サンタクロース外伝 「禊は雪に埋もれて」 (15)


普通のサンタものです
たまにはストレートなものが読みたい方向け

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(その一)


12月5日の夜


箱を見つめている
それはまだ少年だったころにサンタから貰ったもの
開けずにとっておいたのだ

世界各国に伝わるサンタクロース伝説
その内容は土地により様々だ
この土地でも一般のそれとは少し違うところがあった


箱を手にとる


「ずいぶん軽いな」


振ってみる
何の音もしない
手応えもない


「やっぱりカラか」



ふつうなら予め何かしらのプレゼントが入っているはずだ
だが、なぜかこの地域ではそうではなった

もらったときはカラ箱なのだ
だが、開けた少年たちの話では開けると何かしら入っているらしい



もう一つ、変わっていたところがある
ふつうなら良い子はプレゼントをもらえるが悪い子はもらえない
だが、天使のような性格の子もワルガキも分け隔てなく欲しがっていたプレゼントをもらっていたことだ

そして、ワルガキだった私もこの箱をもらっていたのだ
ただ、私は他の少年と違い、その箱を開けずにとっておいた
なぜなら彼らの話を聞いて「その箱の中身は、もらった人がその時一番欲しいものだ」と気づいたからだ


そして時がたち、大人になった私にどうしても欲しいものができた
人をあやめてしまった私が一番欲しいもの
それは――


私は箱の縁に手をかけ、フタをもちあげた





(その二)


1月5日


毎年この日の夜に魔女ベファーナは良い子にはお菓子やプレゼントを、悪い子には炭を配って歩く
(炭といっても実際は炭を模したお菓子なのだが)
だが、魔女とはいえ一人で全てこなすのは難しい


「さて、お手伝いでも作ろうかね」


そう言うと雪だるまをコンコンと叩いた
叩かれた雪だるまが驚いたように跳びはね、雪上をかけまわる


ドサッ


木にぶつかると頭上に雪が落ちてきた
頭をふって雪を払う


「炭を配る役のも必要だね」


別の雪だるまを叩くと同じように動きだした


「あんまりはしゃぐんでないよ」コツコツ


ベファーナが杖で足元を叩いた
雪の下からトナカイが姿を現した


「これに乗ってね、子供たちにプレゼントを届けておくれ」


杖をかざす
すると二体は立派な白いヒゲをたくわえた老人になった


赤い服をきた方に言う


「お前はニコラウス。良い子にプレゼントを」

「はい」


黒と茶色の服をきた方に言う


「お前はループレヒト。悪い子にお仕置きを」

「はい」

「お前さんたちのとことルールが違うかもしれないが、郷に入らばってことでよろしく頼むよ」

「わかりました」


二人がソリに乗り町に向かうのを見送ると、ベファーナも自らの仕事に取りかかった



(その三)


月夜
晴れ渡る夜空
二人を乗せたソリが悠然とかけていく


「ふぉふぉふぉ」


笑い声が静寂な夜空に響く
眼下に町が見えてきた


ル「よし、じゃあ行くか」

ニ「おう、また後でな」


ニコラウスは民家へ
路地裏へ入っていった








(ニコウラウスサイド)


この地域の人びとは信心深い
今でも皆サンタの存在を信じ、尊敬している


ニ「で、オレはどこから入ればいい?」


ニコラウスがぼやくのも無理はない
辺りの家々を見渡す
昔と違い、今はどの家も煙突などない


ニ「ま、どうにかなるだろ」


やましいことをするわけではない
プレゼントを配るだけだ



ニ「メッリークリスマス!!」ガチャ


元気よくドアを開けた
パーティー中の一家
皆、ニコラウスの声に驚いたようだ


ニ「良い子にしていたキミにこれを」


ニコラウスが箱を差し出す


「ありがとう」


男の子は素直に受け取ってくれた


ニ「では、私はこれで」


言葉少なに立ち去る
突然の訪問でも人びとはにこやかに迎えてくれた


ニ「不審者と思われるかと思ったが……」


全くそんなことはなく、仕事を達成できたことに喜びを感じる


ニ「さて、次に行くか」


今夜一晩でまわらなければならない家は多い
二軒目、三軒目・・・
次々とまわっていく







(ループレヒトサイド)


路地裏
少年たちがたむろしている


ル「メッリークリスマス!!」


少年たちは「あ?」といった顔つきでループレヒトを見た
どうやら歓迎されていないようだ


「サンタか?」

「あの格好でか?」


確かに彼の格好は一般的なサンタとは異なっている


「知ってるぜ、黒いサンタクロースだろ」

「へえ、一応サンタなのか」

「おいサンタ、何かよこせよ」

ル「ふぉふぉ」


彼らは知らないのだろう
残念ながら私はお仕置き専門だ

ループレヒトは魔女から預かっていた木の枝をふところから取り出した


バキッ


ル「……」


出した瞬間に折られてしまった


「へっ」


ふところから光り物を取り出した少年
彼が座っている箱の上には注射器が転がっている


「プレゼントは実用的なものがいいのよ」

「わかる?」

ル「……」




魔女から借りていたものは木枝と炭を模した甘いお菓子以外になかった
この少年たちがお菓子で納得するはずもない


ゴソゴソ


他に何かないか
ポケットを探してみた


カサ


ル「……」


手に何か当たった
取り出してみる


「……箱?」


少年がループレヒトの手のひらの上からサッと取り上げ上下に振った


「カラじゃねえか!」


少年が箱を叩きつけた


「よう、おっさん、さっきからなめてるの?」

「ただのコスプレ好きの不審者か?」




ガコ


とうとう少年の拳がとんできた


ル「……」


口の中が切れたのだろう
鉄の味がした


ル「ペッ」


ガコッ


血を吐き出すと同時に少年に鉄槌を下した


ル「なあんか勘違いしているようだが」

「てめえ!」チャッ


少年たちがそれぞれのエモノを構えた


ル「オレはよお」


続けざまに攻撃を入れる


「ぐほ」

「ガッ」


サッ


ナイフをかわす
と、同時に叩き込む


ル「お仕置きにきたんだぜ」



シュッ


奪ったナイフを鎖を振り回している少年の方に投げた
少年もそれをよけた
が、ループレヒトに読まれていた
逃げた方向にループレヒトの回し蹴りが先回りしていた


バキ


「ちくしょう!」

ル「これがオレの禊なんだ。悪く思うなよ」



「お前、聖職者じゃねえのかよ!?」

ル「ウチの業界じゃ強えヤツが聖職者なのさ」クイ


聖職者にあるまじきジェスチャーをするループレヒト
間もなく、少年たちは残らず鎮圧された


ガコ


少年が腰かけていた木箱を開ける


ル「やっぱりな」


中にはサブマシンガンと銃弾が転がっていた


ル「コイツは没収だ」


ジャラ


腰に銃弾を巻き付け、左手にマシンガンを携えた


ル「ガキにはまだ早えぜ」


代わりに炭のお菓子を箱一杯につめてやる
足元には先ほど投げ捨てられたカラ箱があった


ル「そのカラ箱はくれてやる。取っておけ」


近くの少年に言った
そして、そのまま暗闇へと消えていった



(その四)


そして月日は流れる
まともな人間は一人、また一人と世の中に収まっていく
だが、ワルガキだったツケは重かった
オレたちにはロクな就職先がない


「ウチに来ないか?」


誘ってくれたのが傭兵専門の会社だった
そこならスネに傷があったって不問だ
くいっぱぐれもない


「全くうってつけだ」


争いを求め、世界中を流れていく
ある者はコンゴへ、ある者はアフガンへ
仲間は散り散りになっていった


「最近の戦争ってのはゲーム感覚だぜ」


オレが流れついたのはステイツだった
そこはたとえ戦争でも自国の兵隊が死ぬのが御法度な場所だ
だが、敵は違う
指先のボタン一つでどうとでもなる命だ


「命の重さってのは不平等だな」


だが、オレには関係のないことだ
来る日も来る日もボタンを押し続ける日々


「ゲームと同じさ」


何も感じることはなかった
あの日までは――



あの日、いつものようにボタンを押していた
ルーチンワークをこなしているだけだ
その時、ふと目に飛び込んできたのが銃を構えた男だった
武装ゲリラが多い地域である
いつもの癖で反射的にボタンを押してしまった
しかし、押してから「しまった」と思った

昔の仲間に似ていたのだ


「確かあいつは……」


アフガンに流れた仲間の一人
そこで宗教に目覚め、現地で家族を持ったと聞いていた


「……」


気づいて血の気が引くのを感じた
だが確かめようもない
ただ本人ではないことを祈るのみだ


その時殺った相手が仲間だったのか、結局わからずじまいだった
だが、オレは傭兵を辞めた


(その五)


ある片田舎にて


「今年もご寄附をいただき、ありがとうございます」

「いえ」


言葉少なに立ち去った
あれから数十年
毎年クリスマスに合わせてかかさず子供たちへ寄付をしている
そのせいだろうか


「もしかしてサンタさんですか?」


そう聞かれることがある
そのたびにこう答える


「サンタは見たことないね、赤いのはね」


「赤いの」を強調する
するとたいていの相手はキョトンとしてこう聞き返す


「赤いサンタ以外で会ったことが?」

「ガキの時分、黒いサンタなら会ったことがあるよ」

「へえ、何をもらったんですか?」

「なぐられただけさ。ワルガキだったからね」

「はっはっはっ」


そう、ただの笑い話だ
あの日拾ったカラ箱は何の効果もなかった
「よくあるデマだったに違いない」
自分の中でそう結論付けた
だが、その一方で信じている自分もいる

あの黒いサンタは自分と同じ匂いがした
おそらく、元はワルガキだったにちがいない
もしそうなら……



ル「これがオレの禊なんだ」


その言葉の意味を考える


「サンタとして子供たちのために活動することで、今までのカルマを振り落そうとしていたのではないか」


つまり、ワルガキがあのカラ箱を開けたことで罪を償うチャンスをもらっていたのだ
勝手にそう思っている

とにかく、真偽の程は定かではない
たしかめようもない
だが、あの箱を開けたことで一番欲しかったものが手に入った
そんな気がしている


「ずいぶんと時間がかかってしまったがな」


それでも今は満足感すら感じている


「そう言えば……」


時々、ふと思い出す
いつの間にかあのカラ箱はなくなっていた


「きっと誰かの手に渡っているんだろう」


もう気にならなくなっていた
たとえ本物だったとしても、もはや自分には無用なものだとわかっていたから


そして数年後――


ゴーンゴーン


降りしきる雪の中、教会の鐘が鳴り響く


「故人は悪しきを憎み、善きことをなし……」


神父が説法をしている
その脇には涙を流す者もいる

箱を開けてからの後半生、彼は市井の人間として無事つとめ上げた
禊は終わった
十字架に雪はしんしんと降り積もる




           「禊は雪に埋もれて」完



以上です
では、良いサンタ狩りを

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