TAG FORCE EXTRA 【遊戯王5D'sタッグフォース】 (693)

遊戯王タッグフォースSPの発売を祝って、SSを書こうと思い立ちました。見苦しい所も多々あるかと思いますが、読んで頂けたら幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419597112

甲高いエンジン音が響く。赤いバイク──Dホイールが滑るように地面を疾走していた。

「…………」

走っているのは舗装されている道路などではなく、数え切れないコンクリートの破片やゴミが散乱している悪路だ。

そもそも、これは人が移動するための道であり、Dホイールでの走行は考慮されていない。車体は常に強く揺さぶられ、常人なら瞬く間にクラッシュするか、胃の内容物をぶちまけるかのどちらかだろう。

逆に言えば、ここを日常的に走っていればライディングの腕前は面白いように上達するのだが。

「……15秒か」

狭い路地を突っ切り、トンネルを抜ける。所定のコースを巡りながら、周囲の風景を仰ぎ見た。

見渡す限りの廃墟。今にも崩落しそうなビルが乱立し、地面から無造作に生えた煙突からは、ゴミを燃やした煙が延々と吐き出されている。

空は濁ったような曇天。日の光は差さず、汚れた雨だけが降る。思えば、星は長いこと見ていない。厚い煙に邪魔されては、夜空の星など容易くかき消されてしまう。

ここはサテライト。

シティの繁栄の影に隠れた、搾取されるだけの古い街。


「……42秒」

タイムは思っていたより振るわない。昨日と比べれば2秒ほど速くなってはいるが、とても満足できない。雑念のせいか。

居住区に入ると、ちらほらと人影が見えてきた。満足に電気も通っていないせいで、寒さを凌ぐために身を寄せ合って火を焚いている。

今は夜だ。迷惑にならないよう、レース用のマニュアル操作から移動用のオートパイロットへ切り替える。モーメント・エンジンの回転数が落ちると共に、エンジン音も気にならない程度に静かになった。

住民の顔色は暗い。若者から老人まで、一様に俯き、ただ呼吸をしているだけ。あれでは死んでいるのと変わらない。

「…………っ」

何故だか、無性に焦りが募る。居住区を過ぎたと同時に、マニュアル操作へ戻した。淀んだ風を振り切るようにスロットルを回す。

柄にもなく、苛つきで運転してしまった。タイム計測もどうでもよかった。どうせろくな記録は出せないし、今日の問題点は既に把握している。後は住処に戻って改良するだけ。徹夜になるだろうが、それとていつもやっている事だ。

こうやって毎日走り、毎日計り、毎日直す。少しずつ目標に近づいているのは分かるが、歩みは耐え難いほど遅かった。気持ちばかり逸ってしまう。

だからか、明らかにいつもより集中力が散っていたことにも気が回らなかった。

だから──気づくのが遅れてしまった。

「…………!」

目の前に人影。このままでは激突する。思い切りブレーキを掛けつつ、回避コースを探す。駄目だ。狭い。

「くっ……!」

車体を横に逃がしつつ、タイヤの摩擦でもって減速。降り積もった埃のせいで滑る。それでも減速。地面を削りながら、なんとか停止した。暗闇と砂埃のために、視界はほぼゼロだった。

最悪の予想が頭をよぎる。Dホイールから飛び降り、ヘルメットを投げ捨てつつ、轢いてしまったかもしれない歩行者の無事を確認した。

良かった。傷一つ無い。

「すまない。怪我はないか?」

口から出たのは、自分でも驚くほど簡素で冷静な言葉だった。

「…………」

相手は無言のまま立ち尽くしている。表情は判然としない。目深にかぶった赤い帽子のせいだ。

「完全に俺の不注意だ。もし、痛む所があるのなら……」

「……いや、怪我は無い。こちらもすまなかった。まさか──Dホイールの通り道だとは思わなくて」

相手が初めて口を開いた。その視線は自分を轢き殺しかけたDホイールに向いている。思えば、彼は先ほどから一歩も動いていない。よほど興味があるのか。見れば、彼の左手には金色のデュエルディスクが装着されている。

「……決闘者(デュエリスト)、か?」

思わず、そんなことを訊いてしまった。今回の件を相手がそれほど気にしていないらしいことが、口を軽くしてしまった。

「カードは……持っていない。集めている最中でな。八枚目を手に入れたところだ」

右手に持っていたカードを見る。



ご指摘ありがとうございます。直しました

《チューン・ウォリアー》
チューナー(通常モンスター)
星3/地属性/戦士族/攻1600/守200
あらゆるものをチューニングしてしまう電波系戦士。常にアンテナを張ってはいるものの、感度はそう高くない。

「《チューン・ウォリアー》か、良いカードじゃないか」

「……そうなのか? カードの知識はあまり無いんだ」

難しい物を見るような顔で唸る。知識が無いのに、カードを集めているのか。そう思ったが、すぐに考え直す。なにせ、自分も同じことをしていたからだ。

「……それより、本当にすまなかった」

「……?」

「危うく激突するところだっただろう? 走行中に意識を逸らすとは……」

Dホイーラー失格だ。自責の念が大きくなる。だが、相手は不思議そうに言った。

「激突の心配なんか無かっただろう。だから俺も避けなかった」

「……待ってくれ。それはどういうことだ?」

確かに、彼は避ける素振りを見せなかった。だが、それは避けられなかったからではないのか?

避ける必要が無かったとは──

「距離と減速の仕方を考慮すれば、Dホイールがこの位置で停止することは予想できた。操縦の腕も良いように見えたんで、動く必要は無いと思ったんだが……」

何か変か? と首を傾げる帽子の男。

「……フ」

思わず笑みが漏れた。この男は、目の前から迫ってくるDホイールを冷静に観察し、顔も知らない相手の操縦技術を信用して動かなかった、と言っているのだ。

面白い奴だと思った。

「俺は不動遊星。良かったら、名前を教えてくれるか」

初めて自分から自己紹介をした。相手は赤い帽子を被り直し、

「……コナミだ。たぶん名前。名字はまだ無い」

また変な答えを返してくる。

これが、不動遊星とコナミの出会いだった。

今日はこの辺で失礼します。読んで頂いた方、ありがとうございました。

「あ、遊星、コナミ! おかえり!」

シャッターが開くと同時に、ガレージ内に元気な声が響く。今は夜だ。寝静まっていた住人達は、突然の大声に飛び起きた。

「うるせえぞラリー! いま何時だと思ってんだ!」

頭にバンダナを巻いた男、ナーヴが怒鳴る。

「お、二人共、帰ってきたか」

「おかえり。今日の収穫はどうたった?」

ブリッツが眼鏡を掛け直しながら起き上がり、タカは欠伸混じりに今夜の成果を訊く。

「あ、ごめん。つい……」

仲間を起こしてしまった事を謝るのはラリー・ドーソン。この中で一番年下の少年だ。年相応に元気が良く、特に不動遊星には懐いている。

「ああ、ただいま。悪いな、起こしてしまって」

「……ん、ただいま」

赤いDホイールを押しながら入ってきた遊星がシャッターを閉める。すかさずタカが立ち上がり、ガレージ内の照明を付けてやった。

後に続く赤い帽子、赤いジャケットを着た人物は四日ほど前に遊星が拾ってきた、コナミという青年だ。行くあてが無いらしく、このガレージに住み着いている。

寡黙な遊星に負けず劣らず、無口な人物で、ナーヴ達とは数えるほどしか会話をした事が無い。


「今日は遅かったね。待ちくたびれて、みんな寝ちゃってたよ」

二人を迎えようと待っていたラリー達だが、いつまでも帰ってこないので一人、また一人とガレージで寝てしまっていた。起きていたのはラリーだけだ。

「……ああ。タイム計測に夢中になってしまっていた」

そう言いつつ、遊星はDホイールからデータチップを抜き取り、コナミに投げ渡す。帽子の青年はそれを受け取り、パソコンに挿入した。今日のデータを整理し、チューニングするためである。

「……今日のはどうだった?」

「悪くないな。直線での伸びが今までと段違いだ」

遊星が満足そうに言う。あんな表情は珍しい。コナミがソフトウェア面でDホイールの改良を手伝うようになってから、遊星はああいった表情をすることが多くなった。

「……そうか」

コナミはこくりと頷いた。相変わらずの無表情だ。

「おい、まだ続けるのか? もうすぐ朝だぞ」

「問題ない。もう少しで一段落つきそうなんだ。ラリー達は先に眠っていてくれ」

「まったく……」

ナーヴもタカもブリッツも、一様に呆れた溜め息を吐いた。遊星とコナミは、また徹夜をする気なのだ。

どうせ言っても聞かないので、四人は寝床へ移動する。邪魔するよりは、二人の好きにさせてやった方が良い。そうした方が結果的に休める時間は増える。

「じゃあ、おやすみ。あんまり根を詰めるなよ」

そう言ってラリーを除く三人がガレージを去っていく。

「ああ。おやすみ」

「……あまり騒がないようにする。安心して寝てくれ」

「ちぇ、おやすみ……」

不満そうにラリーはその場を後にした。

「あいつらも良くやるねぇ……」

二つある二段ベッド、その上段に上がりながらブリッツが呟く。下段はラリーの場所だ。布団に潜り込みながら、ラリーは目を閉じる。

「でも、コナミが来てから遊星は楽しそうだ」

隣のベッドの下段に腰掛けたタカが呟く。

「メカについて話せる相手が出来て楽しいんだろ」

その上にいるナーヴは不満気だ。彼はサテライト民らしく、外から来たコナミに気を許していないからである。

「あれじゃ、すぐに体を壊しちまう。ジャックに挑む前にな」

「そうかな? 遊星はそこまで馬鹿じゃないだろ。体を壊す前になんとかするさ」

「壊す前に出発する気かも……」

仲間内で一番心配性のタカが呟く。一番ガタイが良いくせに、気は一番小さい。こうやって悪い予想を言ってナーヴから怒られる、というのがいつもの流れだ。

「…………」

だが、ナーヴは怒らなかった。代わりに、

「……そうかもな」

肯定の言葉を口にした。

「四日後には出発できるって言ってたしな。次には間に合わせるつもりなんだろ」

「…………」

沈黙が降りた。遊星はある目的のために、サテライトからシティに渡ろうとしている。二つの街の交通は治安維持局から完全に管理されており、通常の手段では渡れない。

しかし、物事には例外がある。

サテライトというのはシティが出した廃棄物を処理するための場所だ。ナーヴ達はそのゴミを分別し、処分する仕事をして生計を立てている。

では、その膨大な量のゴミはどこを通ってくるのか?

「パイプラインの通過時間は、とっくにクリアしてんだ」

シティとサテライトを繋ぐ、ゴミの道。それがパイプラインだ。数日に一度だけ開通し、シティの吐き出したゴミをサテライトに送る。

そのパイプラインはゴミを送った直後、僅かな瞬間、Dホイールで通り抜ける隙が出来る。遊星が狙っているのはそこだ。

そのために長い時間を掛け、Dホイールを組み上げて来た。ゴミを漁って一から──いや、ゼロから作ってきたのだ。しかし、メカニックとして非常に優秀な遊星でも、完成は二ヶ月以上先の筈だった。

それをコナミが早めてしまった。二ヶ月だった予定は今や三日後だ。

急な予定の短縮は、ラリー達を戸惑わせた。遊星との別れは、決して小さい事ではない。

「ラリー、お前はどうなんだよ。このまま遊星を送り出して良いのか?」

ナーヴが話を振ってくる。

「俺は……応援してる。遊星がジャックと決着をつけられるなら、少しでも早い方がいいから……」


「俺のせいで、遊星はDホイールもスターダストも持っていかれちゃったんだから」

「それは……」

「それに、このまま何もしないで遊星を見送るつもりなんて無いし」

このガレージを直し、電気を通して住めるようにしてくれたのは遊星だ。何の役にも立てないままで終わるなど、とても納得出来なかった。

(良いパーツを拾ってきて、遊星に喜んでもらうんだ……!)

そう決心し、毛布を被る。

「もう寝るから! おやすみ!」

笑顔で送り出すために、明日は早く起きなくては。元気よく告げてラリーは今度こそ目を閉じた。





早朝。

ラリーは誰よりも早く起き、外へ飛び出していた。遊星は作業中だったが、コナミの姿は無かった。またカードやパーツを拾いに行ったのだろう。

(近くはあらかた探したから、今日はいつもとは違う場所に行くんだ……!)

向かっているのは居住区から離れたエリアだった。ラリーの予想ではお宝が見つかる可能性が一番高い所である。代わりに治安が悪いが、荒事には慣れているいるし、逃げ足には自信があった。

「んー。……あ、あれは!」

早速、比較的新しいパーツが見つかった。これなら昼過ぎまでに山ほど持って帰ることが出来るだろう。



数時間後。

「へへー。大漁、大漁!」

持って来ていたバッグをパンパンにして、ラリーは鼻歌混じりで帰路についていた。

「ん? あれは……」

近くのゴミ山に、最近やっと見慣れてきた赤い帽子が見えた。

「コナミー!」


「……ラリーか」

こちらを見つけると、コナミはゴミ山の上から滑り下りてきた。左腕のデュエルディスクには、結構な枚数のカードが納められている。

「遊星のためにパーツ集めか」

「そうだよ! もうすぐ出発するんだから、少しでも良いパーツを使って、Dホイールの性能を上げなくちゃねー!」

「……それなら、バッグに詰め込むのは良くない。パーツが痛む」

「う……」

痛い所を突かれ、ラリーは呻いた。

「コ、コナミはカード集め?」

「……ああ。やっと39枚集まった。今日中にデッキが組める枚数に届くかもな」

コナミは金色のデュエルディスクに目をやる。

「あ、それなら……」

ラリーはポケットを漁り、一枚のカードを取り出した。

「これ、コナミにあげる! あんまり強くないけど……」

「《メカウサー》……」

「最後の一枚。これでデッキになるでしょ?」

「いや、それはラリーが見つけたカードだろう? なら、ラリーの物だ」

コナミは首を振る。

「最後の一枚って思って探してると、なかなか見つからなかったりするんだよ。遊星がそう言ってたんだ」

「だが……俺はラリーに何もしてやれない。返せる物が無いんだ」

「良いって。コナミは遊星の手伝いをしてくれたんだから、これはそのお礼。だから貰ってよ」

「……むぅ」

意外と粘る。

「それに、俺のカードがコナミのデッキの最後の一枚になるんなら、こんなに嬉しいことは無いよ。ね?」

「……分かった。ありがとう、ラリー」

コナミは真剣な顔でカードを受け取り、そのままデッキに入れた。それが可笑しくて、ラリーは笑った。

「それでコナミのデッキ、完成だね!」

「じゃ、帰ろうか。遊星に早くパーツを見せたいし」

「……そうだな。荷物は俺が持とう。転ぶと危ない」

「大丈夫だって、これくらい」

「足元、ふらついてるぞ」

「む……」

そんなことを言い合いながら、ラリーとコナミはガレージに向かって歩きだした。

その背中を、

「そこの赤帽子、ちょっと待ちな!」

鋭い声が呼び止める。

「な、なに!?」

「…………」

ラリーが慌てて振り向くと、瓦礫の山に一人の女性が仁王立ちしていた。乱暴に纏めた髪に、トゲの付いたカチューシャ。ノースリーブにズボンという飾り気の無い服装。左頬にはハート型のマーカーがある。

「あ、あれは……!」

「……誰だ」

「あたいはノーマネー 弥生ってもんだ。昨日はうちのバカが世話になったそうだね……」

「……ノーマネー?」

慌てふためくラリーと、余りにも直接的な弥生の名前に珍しく動揺するコナミ。

そんな二人を尻目に、弥生の後ろから数人の男達が現れた。

「昨日、テメェに怪我させられた連中さ。あたいのシマでナメた真似してくれたみたいだね」

「…………」

確かに男達は全員、大なり小なり怪我を負っていた。絆創膏を貼っているだけの者から、肩から包帯で腕を吊っている者までいる。

「……間違いがあるな」

コナミが静かに口を開いた。

「間違い……? なんだい?」
「そいつらが勝手にゴミ山から落ちただけだ。俺は確かに近くにいたが、何もしていない」

「……だってさ。どういうことだい?」

ノーマネー 弥生が子分連中を睨みつける。それだけで、大の男数人が竦み上がった。

「ち、違います! あいつが俺達のシマでゴミを漁ってやがったんで、ちょっと絞めてやろうかと……」

「その結果、殴りかかった勢いでゴミ山から落ちた……」

「うるせえ!」

男達は一様に弥生の機嫌を伺っている。なんとかしてコナミに八つ当たりをしたいようだ。

「なるほどな……。まあ、事情は分かった」

弥生が頷く。今の会話で、大体の予想はついたのだろう。

「じ、じゃあ、俺達はこの辺で……」

今を好機と、ラリーは踵を返した。

だが、

「こいつらの言い分にも一理ある。この一帯はこいつらの……つうか、あたいのシマだ。断りも無く、歩いて良い場所じゃないのさ」

弥生はラリーの背負ったバッグを見て、口元に笑みを浮かべた。

「しかも、盗みまでされちゃあ、見逃すわけにもいかないだろ?」

「盗みって……!」

「こいつらにした事は水に流してやる。だが、盗みはいけないね。……その荷物と持っているデュエルディスク、置いていきな」

「な、なんだよそれ! 意味分かんないよ!」

弥生の理不尽な言い分に、ラリーは声を荒げた。サテライトにも確かに縄張りはあるが、ここは違う。誰のテリトリーでも無かったはずだ。

「ここいらは最近、ウチのシマになったんだよ。だから、ここの物はあたいの物。あんたらの物もあたいの物ってわけさ」

「……そうなのか?」

弥生の言い分を真に受けたのか、コナミが尋ねてくる。

「そんなわけないだろ! ここは元々、誰の縄張りでも無かったんだ! いきなりそんなこと言われて、信じられるか!」

今度はラリーの言い分にコナミが頷く。

「……だそうだ。こちらの方が、筋が通っていると思うが」


「はん、ここはあたいの縄張りだ。つまり、あたいの言うことがそのままルールになる」

「……話にならないな」

コナミはラリーの荷物に目をやり、次に自分のデュエルディスクを見た。

「このデュエルディスクはやる。だから荷物は見逃してくれないか。どうせ、お前達にとっては使い道の無い物だろう」

「ほぅ……」

弥生が満足そうに笑う。始めからそれが狙いだったのか。

「駄目だよコナミ! それはコナミの物じゃないか、こんな奴らに渡すことないっ!」

「だがな……」

「大体、縄張りだ何だって、こいつらが勝手に言ってる事じゃん! それで人から物を取ろうなんて、それこそ泥棒だ!」

頭に血が昇ったラリーは矢継ぎ早に責め立てる。

「なにぃ……」

「このガキ……」

チンピラ共がいきり立つ。だが、何故か弥生だけは満足そうに笑った。

「威勢が良いね。なかなか面白いじゃないか。なら──」

その目がコナミのデュエルディスクに狙いを定める。

「デュエルで決着を付けよう。あたいらが勝ったら荷物とデュエルディスク、それとデッキを貰う。負けたら……昨日の件は詫びを入れさせるし、荷物は持って行って良い。どうだい?」

「な……っ!」

余りに一方的な条件。ラリーは絶句した。だが、コナミは、

「詫びなんかいらん。俺が勝ったら、二度と絡んでこないと誓え。それと……」

静かに答え、ラリーを見据えて言った。

「勝っても負けても、この子には手を出すな。今回の件の始まりは俺にある」

「ふん……。だが、その荷物はそこのガキが盗った物だろう? 見逃せないね」

「俺が強要したんだ。この子に責は無い」

「コ、コナミ……!」

何を馬鹿なことを言っているのだ。ラリーはコナミを止めようとしたが、その目に黙らされた。

「……分かった。その条件、乗ったよ」

「よし…テメェら、デュエルの準備をしな」

「え……っ」

弥生が男達に言い放つ。まるで予想していなかったのか、チンピラ連中は揃って目を丸くした。

「あ、姉御が戦ってくれるんじゃ……?」

「そうですよ。大体、俺達は怪我して……」

「かすり傷だろうが! 派手に包帯なんか巻きやがって、仮病がバレバレなんだよっ!」

弥生の怒声に、男達が縮み上がる。子供のラリーから見ても、情けない連中だった。

男達は肩を寄せ合い、

「……おい、誰が行くんだ?」

「俺は嫌だぜ。あの赤帽子、妙に落ち着いてるし。場馴れしてるだろ、絶対」

「俺だって嫌だよ……! だけど、このままじゃ全員揃って姉御に埋められちまう……」

「だから、チクるのは止めようって言ったんだ! 俺は嫌だからな!」

などと見苦しい口論を始めた。これでは彼らに任せた弥生の立場が無い。

「いつまでやってんだ! 早く決めねーと、全員ゴミ山に埋めるぞ!」

「ひぃいい!」

やはりブチギレた。男達は悲鳴を上げて、外見上では一番元気そうな絆創膏を貼った男を差し出す。

「こいつです! こいつがやります!」

「えぇっ!?」

「……よし。さっさとディスクを付けな」

「うぅ……。覚えてろよ、お前ら!」

「さあ、こっちは準備出来たよ!」

弥生が吼え、手下と共にゴミ山から下りてきた。それを受け、コナミは金色のデュエルディスクに設置されているボタンを押す。

デッキカバーが前にせり出し、山札を高速でシャッフル。デュエルディスクに搭載されているシャッフル機能だ。高性能な物になるとデッキをスキャンし、リミット・レギュレーションに違反していないか調べてくれたりする。

「……こちらも準備が出来た。始めようか」

「ほら、テメェも前にでな!」

「う……」

弥生に小突かれ、対戦相手のチンピラが前にでる。コナミの落ち着きように気圧されたのか、その顔色は良くない。

だが、

「でもコナミ、デュエルは初めてでしょ!? デッキだってさっき、やっと40枚集まったばかりじゃんか、勝てっこないよ!」

ラリーの発した言葉で、途端に空気が変わった。

「初めて……?」

「集まったばかり……?」

耳聡く聞きつけ、全員が全員、顔を緩めた。

「ギャハハハハハ! なんだ初めてかよ、驚かせやがって!」

「拾ったカードを集めただけなんてのは、デッキとは呼ばないんだよ!」

「紙束……そう、紙束だ!」

チンピラ共は一斉にに笑い転げる。緊張から一転して、気が緩んだのだろう。なにせ、負ける可能性がほぼ消えたのだから。

「……ラリー、今の情報はいらなかった」

「ご、ごめん……」

迂闊過ぎたと、ラリーは自身の発言を呪った。

「は、腹が痛ぇ……。早く始めようぜ。デュエルだよ、構えな」

「…………」

チンピラがデュエルディスクを起動させる。コナミも同様に構えた。

濁った風が吹く。日は落ち始め、空は紅くなってきていた。

「さあ行くぜ、決闘(デュエル)!」

「……デュエル」

こうして、コナミの初戦が幕を開けた。


今日はこの辺で。読んで頂いた方、ありがとうございました。

しかし、二日経ってデュエルがまだ書けないとは……申し訳ありません。

「行かなきゃ……!」

「どこに」

「分からない。でも、ずっと呼んでるの、私を。だから……」

「一度落ち着いた方が良い。この場所で感情的になるのは危険だ」

コナミに諭されるが、逸る気持ちは抑えられない。何年間も逃げ続けてきた問題が、すぐ近くまで迫ってきている。

「私、約束したの。この世界を守るって。でも、どうしても怖くなって……」

「……龍可」

「ずっと逃げてきた。ずっと見ないできたから!」

どんどんと語気が強くなる。龍可は意味も分からないまま、使命感と恐怖感に襲われて、今にもコナミとクリボンを置いて走り出しそうなくらい、パニックに陥っていた。

「何をそんなに怖がっているんだ」

そんな龍可の手を握り、コナミは膝をついて、下から目線を合わせて問い掛けてきた。

「え……」

怖がっている?

「この世界を守るという事か」

違うと思う。確かに、この世界から帰還した直後は怖かったが、今は違った。もっと大きな問題があるような気がした。

「龍可を呼ぶ声か、怖いのは」

「そ、それは……」

そうだ。龍可をずっと待っている存在がいる。この世界に。

「私が、忘れていたから……」

龍可は理解した。

声そのものが恐ろしいわけではなかった。とても愛おしくて、大切な存在だったのに、今はどうしても思い出せない。仮に会ったとしても、その名を口に出来るか分からないから、怖いのだ。

「……私、きっと思い出せない」

「それなら、問題ないだろう」

コナミはあっさりと言い切った。

「ど、どうして!?」

「忘れたなら、名前をもう一度聞けばいい」

「な……」

「名前を忘れても、思い出を忘れても、そうやって泣けるくらいには大切な存在だったという事を覚えているんだ」

そう言われて初めて、頬を涙が伝っていることに気づいた。

「遊星の言葉を借りるなら、そういうを絆と言うんだろう。だから問題ない」

「絆……」

俺には分からないが、とコナミは言った。しかし、どうしてか大丈夫な気がしてきた。

「大丈夫かな、ホントに」

「行ってみれば分かる」

コナミは頭から眠っているクリボンを降ろし、ぶんぶんと振った。

「クリ!? クリクリー!?」
「起きろ。ここまで案内したんなら、最後までやれ」

「ク、クリ~」

クリボンはふらふらしながら前に行く。どうやら道案内の役割はまだ続いているらしい。

「あの口ぶりからして、黒い連中の狙いは、この世界に来る事と考えられる。そして龍可は以前に、後の守護者として喚ばれていた……つまり」

「ここにあの連中が来ているかもしれないってこと……!?」

コナミは頷いた。

「ク、クリボン! 早く案内して!」

「クリ!」

クリボンはまたも跳ねて行く。その後を追いながら、龍可は意識を集中させた。黒装束が狙っているのは、あの声の主だ。そんな確信がある。あの声を聞ければ、黒装束より先に到着する事が出来るだろう。

(お願い……。声を聞かせて)

強く念じる。声の主に届くように。

─こ─来て───

「……聞こえた!」

──早──あな──

「あの声か」

「うん! クリボンの向かってる方角から聞こえる!」

「なんて言ってる」

「はっきりとは分からない。でも、きっと助けを求めてる!」

「…………」

先ほどより遥かに速く走っても、体は疲れを感じない。今はすぐにでも、声の主の所へたどり着きたかった。

木々を掻き分け、湖の脇を通る。そうして分かれ道に着いた所で、クリボンが立ち止まった。何かを迷っている様子だ。

「クリボン、どうしたの?」

「クリ、クリクリー」

「え……」

今ならクリボンの言葉が手に取るように理解できた。しかし、その内容は龍可を戸惑わせるものだった。

「どうした」

「クリボンはあっちに行った方が良いって言うの」

クリボンが指すのは右の道だ。

「でも、そっちは遠回りになっちゃうから……」

「なぜ、右の道に行きたがるんだ」

「そっちの方が安全だって言ってる」

しかし、今は一刻を争う事態だ。こうしている間にも、黒装束が声の主の所に来ているかもしれない。

「……龍可が決めた方が良いだろう」

「私は──」

①左の道へ行く(近道)
②右の道へ行く(回り道)

>>280

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙乙
1で

「こんな状況だし、回り道はしない方が良いと思う」

「分かった」

決めたが早い。名残惜しそうな様子のクリボンには気づかず、龍可は左の道を進んだ。しばらく走ると、開けた場所に出る。

「ここは……」

その場所は、今までの自然豊かな風景とは大きく異なっていた。木々は枯れ、水は渇き、空気は淀んでいる。芝生が生い茂っていた地面は禿げ上がり、痛々しいほどに固い荒野。

ここだけ違う世界のようだった。

「ひどい……」

この場所が何かに汚染されている事は明らかだ。原因など分かっている。あの黒装束達だろう。龍可の中に、静かな怒りが湧いてくる。

「声は聞こえるか」

「……あ、うん。こっち」

コナミを伴い、龍可は荒野の中心を目指した。乾いた風が頬を撫でる。青かった空は色を失い、一面を雲が覆っていた。

樹木の死骸を乗り越えると、前方にクレーターを発見した。声の主はあそこにいると、龍可には直感で分かった。

「コナミ、あそこ」

「……ああ」

コナミは警戒した様子で周囲を見回している。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。先を急ごう」

「……?」

変なの。そう思いながら、急く足を進める。

──龍可。

そこで、またあの声が聞こえてきた。

──ここへ来てはなりません。

「え……」

──まだ早いのです。今のあなた達では、彼らにはかないません。

「何か聞こえたか」

「……ここへは来るなって。私達じゃ、"彼ら"には勝てないって」

「どういう事だ」

「分からないよ……」

ここまで来て、来るなとはどういう事なのだろう。

「だが、ここまで来たんだ。今さら引き返せない」

コナミは行ってしまった。

「で、でもコナミ……」

龍可は慌ててついていく。彼の言う通り、今になって退く事は出来ない。二人には帰らなくてはならない場所があるし、知らなくてはならない事がある。

そうして、クレーターの中心部が見えてきた。

「この竜は……」

二人を待っていたのは一体のドラゴンだった。蛇のように細長い巨体。至る所に鎖を繋がれ、動きを封じられている。そればかりか、竜の体は完全に石化していた。

化石と化した竜を見た龍可は、強い憐憫の情に襲われた。声の主は、この竜だという確信。どうしていいか分からず、隣のコナミを見る。

「……コナミ」

「まだ息はあるな」

「え……?」

「俺には分かる。龍可、呼び掛けてみてくれるか」

『その必要はありません』

頭の上から声が降ってくる。龍可は竜を見上げるが、その体に変化は無い。依然として石化したままだ。

「あなたが……私を呼んでいた声?」

『……来てしまったのですね、龍可』

質問には答えず、竜は続ける。

『早くお逃げなさい。侵略者は、すぐそこまで迫っています』

「そんな……」

ここまで来て逃げろなどと。言葉を詰まらせる龍可に代わり、コナミが口を開く。

「……呼んだのはそちらだろう。意味も分からないまま帰れるか」

『……あの時、あなた達を救うには、ああするしかなかった』

「そして扉を開いた時に、あの連中も一緒に侵入したんだな」

『…………』

コナミの問いに竜は沈黙した。

「ど、どういう事?」

「あいつ等は俺達を捕らえられなかった。どうしてか分かるか」

「コナミが頑張ったからじゃないの?」

「違う。連中の目的はこの世界だったんだろう。つまり、侵入出来れば手段は関係ない」

黒装束達の目的は精霊達の世界に来ること。龍可を襲ったのはきっかけに過ぎないという事だ。捕まえてしまっても良いし、この世界に逃がしても良い。

あの時、あの場所に龍可達が足を踏み入れた時点で、黒装束達の狙いは殆ど叶っていたのだ。ミスティの言いつけを聞いていれば、もう少し違った結果になったかもしれない。

「あの連中の狙いは、龍可とあんたか」

『……そうです』

竜は言った。

『彼らはこの世界に直接的な干渉がしたかったのでしょう。だから、龍可を狙った』

その時、竜の視線がこちらへ向いているような気がした。

『そしてコナミ、それはあなたも同様。龍可と一緒にいる所を狙われたのは、そのためです』

「なに……?」

『あなたは色を持たない者。白にも黒にも染まる存在……』

「だからどうしたんだ。それだけでは狙われる理由にはならない」

『……同じ場所、違う時の中で、あなたは様々な結末を迎える事になります。それを利用し、彼らは此度の戦いを、より有利な物にしようとしている』

「もう少し分かるように説明してくれ。あんたや、あの連中は俺の正体を知っているのか」

いつになく焦った様子で、コナミが竜に詰め寄る。しかし相手の返答は彼の望む物ではなかった。

『……もう時間がありません』

「ようやく見つけたぞ」

龍可やコナミ、竜のものではない、第四の声。クレーターの外縁部に、誰かが立っていた。

先ほどの黒装束だ。だが、雰囲気がかなり違う。襲ってきた時に感じた、空気のような浮遊感は無い。個人として完成した、一種の"人間らしさ"を漂わせている。

「コナミ、あれ……!」

「……ああ」

龍可と竜を守るように、コナミが前へ出る。

「ふん……」

黒装束の男が右腕を前に突き出す。同時に大気が渦を巻き、固形化。コナミに向かって放たれた。

回避すれば後ろの一人と一体に当たる。またデュエルディスクを盾にして、攻撃を凌いだ。圧縮された空気が破裂し、乾いた地面を震わせる。

「ククク……。やはり効かぬか。あの方の言った通りだ」

面白いとばかりに黒装束は肩を揺らした。やはり、人間的な感性を持っているように見える。

『……"猿の痣"ですね』

「見抜かれたか」

男の右腕は闇色に光り輝いていた。先ほどの黒装束達が放っていた光とはまるで違う、圧倒的なまでの存在感。龍可の右腕もまた、呼応して熱くなった

「こうして痣が共鳴すると、ようやく戦いが始まるのだと実感する。五千年もの間、待ち望んだ神々の戦いがな」

男は興奮したかのように声を弾ませた。

「戦い……」

『今の龍可を倒しても、冥府の神は目覚めません。残念でしたね』

「そんなことは分かっている。そこの娘を欲したのは、あくまで精霊界への道を開くため。私がここにいる以上、もう用は無い」

『ならば去りなさい。ここは、あなたのような者がいて良い地ではありません』

「黙るが良い、無力な竜。今の我々が求めるのは……赤き戦士、貴様だ」

男はコナミを指差した。

「俺か」

「そうだ。我が主は貴様に興味を持っている。望むなら、我が陣営に末席に加えても良いという程にな」

「……話が見えないんだが」

「簡単な事だ。我々の側に付けば、貴様の望む物を与えよう」

「……望む物」

「至高のデュエルよ。血湧き肉踊るような、極上の物だと約束しよう」

「…………」

「光栄に思え。人の身でありながら、神々の戦いに加われるのだからな」

コナミは強い拒否感を示さない。何か考え込んでいるようだ。もしかして、と龍可が不安に思った頃、ようやく口を開いた。

「……悪いが、先約がある」

龍可をチラリと見ながら応えた。

「まあ良いだろう。デュエルの腕で、そこの娘にも劣るような今の貴様では戦力にならん」

「そうか。なら消えろ」

「そうはいかんさ。まだ、そこの竜に用がある」

そう言って、男は石化した竜に近づいていく。

「……どけ、娘」

気づけば、龍可は男の前に立ちふさがっていた。遥かに高い位置から睨まれるが、懸命に堪えて睨み返す。

「どかない。もう、逃げないって決めたから……!」

「……ふん」

男の右腕に再び大気が巻きついた。龍可を吹き飛ばすつもりなのだろう。恐怖をかみ殺し、必死で相手を睨みつけた。

「待て」

両者の間に割り込む声。コナミだ。

「なんの真似だ。今の貴様らでは、私には勝てん」

何かを感じたのか、男がさっと飛び退く。

「知るか」

いつになく苛ついた声で、コナミは言った。金色のデュエルディスクが起動する。

「お前は、消えろ」

「……デュエルか。いいだろう。その力、計らせてもらう」

男もまた、淀みの無い手つきで黒いデュエルディスクを取り出し、装着。起動させた。

「……デュエル」

「さあ、デュエルだ……!」


今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方。ありがとうございました。

「此処はクリボンの世界だし、言うことは聞いた方が良いと思う」

「……賢明だな」

龍可が頷くと、クリボンは喜んで右の道へ跳ねていく。二人もそれに続いて移動した。




森の中をどんどんと進んでいく。緑は深さを増し、空を覆ってしまった。途端に暗くなり、森は不気味な異世界となってしまった。

「どこに行く気なのかな……」

「……出口だ」

見ると、獣道の先に光が見えた。クリボンが飛び込んでいく。

「ここは……」

「…………」

まさかの光景に、龍可は顔をひきつらせた。クリボンは何体もの"同類"に囲まれて、恐らくは故郷に帰ってきたからだろう、ひどく喜んでいる。

「クリっ!」

「クリクリ!」

「クリー」

「クリ! クリクリ!」

そこは妖精の森だった。クリボンに似た動物が、広場を埋め尽くしている。

「……なんだこれは。クリボンの仲間か」

「あれは……《クリボー》よ。《ハネクリボー》もいる。どっちも《クリボン》と同じ種類のモンスターなの」

「……そいつらの住処か」

「多分……」

状況を飲み込めないまま二人が立ち尽くしていると、一匹の《クリボー》の瞳がこちらを捉えた。

あ、気づかれた。

「クリ?」

「クリー!」

「クリ~」

クリボー達がわらわらと押し寄せてくる。かなり人懐っこい。ふわふわの毛玉にもみくちゃにされ、龍可はさらに混乱した。

「コナミ……うわ」

クリボー達から抜け出して同行者の方を見ると、さらに酷い事になっていた。おびただしい量に群がられ、もはや一つの巨大なクリボーに見える。

(助けた方が良いのかな……)

襲われている風にしか見えなかったが、精霊達に悪意は無い。なにより、コナミはこの状況で身じろぎ一つしていなかった。

「クリーッ!」

混沌を極める中で、一つの鋭い声が響きわたった。その声に弾かれるように、群がっていたクリボー達が離れていく。

「なに……?」

精霊達のさっと二つの壁に分かれ、その中心から一匹のクリボーが近づいてきた。群れのリーダーなのだろうか。頭に小さな王冠を付けている。

「クリ。クリクリ!」

「……すまない。クリボー語はさっぱりだ」

若干、やつれたコナミが龍可を見てくる。通訳をしろという事だろう。幸い、このクリボーの言う事は理解できた。

「えーと、『よく来たな。待っていたぞ』って言ってる」

「待っていた……?」

「クリ! クリークリ」

「『今、この世界に侵略者の魔の手が迫っている』……さっきわたし達を襲ってきた人の事かな」

「恐らくな」

「クリクリ。クリ~」

クリボーの王は『赤き決闘者よ。戦ってはならぬ。戦えば、そなたは侵略者の手に落ちてしまうだろう』と言っている。

赤い決闘者というのは、コナミの事に違いない。

「だが、連中を野放しにしておくわけにはいかないんだろう」

「クリー!クリッ」

「……このクリボーはその罠を無効にする方法を知っているみたい」

「クリ!」

クリボーはえっへんと胸(?)を張った。

この精霊が言うには、クリボーの一族は代々、選ばれし決闘者を守ってきたそうだ。名も無きファラオと決闘王や、正しき闇の力を持つ勇者と共に、世界の危機を幾度も救ってきたらしい。

「そうか……。で、具体的にどうすれば良いんだ」

「んー。手袋を外して右手を前に出せって」

言われた通り、コナミは指抜きの手袋を外し、右手を前に出した。王さまクリボーはその指先にふわふわと近づいていき──

バチッ!

一人と一匹が触れた瞬間、激しい閃光が瞬いた。火花が散り、焦げ臭い匂いが立ち込める。

見れば、コナミの右腕、手の甲に何かの紋様が刻まれていた。紋様は火傷のように皮膚を赤く爛れさせている。非常に痛そうだ。血が滲んでおり、肉が焼けた匂いもする。

「クリー……」

今、王さまクリボーは『間違えちゃったー』と言った。龍可はクリボーを蹴飛ばそうかと思ったが、

「クリッ」

王さまクリボーが再び触れると、右腕の傷は綺麗に消えて紋様だけが残った。

「大丈夫、コナミ?」

「ああ。問題ない。……この刻印に意味はあるのか?」

「ク、クリクリ!」

その刻印は契約を表すもの。何故か声が震えていたが、これでコナミは戦っても平気とのことだった。

「なんの契約だ」

「クリー!」

王さまクリボーはポンッという音と共に、一枚のカードに姿を変えた。

《クリボー》

「持っていけ、という事か」

「た、多分……」

「こいつ、群れのリーダーみたいだが、付いて来ていいのか」

「クリッ!」

カードから王さまクリボーが現れる。どうやら先ほどの契約は自身の持ち主を決めるためのものだったようだ。

「カードはクリボー自身じゃなくて、扉みたいな物なんだって。だから、そのカードさえ持ってれば、いつでも此処とコナミの所を行き来できる……らしいけど」

王さまだけあって、クリボンより高度な精霊なのだろう。確かに、《クリボー》のカードからは何かしらの力を感じる。

クリボルト「まだ」

クリフォトン「我々の」

虹クリボー「動く時ではない」

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