江ノ島「誕生日にはとびっきりの絶望を」 (98)

・このssには苗ノ島のカップリングを含みます。苦手な方はご注意を
・一部書き溜めあり。書き溜め無くなったらちまちま進めます

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苗木「江ノ島さんってば放課後に教室に来いって言ってたけど何のようなんだろ……?」

苗木「あれ、誰もいない……のかな?」


江ノ島「メリーエノシマス!」


苗木「わっ!え、江ノ島さん!」

江ノ島「メリーエノシマス!」

苗木「えっ……?」

江ノ島「復唱しろよ」

苗木「ええっ!?」

江ノ島「……というわけで」

江ノ島「待っていたわ!私様は待っていたのよ!苗木誠、あなたが来るのをね!」

苗木「何が『というわけ』だよ。そもそもまだクリスマスじゃないし」

江ノ島「そう、そのクリスマスなんだ。今月の24日……アタシとむくろの誕生日ってのは知ってるだろ?」

江ノ島「苗木クンにはね、そのお祝いを頼みたいの!」

江ノ島「一言で言うならプレゼント持ってきてください。これはあなたにしかできないことなのです」

苗木「ボクにしかできないって……。他の人にも頼んだ方がいいんじゃないの?誕生日を祝うならなるべく大勢いた方がいいしね」

江ノ島「アマいアマいアマいんだよ苗木ィー!オメェにしかできないスペシャルなプレゼントを用意してもらいたいんだよ!」

江ノ島「というか生半可なものでは喜べません……。何を貰っても喜べないなんて絶望的ですよね……」

江ノ島「うぷぷ……。だからこそキミには『とびっきりの絶望』をプレゼントしてほしいのさ」

苗木「と、とびっきりの絶望!?」

江ノ島「以上で伝えたいことおーわり!アタシ帰るねー」

苗木「ちょちょちょちょっと待って!いきなりすぎて脳が状況に追いつけてないんだけど!」

江ノ島「えー、苗木ってばこの程度の説明でも分かんないのー」

苗木「途中までは理解できたよ。絶望の下りで全部台無しになったけどね!」

江ノ島「しょうがないなあ……。じゃあ苗木クンのために質問タイムを設けようじゃないか」

苗木「えっと、とびっきりの絶望ってどういうことさ」

江ノ島「お答えしましょう。その名の通り私を絶望させてくれればいいのです」

江ノ島「方法は問いません……。あなたが死ぬことでもいいし、私を殺すことでも問題ありません……」

苗木「いや問題しかないよ……。なんで例えが人の死なのさ」

江ノ島「なんでもいいから絶望だ!絶望を持ってこい!」

苗木「こんな話を聞かされてボクがキミの誕生日を祝うと思ってるの……?」

江ノ島「アタシとアンタの仲じゃないか、これくらいどうってことないだろう?」

苗木「いやでも絶望なんてそんな曖昧な物持ってこいって言われてもね……」

江ノ島「苗木クンってばつれなーい。『超高校級のお人好し』であるキミなら絶対どうにかできると思ってたのにぃー」

苗木「勝手に変な才能付けないでよ!とゆうか才能ですらない!」

江ノ島「では私様は誰から絶望をもらえば良いというのだ」

苗木「なぜ絶望をもらうというその発想が間違ってることに気づかない……」

江ノ島「なんて絶望的なことを言うんですか……。絶望は私にとって酸素のような存在なんですよ……?絶望するなって生きる価値否定されたようなもんじゃないですか……」

苗木「じゃあ希望を持って生きていけばいいんじゃないかな」

江ノ島「オレは希望が嫌いだ!希望みたいな絶望の踏み台にしかならないものなんざ必要ねえんだよ!」

江ノ島「うぷぷぷ……。というわけで頼んだよ苗木クン。ボクに絶望を持ってこれるのはキミしかいないんだよ」

苗木「だから!ボクはキミの誕生日を祝うなんて一言も……」

江ノ島「じゃあさ、勝負をしようじゃないか。アタシがアンタのプレゼントに絶望したらアンタの勝ち。絶望しなかったらアタシの勝ちだ」

江ノ島「アンタが勝ったら……そうだね、アタシのこと好きにしなよ。せっかくの聖夜なんだから寒い夜に体と体を交えた熱い交流も悪くはないと思うな」

苗木「キミが勝ったら……?」

江ノ島「あなたを絶望させます」

苗木「ずいぶんシンプルだね」

江ノ島「で、どうするのかなー?この勝負受けてくれるかなー?」

苗木「……ボクが勝ったらキミが一つ言うことを聞いてくれるって解釈でいいのかな?」

江ノ島「そんな感じです……。私はどんなプレイでも文句言わずに遂行しますよ……」

苗木「……よし、決めた。その勝負受けようじゃないか」

江ノ島「苗木!オメェってばやっぱり猿なんだな!こんな条件付けられたら男としては逆らえないってか!」

苗木「ボ、ボクはそういう目的で引き受けたわけじゃない!」

江ノ島「さてと……そろそろ質問タイムを打ち切りたいんだけど」

苗木「…………」

江ノ島「沈黙は肯定と受け取りまーす。じゃあ今度こそバイビー!」ダッ

苗木「あ、そうだ」

苗木「どうしてボク以外の誰にも誕生日のことを相談しようとしなかったの?江ノ島さんは結構顔が広いはずなのに」

江ノ島「…………」

江ノ島「質問タイムは終了しましたー!またのご利用をお待ちしておりまーす!」ダダッ

苗木「あっ、待って!」





苗木「行っちゃったよ……」

苗木「本当に自由な人だな、彼女は」




苗木(さて、肝心の絶望についてだけど)

苗木(江ノ島さんを絶望させるほどの絶望ってなんだよ。自分で言ってて意味が分からなくなってきた……)

戦刃「あの……苗木くん」

苗木(江ノ島さんも江ノ島さんだ。なんでボクなんかに……)

苗木(こういうのはもっと彼女をよく知っている人に頼むべきだと思うんだよな)

戦刃「な、苗木くん……」

苗木(でも、勝負を受けた以上ボクも引き下がれないよな)

苗木(で、その与える絶望が分かればこんな悩んでないんだけど……)

戦刃「苗木くんってば!」

苗木「どわっ!?い、戦刃さん!?」

戦刃「良かった、気づいてくれた……。ただでさえ盾子ちゃんに無視されてるのに苗木くんにまで無視されたら私……」

苗木「ご、ごめん!ちょっと考え事してて……」

戦刃「考え事って盾子ちゃんのこと?」

苗木「えっ、な、なんで分かったの?もしかしてエスパー?」

戦刃「さっき教室から盾子ちゃんが出てくるのを見て、その後苗木くんが出てきたから何か二人で話してたんじゃないかなって」

苗木「その通りだよ……。ちょっと誕生日に関することをね」

戦刃「誕生日?そういえば私も今月誕生日だった!」

戦刃「でも私誕生日プレゼントなんて貰ったことないや……。ここ数年間はずっと戦場で誕生日過ごしてきたし」

苗木「だったらボクが用意しようか?戦刃さんには日頃お世話になっているしね」

戦刃「そそそそそんな悪いよ!な、苗木くんが私にプレゼントだなんて……」

苗木「そんな遠慮しなくていいんだよ。年に一度の祝いの日なんだし、たまには他人の好意に甘えるのも悪くはないよ」

戦刃「苗木くん……」

戦刃「そ、それじゃあ、あの……ななな、苗木くんは24日は予定とかある、かな……」

苗木「24日か……。そういえばキミたちの誕生日を祝うことばかりで大まかな予定とかは決めてなかったな」

戦刃「そ、そそそれなら、あの、その、わ、私の家に来て、くれないかな……」

苗木「戦刃さんの家に?」

戦刃「そ、その……今年は久しぶりに日本に戻ってきたから盾子ちゃんと一緒に過ごそうと思ったんだけど……」

戦刃「苗木くんが来てくれるなら盾子ちゃんも喜んでくれるはずだし、わ、私も嬉しいから……」

戦刃「だ、駄目かな……?」

苗木「駄目なわけないじゃないか。戦刃さんがボクを誘ってくれるなんてとっても嬉しいよ!」

戦刃「ほ、本当に!?良かったあ……」

苗木「それで、ボクは何時頃行けばいいかな?まあ、何時でも空いてるんだけどさ」

戦刃「来たい時に来てくれれば何時でも……。あ、でもあまり朝早くだと盾子ちゃんも困っちゃうかも」

苗木「分かったよ。それじゃ午後のうちに向かうとしようかな」

戦刃「ふ、ふつつかものですがよろしくお願いします!」

苗木「戦刃さん、それ使う場面間違ってるよ……」

苗木「っと、そうだ!戦刃さんに聞いておきたいことがあったんだ」

戦刃「聞きたいこと?私でよければ何でも答えるけど……。あっ、で、でも個人的な質問は無しにしてね!好きな人とか!」

苗木「いや、ちょっと江ノ島さんの誕生日プレゼントを考えてて……。戦刃さんなら江ノ島さんの好みも分かるんじゃないかって」

戦刃「盾子ちゃんの好みか……。ごめんなさい、私にもあの子の好みを掴むのは難しくて……」

戦刃「一昨年は軍服を、去年は小銃の模型を贈ったんだけど結果は『オマエのプレゼントは焼却炉にぶちこみました』って返事ばかりで……」

苗木(なんだろう、江ノ島さんの気持ちが分かる気がする)

戦刃「でも今年は盾子ちゃんの顔を見て贈れるから実用性も兼ねて心のこもったミリタリーブーツを贈ろうと思ってるの!」

苗木(まずい、このままだと戦刃さんが焼却炉行きになってしまう)

苗木「い、戦刃さん!江ノ島さんは『超高校級のギャル』なんだしもっとそれらしいものを贈ったらいいんじゃないかな!」

戦刃「それらしいもの……。でも私ファッションとか流行には疎いから……」

苗木「それはボクも同じだよ。だけど戦刃さんが江ノ島さんに関連するものを持ってきたらそれだけで喜んでくれるはずだよ!」

戦刃「そっか……そうだよね!盾子ちゃんもきっと心の中では私のプレゼントを待ち望んでいるはずだよね!」

戦刃「ありがとう苗木くん!私、なんか希望が見えてきたよ!」

苗木「どういたしまして。さてと、ボクも彼女へのプレゼントを考えなきゃな」

戦刃「盾子ちゃんもきっと苗木くんから貰ったものなら何でも喜んでくれるよ!」

苗木「だと、いいんだけどね……」

苗木(戦刃さんでも分からないんじゃ難しくなるだろうな)

戦刃「私盾子ちゃんに苗木くんが来るってこと伝えてくるから。じゃあね!」タッタッタッ

苗木「さようなら、戦刃さん」




戦刃「あ、いたいた盾子ちゃーん!」

江ノ島「この残姉が!」ブンッ

戦刃「ひゃあっ!な、なんでいきなり殴ってくるの!?」

江ノ島「アンタが苗木にデレデレしてる間に話は聞かせてもらったわ。そして結論をだした。アンタは馬鹿だ!」

戦刃「えっ、えっ?ご、ごめんなさい……」

江ノ島「そうやってすぐ謝るとこが実に残念だな。私様はそんなあなたに絶望しているのよ?」

江ノ島「だいたいアタシがアンタの渡すプレゼントに喜ぶわけないじゃん……。アンタは自分の価値というものを分かっているのかい?」

江ノ島「そ・れ・に・だ!オメェオレの許可なく勝手に苗木のこと誘ってんじゃねーよ!誘うのは夜の誘いだけにしろ!」

戦刃「ええっ!?でも苗木くんって人気だから早めに誘わないと予定埋まって来てくれないかもしれないし……」

江ノ島「いいじゃないですか、来なくても。それはそれで絶望を味わうことができるというわけです」

江ノ島「そんなことも分からないなんて本当に残念なんですねむくろお姉ちゃんは……」

江ノ島「ま、ぶっちゃけ言うと本当はボクが先に苗木クンを誘おうと思ったんだけどね。こんな奴に出し抜かれるなんて絶望的だなあ……」

戦刃「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」

江ノ島「もういいよ、計画がうまくいかないのはいつものことだもんねー。さてさて苗木クンは絶望を得るためにどんな働きをしてくれるのかな」

江ノ島「今から結果が楽しみ!アッハハハハ!」

戦刃「盾子ちゃん……すごく活き活きしてる」

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苗木(結局昨日は全然眠れなかったな……。絶望ってなんなんだよ……)

石丸「おはようっ!苗木くん!」

苗木「お、おはよう石丸クン。朝から元気だね……」

石丸「当然だとも!1日を健やかに過ごすには1日中元気でいること!故に僕は朝から元気なのだ!」

石丸「苗木くんも朝から死んだような目をせずに腹からいっぱいに声を出してみたらどうかね?スカッとして気持ちいいぞ!」

苗木「遠慮しておくよ……。ボクは今ちょっと眠くて仕方ないんだ……」

石丸「む。苗木くん、君は昨日ちゃんと寝たのかね。規則正しい生活をおくるためには睡眠時間の確保も重要だぞ!僕はもちろん毎日9時間の睡眠を心掛けてだな……」

苗木「し、失礼するよ!」

朝日奈「おーっす、苗木!朝から大変そうだねー」

大神「だが、石丸の奴も好意でやっているのだろう……。奴の言葉には有益な情報も多いからな、耳を傾けても損はないぞ」

苗木「そうなんだけどね……。ふあ~あ、寝不足の朝からじゃこたえるよ……」

朝日奈「珍しいね、苗木が寝不足なんて。夜中までトレーニングしてたとか?」

苗木「トレーニングって……。少し考え事をしてたんだよ」

朝日奈「考え事かー。私は考えるの苦手だし、そういうことはあまり無いかな」

大神「お主が寝不足をおこすほどなのだ。ただ事ではないのだろうな」

朝日奈「あ、私も気になるー!」

石丸「うむ。僕としても気になって仕方がないな!」

苗木「石丸クン!」

石丸「すまない、君達の会話を盗み聞きする気は無かったのだが……。苗木くんの寝不足の裏に事情があったとはつゆも知らなかったぞ!」

苗木(……みんなにも少し話しておくか)


苗木「……みんなってどんな時に絶望するかな?」

石丸「ふむ、絶望か……。やはり絶望とは己の中にあると思うのだ!」

苗木「己の中?」

石丸「うむ!自分がどうしようもなく不甲斐ない時、情けない時などは絶望するぞ!」

朝日奈「へえ、石丸にもそんな時ってあるんだ」

石丸「ならばそういう朝日奈くんはどうなのだ!」

朝日奈「やっぱりドーナツが無い時でしょ!それ以外考えられないよ!」

苗木「いや、さすがにそれで絶望はしないでしょ」

朝日奈「何言ってんの苗木!ドーナツはこの世の真理なんだよ!丸く空いてるのだって神様がこの世を見るために作ったんだから!」

苗木「それはいくらなんでも違うよ……」

朝日奈「絶望って言ったって身近にあるもので思いついただけだしなー。さくらちゃんはどう思う?」

大神「我か……。我は守るべきものを守れなかった時、だろうか……」

大神「元より、我は絶望に屈するつもりは無いが強いてあげるならばこれになるだろうな」

苗木「やっぱり大神さんは強いね。誰よりも力があるし、精神面も鍛えられてるし誰よりも絶望に強そうだよ」

大神「それは違うぞ苗木よ……」

大神「我はまだ不完全だ。それに肉体だけがあっても今の我の精神では完全に使い切れていない。お主ような精神があってこそ拳は真の輝きを発するのだ」

苗木「そ、それって大神さんよりボクの方が精神力が強いってこと!?それはないって!」

石丸「だが、苗木くんのその前向きな性格は自慢していいものだぞ!現に僕も見習っているところだ!」

朝日奈「せっかくさくらちゃんが褒めてるんだから喜んでいいんだよ!苗木の明るい性格の前には絶望もダッシュで逃げてくって!」

苗木「そ、そうなのかな……?」

朝日奈「きっとそうだよ!」

石丸「やはり、苗木くんには絶望という言葉は似合わないな!」

大神「苗木よ、話して楽になったであろう……。お主はこれで今日からゆっくり眠れるぞ」

苗木「はは……ありがとう」




苗木「うわ……。相変わらず食堂は混んでるな……。もう少し早く来ればよかったよ」

苗木「早く席さがさないと。このままじゃお昼抜きになっちゃうよ……」


江ノ島「そこの苗木。ここに座ってかない?今なら膝上も空いてるけど、どう?」


苗木「江ノ島さん!」

江ノ島「いやー偶然ね。アンタが困ってるもんだからついつい声かけちゃった。ほら、座りな」

苗木「あ、ありがとう。良かったー知り合いがいて。このままだと席も取れずにずっと右往左往してたとこだったよ」

江ノ島「んで、どうよ調子の方は。とびっきりの絶望、用意できそう?」

苗木「さっぱりだよ。具体的な指示もないし、キミが何に絶望するかなんてボクは分からないんだから」

江ノ島「分かんねーのがいいんでしょうが。プレゼント渡す前に中身教えるかフツー?まあ教えたら教えたで絶望的だけどね、んなちっせー絶望なんざ求めてないわけよ」

苗木「だったらもう少し詳細を教えてもいいじゃないか」

江ノ島「ほら、一から探すと手作りの絶望って感じがしてプレゼント感が増すじゃん?」

苗木「手作りの絶望って……」

江ノ島「ま、そういうわけで頑張ってよ。アンタも絶望はしたくないでしょ?」

苗木「ボクはやれることをやってみるだけだよ」

江ノ島「じゃ、楽しみにしてるから~。汝に絶望あれ!」





苗木「結局具体的なこと何一つ教えてないよな……」

苗木「まあいいや、まずは腹ごしらえを……あれ」

苗木「まさか……サイフ忘れた……?」

苗木「はあ……早くも絶望したよ」

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苗木(あれから数日経ったがボクは未だに答えを見つけていない)

苗木(我ながら無茶な勝負を引き受けたもんだと今さらながらに後悔している)

苗木(それでも諦めるようなことだけはしたくなかったので結局今日も絶望に関して考えただけで1日の授業が終わってしまった)

苗木「マズイな……。絶望について考えるのも大事だけど授業についていくことも大事だ。期末テストで赤点を取らないよう注意しなきゃ」

桑田「いよう、苗木!暇かー?暇ならオレ達とバスケしねえ?メンツが足りねえんだよ」

苗木「悪いけど、ボクこれから部屋に戻って勉強しなきゃいけないから……」

桑田「勉強だあ?男は勉強よりスポーツっしょ!オメーも石丸みてーにはなりたくねえだろ?」

苗木「いやでも期末テストが……」

桑田「その名前を出すんじゃねえ!オレは一刻も早くソイツを忘れたいんだよ。だからこうやってバスケに精を出すってわけ」

桑田「ま、女の子との夜の付き合いにも精を出したいんだけど……ってそんな目で見んなよ!」

桑田「と、とにかくだ。オメーにもバスケをしてもらう!オレにテストの存在を思い出させた罰だ」

苗木「そんな無茶苦茶な……」

桑田「さっさと体育館に来いよー!来なかったら大和田にデコピンさせっからなー!」ダッ




苗木「はぁ……はぁ……。な、なんでこんなに走って……」

不二咲「苗木君お疲れ様。はい、これ水」

苗木「あ、ありがとう……」

大和田「わ、悪い不二咲。オ、オレの分も取ってくれねえか……」

桑田「オレも頼む……」

不二咲「二人ともすごい汗!ちょっと待っててね!」

苗木「それにしてもずいぶん走ってたよね。冬とは思えない汗の量だよ」

桑田「まあな。やっぱ勉強なんかよりもスポーツやった方が気持ちいいだろ!」

大和田「勉強か……。そういやもうじきテストだったな。このままだとちとやべーし兄弟に相談してみるか……」

桑田「お、大和田!?オメーまさか……勉強すんのか!?」

大和田「たかが勉強くらいで大げさだな。オレだって赤点取って休み潰されるのはゴメンなんだよ!」

苗木「どっちにしろ、大和田クンには石丸クンの監視があるからね。ほぼ強制的にやらされるのは間違いないんじゃないかな」

桑田「くっそ~、オレってば今超絶望的な状況じゃん。葉隠あたりなら一緒に道連れにしても問題ねえよな……?」

苗木(絶望……。彼らにも絶望について聞いた方がいいかな)

不二咲「二人ともー、水持ってきたよぉ!」



苗木「ねえみんな、ちょっと話したいことがあるんだけど」




不二咲「うーん、絶望か……」

桑田「今テストが近いこの状況だよ!この状況を絶望と呼ばずなんて言うんだよ!」

大和田「自業自得だろ。勉強しなかったオメェが悪いんだろうが」

桑田「ぐっ……」

大和田「オレはやっぱダチを失うことだな。何かを失うってのはこえーことだからな……」

不二咲「僕は、そうだなあ……コンピューターのデータが消えた時とかかな?バックアップを取ってなかった時はよりショックが大きいよ……」

不二咲「後は強くなれない自分自身、かな……」

大和田「何言ってんだ不二咲。オメェは強えよ」

不二咲「そんな……僕なんてこんなひょろひょろした体だし、男っぽくないってよく言われるし……」

苗木「強さっていうのは体だけじゃないよ。心の強さっていうのもあるんだ」

苗木「不二咲クンが自分が男であることを話した時だって相当勇気が必要だったはずだよ。でも、キミはそれをやってのけた」

不二咲「苗木君……」

桑田「それによ、不二咲はここ数ヶ月でちゃんと成長してるっつーの。だから胸を張って生きていいんだぜ」

不二咲「ありがとう……僕……」

桑田「しっかし苗木よお、オメーまたなんでこんなこと聞いてんだ?」

苗木「えっ、いや、それは……そう!哲学の本にそう書いてあったんだよ!」

不二咲「すごい!苗木君って哲学の本も読むんだぁ!」

大和田「なるほどな、小難しい話の一つもできるもんだ」

桑田「まじかよ……。やっぱ話題を作るためにはそういう本を読んだ方がいいのか?でもそういう本苦手だしな……いやでもモテるためなら……いやいや……」ブツブツ

不二咲「苗木君なら絶対に絶望なんてしそうにないよね!」

大和田「ああ、コイツは絶望なんて程遠いからな。まったく、その前向きな性格を分けてほしいくらいだぜ」

苗木「ボクってそんなに言われるほどのものかな……。確かに絶望は嫌だけどさ」





桑田「待てよ、哲学の本読めば勉強した気になるんじゃね?女の子と話す話題も出来て賢くなれる……。一石二鳥じゃねーか!」

桑田「そうと決まれば早速図書館に……ああでも十神や腐川がいるとなんか言われそうだな。ここは少しアイツらに会わないような時間を……」ブツブツ




苗木「今日も疲れたな……。時間もあるしランドリーに洗濯にでも行くか」





苗木「絶望って一体なんなんだろうな……」

江ノ島「知りたい?知りたいよね!でも教えてやんない!」

苗木「江ノ島さんはホントに何考えてるんだろう……」

江ノ島「実は年中無休苗木のことばかり考えてまーす!」

苗木「はあ……。つらいなあ……」


江ノ島「つらいのはこっちだっつーの!さっきから無視してんじゃねーよ!」


苗木「いやだって江ノ島さん、結局何も教える気ないでしょ?」

江ノ島「うん!」

苗木「即答か……。ホントにこんなことして何か楽しいことでもあるの?」

江ノ島「さあ?」

苗木「……帰る」

江ノ島「待ってよ苗木ー、そう怒んなって。楽しいことっつったらアンタから貰う絶望以外ないっしょ!」

江ノ島「いわゆる絶望を希望してるってやつ?……いっけね、希望なんて言葉使っちゃったよそんなアタシに絶望した!」

江ノ島「とにかく、今言った事に嘘はないから。アタシは心の底からプレゼントを楽しみにしてるの!」

江ノ島「なんたって苗木からのプレゼントだし~?こう……ね?男の子から貰えるプレゼントっていうのはさ……ここから先はアタシの口からは言えな~い!」

江ノ島「ま、よろしく頼むわ。んじゃねー」



苗木「また適当なこと言ってどっか行っちゃったよ」

苗木「誕生日まであまり時間もないし、早く決めなきゃな。……ん?」チラ

苗木「な、なんで江ノ島さんのパンツがボクの荷物に……!」

苗木「偶然か意図的かは知らないけど迷惑な置き土産だよ……」

苗木「まったく……。絶望的だ……」



苗木(後で届けにいった際に教えてもらったが、実は戦刃さんのだったらしい)

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苗木(聞いてていろんな絶望があるんだな。これで少しは江ノ島さんを絶望させるヒントになればいいんだけど)

苗木(喉が渇いたし少し食堂で一服していくか。また桑田クンに捕まりたくもないし)

苗木(あれ、あそこにいるのは……)


山田「やあやあ、これは苗木誠殿。こんなところで会うとは奇遇ですなあ」

苗木「山田クン。キミもなんか飲みに来たの?」

山田「ああいえいえ、拙者はセレス殿にロイヤルミルクティーを用意する最中なのですよ」

山田「最近は言われる前に用意するようにしてましてね。前は遅いとよく怒られていたのですが、最近はそれも減ってきましたよ。僕だってしっかり成長してるってわけです!」

苗木(たしかに下僕としてしっかり成長してるな……)

山田「ところで苗木誠殿は『ボーリング大会』に出るの予定はありますかね?」

苗木「ボーリング大会?何それ?」

山田「おや!今朝の石丸清多夏殿の話を聞いていないのですかな?年末も近いし最後の顔合わせということでボーリング大会を開くことになったんですよ。企画は朝日奈葵殿が立てたようですがね」

苗木(そういえばそんな話をしてた気がする)

山田「開催日は今月の25日……。まさか予定があるなんて言わせませんよ……」

苗木「大丈夫だよ!その日は予定が無かったはずだ」

山田「むふふ……。苗木誠殿もやはり‘‘こちら側''の人間でしたか……」

苗木「‘‘こちら側''?」

山田「『彼女いないからクリスマス空いてるよ同盟』に決まってるだろ!」

苗木「そんな同盟聞いたこと無いし入った覚えもないよ!」

山田「だいたいなんだ!最近のリア充共は盛り上がれば時と場所を選ばずズコバコしすぎなんだよ!」

山田「僕はッ!今ここにッ!リア充撲滅の開催をッ!宣言しまあすッ!」

苗木「ちょっと山田クン落ち着いて!」

セレス「ずいぶん騒がしいですわね。目的の物を用意したら静かに待ってるようちゃんと躾けたはずですわよ?」

苗木「セレスさん……!」

セレス「ご機嫌よう、苗木君。山田君と一緒にいらしたのはあなたでしたか」

セレス「せっかくですしご一緒にお茶でもいかが?……山田君」

山田「かしこまり!ささ、苗木誠殿、どうぞ席へお座りください」

苗木「あ、うん、ありがとう……」

苗木(来ただけですぐ空気をものにしちゃったよ……。さすがギャンブラーなだけあるな……)

山田「淹れたてのロイヤルミルクティーでございます」

セレス「淹れたて?少し冷めてるのは気のせいですか?」

山田「ええ~。だってセレス殿が数分ほど遅れて来るからじゃないですかー。僕いつも来る時間測ってるんですよー」

セレス「あ?」ギロリ

山田「すべての責任はこの豚めにありまする!」

苗木(しっかり調教されてるな……。山田クンの将来が心配だよ……)

苗木(……この機会だし、二人にも絶望について聞いてみるか)



苗木「二人とも、ちょっと時間いいかな?」




山田「ふーむ……僕としては作業中にインクこぼした時ですかねー。今までの苦労が無駄になったと思うと絶望しかなーい!」

セレス「わたくしは洋服が汚れた時でしょうか。この洋服用意するのが結構面倒なので」

山田「だったらそんな服止めて芋ジャーでも着たらどうです?」

セレス「わたくしがわたくしであるためにはこの服が一番なんです。他の誰かに指摘されても直すつもりはありませんわ」

苗木「でもゴスロリ以外の服を着たセレスさんも見てみたい気がするけどね」

セレス「いくら苗木君の頼みでもわたくしのアイデンティティーを奪うのは許しませんわよ」

山田「ところで、苗木誠殿はどんな時に絶望を感じるのですかな?」

苗木「そういえば考えてなかったな……ボクとしては希望を失った時、かな」

山田「そのまんまですな。ですが苗木誠殿らしいといえばらしいですな」

セレス「その希望をいつまでも失わないように歩んでほしいものです。苗木君はみんなから頼りにされてるのですから」

セレス「ところで苗木君、わたくし今ギャンブルの対戦相手が欲しいのですがこの後娯楽室で一つどうです?もちろん賭け金をつけて」

苗木「丁重にお断りします!」ダッ





セレス「逃げられましたか」

山田「苗木誠殿を希望を奪うのはやめたげてよお!」




苗木「危ない危ない……。セレスさん相手だとどれだけ搾り取られるか分かったものじゃないぞ……」

江ノ島「だったら苗木、アタシと勝負しない?」

苗木「江ノ島さんか……やめておくよ。キミと戦っても勝てる気がしないし」

江ノ島「なんだよつれねーなー。手加減してあげるからいいでしょー」

苗木「そう言ってボクはキミの言葉に何度騙されたことか……」

江ノ島「大丈夫、今日は大丈夫な日だって!」

苗木「その言葉誰かに聞かれたら確実に誤解されるよ!」

江ノ島「じゃあアタシに勝ったらアタシの欲しい絶望のヒントを教えてあげる」

苗木「……それは本当?」

江ノ島「マジのマジの大マジ!どうよやる気になった?」

苗木「手加減してくれるなら……」

江ノ島「オッケーオッケー!早速娯楽室に行っきましょー!」





苗木(ボクがあの後騙されたことに気づくのに時間はかからなかった……)

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苗木(なんとなくだけど考えはまとまり始めている)

苗木(でもどうやって渡すか……絶望させるって意外と難しいな)

苗木(それでもボクは挫けないぞ。前向きなのがボクの取り柄だもんな)


葉隠「おお、苗木っち!ちょうどいいところに見つけたべ!今日は星のめぐりが良いのかもしれねーな!」

苗木(さっそく挫けそうだ)

葉隠「ちょいと相談があるんだが……。なーに、ちゃんと報酬は出すべ、成功したらの話だがよ」

苗木「と、とりあえず聞くだけ聞こうかな」


葉隠「ずばり!十神っちを説得してほしいんだべ!」


苗木「ええっ!?と、十神クンを?」

葉隠「十神っちの財力と権力……そこに俺の占いが加わったら百人力だと思わねえか?」

葉隠「リアルな話……これはニュービジネスとなりえるべ!」

苗木(なるほど、読めてきたぞ)

葉隠「ところがどっこい肝心の十神っちがノリ気じゃねえんだ!俺じゃ何を言っても聞く耳持たずだしよ、苗木っちに説得をしてほしいってわけさ」

葉隠「なあ、いいだろ?報酬はこのビジネスが成功したら3割……いや2割ほど売り上げ渡すからよ!」

苗木(そういえば葉隠クンと十神クンにはまだ絶望について聞いてなかったな)


苗木「や、やれるだけやってみるよ……」

腐川「は、葉隠!あんたまた白夜様の時間を奪いに来たの!?」

葉隠「今度ばかりはすぐに終わるべ。いけ、苗木っち!オメーに任せた!」

苗木「や、やあ十神クン……」

腐川「苗木……!あ、あんた葉隠の味方をするっていうの!?いくらよ、いくら積まれたっていうのよ!」

苗木「十神クン、葉隠クンの話なんだけど……」

十神「……何を言われようと俺は協力する気などない。失せろ」

苗木「うん、やっぱりやめようよ葉隠クン。十神クンも困ってることだしさ」

葉隠「諦めはえーな!もう少し粘ってくれてもいいだろうよ!」

腐川「ふん。苗木は賢い脳みそを持ってるようね。葉隠……あんたにもその爪の垢煎じて飲ませてやりたいわ!ていうか爪丸ごと飲み込んでなさいよ!」

十神「黙れ。愚民は騒ぐことにしか脳を使えんのか」

腐川「…………」オクチチャック

葉隠「だあああ!くっそー!このままじゃ飯代が尽きちまう!このビジネスには俺の生活かかってたのによー!」

十神「おい苗木、さっさとこいつらをどっかに連れて行け」

苗木「ちょっ、ちょっと待って。少しみんなにしておきたい話があるんだ」

十神「しておきたい話だと?下らん話でこの俺の時間を奪うというのならばただではすまさんぞ」

苗木「あ、うん……」




葉隠「絶望か……。金がねえ!借金減らねえ!儲け話がねえ!……これが俺の絶望だべ」

苗木「全部お金がらみじゃないか……」

葉隠「なら10万で買った太古の壺が実はフリーマーケットで売ってたただの壺だった時とか……」

苗木「それもお金じゃん……」

葉隠「じゃあ抱えてる訴訟が減らないことは……」

苗木「それは……自業自得かな」

腐川「…………」ジェスチャー

葉隠「腐川っちが何を言ってるのかさっぱりだべ」

腐川「…………!」ジェスチャー

苗木「多分怒ってるんじゃないかな」

葉隠「そんなん顔を見りゃ分かるべ!」

十神「俺は絶望などに興味はない。そしてこの俺が絶望することもこの先ない」

葉隠「すごい自信だべ」

十神「当たり前だ。この俺は産まれながらにして家族間の醜い争いを見てきたんだ。あの絶望を勝ち抜き頂点となった俺には絶望など怖くも何ともない」

腐川「さすがは白夜様!そこに痺れます憧れます!ちなみにあたしは白夜様がいない世には絶望しか」

十神「黙れ」

腐川「…………」オクチチャック

葉隠「まあなんだ。金がねえのは絶望的だが俺はこうやって生きてるしよ、大事なのは気持ちの問題なのかもな」

十神「確かにお前のその図太い精神には呆れを通り越し感心さえするな」

葉隠「お、十神っちが珍しく褒めてくれるとはな!ようやく時代が俺に追いついたか!」

十神「俺を原始時代以下の人間と一緒にするな……!」

腐川「…………!」ジェスチャー

葉隠「そんな目で睨まれると俺の中の希望が折れてくべ……」

苗木「大事なのは気持ちじゃなかったの……」

十神「ところで苗木、お前はなぜこんな話をした」

苗木「えっ……?」

十神「お前が意味もなくこんな話をするとは思えん。何か裏があるんじゃないだろうな」

葉隠「裏っていうと……何かの組織と取り引きでもしてんのか?」

十神「そもそも前向きなお前が絶望の話などおかしいとしか思えんだろう。さあ吐け、何を企んでいる」

苗木「と、友達の友達から聞いて興味を持ったんだって!ボ、ボクはこれで失礼するよ!」





十神「チッ、また厄介なことにならなきゃいいがな」

葉隠「若いうちから裏の組織を敵に回すと後々苦労するべ」

十神「お前はさっさと帰れ」

腐川「…………」ジェスチャー

十神「お前もだ」




苗木「十神クンに感づかれちゃったかな……」

苗木「まあでも目的はプレゼントだし問題はないか……?」

江ノ島「苗木ってばひどーい。アタシのこと友達の友達程度にしか思ってなかったのね!アタシとアンタはあんなに熱い夜を過ごしたというのに……よよよ」

苗木「勝手に変な記憶を作らないでよ。あの場だとああ言うしかなかったんだよ」

江ノ島「ちなみに苗木はアタシのことどう思ってんのー?」

苗木「そ、それは……い、言う必要なんかないだろ!」

江ノ島「あれ?もしかして脈あり?嬉しー!アタシも実は苗木のことを……」

苗木「あーあー!とにかく江ノ島さんはプレゼントをもらって何がしたいんだよ!」

江ノ島「んー、強いて言うなら喜び……かな」

苗木「喜び?」

江ノ島「プレゼントを貰う時の喜びを感じてみたいの」

苗木「でも、江ノ島さんは今までプレゼントを貰ったことがあるはずでしょ?それをなんで……」

江ノ島「くだらなくてつまらない物ばっかだと喜びの前に絶望が来ちゃうから。誰でもいいからこの感情を満たしてくれる人探してるんだよねー」

苗木「それをボクがやるのか……」

江ノ島「せいぜいアタシを絶望させてよね」

苗木「それを聞くと本当にキミが喜びを探してるのか疑わしくなるよ……」

江ノ島「ついでに得れりゃいいの、ついでにね」

江ノ島「んじゃーね!」





苗木「喜びか……」

苗木「ボクが彼女の力になれるならなんとか喜ばしてあげたいな……」

やばい書き溜めがどっかいった
仕方ないので今日はもう寝る
シスターズ誕生日おめでとう。でもこんな絶望をクリスマスプレゼントに貰うとは思ってませんでした

なんとか書き溜めを見つけたけどもう誕生日終わっちゃうという絶望
明日には終わらせる予定

12/16



苗木「もうすぐ誕生日の日が近いな……」

苗木「大丈夫だ、きっと大丈夫」

霧切「苗木君、廊下で独り言をしていると怪しい人にしか見えないわよ」

苗木「うわっ!霧切さん!」

霧切「苗木君はこんなところで何をしているの?まだ授業まで時間があるとはいえ廊下で棒立ちなんて」

苗木「いや、ちょっと考え事をね……」

霧切「私でよかったら相談に乗るけれど。ただし、必ず解決できるとは思わないで」

苗木「ありがとう。でも、これはボクの問題だから……」

霧切「だから悩んでる人を放っておけと?そんな考えをするなんて苗木君のくせに生意気ね」

苗木「霧切さん……」


舞園「そうです!水くさいですよ!私たち友達じゃないですか!」


苗木「ま、舞園さんまで!?」

舞園「お久しぶりです、苗木君。最近はクリスマスライブに向けての練習が忙しくて学校に顔が出せなかったので……」

苗木「そっか、舞園さんも頑張ってるんだね」

舞園「でも、私もファンのためを思って一生懸命歌いますので苗木君もよかったら見にきて下さいね!」

苗木「ははは……心に留めておくよ」

霧切「ちょっと苗木君。私のこと忘れてないでしょうね」

苗木「も、もちろん。えっと悩み相談だっけ……」

苗木(そういえばまだこの2人からは絶望の話を聞いてなかったな。舞園さんも学校にいる日が少ないし今のうちに聞いておくか)




舞園「絶望……ですか」

霧切「ずいぶん似合わないことを聞くのね」

苗木「ま、まあ……。ぜひとも教えてくれれば嬉しいんだけど」

舞園「私はやっぱりアイドルとしての立場を失うことでしょうか。小さい頃からの夢だったので失った時の絶望感ははかりしれないと思います」

舞園「後はこうしているみんなといられなくなること、ですかね」

苗木「でも、別れは必ずやってくるんだよ。さすがにそれは無茶な話じゃないかな」

霧切「舞園さんが言いたいのはそういうことじゃないわ。ある日突然私達の日常が終わってしまうこと……それを恐れているのでしょ?」

舞園「その通りです霧切さん。少し言葉が足りなかったかもしれませんね。でも、どうして分かったんです?」

霧切「私も同じことを考えていたから……。それが私にとっての絶望……そう考えているの」

舞園「ふふ、霧切さんも皆さんのことを大切に思っているんですね」

霧切「で、苗木君。この質問にはどんな意図があるの」

苗木「えっ、意図なんてそんな」

霧切「あなたが絶望について聞くなんておかしいじゃない。最近、周りの人の間でも苗木君が絶望について聞きまわってるって噂になってるわ」

苗木「……みんなボクをおかしいっていうけどさ」

苗木「ボクはただの一般人なんだよ。普通に絶望だってする。なのにどうしてみんなおかしいって言うんだよ」

舞園「それは苗木君がみんなに希望を与えてくれるからですよ」

苗木「希望……?」

霧切「あなたはただ前向きなことが取り柄の一般人だと思っているけどその前向きな性格に私達はずっと励まされてきたの」

舞園「自分では気付いていないようですけど苗木君は私達みんなを繋いでくれているんです」

霧切「あなたはみんなの希望なの。そんなあなたが絶望なんて言い出したらみんな戸惑うに決まってるじゃない」

苗木「ボクが……みんなの希望……」

苗木「そっか……」

苗木「ありがとう、2人とも。こんなボクでもみんなの希望になれるのならボクは一生懸命前を向いて歩いていくよ」

霧切「それで、結局この質問に何か意図はあるの?」

苗木「えっとそれは……な、無かったり……」

舞園「苗木君、いくら何でも隠し事が下手すぎです」

苗木「そ、そのうち話すから!」





霧切「まったく、一体何を考えているのかしら」

舞園「でも、苗木君がああするってことはまた誰かの為なのは間違いないですね」

霧切「そのお人好しが身を滅ぼさなければいいのだけど」

舞園「心配なんですか?苗木君のこと」

霧切「別に。彼なら乗り越えれる気がするわ。何となく、だけど」




苗木「江ノ島さん!いるんだろ!出てきてくれよ!」

江ノ島「アタシは神出鬼没のクマ型ロボットじゃないっつーの」

苗木「何で毎回ボクのいる場所に出てこれるのさ」

江ノ島「アンタの行動を読むのは簡単だから。で、なんか用?」

苗木「ああ。ようやくキミの誕生日プレゼントが決まってね。その報告、といったところかな」

江ノ島「そっかそっかー、いやしっかしホントに頑張ってるね苗木は。そんなにアタシの体が欲しいの?」

苗木「まあ、ボクも勝負を受けたからね。頑張らなきゃ自分の身が怖いし」

江ノ島「期待してるからねアンタのプレゼント!今から期待しとけばしょぼかった時、より絶望を味わえるし」

苗木「どんな手を使ってでも絶望したいんだねキミは。それじゃ後は特に話すこともないし、ボクはこれで」

江ノ島「ねえ苗木」

苗木「何かな」

江ノ島「約束してくれる?絶対に来てくれるって。絶対に……アタシを絶望させてくれるって」

苗木「もちろん。約束するよ」

江ノ島「忘れないでね。破ったら絶望するから!」

江ノ島「じゃ、ばーい!」ダッ






江ノ島「うぷぷぷ……。楽しみだなあ本当に!」

江ノ島「これって希望?絶望?どっちなんだろ」

江ノ島「まあいいか、苗木が来ればはっきりすることだよね」

江ノ島「苗木……」

12/24



江ノ島「~♪」

戦刃「盾子ちゃん今日はやけに活動的だね。普段は寒いから布団にこもって出てこないのに」

江ノ島「~♪♪」

戦刃「私がいない間誕生日はずっとこうやって過ごしてきたのかな……」

江ノ島「~♪♪♪」

戦刃「うう……無視されるとお姉ちゃんつらいよ……」

江ノ島「あ、残姉いたんだ。掃除の邪魔だからどっか消えてくんない?」

戦刃「存在すら認知してなかったよ!?」

江ノ島「いやだってアンタ何と戦ってるのか知らないけど常に気配消して動いてんだよ?むしろ気づいてくれただけ感謝してよ」

戦刃「えっ……じゃあ、ありがとう盾子ちゃん!」

江ノ島「キモい」

戦刃「ひどい!」

江ノ島「ほら邪魔邪魔。えっとこれが終わったら次はアタシの部屋掃除して……いや、料理の方が先か?でもあまり早くやりすぎても意味ないし……」

戦刃「盾子ちゃん、今日という日を楽しみにしてたんだね……。よーし、私も盾子ちゃんを手伝うよ!何をすればいいかな?」

江ノ島「アタシの目の前から今すぐ消えて」

戦刃「……グスン。でも私めげないよ」




苗木「うーん、いざ目の前にすると悩むな……」

苗木「戦刃さん達のプレゼント、何がいいかな……」

苗木「戦刃さんはやっぱり軍事関係の物が……いや、彼女も女の子だしやっぱオシャレに気を使ったり……でもそこは江ノ島さんが何らかのフォローを……」

苗木「ああもう、せっかくデパートまで来たのに買うものに悩んでちゃ駄目じゃないか!」

苗木「魅力的な商品はたくさんあるのに彼女達が何を好むかわからないんじゃな……」

苗木「あれ、あそこになんか置いてある。クリスマスプレゼントのコーナーかな」

苗木「なになに……『贈り物に最適な商品です』。へえ、確かに綺麗な商品だな」

苗木「これならきっと2人とも喜んでくれるぞ!」




苗木「さて、買い物も済んだしお昼でも食べてくか……ん?」


桑田「ん?」


苗木「桑田クン!」

桑田「苗木!奇遇だな、こんなとこで!オメーも何か買いに来たのか?」

苗木「ちょっと贈り物をね。桑田クンは……スポーツコーナーだよね、ここ」

桑田「ぐ、偶然だよ偶然!オレはミュージシャン目指してんだから野球なんざにまったく興味ねーっつーの!」

苗木「そうは言うけどキミの後ろにある硬球隠しきれてないよ」

桑田「うっ……!こ、これは……そうだ!親戚の子が野球やりたいって言うからよ、オレがコーチしてやることになったんだよ!」

桑田「まったくアイツも面倒な奴だぜ……。野球なんざ練習しなくても楽に出来んのによー」

苗木(ああ言ってるけど顔がにやついてるよ。やっぱり彼の野球に対する思いは本物なんだろうな)



「あー!そこにいるのって苗木と桑田じゃん!」

苗木「その声は……」

桑田「朝日奈か!」

朝日奈「いやー、すごい偶然!まさかこんなとこで2人に会えるなんて!2人とも何してたの?」

苗木「ボクは買い物に来たら偶然桑田クンに会ってね。朝日奈さんも買い物?」

朝日奈「ううん。ここにちょっとトレーニングにきたの」

桑田「トレーニング?デパートだぞここ」

朝日奈「ふっふーん、ここのデパートのスポーツコーナーは一部の器具が使用可能になっているんだよ!」

朝日奈「私も週に1回はここで鍛えてくの!」

苗木「へえ、知らなかった。面白そうだね」

桑田「ちょっくら体を動かすのも悪くねえかもな」

朝日奈「よーし、それじゃ私についてきて!使える時間も限られてるからね!」

朝日奈「まずはルームランナー!」

苗木「ちょっと……いきなり速すぎない!?」


朝日奈「続いてダンベル!」

桑田「お、重たっ……」


朝日奈「さらにさらに懸垂も!」

苗木「デパートに来て懸垂……!」


朝日奈「そしてここでちょっと休憩」

桑田「ゼハー……ゼハー……」

苗木「き、きつい……」

朝日奈「もう、2人とも全然体力無いんだから」

苗木「ボクは一般人だから……スポーツ選手と比べられても……」

桑田「オレ……練習しねーから……基礎体力が……」

朝日奈「よーし、それじゃ次の場所行こっか!」

苗木「ええっ、もう!?」

桑田「やべーよ苗木、このままじゃオレ達の体力が尽きちまう」ヒソヒソ

苗木「ボクもうとっくに限界来てるのに……」ヒソヒソ

桑田「オ、オレは逃げるぞ。苗木、後は任せた!」ヒソヒソ


桑田「あーっ!いっけねー!オレ先輩たちと飯食う約束してたの忘れてた!早く行かなきゃなー!」

桑田「じゃ、じゃあな朝日奈、苗木!また明日会おうぜ!」ダッ

朝日奈「あ、ちょっと!……じゃあしょうがない、苗木だけでもいいから行こっか」

苗木「ボ、ボクも早く贈り物を渡しに行かなきゃいけないから……ご、ごめん!また明日!」ダッ

朝日奈「ええー!苗木もなの!」




朝日奈「2人とも行っちゃったよ……」

朝日奈「せっかくドーナツご馳走してあげようと思ったのに」




江ノ島「苗木まだかなー」

戦刃「もう、盾子ちゃん少しは落ち着いたら?」

江ノ島「読んでる本逆さだぞ」

戦刃「え、うそ!……あれ、逆じゃない」

江ノ島「その程度で動揺するとはあなたこそ落ち着いていないのではないか?」

江ノ島「苗木クンを待つ気持ちは分かるけどさー、むくろちゃんこそ人のこと言える立場じゃないよね!」

江ノ島「とゆうかあなたに指摘されたことがムカつきました……絶望的です……」

戦刃「ごめんなさい……調子に乗りました」

江ノ島「これにこりたら二度と苗木クンに近づかないでくれるかな?そうすればアタシとしても動きやすくて助かるんだよ」

戦刃「そ、それはちょっと……というか私のミスは苗木くん関係ないんじゃ」

江ノ島「ですがあなたの動揺の原因を作ったのは苗木クンです。つまりあなたが苗木クンに近づかなければあなたは超残念な軍人から残念な軍人へランクアップすることができるのです」

戦刃「じゅ、盾子ちゃんのために役に立ちたいけど苗木くんのことも諦めたくないし……私、どうすればいいの!」

江ノ島「オメェはホントに残念だよな!この程度の冗談も見抜けねえんだからよ!」

戦刃「へ?冗談?」

江ノ島「いやだって暇だし。アンタをいじれば少しは暇潰せると思ったんだけどねー」

戦刃「私、まだ苗木くんに近づいていいんだね!よかった!」

江ノ島「はあ……つまんねーの」




苗木「よし、昼もとったし早く戦刃さん達のとこへ向かわなきゃな」


不二咲「あれ、もしかして苗木君?」


苗木「やあ、不二咲クン!」

不二咲「やっぱり!こんなところで会えるなんて思ってもいなかったよ!」

苗木「不二咲クンはどうしてここに?」

不二咲「パソコンを買いに来たんだぁ。この時期はクリスマスセールでいろんな物が安く買えるんだよ。苗木君は?」

苗木「ボクはこれから誕生日を祝いに……」ドンッ


腐川「ちょ、ちょっとあんたどこ見て歩いてんのよ……!それとも何?あたしみたいなブスの存在なんて目にすら入らなかったってわけ?ふん、どうせあたしなんか……」


苗木「腐川さん!」

腐川「えっ……?な、苗木?それに不二咲も!」

不二咲「や、やあ腐川さん……」

腐川「驚いた……。あんた達とこんなとこで会うなんて」

苗木「偶然居合わせただけだけどね。腐川さんはここで何をしてるの?」

腐川「ああ……今日はあたしの好きな作家が新しい本を出したっていうからそれを買いにきたんだけど……」

不二咲「けど?」

腐川「途中から記憶が曖昧なのよ……!おそらく買いに行く途中で‘‘あいつ''と入れ替わったんだわ……!」

苗木「ジェノサイダー翔か……」

不二咲「この時期は風邪引きやすいからね。腐川さんも気をつけた方がいいよぉ」

腐川「対策はしてるわよ……。風邪引いて作品が書けなくなるのもあたしとしては嫌だし……」

腐川「それでも馬鹿と葉隠は風邪ひかないっていうらしいけど……へっくち!」

苗木「あ」

ジェノ「呼ばれて飛び出て……ジェノサイダーッ!」

ジェノ「根暗のヤツ……また変なとこでくしゃみしやがったな……。ここどこだよっとに」

ジェノ「あらららら~ん?そこにおわすのはまーくんとちーたんじゃない!萌えるコンビキタコレ!」

不二咲「あわわ……ジェ、ジェノサイダー翔!」

苗木「ジェノサイダー……ここじゃ人目につくし早く元に戻ってくれ!」

ジェノ「んもう!せっかく出てきたのにつれないわね~。でも戻る気ナッシング!」

ジェノ「アタシにはね、白夜様を追っかけるという崇高な目的があるのよ!邪魔するつもりなら……容赦しねーぞ!」

ジェノ「つーわけで白夜様どこにいるか知らない?」

苗木「知らないよ……。というかあてもなく彷徨ってたのか……」

ジェノ「ねえ、ちーたん。自慢のハッキング能力で白夜様の場所割り出せない?」

不二咲「ぼ、僕のパソコンは個人情報を割り出すために使うわけじゃないから……」

ジェノ「んだよ使えねーな!ムカついてきたからここらで一発ヤっちゃいますかー?」

苗木「ちょっと待ってくれよ!こんな場所で殺人なんて……」

ジェノ「最近体動かしてねえんだよ!鈍ったらヤだろ!」

苗木「い、嫌だああああああ!」ダッ

ジェノ「ヒャッハー!まこぴょんとの追いかけっこたのすぃー!」ダッ





不二咲「な、苗木君……。ごめん、僕には何もできないよ……」




戦刃「苗木くん遅いなあ……」

江ノ島「そういや苗木のやついつ来るって言ってたの?」

戦刃「午後に来るって曖昧なことしか……」

江ノ島「誘ったのアンタだろ!具体的な時間指定もできないようじゃいざデートに誘う時苦労するぞ」

戦刃「デ、デート!?私が苗木くんとデートなんて……」

江ノ島「誰も苗木だなんて言ってねーだろ!ニヤニヤすんな!」

戦刃「うう……。と、とにかく苗木くんに電話してみるよ」

戦刃「……あ、もしもし?苗木くん?突然ごめんね。何時頃これそうかな?」

苗木『ちょっと待ってて、今電車を間違えて乗ってきちゃって。なるべく早めに来ると思うからさ。江ノ島さんにもそう伝えといてくれないかな』

戦刃「うん、分かったよ。待ってるね」

戦刃「苗木くん、 ちゃんと来てくれるって!」

江ノ島「そうしてくんなきゃ困るんだけどね。ああ、苗木は一体アタシにどんな絶望をくれるのかしら!」

突然ですが書き溜めが無くなってしまったので次からちまちま書いてきます
今日はまた昼頃から書き始めますので一旦ここで終了します




苗木「なんとかジェノサイダーから逃げきったぞ……。人間やればできるもんだな……」

苗木「でも慌てていたとはいえ電車を間違えるなんて。あの時なんで気付かなかったんだろう」

苗木「仕方ない、次の電車が来るまで少し待つか……」


『列車の遅れをお知らせします。・・・』


苗木「げっ、うそだろこんな時に限って……ん、電話だ。相手は……戦刃さんか」

戦刃『……あ、もしもし?苗木くん?突然ごめんね。何時頃これそうかな?』

苗木「ちょっと待ってて、今電車を間違えて乗ってきちゃって。なるべく早めに来ると思うからさ。江ノ島さんにもそう伝えといてくれないかな」

戦刃『うん、分かったよ。待ってるね』

苗木「まずいな……これ以上遅れるわけにはいかないのに……。電車が来るまで外で時間を潰すか」




苗木「あれ、なんでこんなとこに人だかりが?今日なんかあったっけな」

山田「それは拙者が説明いたしましょう」

苗木「や、山田クン!いつからそこに」

山田「やあやあ、奇遇ですな。苗木誠殿が駅から出てきたのを見て思わず声をかけてしまいましたぞ」

山田「して、肝心のこの人混みですがね……実はこれ、舞園さやか殿がここでライブをするらしいんですよ」

苗木「舞園さんが?」

山田「おや、ご存知ではない?苗木誠殿は舞園さやか殿と親しいからライブの話くらい聞いているかと思ってましたが」

苗木「あー、そういえば前ライブの練習をしてるって話はしてたな。見に来てくださいって言ってたけどチケット手に入らなかったしな……」

山田「まあ、舞園さやか殿は今をときめくアイドルですからね。チケットが手に入らないのも無理はないでしょう。噂では最前列のチケットはネットで云十万で取り引きされてるとか……」

苗木「そんなにもするのか……。ボクには縁のない世界だなあ……」

苗木「待てよ、ライブ会場がここにあるってことは舞園さんも近くにいるんだよな……」

舞園「私に会いたいんですか?嬉しいこと言ってくれるんですね!」

苗木「のわっ!舞園さん!?」

山田「どええええ!なぜにこんなところに!?」

舞園「ふふ、あまり大声を出すと周りの人に変に思われますよ」

舞園「ちょうど時間が空いたのでメンバーのみんなに飲み物を買ってあげようと思って」

苗木「でもそういうのってアイドル自らがやることじゃないんじゃ……」

舞園「どれくらい人が集まってるか外からも見たくて。こうやってお二人に会えたのも外に出たおかげですし、悪いことばかりじゃありませんよ」

舞園「それで苗木君と山田君はどうしてここに?あ!もしかして私のライブを見に来てくれたんですか?」

苗木「ごめん、ボクはチケット取れなかったんだ」

山田「僕は人混みが気になったので野次馬根性を抑えきれずに」

舞園「そうですか……残念です。でも、いつか見に来てくださいね!私からも皆さんの分のチケットを確保しておきますから!」

苗木「あ、あんまり無理はしないでね……」

山田「…………」

苗木「あれ、山田クンどうしたの?」

山田「いや、あそこに座ってらっしゃるのはもしかすると……」

舞園「もしかしなくても石丸君ですよね……」




苗木「おーい!石丸クーン!」

石丸「む、苗木くん?それに山田くんに舞園くんも」

舞園「どうしたんですか?こんな広場のベンチで1人で腰をかけて」

山田「もしやお腹でも痛いのですかな?」

石丸「……違う」

苗木「じゃあどうして」

石丸「笑わないで聞いてくれるか」

舞園「笑いませんよ」

石丸「じ、実は……道に迷ってしまったのだ……!」

山田「意外といえば意外ですが、笑うほどのものではないでしょう」

苗木「そうだよ。ボクだってたまに道に迷うし」

舞園「初めて来た道なら迷うのは当然です。誰だって最初から目的地にたどり着けるとは限りませんから」

石丸「それが……初めてではないんだ……」

山田「では、以前にここに来たことが?」

石丸「ああ、中央にある広場の近くの店でよく予備のボタン、予備のネクタイ、予備の制服などを買いにくるのだが……」

石丸「その広場が忽然と消えてしまったのだ!」

舞園「あれ?ここ、その広場なんですけど」

石丸「なんだと!?」

石丸「ま、待ちたまえ舞園くん!その広場は常に周りに大きな旗や屋台があったはずだぞ!」

舞園「今日はライブ会場の設置のためにそういったものは移動させましたので」

石丸「…………」

山田「よくありますな。目印で場所覚えるけどその目印が消えた時に慌てふためくのは。拙者もイベント会場を住所だけで覚えるのは苦労しました」

苗木「よかったね石丸クン。キミは間違っていなかったんだよ」

石丸「ありがとうみんな!やはり持つべきものは信頼する友人だな!ハッハッハ!」

山田「石丸清多夏殿も復活してなによりですな」

石丸「そうだ。みんなにはまだボーリング大会の予定の変更を知らせていなかったな」

苗木「変更?」

石丸「うむ!当日10時集合だったが一部の人達の意見を聞き11時に変更されたのだ!」

苗木「そっか、覚えておくよ」

山田「苗木誠殿、メモ帳使います?僕のでよければ貸してあげますよ」

苗木「ありがとう、山田クン」

舞園「その時間なら私も来れますね」

苗木「え、舞園さん来れるの!?」

舞園「ほんの少しの時間ですけどね。それでも皆さんとの時間が過ごせればこんなに嬉しいことはありません」

苗木「舞園さん……」

石丸「出来れば他のみんなにも伝えてくれると嬉しいぞ!では僕はこれで!みんなまた明日!」

舞園「それじゃ私も失礼します。いつまでもメンバーのみんなを待たせるわけにはいきませんから」

苗木「そうだ、舞園さん!」

舞園「何ですか?」

苗木「最初に会った時、どうしてボクが舞園さんに会いたいっていうのが分かったの?」

舞園「そうですね……」

舞園「エスパーですから!」





江ノ島「あーもう!絶望的につまんない!何時間待てばいいのよホントに!」

戦刃「さっき電話してから一時間以上経ってるよ……。苗木くんまた何かに巻き込まれているんじゃ」

江ノ島「まさか。いくらアイツがラノベ主人公も真っ青の巻き込まれ体質だとしてもよりによって今日にあるわけが……あったら面白いな」

戦刃「ちょっと盾子ちゃん!?」

江ノ島「冗談だっての。えーっと苗木の番号は……」

江ノ島「あーあ。なんかぶったまげるようなこと起きねーかなー」

江ノ島「あ、もしもしー、苗木ー?」

苗木『ごめん江ノ島さん!今それどころじゃないんだ!うわっ来た!また後で!』

江ノ島「…………」

戦刃「えっと……盾子ちゃん?」

戦刃「……ぶったまげてる」




苗木「想像以上に時間がかかってるな……少し近道でもしてくか」

苗木「えっと確かここの路地を通れば……」


「おい誰だ!そこにいるのは分かってんだぞ!」


苗木「あ、いや、ボクは怪しい者では……ってあれ、その声は」

大和田「あ?オメェ苗木か!」

苗木「大和田クン!」

大和田「まさかこんなとこで苗木に会うとはな!」

苗木「ボク今日1日で何人のクラスメイトと出会ってるんだろ……。大和田クンはこんな路地で何してるの?」

大和田「……て……だよ」

苗木「え?」

大和田「たそがれてんだよ!文句あっか!」

苗木「いやいやいや!ないですないです!」

大和田「クソがっ!周りのヤツらはみんな女連れやがってよ……独り身の気持ちも考えろってんだ!見せつけるようにイチャつくのやめろっつーの!」

大和田「やっぱこんな日は独り身仲間同士で一緒に飲むべきだよな!苗木もどうだ?」

苗木「の、飲むって!大和田クン未成年じゃないか!」

大和田「こんな日くらいハメ外してもいいだろうよ。誰も見てねえし罰なんざあたんねえよ」

大和田「それとも何か?苗木もまさか女との予定があるってんじゃねえだろうな……」

苗木(まずい……この場で戦刃さんの家に行くっていったら確実に殺られる気がする……)

苗木「ボ、ボクは未成年でお酒を飲むのは遠慮したいから……」

大和田「そうかよ。まあ無理強いはしねえよ。酒が飲みたくなったらいつでも俺に連絡しろよ!」

苗木「あ、あはは……」

大和田「さてとオレもそろそろあいつらんとこ行くか……」


「いたぞ!大和田紋土だ!」

苗木「な、なに!?」

大和田「あのマーク……チッ、こんな日にまでやってくるとはな」

苗木「えっと……知り合い?」

大和田「今ちょっとここらで争ってるチームの野郎共だ。『暮威慈畏大亜紋土』にケンカを売って返り討ちにあいたい馬鹿どもだよ」

不良A「向こうは2人か」

不良B「しかも1人は力の無さそうな雑魚じゃねーか」

不良C「どっちにしたって全員ぶっとばすだけだ!」

大和田「おい苗木、下がってろ。オメェも怪我したくねえだろ」

大和田「テメエら……覚悟できてんだろうな……!」ビキッ ビキッ


大和田「オラァ!」バキッ

大和田「クソが!」バキッ

大和田「邪魔なんだ……よ!」ドゴッ


苗木「すごい……さすが『超高校級の暴走族』だ……。3対1なのにものともしてない」

大和田「おい誰だ。こんなくだらねえこと考えたヤツはよ」ガッ

不良A「教える必要なんざねえ……ここに来た時点でお前の負けは決まっているからな……」

大和田「ああ!?どういう意味だ!」

苗木「大和田クン!敵の増援だ!しかもたくさん!」

大和田「チッ、ふくろだたきにするつもりかよ。逃げっぞ苗木!」

苗木「あ、うん!」

苗木「ここにいれば安全かな……」

大和田「胸糞悪い日だぜったく……」

苗木「ああもう!こんな時に電話!?」

江ノ島『あ、もしもしー、苗木ー?』

苗木「ごめん江ノ島さん!今それどころじゃないんだ!うわっ来た!また後で!」

大和田「しつけーなクソがっ!おい、苗木!あっちだ!あっちに行くぞ!」






苗木「なんとかまいたみたいだね……」

大和田「はあ……はあ……こんな日くらい静かにさせてくれよ……」

苗木「まずいな……これ以上時間を失うわけには……」

大和田「苗木、オメェだけでいいから逃げろ。これはもともとオレの問題だからな」

大和田「それにオメェはケンカもできねえし足手まといになっちまう。だから早く逃げろ」

苗木「……わかったよ。ごめん、大和田クン」

大和田「謝るのはこっちだっつーの。ああそれと苗木、ケータイ貸してくんねえか。オレも仲間を呼んどきてえからよ」

大和田「へへ……せっかく女とイチャついてるときに呼び出されるんだ、あいつらとしてもたまったもんじゃないだろうな」

苗木「その割には嬉しそうな顔してるね……」




江ノ島「…………」

戦刃「…………」

戦刃(気まずい……)

戦刃(盾子ちゃんすっかり黙りこくっちゃったよ……。話しかけるなって雰囲気がつらい)

江ノ島「絶望的ィ!」

戦刃「わっ!急にどうしたの」

江ノ島「私様は考えたのよ。もしかしたらこれが苗木の渡す絶望ではないのかと」

江ノ島「焦らしプレイ……いや、放置プレイかな。前もって約束しといて来ないのってのは実に絶望的だと思わないかい?」

戦刃「な、苗木くんはそんなことしないよ!」

江ノ島「どうですかね……。あなたが勝手にそう思っているだけですよね……。苗木クンが絶対にそんなことしないって確証はないんですよ……」

戦刃「それは……そうだけど……」

江ノ島「ま、正直なとここんな絶望じゃ絶望できないんだけどね」

江ノ島「あー暇。ちょっと正月のために用意した一発ネタやってよ」

戦刃「そんなのないよ!?あ、でも暇ならこれを……」

江ノ島「何これ」

戦刃「その……私から盾子ちゃんへのクリスマスプレゼント。今年は顔見てちゃんと渡せるから……」

江ノ島「焼却炉ない?」

戦刃「早いよ!せめて中を見て!」

江ノ島「アンタのことだから今年はミリタリーブーツとか渡すんだろ?」

戦刃「そんなことないよ!……考えたけどさ」

江ノ島「ったく、どうせつまんないものなんだろうけど……あ?これヘアゴム?」

戦刃「うん。盾子ちゃんにピッタリかなって」

江ノ島「あっりえねー。アンタがヘアゴム贈るなんてこりゃ明日の気温は40超えるわ」

戦刃「そこまで言わなくても……」

江ノ島「いやこれ選んだの絶対アンタじゃないよね。誰だ、誰に入れ知恵されたんだ!」

戦刃「入れ知恵だなんてそんな……」

江ノ島「まあいいや。今年は焼却炉送りは無しにしたげる。ああ、こんなヤツのプレゼントが捨てれないなんて負けた気分で絶望的!」

戦刃「盾子ちゃん、喜んでくれたんだね……!」

戦刃「よかった!苗木くんと一緒に選んだ甲斐があったよ!」

江ノ島「……は?」

戦刃「苗木くん、やっぱり盾子ちゃんのことよく知ってるんだね。ヘアゴムなんて私には考えられなかったよ!」

江ノ島「…………」

戦刃「それに帰りに一緒にお茶までしてくれて……。あ、今気づいたけどこれってもしかしてデー……あいてっ!」バシッ

江ノ島「…………」グググ…

戦刃「じゅ、盾子ちゃん?どうしてそんなにヘアゴムを延ばして……というかヘアゴムってそういう使い方じゃ……ひゃうっ!」バシッ

江ノ島「ああもうなんかすっげー絶望的!苗木、早くこーい!」




苗木「へっくしゅ!」

苗木「うう……風邪ひいたかな?今日はちょっと外に長くいすぎたのかも」

苗木「それにしても……ここはどこなんだ?急いで逃げてきたから右も左もわからないや」

苗木「……寒いし何か温かいものでも飲んで考えるか。なんかこの調子だとまた誰かに会いそうだな」

十神「…………」

苗木「そしてこんな時のボクの勘はだいたい当たるんだよな……」

十神「苗木か。こんな時間にこんなとこをうろつくとはお前も物好きな奴だ」

苗木「十神クンも人のこと言えないんじゃないかな……」

十神「愚民め……。俺とて好きでこんなところにいるわけじゃない」

苗木「え、じゃあ何か理由でも……?」

十神「先ほどある取り引きを破談させてきた。取り引き先がこの俺を利用しようと考えていたようだからな」

十神「だからその馬鹿に馬鹿と言ってやった。そしたら何を思ったかその馬鹿は俺をさらおうとしたんだ。まったく、馬鹿の考えることは分からん」

苗木「なるほど、それでここまで逃げてきたんだね。十神クンも大変なんだね」

十神「逃げる……?苗木、お前は何を言ってるんだ」

十神「この俺が逃げるなどありえん。この俺の障害になるような奴は誰であろうと潰すだけ。それをしているにすぎん」

十神「場所を変えながら奴を潰す情報を集めそれをつきつける……。今は潜伏の時だ」

苗木「でも、十神クンがやる必要はないんじゃないの?」

十神「二度とこの俺に歯向かえないようにするにはこの俺の手で奴を下す。馬鹿でも分かる簡単な処置だぞ?ククク……」

十神「さて俺は場所を移す。いつまでもこんなところにいるわけにはいかないからな」

苗木「あ、うん。じゃあね、十神クン」

苗木「さて、ボクも移動を……」

苗木「え?うわあああああ!」



十神「……苗木?おい苗木、どうした!返事をしろ!」

十神「チッ、まさかこうなるとはな。つくづく運のない奴だ」

十神「気は進まんが奴の力を借りるか」

十神「おい霧切か。用件を簡潔に伝える。俺に協力しろ」




霧切「こんな日くらい探偵業を休止しててもいいと思うのよね」

霧切「私も日本のクリスマスを楽しみたいって気持ちもあるのに」

霧切「……電話?こんな時間に誰かしら」

霧切「もしもし?」

十神『おい霧切か。用件を簡潔に伝える。俺に協力しろ』

霧切「いきなり出てきてずいぶんな物言いね。あなたが私を頼るなんて余程のことが起きたのかしら」

十神『時間が惜しい。さっさと「はい」と言え』

霧切「ふう……分かったわ。場所と状況を教えて。すぐ向かうから」




苗木「いてて……一体何が起きたんだ?」

男「おいガキ、静かにしろ」

苗木「……!お前は何者だ!」

男「質問に答える気はない。お前には十神白夜を釣る餌になってもらう」

苗木(……十神クン?そうか、この人は十神クンが破談させた取り引き相手か!)

苗木「ボクは捕らえた所で十神クンが来ると思っているのか?」

男「お前は十神白夜と親しく話していたからな。奴が余程信頼を置いているのだろう。餌にはうってつけだ」

苗木「十神クンはお前のような奴には屈しない!ボクをさらったのは間違いだよ!」

男「口の減らないガキだ。試してみれば分かるだろう」


十神「そんなことをしなくても俺はすでにここにいる!」


男「何!?」

苗木「十神クン!それに霧切さんも!」

男「何故ここが……」

霧切「簡単な消去法よ。あなたが誘拐のためにどんな道具を使い、どんな道を通り、どこへ連れていくのか……可能性を一つずつ潰したらここについたの」

十神「それが短時間で出来たのもこの俺の力だ。貴様の個人情報など、とうに知れている」


十神「この十神白夜にたてついたことを……後悔してもらうぞ!」




苗木「助かったよ。2人ともありがとう」

十神「ふん、奴を潰すついでのことだ」

霧切「あら、素直じゃないのね。いつにもまして冷静さを失ってたくせに」

十神「霧切……貴様の目はふし穴か?」

霧切「苗木君、彼はあなたの無事を心配していたのよ。もちろん、私もね」

苗木「ボクは大丈夫だよ。キミたちが手を組むとどんな事件もスピード解決だね!」

十神「ありえん」
霧切「それはないわ」

苗木「あれ?」

霧切「今日私達は互いの目的が合ったからこうして協力したの」

十神「俺としても優秀な橋渡しは失いたくないからな」

霧切「苗木君、ここまで言えば分かるわね?」

苗木「それってボクのこと?」

霧切「前にも言ったけどあなたはみんなから必要とされているから」

十神「必要とされるだけマシだと思え。この世には必要とされずに沈んだ奴などごまんといる」

苗木「あ、ありがとう……。ところでボクはいつ解放されるの?ちょっと行きたい場所があるからさ」

十神「好きにしろ。後のことは俺が始末しておく」

十神「……苗木、お前には迷惑をかけたな。礼といっては何だが俺に出来ることなら出来る限りのことをしてやる。ありがたく思え」

霧切「その上から目線の態度、どうにかならないの」

十神「お前には聞いていない。返答はいつでもいい。好きな時に俺に言え」

苗木「……それじゃ、明日のボーリング大会に出れないかな?」

十神「何?この俺がか?……チッ、まあいいだろう。その程度のことならば聞いてやる。明日を楽しみにするんだな」

霧切「あなたもずいぶん丸くなったものね」

十神「黙れ」

苗木「じゃ、じゃあボクはこれで!」




江ノ島「…………」ガツガツ

戦刃「ねえ盾子ちゃん、本当に食べちゃっていいの?苗木くんのために作ったのに」

江ノ島「うっさい。こないヤツが悪いんだよ!せっかく念入りに準備して作ったのに結局自分達だけで食べるなんてホント絶望的!」

戦刃「ねえ、もう一回電話してみよう?苗木くん、電話にでてくれるかもしれないよ」

江ノ島「じゃあアンタがすりゃいいじゃん。アタシはもうアイツのことなんてどうでもいいから」

戦刃「そ、それじゃあ……」

戦刃「もしもし苗木くん?」

葉隠『はいこちら苗木っちの電話だべ!』

戦刃「え?なんで葉隠くんが」

江ノ島「はあ!?ちょっと貸せ!」

江ノ島「おい葉隠!なんでアンタが苗木の電話持ってんだよ!まさか盗んだんじゃ……」

葉隠『誤解だ誤解!今苗木っちは席を外してて俺が荷物を預かってんだべ』

江ノ島「ちょっと待って。苗木は今どこにいんの?」

葉隠『今苗木っちならセレスっちと「いいこと」してるべ!』

江ノ島「……はい?」

葉隠『へへ……今こうして扉の前に耳をつければセレスっちの嬉しい悲鳴が聞こえてくるべ』

葉隠『お、そういえば江ノ島っちは苗木っちに何の用だ?なんなら俺が伝えといて』

セレス『逃げますわよ葉隠くん!』

葉隠『ななななんだ!?わ、わりい、切らせてもらうぞ』

苗木『待って!せめて服を着させて!』

江ノ島「…………」

戦刃「盾子ちゃん大丈……」

江ノ島「ふ、ふははははは!私様は問題ない!この程度の会話を聞いて動揺するわけがありません。だから大丈夫♪」

戦刃「一回のセリフでキャラが出てきすぎ!ぜんぜん大丈夫に見えないよ!」

江ノ島「うぷぷぷ……。さすが苗木だ……このオレも久々に心にぐさっときたよ……やるじゃないか……」キノコ

戦刃「今度はキャラが混ざっちゃってる……。相当重症だよ……」

江ノ島「はあ……。アタシ……勘違いしてたのかな……」

江ノ島「苗木ならアタシを満たしてくれると思ったのに……。この気持ちは本物のはずなのに……。それでもアタシは心のどこかで苗木を便利屋程度にしか思ってなかったのかな……」

江ノ島「アイツにもちゃんとした意思があるもんね……。クリスマスくらい好きな女と過ごしたいよね……」

戦刃「盾子ちゃん……」

江ノ島「絶望した。もう寝る」

戦刃「え!?まだご飯食べてる途中だし、お風呂も入ってないし……」

江ノ島「寝る」スタスタ





戦刃「えっと、えっと……」

戦刃「こ、こうなったら私だけでも苗木くんを待たなきゃ!」




葉隠「なあ、安広っち。この話、のるべきだと思わねえか?」

セレス「…………」

葉隠「オメーのギャンブラーとしての才能と俺の占い師としての才能があれば怖いもんなしだ!」

葉隠「だからよ、この通りだ!安広っち!」

セレス「その名前で呼んでんじゃねえよビチグソがああああああ!」ブンッ

葉隠「ぶべらっ!な、殴るこたあねえだろ!」

セレス「なぜわたくしがあなたと組まなければならないのです。わたくしの才能は100%当たるギャンブル専用の占いみたいなものですわ。30%と組んだら勝率が落ちるじゃありませんか」

葉隠「でもよ、やすひ……セレスっちだってたまには負ける時ぐらいあんだろ!100%は盛りすぎだべ!」

セレス「では仮に90%当たるとしてもあなたが必要となる確率は何%か分かりますか?」

葉隠「えっと……9割外して3割当たる……さっぱりだべ!」

セレス「3%です。もはやわたくしにメリットが無いことも同じじゃないですか」

葉隠「ああくっそー!諦めるから代わりに金くれ!」

セレス「いい加減にしてください。痴漢扱いで警察呼びますわよ?」

葉隠「待ってくれって!セレスっちを説得する方法を占うしかねえか……」

葉隠「来たべ!向こうを見ろ!」

セレス「今度は何があるというのですか……」


苗木「…………」トボトボ


葉隠「カモが来たべ」
セレス「カモが来ましたわね」




苗木「はあ……戦刃さん達怒ってるだろうな……」

苗木「こんなことなら十神クンに戦刃さんの家に連れてってもらえばよかったよ……」

葉隠「よーう、苗木っち!暗い顔してんな!俺が占ってやろうか?お、水難の相が出てるべ!」

セレス「あなたの占いは手相は管轄外ではなくて?ごきげんよう苗木君。こんな夜に軽装ですと風邪を引きますわよ?」

苗木「葉隠クンにセレスさん……」

葉隠「さっそくだが苗木っちよお、セレスっちの頭がお堅いから説得してほしいんだべ!なーに成功したら報酬は出すからよ……」

苗木「前にもこんな話あったよね?」

葉隠「ネオ・ニュー・ビジネスだべ!時代と俺は進化していくんだ!」

セレス「あなたが進化なんて冗談はやめてもらえます?ところで苗木君、ちょっとわたくしに協力してくれません?今ここで首が3つ揃ったのでいいギャンブルが行えるのですが……」

苗木「首を賭けるの!?しかも3人分!」

葉隠「それ、いくら儲かるんだ?儲けをくれるのなら協力してやらんこともないべ」

セレス「そうですわね……。だいたい1時間でこれくらいは……」ヒソヒソ

葉隠「ふんふん……うほっ、そりゃいいべ!のった!」

苗木「ちょっと葉隠クン!?」

セレス「さ、後は苗木君だけですわよ。当然了承してくれますよね?ああ大丈夫、負けるなどということは考えなくてよろしいのですよ」

苗木「でもボクには行かなきゃいけないところが……」

葉隠「やべっ!2人とも、その店に隠れろ!」

苗木「葉隠クン?」

セレス「慌ててどうしましたの?」

葉隠「ヤクザのやつらだ。見つかったら沈められちまう!」

苗木「キミってやつは……」

セレス「あら、この店はわたくしが行こうとしてた店ですわ」

葉隠「いやーついてるべ!これも『超高校級の幸運』のおかげだな!」

苗木「ボクはすごくついてないよ……」

セレス「ここまできたら大人しく従うのが吉ですわよ。どうせ外にはヤクザがいますし、下手に外に出るのも危険ですわ」

苗木「そんな……」

セレス「それでは、始めましょうか」




葉隠「超ラッキーだべ……」

葉隠「俺は外でつっ立ってるだけで首を賭ける必要もないなんてよ。大事なとこは全部苗木っちに任せるべ」

葉隠「しかし苗木っちもかわいそうだな。パンツ一丁で怖いお兄さんに連れていかれた時はさすがに同情したべ」

葉隠「後はセレスっちが程よく稼いでくれれば俺も分け前をもらってガッポガッポだ!」

葉隠「さてと、暇だし苗木っちの荷物でもいじるか。なんか金目の物はっと……」

葉隠「お?電話が鳴ってら。せっかくだし出てやるか」

戦刃『もしもし苗木くん?』

葉隠「はいこちら苗木っちの電話だべ!」

戦刃『え?なんで葉隠くんが』

葉隠「おお戦刃っちか、実はな……」

江ノ島『おい葉隠!なんでアンタが苗木の電話持ってんだよ!まさか盗んだんじゃ……』

葉隠「誤解だ誤解!今苗木っちは席を外してて俺が荷物を預かってんだべ」

江ノ島『ちょっと待って。苗木は今どこにいんの?』

葉隠「今苗木っちならセレスっちと『(俺のサイフに)いいこと』してるべ!」

江ノ島『……はい?』

葉隠「へへ……今こうして扉の前に耳をつければセレスっちの嬉しい悲鳴が聞こえてくるべ」

葉隠「お、そういえば江ノ島っちは苗木っちに何の用だ?なんなら俺が伝えといて」

セレス「逃げますわよ葉隠くん!」

葉隠「ななななんだ!?わ、わりい、切らせてもらうぞ」

苗木「待って!せめて服を着させて!」

葉隠「なんだべ!何が起きたんだ!」

セレス「対戦相手が銃を持っているのを確認しました。自分が不利になった時店の損失を出さないよう始末しているのでしょう。作戦タイムと偽って足止めしていますので、今のうちに脱出を」

葉隠「か、金は?金はどうしたんだ?」

セレス「少しかすめて来ましたが期待はできないでしょう。命が惜しくなければご自由にどうぞ」

葉隠「まじかよ……。しゃあねえ逃げんぞ苗木っち!」

苗木「あ、待ってよ!」






葉隠「こ、この公園まで逃げりゃあ……」

セレス「わたくし、もうあの店には行けませんわね」

苗木「今日ボク走ってばっか……」

葉隠「ちょっと休むべ……」

苗木「ボクも……」バキッ

苗木「ん?なんか今変な音……が……」

苗木「うわああああああぁぁぁ……!」

葉隠「苗木っちいいいぃぃぃ!」

セレス「何ですの!?」

葉隠「大変だ安広っち!苗木っちが柵に寄りかかったらその柵が折れて下の川に落っちまった!」

セレス「その名前で呼ぶんじゃねえ!」




苗木(…………)

苗木「…………」

苗木「……うう……あ……」


大神「目が覚めたか、苗木よ」


苗木「うわっ!お、大神さん!?」

大神「落ち着け、苗木よ。まだ安静にするべきだ」

苗木「あ、ああ……。えっと、大神さんが助けてくれたの?」

大神「ああ、外を歩いていたらお主が流れていたのでな。一体何があったというのだ」

苗木「不運な事故、かな……。助けてくれてありがとう、だけどここは?」

大神「我が道場の門下生の倉庫だ」

苗木「倉庫って……。そんなところで大神さんは何をしてるの?」

大神「我は普段は山奥で修行をしているのだが明日は皆で集会を開くことになっているからな、山で寝泊まりしていては集合に間に合わなくなる可能性がある。そこでこの倉庫を宿代わりに借りたのだ」

苗木「山奥で修行……。今冬だよね?」

大神「その寒さに耐えることも修行の内だ。それに戦いには地の利によるものもある。雪がある場所でいかに戦えるようにするか……それもまた修行だ」

苗木「なんか言葉を聞くだけで辛そうに思えるよ……」

大神「そうまでせねば我は奴に勝つことはできぬ。いずれまた拳を交えることになるのだからな……。だから奴には早くよくなってもらわねば……」

苗木「もしかして大神さんが外を歩いていた理由って……」

大神「左様。我は奴の様子を見にいっていたのだ。結果は……言うまでもないがな」

苗木「大神さん……」

大神「して苗木よ。今日はここで止まっていったらどうだ?外は雪も降り始めた。家には連絡を入れておくといいだろう」

苗木「そうはいかないよ。ボクにはまだやってないことがある。行かなきゃいけない場所があるんだ!」

大神「だが、外は危険だぞ。まだ服も乾ききっていないというのにか」

苗木「それでもだよ。それでも行かなきゃいけないんだ」

大神「何がお主をそこまでさせるのだ……?」

苗木「約束したんだ、必ず行くって。ボクは約束を破るわけにはいかない」

大神「……ならば我は止めぬ。お主のその目に移る希望は偽りなき物と判断した」

大神「だが、行くというからには必ずや果たすのだぞ」

苗木「本当にありがとう、大神さん」

大神「フッ、気をつけていけ……」




苗木(行かなきゃ、約束を果たしに)

苗木(彼女に……届けるんだ)

苗木(……寒い)

苗木(でもこんなとこで倒れるわけには……)

苗木(……ボクがここで倒れたら彼女は絶望してくれるのだろうか)

苗木(……いや、それだと勝負を受けた意味がなくなる)

苗木(進まなきゃ……今は前を向いて……)

苗木(進むんだ……!)




戦刃「……寂しい」


ピンポーン


戦刃「あれ?こんな時間に誰だろう」

戦刃「はーい……って苗木くん!?」

苗木「や、やあ戦刃さん……」

戦刃「すごく寒そう……は、入って!」





苗木「ありがとう、おかげで助かったよ」

戦刃「そんな……私はただ当然のことをしただけだよ」

苗木「……戦刃さん、今日はキミの誕生日だったよね。プレゼントを渡したいから目を閉じてほしいんだ」

戦刃「え……。な、苗木くん……?」

苗木「駄目、かな……」

戦刃「ううん。私、苗木くんになら……」

苗木「ありがとう。実は、ボクは前からキミのことがずっと……」

戦刃(ああ、苗木くんの顔が近づいてくるのが分かる。私、このまま苗木くんに……)



戦刃「苗木くんっ!」ガバッ



戦刃「あれ?苗木くんは……?もしかして……夢?」

戦刃「がっかり……。夢とはいえもう少しで苗木くんと……うう、急に恥ずかしくなってきた……」


ピンポーン


戦刃「あれ?またチャイムが……」

戦刃「はーい、どなたですか……ってな、なな苗木くん!?」

苗木「……はは、遅れちゃったね。今さら来てごめん」

戦刃「…………」グニ

苗木「戦刃さん!?なんで急に自分の頬をつねってるの!?」

戦刃「よかった……夢じゃないんだね……」

戦刃「本当に……来てくれたんだね……」

苗木「こんな時間になっちゃったけどね」

戦刃「と、とにかく上がって!盾子ちゃんにも知らせてこなきゃ!」








戦刃「盾子ちゃん起きてこないや……。お茶ぐらいしか用意できなくてごめんね。料理はその、みんな食べちゃったから……」

苗木「戦刃さんが謝ることはないよ。全部ボクが悪いんだから」

苗木「でも、江ノ島さんは起きてこないのか。じゃあ、先に戦刃さんにプレゼントを渡しておくか」

戦刃「目を閉じる必要はある?」

苗木「え?じゃ、じゃあお願いしようかな」

戦刃(うう、ドキドキする……)

苗木「はい、これをどうぞ」

戦刃「……あれ?なにこれ、試験管に……バラ?」

苗木「『イン・ビトロ・ローズ』っていうらしいけど、ボクも細かいことはよく分からないんだよね。キミたちに似合うと思っておそろいにしようと2つ買ってきたんだ」

戦刃「確かに素敵だけど……キスじゃないの?」

苗木「キスしてほしかったの!?」

戦刃「あ、いや、ち、違うの!魚のほう!」

苗木「誕生日プレゼントに魚!?戦刃さんの好みが分からない……」

戦刃「あれっ!?違っ、そうじゃなくて……えーっと、えーっと……助けてー!盾子ちゃーん!」ダッ

苗木「あっ!戦刃さん!」




苗木「…………」

戦刃「…………」

江ノ島「…………」

苗木(空気が重い……)

江ノ島「今さら何の用?アタシすっげー眠いんだけど」

苗木「キミ達の誕生日を祝いに来たんだ。それが終わったらすぐに帰るよ」

江ノ島「んなことしなくていいじゃん。もうすぐ日付け変わるし」

苗木「それでも、だよ」

江ノ島「……何で。何でアンタはそこまでするの」

苗木「約束したじゃないか。キミを絶望させるって」

江ノ島「絶望ならもうしたよ。アンタは待っても全然来ないし、残姉には惚気られるし、料理は全部自分で食うし、挙句の果てにアンタは別の女と遊んでからここに来るんだから」

江ノ島「これを絶望と呼ばずにいられるか!アンタなんかさっさと帰ってセレスのヤツとイチャイチャしてりゃいいじゃねえかよ!」

苗木「へ?セレスさん?ちょっと待ってくれ!何か誤解してない!?」

江ノ島「アタシはちゃんと聞いたんだよ!葉隠のヤツが苗木とセレスが『いいこと』してるってな!」

苗木「違う!あれは彼らに『都合のいいこと』をしていたんだ!」

江ノ島「都合の……いいこと?」

苗木「ボクはただ巻き込まれたというか、口車に乗せられたというか、とにかく江ノ島さんが思うようなことは何一つしてない!」

江ノ島「じゃ、じゃあアタシ1人で勝手に勘違いして、苗木のこと勝手に嫌って……馬鹿みたい」

江ノ島「ごめん、苗木。冷静に考えりゃすぐ分かることなのにね」

戦刃「盾子ちゃんよっぽどショックだったんだね。やっぱり盾子ちゃんって苗木くんのこと」

江ノ島「おっとヘアゴムが勝手に」バシッ

戦刃「同じ手は何度もくらわない」サッ

江ノ島「チッ、よけんなよ」

苗木「うん、やっぱり江ノ島さんに落ち込んでる姿は似合わないよ」

江ノ島「まあ、いつまでもテンション下げてらんないし、気分変えていきますか!」

江ノ島「というわけで苗木、プレゼントちょーだい」

苗木「はい、これ」

江ノ島「何このちっさい袋。こん中に絶望でも入ってんの?」

苗木「いや、これは戦刃さんのプレゼントと同じものだよ。2人一緒の方が姉妹らしいし」

江ノ島「ふーん、どれどれ……」

江ノ島「っておい!これ『イン・ビトロ・ローズ』じゃん!嘘でしょ?苗木がこれをアタシに……」

苗木「あ、江ノ島さんそれ知ってるんだ」

江ノ島「知ってるも何も赤いバラの花言葉って……ちょっと待って苗木、これお姉ちゃんにも渡したんだよね」

戦刃「うん!ずっと大切にするつもりだよ」

江ノ島「はあ……やっぱ苗木は苗木だったか……絶望的」

苗木「え、何で急に落胆してるの」

戦刃「嬉しくないのかな?こんな素敵なプレゼントなのに」

江ノ島「無知ってのは恐ろしいもんね。もういい、次!絶望よ絶望!とびっきりの絶望をよこしなさい!」

江ノ島「ないわけないよね?アタシはこの時間をどれだけ楽しみにしたことか!」

江ノ島「さあ苗木、アタシを絶望させて!」

苗木「とびっきりの絶望……その正体は『希望』だよ」

江ノ島「……希望?」

苗木「江ノ島さんは今日という日を楽しみにしていたんだよね。つまり、キミは絶望を心の底から希望していたんだ」

江ノ島「アタシが希望……」

苗木「ボクがこの日来るその時までキミはずっと希望を持っていたんだ」

江ノ島「希望……希望……」

苗木「でも、キミは希望が嫌いだ。そんなキミが希望を持ってるなんて気づいたら……」

江ノ島「…………」


江ノ島「アッハハハハハ!」


江ノ島「なるほど……なるほどねえ……そういうことか……」

江ノ島「超……超超超超超超超超超超絶望的!」

江ノ島「やっぱり苗木はアタシの予想通りで予想外なヤツだわホント」

苗木「よく意味が分からないんだけど……」

江ノ島「アンタがアタシにプレゼントする内容は1000通り以上思いついたわ。もちろんその中に希望もあった」

江ノ島「でも、どこまでも平均で平凡で一般的なアンタでもさすがに希望を選ぶことは無いと思って選択肢から無意識に除外してたわけ!」

江ノ島「しかし、アンタはどこまでも平均で平凡で一般的だった。これにはアタシも予想外だったよ」

江ノ島「だからそんなことを予想できなかったアタシに絶望!無意識に希望を除外したことに絶望!そして苗木に絶望されたことに絶望!」


江ノ島「ああ……今アタシ最ッ高に絶望してる!」


苗木「…………」

戦刃「…………」

苗木「なんかよく分からないけど、喜んでる……んだよね?」

戦刃「た、多分……」

苗木「そっか……喜び、感じてくれたかな」

江ノ島「アーッハッハッハ!アッハッハッハ!アハハハハ!あー……」

江ノ島「飽きちゃった」

戦刃「相変わらず飽きるの早いね」

江ノ島「いやしょうがないじゃん、飽きたものには飽きたんだって。苗木を待つことは飽きなかったから許して♪」

江ノ島「あ、そうだ苗木。勝負はアンタの勝ちでいいよ。だから好きな時にアタシのベッド来てね」

江ノ島「アタシこう見えてこういう経験ないから……その、よろしくね!」

苗木「いや、ボクそんなことする気ないから」

江ノ島「アタシの初めてがそんなこと扱いされた……。じゃあ苗木は何を望んでんの」

苗木「キミに……希望を持って生きてほしいんだ」

江ノ島「……何それ。拷問かなんか?超絶望的なんですけど」

苗木「絶望にだって希望は持てるんだ。そしてその希望がキミの中の絶望に打ち勝つ日がくるかもしれない」

江ノ島「ないない。アタシはこの道絶望一筋だから」

苗木「そんなこと言わないでよ。ボクは希望に満ちた江ノ島さんを見てみたいな」

江ノ島「アタシは逆に絶望した苗木が見たい」

苗木「それは勝負に負けたキミが言えることじゃないよね」

江ノ島「まあそうなんだけど……。ったく分かりましたよ、希望を持てばいいんでしょ持てば。でもさ、いきなり希望を持てって言われても難しいから、一つ条件を付けさせて」

苗木「条件?」

江ノ島「これからもアタシの側にいてくれない?時々でいいからさ。……アンタの近くにいれば希望を持てるかもしれないから」

苗木「お安いご用だよ、江ノ島さん」

江ノ島「約束よ、苗木。それじゃアタシシャワー浴びて寝るから!苗木も今日泊まっていきなさいよ!」

苗木「あ、うん、お言葉に甘えて……」





戦刃(2人の間に何があったか知らないけどいつの間にか盾子ちゃんと苗木くんがいい雰囲気になってた)

12/25



江ノ島「……絶望的に興奮しすぎて寝付けねー。なんか飲んで気を紛らすか」

江ノ島「あれ……苗木?」

苗木「……zzz」

江ノ島「ったく、ソファーに座りながら寝るなんてよっぽど疲れてたんかね。こんなとこで寝ると風邪ひくぞ~」

江ノ島「……隣、失礼するよっと」

江ノ島「苗木、アタシのためにいろいろやってたらしいじゃん」

江ノ島「周りのやつらに協力求めてさ、あっちこっちうろついて、その度似合わないなんて言われてさ。全部知ってんだよ」

江ノ島「だからさ、やっぱ嬉しいわけよ、アンタがこうしてプレゼントを持ってきてくれたから」

江ノ島「アタシ喜んでんだよ。アンタのおかげでこんな感情も味わえたんだし」

江ノ島「前に苗木は聞いたよね。どうしてアタシが他の人を呼ばなかったのかって」

江ノ島「あれは……苗木と2人っきりで過ごしたかったから。お姉ちゃんは……アタシからすりゃどうでもいいや」

江ノ島「アタシ、苗木のこと好きだよ。絶望と同じくらい、それ以上に」

江ノ島「分からづらい?すんごい愛してるってことで認識してくれりゃいいから」

江ノ島「……絶望の癖に希望に恋するなんておかしな話だよね」

江ノ島「苗木はアタシのこと……好き?」

江ノ島「って寝てるもんね。何やってんだろ、アタシ」


苗木「…………」コクン


江ノ島「あれ、頷いた!?……いや寝てるよね?うん寝てる」

江ノ島「ったくびびらせんなって。今のセリフ全部聞かれてたら絶望的じゃん」

江ノ島「……まあ頷いた時一瞬喜んじゃったけど。ああ絶望的!」

江ノ島「ねえ、苗木……」

江ノ島「やっぱいいや。今は聞くときじゃないよね」

江ノ島「さてと、水でも飲んで寝るか……ん、苗木のポケットになんかしわくちゃの紙が入ってる」

江ノ島「これって……ボーリングの集合時間が書いてあるけど……」

江ノ島「! いいこと思いついちゃった」




江ノ島「うし!準備オーケー!あとは苗木が目を覚まさないようにっと……」

江ノ島「苗木、アンタにはまだプレゼントを貰ったお礼してなかったよね」

江ノ島「アタシからのクリスマスプレゼント……受け取って」


江ノ島「というわけで『超高校級の幸運』苗木誠クンには、スペシャルなご褒美を用意しましたー!……なーんてね」





チュッ





江ノ島「苗木……ありがと」




苗木「ん……あれ、ボクは……」

戦刃「あ、苗木くん起きた?」

江ノ島「おーっす苗木ー。今朝飯作ってるからー」

苗木「…………」

戦刃「苗木くん、どうしたの?体の調子でも悪い?」

苗木「いや、なんというか……なんだろうな……」

苗木「江ノ島さん、キミ昨日ボクに何かした?」

江ノ島「……な、なに言ってんの苗木。アタシは何もしてないから」

苗木「それならいいんだけどな……」

江ノ島「つーか、なんでアタシのこと疑ってんの?そりゃ寝てる顔に落書きの一つや二つはしたくなるけどさ」

苗木「実は昨日、変な夢を見ちゃってさ……」

戦刃「夢?」


苗木「江ノ島さんがボクに……こ、告白するんだよ!」


江ノ島「はあ!?」

戦刃「じゅ、盾子ちゃんが!?」

苗木「さらに自分のことが好きかどうか聞いてきてさ……」

戦刃「ふむふむ」

江ノ島「…………」

苗木「返事をしたらその……キ、キスをされるんだ……」

戦刃「盾子ちゃん大胆!」

苗木「しかも何がすごいってまるで夢とは思えないんだよ。すぐそこに江ノ島さんがいて近くで喋っているような、そんな感覚がしたんだ」

苗木「あ、ごめん!こんな思春期の男子高生の妄想みたいな話、信じられるわけが……」

江ノ島「苗木ィ!返事は!返事はどうした!」ガシッ

苗木「えっ、ちょっ、江ノ島さ、おち、落ち着いて」ガクガク

江ノ島「返事!告白の返事は!告白の返事はどうしたって聞いてんの!」

苗木「ま、待って、この状態じゃ、喋れな」ガクガク

戦刃「盾子ちゃん!苗木くんが困ってるよ!」

江ノ島「ハア……ハア……。で、苗木そこんとこどーよ」

苗木「そ、その……秘密、かな」

江ノ島「え?」

苗木「いや、ほら、これは夢の中の話だし、こういう返事はやっぱり実際に告白されてから返したいっていうか……」

苗木「って、これじゃ遠回しに江ノ島さんに告白させようとしてるみたいじゃないか!ごめん、忘れてくれ……」

江ノ島「じゃあ、今でもいい?」

苗木「え?」

江ノ島「今ここでアンタの返事を聞くために告白すんの」

苗木「ええっ!?きゅ、急すぎるよ!」

江ノ島「あー、コホン。な、苗木……アタシはアンタのことが……」

江ノ島「そ、その……す、すすすす……」


ぐううううぅぅぅぅ……


戦刃「あ。つ、続けて続けて!」

江ノ島「雰囲気ぶち壊し……続けられっかこの残姉が!」

戦刃「ごごごごめんなさ~い!許してぇー!」

苗木「あはは……。戦刃さんもお腹を空かしてるし、早くご飯食べたほうがいいかもね」

江ノ島「オマエというやつは!どうして!アタシの邪魔ばかり!」

戦刃「うう……。駄目なお姉ちゃんでごめんなさい……」




苗木「本当に二人とも来なくていいの?」

戦刃「わ、私は行きたいんだけど盾子ちゃんが……」

江ノ島「いいんだって!アタシちょっとやらなきゃいけないことあるからさ!」

苗木「そっか……。じゃあキミ達とはこれが最後の顔合わせになるね。来年また会える時を楽しみにしてるよ」

戦刃「こちらこそ。今年は苗木くんのおかげでとてもいい一年を過ごせた気がするよ。来年もまたよろしくね」

江ノ島「あーあ、名残惜しい。また後2時間後くらいに顔を見たい気分」

苗木「あまり無茶は言わないでね……。さて、そろそろ……」


ジリリリリ……


戦刃「あれ?何の音?」

江ノ島「アンタんとこの目覚ましの音じゃん。ったく、さっさと止めにいきなさいよ」

戦刃「あれー?こんな時間に鳴るようにセットしてないんだけどな……」タッタッタッ


苗木「最後まで戦刃さんらしいや。じゃ、ボクも行くか」

江ノ島「……ねえ苗木。返事、いつか聞かせてくれる?」

苗木「……そうだね。そう遠くない未来に、またいつか……」

江ノ島「楽しみにしてる、約束よ。それと苗木、ちょっと顔貸して」

苗木「こう、かな?」

江ノ島「……これで、よしと。せっかくみんなに会いにいくんだから身だしなみくらい整えなきゃね。今日のアンタは額を見せてるとみんなが驚くようなリアクションしてくれるわよ」

苗木「ありがとう、江ノ島さん!それじゃあね!」

江ノ島「さようなら~」





戦刃「ホントなんでなんだろう?あんな時間に目覚ましを仕掛けた覚えなんてないのに……」

江ノ島「ああ、あれやったのアタシ。別れの時くらい2人っきりになりたいし」

戦刃「ひどい!私も苗木くんを見送りたかった……」

江ノ島「よーし!苗木も帰ったし、始めますか!」

戦刃「へ?これから何するの?」

江ノ島「ニブいねえ残姉は。これから来るべきゲストに向けての料理を作るんだよ!」

戦刃「ゲスト?今日誰か呼んだっけ……」

江ノ島「来てからのお楽しみってことで!」




苗木「えっと集合時間は11時だったから……まずい、遅刻だ!」

苗木「みんなごめん!少し遅れちゃったよ!」


石丸「む、この声は苗木君か。駄目じゃないか苗木君、皆が集まるところで遅刻とは!そういった1人のミスが全体の秩序を……なああああああぁぁ!?」

苗木「ど、どうしたの石丸クン!?」

大和田「どうした兄弟、ずいぶん騒がし……おわあああああぁぁ!?」

苗木「大和田クンまで!?」

朝日奈「どうしたの二人とも……きゃあああああ!」

大神「こ、これは……!」

桑田「な、苗木……オメーって奴は……」

山田「苗木誠殿は僕と同じだと思っていたのにいいぃぃ!」

腐川「ふ、不潔よ……。苗木、あんたはやっぱそういう人間だったのね!」

セレス「見ていて不快ですわね。さっさと消してくれませんこと?」

不二咲「な、苗木君……何かの間違いだよね……?僕は苗木君のこと信じてるからね!」

葉隠「苗木っちもついに大人の階段を登っちまったか……」

舞園「苗木君……。わ、私はその、そういうのは……やっぱりいいです……」

苗木(みんなすごい驚いてる。これが江ノ島さんの言ってたことなのか……)

苗木(あれ?でも不潔とか大人の階段とか髪型から連鎖される考えじゃないよね?)

十神「苗木、もしかしてお前は自分でも気づいていないのか?」

霧切「はい、鏡。苗木君、聞きたいんだけど」



霧切「その額のキスマーク、誰のものなの?」



苗木「…………!」

桑田「おい苗木!俺からも詳しく聞かせてもらうぜ!」

朝日奈「苗木!額にキスマーク付けたまま辺りをうろつくのはいけないことだと思うよ!」

腐川「苗木……教えなさいよ、あんた一体どんなテクを使って女を骨抜きにしたのよ!」

石丸「苗木君、学生の身で不純異性交遊とは!規律に反するぞ!」

葉隠「俺の占いによると……苗木っちにキスをしたのは俺達も知ってる人物と出たべ!」

十神「おいどういうことだ、説明しろ苗木!」

苗木「…………」



苗木「ごめんみんな、ボクちょっと用事を思い出しちゃったんだよ」

苗木「せっかくみんなそろって楽しもうと思ったのに残念だよ……。いや、本当にごめんね!ボクは急がなきゃいけないから、これで。また来年もよろしくね!」タッタッタッ



霧切「…………」

舞園「苗木君、なんかすごく怖い目をしてました……」

セレス「あんな苗木君は初めて見ますわ」

大神「有無を言わさぬ迫力があったな……。この我ですら言葉を発することができなかった」

大和田「ふだん静かなヤツだから怒った時の雰囲気が全然違えぜ」

不二咲「苗木君、どこへ行っちゃったんだろう……」

山田「案外、犯人は妹とかだったりして」

葉隠「俺の占いによると……江ノ島っちの家に行ったと出たべ!」

朝日奈「んなわけないじゃん。もっと真面目に考えなよ」

十神「なぜそこで江ノ島の名前が出てくる。やつはここにこそ来てないが苗木とは全く接点がない」

腐川「白夜様が言うんだから間違いないわ!葉隠、もっと真面目に占いなさいよ!」

霧切「葉隠君の占いは7割は外れる……。つまり江ノ島さんは容疑から外れることになるわね」

葉隠「なんで俺だけこんな扱いなんだべ!?」




江ノ島「ふー、こんなもんかね」

戦刃「すごい!美味しそうな料理がこんなに!」

江ノ島「アタシにかかりゃ余裕余裕。味も完璧だからね」

戦刃「こんなに食べきれるかな……?ところでゲストっていつ来るの?」

江ノ島「この時間だと……そろそろ来るんじゃないかな」


ピンポーン


江ノ島「ほうら来た!」

江ノ島「待ってたわよ、アンタなら絶対にここまで戻ってくると思ってたから!」

江ノ島「さ、いらっしゃーい!」





以上で終了です。予想以上に時間がかかった
24日に合わせて急いで作成したためかちょっと雑なとこもありますが許してください
来年もまた苗ノ島書いていきたいです

ちなみに残姉にインビトロローズ渡すと意味を知ってるのか普通に喜びます




ここまで読んでくださったすべての読者の皆様に感謝を
ありがとうございます
そして改めてシスターズ誕生日おめでとう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月26日 (金) 23:45:31   ID: 27nEElCb

感動した

2 :  葉隠   2016年02月13日 (土) 22:21:43   ID: CK57N88X

本当に苗ノ島のカップリング好き

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