少女「もう人間なんて懲り懲りです…」 老人「なるほどなるほど」 (12)


朝。
路面が凍結していて、登校中の私を何度も転ばせようとしてくる。

少女「はぁ…」トボトボ

憂鬱だ。
そう私に思わせたのは、この朝の凍えるような寒さではなくて、
今向かっている場所…。
即ち、学校と呼ばれる施設に近付いている事実と、そこにいる者達である。


キーンコンカーンコーン…


少女「あっ!」ダッ

玄関で鐘が聞こえたので、私は三階に急ぐ。
三年生だから、三階。何とも安直なものである。


ガララッ

私は先生がまだ来ていないことを願いつつ、震える手で戸に手をかけた。

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佐藤「あっ、少女ちゃん遅い! 遅いよー!」

少女「……」チッ

入ってすぐに視界と聴覚に侵入してきた者。
髪を後ろに結った所謂ポニーテールの、童顔娘。
汚れを知らない顔をしておいて、私に会った第一声が
「おはよう」ではなくて、私のミスを咎めるような発言だったことに。
私は、非常に腹を立てている。
挨拶は常識ではなかったか?

そんな私の模様を無視して、彼女はまた口を開いた。

佐藤「少女ちゃんったら、いつも遅いよね。普段は何時に寝てるの?」

この名字しか記憶に残っていない少女の質問に、
私は懇切丁寧に答えてやることにした。

少女「ええとですね、佐藤さん。普段私は、時間を忘れて読書に没頭していますので、自然と就寝時間が遅くなるんです」

佐藤「本当かな? 実はゲームしてたり…」

少女「してません」

そこらの稚拙な面の生徒と一緒にしないでほしいと、
声を大にして言いたい。

佐藤「まあ、頭脳明晰な少女さんに限って。そんなことはないか!」

少女「はい」チッ

…分かってるじゃないか。

担任「はいぃー、お前ら席つけぇーい」

少女「!?」

一体いつからそこに居たのか。
そこが問題ではない。問題は、その手元の紙面に載っている私の名前の横の欄にチェックされていないか、だ。
私は、この自慢の3.0の視力をここぞとばかりに活かして最後列から担任の手元を盗み見た。

少女「……ふっ」ニヤリッ

印は、無かった…!
つまり、私のミスはミスにならなかったのである。

今すぐにでも勝利の美酒にありつきたいところだが、
ここは学校。そんなことはしない。
ちょっと微笑んで勝ち誇るだけに留めておこう。


佐藤 (少女ちゃんの隣に居ると、いつもしている清ました表情とはまた違う)

佐藤 (変な少女ちゃんが見れるなあ。私って、幸福なのかもしれない)


なんだか一瞬。
佐藤の腹の立つ思考が読めた気がするが、
生憎私にはそのような超能力が備わっているはずもなかったので、気のせいにしておいた。


少女「……」チラッ


後ろの黒板には、今日の一時間目は数学とあった。

そういえば数学の教師は面倒臭い授業をする奴だったのを思い出して、
今日もまた憂鬱な日が始まるのかと早速私を凹ませたのである。

【一時間目 数学】

ガララッ

少女「きたっ…!」

佐藤「何でそんなに身構えるの?」

それは佐藤。愚問というものである。
佐藤も知っているはずだ、私の目が段々ジトーっとしてくる訳を。


数学教師「んー、いい朝だ。はい皆おはよう!!」

クラスメート「おはようございます!」

私を除いたクラスの皆の元気な挨拶を聞いて、
奴は満足げに頷き、

数学教師「うん! では早速少女君、問題だ!」

少女「は?」エ?

私に突然問題を出してきた。
いつものことなので、私もいつもの通りに返す。

少女「あの。授業をしてください」

数学教師「(2a-b)x (b-2a)x3乗を因数分解したまへ!」

少女「あの…」

数学教師「30秒で! いーち、にーぃ、さーん…」

少女「……」チッ


駄目だこいつ、聞いちゃいない。
なまじ私の頭が良いばかりに、三年生になってからこういう訳の分からないものが続いてしまっている。
何故だ。何故授業を止めてまで私に挑戦する?


佐藤「えーと。う、うーん…?」


そして佐藤。お前は考えなくていい。

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