八幡「ラブレター?」 (96)


結局葉山の一人勝ちのような茶番のマラソン大会も終わり、今はもう2月だ。

まだまだ冷たい潮風はチャリ通には厳しい。いやん、ほんと、髪の毛が潮風で痛んじゃう……。

朝、いつものように登校し、何の変哲もない下駄箱を見やると

そこにあるブツが鎮座ましましていらっしゃった。


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……きたな、久しぶりに。

高校初だが流石にこの程度で動揺なぞしていられない。何よりゴミよりマシだ。

俺は、さて今回はどんな悪戯だ? と興味半分、うんざり半分、

もしかしたら……という期待半分、頼む、本物であってくれ! 神様!! が全部まである。

しかし神はそこにおわさず、あったのはラブレターらしきものと一枚のメモ紙だった。

だが俺の予想は半分正解、半分外れていた。

それは正しくラブレターだった。

戸塚彩加宛ての。

      × × ×


奉仕部 比企谷八幡様

こんな形で依頼してすいません……。

あなたのクラスメイトで、友達の戸塚彩加君へ、

同梱の手紙を渡してほしいんです。

勝手なお願いをして本当にごめんなさい。

      × × ×




由比ヶ浜「 ヒッキー? 何してるの? 」


八幡「 っ!! 」


かろうじて大声をあげずにすんだ。心臓が刺し穿たれたかと思ったぜ……。

明らかに幸運B以下な俺は間違いなく死んでる。

妙な予想の外れ方に、思わず呆然としていたらしい。ore/stay 下駄箱。

即、この危険物を鞄に仕舞おうとしたのが間違いだったか、

鞄の口が開いてないことがスッポリ頭から抜けていた。




由比ヶ浜「 え、もしかして、ヒッキー今のって……? 」


慌てて制服のポケットに突っ込んだが、由比ヶ浜にしっかりブツを見咎められたらしい


八幡「 あー、いや、違う。お前が今想像しているようなものじゃ、ない 」


由比ヶ浜「 違うの……? あっ! いや、ごめんね! こんな変に問い詰めるみたいに!あはは…… 」


そう言いつつ、由比ヶ浜の目は未練がましく俺のポケットをチラチラと追っていた。

でもコイツは優しい子だ。手紙を書いた人のこともちゃんと想像出来るのだろう。

今も何か聞きたそうにお団子クシクシしたり、マフラーの先をいじったりしながらも、

いざ口を開こうとすると目を伏せ、下唇を噛み耐えている。

……あー、もうめんどくせーなー、これ。


いっそここで全部ぶちまけたい気持ちに駆られるが、ことは戸塚がらみである。

これが葉山や戸部、もしくは、万が一あの材木座宛のラブレターらしきものなら、

余裕でゲロっちまうんだが……。戸塚のことで適当は許されない。

とりあえず、二人してここで突っ立てても遅刻しちまうだけだ。


八幡「 んんっ……。教室行くぞ 」


由比ヶ浜「 え? あ、うん、そうだね……。ごめんね? ヒッキー 」


由比ヶ浜を先行させ、俺達はまんじりと階段を上っていった。

こんなに長い階段は久しぶりだった。

      × × ×

今日はここまでですー。

あんま書き溜めてないくてスマン、スマン……!

おやすみー


教室につくと、由比ヶ浜はチラッとこちらを見て何か言いたげにした後、

三浦達のそばへ朝の挨拶をしながら駆け寄っていった。

周りの生徒がそんな彼女の朗らかな様子に目を奪われている隙に、

にょろりと数歩遅れて俺も教室に侵入する。

まさか、いの一番に見られたくない奴の片割れに見られちまうとは……。


例のメモには奉仕部名義を使っているのに、頼るのは俺だけ。

まあ、なんとなく察する。

高校生にもなれば、恋愛のリスクを最小限にと考えるのは自然だろう。

恋は、成就すればバンバンザイ! だが失敗すればこれほど惨めなこともない。

その事実を知る奴は少なければ少ないほどいい。

その唯一に、戸塚の友達で奉仕部の俺に白羽の矢を立てたと。


だからもしこれが本物なら、

依頼主的に由比ヶ浜や雪ノ下に知られるのは本意じゃないんだろう。

由比ヶ浜には悪いが、状況がきっちり終わってから説明するとしよう。

……しかし、俺ってちゃんと戸塚の友達に見えてたんだな。

まず手紙の差出人にそのことについて盛大に感謝したい。ありがとう!!


でもなー、戸塚の友人関係を完全に把握しているわけではないが、

俺より親しい奴なんて結構いると思うぞ?

そもそもなんで俺を経由させる意味があるんだ?

何? 俺は西船橋駅なの? ラブレターも乗り換えする時代なの?

普通に戸塚の下駄箱にIN! ではいかんのだろうか?


友人、この場合俺だが、俺が何か依頼人のことを戸塚に良く伝える効果を狙うにも、

無記名だからそもそもフォローのしようがない。

考えれば考えるほど意味がわからない……。そんな意味のわからんものの為に、

由比ヶ浜とあんな気詰まりな状態をいつまでも続けるのは御免被りたい。

なのでとっととこんな手紙は手放したいんだが……。

朝練をしていたのだろう戸塚は、結局ホームルーム直前まで教室に現れることはなかった。

      × × ×



八幡「 ……ううむ 」


俺は今まで、教室の中での戸塚にそこまで意識を割いてなかったが、

まさかこんなに色々な人と親しげに話したり移動したりしているとは……。

よく考えれば俺にすら話しかけてくれる天使だもんな……。

俺が戸塚と教室で話す時は、いつだって天使降臨から始まる。

俺から戸塚に話しかけることは皆無だ。

今、そのハードルの高さが仇になっている。


こんなもん、休み時間にちょっと戸塚に人気のないところに来てもらって、

軽く事情を説明しつつパパパッと渡して終わり!だと思ってたんだが。

戸塚って女子にひっぱりだこなんだな……。



女子A「 うっわ! 戸塚君って腰細すぎ! 」


女子B「 ね! 脱がせてみたいよねー! 」


戸塚の背後から腰を抱きしめていた女子が、

片腕だけ外し戸塚から離れた。

そのまま片腕で戸塚のウエストを維持しつつ、

いたずらっぽく隣にいた別の女子に抱きつこうとしている。



女子A「 くらえ! 」


女子B「 ちょっとやめてよ!? 」


戸塚「 あはは、やっぱり運動してると違うのかな? 」


あれ? おかしいな……。戸塚は男の子なのに違和感がない。

むしろ戸塚が女子からラブレターを貰ったという事実の方に違和感を覚えてしまう。

これ男子からのラブレターなんじゃないの?

メモの文字もどっちとも取れるし。もしくは百合女子。

そっちのほうが余程しっくりくる光景が休み時間の度に展開される。

正直俺が割り込む隙間なし。


そう、すでにもう三時間目の後の休み時間なのである。

失敗した……。とっとと誰か使って戸塚を呼んでもらえばよかった……。

しかし、人選がなー。

俺が何か頼んで動いてくれそうな奴、大体トップカーストなんだよな……。

なるべく由比ヶ浜に接触したくないのに、頼めるのがだいたいその周辺。

ここは素直に昼休みに隙を見て渡す方がいいか……。

しかしあの戸塚にラブレターか……。

俺は戸塚がどんな返事をするのか、少しだけ気になった。

      × × ×


四時間目の授業が終わると、俺は例のブツを懐に忍ばせ、まずは食堂へ足を運ぶ。

そこで適当な惣菜パン二個と、ホットのマックスコーヒーを買ってから、

テニス部の練習を眺めることが出来るいつもの場所へと移動する。

そして歩きながらも今回の一件について思案する。


戸塚は可愛い、が、それは決して男性として魅力がないというわけではない。

容姿は中性的だが、王子様タイプが好きな人にはそれがいいだろうし、

この学校に入学できた時点で頭も悪くないだろう。

テニス部の部長で、人望も十分ある。

本人も部をまとめる傍らスクールに通うなど努力も欠かさない。

性格は言うまでもなく天使。


そんな戸塚を好きな人がいても、全然不思議はない。

だが、俺は何やらモヤモヤしたものを持て余していた。

正直嫉妬がないとは言えない。いや、かなりある。

……嘘です、めちゃくちゃ嫉妬してます。

いやいや、そうじゃない、戸塚は男だ、落ち着け俺。


このモヤモヤの源泉は、今の戸塚に誰かさんを重ねて見ている、

そんな益体もない自分の妄想からで……っと何か今危険な思考をしてたな……。

一瞬、つい最近まで耳にしていた嫌な噂話や、

今朝の彼女の我慢する表情がフラッシュバックしてくる。

俺は目を閉じ、一回深呼吸、まだイラッとしてるな、もう一回深呼吸……。よし。

もう大丈夫、余計なこと考えずとっとと飯食ってやることやってしまおう。

しかし、いつもの場所にはすでに先客がいた。

      × × ×

今日はここまでですー。

おやすみー。


まだまだ外で食事するには寒い時期にもかかわらず、

弁当持参で駐輪場そばの階段に腰掛けているのは見知らぬ女子だ。

慌てず焦らず、先客の女子の視界に入らないよう駐輪場の影に移動して、

遠巻きにベストプレイスを眺める。ぼっち勢なのかしらん?

だが軽く観察するだけでも、

彼女が確たる目的意識を持ってあそこで食事しているのがわかる。


その女子はわざわざ簡易な敷物を用意し、下半身はクリーム色のひざ掛け、

上は紺をベースに、白兎のアクセントをあしらったケープを羽織り完全防寒。

その視線は熱心にテニス部の練習を眺めていた。

あっちゃー……。まさかこれ本人とバッティングしちゃってますか?

ラブレター書いた女の子が見てる前で、

見られていることを知りながらそのラブレターを想い人へ渡す……。

しかも渡す相手は女の子みたいな男の子、これもうわかんねぇな。


どうすっかな、とりあえず退散した方がいいのか?

どっかで戸塚に声をかけるのを伺うにしても、

俺がご本人様に気がついたことが知られるのは上手くない。

依頼主は俺に素性がバレるのを良しとしないだろう。

そうじゃなければ無記名で投書なぞするまい。


だったら、ここは見て見ぬフリが正解か?

下手にここで渡しちゃうと素性がバレたことを知らせてるようなもんだしな……。

ったくよー! 当の本人が邪魔しないでくださいよぉー!


雪ノ下「 一年生を眺めながら唸って、何をしているのかしら……。ストーガヤ君? 」


俺の手から惣菜パンの入ったビニール袋か零れ落ちる。


そして、それを拾い上げホコリを払ってくれているのは由比ヶ浜だ。

俺はゆっくりと振り返る。そこには二月の寒さも裸足で逃げ出す極寒の微笑。

白刃のごとき鋭利な視線は永久凍土すら綺麗に両断するだろう。

いわんや俺の精神なぞ……。勘弁してください……。

雪ノ下が苛立たしげにその艶やかない黒髪をかきあげる。


隣にいる由比ヶ浜はずっと伏し目がちなまま、

手元のビニール袋をどうしたものかと胸元に抱えてじっとしている。

その表情は雲のかかった太陽のようで判然としない。


八幡「 いつから……? 」


あまりの衝撃に片言になっていた。のどカラッカラである。

親に叱られてる時こんな感じになるよね!

>>41
細かいけどミス見つけちゃったから変更で……


そして、それを拾い上げホコリを払ってくれているのは由比ヶ浜だ。

俺はゆっくりと振り返る。そこには二月の寒さも裸足で逃げ出す極寒の微笑。

白刃のごとき鋭利な視線は永久凍土すら綺麗に両断するだろう。

いわんや俺の精神なぞ……。勘弁してください……。

雪ノ下が苛立たしげにその艶やかな黒髪をかきあげる。



雪ノ下「 あなたがここでうろうろし始めた辺りから 」


八幡「 なんで……? 」


まあ想像はつくが、時間を稼ぐためあえて聞く。

怒りは持続しない感情だからね!


雪ノ下「 由比ヶ浜さんがいつものように昼食をとりにきたのだけれど…… 」


由比ヶ浜「 …………うう 」


聞くとどうも思った展開とは違うらしい。

いつもの待ち合わせ場所に来た由比ヶ浜に元気がない。

そのことに気がついた雪ノ下が不審に思い、

根掘り葉掘り聞いても当の由比ヶ浜は大丈夫、なんでもないの一点張り。

クラスで何かあったのかと思い、

俺に事情を聞こうと前に由比ヶ浜から聞いたここに足を運べば、

当の俺がストーキング真っ最中だったと……。


そうか、由比ヶ浜、言わなかったのか……。

誰だって自分の恋を茶化されたくはない。

まして思いの丈を綴った手紙を、別の女性になど。

送られた相手を勘違いしているが、由比ヶ浜は誰かの想いを尊重している。

なら、俺も覚悟するべきだろう。

しかし、ここで丁々発止とやり合ったら依頼主にバレかねん……。



八幡「 ちょっといいか?場所を変えたい 」


雪ノ下「 ここではまずい理由があるのかしら? 」


八幡「 まずい 」


雪ノ下の、血肉を超えて心を斬りつけんとする視線を、真正面から受け止める。

……泣きそう。だがここで折れてはいかん。

依頼主と、それを慮った由比ヶ浜のためにも。


絡まる視線、息の詰まる数瞬、ふっと雪ノ下が力を抜き、目を背ける。


雪ノ下「 ……とりあえず部室に行きましょう。昼食もまだだし 」


八幡「 ……すまん 」


雪ノ下「 やましい事なんてないんでしょ……? なら謝らなくていいわ 」


こちらを向いたその表情には、困ったものを見るような、

そんな微苦笑が浮かんでいた。


      × × ×

今日はここまでですー。

おやすみー。


そういえば鍵はどうすんだ? と思ったら既に開いていた。

二人でよく昼飯食ってるのは知ってたが、ここ使ってたのか……。

部室に着くと、三人でまずは黙々と食事を済ます。

その際、俺の分の紅茶までいれてもらってしまう。

……まあ、マックスコーヒーは冷めても美味いからね? 後で飲もう。



雪ノ下「 では、あらためて……。ストーキングは犯罪よ?比企谷君 」


由比ヶ浜「 ……かわいい子だったね。なんかリスみたいで、くりっとしてて 」


あれ!? そこはもう終わった話じゃないんですかね……。

古傷が疼くのでやめて欲しいんですけど。

あと由比ヶ浜、なんかちょっと怖いぞ。


俺は中身が残っていないのに、湯呑みをあおって一拍置く。


八幡「 一応弁解しておくと、ストーキングしてたわけじゃない 」


雪ノ下「 そうなの? てっきり由比ヶ浜さんが比企谷君の所業を知って落ち込んでいたのかと…… 」


とんだ冤罪だ……。

説明するにも、俺は全く無関係ってわけじゃないのが面倒だな……。



雪ノ下「 そもそも彼女は誰? 由比ヶ浜さんの不調と関係があるのかしら? 」


八幡「 依頼人……かもしれない奴だ 」


または依頼人(仮)。きみの手紙が、僕を弱らせる。本当弱った……。


由比ヶ浜「 ええ!? 」


由比ヶ浜が素っ頓狂な声をあげて立ち上がる。思わずビクッとなった。

あまりの大声に雪ノ下も相当驚いたのか、怒られた子供みたいに身を縮めていた。



雪ノ下「 ど、どうしたの? 由比ヶ浜さん 」


由比ヶ浜「 え、あ、え? あれ? あ! じゃあ、下駄箱のあの手紙は!? 」


由比ヶ浜は手をわちゃわちゃしながらも、自分の考えを整理しているようだ。


八幡「 だから、お前が想像しているようなものじゃないって言ったろ? 」


雪ノ下「 下駄箱、手紙、想像、依頼……そういうこと……フッ 」


鼻で笑いやがったな……。雪ノ下は察したようだ。


これ以上は言っても俺が惨めになるだけだが……。

一応ダメ押しで言っておくか……。それで笑ってくれるなら安いもんだ。

俺は由比ヶ浜に向き直り、頭をガシガシ掻きながら、しっかりと噛み含めるよう話しかける。


八幡「 あのな、由比ヶ浜? 」


由比ヶ浜「 う、うん 」


八幡「 俺は生まれて此の方、ラブレターなんてもん、貰ったことなどない! 」


由比ヶ浜「 そ、そっか! えへへ、そうだよね! ヒッキーだもんね! 」


……最後の一言は余計だ。



雪ノ下「 そろそろ時間ね…… 」


そう言って憎たらしい微笑を浮かべつつ、後片付けを始める雪ノ下。

茶器を片しながら雪ノ下は最後に確認してくる。


雪ノ下「 私たちはここで何も聞いていないし、依頼のことも何も知らない。それでいいのかしら? 」


八幡「 ……ああ、悪いな依頼の件黙ってて 」


雪ノ下「 それが必要だったのでしょう? 気にしてないわ 」


気を許した猫のような、そんな笑顔だった。

人の秘密をわざわざ暴くことも無い。

ましてそれが恋路なら尚更だろう。

だからこれは当たり前の話だ。

別に、一月末の寒空や、どこも見ていないような瞳、冷え切った本を思い出す必要は無い。



八幡「 なあ……。一つ聞いていいか 」


雪ノ下「 何かしら? 」


何か言い知れぬ感情に、身の内掻き毟りたくなったが、

結局その手には何も引っかからず、焦りばかりが募る。


八幡「 あー、いや、あ! そういえば、あの女子一年なのか? 」


結局引っかかったのはそんな問いだった。


雪ノ下「 あなたが見ていた子? その筈よ 」


ふーん、一年ね……。なんかそれも違和感あるな。

戸塚は同級生や年上の女子に人気ありそうなんだが。あと男子全般。

メモの内容もいまいち年下の像が結ばない。

ありえないってわけじゃないだろうが……。

俺があれこれ考えながら部室の片付けを終わらせると、

するっと由比ヶ浜が傍に寄ってきてそっと耳打ちする。


由比ヶ浜「 今日はいろいろごめんね、ヒッキー。明日ちゃんとお詫びするからね! 」

      × × ×


空はすでに橙色と藍色が交じり合い、学校の喧騒は遠いものになった。

俺は今、戸塚と並んで下校の道を自転車を押しながら歩いている。


戸塚「 そっか……今日そんなことになってたんだね。なんかごめんね? 八幡 」


八幡「 いや……別に戸塚のせいじゃないし。誰のせいでもないさ 」


だからそんな顔しないでくれ……。死にたくなる。


戸塚はそれでも納得してないのか、


戸塚「 ちゃんと二人に事情を説明しておくから!安心して! 」


とまで言ってくれた。俺のクラスメイトが天使で世界が黙示録。

しかし、これで肩の荷が下りた……。

気が抜けたせいでつい余計なことを口走ってしまった。



八幡「 で、戸塚は返事どうするんだ? 」


戸塚は、ちょっと目を見張ると、歩みを止めて俺を見上げる。


戸塚「 どうしたらいい? 八幡 」


八幡「 えっ!? 」


俺が思わぬ答えに狼狽していると、

戸塚が悪戯に成功した童女のようにクスクスと笑う。


戸塚「 八幡は、これからいっぱい聞かれるだろうから、練習だよ! 」

      × × ×


翌日、俺は通学途中に二人の仲睦まじいうちの高校の生徒を見かけた。

一人は戸塚が持っているような、テニスラケットバッグを担いだ男子生徒。

もう一人が、昨日熱心にテニス部の練習を見ていた一年生の女子。

なんかイチャイチャという幻聴が聞こえてくる程で、

友達の距離感ではないのは傍目にも明らか。

うーん……。これってつまりそういうこと?


なんだよー!いらんことまで気を回してた俺が馬鹿みたいじゃないですかー!やだー!

…………ま、俺の主観が全部正しいわけないわな、反省。

結果を知れば、そんなもんなのだろう。

あの冷たい本も、彼女の疑問も、ある部活の結末も。

俺はこの時、昨日の戸塚とのやりとりを思い出していた。

だからなんだという話だが……。

      × × ×


駐輪場に自転車を置き、今日も幾多のドラマが生まれる昇降口へ足を運ぶ。

そして下駄箱を開けた瞬間、それに目を奪われる。

犬と猫のシールで封をされたピンクの便箋が、くたびれた上履きに立てかけてあった。


                                 了

読了おつかれさまでしたー。そしてありがとうございますー。

ふわっふわな話ですまんな!

ではまたいつかー。

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