勇者「淫魔の国は白く染まった」 (681)


秋を過ぎて冷たくなった空気がいっそう冷え切ったように感じ、目が覚める。

勇者「なんでこんな寒……おい」

サキュバスB「んー……」

充分な幅のあったはずの布団の在り処は、そこだった。
隣を見れば菓子のように巻き込まれた布団の塊があり、その端から髪と角だけが具のように見えていた。

勇者「いい加減に……というか、何故いる。一人で寝たのに」

なんとか身体を起こすと冷たい空気に擦れて、更に体温が奪われるようだった。
乾いた空気によって鼻の奥が涸れたように痛み、唇も水分を失いかけていた。
暖炉に火が入っていない事から、まだ起きるような時間でもないようだ。

勇者「布団、返……返せよ、おいコラ!」

サキュバスB「んもー……」

勇者「んもー、じゃない。起きろ! 起きて布団を返せ!」

彼女がしっかり巻き込んだ布団を奪い返そうとするも、まるで甲冑のようにビクともしない。

勇者「く、寒っ」

数分ほどそうしてから身震いし、諦めてベッド脇のガウンを掛布団代わりに寝ようと試みる。
だが暖かい筈のそれでさえ、霜が降りたように冷えきっており、ぞくりと背筋まで冷気が駆け抜けた。

勇者「冷たっ……なんでこんな目に遭うんだ! もういい起きる!」




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そうと決めてから、薄暗さの中で手探りに支度を整えて、ガウンを羽織って寝室を出る。
長い廊下の空気は静謐に冷え切り、風がないというだけで外気温とまるで変わらないようだ。

勇者「……どこか、暖かい場所……いや浴場はダメだ、湯冷めして死ぬ」

身を縮めるようにして当て所なく歩いているうちに、かすかに、耳の奥に旋律が響いた。
気のせいかと思って立ち止まり、耳を澄ませば、それは……間違いなくハープの音だ。
しかし城内に、ハープが置いてある場所など思いつかない。
少なくとも、普段使う空間にはない。
聴覚を頼りに進んでいくと、少しずつ、少しずつ音は大きくなってきた。

その旋律は、不思議な安堵感をもたらしてくれる。
寒からしめる空気をかき分け、かすかな熱を持った甘い芳香が五臓六腑に染みわたるような、見事な演奏。
誰の手になるかは分からないものの、ひとつの狂いもなく――いや、僅かな狂いさえもさながら歌い手の息遣いのように聴こえるほどだ。
かつて人間界で耳にした弦楽、その全ての位が一つ落ちる。
そう表現しても構わない程の、優しい響きだった。

やがて、この城にしては小さな螺旋階段を登った先、尖塔の一つにある部屋に導かれた。


扉に手をかけ、開くと……室内には、小さな暖炉が煌々と燃えていた。
普段目にしない隠し部屋ながらも掃除は行き届いており、埃臭さは感じない。
小窓の近くには使い込まれたロッキングチェアが一脚、
中央のこれもまた簡単なテーブルセットには飲みかけのワイングラスと、瓶が一つ。
そして部屋の奥にはやや古びたハープと、その脇に侍る、演者が一人。

サキュバスA「陛下? いかがいたしましたの? このような晩に」

勇者「お前が弾いてたのか」

サキュバスA「ええ。もしかして起こしてしまいました?」

勇者「いや。……意外だな」

サキュバスA「あら、それはどのような意味ですの?」

気を悪くした様子もなく、くすくすと笑って返す彼女は、どこか――魔族らしくない無邪気さがある。

サキュバスA「私も弾いてみるのは久方ぶりでしたわ。ただ……こんな夜には、奏でてみたくもなるものです」

勇者「?」

サキュバスA「どうぞ、窓の外をご覧に」

促され、曇った窓を一撫でしてから外を覗き込む。
そこには、空からの『白』が舞い散る、夜魔の国の情景があった。
いつから降り続いたものが、しんしんと降る雪によって、見渡す限りが薄く覆われていた。

勇者「寒いと思ったら……」

サキュバスA「それで、陛下。まだ起床なさるお時間には早いかと思いますが……何故?」


勇者「ん、ああ。いつの間にかサキュバスBが隣に寝てて、いつの間にか布団を剥ぎ取られて、返して……くれなくて……」

サキュバスA「夜這いに失敗したのですわね。お湯もいただいて、陛下の寝所に忍んで……眠気に勝てず沈没した、と」

勇者「子供か!」

サキュバスA「そんな子供に滾る獣欲をぶつけ、柔肌を舐り、果実を穿るのも陛下でしょうに」

勇者「ヤな言い方するな! 生々しい!」

サキュバスA「淫魔なもので」

勇者「……それはもういい、この部屋は?」

片隅にあったロッキングチェアを引き寄せ、室内を見渡すように座る。

サキュバスA「見ての通りの隠し部屋、いえ大人の隠れ家。私がこっそり設えましたの」

勇者「今バレたぞ」

サキュバスA「ならば公然の秘密としましょう」

悪びれもせず言うと、彼女は腰を上げてテーブルの上のワインを取り、口をつけながら暖炉の前へと移る。

勇者「……それにしても、ハープが弾けるとはな」

サキュバスA「たまに、でしてよ。眠れぬ夜など奏でたくなるものなので、このような離れに部屋を作りまして」

勇者「眠れなくなるような事があったのか?」

サキュバスA「例えば初雪の今宵、例えば満月の夜。眠る事がもったいない日もありましょう?
         それに昔の殿方の事を思い出し、腹立たしくて眠れぬ夜も」

勇者「お前でもそんな事があるか」

サキュバスA「ええ。いくら私が優しくてスタイル抜群の美人でも、許せぬ事はありましてよ」

勇者「……それはともかく、雪が止まない」

雲の厚みを見ても、恐らく今日の昼頃までは間違いなく降り続くだろう。
もしかすると、春までこのままかもしれない。

勇者「もう、雪の降る時期か」

サキュバスA「陛下がお出でになられて、もう冬。早いものですわね」

うだるような夏を越え、過ごしやすい秋を過ぎ、訪れたのは極寒の冬。
冬を越えてしまえば、一年を周った事になる。

勇者「助かったよ。ここにお前がいてくれなかったら、今頃凍え死んでた」

サキュバスA「大げさな」


勇者「大げさなもんか。……まったく、あいつときたら」

サキュバスA「やる事なす事、まるでテコ入れのようにあざといですわね。ところで、陛下?」

勇者「え?」

サキュバスA「せっかくですもの。……少し、戯れて行かれませんこと? まだ、『夜』は残っておりますわ」

そう言うと、サキュバスAはわざとらしく胸を強調し、ぺろりと舌を覗かせ、唇の端をなめた。

勇者「それよりも、もう少し弾いてくれ。聴いていたいよ」

サキュバスA「ふふ……仰せのままに」

言って、ワイングラスを空けて再びハープに戻る。
音符型の胴を後ろから抱くような姿勢を取り、背筋を優しく丸め、奏者となった。
翻された蝙蝠の翼は、青紫の皮膜で卵のように奏者とハープを包み込む。

挿し絵だとすれば、甘言を囁く悪魔と注釈が付くだろう。
だが、それでもその姿は――――どこか切なささえ漂わせる、目を離せなくなるような魅力に満ちていた。


窓から差し込む朝日で目が覚め、気付けばそこは寝室だった。
隣にいたサキュバスBの姿は無く、自身ははだけた寝間着姿だった。
暖炉に火が入って時間は経っているようで、寒さは感じない。

やがていつものように、堕女神が起こしにやってきた。

勇者「おはよう」

堕女神「おはようございます、陛下。……初雪が降りましたが、ご覧になられましたか?」

勇者「ああ」

堕女神「朝食の前に……お耳に入れたい事がひとつ」

勇者「何だ?」

堕女神「隣国から、その……陛下に、協力してもらいたい事があると」

勇者「俺に?」

堕女神「はい。陛下に。あくまで陛下個人の協力が必要との事です」

勇者「話が見えない」

堕女神「……性教育」

勇者「は?」

堕女神「隣女王陛下の、性教育です」

そう言った彼女は、それきり微妙な表情を作ったまま黙り――――結局、朝食を済ませて執務室へ行くまで、詳しくは聞かせてくれなかった。


勇者「……で、どういう事なんだ?」

ずきずきと痛むような頭を抑えながら、どうにか問う。
堕女神も未だ困惑しているようで、時おり唇を波打たせるように言いよどむ。

堕女神「……まず前提として、我が国では1800歳以下の性行為は禁止。種族の寿命によってはその限りではありませんが、まずサキュバスは則ります」

勇者「うん」

堕女神「一方、あちらの国では15歳以下は禁止。彼女らに充分な倫理観や道徳心が備わるまでは、との事です」

勇者「それも知っている。なのに何故、何故だ」

堕女神「曰く、あまりに初心が過ぎると」

勇者「…………コメントしづらいな」

堕女神「……同感です。ですが……いつかは学ばねばならない事だとか。殿方は淫魔国界隈には陛下お一人です」

勇者「俺を教材にしようってのか?」

堕女神「単刀直入には。……最終的には陛下のご判断です」

勇者「教育だから問題ない、っていう抜け道もどうかと思うんだけどな。だいたい何を教えるんだ」


堕女神「それは、その……つまり……直接的でなければ何でも」

勇者「しかしな……」

堕女神「ただ、一つ申し上げるなら…歯止めを効かせる為には、ある程度は隣女王陛下に知識と実践を伴わせていただくべきかと」

隣国に住まう淫魔――――彼女らの種族は、残酷、貪欲だ。
咲き掛けた蕾にも見えるが、それは猛毒の罠。
一度誘われてしまえば、甘く蕩ける快楽の中で、その身をしゃぶり尽くされ、死に至る。
通常のサキュバスが花だとすれば、彼女らは、さながら食虫植物だ。

堕女神「隣国の淫魔は、ハッキリと申して危険です。隣女王陛下の治世は幼いながら整っておりますが、それだけに急激な変化があっては危ういと」

述べながら、堕女神は隣国からの手紙の写しに目を落とす。
それは、勇者の目の前にある原本と内容は同じだ。

堕女神「いつかは子を生し、世継ぎとしますが……その際、淫魔として悪い方に振れてしまうと、国の危機に繋がります」

勇者「……つまり一国の存亡を賭けた性教育?」

堕女神「我が国への影響がないとも限りませんし……陛下もお気が乗らないかと存じますが、もしかすると、人間界から連れ去ってきてしまうやも」


もちろん、それが大げさな話ではない事は分かっている。
少しの逡巡の後――――ようやく、意思は言葉になった。

勇者「……分かった、受けよう。だが……どうやって?」

堕女神「監視、及び指南の役を……両陛下と同衾して務める者が必要ですね」

勇者「堕女神は?」

堕女神「わ、私ですか? お恥ずかしながら、役目を果たせるほどの……経験は……。あ」

勇者「え?」

堕女神「適役が一人おります。隣女王陛下とある程度親しく、一応はサキュバス。物を教えるのに向くかは分かりかねますが」

勇者「……あぁ、アイツか」

投下しゅうりょ
一年以上また空いてしまったけれど、どうか勘弁を

それではまた明日

続ききてるかと思ったら46レスすべてお前さん達かい やられたww

また投稿するごとに 感想・雑談レスで埋め尽くしたり荒らして
スレの内容を薄くするなんてしないでね

すまない、開始するで

>>64
実を言うと、今回あまり量が多くなくて
その分を埋めてくれるとちょっと助かるなー、とは……HAHA
感想は嬉しいですし

ともあれ続けます

その後いくつかの話をまとめ、昼食まで空いた時間、庭で過ごすことにした。
白く化粧した中庭は、まるで雰囲気が違う。
靴底からさくさくとした新雪の感触が届き、テラスまでの道のりもどこか楽しい。
吐く息まで白く宙に溶けて、雲の晴れ間から覗く青空までも、澄ませたように鮮やかだった。
使用人達は通路の雪よけや庭木の雪払いに追われているようで、昼前の今になっても、仕事の手を休められていない。

サキュバスB「あっ、陛下!」

振り返ると、そこには幼気が抜けない淫魔が、いつものように人懐こい笑顔を浮かべていた。
しかし、その姿は……世辞にも、雪とは似つかわしくない。

勇者「あぁ、……って、何だその格好は?」

サキュバスB「え、何、って……?」

勇者「寒くないのか?」

サキュバスB「え……、いえ、別に。動きやすいですし」


上も下も、夏に見たものとまるで変わっていない。
顔と雰囲気に似つかわしくなく豊満な胸の上部まで覆うビスチェに、薄青い太腿を露わにしたショートパンツ。
ブーツだけは一応冬らしく長いものを履いてはいるが、見ているだけでも寒々しくなるような、恐ろしく季節感のない姿だった。

勇者「寒くねーくせに昨日は俺を殺しに来たのか!」

サキュバスB「ね、寝る時は別ですよ! それに、寝てる途中は魔力が弱くなるから……体温調節できませんし……」

勇者「…………」

サキュバスB「……ごめんなさい」

勇者「次はせめて起こせ。あれは完全に刺客だ」

サキュバスB「はい。……どうしても、エッチしたくて……」

勇者「これで務まるのか……本当に? 適任が他にいるんじゃ……」

サキュバスB「へ? く、クビですか!? 待ってください! 今日は何でもしますから! 縛っていただいても……あ、それともお外で」


勇者「違う違う! 声! 声がデカい!」

通りがかったメイドが、『クビ』という単語の不穏さに――――あるいはその後の内容に、やり取りに振り返る。
その中にニヤニヤとしながらこちらを見るサキュバスAがいたが、それには気付かないふりをした。

勇者「つまりだ、お前に重要な仕事があってな。正式には後で伝えるが……内容がな」

サキュバスB「まかせて下さい! 何でもやっちゃいますよー!」

勇者「教育なんだが」

サキュバスB「? 新人さん教育ですか?」

勇者「まぁ、ある意味……詳しくは後だ、仕事に戻れ」

サキュバスB「はーい」

そして、サキュバスBは尻尾を左右に揺らしながら向こうへ駆けて行った。
彼女が去っていく姿を見ても、どうしても不安がぬぐえない。
ひたむきさや真面目さはあっても、何をしでかすか分からない怖さがあるからだ。


その夜は、それまではとても静かだった。
夕餉を終えた頃からふたたび雪が降り始め、静寂すら『音』として聞こえてきそうだった。

勇者「……淫魔の国に来たと思ったら、淫魔に性教育? どんな冗談だ」

暖炉の火を落とした寝室で、何とはなしに外を眺める。
今少し室内に熱が残ってはいるが、じきに冷えてくるはずだ。
その前にベッドに入ろうとは思っているが、どうも眠る気分にはなれない。
妙な大任の事もだが、静けさのあまり逆に落ち着けないのだ。
ここまで静かだと、むしろ生き埋めにでもされたような憂鬱さすら感じる。

食料庫から酒を盗んで来るか、それとも窓から飛び降りて城下の酒場にでも繰り出そうか、とも思案するほどに。
事実、秋ごろにサキュバスAから名物の厚さ4cmのステーキの話を深夜に聞かされてしまい、いても立ってもいられずそうした前科がある。

分厚く焼かれたステーキを楽しんで、酒場に居た全員にかたく口止めして城の寝室に戻ると堕女神がいて、
結局、サキュバスAもろとも説教をされてしまった。

雪に足跡を残せば、今度は酒場まで追跡される。
しかし今なら――――降り続く雪で、足跡を消せるのではないか?
それとも、静けさに乗じて食料庫まで下り、適当な燻製肉と酒を盗んでくるか?

窓に手をかけたあたりで、ふと思い留まり、いたずら心を抑え込んでベッドに入る。
空腹がこれ以上進んでしまう前に、眠ってしまう事にした。


眠りについて数刻すると、室内に気配を感じて、眠りが浅くなった。
うとうとしながら何者かの息遣いを聞き分けようとしていると、まっすぐベッドに向かってきて、同じ布団にもぐりこんできた。
胴に腕を回されたあたりで、口を利くまでに眠気は薄れた。

勇者「起こせ、とは言ったけど……ノックぐらいしたらどうだ」

背を向けて寝たままそう言うと、かき抱く腕がかすかに震える。
しかし、侵入者は――何も言わない。


堕女神「すみません……陛下」

勇者「…………堕女神? 何だ、珍しい」

身体を少し起こして反転すると、隣に寝ていたのは、まぎれもなく彼女だった。
彼女はまるで、叱られた子犬のようになって蹲っていた。

勇者「眠れなかったのか?」

堕女神「……すみません」

二度目の言葉に、どこか苦しげなものを感じ取りながら――彼女に向き合うように、再び横になる。
ほんの少し身を起こして布団に隙間を作っただけなのに、肌には冷たい空気が刺さった。
堕女神は、すぐに布団の中で体を寄せ、ぴたりと密着してきた。


勇者「どうした?」

堕女神「その……。何か、身体が……」

勇者「悪いのか?」

堕女神「い、いえ。……先ほどから、妙に、熱くて。体の芯が火照るように……なので」

胸の中で、堕女神がうずうずと身悶えする。
無意識のうちにか、彼女の局部や乳房が太腿や腹部に擦りつけられ、布団の内からは雌の匂いが熱を帯びて漏れ出していた。

堕女神「……その、鎮めては……いただけない、でしょうか?」

灯りを落とした中でも、見えてしまいそうなほどに彼女の顔は紅潮していた。
その気恥ずかしい願いを述べた後、彼女は押し黙ってしまう。
やがて――――布団の中で、彼女は勇者の股間を撫で、胸板へ唇を寄せた。



勇者は掛布団を押しのけて足元へ追いやると、改めて堕女神を組み敷くように覆いかぶさった。
連綿と降る雪のように白い肌は紅潮し、赤黒の瞳は潤み、涙の筋さえ流しながらこちらを見つめていた。
その熱に浮かされたような眼差しは、一矢でどんな男をも射抜いてしまうに違いない。

勇者「今日のは……」

堕女神「はい。……陛下にいつかお見せしようと……」

彼女は、下着姿で潜り込んで来ていた。
二房のメロンのような乳房を覆う黒く飾られた下着は、それぞれ下部から切れ込みが入り――――乳首を隠す用途を果たしていない。
既にぴんと立った乳首が、彼女の鼓動と息に合わせて揺れていた。
局部を守るそれもまた同じく、秘部の割れ目から後ろの孔までの部位が、ぱっくりと切れていた。

男を誘う為だけに作られ、下着としての用途を為さない――――それは、淫具でしかない。

堕女神「少し……恥ずかしいのですが」

高揚状態にある堕女神ですら、今着けているものには抵抗があるのだろう。
顔を覆い、それでも揃いの淫靡な下着を隠すことなく見せつけるように、ゆっくりと、脚を開いていった。

――――もう、自制ができない。


気付けば、豚のように秘所にむしゃぶりついていた。
膨れ上がった一物がパンツに圧迫されて痛みすらある。
なのに、下着を下ろす事すらも勿体なく感じて、桜色の秘肉へ舌を躍らせることしかできない。

堕女神「うぁっ……へ、陛下…そ、んな…いきなり……激し……!」

雪に閉じ込められて静まり返った寝室に、ぬめった水音が響き渡る。
左右の襞を伸ばすように舐めずり回り、膣口へ舌がつっぱるほど侵入させると、彼女の声がひときわ甘くなる。

堕女神「きゃふっ……あ、ぅ…奥まで……嘗め……て……あぁぁぁっ!」

びくびくと揺れ、止めどなく蜜液を散らしながら、彼女は乱れる。
声を抑える事すらせず、ただただ、獣の如くに。

堕女神「イヤ……! こんな、こんなの……私、おかしく……なって…!」

次に、引き抜いた舌で尿道口を小突き、指でクリトリスを抓み上げると――――

堕女神「あっ…、やあぁぁぁぁっ!」

びくんっ、と雷に撃たれたような痙攣を見せ、彼女はもう達してしまった。
その拍子に緩んだ尿道からちょろり、と漏れ出し、発情しきった牝の香りにアンモニア臭が織り込まれた。


冷静を失った自覚が、今なお強まって脳裏を疑問と共に駆け抜ける。
彼女の漏らしたそれを舌ですくい、舐め取り……啜りこんでしまったのだ。
口の中に広がるのは苦味と、甘さと――――むせ返るような、媚薬の芳香。

堕女神「陛下、やめ……て……啜らないで、くださ……汚……」

彼女の声は、耳に入らない。
それどころか、更に羞恥を煽らせるためにじゅるじゅると音を立て、秘部に塗れた蜜を舌で拭き取る。
もはや、彼女の蜜なのか自身の唾液なのか、尿液なのか汗なのかも知れない。
窓付きの媚び売るような下着の繊維はぐしょぐしょに濡れて、滴る液が堕女神のへそまで流れていた。

もう、舌の感覚が無い。
なのに、止める事ができない。
彼女の媚態を、もっと愉しみたい。
もっと、もっと、もっと――――乱れさせたい。
そんな欲望が、溢れ出して塞げない。
早鐘のように打つ心臓が、静まってくれない。


堕女神「ひあぁっ……! そんな、強く噛んでは……!」

ふたつの果実を味わい、揉み潰し――――下着の切れ込みからぴょこんと飛び出た乳首を、甘く噛みしめる。
顔を埋めればもちもちとした柔らかさが返り、揉めば手に吸い付き、指が埋まる。
彼女の閉じる事さえ忘れた口からは盛った乳牛のような甘い吐息がいつまでも止まず、唾液が枕へ滴り、濡らしていった。

堕女神「ふぁぁ……い、いい……れふ……もっと、おっぱい……もっとぉ……」

じゅるる、と殊更に下品な音を立てて乳首を吸い込み、歯を立てる。
もう片方の乳首をころころと指先で転がす。
それだけで、彼女はもう何度も達してしまった。
未だ手つかずの秘部は乾く事を知らず、壊れてしまったようにだらだらと卑猥な蜜を垂れ流し続ける。

堕女神「陛下、へい……かぁ…もう、入れて……入れて、くだ……さいぃ……」

まるで、何か悪いものにでも乗り移られたような――そんな嗜虐心が、抑えきれない。
彼女もこの乱れ方はあまりに妙だ。
不自然なほど、快楽へと傾きすぎている。
それでも、そんな不安感を抱いても、もはや止められはしない。
幾度も指を滑らせながら、泡を食ったようにパンツを下ろし。

堕女神「あっ…あぁぁぁぁぁ!」

グシャグシャに濡れたそこへ、一息に肉槍を突き立てた。


その後の情事は、獣じみていた。。
三回、四回、五回、出しては再び起き上がり、抜くことなく何度も彼女の中を満たした事だけは覚えている。
ベッドの中心には蜜と白濁が溜まり、バケツで掬う事さえ可能に見えた。

堕女神「う、ぁ………ああ……」

ぷつりと意識を途切れさせた彼女は、だらしなく呻いては体を時おり跳ねさせる。
涙、唾液、汗、まるで体液のすべてを漏れさせたようにぐったりと寝そべり、十数度の絶頂を繰り返した肢体は緩み切り、脚を閉じる事さえできないようだ。

勇者「っ……何、だ…これは……!?」

はっきりと意識を取り戻すと凄まじい倦怠感に襲われ、それでもどうにか姿勢は保ち、状況を整理する。

――――狂気じみていた。
――――あんな情欲を覚えたのは、あの『七日間』の記憶にすら無かった。
――――そしてそれは、堕女神も。

彼女の姿を見ると、恐怖が湧いた。
ならぬと決めた暴君の影が、月明かりに照らし出されて薄笑いを浮かべているようにも感じたからだ。


――――――

憔悴しきったまま、城内を彷徨った。
怯えるように剣を佩いて、少しでも火照りを冷まそうと、キンと張り詰めた、渇いた空気をその身に受ける。
堕女神を残して来ることに抵抗はあったが、とにかく、少しでも肺腑の中身を入れ替えたかった。

勇者「……!?」

ふと、背筋に氷山のように重厚な悪寒が『蘇った』。
この感覚は、知っている。
旅の果てに待っていた、あの――――到達点の空気だ。
馴染んだ城が、あの城と同じ威を放っている。

飾られた絵画からは、悪霊が飛び出してきそうだった。
彫刻は今にも動き始めそうだった。
曲がり角から敏捷な魔物が飛び出してきそうだった。
全てが、あの日の錯覚を呼び起こす。

気付けば、足は玉座の間へ向かっていた。
もう、脳を満たす恐怖も不安も無い。
薄い靄のかかったような、あの性欲も無い。
この変化は錯覚では無い。
何者かが、影響を及ぼしている。
そして、この威を生み出せる者がいるとしたら、居場所はあそこしかない。
向かう最中に左手を握り込めば、雷が応えてくれた。


魔物も悪霊も、姿を見せる事は無かった。
悪辣な罠も閉ざされた扉もなく、玉座の間へはすぐに着いた。
だがそれでも、寒気のするような気配は消えていない。
これは、確信だ。
扉の奥に、何かがいる。

扉は、いつものようにすんなりと開いた。
広々とした玉座の間は、闇に覆われている。
忘れかけていた灯りの魔法を投じて視界を確保し、剣の間合いだけはどうにか拓けた。
もし間合いに何かが入れば、瞬間に切り払う覚悟を決める。

勇者「……ん?」

玉座へと近づくと、人影が見えた。
思っていたよりは、幾分か小さい。
否――――小さすぎる。

勇者「誰だ? 誰がそこにいる!?」

不遜にもそこへ掛けている者を誰何するも、答えは無い。
闇の中に潜む影は、身じろぎひとつしない。
剣に手をかけ、更に近づいても動きは無い。
やがて――――檀上へと踏み出すと、初めて、その玉座の何者かの姿がはっきりと見えた。


一人の、淫魔だった。
蒼い肌、尻尾、少し小さな角。
ざんばらの黒髪はぺったりと潰れており、手入れを失っている。
その体格はサキュバスBと同じぐらい細く、折れるようなプロポーションだ。

淫魔は、眠っていた。
どこか庇護欲を掻き立てるような小動物めいた、それでも何かしらの獰猛さを残してもいそうな顔で。
しかし青ざめた顔はさらに血色が薄く、唇も乾いてひび割れ、寝息もどこか荒い。

勇者「誰…………誰だ? おい、起きるんだ!」

見覚えが、ない。
使用人達の顔は、挙げ切れぬほど多くとも一応は『見覚えがある』程度には留めている。
なのに、この淫魔の顔はまるで記憶にない。
それどころか、城で働く服装でもない。薄汚れた幅広の布を体に巻き付けたような姿は、まるで古びた神話だ。

つまりは、侵入者という事になる。

勇者「おい、起きろ!」

声を掛け続けると、淫魔は薄目を開き――――何かを言おうとし、そのまま、前へと倒れ込んだ。

勇者「誰か! 誰か、来てくれ! 玉座の間だっ!!」

小さな体をどうにか受け止め、あらん限りの声量を、開け放したままの扉に向かって浴びせかける。


???「ぉ……」

勇者「?」

???「ここは……どこ、なの……?」

不可解なトーンで、しかし弱々しく淫魔は呟いた。
低い声ではないが、かといってこの年頃の風体をした淫魔にしては、高音域ではない。
どちらとも取れ、どちらとも取れない、中性めいた声色だった。

勇者「しっかりするんだ。いつからここにいた?」

???「……わか、ら…ない」

抱き留めながら、どうにか意識を保たせようと声を掛け続ける。
その胸は薄く、乳房の質感もない。背に回した掌から伝わる背筋も、やや硬い。
有り得ないが、まるで――――『少年』だ。

そのまま呼びかけ続けると、やがて、何人かの足音がどたどたと走り込んで来た。

サキュバスA「陛下っ!」

先陣を切って走り込んで来たのは、彼女だった。
平素の飄々とした素振りは形をひそめて、目を驚きに見開いたまま、まっすぐに。


サキュバスA「陛下、離れて! その者は……!」

勇者「侵入者だ、が……何か、おかしいんだ」

サキュバスA「え……!?」

侵入した形跡がない。
こんなに衰弱した様子で城内へ侵入し、玉座の大扉を開き、またその間誰にも発見される事がなかった?
それは、考えられない。

サキュバスA「とにかく、離れてくださいな! 私が看ます!」

更に、城内に詰めていた者、住み込んでいた者が集まってくる。
半ば引き離されるように、その淫魔は人垣の向こうへと離れていく。
城内を支配していた不穏な空気はもう消えていた。
その代わりに――――警鐘でも打ち鳴らしたような喧騒に支配された。


投下終了です

めりーくるしみました
また明日逢いましょう

すまんな、本当にすまん
手直しして今夜12時~1時頃になります

ウトウトしちまってたよぅ
今さらだけどR-18です、今さらだけど!


二日後に、隣女王は淫魔の国へ到着した。
今回は事前に隣国へと迎えを出していたため、異例ながら彼女一人だけが訪れる形となる。

隣女王「ふう。うっ……寒い、ですね……」

庭園を通り過ぎ、馬車から下りた彼女は少し背丈と髪が伸びたようにも見えた。
少し大きめな毛皮の帽子と厚い外套、ミトン型の手袋をはめてはいるものの、ちらつく雪の中で小さな身震いを見せた。

勇者「ようこそ。道中は大丈夫だったかな」

迎えに出ると、彼女がぴしりと姿勢を正してこちらを向いた。
サキュバスA・Bを含めた使用人達も並んで出迎えており、とくにサキュバスBの姿を見つけた時には、隣女王の顔はすこし緩んだ。
そして、勇者の顔を再び向いた時……どこか、気恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。

隣女王「ええ、お久しぶりです。……そ、その……よろしく……お願い、いたします…」

初々しいしぐさに、ついこちらも感化され、顔に血が集まってきてしまう。

勇者「……まぁ、長旅だったろう。身体を暖めて、少し休むとい……堕女神?」

堕女神「え……? は、はい。ご案内いたします。どうぞ……こちらへ」

当人ではないのに、彼女の様子もどこか上の空だった。
どこか惚けているような、心ここに在らず、と言おうか……とにかく、調子がおかしいのだ。

思えば、二日前の獣欲に負けたような夜からだ。
朝になって見れば、彼女は身を清めた後だったが――――瞳の奥には、まだ何かくすぶっているようにも思えた。
着替えを手伝われている間にも、彼女の手がそろそろと前へと伸びてきた。
言葉を掛ければ過敏な反応とともに納めたが、違和感はどこまでも残る。

晩の事も覚えており、ところどころ欠落はあっても一部始終は意識にあるが、そこを問い詰めるのは、あまりに後ろ暗い。
なぜならあの晩、正気を失ったのは自分も同じなのだから。


勇者「……という訳でどう思う、ナイトメア」

ナイトメア「馬と相談して、恥ずかしく、ない? あなた」

隣女王を出迎えたその足で向かったのは、離れにある厩舎だった。
馬ではなく細身の少女の姿で、粗末な貫頭衣を着て馬房の中で彼女は待っていた。
長く白い髪には藁くずが付着してこそいるが、さながら古城をさまよう少女の霊魂のような、どこか浮世離れした美貌に翳りはなかった。

ナイトメア「……というか、今まで……おかしかったんじゃない?」

勇者「え?」

馬房の少女は藁山の上に大げさに身を投げ出し、ばたばたと脚を上げ下ろししながら言う。

ナイトメア「あなた、人間。人間、淫魔といっしょにいたらそうなる。発情」

勇者「だが、今は落ち着いているんだ」

ナイトメア「そう。なら、発情期を過ぎた」

勇者「いや、そういうもんじゃないだろ……」

ナイトメア「馬に訊いても、それしか、言えない」

勇者「…………」


ナイトメア「触手に訊くと、いい」

勇者「触手? ああ、ポチか。……あいつ、キャラが掴めなくてな」

ナイトメア「彼、面白い。この間は、サキュバスの一人と、脳姦ごっこ……したって」

勇者「何だそれ!?」

ナイトメア「大丈夫、ただの耳そうじ。粘液つけた触手で、耳の中きれいにする。キモチイイ、って」

勇者「…………」

ナイトメア「誰、って言って……たかな。目が金色で……背の低い」

一人の姿が思い浮かんだが、それ以上考えると淫靡な風景が脳裏を過ぎりそうだ。
すぐに考えを引き戻し、一応得られた答えを噛み締める。

勇者「分かった、ありがとう。しかし……お前、あれにケガさせられたんだろ? 仲いいのか?」

ナイトメア「うん。……でも、あの後。思い出して、ムカついたから、仕返しした。凄くしぶとかった」

勇者「え?」

ナイトメア「魔法が効かなかったから、いっぱい、踏み潰した。でも…倒せなかった。ここに帰って来てから仲直り、した。……ねぇ」


勇者「…………ん、え、何?」

ナイトメア「あなた、何か、恐れてる」

淡々とした口調で――――しかしはっきりと、突き付けられた。

ナイトメア「……どうして? あなた、ずっと遠慮、してる?」

顔色を窺う素振りは無い。
ただ、彼女は単刀直入に、寝藁のベッドの上から疑問を矢継ぎ早に投げかけてくる。
干し草の香りが、急に鋭くなった鼻の奥にくすぶった。
喉の奥がひくつき、言葉は出てこない。

ナイトメア「人間、お酒、飲む。……お酒飲むと、人が変わるっていう、けど、嘘。思ってもいない言葉、出てくるわけない。それ、本当の気持ち、出るだけ」

どこか、哲理にも聞こえる言葉が、夢魔の少女から次々と紡がれる。
言葉の拙さがむしろ真理を主張しているようにも取れた。

ナイトメア「……だけど、どうでもいい。考える、疲れた。寝る」

勇者「言うだけ言ってぶん投げたな!」

ナイトメア「わたし、馬。人間語ワカラナイ」

勇者「…………ともかく、ありがとう。釈然としないが、まぁわかった」

寝藁の上で面倒そうにする彼女に礼を言うと、馬房から出て厩舎の出口へ向かう。
戸口をくぐる時に、別れを述べるように小さな嘶きが聴こえた。

――――――

城館を遠回りし、中庭を通って帰ろうと言う時に、ぱすん、と足元に雪玉が飛んできた。
顔を上げるとサキュバスAが、少し硬い笑顔を浮かべていた。

サキュバスA「陛下、よろしければお時間をいただけますかしら?」

勇者「ああ……どうした、急に?」

応じると彼女は踵を返して、長い尾を『ついてこい』とでも言いたげに翻した。
数歩後ろを追いかけながら、切り出された話を聞いて行く。

サキュバスA「玉座の間で保護した淫魔、覚えていますわよね?」

勇者「もちろんだ。彼女はどうした?」

サキュバスA「……ご心配なさらずに。低体温症とやや栄養失調ですが、大事ありませんわ」

二日前の淫魔は、彼女に任せて別館に眠らせてある。
詳しい質問はあの淫魔が意識を取り戻してからになる。
この事態は隣女王に知らせて来訪を延期させようとも考えたが、すでに出発してしまっていたため、延ばせなかった。
代わりに城内の警備を強化し、常に三十~四十人の態勢で巡回させる事となる。

サキュバスA「それと……『彼女』ではありませんわよ」

勇者「何だって?」

サキュバスA「あれは、『彼』です」


勇者「えっ!?」

サキュバスA「あれはサキュバスではなく、男性種のインキュバスですわ。……もういるはずのない、ね」

その名を口にした時、彼女らしくなく、敵意と、同時に寂しげな余韻を含んでいた。

勇者「インキュバス――――」

サキュバスA「その多くは人類の敵にして、我々サキュバスの敵。数えられる程度の人数だけが味方につきましたけれどもね」

千年前の魔王侵攻、その大戦を彼女は生き延びた。
夏に出会ったサキュバスCも同様に、右脚と片翼を失いながらも魔界へ帰還した。
その戦で魔王についたインキュバスは全滅し、人間の味方となった者もまた同じ。
数百体の魔族をたった一人で倒し、竜を一撃で屠った者すらいたという。

サキュバスA「人類の敵の末裔か、それともあなたの側か。……これから、詳しく話を聞きに参ります。ご一緒なさいますか?」

勇者「ああ、行く」

サキュバスA「それでは、参りましょうか。隣女王陛下は?」

勇者「サキュバスBに任せてある。あまりはしゃぎすぎないように伝えてあるが……どうかな」

サキュバスA「先ほど、色々と遊び道具を物色しておりましたわ。今夜の予習でもするのかしら」

勇者「……不安だなぁ、何もかも」

サキュバスA「本当であれば、私ものぞ……もとい、監視に参りたいのですけれど」

勇者「覗きって言おうとしたな?」

サキュバスA「『淫魔幼女、禁断の性教育! ~お兄ちゃん、やさしくして~』と言った所ですわね。文章に起こして売ろうかしら?」

勇者「タイトルをつけんな! いいから行くぞ、いいから!」


別館は、本館に比べるとずっと小さい。
一応最低限の客室も備えており掃除もしてはいるが、使われたことはないという。
先代の女王が誰かを泊める時に使っていたとも言うが、サキュバスAでさえ、詳しくは知らないのだという。

『インキュバス』が休んでいるという部屋の前には、警衛のサキュバスが二人。
その二人とともにサキュバスAに部屋の前で待つように言い渡し、一人で入室する。
無論、剣は帯びている。

目を覚ましていた『彼』は、身を起こし、ベッドの上から一礼した。
こちらの姿に薄らと見覚えがあるのか、どことなしに表情は明るい。
立ったままベッドの脇に立つと、いくつかの質問を試みる。

勇者「……名前は言えるか?」

???「え、えぇと……イン娘、です。ボクの名前……。あなたは? 人間、です……よね?」

イン娘、と名乗ったインキュバスは、改めてみると、整った容姿だった。
誰かに洗われたのか、つぶれていた黒髪はサラサラと流れて輪郭をぼやかし、長い睫毛を従えた瞳は優雅な鳶色をしていた。
病衣じみた寝間着の背からは未発達な翼がはみ出し、ひらひらと蝶のように羽ばたいている。

少年めいた少女にも、少女めいた少年にも見え――向ける角度で、さまざまな表情を見せる。


勇者「そうだが、色々あって、この国の王だ。勇者、でもいい。で、何者だ? どこから来た」

イン娘「淫魔、です。あ、この国って……淫魔の国、なんですよね?」

勇者「そうだ。で、どこから来たんだ?」

イン娘「どこ、って……どこだろう、分かりません。気付いたら……」

勇者「何か覚えている事は?」

イン娘「……ごめんなさい、それも覚えていません。ボクが淫魔だ、魔族だ、って事しか」

しゅんと俯く姿は、嘘をついている風ではない。
仮に嘘をついていたとしても、問い詰めれば口を紡ぐだろう。
この件に関して、今彼から引き出せる情報はこれ以上ない。
それよりも、サキュバスA達に話を聞くほうがまだ広がりがある。
種族そのものへの情報が、現時点であまりに少ない。
いつか書斎で学んだ時にも、『インキュバス』の情報はまるで入ってこなかった。
――――絶滅した種族、だからだ。

イン娘「目覚めたら、あなたが……ボクを抱き留めててくれて。そこからしか、何も。」

勇者「……分かった、信じよう。それと、一ついいか?」


イン娘「え、何……」

どうしても確かめたい事があり――――すっ、と彼の薄い胸に手を伸ばし、触れる。

イン娘「ひゃあぁっ!? な、何するんですかっ! 変態!」

反応は、『少女』だ。
さっと身を引き、手を払いのけ、余韻を消すように両手で胸を抑えていた。
『少年』めいてはおらず、抗議の声ですらも初心な反応を示す。

勇者「す、すまない。つい……」

イン娘「やめてくださいよ! そういうのはよくないですよ!?」

勇者「……そ、そうだな、うん。そうだ。言うとおりだ……な」

扉の向こうで、誰かが噴き出すような声が聞こえた。
あまりに新鮮な調子につい動揺してしまい、二の句が告げられない。
正論が心に突き刺さってしまい、動き出すまでに少しの時を要した。

勇者「ともかく、分かった。少し休むといい。体の調子は?」

イン娘「大丈夫、ですよ。……あ、でも……」

勇者「でも?」

イン娘「いえ、何でもありません。まだ……はっきりとは掴めてなくて……」

勇者「何かあったら、すぐに人を呼べ。俺も様子を見に来るから。な」

イン娘「はい、分かりました。また来てくださいね。もうヘンな事しないでよ?」

勇者「…………はい」


立ち上がり、扉の前に来ると扉が開かれた。
サキュバスAは肩を震わせ、不自然に目を合わせないようにしている。

勇者「覗いてたな、お前?」

サキュバスA「いえ? して、何か申しておりました?」

勇者「何も。何も掴めはしなかったな」

だが、収穫が無くは無い。
話し、触れ、いくつかの違和感を掘り出す事ができた。
自らをインキュバスと言わず、『淫魔』と呼んだ事。
いきなりそうされれば無論驚くだろうが、あまりに過敏なあの反応。
考える材料を発掘できた事は、今のところでは上々だ。

勇者「目を離すなよ。何か気付いたら知らせるんだぞ」

サキュバスA「……隣女王陛下がお待ちとの事です。今のうちに、少し話されては?」

思えば、彼女にろくに挨拶もしていなかった。
サキュバスAをその場へ残し、本館へと戻る事とした。
昨夜の不可思議な気配も、まだまだ謎だ。

勇者「…………どこかで、会ったのか?」


やがて夜が訪れ、二人の少女が寝室へとやってきた。
一人はサキュバスB、そしてもう一人は――――隣国の女王。

サキュバスB「お待たせしました、陛下! さ、えっち指導しちゃいますよー?」

どこか嬉しそうにあっけらかんと言い放つ彼女に対して、隣女王はあくまで初心な反応を見せる。
身を覆う薄手の衣は前で合わせるだけで、帯すらついていない。
褐色の肌を紅潮させ、これから行う事を思い、照れているようだ。

勇者「お前、少しはな……」

サキュバスB「え? えっちですよね? いちおー予習もしてきたんですよ? ね?」

隣女王「は、はい……でも、いざとなると……その……」

サキュバスB「だいじょーぶです! 私がなんでも教えちゃいますから!」

とん、と背中を押され、隣女王が少しよろめく。
その拍子に薄衣の前がはらりとめくれて、少し汗ばんだ褐色の膨らみが覗かせた。
下着は、ない。

隣女王「きゃあぁっ!?」

恥じらう姿を見て、高揚よりも不安感が勝ってしまい、つい訊いた。

勇者「……やはり、止めておこうか?」


サキュバスB「?」

勇者「本意でないのなら、俺だって本意じゃないさ。そもそも……君はまだ12だ。いくら何でも、まだ早いだろ」

小刻みに震え、曝け出してしまった胸元をさらに覆うようにする姿は、そそるというよりは気が引けた。
少し気分が盛り上がってはいても、それすらも萎えてしまうほど。
ベッドの縁に腰掛け、次の言葉を探す間、彼女はずっと俯いていた。
サキュバスBは彼女なりに空気を察してか、ちらちらと交互に見ている。

勇者「やっぱり、やめにしないか。理由を聞いて納得はしたけど……さ。何か違う気がするんだ。今も言ったが、君はまだ――――」

隣女王「―――です」

かぶせるように紡がれた言葉は、毅然とした決意を伴っていた。

隣女王「私は、13歳になりました。――――子供、と仰るのであれば認めましょう。しかしそれでも、私は淫魔なのです。知らねば、身につけねばならないのです!」

彼女は、はっきりとこちらの眼を見据えて叫んだ。
もはや、その意思の言葉には返答すら許されない。
それほどまでに強い、決意に――――サキュバスBも、圧されていた。

隣女王「陛下、今宵はどうぞよろしくお願いいたします。……サキュバスBさんも」

サキュバスB「あ、はい……」


前もってサキュバスBに説明した時に、伝えておいた。
もしも最中に隣女王の様子がおかしくなったら、何をしてでも止めろ、と。
尻尾で首を絞めて落とすなり、魔術で眠らせるなり、水をぶっかけるなり、どんな手段をとってでも。
一国の女王に対する扱いではないが、そうでもしない限り、止められはしない。
特に人間の男性である勇者にとって、抵抗する事はできない。
そう告げるとサキュバスBは苦笑したが、勇者と堕女神の真面目な表情を見て、すぐに納得してはくれた。


サキュバスB「それじゃ、まず。……見て、触れる事から初めましょっか?」

いつの間にか、主導権は彼女が握ってしまっていた。
その事については驚くに値しないが、それはそれで、釈然とはしない。
薄暗く、弱々しい蝋燭の火が室内へ照らし出すのは、二人の少女を侍らす、勇者の影。
その実は、二人の淫魔に弄ばれるようなものだ。
魔国の王と、その従者と、隣り合う小国の女王。
だがその本質は、一人の人間と、二人の魔族なのだから。

半ば言われるがままに、下履きを脱ぎ、下着を下ろす。
意思とは反して、股間は硬く結ばれかけてしまっていた。
数日前の余韻がなおも残っているかのように、だ。
昨晩も思えばそうだった。頭を整理するために一人で眠ったが、真夜中、突如としてせり上がり――――収まるまで眠る事ができず、悶々としていた。

サキュバスB「わはっ……すごぉい、陛下。まだ何もしてないのに!」

嬌声が聞こえ、それがまたしても羞恥を煽る。
隣女王は、初めて見るそれに怯えるかとも思ったが、逆。


隣女王「こ、これが……殿方の……? 本当に、このようなものが、入……」

目を爛々と輝かせ、息がかかるほどの距離で見つめられていた。
反り上がったそれと比較すれば、彼女の顔、とくに口はとても小さい。
たとえば限界まで口を開いたとしても、どうやっても空間として収まる訳はない。
指三本咥えただけでさえも裂けてしまいそうな桜色の唇が、今はただひたすらに艶めかしい。
夜の帳と燭光には、そうした魔力がある。

勇者「……っ!?」

鈴口に走った触感が、思わず腰と声帯を跳ね上げさせた。

隣女王「あ、す、すみませんっ! つい……!」

サキュバスB「触れるだけ、って言ったじゃないですか、もー……ぺろぺろするのはまだですよ?」

思わず、舌が出てしまったらしい。
口元を抑え、つまみ食いを見つかってしまったような表情は、行為とは裏腹に無垢でもある。
それでも視線はモノから外れず、食い入るように、またそうしている自分を恥じるように、もじもじとベッドの上で身をくねらせていた。

勇者「順を追って、な。俺の事は気にしなくていいよ」

隣女王「それでは……失礼します。加減が分からないもので……」

そろりそろりと小さな手が伸び、真珠のような爪を伴った指先が、触れた。
妙に感度が高まり、それだけでも達してしまいそうな、背徳的な愉悦が心を駆け抜ける。
隣女王は、まるで横着をしてテーブルの向こうの物を取るかのように、一生懸命に手を伸ばし――――指の腹で、勇者自身を撫でた。


隣女王「熱い……ですね。とても、熱い」

サキュバスB「次、優しく握ってみてください。大丈夫、折れちゃっても……わたしが治しますからね?」

勇者「おい、ヤな事を言うな……くっ!」

次に、隣女王の右手がゆっくりと閉じ、しっかりと握られた。
それでも小さな手の人差し指と親指は接さず、猶予がある。
掌はとても汗ばみ、じっとりとした湿り気が、茎へと沁み込んだ。
そうしていると、彼女は手を上下させて、包み込みながら撫でた。
自覚のない手淫が責め苛み、いつも淫魔にそうされるのとはまた別の快感が、寄せては返し、徐々に大きくなる波のように脳髄を侵し始める。

隣女王「あの、痛くは……ありませんか?」

勇者「あ、あぁ。大丈夫……大丈夫、だから」

拙い手淫は、不規則なリズムで続く。
カリ首まで達し、指で作った輪を押し広げながらも亀頭を包む。
下りていく手の小指が陰嚢に突き当り、少し戸惑いながら、再び上昇する。
しばしそうしていると、早くも――――下腹の奥で、何かが噴きこぼれるような感覚が襲ってきてしまった。
だが、隣女王はそんな事も露知らず、必死に扱き続ける。

勇者「あ、くっ……! で、出るっ…出る、から……!」

隣女王「えっ? な、何を……」

こらえようと思った時には奔流は、すでに屹立した男茎を噴き登ってきていた。
状況を理解できない隣女王が、きゅっと力を加えたその時――――――

隣女王「きゃあぁぁっ!?」


具に観察していた隣女王の顔に、火傷しそうなほど熱い白濁が降りかかった。
端整に整った顔は真っ白に染まり、束ねられた銀髪が、灰汁をかぶったように濁る。
驚きに見開いた拍子に目に入ったのか、小さな女王は両目をぎゅっと瞑り、二の腕でこするようにしていた。

隣女王「けほっ、けほっ……これは……」

サキュバスB「あはは、もう出ちゃった。隣女王さま、やりますねー」

隣女王「えっ……?」

サキュバスBが、けたけたと笑い、感嘆する。
次いで、彼女に何が起こったのかを説明しはじめた。

サキュバスB「これが精液ですよー。男のヒトがきもちよくなったら出ちゃうんです。サキュバスのエネルギー源でもあります」

隣女王「これが……? そ、の……赤ちゃんを、作る……って……」

視界を取り戻した隣女王が、ぼんやりと目を見開いて、指先にそれを集め、ねちゃねちゃと糸を引かせた。
どろどろに濁った顔は紅が差したように染まり、恍惚の表情さえ見て取れた。

隣女王「…いい、匂い……おいし、そう……」


勇者「隣女王……?」

呼びかける暇もなく、少女は指先を舐めて――――口内でくちゅくちゅと味わった後、飲み下した。
ほのかに顔を顰めはしたが、吐き出す事はない。
その後の表情は、甘露を飲み干すような、充足に満ちた微笑みさえ浮かべていた。

隣女王「……あっ…の、飲んでしまい……ました……!」

サキュバスB「い、いきなり飲んじゃうなんて……大胆ですねぇ。すごいです。……おすそ分け、もらってもいいですか?」

隣女王「え……?」

二人の情事に中てられたのか、次は彼女が隣女王へ迫った。
広いベッドの上で、猫が毛繕いをし合うように――――サキュバスBが、隣女王の白く染まった顔へ舌を這わせた。

隣女王「く、くすぐったい……です! いけません、そのような事……!」

サキュバスB「ふふっ……甘くて、苦くて…おいしーですよー。隣女王さまの汗も、しょっぱくて……お顔も柔らかくて」

ミルクの泡を浮かべた茶でも嗜むように、彼女は奇襲の舌を止めない。
隣女王も困惑しながら突き放そうとするが、敵わない。
白濁が嘗め取られるごとに、褐色の肌が、サキュバスBの唾液でてらてらと光っていくのが見えた。

一嘗め、二嘗め、三嘗め。最初こそ抵抗していた隣女王も、されるがままとなっている。
サキュバスBにがっちりと抑えられた小さな顔にはもう精液は残っていない。
だというのに、いとおしそうに、淫魔のじゃれ合いは続く。

隣女王「あっ…うぅ……やめ、て……くださ……」

続きはまた明日ね
時間が空きすぎて何もかもgdgdに感覚忘れてるなぁ

書き忘れに書き忘れましたが、このスレは
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
の後日談です

それではまた明日会いましょう

期待しちゃうからageんのはやめろ

>>141
ageられたのなら投下すればいいじゃない
という訳で始めます

>>128より

サキュバスB「次、陛下の番ですよ?」

勇者「え?」

半ば蚊帳の外だった勇者に、今度は告げられる。

サキュバスB「ほら、一緒に……隣女王さま、気持ちよくさせてあげましょー。こっち来てくださいよ」

気付けば、隣女王はベッドに組み敷かれていた。薄衣は乱れ、裾からほっそりとした、それでいて肉感も残した太ももが露わとなっている。
胸元も大きくくつろげられ、なだらかな砂丘のオアシスのような乳首が、衣の下からぷっくりと浮き出ている。

サキュバスB「ほぉら、脱ぎ脱ぎしましょー」

隣女王「……はい………」

サキュバスBが、ゆっくりと彼女の服を脱がせる。
前で合わさっていただけのそれは、扉を開くように、するすると解かれていった。

全身にキラキラと輝く汗は、ミルクを溶いた『珈琲』のような褐色の肌を艶やかに強調させる。
平坦で、乳首だけが存在を主張させているような胸。
細く切れ込んだ臍を中心にいただいた、柔らかそうな腹。
毛も生え揃っていない、余分を省いたような縦一文字の秘部。
芸術的なまでの脚線の先には、桜貝にも似た爪。

触れがたいような少女の裸体は、淫魔に特有の、雌の色気も従え、混ざり合い――――狂気じみたほどの色気を醸し出していた。


隣女王「あ、あの…恥ずかしい、のですが……!」

サキュバスB「だいじょーぶだいじょーぶ、私も脱ぎます。みんな。ね?」

言うが早いか、彼女もさっさと脱ぎ捨て、勇者にもそうするように目配せした。
勇者が脱いでいる間にも、サキュバスBは、彼女の首筋に残った僅かな残滓までも舐め取っていった。

勇者「サキュバスBお前、、やけに押しが強くないか?」

サキュバスB「えっ……そうですかね? まぁいいじゃないですか。ほら、陛下も一緒に」

半ば言いなりになるように、二人に近づく。
組み敷かれ無防備な隣女王の姿は、情欲をどこまでもかき立ててやまない。
怯えるような――――それでいて、何かを期待するような表情も。
薄い胸は強い鼓動で見て取れるほど上下し、そのたびに、ぴょこんと立った乳首が、風にそよぐように主張していた。

隣女王「何を、なさるの……ですか…?」

サキュバスB「えっと……そうですね。ちょっと慣れてから…軽く、イっちゃいましょっか」

隣女王「いく、とは……?」

サキュバスB「ん、んー……。ちょっと説明できないです、ごめんなさい。大丈夫、痛い事しないですから! ね!?」

隣女王「は、い。お願い……いたします」

サキュバスB「それじゃ、陛下。前からお願いします」

勇者「……前?」


促され、されるがままの隣女王の足側へ移動し、次を待つ。
近づくたびに少女は視線を揺らし、無意識に身をよじって逃れようともしていた。

隣女王「は、恥ずかしい……恥ずかしいです、陛下……」

間近で見る隣女王の裸身は、肌理の細かさも、立ち昇る汗と呼気の甘酸っぱさも、全てが男を誘うためのものとしか思えなかった。
熱く潤んだ瞳の奥にある微かな怯えは、さながら魔眼だ。

サキュバスB「よい、しょっ……と!」

隣女王「あっ……!」

頭側に移動したサキュバスBが、隣女王の両脇に下から手を入れて、ぐっと引き寄せた。
隣女王はサキュバスBに背中を預けてだらしなく座るような格好になり、咄嗟に開いた脚の間から、小さな割れ目が覗かせた。

サキュバスB「それじゃ、早速……えいっ」

悪戯じみた声とともに、彼女の両手が、ささやかな双丘に向かう。
指の股に乳首を挟み込むようにして、きゅっ、と捕まえてしまった。

隣女王「ひゃぅっ!?」

今はまだ、驚きの声だ。
甘みは未だ含まれず、羞恥と、驚きと、若干の怖さが勝っているようだ。
それを分かってか、サキュバスBはゆっくりと、こね馴染ませるように彼女の胸を愛撫する。


サキュバスB「わ、すごい手触りです。おっぱいが手に吸い付いちゃうみたい……」

隣女王「やめ、て……ください……」

解きほぐすような手の動きが、少しずつ範囲を増していく。
指の間から見える乳首は、触れれば爆ぜてしまいそうなほど、硬くしこっていた。

サキュバスB「ほらほら、陛下も。手でしてくださいよー。お口はだめですよ? おあいこですから!」

勇者「楽しそうな奴」

隣女王の声が、喘ぎ声へと変わり始めた頃――――脚に近づき、彼女の膝に片手をかける。
力を加えて、開かせようとした時、慌てるような声が聞こえた。

隣女王「あの、陛下っ…そ、そこは……」

サキュバスB「隣女王さま、だめですよ。陛下のおちんちん見たんですから、よく見せてあげないと。ね?」

ぐっ、と押し開けて細い右脚をほぼ平行へと傾けると、ひくひくと揺れて清水を流す、小さな褐色の土手が間近に見えた。
しばし、観察していると――――その下にある桃色の蕾が収縮して窄まった。
気恥ずかしさに括約筋をつい食い締めるが、サキュバスBの愛撫ごとに再び緩まり、息をするように、二つの口がぱくぱくと蠢く。

隣女王「や、やだ……このような……破廉恥な姿を……」

いやいやをするように頭を振る隣女王の耳元に、サキュバスBが口を寄せ、囁いた。

サキュバスB「慣れないと、ですよ? 男のヒトってみんなえっちなんですから、見せつけちゃいましょー。ほら、陛下……早く、してあげて」


妙な流れに促されるがまま、ぐっ、と身を乗り出し、隣女王の恥部へ指先を伸ばす。
ふっくらとした、血色の良い無毛の聖地は弾力があり、ぷにぷにと指を撥ね返すようだ。
生物のように震えたかと思うと、濡れた綿を圧したように、じわっと清水が滲む。
ぴっちりと閉じた筋目の向こうには、たっぷりと蜜を貯え、堪えているのが感じ取れた。

隣女王「きゃんっ!」

サキュバスB「えへへ。えっちな声……出ちゃってますよ。これは早くも効果アリですねー」

触れると同時に爪で乳首の尖端をきりきりと穿られ、隣女王の声が嬌声へと変わる。
負けじと指の腹を割れ目へ這わせ、柔らかく擦り上げる。

隣女王「な、何か………へん、な感じで……」

サキュバスB「どんな感じですか?」

隣女王「お腹、なか……熱くてむずむず、して……ひぅっ! 心臓、も……」

サキュバスB「なるほど。……もーっと可愛いトコ見てたいですけど、それじゃお勉強になりませんしね。早くイっちゃいましょっか、もったいないけど……」

言うとサキュバスBが目配せし、三度小さく頷き、タイミングを測らせた。

三度目に合わせ、指を深く沈ませて激しく擦り上げる。
中に入ってしまわないよう細心の注意とともに、小さな縦筋を愛でるように、内側にある蜜の海をくすぐるように。
合わせて左手で抑えた太ももを担ぎ上げ、羞恥心を煽るように大きく股を開かせた。


隣女王「んあぁっ! そんなに、したら……だめ、駄目……ですぅっ! な、何か…お腹で、あばれ……て……! いやぁぁっ!」

サキュバスBの受け持つささやかな乳房も、小さな掌の愛撫でぐにぐにと形を変えていく。
未発達でまだ痛覚も残したままの種のような乳だというのに、隣女王は痛みも見せない。
まがりなりにも淫魔であるため、その技は折り紙つきだ。
ぴんと尖った乳首は、今にも爆発してしまいそうなほどに昂っていた。

隣女王「だっ……だめ、だめだめだめっ! からだ、なにかおかしく……こわい、こわいぃぃっ!!」

サキュバスB「怖くない怖くない。大丈夫、私も陛下もここにいますよ。いっしょですよー。だから、ほら……イっちゃえー!」

隣女王「んぁ、ぁぁっ! イっ……イき、ます……わたし、イって……しまいますぅ!」

ぎゅむっ、と乳首を抓まれた瞬間――――隣女王の背は弓なりに反れて、足の指がシーツをぎゅっと掴んだ。
サキュバスBは右太ももと左腕に深く爪を立てられ、苦悶の表情を見せつつ、堪えた。
二度、三度めの痙攣とともに秘部が蠢き、きゅっと指の腹を締め付けてから、緩んだ。



隣女王「ふ、ぁっ――――はぁ、はぁ……わ、わたし……は……?」

再び彼女が意識を取り戻した時には、布団の中だった。
涙と唾液で濡れていた顔もすっきりと拭き取られ、先ほど起こった事は夢にも思えるような、落ち着いた空気が流れていた。

サキュバスB「あ、お、起きました……ね? あの、そのですね?」

身体を起こすと、ベッドの端にサキュバスBが正座している。
慌てるように、彼女はそのまま体を前に倒し――――

サキュバスB「ごめんなさい、ごめんなさい! つい調子に乗っちゃいました!」

隣女王「えっ!?」

勇者「お前は…………そろそろ本気で減給するぞ?……いや、俺も悪ノリ……した、けれど……」

ベッド脇に、薄いシャツを羽織った勇者がいる。
気まずそうに水を飲み、呆れたような目を彷徨わせていた。

勇者「俺からも謝る。すまなかった、許してくれ。悪ふざけが過ぎた……」

隣女王「え、え……?」

やや狼狽え――――頭を下げる両者を交互に見てから、隣女王はにこりと微笑み、告げた。

隣女王「……どうか、頭をお上げになってくださいまし」

サキュバスB「……ゴメンなさい……」

隣女王「お二方のおかげで、私はまた一つ、知る事ができました。……本当は、少し怖かったですけれど」


勇者「申し訳ない……」

隣女王「そ、それで……ですね。つ、次は……何を、教えてくださるのでしょうか?」

サキュバスB「えっ」

隣女王「で、ですから……もう一度……ですね……」

それきり、隣女王は引き寄せた掛布団で顔を覆い、耳を真っ赤に染めて押し黙ってしまう。

勇者「……だが、時間がなぁ」

柱時計を見れば、もう暁に近い。

サキュバスB「それじゃ……このまま、みんなで寝ましょっか」

言うと、サキュバスBは布団へ潜り込み、裸のままの隣女王を胸に抱き寄せ、横たわった。
それに倣って彼女の反対側へ入り込む。

サキュバスB「続きはまた明日、って事で。ね?」

隣女王「はい、……楽しみにしておりますよ」

短いのですが投下終了
ヘタをすれば年内最後の投下かもしれない

考えた結果、堕女神責められシーンは蔵入りとします
多分書いた時は厭世的になりすぎていたかもしんない
ではまた次回

ああ、そういえばもう三年になるのか、早いなぁ
しがみついてるなぁ、自分

あけましておめでとうございます
待たせて申し訳ない、0時ごろから投下しますー

投下開始です
>>152から

翌朝、朝食を終えてあの少年のいる別館へ向かった。
隣女王はどこに行くのかと不思議がっていたが、堕女神の取り成しでどうにか事は明かさずに済ませた。
警備に話を聞けば、昨夜はとくに異変は無かったという。

勇者「邪魔するぞ」

イン娘「……あ、勇者、さん。おはようござい……ます」

扉を開けると、『彼』は少し顔色が悪かった。
どこかぼんやりとした様子も見て取れ、好調ではなさそうだった。

勇者「眠れなかったのか?」

イン娘「はい……。なんだかずっと目が変に冴えちゃって。でも、今寝ると夜に眠れなくなっちゃうし……今日こそ、眠れるかなって……」

勇者「ひょっとして、この国で目が覚めてから一度も寝てないのか?」

イン娘「はい。……もう、二日に、なります」

勇者「二日間……。後で誰かを寄越して、体の具合を見てもらおう。どこか悪いとしか思えないな。メシは食ったのか?」

イン娘「え、ええ。すごくおいしかったです」

勇者「少し、外でも歩くか? 歩けるようなら、でいい」

イン娘「えっ……いいんですか?」

提案すると、イン娘は隈の出来かかった顔を綻ばせてみせた。

勇者「ちょっとぐらいは構わないよ。……とりあえず、服は用意してあるみたいだ。着替えられるか?」

部屋の隅に畳んで置かれている衣類を一瞥して訊ねると、逡巡し……どこか怯えるような様子で、イン娘は答えた。

イン娘「ごめんなさい。恥ずかしいから……き、着替えるので……その……」

勇者「ん……?」

イン娘「見ない、で……ほしくて……」

勇者「……あ、あぁ。そうか、分かった。外で待つから、着替えたら出てくるといい。外の者には言っておくから」

室外の使用人に事情を話し、別館の外で待つ。
今日は少しだけ晴れ間が覗くが、その分雲の切れ目から暖気が逃げて冷え込む。
木に止まる小鳥は羽を膨らまし、身を寄せ合って動かぬようにしていた。

あれから堕女神の様子も、落ち着いた。
イン娘の現れた翌日は、終日もじもじと落ち着かない様子で、執務の合間にも、妙に距離を詰めてくる傾向にあった。
逆にこちらが「執務中だ」と諌めるようなことまであり、違和感ばかりを覚えてしまったほどに。
だが結局、その時は押し切られてしまい――――搾られた。

勇者「いや、淫魔の国だから普通……なのか? ナイトメアの言うとおり、今までが変だった?」

としても、変化があまりに急だった。
急変の理由をいくら考えても答えは出ず、やがて扉が開かれ、待ち人が出てきた。

勇者「遅――――なんだ、その服は!?」

イン娘「えっ……変、ですか?」

外に出てきたイン娘は、服を着ていた。
――――女性物の、やや簡素なブラウスと、スカート、外套を。

イン娘「と、とくにおかしくはないと思うんですけど……どうしました?」

勇者「…………いや、もういい」

心から、おかしくはないと思っているようだった。
戸惑った様子で体をねじって服装の乱れを見直しているが、それ以前の問題がある。

勇者「……とりあえず歩くか」

考えても見れば、淫魔の国に男性用の衣類などあるはずもない。
少なくとも市販されてはおらず、勇者がふだん着る一点物では、『彼』にはサイズが合わないだろう。


勇者「おい」

イン娘「はい?」

勇者「その、下……も……か?」

イン娘「へ? 下?」

勇者「何でもない。いいから、散歩してくるといい」

イン娘「はい、分かりました」

勇者(似合ってるけど……似合ってるけどさ。違和感無いが。そういう問題じゃ……)

彼は、ゆっくりと踏みしめるように隣接した庭園へと歩いて行く。
後ろから見ると――――前から見てもだが、その姿は少女に、『サキュバス』にしか見えない。
垂らした尻尾も、角も、小さな翼も、青白い肌も。
だがそれでも、『彼』はサキュバスではないという。
何名かが庭園を周る少年を監視し、別館の屋根や城館の尖塔にも、目を光らせている者が見えた。
そうまでして監視せねばならないほどの、イレギュラーなのだ。


彼を横目に見ながら歩いて行くと、雪上に変わった足跡があるのを見つけた。
さながら巨大な鉤爪のような足跡と、靴跡とが交互に続いている。

勇者「……まさか、な」

その足跡は別館の裏まで続いているようで、かすかな追憶と共に興味を引かれ、辿ってみる事とした。

鉤爪の足跡は深く刻まれ、雪の下にある芝まで達しているものまである。
反面、靴跡は浅く新雪をなぞっていた。
数十歩も行くと、角を曲がり、別館の裏手側へと行き着いた。
そこで足跡は不自然に途切れており――――終端まで行くと、後頭部にぼふっ、と軽い衝撃が走り、
外套の首元から冷たいものが入り込んで背筋を冷やした。

勇者「っ冷、たっ……!」

手をやると砕けた雪が付着しており、ようやく、誰かに投げつけられたのだと気付いた。
後方を振り返り、そこにあった庭木を見上げると、足跡の主が、いた。

???「ははっ、命中。騙されてんじゃねーよ、鈍ってんな?」

けらけらと笑う声は、忘れもしない。
夏に出会った隻脚の淫魔、――――サキュバスC、だった。


その右脚は、不釣り合いなほど大きな真鍮の脚甲と一体化している。
左脚は踵の高いショートブーツと腿までのソックスで覆われ、下半身はスリット入りのスカート姿だった。
上は飾り気のない黒い絹のインナーとフード付のベストという、農園で逢った時とは違う、洒落た衣装を着こなしている。

サキュバスC「……んだよ、怒ったのか?」

無言で見つめていると、どこか心配そうな様子で彼女が言う。
だが視線は、無防備にぶらぶらと投げ出した脚の付け根にある。

勇者「白」

サキュバスC「あ?」

勇者「冬だから、白か?」

サキュバスC「はぁ? ……て、てめぇ!」

一瞬で顔を赤く染めたサキュバスCが、抗議するべく樹上から飛び降りる。
その瞬間に右脚の爪痕が雪上に深く刻まれ、粉雪が舞いあがった。

サキュバスC「勝手に見てんじゃねェ!」

勇者「国王に雪ぶつける奴が何言うか! だいたい何で白だよ!」

サキュバスC「アタシの勝手だろボケ!」

ひとしきり強く言い合って再会を確かめた後、ようやく、本題に入る。
まず、二つの意味を込めた問い掛け。

勇者「……で、何でここにいる?」


サキュバスC「今は城下町に住んでるからさ。夏だけはあっちで過ごすけどよ。……城にいる理由か?」

勇者「白を穿く理由もな」

サキュバスC「しつこい!」

勇者「つい。……で、何故なんだ?」

サキュバスC「いんや、別に理由はねーよ。強いて言えば、インキュバスのガキを見に来た?」

そう言うと、彼女は尻尾を振り、バランスを取って歩きながら建物の壁へともたれ、腕組みする。

サキュバスC「まぁ、それはそうとだ。何か変わった事とかねぇの?」

勇者「変わった……?」

サキュバスC「インキュバスは異物さ。異物が紛れ込めば場が乱れる。何も起こってない訳がネェ」

勇者「……異物か。皆そう言うよな」

彼は、この国のサキュバスとそう変わってはいないように見えた。
性別が違うだけなのに、サキュバスAも、誰もが彼を警戒している。
彼を見張っている者達の顔にも、油断は無い。

サキュバスC「やり過ぎ、過敏、って言いてェのか? ……あのクソ連中が人間の女をどう扱ったか教えてやってもいいぜ」

言葉に混じったのはいつもの露悪的な物言いではなく、心からの軽蔑、憎しみだった。
その様子と、言外の意図が感じ取れた時、勇者の心は重く澱んだ。
想像する事すらも覚悟がいる、そんな予感がしたからだ。
表情を曇らせると、彼女が場の空気を察したのか、ふっと微笑んで続けた。

サキュバスC「――――なんてな。見たところ本当にガキみてェだし、今警戒する必要はそんなにねェ。それに」

勇者「それに?」

サキュバスC「ンな事考えるのはアタシの仕事じゃねーし? まぁ、肩の力抜けよ。……で、何か変わった事は無かったワケ?」

勇者「変わった……か」


彼がやってきた晩、城内に張り詰めた威圧感。
その直前の、堕女神ともども正気を失ったような情欲。
この二つが目下の異変としてはある。
しかし前者はともかく、後者は口には出しづらい。

勇者「……いや、ちょっと分からないな」

サキュバスC「あっそ。まぁ、何も起こらなきゃそれでいいさ。だけどアイツをどうするかは決めときなよ?」

勇者「どうするか……か」

サキュバスC「お客さん扱いしとくワケにもいかねーだろ? 置くんなら、何かさせろって話よ」

勇者「どうするべき、なんだろうな」

サキュバスC「アタシに訊くなっつの。ちなみにだけどさ、あのデカ乳は?」

勇者「……もしかして堕女神の事を言ってるのか?」

サキュバスC「あ、そーそー。意見聞くならそっちにしな。デカ乳なのにバカじゃない貴重な人材だぜ?」

言うと、彼女は壁から離れて右の片翼をはためかせた。
やがて数歩歩くと、翼を伸ばしてから振り返る。


サキュバスC「でもまァ、アタシの感じた事も言っといてやるよ。……あのガキ、何か妙だ」

勇者「妙?」

サキュバスC「敵意も悪意も感じねェ。多分ヤツの親父は、人間側についたインキュバスだ。
         ……なのに、何かおかしい。猫かぶってる訳でもなさそうなのにな」

勇者「そう、思うか」

サキュバスC「どっかで覚えがあんだけどな。……ぶっちゃけ不法侵入だし、もう行くわ。念のためにアタシも注意しといてやる」

勇者「ああ、すまないな。こっちも考えをまとめておくよ」

サキュバスC「んじゃ、これで。そろそろあのガキを迎えに行っとけよ? じゃーな」

やがて彼女は反発するように浮くと、真鍮色の風を残して、一瞬でその場から消えた。
別れの挨拶さえ待たずに、去った方角を目で追う事さえできなかった。

一人残された勇者は、しばし留まり――――そして、ひとまずはイン娘を呼び戻すべく、庭園へ向かった。


その後は、隣女王と昼食を摂った後に、書斎に向かった。
滞在中はサキュバスBが常に一緒にいるらしく、この後はサロンにてチェスに興じるという。
昨晩を経て更に打ち解けたらしく、この時ばかりは、隣女王も年相応、外見相応の少女に見えた。
ともかく滞在中の心配は、しなくていいようだ。


書斎でまず探したのは、千年前の文献。
多数の淫魔と少数のインキュバスが人間につき、
ほとんどの魔族種が魔王の側についた、絶望するような、千年前の勇者と魔王の物語。

挿し絵で見るインキュバスは、一級の礼装に身を包んだ白手袋の優男の風貌をしていた。
どれもが青年もしくは少年寄りの風貌をしており、壮年以上の者はいない。

夏に見た、妙な現実感のある夢を思い出す。
悪夢のような戦場で自分を『勇者』と呼んだ、満身創痍のインキュバスの姿を。
上空からはドラゴンの死骸が降り注ぎ、あちらこちらで負傷した兵士を治癒するサキュバスの姿が見られた、残酷なおとぎ話のような夢を。

探してみれば、文献が異常なほど少ない。
宙に浮かぶ書架を呼び出して集めさせても、数冊程度でしかなかった。
それも厳密にまとめた書はなく、挿し絵を挟んだ数章程度の歴史書がせいぜいだ。
まるで、そんな事件など無かったかのように――――しかし完全に無視もされていない。
タブー視はされていないが、積極的にもふれていない。
痒いところに手の届かない、あまりに奇妙な扱いだった。

机に可能な限りの書を開いて目を落としていると、書斎へ堕女神が入ってきた。
その手には、茶器を載せた銀製の盆がある。


堕女神「失礼いたします。……お茶をお持ちいたしました」

勇者「ん。ああ……どうも」

本を寄せて、盆を下ろすスペースを作りながらの返事は、どこか素っ気なくなってしまった。
堕女神は茶を注ぎながら、広げていた書物にちらりと目を向けた。

堕女神「何か、疑問が?」

勇者「色々と綯い交ぜに。どの疑問から片付けていいのかも分からなくてさ」

堕女神「私で何かお役に立てましたら、何なりと」

茶器を供する彼女の様子は、普段と変わりない。
少し指先が宙を泳ぐような仕草はあっても、気にするほどはない。

勇者「じゃあ、訊く。……堕女神は、どう思う。あのインキュバス」

堕女神「どう、とは……」

勇者「どうするべきなのかが分からなくてさ。どう扱うべきなんだろう」

問うと、堕女神は少し間を置き……やがて、答えた。

堕女神「この場にいるはずのない、という点では……私と同じですよ。そして陛下とも」

勇者「いるはずのない?」

寂しげな答えではあるが、彼女の表情は柔らかく澄んでいる。
続く言葉を待つ間にカップを傾けると、ほのかなブドウの芳香が口に広がった。

堕女神「私は神の座を降りてこの国へ流れ着き、貴方もまた、『勇者』の役目を終えてこの国の王となられました。
     ……異質な存在はお互い様ですよ。そういう意味では、私は彼を受け入れようと思います」


堕女神「ともあれ、今はまだ様子を見るべきですね。……不覚にも、彼が現れた晩は、どうにも……記憶が、その……なので」

勇者「正直……どこまで覚えてる?」

堕女神「えっ!?」

勇者「いつ頃まで意識があった?」

堕女神「…………言わねばならないのでしょうか」

勇者「どうもあの晩は様子がおかしかったんだ。俺も、君も、城の空気もな」

堕女神「そ、う……ですね。ええ。……寝所に忍んだ所、までは……」

彼女の返事は、歯切れが悪い。
何かを恥じているような、同時にどこか寂しくも感じているような、諦念をも偲ばせる声色をして、もじもじと視線を彷徨わせた。

勇者「すまない。もう……あんな事にはならないから」

堕女神「え……いえ、その。……かしこまり、ました」

何かを補おうとしていた堕女神だったが、口ごもり――どこかずれた返事をして腰を折った。
食い違うような表情、応答に釈然としないものを感じながら、話は終えられる。

――――やがて夜が来て、再び、隣女王との時がやってきた。

新年初投下終了です。
あと三回か四回の投下で終えたいと思います。

初代スレを思い出すと、自分の投下量よりも感想や乙レスの方がずっと多くて嬉しかったなぁと。
Twitterもいいですけれど、生の反応が読めるのはやはり格別ですね。

それではまた次回

すまない待たせた
そんでは投下開始です
遅筆になりすぎだろ自分

>>220から


その晩は、雪に加えて風も強かった。
窓ががたがたと揺れて、大粒の雪が窓に吹きつけられる。
夕餉を終え、沐浴を終え、寝室で隣女王とサキュバスBを待つ間に、窓はすっかり雪と霜で覆われてしまった。
加えて室内の暖炉からくる寒暖の差によって曇り、既に窓は壁でしかない。
切れ間から覗くうすぼんやりと紫がかった空は、どこか不吉な前兆にすらも感じたほどだ。

もはや、『勇者』の剣は無い。
落ち着かない心持ちのまま、勇者は淫魔の国で受け取った剣を弄び、何度もその刃を検めた。

イレギュラーが今もこの場に存在している事が、あまりに落ち着かない。
具体的な不安は無いが、酷く落ち着かない。
中に何が詰まっているか分からない籠に、導火線が伸び――――ちりちりと火種が近づいているような。
何が起こるかは分からなくとも、その結果は恐らく良くないという、漠然とした確信が燻っている。

それが苛立ちに変わり始めた頃に、今宵の『相手』が訪れた。

低い位置からのノックの音がして、入室の意思が示される。

勇者「……いいよ、入って」


刃を鞘に押し込み、ベッド脇に立てかけて彼女を迎え入れる。
訪れたのは、隣女王のみだった。
さながら霧をまとっているような薄衣を羽織り、前夜とは違ってどこか爛々とするような瞳が、勇者に向けられている。

勇者「サキュバスBは?」

隣女王「彼女は……少し遅れるそうです。私に、先に行くようにと」

勇者「まぁ、待つか。楽にするといい」

隣女王「はい、陛下。……それでは、失礼」

隣女王がゆっくりと、それでいて物怖じせずに歩いてベッドに近づく。
暖炉の火に照らされた彼女の揺れる影が、長く伸びて窓辺を横切った。
そして、静かにベッドに上がると、足を小さく折り畳んで座った。

隣女王「陛下。お聞きしてもよろしいでしょうか」

勇者「俺に答えられる事なら」

隣女王に続いて、一人分の距離をとってベッドの縁に腰を下ろす。

隣女王「……『人間』から見て、『淫魔』とはどのようなものなのでしょう?」

勇者「『俺から』……ではなく、『人間から』見て?」

彼女は小さく頷く。
表情はどこかぼんやりとしており、眠気をこらえて熱を帯びているような、まどろむ寸前にも似ている。



勇者「……ありきたりなイメージしか持っていないだろうな。闇に乗じて忍び込み、男をかどわかす魔界の華、とか」

事実、『勇者』でさえそうだった。
古来淫魔に対して人間が持っている印象など、その域を出はしない。
ともかく、種族に対してのイメージは貧困。
どの国、どの伝承を紐解いても不変。

隣女王「……やはり、知っていなければならないのですね」

勇者「いや、そういう訳じゃ……」

隣女王「…………サキュバスBさんがいらっしゃる前に、ひとつだけ、もう一度だけ願わせていただけないでしょうか」

窓を揺らす風が治まる。
それは、彼女の――――小さな淫魔の女王の言葉を、待っているかのようだった。

隣女王「陛下。どうか……私の唇を、確かめてくださいまし」


顔を上げ、隣女王の姿を目に映す。
ベッドに腰掛けたまま、彼女は小首を傾げて、瞳を潤ませて答えを待っていた。
吐息が漏れる程度に開いた唇は艶やかな薄桃色をしているのが、薄暗い室内でさえ見て取れた。

拒めば、彼女は受け入れるだろう。
受け入れて――――二度と口にはしないだろう。

隣女王「私は、女王です。……ですが、今だけは……陛下に焦がれる、此の国の淫魔の一人として、接してはいただけませんか?」

彼女の願いは、それだった。
生まれながらに王女であり、生まれて十年ほどで女王となり、傅く者達で世界は埋まっていた。
早世した母には、とうとう甘える事さえも満足にできなかった。

彼女にとっては、淫魔の国の王となった勇者だけが対等、あるいは上の存在。
そして、唯一、生まれて初めて目にした――――異性。

勇者「……いいのか?」

隣女王「はい。……陛下でなければ、いや……です」

勇者は、彼女の願いを、聞く事に決めた。


広いベッドの上に脚を折り畳んで座る彼女の姿は、さらに小さく見えた。
海原に一人取り残された漂流者のような頼りなさに、隣国を治める女王の立ち振る舞いはない。
正真正銘、今ここにいるのは――――たったひとりの、小さな少女だった。

縁からベッドの上に脚を引き上げ、隣女王と向き合うと、近づいてきたのは彼女の方からだった。

小さな顔が近づくにつれて、幼さの取れはじめたような面立ちがはっきりと見えてくる。
長い銀色の睫毛は朝露のような涙を湛えて光り、その俗世離れしたような色気は、錯覚ではない。
明らかに――――彼女は幼さを少しずつ脱ぎ捨て、『淫魔』として咲き始めている。
心に、かすかに警戒心が募る。
彼女に自覚はなくとも、本質は、大口を開けて獲物を待つ剣呑な魔界の花なのだから。
心のどこかで、サキュバスBが早く来てくれることを願ってもいた。

気付いた時には、蜜のような吐息がかかるほど近くで彼女は目を閉じていた。
距離にして、指二本分。
最後の一押しを、彼女は勇者に委ねていた。

逡巡の後、彼女に応えるべく――――唇を、溶け合わせた。


隣女王の薄い唇が、ぴくりと波打ったのが伝わる。
張り詰めて暖かな唇は、乾いた冬の空気にも関わらず、柔く湿っていた。
唇の先から、ちょっとずつ、ちょっとずつ……押し付け合い、小さな唇が全て接するように、染み込ませるような口づけ。
それを遂げた時――――彼女の閉じた目から、一筋だけ涙が落ちた。

風の音も、暖炉の薪の爆ぜる音も聞こえない。
時間にして数秒のそれは、長く感じた。

やがて、隣女王から……ゆっくりと、唇を離し、距離は戻っていった。
余韻に酔っていたようでもある彼女は、やがて気恥ずかしそうに顔を綻ばせ、微笑んだ。

隣女王「……私の我が儘を聞いていただき、ありがとうございました」

勇者は、返事をするかわりに微笑みを返す。

隣女王「あの、陛下っ……」

勇者「何?」

隣女王「先に、しません……か?」

勇者「先に?」

隣女王「陛下と……二人で、もう少し……だけ……」


昨晩をなぞるように、小さな手が勇者の腰部を這い回る。
上体を起こしたまま、勇者は彼女の仕草を目で追う。
もう、彼女は男根を直視したとて目を覆わない。
むしろ、つぶさに観察するような……好奇心をたたえた視線を注いでいる。

隣女王「確か……この、ように……」

触れる瞬間だけは、強張る。
冷えた指先が触れた拍子に陰茎を強張らせてしまい、彼女は竜の尾でも撫でたように一度手を引っ込めた。

隣女王「あっ……。陛下、乱暴でしたでしょうか……?」

勇者「いや。……少し冷たくて、びっくりしただけだ」

隣女王「申し訳ありません、それでは……もう一度……」

右の指先が、今度は迷いなく、茎を巻いた。
人差し指と親指の間には少しの猶予があり、接かない。
触れられてしまえば隣女王の手の冷たさがむしろ刺激となり、海綿体に血が回される感覚がある。

何よりも強いのは、背徳感。
薄暗い室内、二人きりで過ごす相手は少女の姿。
そんな彼女に、今――――男を惑わす術を、手解きしている。
押し殺せない背徳感が、むくむくと鎌首をもたげてきてもいる。


自制しようと試みても、無謀だった。
目を逸らそうとすればするほど、呆気なく、滾った血が男根を起たせてしまった。

隣女王「本当、に……大きいのですね」

長さは、すぐ近くにある隣女王の顎から額までは優に超えている。
隣女王は、その雄性に怯えているようにも見えた。
少女に近づけて良いようなものではない。
まるで刃物でも突き付けているような罪悪感すら――――勇者は憶えた。

勇者「今さら、なんだけどさ。……止めてもいいんだ」

どうにも、この一件には徹しきれない部分がある。
それは、隣女王の意思を無視していたような感覚があったからだ。
昨晩を経て彼女は経験値を確かに詰んだし、淫魔として必要な知識と実践には違いなくとも、今である必要性はさほどに感じない。
大人になってからゼロから一気に覚える類のものではないが、些か……急すぎる。

隣女王「いえ。させてくださいまし。……そのために、私はここへ遣って来たのですから」

少女は霧のような薄衣を脱ぎ捨て、裸身を晒した。
暖炉の炎を照り返す褐色の肌は、生命に溢れた血色の良さを強調させる。

彼女は迷わず、恥じず、猫のようにそろそろとベッドの上を這い進み、右手で捕まえた陰茎の先端に口を寄せた。



手の甲へ口づけする儀礼のように、その仕草は滑らかだった。
先端に暖かな唇の感触が走ったかと思うと、亀頭に舌先が這わせられ、ゆっくりと下って行った。

勇者「うっ……く……」

隣女王「あの、何か……?」

勇者「あ、あぁ……大丈夫だ、うん」

隣女王「はい、よろしいのですね」

下って行った舌が、再び上がりながら……蛇がうねるように、じりじりとペニスに唾液を塗りこめていく。
舌の這った部分が、熱を奪われて冷たくなる。
それを見越したように、隣女王の暖まった掌が添えられ、温感を取り戻させてくれる。
冷暖の差が神経を漲らせ、感度を高めていくようだった。

隣女王「申し訳ございません。私では、お口に……収める事が、できませんので……」

隣女王の――――隣国に住む淫魔の口には、特徴がある。
舌の表面には柔らかく、肉眼では捉えづらいほど細かな肉の「棘」が生えている。
しかし鋭くは無く、肌はもちろん敏感な粘膜でさえ傷つける事はない。
その進化の目的は、言うまでもない。

肉の棘をまとった舌が、再び亀頭を這う。

それだけで陰嚢が脈打ち、ペニスの根元が熱く痺れた。
たったの、一嘗めで。


知ってか知らずか、隣女王は一心不乱に「それ」を続ける。
祭りの飴を舐るように、先端から先走りが溶け出せば、それを啜った。
唇がぴったりと鈴口を覆い隠し、時おり軸をずらしながら、亀頭全体を万遍なく愛撫する。
その最中にも右手は茎をさすり、左手は根本の玉を撫でる。
ここに至っては何一つ教える事も無く――――それは、『淫魔』の摂食風景そのものだ。

勇者「あぐっ……女、王……! 出……っ」

呻きは、予想していたよりもたどたどしく――――声としての体すら、為していなかった。
上体を起こしていた手は力が抜けてベッドに沈み、肘を突っ張らせてどうにか、伏せてしまわないようにしているのみ。
耐える事すらも、もう秒読みに入る。
時間の問題でしかなかった。

再び鈴口へと戻り……限界まで開いた唇が、かぷり、と亀頭を覆った。
同時に、魂までも吸い取られてしまいそうな吸引がされ、下腹で何かが白く弾けたような感触に襲われた。

爆発の奔流は、まっすぐにペニスの中を通り――――少女王の口腔へと向かう。



隣女王「んっ…んぅぅ~っ……! ごふぁっ……!」

命が下腹のフィルターを通して、隣女王に呑み込まれていくような……そんな、長く激しい射精だった。
おぼろげな視界の中で、彼女は休みなく注がれる子種を飲み下し、それでもぼたぼたと口の端から溢れさせていた。
むせ返りながらも、中断しようとはしない。
本能に支配されているかのように、呼吸よりも優先して精液を嚥下しつづける。
彼女の眼から涙があふれ、止まらず――――それでも。

隣女王がようやく口を離しても、咳き込む様子は無い。
口の周りにべったりと付着した「食べかす」を舐め取り、何度かに分けて飲みこみ、ふぅ、と息をつく程度。

そこで、体の芯にまで沁み渡るような寒気が、津波のように襲ってきた。
暖炉の消えた室内の寒気だけではない。
数日前の、イン娘の現れた晩の城の空気。
更に加えて覚えがあるのは――――あの七日間の半ば。隣女王が――――――

勇者「ぐうっ……! 隣女……王……!」

射精を終えて力の入らなかった全身だが、ようやく声帯にだけは意識を戻せた。
鉛のような気だるさが四肢を支配し、加えて、射すくめられたような重圧が室内を支配する。

射精を終えて敏感さをまだ残したまま萎えた男根に、柔らかな肉の感触を覚える。
先ほどの口淫とは違う――、柔くみっちりと詰まった、湿り気を帯びた肉の。

暗闇の中で、無邪気な――――それ故に背筋の凍るような哄笑が聴こえてきた。


勇者「隣女王っ……! おい、待っ……」

返事は無い。
どうにか顔を可能な限り起こす、視線をありったけ下に沈めると、隣女王が上に跨っていた。
閉じた秘裂で、ペニスを何度も何度も擦り、「まじない」でもするかのように、促している。
ぬちゅ、ぬちゅ、と湿った音を立て、疑似的な挿入のような刺激が苛む。

隣女王「アッ……アァァ……」

虚ろな嬌声だった。
悪霊を乗り移らせた人形が呻くような、深淵から響く歌声。

その間にも、ぐしゅぐしゅと肉の綿で擦るような股間による愛撫は続く。
漏れ出した愛液と精液の残滓が泡立ち、淫靡に糸を引き始めた時。
焦燥と寒気に苛まれながらも、簡単に、それは起き上がってしまった。
恐らくは危機の予兆と、彼女の淫魔としての性質によって。

隣女王「全部……食べテ、あげる。貴方の……ぜん、ブ」

勇者「待て、隣女王……おい、待てっ! 止せッ!!」

既にもう、亀頭は隣女王の入り口に宛がわれている。
後は腰を下ろすだけで、彼女の純潔は破れて――――恐らく、次は生命の全てを吸い取られる。

雷を呼び出し、気絶させる手もあるが……四肢に力が入らず、集中も練りきれない。
それでも放ってしまう事ができたとしても、下手をすれば調節ができず、彼女は死ぬ。
あまりにも分が悪すぎる賭けになってしまう。

その時、鋭い音が室内に舞い込み――――強風と雪、冷気、そして重厚な金属音が後に続いた。


暗闇の中、床近くで火花が散る。
直後に隣女王の身体が引きはがされて宙を舞い、ベッド上から姿を消す。

数秒して、部屋の中から小さな呻きが聞こえ――――隣女王の身体が再び現れ、乱暴にベッドに投げ出された。

サキュバスC「……オイ、起きろよ。寝てる場合じゃねぇぞ」

ベッド脇の燭台が灯り、乱入者の姿が映し出される。
昼間に会った時とほぼ同じ姿のサキュバスCが、そこにはいた。
彼女は、ベッドの上で失神している隣女王に毛布と着ていたベストを掛け、続いてズボンを投げかけてきた。

勇者「どうしてここに!? それに、隣女王……!」

サキュバスC「どうもこうもねーよ。コイツは軽く絞め落としただけだから心配いらねェ。とりあえず隠せっ!」

勇者「あ、あぁ」

言われて、ひとまずは促されるままにズボンに脚を通す。
下着を介していないために履き心地は悪く、べとべとに濡れた部分が冷えて更に良くない。
それに何より、割れた窓から吹き込む寒気が身体を冷やす。

サキュバスC「……やっぱりだ。おかしな事になってやがンな」

勇者「おかしな?」

サキュバスC「あのな。『おーさま』の部屋の窓割ったんだぜ? ……なのに誰も来ねェぞ」


投下終了です

次は水曜までにまた
それではー
















ああちなみにNTRは嫌いでもないですが、好みがかなり猛烈に分かれるものだと思うのでやりませんよ
淫魔の国シリーズでは

おはよう
何が水曜だちくしょうめ
そんな訳で日曜の朝から投下しますよ

別にプライベートで重たい何かがある訳ではないので大丈夫
ただ遅いだけなのです

>>324

サキュバスCとともに部屋を出ると、ゾクゾクとするような気配が廊下に広がっていた。
物理的な寒気だけではない。
魂までも底冷えさせるような、精神を削る冷たい気配だ。

廊下にまで出ても、誰も姿を見せない。
王の寝室の窓が割れたと言うのに。
歩くたびにサキュバスCの右脚がガシャガシャと重い音を響かせているのに。
氷の墳墓の中へ、城そのものが埋葬されてしまったように――――。

勇者「……なぁ、サキュバスC。どうして……助けに?」

サキュバスC「あ? どうして、って……どういう意味だよ」

勇者「タイミングだ」

サキュバスC「ああ。アタシは目が良くってさ。言ったろ、見張ってるって。……できる限り遠くで、できる限り早く駆けつけられる距離、ってな」

勇者「……すまない、助かった。ありがとう」

サキュバスC「『おーさま』を助けんのはあたりめぇだろ? 気にすんなら一杯おごれよ」

勇者「お前らしい。……どこに向かう?」

城内を勝手知ったるように歩く彼女は、迷わず進んでいく。
何処に何があるか、原因となるものが分かっているかのように。


サキュバスC「……おっと、眠り姫サマ一人発見」

エントランスに差し掛かった頃、そこに、異変をもう一つ見つけた。
冷たい床の上に横たわる、サキュバスBの姿を。

勇者「おい、……サキュバスB!」

勇者が慌てて駆け寄り、抱き起し、声を掛ける。
しかし、彼女から反応は帰ってこない。
立てている寝息からすると大事には無いはずだ。
だが、眠っているだけ――――というには、あまりに不可解すぎる。

声を掛けても、揺さぶっても起きない。
身じろぎ一つしない。
何より、こんな場所で寝入ってしまうはずもない。

勇者「……ひょっとして、あの時もか?」

サキュバスC「あ?」

勇者「イン娘が現れた夜だ。その時も……こんな風に、城の空気が変わって、誰の姿もなかった」

サキュバスC「何でそれ言わねェんだよ?」

勇者「……確信が持てなかったんだ」


サキュバスC「ともあれ、そいつも、城の奴らも寝こけてるだけだろ。原因分かったんならどうすりゃいいかも分かるだろ」

勇者「……なるほどな」

サキュバスBを抱きかかえ、せめて近くにあった長椅子に横たわらせる。
恐らく、問題の解決に長くはかからないはずだ。
そう願い、今度は逆に、サキュバスCを先導するように歩き始めた。

身を切るように寒い夜の庭園を歩くと、サキュバスCはぽつぽつと語った。

サキュバスC「インキュバス、ってか淫魔には特徴があんだよ」

勇者「というと……いや。薄々は分かる」

サキュバスC「ザックリ言えば、対象を強制的に眠らせる魔力と……異性を発情させる魔力。まぁ、得意の差はあんのさ」

勇者「つまり……誰かが使ったのか?」

サキュバスC「淫魔族にはそもそも効かない魔法なんだぜ。それをこの規模で発動させやがったのさ」

勇者「有り得るのか?」

サキュバスC「ありえねェよ。でも実際こんな事ンなってるぜ?」


勇者「……後者の方は?」

サキュバスC「発情の方か? いや、アタシは何も感じねェな」

勇者「だとすると、隣女王は……」

彼女の急すぎる変化は、説明がつかない。
特性も、変化も知ってはいたし目の当たりにしたが、意思の疎通すら不可能なほどではなかった。
その件に関与を疑い、口にすると――――。

サキュバスC「……え、ちょっと……あれ……女王だったの?」

サキュバスCが立ち止まり、たどたどしく困惑を示した。

勇者「ちょっと待て、知らなかったのか!?」

サキュバスC「い、いや……アンタが……何かヤベー事になってんのが見えたから……つい……やばい、これ……」

勇者「……お前、いったい何した?」

サキュバスC「こう、後ろから……キュッ、っていうか……コキッ、と……」

勇者「…………記憶が飛んでいてくれる事を祈ろうか」

サキュバスC「……アンタから何か誤魔化しといて……クダサイ」


勇者「ともかく、隣女王……の変化は?」

サキュバスC「ん、……元々そういうのに過敏な種族だし、魔力も身体の抵抗能力も弱い。アタシ達には平気でも、かかっちまったんじゃねぇの?」

勇者「としたら、俺が女だったとしたら」

サキュバスC「何か起こっちまうだろうよ」

勇者「……イヤ、でも不思議だな。だとしたら、なぜ俺はサキュバスが大勢いるこの国で平気なんだ?」

サキュバスC「さぁ。鈍感なんじゃねーの? それより、着いた」

三階建ての別館が、その姿を見せる。
すっかりと風が止み、雪も治まり、乳白色の雲に覆われた夜空の下、その扉がある。
あの晩の玉座の間と同じ感覚が満ちて、サキュバスCも、こころなしか引き締まった様子を見せていた。

勇者「……そういえば、カギ――――」

合図を待たず、サキュバスCが先陣を切り、怪鳥じみた真鍮の右脚で、金属製の扉を蹴り開けた。
施錠部分が吹き飛び、さらには引いて開けるはずだった蝶番が乱暴に外れて飛び、まるで破城槌でも食らわせたように扉が歪んで開いた。

サキュバスC「カギ探し回るなんざ、ヒマ人のやるこった。急いでんだろ?」

悪びれもせず――――彼女は、壊れた扉に引っかかった右脚を引き抜き、手招きした。


別館の中は、さほど広くは無い。
本館から運んだ食事を温め直すだけの最低限の厨房、各客室、サロン、小さな宿屋程度の設備しかない。
それでも十人ほどが詰めていたはずだというのに、気配は未だにしない。
壊れた扉から館内の暖気が抜け出し、急速に冷えていくのを感じる。

サキュバスC「灯りはついてんな。っ……と…」

踏み入り、少し歩くとサキュバスCが足をもつれさせた。
力が抜け、重みが増したような不自然な姿勢で膝をつく。
吐息にも乱れがあり、それを彼女は咳払いで隠したようだった。

勇者「どうした? 大丈夫か」

サキュバスC「い、や。何でも……ね……」

ややあって、彼女は手近な壁を引っ掻きながら立ち上がった。
見ていて肝が冷えるような足取りは、どう考えても普通ではない。
更に数歩進むと、かすかな燭光でも分かってしまう程、彼女の肌が紅潮しているのが見え、翼と尻尾がもがくように空を切った。

勇者「何でもなくは見えない。一体、何が……」

せめて彼女の身体を支えようと、ウエストに腕を回すと――――

サキュバスC「あ、アタシに触るなっ!!」

触れる寸前に身を翻し、壁に沿うように飛び退ってしまった。
弾みで壁に掛けられていた絵画が額ごと外れて、廊下全体に響くような重い音を立てた。
直後、できてしまった間を埋めるようにして、彼女が言葉を継ぎ足す

サキュバスC「……悪ィ。ここからは……アンタ、一人で……」

勇者「あ、ああ。大丈夫なのか? ……どこか、痛いのか?」

サキュバスC「い、いや。……そーいうのじゃ、ねェ……けど……とにかく……一人で、行って……」

その時――――張り詰めていた瘴気が収束するような感覚を覚えた。


再び、全てが変化した。
城そのものが眠りから覚めたように――――再び、よく知る平素の城のように。
確信を得た。
この現象を起こした物が。
この現象を起こした者が何者か。
そして、現象を切り替える発端が何なのか。

ふと顔を上げたサキュバスCと目が合う前に、招かれざる客に与えられた部屋へと走る。
距離にして、対した距離ではない。
走り込めば、すぐに到着した。

扉の前には、城中のサキュバスBと同じように、二人の番が伏していた。
違いは、彼女らは目を覚ましている事。
目を覚ましてはいても――――呻くばかりで、身体を起こそうとはしない。
一人はサキュバス、一人はラミア。
どちらも、体力をひどく奪われたように衰弱していた。

勇者「これは……?」

駆け寄り、具に二人を見る。
この衰弱状態は、身に覚えがある。
隣女王に精気を吸い取られた、あの七日間の中の我が身と同じ。
彼女らは――――何者かに、命を吸い取られた。

勇者「……だとすれば、こんな所で? そもそも……」

サキュバスの方は、全身を覆うぴったりとした着衣。
ラミアは腰部、上半身と蛇の下半身の境目を覆う長めのスカート。
そのどちらにも、乱れは無い。

イン娘「あ、あの……? 何か、あったんですか!?」

いつの間にか開かれていた扉から、恐らくは『発端』が姿を見せていた。
寝乱れた髪、困惑しながらもまだ開き切れていない瞼は、彼が今しがた起床事を示す。


勇者「……正直に答えろ。今までどうしていた?」

イン娘「どう、って……?」

勇者「お前は何をした!」

抑えきれない激情が、咆哮となった。
『少年』は怯え、目を見開き――――後ずさり、駆り立てられるように答えた。

イン娘「ぼ、ボクは……寝てて。それで、大きい音がして……目覚めたら、今……」

勇者「眠っていた?」

イン娘「は、はい。……二日、ぶりに……」

その言葉を聞くと、何かが繋がった。
立ち上がり、敷居をまたいで部屋に押し入ると、彼はなおも下がる。

イン娘「あの、……何を……? い、痛いっ!」

ぐいっ、と腕を掴み、引き寄せる。
彼は、踏ん張りを効かせて抵抗せんとした。

イン娘「は、離してっ……! 離してくださいよ! 痛いですってば! 離してよっ!」

弱々しかった印象は、もうない。
抵抗する力は、人間の少年のそれと変わりは無いとはいえ、間違いなく強い。
眠りを取っただけで行われるほどの回復ではない。
何らかの方法で、外部から力を取り入れた。
――――否、摂取した。

勇者「お前。……外の二人から、吸い取ったな?」

それが…………この晩の、真相だった。

――――

明くる朝。
朝食の後に、隣女王を見送った。


隣女王「それでは、此度はお世話になりました、陛下。近々、我が国にもいらしてくださいましね」

勇者「ああ、必ず。……昨日はすまなかったな。君が途中で寝てしまって、起こせなくてさ」

隣女王「お気に病まずに。私こそ、至らない事ばかりで……申し訳ありません」

彼女は、幸いにも前夜の事を途中から覚えていなかった。
どの部分からか、と訊ねるのは憚られたが、起こった事は忘れてくれているようだ。

隣女王「ん……?」

勇者「どうした?」

隣女王「いえ。寝違えてしまったのでしょうか? 首が……すこし、痛くて……」

眉を痛みに歪めて、彼女は首の後ろを撫でる。

勇者「……お大事に。ところで、昨日はサキュバスBが……」

見送りに来たサキュバスBが、促されて前に出た。
しゅんとした様子は、彼女なりに深い反省を示していた。
もっとも、彼女が眠りにつかされてしまったのは彼女の責任ではない。
その事についても説明はしたが、釈然とはしていない様子だった。


サキュバスB「ごめんなさい! せっかく色々お教えしようかと思ったのに……すごく……眠くて……」

隣女王「そうですね。……残念です」

サキュバスB「…………」

隣女王「ご一緒できる時間が減ってしまったのは残念でした。今度は陛下とご一緒に我が国にいらしてくださいね?」

サキュバスB「は、はい!」

堕女神「……それでは、女王陛下。隣国までお送り申し上げます」

堕女神が促すと、隣女王は馬車へと乗り込む。
事前に街道を整備して付近を根城とするモンスターへは圧力をかけていたため、危険は少なくなっている。
それでも送迎の車列には手抜かりは無く、周辺警戒も当然強めている。

扉が閉まる前に隣女王は座ったまま一礼し、やがて馬車が走り出す。
見えなくなるまで、遠ざかる車列を見送り――――使用人達がそれぞれの業務に戻り、サキュバスBもどこかしょんぼりした様子で場を去る。
残された堕女神が、勇者に、少し緊迫した表情を見せた。

堕女神「……それでは、昨夜の件ですが。執務室にて」

勇者「……ああ」


執務室へ入室すると、いの一番に――――執務机に不遜に腰掛ける淫魔から、矢のような視線が飛ばされた。
ふてくされたような不機嫌な空気は、場の空気を重くしていたが、決して陰気なそれではない。

サキュバスC「おっせーよ。……なんだってアタシがあんな目に遭わなきゃなんねェ?」

堕女神「……下りなさい。そして、口を慎みなさい」

サキュバスC「へいへい。で、どーしてだ? 『おーさま』のピンチに駆け付けたのはアタシだぜ?」

堕女神「窓を割りました。隣女王陛下を気絶させました。そして別館の扉を壊しました」

サキュバスC「だからよ、不可抗力つってんだろ。乳は柔っこいくせに頭は固ェのか? あぁ、両方デッカチかよ」

堕女神「一体何の話ですか!」

勇者「……それまでだ、二人とも」

不毛な応酬を止めると、一応は治まった。
だが、どこか険悪そうな空気は未だ抜けない。

サキュバスC「だいたいアンタのせいだろ!? 気付いたら城の連中に囲まれてて! 牢屋送りになるトコだったんだ!」

堕女神「侵入者ですからね」

サキュバスC「あァっ!?」

勇者「だから、止せ!」


イン娘をベッドに放り出して来た道を戻れば、ちょうど
サキュバスCと異変に気付いた城内の者達が一悶着を起こしているところだったのだ。
どうにか割って入って場は収めたが、それきり、サキュバスCはどうにも不機嫌だった。
それと言うのも――――

堕女神「……陛下が申しておりましたのでこれでも融通は利かせております。そもそも昨晩だけではなく、
     昼にも不法侵入を試みていたとか」

――――横紙破りの彼女とあくまで規律遵守の堕女神は、あまりに反りが合わないのだ。

サキュバスC「わっかんねェ奴だな、テメェも! だいたいそっちだって昨日は寝こけて……」

勇者「いい加減にしろっ! 話が進んでないぞ!」

たまりかねて本気で怒鳴りつけて、ようやく水と油はおとなしくなった。
堕女神は叱られた子犬のように目を伏せ、サキュバスCは不服そうに目を逸らして舌打ちし、
ひとまず、落ち着いて話せる場は整った。

勇者「……昨日起こった事をまとめてくれ、堕女神」

堕女神「はい」

彼女は巻いた羊皮紙を広げ、目を落とす。
そこには、昨晩の顛末が記されていた。


――――――昨夜未明、城の敷地内の使用人全員が突如として同時に昏倒した。
就寝時間は過ぎて大半が自室でベッドやソファに落ち着いていたため、それによる負傷や事故はない。
ただし、一部酒場に繰り出していた者は影響を受けなかった。
この際、イン娘の部屋の前にいた二人の番は加えて体力を酷く奪われており、命に別状はないが二、三日は寝込むと思われている。

隣女王は突如として何らかの魔力の影響を受け、昏倒は免れたが豹変。
勇者から強制的に搾精行動を行おうとした折、サキュバスCが乱入、これを鎮圧する。
彼女は遠くから城の様子を観察していたため、魔力の影響を受けずに行動できた。
この後勇者と合流、城内の散策を行い、別館の扉を壊して侵入。
直後に彼女もまた変調をきたして行動不能に陥るが、すぐに回復。
時を同じくして城内の者達も目を覚まし、駆けつけた使用人達にこの異変の犯人と誤認されて投獄されかかる。

――――なお、異変の収束は、物音を聞きつけたイン娘の起床と同時であった。


勇者「……どう思う? サキュバスC」

サキュバスC「どうもこうもねェよ。 あのガキが元凶だろ? 城の全員を眠らせ、
         一番間近にいたヤツらから精気を吸い取った。……規模のデカさは説明がつかねェ」

堕女神「だとすれば、彼の危険度は今後さらに上がるでしょう。明らかに勢いを増しています」

サキュバスC「そういうこった。……あのガキ、今度は誰か殺すぜ? どうやってんだか知らんけどよ」

命はあるとはいえ、「犠牲者」が出た。
その点は、もはや静観できない。

勇者「だが……どうすればいい?」

サキュバスC「方法ならいくつかあんじゃねェの?」

彼女の言うとおり。
対処法は、確かにある。

サキュバスC「ひとつめ。――――あのガキを、殺す」

広域催眠と精気吸収が彼によるものだとすれば、単純な方法だ。
元を断てば、いい。

サキュバスC「ふたつ。――――あのガキを追い出す。人間界なり魔界の果てなりな」

前者に比べると穏便だが――――それでも酷薄だ。


堕女神「……どちらも、採りたくないものですね」

原因を絶つか、遠ざけるか。
この二つが選択肢としてはまず考えられた。

勇者「……分かった。俺は少し、イン娘と話をしてくる」

サキュバスC「情が移っちまうんじゃねェのか?」

堕女神「いえ、そうでもないかと」

サキュバスC「へぇ」

勇者「イン娘が……体力も精神力も回復したというのなら、少しはマシな話を聞けるかもしれない。
    情報が少なすぎるんだ」

サキュバスC「……ンだから、そういうのを情が移るってんだろーが」

堕女神「それでは……お伴いたします、陛下」

サキュバスC「オイオイ」


勇者「いいのか?」

堕女神「はい。……私も、興味がありますので」

サキュバスC「何が飛び出しても知んねーぞ、アタシゃ」

勇者「望むところさ」

サキュバスC「あっ、そ。アタシは城ん中テキトーに見て回ってんよ。何か分かったら聞かせとくれ」

堕女神「……ごめんなさい、サキュバスC」

サキュバスC「あ? どれに対してよ?」

堕女神「……先ほどは……いやな事を言う役目を、押し付けてしまいました」

堕女神がそう述べ、目を見てから頭を下げ、勇者の後に続く。
サキュバスCは、藍玉色の目を瞬いて、きまりの悪そうな表情を浮かべながらそれを見送った。

投下終了です

サキュバスCは本当に動かしやすい

ではまた

遅くなった
できれば一月中に終われたらと願っているけれど自信がなくなってきた

なので始める、エロはもう少し待ってほしい

>>391

別館の扉はひとまず、木製の間に合わせに付け替えられていた。
装飾も無く、全体として城館や庭園の雰囲気に合っているとは言い難い。
無惨に蹴り砕かれた扉の残骸はすでに片付けられている。

堕女神「せめて、壊すのなら施錠部分だけにしてくれれば」

勇者「緊急だったからな。あまり厳しく当たらないでくれよ」

堕女神「それにしてもです。いったいどんな力で蹴ったのですか、彼女は」

勇者「……まぁ、いいじゃないか」

別館での、イン娘への警備は見直された。
扉の前に立つ事はなく、やや遠巻きに監視するような距離へと。
昨晩の二の舞になってしまうことを防ぎ、異変があればすぐに遠ざかるためにもだ。

堕女神「何か話を聞ければよいのですが」

勇者「昨晩見た限り、体力は回復している。……別に拷問や尋問をするわけじゃない。楽にしよう」

堕女神「はい、かしこまりました」


やがてイン娘の居室に到着し、堕女神がノックし入室の意思を示す。

イン娘「は、はいっ! どうぞっ!」

裏返った声は、明らかに――――張りを増していた。
扉の向こうにいた彼は、ベッドに臥せる事も無く、あてがわれた服に着替えて、まっすぐに立って出迎えてくれた。

勇者「楽にしていい。とりあえず、どこかに座るんだ」

イン娘「はい。……あ、あの。怒って……ます?」

勇者「?」

イン娘は、促されても座ることなくそう問う。
顔色を窺うような卑屈さは、前日までにあった臆病さとは、また別だ。

勇者「……何を?」

イン娘「え、えーと……その……す、すみません! すみません!」

勇者「だから、何が?」

ぺこぺこと、今にも床に頭をこすりつけてしまいそうな様子に埒が明かず――こちらから口火を切る。
そうでもしないと、またしても話が進まないからだ。

勇者「とにかく座れ。……で、何かあったのか?」


本題を告げると、彼は身を強張らせると同時に、真後ろに下がってベッドに腰を下ろした。
それを見て勇者も近くのチェアに腰を下ろすが、堕女神はあくまで間に立ったままだ。
その視線は両者の間を彷徨い、イン娘に向くときには、どこか憂いを帯びて唇にも力が籠もった。

イン娘「…………」

促しても、唇を噛み締め、ときに解し、何を言い、何を答えないか――――決めあぐねている様子だった。

勇者「言いたくない事があるならそれでもいい。……ただ、お前がどこから来たのかだけは知りたいんだ」

イン娘「どこから……」

勇者「ああ。それだけでいい」

視線が跳ね上がり、戻り――やがて、口を開く。

イン娘「人間の世界です。……ボクは、そこにいました」

勇者「一人で?」

イン娘「い、え……村で……人間と、いっしょに……暮らして、ました」


答えた彼の姿は、吐き気を堪えてもいるように見えた。
しゃくりあげるように細い首に微かに張った喉が震えるように揺れる。
それは、思い出したくない事を必死に胸の中に留めようとしているような、身体の本能だった。

勇者「……いやなことまで思い出してしまったのか?」

イン娘「……は」

勇者「?」

イン娘「ボク、の『お母さん』は……どこかに、いるのかな」


彼の手は、拳を軽く握ったまま、腿の上で震えていた。
昨夜を経て、時間をおいた事によって、今の状況の異様さをあらためて噛み締めているのだろう。

気付けば、淫魔の国にいた。
気付けば、見知らぬ国で王と話していた。
急に呼び起されてしまった記憶と今の状況とのズレが、パニックに繋がりかけているのかもしれない。

ふるふると小刻みに震える手に覆い被せられたのは――――誰でも無く、サキュバスでもない。

遠い昔に同じく淫魔の国へと辿り着いた、女神の手だった。


イン娘「え……?」

堕女神「……ゆっくりと。ゆっくりと、息を吸ってください」

イン娘が気付く。
いつの間にか、隣に堕女神が座り――――背を撫でてくれている事に。
すすめられるように息を深く吸い、深く吐く。
その動作を三たびほど行うと、手の震えは止まり、身の強張りもほぐれていったようだ。
更に置く事、数分。
彼の様子を見ていた堕女神が訊ねた。

堕女神「落ち着きましたか?」

イン娘「は、い。すみません、こんな……」

堕女神「何より。……名乗っておりませんでしたね。私は堕女神と申します。この国にて、陛下にお仕えしております」

彼方を見つめるような目を、堕女神はしていた。
その静かに寄り添う様子に若干のむず痒さを覚えながら、勇者は少し黙ってから、慮るようにして話を続けた。

勇者「人間界と言っていたな。それは……いつ頃の?」

イン娘「あ、はい。……分からないです。ただ、村にいたみんなは……たまに、『魔王』の話をしていました」

勇者「『魔王』だって?」

イン娘「でも、『魔王』そのものは……もういませんでした」


勇者「話を変えよう。何か、……母、の事で覚えてないのか?」

イン娘「何も知らないんです。……この国に、いませんか? 淫魔の……国、ですよね……?」

ここは、確かに淫魔の国だ。
だが、「女性型」に限られる。

彼の血縁がいるとしたら、それは女性ではない。
サキュバスからはサキュバスしか生まれず、男性種、父祖となる者は暮らしてなどいない。

勇者「……分かった。探してみようか。数日だけ時間をくれ」

そう言うと、堕女神の目が向けられるのが分かった。
勇者自身でも、分かる。
この言葉は、欺瞞だ。
分かりすぎる程に分かっているから――――逆に、自然を演じてそう言えた。

勇者「そろそろ腹が減っただろう。話の続きは、後にしようか」

彼の顔は、見られない。
目を瞑ったまま、落ち着いた風を装って立ち上がる事しかできなかった。
すぐに振り返ると、扉へ足を向ける。
それに続き、堕女神もイン娘の背を一度撫でてから立った。
しかし。

イン娘「……待って、ください」

引き留めたのは、彼の方からだった。


イン娘「……ボクの事、聞いてください。王さま」

なけなしの勇気を振り絞るような……そんな、震えた声だった。
弱々しく、懇願じみた。
世界を救う旅の最中にも幾度となく聞いた、呼び声と同じ。

勇者「急にどうしたんだ」

イン娘「聞いてほしいんです。全て、お話します。ですから――――」

その詞の続きは紡がれなかった。
かわりに、彼は語り始めた。
自らに起こった事。
生まれと、育ちと、今に至ったその理由を。

イン娘「……ボクのいた場所は、人間界の小さな村、でした」


――――――時は、千年前の少し後。
――――――人間が「魔王」の恐怖を忘れることができ、世界を立て直しはじめた頃の事だ。

吹けば飛ぶような、数十人しか住んでいない小さな村。

彼はこの村の一員だった。
生えている角も、背を飾る漆黒の翼も、蒼月のような肌も、尻尾も、村人は意に介していなかった。
村に数人だけいた子供達にからかわれはしても……その事で虐げられる事は無かった。
恐らくは、淫魔達が世界を救ってくれた記憶を、親達から語り継がれていたからだ。

「親」の記憶はない。
村長に訊けば、物心がつくかつかないかの頃、フラリと訪れた淫魔が預けて去ったという。
ただ、一つ。
小さな淫魔の事を恃む手紙を一通だけ持たされて。
着ていた衣類、持たされた衣類は、すべて女物だった。

村長は受け入れ、村人達は、「彼女」を育てた。
やがて十年少し経つ頃に、小さな家を与えられ――――そこで、家畜の世話をしながら過ごしていた。


やがて、淫魔の子とともに成長した子供たちが、親の世代となり、更にその子が成長した頃、少しずつ変わっていった。

――――変わらない姿のままのイン娘を見る村人の目が、小さな針に変わり始めた。

自分たちが成長し、親になり、子を宿しても――――その魔族は姿が変わらない。
野山を駆け、虫を採り、共に遊んだあの頃の姿のまま。
昔と同じスカートを繕いながら使い、出会った時と同じ「少女」の姿のまま、今度は自分たちの子と笑い合っている。
すでに「彼女」を引き取った村長は世を去り、新たな村長も決まっていた。

時にして、数十年。
人間にしては長い時で、魔族にとってはほんの数分の事。
その時間は、記憶を薄れさせ、畏怖を育てさせるには充分だった。

馬に飼葉を与え、鶏を追い、村人達には変わらぬ笑顔を振りまき、明るく接する。
その一方、「彼女」と遊んだ者達は、だんだんと老いていく。
皺は深くなり、背は縮み、産んだ子供たちにも、子供ができはじめた。
村人はずいぶんと増えた。
流れの旅人や行商人が居着き、復興した都との往来も盛んになってきた。

村人も、村そのものも、世代も変わりゆくのに――――ひとりだけ、変わらない。

「畏怖」は、「恐怖」へと遷ってしまいかけていた。


すでに、魔王の恐怖を知る生き証人はいない。
淫魔は伝説の中へ姿を消していった。

――――イン娘は、それでも村人たちへの態度を変えない。
十年かけて少しだけ背が伸び、スカートの丈が少しだけ足りなくなった頃に、妙に色づいた視線をちらちらと感じていながらも。
それは単に、種族の違いを意識してだけの視線と思っていた。

そして、ある晩の事。
体にふらつきを感じて少し早くベッドに入ったイン娘を、強いノックの音が叩き起こした。

寝ぼけ眼を擦ってドアを開くと――――そこには、殺気立った村の男達がいて、なだれ込んできた。
何事か、と訊ねると、津波のような怒声で掻き消されてしまった。
いわく、村のすべての女たちが同じ時間に倒れたと、それだけが聞き取れた。
戸惑いながらも、彼らの勢いを押し留めていた時、村人の最後方から新たな声が聴こえた。

「村の女たちが、いっせいに目を覚ました」と。

その報せを皮切りに確信を持って振り返った男達の目は、さらに鈍く暗い光を伴っていた。

――――――イン娘が気付いた時には、裂かれた服の胸元を押さえながら、森の中を逃げていた。
浅く切られた胸から血を一筋流しながら、裸足のまま、どこまでも駆けていた。
明かり一つない夜の森に、たった一人で。


数日彷徨ったはてに、森の奥に小さな遺構を見つけた。

ひび割れた花崗岩の玉座と、それを中心に据えた、奇妙に拓かれた空間。
神殿の名残りにも見えて苔生しているのにどこか新しく、その一帯だけ、木々の侵食がない。
森の中の玉座が、疲れ果てたイン娘を出迎えるように、座面を向けていた。

暗い森を駆けた足裏は裂けて血を流し、村人に切られた胸は瘡蓋になっていた。
髪は汗と土で粘りつき、あの夜を最後に眠る事すらできなかった目は霞んでいた。
導かれるように、「そこ」へと向かう。
ただ束の間でいいから憩いたい、その一念だけが足を動かしていた。

あの夜、刃は振り下ろされた。
――――どうして変わってしまったのだろう。
――――どうして、変われなかったのだろう。

ふたつの問いが、イン娘の胸の中で交錯する。
どちらの問いの答えも、はっきりと分かっているのに避けるように何度も自問する。

――――みんなが人間だったから。
――――自分は魔族だったから。

渇き切った目からは、もう涙さえ流れない。
やがて、その玉座に座った時……奇妙な浮遊感に弄ばれるように、眠くなった。

それから――――――「今」。


――――――

話を終えたイン娘は、沈んでいた。
思い出したくなかった事を一息に話して、虚ろな眼差しを足元へと下ろしている。

イン娘「…………ボクが淫魔じゃなかったら、一緒に変われたのかなぁ」

答えが分かっているからこそ、黙るしかない問いかけだった。
そして恐らく、イン娘も。
だが――――答えた。

勇者「……ああ、そうだ」

イン娘「えっ……?」

勇者「だけどさ。それは罪じゃない。『違い』は……罪じゃないんだ」

念を押すように、誰にともなく言い聞かせる調子で、さらに告げる。

勇者「……話してくれてありがとう。夜にもう一度話をしに来ていいか?」

イン娘「あ、はい……。いつでも」

それから――――解すように、暖めるように他愛もない話を少しだけ交えてから、部屋を出た。

以上です

こんな調子で本当に終わるのかちくしょう
ではまた

深夜か早朝か微妙な時間にやってきて投下します
次回投下で多分えろ、もしかすると一段落

では開始

>>434から
――――――

サキュバスA「……それで、貴方がわざわざ来たってワケね?」

隣女王が使っていた部屋の中、代えたシーツを畳んでいるところへ、不意の来訪者がやってきていた。
耳ざわりな程響く足音は、異形の脚甲から発せられ、閉じた扉の向こう、廊下の時点から聞こえていた。

サキュバスC「そうなるわな。……何オマエ、真面目に働いてんだよ?」

サキュバスA「あら、意外?」

サキュバスC「正直疑ってたわ」

サキュバスA「相変わらずよねぇ。それより、その酒瓶は何なの?」

深い紫の目は、久方ぶりの旧友が利き手にぶら下げた小振りのワインボトルへ向いた。
幾分高級なはずのそれは、コルク栓が乱暴にむしり取られ、酒場の酔漢が携えるような姿になってしまった。

サキュバスC「あン? 地下のカーヴで拾った。いいじゃん一本ぐれー」

サキュバスA「それは『盗んだ』というのよ?」

サキュバスC「……うっせェな、マジメかよ」

サキュバスA「ええ、相対的にね。一口ちょうだいな」


受け取った瓶に口をつけ、きっかり一口分だけ口に含み、飲み込む。
舌に感じたのは思い描いていたほどの酸味、渋みではなく――――際立った甘さと芳醇な香り。
凍結した葡萄から作りだした、糖度の高いデザートワインのようだった。

サキュバスA「……アイスワイン? ずいぶんと甘くて可愛らしいのを失敬したのね。もう少し冷やした方が飲みごろよ」

サキュバスC「だから、拾ったっつってんだろ」

サキュバスA「ふーん?」

訳知り顔を綻ばせてわざとらしくにやついていると、サキュバスCが手荒く取り返して一口含む。
そうしている間にも部屋の片づけは一区切りして、手近な壁に背を預けて息を吐く。

サキュバスA「まったく、ここ数日は珍しい顔ばかり見ますわね。人食い淫魔の女王様に、
         絶滅種の坊や、あげくにガサツで短気で凶暴な猛獣」

サキュバスC「誰がだコラァ!」

サキュバスA「ほらほら怒った」

サキュバスC「ッ……だいたい、昔はてめぇの方が喧嘩っ早かったろうがよ」

サキュバスA「昔は昔よぅ。まぁ、楽にしなさいな。床にこぼさないでね?」

どこ吹く風、というふうに受け流して、暖炉近くの椅子を指し示す。
しばし牙を剥くように睨みつけていたサキュバスCも、やがて観念したように渋々と座った。
スカートが捲れるのも気にせずに、ふてくされたように左ひざを立てて腰を乗せるように浅く座ると、やがて続きは彼女から切り出してきた。


サキュバスC「……んで、どうなんだよ、最近はよ」

サキュバスA「そうねぇ。実はちょっと物足りないかしらね」

サキュバスC「何が?」

サキュバスA「何がって……もう、おませさんなんだから」

サキュバスC「黙れ」

サキュバスA「怒る事ないじゃないの、冗談よ。でも、そうね。なかなか面白いわよ?」

サキュバスC「その中身を話せっつってんだよ、アタシは」

よく見れば、彼女は真鍮の右脚を椅子に触れさせないように座り方を調整している。
脚甲の重量によっては椅子が耐えられないと感じたか、それとも椅子を傷つけまいとの無意識によるものだろうか。
彼女の身体は、最後に会った時から、相も変わらず難儀なものだった。

サキュバスA「……何百年ぶりに会ったかしらね? 貴女のほうこそ興味があるわよ」

サキュバスC「訊いてんのはアタシだ。……でも、そうだな」

若干の間をおいて、彼女は右脚に目を落とし、こん、と酒瓶の底で小突き、音を響かせた。

サキュバスC「……もう、痛くねェかな」


サキュバスA「それは……何よりね。貴女、ずいぶんと悩まされてたみたいだし。いつから?」

彼女は、千年前に脚を失ってから幻肢痛を患っていた。
無い部位の痛みには打てる手もなく、酒に逃げ込むしかない、苦痛の晩を過ごしたことも少なくなかったという。

サキュバスC「夏だよ。『王さま』と……会って、から」

サキュバスA「ふうーん……」

作られた間に、つい意地悪な笑みがこぼれて、それを押し留める。
からかえば面白い反応が返ってはくるのだろうが、そこを掘り下げるような意地の悪さはない。

サキュバスA「聞いたわよ。植えたリンゴの木……実ったそうじゃない?」

サキュバスC「ん、ああ。……どっから聞いたよ?」

サキュバスA「貴女がお城にくれたじゃない。それに、市場にも卸したって?」

サキュバスC「金は取ってねェけどな。雪が解けたらまたあっちに戻るさ」

彼女は、長い事淫魔国のはずれにある農園に暮らしていた。
何を植えても育つ肥沃な土地で、数百年前に植えたリンゴの木を見守って。
そして今、その木は実を結び――――淫魔の国に、流通しはじめた。

サキュバスC「まァ、遊びに来いや。酒と肉を持ってきなよ」

サキュバスA「似合わない事ばっかするわよね、貴女って」


サキュバスC「そりゃてめぇだよ。あん時は荒れてたろうが」

話の合間に傾けていたワインボトルは底をつき、行儀悪く突き出した舌に最後の一滴を垂らすと、瓶でこちらを指した。

サキュバスC「『魔王』の四天王をサシで殺した狂犬が、大人しくなりやがって」

サキュバスA「…………あら、ちゃんと苦戦したわよ?」

サキュバスC「……『苦戦』で済んでんのがおかしーだろが。相変わらず食えねェな」

サキュバスA「それでも、一体で手一杯だったわね。……さておき、その時の『生き残り』のお話でもいかがかしら?」

思い出話に蓋を閉めて、「今」起きている事の話を始める。
恐らくはその思い出から繋がっている、「現在」の問題に。

サキュバスC「今、『王さま』が話を質しに言ってるよ。昨晩はお前も寝てやがったのか?」

サキュバスA「いえ。城下町へ飲みに行ってたわ。事を知ったのは今朝戻って来てからよ」

サキュバスC「あぁぁ!?」

昨晩――――彼女は、城にいなかった。
消灯時間を過ぎてから酒場へ出かけ、朝方に帰るまでは何も知らなかった。

サキュバスC「おまっ……! こんな時にかよ!?」

サキュバスA「……流石に反省してるわよ。それより貴女こそどうなの」

サキュバスC「あ?」


今度は、隠さない。
間違いなくからかいに満ちた微笑を湛えて、サキュバスCへ悪戯めいた質問を投げかける。

サキュバスA「窓を割ってまで飛び込んでくるなんて。……陛下の事が、心配で心配でたまらなかったのよね? カワイイじゃない」

くすくす、と笑いかけると――――彼女の顔が一瞬青ざめてから、突如振り切ったように赤面した。

サキュバスC「な、あっ……アタシはそんなんじゃねェっ! その、な……!」

サキュバスA「分かりやすいわね、貴女。ほらほら、落ち着きなさい」

サキュバスC「落ちっ…着けるかバカ! 変な事言いやがって!」

サキュバスA「そう? じゃ、本当は陛下がどうなってもよかったのかしら?」

サキュバスC「っ……わかった、もうテメェとはクチ利かねェ」

サキュバスA「ごめんなさいってば。ちょっと意地悪だったわ。許してちょうだい」

「からかい」のラインを少しだけ越えてしまった感は否めない。
軽妙に――それでもまっすぐに目を見て謝ると、むくれた様子で、サキュバスCも返してくれた。
彼女はすぐに怒るが、すぐに忘れてもくれる性分だからだ。


サキュバスC「……別にな、アタシはあのガキの事も、王さまがどうするかなんてのも心配しちゃいないんだ」

椅子から立ち上がると、彼女は続ける。

サキュバスC「ただな。……アタシは決めたんだ。もう二度と、『人間』の持つ力を疑わないってさ」

サキュバスA「『人間』の力?」

サキュバスC「結局あの時だって、『魔王』は『勇者』が倒したろ。アタシらは、本当に必要だったか?」

サキュバスAは、答えない。

サキュバスC「最後は『勇者』が必ず勝つようになってて……それを気付けないで、勝手に盛り上がって場外から乱入しただけ、だったんじゃねェかってさ」

サキュバスA「……ユニークな考え方ね」

サキュバスC「勝てるようになってんのさ。……『魔王』だって倒せちまう奴を誰が心配すんだよ?」

サキュバスA「……ふふっ。確かに、今回の件はスケールが見劣りするわね?」

サキュバスC「だから、さ。アタシは『勇者』の力を疑わない。……何もかもひっくるめてな」

声はどこか晴れやかで――――言ってのけたあとにも、満ち足りた様子が見て取れた。

サキュバスA「…………そろそろ、陛下が戻ってくるんじゃないかしら?」

サキュバスC「そんな時間かよ?」


日の高さは、昼食時を少し回っていた。
話し込むうちに時は過ぎて、雪雲の晴れ間から太陽が顔を覗かせる。

サキュバスA「……私も陛下を信じているわよ。……それに、地下には面白い生き物がいるしね?」

サキュバスC「何だよ」

サキュバスA「まぁ、最後の手段ね。保険はすでにかかってるわよ。最悪、『彼』が何とかしてくれるだろうし」

サキュバスC「だから、何だよ?」

サキュバスA「独り言よ。私はそろそろ行くわね」

代えたシーツの他、洗い物を籠に入れて、部屋を出ようと準備を始める。
暖炉の火も消し、室内は徐々に冷えていく。
あとは換気のために開けていた窓を閉めるだけだが、それよりも早くサキュバスCが窓に近づいた。

サキュバスC「おう。……アタシも出る。……っていうか、いったん帰って寝る。王さまにはそう言っといてくれよ」

サキュバスA「? ええ、構わないけど」

サキュバスC「疲れたんだよ、色々とよ。昨日の夜から寝てねェし」

言い残すと彼女は窓辺に左の爪先を掛け――――次の瞬間には、短い風切り音とともに彼方へと消えてしまった。

サキュバスA「……全くもう、お行儀が悪いったら」


別館から戻る途中、堕女神が何かを察して様子で本館の窓を見てから――弾かれたように、反対側の空を振り返る。
縦長の針のような瞳孔がかすかに収縮し、空の彼方へ目をやった。

勇者「どうした?」

堕女神「いえ、何かが飛んでいったような気がして。つぶさには追えませんでしたが鳥ではないようです」

勇者「あいつだろうな。せめて歩いて帰ればいいのにさ」

堕女神「……彼女でしたか。全く」

深いため息とともに眉間にしわが寄せられ、美しい眉の形も歪む。
やがて、再び彼女も歩き始めて、雪を踏みしめる音が再開する。
冬の間は流石に足指が露わになるものは履かずに、脹脛の半ばまでを覆う編上げのブーツを履きこなしていた。

堕女神「罪ではない、そうおっしゃいましたね」

勇者「? ああ……」

それは、先ほど、呪いゆえに行き場を失ってしまった淫魔族の少年にかけた言葉だった。
堕女神は、それを口ずさむように呟いた。

勇者「『違い』が罪だとするなら、『多数』は正義、か?」

堕女神「……『違い』によって誰かを傷つけてしまう事は、罪ではありませんか?」

勇者「望んでそうするのなら、罪だろうさ」


『勇者』の力もまた、多数を占める者達とのどこまでも隔たる『違い』の一つだ。
それを思うがままに振るい、傷つけてしまったのなら、世界に拒まれてしまうほどの罪になるだろう。
だが――――そんな事を考えた事は、一度としてない。
少なくとも、今この場に、この世界に、この時空にいる……『自分』は。

勇者「…………今晩は、消灯してから城内の全員を敷地の外で夜を過ごさせよう」

堕女神「え……?」

ひとまずの応急処置。
イン娘を中心としてあの現象が起こるのなら、彼の能力の対象になりうる者を遠ざけてしまえばいい。
もともと魔族の引き起こす現象を完全に無効化する地下のローパーは残し――――というより、もとから出たがらない。
まれに庭で日にあたる程度はするものの、多くはない。
外に出ないその理由をサキュバスBを通して訊ねた事があるが、その時は

『旅ってのは、自分のちっぽけさを知るためにあるんだ。自分は世界の全てを知る事はできねぇんだと気付くためにな』

と諭すように言われて終わってしまった。
出不精の言い訳にはやや大それていたが、どこかに重みも感じた。

勇者「――――ともかく! イン娘が寝る前に敷地を出る事。堕女神、お前もだ。
    明日は特に急がなければならない事もないだろう。隣女王もいない」

ポチの台詞をどうにか振り払い、そう告げると――――堕女神はどこか悲壮な顔をしてしまった。

勇者「……そんな顔をするなよ。イン娘の出た夜は、堕女神も影響を受けただろ。……俺も、だが」

堕女神「ち、違います! あれは!」

勇者「?」


声を張り上げてしまった事に気付き、堕女神は口を覆い、次に押し黙る。
その様子はどこか、何かを言うべきか言わないべきか――――迷っているようにも見えた。
やがて、意を決したように。

堕女神「……私は彼の魔力の影響など……受けておりません」

観念したような――――しかし食い下がるような、奇妙な様子で述べた。

堕女神「あの晩は、つい勢いをつけようと、して……」

勇者「勢い?」

堕女神「媚薬、を……少々…………」

勇者「まさか、夕食に盛ったのか?」

堕女神「い、いえ! 陛下のお食事になど……。なので」

勇者「つまり」


堕女神「……私が、仰ぎました」


勇者「…………お前は」

何の事も、なかったのだ。
ただつまり、彼女が隣女王の来る前夜に、どこからか手に入れた媚薬を含んでから訪れて。
その情気にあてられて貪り合ってしまっただけだったのだ。
あげくに翌日まで媚薬効果が残ってしまい、執務中にまで抑えきれていなかったと。
つまるところ、彼女の――――珍しい、失態。

堕女神「申し訳、ありませんでした。……昨夜は書庫に籠もっておりましたので、事態の把握にも遅れました。ほんの少し眠気は湧きましたが、眠るほどでは」

勇者「全く、何かと思った。……だけどまぁ、今日は城を出るといい。酒場にでも行け。今夜から二か月間だけタルタルステーキが出るそうだぞ」

堕女神「はい、仰せのまま……。はい?」

勇者「え?」

堕女神「陛下? はて……『城下町の酒場』の期間メニューなどご存知で?」

勇者「え、……っ、しまっ……!」

堕女神「僭越ながら、私は何度同じことを申しましたか? 陛下。それはいつの事ですか?」

勇者「…………いや、話し合おう。話し合えば分かる」



堕女神「それでは、どうぞお話しください。時間はございます。……聞き届けてから、私からも申しましょう」

投下終了です
もうちょっとだけお付き合い願うんです

それではまた

いい日曜の朝に投下します
次回で最後にする目処がようやく立ちました
ラス前投下開始

>>462より

その晩、初めて城から淫魔の姿は消える。
城内に住み込んでいた者達は一日だけ城下に宿を取り、あるいは友を訪ねて過ごす事になる。
翌日は、昼頃にでも戻ってくるようにと。
あまりに突発的な事に彼女らも目を丸くしていたが、正式に通告を出すと、むしろ浮かれた雰囲気が城を包んでしまったようだ。
今日は、終えた者から町に出てよい。
遅くとも消灯・就寝の時間には、城から出て過ごす事が許されたのだから。
その一方で――――勇者を、城に一人残すことに抵抗を示した者も少なくない。
いくら城の淫魔達をインキュバスの魔力から遠ざけるためと言っても、王を一人残しては浮き立てない、という。

しかしそういった者達も日が沈むころには何故か納得し、アフターの予定を立てる事に専念していた。


堕女神「……それでは、陛下。明日の朝に戻って参ります。些かばかり朝食は遅れてしまいますが、どうかご容赦ください」

勇者「ああ、行っておいで。本当なら俺も行きたかったな」

堕女神「陛下」

勇者「すみません嘘です」

堕女神「いえ、そうではありません。……お気を付けて、くださいね」

彼女の視線は、真摯にこちらを見据えた。
――――その度に、彼女の目から、視線を外してしまいたくなる衝動に駆られる。


もう危険を冒さなくていいはずなのに、何度も彼女に心配をかけている。
この世界に『本当に』やってきた時にも、トロールの群れに徒手空拳で立ち向かい、身体にいくつも傷を作り直した。
夏にも一人で探索へ向かい、そこでまたしても傷を負って帰ってきた。
そして今回も――――サキュバスの精気までも食らう、不自然なインキュバスと城中に二人。
厩にいるナイトメアは昨晩は馬の姿で眠っていたために影響は受けなかったらしく、
今夜もそうするように言い含めたが――――人手には数えづらい。
地下牢の不老不死のローパー……ポチには意思を伝える事はできても、
彼の意思は何となくでしか分からないし、そもそも腰が重い。

結局のところ、今晩は、イン娘と二人きりなのだ。

勇者「……夏に、変な夢を見たんだよ」

堕女神「夢?」

勇者「ああ。地獄のような戦場に、無数の淫魔、人間、魔物が戦っていた。……そして俺の傍らに、インキュバスの男がいたんだ」

今でさえも、あの不思議な現実感は思い出せる。
上空から墜ちてきたドラゴンの亡骸が生み出す、腹が痺れるような衝撃。
耳に残る断末摩と、蛮声の螺旋。
サキュバスやインキュバスが紡ぎだす、人間界のそれとは全く違う――――異質な強力な魔術の数々。
そして――――すぐ側にいた、インキュバスの男が飛ばした激も。

勇者「これは偶然じゃない。千年前にも存在していた何者かが、今ここで俺とイン娘を引き合わせようとしている」


堕女神「……そうとまで仰られては、言葉もございません」

勇者「大丈夫、何かあれば逃げるさ。だから……さ」

それでも、と言いたげな堕女神の頬へ手を添えゆっくりと撫ぜる。

勇者「心配はしないでくれ。……そんな顔をさせる俺が悪い事も分かっているけれど」

少しの間、そうしていると――堕女神も少し気が立ち直ったのか、ゆっくりと後ろへ距離を取った。
その瞳にもう憂いはない。

堕女神「まったく、貴方はいつも……私の気も知らずに拾い集めてしまうのですね」

呆れたような、少し陽気に怒ったような――――そんな抗議だった。
喉の奥から口端まで緩ませたような微笑みがこぼれ落ちて。

勇者「ああ、すまない。……まだまだそういう星回りらしいんだ、俺は」

堕女神「申したい事は尽きせぬものですが、私はそろそろお言いつけ通りに。」

勇者「ああ。……その、堕女神」

堕女神「はい」

勇者「……明日は、しよう」

堕女神「…………送り出す言葉には如何なものかと」

勇者「俺もそう思ったよ」

堕女神「ですが……お待ちしております」


やがて、堕女神が部屋を城を去る。
それによって……完全な静寂が、淫魔の国の城へもたらされた。


誰もいなくなった城を、ただ何気なく歩いた。
エントランスの広間を抜け、玉座の間へ。
玉座の間から執務室、書庫、火の気の失せた厨房までも見て回る。
ここへ来てだいぶ経つが、未だに発見は尽きない。
事実、数日前に尖塔にサキュバスAの隠し部屋を見つけたほどだ。
誰か残ってはしないかと見回ろうかと思ったが、柱時計の音が時を告げたため、打ち切る。
それよりも――――「彼」のもとへ行くことが先決だった。


イン娘の居室の扉の前まで来て、息を整える。
物音ひとつしない。
もう、眠ってしまったのかもしれない。
意を決して静かにノブを回して、そろそろと扉を押し開ける。
滑らかな蝶番は、軋む音さえ立てなかった。

部屋の中は、冷えていた。
暖炉の火が落とされてからそうは経っていないらしいが――――それでも冷え込む。
枕元の燭台だけが唯一の光源であり、そちらを見ると……懸念した通り、彼はすでに横になっていた。

勇者「寝てしまった……のか?」

イン娘「うわっ!?」

勇者「わっ……!」

近づきながら呟いた一言に……彼が素っ頓狂な声を出し、布団を跳ね除けながら起き上った。
どうやら、まだ寝入る寸前に間に合ったようだ。

イン娘「び、びっくりするじゃないですか……!」

勇者「俺もだ!」

イン娘「ノックしてくださいよ、もう!」

勇者「それは、すまない。……確認だが、昼来てからは寝てないのか?」

イン娘「え? はい、これから寝るんです。……あの」


勇者「?」

イン娘「……あと一日だけ、ここにいさせてください」

起き上がった彼は、ベッドの上で……膝を抱えて縮こまりながら消え入りそうな声で言った。

勇者「……何を言っているんだ?」

イン娘「分かってるんです。ボク……また、やってしまったんですよね」

返事はできない。
言葉にしようとすれば、恐らく詰まる。

――――――沈黙は、ここで正解なのだろうか?

イン娘「隠さないで、ください。ボクは、あの村で起こった事を……また、繰り返してしまったんですよね」

勇者「…………」

否定もできない、言葉での肯定も憚られて、しかし沈黙すればそれは肯定になる。
完全に詰んでしまった問い掛けだった。
何も言えないまま――――続く独白を聞く。

イン娘「明日の朝、ボクはこの国を出ます」

勇者「…………どうして?」

イン娘「言ったじゃないですか。ボクは……ここにいてはいけないんです。ボクは……」

二度目の一人称は、湿っていた。
雨に濡れた小鳥が、寒風に身を震わせたような……そんな、竦んだ声だった。

イン娘「ボクは――――皆さんと、違うじゃないですか!」


その言葉は、――――「拒まれた」者だけがまとえる、哀しみを宿していた。
込められた意味は、種族、魔力――――そして、恐らく何よりも。

イン娘「ボクは、皆さんを……傷付けてしまうだけなんです。ここに、ボクの居場所はないんですよ」

勇者「……ここを出て、どこへ行く?」

イン娘「どこかへ。……だれも、傷つけなくてすむどこかへ」

勇者「そこで……たった一人でいるつもりなのか」

イン娘「……仕方、ないじゃないですか。他に、どうすればいいんですか!?」

叫びは、膝を抱えた腕の中でくぐもって聞こえた。
いつしか勇者は、気付く。
ベッドの上、彼の隣で腰を下ろしていた事に。

勇者「言ったはずだ、ここは、『淫魔の国』だ」

もう、言葉に澱みは無い。
あとは、ただ……手を伸ばすだけだ。

勇者「お前は、『淫魔』。――――ここは、お前の居場所なんだ」


勇者「お前は……追いやられてなんか、いない。この国へやって来ただけだ」

強さ故に追い出された。
突出ゆえに、人と一緒に、「ふつう」に生きていくことができなかった。
その哀しみは――――その「違い」は、誰よりも分かる。

イン娘「……でも、ボクは……男の子、です……よ?」

勇者「俺もだ」

もう――――彼が自分の性を認識していた事に、驚きはない。
恐らくは、彼が人間界で暮らしている間に、ほどなく身についていて……それを思い出したに過ぎないのだろう。
それでも彼が女装を続けていたとしたら……それは、『父』の贈り物と意思をいつまでも大切にしたかったのが理由。

イン娘「あ、はは……。そうですよね。そう……」

燭台が最後のひと輝きに差し掛かり、明度を増した。
冷え込んでくる、真冬に閉じ込められた部屋の中で――――雫が落ちる。
それは、少年がいつからか忘れて枯らしていたものだった。

勇者「俺だって、人間で……男だ。だけど、淫魔達と一緒に過ごせている。数十万人の、な」

「雫」は、「筋」を描いた。


火の消えた、さして広くもない室内に小さくしゃくり上げる声が響く。
こらえようとしても、溢れてしまえば止められない。
限界を超えて膨れていた水面が弾け、淫魔の国の小さな部屋へ、ようやく流れ込む事ができたのだから。

時にすると、十分もない。
だがその十分は――――手続きの時間だ。
淫魔の国へ、新たな民を迎え入れる為の。
やがて、ようやく涙を止めたイン娘がおもむろに口を開く。

イン娘「……王、さま」

勇者「何だい」

暖炉に火を入れにいくタイミングを見計らいながらも、返す。
距離は、もうない。
半身を寄り添わすように――イン娘の方から、近寄ってきていた。

イン娘「ボク、と……」

彼は、言葉を選ぼうと口をぱくぱくさせていた。
だが結局、伝えるための表現は一つしかないと気付き、頬を染めながら、はっきり告げた。


イン娘「ボクと、えっ…ち……して、ください」

次回でひとまず〆
それではまた

すまないです
昨日未明にでも投下するはずが、謎のインフルぶっこいてダウンしてしまった
日曜深夜~月曜未明に投下します

ではまた今夜

おはよう

朝になってしまったが、えっちシーン投下なんですよ
開始

>>481から

勇者「ちょっと、待てよ。何、言って……」

イン娘「……ボクが」

勇者「?」

イン娘「ボクが、皆さんを昏睡させて……精気を吸い取っているんなら。王さまに、注いでもらえれば……って思って……」

考え方としては、ひどくシンプルだった。
もしイン娘の魔力が精気を吸収するためのものだというのなら、求めて暴走する前に、与えてしまえばいいのだ。
腹を空かせている、というなら――――強行させる前に、与えればいい。

勇者「……そんな事で?」

しかしそれは、サキュバスの場合の話だ。
女性型なら精気を取り入れる能力が備わっているが、インキュバスの場合はどうなるのかが分からない。
そもそも――――文献で知ったインキュバスと、イン娘の生態は違っていた。

精気を吸収、活力とするのはサキュバスの固有能力。
インキュバスにその能力は無い。
持っているのは、対象の異性を魅了し、支配下に置くだけの能力だ。
だが、イン娘は違う。
広域に渡って強制的に異性を眠らせ、至近にいる者から精力を奪い、
弱らせ――――その分の体力を回復する、どちらでもない特異な能力だった。


イン娘「……ごめんなさい、気持ち……悪い、ですよね。ボク……男、なのに」

勇者「いいのか?」

イン娘「え?」

勇者「……だけど、カン違いしないでくれ。『とりあえずやってみる』……んじゃ、ない。俺の意思。そして、お前の意思で決めた事なんだ」

イン娘「……はい」

一方的な同情でも、上からの憐憫でも、ましてや興味本位でも無い。
意思が行き来したから、そんな傍目に倒錯した選択も、意味を持つ。
『彼』を、この国に迎え入れたい。
『彼』は、この国で誰をも傷つけずに生きてゆきたい。

意思が噛み合ってしまえば――――倫理は、意味を失う事がある。

イン娘「……あ、の。王さま」

やや遠く、俯き具合のイン娘の顔は、灯し直した燭台の火に浮かび、赤く染まっていた。

イン娘「ぼ、ボク……こういうの、はじめて……なんです。うまくできなくても……怒らないで、くださいね?」


黒いチュニック型のパジャマを着た姿は、少女にしか見えない。
本来下履きも合わせるはずのそれは、膝上までが露わにされている。
裾からはみ出たサキュバスに比べて長い尾は、先端のみがパタパタと揺れていた。
待ちわびるように、恥じるように、落ち着かない様子で――立ち膝の姿勢で、太ももを擦り合わせて、伸び上がるように口を寄せてきた。

最初の口づけは――――蝶が留まるような、一瞬の事だった。

イン娘「……や、やっぱり……恥ずかしい、ですね」

羽が撫でる如く一瞬の触れ合いに、『彼』は気恥ずかしそうに頬を掻き、ぺたりと腰を下ろした。
口先が一瞬擦れ合うだけだったが――その一瞬でさえ、ぴく、と震えたのが分かる。

勇者「少し……体、触るよ」

イン娘「はい……」

利き手を伸ばして、指の腹から掌まで、頬を通りすがるようになぞる。
張りつめたような皮膚の弾力、火を入れていない室内で冷えた感触、それでも内側には暖かな血の通った存在感。
通り過ぎて、うなじから後頭部まで撫で上げると、不揃いな髪が指の間を通り抜けて行った。
つややかでサラっとしているが、淫魔達に比べて、コシのある太い髪だった。
やはり――――触れてみれば、サキュバスや堕女神とは違う。
首筋の筋肉の付き具合も、頬肉の張りも、かすかに出張った喉も、背筋も。
少女に見えるような稚気と美貌はあっても、暗闇の中で触覚を確かめれば、少年だった。

勇者「目を、閉じて。驚いたりしないでくれよ」

イン娘「え……? わかりました」

少年の淫魔は、迷いなく目を閉じた。
起こる事を言外に察したのでもなく――――ただ、信じて。


うなじを持ち上げ、やや上に向かせて今度は勇者から唇を奪う。
口先が触れた瞬間、またもイン娘の身体がぴくりと震え――――さらに唇を進めれば、抱き留めていた左手から彼の背に走る緊張が伝わった。

イン娘「んくっ……ふ、ぇぅ……ちゅ……」

密着した唇から、貝殻を開くナイフのように舌をこじ入れて、開かせる。
ゆるんだ前歯の隙間から口内に飛び込んでくるのは、甘さ、熱さを伴った淫魔の吐息。
バターを落として暖めた蜂蜜酒を飲み下したような痺れが喉から肺腑を満たして、少しずつ、全身へとまわる。

言いつけを守っているのか、彼は驚きながらも舌を噛まぬように口腔を開いて、拙くも、こちらへも舌を絡めてくる。
二つの唇の間から愛液のように唾液が滴り、顎先から黒いパジャマに落ちて、ひときわ黒い沁みを幾つも形作る。

混じり合った唾液が行き交う音が、深雪の沈黙に包みこまれた部屋へ、籠もって響く。

支えていた両の手に感じていた重さが、だんだんと増して――――とうとう緩んだ身体を横たえさせ、唇を少しずつ離して姿を見る。

イン娘「ご、ごめんなさい……力、抜けちゃい……ました……」

枕にまで唾液の筋を流しつつ、彼はそう照れながら、潤んだ瞳で言った。
立てた片膝からパジャマの裾が太ももへ向かって流れ落ち、既に、青いストライプの入った下着の一部まで見えている。


イン娘「キスって……こういうふうに……するん、ですね。気持ち……よかった、です……」

勇者「……寒く、ないか? もし寒いなら……」

暖炉に火を入れよう、と提案しかけたが――――それよりも早く、イン娘は自らボタンを外していく。
上から、二つ、三つ、四つ――――そのたび、薄い胸板、覗く乳首、締まりのある腹筋が覗かせてくる。

イン娘「平気です。……というか、暑いぐらい。なので……早く」

誘われたのか、それとも……どちらが先だったかは、分からない。
寝たままのイン娘がボタンを全て外し終えてから、肩からするりと脱がせていく。

骨ばった肩とそこへ繋がる鎖骨のライン。
肋骨がかすかに浮いたなだらかな胸に、深い青色の乳頭がぴくりと立っていた。
腹腔は締まって凹み、腰もまた、弾力に溢れて少し硬さもある。

女物の下着一枚のみの姿になって、『彼』は羞恥に顔を染め、背ける。

イン娘「し、下着だけなんて……嫌ですよ。ボク、変態みたいじゃ……」

勇者「……そうだな。女の子の下着なんて……穿いて。変態だな」

イン娘「な、何言って……!? 仕方ないじゃないですか、これしか用意してもらえなくてっ……ひゃっ!」


抗議の声も待たず、片手で引き下げるように――――最後に残った一枚も、剥ぐように脱がせた。


とっさに脚を閉じる寸前に、青い皮膚に包まれた小さな芽吹きが見えた。
骨ばった膝を擦り合わせ、手で「それ」を隠しながら、イン娘はおずおずと声を絞り出す。

イン娘「は、恥ずかしいですよ、やっぱり……。それに……ボクばっかり、見られて……不公平です」

それも、そう――――と得心し、勇者も、するすると服を脱ぎ捨てていく。
引き締まり、細身ながらも必要な筋肉の全てを備えた、戦傷をいくつも残した体。
下を脱げば、直前に見えたそれとはまったく違う、雄の器官が現れ――イン娘は、息を呑んだ。

イン娘「お、大き……」

未発達の自らのそれを無意識に手で確かめ、獣の目を覗き込んでしまった時のように、釘付けになった。
それを――――これからどうするのか、理解していただけに、意識が遠のきかけていた。

勇者「……やっぱり、やめようか?」

察し、そう提案すると――意外にも、彼は首を振った。

イン娘「……ちょ、ちょっとずつ……慣れ、させて……くださいね?」

声には怖れよりも、どこか憧憬、昂揚感も含まれているように聴こえた。
「それ」をどう使われるのか。
「自分」がこれからどうされるのか。
淡い期待すら――――多分に。

性は違えど、性としてのあるべき形も間違えど――――紛れもない淫魔の性(さが)を、宿して。


――――指先で小さく窄んだ蕾を掻くと、まず、驚きの声が上がった。

背を向けて寝たままのイン娘に、腕枕をするようにして、利き手で彼の『後ろ』を愛撫する。
裸を、特に股間を見られることを恥ずかしがってか、この形で、まず馴らす事になった。
顔が見えないのは残念に思っても、漏れ出る声は、それ以上に気分を高める役目を買って出ていた。

イン娘「ひゃ、うっ…! くぅぅ……!」

掌で右の尻肉を持ち上げながら、隙間から蕾へ中指を這わせる。
感触はまるで赤子の肌のようにきめ細かく、吸い付くような張りに満ちて、触れているだけでも心地よくなれた。
一方、中心にある薄桃色の蕾は細かく窄まり、つんつんと指先で触れると、その度に収縮して敏感に反応を返してくる。

イン娘「んっ……! うぅ、ぁ……変な、感じ……です……」

もじもじと膝を抱え込むように身悶えする姿は、更に劣情を催させた。
動きを止め――背中へ口づけをしながら、指先、第一関節、第二関節までを滑り込ませていく。
意外にも蕾はそれを受け入れ、少しずつ、自ら開花させながら迎え入れてくれた。

イン娘「きゃひぃっ!」

身体が跳ねて――拍子に指先までも持っていかれそうになるが、ぐっと右手で臀部を押さえつける。
すぐにその反応はおさまり、力を弱めると、次に侵入させた指を少しずつ中をほぐすように蠢かせる。


肛内は火傷するように熱く、むき出しの肉の質感が指にまとわりついてくる。
ねぶる炎の舌のように、肉は指を飲み込み――――反面、その入り口は固く閉じて、それ以上の進入を突っぱねてもいた。
それでも肉孔を弄ぶうちに、門はだんだんと緩み、ついには、指を根元まで迎え入れてしまった。

イン娘「お、尻……がぁ……! 何か、変……変、ですよぉ……っ!」

枕として首を支えていた腕に、生暖かい水が垂れてくるのが分かる。
浮かされたように細かい呂律を失ったイン娘が、唾液を溢れさせて――唇の締まりを失っていくのが、分かる。
だらだらと垂れる唾液が腕を伝い、その下のシーツに落ちていく。
その間にも尻への蹂躙は止めず、ぐにぐにと自由に動けるほどに肉襞が馴染み、にじみ出た腸液が指を濡らしていた。

イン娘「ひっ……だ、だめ……だめぇ、お尻、熱い……熱いよぉ……」

勇者「……イン娘」

イン娘「えっ…な、何………ひぅっ……!」

勇者「顔を見たい。仰向けに、するよ」

イン娘「そ、そん……にゃ……恥ずか、……ひゃぁぁっ!」

腕を抜いて、中指を未だ沈めたまま、身体を起こしてからイン娘の右脚を掴んで身体を開かせる。
萎えた足は抵抗すらできず、腹を見せる犬のような姿勢で、あっけなく全てを露わにしてしまった。


ずぶりと根元まで指を受け入れた蕾はひくひくと物欲しそうに収縮し、その上には――――小さな茎が勃っていた。
小さくて皮の張った茎からは、米粒のようなピンクの亀頭がわずかに覗かせて、透明な汁を根元の膨らみまで垂れさせていた。
つい力が籠もり、中指を内側に折り曲げてしまうと――ビクン、と揺れて、茎がざわめいたようだ。

イン娘「やめ、てよぉ……見ないで、こんなの……恥ずかしいよ……」

言葉では拒絶を示しながらも、彼の言葉の最後には、甘い吐息が付随している。
この状況を糧として、更なる高揚を得ているような――――そんな被虐心が、透けて見えるようだった。

勇者「……もう、入れてもいいか?」

イン娘「えっ……」

そんな、「少年」の痴態だという事を理解してなお――股間の滾りは、衰えない。
埋め込んでいた指を引き抜くと、訊ねる。

イン娘「……はい、お願い……します」

高まり、指全てを束ねたよりも太いそれを目で見てから――――イン娘は、呆気なく受け入れた。
おずおずと指先で門渡りから自ら広げ、蕾を開かせる。
真っ赤に充血した肉襞が透けて見えて、溶岩の魔窟を想起させるような、魔の体内へ。

亀頭を押し当てると、めりめりと肉の軋む音とともに、しかし入ってしまえば引き込まれるように、ずぶずぶと飲み込まれていった。

イン娘「んぐぅぅっ……い、あぁぁぁぁっ!」


肛門の締め付けを潜り抜け、入り込んでしまえば……獄炎の舌が、今度は指ではなく「雄」を舐り上げる。
煮詰めた糖蜜の海のように、粘るような熱さが、陰茎を締め付け、飲み込む。

イン娘「は、入って……ほんとに……入って、きちゃ……! ひゃあぁぁっ!」

小さな陰茎が、引き絞られた弦のように張り詰める。
わずかに覗いた桃色の亀頭からは、透き通る清水が一筋流れた。

やがて侵入が腸壁に行きあたって止まり――そこで、「雄」の器官は、八割ほど飲み込まれてしまった。
これ以上の挿入は、できない。
だから。

勇者「苦しくないか?」

イン娘「う、ん…少し……少し、だけ。でも、動いて……いい、ですよ」

勇者「……本当にいいのか?」

イン娘「はい。痛く、ない……ですから。ちょっとだけ、痺れる……みたいな感じですけど」


勇者「……それ、じゃ……!」

腰を引くと、焼け付いた腸壁を剥がすように、ゆっくりと抜けていく。
抜くときは、肛門の本来の働きゆえから――抵抗はない。
それでも本来性交に用いる部分ではないため、あまり強くそうする事はできなかった。
雁首までを引き戻す動きの中で、イン娘の張りつめた茎は、三度ひくついた。

イン娘「ん、あぅぅ……! そ、そこ……はぁ…」

もう一度、腸内へ突きこむとき。
亀頭が、肛門ほど近い腸壁の裏側にこりこりとした質感を認め、浅く行き来し、そこを擦る。
その度にイン娘の身体がびくびくと弓なりに跳ね、肛門はきゅっと締まり、明確な反応を示す。
この正体は――――睾丸であるはずはない。この部位にあるものなど、到底分からなかった。

勇者「これ……は……何だ?」

イン娘「だ、だめ……だめ、だめぇっ! そこ、こりこりって…し、ひゃ……やらっ……!」

三度、四度、その妙な反応、妙な感触を探ろうとして擦り込むと――――次の瞬間、白い迸りがイン娘の胸を、顔を穢した。

乳白色に沈んだそれは、よく知っている。
だが自らのそれは今もイン娘の肉孔深くに打ち込まれている。
視線を落とすと――――その源が、ひくひくと萎えて打ち震えていた。


イン娘「あ、熱……いぃ…。ボクの、おちんちん……変、ですぅ……びくん、びくんっ、って……何か、でて……」

勇者「精液だ。わからないのか?」

イン娘「えっ…?」

勇者「精液。男はこれが出る。後は……まぁ、誰かに訊くといい」

イン娘「じゃ、ボク……男の子、に……なれた、んですね?」

満更でもなさそうに――彼は、指先で顔のそれを拭い、確かめて糸を引かせた。
ねちゃねちゃとした白濁、半ゼリー状のそれを――――自分以外のものをみたのは、初めてだった。

イン娘「……んひっ!?」

ずぶんっ、と肉の孔を穿ち、再び、奥深くへと押し込む。

何故かはわからないが、確信があった。
もう、彼は――――在り方に迷う、不安定な魔族ではない。
自分の存在を確信して立つ、『淫魔』なのだと。
隣国の幼い淫魔は、性交を経て、魔力を思いのまま振るう『淫魔』となる。
それと同じく、夜の儀式を経て、初めて、淫魔は自らを知る。

――――もはや、彼には檻など必要ないのだろう。


イン娘「ひっ…は、激し……よ…ぉ……! ひゃっ! や、やぁ…また、ボクの……」

腰を打ちつけるうちに、イン娘のそれは再び硬くなり、数度の抽挿でまたも精を放った。
放ったばかりだというのにどろりと濃く、量も変わらず……生クリームのように、彼の裸の胸を飾った。

イン娘「お尻……いい、気持ちいい……よぉ……もっと……ずぼずぼ、して……くだ、さ……あんっ!」

声はだんだんと甘くなり、その度、肛門がきゅっきゅっと絞られる。
括約筋との連動でそのたびに甘く勃った茎が揺れて、硬さを取り戻していく。
あたかも――サキュバス達が、堕女神が、何度も絶頂を繰り返すのと同じように。

蜜のように漏れた腸液と先走りがぶちゅぶちゅと音を立てて混じり合い、陰茎にまとわりつき、潤滑の役割をもたらす。
そのまま、数度すると――――下腹の内に、熱を帯びた塊が降りて、時を待つのが分かった。

イン娘「だ、出して……ボクの、えっちな……お尻に……いっぱい、出して……っ!」

昂った情欲が、やがて精道を伝い――――鈴口を押し広げるように、塊を吐き出す。
イン娘の、直腸へ――――溜めに溜めたように、絶えない射精がなされる。
腸を登り、胃にまで逆流してしまいそうなほどの、熱い奔流だった。

イン娘「出、る……!ん、あぁぁ! また出るぅぅっ!!」

甘勃ちのまま――――イン娘は、同時に達して、自らの腹筋から胸、顔までを重ね塗った。


涙と、洟と、唾液と――――自らの精にまみれて、イン娘は、やがて眠った。

今日は異常、いや以上

今回最後って言ったけど明日深夜、ラストちょろっと投下して終わりです
html化を出す前に、エピローグ的な何かをやるかもしれない

つか投下してから見るとダッシュ多すぎて読みづらい
深夜のテンションで書くもんじゃないわ……orz

こんばんは
ものすごい背徳感に襲われながら、どうにかラスト部分へこぎつけました

見てやってくれてありがとうございました
それでは、投下。


――――――――

イン娘の身体を拭ってから、勇者は椅子で朝を待った。

やがて明け方近くになると、小さなノックの音がして、つい身構えた。
城中には誰も残っていないし、戻ってくるのは昼前のはずだ。
何より、勇者がここにいると知る者などいないはず。
勇者ではなく、イン娘を……何者かが訪れた事になる。

緊張が走る。
その当事者は寝息を立てていて、起きる気配はない。
剣を引き寄せて身構えながら扉の前へ行くと――――

???「私ですわ。入ってもよろしいですか?」

ここにいるはずのない、それでも慣れ親しんだ、サキュバスAの声だった。

勇者「……静かにな。今……眠った所……なのに?」

扉を開けて入ってきたサキュバスAの姿を認めて……そこで、気付く。
イン娘は紛れも無く眠りについているのに、あの現象は起きていない。
サキュバスAの姿は、まったくのいつも通りだった。
小憎らしいしぐさも、猫なで声も、唇の端をいつも持ち上げているような、艶やかな表情も。

サキュバスA「あらぁ。沢山してもらって、すっかりおネムかしら」

勇者「何でここにいるんだ」

サキュバスA「何で、というより……いつから、ですわね。ええ、ずっと……隣のお部屋に」

勇者「ずっと!?」


サキュバスA「陛下、お静かに。起きてしまいますわよ?」

立てた人差し指でしーっ、とサインを作り、子供に言い聞かせるように彼女は言った。

勇者「…………」

サキュバスA「それにしても、陛下…まさか、稚児趣味に走るだなんて。ああ、お館様がなんと申されましょう……」

勇者「お館様、は俺だ。変な演技をしないでくれ。ともかく、サキュバスA。何でここにいるんだ?」

サキュバスA「……陛下をお守りするために。そして……試すため」

勇者「試す、だって?」

サキュバスA「昨晩、淫魔二人から精気を吸い取ったのなら、今晩は少なくとも起こらないと踏みました。……だって、足りているのですもの」

さらにサキュバスAは付け加える。
昨晩、城内の淫魔を昏倒させてまで徴収して、記憶まで戻ったのならば今日は起こらない可能性があると。
生まれに育ち、この城へ来た経緯の記憶に、体力、全てが回復したというのならば。
連日で起こる筈などないと考え――実証するために、彼の隣の部屋へ隠れていたと。
もしも彼とともにいて何か違う事が起きてしまったのなら、サキュバスCがそうしたように――助けに入るべく。

勇者「なんで、そんな事……」

サキュバスA「陛下。結局のところ、『彼』の暴走が収まったかどうかは……誰かが試さねば、分かりませんわよ」


勇者「だが……」

サキュバスA「それにしても……まさか、あんな方法で、なんて?」

重たくなりかけた空気を寸前で止めるように、彼女はくすくすと笑いをこぼして、からかう口調に戻る。

サキュバスA「確かに精気を欲しがっているなら陛下が注ぎ込んでしまえばいいでしょうけれど。
         それでも差引でかなりのマイナスになるのでは……?」

勇者「……多分、もう起こらないだろう。イン娘が射精した時に、……気付いたんだよ」

『変化』した感覚があった。
かつての七日間の中で隣女王が夜の中で『変化』した時と同じ、古い殻を脱ぎ捨て、
羽化したような……言葉にしがたい、奇妙な一致。
それが彼の精通によるものか、貫かれて失った事によるものかは分からない。
恐らく、彼は目覚めた時には自らの魔力を制御できるようになっているはずだ。

事実、今はもう――――彼の寝姿を間近に見ていられるほど、穏やかな空気が漂っている。
来た晩と、昨晩とに現れた、異質な空気はもうない。


サキュバスA「それで……陛下、どうでしたの?」

勇者「どう、とは?」

サキュバスA「ふふ、おとぼけになって。……滾りましたか?」

勇者「……いや、どう答えても揚げ足を取る気だな」

サキュバスA「ええ、まぁ。……それで、この子はどうなさいますの?」

勇者「ひとまず、そうだな。城に住まわせようと思う」

サキュバスA「……変な住民がまた一人。あの触手の紳士を連れ帰ったかと思えば、これですか?」

勇者「ローパーに比べたら常識的だろ?」

サキュバスA「ですわね。ひとまずサキュバスBに面倒を見させましょうか。『先輩として』ね」

勇者「ああ、助かる。……それにしても、なぜ、お前は……」

サキュバスA「はい、なんですの?」

勇者「お前は……なぜ、ここまでしてくれるんだ? あの時、だって……」

導くような言葉を、いつも掛けてくれる。
かつての七日間、迷いを優しく払いのけてくれたのも彼女だった。
彼女の言葉で――――自分は、『勇者』としての在りようを、『誇り』を、思い出せた。


サキュバスA「あの時……とは?」

勇者「……いや、覚えてないさ。何でもない」

サキュバスA「何を仰せかは分かりませんけれど。……強いて申さば、贖おうとしているのやも」

勇者「え……?」

サキュバスA「……いえ、何でも。それより陛下。お夜食……いえ、早めの朝食でも用意いたしましょう。運んで参りますわ」

時刻は、深夜を過ぎて早暁。
もう少し経てば日も昇るだろう。

サキュバスA「それにしても、これだけ近くで話し込んでも起きないなんて。大物ですわね」

部屋から出る前に、サキュバスAは、毛布にくるまって眠る彼の顔を覗きこみ、ふっ、と息を吹きかける。
それでもイン娘は目を覚まさず、長い睫毛をかすかに動かすだけだった。
目を覚ました時には、恐らく――――またも、女物の服をあてがう事になるだろう。

勇者「……分からない事ばかりが増えていくな、本当に」

サキュバスAが部屋を出て、またも二人になった部屋で一人ごちる。
窓の外は雪も止み、今出て行ったサキュバスの瞳の色と、同じ色の雲がどこまでも続いていた。

――――淫魔の国の冬に起こった、事件の一幕。

帰結は、この国にまた一人……『淫魔』が住む事になった。





ひとまず完結です……が、少しばかりエピローグも差し込みたい

まぁ、なんていうかふつうのHで中和したい、さすがにこれは好みが分かれる
ひとまず会社があるので寝ます
その辺の諸々はまた明日夜にでもちょっと話したいです

おやすみなさいまし

明日っつって結局明後日になってしまいました

来週あたりに軽~く読めるエピローグでも投下します
内容は黙っていますがなんていうかフツーのを

そういう訳ですので、あまり期待せずに待っていてくださいな
それでは

本編でやるのは少しあれだったかもと反省がパないorz


明日夜投下と予告します
後日談ちょろっと、それと堕女神と甘々

それではまた明日

もう2、30分してから投下します
甘すぎてキツめに死にたくなった


――――――

雪の散る夜の城下町は、活気にあふれていた。
もう日が沈んでかなり経つというのに、昼よりも喧噪に満ちていたほどに。
いや――――この町に、この国に住まう者達の種族を鑑みれば、夜こそがこの町の本当の姿に違いないだろう。

通りに何十条も渡された魔石付きの紐は、色とりどりの光を放っている。
軒先には雪を固めた細工や、透き通る氷の像が立ち並ぶ。
子どもが作ったと思しき雪人形もそのまま残されており、それもまた、この国の活気を象徴しているような暖かみに溢れていた。

城下町の目抜き通りに面した一等地に、狐の尻尾が杯を抱え込む形の看板が吊るされた店がある。
この酒場は看板通り店主と給仕が狐であり、名物料理の数々で人気を誇っている名店だ。
窓は内側の暖気で曇り、磨りガラスのように店内の様子を映さない。
やや厚めの扉を開いて――――店内の暖気を受け止めながら、珍客が敷居を跨ぐ。

狐給仕「いらっしゃい。……あら、堕女神様。お珍しい」

堕女神「お久しぶりです。一人なのですが、よろしいでしょうか?」

狐給仕「ええ、もちろん。奥のカウンター席が空いてますよ」


席へと通される間、ちらりと店内の様子を観察する。
城で働いている者が何名かすでに来ており、軽く黙礼して通る。
その他には相変わらず種族のるつぼで、樽型の椅子を中心に文字通りとぐろを巻くように座るラミア、奥の席で六本の脚を折り畳んで盃を傾けるアラクネ、
酒が入って変化が解けかけている猫の獣人など、様々だ。

狐給仕「今日はお城の方がずいぶんとお見えですが、何かあったんですか?」

堕女神「ええ。話せば長くなってしまいますし、どこから話せば良いか分からないのですが……」

狐給仕「まぁ、まどろっこしい話は後にして。ご注文はお決まりですかね」

堕女神「はい。……ひとまずホットワインをください。それと、何かお料理をお願い致します」

狐給仕「はいよ。お待ちを」

小高いカウンターの椅子に腰掛け、マント状の外套を脱いで彼女に預ける。
ここからはカウンターの中を覗けて、奥の棚にある色とりどりのボトルや瓶詰めの食材は、さながら実験室だ。

――――しばしの後、頼んだ飲み物が運ばれてきた。

狐給仕「はい、ホットワイン。それにしてもお珍しい事ばかり」

堕女神「ありがとうございます。……ばかり?」

狐給仕「お城の方々が大勢、堕女神様すら来てるのに。だってのに……サキュバスAの奴は姿を見せないで」

堕女神「……珍しいですね、確かに」

厚めの彫金細工の杯を取り、まず一口を含む。
蜂蜜を混ぜた濃厚な甘さと酸味は、飲み込むだけで体の芯まで熱くなるようだった。
ついた吐息までもが熱く、鼻に抜けた芳醇な薫りは、ほんの一口で酔ったような感覚にまで陥らせてしまう。


堕女神「訳あって、城の者達の多くは明日の昼からの仕事になったのですが……彼女が見えないのは不思議です」

狐給仕「全く。あの女……火をつけたら燃えるんじゃないかってぐらい飲むのに。実際火のつく蒸留酒を三本も空けたんですよ、あいつ」

カウンターの中から差し出されたのは、変わった料理だった。
皿の中央には刻まれて調味された牛肉が生のまま置かれて、その周りに薬味と焼いたブレッド、レタスが囲むように盛られている。

堕女神「これは……今夜からだという?」

狐給仕「なんだ、知ってましたか? お好きな薬味と混ぜて、載せるなり包むなりして食ってくださいな」

勧められるまま、生の牛肉に刻んだニンニクやピクルスを混ぜ込み、ブレッドに載せ、手づかみで口へ運ぶ。
カリッと焼かれたブレッドと、オリーブ油と粒胡椒の下処理のおかげで臭みはそうない。
粘りつくような肉の旨みが口いっぱいに広がる――――そんな料理だった。
いつの間にか一枚分を平らげてしまい、ついもう一枚分を盛ったところで、ふと手を置く。

堕女神「なるほど、陛下が抜け出してまで来るわけですね」

狐給仕「お褒めの言葉、どうも。……出しといてなんですけど、この手の食い物は苦手かと思ってましたよ、堕女神様」

堕女神「私が?」

思いもかけない言葉に、飲み物で口を潤しついでに返す。

堕女神「いえ、そのような事はありませんが……」

狐給仕「よかった。……陛下がこの酒場に来るってんで、怒ってやしないかと」


堕女神「怒ってはおりませんが……不思議で。頻繁ではないのでしょうか?」

狐給仕「ひと月に一回か二回ですね。そう多くはないかな」

堕女神「……ふむ」

行いを諌めはしても、酒場に繰り出す事自体はそう癪ではない。
警護もつけず、思い付きでそうする軽率さを咎める事はあってもだ。
むしろ、彼の前身とその役目の結末、そこから転じた今の役目を思えば、むしろそれぐらいなら構わないとすら思う。
酒場に気ままに繰り出す事も、淫魔達と夜を明かす事も、ようやく彼が手にした「解放」で、「自分自身の存在」だと分かっているから。
だというのに、それでも彼は――――危険を冒す。
隣国から訪れた淫魔達を身一つで助けに行き、夏には一人で遠くへ行き、今回もまたインキュバスと二人で城へ残る。
まるで――――英雄だった頃の残滓を、残しているかのように。

狐給仕「何かお迷いで? ……いや、注文じゃなくて」

堕女神「ええ、少々。答えの出ない問いが」

狐給仕「そういう時は、酒もいいですが……甘い物でも食べるといいですよ」

堕女神「甘い物?」

狐給仕「ええ、酒場やってて言う事じゃないですけどね。気分を変えたい時は、酒より菓子のほうがいいんですよ」

堕女神「そういう……ものなのですか?」

狐給仕「ま、飲み方にもよりますがね」

堕女神「……ふむ」

――――――

翌朝、イン娘を浴場へ行かせて、入れ違いに勇者も入浴した。
昨夜はひどく汗をかいていたため、ほぼ寝つけずに朝を迎えてしまった。
サキュバスAが浴場の準備をしてくれていたのは、何よりありがたかった。

着替えて寝室で湯上りの身体を冷ましていると……昼前になり、城へ戻ってきた堕女神が挨拶にやってきた。

堕女神「陛下、ただいま戻りました。お変わりありませんでしたか?」

勇者「おかえり。特に、何も……起こってない。起こらなかったよ。後でイン娘をどうするかについて話そう」

さすがに何をしたかは言えそうに、ない。
勇気がいる。
堕女神は何かを言おうとして口を開きかけたが、結局は何も告げない。

堕女神「……かしこまりました。それでは、昼食の準備をして参ります。本日はご公務も無い故、ごゆるりと」

それだけ言うと――妙にあっさりと、彼女は部屋から出て行ってしまう。
イン娘の事を何も訊いてこないのが、拍子抜けだ。
もちろん訊かれれば答えるつもりはあったが――――。

勇者「……何だ、いったい」


その日は公務も無く、のんびりとした日になった。
雪もそう激しく降らず、落ち着いた冬の一日だ。
昼過ぎにイン娘を見舞いに行ったが、昨夜の事を今になって思い出すのか――――赤面したまま布団に包まり、それきりだ。
明日からは使用人の見習いとして勤めてもらう、とだけ伝えると、消え入りそうな声で返事がされた。

ナイトメアの厩を見に行ったら、彼女は容赦なく冷え込む中……人間体で、裸のまま気持ちよさそうに寝ていた。
その様子を見ていると後ろめたく――――いや、何か後ろ暗い事をしているような謂れのない気分に襲われ、軽く後悔した。
実際、彼女は好きでこうしているのだから特に気にする事はないのに。
毛布か何かを持ってこようかと問えば、「暑い」とだけ言い返されてしまった事もある。

特に何も起こらない一日の中、少しだけ気がかりがある。

勇者「……変だな」

サキュバスB「え、……な、何ですか!?」

廊下を歩きながら何気なく呟くと、たまたま近くにいたサキュバスBが反応した。

勇者「あ、いや。違う、お前じゃない」


サキュバスB「変な事ささやかないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか!」

勇者「何か怒られるような事をしたのか? 今言えば許す」

サキュバスB「な、何もしてないですってば。もう。……で、何が変なんですか?」

勇者「いや、堕女神の事でな。……どこにいるんだ?」

サキュバスB「厨房です。そういえば、長いですね。夕食の支度にもまだ早いし、そんなに時間もかからないはずですけど……?」

勇者「……何だろうな、気になる」

サキュバスB「見に行ったりしたらだめですからね」

勇者「?」

サキュバスB「何か秘密で用意してるのかもしれませんから」

勇者「そう言われると余計気になるな。……でもまぁ、分かった。変わりないんならそれでいいさ」

サキュバスB「……ん」

勇者「どうした?」

サキュバスB「陛下、ちょっと濃い匂いしますね。……なんていうか、
        その……もしかして一人でしたんですか? わたし達追い出して?」

勇者「……何も。ほら、……仕事に戻るんだ。早く」

文字通り『嗅ぎつけられ』かけたのを誤魔化し、促す。
納得しかねている様子だが、彼女の追及ならかわせる。
もちろん彼女もイン娘の事は知っているが、結びつけるほど勘は良くないのが幸いした。

その後もひた隠しながら、どうにか夜を迎えた。
堕女神は長く厨房に籠もっていたという割には、夕餉の品数は変わらなかった。
就寝時間は少しまわった。
そろそろ――――という頃合いだが、今日は、彼女を待つ気分になれない。
夕餉の頃から、どことなくよそよそしい振る舞いが見られていた。
今日は、そして初めてだが……こちらから出向く事にした。


堕女神の部屋は、そう離れてはいない区画にあった。
廊下を一本ほぼ渡りきる程度に離れてはいるが、城の大きさを鑑みれば、充分に近いと言えた。
使用人区画には、文字通り彼女らの部屋がある。
サキュバスAやBもそれぞれ自分の部屋があるし、他の使用人もまた同様。
一度だけ扉が空いていてサキュバスBの部屋を戸口から覗いたら、意外なほどに片付いていて――そして、意外なほど本が多かったことを覚えている。
ほんの歩いて通り過ぎる一瞬の事だし、まじまじと見る事は礼儀に反するので、あまり細かくは見なかった。

そんな反芻を打ち切り、堕女神の部屋の前に着いた。
考えてみればこの城で誰かの部屋を訪ねるのは、意外にもまだ二回目だ。
その一回目でさえ、つい最近のイン娘の部屋の時。
そんな事があったから、たった今も、自分から訪ねて出向く事を考えられたのかもしれない。

なんとはなしにそわそわするような気持ちを抑えて、扉を叩く。
扉は、勇者の寝室に比べて少し薄い。
ややあって、扉が内側に開いて――――日中に結っていた髪をまっすぐに下ろした部屋の主が、細い瞳孔をかすかに膨らませ、驚いた顔を見せる。

堕女神「陛下……?」

勇者「たまには、と思ってさ。……入ってもいいかな」

堕女神「し、しかし……その……」

拒む――――という様子はないものの、答えあぐねているようだった。
しかしその逡巡もすぐに引っ込み、ドアは内側に大きく開いた。

堕女神「……どうぞ、陛下。よければ……ですが」


初めて見る、彼女のプライベートの空間だった。
窓辺には白磁の花瓶に花が活けてあり、暖炉近くにソファとテーブルがあり、栞の挟まった本が積み重なっていた。
そのテーブルの中心には水晶玉が安置されており、消えそうなほど弱くなった暖炉の火を吸い込むように映し、煌々と輝いていた。

壁際の棚には、ガラス扉の中に封蝋に用いるワックスに器具や紋章、インク壺などが所狭しと置かれ、さながら執政官の道具箱めいている。
その点は、来る前に思い描いていたのと同じと言えた。

堕女神「陛下、その……」

勇者「あ、ああ、ごめん。ついジロジロと……」

堕女神「……いえ、そうではなく。陛下は、何故」

勇者「……」

堕女神「……なぜそうも、危険を冒す事にためらわないのですか?」

勇者「ごめん、いつも心配をかけているな」

堕女神「その事はいいのです。……ただ、不思議で。貴方はもう、『勇者』ではない。もう……『役目』はないでしょう。なのに」

『勇者』としてすべき事は、もう終えた。
それにも関わらず、向こう見ずな判断を取ってしまう事は、確かに心当たりがある。
今の立場は分かっているし、単に直情でそうしているとも、自分でも思えない。
少し、考え――すぐに思い当たり、どこか憂うような様子の彼女へ、答えを返す。

勇者「きっと……それが、『俺』だからなのかな」


続け――――確かめるように、言葉を紡いでいく。

勇者「『勇者』を引き摺っているから、じゃないんだな。……そうだな、俺は決戦の日、『魔王』と誓った。全ての決定を……『自分』に委ねて生きると」

最後の扉をくぐったあの日に、『勇者』はいなくなった。
淫魔の国で、『自分』として生きて行こうと、そう決めた。
『王』としてである前に――――『自分』の意思で。

堕女神「……『魔王』と」

勇者「変な話さ。俺は、結局……『魔王』と約束をした事になるな」

時が過ぎてしまえば――――『魔王』の放つ瘴気すら、懐かしく感じてしまう。
いつか自分が死した時に会えるのならば、話をしてみたいとすら思う。
そんな奇妙な感覚に、つい――乾いた笑いが頬を持ちあがらせてしまう。

勇者「……すまない、答えになったか分からない」

ふと、向き直ると気付いた。
堕女神の左手が、背中に隠れている事に。

堕女神「……ですが、たまには……目先を変えてお考えになる事も、大切かと」

差し出されたものは、細いリボンで飾られた、宝石箱にも似た長方形の小箱だった。

勇者「これは……?」

堕女神「私からの、提案の一つです。……選択をする前には、気分を変えてもう一度お考えになってください」


捧げ持つそれを受け取り、リボンを解いて、心地よく軋む蝶番で繋がれた蓋を開く。
その中には、甘い芳香といっしょに……包み紙に包まれた何かが詰まっていた。
一つを手に取り、ほどくように包みを開くと、精緻な花の型押しが施された、楕円形のチョコレートが現れる。

堕女神「……いつものような菓子では、気分転換にならないでしょう。なので……趣向を凝らして参りました」

勇者「……俺に?」

堕女神「お口に合えば幸いですが。何分、初めて作ったものでして……」

勇者「ありがとう。……ひとつ、食べてみてもいいかな」

胸の奥にむず痒いような暖かさを感じながら、開いた一つを口に入れてみた。

口に入れて数秒で溶けだして――――幸福が、身体を巡った。
甘くてとろけるような味わいと、芯のある苦みが入り混じり、純然な多幸感が身体に満ちて、
ふわふわとした妙な昂揚感さえ覚えてしまった。

余韻に満ちた時を過ごして、数秒。
口の中に入れた分はもう既に溶けて、喉の奥へと流れてしまった。
堕女神はどこか照れ臭そうな様子で視線を泳がせており、不安と、どこかしらの期待が混じったような仕草を見せていた。


彼女へ答えを返すために小箱からもう一つだけ取り出し、口に含む。
溶け始めるのを見計らい、堕女神の腰を抱き寄せると、彼女も目を閉じた。

堕女神「ん……っ」

唇が重なってすぐに……彼女の方から、舌を差し伸べて口内を探ってきた。
溶けた甘さの塊をすくい取り、堕女神が盗んでいこうとしたのを――今度はこちらの舌で取り返す。
いつにも増して甘い堕女神の吐息と、蕩けたような甘みを持った舌をねぶり、
味わう内に――時が飛んだような感覚を経てから、よく整えられた彼女のベッドに倒れ込んでいるのに気付いた。

組み敷かれているのは、自分だ。
その中で堕女神は唇を離して、先ほど渡されたばかりのチョコレートの箱を優しく取り、サイドテーブルに置いた。

堕女神「……ところで陛下、ご存知でしたか?」

するり、とドレスの肩をはだけさせながら、耳元で囁かれる。
鼓膜をくすぐられるような感覚はどうにも慣れず、首筋がこそばゆくなった。

堕女神「人間界の一部では、菓子を贈られた殿方は……返しをせねばならないとの事です」

いつの間にか、こちらもシャツを脱がされていた。
胸板に、彼女の乳房が乗って――重力のままに押し付けてくる。
肺が潰れそうなほどの苦しさと、包み込まれるような心地よさを、同時に押し付けてくる。

堕女神「……陛下。どうか……『白』の返しを、くださいませ?」





うむ お疲れ様
次はまた来年かね?

ひとまず今回はこれにて終了
読んでくださりありがとうございます
木曜ぐらいにでもhtml化の依頼を出します

>>646
いや、そんな遠くないですよw……多分


何、バレンタインは過ぎただと?
バレンタインにこんなの書いて投下したら多分首を吊っていたよ俺は

というわけですので、おやすみなさい
html化を出すまではちょくちょく覗きにまいります

キャラの詳しい容姿とか知りたいなー
その方が妄想が捗るんだが

乙です
>>1自身としても意識付けするために、次は何時くらいかざっくり宣言しとけば良いかと思う

一年ブランクでも何とか完結できて良かったです
シーン前に警告文ぐらい入れるべきだったなと今思う

>>660
目の色、髪の色ぐらいしか設定はしてないです
サキュCみたいに特徴が特にあるのは除いて

>>663
なるほど
とりあえず二、三ヶ月をめどに考えていきたいと思います
定期連載にはできないけれど、連作でどうにか


ちなみに>>1は一人暮らしなんかはじめたせいで、親からすらも今年は貰えなかったんだ
ではまた

>>674
【真夏の昼の淫魔の国】と【魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」】
後者には番外編1で”淫魔”としてサキュB、番外編2で”淫魔”として書店主
番外編3で”淫魔”としてサキュC、”淫魔2”としてサキュAが出てる、と思う

>>675
少し説明変えてみた


【魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」】
の番外編3に、サキュバスC初登場
(この時の表記は「淫魔」。他の番外編の「淫魔」とは違う)

その後の【真夏の昼の淫魔の国】に再登場
ここでサキュバスCと名乗る

さきほどHTML化依頼を出して参りました。
今回も読んで下さってありがとうございました。

それではまたお会いしましょう。
……ツイッターは呟くネタがあまり無くて何だか申し訳なく思う

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月01日 (日) 15:10:54   ID: mWuu_Py2

続編きてたのか、楽しみっす

2 :  SS好きの774さん   2015年02月21日 (土) 03:10:16   ID: ANXNf7jE

最新作楽しみです

3 :  SS好きの774さん   2015年02月23日 (月) 17:48:41   ID: SzknInnL

イン娘との絡みにはピクともしなかった。
良かった、俺は正常だったんだ。

4 :  SS好きの774さん   2015年02月24日 (火) 19:16:26   ID: FiM0OO88

ビックビクだった俺はもちろん正常ではない

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