八幡「嘘だろ……小町が……?」 (92)

八幡「はぁ、だりぃな……」葉山「やった!!」
八幡「はぁ、だりぃな……」葉山「やった!!」 - SSまとめ速報
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八幡「はぁ……」戸塚「どうしたの?」葉山「やった!!」
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の続きです。

※注意

今回の話はギャグはなく、かなり暗くて重い話です。

ご了承ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418602188

 高三、夏の終わり。

葉山「やった!! やった!!」

八幡「うざい、やめろ」

葉山「…………」

八幡「葉っぱ一枚でそんなとこに立ってんじゃねぇよ。どっか行け」

葉山「でも――」

八幡「お前が行かないなら、俺が動く」ガタッ

葉山「比企谷!」

八幡「…………」スタスタ

八幡「はぁ……」

ふと、ため息をつく。それと同時に目元が熱くなる。

ダメだ。泣いてはいけない。

こんな学校のような公共の場で涙を流すな。

八幡「どうして……」

口から言葉が漏れる。意味がないとわかっていても、問いかけずにいられない。

八幡「どうして、こんなことに……」

 高三、春。

小町「お兄ちゃん、今日から一緒に同じ学校に行けるね!」

その日は小町の入学式。総武高に無事合格した小町の初登校だった。

八幡「ああ、そうだな」

小町「あれ? 嬉しくないの?」

八幡「ばっかお前、嬉しくないわけないだろ。むしろ嬉しすぎて心臓が止まるレベル」

小町「言葉の意味はよくわからないけど、ニュアンスは小町的にポイント高いよ!」

八幡「はいはいありがとよ」

チリンチリン

八幡「……あれ?」

小町「ん、どうしたの?」

八幡「……筆箱忘れた」

小町「小町の初登校の日に忘れ物なんて、小町的にポイント低いよ……」

八幡「わり、取りに行ってくるわ」

小町「小町もついて行こうか?」

八幡「いや、いい。先に行くなりここで待つなり好きにしてくれ」

小町「じゃあお兄ちゃんのためにここで待ってるね。あっ! これ小町的にポイント高くない!?」

八幡「あー高い高い。じゃあすぐ戻るから」

小町「うわーてきとーだー。早く戻ってきてね! あんまり遅かったら置いて行っちゃうからね!」

八幡「おう」

俺の世界一可愛い妹は手を振って笑顔で俺を見送る。それに片手で返してペダルを踏む。



それが――。



それが、俺が見た、小町の最期の笑顔だった。



小町「ふふーん♪」

小町「お兄ちゃんと同じ学校かー。嬉しいなー♪」

小町「小町も奉仕部に入ろうかなー。その方が絶対に楽しいよねー」

小町「お兄ちゃんのはっぱ隊も楽しみだなー。葉山先輩たちと二週間に一回くらいの頻度でやってるらしいしー」

小町「こんなに楽しみなことがあって、小町にバチあたったりしないかなー、なんちゃって」

キャッキャッキャッ

ふと、道路の向こう側に小さな子供が現れた。

小町「……ん、あの子。あんな歳なのにお母さんが一緒にいない……」

小町「大丈夫かな……?」

ブォーン

小町「車が……、出て来ちゃダメだぞ……?」

タッタッタッ

小町「!!」

小町「ダメ! 戻って!!」

タッタッタッタッ

小町「くっ!!」タッタッタッ

小町「たぁっ!!!」バッ

キキーーーードンッッ

 高三、夏の終わり。

八幡「小町……どうして……」

学校で耐え切っても、家に着くと涙がこみ上げてくる。

小町『おかえりー!』

その声は、聞こえない。

さびしい。

ひどく、さびしくて、かなしい。

ずっと近くにいたから気づかなかった。

ずっと近くにいたその存在がどれだけ大きなものだったのか。

八幡「小町……小町……っ」

枕に顔を押し付けて、声を押し殺して泣く。

頭の中に思い浮かぶ小町の顔。今でも聞こえそうな小町の声。

それをいくら頭から振り払おうとしても、頭の奥にこべりついて離れない。

小町のことを思い出すと同時に、後悔が胸の中を渦巻く。

どうしてあの時忘れ物なんてしてしまったのか。

どうして少し時間をズラして行かなかったのか。

どうしてあの場所で気づいてしまったのか。

どうして小町を連れて行かなかったのか。

どうして、どうして、どうして……。

こんなことを後悔しても意味がないのはわかっている。

覆水盆に返らず。

一度起こってしまったことは取り返しがつかないのに。

 高二、冬。

小町「小町の番号……あるかな……?」

八幡「ある、と信じておこう」

小町「お兄ちゃん説得力なさすぎ」

八幡「ここで俺が何を言おうとそんなもんないだろ」

小町「まぁねー」

八幡「……おっ、番号の紙が貼られたな」

小町「じゃあ、見てくる」

八幡「おう」

小町「あった! あったよお兄ちゃん!!」

八幡「マジか! やったな小町!!」

小町「うん! やったよ!!」

葉山「やった!!」

八幡・小町「「!?」」

葉山「おめでとう、小町ちゃん」

小町「葉山……先輩? その格好は……」

葉山「四月から君は晴れて、総武高生だ!」

葉山「やった!! やった!! やった!! やった!!」

――

――――

はっぱ隊「「「やったやったやったやった♪」」」

大和「高校ごうか~く~♪」

大岡「すごくめでたい♪」

葉山「葉っぱ一枚あればいい~ ♪」

はっぱ隊「「「生きているからLUCKYだ~ ♪」」」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

材木座「君が変われば~♪」

戸部「世界も変わる~ ♪」

八幡「やんなるくらい健康だ~ ♪」

はっぱ隊「「「Everybody say! やったぁ~!」」」

小町「お兄ちゃん……どうしたのそれ……」

八幡「まぁ、なんだ。お祝い事……だからな。いろいろまちがっているけどよ」

小町「そうだね。……でも、ありがと」

八幡「礼なら他のはっぱ隊のみんなに言ってやってくれ」

小町「……うん!」

小町「みなさーん! 小町のためにわざわざありがとうございましたー!!」

はっぱ隊「「「ヒューーーーーー!!」」」

葉山「これから三年間高校生ができるなんて……」

はっぱ隊「「「うまらやしい~」」」

小町「あははっ!!」

 高三、夏の終わり。

葉山「大丈夫かい?」

八幡「……話しかけるなって言ってるだろ」

葉山「悪いけどそれは無理だ。雪ノ下さんも、結衣も、はっぱ隊のみんなも、君のことを心配している」

八幡「うっせぇな。俺はもう誰とも関わりたくないんだよ」

葉山「だから――」

八幡「頼むからほっといてくれよ!!!」

葉山「……すまない」

八幡「…………」

葉山「もう、文化祭の時期だな」

八幡「?」

葉山「俺たちはっぱ隊は、エンディングセレモニーの前座で出る」

八幡「だからなんだよ」

葉山「……君も隊員だから一応連絡しておいただけだよ」

八幡「そうか」

もう、そんな時期なのか。

もしもあの事故がなかったら俺は今頃、何をしていたのだろうか。

学校にいる時は楽だ。小町を思い出すきっかけがあまりないから。

だから家にはいたくない。そこら中に小町の『思い出』があるから。

玄関にも、廊下にも、リビングにも、部屋にも。

どこを見ても小町を思い出してしまう。

もう二度と、その姿を見ることも、声を聞くことも、頭を撫でてやることもできない。

そんな残酷な現実が重く俺の心にのしかかる。

小町『それ小町的にポイント高いよ!』

八幡『はいはい、八幡的にもポイント高いよ』

そんな当たり前だったやり取りすら、今は……。

戸塚「八幡……」

八幡「…………」

戸塚「ねぇ、八幡……?」

八幡「……わりぃ」ガタッ

戸塚「どこ行くの?」

八幡「保健室。体調が悪いんだ」

戸塚「そう……。お大事にね」

八幡「ああ、ありがとう」

ガララ

ドアを開くとそこにいたのは雪ノ下雪乃だった。

八幡「…………」

彼女を無視してベッドに向かう。先生はいないようだが、あとで言えばいいだろう。

雪乃「いつまで、そうしているつもり?」

八幡「…………」

雪乃「あなたのそんな姿を見て彼女が喜ぶと思うの?」

八幡「……っ!」

言い返したい衝動を必死で押し殺す。

雪乃「あなたがそうなっているのを見たら、小町さんはどう思うのでしょうね」

八幡「人の妹の名前を軽々しく使うな……」

雪乃「それは逆ギレというのよ。ねぇ、比企谷くん。そんなことをしても何も変わらないわ」

雪乃「それに誰も、幸せになれない」

雪乃「あなたも、あなたの周りの人も」

八幡「……わりぃ」

雪乃「…………」

八幡「すまないとは、思ってるんだ」

俺のせいで周りに気を使わせてしまっているのもわかっている。それに対して罪悪感がわかないわけではない。

雪乃「意外ね。あなたが素直に謝るなんて」

八幡「一応自分を客観視できるくらいは正気を取り戻しているからな」

雪乃「そう。それで、どうして? どうしてあなたはわかっているのに、行動に移さないの?」

八幡「……自分が」

八幡「自分が幸せになるのが許せないからだ」

八幡「小町が死んだのは俺のせいだ……」

八幡「俺があの時、忘れ物をしなければ……」

八幡「俺のせいだから、小町の人生を奪ったのは俺だから……」

八幡「……俺には、幸せになる資格なんてない」

雪乃「それは、小町さんが助けた命を否定しているの?」

八幡「そういうわけじゃない。……そうじゃないんだが……ああ、なんて言えばいいんだ……」

思考が矛盾している。理屈屋のはずの自分が、論理崩壊を起こしている。

雪乃「……そこまでわかっているのなら十分ね」

八幡「……?」

雪乃「あなたは自分を許してもいいと思うわ」

雪乃「そもそもあなたのせいではないのだから」ガララ

言いたいことだけ言って雪ノ下は保健室を出て行った。

両親は基本仕事で家におらず、家に帰ると一人がデフォルトになってしまった。

八幡「はぁ……」

ふと、何かが目に付く。今、一瞬視界に入ったものはなんだ?

八幡「ビデオテープ……?」

うちの古いビデオカメラのテープだ。ラベルには小町と書かれている。

八幡「親父のやつ、夜に見てたりしたのかな」

……見ようかどうしようか迷う。

小町の姿を見たら俺はきっと泣いてしまうだろう。

ただ、思い出の整理にはいいのかもしれない。今の俺は思い出の濁流に飲み込まれている状態だ。

一度時間をとってゆっくり思い出してみたら、それで何かが変わるかもしれないと、そんな淡い希望を抱きながら、テープをビデオデッキに入れた。

映し出されたのは数年前の光景。小町が中学に入学したあたりだ。まだあどけなさが残る姿のせいで、目の奥がツンとなる。

映像に映る小町の顔はいつも笑顔だった。父親と母親の声が外から聞こえて、本当に愛されていたんだなって思う。

にゅっと、腐った目の男が映り込む。てか俺じゃねぇか。

小町『お兄ちゃーん!』

八幡『んだよ、うっとおしいな』

今よりも少しだけ幼い自分の姿が小恥ずかしい。そして同時に懐かしくもなり、最後には羨ましく思った。

この俺はまだ悲しみを知らない。

今すぐ隣にいる、そこにいて当たり前だと思っている存在が、消えてなくなってしまうことを、この時の俺は知らない。

それだけで、羨ましい。

映像は一時間にも及び、最後は小町の総武高の制服姿だった。

その瞬間、あの日の記憶がよみがえる。

俺が戻った時、小町の目は半開きで、真新しい綺麗なはずの制服は真っ赤な血で汚れていて、腕は変な方向に曲がってしまっていた。

八幡「…………」

小町『小町もついに高校生だねー!』

父親『あぁ、時が経つのは早い。ついこの間生まれたと思ったら、もう高校生か』

小町『お父さんオヤジくさい~』

父親『しかし本当に可愛いな。こうなったら俺は小町を家から出したくないぞ。変なやつに絶対に襲われる』

小町『大丈夫だよ。お兄ちゃんと一緒に行くからねー』

父親『そんなに頼りにならねぇけどな』

八幡『あんたが言うか、あんたが』

父親『うるさい。なぁ八幡。小町に何かあったら許さないからな。お前はどうなっても構わんが』

八幡『息子に言うセリフじゃねぇよなそれ。気にすんな。小町は命に代えても俺が守る』

八幡「……守れて……ないじゃねぇか……」

八幡「くそっ……くそっくそっくそっ!!!」

八幡「ごめん……ごめんな……」

プツッと音が途切れる。画面に映るのは灰色一色。どうやらこれが最後だったようだ。

停止をしようとすると、急に画面が乱れた。

八幡「……?」

どうやらまだ残っていたらしい。映像が鮮明になり、音が流れ始める。

小町『あー、あー、ちゃんと録音できてるかな』

そこに映し出されたのは小町の姿で、日付は――



――あの日の事故の前日だった。

小町『えっへん』

小町『いやー小町も明日から高校生になるわけですが』

小町『ここで小町は今まで育ててくれた家族のみんなにお礼を言いたいわけなのです』

小町『ただ、直接言うのは恥ずかしいからこんなふうにビデオレターにしようかなーって』

小町『だから、こんなのを録ってるんだけどね~』

小町『ごほん、じゃあまずはお兄ちゃんからね!』

八幡「なんだ……これ……?」

思わず停止ボタンを押す。少し遅れて小町の動きが止まる。

八幡「日付……」

右下に表示されているのは小町の命日の一日前だ。つまり――

八幡「あの日の前に、これを録っていたのか……?」

あまりの衝撃で頭がクラクラする。それと同時に視界も歪み、吐き気すらしてきた。

人間、衝撃的なことが起こると、脳の処理が追いつかずに不快感を催す。まさに今がそれだった。

八幡「続き……見るか……」

何度か深呼吸をして、早まる鼓動を抑えながら再生ボタンを押す。

小町『いやー、何だかんだ言ってお兄ちゃんにはいっぱい迷惑かけちゃってるよね』

小町『お節介ばっかり焼いてるせいで、それが逆に迷惑になってることも多いんだろうな~』

小町『でも、やっぱりそれができるのって、お兄ちゃんが小町のお兄ちゃんだからなんだよね』

小町『きっとお兄ちゃんじゃなかったら、こんなにわがままも、生意気なことも言わないと思うんだ』

小町『まぁそれが許されるかどうかは別の話だから、この場を借りて謝らせてもらうね』

ごほん、とわざとらしい咳払いを一つする。

小町『いつも迷惑ばかりかける面倒な妹でごめんなさい』

小町『あと、そんな小町のことをいつも気にかけてくれて、ありがとうね。大好きだよ』

小町『……やっぱり恥ずかしいな』

えへへと頬を染めて小町は笑う。

八幡「何言ってんだよ……」

こんなことを考えていたなんて、思いもしなかった。

いつだって小町は俺の妹で、俺には生意気な口を聞いて、でもどこか俺のことを認めてくれていて、そんな小町が俺は……。

八幡「……うぅっ」

伝えてやりたかった。

どうしてあの日だったのだろう。

どうして一日だけでもズレてくれなかったのだろう。

もしも小町がこのビデオを見ている時に生きていたら、俺は絶対にこう言っていたのに。

   そんなことない。

   お前のことが迷惑だなんて、一度も思ったことはない。

――そして

   俺も、小町が大好きだぞ。

そう、伝えていたのに。

今はもうその言葉は、届かない。

届かないまま、小町はいってしまった。

小町『こ、このまま終わっちゃうとあれだから、ちょっと変な話でもしておこうかな!?』

小町は照れているのか目を泳がせながら、早口で話を繋げる。てか変な話って何だよ。

小町『そうだなぁ、そう言えば最近お兄ちゃん少し明るくなったよね』

八幡「?」

すごい唐突だなおい。

小町『実は小町ね、受験期の時から結衣さんからお兄ちゃんのはっぱ隊の動画を見せてもらってたんだ~』

八幡「なん……だと……?」

確かにあいつ携帯で動画を録ってたな。それを見せてたのか。

小町『お兄ちゃんってすごいバカだけど、ああいう感じのバカな感じは初めて見たからびっくりしたよ~』

小町『さてと、ここから本題なんだけど』

小町『受験期の時は結構精神的に追い詰められてたんだ。もう何もかもがどうでもいいー! みたいな感じで』

小町『でもね、そんな時にはっぱ隊なんてバカなことをやってるお兄ちゃんの姿を見て、悩んでいるのがバカらしくなって……』

小町『……だから、ありがとね。小町のためにやったわけじゃないんだろうけど、すごく助けられたから』

小町『それに、きっとお兄ちゃんたちに救われてる人ってすごく多いと思うんだ』

小町『だって考えてもみてよ。葉っぱ一枚で踊る集団なんて見たら、並の悩みは全部吹っ飛んじゃうよ!?』

小町『だから小町が高校に行ったからってやめたりしないでね』

小町『お兄ちゃん自身もすごく楽しそうだったし!』

小町『……はっ! また真面目なトークに!』

小町『ここは編集で消しとこっと!』

そこで映像は終わった。

少ししてまた映像が始まったが、それは親に向けたものだったので、何だか見てはいけないような気持ちになり見るのをやめた。

八幡「はぁ……」

枯れるほどに泣いても止まらない涙を手で拭う。

八幡「……結局、わかっているつもりになってただけだったんだな」

俺がこれまで立ち止まっていたのは、俺が小町の思い出にとらわれていたからだ。

思い出はあくまでも思い出でしかなく、昔の出来事を俺から見た側面に過ぎない。そこに本物はない。

だから、俺は本当は理解できていなかったのだ。

あの時の雪ノ下の言葉の意味を。



雪乃『あなたがそうなっているのを見たら、小町さんはどう思うのでしょうね』

今、映像の中だけど、本当の本物ではないけれど、思い出よりもずっと本物に近い小町を見て、俺はようやく確信できた。

このままじゃダメだと。

今のままではいけないんだと。

こんな毎日泣きながら過ごす俺の姿を見て、小町が喜ぶわけないじゃないか。

俺が思っていたのは結局小町のことではなく、自分のことだけだったのだ。

小町を思って泣いていたのではなく、小町がいないこの現実に泣いていた。それは他の誰でもない自分のためだ。

小町のことを本当に思うのなら、俺がすべきなのは『悲しむこと』ではないはずなのだ。

八幡「…………」

まだ、間に合う。

このままこの高校生活を終わらせてはいけない。

 高三、文化祭

葉山「さぁ、いよいよ本番だね」

戸部「っべーわ、マジ緊張してきたわ」

大和「だな」

大岡「…………」ブツブツ

材木座「一度捨て去った羞恥心、こんな緊張は屁でもないわぁっ!!!」

八幡「ならわざわざ叫ぶなよ。てか声が震えてる時点で説得力ないし」

材木座「うっ……」

葉山「君も大丈夫かい?」

八幡「あっ? 俺に言ってんのか?」

葉山「逆に君以外にいないだろう?」

八幡「いやいやいるだろ、そこら中に」

ウーキンチョウスルー ハキソー トイレイッテクル イットイレ ヨニモシリーズモヨンデネー

葉山「そうだね」

八幡「ならそっちに――」

葉山「でも俺は君が一番心配だ。あんなことがあったのに……」

八幡「それはいいんだ。俺の中で心の整理がようやくできたからな」

葉山「そうか……。なら失敗するなよ比企谷」

ゴールデンぼっちリーフ「その名前で呼ぶな」

葉山「じゃあ、ぼっち」

ゴールデンぼっちリーフ「わかればいい」

いろは『じゃあー次は! 葉山先輩率いるはっぱ隊です!!』

ウォォォォォオオオオオオオオ!!

葉山「よし! 行くぞ!!」

はっぱ隊「「「おうっっ!!!」」」

YATTA!
はっぱ隊

http://www.youtube.com/watch?v=10EBggz1-Jg

ピュピュピポポポポポー

戸部「G!」

材木座「R!」 

大和・大岡「「EE!」」

八幡「N!」

葉山「LEAVES!」

はっぱ隊「「「G!」」」

はっぱ隊「「「R!」」」

はっぱ隊「「「EE!」」」

はっぱ隊「「「N!」」」

はっぱ隊「「「LEAVES!」」」

葉山「It's so easy ♪」

戸部「Happy go lucky ♪」

八幡「We are the world ♪」

はっぱ隊「「「We did it ♪」」」

はっぱ隊「「「ヒューヒューヒューヒュー!」」」

はっぱ隊「「「オスオスオスオス!」」」

葉山「あいっ!!」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

大岡「大学ごうか~く~ ♪」

大和「社長就任 ♪」

葉山「葉っぱ一枚あればいい~ ♪」

はっぱ隊「「「生きているからLUCKYだ~ ♪」」」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

八幡「当選確実~ ♪」

材木座「日本代表 ♪」

戸部「やんなるくらい健康だ~ ♪」

はっぱ隊「「「Everybody say やったぁ~!」」」

葉山「日本キューキュー ♪」

はっぱ隊「「「でも!!」」」

戸部「あしたはワンダホー ♪」

材木座「いじわるされても~ ♪」

はっぱ隊「「「ふとん入ればグーグーグーグー!!」」」

はっぱ隊「「「パスパスパスパス!!」」」

八幡・葉山「「おはよーーーーー!!!」」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

大和「9時間睡眠~ ♪」

大岡「寝起きでジャンプ ♪」

八幡「どんないいことあるだろう~ ♪」

はっぱ隊「「「生きていたからLUCKYだ~ ♪」」」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

葉山「君が変われば~ ♪」

八幡「世界も変わる~ ♪」

材木座「丸腰だから最強だ~ ♪」

はっぱ隊「「「真っ直ぐ立ったら ♪」」」

八幡・葉山「「気持ちいーーーー!!!!!」」

自分が変われば世界も変わる。

この言葉を少し前の俺はひどく憎んでいた。

その考えの一部は今でも変わっていない。変わろうとしても簡単にプラスにはならないのは、不変の事実だ。

それに世界は変わらないが、自分は変えられる。なんてのは、くそったれのゴミみたいな冷淡で残酷な世界に順応して適応して負けを認めて隷属する行為だ。

綺麗な言葉で飾って自分すら騙している欺瞞にすぎない。

確かにそうだ。

ただ、俺はこの言葉を『もう一つの意味』を見落としていた。あるいは見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。

自分を変える、それを『自分の視点を変える』という意味に取れば話は違う。

今まで俺は『小町を失った』という事実にしか目を向けていなかった。だからこの世界が残酷なものにしか見えなかった。

大和「お水飲んだらうめー!」

はっぱ隊「「「やったー!」」」

大岡「日に当たったらあったけー!」

はっぱ隊「「「やったー!」」」

戸部「腹から笑ったらおもしれー!」

はっぱ隊「「「やったーやったー!」」」

葉山「犬飼ってみたらかわいー!!」

はっぱ隊「「「やったー!」」」

葉山「It's so easy ♪」

材木座「Happy go lucky ♪」

八幡「We are the world ♪」

はっぱ隊「「「We did it ♪」」」

はっぱ隊「「「ヒューヒューヒューヒュー!」」」

はっぱ隊「「「オスオスオスオス!!」」」

はっぱ隊「「「…………」」」

葉山「あいっっ!!!」

ヤッターアー

材木座「すれ違いざま~ ♪」

八幡「ほほえみくれた~ ♪」

葉山「2度と会えなくたっていい~ ♪」

はっぱ隊「「「君が居たからLUCKYだ~!!」」」

大和「平成不況~ ♪」

大岡「政治不信~ ♪」

戸部「リセットさえすりゃ最高だ~!」

はっぱ隊「「「みんな居るから楽しいー!!」」」

小町のことしか見えなくなっていたせいで、俺は周りが見えなくなっていた。雪ノ下にはああ言ったが本当は冷静になんてなれていなかったのだ。

だが、小町が遺してくれたビデオのおかげで、ようやく俺はどれだけ今の自分が恵まれているのかに気づけた。

たとえ今の俺のそばに小町はいなくても、両親がいる。奉仕部の二人だっているし、戸塚もいるし、こんなバカなことも一緒にやってくれる葉山たちだっている。

決して小町の代わりになるわけじゃない。ただそれでも、今の俺の周りには俺のことを思ってくれる人がたくさんいる。

それに気づけただけで彩りの欠けたこの世界が、再び色づき始めるのを感じた。

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

大岡「大学教授~ ♪」

大和「ムービースター ♪」

葉山「葉っぱ一枚なればいい~ ♪」

はっぱ隊「「「みんな一緒だHAPPYだ~ ♪」」」

はっぱ隊「「「やったやったやったやった ♪」」」

八幡「息を~吸える~ ♪」

材木座「息を~吐ける~ ♪」

戸部「やんなるくらい健康だ~ ♪」

はっぱ隊「「「Everybody say やったぁ~!」」」

はっぱ隊「「「G!」」」

はっぱ隊「「「R!」」」

はっぱ隊「「「EE!」」」

はっぱ隊「「「N!」」」

はっぱ隊「「「LEAVES!」」」

はっぱ隊「「「G!」」」

はっぱ隊「「「R!」」」

はっぱ隊「「「EE!」」」

はっぱ隊「「「N!」」」

はっぱ隊「「「LEAVES!」」」

はっぱ隊「「「バイQ~ ♪」」」

曲が終わった瞬間から、歓声が体育館中を埋め尽くす。そこら中からやったやったコールが聞こえてくる。

周りを見渡すと、みんな笑顔だった。この六人で一つのことを成し遂げた達成感は、何にも替え難いものだと俺は思った。

材木座「やったな、八幡!」

そう言って材木座が俺の肩に手を置く。正直気持ち悪いが今は勘弁してやろう。

八幡「ああ、やったな」

葉山『みんなありがとうっ!!!』

いつの間にマイクを持っていた葉山が観客に声をかける。それだけでまた歓声が大きくなる。

大ステージに葉っぱ一枚で立つ六人の男たちは、その瞬間だけはこの学校のヒーローだった。

祭りが終わり、いつものくせでそのまま部室へ向かう。

珍しくそこには誰もいなかった。雪ノ下すら来ていないとはな。

暇だからスマホに繋げたイヤホンを耳に入れて、嫌になるくらいに聞いたあの曲を流す。

八幡「~ ♪」


 すれ違いざま

 ほほえみくれた

 2度と会えなくたっていい

 君が居たからLUCKYだ

ふと、あの時の笑顔を思い出す。

君が居たからLUCKYだ……か。確かにそうだな。

十年以上こんな俺といてくれた、それだけで俺はラッキーだったんだよ。

なぁ、小町。

お前に伝えたいことがあるんだ。

きっと声は届かなくても、この思いは届くはずだから。



俺の妹に生まれてきてくれて、ありがとう。



こんなバカな兄ちゃんを『お兄ちゃん』って呼んでくれてありがとう。



今までたくさん、ありがとう。



そして、さよなら。




――

――――

あれ、なんで小町こんな道端で倒れてるんだろう? 汚いから起き上がらないと……ってあれ?

……身体が動かない?

……ああ、そうか。そう言えばさっき子どもを助けようとしたんだ。それで小町は……。

あの子は……無事……なのかな……?

お兄ちゃんが車にひかれた時には体が勝手に動いたなんて言って、小町がそれを笑ったけど、これじゃもう笑えないなぁ。

てかこれヤバイよね。ほとんど全く身体の感覚がない。どこも動かないし音も聞こえない。唯一できることは見ることくらいだ。

視線をやっとのことで上げると、それでようやく青空が見えた。

……このまま小町、死んじゃうのかな。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月15日 (月) 12:50:46   ID: PBTsKDlW

結局、駄作じゃないか^^;www

2 :  SS好きの774さん   2014年12月15日 (月) 17:32:48   ID: KmNd7JjC

イイハナシダ

3 :  SS好きの774さん   2014年12月15日 (月) 22:13:08   ID: 8Dt79Knc

あ、うん…

4 :  SS好きの774さん   2014年12月25日 (木) 20:49:15   ID: XCVeK7vz

涙出そうになった( ´_ゝ`)

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