キョン「お前、ハルヒにじゃんけんで勝てるか?」 (56)

キョン「お前、ハルヒにじゃんけんで勝てるか?」

古泉「どうでしょうか。やってみたことがないので答えようがありませんが……」

キョン「では質問を変える。ハルヒとじゃんけんして勝てる気がするか?」

古泉「そうですね……。あまり、というか勝てる気はしませんね」

キョン「そうだろう。俺もそう思う。あいつはきっとじゃんけんが強いんじゃないかと思う」

    「それも何かをかけての勝負だった場合、常軌を逸して強いと思う」

古泉「涼宮さんらしくていいじゃありませんか。それがどうかしたんですか?」

キョン「何もかけない状況で俺がハルヒにじゃんけんで勝てると思うか?」

古泉「どうなんでしょうか……。そもそもあなたはじゃんけんが強いのですか?」

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キョン「俺は絶望的に弱いと自負している。ここぞという場面ではことごとく負けてきた。勝った記憶があまりないほどだ」

古泉「では無理なのではないでしょうか。蟻が象に挑むより無謀ですよ」

キョン「だが、確率の話で言えば平等なはずだろ? 精神的要素が影響しているはずだ」

古泉「それこそ絶望的じゃありませんか。涼宮さんは精神世界の怪物のような人ですよ」

キョン「だから、細工をして挑んでみることにする。どのくらい勝率に影響があるか気にならないか?」

古泉「……どうやら詳しく話を聞く必要があるようですね」

キョン「よし、まずは前提から考えていこうと思う。じゃんけんの強さはイメージに左右されていないか?」

古泉「といいますと?」

キョン「昨日な、ふとしたことで谷口とじゃんけんをしたんだ。化学の宿題を見せるとか見せないかとかそんな理由だ」

キョン「谷口はじゃんけんが強かった。腕を振りながら『これは負けたな』と思うくらいだった」

古泉「負けたのですか。谷口さんは自分が有利な場面でのじゃんけんは強そうなイメージがあります」

キョン「国木田はどうだ?」

古泉「あくまでイメージですが……。あまり強くないような気がします」

キョン「確かに国木田はあまり強くはなかった。数回やったが、おおよそ半分ずつ勝利を分けた」

古泉「なるほど」

キョン「朝比奈さんは絶対弱いだろ?」

古泉「絶対かどうかは置いておいても、じゃんけんに強いイメージはありませんね」

キョン「鶴屋さんはどう思う?」

古泉「あの方は強そうですね。何度あいこになっても最終的に勝ちそうです」

キョン「俺もおおよそそんなイメージだ。長門は正直読めん。というかあいつはじゃんけんとか知ってるのか?」

古泉「ご本人に聞いてみればいいじゃないですか」

キョン「長門、お前じゃんけんって知ってるか?」

長門「知っている」

キョン「俺とじゃんけんをしてみてくれないか」

長門「構わない」

キョン「よし、ちょっと待ってくれ。さて、何が出るか……」

古泉「ちょっ、ちょっと待ってください。ええと、何をされているのでしょうか……?」

キョン「何ってじゃんけん前の儀式だろ。お前のとこは違うのか? こうやって伸ばした腕を交差させてだな……」

古泉「いや、やり方は結構ですよ。それは何を見ているのですか?」

キョン「覗いてみて何となく手を決めるんだ。おっ、これでいくか!」

古泉(長門さんが相手ではまったく意味がないような気がしますが……)

キョン「よし、長門待たせたな。いくぞ。じゃーん、けーん――」

古泉「おや、最初はグーはやらないんですか?」

キョン「お前、いいところで……。別にどっちだっていいだろう」

古泉「僕はあったほうが好きですね。長門さんはどちらがお好みですか?」

長門「……」

キョン「外野がうるさいから最初はグーを入れてやるか」

「――最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」

キョン「負けた……」

古泉「予想通りの結果でしたね」

キョン「長門よ、別にずるいことはしてないよな?」

長門「していない」

古泉「長門さん、よろしければ勝つポイントのようなものを教えてくれませんか?」

長門「相手が出す手は呼吸、発汗、心拍数、筋肉の収縮、視線、瞳孔、虹彩、直前の言動からなどから推察出来る」

古泉「我々にはちょっと無理がある方法ですね……」

キョン「もう少しわかりやすいのはないのか?」

長門「……」

キョン「まあいい。その推察を俺みたいな人間が使ったとして、どの程度の勝率が出せるんだ?」

長門「95%」

キョン「俄かには信じられんな」

古泉「実践してもらってはいかがですか?」

キョン「てことはあと99回やったとしたら、俺は4回勝てるんだな?」

長門「そう」

キョン「長門、すまんが付き合ってくれるか? 超常的なものはなしで頼むぞ」

長門「……」

古泉(さて、どこまで持ちますかね……)」

キョン「もうダメだ……。勝つ前に心が折れちまう……。……長門、ありがとな」

長門「いい」

古泉「思ったより長くもちましたね」

キョン「どういう意味だ」

古泉「失礼ながら30回もいかずに投げ出すことになると踏んでいたのですよ」

キョン「50回連続で負け続けた俺の気持ちはわからんだろうな。考えている以上の精神的苦痛だぞ」

古泉「まさか本を読みながらの長門さんに50回も――」

キョン「それ以上言うな。俺を殺す気か」

古泉「目に見えて疲労していっていましたからね。これでは涼宮さんと対戦なんて出来ませんよ」

キョン「今日はしないさ。流石に回復もしないでラスボスに挑むようなことはしない」

古泉「珍しく殊勝ですね。心中お察ししますよ」

キョン「長門が相手じゃ分が悪すぎたな」

古泉「確かにあまり参考にならないデータかもしれませんね」

キョン「俺は今日に限れば世界中で一番じゃんけんに負けただろうな……」

古泉「次は誰と勝負するんですか」

キョン「朝比奈さんで箸休めだ」

古泉「記録を更新することにならなければいいのですがね……」

みくる「――遅くなっちゃってごめんなさい。鶴屋さんと話し込んじゃって……」

キョン「朝比奈さん、いいところに来てくれました。早速ですが、俺とじゃんけんをしてくれませんか?」

みくる「え? いいですけど……」

「――最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」

キョン(このふわふわした声でじゃあん、けえんと言われるとつい口元が緩んでしまうな)

    (しかもそれなりに勝てる。これは嬉しい。長門戦での疲労が回復していくようだ)

みくる「キョンくん強いんですねえ」

キョン「そんなことはありませんよ。どれ、もう少しお願い出来ますか?」

みくる「いいですよ」

キョン(これは役得かもしれないな)

古泉(……涼宮さんが掃除当番で遅れていて本当によかったですよ)

   (こんなところ見られた日にはどれほど巨大な神人が出現するかわかったものではありません)

みくる「じゃあ、あたしはお茶入れますね」

キョン「どうもありがとうございました」

古泉「……」

キョン「いや素晴らしい時間だった。少しばかりとはいえ、勝てるということがこんなにも嬉しいことだとはな」

古泉「本当に勝ったことが嬉しかったんですか?」

キョン「含みのある言い方だな。俺は純粋にじゃんけんをしていただけだ」

古泉「……そうですか」

キョン「六割くらいは勝てていただろうか?」

古泉「そうだと思います」

キョン「そういえばお前はどうなんだ? 強いのか?」

古泉「特に強くも弱くもないと思います。ありきたりな表現ですが、普通と言えると思います」

キョン「10回勝負でやってみよう」

古泉「いいですよ。そういえば、ちゃんと勝利数をカウントしなくていいのですか?」

キョン「曖昧なままの方が精神的な補強にはいいだろう。『結構勝てる』という思い込みが欲しいんだ」

    「大体正攻法でハルヒに勝てると思うか? 常識的な方法は絶対に通用しないはずだ」

    「強そうな相手とやるにあたって、俺もまあまあ勝てる人間だから大丈夫だな、という自己暗示だ」

古泉「一理あるような、ないような……。まあいいでしょう。ではいきますよ」

「――最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」

キョン「男と放課後に連続でじゃんけんをするのっていうのは画的にどうなんだろうな」

古泉「どうなのでしょうか。あまり望まれる画ではないことは確かですね」

キョン「俺は4勝くらいだったか。まあ誤差もあるだろうから半分くらいは勝てると考えてもいいだろう」

古泉「そのようですね。今のところあなたが非常に弱いという根拠はありませんね」

キョン「これは精神的攻撃を受けていないからな。俺は何かをかけていたり、追い込まれると弱さに拍車がかかる」

古泉「堂々と精神的弱さを吐露している顔ではないですね」

キョン「事実は事実だ。認めることでより精神的な補強の効果が出やすいはずだ」

古泉「段々胡散臭くなってきましたね。そういば、そういったときの弱さの確認は改めてしなくていいのですか?」

キョン「どうやってするんだ? 何かを賭けて勝負するにはリアリティが必要だぞ」

古泉「そこでですね……」

古泉「今から朝比奈さんと三回勝負してみてください。負けたら僕にジュースでも奢ってくれませんか?」

キョン「なんでお前に奢らにゃならんのだ?」

古泉「僕と飲み物を賭けて勝負したとしても、追い込まれ度は同等です。考えようによってはフェアといえます」

   「あなたひとりが追い込まれた状況でどうなるのかが知りたいのですよ」

キョン「……お前が喉が渇いただけじゃないだろうな?」

古泉「おや、もう負ける気がしているのですか?」

キョン「俺が勝ったらどうするんだ?」

古泉「もちろん、僕が何か飲み物を奢って差し上げますよ」

キョン「――よし。朝比奈さん、もう一度じゃんけんをしましょう」

「――最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」

キョン「……負けた」

古泉「どうやら本当に何かを賭けると弱いようですね。ストレート負けとは」

キョン「さっきの長門戦がフラッシュバックした。『最初は』と言ってる段階で負けるビジョンが見えちまった」

古泉「もっと勝つシーンを想像して臨んだらいいのではないですか?」

キョン「何かがかかった場面でことごとく負けてきたんだ。そんな簡単に言うな……」

古泉「ひとつ提案があります。また朝比奈さんと勝負をしてきてください」

キョン「今度は何をかけるんだ?」

古泉「一回勝負で、もし勝てたらあなたの欲しいもの何かひとつを差し上げます」

キョン「何? 待て、それはどこまでいいんだ? 何でもいいのか?」

古泉「あまり高価なのものは無理ですよ。機関で手配出来そうなものに限ります。あと公共良俗に反しないもので――」

キョン「古泉、男に二言はないよな? よし、朝比奈さん! 度々すみませんが――」

古泉「……」

キョン「……勝つっていうのは一体どういうことなんだろうな」

    「そもそも争いってやつはは不毛なことだし、これでいいんだ。これで」

古泉「見事な負けっぷりでしたね。若干後出し気味で負けていませんでしたか? まあ、想像の通りでしたけども」

キョン「お前、俺が負けたのがそんなに愉快か……?」

古泉「いえ、勝った場合、一体何をねだられたのかという方が気になりますね」

キョン「……それは言えん」

古泉「邪な熱意をもってしても勝てないと……」

キョン「邪かどうかはわからんだろうが。しかし、こんな有様でどうやってハルヒに勝てばいいんだ……」

古泉「……困りましたね」

キョン「じゃんけんってやつはどうやれば勝てるんだ?」

古泉「振り出しに戻ってきていますよね?」

キョン「精神的な補強というのは間違ってないと思うんだ。なんせ、負けるビジョンが見えたときは確実に負けている」

古泉「ではそれを逆手にとって勝てるイメージを強固にするようにすればいいのでは?」

キョン「どうやって?」

古泉「なんと言いますか、我を押し通すイメージですね。涼宮さんが日々行っているような……」

キョン「おい、俺はハルヒに勝ってみたいんだ。我を押し通すことでハルヒの右に出るやつがいると思うか?」

古泉「……それもそうですね。では、涼宮さんに精神攻撃を仕掛けるというのはどうでしょうか?」

キョン「……成功するのか?」

古泉「涼宮さんは普段傍若無人に振舞っていますが、中身は歳相応の繊細な高校生です」

   「精神的な揺さぶりに弱いことはあなたもご存知でしょう?」

キョン「お前、繊細って言葉の意味を間違えてないか……? 俺にはそうは思えんが……」

古泉「またまた。涼宮さんに精神的負担をかける何かをかけて勝負してみたらどうでしょう?」

キョン「例えば?」

古泉「……そこに関してはあまりいい案が浮かんでいませんが、大声を出してみるのはどうでしょうか?」

キョン「子供じゃあるまいし……。勢いでなんとかするってのか?」

古泉「……我ながらあまりいい案とは言えませんね」

キョン「じゃあ駄目じゃねえか。それでもやってみないよりはいいか」

古泉「では試してみましょうか」

古泉「僕は声を出さずにやってみますので、あなたは力の限り叫んで臨んでください」

キョン「端から見てると俺だけ馬鹿みたいじゃねえか……」

古泉「涼宮さんに勝つためですよ」

キョン「仕方ない。いくぞ! あー、あー、うん、よし」

古泉「きちんと勝つイメージを浮かべてやってくださいね」

「――最初はグー! じゃーん! けーん! ぽん!」

キョン「勝てた! 勝てたぞ古泉!」

古泉「せっかくですしもう何戦かしてみましょうか……」

キョン「大声を出すと勝率が若干上がったような気もするな」

古泉「極わずかですが、勢いとイメージは大事なようですね」

キョン「それだけわかっただけでも収穫といえるだろう。なんせ相手はハルヒだ」

古泉「今さらですが、もちろん涼宮さんとは何かを賭けて勝負するわけですよね?」

キョン「いや、そんなつもりはなかったが……」

古泉「単純なじゃんけんではまず間違いなくあなたは負けると思いますよ」

キョン「何でわかる?」

古泉「今までの戦績が……というのもありますが、地力の勝負では不利でしょう」

キョン「だが、先に証明されたようにだな、俺は何かを賭けると極端に弱くなっちまう」

古泉「そこがポイントですよ。同じ土俵まで降りてきてもらえばいいのですよ」

キョン「どうやってだよ」

古泉「涼宮さんが乗りたくなるような勝負を演出すればいいのです」

   「例えばあなたが負けた場合、涼宮さんの犬になるとか……」

キョン「もうすでに犬のような扱いを受けてるから賭けにならんだろう」

古泉「自覚があったとは驚きです。……おっと、冗談ですよ。」

キョン「そもそもだな、ハルヒが俺と何かを賭けて勝負するとは思えん」

    「もし乗ってきたとしても、あいつは負けることが嫌いなはずだ。間違いなく本気で来るだろう」

古泉「だからこそ、それを考えるのがこの勝負の分水嶺ではないですか?」

   「涼宮さんの勝利への執念を煽るような条件と場を設定すれば乗ってくるでしょう」

   「そしてそこで勝たなければ本当の勝利とは言えないのではないですか?」

キョン「ハルヒは裏を読むことは少ないだろうからな……。罠にかけることは容易いかもしれん」

古泉「そうでしょう。涼宮さんが降りられない勝負を設定するのですよ」

キョン「じゃあお前もハルヒが乗ってくるような魅力的なチップを考えろよ、真面目にな」

古泉「そうですね……、何がいいでしょうか……」

キョン「俺に勝ったら宇宙人のサインでもやるってのはどうだ? 未来人でも超能力者でもいいが……」

古泉「どうやって入手するんですか?」

キョン「なに、長門に適当に書いてもらえばいい」

古泉「そういうことですか……。そもそも我々の話は涼宮さんが信じてくれなかったじゃありませんか」

キョン「駄目か。俺にとっては精神的な負担にならないからいいと思ったんだがな」

古泉「そもそも涼宮さんがそれを信じていたとしたら絶対に勝てませんよ。掛け金足りえません」

古泉「……そういえば、そもそもどうして涼宮さんに勝ちたいのでしょうか?」

キョン「ハルヒは勉強が出来、運動神経もいい、容姿端麗、団員以外に対しては割と一般常識も持ち合わせている」

    「性格は破綻気味だが、それを補ってあまりあるスペックだ」

    「それに比べ、俺は総じて十人並みだ。何事においてもハルヒに勝てるチャンスなど恐らくない」

    「だからこそ、じゃんけんであいつに土をつけたい。そしてその様子を直に見たい」

古泉「……驚くほど子供じみた理由ですね」

キョン「想像してみろ。普段見下している俺に敗れたハルヒの心情はいかほどだろうか?」

    「寂寥感に塗れ、人目をはばからずに紅涙を絞る様を見たいとは思わないのか?」

古泉「まあ、動機は不純でも我を押し通そうとするにはいい理由かもしれませんね」

   (鼻っ柱を圧し折られることにならないといいんですが……)

キョン「話が逸れたな。結局のところ問題は何を賭けるかってことだな」

古泉「涼宮さんに有利と見せかけて勝負に乗らせ、実は不利な案件というのが望ましいですね」

キョン「そんな都合のいいものあるか?」

古泉「どうでしょうか……」

キョン「とりあえず、勝負は明日する。今日一日で何か考えてこい。俺も知恵を絞ってみるさ」

古泉「わかりました。くれぐれも地球がどうこうなるようなものを掛け金にしないでくださいよ」

キョン「それはハルヒ次第だろ。俺は勝ちたいんだ」

キョン「おう」

古泉「これはこれは。目の下にものすごい隈ができているようですが……」

キョン「ハルヒに勝つための手段を考えていたらどうにもうまく寝付けなくてな」

古泉「ということは妙案が浮かんだのでしょうか?」

キョン「さっぱりだ。睡眠不足もあって精神的には絶不調だしな……」

古泉「今日の勝負は避けた方がいいのでは?」

キョン「いや、どうせ勝てない勝負なんだ。コンディションが悪い方が勢いがつきやすいはずだ」

古泉「無茶苦茶な理論ですが、心意気は昨日とは段違いでよいですね」

キョン「当たり前だ。昨日の俺とは違う」

古泉「では放課後に勝負ということでいいのですか」

キョン「もちろんだ。返り討ちにしてくれるぜ」

古泉「では楽しみにしておきましょう」

キョン「ハルヒの悔しがる姿が目に浮かぶぜ。ふははは!」

古泉(寝不足でちょっとおかしくなっているのでしょうか……?)

キョン「よし、じゃ、放課後にな」

古泉「え、ええ」

古泉「いやあ、遅くなりました――おや?」

みくる「キョンくん大丈夫ですか……?」

キョン「……ご心配には及びませんよ。ただ少し眠いだけですから」

古泉「どうしたんです?」

キョン「……授業中寝られなかったんだ」

古泉「授業は寝る時間ではありませんよ」

キョン「……そんなことはどうでもいい。……俺はもう限界まで眠いってのに寝られないんだ」

    「頭の中でグーとチョキとパーがやかましく狂喜乱舞していやがる」

古泉(……これは重症ですね)

古泉「今日はもう勝負のことは諦めて帰宅した方がよいのでは?」

   「幸い涼宮さんはまだ現れていませんし、体調不良といえば大事にもならないでしょう」

キョン「……そういうわけにもいかないだろう」

古泉「机に突っ伏しているところを涼宮さんにでも見られたらどうするんです?」

   「動くならば早いほうが――」

ハルヒ「やっほー! 今日も元気よく団活を――」

古泉「……」

ハルヒ「あれ、キョンどうしたの?」

古泉「少し寝不足らしくて……」

ハルヒ「夜更かしして勉強をしてたわけでもないわよね? 何してたのよ?」

キョン「……」

ハルヒ「とりあえず体を起こしなさいよ。ここで寝るのは許さないわよ」

    「ここはSOS団の活動の場よ。あんたが寝ていい部屋じゃないのよ」

キョン「……いいだろう。おい、ハルヒ。俺と勝負しないか?」

ハルヒ「は?」

キョン「俺と今からじゃんけんをして勝ったら俺は家に寝に帰る」

ハルヒ「そこまでして寝たいの? 授業中に寝ればよかったじゃない」

キョン「おそらくこの俺の眠気はお前にぶつけるためにある」

古泉(……本格的に妙なことを言い出してきましたね。しかし、これは勝算ゼロの勝負に……)

   (……というより、昨日考えた作戦はすべて無視して玉砕するおつもりなのですね)

ハルヒ「別に負ける気はしないからいいわ。で、あんたが負けたらどうするの?」

キョン「俺は負けない。が、万が一負けたらお前の言うとおりにしてやろう」

    「望むのであれば、二日目の徹夜も辞さない心積もりだ」

ハルヒ「それがあたしにとってどんな得になるのよ?」

キョン「……」

ハルヒ「まあいいわ。負けたら何か恥ずかしいことでもやってもらおうかしらね」

    「じゃあいくわよ!」

キョン「……ちょっと待て」

ハルヒ「あんた何してるの……?」

キョン「……見える! 見えるぞ!」

古泉「すぐに済みますからちょっとだけお待ちください。彼にとって儀式みたいなものだそうで……」

キョン「……よし!」

ハルヒ「何がよし、よ。負ける準備が出来たの?」

キョン「負けるのはハルヒ、お前だ」

ハルヒ「鋭いのは目つきだけじゃない。フラフラで何言ってんの?」

キョン「御託はいいんだ。やるぞ」

ハルヒ「何を偉そうに……。――いくわよ!」


「――最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」

ハルヒ「今日のキョンは本当に変ね。一体どうしたのかしら?」

古泉「涼宮さんに負けたことがよっぽど悔しかったのでしょう」

ハルヒ「それにしてももう5分くらいはパー出したままの格好で固まってるわよ」

古泉「ちなみに涼宮さんはなぜチョキを出そうと思ったのでしょうか?」

ハルヒ「……なんとなくね。当たり前だけどあたしはキョンに勝って笑ってるイメージが浮かんだのよ」

   「じゃんけんの強さなんてものは精神的な強さによるんじゃないかしら」

古泉「確かにそれは一理ありそうですね」

ハルヒ「でしょ。強い意志の下ではじゃんけんも自然と強くなるよの」

    「さて、そろそろキョンを起こそうかしらね」

ハルヒ「アホキョン! いつまで呆けてるの! 早く帰ってきなさい」

キョン「……」

古泉「大丈夫ですか……?」

キョン「……ああ、俺は負けたのか……」

古泉「見事に一発で負けましたよ。勝負への思いは負けた後に充分すぎるほどに感じましたが、流石に無理な話でした」

キョン「やはり駄目だったのか……。悔しすぎて涙も出ないとはこのことだな」

古泉「あんたまだ寝ぼけてるの? 早くしゃきっとしなさいよ」

キョン「……睡眠状態にはないが、覚醒しているかと訊かれれば、まだ曖昧模糊だと言わざるをえないな」

ハルヒ「そこまで舌が回れば充分よ。で、あんたが負けたから罰ゲームを決めたわ」

キョン「……言ってみろ」

ハルヒ「明日子供のころの写真を持ってきなさい。とびっきりアホな顔してるやつよ」

キョン「……そんな写真などない」

ハルヒ「ないわけないでしょう? 生まれたてから高校入学直前まで1年ごとの写真を持ってくるのよ!」

    「それを見ながらみんなであんたの詳細な解説付きで半生を振り返ることをもって明日の団活とするわ!」

キョン「そんな生き地獄のようなマネできるか! そもそも誰も興味ないだろうが!」

古泉「おや、僕は少なからず興味がありますよ。朝比奈さんはどうでしょうか?」

みくる「……あたしもちょっと見てみたいかもしれないです」

ハルヒ「どうやら賛成多数のようね。有希もそうよね?」

長門「……」

キョン「ちょっと待ってくれ! あまりに辱めが過ぎるだろう!」

ハルヒ「知り合いの小さなころの写真を見ることのどこが辱めなのよ」

古泉「そうですよ。仲がいいことの証明のようではありませんか」

キョン「……古泉、お前はちょっと黙ってろ」

ハルヒ「あんたがじゃんけんで負けるのが悪いのよ。そしてあたしは団長。あんたは従うしかないのよ」

キョン(なんてことだ……。じゃんけんで負けた俺が悪いのは間違いないが……)

古泉(ここは折れてはどうですか? もう勝ち目はありませんよ。またじゃんけんをしても――)

ハルヒ「何をごちゃごちゃ話してるのよ。ずいぶんと不服そうだからチャンスをあげるわ」

キョン「何?」

ハルヒ「しょうがないからもう一度じゃんけんをしてあげるって言ってるのよ

    「ただし、次またあんたが負けたら泣こうが喚こうが変更はなしよ」

ハルヒ「万が一、ありえないけどあんたが勝ったら明日のイベントは取りやめてもいいわよ」

キョン「……お前、窮鼠猫を噛むって諺を知ってるか? 追い詰められた鼠は何をするかわからんぞ」

ハルヒ「御託はいいわよ。やるの? やらないの?」

キョン(……待てよ。これはチャンスだ。神だかなんだかがくれた勝つためのチャンスだ)

キョン「……明日のイベントは続行でもかまわん。写真でも何でも用意してやろうじゃないか」

    「お望みのままに詳細過ぎるほどに半生を語ってやろう」

ハルヒ「それならならじゃんけんをする意味ないじゃない」

キョン「まあ話は最後まで聞けよ。このじゃんけんで俺が勝ったら違う権利をくれないか?」

ハルヒ「何よ?」

キョン「一日だけ団員の髪型を俺の好きなように変更出来る権利だ。どうだ?」

古泉(おや、これは……)

ハルヒ「……あんた何考えてんの?」

キョン「どうだろうな。で、どうするんだ? 髪型変更権をかけて勝負するか?」

ハルヒ「キョンの癖に生意気ね! もちろんやるわよ!」

キョン「ふっ、あとで吠え面かくなよ!」


「最初はグー――、じゃーん、けーん――」

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