あかり「この交差点の向こうに君がいるとしたら」 (61)

ちなつ「あかりちゃん」


ごらく部の帰り道、ちなつちゃんと二人っきりになったら、
ちなつちゃんが急に真剣な表情になったから、あかり、びっくりしちゃった。


ちなつ「明日ね、結衣先輩に告白しようと思うの」

ちなつ「今回こそは本気だよ!」

あかり「そ、そうなの?」


確かにちなつちゃんは、いつも恋愛相談のときとはちょっと違う感じで、
ほんとにほんとにちなつちゃん、真剣なんだなって思ったんだ。

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ちなつ「でね、相談なんだけど……どんなふうに告白するのがいいかな?」

あかり「うーん……」

あかり「ちなつちゃんの気持ちを素直に伝えればいいと思うよ」

ちなつ「直接言った方がいいのかな?それともお手紙の方が……」


あかり「それだったら、お手紙で結衣ちゃんを呼び出して、それで直接伝えたら?」

ちなつ「あっ、それロマンチックかも!」

ちなつ「校舎裏で『結衣先輩、ずっと前から好きだったんです』なんて……」

ちなつ「それで『私もだよ、マイスイートハニー』……って、キャー!!」

あかり「ち、ちなつちゃん?」

ちなつ「……でも、OKしてくれるかな」

あかり「えっと……」

ちなつ「あかりちゃんは、ダメだと思う?」

あかり「そんなことないけど、でも、いきなり言われても結衣ちゃん答えられないんじゃないかな」

ちなつ「そうよね、こんな大事なことすぐには決められないし」

あかり「ちゃんと考える時間があったほうがいいんじゃないかなぁ?」

ちなつ「そうね……」

ちなつ「あっ、じゃあ、こういうのはどうかな?」

ちなつ「結衣先輩に、1週間だけでいいから、って言って付き合ってもらうの!」

ちなつ「どう?それで、その間に結衣先輩をメロメロにしちゃえばいいと思わない!?」

あかり「あはは、うん、いいんじゃないかなぁ」

ちなつ「ふふ、そうと決まれば話は早いわ」

ちなつ「それじゃあかりちゃん、私急がなきゃ!」

ちなつ「結衣先輩にお手紙書かないといけないもん」

あかり「うん、じゃあね、ちなつちゃん」


そう言って走っていくちなつちゃん。
……1週間かぁ。
ちなつちゃんが見えなくなってから、あかりはちっちゃくつぶやいた。

ちなつ「あのね、あかりちゃん」

あかり「なあに?」


次の次の日、休み時間にちなつちゃんと廊下を歩いていたら、ちなつちゃんが急に改まってあかりに声を掛けてきた。
なあに、と聞き返してはみたものの、ちなつちゃんのもじもじしている様子をみたら、
何を話したいのかすぐにわかっちゃった。
おとといの帰り道、ちなつちゃんが「明日こそ結衣先輩に告白する」って言ってたこと。
あの時のちなつちゃんが真剣だったってこと、告白する決意が堅かったこと、あかりには分かるよ。
放課後になって何も言わずにすぐどこかに行った、その行先も。

ちなつ「その……結衣先輩のことなんだけど」

ちなつ「うまく、いったんだ」

あかり「本当!?」

あかり「良かったね、ちなつちゃん」

ちなつ「ありがとう、あかりちゃん。あかりちゃんのお蔭だよ」

あかり「ううん、ちなつちゃんが頑張ったからだよぉ」

ちなつ「あかりちゃんがいなかったら頑張れなかったの!」


ちなつちゃんがぎゅっと抱きついてきた。
ちなつちゃんの笑顔からは幸せが溢れていたけど、でもちょっとだけ、
あかりにはその笑顔が心配だったんだ。

ちなつちゃんを見ていて、いつも思ってた。
ちなつちゃんは、本当に結衣ちゃんのこと見てるのかな、って。
あかりとちなつちゃんの二人っきりのとき、よくちなつちゃんの話してた結衣ちゃんの話は、
まるでおとぎ話の王子様とお姫様みたいだったよね。
ちなつちゃんはすっごく女の子らしい子だからお姫様役も似合うかもしれないけど、
あかりから見た結衣ちゃんは王子様とかそんなんじゃなくて、なんていうのかなぁ?
結衣ちゃんは結衣ちゃん、っていうのじゃ答えになってないかもしれないけど、
ちなつちゃんの見ている結衣ちゃん像は、本当に結衣ちゃんなのかな、って思っちゃうんだ。

でも、ちなつちゃんと結衣ちゃんがお付き合いを始めたことは確かだし、
あかりたちごらく部にとっては大事件だよね。

結衣ちゃんは今、どんなことを考えてるのかな。
京子ちゃんは、これを知ったらどう思うかな。

授業中はちょっとだけ上の空で、そんなことばっかり考えてた。
あかりがどうすればいいのかなんて全然分からないけれど、とりあえず、ひとつだけ決まったことがある。
今日は、ごらく部の活動をなしにしてもらおう。
きっと、あの部室に行ったらちなつちゃんも結衣ちゃんも隠し事をしようだなんてしないから。
それまでに、みんなが幸せになるにはどうすればいいか、考えよう。

次の休み時間に、京子ちゃんにメールをして、用事があるからごらく部には行けないと伝えた。
そしたら京子ちゃんも先生に呼ばれてるとかで、今日はごらく部はなしにするか、って返事が来て、ほっとしてため息が出た。
生徒会も今日はお仕事無いっていってたし、櫻子ちゃんと向日葵ちゃんと一緒に帰ろうかな。
ちなつちゃんはどうするんだろう。やっぱり結衣ちゃんと一緒に帰る、って言うかな。
生徒会といえば、この間池田先輩が、最近生徒会では櫻子ちゃんが持ってきたツイスターゲームをよくやってるって言ってたっけ。
京子ちゃんが聞きつけたらやりたいっていうかもなぁ。ああいうのすっごく好きそうだもん。
……そうだ!明日櫻子ちゃんに聞いてみて、良ければツイスターゲームを借りておこう。
明日のごらく部で、ちなつちゃんと結衣ちゃんが付き合い始めたことを聞かされて、
それでもしもみんなが気まずい感じになっちゃったとしても、何か遊び道具があれば楽しく遊べるよね。

あかり「櫻子ちゃん!」

櫻子「なにー?」


金曜日の昼休み、櫻子ちゃんに声を掛けた。
櫻子ちゃんと隣にいた向日葵ちゃんが同時にあかりの方に振り向く。


あかり「生徒会でツイスターゲームやってるってほんと?」

櫻子「うん、私が持ってきたんだ」

向日葵「遊び道具ばっかり持ってきて、本当に困ったものですわ」

櫻子「そんなこと言って、向日葵だってやってたじゃん」

向日葵「それは先輩方もやってましたし、たまには息抜きも必要かと」

向日葵「まあ、櫻子は普段から息抜き以外はしてませんけどね」

あかり「あはは」

櫻子「でも今週入ってからは全然やってないかな、さすがに飽きてきたから」

あかり「そうなんだぁ」

あかり「じゃあさ、ちょっとだけ貸してくれない?ごらく部でもやってみたいんだぁ」

櫻子「いいよー!ていうか、私もやりにいっていい?」

向日葵「今日は重要な会議があるって先輩方が言ってたの、忘れたんですの?」

櫻子「ぶー、しょーがないな」

あかり「櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも、また今度一緒に遊ぼうね」

向日葵「ええ、暇があったらお邪魔しますわ」

放課後になって、ちょっとドキドキしながらごらく部に向かった。
もちろん、さっき櫻子ちゃんに借りたツイスターゲームも忘れずに持って。
途中でちなつちゃんがおトイレに寄って、あかり一人になったら、緊張してなんだか早足になっちゃった。
部室の扉を開けると、いつも通り畳に寝そべってる京子ちゃんと、それを見ている結衣ちゃんがいた。


あかり「京子ちゃん、結衣ちゃん、もう来てたんだ」

京子「なんだ、あかりか。ちなつちゃんは?」

あかり「おトイレ寄ってるだけだから、もうすぐ来ると思うよぉ」

結衣「そうなんだ」

あかり「京子ちゃんと結衣ちゃんは何してたの?」

京子「寝てた」

結衣「京子だけな」

京子「今日は授業中あんま寝れなかったからさー」

あかり「あはは、授業中は駄目だよぉ」


そんな風に話してる間も、結衣ちゃんはちらちらと扉の方を見ているみたい。
あんまり普段結衣ちゃんがしない仕草だから、ちょっと変だな、って思っちゃう。
けれど、そんな仕草になんだか見覚えもあるような……
あっ、そうだ。ちなつちゃん。
結衣ちゃんが来るのを部室で待つちなつちゃんとおんなじ。

結衣ちゃんがまたちらっと扉の方を見た。つられてあかりもそっちを見ると、扉が開いた。
ちなつちゃんがちょっと緊張した面持ちで部室に入ってくる。


ちなつ「お、おはようございます」

京子「おお、おっはよーちなちゅ!」

あかり「ちなつちゃん、もう午後だよ?」

ちなつ「うん」


結衣ちゃんのほうを横目で見たら、なんだかどうしていいかわからないみたいな表情だった。
ちょっぴり空気が重たい。早く何か遊びを始めた方がいいのかな?
京子ちゃんに向かって話しかける。

あかり「今日はなにする?」

京子「んー、そうだなー」

結衣「あのさ、皆に話しておかないといけないことがあるんだ」


結衣ちゃんは、いつになく真剣な顔だった。
うん。結衣ちゃんとちなつちゃんだったら、きっとこの場で話すと思ってたよ。


京子「なになに?私が美少女だってことについて?」

結衣「んなわけないだろ」

京子「何だと!?私以上の美少女がいるっていうのか!?」

ちなつ「もう京子先輩、ちょっと黙っててください」

結衣「その、私とちなつちゃん、さ」

結衣「付き合い始めたんだ」

京子「……うぇっ!?」

あかりには、京子ちゃんの表情が一瞬固まったのが見えた。
普段の京子ちゃんは絶対にそんな風にならないし、今までもそんな京子ちゃんを見たことは……


ちなつ「おととい、私が告白して、結衣先輩がOKくれたんですぅ!」

結衣「あれ、あかりは驚かないの?」

あかり「えへへ、あかり、実はもうちなつちゃんから聞いてたんだぁ」

ちなつ「言ってませんでしたっけ?」

結衣「いや、聞いてないと思うけど……」

ちなつ「あれ?そうでしたか?」

京子「はぁー、ちょっと前までおしめしてた結衣ちゃんも、もうお年頃なのねえ」

結衣「何だそれ」

京子「綾乃たちにも言いふらしに行こーぜ」

結衣「なっ、別にそこまでしなくてもいいだろ」

京子「おっ、照れてる照れてる」

結衣「やめろ」ビシッ

ちなつ「京子先輩はあいかわらずだね」

あかり「そうだね」


そうかなぁ?
京子ちゃん、やっぱりいつもと違うよ。
なんだか無理やりいつも通り振る舞おうとしてるみたいな、そんな感じ。
ちなつちゃんの幸せそうな顔を見てたら、そんな風には言えなかったけど……

はっ、と思い出した。こんな時のために用意してたものがあったんだった。


あかり「あのね、あかり、櫻子ちゃんにツイスターゲーム借りたんだ」

結衣「ツイスターゲーム?」

京子「へー、さくっちゃん、いいもの持ってんじゃん」

ちなつ「あかりちゃん、荷物多いと思ってたらそれだったのね」

あかり「うん、みんなでやろうよ」

結衣「そうだな」

京子「ふふん、このツイスター無敗の女歳納京子に勝てるかな?」

あかり「へぇー、京子ちゃん、そんなに強いんだぁ」

結衣「京子、やったことあんの?」

京子「ないよ?」

あかり「ないのっ!?」


その後、みんなでツイスターゲームで盛り上がった。
盛り上がったんだけど、でも……
あかりには、なんだかここがごらく部じゃないみたいな、そんな感じがして。
これで本当によかったのかな。
そんな思いが、ちょっとだけ頭をよぎった。

その日の夜、布団に入ってうとうとしてたら、突然携帯が鳴りだしてびっくりしちゃった。
画面を見ると、ちなつちゃんから。何かあったのかな?

あかり「ちなつちゃん?」

ちなつ「あかりちゃん、聞いて?結衣先輩がデートに誘ってくれたんだ!」

あかり「へぇー、よかったね、ちなつちゃん」

ちなつ「あかりちゃんが協力してくれたお陰だよ」

ちなつ「明日は最っ高のデートにするから!」

ちなつ「せっかくあかりちゃんが練習に付き合ってくれたんだもん」

ちなつ「その成果を出さないとね」

あかり「うん、ちなつちゃん、頑張ってね」

ちなつ「それじゃ、明日のために早く寝なくっちゃ。それじゃね、あかりちゃん」

あかり「おやすみ、ちなつちゃん」


電話が切れて、携帯の画面を見ると10時15分だった。
こんな時間でもあんなに元気だなんて、ちなつちゃんは大人だなぁ……
そう思いながら、あかりはまたベッドに横になった。

ピンポーン。
次の日、土曜日に居間でくつろいでると、玄関のチャイムが鳴った。
何となく、何となくだけど、京子ちゃんかな、って気がして、
玄関の覗き穴から外を見たら、思った通り京子ちゃんが立っていた。


あかり「あ、京子ちゃん、いらっしゃい」

京子「あかりヒマ?」

あかり「うん」

京子「お菓子買ってきたぜー。いもチとかクッキーとか」

あかり「わぁい、京子ちゃんありがとう!」

あかり「あかりね、京子ちゃんが来てくれそうな気がしてたんだぁ」

京子「え、マジ?」

あかり「うん、何となくだけど」

あかり「あ、あかり飲み物とってくるね」

京子「おう」

京子ちゃんと部屋まで行ってから、あかりだけ台所に向かう。
ジュースをコップに注ぎながら、さっきの京子ちゃんを思い出すと、
やっぱり京子ちゃん、寂しそうだな、って思っちゃう。


あかり「おまたせ、京子ちゃん」


ジュースを持って部屋に戻ると、京子ちゃんは部屋の壁に飾った写真を見てて、
あかりが部屋に戻ったのも気づかないみたいだった。

あかり「……京子ちゃん?」

京子「あ、飲み物来た?喉乾いてたん……」

あかり「写真、見てたの?」

京子「……まーね」


やっぱり、京子ちゃん、寂しそう。
きっと京子ちゃん、ちなつちゃんと結衣ちゃんが今日デートだってことを知ってるんだ。
結衣ちゃんから聞いたのかな。でも、デートなんて結衣ちゃんよりも京子ちゃんの方が言い出しそうだし、
もしかしたら京子ちゃんの方から結衣ちゃんにそう勧めたのかも。
だとしたら……
だとしたら、絶対寂しいよね。
だって、京子ちゃんが結衣ちゃんのことを好きなこと、あかりは分かってる。
もしかしたら京子ちゃん自身も分かってないのかもしれないけど……
でもきっと、あかり、京子ちゃんの力になれるから。

あかり「京子ちゃん、やっぱり気になる?」

京子「何が?」

あかり「デートのこと」

京子「あ、あかりも知ってたの?結衣とちなつちゃんのデート」

あかり「ちなつちゃんに聞いたんだぁ、すっごく喜んでたよ」

京子「ふーん」

あかり「ちなつちゃん、結衣ちゃんが誘ってくれたって言ってたから」

あかり「あかり、もしかしたら京子ちゃんが結衣ちゃんにアドバイスしたのかな、って思ったんだぁ」

京子「え!?」

京子「まあ、この京子ちゃんが結衣に完璧なアドバイスをしてあげたまでよ」

京子「せっかくなんだから上手くいってほしいじゃん?」

上手くいってほしい。
そりゃあ、あかりだってそう思う。
でも、今の寂しげな京子ちゃんを見てたら、嘘をついて話を合わせて、なんてあかりにはできないよ。


あかり「あかりもそう思うけど……」

京子「けど?」

あかり「あかりね、上手くいかないかもしれないって思うんだ」

京子「なっ……!」

京子「……あかり?」

あかり「京子ちゃんは、結衣ちゃんとちなつちゃんが付き合って、うまくいって」

あかり「それでいいと思う?」

京子「あかり!」


突然京子ちゃんが大声を出した。あかりは一瞬ビクッとする。
でも、怒られてもしょうがないかもしれないな。
付き合い始めたばっかりの二人を上手くいかないだなんて言って、上手くいったら良くないみたいな言い方をして。
京子ちゃんが怒るのも当然だよね。
だって、ちなつちゃんも結衣ちゃんも、京子ちゃんの大事な友達なんだから。
でも……

京子「私やあかりが寂しいからって、別れた方がいいみたいな言い方すんのか!?」

あかり「京子ちゃん」

京子「あの二人の仲を引き裂くようなマネするっていうのか!?」

京子「私はそんな嫌な奴に見える!?あかりはそんな嫌な奴なの!?」

あかり「京子ちゃん!」

京子「……ごめん」

あかり「そうじゃなくって……」

あかり「きっと誰も幸せになれないって、あかり、思うんだ」


京子ちゃんに、聞いてほしかった。
きっとこうしなくちゃいけなかったんだよ、って。

京子「何で?現にちなつちゃんなんか……」

あかり「だって、ちなつちゃん、結衣ちゃんのこと見てなかったから」

京子「え、いつも見てたじゃん」

あかり「ちなつちゃんは、んーと、王子様、っていうのかなぁ?理想の恋人像、みたいなの」

あかり「そういうのを、結衣ちゃんを通して見てたんだと思うんだぁ」

あかり「だって、ちなつちゃんが結衣ちゃんのこと話すときって、お姫様抱っこしてほしいとか、馬で迎えに来てほしいとか」

あかり「京子ちゃんから見て、結衣ちゃんってそんなことするかなぁ?」

京子「まあ、しない……ていうか、そんな奴いないだろ」

あかり「でね、結衣ちゃんも、多分、今のちなつちゃんのこと見れてないんじゃないかな」

あかり「今の結衣ちゃん、ちょっと前までのちなつちゃんに、何となく似てると思うんだぁ」

京子「恋に恋してる、って感じなんかな」

あかり「あかりもそう思う」


よかった。
京子ちゃんも理解してくれた。
ほっとしていたら、京子ちゃんがちょっと訝しげな表情になった。

京子「あかり、お前……」

あかり「?」

京子「あの二人、早く別れさせようとしてるんじゃないのか……?」


やっぱり、京子ちゃんは鋭いな。
あかりのしてきたことは、確かにその通りかも。
ちなつちゃんが結衣ちゃんに告白できるように後押しをして、
結衣ちゃんがOKしてくれるかどうかまではあかりには分からなかったけど、
それで付き合い始めたらきっとちなつちゃんは間違いに気づくはず。
それに、結衣ちゃんにはただこのままちなつちゃんと付き合い続けるんじゃなくて、
ちゃんと一番好きな人が誰なのかを考えて、それで結論を出してほしい。
そうしないと、きっとみんな、後悔しちゃうから。

あかり「あかりも、本当は上手くいってほしいと思ってるよ」

あかり「でも、もしそうじゃなくってもね」

あかり「それでも何もないよりいいんじゃないかな、って」

京子「は……?」

あかり「ちなつちゃんが、結衣ちゃんじゃなくて『王子様』を見てるのも」

あかり「結衣ちゃんがちなつちゃんじゃなくて『恋人』を見てるのも」

あかり「ずっとそのまま、ってわけにはいかないでしょ?」

京子「……じゃあ、ごらく部は?」

あかり「えっ?」


ごらく部のこと?
ちなつちゃんのことでも、結衣ちゃんのことでも、京子ちゃんのことでもなく、
ごらく部のメンバーのことじゃなくて、『ごらく部』のこと?


京子「こないだのごらく部、どう考えても変だったじゃん!」

京子「結衣とちなつちゃんが付き合って、そんでもし別れたとして

京子「それで元のごらく部に戻れるわけないだろ!?」

あかり「そうかもしれないけど、でも……」

京子「ちなつちゃんが結衣に憧れてて、結衣も私もあかりも普通にしてて」

京子「そんな前までのごらく部の何が悪いっていうんだよ!」

京子「成長は無いかもしんないけどさ、それでも一旦壊したらもう戻れないかもしれないじゃん」

京子「あかりは楽しくなかったのかよ!」

今までは、あかりは正しいことをしてるんだとばかり思ってた。
みんなが自分の気持ちにちゃんと向き合えるようになるためにはどうしたらいいかを考えてた。
ちなつちゃんも、結衣ちゃんも、京子ちゃんも。
でも、もしかして、あかりのしてたことは間違いだったのかな……?


あかり「ごめんね、京子ちゃん」

京子「なんで謝るんだよ……」

あかり「ごらく部は変わっちゃうかもしれないけど、変わったごらく部もきっと楽しいから」

あかり「あかりが絶対楽しいごらく部にするから」

あかり「だから……」


ううん、もう始まっちゃったことだもん。
もしこれが失敗だったとしても、きっとまた仲良しの4人になれると思うから。
絶対、あかりがハッピーエンドにしてみせるんだから!

でも、ハッピーエンドってどんなだろう?
ちなつちゃんが自分の気持ちに気づくこと?
舞い上がってる結衣ちゃんがちゃんと恋に向き合うこと?
それだけで、楽しいごらく部になれるのかなぁ?
それに……京子ちゃんは?


あかり「京子ちゃん」

京子「……なに?」

あかり「京子ちゃんは、今、どうしたい?」

京子「へ?」

あかり「やっぱり……結衣ちゃんといたい?」

京子ちゃんはちょっと黙って、それから口を開いた。


京子「あかりは……」

京子「あかりはどうしたい?」

あかり「あかり?あかりは……」


あかりは、みんなが幸せになってほしい。
そう言おうと思ったけれど、何かが引っかかった。


京子「……あかりには関係ないか」

あかり「えっ?」

京子「結局あかりは誰とも仲良いんだもんな」


てっきり、あかりは影が薄いから、なんていつもみたいにからかわれると思ってたのに、
京子ちゃんは真面目な表情のままだった。

京子「……こんなことがあっても」

あかり「そう、かな」

京子「なあ、あかり」

京子「ひとつだけ、答えて」

あかり「うん」

京子「あかりにとっての一番は誰なんだ?」

あかり「……それは」


やっぱり、何かが引っかかる。


あかり「……あかりはみんなが大好きだよぉ」


それは多分、あかりの本心、だと思うんだけど。

あかり「ふわぁ~」


月曜日の朝、教室のドアの前で、大きなあくびがでちゃった。
今日は、京子ちゃんたちが朝あかりを迎えに来ることもなかったし、
ちなつちゃんと待ち合わせすることもなくって、一人で登校することになっちゃった。
おとといのちなつちゃんと結衣ちゃんのデートがどうなったのか分からないけれど、
普段のちなつちゃんだったら電話で結衣ちゃんとのデートのことをいっぱい話してくれそうなのに、
昨日は待っていても電話もメールもこなかった。
どうしてかな、なんて考えながら昨日は10時過ぎまで起きてたから、今日はすっごく眠たい。
あくびがおさまってから、教室のドアを開けて、元気よく挨拶する。

あかり「おはよう」

櫻子「いいからおっぱい削げ!取り外し可能にしろ!」

向日葵「意味が分かりませんわ!」

あかり「櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも元気だね」

ちなつ「あ、あかりちゃん、いたんだ」


朝からすっごく元気な向日葵ちゃんと櫻子ちゃんとは違って、ちなつちゃんは妙に沈んだ雰囲気で、
やっぱり昨日のデートのときに何かあったのかな、って思っちゃう。

あかり「朝からみんないつも通りだね」


デートで何かあったの、とは聞きづらくて、そんな風にお茶を濁す。
でもきっと何かあったんだ。だとしたら、何とかしなくっちゃ。
この間は櫻子ちゃんから借りたツイスターゲームで間を持たせたけど……
でも、それじゃあ本質的な解決にはならないよね。
チャイムが鳴って、みんなが席に着こうとするなかで、櫻子ちゃんに近寄って少し小声で話しかける。


あかり「櫻子ちゃん、ツイスターゲーム貸してくれてありがとう」

あかり「ごらく部のみんなでやったから、もうお返しするね」

櫻子「おお、いいの?」

あかり「うん、今度は一緒にやろうね」

櫻子「うん!」

放課後、ちなつちゃんと一緒にごらく部の部室に向かって歩いていく。
ちなつちゃんはごらく部に向かう道はいつも口数が多いのに、今日はなんだか緊張してるみたい。
ごらく部の部室に入ると、結衣ちゃんとちなつちゃんが一瞬顔を見合わせたみたいだった。
笑ってはいるけれど、もしかして結衣ちゃんも緊張してる?


ちなつ「お茶淹れますね」

京子「私マンゴースムージーなー」

ちなつ「ありませんよそんなの」


ちなつちゃんがお茶を淹れに行ったら、結衣ちゃんも京子ちゃんもなんだかほっとしたみたいな感じ。
前まではそんなこと、絶対になかったのに。

京子「ラムレーズン食いてー」

結衣「京子はそればっかだな」

京子「プリンでもいいよ」

結衣「生徒会に貰いに行こうとか言うなよ」

あかり「そういえば最近、杉浦先輩も池田先輩も、そんなにごらく部に遊びに来てくれないよね」

結衣「そうだね、生徒会、忙しいみたいだから」

京子「おっぱいちゃんとちっぱいちゃんも見かけないしなー」

結衣「古谷さんと大室さんはクラスではどんな感じ?」

あかり「相変わらず元気だよぉ」

扉が開く音がして、ちなつちゃんがお茶を淹れて戻ってきた。
でも、手に持っている湯呑は、いつもの名前入りのじゃなくて、お客さん用みたいなやつで、
なんでちなつちゃんがそうしたのかは分からなかったけど、ごらく部の4人でいることに、
緊張してるというか、居心地が悪く感じちゃってるみたいに見えた。


ちなつ「お茶が入りましたー」

あかり「わぁい、ちなつちゃんありがとう」

結衣「あれ、今日はいつもの湯呑じゃないんだね」

ちなつ「えっと、気分転換ですよ、気分転換」

京子「綾乃とか千歳とかが来たときにしか、それ使わないもんな」


湯呑のことに触れていいのか分からなかったから、ちょっとあかりは困ってたんだけど、
京子ちゃんがちらっとあかりの方を見て、それでこの話は終わりになりそうな感じがした。

京子「今日もツイスターゲームやる?」

あかり「ごめんね京子ちゃん、もう櫻子ちゃんに返しちゃったんだぁ」

京子「てことは今は生徒会にあるのか」

あかり「そうだと思うけど」

京子「よしっ、乗り込むか!」

結衣「おい」

結衣「ていうか宿題出てただろ?」

ちなつ「そういえば、私たちも宿題結構あるよね」


やっぱり、ちなつちゃんと結衣ちゃん、お話ししづらい事情があるのかな。
さっきから、妙にお互い避けてるみたいに見える。
宿題を取り出しながら、あかりの方を見ているちなつちゃんに答えた。

あかり「早めにやっちゃおうか」

ちなつ「うん」

京子「しょーがないなあ、今日はとりあえず皆で宿題やるか」

ちなつ「珍しいですね、京子先輩がそんなこと言うの」

京子「そう?」


宿題のプリントを見る。最近、英語がちょっと難しくなってきたんだよね。
ふと結衣ちゃんが訝しげな表情をしてるのに気づいて、とっさに話しかける。

あかり「ねえ結衣ちゃん、ここ教えて?」

結衣「ああ、ここは現在進行形になってるから……」

京子「ちなつちゃーん、お茶おかわりくれー」

ちなつ「それくらい自分でやってくださいよ」

あかり「あっ、じゃあ、あかり持ってくるね」

京子「おお、さすがあかり」


反射的にそう言っちゃったけど、それでよかったのかなぁ?
あかりに勉強を教えてくれるときは、久しぶりに普段通りの結衣ちゃんだったから。
でも、言い出しちゃったからにはしょうがないよね。

あかり「えへへ、あかりもお茶もう1杯飲みかったんだぁ」

あかり「みんなの分、持ってくるね」


台所まで行って、急須にお湯を注ぐ。
そのまま持って行ってもいいんだけれど、いつも使ってる名前入りの湯呑が目に留まった。
部室の中をそっとうかがうと、みんな黙って宿題をやってて、静かなごらく部はすっごく変な感じだった。
やっぱり、あかりは楽しいごらく部に戻ってほしい。
ううん、前より楽しいごらく部に。
名前入りの湯呑にお茶をついで、お盆に乗せた。

あかり「お待たせ~」

京子「おおサンキュー」

あかり「はい、ちなつちゃん」

ちなつ「うん、ありがと」

あかり「結衣ちゃん」

結衣「ああ、ありがと、あかり」

あかり「熱いから気を付けてね」

結衣「大丈夫だよ、これくらい」

ちなつ「あ、私ちょっとトイレ」


ちなつちゃんが席を立って、しばらくは京子ちゃんも結衣ちゃんも何も言わなくて、
足音が遠くなっていってから京子ちゃんがぼんやり口を開いた。


京子「ねえ」

結衣「ん?」

京子「私は……」


そう言った京子ちゃんの表情を見て、あかり、何を言おうとしてるか何となく分かっちゃった。
きっとちなつちゃんを追いかけて、二人で話をしたいんだよね。結衣ちゃんの話を。

あかり「京子ちゃんは、京子ちゃんのしたいことをすればいいと思うんだ」

結衣「あかり……?」

京子「私もトイレ」


結衣ちゃんが不思議そうにしてるなか、京子ちゃんがちなつちゃんを追いかけて行った。
しばらくしてから不意に結衣ちゃんに話しかけられた。


結衣「あかり、さっきの……」


そういえば結衣ちゃんと二人だけって久しぶりだなぁ、って気が付いた。

あかり「ん?なあに、結衣ちゃん」

結衣「京子に言ったこと」

結衣「あれ、どういう意味?」

あかり「どういうって……そのままの意味だよぉ」

結衣「じゃあ、京子のしたいことって?」

あかり「それは……」

結衣「京子、明らかにちなつちゃんを追いかけてったけど」

結衣「あかりは知ってるんじゃないの?」

本当に、結衣ちゃんは気づいていないのかな。
それとも、わざと気づかないようにしてるだけ?
京子ちゃんの気持ちも、ちなつちゃんの気持ちも。


あかり「……」

結衣「あかり?」

あかり「……結衣ちゃんらしくないよ」

結衣「えっ?」

あかり「あかりの知ってる結衣ちゃんはね」

あかり「いつも優しくて、みんなのことをよく分かってて」

あかり「頭も良いし、何でもできるし……」

あかり「それに、京子ちゃんのこと、一番理解してあげてたはずだよ」

結衣「それ、どういう……」

あかり「ちなつちゃんのことだってそう。もちろん、あかりのことだって」

あかり「今の結衣ちゃんに、一番大切な人って誰?」


結衣ちゃんにひどいことを言ってるのは分かっていたけれど、それでも結衣ちゃんには分かってほしかった。
いつもの結衣ちゃんなら分かってくれると思った。


結衣「一番って、そんな……」

あかり「やっぱりちなつちゃん?」

結衣「……そう、かな」

あかり「じゃあ、ちなつちゃんは……」

結衣「ちなつちゃんは?」

あかり「……ううん、結衣ちゃんは、ちなつちゃんの気持ち、分かってあげてる?」

結衣「当たり前だろ」

そう言うとき、結衣ちゃんは少しためらったみたいで、
やっぱりちなつちゃんが前と違うこと、結衣ちゃんも感じてたのかも、って思った。


あかり「そっか」

あかり「あっ、ちなつちゃん、戻ってきたみたい」

結衣「あかり」

あかり「ん?」

結衣「あかりは何で、ここまで私やちなつちゃんのことを気にかけてくれるんだ?」

また、何か引っかかる感じがした。
それが何なのか、あかりには分からないけど……


あかり「……分からないけど、みんなのためになれたら嬉しいから」


もしかしたら、それだけじゃないのかも。
あかりの望みって、何なんだろう?


結衣「あかりが幼馴染で良かったよ」


そう言って微笑んだ結衣ちゃんを見ていたら、
あかりはなんだか嬉しいような胸が痛いような、そんな感じがした。

その後しばらくごらく部の4人で過ごして、下校時刻の放送を合図に解散になった。
学校から帰ってすぐ、ちなつちゃんから電話がかかってきた。


あかり「ちなつちゃん?」

あかり「どうしたの?」

ちなつ「ん……なんか、ね」

あかり「?」

ちなつ「あかりちゃんに聞いてほしいことがあるんだけど」

ちなつ「でも言いたくないような気もして……」

あかり「うん」


結衣ちゃんのことだってことはあかりにも分かるし、ちなつちゃんがそのことで悩んでることも分かる。
それをあかりに話してくれることが、ちょっぴり誇らしい感じがした。

ちなつ「ごめんねあかりちゃん、何言ってるかわかんなくて」

あかり「ううん、気にしないでいいよぉ」

ちなつ「……ねえ、あかりちゃん」

ちなつ「恋ってなんだと思う?」

あかり「恋……?」

ちなつ「そう。恋」

あかり「うーん、あかりには分からないかな」

あかり「でも、きっと幸せなものなんじゃないかなぁ」

ちなつ「幸せ、かぁ」

あかり「ちなつちゃんは、今、幸せ?」

またイジワルな質問しちゃったな、と思った。
だって、ちなつちゃんが全然楽しそうじゃないことくらい、見てたら分かるもん。
それでも、あかりはちなつちゃんにそう認めて欲しかった。
ちなつちゃんが自分の気持ちに気づいて欲しかった。
あかりは、そのために……


ちなつ「んー……分かんないや」

ちなつ「ねえ、あかりちゃん、何でだと思う?」

ちなつ「どうして分かんないんだろう?」

ちなつ「あんなに大好きな結衣先輩と付き合えたのに」

あかり「ちなつちゃん、ずっと結衣ちゃんに憧れてたもんねぇ」

ちなつ「うん。なのに、どうしてこんな変な気持ちなのかな?」

なんでだろう、あかりが今、すっごく嬉しいのは。
ちなつちゃんが素直な気持ちを出してくれたからなのかなぁ?


あかり「あかりね、なんだかちなつちゃん、無理してるみたいに見えるんだ」

ちなつ「無理?」

あかり「うん。だからね、ちなつちゃんには自分に素直になってほしいんだ」

あかり「あかりの好きなちなつちゃんは、いつも素直で真っ直ぐだったから」

あかり「ちなつちゃんの素直な気持ち、聞きたいな」

ちなつ「私の気持ち……」

あかり「ちなつちゃんが好きなのは、結衣ちゃんなの?」

あかり「ちなつちゃんが見ていたのは、本当の結衣ちゃんなの?」

ちなつ「私が好きだったのは、本当の結衣先輩じゃなかったのかな」

ちなつ「うん、多分そういうことなんだよね……」

ちなつ「なんか、あかりちゃんと話して、ちょっとスッキリしたかも」

あかり「そう?」

ちなつ「ありがとう、あかりちゃん」

あかり「えへへ、どういたしまして」

ちなつ「なんか、ごめんね?」

ちなつ「私のせいであかりちゃんにも先輩たちにも迷惑かけちゃったな」

あかり「そんなこと……」

ちなつ「でも、あかりちゃんがいてくれたから明るくなれたと思う」

ちなつ「あかりちゃんは、私の一番の友達だよ」

あかり「……うん。あかりも、ちなつちゃんのこと、一番大事なお友達だと思ってるよ」

ちなつ「それじゃ、また明日ね」

あかり「うん、ばいばい」

電話が切れて、携帯を机に置いたら、鏡に映ったあかりの顔が見えた。
なんだかやっぱり嬉しそう。
変なの、ちなつちゃんは真剣に悩んでるはずなのに。
結衣ちゃんも、京子ちゃんだってそう。なのに、どうして?

「あかりちゃんは、私の一番の友達だよ」
ちなつちゃんがそう言ってくれたのを思い出した。
鏡の中のあかりが、またにやけちゃったのが見える。
もしかしたら、そういうことだったのかな。

あかり、きっとちなつちゃんの1番になりたかったんだ。
ううん、ちなつちゃんだけじゃなくて、京子ちゃんとも、結衣ちゃんとも。
いつも結衣ちゃんの方を見てるちなつちゃんに、それが恋じゃないって分かってほしかったのも、
ショックを受けてた京子ちゃんを支えてあげようとしてたのも、
ふわふわした結衣ちゃんに元に戻ってほしくてあんなことを言ったのも。
あかりはみんなにとっての1番の友達になりたかったんだ。


あかり「……あかり、ひどい子だよね」


とっくに切れた携帯に向かってそう話しかけたら、なんだか涙がこぼれてきた。

目を開けたら、窓の外が明るかった。いつの間にか寝ていたみたい。
普段は9時に眠たくなっちゃうのに、昨日はいつまで経っても眠れなくて、
もしかしたら一睡もできないんじゃないかと思ったけれど。
学校に向かう道でも、昨日の夜からずっと考えていたことを何度も何度もぐるぐる考える。
自分のためにちなつちゃんも、京子ちゃんも、結衣ちゃんも傷付けるようなことをして、
それでいてあかりは恨まれたり憎まれたりすることもなくて。
そんな嫌な子が、みんなの友達でいていいのかなぁ?
分かってる。ちなつちゃんにも素直に、って言ったんだもん。
あかりだって素直にならないといけないよね。
でも、大好きなみんなになんて思われるかって考えたら、怖くなってしまう。

交差点の向こうに、ピンク色の髪が揺れるのが見えて、その姿を見たら、なんだかドキッとした。
そうだよね。ちなつちゃん、きっとちょっとだけ大人になったんだ。
それに、ちなつちゃんに変わってほしい、自分の気持ちに向き合ってほしいって思ってたのはあかりなんだもん。
だったらあかりも、変わらなくっちゃ。
走って追いかけようかと思ったけれど、ちょうど信号が赤に変わる。あかりはとっさに声を上げた。


「ちなつちゃん!」


立ち止ったちなつちゃんがこっちに振り向く前に車が走り出して、ちなつちゃんが見えなくなる。
正直に何もかも話して、ごめんなさいと真っ直ぐに謝りたい。
たとえそれで嫌われちゃっても、友達じゃなくなっちゃうとしても、今はそれでいい。
きっと、ごらく部の関係もあかりとちなつちゃんの関係も変わっていくから。
だからゼロからでも、あかりはあかりの大好きなごらく部のみんなとまた仲良しになろう。
信号が変わったらもう一度ちなつちゃんと友達になりたいと、それだけを願っていた。



おわり

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