向井拓海「感謝のキモチ」 (21)

注意事項
・モバマス
・クリスマスプレゼント改変
・地の文です

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「…ハァ」

 溜息を一つ漏らす。空気が抜けて、地面にへばり付きそうになる。どうしようもない鈍重間に襲われていた。
 クリスマスもいよいよ大詰め、時計の短い針は、もうすぐ頂点へ達する。

「…結局、渡せねーじゃねえかよ」

 両手の中にあるのは、ラッピングが施された長方形の箱。
 中身は淡い紫色のネクタイ。思索の末にたどり着いた答えだ。
 だが、渡したい相手は一向に訪れない。

>>2

× 鈍重間
○ 鈍重感


 クリスマスは、アイドルだけでなくプロデューサーも総出で駆り出された。昼間から事務所に人が入っては出を繰り替えし、慌ただしいの一言だった。
 そんな喧噪も、流石にこの時間となればもう静まっていた。

 いつだってそうだ。張り切って何かしようとすると空転する。地面に上手く引っかからない。
 初めてのアイドルの仕事だって、遡れば小学校の時から…いつもそうだ。
 過去を振り返ろうとすると、心が水を吸ったように、やけに重くなる。


 カンカンカンカン…

「…ん?」

 確かに、何か金属を蹴るような音が聞こえた。
 誰かが、この事務所に近づいてきている証拠だ。



 カンカンカンカン…!

 音が近い。凄い勢いで階段を昇りつめている。
 それこそ二段飛ばしで駆け上がっているような速さだ。


 ガチャッ、バタン!
 

「拓海! まだ居るか!?」


 大きな音と共に、待ち人はやってきた。


「P…!」

「ちひろさんから連絡入ったんだよ。『拓海ちゃんがまだ事務所にいるから早く会いに行ってあげてください』って」

「ちひろが…そうか」

「で、何か用があるんじゃないのか?」

 ドクン、と一際大きく脈を打った。
 心臓の音がやかましい。破裂しそうな感覚に襲われる。真冬なのに汗が滲む。
 ビビるな。ここにきて怖気づくんじゃない。自分に言い聞かせるように胸を叩く。


「あっ、あの、だな…」

「? どうしたんだ?」

 口が上手く回らない。言葉が上手く出せない。
 緊張が、舌の自由まで奪い去ってしまった。
 ビビるんじゃねえよ。踏み込め。全速力で。


「こ、これ! 受け取ってくれ!」

「…ひょっとして、クリスマスプレゼントか!?」

「あ、ああ…アタシが選んだんだ!」

「もしかして、これを渡すためにわざわざ待っててくれたのか?」

「…恥ずかしかったけどよ、どうしても手渡ししたかったんだよ」

「ハハ、ありがとうな。拓海」


「あー…でも俺、プレゼント用意できてないぞ?」

「普段メシおごってもらってるからな。それでチャラだ」

「…いいのか?」

「いいんだよ。それに…Pからは、もっといろんなモンを貰ってるからよ」

「…いろんなもの?」


 この男に出会わなかったら、きっと何も変わらなかった。
 空虚な灰色の日常を、ただ消化するだけ。そこに血生臭さのアクセントが加わるくらいだろうか。充実した日々などとは縁がなかっただろう。

「アンタがあの日、声をかけてくれたから…アタシは変われたんだよ」

「拓海…」

「だから言わせてくれ。あ、ありがとう…」


「…ふふっ」

「な、何かおかしいかよ!」

「いやなに…こうやって感謝されるなんて、思ってもなかったからさ」

「………」

「こんな可愛い子からプレゼントがもらえて、俺は幸せだな」

「か、かわっ?!」

 血液が顔に集中するのがハッキリわかる。
 こうやって少し褒められただけで、すぐに顔が赤くなる。いつもに増して頬が熱い。


「あと、俺からも一つ言わせてくれ」

「何だよ」

「…俺も拓海と出会えて、よかったと思ってる。プロデューサーとしてここまでやってこれたのも、拓海のおかげだ」

「………」

「だから…ありがとうな。プレゼントも大事にするよ」

「…どういたしまして」


「さ、戸締りして帰ろうか。もう夜も遅いからな」

 いつの間にか、クリスマスは終わっていたみたいだ。
 よい子はとっくに寝る時間だ。こんな時間に起きてるアタシはさしずめ悪い子ってところだろうか。
 だが、悪い子の元にもサンタは来るみたいだ。

「P」

「どうした?」

「…メリークリスマス♪」

「ふふっ、メリークリスマス!」

 

おわり。

誤字やらなんやらイロイロやらかしました
スパっと終われなくて正直すまんかった

読んでくれた人はありがとう。それじゃ

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