男「その奴隷をくれ」(70)

奴隷商「え?こいつですかい?」

男「そうだ」

奴隷商「止めておいたほうがいいですぜ。こいつは物覚えも悪いし、何やらせてもてんでダメダメなんでさ、性欲処理くらいにしか使えんのよ。それも飽きられたら返品されての繰り返しでもう5回も戻って来やがったんだ」

男「ならそいつより安いやつはいるか?」

奴隷商「いえ、そりゃいませんが……」

男「ならそいつを買う」

奴隷商「……できるだけ返品は勘弁してくださいよ?」

男家


男「ほら、ここが俺の家だ。入れ」ガチャ

奴隷「…………」スタスタ

男「おい、どこ行く?」

男の寝室

奴隷「…………」ボスン

男「何してる?勝手にベッドに寝転ぶな」

奴隷「……だって、犯すんでしょ?」

男「……は?」

奴隷「今までわたしを買った人、みんなそうだった」

男「……だから自分からベッドに直行したのか?」

奴隷「そうしないと殴られた」

男「…………」

男「とりあえず起きろ。俺はそんな事するつもりはない」グイ

奴隷「?じゃあなんで……」

男「お前に頼みたいのは掃除とか洗濯とか料理とか……いわゆる家事全般だ」

奴隷「……だから、わたしはそういうの何もできなくて……」

男「なんだ、反抗的なのか従順なのかわからないやつだな」

奴隷「……失敗したら殴られて、それで結局犯されるだけになるから……それなら最初からそうなったほうがマシ」

男「…………」

男「……いいか、お前を買ったのはな、安かったからだ」

奴隷「?うん」

男「俺は今金が必要でな。バリバリ働かなきゃいけないんだが家事もしなきゃいけない」

奴隷「……うん」

男「しかしメイドを雇うには高い金がいる。それなら一番安い奴隷を買って、そいつに家事をさせたほうがいいと思った。だからお前を買ったんだ」

奴隷「…………」

男「従ってお前を犯す気なんかない。お前にやってもらいたいのは掃除とか料理とかだ」

奴隷「…………」

男「代わりじゃないがそのボロボロの服の代えと食料は用意する……と言っても最低限の物になるがそこは俺も同じだから我慢してくれ」

奴隷「…………」

男「料理苦手だ掃除できないってんなら最初の頃は教えてやる。ただしなるべく早く一人でできるようになってくれ」

男「わかったら来い、今日はもう遅いから働くのは明日からでいい」スタスタ

奴隷「…………」

男「何してる?早くついて来い」

奴隷「…………」スタスタ

ガチャ

男「ここがお前の部屋だ」

奴隷「え……」

男「窓の立て付けが悪くなってるから気をつけろ。置いてある本は興味があったら自由に読んでいい」

奴隷「ど、どうして……?」

男「なにがだ?」

奴隷「こんな立派な部屋……」

男「立派って……ああ、今までは外で寝かされたりしてたか?」

奴隷 コクン

男「まあともかく極端に汚したり家具を壊したりしなければ自由に使っていい。どうせもう使う人も……」

男「……いや、なんでもない」

奴隷「……?」

奴隷の部屋

奴隷(……ふかふかのベッドで寝れるの、いつ以来かな)

奴隷(お母さんに売られてからは、一回もなかったな……)

奴隷(でも、長くてもあと3日かな。このベッドで寝れるのも)

奴隷(あの人もわたしに見切りをつけて、結局外で寝かすに決まってる)

奴隷(それからはまた返品かな……別にもう慣れたけど)

翌日

奴隷「……ん」

奴隷(朝か……起きないと)

ガチャ

男「お、起きたか」カリカリ

奴隷「……おはようございます」

男「こっちもキリのいいところだし、ちょうどよかったな」

奴隷「……何を書いてたの?」

男「小説だよ。売れない作家なもんでな」

奴隷「そう……」

男「じゃあキッチン行くぞ。朝食の作り方を教えてやる」

男「な、簡単だろ?」

奴隷「火加減が難しい……」

男「迷ったら弱めにするようにしろ。」

奴隷「迷ったら弱め……」

男「まあ食材が質素なんだし、複雑な料理なんか金かかるからやらんし、すぐ一人でもできるようになるさ」

奴隷「迷ったら弱め……」ブツブツ

男「ふう、食った食った」

奴隷「…………」

男「じゃあ俺は仕事の続きするから、掃除を頼む」

奴隷「掃除……」

男「塵1つ残すななんて厳しい事は言わないから、目立つような汚れがあったら拭いたり掃いたりしてくれ。わからない事や困った事になったら呼べ」

奴隷「…………」コクン

奴隷 ゴシゴシ

奴隷 キュッキュ

奴隷「あっ」

ガシャーン!!

男「どうした?」

奴隷「…………」

男「ああ、花瓶か」

奴隷「……割ってしまいました。すみません」

男「まあ不安定な位置にあったしな。危ないから破片の掃除だけしっかりしといてくれ」

奴隷「え……?」

男「今度はなんだ?」

奴隷「殴らないの……?」

男「昨日も言っただろ。それになんとなく飾っておいただけの花瓶だしな」

奴隷「……じゃあ、ご飯とったりするの?」

男「それもしない。とにかく破片の始末だけしっかりしとけ。お前も踏まないように気を付けろよ」スタスタ

奴隷「…………」

奴隷「ふう、終わった……」

男「お、終わったな。なら次は昼食の作り方だ。またキッチン行くぞ」スタスタ

奴隷「……ん」スタスタ

男「ふう、ごちそうさま」

奴隷「……ごちそうさまでした」

男「午後はちょっと出掛けてくるから、留守番しててくれ」

奴隷「留守番……」

男「そうだ。この雨じゃ洗濯も干せないし、自由にしとけ。あ、火は使うなよ?」

奴隷「……ん」コクン

男「じゃあ行ってくる」ガチャ

バタン

奴隷「…………」

奴隷(本当に殴ったりしないんだ……変な人……)

奴隷(自由にって言われたけど……)

奴隷(変な事して機嫌悪くしたら嫌だし……本でも読んでよ)

男「帰ったぞ」ガチャ

奴隷「……お帰りなさいませ」

男「なんだ、本読んでたのか」

奴隷「うん」

男「面白かったか?」

奴隷「よくわかんなかった……字、読めないのいっぱいあったから」

男「…………」

奴隷「まだちょっとしか字が読めない時に、お母さんに売られたから……」

男「…………」

男「……ほれ」スッ

奴隷「……?これ、服?」

男「そのボロボロの代わり買ってやるって言っただろ。中古品だからそんな可愛らしい服でもないが、それよりずっとマシだろ?」

奴隷「…………」

男「字が読めなくても服は着れるだろ。早く着替えてこい」

奴隷「……うん」

男「うん、うまいうまい」

奴隷「…………」モグモグ

男「俺が教えながらとはいえ、あの奴隷商が言うほど家事できないわけじゃないな」

奴隷「そう……?」

男「もともとお前みたいな子どもがなんでもできるほうがおかしいんだ。ちょっとは自信持て」

奴隷「…………」

数週間後

男「じゃ、行ってくる。留守番頼む」ガチャ

奴隷「うん……」

奴隷(毎週この曜日は必ず出掛ける……)

奴隷(仕事なのかな?)

奴隷(……まあいいや。洗濯しないと)スタスタ

一週間後

男「今日はお前もついてきてくれ」

奴隷「え?」

男「お前に会いたいって人がいてな、だからついてきてくれ」

奴隷「?わかった……」

男「着いたぞ、ここだ」

奴隷「ここ、病院?」

男「ああ。こっちだ」スタスタ

奴隷「…………」スタスタ

男母「あら、男」

男「母さん、来たよ」

男母「無理して毎週来なくても……お仕事忙しいんでしょう?また痩せたんじゃないの?」

男「大丈夫だよ。それより今日は」

奴隷「…………」

男母「あら……」

奴隷「は、はじめまして……」ペコ

男母「まあまあ……あなたが男の世話をしてあげてるのね?」

奴隷「いえ、わたしは失敗してばかりで……」

男母「いいのよ謙遜しなくて……あら、あなたこの傷……」

奴隷「あ、それは前に買われた時に……」

男母「そう、辛かったのね……」

奴隷「いえ……もう過ぎた事ですし、それに……」

男母「?」

奴隷「男さんは、こういう事しないですから……」

男母「…………」

男「…………」

奴隷「だからわたし、今は全然辛くないです……」

帰り道

奴隷「お母さん、病気なの?」

男「ああ」

奴隷「お金がいるのも、それが理由?」

男「……薬が高くてな」

奴隷「わたしが使ってる部屋も、もともとはお母さんの部屋?」

男「そうだ」

奴隷「…………」

数週間後

男「うん、もう一人でも大体できるようになったな」モグモグ

奴隷「……さすがにもう慣れた」モグモグ

男「そりゃいい事だ。ごちそうさま」ガタ

奴隷「お母さんのところに行くの?」

男「ああ」

奴隷「……い」

男「ん?」

奴隷「……いってらっしゃい」

男「……ああ、いってくる」ガチャ

奴隷「…………」ペラ

奴隷(本も、だいぶ読めるようになったな)ペラ

奴隷(……今日は遅いな)ペラ

ガチャ

奴隷「あ……」

男 スタスタ

奴隷「……お、お帰りなs」

男「すまん、またすぐ出ていかなきゃなんだ」ガサガサ

奴隷「え……?」

男「母さんの具合が悪くてな。俺はしばらく病院の近くの宿に泊まる。荷物だけとりにきたんだ」ガサガサ

奴隷「あ……」

男「だから悪い、しばらくはお前一人で家にいてくれ。食材はさっき買ってきた。量は充分だし、居間のお前なら一人で料理も洗濯もできるから大丈夫だ」

奴隷「…………」

男「すまん、早く戻らなきゃなんだ。いってくる」

奴隷「うん……」

ガチャ バタン

奴隷「……いってらっしゃい」

数日後

奴隷「ふう」ザッザッ

奴隷(玄関掃除大変だな……落ち葉多くなってきたし)

奴隷(今日も帰って来ないのかな……)

男「…………」フラフラ

奴隷「あっ……」

男「……悪かったな。一人にして」

奴隷「…………」フルフル

男「……少し休む……飯はいらないから、一人分だけ作れ」フラフラ

奴隷「…………」

奴隷「…………」

奴隷(だめだったんだ……)

奴隷「男母さん……」

奴隷「……グスッ……ヒック……」

男の部屋

コンコン

男「……どうした?」

ガチャ

奴隷「……やっぱりまだ起きてた」

男「……なんだ?また最初の頃みたいにベッドに寝転ぶのか?」

奴隷「違うよ……」カチャ

奴隷「これ、食べて」

男「……いい。腹はへってない」

奴隷「朝も昼も食べてないんだよ?」

男「…………」

男「……あのな」

奴隷「なに?」

男「母さんはさ、たった一人で俺を育ててくれたんだよ」

奴隷「……うん」

男「父親は俺が産まれてすぐ死んでさ……だから二人だけの家族だったんだ」

奴隷「うん……」

男「母さん、昼も夜も働いてさ……」

奴隷「…………」

男「それで、たまに本を買ってきて読んでくれたんだよ。多分、安い本だったんだろうけど……それがすごく楽しみだった」

奴隷「…………」

奴隷「……わかるよ」

男「…………」

奴隷「わたし、お母さんに売られて、いろんな人に買われて、殴られたりとかひどい目にたくさんあったけど……」

男「…………」

奴隷「でも、男母さんが、すごく素敵な母親だったっていう事は、わかる」

男「…………」

奴隷「だから、そんな大切な人をなくしたんだから……」ギュッ

男「…………」

奴隷「無理しないで、泣いてもいいんだよ?」

男「……う、うう……グスッ」

男「わ、悪いな……情けないとこ……見せて……」

奴隷「ううん、いいんだよ」

奴隷「あなたは『そんな事ない』って言うかもしれないけど……わたしにとって、あなたは誰よりも優しかった」

奴隷「だからわたしにも、このくらいはさせて」

男「……ああ」

奴隷「……落ち着いた?」

男「……ああ、すまん」

奴隷「ううん、いいよ」

男「……それ」

奴隷「?」

男「持ってきてくれたやつ……食べるから、貸してくれないか?」

奴隷「……はい、どうぞ」カチャ

男「……うん、うまいな」

奴隷「ん……」

男「やっぱりお前、すごいよ。全然ダメなんかじゃない」

奴隷「あなたが教えてくれたからだよ」

男「……そっか」

数週間後

奴隷「ここがお母さんのお墓?」

男「ああ」

奴隷「……お花添えるね」

男「ありがとう」

男「これからはさ」

奴隷「なに?」

男「今まで薬に使ってた金は……必要ないんだよな」

奴隷「…………」

男「だからその分の金で……お前に新しい服を買ってやったり、いいものを食べさせてやったりしてやりたいと思ってる」

奴隷「え……」

男「これからは……お前がたった一人の家族だからな」

奴隷「…………」

男「どうした?」

奴隷「ずっとひどい人生だったから……神様が1つだけ願い事叶えてくれたのかな、って思って」

男「願い事?」

奴隷「そう、願い事」

奴隷「奴隷商に売られてすぐの頃ね……仲良く遊んでる兄妹を見かけて、こう思ったんだ」

奴隷「『お兄ちゃんが欲しいな』って」

男「…………」

奴隷「売られる前はお母さんしか家族がいなくて……でもそのお母さんに売られちゃった後に見たから、憧れたんだろうね」

男「なら、よかったな。願い事叶って」

奴隷「うん……よかった」

男「じゃあ、そろそろ帰るか」

奴隷「うん」





奴隷「一緒に帰ろう、お兄ちゃん」





終わり

終わりです
読んでくれた人ありがと

すまん、>>38は居間のお前じゃなくて今のお前だわ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月11日 (金) 22:58:16   ID: BKFmvEqd

ええなー!

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