「ポン」スッ

透華(特急券――!…ふ、フン。それくらいなんですの)

和「チー」

透華(二副露!ですがこちらも一向聴…序盤の二副露くらいならば…いらっしゃいまし!)カッ

透華「リーチ!ですわ!」

和「……」ヒュッ ピシ


純「親番に副露しといてベタオリかよ。だせぇな」

一「だからこそ強い…そんな人もいるんだよ」

透華(流局…なんでしょうこの違和感…)

透華(こんな打ち方がのどっち?否…それならばこの状況は?)

透華(答えはひとつ…のどっちはまだ覚醒しきっていない!)

透華(…さぁ、はやく覚醒なさい…さもなくば――容赦なく潰しますわよ!)

純代「リーチ」

和「……」

和(私、緊張してる…思えばチームの思いを背負って大舞台に立つのはこれが初めて…)

和(それに…宮永さんが見ている!)

和(だからこそ、対局に集中しなければ…!)

和(ツモ切り…)ヒュン パシッ

和(いつも通り…)ギュッ

エトペン「おう」

和(このためですか、部長…)

和(緊張していて尚…いつもネット対戦している時の、最高の状態に近づいていく――)

和(覚醒していく!)

和「――ロン」

透華(そろそろかしら…?)ゾクッ

透華「ポンですわっ!」カッ

純代「……」タン

和「……」キュ

和「リーチ」ピシィ


稔「原村、風越・深堀の六索を見逃してツモってきた西でリーチをかけた!」


透華「……!」チャッ

透華(この西…!)

透華(くっ…)タン


稔「龍門渕選手掴まされた――!」

藤田「オリたな」

和「ツモ。裏は――」

透華(乗らないでくださいますっ!?)

和「――乗ってません」

透華「……」ホッ

透華(原村和――!)

和「……」ホゥ…

透華(なぜそんなに顔を赤らめてますの!?)

透華(それにこの感じ…)

和「……」ヴゥン…

透華(――お、おはよう…!のどっち!!)

透華(この気配、このプレッシャー…やはり生の感触はジューシーですわ!)

衣「……」ピクッ

ハギヨシ「衣様?どうかしましたか?」

衣「……」

ハギヨシ「透華お嬢様の試合ですか」スッ

ハギヨシ「トップは清澄高校、龍門渕は次いで二位でございます」

衣「ハラムラ…?ハラムラってとーかの敵なのか?」

ハギヨシ「そうなりますね」

衣(そっか…友達になってって言い損ねたけど、元より仲良くなれるはずがなかったんだ…)

ハギヨシ「先程申し上げた楽にはいかぬ相手というのも原村と同じ清澄の大将です」

衣「…そいつとハラムラは仲が良いのか?」

ハギヨシ「そうですね。私にはそのように見えましたが…」

衣「そうか…」

衣「母君がよく言っていた。幸せとは刹那の中にあり――この風、この光、この時を楽しめるのも幸せの形だと」

衣「それを共有したいと思う心が愛や娯楽に向かう。でも麻雀ではそうはいかない」

ハギヨシ「……」

衣「衣と打った者は皆世界の終焉を見たような表情をする。……衣はそれでまた、独りぼっちになっちゃうんだ……」


純代「ポン」

透華(鳴きでツモ順を飛ばされるウザさは慣れませんわね…索子臭が鼻につきまくりですわ)

モモ「リーチ」

透華(親リー…)タン

純代「……」タン

透華(…に対してその打牌…こちらも要注意ですわね)

和「……」カッ


京太郎「和も聴牌!」

久「でもこれじゃフリテンね」

咲「フン…実に愉しげではないか」

咲(ククッ…疼く…早く!私も打ちたい!)

稔「あーっと!原村選手の待ちである中が東横選手に――!しかも原村選手はフリテンのためこれで和了ることはできません!」

稔「最後の希望が今断たれた――!」

藤田「違うだろ」フフ


モモ「……」タンッ

和「ポン」

透華(もうすでに聴牌していたのではなくて…?ということは…待ちを変えた?)

和「ツモです」ヒュン パシッ

透華(は…?)

透華(…もう…もうオーラスですの?何もした気が…)

透華(って、本当に何もしてませんわ――!?)

透華(そんなの…)ピシッ

和「……」パシッ

透華「……」キュ

透華「リーチですわ!」ボッ

透華(…いつもならリーチをかけずヤミテンでいくところ…ですが!)

透華(それでは観客はブーイングをなさるでしょう。それならばリーチをかけ!派手に原村のパーフェクト阻止と参りましょう!)

透華「いらっしゃいまし!」スッ

透華「ツモ!――8000オールいただきますわ」


稔「龍門渕選手、親倍でパーフェクト阻止――!」

透華「さぁ、連荘でしてよ!」


透華(フフ…いい感じの一向聴でしてよ。これを張ったら今度はヤミで…)タン

モモ「ロン」

透華「は…?」

モモ「メンタンっす」

透華(リーチ!?いつの間に――!?)

モモ「これで――前半戦終了っすね」ユラッ

稔「五分間の休憩の後に後半戦を開始します!」


ゆみ「モモ!どこだ?」

モモ「ここっすよ」スッ

ゆみ「おおっ」ビクッ

モモ「さすがに決勝は手強いっすね。『消える』のに時間がかかったっす」

ゆみ「どうだ?いけそうか?」

モモ「はい。…これは、影の薄い私を見つけてくれた先輩への恩返しっす」

モモ「『私のリーチはダマと同じ』。『私は誰にも振り込まない』…リーチにアタリ牌を打っても相手がフリテンになるだけ」

モモ「――『私は存在しない』」ユラッ

モモ「ここからは――『ステルスモモ』の独壇場っすよ!」

 カン!

ほぼ原作通りの前半戦はかじゅ仕込みのステルスモモの盛大な前振りってことで


 鶴賀控室

ゆみ「ただいま」

佳織「おかえりなさい~」

智美「モモはどうだったー?」

ゆみ「そろそろ『消える』そうだ」

智美「やっとか!」

睦月「そういえば裾花高校の時も時間がかかりましたね」

ゆみ「裾花も県内では強豪校に数えられるからな。それでも南二局では完全にモモを見失ってた」

智美「そう考えると決勝のやつらはすごいな!」

佳織「私、桃子さんって幽霊部員かと思ってました…昨日お会いするまでは…」

智美「佳織が部室にいた時は常にモモもいたけどなー」

佳織「ふぇ!?そーなの!?」

智美「ユミちんがモモを『見つけた』のは佳織が入部するより前だからな」

佳織「『見つけた』?」

智美「ちょうど一ヶ月前かな…うちは部員が少ないから、大会に出るためには部員を集めなくちゃいけなくて焦ってたんだ」

智美「佳織は幼馴染み権限で確保できるとして、最低でもあと一人」

佳織「え!?」

智美「あと一人…探してる時に、麻雀部のサーバを校内LANに繋いでプレイヤーを募ってたんだよ」

智美「その時――モモを現れた」

智美「その打ち筋と性格にユミちんが入れあげちゃってなー」

智美「それでみんなご存知、『ユミちん一年A組乱入事件』」

佳織「あっ!それ知ってる!あれって加治木先輩だったんですね」

ゆみ「……うむ」

睦月(あ、それ私の…)

佳織「学校中の噂になりましたよね…その時居合わせた生徒たちは演劇部の余興でも始まったのかと思ったとか」

睦月「芝居じみた口調と台詞、あまりの剣幕に聞き惚れる一年が多数いたとか」

智美「それでついたあだなが宝塚」ワハハ

佳織「ロミオとかもありませんでした?」

睦月「あったあった」

ゆみ「…さすがの私も少々恥ずかしい」

智美「でもどーゆーわけかあのお姫様はそれが気に入ったらしくてなー。そう…ユミちんの奇行が――岩戸をこじ開けたんだ!」



稔『副将戦後半戦開始――!!』



モモ(――たとえば、とんでもない目立ちたがり屋さんとか存在感のあるパーツを持った人がいるように…)

モモ(その逆もまたいるんすよね)

モモ(私は存在感ゼロ、どころではない――いわば『マイナスの気配』――!)

モモ(影に潜み、空気と同化す…それは一度発動すれば、不可視の脅威、瑕疵無き幻影――捨牌をも巻き込み幻惑するっすよ!)


ゆみ「モニター越しならばまだしものこと、傍にいると気配どころか声すらも聞き逃してしまうからな」

智美「モモがワザと点棒や牌で大きな音をたてない限りなー」

睦月「一方的な情報の遮断…敵であればこれほど恐ろしいこともそうないでしょうね」

佳織(…みんなが何を言ってるのかわかんないよ…)


透華(またもや絶好の聴牌ですわね)

透華「リーチですわ!」カッ

  「――いいんすか?それ、ドラっすよ?」

透華(えっ…?)

モモ「ロンっす。リーチ一発ドラ1――5200っす」ユラッ

透華(すでにリーチが…!?)

透華「あなたっ!ちゃんとリーチ宣言はしまして!?」

モモ「したっすよ?」

透華「~~~~~~~っ!!」


モモ「……」チラッ

カメラ「キュイ」

モモ(…そういえばカメラを通してなら、私も沢山の人に見てもらえるんだっけ…)

モモ(この試合も多くの人が見てるんだろうな…でも、今の私は唯一人――あの人さえ見てくれれば、それでいい)

モモ(影が薄いだけの私を求めてくれた先輩…誰かと繋がることの楽しさ・嬉しさを教えてくれた先輩…)

モモ(見ててください、先輩!あなたが私を見出した意味を、私がこうして存在する意義を、今この卓上で証明してみせるっす!!)


モモ(…たぶんこの人達は、程度こそあれいずれも理論を重視するタイプ…かくいう私も似たようなものっすけど)

モモ(――唯一!私がこの中で卓越しているモノ――!)

モモ(それは、生来の影の薄さを利用したこの『ステルスモモ』!私はいわば能力と理論のハイブリッド!)

モモ(理論に従って効率的に打ち、張った時等の勝負所や逆に張られた時等の危険時には能力で切りぬける!この打ち方は親和性もかなり高い――)

モモ(つまり条件を満たした私は、卓上でほぼ無敵!悪いっすけど、後半戦は鶴賀のワンサイドゲームっすよ――!)

和「……」キュ

和「リーチ!」チャッ

モモ(おっぱいさん、調子いいっすね!でも、私ももうオリないっすよ)

モモ(たとえこれがアタリ牌だとしても、あなたはこれを見逃すっす。視えないものは、和了れない――!)

和「……」

モモ(? どうしてツモらな…)

和「ロンです」

モモ(なっ――!?)


睦月「まさか!?」ガバッ

智美「ステルスモードのモモが――」ガタッ

睦月「振り込んだだとッ!?」ガタタッ

佳織(みんなノリノリだなぁ)ポヤーン

モモ「私の捨て牌が見える…?そんな、見えないんじゃ…」

和「? よくわかりませんが、『捨て牌が見えない』とか…」

和「――そんなオカルトありえません」

モモ「!」

和「私からははっきりと見えますよ――そう、まるで画面越しに見る卓上のように――」

モモ「……っ」

モモ(…それじゃあこの人にはステルスが一切通じないってことっすか…?)

モモ(あ~~~~…そうなると、この人とはガチの麻雀ってことっすか…)

モモ「……」フッ

モモ(――でも、それはそれでいつもより楽しめそうっすね――!)ユラッ




稔「副将戦終了――!!」

稔「後半は東横選手と原村選手の一騎打ちとなり、まさかの名門校が後塵を拝する結果となりました――!!」

稔「無名校二校の健闘という番狂わせ…そしてついに――」

稔「決勝戦も大将戦へと突入します――!!」



咲「……」フゥ

咲「それじゃあ――征ってくるッ!!」ゴッ


咲「……」トテトテ

和「……」スタスタ

咲「……」ピタッ

和「……」

咲「………、…………、……あの、原村さ――」

和「――宮永さん」

咲「……?」

和「今はまだ…」スッ

 オオォォォォォォオ――

和「…ですから。この試合が終わったら…八月までの間の少しだけ、麻雀のことを忘れてたくさんお話しましょう。私、宮永さんと話したいことがいっぱいあるんですよ」

咲「……!」

和「だから――」

咲「……うん」



和「絶対に勝ってください!」スッ


咲「――うんっ!」ギュッ





咲「――我を誰と心得る!常勝不敗の魔王ぞッ!」ズアッ



稔「――大将戦!鶴賀学園からは三年加治木ゆみ!現在トップの清澄からは原村和と同じく一年の宮永咲!風越からは昨年に引き続き大将を務める池田華菜!」

稔「そしてその池田選手との因縁の相手とも言える龍門渕の――」


咲「……ッ」ゾクッ

和「?」

咲「この感じ…そうか。クク…鎧袖一触、とはいかなさそうだな…!」


稔「神懸かり的な闘牌を見せる前年度MVP!インターハイ最多獲得点数記録保持者!!」


咲「――天江衣!!」


天江衣「――」ガカッ!


稔「大将戦の幕が今開こうとしています――!!」

 カン!

>>277

>ゆみ「麻雀は運ではない――が、半荘数回程度では素人がプロに勝ち越すことだって有り得る」スッ

>ゆみ「――蒲原」パチン!

>智美「あい」

>ゆみ「射程に入った的を逃がすな」

>智美「撃ち落とせばいいんだろう?――風越を!!」ニヤッ


ほんとすき

モモ「やーまいったっす。すみません先輩、清澄だけは抜けなかったっす」

ゆみ「…原村にはお前が視えていたようだな」

モモ「あんな相手、初めてっすよ。ちょっと自信失くすっす」

ゆみ「何を言う。区間での収支を見れば誰が活躍したかは一目瞭然」

ゆみ「半荘二回とはいえ、インターミドル王者の原村を下したんだ。――お前が一番だよ、モモ」

モモ「先輩……」

ゆみ「後のことは全て私に任せろ。仮令力及ばずとも、皆の意志は私が知らしめてこよう――!」

モモ「…信じてるっす。先輩」スッ

ゆみ「ああ」スッ

 コツン

ゆみ「さあ。ゆこうか――魔物征伐へと!」バッ

咲(ここが…広い)

華菜「よろしくー」

咲(この人が風越の大将…)


和『絶対に勝ってください!』


咲(……負けられない。勝つんだ。相手が誰であろうと、絶対に!)

咲「――ウム!宜しく。精々我を愉しませることだな!」

華菜「お、おう」

華菜(なんだこいつ…包帯ぐるぐる巻きだし眼帯だし…ちゃんと半荘二回持つのか?うわ、裸足だし。ヘンなやつ)

ゆみ「……」スタスタ

咲(彼奴が鶴賀の…では残る一人が――)

華菜「!」ピクッ

ゆみ「……!」ピーン

咲(――顕現れたか!天――)

衣「……」ピョコ

咲「え?」

衣「♪」トテテ チョコン

咲(えぇぇぇ…?)


和(あの子が…天江衣――!?)

優希「どう見てもお子様だじょ?」

久「あれであなたたちより一つ上よ」

まこ「実力の方は一つどころじゃすまんかもしれんがのぅ…」


咲(此れが天江衣…?では先程の覇気を此奴が…?俄に信じ難いが…)

華菜(なんかヘンなやつが増えたが…来たな、天江。さて…魔物退治といきますか!)



稔「大将戦開始――!!この半荘二回を制した高校が全国へと行くことができます!」

稔「やはり注目は龍門渕の天江選手ですね。今年はどのような戦いを見せてくれるのか楽しみです!」

藤田(ころたんぺろぺろ)

稔「天江選手と池田選手の因縁に他二校がどれだけ食い込んでいけるか!」

藤田「…どうだろうな。かなり荒れそうだ」

稔「はぁ…?」


 がやがや

ヒゲ「すごいですね…天江選手は取材拒否しますから」

西田記者「じゃあ風越を中心にモニターしましょう」

ヒゲ「清澄はどうです?」

西田記者「清澄ぃ?原村和の出番が終わった今見所はないんじゃない?」

ヒゲ「でも…『宮永』咲って、あの宮永照に関係のある人物かも…」

西田記者「まさか!」

ヒゲ「宮永照は何度か撮ったことがあるんですけどね…なんか似てる気がするんですよ、あの子」

西田記者「……」


純(あいつか…清澄の五人目…!)


美穂子(あの上埜さんがアンカーを任せる選手…)パサッ

美穂子「……!」

美穂子(一人じゃない――!?)

美穂子(華菜…気を付けて…!魔物は一人ではないわ…!)


ゆみ「リーチ」

咲「――カン」

ゆみ(トップがわざわざ危険を冒すとはな。ありがたい――)

咲「ツモ、嶺上開花!」ズアッ

華菜(は……!?)

ゆみ(嶺上開花…?)ゾクッ

華菜(そういやこいつの牌譜…)


ヒゲ「どうです?やはり宮永照と…」

西田記者「いやいや、ただの偶然でしょ!あそこでカンするなんて初心者もいいとこ!嶺上開花だなんて…」


華菜(よし!高目を張った!4位のうちとしてはリーチかけたいとこだけど、ここは確実に和了らせてもらう!)

咲「リーチだ」


優希「地獄単騎とか部長みたいだじぇ」

久「一緒にしないでよ。咲は悪い待ちを選んだんじゃなく、カンできる待ちを選んだだけ――」


咲「――カン」

華菜「……!」ゾクッ

華菜(まさか…そんな)

咲「――ツモ、嶺上開花!」ガッ

ゆみ(莫迦なっ…!)

華菜(なんなんだ…なんなんだこいつ…邪魔すんなよ――!)ジワッ


ゆみ(――ドラの自風が暗刻…あと一手で聴牌だが…)

咲「ポンだ!」

ゆみ(清澄の…カンするわりに副露率は高くなかったはずだが…ふむ)

ゆみ「……」キュ

ゆみ(試す価値あり…か)タン

咲(鶴賀の大将、手出しの自風…)キュ

咲(ム、来たか!)

咲「カ――」

咲(――…待てよ?…ククッ、成程な…。面白い、試そうという腹だろうが…こちらが試してやる)

咲「カン!」

華菜(またかよ!…あれ?嶺上牌ツモらないのか…?)

ゆみ(…お見通しというわけか)フッ

ゆみ「そのカンは通さない。ロン、搶槓だ」

咲「ウム!」ニヤリ

ゆみ(…呑気に嶺上牌へ手を伸ばそうものなら即座に『その嶺上取る必要なし』とでも言い捨ててやろうと思っていたんだがな)

咲(ククッ…大いに結構!天江衣以外は有象無象の輩と思っていたが…中々に骨のある奴もいたものだ!これが決勝…フフハ、血湧き肉躍る!)

華菜(連続嶺上の次は搶槓?まだ天江衣はロクに動いてすらいないってのに…しかもこいつらこんな状況で笑い合ってる…理解出来ないし…)

ゆみ(しかし…こうも上手くいくとはな…私が次に搶槓を和了るのは数年…で済めばいいが。だが――こいつが真に怪物ならば、こういったこともあると意識に植え付けておくべきか…)


咲(さて…これでカンして和了か。だが…)チラッ

ゆみ「……」ゴゴゴゴ…

咲(隠すつもりもない、か。烈々たる気概よ。確か、国士に限り暗槓和了りアリのルールだったな…)

咲(…聴牌…いや一向聴か?いずれにせよ不確実な以上危険を冒すわけにはいかんな…さすがに親の役満は洒落にならん)

咲(チッ…手変わりも厳しいな…。やはり西を槓子で抱えてるのが痛い)

ゆみ(配牌一向聴から動かんな…)

 流局――

ゆみ「テンパイ」

咲(直前に聴牌ったか…フッ、我が無意識の内に前局の搶槓を引き摺っていたとでも?…魔王といえど人の子よな)

衣「――無聊を託つ」

咲「はい?」

咲(え?なんて?)

衣「清澄の大将は厄介だと聞いてわくわくしていたが…」

咲(ぶりょーおかこつ…?武…瞭…を、過去つ…過つって言いたいのかな?武瞭を過つ…なんかかっこいいね。意味わかんないけど)

衣「乏しいな。闕望したよ」ザワッ

衣「そろそろ水戸開きと行こうか――!」ゴッ

咲「っ!」ズアッ

華菜「」ブルッ

咲(こ…この感じ――!!)ゾゾゾ

衣(…今の、こいつがやったのか?衣と似たような気配…)

咲(キャラ被ってるよ―――――!!)

咲(こっちは小物に頼ってるのに対して向こうは幼女というサブウェポンまで持ってるし…ずるいよぅ…)

衣(…興醒めかとも思ったが、少しはやるのか…?)

華菜「こ、ここ今年も勝てると思ってるのか?」

衣「んー?去年の衣と戦ったのか?ならばそれは忘れてくれ。その時はまだお前達と同じ、ヒトの土俵に立っていたよ」

咲「……」

華菜「…ヒトじゃなかったらなんだって言うんだ?」

衣「フッ、その身で確かめよ」

華菜(…うえ、相変わらず薄気味悪いし…)

咲「……随分三味線の方は達者のようだ」

華菜「…は?」

衣「ん?」

咲「よく喋る口だと言ったんだ。雑魚に限って口は回る、実に耳障りだ」

衣「……へえ。然らば多くは語らない。『これ』で趨勢を決しよう」

咲「――是非に及ばず」

華菜(あーキャプテンの胸の中に帰りたくなってきた)

ゆみ「…もういいだろうか?」

咲「ウム」

衣「よーしたのしくなってきた!」ピコピコ

華菜(…生きるってつらいなぁ)


ゆみ(…一向聴から手が進まない…それも七~八巡程度ならばよくあること、だが…)

華菜(配牌からこっち、ずっと一向聴のまま…鳴くに鳴けないし!)

 ――このツモ、どうかしてる――!


透華「始まりましたわね…衣の支配が」

透華「さすがの私でも衣相手では聴牌率が激減しますわ」

一「あれはつらいよね…思い出すよ、初めて衣と対局させられた時のことを――」

一(――あの夜も、今日みたいな満月だった…)

純「去年は半月だったか」

透華「ですわ!大将の位置ならば必然、試合は夜…衣のチカラが十全に発揮される!満月の時の衣はもうやばやばですわよ!」


ゆみ(どういうことなんだ…?あと一歩…それだけのことが、まるで雲霞を掴むが如き所業のように思えてくる…)

ゆみ(息苦しささえ覚える…まるで――海の底に引き摺りこまれるかのような…)

咲「……」タン

ゆみ「! チーだ!」

ゆみ(張った!)

華菜(ばっ…なんてことするんだ…!)

衣「――フフ、水底はさぞ冷たく苦しいだろう――?」

ゆみ「なっ…!」

衣「――リーチ」チリ…


純「決まったな」

透華「――麻雀はファイナルドローでの和了りに役がつく」

透華「その役の意味は――」


衣「……」スッ ピッ


 ――海に映る月を撈い取る…!!



衣「ツモ――海底撈月」



ゆみ(これが…!)

 ――これが天江衣――!!

咲(…海底、か)

ゆみ(…しかし、どういうことだ?ダマでも十分な手を残り一巡でリーチだと?それでは…それではまるで…)

ゆみ(確信しているようではないか――海底で必ず和了ることを――!)

ゆみ「……ふぅ」ギシッ

ゆみ(だが…去年の天江は牌譜を見る限りでは高い手を直撃していくタイプだったはず…海底など県予選では数える程和了っていたくらいだった)

ゆみ(…まだ、嫌な予感がする……)


華菜(あーもうっ!なんだこれ…鳴いて仕掛ける気まんまんなのに全然鳴ける気がしないし進まない!)

華菜(…このまま行けばまた天江が海底をツモる…)

華菜(この点差、この状況…じゃあまァ――)ピクッ

華菜(無理してみようか!)

華菜「カン!」

咲(この猫女ァ…!)ピキッ

華菜(嶺上…よし、手が進んだ!さすがにこれが清澄の和了り牌ってコトはないだろーケド…)

華菜(カンで山がずれれば海底牌が変わる…一手で嶺上も海底も潰したし!華菜ちゃんの頭脳プレーだし!)

華菜(しかもツモ順も変わって天江が海底コースから外れた…!あとはこれを和了るだけ!)

咲(貴様をまたたびにしてやろうか…!)ギラギラ タンッ

衣「ポン」

咲「!」

華菜(コースに戻った…!?)

衣「ペーポンペーポン」

咲(迂闊――!我としたことが風越の猫女に気を取られて…!)

ゆみ(…アシストすら出来ないまま山が削れていく…)

ゆみ(――嶺上二回に比べれば、海底などさして珍しくも無い)

ゆみ(…だが。こちらも二回連続となれば――)

衣「ツモ――海底撈月」

華菜(二連続…海底のみ…)

華菜(いや…カンドラ三枚――!)

華菜(あたしがカンしなければ…防げた…?)

ゆみ(風越の…池田といったか。天江衣の海底を警戒しているようだが…)

ゆみ(前局の私は聴牌を焦り天江に海底を回してしまい…然れど海底を防ごうと足掻いても結局は天江の手の内…これではまるで――)


透華「衣の特質が海底だけだと思ったら痛い目見ましてよ」フフン

一「そうだね。ボクもそれにやられたんだった。あれはもう必殺技とかそういうんじゃなくて、なんていうか」

智紀「支配」

一「そう!」

純(えらい食い気味に反応したな今)

一「あの時ボクが対峙し…今も彼女らの前に屹然と立ち開かるそれは、只の女の子なんかじゃなくて――逃れられない運命そのものなんだ――」


華菜(状況はかなり酷いな…そういえば去年も終始こんな感じだったっけ…鳴いて天江を海底から遠ざけて、自分は勝負手を張って…その捨て牌で、天江の倍満に振り込んだんだ)

華菜(大きな別れ道が二つとも死に繋がっていた――)

華菜(誰も鳴かなきゃ親の天江に海底は回らない…)

華菜(…お?なんだ、今までと違って…)

ゆみ「……」タンッ

華菜「チー!」

華菜(鳴けるじゃないか!)

華菜(そうだ!要は天江に海底を回さないようにすればいいだけのことだし!)

衣「……」チャッ タンッ

華菜「ポンっ!」

衣「……」ニヤリ

華菜(あ…れ?今のポン…もしかして無意味…?)

衣(さいごのおとーふ♪)

咲「……」スッ

衣「ポン!」


透華「トップ親がヤミピンフを捨てて役無しに…デジタル打ちならば考えられないような打ち方ですわ」

一「でもこれで海底をツモるのは衣だね」

咲(…軌道に入ったか。こちらは…通常のツモでは手が進まん…それならばこれで――)

咲「カン!」

咲(…手が進んだ!これで軌道もずれた、が…)

ゆみ(清澄、手が進んだようだが嶺上開花ではないのか…しかしこれでは新ドラが天江の副露に乗る…!)


一(関係ないんだ。そう、衣にそういった小細工は関係ない…――)


衣「チー」

華菜(ぐっ…またコースに戻った…!)

ゆみ(仮に風越と天江衣の手が同じ程度ならば風越に差し込む方が断然マシ…だが、現状ではどちらが高いかなど知る術もないしそもそも萬子がない…)

華菜(やばい…)

ゆみ(不味いな…海の底が見えてくる――!)

咲(…成程な。此は正しく支配と呼ぶに相応しい――天江衣、貴様は正真正銘の魔物だ、認めよう)

咲(なればこそ!益々以て逸る!)

ゆみ(ラスヅモで聴牌…しかし天江衣が海底を和了るのならば意味は無い…)スッ

ゆみ「――っ」ゾクッ

ゆみ(この感覚…怖気とでも言うべき、背筋を這うモノ…!まさかこれが…)チラッ

咲「……」ズズズ

ゆみ(…どうせこのまま指を咥えて見ていても、龍門渕の独壇場、か。ならば)

ゆみ(もう一匹の怪物と戯れてみるのも悪くない!)パシィ!

咲「カン!」

衣「!」

咲「――折角の狂宴だ、独りで踊ってないで相手をしろ」ズアッ

衣(清澄――ッ!!)

咲「ツモ――嶺上開花ッ!」カッ

華菜(もー…わけわかんないしもー…)

ゆみ(清澄の宮永咲…やはりこいつも間違いなく、天江衣と同じ人種――!)

ゆみ(さて…眠れる虎は竜を喰らってこちらに与するか…それとも総てを喰らい暴虐の限りを尽くすか、はたまた天翔ける竜の前に臥すのみか…。乾坤一擲、既に賽は投げられた。後は私次第だな)

衣(衣は子より親の方が好きなのに…!清澄の大将…よくも衣の親を!)プンプン

衣(呉越同舟とでも?…いや、鶴賀の様子を見るに、ただ手に手を取って戮力一心というわけでもなさそうだが…)

衣(孰れにせよ生猪口才!)ボゥッ


純「カンで手が進む清澄と鶴賀の一点読みがあってこそだな」

透華「まったく、ムダなあがきをしくさりますわねぇ」

一「……」スッ

一(…あぁ――夜の帳が降りてくる――…)

ゆみ(この配牌…もし『天江衣の支配』と呼べるものが真に存在するのならば、自然に進んでもまた一向聴の袋小路か…ならば)

ゆみ(いっそ戯れてみよう。その運命とやらと――!)ピシッ


睦月「む…いきなりセオリー外…」

智美「まーユミちんなりに何か考えがあるんだろう」ワハハ

智美「うちらがここまで来れたのも一重にユミちんの作戦と指導のおかげ…あとはもう、ユミちんが好きなように楽しんでここに帰ってくるのを待つだけだ!」

睦月「うむ」

佳織「そうだね」

モモ「部長さんいいこと言うっす」


ゆみ(よし、聴牌!できるじゃないか…!これで奴の支配が完全ではないことを知らしめる…!)

ゆみ「リーチ!」

華菜「なっ!?」

華菜(次はこっちか!?捨て牌キモッ!こちとらこの点差をひっくり返さなきゃなんないってのに…!)チャッ

華菜(くっ…迷ってる場合か!)パシッ

ゆみ「ロン。リーチ一発七対子…裏裏、12000だ」

華菜(なんでこのタイミングで一発掴まされんだよぉ…ふざけんなし…)ジワッ

ゆみ(すまんな…本来なら天江衣から取りたい点だが…こちらも見逃すほどの余裕がないのだよ)

ゆみ(この親番…大事に扱いたい…)

 ゾクッ…!

ゆみ(なっ――…)ゾゾゾ

衣「……」ニコニコ

ゆみ(なんだ…今の圧迫感は…!?)タンッ

衣「――ポン」

ゆみ(…まさか…先程の私の和了りは天江衣の支配に逆らったからではないのか?ただ…嵐の前に海面が凪ぐかのように…天江衣が動いていなかっただけとでも…?)

衣「ポン」

ゆみ(これで二副露…ならばこの局は…)

華菜(鶴賀のやつ、いきなり青褪めてどうしたっていうんだ…?)タンッ

衣「――昏鐘鳴の音が聞こえるか?」

華菜「!?」

衣「ロン――」ドンッ

ゆみ(やはり出和了りもある、か…!)

華菜(は!?)

衣「世界が喰れ塞がると共に――おまえたちの命脈も尽き果てる!」ユラリ

衣「清澄の…おまえも戯言を遺して逝くがいい!」

咲「ホゥ…」


華菜(なんだこれ…めちゃくちゃじゃないか…)

華菜(キャプテンがいつだか言ってたっけ…どんなつらい状況もそれはそれとして前向きに愉しんでいこうって…でもこんなの、無理!)

華菜(ココは私だけの場所じゃない…キャプテンが、風越のみんなが頑張って辿り着いた場所…このままじゃ――)

華菜(みんなの全国への夢が、私のせいで…!)ジワッ

衣「――ツモ!」ガカッ!!

華菜(…そん、な)ガクッ


稔「前半戦終了――!!」

稔「大きく沈んだ風越と独走状態の龍門渕――!清澄、鶴賀もなんとか食らいつきたいがどうなるか!」

稔「残すはあと半荘一回――!!」


咲「フン…」

咲(あっ)ブルッ

咲「…催した。しばし嶺の上まで花を摘みにいってくる」ガタッ

華菜(…やかましーし)グスグス

華菜(どーしてこんなことになっちゃったんだろ…今年こそはって思ってたはずなのに…)

美穂子「――…華菜」

華菜「!」

美穂子「来るなって言われてたけれど…来てしまったわ…」

華菜「キャプテン…」

美穂子「でも…何を言えばいいのか、言葉が見つからないの。それでも…傍に居てあげたい。それじゃ…駄目かしら?」ツツ…

華菜「…はい。お願いします」

華菜(また…また、泣かせてしまった…この人を…――)


衣「……」ヂュー

藤田「やァ衣。今年も調子良さそうじゃないか」

衣「にゅ。フジタ…調子の良し悪しなど関係あるか。あと小半時もすれば日降ちだ、尚更に衣が負けるわけがない」

藤田「日没とか関係あんの?やっぱお前おもしろいわ」

衣「なんならこの後にフジタも相手してや…」

藤田「……」スッ ナデナデ

衣「ふわっ!…って撫でんなセクハラ雀士!」ババッ

藤田「…そろそろ、麻雀を打てよ衣」

衣「は?麻雀ならまさに今打ってるぞ?」

藤田「ばか。お前のは打ってるって言わないんだよ。――打たされてるんだ…――」



和(宮永さん…どこにもいない…どこに行ってしまったの?)タタタッ ポヨヨン

和(終わり際…なんだかなっさけない顔をしてたように見えたし…まさか相手が怖くて戻ってこれなくてどっかすみっこで頭を抱えて震えながら大泣きしてるなんてことは…)

和「……」

和「……」ゾクゾクッ

和(いいえ!宮永さんに限ってそんなこと!……………………ありえません!)


咲「……」

咲(不味いな…)

咲(――彷徨える仔羊……ッ!!)

咲(いやいやそれどころじゃないよ…結局こっちにトイレなかったし…このまま後半戦に間に合わなかったら部長や原村さんにおこられちゃう…やばいよそれだけはなんとしても回避しないと…)

咲(うすうす感づいてはいたけど、私ってもしかしてちょっと迷子癖がある…?いやそんなまさか)

咲(…我が魂魄よ、今一度我をラグナレク-終末の日-に約束されし戦場へと引き合わせよ!後生だ!おねがいっ!)

和「宮永さんっ」タタタ

咲「! おお、戦乙女よっ!」パァァ

和「何してるんですかっ!」

咲「っ」ビククッ

和「大将戦の途中なんですよ?」ズズイ

咲「うぅ…催したのだから致し方なし…」

和「…また迷子ですか」ハァ

咲「迷子じゃないっ!天地神明に誓って!」

和「…魔王様ともあろう者が天地神明に誓っちゃうんですか?」ジトー

咲「うっ」タラリ

和「…ふぅ」ヤレヤレ

咲「ぐぬぬ…」

和「――絶対勝つって…約束しましたよね?」

咲「…ウム」

和「破ったら私の言うことなんでも聞く、とも」

咲「…ウム。……ウム?」

咲(言ったかな…?)

和「なら、合宿の時の…いえ。初めて私たちが出会ったあの日のような、自信に満ち溢れた苛烈なあなたを見せてください」

咲「…是非に及ばず!」

和「さぁ、いきますよ!もう始まっちゃいます!」グイッ

咲「ええっ?私まだトイレ済ましてない…!」タタタッ

和「試合前に行かなかったんですか!?」タタタ

咲「だって…原村さんの試合見てたし…」

和「っ」ドキッ

咲「クッ…疼く…」

和「とっ、とにかく!急いで終わらせればいい話です!だから急ぎましょう!」ダッ

咲「あ、ちょっと…!せめてもちょっと小走りで…っ!」タタタ

稔「県予選、最後の決勝戦の、さらに最後の後半戦――!この半荘が最終決戦になります!」

稔「全国に行けるのはこの中で一校のみ…!さぁ、運命の後半戦…開始です――!!」



咲(――…不思議だ。こんな状況なのに。相手は今まで打ってきた中でも文句なしにトップクラスの強さだっていうのに…)

咲(いつもの調子とは関係無く――どうしようもなく、滾る!!)ボッ

咲(これは、そう…久し振りに牌に触れた『あの日』に近い感覚…)

咲(もっと…もっと麻雀を愉しみたい!)バッ

華菜(清澄の、眼帯取ったのか…だけどそれが何になるっていうんだ…)

ゆみ(……?清澄の様子が前半戦と違う…?前半はどこか調子外れた雰囲気を残していたが、今はやけに――静かだ…)

咲「……」チャッ

咲「……」ズズ…

衣(為すべきことは変わらない…衣は衣の麻雀で勝つ!フジタめ、戯けたことを抜かしおって…)

 チャプ…ザザァ…

ゆみ(…くっ)

華菜(このままじゃ…前半戦と同じ…海底を天江衣にツモられる…)

衣「――リーチ」

ゆみ(これが…)

華菜(全国レベルの力だって言うのかよ――!)

衣「ツモ、海底撈月――」

稔「これで三回目の海底撈月ですね…正直異常ですよ」

藤田「海底だけじゃないさ、すべてが異常すぎる」

藤田「天江以外の三人の配牌とツモすべてを合わせても聴牌できない、完全に近い一向聴地獄…――だが、それでも防げる手はあった」

稔「…清澄の四索、ですか…?清澄が四索を鶴賀に鳴かせれば潰せたと」

藤田「ああ。だが、清澄はそれをしなかった」

稔「しなかったって…そもそもわからないでしょう?そんなこと」

藤田「…まぁな」

藤田(清澄からしたら嶺上開花の可能性が残ってはいた。普通ならばそんな無に近い可能性を信じるやつはいない…)

藤田(『普通ならば』…か。――気を付けろ、衣。そいつはお前に届き得る――!)


衣「わぁーい!衣の親番だーっ!さいっ、ころっ、まわれ~」ポチ カラカラ

衣(畢竟するに――衣の支配を抜け得なければ、そも衣と土俵を同じくすることさえ叶わぬ。勝つだの負けるだのは其の次になって初めて考慮すべき事柄。そして何より、衣の支配は実に実に堅如磐石――)

衣(フジタの烏滸言など一考の価値も無し!さぁ…闇の現を見せてやろう…)ズ…

華菜(…ツモや配牌を呪うのは弱者の思考だけど…これはもう呪うしかない…まるで悪夢だし)タン

衣「ロン」

華菜(…え?)

衣「12000」

華菜「……っ」クラッ

ゆみ(不味いな…風越が危うすぎる…)

ゆみ(この点差と残りの局数だ、退く事も妥協も許されず、故に天江衣からしてみれば与し易い…)

ゆみ(このままでは搾り殺されるぞ――池田!)

華菜(東…鶴賀が一巡前に捨ててるし天江は二巡前から手変わりしてない…これは通るはず)タン

衣「ロン!!」

華菜(なっ…なんで…!?)ジワッ

ゆみ(風越を狙い打ちだと…!?トバすためか?いや、奴は敢えて安い手にして…一体何がしたい…?)

衣「――気付かぬか?点数を見よ塵芥共」

ゆみ(風越…0点、だと!?)

衣「汝等に生路無し!」

http://pics.viploader.net/detail.php?image=http://up3.viploader.net/jiko/src/vljiko101658.jpg

優希「すごいことになったじょ」

久「そうね、これはまずいわ…風越以外がツモ和了りをした瞬間に龍門渕の勝ちが決まるわ。…もちろん、もう嶺上開花もできない」


一(一筒を残していたら優勝が決まっていた。でも、衣はああやって、わざと相手を生殺しにして力の差を解らせるんだ…)

一(それはそう、敗者が自らの手で敗北の烙印を押すように仕向けて、心を折るために…。――ボクが見た絶望が、あそこにある…)


咲(…随分とまァ好き放題にやってくれる。人が開けた視界を慣らしている間に…)

咲(傲り昂ぶり、何処までも傲慢に、何処までも傲岸に、不遜で尊大で、驕傲極まりないその姿勢――)

咲(――嫌いではないぞ)ニヤリ


和「…今」

優希「んー?」

和「宮永さんが…笑ってたような…」


咲(思えば花天月地――我らは並び立つ宿命に在るのやもしれんな…)

咲(ならばこそ!此処で終わらせるには勿体無い――!)


華菜「……」レイプメ

華菜(…さむい)

華菜(奴に生死を握られてる感覚…あたしは生かされてるだけ…惨めだな)

華菜(あ…聴牌…今更かよ、はは…しかもリーチをかける点棒もないし…)

華菜(でもこれでノーテン罰符でトぶこともなくなったかな…ツモれたら一番だけど――)

衣「……」タンッ

華菜「!!」

衣「……」チラッ ニヤリ

華菜(天江…!くそっ、役がないから和了れないし…!でもまだ三枚…――)


咲「――貴様が月を撈うというならば…我はまァ、取り敢えず死にかけの猫でも救っておくかな――」


衣「?」

咲「ポン、だ」カッ

華菜(なっ――!これで残り一枚…!お願いします…あたしのツモる所にいて――!)

咲「カン」

衣(フン…和了形になったか。だが和了れまい。然為ればお前は即敗滅!)

咲「もいっこカン」

衣(連槓 …?――小明槓っ!?)

華菜「あっ…ろ、ロン!搶槓ドラ7…!」

咲「ウム」

衣(こいつ――!)

咲「ン?」ニヤリ

衣「……!」ゾクリ

衣(清澄の…嶺上使い…!今のを故意にやってのけたのか…?)

華菜(…なんとか0点脱出…でもまだ絶望的な差があることは変わらないし、局数も残り少ない。親番もあと一度だけ…)

華菜(…大きな手を狙いつつ、無理そうなら親の連荘支援か…でもそれでいいのか…――?)

華菜(キャプテン…――!)


華菜『福路先輩っ!』

美穂子『あら…池田さん』

華菜『やっと追いついたし』

美穂子『…いつも一緒に帰ってくれてありがとうね。私、こうして誰かと一緒に帰るのって小学生以来だわ』

華菜『そーなんですか?』

美穂子『ええ。私、よくうざいとか言われるから…』

華菜『そんな…』



華菜『……』

華菜『それなら!』

美穂子『?』

華菜『あたしだってうざさじゃ負けませんよ!図々しさなら負けません!だからあたしがキャプテンよりもっともっとうざくなってそれでキャプテンのそばにいれば、キャプテンよりあたしがうざがられるはずですっ!』

美穂子『…やさしいのね、あなた』

華菜『そんな、こと…』

華菜『…あたし、図々しいので、ひとつお願いしてもいいですか?』

美穂子『なぁに?』

華菜『あたしのこと下の名前で呼んで、これからもずっと一緒に帰ってください――』



華菜(――…そうだ。あたしは図々しいんだ…!)

華菜「にゃ―――――――――――っ!!」ニャー

衣(咆号…?)

ゆみ(ついにイカれたか…)

華菜(そうだ…キャプテンの傍に図々しくも居続けるために…)

華菜(今こそ覚醒するんだし――!!)スッ

華菜(…あれ?)

華菜「誰か牌いじった?」

ゆみ「否」

華菜(…覚醒ッ!)

華菜(――想像するんだ。この手をどう導き――どんな和了形を創造するのかを――!!)

華菜(前を行く奴等との開きが絶望的なまでに遠い時――俯いて心折れたままじゃ牌まで弱くなる気がする)

華菜(――もし…もしも神なんて存在がいるとするのなら、きっと前に向かう者を好いてくれるはず――!)キュッ

華菜(張った!…でもこれじゃ足らない…)カッ チャッ

華菜(これで一盃口…まだだ。…ドラ、これで4000。――来た!平和がついてフリテン解消、高目で三色もつく!)

華菜(天江…)チラッ

華菜(…は、清澄以外眼中に無し、か。点差に胡坐を掻いてのうのうとしている君に目に物を見せて進ぜよう――!)パシィ!

華菜(先の機会にあたしを殺さなかった事を悔いるがいい…――!)ギュアッ

華菜「――リーチせずにはいられないな」

華菜(さァ…間抜けた面を拝ませてみろ魔物め――)クッ

華菜「――ツモ!」ダァン

衣「なっ――」

ゆみ(まさか…!)

華菜「リーチ一発平和純全三色一盃口…ドラ――3…」

ゆみ(数え役満…!)

衣(先程まで青息吐息だった風越が息を吹き返した――!?)

華菜「既に決めたつもりか?――そろそろ混ぜろよ」ニヤリ

ゆみ(…結果的に二位になったわけだが…点差は未だ縮まらず、残るはこの東ラスと南場だけ、か…)

ゆみ(モモ――…あの時の問い…いや、何時だって私ははぐらかしてばかりだったか)

ゆみ(それは卑怯なのか臆病なのか…)

ゆみ「チー」

華菜(親の鶴賀が二副露…しかし一通も三色も無いはず。ならダブ東か?)

ゆみ「……」タンッ

華菜(東切り…?ダブ東でもない…?となるとチャンタか筒子染めか?)

衣「……」パシッ

ゆみ「ロン。11600」

衣「……!」

ゆみ(――やはり卑怯者かもしれないな。それでも…私は私だ、私は『加治木ゆみ』のやり方で、前へ進んでみせる――!)

衣(…清澄ばかり瞻っていたら…――此は如何に…奴儕の貌に絶念の色が聊かもない…)

衣(拉ぎ折ったはずの心が何かに繋ぎ留められている――!!)

衣(清澄もあれから粛々としている…暗がりに鬼を繋ぐがごとく、か…)

咲「……」

咲(――もう止めよう、ヘンな口調や言葉遣いは止めにしよう…大将戦の前まではそう思っていたはずなのに)

咲(この卓を囲んでいる今は…今だけは、こっちが素の自分みたいな、そんな気さえしてくる…)

咲(天江衣ちゃん…加治木ゆみさん…池田華菜さん…みんながいる。そして…私もきっと、此処にいていい)

咲(それだけのことが…こんなにも嬉しい――愉しい!)

咲(眼帯は外した。きっともうこの包帯も要らない)シュル

咲(私が――宮永咲が、今麻雀をしている――!!)

咲「――ツモ」コトッ パタッ

華菜「…は?」

ゆみ「!?」

華菜(な、なんだその手――!?)

衣(安手…血迷ったか…?)

透華「呆気ないですわね…諦めたのかしら」

純「どうかな。点差に縛られてちゃ衣の支配に嵌まるばかりだ。もしかしたら清澄の大将には違うものが見えてるのかもな」

透華「…それは、あなたの言う『流れ』というやつですの?」

純「どーだかね」

智紀「…不自然な和了りであることは否めない」

一「確かにね…」

一(もし…もし、清澄の子が衣と同等…或いは衣以上に異常な打ち手だとしたら…?)

一「…まさかね」ボソリ

咲「――カン」

衣「!」

咲「……ツモ――嶺上開花」フワッ

ゆみ(その手でポンして、あまつさえ加槓だと――!?一体何を考えている!?)

華菜(あたしの最後の親番がそんなゴミ手で――!!)

衣(――…月は出ている。力も充盈している。点差も十分。…なのに)

咲「……」

衣(なぜだ…?――月に翳りを感じる…)

和(…宮永さん…!)


咲(……?原村さん?)ピリッ

咲(――大丈夫だよ)

咲「カン」

ゆみ(またか…!)

咲「もいっこカン」

華菜(連槓…!)

衣(まさか――)

咲「…切りましたよ」

ゆみ「え?あ、ああ」

華菜(…来たしぃぃぃい!カンドラで一気に化けたし!)キュ

華菜「…よしっ!リーチ!」

衣「……!」

衣(気息奄々としていたはずの風越から感じる――澎湃たる気運!)

衣(そうか…!清澄のカンで…)トン

咲「ロン」

衣「…え」

咲「110府1翻、3600です」

華菜(そ…そんにゃ…)

ゆみ(高目を狙える手にも関わらず安手で徒に場を進める…清澄、何を考えている…?)

華菜(なんなんだよ――!)


咲「――ポン」

ゆみ(点差があるのにポン…やはり安手で連荘狙いか?)

華菜(――…こい。こい…)キュ

華菜(来た!国士無双聴牌!天江から直撃取ればまだわからないし!)

衣(また風越から強大な気配…対して清澄は些些たるもの…しかも聴牌すらしてないとみえる)

衣(くっ…なんだこの感覚は…?)


稔「風越池田選手が国士無双を聴牌!もし天江選手がオリるようなことがあれば北が出るかもしれませんね…」

藤田「どうかな。それよりも清澄のポン…あれがなかったら天江がツモってもう南三局は終わっていた」

藤田(衣…感覚に頼るな――そいつはお前の感覚を超越する存在だ…!)


咲「……」カッ

衣(張ったか…しかし安い――)

咲「カン」

衣(まさか…!?)

咲「もいっこカン――」

 ゾワッ

ゆみ(――まさか)

華菜(これで…)

衣(嶺上…――?)


咲「――もいっこ」

「「「!?」」」

咲「カン!」

衣「……!」

衣(なんだこれは…!?一巡前には聴牌すらしてなかった奴の手が――!)

咲「ツモ――嶺上開花・断幺・対々・三暗刻・三槓子」

衣(…こんな――)

咲「――ありえない?」

衣「!」

咲「そんな顔してるよ」

衣「…ありえない。ありえないっ!どうして…!」

咲「……」フゥ…キッ

咲「『有り得ない』?――有り得ないことなど有りはしない」

衣「――!」

咲「貴様の支配は凄絶の一言に尽きる。正味、侮っていたよ。吹けば飛ぶような有象無象だとばかり思っていた」

衣「……っ!」

衣(――衣も…衣の方こそ…)

咲「だが…貴様の支配は壁牌に及ぶばかり…我はその支配の及ばぬ領域――王の領域、王牌を従える」

衣「……」

咲「――未だ信じられないか。ならば括目せよ、そして瞠目せよ!魔王の麻雀、篤と御覧じろ――!!」

衣(……)


藤田『お前のは打ってるって言わないんだよ。――打たされてるんだ…――』


衣(そんな…莫迦な…)

衣(事が、あってたまるか…っ!)

衣(…いいだろう、確かめてやる…所詮は誰かと楽しく麻雀を打ってきた奴の戯言…)

衣(――麻雀という遊戯は勝者がひとりで、他はすべて敗者)

衣(こうして戯れていようと、相手は楽しくないはずなのだ…)

衣(独り法師の衣と違って…麻雀がなくとも彼奴等には誰かが傍にいるんだ。だから…麻雀だけしかない衣より強いなど、あってはならないんだ…あっては…)


透華『私はあなたの従姉妹の透華と申します』

透華『友達が出来ないのであれば、集めるまで!』

純『よーちびっころ。肩車してやろーか?』

智紀『…よろしく。今度、色々データを取らせてほしい』

一『ボクは一。キミは…――』


衣(ならない…はずなのに…どうして、こうも胸がくるしいんだ…?どうしてこうも震える…?)

衣(――…確かめる。此が只の錯覚か否か…この双眸で確と!)

華菜(…まだだし。まだまだ!まだまだまだまだ諦めない!華菜ちゃんは図々しいんだし!神様、今こそ華菜ちゃんに天運を!)

ゆみ(…結局はこうなってしまったか。だが、それでも…足掻いてみせる!これが私の答えなのだから――!)


衣「――ポン」

ゆみ(しまった…!)

華菜(まただし…また、今度は天江衣の…!)

衣「……」スッ

衣「――ツモ!」ダンッ



稔「四度目の海底――!追い縋る清澄の親番を一蹴!そして――ついにオーラス!!」

ゆみ(…切り替えろ。ラス親、役満直撃でまくることが出来るが…まずは何より和了ること!)

ゆみ(和了り続ける限り――負けることはない!)

華菜(この状況からうちが勝つには…とにかくひたすら聴牌し続ける!そんで頃合を見計らって役満でも直ればまくることも可能!そしたら華菜ちゃん奇跡の大逆転!)

華菜(――諦めないぞ。だって…諦めたら、起こり得る奇跡も起きないから!)

衣(もう…いい。もう斃れろ…どうせ衣が勝つんだ。だから――)

咲「……」


 チャッ タン チャッ タン チャッ…

華菜(…ん~~~~~……)

華菜(はァ…今来んなよ…――四暗刻単騎ツモ…!)

華菜(…飽くまで勝ちにいく。寂しい思い出作りだなんて御免だね――出直してきな!)タンッ

衣(…風越、和了らんとはあにはからんや…)

衣(しかし――これで!)カッ

衣「――……っ!」トクン

衣(五萬じゃない…!?)

咲「……」ズズズ

衣(清澄…掴まされた――!)

衣(如何にせん…12000…程か?その程度であれば多少の色がついたとしても子細なし…今までこの感覚通りに打って負けたことはない…しかし…)

衣(くっ…前々局の情景が思考にこびりつく…)

衣(初めて出会った、感覚通りに打って負けるかもしれない相手――!)

衣「……」

咲「――何をそんなに迷っている」

衣「!」

衣(迷っている…?衣が?)

咲「好きに打てばいいだけの話。それで勝つかもしれないし、負けるかもしれない。得てして麻雀とはそういうものだろう?」

衣「……」

衣(――…そう、だった…のか…?フジタの言葉、胸を刺す痛み…何もかも)

衣(衣が思い違っていただけの、それだけのこと…?)

衣(…勝つかもしれない…負けるかもしれない……それだけの――)

咲「…我は――」

咲「ううん、私は…今日この時、この四人で卓を囲めて…麻雀を打てて…すごく愉しいよ」

衣「!」

衣「衣と麻雀を打って…たのしい…?」

咲「ウム…うん!だから――いっしょに愉しもうよ!」

衣「――っ」ドクン

衣(奇異な奴…衣と打ってたのしい、か…)

衣(…感覚の傀儡と成り下がり『打たされる』のではなく!感覚を選択肢の一つとして『打つ』!)

衣(衣は衣の意思でこれを選ぶ!もし清澄の手牌が気配通りのものならば衣の勝ちだ!そうでなければ…今回は負ける、それだけのこと!)パシィ!

衣「…和了るか?」

咲「ううん。それで和了っても私の負け。だから――」



咲「――カン」ボッ


透華「跳満は当然和了らないにしても大明槓って…――大明槓!?」


智美「責任払いかっ!」ガタッ


稔「珍しいルールですよね」

藤田「そうだな…私は苦手だ」


美穂子(ここで和了ったところで点数は変わらない…とすれば)

咲「もいっこカン」

華菜(また連槓…!?)

ゆみ(ここまでくると天晴れだな…)フッ

衣(…衣は今までの自分の打ち方を信じ、選んだ)

衣(でも――これでこの自分が敗忸するようなことがあるのなら…――)

咲「――」ズアッ

未春「また嶺上開花…」


モモ「でもこれならまだ12000のままっすね」


一「ということは――」


和「宮永さん……!」

咲「――もいっこ、カン」

衣(衣は――生まれ変われるかもしれない――)

 ひらっ…

咲「ツモ――清一色…――」

華菜「……」

咲「――対々、三暗刻、三槓子、赤一…――」

ゆみ「……」

咲「――嶺上開花…」

衣「……!」

咲「――32000です!」カッ



稔「かっ…数え役満――ッ!!」

稔「県予選決勝二度目の数え役満!しかもまた嶺上開花!!」

稔「これにて県予選団体戦は完全決着!」

稔「試合の最終結果は――清澄高校の逆転勝利です――!!」

衣「……」ジワッ

ゆみ「……」フッ

華菜「……うん」

衣「……?」

華菜「あたしも…愉しかったし!」

衣「お前が…お前も、か…?」

華菜「なに?おかしい?――何事も、そうやって前向きに愉しんでいくんだよ!」

衣「……」

ゆみ「確かに――負け惜しみにしか聞こえないかもしれないが、私も愉しめたよ」

ゆみ「まだまだ此処で牌を触っていたい。…可能ならば何時何時までも、この続きを打ち続けていたい気分だ…」

衣「…衣は散々ひどいことを言って…いじわるなこともいっぱいしたのに…また、衣と打ってくれるのか…?」

華菜「当たり前だし!今度こそは叩きのめしてやるんだから、嫌って言っても付き合わせるし!」

ゆみ「そうだな」フッ

衣「…清澄の、名前を教えてくれるか?」

咲「私は咲――宮永咲!」

衣「咲…」スン

衣「愉しかった…!」ニコッ

咲「うん!」

衣「咲も、また打とう!」

咲「もちろウッ…!」ブルルッ

ゆみ(もちろう…?)

華菜(もちろう…?)

衣(餅郎…?)

咲「…催していたのを失念していた。すまんが、我はこれで失礼する…ありがとうございましたっ、それじゃ!」ぺっこりん タタタッ

華菜「…なんだかなぁ」

ゆみ「締まらんな」フフ

衣「…あ、これ…咲の眼帯…――」


美穂子「…華菜……」キョロキョロ

華菜「……」コソコソ

美穂子「あ、華――」

久保「池田ァァァァァァァァァァァァァ―――――――アアアアッ!!!!!」

華菜「」ビックビク

美穂子「こ、コーチ…!」ギョッ

久保「……」ツカツカ

華菜「……っ」

久保「……」バッ

久保「…なんつー顔してんだ、ばか」

華菜「……」グスッ

久保「みっともなく顔隠してんじゃねえよ。堂々とできねえほど恥ずかしい打ち方したってんなら、うちの部から出てけ」

華菜「…いや!まだ…まだがんばるし!」ギュッ

久保「…そォか。よし、お前ら。ホテルは連泊にしておいた。学校と親御さんの許可も取ってある。ホテルに戻って寝るも早々に帰るも自由だ。ゆっくり休め」

美穂子「コーチ…ありがとうございますっ!」

久保「……」ヒラヒラ

モモ「先輩…」

ゆみ「…モモか」

モモ「お疲れさまっす」

ゆみ「……」

モモ「……」

ゆみ「――此処まで来れただけで十分…そう思っていたはずなのに…」

モモ「……」

ゆみ「悔しいというよりも、口惜しいんだ。私はあの場で、終わらない祭りを愉しみたかった…そして、行きたかった…みんなで、全国に」

モモ「……先輩」

ゆみ「なんというか…何処かに消え去りたい気分だよ」

モモ「いいっすよ、消えても」

ゆみ「……モモ?」

モモ「そうしたら今度は私が先輩を見つける番っす!大声で世界中を探し回って――必ず見つけてみせるっす!」

ゆみ「…そうなったら、どうにかしてその口を塞がないといけないな」


智美「聞いたか今の?キス宣言だぞ」コソコソ

睦月「うむ…」カァ

智美「ワハハ、相変わらず大胆だなーユミちんは」

佳織「…でも、そんな加治木先輩が好きなんでしょ?」

智美「んー?」

佳織「だから加治木先輩のノリにも付き合ってあげてた。でしょ?」クスッ

智美「んー…佳織にはお見通しかぁ。ま、好きったってモモほどディープなもんでもないけどな」

佳織「え?でぃーぷ?」

智美「…佳織にはまだ早かったかー」ワハハ

睦月「う、うむ。我々はなんだかお邪魔虫みたいです、退散!」ササッ

和「――宮永さんっ!」

咲「あっ…!」

優希「さすがだじょ咲ちゃん!」

まこ「大金星じゃな!」

久「…おかえり、咲。頑張ったわね」

咲「みんな…う!」ブルルッ

咲「ごめんなさいっ」ダッ

和「あっ」

優希「…咲ちゃん、おトイレか」

和(耐える宮永さん…素敵です)ウットリ

 ―――
 ――
 ―

透華「ともき!衣を見かけませんでした?」

智紀「見てない…」

透華「…ちょくちょくこうしていなくなる子ですけど…今回ばかりは心配ですわね」

一「…だね。でも、きっと大丈夫だよ――」

衣「……」プラプラ

純「まーたこんなところにいたのかよ」

衣「!」

純「透華が心配してたぞ」

衣「なんで?」

純「そりゃお前…清澄に負けてへこんでたりしないかってことだろ」

衣「…そうか。でも今は――むしろその反対…すごく晴れやかな気分なんだ」トッ

衣「衣はあの時…勝つことよりも、確認することを選んだから」

純「……」

衣(――衣は独りぼっちなのかどうか…――)

衣「とーかの言った通りだった」クスッ

衣「衣にも友達ができるかもっ」

純「…オラッ」ガバッ

衣「ひゃっ」

純「オレたちは友達じゃないっていうのかよー」ウリウリ

衣「…だって、お前たちはとーかの集めた『友達』じゃないか…」

智紀「きっかけは関係ない…」ヌッ

衣「!」

一「始まりはどうあれ、今はボクたちは家族で友達だってボクは思ってるけど…だめかな?」

衣「! だ、だめなんかじゃないっ!」

透華「…よかったですわね、衣……」

衣(思い違いだった…衣は初めから独りぼっちなんかじゃなかったんだ…)

衣(清澄の嶺上使い――咲がそれを教えてくれた…咲が衣をありもしない『特別』の檻から解き放ってくれたんだ…)

衣(今なら…とーか達と、本当の友達に、家族になれる気がする…もう、壁はない――)


衣「天に地に希望が溢れてるみたいだっ!」ニパッ


透華「…ところで、その…なんですの?その眼帯は。もしかして目が悪くなりまして?」

純「あーそれオレも気になってたわ」

一「なんか見覚えある気がするんだけど…」

智紀「似合ってる」グッ

衣「んー?これ?これはね…あたらしい宝物っ!」



アナ「決まった――!!これでインターハイ西東京代表は三年連続――白糸台高校!!」

アナ「二軍でも県代表クラスと言われている白糸台ですが、一軍である『チーム虎姫』は別格!」

アナ「そしてそれを率いるのは高校生一万人の頂点!インターハイといえば彼女のこと!」

アナ「現インターハイチャンピオン――宮永照!!」


記者「宮永選手、まずは予選突破おめでとうございます!」

照「ありがとうございます。これは当然の結果として、これからの本戦に向けて気を引き締めていきたいと思います」ニッコリ

記者「さすが、王者の風格ですね!――それで、気になる情報を入手したのですが…」

照「なんでしょう?」

記者「長野県の県予選も無事終わり、代表校が決まったとのこと」

照「……」ピクッ

記者「その代表校のことなんですが…」

照「今年も龍門渕ですか?天江衣選手は注目に値する選手ですよね」ニッコリ

記者「いえ、それが今年は名門風越や龍門渕を破り、清澄高校が上がってきたとのこと」

照「……」

記者「その清澄の大将が、なんでも『宮永咲』という選手だとか!ずばり、宮永選手との関係は!?」

照「……すみませんが、知らない名前ですね。ご期待に沿えず…」

記者「またまた!宮永選手に似た面差しとも聞いてます、妹とかなのでは!?」

照「…私に妹はいない」ザワッ

記者「ぁ、そ、そう…ですか…」サー

照「…ですので。すみません」

記者「い、いえっ!こちらこそ申し訳ありませんでした!そ、それでは他に注目しているところなどあれば!」

照「やはり臨海と――」


照「……」スタスタ

菫「――『私に妹はいない』、か」

照「菫…聞いていたの?」

菫「まあな。それより、どうして嘘を吐いたんだ?」

照「……」

菫「宮永咲…彼女はお前の妹だろう?何度か白糸台まで来ていたのだから私には嘘は通じないぞ」

照「…咲を見ていると思い出すから」

菫「思い出す…?」

照「…昔の私を」

菫(…なんだ?複雑な事情でもあるのか?)

照「咲を見てると死にたくなる…しかもあの子、私の捨てたノートを勝手に拾って未だに持ってるし、というかなぜか私の下に持ってくるし……いない、私にあんな妹はいない」

菫「は?」

照「本当は過去をすべて精算してやり直したいのに…あのツモも既にルーティンと化してさえいなければ…あんな黒歴史の遺物…天照大神とかも昔を思い出すから本当はやめてほしい……」ブツブツ

菫「て、照?大丈夫かおい?」

照「――というわけで、私に妹はいない」

菫「お、おう」

菫「あ、もしかしてあのノートの」

照「ッ」バッ

菫「のわっ、こら何するやめ――」

 カン!

                 ~~    ~~
                   -―――-    ~
              ~ .....::::::::::::::::::::::::::::::::.::::::::::::`丶
            /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\  }

            } .:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::. {
           { /::::::::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.
           .:::::::::::::::::::::::::::│::::::::::|\:::|\::::|:::::::::::::::::::::::. }
         } /::::::::::::::::::|::::: / | ::|:::::::ト- ::|--∨\ ::::::::::::::::| {
       { /::::::::::::::::::/|::::::|ノ|:八 ::::| _..斗-=ミ\| ::::::::::|::::|
      /::::::::::::::| :: /-匕-=ミ\|\|  〃⌒゙ヾⅥ :::::::: |::::|  }  「私に妹はいない……!」ビクビクッ
        ̄ ̄ |::::::|::イ /〃⌒ヾ     {{    }} }|/| ::::::|::::|  {
      {  |:: 八ハ{ {{   }}     ゞ==(⌒) | :: /:::::|

       } |/|::: {. ハ (⌒)==''         ///  |/}:::::|
            |:::: ヽ_| ///              __,ノ :::::|  }
.          { |:::::::::八     _.. ‐~‐-、   イ:::::::::::::::|  {
.          } |::::::::::::个 .._ (_,,.. ‐~~' イヘ::::::::::::::::::|
           レヘ::::::::::::::::::::::_≧=一ァ  〔/⌒T:iT7ス::::/
            ∨\::/r ̄ ̄ ̄7____/    / ∧/  }
               {  ∧    |   /    /   / ∧ {
                } / {\/⌒)_∠__/|    / ∧
              /  ゙T{  二(__ `ヽ        _ヽ
            /   ∨ハ.  {_  /     \/  _〉
.            { /\ _ |  ノ   _) 人._     |_/|/ }
              } \_____,|/  /i:i\     ̄ ̄`ヽ  j  {
             ∨ /   /|i: ハ:i:\            |
              /     /:i:i:i:ハ:i:i:i:i:丶 ... ______丿
               〈      i:i:i:i/   :i:i:i:i:i|    |    }
              、___/:i:i:i:i/    Ⅵ:i/    |   {

藤田「めんどくせーから合宿やらせよう」

久保「マジっすか」

藤田「マジマジ」

 ――十日後

 キキィー!ギャリリ

智美「くそっ、こうなったら追手を振り切るぞ!」ワハハ

ゆみ「蒲原ァ――!!」

睦月「うっ…む、も…私はここまでのよう、です…!」クラクラ

佳織(合わせてたとかじゃなく智美ちゃんの素なのかも…)グルグル


久「さてさて――笑壺の会になるかしら?」

咲「クク…揃いも揃ったり有象無象」

和「結局それ続けるんですね…部長とあれだけ揉めたのに懲りない人」

咲「あれは悪魔が我を謀ったのが悪かろうよ。何が『ばらまく用に取ってた分は消したわよ。残ってるのは個人観賞用』だ!さのばびっち!」

まこ(無駄に真似が上手い…)

久「みなさん遠くからお集まりいただきありがとうございます。とりあえず移動の疲れもあるでしょうから自由行動としましょう」

衣「咲~!ノノカ~!」ピョンコ

咲「ム、天江か」

和「あら、その眼帯…」

咲「クク…馬子にも衣装」

衣「いっしょにあそぼう!」

咲「是非に及ばず」

和「何をしましょうか」

衣「麻雀!」

透華「…本当によかったですわね、衣」

一「そうだね

モモ「先輩!」

ゆみ「!」

モモ「散策っすか」

ゆみ「ん…そうなる、かな。落ち着かなくてな」

モモ「お供するするっす」

ゆみ「ああ」

智美「おーユミちん」コソコソ

ゆみ「…何をやってるんだお前は」

智美「ワハハ。追手から逃げるエージェントごっこ。風呂前に一汗かこうと思ってなー」

ゆみ「運転してた時の設定、続けてたのか…」

まこ「あ~極楽じゃぁ~」

未春「あ」

まこ「お、あんたは風越の」

未春「吉留未春です」

まこ「次鋒戦じゃあ世話になったのう」

未春「私はなにも…それより鶴賀の人の役満が…」

まこ「あーあれにゃまいったのう。いつかリベンジせにゃ」

智紀「賛成」

まこ(え…誰?)

智美「ここがフロかー」ガララ

佳織「思ったより広いですねー」

智紀「噂をすれば影…」

まこ「役者が揃ったの」

未春「…これは聖戦ですよ。ジハードですっ!!」


華菜「彷徨える仔羊!だし!」

文堂「えー…」

華菜「適当な部屋に突入するし!」ジャマスルシ!

文堂「えー…」

華菜「風越の部屋の場所知らない?」

ゆみ「一つ下の階の突き当り…非常口の手前だ」

文堂「わかるんですか…」

ゆみ「初めて入る建造物の構造を把握するのは常識だろう?何、癖みたいなものだ、気にしなくていい」

文堂(うわぁ)

華菜「わかるわー。あたしも音消して歩くのクセになってるし」

文堂「あ!それプロ麻雀せんべい!」

睦月「う、うむ」

文堂「これ往年の小鍛治プロですか!?すごいなぁこの奇抜なファッションセンス!歩くたびにじゃらじゃら鳴りそう!」

睦月「余ってたらあげるんだけど…あ、藤田プロならあ」

文堂「それは結構です」

藤田「ンだとコラ」

文堂「ひっ!?…ふ、藤田プロ…!?」

藤田「これは教育だろうなぁ…問題発言と言わざるをえない」

睦月(藤田プロの私服って昔の小鍛治プロをちょっとマイルドにした感じなんだよなぁ…やっぱり影響とか受けてるのかな)


 コンコン

 「……」

  「……怒りの日」

 「終末の時」

  「ダビデの詩篇」

 「シビラの予言」

  「戦慄せよ、現世並べて灰塵と化し」

 「審判者が来りて厳しく糾されん」

  「…入って」

 「ウム」

咲「先ずは今宵の宴、お招き戴き恐悦至極」

智紀「気にしないで。夜宴はしめやかなれど、賑やかに」

咲「クク…実は客人が居る」

美穂子「では、その方も?」

咲「ウム。紹介しよう、天江衣だ」

衣「咲!さっきのは!?示し合わせていたのかっ!?」

咲「即興だ」

衣「格好良い…!」

美穂子「問題は無いようね。うふふ…」

睦月「…私のような若輩が居ていいのだろうか?」

咲「其方も問題は無かろうよ。クク、何より肝要なのは志」

智紀「如何にも」

美穂子「では始めましょうか…」

衣(い…一体何が始まるんだ…?)ゴクリ

美穂子「――サバトを」

咲「ウム」

睦月「じゃあまず何観ます?ブラクラとかDTBとかどうですか」

美穂子「手堅く型月作品じゃだめかしら?」

咲「中二病でも恋がしたい!」

智紀「神座万象シリーズやろう」

衣(本当に何が始まるんだ…っ!?)


優希「そいつだ…ロン、リーチ一発のみ」

純「やっすい一発だな…ってなにその口調」

優希「咲ちゃんみたいな感じでやったら強くなったりするかなーって思って」

純「マジやめとけ」


華菜「ツモ――裏はめくらないでおいてやる」

睦月「乗っても点数変わりませんしね」

華菜「サービスだ…」

まこ「はいはい」イラッ

文堂「うわ、あの卓すごい…」

智美「禍々しいなー」ワハハ

久「んー?」


咲「……」ゴゴゴ

衣「……」ズズズ

美穂子「……」ニコニコ


一「前年度MVPに今年の優勝校大将、個人戦一位かぁ…すごいメンツだね」

久「ふぅん…じゃあ私が入ろうかしら?久々に本気出して――」

透華「…お願いしますわ」ユラッ

久「あら」

衣「とーか!」

咲(この感じ…成程な。此奴もまた『魔物』か…面白い!)

透華「……」ユラッ

美穂子「これはちょっと…本気で行かせてもらうわね」スゥ

衣「――咲、此度は衣が勝たせてもらうぞ!とーかにも負けるつもりはない」

咲「…フフハッ、やってみせろ!」

透華「始めますわよ」ユラリ

咲「クク…是非に及ばず…――」

 カン!

という感じで本当に終わる
全国とか気力的にもネタ的にも出来る気がしない
これにて闇に飲まれてください

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