真美「モノローグはいらない」 (94)

家を飛び出して数分。全力疾走の自転車が向かう先はいつものあの場所。

窓に黄色いテープで大きく描かれた【765】の文字は今日も眩しい。

駐輪スペースに自転車を置いて、ドアを開け階段を駆け登る。

第一声は元気良く!


真美「おっは→!」

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真美の顔を見るなり、プロデューサーの兄ちゃんと事務員のピヨちゃんが顔を見合わせて血相を変える。

P「ま、真美…… おはよう……」

小鳥「おはよう真美ちゃん……」

真美「どったの? 二人とも顔悪いよ」

こんなくだらない洒落には乗ってくれそうにない事は察していた。案の定だった。

P「真美……。 亜美は…… どうした?」

真美「亜美? 亜美は寝ぼすけだから真美が先に来ちゃった」

その瞬間、ピヨちゃんは泣き崩れた。

一瞬、静寂が訪れる。

さっきまでは気が付かなかった携帯の振動音。ママからだ。

10分くらい前からずっと鳴り続けていたようだ。


泣き喚くピヨちゃん。強ばった顔の兄ちゃん。鳴り続けるママからの着信。

それから、形相を変えて亜美の存在を確認する質問――。


ピーンときた。亜美の身に何かあったんだ。


P「真美、いいか? よく聞け――」

亜美は通り魔に刃物のようなもので目を傷つけられたそうだ。

視力が弱まっていた亜美は、ビール瓶の山に激突して気を失っているらしい。


真美「じゃあ亜美は生きてるんだ」

P「ああ、命に別状は無いみたいだ」

真美「よかった……。 生きてるなら、亜美だもん。 すぐに良くなるよ」

P「本当にそう思ってるのか?」

また兄ちゃんの顔が強ばる。

真美「もちろんだよ! 真美は亜美のことチョ→心配してんだからね!」

真美は当たり前のことを言った。家族が事件に巻き込まれたのだから心配するのは当然だ。

その『当然』が当然として通じないのも、今は当然だった。

P「犯人の通り魔は、160cm前後の少女だったそうだ。 フードを被っていたらしいが、茶色のサイドテールが見え隠れしていたらしい」

そう語りながら、兄ちゃんの歩みは真美の方へ一歩ずつ近づいて来る。

P「お前がやったんだろう……。 真美」

真美「な、何それ。 真美知らないよ……」

本当に心当たりが無かった。

真美「だいたい手掛かりが少な過ぎるっしょ。 それだけじゃ真美って分かる訳……」

P「その時、亜美はファンの子に囲まれていたそうだ。 そこに堂々とお前が……」

真美「だから真美じゃないってば!」

P「ファンの子は、間違いなくお前だと言っていた」

真美「違う……。 真美じゃない……」

万策尽きた。撤回するのも面倒になってきた。

真美は嘘をついた。

真美「真美が…… やりました……」

その日から真美は誰でもなくなった。真美の中にあるのは『何もない』だけだった。

「ごめんね……。 真美……」

幻聴か。声が聞こえる。

「亜……美……?」

「そうだよ。 亜美だよ……。 だけど亜美は真美の妹じゃないんだ」

「妹じゃない?」


「亜美を傷つけたのは亜美だよ」

「あなた誰なの?」

「亜美は亜美…… うーん……。 やっぱ亜美じゃないかな」

「何それ」

「亜美、亜美の目を傷つけちゃったんだ。 このカードでね」

「カード?」

「うん。 ラクラクカード。 この世界の亜美もラクラクカードマンにしようとして、軽く目に当てようとしたら手元が狂って刺さっちゃった……」

「ホント何それ。 謝っても許さないかんね」

「何でそんなことしたの?」

「ラクラクカードマンが必要だったから。ラクラクカードマン適性の高さはどこの世界でも、ある条件を満たした亜美が一番なんだよ」

「どうして必要なの?」

「それは言えないかな」

「でも、だったらあなたがこの世界でラクラクカードマンになれば良かったんじゃない?」

「亜美はもう別の世界で会員登録しちゃってるから……」

「ふーん……」

「それって亜美じゃないとできないのかな?」

「そんなことない。 真美だってできるよ」

「条件って?」

「え?」

「ある条件を満たした亜美って何?」

「それはね……」


――この日から真美は亜美…… いや、ラクラクカードマンになった。

ラクラクカードマミ「ラクラクカード、ポイントザックザクゥー↑wwwwwwwwww」

増えてる増えてる。上々上々、東証一部に上場。


春香「最近凄いですよね。 楽々カード。 8秒に一人増えてるそうですよ」

P「カードマンも人気だし、アイドルも負けてられないな!」

千早「私はそういうのは分からないわ」

伊織「と、言いつつ鞄の中の楽々カードが見えてるわよ」

千早「バレてしまったわ……」


千早「不思議よね。こんなカードがーンwwwww」

春香「千早ちゃん!?」

ラクラクカードチーチャン「誰の胸がカードよwwwww」

P「大変だ!警さクゥー↑wwwww」

ラクラクカードマンピー「タイサクゥー↑wwwwwをケンサクゥー↑wwwwwだwwwww」


ラクラクカードマミ「ちょっとしたパンデミックゥー↑wwwwwだね」

「すぐにホントのパンデミックになるよ」

ラクラクカードマミ「ねぇ、ひとつ聞いていい?」

「何?」

ラクラクカードマミ「あなた元々真美だったんだよね?なんでこんな事するの?」

「復讐するため……。 あんな理不尽許せないから……」

ラクラクカードマミ「そっか……」

その後、スーパー・コンビニ、携帯、電気、ガスなどを通じて、海外にまでラクラクカードは広がった。

こうして世界はラクラクカードマンに飲み込まれたのだった。


ラクラクカードマミ「ってことはあなたの妹の亜美も別の世界の真美に傷つけられたんだよね」

「そう。 その前も、もっと前の世界もきっとそう」

ラクラクカードマミ「それじゃあ始まりはどこなんだろうね」

「そんなの調べてたらキリがないっしょ」

ラクラクカードマミ「そうだね……」

――

「ある条件を満たした亜美って何?」

「それはね…… 双海真美が成り変わった双海亜美だよ」

「じゃああなたも元々真美なの?っていうか今も真美?髪長いし……」

「亜美になって、いっぱい悪いことして、真美より亜美の方が悪くなっちゃったから真美に戻ったんだ……。もう戻れなかったけどね」

「へぇ……。 そうすればスッキリするのかな?」

「するよ。もう真美には戻れないけど、誰も怒る人も居ないし。後悔もするけどね」

「そっか……。 決めた……」

「ラクラクカードマンになるよ」



別の世界の真美だって理不尽に苦しめられてるんだ……。 助けてあげなきゃ。


楽々カードマン 「どこでもポイントたまる篇」

終わりです。

読み直したいですが熱い支援のおかげで自分でも振り返って読むのが困難になっておりますw

ラクラクカードマンシリーズは公式依存なので、次回は新CM公開後になるでしょう!その日を夢見て、また会いましょう!


番外編くらいは書くかも……

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