魔女「不死者を拾いました」 (80)

恋愛中心のスイーツ()ストーリーになる予定です。
あまり長くならないようにしたいと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418455154

森の奥深くに入ってはいけません。
何故なら、森の奥には魔女がいるからです。
魔女は人を惑わし、人の心臓を食べてしまうのです。


子供「どうして魔女はそんな事をするの?」


牛が草を食べ、鳥が虫を食べるのと同じ事――魔女にとっては、それが当たり前の事だから。
人と似ていても、魔女は人とは違うのです。


子供「そうなんだ…」

子供「だけど、人にも色んな人がいるように」

子供「魔女にも、怖くない魔女がいるんじゃないのかな」

狩人「ヒッ」

魔女「…」


森で薬草を摘んでいると、たまたま人に遭遇した。
だけれどその人は私を見た途端、恐ろしいものに遭遇したかのように逃げ出していった。

魔女(あの格好は狩人さんかな…猛獣や魔物を狩るのが仕事なんだよね)

それなら私は、猛獣や魔物より恐ろしい存在ということか。

魔女(私、何か悪い事したっけ…)

思い返す。
人に危害を加えた事はないし、勿論心臓を食べた事なんて無い。
とはいえ、魔女が人を惑わし、人に危害を加えてきた歴史があるのも事実。

魔女(結局の所)


魔女だから――それが唯一で、絶対に崩す事ができない人間との壁。

不老不死である魔女は「気が向けば」別の物に転生できる。
最後の知り合いが転生してから何年、いや何十年間、ずっと私は孤独。人々から嫌われ、森の奥で隠れるように魔術の研究に没頭する日々を送る。
いっそ私も――そう思う事もあるが、私はまだこの世に未練を残している。

森にはよく落し物が落ちている。その落し物の中にある、本を読むのが私の楽しみでもあった。
その中でも私は、特に恋愛小説を好んだ。
王子と姫、幼馴染の男女、身分違いの恋、波乱万丈な恋――空想の人物の恋愛模様に、胸を躍らせていた。
そして思う。私を嫌う人間達はこうも感情豊かで、様々な生き方をしているのだと。

勿論それは人間の御伽噺。魔女である私が体験できるものではない。

だけれど物語に憧れを抱きながら、変わらない毎日を過ごすのも、悪くはなかった。



魔女「あぁ、そう言えば」

そろそろ研究に必要な花が咲いている頃だろうか。
私は支度をし、花の咲く滝の麓へと向かうことにした。

道中には魔物がいる。魔物は人を襲うが、魔女は襲わない。

魔女(今日はいい天気だなぁ)

人間では恐ろしくて歩けないであろう、魔物の徘徊する道を散歩気分で歩く。
こういう道ではたまに、魔物に襲われたであろう人間の死体が落ちている事もある。人間の死体の一部も、使おうと思えば研究素材になる。
だけど人間の体の一部で開発される魔術とは人を呪う物だったり、不幸を呼び起こすような物騒なものばかりで、私とは縁が無いものなのだ。
よって、死体が落ちていた時は大人しく手を合わせるだけにしておく。もっとも、魔女に手を合わされても迷惑なだけかもしれないが。

しかし今日は、そうではなく…


ガラガラッ

魔女「ん?」

ドザザーッ

魔女「…!?」

男「つっ…」


崖から瀕死の人間が落ちてくるなんてレアな体験だ。前例が無いせいで、どうすればいいのか本当に困った。

魔女(放っておいたら死んじゃうよね…)

魔女は人間に嫌われている。だからと言って見捨てるのは良心が痛む。
私はボロボロの彼に駆け寄った。

魔女「大丈――えっ!?」

そして、ありえないものを見た。

男「…」

彼の首は喉元をすっぱりと切られていた。
それは人間なら即死する筈の傷で、にも関わらず彼は脂汗を滲ませて苦しそうに喘いでいる。つまり――


魔女「貴方はもしかして――不死者?」

>つい先刻…

勇者「遂に追い詰めたぞ…!」

不死者「…ふん」

不死者「昔俺と戦った時と違い、お前はもう魔王と戦えるレベルになったんだろう?」

不死者「そんな勇者様が俺ごときにご執心とは、どうかしてるな」

勇者「黙れ!お前に敗北の屈辱を味わわせてやる!」

不死者「そんな事して何になる?それにわかっているだろう、俺に剣を突き刺した所で――」

勇者「黙れって言ってんだよ――ッ!!」

不死者「…ッ!!」

不死者「ふぅ、ふぅ…」

魔女(首の傷口が塞がっていく…)

喉が塞がってようやく呼吸できるようになったのか、彼は思い切り酸素を吸っていた。
人間から不死者になった者の特徴は外見的にはわからない。傷が塞がれば、只の人間の戦士に見える。

魔女(で、でももう大丈夫って事よね…私がやる事は特に)

不死者「ふ、ふふふ…ははははは!はーっはっはっは!!」

魔女「!?」ビクゥ

不死者「何回何十回何百回痛みを与えられても死ぬ事ができない!!あとどれ位死ぬような痛みを与えられながら生き地獄を味わわねばならんのだ、魔王オオォォ!!」

彼は盛大に笑いながら、憎しみの言葉を発していた。
その形相は狂気に満ちており…。

不死者「ふはっ、はははは…」

魔女「…ぃ、ぇぅ…」ブルブル

不死者「…ん?」

魔女「怖いよおぉ~」

もう泣くしかなかった。

今日はここまで。
過去にもスイーツ()なまおゆう作品書いていますが、今作は戦闘要素が無いので盛り上げられるかどうか…。
まぁ戦闘描写下手なんで戦闘あった所で盛り上げられまry

<私信 まとめサイト様へ>
いつもありがとうございます。お陰様で自分の作品が色んな方に読んで頂けてとても感謝しております。
今後も宜しくお願い致します。

今日何気なく自分の酉で検索したら某SNSコミュニティ様で自分の過去作品が作者ごとにまとめられていました!
お手数おかけしました、本当にありがとうございました!

私は長年1人でいたせいで人間慣れしていないけれど、特に男性慣れしていなかった。
その上この不死者さん、ちょっと目つきが怖い。

不死者「怖がらせて悪かったって…だからもう泣くな、な?」

しばらくなだめられた後、不死者さんは私の頭をポンポンと叩く。
それで私は少し落ち着いた。

不死者「そりゃ仕方ないよな…不死者なんて怖いよな」

そう言いながらも、不死者さんはとても気にしている様子。

魔女「い、いえ、不死者自体は初見でもないし、怖くないんですけれど…」

不死者「は?そりゃ変わったお嬢ちゃんだな」

魔女「えぇ、魔女ですから…」

不死者「魔女ォ!?」

魔女「」ビクッ

不死者「そうか…その額の刻印、魔女の刻印だったのか…!魔女の力なら…これでようやく…フ、フフフフ…!!」

不死者さんは私の刻印を見ながらニヤニヤ笑いを浮かべている。

不死者「頼みがある!!」ガシッ

魔女「!?」ビクッ

不死者「俺を殺してくれッ!!」カッ

魔女「怖いよ~」

またもや泣くしかなかった。

不死者「悪い…つい興奮しちまって」

魔女「いえ…こっちも不慣れなので」グスッ

不死者「こんな体になって10年、俺はいい加減死にたくなってきた。魔女なら何とかできるんじゃないのか」

魔女「えぇ~と…方法が無いわけじゃあありませんが…貴方を蘇らせた方に言う方が確実かと…」

不死者「…絶対死なせてくれん。あいつは俺の痛覚を残し、言うことを聞かなければ拷問にかける程性格が悪いんだ」

魔女「それ、性格が悪いって範疇を超えてますよ~…」

でも気の毒だ。そりゃあ、さっきのような凄い顔(思い出すだけで怖い)になるのも無理はない。

不死者「頼む。もううんざりだ」

不死者さんはそう言うと頭を深々下げてきた。
そんな事されるのは初めてなので、私は慌てる。

魔女「殺すと言うか…肉体を浄化させる方法は存在しますが」

不死者「本当か!」ガバッ

魔女「」ビクッ

魔女「で、でもそれは薬を調合する必要があるんです…。その材料を集めないと」

不死者「材料集めくらいなら手伝うから」

魔女(この人と材料集めするの…?)

正直この人は苦手だ。だけど私に救いを求めているなら、助けてあげたい。

魔女「そ、それじゃあ…今から行きましょうか」

不死者「あぁ…どこまで?」

魔女「すぐ近くの滝の麓です」

丁度いい所だった。

魔女「そこに咲いている花が、材料の1つです」

その後不死者さんと一緒に花を摘んで帰った。
この花は地面に強く根付き、摘むのに力がいるので、男の人の手があって助かった。

不死者「早くも材料1つ手に入れたな」

魔女「まだまだ集める物は沢山ありますよ~。でも、これで浄化の薬に必要な保存液が作れます」

不死者「その壺でやるのか?魔女、って感じだな」

魔女「えーと保存液の作り方は何ページだったかな…あった!」

不死者「難易度『低』か…」

魔女「あのぅ…恥ずかしいので、調合中はお隣のお部屋で待ってて頂けますか…」

不死者「あぁ」



不死者(調合ってどんな風にやるんだろうな…見てみたいが恥ずかしいんじゃ仕方ないな)

不死者(しかし、低難易度のものを作るのにわざわざ本を開くのか…)

不死者(まぁ真面目そうなお嬢ちゃんだし、きっと基本に忠実に…)

ズドゴオオォォォン

不死者「!?」

不死者(調合部屋から煙が…)

魔女「コホコホ」

不死者「おい、大丈夫か!?うわ、何だこの匂い!?」

魔女「あ、不死者さん」

不死者「まさか失敗したか…」

魔女「いえ、成功ですよ!」

不死者「…なぁ、それは」

魔女「え、保存液ですよ」

保存液「ヌメヌメ~」

不死者「…」

不死者「そんな新種のアメーバみたいな保存液があるかああああぁぁ!!」

魔女「ひゃあああぁぁぁ」ビクウウゥゥッ

魔女「グスッ実は私調合グスッ下手なんですシクシク」

不死者「怒ってない、怒ってないから泣くな、な?」

不死者さんは私の頭をポンポン叩く。

不死者「でも保存液作り直し必要なんじゃないのか?」

魔女「あ、汁だけを抽出すれば保存液として問題なく使えますよ」

保存液「ヌメヌメ~」

不死者「…何かいい気分じゃないな」

魔女「あ、こう見えてこの保存液は魂が宿っていないので、命を奪ってしまう心配はいりませんよ」

不死者「そうじゃなくて気持ち悪いってことでな…あぁ、まぁいいや、もう」

魔女「次の材料も近い所にあるので、今から…」

不死者「…風呂入ってこい」

魔女「え?」

不死者「爆発で汚れてる。その姿で外出できないだろ」

魔女「あ、はい」



魔女(確かに派手な爆発だったけど、私汚れてるかなぁ?)ジー

魔女(…)クンクン

魔女(…クサい)

魔女(いやあああぁぁ!!汚れてるなんて言ってたけど、私がクサいからだ!!もうイヤアアアァァァ!!)

お風呂場にはしばらく、私のすすり泣く声が響いた。

魔女「すみません長引いちゃっ…あら?」

不死者「おうお帰り」

調合部屋はさっきより片付いていた。
今度は不死者さんが汚れている。

魔女「お、お掃除して頂いちゃって!すみません、すみません!」ペコペコ

不死者「まぁ掃除は趣味みたいなもんだから。それより俺も汚れたんで風呂借りていいか」

魔女「えぇどうぞ!こちらです、ごゆっくり!」

彼をお風呂場へ案内し、調合部屋へと戻る。
本当に綺麗になった。爆発前も汚くはなかったけれど、もっと綺麗になった。
適当に置いていた置物の類も、綺麗に並び直っている。

魔女(こう並べるとセンス良く見える…不死者さん、結構オシャレなんだなぁ)

掃除が趣味と言っていたか。それなら部屋はいつも綺麗にしているのだろう。そう言えば、彼は身だしなみもきちんとしている。
飾り気が無いながらもシュッとした格好をしている彼の事だ、きっと部屋もさり気なくお洒落なのだろう。

魔女(こんな部屋かなぁ、それとも…)

物語の挿絵にあった王子の部屋を頭に浮かべる。そこで過ごす不死者、想像すると割と様になっている。

魔女(お風呂上がりにワインとか飲んじゃったりして…うわぁ~不死者さんカッコいいかも…)

魔女「ハッ!!」

そうだ、風呂上りにおもてなしの1つも無いのは気が利かない。
私は慌てておもてなしの用意をするのだった。

不死者「………なぁこれ」

魔女「お似合いですよ~。あ、お風呂上がりのお酒もありますから」

不死者さんは私が用意した着替えを着てきた。

魔女「不死者さんの着てた服は洗いましたから。明日になれば乾くと思います」

不死者「それはいいが、これ、あんたの服じゃないよな?サイズ違うしデザイン男物だし…」

魔女「私、裁縫は得意なんですよ~。いつかお客様が来た時用に、作っておいたんです!」

不死者「あぁ、そういう事」

魔女「…まぁ結局、作ってから30年位、誰も袖を通していないんですけどね」ズーン

不死者「お、おう…心して着させてもらう」

不死者さんはそう言うと用意していたお酒を飲んでくれた。
よし、ここまでは気遣い完璧。これも拾い読みした本のお陰だ。

魔女「所で、今日はもういい時間ですし材料採りは明日にしましょうか。明日また来て下さい、その時服もお返ししますから」

不死者「……あぁ」

魔女「?どうしました」

不死者「あ、いや…まぁいいんだ、野宿は慣れてるから」

魔女「野宿!?」

不死者「………帰るわけにはいかないしな」

魔女「…!!」

そうだ。多くの不死者は主人を持っている。それも彼の主人は話を聞く限り、難しそうな人物だ。しかも彼が死ぬことを絶対許さないと言うのだから、目的がバレれば2度と来れなくなるだろう。

魔女「すみません気がつかないで!!あ、是非泊まっていって下さい!!」

不死者「そりゃ悪いって。急な来客用の部屋も無いだろ?」

魔女「大丈夫ですから!私ソファーでも眠れます!」

不死者「や、じゃあ俺がソファーで寝るから」

魔女「いえいえ、お客様にそんな所で寝て頂く訳には…」

不死者「大丈夫だ」

不死者「女の方がデリケートだからな」

魔女「…っ!!」

不死者「…どうした」

魔女「え、あ、わわ、えぇっと…すみませんごめんなさい、お言葉に甘えさせて頂きますっ!」ペコペコ

不死者「いや、そんな頭下げなくても…」

魔女(あービックリした…不死者さん、あんな台詞言うんだもん)

探せば今まで読んだ小説の中に見つかりそうな台詞だ。
あの台詞は、女性を守ってくれる騎士のようなキャラが言いそうな台詞だ。

魔女(不死者さんが騎士かぁ…)

魔女(でも不死者さんちょっと顔が怖いから、盗賊の首領とか…)

魔女(盗賊の首領なのに掃除が趣味…あ、意外といい設定)

魔女(そんな不死者さんが活躍する舞台は~…)

魔女「………すやすや」





不死者(あー、何か気を使いそうな魔女だな)

不死者(難易度『低』を作るだけでああだから、簡単にはいかなさそうだが…)

不死者(魔女って他にどんなもん調合するんだ…ん、これは調合本じゃなくて小説か)

不死者(これも、これも小説だ…何だこりゃ、全部恋愛小説か)

不死者(魔女が恋愛小説…ね)

不死者「…ぐぅ」

一旦ここまで。
魔女も不死者も動かすのが難しいキャラです。
何故動かすのが難しいキャラで話を展開させようとしたんでしょうねぇ。絶対エタりませんけども!

自分のssを元に誰かやらしい二次創作作ってくれないかな~とか思ってる作者は自分だけでいい

>翌朝

魔女「」ジー

不死者「…どうした」

魔女「いえ、朝食お口に合うかな~って」

不死者「あぁ美味いぞ。料理も得意なんだな」

魔女「えへへ、何十年も生きてますからね~」

不死者「…それで調合の腕は何でああなんだ」

魔女「」ズーン

不死者「あ、いや悪い」

魔女「次に必要な材料は陽炎の木の根っこです。これは私一人でも採りに行けるので…」

不死者「失敗した時の為に多めに採取するんだろ。重いだろ、俺も行くよ」

魔女「え、でも…」

不死者「俺の依頼で動いて貰ってるんだから、俺にも働かせて…」

魔女「き、今日はいいですからぁ!明日からお願いします!それじゃあもう行きますね!」ダッ

不死者「…?」

不死者(ああは言われたが、結局後をつけてきてしまった…)

不死者(お嬢ちゃんが向かう先…あれは人間の村か)

「ま、魔女だ!」
「家の中に入りなさい、早く!」
「ああぁ、しばらく見ないと思ったのに…」

不死者「…ん?」

陽炎の木は人間の村を通らないと行くことができない所に生えている。
皆私を避ける。その目にあるのは恐怖心だったり敵意だったり、人によって様々。
これでも、この村は全然マシな方だ。場所によっては、私の姿を見ただけで石を投げつけてくる所もある。
危害を加えられる位なら、避けられる方がずっとマシ。ヒソヒソ聞こえる言葉が、胸に刺さったけど。

魔女(やっぱり1人で来て良かった…)

不死者さんも一緒だと、一緒にいる彼まで奇異な目で見られてしまう。

「あの魔女、どこに行くのかしら?」
「この先陽炎の木があるから、材料でも採りに来たんじゃない?」
「私達を呪ったりしなきゃいいけど」
「やだ、こわーい」

肉体を浄化させる薬の材料採り…なんて人殺しの薬と変わりない。
彼女らにとって、そんな薬を作る私が異質な存在であるのも間違いはないだろう。

魔女(早く行こう)

「待ちな」

魔女 ビクッ「は、はい!!…あら!?」

不死者「…悪い、ついて来ちまった」

魔女「不死者さん!?」

魔女「…不死者さん、どうして」

不死者「いいから手伝わせろ、ほら」

魔女「あっ」

不死者さんが私の手からカゴをひったくる。
その様子を見て、遠巻きに私を見ていた村娘たちが騒ぎ出す。

「なになに、あの人結構かっこよくない!?」
「この辺じゃ見かけないけど…」
「あの魔女の知り合い?」
「魔女に惑わされているんじゃない」
「えぇー、あんないい男なのに勿体無いー」

魔女「不死者さん…貴方まで奇異な目で見られますから」

不死者「俺は気にしちゃいないが…つか悪い、迷惑だったみたいだな」

魔女「い、いえ…私は慣れているのでいいですが」

不死者「じゃ、気にしないでとっとと行こうぜ」

不死者「元々人間の文化には疎いんだが…」

木の根を採りながら不死者さんが言った。

不死者「魔女って人間と魔物の中立だろ?あんなに避けられるもんなのか?」

魔女「まぁ…魔女が人間に危害を加えてきた歴史があるので」

不死者「へー、そうなのか」

不死者さんは大して気にしてなさそうだ。

不死者「そいや魔女は男を誘惑するんだっけ?そりゃ、女に嫌われるよなー…」

魔女「そ、そんなんじゃないです!単純に私が魔女だからですよ…私なんてちんちくりんだしブスだし…」

不死者「へー、そうか」

魔女「そうですよ…」

不死者「でも、あんたでブスなら、あいつらもっと悲惨だと思うんだけどな」

魔女「!?」ガバッ

不死者「根っこ、これくらいでいいか?」

魔女「え、あ、は、はい!十分です、ありがとうございました!」

不死者さん、何か凄いこと言ったような気がするんだけど…。
考えすぎ…かな?

>帰り道

魔女「すみませんね、重い物持って頂いて」

不死者「俺は力くらいしか取り柄がないからな。それよりも今日は爆発させないでくれよ」

魔女「あ、いつもは爆発じゃないんですよ。何かガスが発生したり怪奇現象が起こったり、その時その時違うんです!」

不死者「何事もないようにやれ!」

魔女「ひえっ」

不死者「あ、いや怒ってないから!だから泣くなよ、な!?」ポンポン

魔女「はいぃ」グスッ

不死者(ふーヤレヤレ…ん?)

魔女「あら?」

家が見えてきた時、家の前に人がいるのに気がついた。その人を見て、

不死者「悪い!俺隠れるから!」ダッ

魔女「え、あ、あの!?」

「あ、帰ったか。待っていた」




勇者「例の物の出来具合を聞きに来た」

不死者(な、何で勇者がここに!?)

魔女「あ、少しずつですけど順調に出来上がってますよ」

勇者「そうか。…もしまだ必要なものがあれば言ってくれ」

魔女「は、はい。今の所大丈夫ですから…」

勇者「協力は惜しまない…何せあれは魔王を討つのに必要だからな」

勇者「肉体を浄化させる薬、というものは」

不死者「…!?」

勇者さんはそれだけ言うと帰っていった。

不死者「勇者からも同じ薬の依頼を受けていたのか」

魔女「えぇ、まぁ」

不死者「魔王も己に不老不死の呪文をかけているからな…。魔王を討つには確かに必要だな」

依頼が来たのは丁度1週間位前だった。不死者さんが言ったのと同じ理由で、勇者さんから依頼された。

不死者「魔女は魔物と人間の中立だと聞いたが、あんたは人間に味方するのか」

魔女「それは…」

不死者「あ、別に責めているわけじゃない。魔王側に協力する魔女もいたからな」

魔女「えぇ…」

中立というのは魔女という種族としての話。そこから中立を保つか、どちらかに味方するかは、魔女それぞれ。
まぁ自分の場合は、人間に味方するという意思があるわけじゃないけれど…。

魔女「ところで不死者さん、どうして隠れたんですか?」

不死者「あー…そういや言ってなかったな」

不死者さんは少し気まずそうに言った。

不死者「俺は、勇者にとって敵なんだよ」

魔女「え…?」

不死者「俺を不死者にしたのは魔王だ」

魔女「!」

これだけ人間と差異のない不死者を作れるのだから、かなりの腕前の術者だとは思っていたが、まさか魔王とは…。

不死者「元々俺は魔王を討とうとする側だったんだが、魔王に負けて不死者にされちまった。逆らえば死ぬよりヤベェ拷問が待ってるから、魔王に従わざるをえなかったんだよ」

魔女「そうだったんですか…」

不死者「だから勇者が魔王を討ってくれりゃ俺も死ねるんだろうが、どっちにしろあんたの作る薬が必要になるな」

確かに不死者は、術者が力を失えば命を失う。死にたい彼にとって、死とは無関係の魔王が術者なのは本当に厄介な問題だろう。

魔女「とりあえず、この根っこで粉末材を作れます。勇者さんも急いでいるし、早くしませんとね」

不死者「戻ってきたばっかだろ?休んだ方がいいんじゃないか?」

魔女「いえ大丈夫です、やります!」







ドゴオオォォォン


不死者「今日も爆発かあぁ!!」

一旦ここまで。
不死者や魔女の生態調べたらややこしくなってきたので、このssは調べた情報取り入れつつオリジナル設定でやってます。

今作も最初は暗黒騎士を拾ったストーリーにしようかと考えてたのはここだけの話ですぜ。

魔女「うーゲホゲホ、粉が喉にゲホゲホ」

不死者「ほら水飲め水!」

魔女「ゴホ、ありがとうござ…ああぁ!!」

不死者「今度はどうした!」

魔女「今の爆発で、昨日作った保存液が腐っちゃいましたぁ…」

保存液「ヌメェ~…」

不死者「爆発で腐るって何だよ!?つか腐る保存液ってそれどっちみち失敗だったろ!」

魔女「おっしゃる通りです~」グスグス

不死者「わー、泣くなって!悪い悪い、俺が悪かったから、な!?」ポンポン

魔女「うえっ、ひっく…」

魔女「保存液の材料また採ってこないとぉ…花と、虹色の雫と、針葉樹の葉と…」

不死者「雫と葉はどこで採取できる?」

魔女「えーと、そこの地図に印が…」

不死者「よし、これ位なら…待ってろ!」

魔女「えっ、あの!?」

手持ち無沙汰なので、爆発で散らかってしまった部屋を片付ける。
昨日不死者さんがやってくれたのと同じように置物を並べ直した。彼の並べ方で置いておきたかった。

不死者「お待たせ…」

魔女「お帰りなさい…あっ!」

不死者さんは手に一杯、保存液に必要な材料を持っていた。

不死者「これだけありゃ、何回でも失敗できるだろ」ゼェゼェ

魔女「こんなに沢山、大変だったでしょう!?」

不死者「気にすんなって…これは俺の為なんだしな…フゥ」

魔女「い、今飲み物もってきます~!」

魔女(不死者さんたら凄いなぁ…)

魔女(それに、結構優しい…?)

魔女(……)

魔女(って、ボーっとしてちゃ駄目よ私!)

不死者「けど、毎回何らかのドジやるようじゃいくら材料があっても足りんかもしれないな」

魔女「うぅ~…そうですねぇ…」

不死者「調合が下手な理由って何だと思う?」

魔女「基本に忠実にやっているつもりなんですが、魔力を混ぜる段階で魔力量の調節が上手くいかないんだと思います…」

不死者「どうすりゃ上手くいくんだ?」

魔女「多分、魔力を混ぜる段階まで順調にいったら気が抜けちゃうんですよ…それまでずっと緊張してますから…」

不死者「じゃあ俺が側で見ているから、油断せずにやってみ」

魔女「み、見られるのは緊張します…」

不死者「緊張してろ。それなら失敗しないだろ」

魔女「うぅ、でも…」

不死者「それでも失敗するようなら、違う手を考えるだけだ。ま、俺はこの通りの体だから、爆発やガスなんかに巻き込まれても平気だしな」

魔女(不死者さん…)

魔女(そうね。私を頼ってくれている勇者さんや不死者さんをガッカリさせたくない…)

魔女(不死者さんはこんなに優しく身守ってくれているんだもの)

魔女(大丈夫、落ち着いてやれば…)

魔女(自分を信じて…)








ズドゴオオォォォン


不死者「自分を信じちゃ駄目だな…」ゴホッ

保存液「ヌメヌメ~」

不死者「昨日と同じ結果か…」ゲホッゴホッ

魔女(うわああぁぁ、また体がクサくなったあああぁぁ!!しかも今度は不死者さんまで!!)

魔女「どうして私ってこうなの…」グスグス

不死者「わー!泣くなー!!」

魔女「でもでもぉ」シクシク

不死者(本当気にしいだな…あぁ、俺の言い方も悪いのか)

不死者(安心させるように、優しく、温和に…)

不死者「大丈夫だぞぉ?」ニィーッ

魔女「…」

魔女「怖いよおぉ~」

不死者(どうしろって言うんだ…)ズーン

とりあえず昨日と同じように掃除をしてお風呂に入って匂いを取った。

魔女「その服もお似合いですよ不死者さん」

不死者「あぁ。…また着替えを用意してくれたのはいいが、俺の服はどうした」

魔女「あ、せっかくなので、作った服に袖を通して頂きたくて…ご迷惑でしょうか?」

不死者「いや別に…あんたの作る服、俺の趣味に合わなくもない」

魔女「本当ですか!じゃあ毎日着替え用意しますね!」

不死者「…何着あるんだ?」

魔女「うーんと、不死者さんのサイズの服だと30着くらいは!」

不死者(…そんなに作ってる暇あったら調合の腕上げろ)

魔女「今日はもう遅いので、休みましょうか」

不死者「あぁ」

魔女(えーと…あった、この本だ)

魔女(あの服、この本に出てくるキャライメージして作ったのよね~)

魔女(あ~でもこの本、キャラは好きだったけどストーリーあまり覚えてないなぁ…寝る前に読もう)

魔女(…)ペラ…

魔女(うわあぁ、さり気ない優しさがいいなぁ…こういう所不死者さんに似てるなぁ)

魔女(こんな台詞言われたらドキドキするなぁ…)

魔女(どっちも奥手だからなかなか進展しないなぁ…ちょっともどかしいかなぁ)

魔女(この2人がくっついたら、きっとあれをやったりこれをやったり…)

魔女「…すやすや」

>朝

魔女「ふわぁ…朝ごはん作らないと」

魔女「あれ?この匂い…」

不死者「よ、おはよ」

魔女「あれ~、不死者さん!どうしたんですかこの朝食!」

不死者「あー、あんた程の腕前はないが、先に起きたしな…」

魔女「まぁ…!!」

不死者「ま、お粗末だが食おうぜ」

魔女(朝起きたらもう朝ごはんが出来上がっていて)

不死者「うん…悪くないな」モグモグ

魔女(朝食を一緒にとる相手がいて)

不死者「卵は綺麗に割れなかったが、スクランブルエッグにすりゃ問題ないしな」

魔女(というか人の作ったもの食べるのも何十年ぶりだろう)

不死者「ま、食えるもんが作れただけいいか」

魔女「」ウルウル

不死者「!?どうした、まずかったか!?」

魔女「違うんです…私、嬉しくて嬉しくて…」

不死者「そ、そうか…何か知らんが良かったな…」

魔女「また食べさせて下さいね不死者さん」

不死者「あぁ、こんなんで良ければ…」

夜の更新は未定。
魔女の「魔」を「喪」にしても違和感ないから困る。

今日も材料集めを行った。

不死者「おい、疲れてないか?」

魔女「い、いえ…」フゥフゥ

不死者「…じゃあ俺が疲れてるから、休んでいいか?」

魔女「え!?あ、はい!」

魔女(不死者さん全然息乱してないし…私に気を使ってくれたんだなぁ)

不死者「材料ってあとどれ位で集まるんだ?」

魔女「あ、あとちょっとですよ。あとは調合が上手くいけばいいんですが…」ズーン

不死者「ま、時間だけはたっぷりあるからな。慎重にやるか」

魔女「…でも、勇者さんはお急ぎだと思います」

不死者「あぁ…まぁ最近は魔王の活動も穏便になってきてるし、遅れる事で人間達への被害が大きくなることはないだろ」

魔女「そうなんですけど…お待たせするのは心苦しいので」

不死者「もっと気楽に考えな。こりゃ義務じゃないんだから、出来なくても誰にも責める権利はない」

魔女「…駄目なんです、それじゃあ」

不死者「ん…?」

魔女「私には、これしかないんです…」

魔女「あ…世界の命運がかかってるのに、こんなこと…」

不死者「いいよ聞かせてくれ。どうせ俺は死のうとしてる奴だ、世界の命運がどうとか知らねーし」

魔女「は、はい…それじゃあ」

魔女「私は人には嫌われて、魔女としてもダメダメで…小さい頃からダメな子扱いされてきました」

魔女「自信が無いから逃げ隠れして、自分の殻にこもって…」

魔女「だけど、そんな私を勇者さんが頼ってくれたんです」

魔女「人々の希望である勇者さんの力になれたら、私も少しは自信を持てるようになるかなって…」

魔女「そういう考えで、私は勇者さんに協力しているんです…」

不死者「…成程な」

魔女「…やっぱり、よこしまですよね」

不死者「別にいいんじゃないのか。何か悪いのか?」

魔女「いえ…こんな不純な動機じゃあ」

不死者「俺は立派だと思うぞ。動機が何であれ、勇者の力になろうってのは」

魔女「そ、そう言って頂けると…嬉しいです」

不死者「もっと自信持て~」ポンポン

魔女「あうぅ、不死者さんすぐ頭触るんだから~」

不死者「あ、悪い。あんたが幼馴染に似てるもんで、つい…」

魔女「不死者さんの幼馴染?」

不死者「まぁどうでもいいか。それよりそろそろ材料採り再開しようぜ」

魔女「あ、はい」

魔女(幼馴染かぁ)

今日は材料採りが長引き、帰るのが遅くなった為調合は明日にすることにした。

魔女「ふわぁ~…疲れたなぁ」

魔女(今日は寝る前にどの本を読もうかなぁ)

不死者「あ、この本のシリーズ、幼馴染も好きだったな」

魔女「あぁ!それ私もいいなって思ってたんです!最後の巻が無いので、続きがわからないんですけどね…」

不死者「大まかにだったら覚えてるぞ」

魔女「本当ですか!教えて下さい不死者さん!」

不死者「いいけど、俺説明するの下手だからなぁ…」

魔女「構いません!主人公の2人がどうなるのか、ずっと気になっていたんです!」

不死者「あぁ、それなら…」

不死者さんが話し始める。それはひょんなことから同居生活を送ることになった男女2人の物語。
2人共最初はぎこちなかったけど、毎日一緒に過ごす内に打ち解けていき、互いに大切な存在となっていく。
だけれど男の人が病にかかり、別れの時が少しずつ迫ってくるのだった。

不死者「最後は…女の方が魔女の3つの願いを叶え、男の病は治るんだ」

魔女「良かったです…。やっぱり私、悲恋よりハッピーエンドが好きですね」

不死者「だけどその魔女のかけた魔法ってのが、女の残り寿命の半分を男に分けるってもんでな。元々女の方が病弱なキャラだったし、多分2人はあとほんの数年で死ぬ」

魔女「…」

不死者「けど死ぬ時は一緒だからな。それが幸せなのかどうかは人それぞれだろうな」

魔女「…私は、幸せだと思いますよ。残される方が辛いですし」

不死者「そうか」

不死者「…にしても都合がいいよな。普段は魔女を避けてるくせに、物語には善良な魔女を登場させて救いを求めるんだから」

魔女「フィクションですからねぇ。そんな、残り寿命の半分を人に分ける魔法なんて存在しませんよ」

不死者「存在しないもん出すとは、人間が魔女について色々勘違いしてる証拠だな」

魔女「不死者さんは元々人間ですよね?どうして魔女に対して偏見が無いんですか?」

不死者「あー、何でかな…。幼馴染のおかげかな…」

魔女「不死者さんの幼馴染が」

不死者「…あいつは獣人だったんだよ」

魔女「獣人…」

魔物と人間のハーフ。魔女同様、中立の立場。
しかし獣人は禁忌により生まれた存在であり、魔女よりも冷遇されていると聞く。

不死者「獣人と仲良くやってた奴が魔女に偏見持つわけないだろ」

魔女「確かにそうですね」

幼馴染というと、恋愛小説では定番だ。
現実でもそういうものなのだろうか…。

魔女「どんな方だったんですか?その幼馴染の方は」

不死者「あんたそっくり、そそっかしくてすぐ泣く奴だったよ…まぁあっちはガキだったから仕方ないけどな」

魔女「むぅ」



―――――
―――

幼馴染『おにぃ、頭ぽんぽんして』グスッ


幼馴染『えへへ…ぽんぽんしてもらったからもう平気』


幼馴染『おにぃ大好き!』

―――
―――――

不死者「歳近いのに、おにぃおにぃって、よくくっついて来てたなー…」

不死者「俺結構目つき悪かったから、女からは好かれてなかったんだけどな」

魔女「あぁ~」

不死者「なにが「あぁ」なんだ?」

魔女「あ、いや何でも」アワアワ

不死者「そんな感じで、手のかかる奴だったなー…」

魔女「今はどうなんですか?」

不死者「…いない」

魔女「え…?」

不死者「獣人族の村ごと滅ぼされて、今はもういないんだ」

魔女「!!」

魔女「ごめんなさい…何も知らずに聞き出してしまって」

不死者「ま、気にすんな。何年も前のことだ、流石に俺ももう立ち直っている」

魔女「だけど」

不死者「あーいいのいいの。それより話が長引いちまったな、もう寝ようぜ」

魔女「…」



立ち直っている。不死者さんはそう言ったけど、本当だろうか。
幼馴染さんは…どんな人だったかは知らないけれど、不死者さんにとって大事な人だったのではないか。
もし大事な人の命が理不尽に奪われたら――

魔女(嫌だな、そんなの)

そんなシチュエーション、小説でしか知らない。
だけど強制的で理不尽な別れなんてのは、私の嫌いなバッドエンドだ。
それももうすぐこの世を去る不死者さんには、もうどうでもいいことなのか。

魔女(もうすぐ不死者さんが…)

それを改めて思って、切なくなった。
数年というのは魔女にとってはあっという間の期間だ。だけど人間の体感としては、大事な人を失った悲しみも辛さから立ち直れる程長い期間なのか。
そう言えば彼は、出会った当初よりも明るくなった気がする。それは打ち解けてきた為だと思っていたけれど、死が近付いて気持ちが楽になっているからだろうか?
つまりそれは、別れが近づいてきているということ。

魔女(不死者さんがいなくなる…)

不死者「はい今朝も俺の下手くそ料理で~す」

魔女「ありがとうございます、不死者さん」


彼と過ごした時間は私が生きてきた年月、これから生きるであろう年月に比べるとほんのわずかな期間。


不死者「洗い物無駄に増やしちまったわ…手際良くはいかねぇな」

魔女「片付けと並行してやるのが理想的ではありますねぇ」


彼がいなくなれば前と同じになるだけ。


不死者「今度料理してる所見せてくれよ」


けれど私は――


魔女「えぇ…いいですよ」


誰かと一緒に過ごす暖かさを知ってしまった。

何年も経てば、それを忘れることができるのだろうか。


不死者さんに頼られ、彼の為に研究を進めている。
だけれどそれは、私が再び孤独になる為の研究でもある。

――その時になったら、私は泣くのかな。




不死者「ふぅ、必要な材料は全部集めたから、後は調合しまくるだけだな」

魔女「そうですね…」

ここ数日、不死者さんが頑張ったので材料集めがはかどった。

不死者「ま、調合もぶっ続けでやると疲れるだろうから、焦らずにやってくれ」

魔女「えぇ」

本当は、完成させたくないけれど――
でも、不死の苦しみからの解放を願っている彼を、失望させる訳にはいかない。

不死者「でも魔王の配下に俺の居場所がバレずにきたのは奇跡だよな。バレたら無理矢理連れ戻されて拷問だ」

彼に残された猶予も、無限ではない。

魔女「失敗しないように、頑張りますね」

そうやって作り笑いを浮かべる。


これからも私と一緒にいてくれませんか――?


本音を言えない自分が嫌だった。

一旦止め。今日中に終わらせます。

勇者(あの魔女の所に顔を出してから結構経ったな…)

勇者(そろそろ、薬は出来ているだろうか…?)

勇者(重圧に弱そうな魔女だから、あまり頻繁に行かないようにしていたが)

勇者(俺は今、力をもて余している…早く魔王と戦いたい)

勇者(…魔女の所に行ってみるか)

魔女「これを、こうして…」

薬に必要な素材を調合する所まではできた。決して出来がいいとは言えないが、ここまでは失敗せずに来た。

不死者「…ぐぅ」

調合を見守ってくれていた不死者さんだったけれど、夜遅くなり、流石に疲れたようだった。

魔女(これで失敗すれば…)

また数日かけて材料集めをしないといけない。
けれどそれは、また彼と過ごせるということ。

魔女「…」

不死者「」スヤスヤ

魔女「…ダメだな、やっぱり」

不死者さんがいなくなるなんて嫌だ。
それでも今までの不死者さんの頑張りを無駄にするのはダメだ。

魔女「頑張ろう…」

頑張って薬を完成させよう。
完成させたら私は1人になる。
その後も頑張ればいい。寂しさを忘れるように、頑張ればいい。

魔女「むにゃむにゃ…」

「おーい…」トントン

魔女「ん~?」

「いるか~?」トントン

魔女「お客様?はぁ~い…」

勇者「朝早くにすまない」

魔女(あ…いつの間にか寝ちゃってて、朝になってたんだ)フワァ

勇者「薬調合の進行具合が気になってな」

魔女「あぁ、それでしたら…昨日完成したんですが」

勇者「本当か!?」

魔女「でも…成功したかどうか、まだわからないんです…」

勇者「とりあえず実物を見せてくれ!」

魔女「あっ」

そう言って勇者さんは強引に家に入ってきた。

勇者「これが浄化の薬か…」

勇者さんは小瓶を手に持って、感慨深そうに言った。

魔女「でも、本当に失敗してないかまだわからないので、いきなり使うのは危険ですよ」

勇者「どうやって成功か失敗か見分けるんだ?」

魔女「数滴取って試験薬と混ぜてみたり、加熱実験してみたりですね…」

勇者「気の長い話だな」

魔女「すみません、今日の昼までには終わりますので…」

勇者「なぁ、実際使ってみるのが1番早いんじゃないのか?」

魔女「え、ええぇ!!」

勇者「魔物相手ならいいだろ」

魔女「あ、あのですね…その薬は剣に塗って切った相手を浄化するので、実験した所で、切られた魔物は薬が失敗してても普通に死んじゃうだけだと…」

勇者「成程な…実験するにしても、不死の生物相手じゃないと成功したかどうかわからないってことか」

魔女「そうです」

「なら、俺で実験すればいい」

魔女「!?」

調合部屋のドアがゆっくり開く。

不死者「おはよう」

勇者「な…お前、何でここに!?まさか、魔女と手を組んで…」

不死者「いや違う。俺も死にたくなったんで、その魔女に浄化の薬を依頼してたんだよ。丁度いいじゃねぇか、俺で実験しな」

魔女「ふ、不死者さん…」

不死者さんは軽い調子で言っているが、勇者さんは敵意剥き出しで不死者さんを睨んでいた。

勇者「信用できるか」

不死者「何がだ?」

勇者「死にたくなったって言葉だ。そんな事言って、俺を油断させようって手じゃないのか」

不死者「まさか。そう思うんだったら油断しなければいいだけだろ」

勇者「…だが、お前は実験台に丁度いいかもしれないな」

勇者さんはそう言うと小瓶に入った薬を手に取った。

勇者「表に出ろ。ここでやる訳にはいかないからな」

不死者「そうだな」

どうしよう、話がどんどん進んでいるけれど…。
だけど双方合意の上なら、私が止める余地なんてない。

不死者「とりあえず、ひと思いに心臓でも狙って…」

勇者「誰がそんな甘っちょろいことをすると思う」

不死者「何?」

勇者「さっきも言ったように俺はお前の言葉を信用していない。まずは両手足をもぎ取ってから、最後に心臓を突かせてもらう」

不死者「慎重だなオイ…」

不死者さんは想像したのか、冷や汗を垂らして苦笑した。

勇者「それにな…」

不死者「ん?」

勇者「お前は楽には殺さん!!」

不死者「うわぁ!」

襲いかかる剣を、不死者さんは回避した。

勇者「ほら見ろ、やはり死ぬ気なんてないだろ!」

不死者「そうじゃない、痛いのは勘弁して貰いたいんだよ…」

勇者「いいさ、せいぜい逃げ続けろ!俺はお前を許さないからな!!」

魔女「許さない…?」

2人は敵同士。だけれどそれだけじゃない憎しみが勇者さんの言葉にこもっていた。

魔女(どうしてこんな事になっちゃったの…)

私の予定と大分ずれてしまった。
薬が成功していたら、勇者さんに渡すつもりだった。
それで勇者さんが魔王を討てば、不死者さんも死ぬことができる。

勇者「殺しても殺しても、何事も無かったかのように蘇りやがって!!」

不死者「…っ!」

不死者さんの左腕が吹っ飛ばされた。その痛みに、不死者さんの顔が歪む。
術者を失う事による死なら、不死者さんは苦しまずに死ぬことができた。

――最後の時を、一緒に過ごすことだって。

魔女「や、やめて下さい勇者さん!」

私は、血を大量に吹き出して悶絶している不死者さんの前に立った。

勇者「何だ?やっぱりあんたもそいつの味方だったのか?」

魔女「ち、違います!違いますけど!」

勇者さんに睨まれて怖かったけれど、私は退かなかった。

魔女「勇者さん、不死者さんより強いでしょう!?だったら、心臓をひと突きだってできるでしょう!?」

――違う、本当に言いたいことは。

勇者「さっきも言ったろ。俺はそいつを楽に殺す気はない」

魔女「どうして苦しめる必要があるんですか!?」

勇者「知らないなら教えてやるよ…」

勇者「そいつは俺の恋人を殺したんだよ!」

魔女「!?」

不死者「…」

勇者「恋人は魔王討伐の為、一緒に旅していた仲間でもあった。あの頃、今よりずっと弱かった俺はそいつに負け、あいつは殺されちまった!」

魔女「そんな…」

魔王と討伐する者と、魔王に従う者。敵対する者同士、殺し合うのは必然。
だけど、だからと言って、感情は割り切れるものではない。

勇者「俺は死に物狂いで腕を上げた!だが不死者のそいつは、殺しても殺しても蘇りやがる!」

勇者「あいつはもう、俺の元に帰ってこないのに…!!」

勇者「だからそいつを殺す度…俺の中の憎しみがどんどん大きくなっていったんだあぁ!!」

魔女「!?」

勇者さんが駆け、あっという間に私を抜く。
そして不死者さんの、もう片方の腕を切った。

不死者「…っあぁ!!」

勇者「痛いかよ、でももうすぐ死ぬんだからギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!!」

そう言いながらも勇者さんは攻撃の手を緩めない。
私から見ても、殺さないように手を抜いているのは明らかだった。
不死者さんは攻撃を受ける度、顔を苦痛に歪ませた。

こういうシチュエーション、本ではどういう結末になったっけ――?

何を考えているのか。
だけど混乱した思考の中、私はそんな事を考えていた。

もし、愛する人を誰かに殺されたら――
その憎しみが抑えきれなくなったら――

ハッピーエンドの物語はあった。それは、死んだ恋人が蘇るとか、恋人の幽霊が残された人を説得するとか、そんなご都合主義な展開だった。
だけど、そんな事は現実に起こらない。

勇者「次は…ほらあぁ!!」

不死者「ぐあああぁぁっ!!」

不死者さんの片足が吹っ飛ばされる。これで逃げることはできなくなった。
それでも勇者さんは、不死者さんのもう片方の足に狙いを定めていた。

魔女「やめて…やめて下さいっ!!」

憎しみを止める言葉なんて存在しない。
ご都合主義なんて本の中だけの話。


不死者「が―――ッ」



そして、不死者さんの残った足も吹っ飛ばされた。

不死者さんは両手両足を失い、血を大量に吹き出しながらも生きていた。

魔女「も、もう――」


――もうこれ以上苦しめないであげて。


魔女「不死者さんを――」


――不死者さんを楽に殺してあげて。


勇者「ハァ、ハァ…そろそろいいか…」

魔女「!?」

勇者さんが小瓶の薬を剣に振りかける。


――早く殺してあげて。


魔女「…違う」


魔女「不死者さんを、殺さないでよ―――ッ!!」

――――
――

「おにぃ」

ん?

「寂しいな」

安心しろ、俺も今すぐ行くから。


獣人族の村が滅ぼされたのは、もう何年前かな――
魔物と人間の中立を保っていた村に、人間側に立つよう国から要請があったんだったな。
だけどそれを受け入れたら、魔物を親に持つ者は親と縁を切らなければならなくなる。他にも理由は色々あったけど、村は要請を断ったんだ。

だから、国に滅ぼされた。

不死者になってからお前と会うのをやめたから、俺は後からそれを知ったんだ。
魔王側の者となっていた俺は、躊躇なく国を襲撃できた。
その時だったな、勇者と初めて戦ったのは――


「寂しい」

まだ言ってんのか?


「私はまた、1人になる」

――え?



「もっと一緒にいたかった」


――――あぁ、あんたか。


そういえばあんた、残されるのは辛いって前言ってたな。
あんたと過ごした日々――思い返せば、俺が人間らしく過ごせた最後の時だった。

死にたいのは確かだったけれど――



俺ももっと、あんな日々を過ごしていきたかったよ。




子供「魔女さん、こんにちはーっ」

村人「やぁ、散歩ですか?」

魔女「こんにちは、今日はいい天気ですね」

薬草を摘みにきたら、そこにいた人達が私に声をかけてきた。
今日はどんな薬と調合するのとか、最近村に遊びに来ませんねとか、皆私に興味があるみたい。

魔女「ふふ、今作っているものを作り終えたらまたお邪魔させて頂きます」

勇者の魔王討伐に貢献した魔女――いつの間にかそう呼ばれるようになり、私の評判が上昇した。
勿論完全に偏見が無くなったわけじゃないと思うけれど、人々の私への態度は前よりもずっと柔らかくなった。

子供「あ、魔女さん」

魔女「なぁに?」

子供「これ、魔女さんが読んでた本の最終巻!貸してあげるね!」

魔女「まぁ」

結末は知っている。
死によって残される者はいない、ご都合主義が生んだハッピーエンド。

魔女「ありがとう」

私は、そんなハッピーエンドが好きだった。

本を読み進めながら、思い出す。彼が教えてくれた物語を。

魔女(残されなければ幸せだったのかな――)

あの頃と違い、今は孤独じゃない。
それでも、私は寂しかった。

魔王の手先になり、勇者さんに憎まれ、人間の敵と死んだ彼。
彼を許してあげたいと思うのは、きっと私だけだ。

魔女「…はぁ」

ほんの数日の日々の中で知ってしまった温もり。その温もりに未練を抱き、今だに夢にまで見る。
立ち直るのに、人間では何年かかかる。勿論、勇者さんのように何年も引きずっていく人もいる。
なら魔女な上、落ち込みやすい自分が立ち直るには何十年かかるのだろう――何十年も経てば、彼を忘れてしまうのだろうか。

魔女(忘れたくはないなー…)


トントン


魔女「あ、はーい…」ガチャ

魔女「…あら?誰もいない」

にゃー…

魔女「…ん?」

猫「にゃー」

魔女「あら猫さん?」

私は小さな訪問者を抱き上げた。

猫「にゃーにゃー」

魔女「うふふ、可愛い。小さいし仔猫かなぁ」

猫「にゃあ」スリスリ

魔女「でも、よく見たらちょっと目つき悪いなぁ」

猫「にゃー!」

魔女「きゃっ、ごめんなさ~い!!」

猫「にゃあ」ポンポン

魔女(私が困ったら頭ポンポンって…)

魔女(この目つきといい…)

猫「にゃあ」スリスリ

魔女「…」

魔女に輪廻転生はあるけれど、人間はどうなのか――

魔女「…ねぇ、覚えてる?」

猫「にゃー?」

魔女「…そうだよね」

ご都合主義なんてのは物語だけの話。

魔女「うちに来る?」

猫「にゃー」スリスリ

魔女「…来たい、ってこと?」

残されるのは辛い。1度知った温もりを手放すのは寂しい。
それでも。

魔女「あげるの、ミルクでいいのかなぁ」

猫「にゃー」

魔女「今度村に行って聞いてみなきゃ」


これから過ごす長い年月の中で、新しい出会いはきっとまたある。


魔女「そうだ。今度は猫さんを擬人化する魔法を研究しよっかな」

猫「にゃ?」


1度知った温もりも、寂しさも、これからもっともっと増えていくのだろう。
それでも私の物語は終わらない。まだまだ長い年月を過ごすのだから――


魔女「ハッピーエンド、目指していかないとね!」





最後まで読んで頂いてありがとうございました。
恋愛中心にすると宣言したのに恋愛色が弱くなった…。
まぁこのエンドなら、2人の距離感はこの程度で丁度良かったかなーって思います。作者は。

>>73
×人間の敵と死んだ彼
○人間の敵として死んだ彼

早速コメントありがとうございま~す、救われました!

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