男「俺って言いたいことを言えない男なんだよなぁ」(20)

男「俺ってさ……」

男「言いたいことを言えない男なんだよなぁ」

女「あら、そうなの? 信じられないわ」

女「たとえば、どういう時?」

男「たとえば、そうだなぁ……」

男「家電量販店ってあるだろ?」

女「ええ、私もたまに行くわ」

男「ああいうところで、パソコンとかデジカメを買おうとするじゃん」

女「うん」

男「で、ぶっちゃけどれも似たようなもんだから、すっごく悩むじゃない」

女「そうね。どれも一長一短あって、即決はできないわね」

女「だけど、ああいう店の店員さんってすっごく詳しいじゃない」

男「そこで俺、店員に聞けないんだよなぁ」

男「これとこれの違いはなんですか、とか、この中でオススメはどれですか、とか」

女「あら、そうなんだ」

男「うん……」

男「聞いちゃえば一発なのは分かってるのに、なかなか聞けなくて」

男「しょうがないから近くに置いてあるカタログを頑張って読んじゃう」

男「結局、時間の無駄なんだけどね。店員が話しかけてくるのを待つしかない」

女「そりゃそうよ。容量が何バイトとか、何万画素とかだけ見比べても、なかなかねぇ」

女「だけど、ああいう店の店員さんってすぐ寄ってこない?」

男「たしかに、なにも買うつもりないけどふらりと寄ってみました、って時には」

男「結構寄ってくるんだけど……。で、正直うざいなぁ、とか思ったりする」

男「でも、本気でどれか買おうって思ってる時に限ってなかなか来ないんだよ」

男「あっちはあっちで、この人本気で選んでるっぽいからそっとしとこう」

男「──なぁ~んて、気持ちになってるのかもな」

男「で、パソコンどころか、周辺機器一つ買うのにも一時間ぐらいかかったりする」

女「あらま……」

男「他にも、洋服屋でもこんな感じ」

女「店員さんに聞けないんだ」

男「うん」

女「じゃあ、自分で好きなデザインの服を見つけ出すしかないわけだ」

男「見つけたとしても、“これ試着していいですか?”がなかなかいえない」

女「どうして?」

男「なんでだろ……。試着したら買わなきゃ悪い、って空気になるからなのかな」

女「だけど、サイズが合ってない服買ったってしょうがないじゃない」

女「そこは割り切らないと、キツキツの服やダボダボの服を着るはめになるわよ」

男「たしかに……そうなんだけどね」

男「だから逆に、試着室がいっぱいあって“自由に試着しろ”ってスタンスの服屋は」

男「すっごく落ちつく」

女「でも、そういうところでオシャレな服ってなかなかないでしょ」

男「そうなんだよなぁ……」

男「で、特に顕著なのが、やっぱり飲食店だろうな」

男「まず、店員を呼びつけるのが苦手」

男「すみませぇ~ん、ってのをなるべくやりたくない」

女「それじゃ、飲み会で接待とか幹事とかできないんじゃない?」

男「そういう時はなぜか平気なんだよ」

男「今は自分がそういう役割だから、っていう意識が働いてるからかもしれない」

女「だけど、プライベートじゃダメなんだ」

男「そう。で、もし俺の精一杯のすみませぇ~んが、店員に聞こえなかったら最悪」

男「数分間は勇気をチャージしないと、第二回のすみませんをいえない」

女「あらぁ~」

男「だから、一人でメシを食べる時は、なるべく食券があるところにしてるんだ」

女「ああ、食券なら店員さんを呼びつけなくていいものね」

男「そうそう。食券を出しておけば、あとは勝手にやってくれる」

男「あと、居酒屋やファミレス、喫茶店なんかも、店員呼ぶボタンがないとこは苦手」

男「回転寿司でも、新しいのを直接注文するってのがなかなかできない」

男「いっつも回ってるのから取って食べる」

女「回ってる寿司って回りすぎてカピカピになってるのが多いものね」

男「他にもほら、ラーメン屋で替え玉頼めるところがあるけど」

男「あれもなかなかできないんだよね」

男「ホントはもうひと玉ぐらい食いたいとか思うんだけど」

男「店員にいうのがなんかイヤで、我慢しちゃう」

男「別に小食でもないし、ダイエットしてるわけでもないんだけどね」

女「食べすぎないって意味では、いいかもね」

女「なんで、言えないのかしら」

男「なんでだろうなぁ……」

男「忙しく働いてる店員を呼びつけるのは悪い、みたいな感覚なのかなぁ」

男「今呼んだらテンパっちゃうかな、とかつい考えちゃう」

男「だから、明らかにヒマそうにしてないとなかなかいえないんだよ」

女「研修中の新人ならともかく、ベテランならそんなことにならないわよ」

女「ま、たまにいる、客は店員に何してもいいなんて思ってる人は」

女「少しはあなたの遠慮がちなところを見習った方がいいかもしれないけど」

男「これが店なら、まだ買い物の効率が悪くなるだけで済むんだけど」

男「問題は仕事さ」

女「職場でも、言いたいこと言えないの?」

男「なかなかね」

男「明らかに貧乏くじ引かされてるのに、文句一つ言えなかったりする」

女「大変ねぇ」

男「さいわい今の部署って、そんなに悪い人いないし」

男「職場でいいようにこき使われてるってわけでもないんだけど」

男「他の人なら一言ぐらい反論するだろうな、って場面でなにも言えない」

男「つらいってわけじゃないけど面白くないな、って時は正直あるな」

男「今はまだいいけど──」

男「もし異動して俺みたいなのをこき使うような奴と一緒になったらと思うとぞっとする」

女「ストレスためすぎないようにしてよ」

男「……ありがとう」

女(それにしても、本当に信じられないわ)

男「じゃあスッとしたところで、さっそくセックスしに行こう!」

男「なんかさっきからチンコがギンギンにたぎっちゃってしょうがないんだ!」

男「愚痴聞いてもらったお礼にヒィヒィ言わせてあげるからさ!」

男「というわけで、レッツ性行為!」

女(初めて合コンで出会った時からずっとこんなノリだったこの人が)

女(性のこと以外では、言いたいこと言えない人だったなんて……)





おわり

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