真・雪歩「おはよう、みんな」(38)

小鳥「あら、雪歩ちゃんおはよう」

やよい「おはようございまーす!」ガルウィーン

真「おはよ、雪歩」

雪歩「………」

事務所に入ってきた雪歩は、全身を覆うようなコートに身を包んでいた!

P「なんだ? やけに厚着だな。いつもよりだいぶ大きく見えるぞ」

千早「どうしたの? 今日は寒いけど、そこまで…」

雪歩「………」スッ

彼女が千早の横を通り抜けたその瞬間!

千早「ウワァー!?」ドサッ

千早の足は力を失い、その場に崩れ落ちた!

律子「ち、千早!? どうしたのよ!?」

千早「ああ、あ…」ガクガク

貴音「何やら、怯えているようですが…」

雪歩「アイドル力の高い千早ちゃんは、私の力を感じ取ったみたいだね」

真「雪歩…?」

やよい「なんか、今日の雪歩さん、いつもと違うかも!」

律子「そうね…」

雪歩「そう…私はもう、昨日までのダメダメな私じゃないんだよ」グッ

雪歩は、自らの肩に手をかけ…

バサッ

振り払うようにコートを脱ぎ捨てた!

ボン!

キュッ!!

ボーン!!!

律子「な…」

その下にあったのは、あずささん、貴音、そして千早をも上回る、抜群のスタイル!

P「ぐぅっ!?」ガクッ

同性愛者を除く、この世のあらゆる男が悶絶するであろう完璧なボディであった!!

小鳥「プロデューサーさん、どうしたんですかうずくまって!? お腹痛いんですか?」

P「いや…なんでもないです放っといてくださいお願いします」

やよい「わぁ…雪歩さん、なんかすっごく大人っぽいかも!」

律子「ゆ、雪歩…?」

真「雪歩…その体は一体…!?」

雪歩「私は雪歩じゃない」

真「え?」

貴音「はて…?」

そう、彼女は雪歩ではない!

真・雪歩「私は…真・雪歩(しん・ゆきほ)だよ」

律子「真・雪歩…!?」

真・雪歩である!!

小鳥「真・雪歩…それは、一体…」

説明しよう! 真・雪歩とは己の潜在能力を完全に引き出した、いわば覚醒した雪歩である!

真・雪歩は全てにおいて、今までの雪歩を…いや、今までのアイドルという概念そのものを凌駕する!

千早「真・雪歩…!」

真「あ、千早」

千早「その身体も、そうだっていうの…?」

真・雪歩「ふふっ。そうだよ千早ちゃん」

今までの雪歩はひんそーでひんにゅーでちんちくりんであった!

千早「くっ」

真・雪歩は、こうして憧れの四条さんをも上回るセクシーダイナマイトボディを手に入れたのだ!

千早「くっ」

貴音「それでは、真・雪歩とはその姿のことなのでしょうか」

真・雪歩「ククッ…それだけなわけないでしょう、四条さん」

真(ククッとか笑いだした…)

そう、それだけではない! 完璧な体型など、真・雪歩の力からすれば氷山の一角! いわば、鯨の尻尾の先端部のようなものである!

律子「それだけじゃない? どういうこと?」

真・雪歩「すぐにわかりますよ…」

真・雪歩がそう言った直後! 事務所の入り口のドアが開いた!

伊織「ふぅ~…おはよう~…」

やよい「あ、伊織ちゃん! おはよう!」

律子「すぐにわかるって…まさか、これも…!?」クルッ

律子が真・雪歩に振り向く! 伊織が来ることを、あらかじめわかっていた…それでもおかしくない! 律子は、それほどの力を真・雪歩から感じ取っていた!

真・雪歩「………」

しかし、真・雪歩は無反応! いや、これは…言うまでもないということなのだ! そうに違いない! 凄いぞ真・雪歩!

伊織「うー、寒っ! 車の方がまだあったかかったわ…」スリスリ

伊織は外の寒さに芯から冷えてしまっているようで、手を擦り合わせている! こういう時は何か暖かい飲み物が欲しいものだ!

P「ちょっと待っててくれ、誰かお茶を…」

暖かい飲み物と言えばお茶、お茶と言えば雪歩である!

小鳥「あ、ごめんなさい。ちょっと今、お茶っ葉切らしてて…買いに行ってきますね」

真・雪歩「その必要はないですよ」

小鳥「え…?」

今までの雪歩はお茶を淹れるのが得意であった!

真・雪歩「はぁぁぁぁ…」

ブオン

小鳥「雪歩ちゃんの手からお茶っ葉が!?」

コポポポ

真「左手からは…お湯が!」

真・雪歩はお茶を創造する!

千早「これで、両手のお湯とお茶っ葉を合わせれば…」

やよい「お茶ができます!」

貴音「面妖な…」

伊織「な、なんかよくわかんないけど…アンタ、お茶を作れるのね…?」

真・雪歩「………」

伊織「ど、どうしたのよ。早く淹れなさいよ」

真・雪歩「ちょっと待ってて。お茶には淹れ方というのがあるから…誰か、急須とお茶碗持ってきてください」

伊織「…!!」

そう、このまま右手のお茶っ葉を左手のお湯に入れればお茶になる…しかし、緑茶を熱湯でそのまま煮出せば苦みが強く出る!

真・雪歩であるからこそ、彼女は基本を忘れないのだ!

真・雪歩「どうぞ」スッ

そして数分後、人数分のお茶が淹れ終わった!

ゴクッ

貴音「う、美味い! 美味すぎる…! その香り高きは仙山の霞の如し(意味不明)」

真・雪歩「ふふ…四条さんに言ってもらえると嬉しいですぅ」

伊織「ふぅ、暖まる…本当にいい香りだわ。口当たりもいいし…」

小鳥「そういえば、あのお湯ってどこから取り出したのかしら?」

真・雪歩「あれは、空気に漂ってる水分やミネラル分を抽出して作ったんです」

律子「お茶っ葉も空気中の成分から作ったの?」

真・雪歩「それは、プロデューサーの服の成分を分解して生成しました」

やよい「あっ、プロデューサーおしりが破けてます!」

P「い…いやーん!!」

真「と言うことは…こ、このお茶はプロデューサーの服から…!?」

伊織「オエー!!」

千早「ゴクリ…」

しかし、真・雪歩の力はまだ序の口! そう、いわば新幹線が連結する時にパカって開くアレのようなものである!

真・雪歩「ふっ、たっ」シュタ!

そう、彼女は真・雪歩! 彼女は…アイドルなのだ!

真美「真・ゆきぴょん…動きが全然違う!? 足にバネでも仕込んでんの!?」

その躍動感は、水面を跳ねる飛魚の如し!

亜美「目で追いきれないくらいの速さ…なのに目の方が離れない、なんでっ!?」

その滑らかさは、氷上を滑るスケート選手の如し!!

真・雪歩「はっ!」ヒュッ!

ズダン!!

その力強さは、休み時間に体育館を走り回る小学生の如し!!!

真・雪歩「ALRIGHT* 今日が笑えたら」

真・雪歩の歌声…それは、例えるならば天使の奏でる旋律!

真・雪歩「ALRIGHT* 明日はきっと 幸せ」

その透き通った声は地上遠くまで駆けていき!!

真・雪歩「大丈夫!! どこまでだって さあ出発 オーライ*」

その爆発的な声量は、天より高く響く!!!

春香「ずぅとにんぎょになぁていーたいの」

格が違う!

春香「わたしマーメイ」

格が違う!!

春香「いまだーいびーん」

格が違う!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

響「ふーん、真・雪歩か…」

真・雪歩「そう。私は前の私とは違うんだよ」フンス

真・雪歩が鼻を鳴らす! 自分に自信が持てなかった頃とは大違い、自信満々だ!

犬「バウッ!」

真・雪歩「………」ブルッ

おっと、歩いていたら犬に吠えられた! かつての雪歩ならば、飛び上がり遥か後方の電柱にでも逃げ隠れていただろう!

だが、真・雪歩は僅かに震えるだけだ! やはり真・雪歩、以前とはまるで違う!

響「じゃあさ、犬を撫でることもできるの?」

真・雪歩「ククク。私を誰だと思ってるの、響ちゃん」

響「雪歩だと思ってるから聞いてるんだけどなー」

真・雪歩「私に苦手なものなんてないよ。見てて」

そう、真・雪歩に弱点など存在しない! 犬も小型犬ならナデナデできる! はずだ!

真・雪歩「そーっ…」

犬「バウッ!!」

真・雪歩「ひゃあああっ!!」ササッ

慌てつつも真・雪歩は鳥が舞うような鮮やかなステップで、響の背中に隠れた!

響「やっぱり、駄目じゃないか!」

真・雪歩「だ、だって…」プルプル

いくら真・雪歩でも、いきなり吠えられるとちょっとびっくりする! 仕方ないだろ!

真・雪歩「ハグッ! ムシャムシャ! ハグッ!」

焼肉屋! 焼き上がった肉を次々と口に運んでいく真・雪歩!

真・雪歩となった雪歩は、以前より多くのエネルギーを必要とするのだ!

あずさ「あ、真・雪歩ちゃん。ちょっと」

真・雪歩「はい…? なんでしょうか」

あずさ「動かないでね」キュッ

ああっと! なんと、あずささんが真・雪歩の口を拭った!

真・雪歩「あ…」

真・雪歩、口の周りに汚れていることに気づかなかった!?

しかし、多くのエネルギーを必要とするため多く食べるのは仕方ない! 口元が汚れるのもまた、仕方のないことなのだ!

あずさ「ふふ、雪歩ちゃん。美味しそうに食べるのは可愛いけれど…」

真・雪歩「はい…?」

あずさ「そんなに口を汚しちゃったら、せっかくの美人さんが台無しよ?」

なんてことだ! あろうことか、あずささんは真・雪歩に指摘までしてしまった!

そんなこと、真・雪歩だって言われなくてもわかりきっているのに!

プライドを傷つけられた真・雪歩! さぁ、どう出る!?

真・雪歩「…………」

真・雪歩「……」

真・雪歩「そうですね。拭いてくれて、ありがとうございます」

礼を忘れず、他人の意見もきちんと受け入れる! ただ者じゃないぞ、真・雪歩!!

カメラマン「はい、笑ってー」

真・雪歩「あ、あは…」ニコッ

真・雪歩は次々と仕事を取っていく! そして、完璧以上にこなしていく!

真美「流石は真・ゆきぴょん」

亜美「やはり天才か…」

もはや日本で真・雪歩の名を知らぬ者はいない!

真・雪歩「でも、私まだEランクなんだよね」

真美「へ?」

真・雪歩「Eランク」

亜美「え…なんで?」

A.I.R.A.とかいう機関がアイドルのランクを管理する現在、アイドルがランクを上げるためにはランクアップフェスで勝利する必要がある!

そして、真・雪歩に覚醒したとはいえ勝手にランクは上がらないし、ランクアップフェスには挑まなければならない! それがルールだ!

P「よし、行くぞ真・雪歩!」

真・雪歩「はい、プロデューサー」

そんなわけで真・雪歩のランクアップのためフェスにやってきた! プロデューサーは今まで何をしていたのか!?

春香「よし、私も頑張ろっ」グッ

美希「あふぅ…」

ちなみに、ランクアップフェスは同じ事務所の3人までのユニットで挑める!

ランクアップできるのは1回のフェスでセンターとなる1人だけである! また、その1人がEランクならDランクと、現在のランクより1段階まで上のフェスにしか挑めない!

しかし、付き添いの2人はランクによる制約はない! 実力者と組めばユニットのレベルも上がるので、本人以上の実力を出せるのだ!

なので、多くのアイドルを保有する事務所では低ランクの「期待の新人」に有名アイドルである先輩が付き添ってランクアップフェスを制覇するというケースが多発している!

一体どうしてこんなルールなのかは知らないが、そうなっている! 文句ならゲームのシステムに言え!

ちなみに春香も美希も真・雪歩と同じEランクなので今の話は特に関係はない。

春香「今日の相手はどんな人ですかね?」

真・雪歩「誰でもいいよ。勝ってみせるから」

不敵! 内心では『怖い人と当たらなきゃいいなぁ…』なんて思っていたりするのだろうか! いいや、きっとそんなこと思っていないはずだ!

美希「Eランクでしょ? 誰が来ても、ミキや真・雪歩の敵じゃないってカンジ」

P「えーと…今日の相手は…」

?「キミ達が今日の対戦相手?」

P「あ、どうも。こちら765…」

玲音「765プロだよね。今日はよろしく頼むよ」

P「…………はい?」

彼女の名は玲音! 現在のアイドル界のトップ、ランクを超越した存在、オーバーランクである!

その肩書きに違わず実力は確かで、アイドルの世界にその名を轟かせている!

Eランクアイドルからしたら雲の上…いや、宇宙の果てのような存在である!

まぁ、真・雪歩ほどではない。

春香「ちょっ、ちょちょちょちょなんなんなん」

P「なんでDランクのフェスにオーバーランクが出てくるんだよ! おかしいだろ!」

A.I.R.A.でもランクを超越したオーバーランクと認識されている玲音が単独でDランクに出てくるなど、普通はありえない! と言うか不可能である!

真・雪歩は書類上はEランクなので仕方ない!!

黒井「フ…圧倒的に何もおかしくはない」

美希「あ、黒井社長。お久しぶりなの」

P「最近大人しいと思ってたら…これはあんたの仕業か! オーバーランクを使ってまで…」

黒井「何か圧倒的な勘違いをしていないかね、キミィ?」

P「なに?」

黒井「彼女は961プロの圧倒的な新人アイドル、玲音の母の妹の夫の姉の娘、理音ちゃんだ!」

美希「は?」

玲音「ごめんね、そういう設定なんだ」

黒井「こら玲音ちゃん、設定とか言うんじゃない!」

真・雪歩「今玲音ちゃんって言いましたよね」

流石は真・雪歩! 口が滑らせたのを見逃さない!

黒井「んん? 私は理音ちゃんと言ったのだよ? 聞き間違いではないかね? 圧倒的に」

真・雪歩に聞き間違いなどありえない! しかし、黒井はあくまでも真・雪歩の聞き間違いであると主張!

卑劣なり、黒井! 外道畜生なり、黒井! 悪鬼羅刹の化身なり、黒井!

美希「オジサン、正気なの?」

黒井「ああ、圧倒的に正気だとも! そして、これが何を意味するか君達にもわかるだろう?」

黒井「これで貴様等765プロはランクアップフェスを永遠に突破できないということだ! ハハハハハ!」

黒井「フハハハハ、ハーッハッハッハ、げほっ、げほっ」

P「ぐっ…!」

春香「だだだだだだだだだだだっだだだっだだ」

美希「落ち着いて春香、なんにも言えてないの」

春香は声が上擦って「大丈夫」の一言も言えないでいた!

黒井「なんだ、765プロのアイドルはこれしきで駄目になってしまうのか」

P(無理もない、Eランクでオーバーランクと対峙したんだ。失禁しないだけ春香は自分を保ってる方だ…)

真・雪歩「これじゃ、春香ちゃんは無理みたいですね…」

美希「くっ…」ブルブル

真・雪歩「美希ちゃんも」

普段は能天気な美希すらも、玲音のオーラに当てられ震えている! これでは満足なパフォーマンスは発揮できない!

黒井「三人まで参加できるフェスでは圧倒的に不利だが…一人でいいのかね、キミィ?」

真・雪歩「いいですよ」

黒井「なに…?」

真・雪歩「一人でいいって、言ったんです」

真・雪歩に脅しなど通用しない! 真の力を解放した雪歩に、怖いものなど存在しないのだ! 犬のことは忘れろ!

アナウンス『さぁ、間もなくフェスを開始いたします!』

玲音(この子の佇まい…)

真・雪歩「………」ゴゴゴ

玲音(彼女から放たれる、この威圧感は…!?)

互いに向かい合ったステージに立ち、それぞれのライブが始まる! ライブバトル…フェスの開始である!

真・雪歩『もう 泣き虫と弱気と 片思い お別れしちゃって』

今までの雪歩はオーラがないわけではなかったが、控えめな態度であまり主張していなかった!

玲音(なんだ…!? 曲が始まった瞬間、こっちのステージにまで、暴風のように…)

しかし、真・雪歩は抜群の存在感を持つ! 黙っていても誰も放っとかない!

真・雪歩『きっと 今から 変われる あなたの元へと』

そして、真・雪歩のオーラは…

真・雪歩『駆けてゆくよ』

オーバーランクをも凌駕する!

玲音(飲まれている…アタシが…!?)

アナウンス『ただいまのフェス、勝者は765プロ、真・萩原雪歩!!』

真・雪歩、オーバーランクを下す! まさに…

黒井「圧倒的ィィ…」

玲音「負けた…アタシが…はは」

真・雪歩「ふぅ…お疲れさまです、いいライブでした」

これが真・雪歩! 相手への礼儀を忘れない!

玲音「ああ、お疲れ様…すごいな、キミは」

真・雪歩「はい、ありがとうございます」

玲音「これからの時代を背負うキミよ、名前を教えてほしい」

真・雪歩「真・萩原雪歩」

玲音「真・萩原…今回はアタシの負けみたいだ。でも、戻ってくるよ…必ず」

真・雪歩「はい、待ってます」

黒井「負けた…この黒井が…高木の事務所に…圧倒的に…」

タタタッ

真・雪歩は、ステージの横のプロデューサー達の元へと駆けていく!

真・雪歩「プロデューサー、やりました」

それ以上の言葉はない! 彼女は真・雪歩! 例え相手がオーバーランクだろうと、勝って当然だ!

P「………」

真・雪歩「プロデューサー…?」

しかしプロデューサーからもまた、言葉がない…! どうした…!?

美希「プロデューサーはね、真・雪歩…」

真・雪歩「美希ちゃん?」

美希「ステージの真横から真・雪歩のことを見守ってたの。それで、そこで真・雪歩のキラキラのオーラに当てられて…」

美希「死んだ…!!」

プロデューサー、死す…!!

そして…

響「ええっ、プロデューサーが妊娠!?」

律子「ちがうちがう。入院」

響「入院って、原因は何なの? 妊娠?」

律子「妊娠から離れなさい」

貴音「一説によればご臨終なさったと耳にしましたが」

律子「誰がそんなこと言ったのよ、大げさな…ただ、気を失ってただけよ。春香は死んだけど」

真美「なんだ、兄ちゃん無事なんだ。よかったよかった」

小鳥「ただ、未だ目は覚めないようですけど…」

真美「…え?」

それからというもの、765プロ…いや、真・雪歩の勢いは凄かった!

瞬く間にSランクアイドルとして君臨したかと思えば、仕事の合間、仲間のフェスにも一緒に参加する!

真・雪歩はスタミナも無尽蔵なのだ! 休みたいだの睡眠時間が欲しいだの言い出す甘えた人間とは訳が違う!

そして真・雪歩の力で、765プロのアイドル達は皆次々とSランクアイドルの仲間入りを果たしていった!

街に出れば、嫌でも真・雪歩の顔を見る! テレビをつければ、いつでも真・雪歩が映っている!

もはや日本国民全てが、真・雪歩のファンとなっていた!

しかし…

真・雪歩「それでね、ゼラチンで固めてみたんだけど…」

真「はは、それじゃババロアじゃないか」

真・雪歩「アイドル…辞めようと思う」

真「え…」

ある日のこと。

真がいつものように真・雪歩と話していると、あまりにも唐突にそう告げられた。

真「ア、アイドルを辞めるって…なんで?」

真・雪歩「………」

真「だって…雪歩は日本の宝じゃないか、いなくなったらみんな悲しむよ」

真・雪歩「………」

真・雪歩は何も言わない。真と目も合わせず、ただ思い詰めた顔をしているだけだ。

真「プロデューサーが入院したこと、気にしてるの?」

真・雪歩「ううん、それもあるけど…あとプロデューサーはついさっき息を引き取ったみたいだけど…」

真・雪歩「私、友達に勝手にオーディションに応募されて…でも、ダメダメな自分を変えたくて、それでちゃんと、アイドルやってみようって思ったの」

真「うん、そんなこと言ってたよね」

真・雪歩「でも、目的が…なくなっちゃったんだ。もう、ダメダメじゃなくなっちゃったから」

真「そ、そうかな…?」

真・雪歩「そうだよ」

そうなのだ! 真・雪歩はもはやダメダメな雪歩ではないのだ!

真「でも、アイドルやってるうちに、他に目標とか目的だってできたんじゃないの?」

真・雪歩「ないよ。オーディションに出れば絶対受かっちゃうし…」

真・雪歩「番組は視聴率100%達成しちゃったし…」

真・雪歩「CD1枚出しただけで1年間ずっとオリコン1位になるし…」

真・雪歩「って言うかもう私の曲だけでオリコン埋まっちゃったし」

真・雪歩「納税額が世界一位でギネスにも載っちゃったし…もうお父さんの生涯賃金も10倍くらい越えちゃったし」

真・雪歩「玲音さんも戻ってくるとか言っておきながらいつまで経っても戻って来ないし」

真「う、うーん…」

真・雪歩「昔、日高舞さんが引退したって理由がわかる気がする」

真・雪歩「私の相手をできる人が…もう、誰もいないんだよ」

真・雪歩は…その、尋常でない力故に、誰も手が届かない場所まで来てしまったのだ…

真・雪歩「だから…私、行くね」

真「ま、待ってよ真・雪歩!」

真・雪歩「待てないよ。ちょっと、疲れちゃった」

真「ボクはまだキミと一緒にアイドルをしていたい! じゃないと嫌だ!」

真・雪歩「春香ちゃんがまだ生きてたら、私もそう思ったかもね」クルッ

真・雪歩は真に背中を向け、歩き出す。

真「雪歩…!」

真・雪歩「雪歩じゃない」

数秒、足が止まる。

真・雪歩「私は、真・雪歩だよ…真ちゃん」

ザッザッザッ…

真・雪歩は一度も真を振り返ることなく…去っていった。

彼女の背中は、孤独だった。

真「………」

律子「真・雪歩、大丈夫? 顔色が悪いわよ」

真・雪歩「ステージに立てば、大丈夫ですから」

そして、真・雪歩は最後となるフェスに挑もうとしていた。

少なくとも、彼女はこれで最後だと、自分で決めていた。

真・雪歩(このフェスが終わったら…そこで言おう)

真・雪歩(引退したいと色んな人に相談したけど、みんな引き止めてくる…ここで言うしか、方法はないんだ)

律子「………」

律子も、今はSランクアイドル。スケジュールに追われる毎日を過ごしているが…

真・雪歩の引退の意思を聞いた高木社長に命じられ、今日は付き添いに来ていた。

律子(真・雪歩…)

しかし…律子に真・雪歩を引き止める気はなかった。同じアイドルとして、彼女の苦悩は想像できる。

想像できるだけだ。彼女の痛みを本当にわかってあげられる者は、どこにもいないのだ…

真・雪歩「………」ザッザッ

二人は、ステージへと向かう。

「ウヒャアアアアアアアアアアアアア!!」

「ヒギャアアアアアアアアアアアアア!!」

真・雪歩を目にしたファン達は、断末魔のような叫声を上げていた。はっきり言って異常だ。

律子「私もSランクアイドルとして経験を積んできたけれど…やっぱり、真・雪歩は桁が違うわね…」

気を抜けば、律子もプロデューサーと同じ末路を辿るであろうことは容易に想像できる。

律子「さて、と。真・雪歩、今日の相手は」

真・雪歩「別に…聞かなくていいです」

真・雪歩(誰が来ても…どうせ、同じだ)

と、真・雪歩がそう思った時!

?「やぁ、雪歩」

真・雪歩「え…?」

聞き覚えのある声が、彼女の耳に入ってきた!

真・雪歩が声のした方に目を向ける! そこにいたのは、漆黒の衣装を纏った美男子だった!

?「今日は…よろしく」パチッ

真・雪歩「うっ!?」ドキッ

律子「ぐっ!?」キュンッ

いや…美男子ではない! この、真・雪歩でさえ目を合わせただけで卒倒しそうになるウインクは…

真・雪歩「真ちゃん…!?」

?「違う。ボクは真ちゃんじゃない」

真・真「真・真(しん・まこと)だ!」ババーン

真・雪歩「真・真…!?」

説明しよう! 真・真とは己の潜在能力を完全に引き出した、いわば覚醒した真である!

律子「ややこしいわね…」

真・真は全てにおいて、今までの真を…いや、今までのアイドルという概念そのものを凌駕する!

真・雪歩「真・真ちゃん…?」

真・真「そう。ボクは…今までのボクじゃない」

「きゃあああああああああああ!! あああああああ!!」

「ひゃあああああああん!! 真クーン!!」

今までの真はウインク、ハスキーボイス、ダンス、決めポーズなど様々な中性的アピールで女性をメロメロにさせていた!

「うっ…! 真クンを見ていたら、つわりが…」

「お腹が膨らんで…まさか、真様の子…!?」

真・真は並の女性なら、その姿を見ただけで想像妊娠する!

律子「こ、これが…真・真の力…!? 私も妊娠してしまいそうだわ…」

真・真(なんかやだなぁ…)

真・雪歩「な、なんで…? なんで真ちゃんが真・真に…」

真・真「真・雪歩。キミの相手をできる人は、誰もいないって言ったよね」

真・雪歩「え…」

真・真「だったら、ボクが雪歩のライバルになる。ボクが雪歩を退屈させない。だってボクは雪歩の…」

真・真「仲間だもんげ!」

真・雪歩「………真、ちゃん」

真・真「さぁ雪歩、今日はキミに敗北の味を教えてあげるよ!」

真・雪歩と真・真! 覚醒した二人がぶつかった最初のフェスは、後に伝説となる…!

真・雪歩「私だって、負けないよ真ちゃん…!」

二人の戦いはこれからも続く!

律子「やめて」

続く!!

一方、真・雪歩のオーラで死んでしまっだ春香は…

春香『そこに跪いて!!』

地獄でトップアイドルになっていた!

P(頑張ったな、春香…こんな暗闇の底でも、お前は誰よりも輝いてるぞ)

鬼「はーるーか! はーるーかー!」

閻魔様「黙れ、耳元で自分勝手な声を出すな! 舌を抜くぞ!」

鬼「ヒィッすみません、ライブ初めてで…」

閻魔様「む、初心者か…ならばサイリウムくらい持て、私のを貸そう」スッ

鬼「あ、ありがとうございます」

閻魔様「コールを覚えるのは、今回は間に合わないか…とりあえず、サイリウム振りながら適当でいいから周りに合わせておけ」

鬼「すみません、わざわざ教えてもらって」

閻魔様「気にするな。怒鳴ってしまったが、皆で気持ちよく楽しむためにマナーは守らなければいかん。今日は楽しもうじゃないか」

鬼「は…はいっ!」

春香「死んじゃった時…あの時は、私も終わっちゃったんだな…って、諦めちゃいそうになっちゃいました」

春香「でも、私は諦めなかった…いえ、諦められなかった。どんなに苦しくたって、辛くたって、アイドルになりたかったから」

春香「目標に向かって努力し、悩み、考え、進み続けていれば…いつかは、輝ける舞台に辿り着けるんです!」

春香「そして、そんな輝ける舞台を目指すシンデレラ達の物語が、これから始まります!」

春香「TVアニメ『アイドルマスターシンデレラガールズ』は2015年1月9日より放送開始! みなさん、観てくださいねっ!」

終わり

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