菫「これは…捨て妹じゃないか」 (152)

咲ssです
菫さんメインです
ほのぼのです。たぶん
細けぇこたぁ気にすんなの精神でお願いします

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妹「……」

菫「可哀想に…無責任な姉に捨てられてしまったのか」

照「なにしてるの菫。はやく行こう」

菫「照、見ろ。捨て妹がいるんだ」

照「…ふぅん」

菫「可哀想だよな…」

照「私はあまり興味ない。それよりはやく行かないと間に合わない」

菫「…そうだな。ごめんな、もう行かないと。いい人に拾ってもらえよ」クシクシ

妹「……」


 白糸台

照「ロン。12900」

菫「…ああ」

誠子「どうしたんですか弘世先輩?なんだか今日は心ここにあらずといった感じですが」

菫「いや、なんでもないんだ。すまない」

照「……」

淡「しっかりしてよ菫先輩ー。先輩が銀行さんになっちゃうと私がテルに勝てないじゃん」

尭深「お茶です、先輩」

菫「ありがとう尭深。ずずっ…ふう。私が本調子であろうとなかろうと、どうせ今の淡じゃ照にはまだ及ばんだろうが」

淡「なにー!?言ったねー…今日こそは淡ちゃんパワーでテルを…テル?」

照「…ん?どうしたの淡」

淡「いや…今テル、すごい顔してたから」

照「そう?」

菫「悪いな。すこし席を外す」

照「…それじゃ私も」

誠子「なら休憩ですね」

淡「お菓子たべよーっと。たかみー先輩お茶!」

尭深「はいはい」クスッ


 トイレ

菫「……」パシャパシャ

菫「……はぁ」

照「菫」

菫「……なんだ」

照「今朝の捨て妹のこと考えてる?」

菫「だったらどうだというんだ」

照「注意しておこうと思って」

菫「注意?」

照「中途半端な同情や憐みで妹を拾おうだなんて思わない方がいい。きっと後悔するよ」

菫「…そんなつもりは」

照「それならいいけど」

菫「……」

照「じゃあ私は部室に戻るから。菫はここでゆっくり考えてたらいい。みんなには菫のトイレは長引くと伝えておく」

菫「おいやめろ馬鹿」

照「なぜ?」

菫「なんでもだ。…すぐ戻るから心配はいらん」

照「私なりの気遣いだったのに…」スタスタ

菫「おい照。そっちは非常口しかないぞ。お前はどこに行く気だ」

照「……ちょっとしたミステイク」スタスタ

菫「まったく…」

菫「……」

菫(きっと後悔する…か)


 帰り道

菫「」キョロキョロ

照「なにしてるの菫」

菫「ん、いや…」

菫(たしかこの電柱の下だったよな…いないということはもうだれかに拾われたのか……)

菫「なんでもないんだ。行こう」

照「……」

照「それじゃ菫。私はこっちだから」

菫「ああ。また明日」

菫「……」

菫(なんだ…?この胸のもやもやは…どうしようもない焦燥にも似た気持ちは)

菫(妹なんて…どうせ淡みたいに生意気で不遜でしょうもないに決まってる)

菫(だから照もああ言ってたんだろう…)

菫(…なのに。どうして私はこうも苛ついているんだ?)

<ゥ…

菫「?」

<ゥゥ…ッ

菫「声がする…この公園からか……?」

菫「どうした?だれかいるのか?」

妹「…ぐ…ぅぅ……」ボロッ

菫「!!」

菫「お前は今朝の!?拾われたんじゃなかったのか!?」タタタッ

菫(なんだこれは…?打撲、裂傷、擦過傷…命を脅かすほどのものはないが、けして軽い傷ではないぞ……!)

妹「!!」

菫「大丈夫か?」

妹「ひっ」ガクッ

菫「……」

菫(私に…いや、他人に怯えている…?だれかに…やられたのか?)

妹「……」ポロポロ

菫(涙まで流して……)

菫「……もう、大丈夫だ」スッ

妹「っ」ビクッ

菫「もう大丈夫」ぎゅっ

妹「……」

菫「怖かったろう。痛かったろう。でももう大丈夫、私はお前を傷付けたりしない」

妹「……」

菫「こんなに傷だらけの泥まみれで…酷いことをするやつがいたもんだ。許しがたいな……」

妹「……」

菫「うちにくるか?手当と風呂くらいしかできそうにないが……、っと」

妹「……すぅ」クテッ

菫「……気を失ったか」

菫(無理もない…おそらく命の重さを知らぬ子供か、あるいは命を軽視する屑の輩か……どちらにせよ相当な時間嬲られ続けたのだろう)

菫(こんな…小さな身体を震わせ、一方的で残虐な悪意に耐えて……)

菫「……すまない……!」グッ

菫(近くに彼女が入っていたダンボールがあった。名前はサキというらしい)

菫(憶測に過ぎないが、捨てられてから数日経っていたのだろう。身に着けていたものは雨風に曝されてボロボロ、おそらく虐められた時に破れ、どこもかしこも血や泥で汚れ、見るも無残な状況だった)

菫(もうどれくらいまともな食事を摂っていなかったのか、身体は軽すぎて心配になるくらいだ)

菫「サキ…お前は今日から私の妹だ。私の家で暮らすんだ」

菫(後悔したってかまわない。私はこの子と共に生きる。そうしなければ、きっとあの正体不明の苛々がこの先も続く気がするから)

 第1話・捨てられた妹 カン


 第2話・サキ


 弘世家

菫「まずは手当だな。…といってもどうしたら……」おろおろ

菫「そうだ!」

菫「……」prrr

憩『はいーまいどご利用ありがとーございますー荒川病院ですー』

菫「うちにきてくれ」

憩『は?』

菫「怪我人がいるんだ!頼む!この通りだ!」

憩『いやいや、どの通りだかわからんよ電話口じゃあ』

憩『えっと、菫ちゃん?だよね?どないしたん?』

菫「怪我人だ。急を要する」

憩『だーかーらー…えっと、せや。どない怪我しとるんか教えてくれる?』

菫「ああ。素人の見分だから正確ではないかもしれんが…全身に打撲、裂傷、擦過傷の痕がある。命に別状はないとは思うんだが…大事を取ってお前に手当を頼みたい」

憩『さすがにこっから東京は無理やって…やから菫ちゃんがね』

菫「なに!?無理だと!?そこをなんとか!ライバルの親友の危機だと思って!」

憩『それほぼ他人やーん…ってかうちと宮永さんはライバルなんてそんな大したもんやあらへんし。普通にうちと菫ちゃんの仲でええんとちゃうのん?』

菫「ならば私とお前の仲でいい!はやくきてくれ!」

憩『無理やってなんべん言わすねん……』

菫「そんなぁ…」

憩『人の話は最後まできこか?うちが口頭で指示出すんで、菫ちゃんがその怪我人さんの手当したり』

憩『なんや聞く限りじゃそこまでむつかしいもんでもなさそうやし。ええ機会やから勉強やおもて、な?』

菫「う、うむ。そうだな。では指示を頼む。やさしく、かつわかりやすくな」

憩『えらいワガママさんやなぁ…ほんじゃまず、救急箱ある?』

菫「ない」

憩『は?』

菫「正確にいえば、たぶん家のなかのどこかにはある。ただどこにあるか知らない」

憩『~~~~~~……!さっさと探してきぃ!!!』

菫「はいっ!」バタバタ

憩『こっちかて忙しいいうんに…頭痛なってきたわ……』ハァ

憩『――んで、怪我をガーゼで覆って、テープで留めたら完了や』

菫「なるほど。わからん」

憩『もうそのボケええから。さっさとしぃ』

菫「怒るな、こんなの挨拶みたいなものだろう?」

憩『手前の都合で厄介かけてきてようそんな口叩けるね……』

菫「よし。不格好だがなんとかできた。憩、感謝する。お前のおかげでなんとかなった。ありがとう」

憩『……普段はボケボケさんのクセに、臆面とか恥じらいとかまったくなくそーゆーこと言えるんはずっこいなぁ』

菫「?」

憩『あーあー、首傾げてるんが目に見えるわ。ええよべつに、もう気にしとらんし。それより説明もらえる?その怪我人さんってなんなん?』

菫「ああ…実はかくかくしかじかでな」

憩『ふーん…捨て妹なぁ』

菫「その、なんだ。どうにも見過ごすことができなくてな。照には後々後悔すると言われたが…」

憩『ええんとちゃうの?菫ちゃんらしいで』

菫「…私らしい……」

憩『うん。普段はむっつりしてるクセに無駄に道義心っちゅーか、情に厚い。そんで本性はボケボケさんでおっちょこちょいのぽんこつな菫ちゃんらしいと思うよ』

菫「今の盛大な悪口に発展してなかったか?」

憩『気のせいやろ』

菫「…まぁいい。よくないけど」

憩『まーあれや。むつかしーこと考えんと、目の前のことに、菫ちゃんが思ったように取り組んだら?どーせ未来のことなんてだーれもわからんし。今やで今、大事なんは菫ちゃんが今どーしたいか』

菫「…そうだろうか」

憩『せやせや。うじうじしてるなんて菫ちゃんらしくないよ。もっとどーんとかまえとき!そしたら宮永さんもわかってくれるて!』

菫「…そうだな。うん、そうだ。私らしく私のしたいようにする!それで照に文句など言わせるものか」

憩『ふふっ、ようやくらしくなったやん』

菫「ああ。本当にありがとう。今日は世話になった」

憩『菫ちゃんの世話なんて今に始まったことやなし、なんか困ったらいつでも電話かけてきてえーよ!』

憩『あ!でも無理なもんはどないしよーと無理やし。あとアホみたいに忙しい時は勘弁してね』

菫「ああ、検討しておく」

憩『頼りにならん返事やなー…じゃ、そろそろ戻らんとまずいから切るよー』

菫「ああ。すまなかったな」

憩『いえいえー。ほんじゃー』プツッ

菫「…私のしたいこと」

サキ「……」すぅ…すぅ…

菫「…風呂はまだ無理だろうな。汚れだけでも拭いてやるか」

菫「…よくよく見たらかわいいじゃないか。どことなく照に似てるな」クシクシ

菫「妹…か。どうすればいいのか……」

菫「妹がいるやつに聞くのが一番かな」

菫「他人に頼ってばかりだな、私は…情けない」prrr

宥『もしもし~?』

菫「宥か。私だ」

宥『うん。どうしたの弘世さん?』

菫「キミはたしか妹がいたよな?」

宥『玄ちゃん?うん、とってもかわいいよ~』

菫「実は私も妹を拾ってな…どうすればいいのかわからないので、キミに聞こうと思って電話した」

宥『拾った…?よくわかんないけど…妹さんができたの?』

菫「そうなる」

宥『へぇ~。関係はどんな感じなの?』

菫「どうだろう…?まだ意識がかろうじてあった時は、私に怯えていたように見えたが」

宥『あ~…フクザツなんだね…。怯えられてるんだ……』

菫「どうしたら仲良くなれるだろうか?」

宥『う~ん…とりあえず、菫さんがこわい人じゃないんだよ~ってことを理解してもらって…あとは警戒を解いてくれるのを待つか、それか妹さんが興味ありそうなものを共有して距離を縮めるとかかなぁ……』

菫「難しいな…」

宥『あと、なにか悩みとか悲しむようなことがあったらぎゅってしてあっためてあげるのもいいかもね』

菫「ふむ」

宥『寒いのはみんな嫌だから…あったかい人ならきっと懐いてくれるんじゃないかな』

菫「ありがとう。大変参考になった」

宥『いえいえ~。妹ってすっごくあったかいからねぇ。がんばって!応援してるね!』

菫「うむ。またなにかあったら頼らせてもらうかもしれない」

宥『うん、私で力になれるなら。それじゃまたね~おやすみなさ~い』

菫「ああ。おやすみ」プツッ

菫「よし」

菫「こう…いや、こうかな?」ぎゅっ

サキ「……ぅ」

菫「冷えているな…きっと、何日も寒空の下で震えていたんだろうな……」

菫「もう大丈夫だ…私がそばにいるからな……」

サキ「……」すぅ

菫「……」

 ―――
 ――
 ―

菫「…む」

菫「眠ってしまっていたか……」しょぼしょぼ

菫「…サキ。そうだ、サキは……?」

菫「どこにいった!?」ガバッ

 がたっ

菫「!」

サキ(in机の下)「……」フルフル

菫「…そんなところにいたのか」ほっ

菫「大丈夫。この部屋は安全だ」

菫「ここにいれば、キミを傷付ける者はいないだろう」

サキ「……」フルフル

菫「私は学校に行かねばならん。大丈夫だとは思うが…一応、この部屋を出ないようにな」

サキ「……」じーっ

菫「ご飯は…」ウーン

菫「そうだ」バタバタ

サキ「……?」

菫「おなかが空いたらこの弁当を食べるといい。私は今日は購買で済ませる」

菫「こっちの水筒にはあったかいお茶が入ってるから喉が乾いたら飲むんだ」

菫「寂しいかもしれないが…できるだけ早く帰ってくるよう努めるからな」スッ

サキ「っ!」ビクッ

菫「…まだ起きてる時のボディタッチは難しいか」

菫「それじゃ行ってきます。いい子にしてるんだぞ、サキ」

サキ「……」

菫「……」フッ

菫「……」ガチャ バタン

サキ「……」

サキ「……」モゾモゾ

サキ「……」キョロキョロ

サキ「……」ヨイショ

サキ「……」ポフン

サキ「……」

サキ「……」zzz


 白糸台

照「おはよう菫」

菫「ああ。おはよう」

照「なんだか顔色が悪いけど…大丈夫?」

菫「ああ。なんてことはない。すこしヘンな体勢で寝たから節々がやや痛いがな」

照「そう」

菫(大丈夫だろうか…サキ。脱走してたりしないかな……)トントントン

照「……」


 弘世家

サキ「……ん」ブルッ

サキ「……」ムクッ

サキ「……」キョロキョロ

サキ「……」

サキ「……」スッ トテトテ

サキ「……!」ピョンピョン

サキ「……」アセ

サキ「……」オロオロ

サキ「……」ブルブル

 ちょろ…

サキ「!!!」

サキ「……」ウルウル

サキ「……」モゾモゾ

サキ(in机の下)「……」ブルブル


 白糸台

照「菫」

菫「なんだ?」

照「今日は部活は休みになった」

菫「何?しかし私はなにも…」

照「それもそのはず。なぜなら伝えるように言われてた私が菫に伝えるのを忘れていたから」

菫「…それは堂々と言うことか?」

照「忘れてたものは仕方ない。さて、私は駅前の喫茶店にプリンパフェを食べに行くけど、菫もどう?」

菫「いや。すまないが私は遠慮しておく。部活がないならすぐ帰ろうと思う」

照「そう。残念」

菫「悪いな。代わりに淡でも連れてったらどうだ?」

照「淡は遠慮というものを知らないからやだ」

菫「たしかにな。じゃ私は帰る」

照「ばいばい」

菫「また明日な」

照「…さて。いくか」


 部室

誠子「え?今日は弘世先輩休みなんですか?」

照「学校はきてた。けど大事な用があるらしくて部活は休むってさ」

淡「そっかー」

尭深「いいお茶が入ったのに、残念」

淡「じゃー今日は交代なしのノンストップだね!」

照「今日も徹底的に淡を狙う」

淡「後輩イジメだー!?」

誠子「強くなれ…大星」

淡「亦野先輩には言われたくないなー」ボソッ

誠子「あ”?」ギリッ

淡「…ッス。なんでもないッス」

尭深「それじゃ、お茶が入ったらはじめましょうか」

照「うん」


 弘世家

菫「ただいま」

 しーん

菫「……」

菫「さて、サキの様子は…」スタスタ

菫「サキー?おとなしくしてたかー?」ガチャ

菫「ってなんだこの水溜り…」

菫「…この色、この匂い…まさか」

菫「そうか…脱念していた。トイレのことを考えてなかったな」

 がたたっ

菫「…また机の下か」

サキ「……」ブルブル

菫「怒らないから出ておいで…サキ」

サキ「……」ブルブル

菫「……ふ、しょうがないやつだ」

菫「弁当は…食べてるな。む、野菜を残してる…これはだめだな」

菫「お茶は全部飲んだのか…だから我慢できなかったのか」

サキ「……」ソーッ

菫「お、出てくるのか?」

サキ「っ!」ビクン サッ

菫「まさかずっとそこにいたのか?身体が固まってしまうぞ?」

サキ「……」

菫「ほら、おいで」スッ

サキ「……」ビク

菫「……」スー

サキ「……」

菫(よし。触れた…)

菫「よしよし。怖くないからな」なでなで

サキ「……」

菫「ほら」グイッ

サキ「……」

菫「あいかわず軽いなあ。よしよし」

サキ「……」ビク ビク

菫「ちゃんと弁当を食べたのはいいけど、野菜も食べないとだめだぞ?」

サキ「……」

菫「まぁ苦手なものはゆっくり、な。よし、ほらベッドに座ってろ」サッ

サキ「……」ストン

菫「よし。怪我の具合は…一日じゃ変わらんか。でも悪くもなってなさそうだな」

菫「痛い場所はないか?」

サキ「……」フルフル

菫「そうか…よかった」

サキ「……!」キュゥ~

菫「なんだ?おなか空いたのか?もうすこしでご飯だから、もうちょっと待ってくれよ」

サキ「……っ」テレッ

菫「ふふっ」

菫(かわいいもんじゃないか…)

菫(すこしずつだが、壁もなくなってきている気はする…)

菫(このまま仲良くなれれれば……)

菫「よし。そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は菫だ」

サキ「……」

菫「菫。スミレだ」

サキ「……」

菫「さすがにまだ無理か……」

菫「自分の名前は言えるか?」

サキ「……」

菫「…やはり」

サキ「…………サ」

菫「!!」

サキ「キ……。サ、キ」

菫「そうか…。サキ。これから私といっしょに住むんだ。よろしくな?」

サキ「……」

菫「ふふふっ」

菫(一歩前進…一歩前進…!)

 第2話・サキ カン


 第3話・妹と


菫「ただいま」ガチャ

サキ「……」ピクッ

菫「いい子にしてたか?サキ」スタスタ

サキ「……」

菫「うん。ちゃんと野菜も食べてるな。…すこしだけ」

菫「トイレも教えた通りにできてるみたいだ。よしよし、偉いぞ」なでなで

サキ「……」ムフー

菫(サキを拾ってから、もう一週間も経つか)

菫(最初は触れることすらままならなかった私たちの関係も今や、こうして帰ってきたらスキンシップの時間を持つくらいになっている)

菫(日を増すごとにサキは私に対して心を開いてくれて、サキとの距離が縮まるごとに私もサキといる時間を愛おしく思うようになってきた)

菫(これが姉妹…良いものだ)

菫(サキの怪我も徐々に良くなっていき、跡にはなっても目立ちはしないくらいに回復してきている)

菫(はじめはどうなることかと思われたサキとの生活…着実に前に進んでいる)

菫「……」クシクシ

サキ「……♪」

菫「…そうだ」

サキ「……?」

菫「風呂に入るか」


 風呂

菫「ほら脱げ」

サキ「~~~」ヤダヤダ

菫「…そこまで嫌がられると、なんだかイケないことをしてるみたいな気分になるじゃないか」

サキ「……っ」ジタバタ

菫「コラ。いい加減…諦めろ!」グイッ

 すぽーん

サキ「……」チマッ

菫「ふう。やっと脱げたか。嫌ならはやく洗ってはやく出るのが一番手っ取り早いぞ。……」じーっ

サキ「……」ぺたーん

菫「そんなところまで照に似なくても…というか」視線落とし

菫「……」すとーん

菫「…似た者姉妹か。いいことだろ。なぁ?いいことだよな?」

サキ「……」ソソクサ

菫「こら逃げるな」ガシッ

サキ「……」

菫「今まで怪我で入れなかったんだ。さっぱりしたいだろ?」

サキ「……」フルフル

菫「なんでそこまで嫌がるんだ…ほら、座れ。頭から洗うぞ」キュッキュ

 ざーっ

サキ「ひあっ…!」ビビクン

菫「あ、悪いっ!水だった…」キュッキュッキュ

サキ「……」ブルブル

菫「すまんすまん…しかし今のかわいい声…」

サキ「……」ムスッ

菫「膨れるな。本当に悪かったと思ってるって」

サキ「……」

菫「どうだ?熱すぎたりしないか?」ザーッ

サキ「……っ」

菫「よさそうだな。じゃあ洗っていくぞ」カコカコ ペチャ

サキ「……」

菫「かゆいとこはないか?」クシクシクシ

サキ「……」プルプル

菫「あ、こらっ!泡が飛ぶ!」


淡「ん?」

サキ「……」

菫「こんなものか。流すぞ、目をつぶれ」

サキ「……」ギュー

菫「~♪」シャーッ

サキ「……」

菫「よし、いいぞ」

サキ「……」プルプル

菫「おっと。それじゃ次は身体だな」

サキ「……」

菫「怪我が治ったばかりだしな…手で洗うか」カコカコ シャワシャワ

サキ「……」

菫「肩からいくぞ」ササッ

サキ「……っ」ブルッ

菫「こそばゆい?我慢しろ」

サキ「……」

菫「ほら万歳して」

サキ「……」バンザイ

菫「ほれほれ」コチョコチョ

サキ「……っ!!」プンプン

菫「ちょっとした悪戯だろ…そんな怒るなよ」

菫「…ぽんぽにあった傷が一番酷かったと思うが…大分よくなったな」

サキ「……」

菫「なに、心配はいらない。もうあんなことはない。私がさせない」

サキ「……」

菫「…足のうらー」コチョコチョ

サキ「……っ!」ゲシッ

菫「あ、おいっ!姉を足蹴にするとは何事だ!」

サキ「……」プイッ

菫「せっかく暗い雰囲気を吹っ飛ばそうとだな…ほら、流すぞ」ジャバッ

 ざばーーーーっ
サキ「……アリガトウ」ボソッ

菫「ん?今なんか言ったか?」

サキ「……」ツーン

菫「…頑固なやつ」

菫「ほら、あとは湯船で温まってろ。私も自分を洗う」

サキ「……」カコカコ

菫「んー?なんだ、背中でも流してくれるのか?」

サキ「……」ペチャ ゴシゴシ

菫「……!」

サキ「……」ゴシゴシ

菫「…ああ。最高に気持ちいいよ」

サキ「……♪」ゴシゴシ

菫(こんな些細なことがこんなにうれしいだなんてな…)

菫「あとは大丈夫だ。自分で洗えるから湯船につかってろ」

サキ「……」ヨイショ ザブーン

菫「もうちょっと後のことを考えてゆっくり入れよ…」

サキ「……」ブルッ

菫「…おい、まさか」

サキ「……」フルフル

菫「出ろ、いますぐ出ろ。せめてこっちで」

サキ「……っ」ブルルッ…フー

菫「あーーーーーーっ!出ろってそっちじゃない!あ”ーもう!私が入れないじゃないか!てかお前も出ろ!」

サキ「……」

菫「何怒ってんだ?みたいな顔してるんじゃない!ばか!ばかぁ!」

サキ「……」ハァ

菫「溜め息吐きたいのはこっちだよ…」


 菫の部屋

菫「まったく…ちょっとゆるすぎだろ…」

サキ「……」

菫「ほら、頭乾かしてやる。こっちこい」

サキ「……」トテトテ ポフッ

菫「ちょっと髪長いなぁ…私のヘアゴム使って縛ってみるか?」カチッ

 ぶぉぉぉぉお

サキ「!?」ビクッ

菫「なんだ、ドライヤーがこわいのか?」

サキ「……」

菫「お、いい顔するじゃないか…ほれほれ」ブォォォォオ

サキ「……」プルプル

菫「…そんなに涙目で震えなくても大丈夫だ。髪を熱風で乾かすだけだよ」

サキ「……」

菫「慣れるしかないなこればっかりは。…ちゃんと梳かないと」スッスッ

サキ「……」ウットリ

菫「気持ちよさそうな顔して、まあ」フフッ

菫「乾いたらふたつに縛って…どうだ?」

サキ「……」

菫「似合ってるじゃないか。かわいいぞ」クシ

サキ「……♪」

菫「ふふっ」

サキ「……」ショボショボ

菫「眠いか。もう寝るか?」

サキ「……」コックリ コックリ

菫「ほら、ここで寝るな。ベッドいくぞ」

サキ「……」クテッ

菫「…しかたがないやつだ」ダキッ

菫「ほら」スッ

サキ「……」zzz

菫「…ずいぶん無防備な寝顔を見せるようになったもんだ」ツン

サキ「……」ペシッ

菫「……」ツン

サキ「……」ベシッ

菫「なにこの自動防衛機能」ツンツン

サキ「……」バシッ

菫「楽しい、けど…威力が上がってきてるな。そろそろやめとこう」

サキ「……ミレ」

菫「ん?」

サキ「……」クゥ…

菫「……」モゾモゾ

菫「……サキ」ぎゅっ

サキ「……」zzz

菫「……あったかいなぁ、妹は」

 第3話・妹と カン


 第4話・虎と仔犬


菫「それじゃサキ、行ってくる」

サキ「……」

菫「今日はすこし遅くなるかもしれないが、いつも通りいい子にして待ってるんだぞ?」

サキ「……」

菫「じゃあ……」

 ぎゅっ

菫「……?どうした?」

サキ「……」

菫「そう手を掴まれちゃ学校に行けないんだが……」

サキ「……」フルフル

菫「…寂しいのか?」

サキ「……」

菫「…やれやれ。本当にしかたがないやつだな」フフッ

菫「しかしどうしたものか…」

サキ「……」ギューッ

菫「……」チラッ


 白糸台

誠子「きゃーっなんですか先輩その子!?」

尭深「か…かわいい…」

サキ「……」ギューッ

菫「む…なんだ、そのだな……」アセ

菫「妹…というか」チラッ

照「……」ペラッ

誠子「妹!?妹いたんですか先輩!?」

菫「まぁ、最近できたというか、拾ったというか」

誠子「あっ…すみません…」

菫「いや、いい。いつもは私の部屋でおとなしく待ってるんだが、今日に限って手を離してくれなくてな。申し訳ないが部室にいさせてやってほしい」

誠子「大丈夫ですよたぶん」

尭深「お茶飲む?」

サキ「……」ズズッ

サキ「……っ」シブイカオ

尭深「ふふ…もうちょっと飲みやすいお茶用意しようか」

誠子「…ちょっといいですか先輩」

菫「ん?なんだ?」

誠子「ちょっとこちらへ」サササ

菫「おいおい…サキ、ちょっとここで待っててくれ」

サキ「……」

サキ「……」ジーッ

照「……」ペラッ

菫「なんなんだ一体」

誠子「いえ…宮永先輩となんかあったんですか?」

菫「…どうしてだ?」

誠子「気付いてなかったんですか?宮永先輩、弘世先輩とあの子が部屋に入ってきた時すごい怖い顔してましたよ…今もこっちを見ようともせずに読書を続けてますし」

菫「…そうかな」

誠子「だからなにかあったんじゃないかって」

菫「…大丈夫、だと思う。たぶん」

誠子「たぶんって…」

菫「私はお前たちよりも照との付き合いが長いからな。ほら、あれ見てみろ」

誠子「?」

照「……」ペラッ

サキ「……」トコトコトコ

照「……」ペラッ

サキ「……」ジーッ

照「……」

サキ「……」ジーッ

照「……」スッ

サキ「……」サッ

照「あっ…」ヨケラレタ…

サキ「……」

照「……」フイッ

サキ「……」モゾモゾ

照「…おい。スカートに潜り込むな」

サキ「……」ヨジヨジ

照「本が読みづらい……」

サキ「……」ジーッ

照「……」ハァ

サキ「……」

照「……」ペラッ

サキ「……」ペラッ

照「おい。勝手にページめくるな」


誠子「…なんですかあれ。めっちゃシュールなんですけど」

菫「照とちっさい照…ああやってるとマトリョーシカを連想させるな…」

誠子「なんだかさっきまでの私が馬鹿みたいじゃないですか…」

菫「まぁまぁ。戻って照をからかってやろう」

誠子「それはそれで、コークスクリューが飛んできそうで怖いですよ…」

淡「…寝過ごして遅れちゃったーてへぺろ☆」ガチャ

菫「歯を食いしばれ淡」

淡「いきなり体罰!?」

誠子「後ろ手に抑えましょうか」

菫「さすがに可哀想だ、羽交い絞めくらいにしてやれ」

淡「わっかんねー!先輩たちの可哀想の基準がわっかんねーっ!」

淡「…およ?なにアレなにアレ!?」

照「……」

サキ「……」ペラッ

菫「ちょっと目を離したら完璧に意思疎通してるぞ…」

誠子「本当なんなんですかねあれ…」

淡「テルが二人いるよ!?サイボウブンレツ!?悟空と悟天なの!?」

誠子「頭悪そうな発言は控えろよ大星…」

菫「小さいのは私の妹だ」

淡「え?菫先輩の?」

淡「……」

サキ「……」ぺたーん

淡「……」

菫「?」ちんまり

淡「ああ…そういう」

菫「おい。今どこ見て納得したんだ言ってみろ」

淡「べつにぃぃぃいたたた!?」

菫「大体お前よりはあるだろうが…お前にだけは言われたくないよ」

淡「ごめんな”ざいぃぃぃ!」

菫「弓道に胸は邪魔なんだよ。別にあんなもの」

尭深「これはどうかな?」ぽよん

サキ「……」ズズズ

尭深「ふふ、大丈夫みたい。宮永先輩もどうぞ」ぽよよん

照「ありがとう」

菫「……」

淡「……」

誠子「……」

尭深「先輩たちもどうぞ」

菫「…アリガトウ」グギッ

尭深「ひっ」ビクッ

誠子「先輩、笑顔が怖いです。気持ちはわかりますが抑えてください」

淡「ねーねー、名前はなんてゆーのー?」

サキ「……」ズズズ

照「……」ズズズ

菫「名前はサキだ」

淡「へー。サキー」ツンツン

サキ「……」フニフニ

淡「わーっ…!やわっこくてめっちゃかわいいーっ!」キラキラ

菫「ちょっと前まで私ですら触ろうとしたら仔犬のように震えて怯えていたものだがな」

誠子「虎姫の巣であれだけ堂々とできるなら大した仔犬ですね」ハハ

菫「ん?…いや、そうではないみたいだな」

サキ「……」フルフル

尭深「…震えてる?」

菫「大方、淡のやつがずかずかと近づいて触ったりするから恐怖で硬直して動かないだけなんだろう」

誠子「死んだふりみたいなもんですかね」

照「淡。鬱陶しい」

淡「えー大丈夫だってーほらサキーこっちおいでー?」

サキ「……」フルフル

照「……同じことを言わせないで」ギュルギュル

淡「…ッス。すんませ」

照「……はぁ」

サキ「……」ペラッ

照「ちょっと。まだ私が読んでない」ペラッ

淡「うえーん、サキにフラれちゃったよーぅ」

誠子「お前はちょっと距離感がなさすぎだ」

淡「だぁーってぇー…サキかわいいんだもん」

尭深「それはわかるけど…」

菫「……」

照「……」

サキ「……」ペラッ

淡「んー?あれー、もしかして菫先輩、妬いてるー?」クスクス

菫「…は?なにが?」

淡「や、照とサキが本当の姉妹みたいにソックリで通じ合ってるみたいなカンジだから嫉妬してるかなーって」

菫「私が?嫉妬?照にか?」ズイッ

淡「え?や、ちょっと…怖い怖い、ごめんなさいゆるして」

菫「ゆるしてじゃなくて、ただ聞いてるだけだろう?」ズズイッ

淡「わーんっ!たかみー先輩たっけてー!」サササッ

尭深「ちょっと落ち着いて…」

菫「…落ち着いてるさ」

菫(…私が照に嫉妬?サキを取られたように感じてか?)

菫(ありえない。そんなことありえない)

菫(…はずなのに)

照「……」

サキ「……」ペラッ

菫「……」ズキッ

菫(胸が痛い…どうして?サキを拾ったのは私で、サキの怪我を手当したのは私で、サキの心を再び開いたのは私なのに…)

菫(…だめだ。心が暗がりに引きずり込まれそうになる……)

誠子「それじゃーそろそろやりますか?」

淡「今日こそは勝つぞー!テルー!」

照「はいはい」スクッ

サキ「……」トテトテ

尭深「あら?麻雀に興味があるのかな?」

サキ「……」ジーッ

誠子「教えてみますか?」

淡「いいねー!」

照「…菫?」

菫「………ん?どうした?」

照「…なんでも。それより、打つよ」

菫「ああ。なんだサキ、麻雀したいのか?」

サキ「……」ニギニギ

菫「それは牌っていうんだ」スッ

サキ「……」

菫「それをこう揃えると塔子、こう揃えると順子」チャッ チャッ

淡「これが対子でー、これが暗刻でー」チャッ チャッ

サキ「……?」

誠子「ははっ、やっぱり難しいですかね」

菫「これが槓子だ」チャッ

サキ「……!」

サキ「カン!」

菫「…おお」

誠子「…しゃ」

淡「シャベッタァァァァァアアア!?」

照「淡うるさい」

尭深「かわいらしい声でしたね」

菫「滅多に声を出さないんだがな…私もはっきりと発声したのは初めて聞いたかもしれん」

サキ「カン!カン!」チャッ チャッ

尭深「槓になにか感じ入るものでもあったのかな」

淡「珍しいねー」

照「……」

誠子「ほら、これはポンっていうんだよー?」

サキ「……」

誠子「……」グスッ

尭深「…誠子ちゃんどんまいだよ」

菫(今日は連れてきてよかった…人に慣れることはサキにとってもいいことなはず)

菫(…私は)

サキ「……」トテトテ ポフン

菫「?」

誠子「あー、やっぱり弘世先輩が一番ってことなんですかねー」

尭深「すごくリラックスしてるね」クスッ

淡「私の膝の上、空いてるよサキ!」ポンポン

照「まかり間違っても淡の下にはいかないと思う」

淡「ひどい…」

菫「…ははっ」

サキ「……」ジーッ

菫「どうした?私の顔になにかついてるか?」

サキ「……」スッ ナデナデ

菫「……!」

菫「…ふっ、お前に撫でられるとは。……ありがとな」クシクシ

サキ「……」ムフー

淡「…むー。私もサキを愛でたいー!」

誠子「やれやれ…」

照「それじゃ始める」ポチッ カラカラカラ

尭深「私は見てますね。お茶のおかわりが欲しかったら言ってください」

菫「悪いないつも」

尭深「いえいえ」

淡「よーっし!サキにいいとこ見せるぞー!」

照「残念ながら淡はトんでハコって絶望する顔しか見せられない」

淡「実は照って私のこと嫌いなの…?」

照「ううん、大好きだよ」ニコッ

淡「うっ…え、営業スマイル禁止ー!」

誠子「淡それポン」

淡「うがっ」

菫「よそ見をするな。射抜くぞ」

淡「…名門校の麻雀部に所属してるんだが先輩が容赦なさすぎて私はもう限界かもしれない」

尭深「カベやろうか?淡ちゃん」

淡「イカサマじゃ勝っても意味ないじゃん!」プンプン

サキ「……」ジーッ

菫「…ふふっ」ナデナデ

 第4話・虎と仔犬 カン

手のひらサイズ?

>>89
麻雀を一番やってた頃の咲ちゃんを気持ち小さめにした感じと思っていただければ


 第5話・『姉』である資格


 弘世家

菫「ただいま」

 しーん

菫「……」

菫「さて、サキの様子は……ん?」

菫「……」

菫「…そうか。今夜は母様が」


 夜

菫「……」カチャ

菫母「……」カチャ

菫母「菫」

菫「はい」

菫母「学校の方はどうなの?」

菫「成績は良好です。麻雀の方も大会に向けて調整中で、十分団体戦連覇を狙えそうです」

菫母「そう。その調子で頑張りなさい。成績の方はいつものように後で表にまとめて提出するように」

菫「はい」

菫母「麻雀の大会が終わったら勉学に集中するのよ。プロになりたいのなら、まずは希望の大学に進むことね」

菫「…はい」

菫(希望…それは、父様と母様の希望だろう)

菫(私は…麻雀が好きだ。きっと照は卒業したらプロにいくだろう。それがすこし…羨ましくもあり、妬ましくもあり、そして寂しくもある)

菫(時折考えることがある。…この人生は一体誰の人生なのか?『弘世菫』のための人生なのか?『弘世菫の両親』のための人生なのか?)

菫(もちろん、誰も答えなどくれない。自分で見出すことさえ…できない)

菫母「それじゃ私はまた出かけるから」

菫「はい。お体に気を付けて」

菫母「ええ。貴方もね」

菫「……」

菫「…嘆いていても何も変わらないか」


 菫の部屋

菫「…ただいま」ガチャ

サキ「……!」トテトテ

菫「…よしよし、いい子にしてたか?」クシ

サキ「……」

菫「ああ。大丈夫だ、すこし…つかれただけで…」

サキ「……」

菫「さて、今日はどうする?牌を並べて遊ぶか、CPU相手に対局でもしてみるか?」

サキ「……」フルフル

菫「なにもしないのか?」

サキ「……」ポフン

菫「……」

菫「ふふっ、仕方がないな。今日はゆっくりするか」クシクシ

サキ「……♪」


 白糸台

淡「どーん!3000・6000」

誠子「くっ…まくられたか」

淡「テルがいないと歯応えがなくてつまんないなー」フフーン

誠子「調子に乗りおって…」

淡「勝ったのは事実ですしー」

誠子「尭深が収穫なしでやってたからこそだろうが…」

尭深「まぁまぁ」

菫「……」

照「……」ペラッ

誠子「……弘世先輩?」

菫「…ん?」

誠子「大丈夫ですか?なんだかぼーっとしてましたけど」

菫「ああ…そうだな。すこし休憩にしよう」

淡「わーい、お菓子お菓子!」

誠子「ほどほどにしろよ」

尭深「お茶淹れなおしますね」

菫「……」ガタッ スタスタ

照「……」パタン


 トイレ

菫「……」パシャパシャ

照「なにかつまらないことでも考えてる?」

菫「…照か」

照「最近呆けてることが多いけど」

菫「お前には関係ないことだ」

照「関係ある。あなたがそんな調子じゃ部全体に影響があるし…それに友人として――」

菫「っ」ガンッ!

照「!」

菫「関係ないことだ…っ!」ギリッ

照「菫…!そんなことしたら手が…」

菫「ああ、お前にとってはつまらないことで最近は頭が一杯だよ。お前にとっては取るに足らないことでもな、私にとってはどうしようもない悩みなんだ」

菫「誰もがお前のように飄々と、好きな麻雀を打っていられるわけじゃないんだ!私だって…っ!」

照「菫…」

菫「…今のは忘れろ」フイッ スタスタ

照「……」

菫(私は最低だ…心配してくれる友人に当たり散らして…情けない)

菫(今までこんなことなかった、のに…今までもこれからも、触れ合うことはあっても重なることはない、友人とはそういうものだと思っていたのに)

菫(今は照と…皆ともっと麻雀がしたい。皆ともっと一緒にいたい。なのに私の元から離れていこうとする照たちがどうしようもなく腹立たしい…)

菫(私は弱くなったのか…?どうして?……サキと出会って、独りではなくなったから、か?)

菫(いや…私は元からこうだったのか…。弱くて、卑怯で…今も責任の所在を自分以外に求めてる)

菫(惨めだ……)

誠子「先輩、戻ったんですか…って先輩!?大丈夫ですか!?」

淡「わ…ヒドイ顔」

尭深「こら」ポコッ

淡「あたっ」

菫「…すまん。気分が優れないので今日はもう上がることにする。尭深。すまないが部室の鍵をまかせていいか?」

尭深「はい、それは大丈夫ですけど…」

菫「時間になったら適当に解散してくれ。レギュラー以外も同じだ。それじゃまかせた」

誠子「……大丈夫かな先輩」

尭深「とても大丈夫そうには……」

淡「どーだろーねー。まーテルがいるからだいじょーぶだと思うけど」ポリポリ

誠子「そうだろうか…って大星!それ私のお菓子!」

淡「あわわっ」

尭深「もう…」

菫「……」

菫(だめだな…こんな顔を見せたらサキにも心配をかける)

菫(照たちに心配をかけてさらに妹にまで心配をかけるようじゃ本当に私はだめになる)

菫「…ただいま」

菫母「おかえり」

菫「!」

菫「母様…?こんな時間に…帰ってきてらしたのですか」

菫母「まあ、ね。ちょっと話があるからこちらへきなさい」

菫「?」

菫母「『コレ』はなに?」

サキ「……」ビクビク

菫「!!」

菫(ど、どうしてサキが…?)

菫「まさか…母様、私の部屋に入ったのですか!?」

菫母「ええ。すこしね。それより質問には正確に答えなさい?『コレ』はなに?」

菫「ぅ……妹、です……」

菫母「妹?なぜそんなものが貴方の部屋に?」

菫「……」

菫母「はぁ…言いたくないのはわかりました。けれど、今の貴方には妹などにかかずらう余裕はないはずよ?」

菫母「麻雀、弓道、勉学…麻雀も弓道も貴方が言い始めたこと。それをここにきて疎かにすることはまかりなりません」

菫「…そのようなつもりは」

菫母「捨ててきなさい」

菫「!?」

菫母「大方どこかから拾ってきたのでしょう?貧のない出で立ちをしているし。貴方に妹など必要ないわ。私達にも、ね」

菫「そんな…」

菫母「でなければ…そうね、麻雀をやめてしまいなさい。そうすれば他を疎かにすることもないでしょう」

菫「……そんなこと」

菫母「どちらを捨てるのか、今日一杯考えておきなさい。別れは必要でしょう。麻雀関係の付き合いであろうと、『コレ』であろうとね」

菫「……」ギリッ

菫母「話は以上です。結論は明日伺います」

菫「……」

菫母「返事は?」

菫「……はい」


 菫の部屋

菫「……」

サキ「……」

菫「……」

サキ「……」スッ ナデナデ

菫「……」

サキ「……」ナデ…

菫「……」ギュッ

サキ「……」

菫「…私は」


菫『可哀想に…無責任な姉に捨てられてしまったのか』


菫『でももう大丈夫、私はお前を傷付けたりしない』


菫『もう大丈夫だ…私がそばにいるからな……』


菫「…私は、最低で最悪の人間だ……」

菫「許してくれ、などとは言えないよな…。きっと…私にお前の姉である資格なんて」

菫「なかったんだ……っ」

サキ「……」スゥ

菫「……」ギュッ

菫「……妹は、あったかいなぁ」ポロポロ

 第5話・『姉』である資格 カン


 最終話


菫母「…それで?どうするかは決めたの?」

菫「……はい」

菫母「そう。その様子だと…」

菫「……」

菫母「自分で選ぶということは大切なことよ。何かを選び、何かを捨てる。こんな形ではあるけれど、今回のことは結果として貴方の糧になるでしょう」

菫「……」

菫(『自分で選ぶ』?違う…私は何一つ自分で選んでいない…すべて…)

菫母「その子…残念ではあったけれど、いい引き取り手を見つけておいたわ。いい人のはずだからきっと悪くはしないでしょう」

菫(すべて選ばされてるんだ…だから母様がこうしてすべて決めてくれている…)

菫母「ここの住所にこれから連れて行きなさい。きちんと届けたか連絡して確認を取りますからね」

菫「……」

菫母「下手な小細工をして隠そうとしても無意味ですよ。その時は…わかっていますね?」

菫「……」

菫母「…返事は」イライラ

菫「…はい」

菫母「それならいいわ。はやく行きなさい」

菫「………はい」

サキ「……?」

菫「…サキ」

サキ「……」

菫「これからお出かけする。私は…すこしサキから離れるけど…」

サキ「……」

菫「……っ!」グッ

菫「だい、じょうぶ…だから…っ!なにも、心配は、いらないから…っ!」

サキ「……」ギュッ

菫「……ごめんなさい…っ」ギュッ

菫「……」スタスタ

サキ「……」トテトテ

菫「…ここか」

菫「……」ポチ ピンポーン

汚っさん「ハイハイ。お、きたねぇ。こっちがサキちゃん?」

サキ「……」ビクビク

菫(…こんな、どんな人間かもわからないやつにサキを……?)

菫(…私には関係のない話か。姉でもない私が案ずることじゃない。この人だってきっと中身はいい人なんだろう、母様が選んでくれたのだから)

菫「はい。母からお話は聞いていらっしゃると思いますが、この子をどうかよろしくお願いします」

汚っさん「まかせてよお」ニタリ

菫「…それじゃサキ」

サキ「……」ギュッ

菫「…そう強く握らないでくれよ…ほら、私は行かなくちゃいけないんだ」

サキ「……っ」フルフル

菫「わかってくれ…私じゃだめなんだよ…」

サキ「……!」ギュッ

菫「……っ」

汚っさん「どうかした?」

菫「い、いえっ」スッ

サキ「……ぁ」パッ

菫「…それじゃ」

汚っさん「ああ。お母さんには伝えとくから」

菫「お願いします。…サキ」

サキ「……っ!」

菫「……さよなら、だ」フイッ



菫「……」スタスタ

 ぽつ… ぽつ…
 ぽたっ… ぽたたっ…

 ざーーーーーーーーーーっ

菫「……」ピチャピチャ

菫(…失った。大切にしようと固く心に決めたはずのもの)

菫(哀れだ。滑稽だ。もう…私は)




照「傘、ないの?」


菫「……」

照「日頃人のことを散々おっちょこちょいだのなんだの言って、実は一番おっちょこちょいな菫」

菫「……どうした?なんでこんなところにいる?」

照「いや、ね。最近菫の様子がヘンだったから。こんなことだろうと思ってさ」

菫「…笑いにきたのか、私を」

照「笑ってほしいの?」

菫「……」

照「どうしたいの?菫は」

菫「……っ!」

菫「じゃあどうすればよかったんだっ!どうすればこんな思いをしなくて済んだというんだ!?」

菫「私だって悩んだんだ!現実との板挟みの中でどうすればいいのか悩んで、苦しみながら!!」

菫「麻雀は私のすべてだった!弓も!小さい頃から積み上げた私のすべてだったんだ!」

菫「それに比べたら…!お前につまらない嫉妬をして、母様に何かを捨てろと言われた時もすぐにその選択を思い浮かべてしまった私に姉である資格などないと知ってしまったなら…!」

菫「手放すしか…ないじゃないか…!」

照「……」

菫「…こんな…こんな思いをするのなら……」

照「――妹を拾わなければよかった?」

菫「っ!」

照「私言ったよね。きっと後悔するって」

菫「……」

照「それでこの様?」

菫「……!」ギリッ

菫「お前に何がわかるッ!」グイッ

照「ぅ…っ!……わかんないよ。わかるわけがない。だって、私は菫じゃないもの」

菫「……っ」

照「私は『弘世菫』じゃない。『弘世菫』はあなた。私が理解できることでもないし決めることでもない。それはあなたの両親だって同じ」

菫「…え」

照「あの子を…妹を拾うって決めたのはあなた。私の忠告も家の事情も全部何もかも置いて、それでも彼女といることを決断したのは弘世菫…あなたでしょう?」

菫「……」

照「真にあなたに選択を迫ったのは誰?母親?父親?家?違うよね」

照「親には逆らえないと決めつけていた菫自身でしょ?」

菫「!」

照「そろそろきてもいいんじゃないの?反抗期」

照「今まで積み上げてきたものを崩さないように、新しく積み上げる。けして簡単なことではないかもしれないけれど、それでもやらずに後悔するよりマシだと思うけど?」

菫「…無責任なことを言う」

照「だって他人事だし」

菫「こいつ…」

照「それに、菫ならできると思うから。他の誰でもなく、ずっとそばにいた菫の友人であるこの私がそう思うから」

菫「……」

照「…実は私もね。昔、妹がいたんだ」

菫「!」

照「今は家の都合で離れ離れだけど。あの子と喧嘩したまま別れて、今も会えてない」

菫「それは…」

照「ずっと、私に妹はいないってそう思って忘れるようにしてきた。そうすることで後ろめたさみたいなものから目を背けて生きてきた」

照「でも菫たちを見てて、ああ私は間違ってたのかな、って思えてきちゃって…」

照「だから、菫には頑張ってほしいっていう面もある。私的にね」

菫「…そうか」

照「菫さ。さっき姉である資格とか言ってたよね」

菫「?」

照「姉である資格なんて、後にも先にもこの世にひとつこっきりしかないよ」

菫「……それは?」



照「それはね。姉として、妹のことが大好きかどうか」

照「菫はどう?」

菫「……そんなの、決まってる」

照「そっか。ならもう大丈夫そうだね」

菫「ああ。…お前にはいろいろ…なんだ、世話かけたな」

照「菫が世話焼けるのはいつものこと」

菫「お前にだけは言われたくなかった」

照「ふふ。このお礼は駅前のプリンパフェデンジャラスサイズでいいよ」

菫「なんだそのデンジャラスな…。後で、な」

照「うん。それじゃ」

菫「ああ」


照「いってらっしゃい」

菫「いってくる!」ダッ


照「まったく…」

淡「ふーふふっ!」ヒョコ

照「あれ、いたの?」

淡「そりゃもう。まったく、ふたりとも不器用なんだから~」

照「は?」ギュルギュル

淡「すんません調子くれてました自分」

照「…なにしにきたの淡」ジトッ

淡「んー冷やかし?」

照「傘も持たずに?」

淡「そうなんだよね…ってわけでー、テルいーれて?」

照「無理」スタスタ

淡「ああん、ちょっと待ってよー!」パチャパチャ


菫「はっ…!はっ…!」バチャバチャ


憩『まーあれや。むつかしーこと考えんと、目の前のことに、菫ちゃんが思ったように取り組んだら?どーせ未来のことなんてだーれもわからんし。今やで今、大事なんは菫ちゃんが今どーしたいか』

宥『あと、なにか悩みとか悲しむようなことがあったらぎゅってしてあっためてあげるのもいいかもね。寒いのはみんな嫌だから…』


菫(私が今したいこと……)

菫(寂しがり屋で甘えん坊で、臆病なくせにだれかの温もりを求めている妹…私のせいできっと今頃寒い思いをしてるであろう妹をぎゅっと抱きしめること……!)

菫(後のことはなんとかしてみせる。なんとかできなければ私という人間は終わったままだ)

菫「今は何よりも……サキを!!」バシャッ

 ざーーーーーーーーっ

菫(あんな汚っさんに大切な妹を預けるだなんて正気の沙汰じゃない!)

菫(私が間違っていた。たとえ誰に何を言われようとなんだろうと!)

菫(サキは…ずっとずっと私の妹なんだっ!)


菫「サキぃーーーーーーーーーーーーーーっ!」


  「――――ゃん!」ザーッ
 

菫「サキ…?サキ!」バシャバシャ


  「――姉ちゃん!」ザーッ


菫「サキぃぃぃいいーーーーーーーーーー!」


サキ「菫お姉ちゃん!」パチャッ


菫「サキっ!」バシャバシャ

サキ「菫お姉ちゃんっ!」ギュゥッ

菫「ごめん、手を離したりしてごめんっ!もう離さないから!!」

サキ「お姉ちゃん…お姉ちゃん……っ!」グスッ

菫「……こんなだめだめなお姉ちゃんだけど。それでも…私はサキのお姉ちゃんだ」

サキ「……うんっ!」

菫「……あったかい」ギュッ

サキ「……あった、かい」ギュゥ




菫(雨に打たれ、それでもお互いの存在を確かめ合うように私たちは抱き合った)

菫(…サキは私と別れた後、泣き出してずっと喚いていたらしい)

菫(見かねた汚っさんが、サキを私の下へ戻そうと計らい、サキが私の下に辿り着くまでも影ながら見守っていたらしい。ちなみに汚っさんは余りの怪しさに職質されてた)

菫(母様とは大喧嘩になった。生まれて初めての親子喧嘩…まだ口も利いてくれないけれど…この前泣きながら父様に電話しているのを見かけてしまった)

菫(やはり照の言ってたみたいに…両親の人形であることを選んでいたのは私の方だったみたいだ)

菫(照はデンジャラスなサイズのプリンパフェを見事完食し、次の日学校を休んだ)

菫(私とサキはといえば――)


 風呂

菫「――それじゃ次は身体洗うぞ」

サキ「……」

菫「まったく…そろそろ自分で洗えるようになったらどうだ?」カコカコ シャワシャワ

サキ「……」

菫「肩からいくぞ」ササッ

サキ「……っ」ブルッ

菫「こそばゆい?我慢しろ」

サキ「……」

菫「ほら万歳して」

サキ「……」バンザイ

菫「ほれほれ」コチョコチョ

サキ「……っ!!」プンプン

菫「ちょっとした悪戯だろ…そんな怒るなよ」

菫「ほれ、足」

サキ「……」

菫「いや、さすがに足のうらとかやらないから」

サキ「……」スッ

菫「ふくらはぎー」コチョコチョ

サキ「……っ!」ゲシッ

菫「あ、おいっ!姉を足蹴にするとは何事だ!」

サキ「……」プイッ

菫「お姉ちゃんジョークだろうが…流すぞ」ジャバッ

 ざばーーーーっ
サキ「…………キ」ボソッ

菫「ん?今なんか言ったか?」

サキ「……」スーハー

菫「?」


サキ「――菫お姉ちゃん、大好きっ!」ニコッ


菫「……」

菫「…ああ。私も大好きだよ、サキ」ニッコリ

 最終話・拾われた妹と拾った姉 カン


 白糸台

照「…菫、これはなに?」

菫「は?どうした一体?」

照「いいから答えて。この小説はなに?」

菫「小説…?話が見えないが…」

照「とぼけるつもり?こんな、菫が主人公の小説、菫以外だれが書くの?」

菫「はぁ?私が主人公って…貸せ。……なんだこれは」

照「こんなことは許されない。咲が捨てられてることに始まり、私が咲に興味なさそうなのも咲が暴力を振るわれていることも菫が咲を拾うことも菫と咲が一緒にお風呂に入ってることも菫が咲を捨てようとすることも私が菫と咲の仲を取り持とうとしてることも何もかもすべて」

照「というかなぜ…咲は私の妹じゃないの?」

菫「知るか。何より捨て妹ってなんだ。人権は、戸籍はどうした。どんだけ世紀末な世界観なんだこれ」

照「…菫じゃない……?」

菫「当たり前だろ…」

淡「なにこれー?小説?」

照「それじゃ一体だれが…?」

菫「無駄にそれっぽいな…こんなのが書けそうなのは…」

淡「」ブワッ

誠子「うわっ!?どうした大星!?」

淡「よがっだね”ぇサキぢゃぁん…よがっだよ”ぅ……」グズグズ

照「犯人が見つかり次第…」ギュルギュル

菫「私の家はもっと普通なんだが…こんな印象があるんだろうか…」


尭深(やばい…どうにかして原稿を回収せねば……)


 カン!

終わり
こんなオチにお付き合いいただきありがとうございました

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