男「エロ本、ゲットだぜ!」(13)

高校生がわざわざ隣街の本屋まで行く理由といったら1つしかない。

よほどの本好きだとか、街に本屋がない、なんてこともあるかもしれないけれど。

それも私服で、髪型を変えて、放課後、こっそり、といったらやっぱり1つしかない。

月に一度の楽しみ、エロ本を買いに行くのだ。

健全な男子高校生には発散が必要なのだ。

さもなければこの世は性犯罪に満ちているにちがいない。

目覚めよリビドー。

電車から降りると吐く息が白い。すっかり冬だ。

住んでいる街よりは少し賑やかなこの街も、駅から離れればさほど変わらない。

電灯が減ってちょっと薄暗くなったその角にお目当てのお店がある。

自動ドアをくぐれば暖かい空気。ほっとする。

この店の店番は無機質なおじいさん、それでいてその手の本の品揃えは豊富なのだから堪えられない。

一見して外からの見た目は普通の本屋だし、まさに知る人ぞ知る、といった趣。

ここでなら、じっくりと品定めをすることが出来る。

毎回30分は見て回るので鞄をおろし、手袋を外して、戦闘準備。

18禁コーナは奥まっていてそれ目的の人でなければまず近づかない。

男子の聖域だ。

さあて、この前はSM本を手に入れたけど今回は……

お、新刊が……

ふむふむ

おお……おお……

む……むむ……これは…

心のなかでもっともらしく唸りながらじっくりと鑑賞する。

この中から2冊。そう、予算的に2冊だ。

じっくりと厳選しなければ……

と言っても、もう大体の目星はついていた。

まずはいつも買っている総合誌。

そして、クラスメイトに似た娘の写真集。

気になっている子に似ている、という罪悪感で前回は手を出せなかったが、帰ってからひどく後悔した。一月の間後悔した。

好きな子は汚したくない? 詭弁だ。

今ここにいる己は倫理の破壊者だ、性欲の権化だ、オナニーマシンだ童貞だ。

そんなことを躊躇っていては真の男になれないぞ。頑張れ自分。

今日、楽しくすこし長話をしてムラムラした、とかそういうのは関係ない。ないったらない。

勇気を出して手にとって、中身をちらちらとめくると想像通りのお宝。

思わず鼻の下が伸びる。にやける。

そのまま立ち読みしていると、コーナーの入口に人の気配。

別の客だろう。

こういう場所ではお互い干渉しない、無関心がマナーだ。

お互い空気のように無視するのが礼儀であり、紳士。

そうここは紳士の社交場。アン・ドゥ・トロワ。

とはいえ、一緒に長居するのもなんだから、ということで先ほどの二冊をもって、レジ
へ向う。

向かおうと、した。

ピロリン、と軽薄な電子音。

それも先ほどの人影の方から。

思わずビクッ、とするも俺には関係ない。

目を伏せたまま隣を抜けようとするけれど、入り口を塞いだままなかなか退いてくれない。

何だこいつ、失礼なやつだな、と視線をあげると目に入ったのは華奢なスニーカー。

ん? 女の子?

黒タイツに、見覚えのある柄のスカート、そしてブレザー。

あれ? これうちの制服じゃない?

ゾッとしながらそいつの顔を見る。

いつになくニヤけた顔が、知っている顔が携帯を構えて、居た。

ああ、さらば青春。築き上げた名声よ。

ピロリン

もう一度電子音をさせた後、そいつは軽く手を振って、固まる俺を置き去りにして店からでていった。

やばい、やばいヤツに見つかってしまった……

暖かい店内で足が震えだす。

先ほどマナー違反も良いことに携帯で写真を撮っていったヤツこそは、我がクラスの委員長である。

そこそこ整った容姿に、あふれる人望、頭脳明晰運動はちょっと苦手。

なんでもそつ無くこなして、笑顔が素敵。敵に回すと女子総スカン。

そんなそんな完璧超人さんがなんでかような場末に? ホワイ? ホワイ?

いや、そんなことは関係ない。問題じゃない。大問題だ!

はやく、はやく追いついて、なんとかしないと……!

明日からの生活はめちゃくちゃだ……

急いで店を出ようとすると、店番の爺さんに呼び止められる。

「ちょっと、お勘定」

あ、やべ。本持ったままだった。

戻すのもわるいので、震える手でお勘定を済まして店の外へ。

ええい、委員長はどこへ……!

……居た。

居たというか、待っていた。

「や、早かったねー」

ニヤニヤと、手の中でこれみよがしに最新式のカメラ付きケータイを転がしている。

「あ、あのっ……」

「まっさか、”あの”優等生くんがこーんなお店にいるなんてねー?」

「……委員長こそ、なんでこんなところに?」

「んー? 秘密ー」

「……」

「ヒントはー、尾行してきた?」

「ストーカーめ」

「エロ本マンにいわれたくないなあ」

「っ……」

どう考えてもこちらの分が悪い。

「ほーら、よく撮れてるでしょー?」

証拠写真とかなんだそれ、卑怯だろう。

「わざわざ私服に着替えちゃってー」

楽しそうだ。

「ね、これ。明日クラスの皆にみせちゃっていい?」

もうだめだ。降参だ限界だ。

「……なんでもするから、それだけは勘弁してくれ…」

「してくれ?」

「やめてください、お願いします」

頭を下げる。

「ふふっ」

実に楽しそうだ。

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