世にも奇妙な物語 -’14 冬のモバマス編- (156)

世にも奇妙な物語×モバマスSSです

※ストーリーテラーはタモリです

※あくまで日常の中の物語とするため、良くも悪くもプロデューサーが出てきます

(※ちなみに、Pさん→名前呼び プロデューサーさん→プロデューサー呼び、です)

※ちひろさんも出るよ!

※時期として、本家より大幅にずれてますが……イヴイヴということで、ひとつ

では、どうぞ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419336502

タモリ「シンデレラ、という有名な童話があります。皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう」

タモリ「継母らに虐げられていた少女が、ある夜、魔法の力によってお城の舞踏会へと出かけます」

タモリ「魔法のとける夜の12時、彼女はガラスの靴を落として去っていき…その靴を、城の王子が見つけます」

タモリ「舞踏会で彼女に惹かれていた王子は、靴の合う女性、シンデレラを見つけ出し……2人は結ばれ、最高の幸福をつかみます」

タモリ「あらすじはこんな感じでしょうか。何にせよこの童話もまた、立派な奇妙な物語であると言えます」

タモリ「ところで、この物語のタイトルを冠した、"シンデレラガールズ"、というアイドルたちをご存知でしょうか」

タモリ「噂によれば、誰もが頂点を夢見るシンデレラたち、ということからこの名前がついたんだとか」

タモリ「その話が本当かどうかは分かりませんが……彼女たちにはピッタリな、なんとも洒落た名前です」

タモリ「さて……今宵ここに用意された、6足のガラスの靴。これが今回の、物語への招待状です」

タモリ「舞踏会の曲は、5曲。6人の少女たちは、果たしてどのような踊りを見せてくれるのか。そして……」

タモリ「美しきシンデレラたちのうち誰が、今宵の奇妙な舞踏会へと招かれるのでしょう……」

---カタンッ カッ カッ カッ カッ…

タモリ「おや……さっそく誰か履いていったようです。それでは我々も、魔法の馬車へ乗って行きましょう……」

ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ…
カチッ

卯月「……ぅにゅ。んー」チラ

[5:50]

卯月「……あとごふん」ゴソゴソ…

卯月「……!じゃないっ!」ババッ バタバタ…

卯月(おはようございます!島村卯月です!)

卯月(今日はなんと、私の初・ソロライブの日!いつもより、ちょっとだけ早起きです!)

卯月「いってきまーす!」ガチャ、バタン…

卯月(よし、この時間なら予定通り、間に合いそう)

卯月(あの時二度寝してたら、危なかった……)テヘヘ

卯月(……そういえば、夢を見てたような……)

卯月(すごく楽しい夢だった気がするけど……忘れちゃった。残念……)ウーン…

キィィ ガタンッ

卯月「ふー、到着っと。定期定期……」ゴソゴソ…


    ー夢うつつー



      島村 卯月

ガタンゴトン ガタンゴトン…

『次は○○、○○ですーーー』『××線は御乗換えですーーー』

卯月(うーん、それにしても眠いなぁ。疲れがたまってるのかなぁ……)

卯月(それとも、睡眠時間が足りないとか?電話、少し控えようかな……)

キィィイイ プシュゥゥ…

『○○、○○です。忘れ物には、ご注意くださいーーー』

・・・・・・・・・

卯月「ふぅ、いつもながら凄い人……」テクテク

卯月(ライブのお客さんも多いけど……同じくらい?もっと多いかな?)

卯月(……今日のライブ、お客さんいっぱい来るかなぁ?楽しみだなぁ……)エヘヘ…

モバP「おーい、卯月ー。こっちこっちー」

卯月「あ、プロデューサーさん!おはようございます!」

モバP「おはよう。……随分ニヤけてたが、どうした?何か面白いことでも?」

卯月「違いますよ。今日のライブですよ、ライブ!」

モバP「あぁ、なるほど……。まぁ、初めてのソロライブだからな。絶対、成功させような?」

卯月「もちろんです!わたし、精一杯頑張りますから!」

モバP「よっしゃ!じゃあ早速車に乗ってくれ、まっすぐ会場に向かうぞ。朝は食べてきたか?」

卯月「いえ、おにぎり持ってきました。ここで食べても大丈夫ですか?」

モバP「ああ、こぼさないようにだけ注意な。よし、じゃあ出すぞ」

ブロロ…

卯月「わぁ……!大きい所ですね!」

モバP「あぁ、中々のもんだ。緊張は、大丈夫か?」

卯月「少しだけ……でもそれ以上に、ワクワクしてます!ステージもきれいだし……」

卯月「あの、ちょっとだけ、ステージ見て回ってきてもいいですか?」

モバP「はは、準備の邪魔にならないようにな……」

卯月「はい!うわぁ、凄い……」キョロキョロ

舞台監督「……ん?おぉ、Pさん。おはようございます」

モバP「おはようございます。どうですか、準備の方は?」

舞台監督「見ての通り、いい感じで進んでますよ……っと、卯月ちゃん。おはよう」

卯月「あ、おはようございます!今日はよろしくお願いします!」

舞台監督「ははは、よろしく。そういえばPさん、ちょっといいですか?ここなんですがね……」

モバP「えぇ……ああ、ここは……」フム・・・

モウチョットミギー コッチタリテナイヨー

卯月(……)キョロキョロ

卯月(……始めて来る会場だけど、なんだか、見慣れた気が……?)

卯月(いつもと同じようなステージだから、かな……でも)

卯月「すごく、広い。1人だと、こんなに違って感じるんだ……」

卯月(あの席いっぱいに、お客さんが……)ゴクッ…

ガタッ ゴンッ!!

卯月「!」ビクッ

アッブネ… キヲツケロヨー

卯月(……びっくりした……でも)

卯月(おかげで、緊張も吹っ切れたかな……よし!)

モバP「……っと、ごめんごめん、お待たせ卯月」

モバP「ちょっと話が長くなってな……とりあえず、楽屋に行こう。もう少ししたらリハーサルだ」

卯月「はい、分かりましたっ」

・・・・・・・・・

ワァァアアア… ウヅキー ウヅキチャーン

モバP「お疲れ、卯月。……大成功だったな!」

卯月「あ、プロデューサーさん……はいっ。やりました!」

モバP「ホント、いいライブだったよ、よくやった。島村卯月、絶好調だな」

卯月「はい!……最初のころは、ここまで来れるなんて考えもしませんでした。なんだか、今も不思議な感じで……」

モバP「卯月……本当に、よく頑張ったよ。まるで夢を見てるようだ」

卯月「そうですね……ホントに、夢みたいですっ!」





…ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ
カチッ

卯月「……ぅにゅ。んー」チラ

[5:50]

卯月「……はれ?夢?」

・・・・・・・・・

ガタンゴトン ガタンゴトン

卯月(まさか、ライブが楽しみすぎて夢に見るなんて……なんか恥ずかしいなぁ)

卯月(でも、夢でもうまくいったんだから……成功、するよねっ)

卯月(それにしても、リアルな夢だったなぁ……)

キィィイイ プシュゥゥ…

『○○、○○です。忘れ物には、ご注意くださいーーー』

卯月(あれ、アナウンスの人、夢と同じ声?……気のせいだよね。そもそも声色なんて、あまり変わらないか)アハハ…

モバP「おーい、卯月ー。こっちこっちー」

卯月「あ、プロデューサーさん!おはようございます……?」

卯月(ネクタイ……確か夢の中でも、赤色の……?)

モバP「おはよう。……随分ニヤけてたが、どうした?何か面白いことでも?」

卯月「……!いえ、今日のライブ、楽しみだなぁって……」

卯月(言葉まで、全く同じ……正夢?でも……)

モバP「……ったい、成功させような……?卯月、どうした?」

卯月「へっ?い、いえ、……私、精一杯頑張りますね!」

モバP「?お、おぅ。……よっしゃ、じゃあ早速車乗ってくれ。まっすぐ会場に向かうぞ。朝は食べてきたか?」

卯月「いえ、おにぎりを……。ここで食べても、いいですか……?」

モバP「ああ、こぼさないようにだけ、注意な。よし、じゃあ出すぞ」ブロロ…

卯月(……いくら正夢だからって、普通ここまで、一緒なものかな……)

卯月(……)

・・・・・・・・・

舞台監督「……いいですか?ここなんですがね……」

モバP「えぇ……ああ、ここは……」フム・・・

卯月(……やっぱり、同じ……ここまで来ると、ちょっと怖い、かな…)

卯月(あれ?でも、あれが正夢ってことは……今日のライブ、大成功間違いなし?)

卯月(うーん……でも、正夢のおかげで成功って言うのも、ちょっと複雑かな……)

ガタッ ゴゴンッ 

…ガシャンッ!!

卯月「きゃっ!?」ビクッ

照明係「やっべ……大丈夫ですか?破片とか、あたりませんでしたか?」

卯月「は、はい……大丈夫、です……」

卯月(夢と、違う……やっぱり、思い過ごしなのかな?)

卯月(100%的中の正夢なんて……中々ない、よね)

モバP「おい、今の……大丈夫だったか?」タタッ…

卯月「あ、プロデューサーさん。その、照明の部品が落ちたみたいで……」

モバP「ああ、それは見えたんだが……けがはなかったか?」

卯月「向こう側に落ちましたから。破片も、当たりませんでしたし……」

モバP「そうか、よかった……気を付けて下さいね、照明さん!」

照明係「は、はい!……すんませんでしたっ」

卯月「あ、そんなに頭を下げなくても……私は、大丈夫ですから」

照明係「それはよかったです……ライブ、頑張ってくださいね!ではっ」タタタッ…

モバP「ふぅ……よし。とりあえず、楽屋に行こう。もう少ししたらリハーサルだ」

卯月「……はい、分かりました」

卯月(夢では、成功してたライブ……これも、成功するよね……?)

・・・・・・・・・

ワァァアアア… ウヅキー ウヅキチャーン

卯月「ふぅ……!」

卯月(結局、何事もなく。"夢の通り"にライブは成功……)

卯月(……正夢、か……)

モバP「お疲れ、卯月。……大成功だったな!」

卯月「あ、プロデューサーさん……はいっ。やりました!」

モバP「ホント、いいライブだったよ、よくやった。島村卯月、絶好調だな」

卯月(あれ、どこかで聞いたような……?)

卯月「はい!……最初のころは、ここまで来れるなんて考えもしませんでした。なんだか、今も不思議な感じで……」

卯月(あ、そっか。夢の中で……)

モバP「卯月……本当に、よく頑張ったよ。まるで夢を見てるようだ」

卯月(夢、か……プロデューサーさんは知らないだろうけど、私にとっては本当に……)

卯月「そうですね……ホントに、夢みたいですっ!」

卯月(本当に……夢みたい……)













…ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ

卯月「……ぇ」カチッ

[5:50]

卯月「……うそ」

卯月(また、夢……?違う、いくら何でも……)

卯月(……夢じゃない、あれは現実としか思えない。でも、なんで……)

・・・・・・・・・

『○○、○○です。忘れ物には、ご注意くだーーー』

・・・・・・・・・

モバP「おはよう……?どうした、顔色が悪いようだけど……」

・・・・・・・・・

舞台監督「ここなんですがね……」

・・・・・・・・・

卯月(……やっぱり、まったく同じ中身……)

卯月(原因がなぜかは分からない、けど……同じ時間を、同じ場所で、繰り返してる……)

卯月(でも、だとしたら……この夢はいつから……?)

卯月(今日は……"今"は、一体何度目のライブなの……?)

モバP「っと、ごめんごめん、お待たせ……っ!危ない!」

卯月「えっ」

 ヒュォッ  ガッシャーン!!

卯月「い、っ……!?」

照明係「うわっ……す、すんません!大丈夫すか!」

卯月「っ、だ、大丈夫です……ちょっと、かすっただけで……」

モバP「……腕か。打撲はないようだが……君、救急箱を持ってきてくれ。すぐにだ!」

照明係「は、はい!」タッタッタッ…

モバP 「血は、とりあえずハンカチで……消毒したあとは、念のために医務室に行くぞ」

卯月「はい……」

・・・・・・・・・

モバP「ふう……よかったな。切り傷で済んで」

卯月「ありがとう、ございました……」

モバP「しかし、危なかったな……あと数センチで、肩に直撃してたぞ。下手すれば……」

卯月(……あっ)

モバP「……ともあれ、大きなけがでないのは不幸中の幸いだな。よかったよ」

卯月(……もしかしてあの照明、落ちる場所が、近づいている……?)

モバP「……卯月?ホントに大丈夫か?」

卯月「!は、はい……なんとか、大丈夫です……」

モバP「……無理はするな。いざとなったら日程をずらすことも考える。だから……」

卯月「いえ……大丈夫です、やります。そのために、今まで頑張ってきたんです……!」

モバP「卯月……」

・・・・・・・・・

ワァァアアア… ウヅキー ウヅキチャーン

卯月(終わった……これも、夢か……いや、夢になってしまうの……?)

モバP「お疲れ、卯月。…大成功だったな!」

卯月(あ、プロデューサーさん……)

卯月「あ、プロデューサーさん……はいっ。やりました!」

卯月(次は……ホント、いいライブだった……)

モバP「ホント、いいライブだったよ、よくやった。島村卯月、絶好調だな」

卯月(……全部、覚えてる。この会話も、もう何回目なんだろう……)

卯月「はい!……最初のころは、ここまで来れるなんて考えもしませんでした。なんだか、今も不思議な感じで……」

卯月(私の口から、言葉が自然とあふれてくる……まるで)

モバP「卯月……本当に、よく頑張ったよ。まるで夢のようだ」

卯月(台本を、なぞっているように……)

卯月「そうですね……ホントに、」

卯月「"夢みたいですっ!"」

卯月(……!)












……ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ 
カチッ

[5:50]

卯月「……見つけた。夢の、正体……!」


『ーーー、○○です。忘れ物には、ご注意ーーー』

卯月("夢みたい"……あの言葉が、たぶんこの現実を"夢"にする原因……)

卯月(その時に、口を閉じてさえしまえば……それで戻れるか不安だけど、やるしかない……)

モバP「おーい、卯月ー。こっちこっちー」

卯月「あ、プロデューサーさん。おはようございます!……」

卯月(ただ、一つ。この夢で、気になっているアレ……)

卯月(ステージの照明……間違いなく、私に近づいている……)

卯月(次に当たれば、多分頭に……下手をすれば、死ぬ。それだけは、絶対にさけなきゃ……)

卯月(私は、生きて……この悪夢を、終わらせる……)

モバP「ーーーに注意な。よし、じゃあ出すぞ」

ブロロ…

・・・・・・・・・

卯月(ここで、ライブを……もう何回、やったんだろう……)

卯月(全部、一生懸命やって……全部、夢になった……)

卯月(だからこそ……今日で、終わりにする)

卯月(このライブは……夢では、終わらせない!)

舞台監督「Pさん、ちょっといいですか?ここなんですがね……」

モバP「えぇ……ああ、ここは……」

卯月(……)テク テク テク…

卯月(多分、次の照明はここに……なら)スッ

卯月(ここなら、大丈夫なはず……なのに)

卯月(なのに……なぜかまだ、嫌な予感がする……?ううん、きっとこれで……)

モバP「……っと、ごめんごめん、お待たせ卯月」

卯月「!プロデューサーさん…」

モバP「ちょっと話が長くなってな……とりあえず」

卯月(え……ダメ、そこは……!)

卯月「プロデューサーさん!よけて!」

モバP「楽屋に……え?」



   ーーーヒュォッ



照明係「あ、危ない!」



  ガッシャーン!! ガラン…



モバP「が……っ」ドサッ…

照明係「だ、大丈夫ですか!?大丈夫ですか……!?あ、あぁぁ……」

オイ、ダレカキュウキュウシャ! アタマニアタッタゾ… 

卯月「う、そ……なん、で……」

ーーー「ちょっと話が長くなってな……」

卯月「……間違って、た……?まさか……」

ーーー「おい、今の……大丈夫だったか?」  

卯月「私じゃ、なかった。あの照明に……死に、近づいていたのは……」

ーーー「っと、ごめんごめん、お待たせ……っ!危ない!」

卯月「ぷろ、でゅーさー、さん……」

卯月「あ、あぁ、ウソ、嘘……そんな……」

卯月「そ、そうだ、これも夢にしてしまえば……!」

卯月「夢、みたい……?う、うそ……なんで」

卯月「夢みたい……夢みたい……夢、みたい……っ」

卯月「夢、夢、夢……」

卯月「夢……夢、みたい……」

卯月「こんな……こんなの、夢に決まってる……」

タッタッタッタ…

スタッフ「卯月さん、卯月さん!大丈夫、ですか……?」

舞台監督「……しばらく、そっとしといてやれ。ショックが大きすぎたんだ、夢だと思ってる……」

卯月「夢みたい……夢みたい……夢みたい……夢……」

卯月「ゆ、め……みたい……ゆめ……」





…デスカ? ダイジョウブデスカ!?

救急隊員「ーー大丈夫ですか!?大丈夫ですかっ……」

モバP(ん……頭が、痛む……ここは……?)

救急隊員「くっ……おい、まだ着かないのか!?」

運転手「これでも急いでるんですっ……もう少し、辛抱してください……!」

モバP(ああ、そうだ……確か、頭に何か当たって……)

救急隊員「くそ、出血がひどい……意識はあるようだが、このままでは……」

モバP(俺、死ぬのか……?あっけない、死に方だなぁ……はは)

モバP(……くそ……卯月のライブ、見たかった、なぁ……ちく、しょう……)

モバP(……やべ、眠くなってきた……意識が……)

モバP(はは、まるで悪夢を、見ているようだ……いや、いっそ悪夢なら……)

モバP(目が、覚めてしまえば、いいのに……っ)

救急隊員「……!だ、大丈夫ですか!?もう少しですっ、気をしっかり……」











…ピッ

ピッピッ ピッピッ ピッピッ ピッピッ…
カチッ

モバP「……ん」モゾ…

[7:17]

モバP「夢、か……うえ、自分の死ぬ夢なんざいい気しないな……寝汗も、びっしょりだ」ウワ…

モバP「しっかし、すごくリアルだったな。まさか、こんなに夢に見入るとは……あれ、7時17分って……やば」

ブーッ ブーッ ブーッ…

モバP「げっ、卯月……も、もしもし」

『あっ、やっと出た……プロデューサーさん、今どこにいるんですかっ!?もう7時過ぎですよっ!』

モバP「す、すまんっ!今行くから、もうちょっと待っててくれ!」バタバタ

モバP「ったく……夢を見すぎるのも、考えもんだな……」ガチャ バタンッ…

タモリ「結局、これが一夜の夢だったのか、それとも現実を捻じ曲げられたものなのか」

タモリ「それは、私にも分かりません……なぜなら、この世界もまた、誰かの見る夢かもしれないからです」

タモリ「皆さんくれぐれも、夢を見る際にはご注意を……」





[世にも奇妙な物語]

・・・・・・・・・

タモリ「古来より人の声には、不思議な力が宿ると考えられてきました。いわゆる言霊、というものです」

タモリ「人の声が紡ぐ言葉が、現実に影響を与える。まあ迷信という方が多いでしょうが……どうでしょう」

タモリ「もしかしたらあなたの声にも、大きな力が宿っているかもしれません……」

テク テク テク テク

小梅「ふぅ……や、やっとお仕事、終わった……」

小梅「プロデューサーさん、た、確かこの辺って……?」

ア……、コイ…

小梅(声……?)

…コウ…チャン…コウメチャン…

小梅(私の名前……この、路地から……?)

コウメチャン…コッチ、キテ…コッチ…

小梅「……」

小梅(ぼんやりとだけど……何か、いる……あまり、よくない霊……)

コッチ……コッチダヨ、コッチニキテ……コウメチャン……コッチニ、コイ…

小梅(近づかないほうが、いいかな……あっ)

   「お、小梅!」

小梅「ぷ、プロデュ

ーサー……さん?」

モバP「やっと見つけたよ……こんな路地覗いて、どうしたんだ?」

小梅(……)

モバP「……?小梅?」

小梅「あ……ううん、な、何でも……ないよ」

モバP「まさか、また幽霊か……?俺、苦手なんだよなぁ……」

小梅「う、ううん、ほんとに、何でもない、よ。ちょっと、気になっただけ……」

モバP「そうか……?ならいいけど。よし、じゃあ帰ろうか。向こうに車、置いてるから」

小梅「う、うん……」

小梅(さっきの声……聞こえなくなってる……何だったのかな……)

小梅(……Pさんには、秘密にしてた方が、いいのかな……?)




フフッ…


        ー声ー


       白坂 小梅

・・・・・・・・・

小梅「今日も、遅くなっちゃった……」

小梅「迎えは……まだ、かな……」

…ウ、メ……キ…

小梅「……?」

小梅(また、声……?あ、ここ……昨日の路地の裏……?)

コウメ…コウメ…!

小梅「……」ジャリッ

ヒュッ ガタンッ ガラガラ…

小梅「!な、なにか……で、電灯?壊れて、落ちてきた……?」

小梅(もう少しで、ぶつかるとこだった……気を付けないと)

モバP「おーい、小梅ー。待ったかー?」

小梅「!ぴ、Pさん……ううん、そんなに、待ってはない、けど……」

モバP「けど……?あれ、なんだそれ。上から落ちてきたのか?」

小梅「う、うん……古くて、壊れたみたい……」

モバP「そいつは……けがは、なかったか?どっかに当たったり……」

小梅「うん、平気、だよ……ぎりぎり、後ろに、落ちたから……」

モバP「そっか、良かった。しかしちゃんと点検してるのかね、危ないったらありゃしない……」

モバP「ま、いっか。乗ってくれ、今日はまっすぐ寮に行くぞ」

小梅「うん……」

小梅(いつの間にか、声が消えてる……なんだったんだろう……?)

・・・・・・・・・・・・・・・

小梅(……)テク テク テク

コウ…メ、コウメ…

小梅「!」

小梅(また……?でも……)

小梅「路地から、遠いのに……なんで、」

ガッ ギリリ

小梅(!手……なにかが、掴んでる……!?)

小梅「は、離し、て……!」

ヒュッ ガシャーン

小梅「っ!?」

オイ ナンダイマノ ナニカフッテキタゾ?

小梅(……植木鉢……)

小梅「……あ、腕……自由に、なってる」

小梅(声も、消えてる……)

・・・・・・・・・・・・・・・

コウメ、コウメ…キテ…コウメチャン…

小梅(また……!)

小梅(今日で4日目……しかも、1日に聞こえる数、増えてる……?)

コウメ…、コウメ!!

小梅「!?」ビクッ

ゴォッ ブォォ…ン

小梅「わっ……、と、トラック……!」

小梅(これ……もしかして、あの声に、命を狙われて……?)

小梅(やっぱり、あの時の霊……悪霊、だった……?でも……)

小梅「昨日も、今日も……霊の姿が、見えなかった……それに……」

小梅(最初の、声と……違う、声?どういうこと……?)

・・・・・・・・・・・・・・・

小梅「……」

小梅(初めて声が聞こえて、1週間……まだ、声は聞こえてる。数も、増えてる……)

小梅(やっぱり、私を殺そうとしてる……?でも、いつもぎりぎり、助かってる……)

小梅(……分からないことばかりで、混乱する……あの声は、誰なの……?)

小梅(……)

モバP「難しい顔してどうした?なにか、考え事か?」

小梅「P、さん……ううん、なんでも、ないの……」

モバP「ここんとこ数日そんな感じで…なんか悩んでるなら、いつでも言えよ?」

小梅「うん……分かった……」

小梅(……Pさん……)

小梅(何だろう……何か、引っかかってる……?)

モバP「よし、そんじゃそろそろ行くぞ?今日の仕事は、まさに大一番だ。準備は?」

小梅「で、できてるよ……いつでも、オッケー……」

モバP「おし、それじゃ行こう。気合いれてな!」

小梅「うん……」

・・・・・・・・・
ブロロロロ…

小梅(……今は、お仕事が大事……だけど、どうしても、気になる……)

小梅(終わってからでも、いいけど……何だろう、嫌な予感がする……?)

コウメチャン!…コウメ!

小梅「!?と、止めて……!」

モバP「え?」

小梅「車、止めて、お願い……!」

モバP「ど、どうしたんだ……?とりあえず……」

キキー…ッ 

小梅「!」バタンッ タッタッタッタ…

モバP「おい、どうしたんだ……って小梅!?」

小梅「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」タッタッタッタ…

小梅(あの声を、聞いて……思わず、逃げちゃった、けど……)

小梅(今確かに、声が、はっきりと聞こえた……今までとは、段違いに……)

小梅(そして、やっと分かった……あの声の、正体……)

小梅「でも、なんで……あの声は……」

小梅(いつも聞いてるはずの……あの、Pさんの、声……!)

小梅(気づかなかった……いや、気づけなかった……?なんで……)

小梅(それに、別の声……2人分、声が聞こえた、ような……?)

小梅「ハァッ、ハァッ……!ここ、は……」

小梅(最初の声の、場所……あの時の、路地……!)

小梅(さっきの場所……近くなんだ。分からなかった……)

小梅(Pさんは……いない。まいた、のかな……)

小梅(あの声が、Pさんなら……生霊?それも、悪霊の……)

小梅(……信じたくはない、けど……今は、とりあえず、逃げるしか……?)

小梅「あれ……?何か、立ってる……?」

小梅(……扉?見覚えのある、ような……)

小梅(これ……事務所の、扉……?そんなわけない、けど……そっくり)

小梅(……!)

コウメ、ハヤク……コウメ…

コウメチャン……キテ…ハヤク、コウメチャン……

小梅「声、扉の向こうから……でも、Pさんはいない……?」

小梅(扉の中に、何が……開ける?でも……)






モバP「小梅」




小梅「!」ハッ

モバP「全く…どうした?急に飛び出して……また、この路地か?」

モバP「次の仕事は、この先あるかないかの大きな仕事なんだ、遅れたら大変なんだよ……。ほら、」

モバP「こっちにこい、行くぞ」

小梅(……!今、の……)

小梅「……P、さん……?」

モバP「なんだ?いいから早くこっちに……」

小梅(……!)

モバP「?……おい、いったいどうしたんだって……」

小梅「そう……そう、だったんだ。違ったんだ……あなたは、」




小梅「あなたは、Pさんじゃ、ない……」

モバP「……小梅、ふざけてないで……」

小梅「とぼけても、ダメ……全部、分かったの。何もかも……」

小梅「あなたは……あなたこそが、最初の霊……この路地の、悪霊だった」

小梅「最初に、この路地に呼び寄せた……あの声は、あなたのもの……」

モバP「何を、言って……」

小梅「"こっちにこい"って……さっき、こぼれた言葉。声色は、Pさんでも、雰囲気が違う……」

小梅「それで、わかったの……あなたは、Pさんじゃない。その声は、あなたのものじゃない……!」

モバP「……」

小梅「……あなたは、ここで死んだ……でも、死を受け入れられず、孤独で……」

小梅「……誰か、仲間がほしかった。誰かに、自分の声を、聴いてほしかった……」

小梅「そして……それに気づいた、人がいた……それが、私……」

・・・・・・・・・・・・・・・

  「お、小梅!」

小梅「あ、プロデュ

ドンッ キキーッ
キャー オイ ヒトガハネラレタゾ キュウキュウシャヨベ!
コウメ、コウメーッ!!




フフッ…

・・・・・・・・・・・・・・・


小梅「私は、そこで撥ねられて……でも、生きていた。完全な霊じゃ、なかった」

小梅「だから、あなたはPさんに成りすまして……私の意識に、直接現れた……」

小梅「そして、確実に、死に導こうとした……!この世界のなかで、何度も、何度も……」

ーーー「……最後の最後で、うっかりしてしまったか。まさか、あの声だけで、バレるとはな……」

ーーー「君の推理は、大体あってる。お見事だよ、小梅ちゃん……」

小梅「……」

ーーー「……そうだ、確かに俺はコイツじゃない。君の記憶を、ちょっと借りているだけだ」

ーーー「この路地で俺は……死んだんだ。君と同じ、車に撥ねられて……即死、だった」

ーーー「だから、君も同じように……すまなかったな、痛い思いさせて……」

小梅「……」

ーーー「……正直、君が通りかかって、こっちを見たときは驚いた。気づかれることすら、それが初めてだったからな」

ーーー「でも……だからこそ、君しかいなかった。焦っていたのかも、しれないな……」

ーーー「……小梅ちゃん、君は一つ間違ってる。最初は、君を殺すつもりなんてなかったんだ」

小梅「え……」

ーーー「確かに仲間が、……君が、欲しかった。でも、ほんの少しでも一緒に過ごせれば、それでよかったんだ……」

ーーー「最初のうちは、路地に近づかないように……ここを見つけてしまわないように、遠ざけようとしただけで……」

ーーー「でも、日に日に思いが募っていった。だから"襲った"んだ。今日の"大一番"ってのも、……」

小梅「……私を殺す、嘘。だったんだね……」

ーーー「あぁ……だが、ダメだった。ことごとく君は、死をさけていった…今日のような、完全な不意打ちすら、だ」

ーーー「あとちょっと……ギリギリまで近づくくせに、躱されていた。聞かせてくれないか、一体どうやって……」

小梅「……私の力じゃ、ない……声の、おかげ、だよ……」

ーーー「声……もしかして、コイツのか……」クイッ

小梅「……うん」コクッ

小梅「……この声は、Pさんの声……この声が、私を助けようと、してくれてたの……」

ーーー「なるほどな…皮肉なもんだ。もしその声が死に近づけまいとしていたのなら……」

小梅「そう……勘違い、してたの。声が、私を殺そうと、してるって……だから、声から、逃げようと、してた」

小梅「ギリギリ、だったのも、そのせい……でも、それでも声は……Pさんは、必死に私を、引き止めて、くれてたの……」

ーーー「……かなわないな。パートナーとの心の絆、ってやつか?今の俺には縁のない話だが、な……」

小梅「……」

ーーー「まぁいい……君の事はあきらめるさ。その扉は、元の世界につながってる……開ければ、君は目を覚ますはずだ」

小梅「う、うん……あの、ね」

ーーー「?なんだ、まだ何かあるのか?」

小梅「えっと、その……」

・・・・・・・・・

小梅「……じゃあ、そろそろ行く、ね……」ギィ…

ーーー「あぁ……今まで、楽しかったよ。ありがとう」

小梅「わ、私は……ちょっと、怖かった、かな……」

ーーー「はは、そうだよな。ごめんごめん……さようなら、小梅ちゃん」

小梅「うん……じゃあ、ね……」ギィィ…ッ バタ…ンッ










…キテ、コウメチャン……キロ、オキロコウメ!

モバP「小梅!起きろ小梅!」

ちひろ「起きて!小梅ちゃん!」

小梅「……あ、ぴ、P、さん……」

モバP「こ、小梅……良かった、小梅……っ!」

ちひろ「良かったわね、小梅ちゃん……!」ヒシッ

小梅「わっ、ち、ちひろ、さんも……ここは?」

モバP「病院だよ。車に撥ねられて、お前は1週間、寝たきりだったんだ」

小梅(1週間……向こうの世界と、同じ日数……)

ちひろ「不幸中の幸いで、けがは少なかったけど……意識だけが戻らなくて」

ちひろ「事務所の皆も、ずっと心配してたのよ?」

モバP「それに、1日毎に目に見えて衰弱しててな、医者がいうには今日が山だと言われてたんだ」

モバP「ただ声をかけたり、手を握ったりしかできないのは、すごく歯がゆかったよ……」

小梅(!あの時の、手……Pさん、だったんだ……)

ちひろ「でも、こうして目を覚ましてくれて……ホントによかった……!」ギュッ

小梅「う、うん……よかった……」

小梅(……)

・・・・・・・・・・・・・・・

モバP「ようやく退院か、といってもまだ仕事は厳しいな…」

モバP「とりあえず、仕事は空けてあるから、本調子になるまでゆっくり休んでくれ」

小梅「うん……迷惑かけて、ご、ごめんなさい……」

モバP「小梅のせいじゃないよ。それに、ここんとこ忙しかったし。丁度いい休暇だよ」

小梅「う、うん……ありがとう」

小梅「……あ、Pさん……」

モバP「ん、何だ?」

小梅「えっと……よ、寄ってほしい所が……」

・・・・・・・・・

小梅「……」トスッ

モバP「……小梅?自分が死にかけた場所に花束って……ブラックジョーク?」

小梅「ち、違う、私のじゃ、ないよ……!」ポカポカ

モバP「い、痛た、ゴメンゴメン。でも、じゃあ誰のだ?」

小梅「……よく、知らない人……?」

モバP「……知らない人……?知らないのになんで花束を……?」

小梅「あ、あはは……」

小梅「……」

・・・・・・・・・

小梅「あなたが寂しいのは、よくわかる……で、でも、だからって、人を道連れにしちゃ、ダメ……」

ーーー「!」

小梅「それじゃ、あなたと同じ、つらい思いを、させるだけ……自分が、つらいと思うなら……」

小梅「絶対に、他の人にその気持ちを、味わわせては、ダメ……」

ーーー「……」

小梅「あなたは、寂しいから、そんなことをするって、言ってたよね……なら、私が、今日からあなたの友達に、なってあげる……」

ーーー「とも、だち?」

小梅「……向こうに、戻ったら、ここに花を、置いてあげる……それが、私がここにいた、証……」

小梅「私とあなたを、つなぐもの……友達の、しるし……」

小梅「だから、もう苦しまないで……あなたは、1人じゃない。もう、誰かの人生を、奪わないで……」

ーーー「……あぁ。そう、だな。俺が、間違っていたよ」

ーーー「……ありがとう、小梅ちゃん……」

・・・・・・・・・

小梅(今は、これぐらい……これぐらいしか、できない)

小梅(だけど、忘れない、から……あなたのこと……)

小梅(……本当のあなたは、顔も、名前も、分からない……けど)

小梅(声だけは、覚えてる……それが、私にとっての、あなたといた証……)

小梅(この花は……私にとっても、"あなた"を思い出す、目印になる……)

モバP「……そろそろ、いいか?」

小梅「あ、う、うん……」

小梅(……私の声は……あなたに、届いてる、かな……?)

小梅「……さよなら、寂しがり屋さん……」







[世にも奇妙な物語]

少し、外れます
30分後くらいに再開です
ながいCMタイムとでも思っていただければ幸いです……

感想ありがたいです!
では、再開します

ペラ… ペラ…

タモリ「……おっと、失礼。つい、読みふけってしまいました」パタン

タモリ「時間や場所を問わず、読むだけで様々な世界を楽しめる…小説は、非常に便利なものです」

タモリ「また一口に小説と言っても、恋愛、SF、冒険にミステリーと色々ありますが、私は……」スッ

タモリ「『世にも奇妙な物語』……やはり、これですかねぇ」ペラ…

・・・・・・・・・

文香「……」

文香(久々の古本屋……初めて来たお店だけど、やっぱり落ち着く……)

文香(最近は忙しかったから、全然寄れなかった……)

文香(これからも休みは少ないって、プロデューサーさん言ってたし……)

文香(……今日はちょっと多めに、選んでいこうかな……)

文香(……?)

文香「これは……?」

『文香』

文香(私の名前……?偶然だと思うけど……)

文香「……」


      -My Story-


      鷺澤 文香

・・・・・・・・・・・・・・・

文香(結局、昨日はこの一冊だけ買ってきてしまった……)

文香(思ったより値が張ったのもあるけれど……それ以上に、この本への興味が他よりも強かった)

文香(……真っ白な表紙に、黒字の題名、ただそれだけ……背も、同じ……)

文香(一番変わっているのは……作者名が書かれていないこと……)

文香(表紙にも、背にも……書かれているのは『文香』だけ……)

文香(……私と同じ名前の、珍しい本……今まで全く知らなかった……なぜ?)

文香(……これは)

モバP「奇妙だな」

文香「!?」ビクウッ

モバP「恐らく昨日買ったのであろう本を、読むことはおろか開きもせず、表面だけをじっと観察する文香…」

モバP「…なぁ、何やってんだ文香?」

文香「うぅ…そんな目で見ないでください……」

モバP「さすがに、事務所来てからずっと、本の観察ばかりしてるのを見たらなぁ…」

文香「…実は、…」

・・・・・・・・・・・・・・・

モバP「うーん、作者不詳、題名が自分の名前の本、か…」

文香「つい買ってしまったんですが、興味があるのと同時に、少し怖くて……」

モバP「なるほどね…よし、じゃあ代わりに俺が中を見るってのはどうだ?」

文香「え、プロデューサーさんが……ですか?」

モバP「変なことはしないさ、ちらっと見るだけだ。特に変な中身じゃなきゃ文香にバトンタッチ、どうだ?」

文香「それは……ただでさえ、変な相談をしてご迷惑をかけているのにそんな……それに……」

モバP「それに?」

文香「……なんだか、自分自身を見られてるようで、ちょっと恥ずかしいような……」

モバP「うーん…じゃあ目次ならどうだ?目次ぐらいなら大したことも書いてないだろうし、平気だろ?」

文香「……」ウーン

モバP(悩んでる…まぁ、そりゃそうだ、俺だって悩む…自分の名前の本か。どんなだろう…)

モバP(もしかして文香の叔父さんがなんか書いてたり…?な、なんかいけない感じが…)

文香「……」

モバP(なんにせよ、ちょっと読んでみたいなぁ…数ページ、こっそり覗いてみようかな)

文香「……分かりました、その代わり……」

モバP「う、うん?その代わり?」

文香「……目次だけ、ですよ?他は覗かないでくださいね?」

モバP「ノ、ノゾクダナンテソンナー……はい、目次だけ見ます……」バレテラッシャル…

文香「……」ジッ…

モバP(めっちゃ見られてる…まあいい、とりあえず……) 

モバP(表紙は言わずもがな。扉には…やっぱり『文香』だけか…)ペラ

モバP「え?」

文香「な、何か……?」

モバP「いや……目次がないんだ。扉の次のページに、大きく『0』と書いてあるだけで……」

文香「……本当ですね」

モバP「なんか物足りない気がするな……この『0』ってのは第0章ってことか……?」

文香「……ちょっと、見せて下さい」

モバP「ん、どうぞ」ホイ

文香「ありがとう、ございます……」

文香「……」ペラ

モバP(……さあ、何が書かれてるんだ?)ゴクッ

文香「……っ!」

モバP「!ど、どうした文香?」

文香「……い、いえ……何でも……」

モバP「なんでもって……明らかに顔が引きつってたぞ、大丈夫か……?」

文香「……その、「プロデューサーさーん、文香ちゃーん」ビクッ

ちひろ「そろそろお仕事の時間ですよー?」

モバP「へ?っと、もうこんな時間か。文香、とりあえずその本はまた後だ」

文香「はい……」

文香(……あの本の内容、まだはっきりとは分からない、けど……)

文香(『0』の次のページ、そこに書かれていたのは、出生の様子……)

文香(大して詳細には書かれていない……ただ、1つだけ、目を引く単語があった……)

文香(あの赤ん坊の、母親の名前……あれは……)

文香「お母、さん……」

・・・・・・・・・・・・・・・

モバP「ふぅ…今日はこのぐらいか。疲れたなー……」

文香「……」

モバP「……なぁ、さっきからあまり顔色がよくないが………大丈夫か?」

文香「!」ハッ

文香「す、すいません……その、……」

モバP「……あの、本の事か……一体何が書いてあったんだ?」

文香「……」

モバP「……ま、聞かないでおくよ。無理して聞くほどのことじゃないしな」

文香「すみません……」

モバP「謝ることはないさ。それより文香こそ、あまりあの本を気にしすぎないほうがいいんじゃないか?」

モバP「ちらっと覗いただけで顔色を悪くするようじゃ、あまりいい内容じゃないんだろ?何だったら、店に返しに……」

文香「!だ、ダメ、です……!あの本は、返したら……!」

モバP「お、おう、そうか……まぁ、ほどほどに、な」

文香「……はい……」

モバP(……)

・・・・・・・・・・・・・・・

文香(……)ペラ… ペラ…

文香(やっぱりそうだ……まだ6章までしか読んでないけど……)

文香(この本には、私の人生が、正確には私の『過去』が書かれてる……)

文香(章の数は、その出来事が起こった時の、私の年齢と同じ。だから、『0』で始まってたんだ……)

文香(すべての章は、いつも私の誕生日の場面から……次の年、その前日まで続いてる……)

文香(まるで、その辺に置いてある小説のよう……私が、主人公ということをのぞけば)

文香(さすがに、私の行動のすべてが描かれているわけではない……けど)

文香(……少なくともここに書いてある内容自体は、全部恐ろしく正確なはず……)

文香(現に、私の記憶と異なる点は全くない……むしろ、読むまで忘れていた事がほとんど……)

文香(懐かしいことも多いけど……それ以上に、薄気味が悪い……)

文香(……いったい、誰がこれを……)

文香(両親や叔父は……違う。家の外であった事も、所々書いてあった……あんなに正確に知っているはずがない。

文香(まして友人や知人でも……ない、はず。そもそも、私を常に観察できる人なんているわけ……)

文香(……これを書けるのは……)

文香「『私、自身?』」

文香(!)ハッ

文香「今、本から声が……?」

シィ…ン

文香「……気の、せい?」

文香(……とりあえず、今日はもう寝よう……)

文香(明日も、早い……)

・・・・・・・・・・・・・・・

オツカレシター オツカレー

文香(……)フゥ…

文香(仕事の合間をぬって、とりあえず7章まで読んでみたけど……こうしてみると、色々思い出す……)

文香(私……こんなにたくさんの事、忘れていたんだ……自分の、人生なのに……)

文香(19年……本当に、色んなことがあったんだな……最近が忙しくて、忘れていた……?)

文香(相変わらず、気味は悪いけど……この本のお蔭で、少し得したような気がする……)フフ…

パラパラパラ…

文香(……?何だろう……何か、胸騒ぎがする……今まで以上に……)

文香(……焦りを、感じてる?どうして……?)

・・・・・・・・・

文香(……)

文香(これで、9章も終わり……)ペラ

文香(何だろう、この感じ……これは、不安……?)

文香「……あ」

文香(これ……そんな、)

文香「9章までのページが……残りより、少し多い……」

文香「ちょうど、半分のはずじゃ……?まさか……」パラパラパラパラ…

ピタッ

文香「19章分のページ……1ページしか、ない……!?」

文香(……しかも、ここに書かれていること……つい、一昨日の……)

文香(いつ、どうして、書かれて……いや、それよりも……、)

文香(隙間が、ない……多くても、あと……1行分……)

文香(どうして……気づかなかったんだろう……)

文香(いくら何でも、私の人生全てがこの一冊に収まるわけない……まして、現在までの量さえカバーできない……)

文香(……どう、すれば)

モバP「よーし、今日も終わり……文香?」

文香「!ぴ、Pさん……」

モバP「まだ残ってたのか…それ、あの本か?」

文香「は、はい……」

モバP「……何か、分かったのか……?」

文香「……その、……」

・・・・・・・・・・・・・・・

モバP「……つまり、これは今までの文香の人生が書かれている本で……」

モバP「肝心の、現在のページのところで途切れている、と……」

文香「……」

モバP「字は全て、インクで印刷されている……書き足すことはできないはずだけど……」

文香(だとしたら……なぜ、つい数日前のことまで書かれていたのか……?)

モバP「しかし、色々と恐ろしい本だな……ここが、一昨日あたりのことか。だとしたら……」

モバP「もしこの先が書かれるとしたら……今日の分まで、書かれるかどうか……」

文香(……もし、最後まで文字で埋まったら……もし、文字を書くページが無くなったら……)

文香(私は、どうなるの……?)

   ジワ… 

文香「……っ!……ウソ……」

ジワ…   ジワ…

モバP「こ、これは……黒い、点……インク?」

文香(!違う、ただの点じゃない……この形……文字に、なってる……)

文香「……まさか、続きが……書き足されて、いく……!?」

モバP「な……っ!」

            ジワ…

文香「Pさん……私、私……」

               ジワッ… 

文香「どうなるんですか……!?」

モバP「……文香……」


                    ジワ…  ジワァ…

文香(いや……いや……!)

文香「いや……っ!!」

                                  ジワァ…ツツッ   

モバP「端まで、行き着いた……うおわっ!?」バサバサバサ…!

文香(本が……ページが、逆順にめくれてく……)

バサバサバサバサバサバサバサバサッ!  …パタッ

ズ、ズッ…

文香(……!)

文香「た、タイトルが……にじんで……」

スゥッ…

モバP「……」

『文香 二』

モバP 文香「「……」」

モバP 文香「「……えっ」」

・・・・・・・・・・・・・・・

モバP「……まさか、あんな結末になるとはな……」

文香「……本当に、ご迷惑を……」

モバP「いやいや……文香が何ともなくて、よかったよ」

モバP「しかし、『文香』から『文香 二』……か。何というか……」

文香(安直な……)

モバP「文香の物語は、まだまだ続くってことかね……まったく、ややこしいんだよなぁ……」

モバP「まあとりあえず、今日も頑張りますか!」

文香「……」

モバP「……文香?」

文香「あ……いえ」

文香(……あの本は『私』を書き記す。私が生きる限り、いつまでも書かれ続ける……)

文香(そういう意味では、あの本の作者は私、なのかな……なんか、不思議……)

文香(でも、だとしたら……ううん、だからこそ……)

文香(誰もが読みたいと思えるような人生を……書き上げて、みせる)

文香「プロデューサーさん……今日も、よろしくお願いしますね」フフッ






[世にも奇妙な物語]

幸子「……」カッ カッ カッ カッ

幸子(静かな冬の朝に、一人階段を昇るボク……さすが、絵になりますね)ガチャッ

幸子「おはようございます!カワイイボクが今日も出社ですっ」

モバP「ん……っと、早いな幸子。おはよう」

幸子「あ、おはようございます!Pさんには負けますけどねっ」

モバP「そりゃあ徹夜だし……中々終わんないんだよなぁ、この書類……」

幸子「む、ボクのプロデューサーたるもの、生活に乱れがあるのは許せませんね」

モバP「え、それ幸子と関係あるの……?」

幸子「大ありです!完璧なボクの隣に立つのは、完璧な人間だけですからね!ダメダメなPさんじゃまだまだですっ」

モバP「……へー……その完璧な幸子ちゃんは、確か今日オフだよねー、なんでここにいるのかなー」

幸子「えっ」

モバP「ほらここー、今日の欄に幸子の字はないねー。この時間に幸子がいるべきなのはー、明日でぇーす」

幸子「そ、そんな……完璧な、ボクが……せっかく、1時間も早起きしたのに……」

モバP「ま、誰にでも間違いはあるさ。完璧な人間なんてそういないよ、ねー幸子ちゃー」

幸子「……」ジワッ

モバP「ちょ、ちょっと冗談だって幸子。ほらコーヒー、コーヒーあげるから、これ飲んで落ち着いて。なっ?」

幸子「……ぁぃ」グスッ… ゴクッ

幸子「!」ガタンッ バシャッ

モバP「あっつ、あっつ!ちょ、幸子さんゴメンってば、謝るから!」

幸子「違います!そのコーヒーですよ、コーヒー!」

モバP「……コーヒー?砂糖は入れたはずだぞ?」

幸子「塩ですよそれ!ベタなことして、なんてもの飲ますんですか!?」

モバP「そんなはずは……ペロッ……!これは食塩!」

幸子「なに茶番やってるんですかっ。いいから淹れ直してきてください、すぐっ!」

モバP「へ、へいっ」バタバタバタ…

・・・・・・・・

幸子「まったく……ちょっと苦みのある醤油かと思いましたよ」

モバP「まさか塩とは思わなくてなぁ……。こう、いつも通り一気にざざっと」

幸子「睡眠不足に糖分の過剰摂取、生活習慣病まっしぐらですね。というかコーヒー飲まなきゃいいじゃないですか……」

モバP「なぜかやめられなくてなぁ……。でも確かに、ちょっと生活を見直したほうがいいか……?」

幸子「ぜひお願いしますよ。線香の匂い、あまり好きじゃないもんで」

モバP「ブラックな……流石に死にはしないだろ。気を付けるには気を付けるけど」

幸子「なによりです。ところでPさん、これボクの名前書いてますけど、新しい仕事ですか?」ガサ

モバP「ん、あぁ。折角だから、今のうちに確認しとくか。同じ日にオファーがかぶってるやつなんだ、それ」

幸子「なるほど。好きに決めちゃっていいんですか?」パサッ

モバP「まあそう急ぐな、オフだし時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり決めてこう」

幸子「嫌味ですか!もうっ!」

モバP「あはは……じゃ、早速。ここに陸、海、空、3つの仕事のオファーがある」パラパラパラ…

幸子「そんな軍隊みたいな……ホントに軍隊関係じゃないでしょうね?」

モバP「いやいや。まず陸だが……ほら、前にテレビで、芸人がコモドドラゴンに追いかけられるってのがあったろ?」

幸子「ああ、あれは凄かったですね……まさか、あれを?」

モバP「うん、あれをライオンでやろうって」

幸子「バカじゃないんですか!追いつかれたらホントにひとたまりもないんじゃ!?」

モバP「ば、バカとは失礼な……。安心しろ、野生は野生でも調教された野生だ」

幸子「結局野生が隠しきれてないじゃないですか!却下です!!」

モバP「そうか……残念だ」シュン…

幸子(落ち込んで……本気で仕事受けるとでも思ったんでしょうか……)

モバP「……めげずに海だ、これはだな」

幸子「一本釣りでもやるんですか……?」

モバP「いや、さっきのをサメでやろうって」

幸子「このバカ!!」

モバP「ま、またバカって……」

幸子「なんでそんなにボクを生き急がせようとするんですか!?そもそも勝ち目なさすぎでしょう!?」

モバP「一応レーザー・レーサーを」

幸子「却下ぁ!!」

モバP「そ、そんなぁ……似合うと思うんだけどなぁ」

幸子「そっちで断ったんじゃないんですよ!」ハァ…

※レーザー・レーサー:競泳水着。公式大会で使用禁止になる程速く泳げるようになるチートアイテム。超ピチピチ。

モバP「まぁ、この2つは冗談みたいなもんだ。最初から断るつもりだったしな、9割方」

幸子「なんの未練があって1割……ああいいです、多分わかりましたから」

モバP「レーザ」

幸子「いいですってばっ」

モバP「むー……。まぁいい、最後の1つだ……多分これはいけるだろう」

幸子「多分って……一応、言ってみてくださいよ」

モバP「前にも経験したやつだよ。ほら、アレだよアレ、アトラクション的な」

幸子「……ウォータースライダー」

モバP「それはオフの時だ」

幸子「プール」

モバP「季節外れ」

幸子「それを言えば海もでしょう……覚えてませんね、断じて」

モバP「往生際の悪い……ヒント:"空"だってば」

幸子「……ぅぁぁ」

モバP「新しいスカイダイビングクラブからの依頼だ。前のライブの時のを見てな、ぜひPRとして頼むって」

幸子「あれ一回しかやってないじゃないですかぁ……」

モバP「アイドルで経験者はお前ぐらいなもんだ、しょうがないじゃないか。な?」

幸子「無理やりやらせておいて何を……。そもそも冬に空って……」

モバP「寒いな、むちゃくちゃ」

幸子「他人事ですか!どうせならPさんも飛んでください!」

モバP「お、俺は下で見守ってなきゃ……あれだ、凍りはしないだろうから、多分」

幸子「凍ってたまりますかっ!バナナじゃあるまいし!」

モバP「釘が打てたりして……冗談だ、頼むからつま先を踏まないでくれ」イタタッ

幸子「ったく……もう、なんでこうロクな仕事がないんですか……」

モバP「まあ、有名税みたいなもんだ。人気が出れば、平たく言えば有象無象がよってくる。仕方ないさ」

モバP「でもな、少なくともこの仕事は幸子がカワイイからまわってきたんだ。並のアイドルじゃこなせないし」

幸子「後半が主ですよね……ハァ、分かりました。とりあえずこれは、引き受けますよ」

モバP「……ゴメンな幸子、これが終わったらもっといい仕事もらってくるから」

幸子「これがあまりいい仕事じゃないってのは自覚あるんですね……約束ですよ、絶対守ってくださいね!」

モバP「あぁ、もちろんだ。さて、じゃあこの仕事は…ちょうど1か月後だな。それまでは予定の通りだ、よろしく」

幸子「分かりました。フフーン、明日からの仕事とレッスンで力をつけて、色々見返してやりますからね!」

モバP「ああ、期待しているよ。……」






モバP「レーザー・レーサー幸子……見てみたかったなぁ……」

幸子「まだ言うかっ!」

     
         -Falling!-
 
         輿水 幸子

・・・・・・・・・

幸子「寒い……コート羽織ってなお寒い……」ガタガタ

モバP「ああ、寒いな……」フカフカ

幸子「……」バサッ

モバP「ああっ、俺のあったかコート!返せ幸子!」

幸子「これから上空にいくボクはもっと寒い思いするんですっ!ちょっとは我慢してください!」

モバP「うっ……そ、そんなこと言ったって、そのコートは今俺の命同然であって……」

幸子「これ1枚が命なら、プロデューサーさんは3つも命があるでしょう!?そのコート2枚で十分です!」

モバP「1つ俺のマジライフじゃないか!このまま凍死したらどうすんだ、残機2つでゲームオーバーだぞ!!」

幸子「死ぬわけないでしょう!?どんだけ寒がりなんですか、末梢血管全滅でもしてるんですか!!」

パイロット「あ、あのーそろそろ……」

モバP 幸子「「何ですかっ!?」」

パイロット「ひっ!そ、その、準備が出来ましたので、搭乗してほしいなぁ、と……」

幸子「ああ!そうですね、さっさと行ってさっさと飛びましょうっ」ガラッ バタンッ

モバP「あっ、幸子、幸子ぉっ!人の命をぉぉ……」ガクッ

パイロット「い、いいんでしょうか、あのままで……」

幸子「……かまいません。ちょっと罪悪感はありますが、飛ぶのはボクですので。当然の権利ですっ」

パイロット「はぁ……分かりました。では……」ガタンッ ブルル…ンン

サチコー…イクナサチコ-…ヒ、ヒトゴロシー…

幸子(……罰は当たりません、よね……念のため、合掌)チーン

・・・・・・・・・

幸子「……そろそろ、ですかね。機内が暖かいのは幸いでしたが……扉、開けたくないですね……」サムソウ…

カメラマン「まず幸子ちゃんから飛んでください、自分はそのあとから追っかけるかたちで……」

幸子「うー……あまりそういうレディファーストはいらないんですがね……そういうもんでもないですか」

ガタン ビュォォ…ッ

幸子「さっむ……!ホントに、凍るかも……!」

カメラマン「飛んでしまえばあっという間ですから、早く飛びましょう、寒いっ」ガタガタ

幸子「その体格で寒いって……それにあなたプロですよね?寒さには慣れっこなんじゃ?」

カメラマン「冬にはあまり飛びませんし、今日は格段寒いですから……それに燃やせる脂肪にも限界が……」

幸子「……災難です。やっぱプロデューサーさんのコート全部引っぺがすべきでした……」

カメラマン「いいから早く、ホントに凍ってしまってもいいんですかっ」ガタガタガタ

幸子「わ、分かりましたよもう……!うぅ、もうどうにでも……っ」ブォッ

カメラマン「おぉ……い、言ってはみたものの、さすが幸子ちゃん、根性あるぅ……あ、電源ついてない」ゴソゴソ

パイロット「何をもたもたと……早く飛んでくださいよ、こっちも寒いんですからっ」

カメラマン「わ、分かってますって……えいっ」ブォッ

パイロット「ったく……しかし、本当に根性のある子だな、幸子ちゃん……」

パイロット「ああいう子に限って、空回りして変なことが起きなければいいが……考え過ぎか」

・・・・・・・・・

ゴォォォ…

幸子「ひぃぃ寒いぃぃ……どうしてボクがこんな……あれ?寒くない……?」

幸子「風は感じるのに……なんか、不思議な感じですね。ラッキーですが」

幸子「しかし、まだ2回目なのにこの余裕……さすがボクですね!高所の恐怖なんて、もうなんともありません!」フフーン

幸子「さすがに寒さには打ち勝てませんでしたが……いや、今まさに打ち勝ってるのでは?おぉ!ボクって凄いですね!」

幸子「プロデューサーさんは……まぁ、大丈夫でしょう、あれで結構我慢強い人ですし……」

幸子「……ホントに死んでたり……だとしたら申し訳ないどころじゃありませんが……」

幸子「さすがに考え過ぎですね、というか全身カイロベタ貼りの上、コート2枚で寒いって……」

幸子「ホントに、健康に異常をきたしているとしか……あとで徹底的なライフスタイルの見直しが必要ですね」

幸子「っと、あまり悠長に喋ってはいられませんね、高度は……」チラッ

[9999m]

幸子「あれっ」

幸子「こ、壊れてる!?思いっきりカンストしてるじゃないですか!旅客機並みの高さじゃないですか!!」

幸子「どうすれば……目視で高度を計る?いや、さすがに無茶だとは思いますが……」

幸子「いっその事もう開いて……それではPRになりませんね。少なくとも撮影が終わるまではこのまま……」

幸子「あれ、そういえばカメラマンの方はまだでしょうか……?」クルッ

幸子「い、いない?360度どこにも……ハッ、まさかあのまま飛び降りず、悠悠自適に空の旅を……」イラッ

幸子「ハァ……もういいです、パラシュートを……ん?」グッ グッ

幸子「ひ、開かない……なんで?まさかこっちも壊れてる!?うそぉ……」

幸子「……もうっ、なんでこうも装備ボロボロなんですか!嫌がらせですか!問題なく作動してるのボクだけじゃないですかっ」

幸子「……思えば短い人生でした。アイドルになって、苦労もあって、でもそれ以上に楽しくて……あぁ、走馬灯が……」

幸子「さようなら、Pさん、みんな……ボクは恐らくあと数秒の命です……ぅぅ」

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

モバP「……おっ、見えてきた見えてきた。1人目だし、あれが幸子かな?」

モバP「にしても随分と長く待機してたな……まあ、2回目とはいえ怖いっちゃ怖いか。前回は俺も、飛行機までは一緒だったしな……」

モバP「……俺のコートでぬくぬくしてたんだ、しっかり1回で成功させてくれよ……頼むぜ」

モバP「しかし今度はカメラマンが遅いな、いつまで……もう肉眼ではっきりと幸子が……」

モバP「……やけにがっしりした幸子だな。人は苦難を乗り越えて成長すると言うが……」

モバP「いくらなんでもこの数分で成長しすぎだろ、なんだあれ……違う、カメラさんだあれ!」

カメラマン「よ、っと……あれ、やっぱりいない……?」ズザザー…ッ

モバP「ちょっと、どうしたんですか?あなただけ降りてきて……もしかして幸子、飛んでないんですか?」

カメラマン「いや、幸子ちゃんは先に飛びましたよ、そう指示をだしましたから……ただ……」

モバP「……なにか、あったんですか?」

カメラマン「……消えたんです。ほんの数秒目を離してる間に、幸子ちゃんが視界から消えて……」

モバP「んなバカな……ロクに身動きのとれない空中で、いったいどこに行ったって言うんですか……」

カメラマン「私もそう思いますが、しかし現実に消えたんですよ。この4000m弱の空間、約4分間の一瞬で……」

モバP「……信じられない。神隠しにでもあったみたいじゃないですか……」

カメラマン「そう言われましても……」

モバP「……」

・・・・・・・・・

幸子「……かれこれ10分は落ちてませんか、これ。せっかく覚悟を決めたのに……」

幸子「それに、地上に近づいてるようで近づいてない……なんか気持ち悪いですね、これ……」

※参考動画:無限ループって怖くね?(3:08~)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5408753

幸子「絶対なんかの異次元ですよね、少なくとも地球上じゃあり得ない気が……」

幸子「それにしても……いつまで落ちればいいんですか。退屈だし、かといって気は抜けないし……」

幸子「このまま永遠に空を飛んでるんでしょうか。ありえませんが……寒くないのが、救いですね……」


幸子「あーあ、もう……せめてパラシュートが開いてくれれば、こんな暗いこと考えずに済むんですが……」グィッ

幸子「高度計は……まだカンストしてますね、9999……」チラッ

[9989m] 

幸子「……あれ?動いてる?たった10mですが……あ、また1m……1分ぐらい、ですかね?」

幸子「分速1mって、カタツムリといい勝負なんじゃ……いや、さすがにカタツムリも、空中で落とせばもっと速いですね……」

幸子「……何を言ってるんでしょう、ボク……てか、この高度計が合ってるかどうかもわかりませんし……」ハァ…

・・・・・・・・・

パイロット「消えた?そんなはずは……」

モバP「ええ、私もそう思うんですが……カメラさんのいう事には、どうも……」

カメラマン「もっと、注意を払うべきでした……すいません……」

パイロット「いや、あなたの責任とは一概に言えないでしょうが……不思議なこともあるもんだ、こんなのは聞いたこともない」

スタッフ「あ、あのー……すいません、ちょっといいでしょうか」

モバP「何ですか?できれば手短にお願いを……」

スタッフ「あ、いえ……実は幸子ちゃんのことなんですが……」

・・・・・・・・・

モバP「……そう、ですか。高度計が……」

カメラマン「……その高度計が壊れたのは、いつのことなんですか?」

スタッフ「見つけたのはちょうど昨日なんです。機材のチェックをしているときに……」

スタッフ「よけておいたはずなんですが、今探したらどこにもなくて。恐らく幸子ちゃんがつけていったと……」

スタッフ「それと、どうせ使わないからと、他の機種の古い電池と交換していて……電池切れの可能性も……」

スタッフ「本当に、申し訳ありません……!」

パイロット「謝ったところで、ねぇ……どうなるものでも……」

モバP「まあ、幸子もそれは気づくでしょう。パラシュートを開けばいい話ですし……」

スタッフ「ええ……ただ、それも万が一ということもありますし、それに……」

パイロット「そもそも今、それらの装備が役にたつ状況なのかどうかすら怪しい、か……」

カメラマン「どちらにせよ……無事を、祈るしかありませんね……」

モバP「ええ……」

・・・・・・・・・

幸子「ふー、もう1時間もたったでしょうかね。地面がこんなに恋しく思えるとは……」

幸子「Pさん、心配してるんでしょうか……まあ、こんなにカワイイアイドルですから当然ですね……」

幸子「全く、いつになったら0mになるんでしょうかね、こののんびり屋さんは……」

幸子「1分で1mなら……1時間60分で……。い、1週間?1週間でようやく地上に……」

幸子「どんだけゆっくりなご臨終ですか……いや、まだボクが死ぬと決まった訳じゃないですけど……」

幸子「そもそも0mになったところで、降りれるかどうかも……ま、まさか、0mになったら、また9999mに戻ったり……」

幸子「いや、ないですよね。そんなまさか……そのうちちゃんと、地上に降りれるはず……」

幸子「……このまま、ホントに永久に飛び続けたら……だれにも見つからず、この空中で、死んじゃう……?」

幸子「……ぅ」ジワ

幸子「誰かー!ぴ、Pさーん!た、助けて……助けて下さいよー……!」

ビュォォ…ォォ

・・・・・・・・・

パイロット「……一向に、現れませんね……本当に、どこに行ったんでしょう」

モバP「……」

カメラマン「かれこれ、1時間ですか……本当に、神隠しにでもあったんじゃ……」

モバP「……!」

スタッフ「……信じられません。けど……そうだとすれば、このまま帰ってこないんじゃ……」

モバP「……ぁ」ジワ

スタッフ「あ、ぷ、プロデューサーさん!?ちょっと、泣かないでくださいよ!あくまで可能性の話で……」

カメラマン「そうですよ!も、もしかしたら別の場所に着地してるかも……ああ、鼻水まで……」

パイロット「探してみましょう、飛行機で探せばすぐわかります!さあ早く!あとこれティッシュです!」

モバP「……ぁ、ありがとう、ございます……」ズビーッ 

モバP「幸子……無事でいてくれよ……」ズズッ…

・・・・・・・・・

幸子「ふぁ……あれ、寝ちゃってましたか。……我ながら、凄い適応力ですね。ダーウィンもびっくりです」

幸子「まあ、日々進化のボクなら当然ですか……はぁ、高度計はどうなりましたかね……」チラ

[9 16m]

幸子「……ん?916m?そ、そんなに寝てたはずは……せいぜい2時間程度じゃ……」

[9816m]ピッ

幸子「あ、……ですよね。そりゃそうですよね……ってことは、もう飛び始めて3時間……」

幸子「全然、1週間には足りませんね……おなかも減ってきたし、なんだか寒気もするし……ヤバいですね、いよいよ……」

幸子「ってあれ、また高度計……なんか心電図みたいな、いやな音ですね……」

[981 m]ピッ 
[ 816m]ピッ 
[9 6m]ピッ…


幸子「えっ、えっ?なんですか、表示が……まさか、これって……」

[ 6m]ピッ 
[ ]ピーッ…

幸子「ああ、お亡くなりに……じゃないですよ!壊れかけが電池切れになったとこで何も……う、ますます寒気が……」

幸子「……いくら何でも寒すぎじゃ……あれ、まさか、ホントに、落ちて、うわあああああっ!?」

ビュォォォ…

・・・・・・・・・

パイロット「やっぱり、どこにもいないようですね……もう、打つ手なし、ですかね……」

カメラマン「普通なら、もうどこかに降りていてもおかしくないのに……」

モバP「……幸子……いま、一体どこにいるんだ……?」

---ウワアアアアッ…

モバP「!い、今幸子の声が……!あ、あれ……」

カメラマン「小さいですが……人の、形ですね」

パイロット「今日は、誰も飛んでない……利用者は、幸子ちゃんだけです……!」

モバP「やっと、降りてきた……降りてきてくれた……!おーい、幸子ー!おーい!」

・・・・・・・・・

幸子「さ、寒いっ、これ、降りる、前に、死ぬ、凍え死ぬっ!」ヒィィ

幸子「と、とりあえず、パラシュートを……な、直ってる、よかったぁ……」グィッ バサァッ

---オーイ、サチコー…

幸子「あ、プロ、デューサーさん……よかった、やっと、地上に……!」

幸子「プロデューサーさーん!ボクですよー!」

モバP「さ、幸子ー!大丈夫かー!けがはないかー!」

幸子「当然ですよー!ボクは、カワイイのでー!」

モバP「……そうかー!それはなによりだー!」

パイロット「……カワイさで、どうにかなるもんなんですね、神隠しって」

カメラマン「カワイイは正義ともいいますからね。正義はいつも悪に勝つもんです」

スタッフ「何の話してるんですか……」

幸子「ありがとうございますー!ところでプロデューサーさーん!」

モバP「?どーしたー幸子ー!」

幸子「か、体が凍えて、着地が……う、受け止めてもらえませんかー!?」

モバP「む、無茶なこと言うな!昔のアイドルじゃあるまいし、リンゴ3個分とはいかないんだぞ!?」

幸子「そ、そんなこと言ったって……!あ、あぁーー……」ザッザザァ…ッ

モバP「ちょ、直立不動で着地した……さ、幸子ー!大丈夫かー!?」タッタッタ…

幸子「う、うぅぅ……な、何とか、大丈夫です……て、手を貸して……」ブルブルブル…

モバP「……ホントに大丈夫か、幸子?なんか、生まれたてのこしみずみたいになって……」

幸子「それ、ただの、小っちゃいボクです!しかた、ないでしょう、寒くて、凍えそう、なんですっ!」ガタガタガタ…

モバP「あ、あぁ、そりゃそうだ……ほら、俺のコートだ。飛行機に置いてったやつ」ファサッ

幸子「いや、1着ボクのですから、何をちゃっかり……いえ、ありがとうございます。はぁ、死ぬかと思いましたよ本当に……」

モバP「お疲れ様だったなぁ……高度計、電池が切れたのか……」

幸子「えぇ……でも、おかげで何とか戻ってこれましたけどね。大変でしたよ……」

モバP「?電池切れで、戻って……?まさか、寒さで頭をやられて……ううっ、可哀相に」

幸子「違いますよ、こっちはこっちで大真面目なんですよ、絶対なんかバカにしてますよね」グリグリ…

モバP「ふはは、幸子の頭ぐりぐりなんて痛くもかゆくも……あっやめて、耳取れる、取れちゃうからっ」ギリリッ

幸子「全く……?あれ、涙の跡……泣くほど痛かったですか?」

モバP「お前が心配だったからに決まってるだろ!?そりゃ耳も痛いけど……」

幸子「な、泣くほどですか……まあ、カワイイボクなら、心配して当然ですけどねっ」フフンッ

モバP「……顔、真っ赤だぞ。ドキ○ちゃんみたいになってる」

幸子「それ周りが赤いだけじゃないですか!寒さのせいですよっ、もう……ありがとう、ございます」ボソ

モバP「ん?なんだって?耳が痛くてよく聞こえんな」ニヤニヤ

幸子「……いっそちぎってあげますよ、使い物にならないようなので」ギリギリギリ

モバP「いだだだ、ゴメンって、ほんとにあだだだだだっ!?」ゴショウダカラヤメテッ

スタッフ「お取込み中すいません……ちょっと、よろしいでしょうか」

幸子「……?あなたは?」ギリギリギリ

モバP「スタッフ、さんだ、その、高度計、用意した……ぐふ」チーン

幸子「あ、残機2になりましたか……もしかして、その事ですか?」

スタッフ「え?あぁ、そうですね……すいません、壊れていたものを渡してしまったようで……」

幸子「あ、ああ……そのことでしたら、もちろん許しますよ。ボクは寛大なので!全然、平気ですよ!」

幸子(……あれが今回の"原因"って言っても、信じてもらえないでしょうしね……)

スタッフ「はい……その、ありがとうございます」

幸子「?なにか歯切れが悪いですね……?なにか不満でも?」

パイロット「いえ、もちろんそれはそれでありがたいんですが、実はですね……」

モバP「……?」

カメラマン「その、実は……写真も映像も、撮れてないんですよ、1つも……」

幸子「あ」

スタッフ「すいません、ということで……」

幸子「あ……あぁ、あ……」

モバP「あらら……」

パイロット「日を改めると、さらに寒くなっていきますし……」

カメラマン「今日中にもう一回、飛んでいただこうかなー、と……」

幸子「……ぁぅ」バタッ

モバP「へ……?さ、幸子ぉー!!」




[世にも奇妙な物語]


タモリ「人は命の危険を感じると、実際よりも時間を長く感じると言いますが…ここまで長いのも、考え物です」

タモリ「さて、最後の物語のシンデレラは2人……どうやらまた長い物語になりそうです……」

タモリ「それでは、一夜の奇妙な舞踏会……最後の曲を、どうぞ……」

拓海「なー……もう30分は歩いたぜ?もうそろそろ、着いてもいい頃なんじゃないか?」

夏樹「バイクと歩きじゃスピードも段違いだ、そうすぐには無理だって」

拓海「……車も走ってないみたいなんだ、やっぱりバイクに乗って……」

夏樹「バカ言え、ほんの1m先も見えないなかでバイクなんて……それこそ、自殺するみたいなもんだ」

拓海「ちっ……まったく、雲の中にでもいるみてぇだ。どこまで続いてんだ、この霧……」

夏樹「とにかく、歩くしかないだろ。いったって、そうそう距離はないはずだ。あと1時間も歩けば休憩所に着く」

拓海「分かってるけどよぉ……あー、腹へったなぁ。菓子でも持ってくりゃよかった」

夏樹「ん、飴ならあるな。なめるか?」ホレ

拓海「お、サンキュ……リンゴか」ウマイ

夏樹「……まあ、あれだ。たまには、Pさんのおせっかいもちゃんと聞くべきだったかね……」

拓海「……ちっ」

・・・・・・・・・


           ーホワイト・ツーリングー

          木村 夏樹     向井 拓海

・・・・・・・・・

夏樹「お、来た来た。拓海ー、こっちだこっち」

拓海「おー、待ったか?」

夏樹「いや、全然。まだ9時だし、十分早いって」

拓海「そいつはよかった。いつも遅れてばっかりだからな、こういう時に限って……」

夏樹「今日遅れたら、昼飯でもおごってもらおうと思ってたんだがなぁ。残念だ」ヘヘッ

拓海「ったく……しかし、こうしてツーリングするのも、久しぶりだな」

夏樹「ホントはもっと誘ったんだけどな、中々都合が合う奴がいなくてよ……」

拓海「しょうがねえだろ、もう23日だ。この時期は年末の番組だのなんだの、仕事が多くなるころだしな」

夏樹「だよな……。ま、二人楽しくいきますか。今年はこれで、走り納めだろうしな」ドル…ン

拓海「そうだな……ん?電話?」ピリリッ ピリリッ…

夏樹「誰から?」

拓海「アイツだ……何だよ、いったい。仕事か?」ピッ

モバP『お、出た出た。拓海、お前確か、今日ツーリング行くとか言ってたよな?』

拓海「ああ、夏樹とな。それが?」

モバP『いや……。お前らの行き先あたりでひどい霧が出るらしいんだ、中止にしたらどうかと思ってな』

拓海「わざわざ調べたのかよ……?てか霧って言ったって、どうせすぐ晴れんだろ?」

モバP『今ニュースに出てるんだよ。結構ヤバくなるらしいし、晴れるかどうかも分からないんだ』

拓海「でも、中止って言ったってなぁ……。今年はもう走れないだろうしよ……」

夏樹「大丈夫だってPさん、事故には十分気を付けるって。もとより安全運転でいくさ」

モバP『まあ、そういうだろうとは思ってたけどな……。来年も走れるんだ、今日はやめた方が……』

拓海「しつけーって、ったく……。なんでそんなに気になんだ?」

モバP『……車やバイクの運転での注意ってのは、いくらしてもしすぎることはないし、それに……』

夏樹「それに?」

モバP『俺自身、昔同じような状況で、事故ったことがあってな……幸い、けがした人はいなかったけど……』

拓海「なるほどね……。へっ、まあ本当にヤバいなら引き返すさ。それでいいだろ?」

モバP『うーん……。でも、やっぱりなあ……せめて、バイクじゃなく歩きで行くとか……』

拓海「だーっ、もう!いい加減切るぞ、こんなんじゃ時間がどんどんすぎるだけだ、じゃ!」ピッ

モバP『ちょ、ま』ブツッ

拓海「これでよし、っと……。ほれ、さっさと行こうぜ?」ドル…ン

夏樹「さすがにブツ切りはカワイそうじゃないか?Pさんだって、悪気があった訳じゃ……」

拓海「そりゃそうだけどよ、こっちだって初心者じゃねぇんだ。あんなのは言われなくても分かってる」

夏樹「……ま、それもそうか。じゃあ行きますか、安全運転で」ブオォ…ン

拓海「分かってるって!」ブオォ…ン

・・・・・・・・・

拓海「おー……確かに、霧が出てきたな。まだ全然薄いけど」

夏樹「どうする、ちょっと早めにでるか?この休憩所、寄ったばっかだけど」

拓海「だーいじょぶだって。どうせそのうち晴れるだろうし、そうでなくとも十分走れる程度だろ」

夏樹「……そうだな。大丈夫、だよな」

拓海「おいおい……、もしかしてアイツの言ったこと、まだ気にしてんのか?」

夏樹「そういうわけじゃないけど……なんとなく、不安になってな」

拓海「心配し過ぎだろ、そうめったに事故ったりなんてしねぇって。アイツの考え過ぎだよ」

夏樹「……」

拓海「そもそも、大してスピード出してねぇんだ。ぶつかろうにも、ぶつかんねぇって!」カンッ

ヒュッ… カコーン!

夏樹「え」

拓海「げ」

夏樹「お、お前……思いっきり蹴りすぎだろ、完全になんかに当たった音だぞ、今の」タタッ…

拓海「……空き缶ってあんなに曲がって飛ぶんだな、知らなかった」タタッ…

夏樹「なにバカ言ってんだ!そういう問題じゃないだろ!」

拓海「い、いやぁ……かるーく蹴ったつもりだったんだけどな……」

夏樹「……うわぁ、嫌なモンに当ててくれたな、拓海。小さいけど、祠だぜコレ」

拓海「……こう、ダイナミックなお供え物ってことでひとつ……」

夏樹「アホ。中身すらないドロドロの缶なんか誰が喜ぶか」

拓海「だよなぁ……。とりあえず、コイツ捨ててくるわ……うへ、ホントに泥だらけだ」タタッ…

夏樹「ったく……しっかし、まさかピンポイントでこんなとこに当たるなんてな」

夏樹「……アイツも悪気はなかったんだ。頼むから、天罰なんて下してくれるなよ……」

・・・・・・・・・

夏樹「てっぺんに到着したはいいが……これは……」

拓海「……まあ、そうだろうとは思ったけどよ。ここまで上ってきたってのに、まったく山の景色が見えねぇ……」

夏樹「Pさんの言った通り、予報が的中したな……。まあ、さっきの罰がこのぐらいで済んだと思えばいいだろ」

拓海「うっ、それを言うなって……。でも、せっかくの走り納めが、こんなんで終わりかよ……」

夏樹「来年また、いくらでも来ればいいって。それより早く下ろう、このままだと、本格的に霧がヤバくなってくる」

拓海「ん、そうだな……名残惜しいが、行きますかね、っと」

ブオォ…

夏樹(しかし、こうまで霧が濃くなるとは……正直、甘く見過ぎてたな)

夏樹(出来ればこの山ぐらいは、ふもとまで一気に下りたいが……)

夏樹(……本気で信じてるわけじゃないが、本当に天罰が下ったのかもしれねえな……)

・・・・・・・・・

夏樹(何とか中腹まで……このぐらいの濃さなら、まだ全然……!)

夏樹「拓海!止まれ!!」

キーッ!

拓海「うおわっ!?おい、どうしたんだよ、急に止まって……?なんだ、これ……」

夏樹「……見ての通りだ。こっから先の霧が、急に濃くなってやがる……このまま走るのは無理だ」

拓海「走るのは無理って……どうすんだよ?まだまだ山の中だぞ、このまま霧が晴れるまで待つのかよ?」

夏樹「それでもいいが……あるいは、バイクを引いて歩くか?それなら大丈夫だろうぜ」

拓海「げー……残り何kmあるかも分かんねぇのに、歩きかよ。しかもこいつ引いて……?」

夏樹「どうする?じっと待ってるか、少しでも進むか。拓海の好きな方でいい」

拓海「……わーったよ、歩いて下ろう。ちょっとでも進めるなら、そっちのほうがマシだ」

夏樹「だな、分かった。まあとりあえず、さっきの休憩所までで大丈夫だろ。あそこなら麓より全然近いだろ?」

拓海「あいよ……はあ、結局麓までは、何時間かかるのかね……」

・・・・・・・・・

夏樹「……まあ、あれだ。たまには、Pさんのおせっかいもちゃんと聞くべきだったかね……」

拓海「……ちっ」

夏樹「でも、確かにあとどのぐらいなのかぐらいは知りたいな。少なくとも、今いる場所さえ分かれば……」

拓海「ん?……あ、そうだよ。スマホで調べれば、現在地ぐらい出るんじゃねぇか?」

夏樹「おお、それだ!くそ、なんで気づかなかったのかね……これだ、現在地」ホレ

拓海「どれどれ、さっきの所までは……あと2kmくらい、か」

夏樹「あと20分くらいで着くな。やれやれ、ゴールが見えればきつさも半減……ん?」ブツッ

拓海「ん?どうした?」

夏樹「いや、勝手にスマホが……くそ、つかない。電池切れか?」

拓海「何やってんだよ、しっかり充電して来いって……ほれ、じゃあこっちのスマホで」ブツッ

夏樹「……瞬殺じゃねーか。ちょっといじった程度で消えたぞ」

拓海「あ、あれ……?っかしいな、そんなはずは……」

夏樹「まあしょうがねえ、とりあえず距離は分かったんだ。あと2km戻れば昼飯だ、行こう」

拓海「ああ……変だな、さっきはまだ電池が……」ブツブツ

・・・・・・・・・

夏樹「……なあ、もう30分は歩いたよな。なんで着かないんだ……」

拓海「さっきのアタシと同じこと言ってんじゃねーか。なんだ、もう音をあげたのか?」

夏樹「へっ、全然。……腹の方は、思いっきり音をあげてるけどな」グー

拓海「……もしかして、通り過ぎたんじゃねぇか?さっきのとこ」

夏樹「そんなはずはねーよ、ずっと探して下ってきてんだ……なのに、ずっとガードレールが続いてる」

拓海「入口ならどこか途切れてるはずなのに、ってことか。じゃあ道を……間違えるはずねぇか、一本道だったし」

夏樹「そうだな。ったく、この霧がちょっとでも薄くなってくれれば……おっ」

ヒュオオ…ォォ

拓海「やっとか……けっ、晴れるならもっと早くに晴れろってんだ」

夏樹「すげえな……まるでさっきの霧が嘘みたいだ、こんなにきれいに晴れるもんなんだな……」

拓海「それよりあれ、さっきの休憩所だろ?すぐ近くじゃんかよ」

夏樹「こんなとこでまだ着かないなんて言ってたとはな……何はともあれ、助かった」

拓海「全くだ、さすがにツーリングで行き倒れなんて、シャレになんねえからな……」

夏樹「まあ、拓海のせいでこうなったんだ。昼飯はおごり、な」

拓海「なっ……さっきアタシのせいじゃないって言ってたじゃんかよ!」

夏樹「へへっ、何のことかね。それより、はやく飯にしようぜ?腹の虫がカンカンだ」

拓海「ちょっ……おい、待てよ夏樹!」

・・・・・・・・・

夏樹「もっと混んでると思ったけど、そうでもないな……珍しいな、休日なのに」

拓海「なんでもいいよ、座れるんならそれで……さて、何食うかなっと」

オイ、アレッテ… ニテルダケカモシレナイゾ? イヤ、デモ…

夏樹「……おい、なんかアタシら、見られてないか?さっきから何人もこっちを……」

拓海「アイドルだからだろ?うーん、ラーメンかカレーか……いや、この定食も……」ブツブツ

夏樹「……お前のそういうところは、見習うべきなのかね」サモアタリマエノヨウニ…

拓海「ん?なにが?」

夏樹「なんでもねーよ。それよりはやく決めろよ、先に食券出してくるぞ?」

拓海「まあ待てって……よし、味噌ラーメンで」ピッ

夏樹「ったく、さっさと食券出しに行くぞ……すいませーん」

店員「あ、いらっしゃいませ……!こ、こちら2枚ですね、少々お待ちくださいっ……」タタッ…

拓海「?なんだ、いまの?」

夏樹「さあ……やっぱり、なんかおかしいんだよな。客もあんな感じだし……」

拓海「……もしかして、缶をぶつけたところ見られてたとか?あれで皆、アタシを怒ってるとか」

夏樹「まさか。店員ならまだしも、客もだぜ?たまたま寄った休憩所の祠ぐらいで、怒るなんざありえねえって……」

拓海「だよなぁ、じゃあなんで……」

「12番、13番のお客様ー」

拓海「お、できたみたいだな。とりあえず飯食べながら話そうぜ?腹がへってはなんとやら、だ」

夏樹「ああ……」

・・・・・・・・・

拓海「ごちそーさん。ふう、中々おいしかったな……なあ、まだ考えてんのか?」

夏樹「ん、ああ……ちょっとな」

拓海「気にすることねえって、どうせアタシらがアイドルって気づいただけだってば」

夏樹「でもよ、お前も見ただろ?さっきの店員の態度。あれがどうも引っかかって……」

拓海「じゃあ直接聞いたらどうだ?なんでアタシらが気になってるのかってよ。それで一発だろ?」

夏樹「……ああ。すいませーん……」

店員「あ、はい……なんでしょうか?」

拓海「すんませんね、わざわざ。コイツがどうしても聞きたいことがあるって……」

夏樹「……さっき、アタシら見て動揺してましたよね?あれっていったい……」

店員「え、ええ……その前に一つ、確認したいんですが、お二人のお名前は?」

拓海「へ?なんで名前を?」

店員「すいません、確かめておいた方がいいかな、と……」

夏樹「まあ、いいですけど……アタシは夏樹、こっちは拓海っていいます」

店員「夏樹……き、木村夏樹さん、ですか?それと、向井拓海さん?」

夏樹「え、ええ……あの、いったい何を……?」

ザワッ

     「おい、木村夏樹に向井拓海って……」

「やっぱり、あの写真の……」    「本物かよ、どうすんだ?」

拓海「な、なんだ?急に騒がしく……あ、おい、店員さん?」

店員「て、店長!やっぱり本人でしたよ!どうしますか?」

店長「ど、どうするも何も……と、とりあえず、警察に……」

夏樹「け、警察!?」

拓海「な……ちょっと待て、どういうことだよ!?アタシらは何もやって……!?」

店長「何も……?ま、まさか、記憶がないとでもいうんですか?そんな……」

夏樹「なにを……店員さん!どういうことか、きっちり説明してくださいよ!」

店員「説明って……そもそも、確かあなた方のプロデューサーがこの事を……」

拓海「アイツが!?……ちっ!」ダッ

夏樹「あっ、拓海……待てって、おい!」ダッ

ドルンッ ブオオ…ンン

夏樹「あいつ……くそっ」ドル・・・ン

店長「ちょ、ちょっとお客さん!待ってくださいよ、どこへ行くんですか!?今警察の方へ連絡を……」

夏樹「っ……あとで、きっちり話はします。もちろん警察の方にも。すいませんっ」ブォンッ ブオォ…

店長「あ、ちょっと!!待ってくださいって、お客さん!!お客さんってば!!……」

・・・・・・・・・

ドルル…

拓海「!……おお、夏樹か。悪いな、突然逃げ出しちまって……どうだった?」

夏樹「一応、誰にも見られてはいない……どういうことだよ?なんでアタシらが警察なんかに……」

拓海「……考えられるとしたら、やっぱあの祠だろ。器物損壊だっけか?」

夏樹「バカな……それだけで、あんな大事になるかよ?それに、Pさんがそれを知ってるかよ?」

拓海「とはいっても、他にないだろ……だからこそ、逃げてきたわけだし」

夏樹「……それに、アタシの名前も確認してきただろ。それは多分、違うはずだ」

拓海「訳分かんねえ……じゃあ何だってんだよ?他に警察に世話になるようなことなんて、さっぱり思いつかねぇ」

夏樹「……あんとき、客の一人が、写真がどうのって言ってたんだ……まさかとは思うが、指名手配まで……」

拓海「嘘だろ!?……くそっ、霧の中で散々迷って、挙句警察に追われるって、厄日にもほどがあんだろ……!」

ウー… ウー…

夏樹「!違う場所か……とりあえず、ここから動こう。いつまでもこんな橋の下にいる訳には……」

拓海「つったってよ、行くあてなんてどこにも……事務所や女子寮だって、多分警察が……」

夏樹「げ、そうか……Pさんとなら、連絡くらいとれないか?電話かなんかで……あ、スマホは電池切れか」

拓海「あとは公衆電話か……その隙に取り押さえられたら、それこそアウトだけどな」

夏樹「……八方ふさがり、か。くそ、どうすれば……」

夏樹「……それに、アタシの名前も確認してきただろ。それは多分、違うはずだ」

拓海「訳分かんねえ……じゃあ何だってんだよ?他に警察に世話になるようなことなんて、さっぱり思いつかねぇ」

夏樹「……あんとき、客の一人が、写真がどうのって言ってたんだ……まさかとは思うが、指名手配まで……」

拓海「嘘だろ!?……くそっ、霧の中で散々迷って、挙句警察に追われるって、厄日にもほどがあんだろ……!」

ウー… ウー…

夏樹「!違う場所か……とりあえず、ここから動こう。いつまでもこんな橋の下にいる訳には……」

拓海「つったってよ、行くあてなんてどこにも……事務所や女子寮だって、多分警察が……」

夏樹「げ、そうか……Pさんとなら、連絡くらいとれないか?電話かなんかで……あ、スマホは電池切れか」

拓海「あとは公衆電話か……その隙に取り押さえられたら、それこそアウトだけどな」

夏樹「……八方ふさがり、か。くそ、どうすれば……」

・・・・・・・・・

モバP「……それで、彼女たち……夏樹と拓海は、どうしたんです?」

刑事「どうも逃げてしまったようで……それに、そこの店長の話では、なにか様子が妙だったと……」

モバP「妙、とは?」

刑事「今現在、自分たちが置かれた状況をよく把握していないようで、警察を呼ぶとは何事だと、食って掛かってきたそうで……」

モバP「……それで、逃げ出してしまった、ということですか」

刑事「まさか、これほどのことを覚えていないとは思えませんが……しかしあるいは、本当に記憶喪失の可能性もあります」

モバP「様子を見ながら、慎重に追うしかないようですね……今、警察の方で探しているんですよね?」

刑事「ええ。どうやら、この町の近くで2人を見たと、新たな通報があったようで……ただ、依然見つかっては……」

モバP「……刑事さん。一つ、提案が……」

拓海「はぁ、しっかしさみぃな、今朝はこんなだったか……?なぁ、夏樹」

夏樹「……」

拓海「だんまりかよ……結局どうすんだ?こっから動くのか、動かねぇのか?」

夏樹「……ああ、そうだな。今は見つかっちゃいないが、多分ここはすぐに探される……場所は、移動した方がいい」

拓海「だから、どうすんだよって……動くにしても、行き場所がないって」

夏樹「走りながら探すしかないだろ……同じ場所で固まってるより……」

ウー… ウー…

拓海「!また、か……くそ、あの音が聞こえるだけでヒヤヒヤしやがる……」

夏樹「さっきのは結局、遠くで鳴ってるだけだったみたいだが、あれは……」

拓海「まだ場所の目星すらついてないんだろ、今はただ街ん中走り回って探して、」

夏樹「ストップ……おい、このサイレンの音、近づいてないか?」

拓海「え?」

   ウー… ウー…      ウー… ウー…

拓海「げ、マジかよ!?おい、早く逃げんぞ!」

夏樹「言われなくても!!」

ブォオオ…ン

『前のバイク、止まりなさい!これ以上、逃げないでください!』

拓海「止まれって言われて止まる奴がいるかよ!大体、なんで追われてるかも知らねえんだぞ!?」

夏樹「いいから逃げろ!この先、2手にわかれるぞ!いいか!?」

拓海「了解!」

ブォオ…

・・・・・・・・・

刑事「そうですか……ええ、どうも。あなたの言った通りに、進んでいるようですよ」

モバP「そうですか……無事に、終わってくれるといいんですが……」

刑事「大丈夫ですよ。では、我々も動きましょうか?」

モバP「ええ……」

ブォオ…     ウー… ウー…

夏樹「くそ、こっちも塞がれてんのかよ……!」

夏樹「この分じゃ、拓海の方も……くそっ!なんで、こんなことになってんだよ……!」

夏樹「……こんな訳の分かんねぇことで、捕まってたまるか……!」グッ

キュキュッ ブォオオ…ン

夏樹「……追って、こない。撒いたか……?」

ウー… ウー…

夏樹「遠ざかってる……はぁ、よかったぁ……!」

夏樹「ここって……事務所の近くじゃねえか!?警察は……いない?」

夏樹「……もしかして、全部追跡で出払っちまってるのか?だとしたら好都合だが……」

フワッ… 

夏樹「!……雪、だ。マジかよ……今日、降るなんて言ってたか……?」

ブォオ…     ウー… ウー…

夏樹「くそ、こっちも塞がれてんのかよ……!」

夏樹「この分じゃ、拓海の方も……くそっ!なんで、こんなことになってんだよ……!」

夏樹「……こんな訳の分かんねぇことで、捕まってたまるか……!」グッ

キュキュッ ブォオオ…ン

夏樹「……追って、こない。撒いたか……?」

ウー… ウー…

夏樹「遠ざかってる……はぁ、よかったぁ……!」

夏樹「ここって……事務所の近くじゃねえか!?警察は……いない?」

夏樹「……もしかして、全部追跡で出払っちまってるのか?だとしたら好都合だが……」

フワッ… 

夏樹「!……雪、だ。マジかよ……今日、降るなんて言ってたか……?」

キーッ!

夏樹「!拓海……」

拓海「ふぅ、なんとか逃げ切れたぜ……あれ、いつの間にかこんなとこまで来ちまってたのか」

夏樹「ああ……少なくとも事務所の周りには、誰もいないみたいだ」

拓海「そいつはよかった……けどよ、中に1人2人は残ってるんじゃねぇか?」

夏樹「行ってみるだけ、行ってみよう。数人なら、さっきより撒くのは楽だろ」

拓海「……そうだな。アイツには、確かめたいことも山ほどあるからな……」

カンッ カンッ カンッ カンッ…

拓海「しっかし危なかったぜ……行く先行く先パトカーだらけだ、もう少しで捕まるところだった……」

夏樹「何としても、捕まえようってことだろ。だからこそ、ここの警察も全員で追跡してるんじゃねーか?」

拓海「見張りがいなかったのはそういうことか……逆に助かったな、よかった」

夏樹「ああ……それより見ろよ、ほら。雪だぜこれ」

拓海「ん?おお、初雪か?……ったく、人が必死で逃げ回ってるってのに、のんびりゆらゆら降りやがって……」

夏樹「雪にキレるなよ……さて、そろそろ準備しろ。警察がいたらすぐに降りる。いいな?」

拓海「……ああ」

夏樹「よしっ……!」バンッ

モバP「!……拓海、夏樹!やっぱり、来てくれたか……」

拓海「……」ツカツカツカ ドンッ

モバP「ぐふっ!?た、拓海……?」

拓海「なーにが来てくれたか、だ……お前が通報したんだろ!?聞いたぞコラ!!」

モバP「あ、ああ……通報はしたけど、それが……?」

拓海「とぼけやがって……こっちは全部わかってんだよ、お前が警察に話して、こうなってるんだってよ!!」

夏樹(……!まずい、この音、階段を人が……それも、かなりの数が昇ってきてる!)

夏樹「お、おい拓海!逃げるぞ、ヤバいって!!」

拓海「あの祠に缶をぶつけたのは、わざとじゃねえ!もし見てたんなら、分かるだろうがよ!」

夏樹(拓海……頭に、血が上ってやがる、このままじゃ……!)

モバP「祠?缶?拓海、お前いったい……」

拓海「第一、あの場にいたなら声ぐらいかけろよ……どうせずっとついてきてたんだろ!?アタシらのバイクの後ろをよ!!」

モバP「もしかして、あのツーリングのことか?バカいえ、俺はずっとここで仕事してたんだぞ!?」

夏樹「拓海!おい拓海!くそ、聞いちゃいねぇ……!」

拓海「ここで仕事だ……?じゃあなんで、通報なんてしてんだよ?アタシらが何したってんだよ!?」

モバP「今日は、もう23日だぞ!?本当にまだ気づいてないのか!?」

拓海「……は?今日が23日って、それがどうしたってんだ?んなこと知らない訳……」




モバP「俺が通報したのは、お前らの捜索願だ!お前らは一か月間、行方不明だったんだよ!!」



夏樹 拓海「「……は?」」

ガチャ

刑事「プロデューサーさん、うまくいきましたな……さすが、彼女たちのことをよく知っている」

夏樹「うまく、いった……?どういうことだ、Pさん……拓海、そろそろ離してやれよ。涙目じゃねーか」

拓海「あ、ああ……おい、どういうことか全部、話してくれるんだろうな?」ア?

モバP「げほっげほ……ど、どういうことかって、それは俺が聞きたいよぉ……」ウウッ…

・・・・・・・・・

夏樹「……つまり、あの山に行ったきり、アタシたちは帰ってこないで……」

拓海「やっと姿を現したと思ったら、捜索してる警察から逃げちまった、と」

モバP「やっとこの町まで来たのに、まだ逃げてるって刑事さんからその話を聞いてな……」

夏樹「それで、あの作戦を立てたわけだ……道をふさいで誘導し、事務所に来るように仕向ける」

モバP「状況を把握していないなら、まず何が起こっているのか確かめたくなる筈だし、それに……」

拓海「警察に確かめるのは論外、他人に会うのも避けているようなら、残るは家族か顔見知りの事務所の人間……」

モバP「だが電話もメールもかかってこない……だったら、直接会いに来るだろ?そういうことだ」

夏樹「はぁ……そいつはともかく、一か月か……あの霧の中に、一か月いたってことか?」

拓海「……あの、祠の天罰かよ?勘弁してくれよ……今日が12月ってのも、まだ信じらんねぇってのによ」

夏樹「スマホの電池切れ」

拓海「?」

夏樹「あの霧の中でスマホをつけたとき、すぐに電池が切れた……あれは、あの霧の中でものすごく速く時間がながれていたからだとしたら?」

拓海「長く点けっぱなしにしたら、それだけで電池は減る……スマホの地図やなんかを使いっぱなしにすれば尚更、ってか?」

夏樹「だとしたら、一応は説明できる……だろ?」

拓海「……けっ」

モバP「???まあ、いいか。さ、こっちの話は終わったんだ。次はお前らの番だぞ?」

夏樹「……話せば長くなるし、アタシらだっていまだに信じられないけど……」

拓海「話に難癖つけないってんなら、話してやるよ……仕方ねえ」

モバP「分かった、素直に聞くさ。だから早く話してくれ、いったい何が……」

夏樹「まあそうせかすなよ、Pさん……何はともあれ、一か月のツーリングから帰ってきたんだ。とりあえず……ただいま、Pさん」

拓海「ふんっ……ただいま」ボソッ

モバP「……ああ。2人とも、お帰り」






[世にも奇妙な物語]

ボーン ボーン ボーン…

タモリ「おや……どうやら舞踏会も、そろそろ終わりのようですね。いかがだったでしょうか?美しいシンデレラたちによる世にも奇妙な物語……」」

タモリ「12時の鐘が鳴ると、シンデレラは舞踏会から帰っていきます……まるで、今宵の舞踏会が夢であったかのように……」

タモリ「今宵の6人のシンデレラたち……果たして彼女たちは、この先どんな幸福を掴むことになるのでしょうか?それとも……」

カランッ…

タモリ「おや……誰か落としていったのでしょうか?いや、これは……どうやら、新しい靴のようですね」

タモリ「これを履く人は、果たして誰になるのでしょうか……もしかしたら、あなたもよく知る彼女かもしれません……」

タモリ「それでは、また。次の舞踏会で、お会いしましょう……」



このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom