双葉杏「  味の飴」 (32)

杏「って何さ……」

P「こら、勝手に荷物を開けるな」

杏「いいじゃん、私に届いたものなんだし、数も少ないし」

P「少ないから全部チェックできるんだぞ、中には怪しいものもあるだろう」

杏「怪しいもの……見つかったらどうするの?」

P「そりゃあ処分だよ」

杏「ふーん……」サッ

P「……ん? この袋はなんだ?」

杏「へ? ああ、誰か忘れていった封筒じゃないかな、何も入ってないよ」

P「なんだゴミか、ちゃんと捨てとけよな」

――バタン

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杏「……へへん、確か食べ物系は没収されがちなんだってね」

杏「なんとか贈り物の飴を確保できた、けど……」

杏(銘柄とか、全然見たことのない飴だね)

杏「とにかく食べてみよう、味もそれでわかるし……」

――ガチャッ

ナターリア「誰かいるカー!」

杏「うわっ! ……って、なーんだ」

ナターリア「テレビでメモのご用意って言われたからメモを探してるヨー!」

杏「そんなの覚えとけばいいじゃん……メモ? だったらそこにでも書いておけばいいよ」

ナターリア「アリガトー!」

杏「ふぅ……で、結局この飴は何味かな、ふふふ」パクッ

杏「……んー?」

ナターリア「ソレは何ー?」

杏「さっき手に入れた飴なんだけど……甘くもない、味がしない、なんだろこれ」

ナターリア「おいしくないノ?」カキカキ

杏「いまのところ……って、どこにメモしてるの!?」

ナターリア「え? ココに余白があったからココに書いてるヨ!」

杏「なんでそんな書きにくいところに! 飴の袋だよそれ! しかも中にまだ入ってるし! メモはそっちの紙!」

ナターリア「分かったヨー!」

杏「……ちなみに何のメモ?」

ナターリア「お料理番組ヨー」

杏「あっそう……」




・・

・・・


杏「さてさて、無味無臭の飴……いや、きっといろんな味が入ってる飴に違いない」

杏「袋ごとに違いは……無いね、しいて言うならナターリアがメモしていったところだけ違う」

杏「どうしてこんな書きにくいところに書いちゃったかなー……これ食べきっちゃお、えいっ」パクッ

杏「…………」モグモグ

杏「おいしい」

杏「あれれ、普通の飴だねコレ、さっきのは何だったんだろう……」

杏「これは他のも食べる必要があるね!」パクッ

杏「げほっ!」

杏「……不味っ、魚介類の味がする、それに酸味がある」

杏「なにこれ当たり外れが大きい……どこかのテーマパークのお菓子じゃないんだからさ……」

杏「でも杏めげない、×○×と来たら次は○でしょ……いざ勝負!」パクッ

杏「…………」コロコロ

杏「まさかの無味無臭再び」



杏「えー、本当に何これ、味なしが続くとさすがに飽きるよ、てか需要なくなくなくない?」

杏「さっきの美味しかったごく普通のストロベリーは何だったんだろ、むしろ」

杏「……ふぅ、未解決未解決、この飴どうしよっか」

――ガサッ

杏「……そういや、ナターリアなんてメモしてたんだろ」

『スシ 材料』

杏「らしいっちゃあらしいけど、これわざわざメモしなくてもいいでしょ……というか」

杏「こっちにも書いてある、分けて書いたんだ……どれどれ」

『イチゴ』

杏「……んん?」

『サラダ』

杏「……サラダ、これはまだ包みを開けてないね」ビリッ

杏「もしかしてー……いや、そんなわけないよね」パクッ

――モグモグ

杏「……野菜の味」

杏「まさかまさか……えーっと、ペンは……」カチカチ

杏「…………『リンゴ』」

杏「でもって包みを開けて、中身を頂くと……」

――…………

杏「……リンゴだ」



杏「……凄い、なにこれ魔法のアイテム? いつも自分に正しく生きる私にプレゼント?」

杏「そうと分かったらさ……ふざけてみたくなるよね?」

杏「うんうん、実験開始だよ。あの有名な映画にも出てきたじゃん、こんなお菓子……」

杏「さてさて美味しく仕上げてくれるのかな? 例えば……ふふっ、こんなのは……?」ペロッ

杏「……うえ、やっぱり駄目だ、美味しくなるわけないか」

――カチッ

杏「……実験の結果、飴がすごいことが分かった」

杏「すごい、なんでも出来る、不思議な飴……ん、なんか聞き覚えがある」

杏「ああそうだ、レベルが上がる飴だね…………レベル?」

――ジッ……

杏「……この飴、レベルは上げられるのかな?」

杏「や、やってみなくちゃ分からないよね……レベル、って書く?」

杏「いやいやストップ、レベルって書いても私の何のレベルか分からないよね……」

杏「…………」

杏「『アイドルの才能』味……ど、どんな風になるかな? わくわく……」



――ペロッ

杏「…………美味っ、なにこれよくわかんないけど、とにかく美味しい」

杏「あ、そっか、私がアイドル大成功して印税生活したら、そりゃあもう明るくて美味しい未来、なるほど……」

杏「杏の幸福は蜜の味~……いいなぁ、私もいつかこんな立ち位置オサラバしたい」




・・

・・・

――ダンッ!

ありす「……私の苺が減っているんです」

ナターリア「ナターリア、大事に取っていたお寿司消えてたヨ!」

みく「誰か先に食べててくれたにゃ、みくのお魚。みくは上機嫌にゃ」

P「またお前か!」

麗奈「ちょっと言い掛かりでしょ! アタシは何もしてないわ!」

杏「どしたの」

麗奈「濡れ衣よ! 第一アタシなら放っておいた方がダメージある魚なんて勝手に盗らない!」

みく「えっ」

ナターリア「確かにそうかもネ」



――ガチャ

杏「…………おはよう」

P「おお、今日は自分から来たのか、えらいぞ」

杏「……この前みたく『自分の立ち位置を理解しろ』って説教食らいたくないからね」

みく「杏チャン、最近がんばってるにゃ! みくも追い抜かれないように頑張るにゃ!」

P「杏はやれば出来る子だって知ってた」

杏「賞賛するなら飴をくれ」

麗奈「アイドル業界には激辛の飴を進呈する恒例行事があるらしいわ!」

P「やめて! 大事なアイドルの卵なんだ!」



・・

・・・


――……ガチャ

杏「おはよう……」

P「杏! 今日は朝から夜までフルタイムだ!」

杏「帰る」

P「待てぃ!」

――ギャーギャー

ありす「賑やかですね」

ナターリア「日常茶飯事ネ」

みく「この前は某大きな番組にアイドルとして堂々と出れるほどだって聞いたにゃ! 同じ仲間として鼻が高いにゃ!」

麗奈「でも以前真剣勝負であっさり負けてたらしいじゃない」

みく「うっ、頭が」

ありす「まさかあんなに実力を隠していたなんて」



杏「なんだか最近、お仕事が上手くいく」

杏「そして褒められる」

杏「飴が手に入る」

杏「……なんか、上手く乗せられてる気がする?」

杏「でも結果オーライだよね!」

――キュッ

杏「ぜぇ……ぜぇ……」

杏「なんで私成果出してるのにレッスンしなきゃダメなの……」

P「当たり前だろう、継続は力なりだ」

杏「過程より結果が大事だと思うな……」

P「ほら向こうを見てみろ、人気絶頂のCD組だって欠かさずレッスンだ」

P「この鍛錬があってこそ、ロケにも耐えられるんだ」

杏「アイドルって過酷なロケするお仕事だっけ……」

――ガチャ

杏「帰ってきたぞー……」ドスン

杏「疲れた、プロデューサーの嘘っぱち、成果出したら休めるって言ってたじゃん……」

杏「甘いもの食べたい……飴食べたい」

――ガサガサ

杏「……残ってない……あ」

杏「そういえば前に食べた変な飴、まだ残ってたよね……」



――ガサッ

杏「……無限にあるわけじゃないから贅沢できないけど」

杏「頑張ってる杏にふしぎなアメ……努力値はじゅうぶん稼いだからご褒美貰ってもいいよね?」

杏「何味にしよう……」

―― レッスンは継続して力になる

杏「……体力の付きそうな……味ってなんだろ」

杏「んー……もういいや、飴に任せよう、いっそ“体力”って書けばいいんだ」パクッ

杏「もぐもぐ…………なんだろ、ご飯食べてるみたいな味だ」

杏「ごく普通の食事が一番体力がつくって皮肉かなぁ……寝よ……」



・・

・・・


――……ガチャ

杏「おはy」

P「杏ゥ! 今日は遠方のお仕事だ!」

杏「今日は、じゃなくて今日もでs」

――ドドドドド

麗奈「日に日に視界に入る時間すら短くなってる気がするんだけど」

ナターリア「プロデューサーが反応するスピードも成長したネ」

ありす「そこが伸びても……」

みく「そのうちきっと事務所に顔すら出せなくなるにゃ、世界的アイドルにゃ」

麗奈「ははは、いくらなんでそんなのあり得ないわ!」



――バタンッ

杏「次の現場ってどこまで?」

P「お、元気いっぱいだな、これもレッスンの成果かー」

P「トレーナーさん驚いてたぞ、急にスタミナが続くようになってるってな」

杏「でしょ? だからレッスンする必要はもうないんじゃないかな」

P「怠けたらすぐに元の杏に戻るぞ」

杏「その時はもう一回体力をつけるから大丈夫だってば」

P「……? ま、よくわからんが今度からはレッスンもレベルを上げるそうだ」

杏「えぇ~」

P「杏の勢いが強すぎてほかの皆がしり込みしているのか、少しもたついている様子が見て取れるらしいんだ」

P「そんな皆の指導もかねて、全員がレベルアップを目指すんだぞ」

杏「嫌だー、私は働かないぞー……」

――ガチャ

杏「ただいま」ポスン

杏「……疲れなくなったね」

杏「けど、疲れないからといって無駄に動きたくはないかな」

杏「レッスンしない方法……うーん……」

――……!

杏「そうだ、レッスンの必要が無いほど完璧になればいいじゃないか」

杏「で、そうなるためにはレッスンが必須? のんのんのん……」

――ガサッ

杏「杏には飴がついてるだろっ?」



・・

・・・


――…………

麗奈「うん」

ナターリア「テレビに映ってるネ」

ありす「ここまで来るといつ休憩しているのかが気になりますけど」

麗奈「明らかにおかしいでしょ! この事務所に所属してる殆どの仕事集めても敵わないわよ!」

みく「杏チャン、昔と比べたらずいぶん成長したにゃ、変わったにゃ……それに比べて」

ありす「あ、また暗くなってる……」

麗奈「辛気臭いからここでわざわざ黒くならないで! 数少ない現役古参でしょ!」

みく「むむむ……」



――ガチャッ

杏「エナドリ味の飴おいしい」

麗奈「…………」

ありす「…………」

杏「……何、そんな驚いた顔」

麗奈「いや、本人を見たのが久しぶりすぎて……」

ありす「どうしたんですか……? 今日はお休みなのでは?」

ナターリア「わざわざ事務所に顔を出すなんて……もしかしてとんでもない報告とカ……」

杏「他の日に来れないから今来たんだよ! あー、久しぶりだなぁ」

麗奈「液晶通してなら嫌というほど毎日見るけどね」

ありす「しかし……何か、本当に変わったというか」

麗奈「妙よ……普通は来るはずの日に来ないのに」

ありす「来なくていい日にも来るなんて……」

杏「聞こえてるからね……?」

ナターリア「疲れてないノ?」

杏「大丈夫、全然」

ありす(昨日にツアーが終わったばかりのはずでは)

――ガチャ

P「おー杏、どうした?」

杏「休暇を過ごしに来ただけだよ」

P「そうかそうか、じゃあトップアイドルとして後輩にアドバイスでもしてあげてくれよな」

杏「別に私じゃなくてもいいじゃん……杏は休憩中なんだよー」

杏「他にも適任が居るでしょ、杏より先にデビューしてるあの人とかその人とかどの人とか」



杏「……ところで、人が少ないけど皆お仕事? ま、杏ですらこんなに忙しいから他はもっと忙しいかな」

P「ん……? ああ、そうか、杏はしばらく事務所に来れないほど忙しかったから知らないのか」

杏「何を?」

P「今は結構な人数が減ったよ」

杏「……減った? それって」

P「曰く……輝きが無くなったというか、皆に遅かれ早かれ訪れるものではあるけど……」

P「だとしたら、ずいぶんな早熟型だ……皆には失礼かもしれないけど、まるで才能が突然消えたかのように」

P「あんな大きな光を、あっさりと終わらせてしまった事を俺は後悔してるよ」

杏「突然……消えた……?」



――ゴクッ

杏「消える、そんなわけない……私から見ても……眩しすぎる存在だったみんなが?」

杏「私でも立てたステージを、一番楽しんでたみんなが?」

P「ただ杏、お前なら皆の穴を埋められる、きっとまだ芽が出てない皆も後に続く」

P「こう言うと後出しみたいで卑怯かもしれないが、俺が思っていたよりも杏は成果を出してくれている」

P「誰でもトップは目指せる、そんな指標になってほしいんだ!」

杏「う、うん……えっと、そんな事より――」

P「おお、仕事だったな、任せろ! 俺も忙しくなったもんだ……!」

杏「あ、違――」

――ドドドドド

ナターリア「お休みでも、休めてないネ」

――ガチャ

杏「ただいま……じゃない、そんなことより」

杏「今日、私は何を聞いた……聞き間違いじゃない……?」

杏「っ……そうだ、調べればいいんだ……皆の事、今どうなってるか……」

杏「くっ、こんな事にも頭が回るんだから……」

――カタカタカタ……

杏「…………」

杏「いや……まだ……」

杏「違う、そうだ、ネットの噂なんて適当なもんだよ……」

杏「もっと根本、うちの事務所の所属一覧とか見ればいいんだよ……!」



杏「ほら、百を越える団体の中に私の知ってる顔も、先にデビューした皆も……!」

杏「皆……も……」

――カチッ

杏「消えてる……なんで?」

杏(なんだろう、けっこう前に……そんな事があったような……!)

――

杏「あ…………!」

 ……私の苺が減っているんです

  ナターリア、大事に取っていたお寿司消えてたヨ!

誰か先に食べててくれたにゃ、みくのお魚



 ……うえ、やっぱり駄目だ、美味しくなるわけないか



・・

・・・


――パリンッ

杏「…………私だ」

杏「食べたの、私だ……食べた、盗ったのは私だ……!」

――ダッ……!

杏(飴は要望に答えてくれる……すぐ近くのものを使って再現してくれるんだ……!)

杏「はっ……はっ……!」

杏(上手く行って、当たり前だよ……!)

杏(既に、上手く行ってる、完成したものを貰ったからだよっ……!)

――ザアアアッ

杏「ど……どうにか……戻さないと……げほっ」

杏(でも、ついさっき食べたものなんかじゃない……数ヶ月前、とっくに……)

杏「…………戻す、味……」

杏「んんっ! 何なのさその味、どんな味なのさっ!」

――ガンッ!

杏「……どう文章にすればいいか分かんない」



――ガチャッ

杏(もう手遅れ、行き着くところまで行っちゃってる)

杏「…………」

杏「責任……取らなきゃ駄目かな……払いきれるか分からないけど……」

――ピタッ

杏「……はは、私……今、一瞬でも変な事考えちゃった」

杏「奪った挙句、私が勝手に手放す道を選ぶところだったよ……ふふっ……あははっ!」

――……コトン

杏「今更遅いかもしれないけど……これは私には重すぎるものだよ……」

杏「それに、頼りたくなっちゃう……それはダメ、被害が……ひどいからね」

杏「私は逃げない……! 実質、道を私が切ったみたいなものだから……」

杏「その人達の思いも、杏の中にはあるんだよ……ここで退いちゃ、駄目……」

杏(……初めて、自分から決断した気がするよ)

――ガサッ

杏「……バイバイ、美味しかったよ」

――バタンッ




・・

・・・

――ガチャッ

ありす「杏さん……! もう居ない……まったく、食べ物のゴミはこっちに捨てちゃ駄目と……」

ありす「……あれ? この飴、まだ入ってますね」

ありす「賞味期限……は、大丈夫そうです」

ありす「勿体無いじゃないですか、味が気に入らなかったのでしょうか?」

ありす「味……書いてませんね、でも捨てるのはどうかと」



ありす「……とりあえず、捨てたのなら食べないという事ですね」

ありす「ですがお菓子なら……他の皆と頂いてもよろしいでしょう」

ありす「しかし捨てられたものとはいえ勝手に食べるのは……そうだ、一旦食べるのは置いといて……」

ありす「名前、ちゃんと書いておきましょう……これで他に誰も食べないでしょう」

ありす「えっと……一応、杏さんのものですから……これでよし、ですね」

ありす「後で帰ってきてから許可を貰いましょう」

――バタン




・・

・・・

――ガチャッ

P「ふー、疲れた……杏の仕事で手一杯だよ、嬉しい悲鳴だけどさ」

P「……ん? 飴? なんだなんだ、ご丁寧に名前が主張されてるぞ、食うなってか?」

P「ま……十中八九誰のものか分かるし、後で謝っておくか、ひとつ拝借……」

P「変わったデザインだな、勝手に食うのはアレだが俺は甘いものが食べたい、ひとつだけ……」



P「……うえっ、なんだこれ、何味だ?」

P「正直な感想を言うと、不味い。……この飴全部か?」

P「これも、これも……なんだよ、全部不味いし、ハズレだな、道理で誰も食ってないわけだよ」

――Prrr……

P「っと、電話電話」



P「はいもしもし…………え?」

P「……ちょっと、落ち着いてください、何を言ってるんですか?」

P「もしもし? 悪戯なら切ります、そんなわけないでしょう……」

――ピッ

P「さて……よし、今日も仕事だ! 杏~!」タッタッタッ



― おわり ―

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