モバP「奇妙な話をしよう」 (24)

むつみ「……」ジー

P「? さっきからどこ見てんだ、むつみ」

むつみ「Pさんのおでこ……」ジー

P「デコ……? えっウソハゲてる!?」

むつみ「い、いえ! そうではなく!」

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むつみ「その傷! 額の傷跡ですよ!」

P「傷? あー、これか。よく気付いたな」サスサス

むつみ「まるで物語の主人公みたいで……眼鏡かけてますし」キラキラ

P「ははは、そんなカッコいいもんだったらよかったんだがな……」

むつみ「だって、Pさんって魔法使いですよ、シンデレラに出てくるような!」

P「そりゃまた別の人じゃないか?」

P「コレな、赤ん坊……一歳の時に縫ったやつなんだ」

むつみ「そ、そんな昔なんですか? まだ残ってるなんて……」

P「何十針って縫ったらしいからな。よく生きてられたよ」

むつみ「やはり選ばれた者なのかも……」

P「まさか。赤ん坊ってのは案外頑丈に出来てる。って、それだけだ」

P「で、またその額かち割った理由ってのが情けないんだよな」

むつみ「情けない、ですか?」

P「押入れから落ちたんだ。[たぬき]みたいだろ?」

むつみ「なんでそんなところに……」

P「押入れって、赤ん坊からしてみたら、身長の2倍か3倍もあるんだよな。大怪我するに決まってる」

P「当然記憶なんて残ってないから、親から聞いた話なんだが……」

P「兄貴の……俺が赤ん坊だからまだ小さい子供だな、マネをしたんだ。押入れによじ登って遊んでたから」

P「ほら、小さい子供ってのはとりあえずマネをしてみるものだろ?」

P「それで、一生懸命よじ登ってたら……突然手を離して真っ逆さま」

P「下は畳だったらしいけどさ、それでもぱっくり割れたよ」

むつみ「ひええ……」

P「すぐに病院行って、大手術。まさかここまで傷が残るとはな」

むつみ「そ、そんな恐ろしいことがあったんですね……」

P「いや。恐ろしい話がほしいなら、もう少し話そうか?」

むつみ「い、いいです! スリルは好きだけど怖いのはあまり……」

P「……」

むつみ「そ、それはちょっと気になりますけど……」

P「ま、よしておくか」

むつみ「聞きます聞きます!」

P「そうか。……怪我をするいくらか前にな、赤ん坊の俺を連れてその家に引っ越したばかりの時なんだが」

P「兄弟も多いし、いくらか大きな家に引っ越す必要があったからな」

P「それで、ある夜中に俺が目を覚まして、『誰かいる!』って騒いだんだと」

むつみ「え、だ、誰が……?」

P「親父がいちおうバットだけ持って、家中探したんだが……結局、誰も見つからなかったんだ」

P「それからそう経たない内に俺が大怪我したって話らしい」

むつみ「え? ……え?」

P「もちろんすぐに引っ越した。絶対何かろくでもないものがいるからな」

むつみ「…………」

P「だから俺の育った家っていくらかあるんだよな。県こそ出ることはなかったけど」

むつみ「……」

P「ん、どうした?」

むつみ「Pさんは、そんな話を私にしてどうする気ですか……?」

P「いや、そんなこと言われても……」

むつみ「こ、今晩眠れないじゃないですかあ!」

P「知らねえよ……」

むつみ「責任とってくださいよー!」ウワーン


その1終わり

その2


智絵里「……じゃあ、次は泰葉ちゃん。何かお話、ある?」

泰葉「私? ええと……」

泰葉「……あ、じゃあ、智絵里ちゃんがほのぼのした話だったからこんなのどうかな」

泰葉「えっと、ある晩すごく寝苦しくて目が覚めたんだけど……」

まゆ「それじゃあまゆはこれで」ガタッ

智絵里「えっ」

泰葉「まあまあ」

まゆ「だってこれダメなヤツじゃないですかぁ……!」

泰葉「まあまあ、そんなに怖い話じゃないから」

まゆ「でも怖い話に分類してるじゃないですかぁ!」

智絵里「まゆちゃん、大丈夫だから……」

まゆ「勘弁してくださいよぉ!」

智絵里「明かりとか消さないから、ね?」

まゆ「け、消すつもりだったんですかぁ……?」

智絵里「ね、私もいるから……」

まゆ「うぅ……」

泰葉「…………芸暦」ボソッ

まゆ「!」ビクッ

泰葉「……?」ニコニコ

まゆ「ふぐううう……」ペタン

泰葉「それじゃあ話そっか」

智絵里「……え、えーと」

まゆ「わかりましたよぉ……」

泰葉「ただの不思議な話だから。怖いとかじゃないから、ね?」

まゆ「はい……」

泰葉「それで、えっと……」

泰葉「何年か前の話……アイドルになる前なんだけど」

泰葉「夜中にね、すごく寝苦しくて目が覚めたの」

泰葉「うなされたみたいで、汗かいてた」

泰葉「秋ごろだったかな。気温はそうでもないはずなのになんだか暑くて……」

泰葉「目を開けたんだけど、なんだか視界がぼやけて、時計も見えなかった」

泰葉「でも、多分明け方。私の部屋は窓際にあるから、日が差し込んでくるの。なんだか青かったから」

泰葉「……でも、青すぎた。朝日のせいで青いんじゃなかったのかもね」


まゆ「……」

智絵里「ごくり……」

泰葉「見える景色がおかしくて……なんだか暑くて……」

泰葉「でも布団を脱いだら寒いだろうなってことは分かってたから、かぶったままなんだけど」

泰葉「寝苦しかったから具合も悪いし、なんか嫌だな、また眠れないかなって」

泰葉「不安になってきて、苦しくて……」





泰葉「そしたらね、手を握られたの」

智絵里「手……?」

泰葉「うん。布団の中で、そっとね」

泰葉「そしたら、なんだか急に心が落ち着いてきて」

泰葉「その手が、すごく心地よかったんだ。冷たくて、大きくて」

泰葉「柔らかくて、すべすべしてた……」

泰葉「ああ、ずっと握っていたいなって。心から思ったの」

まゆ「うう……」プルプル

泰葉「でも、いつの間にか自然に手を離してた」

泰葉「それから、いつの間にか寝ちゃったみたい。目が覚めたら頭もすっきりしてた」

泰葉「その手がなんだったのかは、分からない」

泰葉「部屋のドアは閉めてあるし、頭がぐらぐらして時計の音も大きく聞こえるくらいだったから、ドアが開いたらすぐに分かると思う」

泰葉「ただ、ひとつ言えるのは……その手がすごく心地よかっただけ」

泰葉「ね? 怖い話っていうより、不思議な話」

智絵里「終わったよ、まゆちゃん……?」

まゆ「まゆ、ずっと耳ふさいでました……」

泰葉「その方が逆に怖いと思うんだけど……」

まゆ「と、とりあえず今夜は一緒に寝ませんかぁ……?」

智絵里「え? いいけど……」

泰葉「三人でお泊り?」

まゆ「ね、そうしましょう? もっと楽しい話とかしながら……!」



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