咲「淡ちゃんのバカ!」淡「そっちこそ!」 (22)

淡咲。短いです。

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咲「もう淡ちゃんなんて知らない!」

淡「あっそ。好きにすれば?」

咲「言われなくてもそうするよ!」


喧嘩なんて日常茶飯事って思っても、

さすがにクリスマス直前ってのは・・・ちょっと複雑

やっぱり特別な日は一緒にいたいって思うけど、

それもちょっと無理っぽい

何も言えないままその日になって、

一人でいたくなくて思わず外へ出てきてしまったけど・・・

咲「・・・家にいておけば良かった」

周りを見渡せば幸せそうな恋人たちや家族連れ、

もしくは慌しく帰る父親らしき人の姿

対称的に、クリスマスイブに一人きりな自分

咲「ちょっとさびしい・・・」

そう思わずにはいられなかった――――



――――――――


淡「まったく、咲のバカ!」

つい先日喧嘩別れをしたまま何の連絡もなく、

気づけばクリスマスイブ当日になっていた

淡「何で・・・何も連絡してこないのよ・・・」

ぽつりと呟く淡の言葉を聞く者は誰もいない

淡「・・・はぁ」

ひとつため息を吐くと、クローゼットからコートを取り出して

袖を通しながら部屋を出て行く

淡「仕方ないから、今回は私の方から折れてあげるよ・・・咲」

タクシーに乗り込み、そっと目を閉じる

浮かんでくるのは拗ねたような顔をした咲の姿

口を尖らせながら、でもどこか嬉しそうなその姿

淡「まぁ、笑顔で迎えてくれるワケないしね」

早く会いたい

喧嘩別れをしてからメールもしてないし、声もきいていない

淡「・・・足りないんだよ。咲が」

出会う前と、出会ってから

付き合う前と、付き合いはじめてから

まるで世界は変わったように思えてならない

今までと何ら変わりない筈なのに・・・足りないと感じる

淡「素直になれないのは私も同じか・・・」

自嘲気味に笑いながら、再び会ったときの咲の反応を想像して

今度は優しげな笑みを浮かべるのだった



咲の家へ向かう途中、車窓から外を眺めていた淡はその姿を見つける

遠目からでも誰だか分かる

間違いようのない、たった一人の姿

淡「・・・咲?こんな所で何を・・・」

買い物をしているようにも見えず、ただじっとショーウインドウを眺めている

白い息を吐く咲を見て、淡は車を止めさせて咲のいる所へと急ぎ歩いた

歩いていた筈なのに、いつの間にか早足へと変わり・・・

いつの間にか淡は走り出していた

コートの前をとめる余裕もなく、マフラーもなく

冷たい風を感じながら淡は走った

そして息をきらせて咲の元まで辿りつく

後ろに立ち、どう声をかけるかと迷っていると

耳に届いた小さな声

咲「・・・さむ・・・」

その声に誘われるように淡はコートを広げ、

後ろから咲の身体を包み込んだ

咲「・・・淡ちゃん?」

自分の名前を呼ばれただけなのに、

その声は胸にしっかりと染み入る

たった数日・・・されど数日

久しぶりに触れた咲の体温

その冷え切った身体を早く温めてあげたいと、

ただひたすらコートごと咲をぎゅっと抱きしめた



――――――――


咲「サンタ、かぁ・・・」

街中の至る所にいるサンタや、ディスプレイの中にあるサンタを見てはため息をつく

ショーウインドウの中にもツリーやトナカイ、沢山のプレゼントが山のように置かれてあった

サンタなんて、本当はいないのに

咲「もし本当にいるなら、欲しいプレゼントがあるんだけどな」

いないんだから、無理だろうけど

そんな事を考えている自分に笑ってしまう

咲「・・・淡ちゃん」

もし願い事を叶えてくれるなら、恋人に会わせてほしい

声には出さず、そう願った

ショーウインドウに映る一人きりの自分の姿に再びため息を吐く

外の気温のせいでなく・・・寒かった

吐く息は白く、薄着でなおかつ手袋をしていない手は指先が冷たくなっていた

咲「・・・さむ・・・」

はぁ、と指に息を吹きかけたその瞬間

不意に暖かくなった背中

驚いて顔を上げる

ショーウインドウに映っていたのは恋人の姿

咲「・・・淡ちゃん?」

淡「他に誰に見えるの?」

咲「淡ちゃん・・・」

冷えた自分の身体をコートで包んでくれている

優しく抱きしめるその腕が嬉しい

すぐ傍に感じる温もりが・・・愛しい

咲(これって、もしかしてサンタさんのプレゼント?)

まさか――――ううん、そういうことにしておこう

淡「・・・何やってんの。こんな寒い日に薄着で」

咲「あ、うん・・・ちょっと散歩」

淡「散歩?」

咲「うん。誰かさんと喧嘩してたから、気晴らしに散歩」

淡「・・・悪かったね。咲」

咲「ううん。私もごめん」

淡「・・・咲」

咲「ん・・・」

自然と重なる唇

どうせ周りも恋人たちばかり

自分たちの世界に入っている周囲の人間が気づく筈もない

もし気づいたとしても、クリスマスだからと気にしないだろう

ショーウインドウを向いていた身体を反転させ、淡の首に腕を回す

深く深くお互いの唇を貪り合う

咲「・・・はぁ」

やがて離れた唇はすっかり熱くなっていた

淡「いこっか」

咲「どこへ?」

淡「私の家」

咲の腰へと手を回し、淡は歩きはじめる

淡「ところでどの位外にいたの?指だってこんなに冷えてるじゃん」

咲「えっと・・・2時間くらい?」

淡「バカ!さっさと電話してきなさいよ」

咲「喧嘩してたのに?」

淡「それでもだよ!咲が一人でうろついてる方が心配だからね」

咲「淡ちゃ・・・、ん・・・」

咲が何かを言おうとする前に、再びその唇を塞ぐ。

咲「・・・淡ちゃんのバカ」

淡「バカなのは私だけ?」

咲「ううん。私もバカだね」

そう言って笑う咲の冷たい手を取り、淡はその指に唇をよせた

咲「んぁ・・・」

淡「・・・そんな色っぽい声出さないでよ」

今すぐ襲いたくなるでしょ、と耳元で囁かれ咲は頬を染める

咲「・・・いいよ。淡ちゃんの家に着いたら、いくらでも」

ぼそりと呟いて淡に身を寄せる

淡「言ったね。覚悟しといてよ」

咲「そっちこそ」

言い合いながらも、やがて繋がれた互いの手は

家に着くまでしっかりと握られたままだった


――――――――

特別な夜は、最高の場所で

・・・なんて言っても結局はいつもと同じ淡の部屋で、淡のベッドで

でも変わらないなら、ずっと変わらないならそれでもいいかと思った

淡「・・・咲」

咲「なに?淡ちゃん」

真っ白なシーツが乱れたベッドの上で

お互いそっと囁いた

淡咲「「メリークリスマス」」

何度も繰り返した濃厚な口付けではなく、軽く触れるだけのキスを交わす

特別なその日

けれどそれは何か欲しいわけでも、して欲しいわけでもない

ただ、大切な人が傍にいてくれれば

それだけで十分――――そう思う咲だった


咲「・・・でもさすがに身体が辛いんだけど」

淡「咲は体力なさすぎ」

咲「悪かったね」

淡「まあ問題ないでしょ。どうせ学校も部活も休みだし」

咲「そうだけど・・・、明日はお姉ちゃんとお買い物にいく約束があるし・・・」

ぼそっと呟く咲を、淡は自分の胸へと引き寄せる

淡「明日のことなんて考えないでよ」

咲「・・・何?淡ちゃんのことだけ考えてろって?」

淡「そうだよ」

当然のように頷く淡に、らしいなぁと笑う

明日のことではなく、今だけを

もし出来れば、また次の年も。その次の年もずっと

隣でこの温もりを感じていられますように

声には出さず、そう願った咲は温かな恋人の腕の中で眠りにおちた



次の日、目を覚ました時に再び懲りもせず喧嘩をする二人

それもまた日常


カン!

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