「残された私」 【艦これSS】 (100)

前スレの前に一週間くらい書きためてた
地の文注意の瑞鶴SSです

秋月スレは息抜き

ストーリー構成は素人なので
曖昧な所は脳内変換してくれるといいと思います

タイトルは適当です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419247890


「どうだ?建造のほうは」

「順調ですよ、もしかしたらお目当てかもしれません」



何か聞こえる―


「にしても、艦娘を作り出すって言うのは、不思議な感じだな…」

「今更ですか?」


誰かが話している―


「…で、あと時間は?」

「…二時間少々ですかね」

「待ちきれんな」

「バーナーを使わせますか?」

「ふふ…それもいい 是非そうしてくれ」

「わかりました! みんなー!焼いていいぞー!!」

オー!

大きな掛け声と共に、私は眠りから覚めていく―



「…ん」

「よし、終わったね 主任呼んできてくれ」


なんだろう、ここ

「はい!」

「あれ… 私…?」

「こんにちは艦娘さん、自分がわかるかい」


艦娘… そっか、自分のことだ


「えっと…   うん、大丈夫」

「ここの司令官が待ってるよ さあ立って」

コツッ





「終了しましたよ、さ、どうぞ」

「…初めまして! 航空母艦、瑞鶴です!」

「ようこそ、我が鎮守府へ…」

「私をまた、呼び戻してくれてありがとう…提督さん」

「ふっ、変な感じだが…それもいい 歓迎するぞ、瑞鶴」

「ね、この鎮守府に空母はいる?」

「ああ、居るが…それがどうかしたか?」

「…! 翔鶴姉はいる!?」

「翔鶴か、ああもちろん…」

「よかった!」

「ああ 早速なんだが、とりあえず空母の皆と挨拶でもしよう、多分道場に皆居るから」

「はい!行きましょう! 早速!」
グイッ

私は、ただ翔鶴姉と顔を合わせたいと思って、脚を踏み出した

「お、おお… はは…」



「皆!一旦止め! 新入りが来たぞー!」

と、長身の女性達の目線が、私に集まる


と、言っても三人だけだったけど

「あ… 瑞鶴…?」

「翔鶴姉? 翔鶴姉!」

「ちょっと落ち着け… まず、周りに挨拶してからだ」

「ああ、そうだったわね…  初めまして、今日からここに来ました、瑞鶴です! 翔鶴姉の妹です!」


「あなたの妹?」

「あ、はい!そうです」

「前から話していましたよね  あ、自己紹介、しておきましょうか」

「…ええ、そうですね」


「初めまして、赤城です よろしくね、瑞鶴さん」

「加賀です、宜しく」

「えっと、じゃあ一応私も… 翔鶴です」


「ふふ、翔鶴姉だけ、変な感じ」

「もう…からかわないで、瑞鶴」


「まあ今はこれだけしかいないが… 仲良くしてやってくれ  あと加賀…」

「何でしょう」

「程々に、な」

「…」プイ

この2人のやりとりは、後に私は身を持って知ることになった

数週間が経った


私が来た、というものの 私自身の出撃は無かった

練度が低い…ということもあるけど
それより私は、今とてもつらい状況にいる


「瑞鶴、違います 的を狙うならもう少し上です」

「むう…何度も言わなくても分かってますよ」

「弧の引きが足りません もっと引いてください」

「精一杯ですって…」キリキリ

「…」

「…何で黙るんですか…っ」キリキリ

「はぁ… 貴女は何もわかっていません 弓を射つ時は精神を集中させるものです」

「ぐぅぅ… 気ーをーつーけーまーすー…」




「はぁぁ! 何よもう、加賀さんったら!」

「瑞鶴、そう言わないで」

「だって、同じことを何度も繰り返すのよ!? しかも私が弓を持つたびに… 他にも色々文句もつけるし…」

「加賀さんだって、瑞鶴のためにやっているのよ? わかって、瑞鶴」

「翔鶴姉はいいよね…そういうこと、無くて」



「翔鶴も大分しごかれてたぞ」

「あ、提督… もう、言わないつもりでしたのに」

「え、翔鶴姉もそうだったの?」

「ああ、加賀が一番空母としては優秀だからな…それに先輩だぞ?一応」

「わかってるけどさぁ…」

スタスタ
「五航戦、ここに居ましたか」

「何よその呼び方…」

気が抜けていたせいか、溜口が出てしまった

一瞬冷や汗を掻いたが、加賀さんは気にしていないようだった

「あ、もう時間ですか?」

「ええ」

「時間?何の?」

「ああ、演習…まあ実際に艦載機を飛ばす訓練みたいな物を週一でやってるんだ」

提督さんが教えてくれた

「へぇー…出撃できれば良いのに…」

「まあ…練度が上がってから、な?」

「その出撃で失敗しないように訓練するんです、行きますよ」

「また色々言われるんだろうなぁ…」シブシブ

「瑞鶴、加賀さんだってあなたのためにやってるのよ?」

「…うん」



「弓を持つのが嫌になりそう…」

「私は何もしてあげられないけど… 頑張ってね」

「うん、ありがと」


「加賀さんはいい人よ?」

「私にはわかんない」

「きっと、そのうちわかるわ」

よくわからなかった

確かに、普通に見れば 教育熱心な先輩…
と、良いようにみえるかもしれない

けど、される側としては、厳しい…それだけ

甘え過ぎかな、自分

それから一ヶ月が経った

徐々に私の練度も上がっていき、
出撃もまちまちだけどさせてもらえるようになった

まだまだ翔鶴姉や、赤城さん…   それと加賀さん…
足を引っ張ってるかもしれないけど 精一杯やれている

出撃して、実践を積んで 初めて私は、"私"であることが実感できた


「提督さん! 今日も敵、たくさん倒したわよ!」

「おぉ瑞鶴 戻ったか  大分変わったな、お前も…」

「もちろん、いつまでもあそこで止まってるわけにはいかないもの」

コーン コーン

「ん、もう昼なのか…」ガサガサ カリカリ…

「提督さん、お昼食べないの?」

「食べるさ、やってないのがひとつあっただけだ」

「あ、そうだ… この後、空母の出撃はある?」

「ん…出撃は今日はもうない、な… それがどうかしたか?」

「ううん、ゆっくりできるかな、って!」

「そうか、じゃあ俺は片付けてから行くよ」

「そう、じゃあ私はお先に失礼します!」

「ああ、ご苦労」


提督さんは仕事熱心だ
仕事の出来も上々で、上からも褒められているらしい

だから、私達も安心して身をおくことが出来た

「翔鶴姉!おまたせ!」

「あら、お帰り、瑞鶴」

「ね、もうお腹へっちゃった! ご飯食べに行こう!」

「もう、せっかちね」




「今日のメニューは…秋刀魚だって… おいしいんだろうなぁ…」

「そうですね、私もそう思います」

妙にクールな敬語に驚いて後ろを振り向くと
そこには加賀さんがいた 

「あ… ど、どうも…」

渋い顔をせざるを得なかった

「さ、並ばないと遅れてしまいます 行きましょう」ノシノシ

「ちょ、ちょっと押さないで…ぇっ!」

加賀さんは、戦闘とか、そういうことになると凄い真面目。
普段も真面目だけど、食事になると大真面目。加賀さんは食事が好きらしい

「よし、じゃあもらったから… 翔鶴姉、ここ空いてるわ!」

「ありがとう、瑞鶴」

「私が向かいに座っても?」

「あ、ど、どう…―

ガチャンッ

何か、お尻の辺りにぶつかった

というより、ぶつかられた?

「きゃっ!」

「はわっ!」

カシャンッ…  カラカラ

「痛たた…な、何?」

「うぅ… あ、ず、瑞鶴さん!? ご、ごめんなさいなのです!」

そこには、黄色い目をした女の子がへたりこんでいた

確か名前は…  そう、電ちゃん。

「あ、電ちゃん… あ、そっちこそ、大丈夫!?怪我はない?」

「電は大丈夫なのです。 ごめんなさい… 昼食に遅れそうで急いでいて…」

「ううん、私はいいから… さ、行っておいで 私が片付ける」

「で、でも…」

「いいって、いつかちゃんと、お返ししてよね?」

「…!」

なにか喉にひっかかったものを飲み込むうような顔をしていた

「ありがとうなのです!」

そう言って、彼女は背を向けていった

「あーあ…食事って人数分だからなぁ…」

「瑞鶴、私のを食べて?」

「いや、いい!大丈夫だから!」

「…」

そこに立ち尽くす加賀さん、長身なので
威圧感のようなもので、振り向かずにいられなかった


「瑞鶴」

「は、はい?」

「私は急用を思い出したわ、多分昼食の時間には戻れないので、これ、どうぞ」カチャンッ

「え…でも加賀さん…」

「確かこの後の出撃の会議がありました、空母のまとめ役として私が行くことに… では」スタスタ


そう言って、加賀さんは去った

でも、今日はもう出撃はないと提督さんが言ってたはず、なんだけどな…

だけど、その時私は色々混乱していた

冷静に考えれば、加賀さんの話は嘘。私に食事を譲るための理由付け

だけど、食事を好むうえに、私にはきついし、厳しい…それが加賀さん

それがなんで…?   と、整理するまで時間がかかった


「加賀さんもああ言ってることだし… 好意を無駄にするのも失礼だわ」

「そう…ね」




「いただきます…」

今日のお昼のいただきますは、いつもより敬意を込めた

昼食を終えた後、私は加賀さんを探した

当然ながら執務室にいるはずもなく、私室なども探した

最後は、弓道場  他に居なかったら、ここにいるはず

いた

「加賀さん!」

「…瑞鶴」

「あ、あの!お昼、ありがとうございます…」

「いいの、それに用事が…」

「加賀さん、それって嘘なんじゃないの…?」

「… どうしてそう思うの?」

「だって、私提督さんに出撃帰りに 今日は出撃はないって聞いたから…」

フッ
加賀さんは、横に縛ってある長い髪を揺ら付かせながら、的のほうへ振り返った

「出撃は中止に…」

「… そっか、そうだよねー加賀さんが嘘をつくはず、ないですもんねぇ?」

「気が散るわ、用がないなら帰って頂戴」

加賀さんの肩が震えてたように見えた

「じゃあ私も練習していきまーす」

「… 勝手にして」

少しため息をつかれた



「少し休憩するわ…」

そう言って加賀さんは下がって、私の後ろで正座をし始めた


22:30まで投稿
それ以降は持ち越します


「あ…そうだ」

私はふとあることを思い出した

「えっと…たしか包んであったはず…   あった」


「加賀さん、はい」

私は、おにぎりを差し出した

食堂には、人数分のおかずなどしか配られないものの
なんだかんだで、ご飯は余ることがあるので、それを少し貰い、自分で握った
全部で三つ握った

「加賀さん、何も食べてないでしょ? これでよかったらどうぞ、さっきのお返しです」

「あなたが作ったの?」

「はい! せめて自分で償おうと思って…あはは」

少し笑みを浮かべながら、ふっ と息を吐いた
「ありがとう、頂くわ」

加賀さんは、それを美味しそうに食べた
「どうしたの、瑞鶴」

私はそれを嬉しく思った


…それと、口の中で唾液が出た

「い、いやなんでも…」


「いいわ、全部食べる気はありません、ひとつどうぞ」

「え、でも…それはちょっとなぁ、って」

「それに貴女が作ったものです、私が口出しする理由はありません」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

三つあるうちの一つを頬張った

我ながら塩加減が絶妙で、幸せな気持ちに浸った

「はむ」


とあるよく晴れた日、私はいくつかの方面の中でも
戦闘が激しくなると言われる方面へ、出撃することになった

提督さんにしては珍しく、空母三隻で出撃することになり

私、加賀さん、翔鶴姉の三人
あとは長門さん、陸奥さん、金剛さんの三人

「ねえ提督さん、どうして今回の出撃で私を入れたの?」

「ん、お前も練度が大分上がってきたみたいだし、そろそろ本格的に出撃させてやろうと思ってな」

「そう… 私、頑張るわ 戦果報告、期待しててよね?」

「ムリするなよ」







結果、勝利は収めたものの 
私達に被害は少なからず‥    大損害だった


「ねえ、翔鶴姉、大丈夫よね?ねえ?」

「きっと大丈夫だ… 落ち着け、瑞鶴」

「瑞鶴ちゃん、心配は後よ? 敵が来たりでもしたら翔鶴さんだって危ないの、わかるでしょう?」

「っ…」

「瑞鶴、気を落とさないでくだサーイ、翔鶴はココにいるじゃありませんカ…」


そうだ、そうなんだ
確かに、そのまま沈んで…しんでしまうより、結果はよかったのかもしれない


そのまま、翔鶴姉は長門さんが背負って、他のみんなは敵を警戒していた


加賀さんは、終始一言も喋らなかった





なにがあったのか、それは思い出すだけで胸が痛くなりそう

それは、海域での主力に向かう時だった



「皆さん、次は海域主力です、常に警戒を怠らずに行きましょう」

その時は、加賀さんがみんなをまとめてくれた

「ああ… 我らの射程外からの砲撃もあるかもしれない、気を抜くなよ!」

長門さんも、もしかしたらの事態に備えるのを促すようにした


「こんなにも晴れているのに…」

「…どうしたの、翔鶴姉」

「こんなに空は綺麗なのに、私達は…戦争をしているのね、瑞鶴」

「うん…」

ゴォォォォ…

何やら、鈍く鳴り響いた音が聞こえた

私達は空を見上げた


爆撃機隊だ…

「全員散開!!固まるな!!」

長門さんの怒号が、爆撃機の急降下音に負けず響いた



そこで、翔鶴姉は攻撃を受けた


「翔鶴姉!!」

そういって私は最後に翔鶴姉が見えたところに駆けた

爆弾の雨が降り注ぐ中、私は攻撃をかすりもしなかった



とても酷いものだった

普通、私達は小破、中破、大破と損害によって分類されるものだけど

翔鶴姉は違う。
限りなくそのまま沈ぬ(しぬ)に近い、大破だった

ある程度の対空攻撃のおかげもあり、私達の艦隊は無事だった…

私は翔鶴姉を抱えた… それから、あることに気がついた

倒れこんでいる女性がいる    加賀さんだ

加賀さんはずぶ濡れになっている 何故? 怪我はしているように見えない


「っ… 翔鶴…」

そう言いながら起き上がった


私と加賀さんは目があった


「翔鶴は」

「わかんない…です」


加賀さんは、ものすごく、重そうに口を開いた
「翔鶴は、私を庇って――

そこから先は、聞き取れなかった

なぜなら、大砲のような音が鳴り響いたから


「敵―… 敵の戦艦デス!   っ…主力…!」


金剛さんが誰よりも先に言葉を発した


そう、敵の主力だった 
ここは主力前ということをすっかり忘れていた


だけど、長門さん、陸奥さん、金剛さん、加賀さんの必死の攻撃で
敵は身を引いた    
私は、あまりの驚きで手が出せなかった


私は、何も出来ない私は、艦隊のみんなに守られた





「なに、も…」

ぽつん

水滴が落ちた

雨かと思ったら、私の涙だった

「何も…何も出来なかった… 翔鶴姉をかばうことも… 戦闘することも… 私は…見てるだけで―」

ぎゅっ
と、赤城さんが何も言わず、抱きしめてくれた

「いいんですよ、瑞鶴さん あなたは何も悪くない」

「そんな…っ だって… だって…」

「貴女は、翔鶴さんを守るっていう事をしたじゃありませんか」

「ちがう… 私は、見てただけ…」



ふと、加賀さんが思い浮かんだ

…そうだ、加賀さんを庇ってああなっちゃったんだ…

加賀さんが…  



いなければ







キリがいいのでここで一旦切ります

見ててくれる人が居れば幸いです

続き
「と、言うわけだ… 瑞鶴、何かあるか」

「いえ、大丈夫、です」

「…つらいか」

「すごく、申し訳がないです」

「戦闘のお前のことは忘れろ、悲観的になるな」

「でも…」

「でも、じゃない いいか、これは事故だ、予測不能だった事態なんだ そんな中で翔鶴は…」

ガチャン
「提督、失礼しま…  す」

加賀さんが来た、何か言葉に詰まっていた

「あ、ああ…加賀、何か解ったか」

「…私達が対自した敵の中に、見たことのない光を放つ空母が居ました」

「見たことのない光?」

「青色の… そうですね、ヲ級改とでもいいましょうか」

「改…」

「その空母から発進した爆撃機の、アウトレンジ攻撃と見られます」

「そうか…」


「ということだ、瑞鶴」

「… あ、うん」

「お前、加賀のこと何か思ってるのか」

「…」

私は加賀さんのことを恨んでいると言う訳ではない

というより、恨むことなんて出来なかった

なんで?


わからない

だけど、心の奥底には、なにかつっかえるものがあった


「ごめん、加賀さん… 私、加賀さんを攻めるつもりとか、そういうのは無いの」

「だけどね… どうしても、何か、ね…」


「…私は恨もうと、妬もうと、貴女を嫌うつもりもないです、したいように、してください」

トッ、トッ

そう言って、加賀さんはこの場を後にした


「瑞鶴」

「うん…ごめんね、変な空気にしちゃって… 戻るから、私…」

「…」

その後は、翔鶴姉のところに行った 

「…失礼します」

付いていてくれる妖精さんは外していたみたいで
部屋には眠った翔鶴姉と私だけ…



「翔鶴姉、ごめんね、私が、ダメで…」

「こんな妹、駄目だよね…」

「翔鶴姉が好意で助けた加賀さんをね、私、どこか嫌に思ってるの…」

「でもね、そんな自分も嫌でね… 悩んでるんだ。」

「どうすればいい、かな…」

「教えて…―


カタッ

何か音が聞こえて、その方を見た

「…どうぞ」


「ごめんなさい… 失礼するわ」

加賀さんだった、いつもの顔をしていたけど
どこか気が落ちているようにも見えた


「加賀、さん」

「ごめんなさい、あんなこと言って」

「気にするほどの事でもないわ」

「翔鶴姉の好意で、加賀さんが無事だったんだもんね… 
それに嫌悪するなんて、加賀さんがどうでもいいって言ってるのとおんなじだよね…」

「いいんです 私が、真上の攻撃を見切れなかったせいもあります」

「あれはしょうがなかったんですよ…あの数ですもん…」

「あんななかで、よく当たらなかったわね」

「えへ…だって、幸運艦なんて呼ばれてるんですもん…」

「ふふ、そうだったわね…」

ぐぅ

「…」

「…あなたよね?」

「は、はい…」

「食事が喉を通らなかったのかしら?」

「…そうです、ね」

「少し場所を変えましょうか、食堂が近いのでそこにでも」

「あ、はい!」

「これでよければ、どうぞ」

そう言って、包に入ったおにぎりを渡してきた

あの時と同じ三つ入りだった

「はむ」

「ぷっ…ふふふ…」

「えっ、なんですか?」

「前回は意識してませんでしたが、その… はむ、と」

「え、あ、な、なんか意識しないで出ちゃうんですよ、お、おかしいですかね!?」

半ば焦って、耳が熱くなった

「いえ、いいんじゃないですか…可愛げがあって」

「そ、そうですか…」


その後は、意識して食べた…ものの

「ん…」とか「んぐ」とか出てた

終始、加賀さんは肩を震えさせていた




―――



朝… 次の日の朝

今日は曇空…だけど、雨が振りそうなほどでもないかな

そう心のなかでつぶやいて、私は目を覚ました

「んっこいしょっと…」 ギシッ


いつも通りに歯を磨く



何か足りない、何か違う…


あぁ、そうだ 翔鶴姉がいないんだった

いつも最初に挨拶するはずのお姉ちゃんがいないんだ



私は一人なんだ





一人… ひとり…   ひとりぼっち…


ずうっと前の私も、そんなことがあったような気がする


ひとりって、寂しいんだなぁ




気づいたら、ベッドから立ち上がり始めて数十分が経っていた


どうも、朝とかは、ネガティブな思考になってしまうからニガテだ

早く身支度を済ませて、提督さんに今日のことを聞かなきゃな…






「あぁ、瑞鶴 今日はお前は非番…出撃はなしだ」

「出撃自体無いの?」

「いいや、出撃はある、空母は加賀一人だけだがな」

「どうして?」

「…掘り返すようで悪いが、あの時、空母機動部隊で編成しただろ」

「…うん」

「今度は水上部隊で出撃して、戦果の差とか、どんなもんかデータを集めないといけないと思ってな」

「ふうん、そう」

「関心無いみたいだな」

「あはは…そう聞こえたかな」

「元気なさそうに見えるな」

「…そうかな…  まあ、出撃がないならゆっくりさせてもらうわ、それじゃ」

「おう」

「あ、瑞鶴さん!」

執務室から出ると、赤城さんが駆け寄ってきた

「赤城さん…おはようございます」

「あ、おはようございます  今日って私の出番があるとかありましたか?」

「? いえ、ありませんでしたよ?」

「…!そうでしたか! よかった!」

「何かあるんですか?」

「いえね、実は街のほうでイベントが有るんですよ」

「へえ、どんな?」

「行ってみます?」

「え、私…が?」

「ええ、非番ならお出かけもいいじゃないですか、ね?」

意外だ、というより驚きだった
いつも、出かけるなら翔鶴姉とだったけど
まさか赤城さんとおでかけしよう、なんて誘われるなんて思ってなかった


ちょっと嬉しさ半分、動揺もあった

けど断る理由もないので、了承した


「うぅ…寒いですね まだ薄暗いですよ?」

「これくらいから出ないと食べれません」

「あ、そうだ、聞いてなかったけど、何しにいくんですか?」

「ふふ、実はね、ものすごく有名なお菓子職人さんが来て、西洋のお菓子を作ってくれるそうなんです、数量限定で」

「お菓子…西洋の…」

「朝早く、開店と同時に始まるそうなのでね… あっ、そうだ、今の時間は…」ゴソゴソ

ぱかっ
「あら、そろそろ7時になります、急ぎましょう瑞鶴さん」

「あっ、はい!」




「並んだ甲斐がありましたね!」

「いやあ、ワクワクがとまりません 本当に朝から来てよかったですよ」

「赤城さん、ここのは食べたことあるんですか?」

「ないですよ、だからワクワクなんです」

「でも朝からデザートって… その職人さんも変わってますよね…」

「まあまあ  あ、来ましたよ来ましたよ」




「凄い…なに、これ…」

「美しいですね…まさに雪景色のようです…」

「これが生クリームってものなのかな…? 崩すのがもったいない…」

「ではさっそく」ヒョイパク

「躊躇ないんですね…」

その時の赤城さんは、
いままで食事をしているどの赤城さんよりも 幸せそうな顔をしていた

「うっ…」ポロッ

「ええっ、赤城さん泣いてるんですか?」

「おいしい…このために生まれてきたと思うと泣けてきて…」モグモグ

大げさだなぁ…と、期待をあまりしないで口へ運んだ

「うふっ…」

期待値が低かったので、口に運んだ瞬間思わず笑ってしまった

「ふふっ…これ、おいしいですね…  くっ、ふふ…」

「瑞鶴さん、なんか変ですよ」

「赤城さんも… 口元にクリーム付いてますよ? 右です」

「ん」

私は、親切のつもりで、赤城さんからみて右と言ったつもりだったが

案の定左の頬を拭った

「赤城さんから見てです」

「こっちでしたか」


そうして、朝からパフェと言う、変わった朝食から、今日は始まった」

「いやあ、おいしかったですね また来ましょうね、瑞鶴さんに… あと、翔鶴さんや加賀さんも連れて」

「…はい、また来たいです」

「そういえば今日はお暇でしょう? あれで朝食じゃあなんですし、またどこか寄りません?」

「それもそっか… いいですよ!着いて行きます!」

軽い気持ちのその一言から、私は苦しみを味わうことになった


「ふぅー… やっぱり朝は和食ですよね」

「そ、そうですね…」

意外と小食だった私は、パフェだけで腹五分目になっていた

残すのもなにか言われそうで怖いので、全部押し込んだ

「次はどこに寄りましょうねぇ」スタスタ

「もうお腹がはちきれそうなんです、けどっ…」チョコチョコ

歩くだけで脇腹が痛くなってきた

「あら、早いですねぇ、そんなんじゃ大きくなれませんよ?」

どこのことを言っているのか、私は深く考えないことにした


「少し休憩しましょうか?」

「はい、お願いします…」


そう言って、中華料理屋に入っていった

「あ、瑞鶴さんは頼まなくていいですよ? すいませーん、注文とりたいんですけどー」

「赤城さん、いま腹何分目ですか?」

「5分目ですね」

まだ食うか  そう突っ込みたかった

「いやあ、お昼前にラーメンまで食べちゃいました」

「お昼どうするんですか?」

「大丈夫です、少し動けばお腹は空きます どこかいい場所はないですかねぇ」

「…ん?」

変わった看板を見た    アーチェリー場が近くにあるらしい

「赤城さん、あれ…」

「アーチェリー…  絵を見る限りだと、弓でしょうかね?」

「赤城さん、勝負しませんか?」

「私とですか?」

ぶっちゃけ、自信はあった
最近、加賀さんのおかげで、めきめきと弓の腕は上がっていたし

なにより、赤城さんを甘く見てた



「うっ、この弓重いですね…」

「そ、そうですかね?」

強がってみた

「では私からいきますよ」
ギリギリギリ… そんな音を立てて、弓はしなった

バヒュッ―   ッターン…

「なかなか重いですねぇ、これ」

よく見ると、ど真ん中に当てていた

「嘘…    おっほん、じゃあ私、行きますよ もし負けたほうが、ここの料金持つ、ってどうですか?」

「いいですよ…ちょっと自信ないですけど…」

「じゃ、やります!」ガチャッ

重っ…

ギリギリッ…

何これ…すごく硬い… ぜんぜん引けてない…

「く…」

とにかく、集中を切らさずに、無心を保とうとした…

バヒュッ…―  トーン…

「痛たたた… なによこの弓…」

的を見ると、かろうじて真ん中をかすめるほどだった

「すごいですね、瑞鶴さんもまんなかですよ これは負けられませんね」

「いきます…」
ギリギリギリ…   バシュッ…―

バッキーン…―

「え!?」

「な、なんですかいまの音…」

その音とともに、店主らしき人が出てきた

「何があったんです…?」


よく見ると、先に刺さっていたはずの矢が落ちていた

それと、射ったはずの矢も落ちていた


「…刺さった矢に当たっちゃったんですかね?」

「そ、そうですか… って、えええっ!?」

店主は漫画でしか見れないような顔をして驚いた



当然ながら私は完敗
赤城さんは、とてもじゃないけど、私は到底追いつけない人だった

「赤城さん、上手ですね… ちょっと見くびってました」

「私は一航戦ですよ? 侮ってもらっては― 困ります」キリッ


ちょっとだけかっこよく見えた  


結果は当然ながら負けた




「赤城さん、よかったんですか?」

「なにがです?」

「なにがって、アーチェリーの料金のことです」

「ああ、いいんですよ」

「どうして?」

「だって、優しい後輩にお金を持たせるのも、気分悪いじゃないですか」

「…優しいんですね、赤城さん」

「意地悪するように見えますか?」

「全く」

ははは、と軽く笑って、私達は街の中を歩いた




「はあ、外出ですか」

「ああ、お前が出撃してる間にな」


「…小一時間だけでしたけどね… それに、下手に少ない空母を外出させてよいのですか?」

「加賀を頼りにしてるって取って欲しかったな」

「そうですか、それは光栄です」

「とりあえず朝早くから悪かったな、お疲れ」

「いえ、失礼しました」















「あなた達、今何時だと思ってるんです? いつも三時には弓道場に集まる規則ですが?」

「加賀さん、怖いです」

「すいませんでした…」

「気を抜くのも時には大事ですが、切り替えをしっかりしてください」

私達は思わずはしゃぎすぎて、いつの間にか昼も過ぎ
約束通りの時間に間に合わなかった…   

と言うより、気づいた頃には三時を回っていた

「時間厳守、そう言ったはずです そういったことも頭に入れて---」

ちらっと赤城さんを見た


赤城さんもこっちを見た

少し、困ったような笑顔をかけてきた

私も笑った

「… 一セット増やします」

見られてた


絶望に叩きこまれたような顔を赤城さんはした





その日はたっぷりと加賀さんの説教を頭に叩きこまれ

弓道場でもたんとしごかれた


翌日



また今日と言う日がきた

何も変わらない日



昨日の約束で、朝一で弓道場に集まるように言われていたので、あわてて時間を確認する


よかった…まだ30分前…  30…!?

「ヤバ… 急がないと」






「すいません!今来ましたっ!」


「おはようございます」

そこに居たのは加賀さんではなく、赤城さんだった

「あれ、赤城さん… 加賀さんは?」

「確か出撃についての相談があると、朝から提督に呼び出されてましたね」

「はあ、よかった…」


加賀さんはいないけど、とりあえず自分の弓を持ち、的へ真っ直ぐ顔を向ける

「ん…あれっ」

「どうかしました?」

「少し弦が千切れてる… あーあ、どうしよう このままじゃ痛い目見ちゃう…」

「私のをあげましょうか?」

「えっ、いいんですか?」

「ええ、つい最近弓を変えたので、前のものを使わなくなったんです あ、壊れてませんよ?」


後ろにある赤城さんの弓袋から、一本弓が出てきた

「どうぞ、使いにくかったらすいません」


その弓を持った時、何か重みを感じた

重さとかじゃないなにか、責任のような…


その弦を引いてみると、とてもしっくりくる。重量も自分のもののように丁度いい

「凄い…」

「 何か凄い所ありますか?」

「いや、なんだかとてもしっくりくるので思わず… いいんですか?貰って」

「いいですよ 実はその弓、私がここに来てから持った初めての弓なんです」

「えっ… 恐れ多いです…」

「何も変わりませんよ、ただの木の棒と紐ですよ?」

と、冗談交じりに言われた


そのただの木の棒と紐なのに、ここまで違うんだなあ…



実際に射ってみると、これもまたいい

あまり力を入れなくても、弦が矢を弾くように、飛んで行く

そんな気がした

「赤城さん…」

「はい?」

「ほんとにこの弓いいんですか?」

「なんだか変ですよ、瑞鶴さん」

「いやあ、どうしても気になって」

「いいですって 大丈夫ですよ、返してなんて言いません」


なんだかむずむずした

いままでずっと欲しかったものを貰ったような気分だ

バタンッ

「赤城さん!」

「あ、加賀さん、おはようございます」

急に何の音かと思えば、加賀さんが戸を開ける音だった

「赤城さん、次の作戦について、呼び出しです」

「私ですか?」

「ええ」

「わかりました、瑞鶴さん、ごめんなさいね」

「あ、いえ」


ぽつん

一人になった


「この弓、大事にしよう…」

とりあえず、私は弓道場を後にした


翔鶴姉のところに向かった

「…失礼します」

「ん、ああ、どうぞ」

翔鶴姉の様子を見てる妖精さんがいた

かつん

弓が大きすぎて戸の上に当たった


「まだ、目覚まさないの?」

「ううん、まだかかるでしょうねえ」

「…どうしてこんなことになったの?」

「…難しいね、人間で言えば、瀕死で気を失ってる… いや、植物状態みたいな所かな」

「植物…」

聞いたことがある単語だった


何か奇跡でもない限り、目を覚まさない状態のことだ

つまり翔鶴姉は…

「もう、起きないんですか?」

「いずれは目を覚ます、そう確信してるよ、私は」

「…そうですか」



「…と言うわけだ、赤城、加賀、任せたぞ」

「…頑張ります! 一航戦の名に賭けて!」

「赤城さん、驕らず、慢心が無いよう…ね?」

「わかってますよ、加賀さん」


その頃執務室では、出撃の編成や作戦などが説明されていた


「じゃあもう一度最初から確認するぞ…」

「大和、長門、陸奥、金剛、加賀、赤城 この空母機動部隊でこの海域を叩く」

「本当に私を出すのですか」

「…何言ってんだ大和 こういう時のためのお前だ」

「この鎮守府で組める最高の編成ですね、自分で言うのも変ですけど」

「なに赤城、自分を卑下することはない お前は十分頼りにしてる」

「なんだか、私だけすこし頼りない戦艦で申し訳ないネ」

「金剛、今提督も赤城に言っただろう 卑下するなと」

「そ、そうですネ…sorry、長門」

「で、出撃はいつだったかしら?」

「陸奥さん…あなた聞いていなかったんですか」

「もう、加賀ったらそんなに怒らないでよ」

「まあまあ、出撃は三日後だ、三日後」

「わかった、よく覚えておくわ」

「では、他に伝えることは?」

「… 無い! よし、今日は解散 朝から済まないな、みんな」





「総力出撃ですか…」

「ええ、あなたを連れて行け無くてごめんなさい」

「謝らないでください加賀さん… 頑張ってください 応援してますよ、赤城さんも」

「ありがとう、瑞鶴さん」

「赤城さん、そろそろ本腰を入れて行きましょう、演習は今日と明日しましょう」

「明後日はしないのですか?」

「出撃前の前日ですから、心を休めておきましょう」


今回は、ただの出撃じゃないなって たった今わかった

私は―



私はどこにいるの?――


暗い…―

冷たい…――


遠くに光が、見えます――



届きそうにありません…―――






「ねえ、翔鶴姉が動いたって、本当なの!?」

「ああ、この目で見たよ、なにかうなされてるような感じだった」

「長い夢でもみてるのかな…」

「そうかもしれないねえ… とりあえず、体調とかは問題なさそうだから、戻っていいよ」

「いや…私、ここに居る…」

「…そうかい、じゃあこっちは用事あるから、少し外すよ」

そう言って、妖精さんは部屋を後にした



ぎゅ

「翔鶴姉」

「三日後にね、赤城さんと、加賀さんが出撃するんだって」

「それも、大和さんや長門さんまで出る、総力戦」


「私は出れないけど」

「私は祈ることしか…」


「…」





身体が浮いて…


いえ、それとも沈んで?


…どちらでも、ないんでしょうか



まえより、光が近いような…




どちらでも、よいでしょうか



ぎゅっ

「…! 翔鶴姉…翔鶴姉!」


確かにいま、手を握った

ほんの僅かだけど手を握ってくれた


「…ダメ、かな」




ここで切ります
見てくれてる人が居れば(ry

つづき

次の日から、鎮守府の傍は、銃撃や大砲の音で響くようになった

そう、決戦艦隊が演習をしているらしい



まあ、私も手伝いくらいはすることになったんだけど



工廠の妖精さんが即席で作った、艦載機のように飛ばせる飛行物体、もちろん無人のものを
私は射って、それを撃ち落とすと言う事を繰り返していた


みんな、必死にやっていた


特に、加賀さん

翔鶴姉のこともあったのかも、と勝手に想像していた



みんな出撃したら、一人で寂しいなあ

そんなふうに思いながら、複雑な気持ちで、演習に手を貸した





「瑞鶴、もっと散らしてくれ。あと、高度も上げろ」

「ひゃ…   なんだ、提督さん」

「悪いな、急に邪魔して 前みたいにならないようにしたいからな、頼む」

「…うん、それは私も同じ みんな無事で…ね」

ギイッ   パシュン―…



あっと言う間に時は流れ その日がきた



「…お前らに合うかわからんが、願掛けのつもりだ ぐっと行け」

出撃する艦隊全員に、杯が一つ、そこに日本酒が少し注がれていた

苦い顔をする赤城さん。
味を噛みしめる長門さん
涼しい顔をしている大和さん。
香りを楽しむように、すうっと息を吸う陸奥さん

紅茶のほうがいいなんて言う金剛さん

みんなより、一呼吸遅れて飲み干す加賀さん

そして、水平線を見つめなおす


「本当は水杯がいいが、特別だ それで酔うお前らでもないだろうしな」

と、冗談を飛ばす

少し頬の緩む艦隊


「… 行って来い」



「よし、行くぞ!! 続け!!」

長門さんの怒号とともに、第一艦隊は背を向け、海へと歩き出す


それを、鎮守府総出で 黙って見送る




ちなみに、どうして大和さんではなかったのかというと
長門の声で鼓舞してほしい、とのことだった



それは、とても順調な出撃だった

その日の初めての接敵

水雷戦隊を主とした水上部隊と聞いた


もちろん、我が鎮守府の精鋭には、敵ではなかった


続いての戦闘


軽空母や重巡洋艦が出現


ここも、無事に抜ける


この辺りで、赤城さんはお腹が空いた、と漏らしたらしい





―――





…ここは海なんでしょうか


だれかが、海のうえに…


黒い… 

そして大きい


向こうにも見える



人の形をしている



黒い影は赤い目をしている






戦おうとしている



「駄目…」





「索敵機、戻りました …大きな戦艦が居ます」

「…お出ましか、戦艦棲姫…」

「ねえ、どうするの?」


「私から攻撃を仕掛けます、続いて砲撃をお願いしても?」


「とのことだ、全艦!攻撃用意!!」

ガチャン  ガチャンッ




「全主砲、薙ぎ払え!」







どこかで大きな音が聞こえたような気がした

大砲の音だ


「ねえ、提督さん」

「何だ」

「成功すると思ってる?」

「俺が思わなくて、どうする」

「そうだよね」



「みんな無事だと思う?」


「思う」



「そっか」

――

「駄目デス… 私じゃ歯が立ちまセーン!」

「金剛さんは随伴艦の処理をお願いします、私も手伝います 赤城さんは続けて敵旗艦に」

「了解しました、任せて下さい」


「くそ…  やはり一筋縄では落ちないようだな」


「このままじゃこちらが削られるわ、どうするの?」



「私が前に出ます」



「…赤城、なんの真似だ」

「あの戦艦棲姫を引き付ければ、集中してみなさんも狙えますよね」

「そういうことでは…!」

「違っていますか?」



「赤城さん、あなたは自分が死ににいくと仰っているのですか?」

「違います、私は根っから生きて還るつもりです  ただ、無事で還れるとも思っていません」


「この私をの命、最後までお役に立てたい     みなさんもそうじゃないんですか」

「それに、私はあなた方より速く航行出来ます」

「赤城…それなら私がいくネ、私だっテ…」

「あなたは戦艦、主砲を持っています   私は、違います」

ざあっ

「おい、赤城待て!!」


「そこまで言うなら、赤城さんの善意を無駄にする訳にも、いきませんよね」


「赤城、さん…   何故、あなたは…」


「くそ… 赤城に当てるなよ!! 一斉射始め!!」



――


また海の中にいる



煙が上がっている





誰かが沈んでいる



足から、ゆっくりと




ほかの誰かは、悲しそうに見ている



沈んでいる誰かが、最後の一矢を放った




攻撃も虚しく、それは刺さったものの、びくともしないその大きな身体は






沈んでいる、誰かを     






沈めた















私は弓道場に居た

一人で、矢を放つ



集中して、弦を弾く



「痛っ…」

私は珍しく、弦を腕に当てた


「おかしいなあ、いつもは当てないのに…」










戦いは哀しい

何かを捨てずして、得るものはない


人生と同じだ


誰かが死に、誰かが生きる



平和な世界は、どんな所だろう



私も、そんな世界に生まれたかった






我が鎮守府の精鋭艦隊は、帰投したものの
敵を仕留められずに戻った





一人、減っていた




赤城さんの姿がない



皆は俯いている





「…よく戻った もう休め」

低く、重い声は、艦隊の足を更に重くさせた


「ねえ、加賀さん」

思わず腕を掴んだ


冷たい


「何ですか」




「赤城さんは…」



口を開かない


「赤城さん、死んじゃったの?」




そのまま、魔法がかかったように

すうっと、加賀さんの腕は抜けていった





――

――


「…どうしてこうなったんだ」

「赤城が囮になった」

「どうして」

「我々も止めた」

「力ずくで止めなかったのか」

「赤城は囮になる前に、正しいことを教えてくれた 私達の在り方についてな」

「はっ、心打たれたってか」

「そうだ だから止めなかった」





「下がれ…」


「失礼した」









とてもやさしい人だった


食いしん坊で、食べることが好きな人

誰よりも優しくて、嫌な顔をしない人

時には慰めてもくれた


良い人ほど、先に逝ってしまう


悔しい


「悔しい…」


「ねえ、どうしてだろう」




「翔鶴姉… どうしてだと思う…?」



「どうして赤城さんは、あんなこと言ったのかな」



「私たちのこと、嫌いだったのかな」


「それは違います」

と、戸を急に開けられて驚いた…

そこにいたのは加賀さん


「…加賀さん」


「さっきは、何も言わずに行ってごめんなさい」

「…いえ」


「赤城さんは… ここが好きなだったはずです」

「だから身を持って、ああしたんだと…私は思います」


「赤城さん…」

そう、加賀さんに言われて赤城さんとの思い出が蘇ってきた

一緒に朝からパフェを食べに行ったこと


その後、色んな所に出かけたこと


一緒に叱られたりしたこと



翔鶴姉のことで落ち込んでいる私を、慰めてくれたこと


自分の分身とも言える、弓を私にくれたこと


「赤城さん…」

自然と目頭が熱くなる

「やだ、ぁ…」
ぽろぽろと、涙が零れた

初めてこんなに泣いた


初めて、大事な人がいなくなった



初めて、加賀さんに抱きしめられた

「やだっ…  なんで、っ…ぁ赤城…さんっ…」


加賀さんは何も言わなかった



だけど、私はあとから思い出した

そう、赤城さんにもらった弓



この生命に変えてでも、大切にしよう 


そう決めた


今決めた


――

――

「…」

夜、提督は落ち込んでいる


「ダメだ…クソ」

びりっ、グシャグシャ…


「だが、この機会を逃して、いつ…」


「また、誰か沈ぬ…   俺のせいで」


「… やめよう…考えるのは、やめよう…」


「もう一度、もう一度だけ」



「もう一度だけチャンスがある」




――

――


次の日、空は灰色に覆われていた

私は、一生分泣いたのかも
それくらい、泣いた

泣いて、泣いて



泣いても、悲しんでも、嘆いても

戻ってこない



知ってる、わかってるけど




「お腹空いたな。」

そうつぶやいて、部屋から出た


本当はずっと部屋から出たくないけど


塞ぎこんでても何も変わらないし… そうやって自分に言い聞かせた

「…」

自然と私は無口になった


喋る相手がいないからだ



なんだかんだいって、この鎮守府で一番の新入りは、私

意気投合できる人を見つけるのは難しい


「あ…あっ、瑞鶴さん」

ぼーっと、机に座っていると 聞き覚えのある声がした


「電ちゃん…」

「…あの、大丈夫ですか?」

「どこかおかしかった?」

「なんだか、前より暗い気がします…」

「…そっか、ごめんね」

「謝らないでほしいのです、あと、 前ぶつかっちゃった時のお返し、したくて」

ああ…そんなこともあったかな

そう言って、小さな袋…  お守りを渡された


「あんまり上手に作れてないかもしれないですけど… これで許して欲しいのです」

頭を深々と下げる

「あ、私は怒ってないって… ほんとに、わざわざありがとう、ね、いいから」


「ありがとうございます…」

「ほら、お姉ちゃん達、待ってるよ?」

少し向こうには、電ちゃんのお姉ちゃん達が待っていた


もちろん、話したことはない

「それでは。」


そう言って、駆けて行った


「お守り…」


もっと早く持ってれば、赤城さんは…


いや


やめよう

――

――

ダンッ

どこからか固いものを叩く音が聞こえる

「くそ…何を変えれば…」

「装備、練度…弾薬、燃料… 問題ないだろ」


「…とにかく、やってみるしかないのか」



「俺は、駄目な奴だな…」
カチン


「至急、第一艦隊は執務室に来い…   それと、瑞鶴」



瑞鶴―

「えっ」

私の名前…



そっか

出撃なんだ










全員が集まるや否や、提督は頭を下げた


「申し訳ない」


「…どうして謝るんです?」

大和さんが聞く


「司令官である、俺の責任だと思っている」

「提督、もう自分を攻めるのはやめろ、赤城に想いをなんだと思ってる」


ゆっくりと、頭を上げた



「… こんなことがあったあとで本当にすまないが、 お前らにはまたあの海域へ出て貰うことになる」

やっぱり、と言った顔を皆する

「…埋め合わせ、とは…聞こえが悪いが、瑞鶴に出てもらう いいな」

「…はい」


「そこで、ひとつ聞きたいんだが… 前回の出撃の敗因は何だ」

「俺なりに考えたが… 問題はなかったはずなんだ」



誰も答えない


理由がないから、なのか

ちゃんとした理由がないから、なのか



「加賀」

加賀さんが手を上げる


「士気の低下です」




「…そうか   それでいい」

――

――

出撃は、明後日

あまり引き伸ばすと、敵が回復するかもしれない

そういう面から、私達のことも考え、明後日が最適だった




絶対倒してやる


それ以外何も考えてない


赤城さんの仇?


それとも、艦娘としての、使命感?



わからないけど、とにかく倒さなければ「いけない」そう感じた





パーン―…



パーン―…






「瑞鶴サン」

無心で矢を射っているとあまり聞き慣れない明るい声が聞こえた

「…金剛さん?」

「よかったデース!ここに居ました!」


「はいコレ、テートクがちゃんと作戦を考えたから、目を通して欲しいとの事デース」

「でも、なんで金剛さんが?」

「ンー…  執務室の近くを歩いてたからですかネ?」

「そ、そうですか…」


「ア、邪魔しちゃった…カナ?」

「ああ、大丈夫…」

「良かったら、見ててモ?」

「あ、どうぞ」


誰かに見られながら矢を射る…

加賀さんには、いつも指導をされているので、下手に失敗しても
また指導しなおされるだけだが

… こうして他人に、期待しているような目を向けられると、どうも落ち着かない



「っ…」
キリッ…


「瑞鶴」

「ひっ!」
ヒュバンッ… 

情けない音を立てて、地面に突き刺さる

「びっくりした…」

「…邪魔したかしら」

「あ、大丈夫…  です」

「お邪魔してマース」

「あら金剛、こんなところに珍しいですね」


「…瑞鶴、その弓、あなたのじゃないわね」

「えっ、どうしてです?」

「近くで見ていたもの、それくらいわかるわ」

「…  赤城、さんのです」


「そう」

何を言うわけでもなく、加賀さんはよくわからない顔をした


「話したいことがあって」

「作戦についてですか?」

「…いいえ」

「わかりました」


「あ、金剛さん、ごめんなさい」

すこし残念そうな顔をして、しょうがないネ、とこぼしていた









「話って、なんでしょう」

「座って」

無視された


海が見渡せるベンチに座る



「単刀直入に聞きます」

「赤城さんが居なくなって寂しいですか」

「…はい」

「引きずってるものはありますか」

「ない、です」

「そう」


「加賀さんは…」

「どうなんですか?」


「あなた以上に悲しんでいるつもりです」


「こういうのは、良くないかもしれませんが  忘れたほうがいいと思います」

「後から哀れむことは、いくらでも出来ますから」

「…そうですね」

「出撃になるけど、何か問題はある?」

「いえ、特にはないです」


「ならよかった  あと、願掛けのつもりですけど、これをどうぞ」

加賀さんが持ってきていた弓袋から、矢が一本出てきた

「ただの矢です、が 私は、いままでこれをお守り代わりにしていました」

「…矢ですか」

「…いりますか?」

「あ、是非!」







「ところで、話は変わりますが」

「はい?」

「あなたは深海棲艦とはなんだと思いますか」

…急に深いことを問われた

確かに、今まで「敵」としか認知していなくて

その正体を深く考えることはなかった


深海棲艦、とはなんだろう?

そもそも、敵とはなんだろうか?


「わかりません…」



「深海棲艦とは―」

「人類を攻撃してくる敵…いわば悪者。 それを撃退、せん滅がうちらの目的…」

「深海棲艦は、艦娘と同じような肉体を持ち… 同じ武装も持つ」

「こんなところか」

急に割って、提督が混ざってきた

「前から気になっていたのですが 私達と同じなら、彼らの身体に攻撃を当てても、効果はあるんでしょうか」


「…あるだろうな、そいつらのパーツの一部とは思えないし… 中に心臓のようなものでもあるのかもな」

「彼らを動かす原動力ということで?」

「多分な」


正直話しについていけない


「殴りでもすればダメージが入るんじゃないか」

と、小馬鹿にするように言う

「そうですね」

華麗にスルー

「で、どうしたんだ二人とも、こんなところで」

「え、今更それを聞くの?」

「全くです」

「面白そうな話しをしてて、つい、な…悪い」


「いつか、戦いが終われば、良いですね」


「それまでの辛抱だ」



いつの間にか日も暮れ、中に戻ることにした

夕食にはまだ早かったので、翔鶴姉のところへ…




「ね、翔鶴姉」

「私ね、第一艦隊の編成に入っちゃったんだ」

「凄いでしょ、翔鶴姉と並んじゃった」

「…もし起きたら、一緒に出撃したいな」

「それまで、休んでて… 私は戻ってくるから」



ここで切ります
まだ続きますのでよろしゅう

乙と言ったそばから開始



それからというもの…と行ってもほんの二日限りだけど
加賀さんが一緒に居てくれるようになった

別に嫌じゃなかった、というより、安心する気がした




――




その日はすぐ巡ってきた



あの時のように、鎮守府総出で、見送るみたい



「…雪辱を果たせとは言わん」



「どうか、生きて戻ってきて欲しい…」


「きっとあれを倒せば、…しばしの平穏は約束されるだろう、多分…な」



「しっかりしろ、お前らしくない」


「…ああ、そうだな」




「行け」




静かに、私達は水平線へと向かう

「…敵艦隊です、編成は前と同じ、水雷戦隊です」

「弾薬を残しておけ、最小限で抜けるぞ!」

「フフン、前回でもう学習したカラ、動きはお見通しネ」

「では、私達につづいて砲戦をお願いします…  瑞鶴」

「はいっ!」




まあ、ここで躓く私達じゃなかったけどね


そのまま道中で、敵艦隊は何回も遭遇したけど、ほぼ無傷で来てる



いまさらながら、私は、今まで補欠だったのに、
最前線に回されていることを、ちょっと非情だなと思った

仕方のないことだけど





「次を抜ければ主力だ、気を抜くな!」

「長門さん、私に殿を務めさせてください」

「…被害担当になると?」

「ええ」

「…」

「大丈夫です」

大和さんは戦場で見せるとは思えない、優しい笑顔をしていた

が、戦闘ともなれば眼の色も変わる

「あっ、ちょっとやだ… 第三砲塔が…」

「どうかしましたか?」

「…故障しちゃったみたい… 動かないわ」

爆発はしないようだ


「チッ… 思っていたより弾薬を残せないかもしれない… 金剛、弾は!」

「余裕ヨー! ちゃんと残すから安心してくだサイ!」

弾の口径が小さい分、余裕はあったようだ


ドゴン― ばすんっ

「きゃあっ!」

「大和!」

「うっ… 攻撃が激しいですね…」

「くそ…長引かせるな!そろそろ決めるぞ!!」




結果は、なんとか撃退

大和さんが、思わぬ被弾で、損傷が思ったより大きいらしい


「瑞鶴、まだ余裕はある?」

「あ、大丈夫です… ひーふーみーよー… …  全然あります、あと、加賀さんの矢も」

ちょっと冗談交じりに笑いかけてみた

「そう」

普通に見れば、すまし顔かもしれないが

確かに見えた、すこしだけ笑ってくれた






「次で最後です、接敵したら、思い切り飛ばします いいですね」

「…はい!」

「…」

そうだ、この辺りで赤城さんが…

「見えました、行きます」





「もう…回復をしてないとはいえ、ピンピンしてるわよ、アレ!」

「装甲が半端どころじゃないな… ありったけ撃ちこめ、全部だ!」


辺りが、戦艦の砲撃で硝煙に包まれる

空で弾と弾が交じり合い、海に沈む



そのなかで艦載機を飛ばすけど、飛ばした艦載機はすぐ見えなくなる

夜だからか見えないのか

それが落ちてしまったのか

攻撃をできたのかわからないまま



ゴス― パーン!!
「ぐあっ!」

聞いたこともないような音だ

「くそ…装甲が割れてしまった… ここまでなのか…」

「長門、まだ終わってないわよ!」

「ダメだ、くそ―危ない!」

「あっ、ちょ…―」

ドゴォン

長門さんは―


まだ生きている


「すまんな、陸奥… もう、動けん…」

「なんで庇ったりなんか…」

「構うな、前を見ろ…!」




「くっ…やっぱり最初の損傷が…」

「ああっ!」


「大和!? モウ!大和が居なくなったらどうすればいいんデース!? 起きてくだサーイ!」


「ごめんなさい…大丈夫ですから気にしないでください」



そんな、戦艦達が消耗する中、私達も当然ながら、無傷というわけにはいかなかった

「くっ… これ以上避けきるのは…」


「どうしよう… もう、矢が…」


「瑞鶴、攻撃は!」


「もう、無いです…!」


「…そうですか」



絶望だ、長門さん、大和さんは重大な被害

陸奥さんは、ほぼ無傷とはいえ、砲塔が故障

残るのは、金剛さんと攻撃手段のない加賀さんと私

「あと、あとすこし…あいつだけなのにっ…」

「陸奥!  避けテ!!」

「きゃっ… もう、どうすればいいのっ…!」


ドォン
「きゃあッ!!」

「な、何、今の!?」


「痛いデス…三式弾…?」


「あいつら、榴弾まで打ち込んでくるの!?」

「聞いてない、ですヨ…」


また一人、動けそうに無くなる



「加賀ー!瑞鶴ちゃーん! どうすればいいかしらっ!」

陸奥さんが大声で呼びかける


「私達も攻撃手段はありません!」

私が返事をする


「積んだ、わね…」




「ふふ…」

「えっ…」

加賀さんが、今確かに笑った


「…瑞鶴」

「はい!」

「…この私と引き換えに、あれを倒せると思いますか」

一瞬行っている意味が分からなかった

気づいたら、目の前にはいない




加賀さんが



「待って…加賀さん、待ってっ!!」




「加賀…駄目っ! あなたまで…あなたまで!!」


陸奥さんも駆け出そうとする、が、思ったように動かない


私もだ


足が震える







加賀さんがいなくなる?






駄目




駄目、駄目





カツっ…

「…どうせここで死ぬのなら、お守りは必要ないですね…」

キイッ…


「赤城さん―…」


「ごめんなさい―」

シュバッ―…    かつんっ



「弾かれましたか」




「一矢報いることも出来ませんでしたね…」

ガコンッ

にたぁ、と笑っている


加賀さんに、その主砲を向け、不気味に笑う






ドンっ





「ああ、ああっ…」

「か、がさん…    なんで…」

「もう、やだっ… 一人に、しないで…  一人にしないでよっ…」



「瑞鶴ちゃん… 駄目、なんで、なんで私ばっかり残るのよっ…」

「もう、壊れた主砲なんて要らないっ…」 

バキンっ


「今、行くからねっ…」



「もう… 嫌だ」


「… あああっ… あああああっ!!!」

いままで湧くことのなかった、怒り、憎しみが溢れでた

自分でも、頭から血を吹き出しそうなほどに


「瑞鶴ちゃん…」



――

――

「前から気になっていたのですが 私達と同じなら、彼らの身体に攻撃を当てても、効果はあるんでしょうか」


「…あるだろうな、そいつらのパーツの一部とは思えないし… 中に心臓のようなものでもあるのかもな」

「彼らを動かす原動力ということで?」

「多分な」

――

そうだ…


カッ…


キィッ…


「これで、終わってよ…」



「これで、死んでよ…!」


よく見ると、前に見える大きな深海棲艦の肉体には

矢が刺さっている



だが、加賀さんの矢は弾かれていた


わたしは射っていない




「赤城、さん…」


ガコンっ

ついに私にも、遅れて主砲が向けられた



矢は、私達で言う腹部に刺さっている


まるで、痛みを感じていないようだ




狙った


そこを狙った




話がホントなら

ギィッ…

パシュンッ―


バキィッ



矢が、矢に当たった



渾身の矢は、刺さっていた矢に当たった


そして、それごと貫き



肉体を貫いた




ア゛ッ―…



ア゛ア゛ッ…



肉体を貫いた場所から、肉体は膨れ、

その化物の主砲、肉体、装甲  全てが散る






「瑞鶴ちゃんっ、大丈夫?」



「えっ…」


気が付くと、海の上


日が昇っている



「…瑞鶴ちゃん… 終ったみたいよ」


「…そう」


こつん、と、何か足に当たる


矢が浮いている


… 加賀さんの物に間違いなかった


「ひ、うっ… うっ、ぐ…   ごめんなさい……」

結果としては、深海棲艦を撃破することに成功

しばしの平和は約束された



…損害は大きく、大和さん、長門さんは大破
金剛さんは中破、陸奥さんは小破

加賀さんは、沈んだ

わたしは、かすり傷程度




今考えてみると、加賀さんの行為は無駄だったのかもしれない



…そのおかげで倒せたと言えなくもないかもしれない





「……終わったんだな」

「ええ、この通り、みんなぼろぼろだけど」

「すまないな、陸奥…もう降ろしていい…」

「無茶言わないの、あなた立ててなかったじゃない」

大和さんと金剛さんは、互いを支えながら、ゆっくりと戻った


「瑞鶴、お前怪我は」

「…ないわ」


「…大和、長門、陸奥、金剛、瑞鶴…   加賀、お疲れ  休め、報告は明日でいい」


ぜんぜん嬉しくない


犠牲を払ってまで倒すべき相手だったのか

もし退却していれば、誰も失わず戻れたんじゃないか



「あ、瑞鶴さん!」

駆け寄ってきたのは、医務室によくいる妖精さん

「…何?」

「翔鶴さん、目を覚したよ」

「え…」




「瑞鶴…」

「翔鶴姉… 目、覚ましたんだ…」

「…ごめんなさい」

「なんで謝るの?」

「だって…心配だってかけたし、出撃でも―

「言わないで」

「聞きたくない、言い訳なんて聞きたくない」


「ごめん、なさい…」


「…私、戻るから… 休んでて、ね?」

何やってるのかな、私

あんなに好きだった翔鶴姉だよ
あんなに心配していた、誰よりも

なのに、どうして優しい言葉ひとつ、かけてあげられなかったんだろう


だめだな… 



「で、ほんとになんともない?」

「はい、お世話になりました」

「いやいや、それなら瑞鶴さんに言ってください 毎日来てくれてたんですよ」


「今日の出撃の前の日も、その前だって」




「…あの、私がこうしている間に、何かありましたか」



「ああ、今日の出撃の前にもね、出撃があったんだけど…」








何時間経ったか

あれから何時間経ったか


眠れもせず、動きもせず

ただうずくまって壁を睨む





なぜ赤城さん、加賀さんが死ななければならなかったのか

あの時私が行っていれば、加賀さんは残ってたんじゃないのか

私なんかより、あの二人が残っていたほうが有意義だったんじゃないか


なぜ、私は残されてしまったのか




それに、私はかすり傷程度しか受けなかった




申し訳ない

申し訳が立たない


何が幸運艦よ


周りが死んで、私だけ生き残る?


そんなの生き地獄と同じ







「提督、失礼します」

「…翔鶴、もう大丈夫なのか」

「はい、ご心配おかけしました…」

「良いんだ」

「それで、話しとは?」

「まあ、座れ」




「お前が眠っている間に、何があったか知っているか」

「はい、聞きました」


「…関係ないと思うのですが」

「私は、夢を見ていました」

「海の中に沈んでいて」

「海の中から、戦っている人たちが見えました」

「…」

「沈みかけていた人を、狙って沈めている怪物も見ました」


「それがどうした?」

「なんでもないです、ごめんなさい」



「…話を戻そう まず、赤城と加賀の埋め合わせについてだ」

「お前も知ってる通り、あいつらは、一番の空母だ、今でもだ」

「だが、今は居ない  そこで、翔鶴、瑞鶴に任せることになる」

「…わかっていました」

「…長門達のおかげで、しばしは出撃は減るが、な」

「それまで、動かせるようにと?」

「ああ」

「もちろんです」


「瑞鶴も、大分滅入ってる  姉のお前が引っ張ってやらないと駄目だ」

「あいつは、しっかりしている」

「…」

「いいな」

「はい」

「戻れ」

…何やら外で、数人の話し声が聞こえる


大丈夫でしたか、とか 心配していた とか


ガチャッ

「…瑞鶴」

「翔鶴姉…    大丈夫、なの」

「ごめ―…     …大丈夫よ」

「さっきは、ごめんね」

「瑞鶴こそ、どうして謝るの?」

「だって…」

「いいの、瑞鶴…   私のところに毎日来てくれてたんでしょう?」

「…うん」

「ありがとうね」

「うん…」

「辛かったでしょう」


「え…」


そう言われて、忘れかけていたこと、全てが走馬灯のように流れた


「うん   うん… 辛、い… 寂しかった、すごく…」


「何もしてあげられなくて…    ごめんなさい」


「謝らないでよ…っ   もっと悲しくなるよ…っ」


「泣かないで?」


「っ別に… 泣いてなんかいな、い」

ぽろっ

「あれ…  変、涙が出てきちゃった…」

ぽろっ、ぽろっ


「瑞鶴」


「な、に…?」


「抱きしめてもいいかしら」


「う、んっ―…」







ターンっ…   パヒュン―


「お、もうやってるのか」

「あ、提督さん、おはよう」

「おはようございます」

「ああ、おはよう… もう出撃しないって言ったはずだぞ?」

すこし小馬鹿にする顔で言う

「身体が鈍るのよっ」

「私は、何もしていない時間が多かったので…」

「それもそうか、無理するなよ」

「はい、ありがとうございます」


「…」




「ちょっと、いつまで居るつもり?」

「見てたら駄目か?」

「見られてるとうまくいかないのよ」

「なら失礼するか、じゃあな」

コンコン、と、弓道場の壁を叩く音がする

「すまない、私だ、少しいいか」

長門さんだ

「あ、はい!」

「長門さん…」

「と言っても、他のもいるけどな…」


「おはようございます」

「瑞鶴ちゃんおはよー、翔鶴さんも」

「ちょっと!大和達が邪魔で見えないネー! 翔鶴ー!瑞鶴ー!私もいるヨー!」

賑やかだなあ…



「…昨日は、足を引っ張ってしまって申し訳なかった」

「少し、慢心していたかもしれませんね」

「だって、まさか真正面から、それも主力じゃないのから攻撃を受けてたもんね?」

「馬鹿にしているんですか…?」

「でも大和だから耐えれたのかもねー…」

「にしても、瑞鶴はほとんど無傷でしたネー」

「あ、はい…」

「…おっと、皮肉になるかもしれないからこれ以上は言いまセン」

空気は読んでくれた

「おいお前ら…昨日のことを反省するために来たんだぞ…」


「ふふ、いいじゃないですか、楽しくって」


「翔鶴、お前は大丈夫なのか」

「はい、おかげさまで」

「はは、あれは驚いたな… 新型の空母が来るなんて予想していなかった」

「…そういえば、さ 翔鶴姉、なんで加賀さんを庇ったの?」

皆、黙る

まずいこと言ったかな…

「… だって、攻撃が真上まで来ていたし、危ないと思ったから、とっさに?」

「やっぱり優しいんだね、翔鶴姉…」

「さて、邪魔したな そろそろ戻る」

「あ、お茶、ご馳走様でした」

「じゃ、翔鶴さんも頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」

「瑞鶴ー、今度また、弓を射ってるとこ見せてくださいネー」

「あ、は、はい…」

自信ないなあ…



それと、赤城さんの弓、加賀さんの矢は、使わないことにした

いわば、形見にしておくことにした



いつまでも、私達自慢の先輩だから


せめて、何か残しておければと


お墓や写真はないけれど


代わりに私の心のなかにはある

とっても優しかった赤城さん


厳しく、優しく いい先輩だった加賀さん

忘れることもないだろう

それからずうっと後の話し

もう11月になった

すっかり道場の床は冷たく、そろそろ耐え難い


「すっかり寒くなってきたね…」

「そうねえ…」

「床が冷たい… 暖房とか無いの?ここ…」

「提督に頼んでみましょうか」

「そ、そうね…」




「そういえば、最近ずっと工廠に籠りっぱなしだよね」

「ふふ、なんででしょうね…」

「えー、翔鶴姉何か知ってるの?」

「いいえ」

「嘘っ、絶対何かある言い方だもん」

少しいたずらしてみよう…

「あ、翔鶴姉、何か足元に落ちてるよ」

「え?」

「それっ」

背中に手を入れてやった

「きゃっ!? ちょ、ちょっと…冷たい!」

「何のことか教えてよー」

「うう… も、もう… 瑞鶴、動けないから…」

「あ、そうだねー」

がし

今度は首をつかんでやった

「きゃあっ!」

「あー、首暖かいなー」

「うう…瑞鶴、そんなに意地悪しないで…」








「…これで何回目だろうな」

「かれこれ二十はいっているでしょう」

「やっとだな」

「ええ、向こうのドッグでもそろそろ建造が終わります」

「夕食時ぐらいに終わらせるようにしてくれ」

「了解しました、調整します」






それから、街に出かけることにした





「瑞鶴、はい」

「え、なあに、これ?」

「あら、忘れてたの?今日、何日か」

「…11月の… 27日…  あ、私の…」

「おめでとう、瑞鶴」

「覚えててくれたの!?」

「当たり前じゃない、妹よ?」

「うっ…」

いざ言われると照れる

「ううん…ありがとうね、翔鶴姉 開けてもいい?」

「ええ、 あまり良いものじゃないかもしれないけど」


髪留めだった

ずうっと、同じようなものを使いまわしていたので

実際ものすごく嬉しい


「…ううん! 本当に嬉しい! 機会がなくて変えれなかったんだけどね… ありがとう」

「喜んでくれたなら、いいわ」





「ああ、そうだ… また無理は話かも知れんが」

「なんですか?」

「以前までの記憶とかは?」

「…そうですねえ」

「出来ないこともないとか?」

「不思議な力でもあれば…」 ちらっ

「不思議な力?」


「そう、お金で買えるかもしれないものです」





がやがや…

「ね、これ着けてもいい?」

「ええ、いいわよ」

「…あ、やっぱり翔鶴姉が着けて」

「…ええ」



「うん、いいかも」

お店のガラスを鏡にして確認

「気に入ってくれた?」

「うん、もちろん!」

「さて、そろそろ戻りましょうか」

「えー、もう戻るの?」

「みんなが待ってるわよ?」

「…? まあ、そう言うならいいけど」






「…ったく、これでいいのか」

「ええ、私達妖精は不思議な存在ですから、不可能も可能にしちゃうんですよ」

「不可思議だな」

「ええ まあこれでなんとかなりますよ 終わったらお呼びします」

「任せた」






「うー、寒い… もう11月って感じだな…」


「あ、提督さんだ」

「寒そうですねぇ」

「あの顔見てるともっと寒くなりそうだわ」

「おい、聞こえてるぞ」

「聞こえるように言ったもの」

「全く…せっかく誕生日だってのに、おめでとうを言う気も無くしそうだ」

「え、覚えててくれたんだ、提督さんも」

「おう おめでとう プレゼントあるから楽しみにしとけ」

「どーせしょぼいものじゃないの?」

「瑞鶴…」

「ふん、あっと驚くぞ 今に見とけ…   うぅ、さぶさぶ」









「やっぱり外食しても良かったんじゃないの?」

「私はここにいるほうが好きよ?」

「そんなもんかな… 今度出かける時は行きたいけど…」

「ええ、今度ね」


「ああ、瑞鶴 ちょっとここの前二つの席、空けておいてくれないか」

「え? 提督さん座るの?」

「俺がいいか?」

「やだ」

「ありがとよ」

「あはは…」









―ん…


おお、終わったか!

ええ、どちらも終わりました!

急げ、急げ


― うるさいですねえ…   


「よっこいしょ…」


「… よう」

「あ、提督 どうも」


「あら、もう貴女も…」

「ちょっとこっちのほうが早かったな」


「二人共、来い 待ってる奴が居る」



「私達、なんでここにいるんでしょうね」

「… 考えても無駄そうです」

「でしょうねー」








「席を空けておいてって、誰もこないじゃない…」

「きっとすぐよ」


ざわっ…  えっ?  なんで…?

「え、な、何?」

「誰か来たみたいよ」


ほ、ほんとに?  まさかこんなことが、ねえ…


「よお、瑞鶴 待たせたな」



「あ…」

「お久しぶりです、瑞鶴さん」


「また貴女の顔が見れて嬉しいわ」


「赤城さん、加賀さん…」


「誕生日おめでとう、瑞鶴」

「え、瑞鶴さん誕生日なんですか?」

「聞いてなかったんですか、赤城さん」


「じゃあな、積もる話もあるだろ」



しばらく唖然とした


「えっ、あっ、えっ」

「大丈夫ですか?」

「口をふさぎなさい」

「瑞鶴」


「あ、えーっと…」



「…おかえりなさいっ!」

終了です

瑞鶴が育てられないので気晴らしに書いてみました

地の文自体久しぶりなので、不自然な箇所が多いと思いますが
書ききれて良かったです(というより書きためてたんですけど)

見ててくれた方、ありがとうございました

HTML依頼出したにもかかわらず書き込みすることを申し訳無く思います

見返して気づいたのですが
>>17>>18 の間のつながりが不自然でした
どうやら書き溜めしているものをよく見ずに投稿してしまったようです
一応投下しておきます

工廠


「どうなんだ、翔鶴は」

「…まあ、沈にはしませんでしたが、沈ぬ直前です それに、意識もありません」

「なんてこった… アウトレンジからの爆撃なんて、想像もしてなかった…」

「深海棲艦も、変わってきていますね」

「主力が、一人欠けたな…」









「…」 キリキリ

私は弓道場に居た

 パァンッ

自分の無力さに、憤っていた

カツ…   キリキリ

だから、弓を放って、自分を落ち着かせていた




翔鶴姉は、加賀さんの言葉から聞き取る限りでは
加賀さんを庇って、翔鶴姉が爆撃を受けた…ということだった

加賀さんが…


「瑞鶴さん」

思わず驚いて、振り向いた

そこには加賀さんとは対照的な人物の赤城さんが居た

「今日は、お疲れ様」

「…はい」



私は促されるように、赤城さんの隣に座った

「今日、翔鶴さんが被害を?」

「はい…」

「どうして?」

「翔鶴姉が、庇って…」

「誰を?」

「加賀さん…」

「…」

一呼吸置いた

「瑞鶴さんは、何かしてあげられた?」

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