上条「22番勝負?」アレイスター「勝ち抜け、幻想殺し」 (202)










目が覚めたらそこは、真っ白な世界だった。


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いつぞや落ちたスレのやり直し。
最後まで書きためた。二日か三日ぐらいで投下しきる予定。
他のエタったのも終わらせる気はある。完結されたらいつか落とす。






上条「……………は?」


上条「え、ちょっと待って、上条さんの不幸もついにここまで来たの!?」

上条「今まで目が覚めたら超音速旅客機の中だったりしたけど、ここどこだよ!?」

上条「おーい、誰かいませんかー!!!!!」


上条「……」



上条「……」




上条「……」




上条「ちょ、マジで誰もいないの!?」

アレイスター「やぁ、起きたかね幻想殺し」

上条「……おわぁ!なんだ急に眼の前に現れて! でもよかった人がいた!!」

アレイスター「私の名前は、アレイスター・クロウリーだ。以後お見知りおきを?」

上条「ああどうも、俺は上条当麻です……って、こんなことしてる場合じゃねぇ!どこだよここは!
 何かホテルの待合室みたいだけど俺は部屋で寝てたはずだろ!?お前がやったのか!?
 お前は何者なんだ!?インデックスはどうなった!!」

アレイスター「そう焦るんじゃない。ここは所謂精神世界のようなものだ。君の現実の身体はちゃんと君の部屋の風呂場で横になっているよ」

上条「精神世界……?」

アレイスター「別に誰かの精神、という訳ではないから厳密には違うのだがね。そして、そこに君を招いたのが私だ」

上条「招いた、ってことはお前が犯人ってことか。お前はいったい何者なんだ」

アレイスター「自分の街を治める人間くらい覚えておけと言いたいが、私の名前までは一般公開されていないからな。仕方ないだろう」

上条「街を治めるだって!?」

アレイスター「いかにも。私は学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリー。最初にも言ったがね。以後お見知りおきを」

上条「統括理事長?統括理事会の、長ってことか。……めっちゃ偉い人じゃねぇか!」

アレイスター「そう言う事になるな。さて幻想殺し。君をここに招いたのには理由がある」

上条「は、はい」

アレイスター「敬語はいらない。楽な口調で話してもらって構わない」

上条「いや、そう言われましても上条さんは学園都市に住む一学生でして………」

アレイスター「超能力者や魔術師と何度も戦っていながら一学生とは」

上条「!!」

アレイスター「何故驚いた顔をする必要がある?もう一度言うが私はこの街を治めているんだ。
 禁書目録の事も、三沢塾の事も、絶対能力者進化実験の事も、アステカの魔術師の事も、ゴーレム使いの魔術師も、大覇星祭の使徒十字騒ぎも、ローマ正教神の右席達の来訪も、全て把握している」

上条「テメェ……」

アレイスター「もちろん、御使堕しのことも、シスター部隊の事も、アドリア海の女王の事も、C文章の事も、イギリスのクーデターの事も、第三次世界大戦の事もすべてだ」

上条「お前は、魔術師なのか」

アレイスター「そうであるともいえるし、そうでないとも言える」

上条「世界中で起きてた事をわかってながら、何もせずに放っておいたのか」

アレイスター「全て、ではないがね。かなりの部分は君たちに任せた」

上条「どうしてそんな事が出来んだよ!!お前は学園都市のトップなんだろ!?力を持ってて、それを使う事が出来たのに、何でそんな風に酷い目に会っている人達を放っておけんだよ!!」

アレイスター「プランの進行に、妨げが無いようにだな。私にとってはプランこそ全てにおいて優先するべきものだ」

上条「そのプランっつーのは世界中で戦争が起こるのより大層なもんなのか!?」

アレイスター「当たり前だ。何せ、世界が滅びるを止めるために練ったのだから」

上条「なっ……」

アレイスター「まあ今はそんなことはどうでもいい。君がここへ呼ばれた理由。それは、今いったプランに関係することだ。詳しくは言えないが」

上条「………それに従わなきゃならない理由は?」

アレイスター「考えても見給え。私は君の精神だけを君の意思に関係なくここへ持ってくる事が出来る」

上条「それに従わなきゃ、帰る事は出来ないってわけか」

アレイスター「端的に言えばそうだな。君を脅しているのだ。『自身と周りの人々の命が惜しければ、こちらの要求に従え』と」

上条「クソ………」

アレイスター「考えたいのならば、悩みたいのならば幾らでも悩んでもらって構わない。ここは便利な世界でな。この中で丸一日経とうと現実世界ではほんの数秒も経っていない。好きなだけ考えたまえ」

上条「要求に従う」

アレイスター「………ほう、早いな。いいのか?君の意にそぐわない事をさせられるかも知れんぞ?」

上条「どっちにしろ俺に選択肢はないんだ。だったら一秒でも早くお前の要求をクリアして、お前をぶん殴った方がいい」

アレイスター「ふむ。いい心がけだ」

上条「それで………俺は、何をすればいいんだ」








アレイスター「22番勝負、ガチンコ勝ち抜きバトルだ」



上条「……………………………………………………は?」



   

アレイスター「聞こえなかったかね?勝ち抜きバトル。戦って勝てば次に進めるという単純な―――」

上条「待ってくれ。何と戦うんだ?」

アレイスター「君が今まで闘ってきた人々と、だ」

上条「!!」

アレイスター「正確にはここ半年あたりの君が戦ってきた魔術師、超能力者、その他の人々と一対一で―――」

上条「俺にそいつらを殺せって言いたいのか!?例えば一方通行や土御門や偽海原達を!!」

アレイスター「それは安心するといい。まず、君は殺す必要が無い。『勝ちが確定した』瞬間、その勝負は終わる」

上条「だとしてもそいつらを傷つけるってことじゃねぇか!!」

アレイスター「話は最後まで聞きたまえ。何も現実の彼らを連れて来て戦わせるわけではない。
 いわば記憶……君が戦ってきた相手の記憶や記録から再現して、それと戦ってもらう。いわばシュミレーションだ」

上条「じゃあ、みんなを傷つけたりすることは?」

アレイスター「現実世界において一切ないと断言しておこう」

上条「……わかったよ」

アレイスター「納得して頂けたようでなによりだ。さて、簡単なルール説明からして行こうか」

上条「ああ、頼む」

アレイスター「まず君が行う事は、先程も言ったように今まで君がここ半年程度の間に戦ってきた人々と戦闘する事だ。
 まず対戦相手についてから。これは、君が戦ってきた人々の中から基本的に強さ順に22人、戦ってもらう」

上条「それはどういう基準で?強い方から?弱い方から?」

アレイスター「当然最初に戦ってもらうのは弱い方からだ。基準は、……これはとても重要だ。よく覚えておくといい。『今の君にとって楽に倒せる順に』並んでいる」

上条「………それのどこが重要なんだ?」

アレイスター「やればわかる。ちなみに原作小説や単行本の発売順などとは一切関係が無い」

上条「単行本?」

アレイスター「さて次だ。
 勝利条件、または終了条件についてだ。ここはやはり便利な世界でね。君は死んでも即座に生き返って来れる。この世界では絶対に完全に『死』なない。ゲームなどの死亡と同じような物だ。残機は無限だがね。
 だから、もし戦闘中に死んだとしても君に何の影響も無い。ただし勝ち抜き戦なので当然始めからやり直しになるがな。
 勝利条件は、『勝利が確定した状況』。例えばどちらかが死ねば当然そこで終わるし、君ならば『足と右腕をつぶされて、動きが取れなくなる』などの状況に陥れば100%勝ち目はないといっていいだろう。相手にもよるだろうが」

上条「そこまで相手を追い込まなきゃいけないのか!?」

アレイスター「人によるがな。これはネタバレになってしまうが、例えば後方のアックア。
 彼を相手に勝利を確定させるには、それこそほぼ瀕死の状態に追い込まねばならない。
 逆に御坂美琴などは右手で身体のどこかを掴んだ時点で、ほぼ反撃の目はなくなるといっていいだろう。
 つまり、とても相手によって差が大きい」

上条「アックアまでいるのか………」

アレイスター「次に、対戦の状況について。
 全ての敵は、君が戦った時点での知識、経験、能力で攻撃・防御する。これもまた重要な事だな。
 例えば8月に戦った敵と10月に戦った敵では、同じ人物だろうと攻撃方法は全く異なっていたりする」

上条「8月と10月?なんかあったっけ……」

アレイスター「まあそれはおいおいわかるだろう。続ける。
 戦う場所も、その当時戦っていた場所だ。ただしここで重要なのは、その場所には、『君と対戦相手しかいない』」

上条「………?」

アレイスター「重要性が理解できないか。つまりもう一度例を出すならば、『後方のアックアとの戦いにおいて、天草式の聖人崩しも、聖人、神裂火織の助力も得られず、一人で勝利しなければならない、という事だ」

上条「ちょ、無理ゲ―じゃん!!」

アレイスター「文句は言える立場にないぞ。まあ安心するんだな。後方のアックアはかなり最後の方に出てくる敵だ。それまでに君も十分鍛えられているだろう」

上条「ええ………クリアできる気がしないんですけど……」

アレイスター「まあ頑張りたまえ。さて、大まかな内容はかなりかみ砕いて説明してやったが、なにか質問はあるかな?」

上条「うーん……そうだ、死んだらどうなるんだ?」

アレイスター「ここへ即座に戻ってきて、もう一度最初から挑戦できる。特にペナルティーもない。強いてあげるならば君の精神状態が悪くなるだけか」

上条「もし勝ったらすぐに次の勝負が始まるのか?」

アレイスター「それもここに一度転送されてくる。そのあとにすぐもう一度戦いに行くか休むかは自由にしていいが。肉体的疲労は戻ってきた時点で無くなるはずだが、精神的疲労はそうはいかないだろう。
 ここには色々ある。好きなだけ休みたまえ。再開したければ私を呼べ」

上条「確かに何か無駄にソファーとかコーヒーメーカーとかがあるな……」

アレイスター「まあこれはサービスだ。本来ならば不眠不休でひたすら挑ませ続けることもできたのだからな」

上条「ヘイヘイ、有難く受け取りますよーっと。………他には特にないかな」

アレイスター「良かろう、では何時から挑戦するかね?」


上条「当然、今から」


アレイスター「了解した。では、健闘を祈っているよ、幻想殺し」


体が宙に浮くような感覚がする。視界が光に包まれる。


おそらくこれから俺は、人を、理由もなく、傷つける。

だが、その事に言い訳なんてしない。俺は、俺の為に人を傷つけるんだ。

だけどそれで、彼女を守る事が出来るなら―――



―――――待ってろよ、インデックス。



心の中で呟く。



―――――さっさと帰って、旨い飯でも作ってやるからな。



光が、弱くなっていく。きっと戦場に着いたのだろう。

空は黒。真夜中なのか、周りに人影はない。いや、ルールで部外者はすべて取り除かれるんだったか。

周りを見渡すに、列車の操車場といったところか。

がらんとした景色の殺風景さに、整然と積まれたコンテナがそれを増している。

人影は見当たらない。


ここは、もしかして、

心の中である事件を思い出そうとした直後、彼の前方から白い光が降り注いだ。

まるで対戦ゲームのキャラクターの登場シーンのようだ。いや、実際にそうなのだろう。



その光の中から現れたのは。



一方通行「こっから先は一方通行だァ!!」



上条「」



まぎれもない、学園都市最強であった。

アレイスター「お帰り。どうやら負けてしまったようだな」

上条「お帰りじゃねぇよ!!なんで一戦目が学園都市最強なんだよ!!先が思いやられるよ!!」

アレイスター「ふむ、そんなに怒っている割に、かなりの善戦をしていたじゃないか。砂利をかわしたり、粉塵爆発から逃れたり」

上条「プラズマで為す術もなく蒸発したけどな!」

アレイスター「まあの攻撃に対して君がやれることなどほとんどないだろう」

上条「一番目は一番弱いんじゃなかったのかよ……」

アレイスター「幻想殺し。君は何か一つ勘違いしているようだな」

上条「勘違い?」

アレイスター「言ったはずだぞ。 敵の強さというのは、『今の君にとっての手強さ』、だ。
 この事の意味がわかれば、君はもっと先に進めるはずだ」

上条「今の俺にとって……?」

アレイスター「まあとりあえず、休みたまえ。一瞬で蒸発したとはいえ、自分が死ぬのはいい気分がしないだろう?」

上条「いや、もう一度挑戦する」

アレイスター「ほほう?」


上条「あんたが言った事の意味も考えて、もし勝てなくても何度立って挑戦してやる。俺は、絶対にインデックスのもとへ帰るんだ」


アレイスター「………了解した。健闘を祈っているよ、幻想殺し」

再び身体が宙へ浮くような感覚。


今の俺にとって。色んな魔術師と戦って、第三次世界大戦に巻き込まれて、グレムリンなんて言う訳のわからない事件に巻き込まれ始めた俺にとっての手強さ。
つまり、経験値?


そんな事をかんがえながら、再び操車場へ。

相対するは、同じく学園都市最強。


一方「いくぜ三下ァ!!」


上条「……来い!」


先程と開始時の発言が異なっているのは、仕様なのかなにか。
しかし先程の戦闘から、これはゲームのキャラのようなアルコリズムに従っている訳ではないことはもうわかっている。


連続で高速の砂利が飛来する。何とか大きく横に跳んで回避。
だが、そこにはもう既に鉄骨が迫っていた。

さっきの戦闘で、最初は今のように砂利や鉄骨、コンテナを飛ばして来て攻撃してきたが、一度接近すると、近接戦を挑んできた。
こちらの右フックに対し、まるで触れたらそれで勝ちだ、とでも言わんばかりに無防備に。
そして一発殴ってからは、すぐさま距離をとり、件のプラズマ攻撃である。


左腕に鉄骨が掠める。ごきん、と嫌な音。


上条「がっ!!」


思わず声を漏らす。おそらく折れたか。
とんでもない激痛を何とかこらえながら、続いて降り注いでくる鉄骨を何とかかわしていく。


一方「ギャハッ!オイオイどうしたァ!?逃げてばっかじゃ勝てねェぞォ!!」

上条「うっせっ!」


さらに飛んできた鉄骨。これはかわせないか。
あえて鉄骨の隙間へ突っ込む。再びほとんど動かせなくなっていた左手に被弾し、激痛が走った。

だが、致命傷は回避。

つまり一方通行は、この右手の事を『知らない』のだ。
こちらが殴れば、こちらが反射のダメージを受ける。そう考えているのだ。
そう考えていたからこそ、先程の戦闘で殴られて、それからすぐにそれを学習し遠距離攻撃。
『今の君にとって』。アレイスターの言葉が再び頭によみがえった。


一方「ヘェ?俺に挑ンでくるだけあって、逃げ脚だけははえェみたいだな!!」


再び俺が接近したからか、鉄骨を飛ばすのをやめ、両の手をぶら下げる一方通行。


(やっぱりだ。こいつは、右手の事を知らない。そして、さっきの戦闘の事も記憶にない)


考えが確信に変わる。


相手に効く、絶対の武器を相手は知らない。こちらは、相手の攻撃手段や対応の仕方を知っている。
何というアドバンテージ。




上条「うおおおおおおお!!!」




精一杯吠える。少しでも一方通行にプレッシャーを与える為に。

―――こちらの渾身の拳に、備えてもらうために。


一方「ハッ、吠えた所でなンか変わンのかよ!?」

気負った様子はない。当然だ、すべての衝撃を反射できるのだから。
だが、意識は確実に拳が振るわれる、パンチを警戒している。
警戒、というより注意を向けていると言った方がいいだろう。


―――なら!!


上条「……ッラァ!!」


一方「はァ……!!?」


おもいっきり、一方通行の後頭部を掴む。
やるべき事は渾身の一発を叩きこむことではない。『確実に勝てる状況』を作りだすこと。
能力を封じて、無防備な状態のまま、こちらからいくらでも攻撃できる状況を作り出す!!
反射ができずに混乱しているのだろう。一方通行はフリーズしている。



今のうちに、渾身の左ストレートをッ……!!!

……あれ?

左腕が動かない。


一方「カッ、なんだかしらねェが、オマエの右手は能力を無効化する見てェだなァ!」

上条「あ」


後頭部を右手だけの握力でつかんでいられるはずもなく、貧弱なはずの一方通行にやすやすと逃げられる。


一方「だったらさっさと、……決めさせて貰うぜェ!!!」


頭上に光る、元気玉。



上条「しまった――――!!」



ギャグのような声を上げながら、俺は死んだ。






アレイスター「お帰り。どうだったかね?」

上条「………勝てたよ、多分」

アレイスター「うむ、おしかったな。おそらく次は、ほぼ何の問題も無く勝てるだろう。どうするかね?」

上条「今すぐ再チャレンジ」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」






アレイスター「随分早いお帰りだな」

上条「そりゃダッシュして速攻近接戦に持ち込んで右手で左腕がっしり掴んでタコ殴りにするだけだし」

アレイスター「それなりの所で戻ってきてもらったが、いかがだったかな?殺すまでやる必要はない、といった事が信用できるかね?」

上条「ああ、十分だ。3発殴っただけだし。あれなら大したことないだろ」

アレイスター「さて、次はどうするかね?休んでいくかい?」

上条「流石にちょっと疲れたから、休ませてもろうよ……」

アレイスター「了解した。ベッドもある。のんびりとしたまえ」







アレイスター「お早う。良い夢は見られたかね?」

上条「……あれは、俺の記憶、なのか?」

アレイスター「ああ。失われた君の記憶だ。といっても禁書目録からであってからほんの3,4日程度の物だがね」

上条「そうか……。なんでそんなものを俺に見せてくれたんだ?」

アレイスター「これからの敵には、君がその時戦った人々も含まれるのでね。その為の準備、といったところか」


上条「ありがとう」

アレイスター「……感謝されるいわれはないが」

上条「俺は、インデックスの出会いをずっと気にしてた。何であんなになついてくれるのか。自然に笑いかけてくれるのか。
 それの答えを、お前が教えてくれたんだ」



アレイスター「……ふむ。では感謝変わりに一つ質問だ。君から見て。『上条当麻』はどうだったかね?」


上条「………ヒーロー。かな」



アレイスター「…………次はどうするかね?」

上条「挑戦するよ。よろしく、アレイスター」

アレイスター「了解した。健闘を祈っているよ、『上条当麻』」

上条「………ありがとう」

アレイスター「どういたしまして、かな」

第2戦目・終了。



アレイスター「お帰り。これまた早かったな」

上条「御坂……しかも幻想殺しをしらない状態ならダッシュで距離詰めて右手で捕まえたら終わりだったよ」

アレイスター「その時点で勝利確定としておいたからな。本当に一瞬だったようだ」

上条「続けて次に行かせてくれ」

アレイスター「了解した。健闘を祈っているよ、幻想殺し」

第5戦目?終了後。



上条「なんだよあれは!!」

アレイスター「エクストラステージ、という奴だ。君が五人突破するごとに一人、君が戦った事のない未知の敵と戦ってもらう」

上条「……それであの茶髪のおねーさんか」

アレイスター「だが流石に難易度が高いのでな。救済措置がわりに事前に情報だけは与えておいてやる事にするよ。
 彼女の名は麦野沈利。能力は『原子崩し』。レベル5の第四位。理論はおそらく君に理解できないだろうかな端的に言うと、大威力のビームを全身から発射できる能力だ」

上条「……ってことは、俺一方通行からやり直し?」

アレイスター「そう言う事になるな。頑張れ」

上条「……不幸だ―」

EX1.終了後。



アレイスター「おお、16回目の挑戦で遂にクリアか。おめでとう」

上条「なんだよ麦野さんとやら……何であんなに強いんだよ」

アレイスター「ビーム自体は早々と攻略で来ていたようだが?2回目の時点で」

上条「あの人の格闘スキルが鬼門だったんだよ!!俺殴られただけで5m近く吹っ飛んだんだけど!!」

アレイスター「まあそれに勝ったんだからいいじゃないか。正直君の体術のレベルはかなり上昇したぞ」

上条「もう何発合計で一方通行と御坂とステイルと黒い翼はやした一方通行と偽海原を殴ったか覚えてないですよ……」

アレイスター「後半はタイムアタックのようになっていたな。黒翼一方通行はもう少し苦戦すると思っていたのだが」

上条「軌道が直線的だったからな。もう後半は一発目回避して一方通行に横殴りの裏拳をブチ込むっていうパターンが確立しちゃったよもう……」

アレイスター「ふむ、次はどうする?」

上条「ちょっと休ませてもらいます……」

アレイスター「了解した。いい夢を、幻想殺し」

第6戦目終了後。



アレイスター「お帰り」

上条「ただいま………」

アレイスター「どうした?随分とブルーじゃないか」

上条「インデックスって魔神じゃなかったっけ………?こんな序盤に出てきてい異様な敵じゃないだろ……」

アレイスター「自動書記か。まあ君にとってはドラゴンブレスをかき分けながら魔法陣を壊すだけの簡単なお仕事だっただろう?」

上条「いや確かに割とすぐ倒せたけどさ……なんというかこう、情緒?」

アレイスター「一戦目と四戦目に学園都市第一位を倒しているんだ。今さらだろう」

上条「それもそうかもしれないけどさ!」

アレイスター「次はどうする?」

上条「続行で」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」

第10戦目終了後。



アレイスター「お帰り。どうやら想定以上に原子崩しとの戦闘でパワーアップしたようだな」

上条「10戦目が不良×5って………それより前に出てきたレベル5とか魔術師の立場が無いじゃん……」

アレイスター「だが今までの中で原子崩し、ゴーレム使い、黄金練成の次くらいに苦戦していたではないか」

上条「ぐぬぬ、納得がいかぬ」

アレイスター「まあいいんだ。次のエクストラステージは、御坂妹」

上条「え?」

アレイスター「妹達個体番号10032号だな。レベル2程度の発電能力に加え、大量の銃器を使いこなす。格闘能力もそれなりにある。なかなか厄介な敵だろう」

上条「マジかよ……」

アレイスター「どうする?挑戦するか?」

上条「はぁ……行きますよ、行けばいいんだろ!!」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」

EX.2終了後。



アレイスター「お帰り。やはり銃火器は鬼門だったか」

上条「サブマシンガンをよけろとか無茶があると思います!!」

アレイスター「もともと右手以外は割と平均的だった君が魔術師や超能力者と戦うのも割と無茶だったのだがね。まあまた一方通行から頑張りたまえ」

上条「やっぱり不幸だ―………」

EX.2終了後。



アレイスター「お帰り。三回目で銃器突破か。順調なようだね」

上条「アウレオウスを倒すたびに罪悪感が半端ないんですが……」

アレイスター「まああたかも死んだようなふりをして近づいてきたところを四の字固めからのタコ殴りだからな」

上条「だってそうでもしないと勝てないじゃん!!」

アレイスター「黄金練成はチート技だから仕方がない。どうする?次は」

上条「ちょっと休みます……」

アレイスター「了解した。良い夢を、幻想殺し」

第15戦目終了後。



アレイスター「お帰り。順調なようだな。次がエクストラステージだ」

上条「浜面がテッラより上って………お前ローマ正教の最終兵器を何だと思ってんだよ………」

アレイスター「何度も言っているが今さらだな。何人の化け物たちが一般人より前に倒されてきたと思っているんだ」

上条「まあそろそろ諦めも付いたけどさ―」

アレイスター「次のエクストラステージの相手、削板軍覇はレベル5の第七位だ。
 能力名は『解析不能』。その名の通り、解析不能だ。なんかよくわからんがすごい」

上条「おい」

アレイスター「それは流石に冗談だが、実際に行えることはよくわかっていない。念動力に近いと思われるが、実際のところは磁力を発生させたり音速の2倍で移動したりと、何をしているのかが本当に分からない」

上条「お前でもか?」

アレイスター「私でもだ。正直あれは私のプランに置いて完全なイレギュラーだ」

上条「へえー。そんなことってあるんだな」

アレイスター「さて、どうする?」

上条「挑戦するぞ、当然な」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」

第16戦目終了後。



アレイスター「お帰り。土御門元春も撃破、か。そろそろ本格的に君は化け物になっているかもしれないな」

上条「その前の削板に2回負けて、土御門にも一回負けたけどな」

アレイスター「いやいや、君はほんの半年前まで『ちょっと喧嘩慣れした一学生』程度の戦闘能力しか持ってなかったんだ。とてつもない、というか恐ろしい進歩だよ」

上条「もう前半は作業ゲ―だよな……エクストラステージは一回勝ったらなくなったし」

アレイスター「ノンストップで15人抜きだからな」

上条「あれ?そう言えば22番勝負って言ってたよな」

アレイスター「ああ」

上条「エクストラステージは?当然その22番勝負の中に含まれるよな?」

アレイスター「……」

上条「おい」

アレイスター「幻想殺し。本来『extra』という英単語には余分な、別勘定の、という意味があるんだ」

上条「おい」

アレイスター「つまりエクストラステージは別勘定のステージという訳だ。よって22番とは別勘定」

上条「テメェふざけんなよこらぁ!!ってことは実質26番勝負って事じゃねぇか!!」

アレイスター「むむむ胸ぐらをつかむんじゃない。消えるぞ?すぐに復活するが」

上条「くそう!これでようやく20回勝ったぞ―って喜んだ上条さんの歓喜はなんだったんだ!!」

アレイスター「まあそう気に病むな。本当に悲惨なのは22戦目を終えた後で気付くことだと……」

上条「お前が言うな!!」

第20戦目終了後。



アレイスター「お帰り。ひどい有様だな。主に心が」

上条「寝る、お休み」

アレイスター「……了解した。次のエクストラステージの説明は起きてから始めよう」

休憩後。



アレイスター「お早う。そしてお疲れ様かな」

上条「クリアさせる気が感じられないんだが。なんどリトライした?」

アレイスター「100008回だな。疲れるのも無理はない。ちなみにこの世界の中において君は今回の休憩で250時間程度寝ていた」

上条「良く死んでいなかったな」

アレイスター「何度も死んでいるのだがね。まあ仕方ないとは思っていた。あの敵たちを全員倒すんだ」

上条「カーテナで強化されたキャーリサ、聖人の神裂、聖なる右マックス状態のフィアンマに、二重聖人のアックア。逆に良く倒せたと思う」

アレイスター「絶対能力者進化実験よりよっぽど辛いだろう。もう後半は自我を失っていただろう」

上条「無我の極致に到達というやつかな」

アレイスター「次のエクストラステージは、垣根帝督。超能力者の第二位、未元物質だ。
 この世に存在しない物質を作りだす能力、なのだが、今の君には大した問題ではないだろう。
 だが、彼に『勝つ』のは異常に難しいといっておく」

上条「とりあえず行ってみるよ」

アレイスター「ははは。本当に君はとんでもない事になってしまったようだな。最後が楽しみだ」

上条「よろしく」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」

EX.4終了後。



アレイスター「お帰り。大変だったな」

上条「何時間かかった?」

アレイスター「9301時間。まあ一と三分の一カ月程度だ」

上条「まさか不死身と戦う羽目になるとは」

アレイスター「ある意味君も不死身なのだがね。まあ未元物質となった垣根帝督は、まさに不死身だからな」

上条「何か最後は白いのと黒いのが一緒になって襲って来たな。アレは何だ?」

アレイスター「………アレは興味深かったな。元来あの二つは相入れる事のない二つだったはずなのだが……君という最大最強の敵を前に、結束したと言うあたりか」

上条「何か最期はありがとう、なんて二人に言われた。何なんだろうな」

アレイスター「その二人が一緒に闘うなど元来有り得ないことだ。その事に対してではないか?
 最期も、殺されつくされたというよりも、満足して消えたようだったしな」

上条「ふーん……まあ、これであと二人なんだよな?」

アレイスター「ああ」

上条「今までの連中より強い奴なんて想像もしたくないけど、まあやるしかないんだ。ちょっと休んでからもう一度頑張るよ」

アレイスター「了解した。良い夢を、幻想殺し」

第21戦目終了後。



アレイスター「お帰り。どうだったかね?」

上条「トールってあんなに強かったか?」

アレイスター「あれが彼本来の力、『全能』のトールだ。世界が彼に味方する」

上条「いやあ疲れた。勝ったのもギリギリだったしな」

アレイスター「君は、本当に化け物になってしまったな」

上条「ははは。元凶が何言ってんだよ」

アレイスター「そうだな。違いない」

上条「次で、最後なんだろ?」

アレイスター「ああ、次で、最後だ」

上条「ちなみに現実世界で何年くらいたってる?」

アレイスター「ほんの数日だ。せいぜい君は原因不明の昏睡として、病院に運び込まれている程度だろう」

上条「またあのカエル顔の先生のお世話になるのか……申し訳ないな」

アレイスター「冥土帰しならばいやな顔はしないだろう」

上条「知ってるのか?」

アレイスター「もちろん。彼は私の命の恩人だといっても過言ではない。事実そうだしな」

上条「へえ―。じゃあ先生も偉い人だったんだな」

アレイスター「ああ、とても素晴らしい人だったよ」

上条「じゃあ、世間話は終わりだ」

アレイスター「了解した。健闘を祈るよ、上条当麻」

もう既に何十何百万回も繰り返した感覚。
全身が宙に浮くような気がして、目の前が光に包まれて、気が付けばそこにいる。

周りは、まさに荒野というべき地形。
地平線には地表の露出した茶色い山が見え、曇天の空に中途半端に隠された太陽が、俺を見下ろしている。
地面は灰と茶。ところどころ小さな石や、くだけた岩などが目に入って。


目の前に立っていたのは、想像通りの人物だった。



上条「やっぱりお前か」



アレイスター「やっぱり私だ」



笑いかけると、笑い返してくれる。
最初に比べて、随分と人間らしくなってきたと思う。
それに比べて、随分と自分は人間らしくなくなってしまったようだ。


両の手は動く。両の足は踏ん張れる。心臓は力強く鼓動を刻んでいるし、脳は高速で電気信号を送っている。
だけど、全てが希薄だ。
魂が、心が。まるでお風呂にほんのちょっとの絵の具を垂らしたかのように存在感を感じさせない。

上条「結局、これには何の意味があったんだ?」



目の前にいる人間に問う。



アレイスター「最初はな、途中で諦めてもらうつもりだった」

上条「おいおい、俺を返さないってことかよ」

アレイスター「いや、……最初に私は嘘をついた。この世界にも、『死』はあるんだ」

上条「そりゃびっくりだ」


本気で驚いているのに、大して衝撃は感じない。矛盾。

ひょっとして、これが明鏡止水の心という奴か?


アレイスター「『死』ぬ条件は、心をすり減らしきること。
 君は本来、16~19番目の君が散々殺されたあそこで心をすり減らしきって『死』ぬはずだったんだ」

上条「すり減らしきるっていうのは?」

アレイスター「そのままさ。精神力を消耗しきって、すべてに対する気力がわかなくなる。魂は崩れ、そのまま霧散する。
 折れずに、前に進んで、進んで、頑張って、努力して、使い果てる」

上条「もし俺が折れちまってたら?」

アレイスター「その時は君を現実世界においての精神破壊魔術で殺すつもりだった。折れた心ほど弱い物はないからね。
 結局君の肉体が生きたまま、精神が死ねばなんだって良かったのだ」

上条「そりゃこの右腕があるからか?」

アレイスター「世界を引き裂くほどの暴れ馬を手なずける為には、必要だったんだ。君の精神だけが死んで、力がむき出しになる事がな」

上条「手なずけるって、そんなことできんの?」

アレイスター「一方通行と未元物質。『虚数学区』と『ドラゴン』。綿密なプランを練り慎重に進めてきたのにもかかわらず、右方のフィアンマや浜面仕上に無茶苦茶にされてしまってね。それに加えて隻眼のオティヌスとグレムリン達の暗躍によりどうにもならなくなってしまった。
 もはや私が思い描いた絵からは大きく外れ、下手に動いたらプランがどうなるかわからない状態になってしまってね」

上条「お前もそんなことあるんだな」

アレイスター「私はあくまで『人間』だからね。失敗もするし後悔もある。プランが完全に手から離れてしまった今、早急に手を打つ必要があった。
 だから私は、あと数千ステップにも及ぶ段階をすべて放棄し、君を直接殺そうと考えたんだ」

上条「だけど、『化け物』は失敗した」



アレイスター「ああ。君は私が思っていたよりとんでもない『化け物』だったようだ」



上条「『人間』だからな。苦難を乗り越えて行くものなんでせう」



アレイスター「ははは。だから、君は私が相手をしなければいけなくなった」



上条「俺の心を、殺す為に」



アレイスター「ああ。今から私は、君を殺そう。例え何度立ち向かっても、越えられない壁としてね」



上条「じゃあ俺はおまえを倒すよ。例え何度阻まれようと、立ち向かうヒーローとしてな」

アレイスターの片手に、いつのまにかねじくれた銀の杖が現れる。

先端は青緑に発光しており、絵の部分は銀色に輝いているように見えるにもかかわらず、ガラスのように透けても見える。

アレイスターの身体が数センチほど宙に浮き、笑った。






アレイスター「始めよう、幻想殺し」






上条「いくぜ、アレイスター」

一旦終了。
今日はどこまで行けるかね

再開。
一方的にエタッたのに覚えてくれてる人がいて歓喜。

アレイスター戦はほぼ新訳9巻でした。
読む前から書いてたんで9巻見て死にそうになりました。

よってアレイスター戦は無理矢理方向転換したせいでやたらと長いです。



右手を上に振り上げた。

コンマ1秒も経たずに、空から数千、いや数万数億の光条が降り注ぐ。
地面を穿ち、無数の穴をあけた光の槍は、しかし右腕によって彼の身体に降り注いだであろうものだけ全てが殺されていた。

別にこんな攻撃が来ると知っていた訳ではない。ただ、『不幸な予感』がしただけ。
それにしたかがって右腕を振り上げたら、偶然そこに攻撃が来ただけ。


絶え間なく降り注ぐ光の槍を、まるで最初からどこに来るかわかっているかのごとく右腕で殺していく。
視界は金色。目は潰れただろうか。だが、アレイスターの入る方向は分かる。
走る。
こちらの攻撃手段はただ一つ。近づいてぶん殴る。それだけだ。


気付けば、光の槍は止んでいた。
代わりに。



アレイスター「……『衛星光波』を、かわしながら進むか。すさまじいな」


アレイスターは、手にした杖を軽くふるった。

大地を揺るがす衝撃波が、上条当麻に迫る。
右手をアッパーカット気味に、正確にタイミングを合わせ打ち砕く。



上条「今までの戦闘で学習済みだ。ただ右手を出しただけじゃ、衝撃には負ける。こっちも完璧なタイミングでぶん殴ってやれば完全に相殺できるけどな!」

アレイスター「それをするには音速を超える攻撃を完全に予測しなければならないがね」

再び杖が振るわれる。

次に来たのは、極太レーザー。


上条「おらぁ!!」


大きく左へ飛び、そのまま転がる。
直後に、白い光の束が地面に直径3メートル程の穴をあけた。

再び来る。今はかわさない。右手を前に、手の腹を叩きつける。

上条(……消えないか)

だがレーザーは止まらない。かろうじて防ぐ事は出来るが、このままだと押し込まれてしまうだろう。
まるで、『竜王の殺息』のように。

右手を何かをにぎるように動かし、光の束を『掴む』。
そしてそのまま、上へ軌道を逸らす。


再び、前へ。
アイツの姿が、すぐ前に迫る。
あと、目算4メートル。跳べば十分届く距離。


思い切り、地面を蹴った。


右手が唸りを上げて、アレイスターの顔面を、




アレイスター「……ふむ。やはりもはや君は単純な攻撃は全て無効化できると思った方がいいな」




アレイスターが、消えた。

上条「……瞬間移動か。ヲイヲイ、上条さんは移動手段は徒歩、ダッシュ、ジャンプしかないんだぜ?」

アレイスター「私はそれに空を飛ぶと瞬間移動を付けくわえただけだがね」

上条「だけじゃねーよ!」



アレイスターは、彼の後方数十メートルの所に移動していた。

瞬間移動。
単純ながら、ある意味彼に最も刺さる技である。
何故なら、彼は走ることでしか移動できないから。単純に何度も瞬間移動されれば、永遠に攻撃できる事はない。



上条は、再び走る。



現状、俺に瞬間移動をされた場合の対抗策はない。
なんたって俺に攻撃してくる訳じゃない。ただ自分の位置が変わるだけ。
幻想殺しで殺せるのは、この右手の届く距離の中だけ。到底アレイスターには届かない?




上条「―――――そんなことはねぇよな」




右手の届く距離の中だけしか意味が無い?なら、何度立って近づいて、右手の届く距離に引きこんでやればいい。



アレイスター「だろうな。君はこの程度で諦めないだろう」

杖を軽くかかげて、一回転させるアレイスター。

その結果何が起こるのか。



アレイスター「ならば、君を諦めるまで殺してやればいい。最初に行った通りにな」

上条「やってみやがれ!!」



再び極太レーザー。しかも360度から。
逃げ場はないか?いや、ある。
世界は球形なんだ。上にも下にも、幾らでも活路は残ってる!!

大きく上にジャンプ。光の柱は、お互いを食いつぶし合いながら地上を白に染めていた。
もちろんこのまま落下すればかなりまずい事になるだろう。
だったら右手で着地する。

空中で僅かな落下までの猶予の間に、何とか右手を下に持ってくる。
落ちるまであと10センチといったところか。

落ちたら光の柱を再びつかみ、そこで留まる。
それが止んだら、もう一度アレイスターへ向かって走る。

そんな算段を立てた上条当麻の耳に、声が届いた。





アレイスター「『衛星光波』」













彼は、光の矢に貫かれ死んだ。





エイワス「やあお帰り。はじめまして、かな?」

上条「…………どちらさま?」

エイワス「私の名はエイワス。天使でもあるが、『ドラゴン』と思って頂きたい。よろしく、幻想殺し」

上条「え、握手?なんか光ってるけど右手で触っても消えないのか?」

エイワス「おっとこれはうっかりしていた。君のswrrに触れ……ヘッダが足りないようだな。君の右手に触れると一時的に私は消えてしまう」

上条「一時的にってことはすぐ戻ってこれるのか?」

エイワス「本来ならば数年かかるのだがね。ここは彼の都合のいいように作りだした世界だ。10秒もすれば戻ってこれるだろう」

上条「便利だな………」

エイワス「あぁ。実に便利だ」

上条「それでエイワスさんはなんでこんなところにいるんでせうか?」

エイワス「彼に任されたのだよ。君の戦場への転送をね」

上条「え?アレイスターは?」

エイワス「柔軟体操でもしているのではないか?」

上条「シュールだな」

エイワス「彼も老人だしな」

上条「あれに老人って言葉が成り立つのか?何歳だよアイツ」

エイワス「何百歳、といったところかな」

上条「わーお」

エイワス「ところで君は休まないのか?彼との戦闘はそれこそ人外の戦いだっただろうに」

上条「問題ないですよー。挑戦で」

エイワス「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し。……よし、送りだしは完璧だな。マニュアル通りだ」

上条「マニュアルあんの!?」





第1戦目終了後。

エイワス「………お帰り。早すぎやしないかい?」

上条「こんなもんだぞ。次行こう次」

エイワス「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」






第2戦目終了後。

エイワス「お帰り。先程と加えても10秒たっていないのだが」

上条「こんなもんだぞ。次行こう次」

エイワス「了解した。健闘を祈るよ、幻想殺し」






第3戦目終了後。

エイワス「お帰り。もう言うのが面倒になってきたのだが」

上条「どうしたドラゴン」

エイワス「どうせすぐ行くのだろう?健闘を祈るよ」

上条「雑すぎやしないかドラゴン?」





第16戦目終了後。

エイワス「もういらないんじゃないか?」

上条「何が?」

エイワス「1~16戦はもう合計で3分かかってないと思うのだが。もう省いた方がいい気がする」

上条「お前もやたらに人間らしいな……まあもう10万回以上やってるからなぁ」

エイワス「目指せ10万3000回」

上条「お前ホントに天使か?」







第17戦目終了後。

エイワス「流石に君も聖人には苦戦するのだな」

上条「耐久力が違うからな」

エイワス「それでも数十分か。ほとほとあきれるな」

上条「次行こう」

エイワス「了解した」





第20戦目終了後。

エイワス「二重聖人にも勝利。人間を止めてるな」

上条「天使に言われたくねーよ」

エイワス「次に行くかい?」

上条「おう」






第21戦目終了後。

エイワス「次は彼とかい?」

上条「おう」

エイワス「頑張って来るといい。応援しているよ」






VS.アレイスター・2戦目。

エイワス「ふむ。28秒。むしろ開始1秒で帰って来ないだけで最早人外だがな」

上条「やっぱりつええ。特に空から降って来るビームがやばい」

エイワス「衛星光波か。確かにあれをかわすのは難しい、というか何故右手以外に防御手段を持たない君がかわせるのが不思議でならない」

上条「勘」

エイワス「そうか。どうする?休むか?」

上条「いや、行くよ」

エイワス「了解した」






VS.アレイスター・3戦目。

エイワス「3回目も敗北、か。しかし2分17秒。随分と耐えたな」

上条「………座標攻撃マジやべぇ」

エイワス「ほほう。あれまで使わせたのか」

上条「何あれ?アニェーゼの杖の一発を射程広げたみたいなやつ」

エイワス「理論的には同じようなものだ。彼の場合は衝撃の杖が司るのはエーテルだけではないからな。空間への干渉能力も段違いと言う訳だ」

上条「よくわからないけど、半径10mくらいがごっそり削れたんたんだけど。文字通り空間が」

エイワス「それでも2発かわしていたではないか。まだまだ彼は沢山攻撃手段を持っているからな。頑張りたまえ」







VS.アレイスター・16戦目。

エイワス「16回目。結果は18秒」

上条「遠慮がなくなってきてるんだけど。なんか同時に5、6個の攻撃繰り出して来るんだけど」

エイワス「まあそれだけ彼も本気なのだろう。光栄に思った方がいいぞ」

上条「どうも。もう一度最初からお願いします」

エイワス「休まないのか」

上条「肉体的には疲労がないんだろ?だったらいくらでもつづけられるじゃんか」

エイワス「だが続けるだけ死は近づくのだぞ?」

上条「疲れないからな。もう」

エイワス「………君がいいなら、いいだろう。自覚もあるようだしな」

上条「じゃ、行ってくる」

エイワス「行ってらっしゃい」






VS.アレイスター・第102戦目。

エイワス「102回目。12分」

上条「遊ばれてるわぁ………あの座標攻撃4連打がどうやってもかわせない」

エイワス「衛星光波もあまり使わないしな」

上条「極太レーザー連打でまるでトレーニングでもしてるみたいだからなぁ」

エイワス「それでもあれは時速400kmはあるはずなのだが」





VS.アレイスター・ 第422戦目。

エイワス「422回目。146分」

上条「もう一旦諦めたからな」

エイワス「諦めたとは」

上条「前に行くのは、やめた。まず全部かわし切る」

エイワス「かわし切るとは」

上条「全部アレイスターの動きで読む」

エイワス「ほほう、事実耐久時間はのびているのだ。そのまま頑張りたまえ」





VS.アレイスター・第1500戦目。

エイワス「1500回だ、おめでとう。24時間88分」

上条「それは25時間じゃないのか?」

エイワス「そっちの方がキリがいい感じがするだろう」

上条「ホントに人間くさいな」





VS.アレイスター・第??戦目。

エイワス「おめでとう。トータルで10万3000回君は一方通行と闘った事になる」

上条「一回倒すごとに魔道書を書いて行けばインデックスに勝てるぞいえーい」

エイワス「そう投げやりになるんじゃない。188時間43分。もう集中力が切れなければ100%回避しきっているではないか」

上条「近づけないんだよアレイスターに………」

エイワス「ああ、確かにな」

上条「だから決めた。この世界にも魔力ってのがあるんだろ?御坂でもう検証したし」

エイワス「現実準拠だからな。無限ではない。彼の魔力は途方もないが」

上条「だから切れるまで待つ」

エイワス「それはまた………がんばってくれ」






VS.アレイスター・第??戦目。

エイワス「………私は君を舐めていたようだな」

上条「俺もアレイスターを舐めてたよ………アイツバリバリ接近戦いけんじゃねえか」

エイワス「それよりも彼が接近戦を選択するレベルに追い詰められたということに私は驚きを隠せないよ」

上条「追い詰められてたのか?むしろあっちの方が強いと思ったんだけど」

エイワス「それは君の戦闘スタイルが特殊だからだ。常識的に考えてみろ。光の速さでの範囲爆撃をかわせる相手などいる訳ないだろう?」

上条「それは確かに」

エイワス「君は完全に先読みして右手を掲げるから防げているが、君が戦ってきた相手でアレを防げるのは聖なる右、未元物質、雷神くらいだぞ」

上条「へ―……すげえな俺」

エイワス「ああ、凄い」





VS.アレイスター・第??戦目。

エイワス「………そろそろ、かな」

上条「あぁ。アレイスターも本気だ」

エイワス「君と話すのもあと少し、と言う訳か。寂しくなるな」

上条「ははは。相変わらず天使らしくない奴だな」

エイワス「褒め言葉として受け取っておこう」






VS.アレイスター・第??戦目。

エイワス「……………アレイスターとは、会話が盛り上がらないのだよ」

上条「簡単に想像できるな」

エイワス「だから君がここにいるのは非常に好ましいことだったのだが」

上条「悪いな」

エイワス「………きっと、次で終わりだな」

上条「届いたからな、アレイスターに」

エイワス「それだけではない。君の精神ももう限界だ。君はもう、次は無いだろう」

上条「……そうか」

エイワス「それでも行くのか?」

上条「あぁ。俺は皆のもとに帰らなきゃいけないからな」

エイワス「…………行ってくるといい」

上条「ああ、行ってくるよ」

一旦休憩。
前回はVSアウレオウスまで行ったようで

再開。
こっからは戦闘ですの。

転移する。
場所は列車の操作場。


上条「……」

一方「くか………ッッが!!!」


開始と同時に距離を詰め、何かしゃべる前にボディーブローを叩き込む。

それだけで終わり。やはり一方通行は耐久力が低い。



今までの経験上、最初の台詞を言っている間は行動を起こさない。
このタイムラグを使えば大体の敵は制圧できる。

……卑怯とか言ってはいけない。これが最短なのだ。

転移する。2戦目、御坂。


上条「……」

御坂「遺産……きゃあ!」


同じく速攻でダッシュして頭に手を置く。

これで終わり。次はステイルだ。

転移したのは、学生寮。


上条「……らァ!」

ステイル「ニコチぐおっ!」


同じくダッシュで全力のボディーブロー。
途中炎の十字架をかわして、炎の巨人が出てくる前に殴り倒す。

エイワス曰くこれで終わりだそうなので、現実の恨みを込めて少し強めに殴っておいた。

3戦目終了。

次は、黒い翼をはやした一方通行だな。
次の転移先は、雪原だ。




一方「ihuiaojinioxhn殺aowkpqmkz」

上条「ッらぁ!!」


黒翼一方通行の一撃は、かわしきれるようなものではないので真正面から右手で迎撃する。

重要なのはタイミング。少しでもずれれば、黒翼の勢いに負ける。
だけどまあ、103000回以上繰り返してきたんだ。

完全に砕き割れた黒翼と、一方通行のすれ違いざまに裏拳を叩きこむ。
4戦目も終了。

次だ。廃ビルの一階へ。


海原「じぶンゴッ!!」


金星の光などかわすまでもない。
真っ直ぐ言ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。

次の転移先は、小萌先生の家。


自動書記(インデックス)「『聖ジョージの聖域』を発動します」


上条「来い!」


自動書記(ヨハネのペン)のインデックス、(アレイスターと決定した愛称ペンデックス)に対して、不意打ちなどの速攻攻略法は存在しない。
ただ、竜王の殺息を真っ直ぐ右手を掲げて直進して、魔法陣を殺すだけ。


上条「……うおおおおおお!」


右手に食い込む光の柱を、右に左に握りながら逸らす。少しでも自分への負担を減らして、一瞬でも早くペンデックスのもとへ。


ペンデックス「首輪、完全な、はか」

次は、アウレオウス。錬金術師だ。


アウレオウス「自然、我が黄金練成を破る手だてなし」

上条「………」


アウレオウスは、ある意味一番ランダム要素の強い敵だ。
何故なら、最初に何をしてくるかが分からない。
例えば、『倒れ伏せ』と言われたら右手を使わざるおえないが、何かで物理攻撃をしてくるのならそのまま回避すればいい。


アウレオウス「直接死ね、侵入者」


胸に手をあてる。死は殺した。
どうやら一番運が悪いのを引いてしまったようだ。
この状態に入ったら、まともにアウレオウスを殴り倒すことなど不可能だ。

出来る事は一つ。

アウレオウス「!?私の黄金練成を打ち消しただと!?」


上条「………」


何もしゃべらない。ただ一歩近づく。


アウレオウスは首に鍼を差しながら、続けて言葉を発した。


アウレオウス「ありえん!当然、私の黄金練成は完璧!!」


何も返さない。ただ一歩近づく。


アウレオウス「感電死!」


右手を前に突き出す。


アウレオウス「焼死!!」


もう一度右手を前に。


アウレオウス「凍死!!!」


右手を胸に。


アウレオウス「溺死!!!!」


口に。


アウレオウス「銃をこの手に、弾丸は魔弾!!用途は射出、数は無限に!!」


立ち止まる。


アウレオウス「人間の動体視力を超える速度にて、連続で射出せよ!!!!!」


ああ。


銃?魔弾?人間の動体視力を速度を超える速度?

だめだね。全然駄目だ。

アウレオウス「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!この魔弾を全て、『まるで最初からどこに来るのか知っていたように全てかわし切る』など!!!」


ようやく口を開く。

語る言葉は、



上条「オマエ、俺が何だかわかってんのか?」


アウレオウス「…………!!?」



アウレオウスの顔に緊張が走った。いや、緊張と言うよりむしろ恐怖か。

無理もない。己の究極の手段である黄金練成を全て殺されたのだ。当たり前だろう。



手加減など、するつもりはないが。



上条「オマエの完璧なハズの黄金練成を全て無効化し、何をされても動じず、人間の動体視力を超える速度を完全にかわし切る『モノ』が、タダの人間な訳ないだろ?」


アウレオウス「あ、あ、あ、」



さらに一歩近づく。

もう、拳は届く距離だ。

アウレオウスに告げた言葉は、ハッタリではない。

どこの世界に二重聖人や太陽系を吹き飛ばすような攻撃を持つ敵に真正面から勝てる人間がいる?

十数万回も死んで、精神を保てる人間がいる?



俺は、バケモノだ。

そしてきっと、アレイスターもバケモノなんだ。


次の相手は、アニェーゼ。

む、抜けてる。
>>83>>84の間に。


上条「気付けよ、人間」


アウレオウス「死ね!死ね!!死ね!!!お前は死ぬのだ!!!我が黄金練成はかんぺ……」



アウレオウスの左手を、右手で掴む。

彼の顔が、恐怖に彩られた表情が、凍りついた。

耳に顔を近づけて、告げる。





上条「俺は、バケモノだ」





何かが砕けるような音がして、アウレオウスが膝から崩れ落ちる。

転移の光が自分の体を包み込む。

転移した先は、オルソラ教会の大ホール。

目の前には赤毛の幼い修道女が立っていた。


アニェーゼ「流れ作業でっ……!!」


即座に距離を詰めて杖をたたき折る。
途中に一度座標攻撃があったが、かわすのに何の苦もない。


次は、シェリーか。



シェリー「我が身の全ては無き友のために」


ゴーレムは厄介だ。何せ地面が絶え間なく揺れ動く。
地面には真っ直ぐ立つ事すらままならない。じゃあ安定しているところはどこか?

地面をけり飛ばす。


答えは、ゴーレムの上。


シェリー「な、エリスの上に……!?」


そのまま宙に身を投げる。数メートルの高さから全力で体重を前にかけている状態で真っ直ぐ地面に落下したら死ぬかもしれない。
だが、そんな事は知った事ではない。


そのままシェリーの肩を掴んで地面に引き倒す。


終了。次は、………これはやっぱり苦笑せざる負えない。


不良×5「「「「「やんのかコラァ!」」」」」


まず一番前に立っていた男の腹に全力でストレートを叩き込んだ。
一人目ノックダウン。その事に動揺した他の4人が一度距離を取ろうとする。


上条(こんなところまで忠実に再現しなくてもいいんじゃないか?)


一人近くにいた男の靴を右足で踏みつける。
体制を崩した。頭にひじ打ち。
三人の不良が、能力を使った。炎と、風と、念動力。
右手を振って、全て凪ぎ、3人の目の前に立つ。


不良「こ、こっちに来るんじゃ……ッ!!」


真正面の男の顎の下に潜りこみ、80度の角度で完璧に掌底を繰り出す。それと同時に左の男の腹にボディーブロー。
最後の一人は、何の工夫もなしのハイキック。

全員の意識が途切れたか、身体が光に包まれた。

しかし、転送先は次の相手であるテッラのもとではなく、見慣れた守護天使のもとであった。


エイワス「お帰り。10戦目まで終了だ」

上条「何で呼び戻したんだ?」

エイワス「なに、これが最後なのだから少しくらい話をしたいと思うくらいいいだろう?」

上条「まあいいけどな」

エイワス「現実世界において、君の精神はどうなると思う?」

上条「もしアレイスターを倒して戻る事が出来たらってことか?」

エイワス「ああ。正直冗談でも彼を追い詰めることなどできるはずがないと思っていたがな」

上条「そうだなぁ………まあ、戦いが前よりも強くなってるんじゃないか?」

エイワス「それだけか?」

上条「それだけって?」

エイワス「君は一見特に精神に変化はないように思える。普通に軽口は叩くし、冗句も言う。

 だけど、君は一回戦うのが例え全て10秒で終わっていたとしてももう既に一年?十年?いや、桁が違う、それ以上の時を過ごしているんだ。

エイワス「君は一見特に精神に変化はないように思える。普通に軽口は叩くし、冗句も言う。
 だけど、君は一回戦うのが例え全て10秒で終わっていたとしてももう既に一年?十年?いや、桁が違う。それ以上の時を過ごしているんだ。

エイワス「君の精神年齢は、到底君の精神年齢は同級生たちと同じではなくなった」

上条「そうだな」

エイワス「それでも君は、日常に戻ることを望み、禁書目録を守り続ける事を望むのか?」

エイワス「前とは違う自分で、皆をだまし続けて、共に過ごしていくのか?」

上条「………なあ」

エイワス「うむ」

中途半端ですが終了。
もう半分は終わったんで明日は終わらせられるかも。

休日って素晴らしい

投下再開するやで
アレイスター戦は終わらせたいなぁ

上条「多分お前たちは知ってると思いけど、俺は記憶喪失、じゃなくて記憶破壊だ」

エイワス「ああ」

上条「アレイスターに記憶を見せてもらった。今までの人生のほんの一端を見た。たった3日間だけど、そこには前の上条当麻の全てがあったんだ」

エイワス「……」

上条「記憶は、感情の動きとかは無くてただ客観的にカメラで映しだされた映像を見ていただけだ。
 だけど、俺は分かった」

エイワス「……」



上条「『上条当麻』は、自分の無力を嘆いて、不幸を嘆いて、きっと自分の事を『偽善者』なんて自嘲して、
 ―――――それでも、命を掛けて誰かを救う。そんな人間だったんだ」

エイワス「……ふむ」

上条「記憶破壊の事について、ベツヘルムの星の中でさ。インデックスに言ったんだ」

エイワス「それは知らなかったな」

上条「うん。言ったんだ。今まで騙しててごめん、俺は前の『上条当麻』とは違うってな」

エイワス「禁書目録は何と返したんだ?」

上条「俺は俺だって。記憶をなくそうと、俺は変わってないって」

エイワス「……」

上条「俺は変わっちゃったけど、それでも俺は俺だ。俺が無事に生きて帰ることによって、確かに喜ぶ人も、これから救える人もいるはず。
 だから、俺は帰るよ」

エイワス「そうか」

上条「それにさ」

エイワス「?」

上条「俺の学校は、色んな人がいるんだ。
 土御門みたいに、色んな辛い事を経験してきた人も、雲川先輩みたいに、よくわからないなんでもできる人も、
 青ピみたいに、変態な人も、吹寄みたいに、しっかりした人も、小萌先生みたいに、不思議な人も。
 みんな同じ人生を過ごしてきた訳じゃない。人生経験だってみんな違う」

エイワス「それも……そうだな」

上条「お前も一度学校に来てみろよ。きっと楽しい」

エイワス「フフ……可笑しな事を言うな」

上条「いいんだよ」

エイワス「もういくかい?」

上条「ああ」

エイワス「健闘を祈るよ、上条当麻」

上条「行ってくるよ、エイワス」

再び戦場へ。
今まで闘ってきた、沢山の時間。

この経験は、現実では役に立つのかどうかは知らない。そんなこともどうでもいい。
ただ俺はいつものように闘って、そして。

十一戦目はビアージオ。実はこいつは意外と強かったり。

転移した先は、美しい青の世界。アドリア海の女王の内部だ。


ビアージオ「十字架はその重きを持ってッ!!」

上条「オラァッ!!」


降りかかるその重力を、右手で砕く。
だが、目の前には膨れ上がった十字架が今にも爆発しようとしている。


上条(何故か知らんけど、ビアージオだけ最初から全力で殺しにかかってるんだよな)


だからと言って、勝負にはならないが。

地面に思い切り滑りこむ。と同時に、十字架が爆発し、いたるところに小さな十字架がまき散らされる。
防ぎきれはしていない。何故なら防ぎきる必要がそもそもないから。

複数の十字架を被弾するも、勢いは殺さずそのままビアージオの元へ。


ビアージオ「なっ!?」


ビアージオはその拳を振るった。
驚く事になんと彼は近づかれると混乱しながらも物理攻撃をしてくるのだ。これも他の魔術師と違う所。

それなりに厄介なはずだが、上条当麻にはまるで通じない。

軽く彼は掌底で振われたビアージオの拳を払うと、腹に思いっきり右ストレートを打ち込んだ。

第十二戦目、ローマ正教の最終兵器、『神の右席』の一人、左方のテッラ。


上条「無駄ぁ!!」

テッラ「へぶっ」


口が何か動く前に距離を詰め、アッパーカットを叩き込む。どこかの第一位がデジャブな気もしなくはない。

……正直、『光の処刑』は1対1の高速戦闘には向かないと思う。

次の戦場は、白い雪原。

………寒い。その上雪に足を取られて動きづらい。


その状況で、向かい合うは、無能力者。
俺みたいな、特別な力も何も持っていない、本当の無能力者。
だからと言って弱いのか?そんなことはない。
努力と意地と知識と経験と道具で、自分より格上と相対してきた英雄。


そういう意味では、一番近しいかも。自惚れかもしれないけどな。


浜面「行くぜ、大将。手加減なしだ」



学園都市のスキルアウト、VS浜面仕上。



………浜面とフィアンマとトールだけは何故か毎回状況がかなり違う。
10万回以上やっていれば被る事もあるが、今回は駆動鎧を着ていない代わりに距離があるようだ。結構つらいパターン。
何故ここまで優遇されているのかはわからない。アレイスターの『プラン』とやらをブチ壊した恨みと特別視の念もこもっているのだろうか。



上条「来い!」

パン!
軽快な炸裂音が、耳に届く。

躊躇ない発砲。ココはロシアだというのに合わせたのか、学園都市製の拳銃では無く、『外』の若干遅れた拳銃だ。
だからと言って当たっても大丈夫だとかそんなことは一切ない。当たり前だけど。
現実と全く同じとアレイスターは言っていたけど、浜面がこんな何のためらいも無く発砲する奴だとは思いたくない。

雪で足を取られる事も考えに含めて、ギリギリでかわす。と同時に、地面の雪を蹴り飛ばした。
視界をふさぎ、混乱させる目的。


浜面「……」


思いっきり後ろに下がられる。

浜面はこういう所が厄介だ。自分の力を過信していない。だから、警戒心が強い。無茶な攻めもしてこない。
俺よりも肉体を鍛えていて、単純な力だけなら十分強いはずなのに、『もしかしたら』を警戒している。
それは臆病とも取れるかもしれない。
だけど、彼は無能力者なのだ。俺みたいにどんな異能を殺す右手を持っている訳でも、一方通行みたいに反射の能力を持ってる訳でも、アックアのように人を超えた耐久力を持っている訳でもない。

追う。もう一歩大きく踏み込もうとする。

再び発砲。今度は足を狙った一発。足を前に出すのを止めざる負えない。


上条「ッ!!」


雪に足が埋まる。知ったこっちゃない。

そのまま上に飛ぶ。
勢いのまま、浜面の上へ―――


浜面「させるか!」


浜面は再びバックステップ。拳銃を空へ向ける。


上条(―――マズッ!!)


予想よりもジャンプが低い。雪に足を取られたせいで、速度も遅い。
そのことを浜面が予想しきっていたのかどうかはわからない。
ただ、事実として銃を構え、放つ時間を彼は得た。



が。


浜面「なんっ!?」


甘いぜ、浜面。


浜面「学ランだと!?」


投げつけた学ランの上が、浜面の視界をふさぐ。
しかし、フリーズしたのはほんの一瞬。すぐさま銃を撃ち込もうと構えるのが分かる。

いい判断だ。学ランが遮蔽物になっていようと、俺がそこにいるのは変わらないはずなのだから。


ほんの少し、遅いけれど。


手に握っていた雪を、正確無比に学ラン越しに浜面の銃に叩きつける。

どこにどんなふうに銃が構えられているかなんて、経験則と勘で大体分かる。
完全に目くらましに意識を向け、衝撃には一切備えられていなかった手から、拳銃が宙を舞う。


上条「……ハッ!!!」

浜面「がッ…………!!!!!」


衝撃。




そして、暗転。


第十四戦目、オリアナ=トムソン。
……正直ここからは、土御門、神裂あたりまでは浜面より強い敵は出てこない。


オリアナ「やだ、そんなに見つめらたらお姉さん濡れちゃうわ?」


オリアナの最大に厄介な所は、『追跡封じ』の名が示す通り、煙幕や音、幻影によってまともに近づかせない事。
これには最初の十戦くらいはだいぶ苦しめられたのだが……


オリアナ「な、なんでっ!?」


全て勘でわかるんだよなぁ……。


黄色い妙な匂いと刺激のある煙を右手で撃ち払って、盛り上がる地面を無視して、ついでに現れた案山子を全部スルーして、最短距離、全速力でオリアナの元へ走る。

あわてて手に持つ単語帳のようなものを破いて魔術を発動させるけれど、全部ブチ壊す。
この時のテンパリっぷりは、見てて可哀想になる位だ。

肩を抑えて、足を払って、拘束。
第十四戦は終了。

お次の相手は、神の右席。


お次の相手は、神の右席。


ヴェント「ハァーイ、幻想殺し」

上条「はぁーい!」


再びダッシュで距離を詰める。
対するヴェント。全力でハンマーを、俺が近づく前に打ち下ろした。

ドギャァン!! 派手な爆発音が、地面を揺らした。同時に爆風が全方向に牙を剥く。
風は彼女の魔術も含まれているが、副次的な地面への衝撃による風もあるため、右手で全て相殺とはいかない。
ので、流石に正面から受ける訳にもいかない。ここで万能アイテム、学ラン様の登場。


上条「セイッ!」


風を巻き込むようにして、学ランを振るう。

一切の迷いなく振るわれる厚い布は、その身を八つ裂きにしながらも、風を上条当麻に届かせる前に散らせた。
あまりに膨大な経験知と、受けてきた危険により培われた勘。

彼はもう人間を辞めたと自嘲したが、それもまた間違っていないかもしれない。それほどまでに完璧な角度、タイミングで彼は風を凪いだ。

一気に距離を詰める。ヴェントの身体は、上条当麻の拳の届く距離。
しかしそこは神の右席の風格か。驚きはするものの、視線は真っ直ぐと敵意と殺意をもって上条の眼を見据え、放つは、『斬撃』。


ヴェント「はああああああッ!!!!!」


地面に沈められたハンマーに巻かれた有刺鉄線のようなものが、風の力かどうかはわからないが、鞭のようにしなり彼の体へと向かう。
再び、物理と魔術の二段攻撃。この時点で彼女は、上条当麻の能力を知っている。よって、対策をとるのも当たり前だった。
だがそれも、今までの経験から当然、看破していた。

身体を沈ませ、鉄線を掻い潜り、吹き荒れる暴風をくぐり抜け、


ヴェント「クソがァ!!!」

上条「甘えんだよ!!」


繰り出された拳を切り傷の浮かぶ左手で軽く弾き。
渾身の一撃を叩き込んだ。


上条「……ふぅ」


一息。特に疲労は感じないが、気持ちの問題ってやつか。

第十六戦目からが、上条当麻を変えた、本当の戦場。
一切の気を抜けない、デスマッチ。

もっとも、彼にもはや気を抜くと言う感覚は存在しないのだが。


土御門「にゃー。カミやん。悪いけど、ここは全力で行かせてもらうぜい」


転移先は、砂浜。
空は、夜空。それから水の柱。

まぎれもなく大天使が降臨したその時。


上条「ああ、俺もだよ!」


開戦。

弾丸が、首のすぐ横を通り過ぎた。

土御門元春が放った弾丸は、ギリギリで首を捻った上条当麻にかわされる。
彼は揺らがない。もう二発、弾丸を撃ち込むと、腕に持った拳銃で殴りかかって来る。
一切の無駄がない芸術的とまで言える打撃。しかも狙う場所が、他の敵のように頭や心臓といったわかりやすい場所ではない。
身体の中央、の少し左。肝臓付近の、かわしにくく、それでいて動きを止めやすい位置。

真正面から、振るわれた腕に合わせ手刀を打ち込む。拳銃は狙わない。きっと土御門なら、拳銃だけを狙うなら簡単にかわされてしまうから。
かわそうとする腕も計算に入れ放たれた手刀は、正確に土御門の手首を打ち抜く。
しかし止まり切らない。顔をゆがめ、下に軌道を変えつつも、彼の振るった腕は上条の太ももを性格に殴り抜く、

コースだった。

上条「……!!」

上条当麻は右足で前に踏み込みながら、左足を跳ね上げる。
ほとんど無意志無思想の行動。だが、彼にとってそれは最大の武器だ。

土御門攻撃は、不発。それどころか結果、土御門の腕は上条のひざ蹴りを食らった形となった。そのまま体勢を崩す。

上条は容赦なく倒れかかる彼の後頭部に拳を振りおろす。奇しくもそれは、土御門が昔、『御使堕し』の時上条に放った一撃と同じ。
その時と違う点は、土御門はまだかわすだけの余力があったということだ。


土御門「アブねぇ!」

上条「まだまだぁ!!」

転がるように、土御門は前に飛び出す。結果、上条の拳は空を切る。


上条(だけどそれは、隙だらけッ)


そう、つまり土御門は地面に倒れているということ―――!!


一歩。強く踏み込む。白い砂が、激しく一瞬波紋を描く。

同時、土御門の身体もまた、大きく跳ねた。

蛇を彷彿とさせる、くにゃり、と不自然な動き。
一瞬土御門の体が歪むと、考えられないような動きで、つま先が上条の顔面に迫った。

しかし残念、ここまでテンプレ。
上条当麻は既に知っている。

踏み込んだ足を軸に、土御門の足首を握る、ひねる。


土御門「なぁっ!?」


そしてそのまま―――――



上条「おりゃぁあああああああッ!!!!!」



背負い投げ!!!


土御門「ビブルチッ!!!!!」


ずずぅん……。

重い音を立てて、頭から落とされた土御門は、見るも無残な感じにぶっ倒れた。
具体的に言うと、顔が砂浜にめり込む感じ。


白い光。
再び転移を――――――――











「ふむ。君の力は『世界にフィルターをかける』ことによって位相を変化させる事ではなかったかね?」

「お前がおかしな『位相』を組み上げるからだろう。しかも『人間』、貴様、妙な生死を越えたシステムでこの世界を構築しているな?」







現れたのは、突然の闖入者。


金髪、眼帯、魔法使い帽、槍、黒、露出狂。


様々なものが削ぎ落された彼の頭に、そんなワードが浮かぶ。



彼女は、ゆっくりと口を開いた。






オティヌス「ほほう、ここにも幻想殺しはいるのか」





上条当麻は、まだ彼女の名前と顔を知らない。

一旦終了。
魔神ちゃん登場。話の方向転換の原因となった子ですし、出さざるを得ない。

アレイスター「おや、上条当麻。君は土御門元春を倒した所か」



上条「そうですけど……どちらさま?そこの金髪さんは」



オティヌス「……私の世界の幻想殺しとは違うな。ということはココは独立した位相であると言う事か」



アレイスター「なんだと?君の世界の幻想殺しは失敗したのか」



オティヌス「ああ。精一杯幸せな世界を見せてやってな。哀れに自殺したよ。馬鹿な奴だった」



アレイスター「君の介入を考慮したうえでミサカネットワークを作り上げたのだが。君の世界の私は失敗したのかね」



オティヌス「お前の思惑など知った事ではない。元の世界を取り戻す。何故かその過程でこの位相にたどりついたがな」



上条「ちょっとちょっとー!?上条さんを置いて話を勧めるのはやめませう!!」

アレイスター「ああ、少し待っていてくれ上条当麻……後で話す……と、貴方もここへ来たか」

エイワス「フフフ、オーディンのお出ましとは。つくづく君の計画は乱される定めにあるようだ」

オティヌス「……誰かと思えば科学の天使か。アレイスターと今も仲良くしているとは思わなんだ」

エイワス「彼は私を利用したいだけさ。この位相では私はwsrr……力を持たないしね」

アレイスター「本人のいる前でそういう事を言うのはどうかと思うがね」

エイワス「今さらだろう。加えて言うと『科学の天使』と言う符号には私は対応していないよ」

オティヌス「アレイスターの目的からわかりやすいように揶揄してやっただけだが? 世界をいじくる前にまず自分の頭を整理したらどうだ」

アレイスター「なかなか刺激の利いた自虐じゃあないか。君の求める世界には辿りつけたのかな?」

オティヌス「……ここで押しつぶしてやってもいいのだぞ? お前の作りだした位相だろうと、『主神の槍』を完成させた私には操ることぐらい容易い」

アレイスター「やってみるがいい。出来ると思うのなら」

エイワス「これこれ、喧嘩腰になるのではない。ココで争っても何の意味も無いだろうに」

上条「いい加減にしろよお前ら!?人の話聞く気ゼロか!!?」

オティヌス「喧しいな、幻想殺し。もう少し前の世界では静かだったが」



上条「お前が言うな!何言ってるかさっぱりわかんねぇぞ露出狂眼帯中二病め!」



オティヌス「ろしゅっ……」

アレイスター「…………」

上条「おっとアレイスターさんが何かをこらえるように顔をそむけました」

エイワス「黙って肩を震わせていても思いは伝わらないぞ」

アレイスター「露出狂眼帯中二病という表現が面白かった」


オティヌス「貴様らぁああああああああああああ!!!!!」


世界が光に包まれる。久しくなかった刺激を受けたせいかどうか、オティヌスはすぐさま引き金を引いてしまった。

銀河と銀河を衝突させるほどの一撃。世界を容易く崩壊させる、絶対の一撃。



上条「うおっあぶねっ」



そんな一撃は、上条当麻が『発動前に『主神の槍』を砕き割ることで』霧散する。



オティヌス「……ん?」

上条「いきなりあぶない奴だな。ちょっとからかっただけなのに」


オティヌス「………え」


アレイスター「人を超えた人は、総じて傲慢になるものだ。例え魔神だろうと神だろうとね」

エイワス「君達は自虐が好きだね。そんなに自分をとぼして楽しいのか?」

上条「まったく、人の話を聞かないからそんな事に


オティヌス「はぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???」


上条「うおっやかましっ」



アレイスター「先程やかましいと言ったのはオティヌスだと言うのに。これがブーメランと言うものか。見事な軌道だな」

オティヌス「ちょ、お前何をした!?私の『主神の槍』をどうした!!?」

上条「いや、危なそうだったから右手で触ったけど……」

アレイスター「魔神ともあろうものが、不覚だったな。激昂していたから仕方ない所もあったのかもしれないが」

エイワス「まあ攻撃のモーションに入る前から危険性を感じ槍を砕こうとしていた上条当麻相手じゃなければ回避できていただろう」

オティヌス「貴様!何を!したか!わかって!いるのか!幻想殺し!!」

上条「くくく首を揺らすな魔法使い! 攻撃されたら迎撃するのは当たり前だろ!?」

オティヌス「あれが無ければ100%の成功が無くなる!!『妖精化』はあまり乱用出来るものではないのだぞ!!!!」

上条「ハッハッハ、何言ってるかわかんねぇや」

アレイスター「落ち着きまえ『魔神』。騒いでも仕方ないだろう。その上に上条当麻は既に聞き流す態勢に入っている」

エイワス「彼にとっては名も素性も知らぬ謎の露出狂だからな……」



オティヌス「露出狂と呼ぶなあああああああああああああああ!!!!!」

『主神の槍』が破壊されようと、魔神は魔神。
胸元に、光の杭が出現する。
『妖精化』。成功を100%に引き上げる『主神の槍』とは正反対の、失敗を100%にする魔神のなりそこないの切り札。
これを利用する事によって、再び魔神の力は顕現する……!



………しようとしたのだが。



上条「どーどー、暴れるなって」



ぱすぅ、と情けない音を立てて再び霧散。


右手で身体に触れられたまま羽交い絞めされれば、魔神といえど少女にはどうしようもない。
彼女のすさまじい力は、魔神の力によって構成されていたのだから。


オティヌス「くそう!離せ人間!!もしくは槍を直せ!!!」

上条「俺この子の名前も知らないんだけど、どうすればいいと思う?」

アレイスター「笑えばいいと思うぞ」

エイワス「言っている事が支離滅裂だな。幻想殺しは壊す力であって直す力はないと言うのに。『主神の槍』を直せるわけがないだろう」

アレイスター「とんだ妄想だな」





オティヌス「うがああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

……………………

オティヌス「ちくしょう……ちくしょう………」

エイワス「まあそう落ち込むんじゃない。もう一度組み直せばいいだろう」

上条「まあ、大体話は聞いたけどさ、要するにお前はなんか凄い事がしたくて、その為にあの槍が必要だったから作ったんだろ?」

オティヌス「………雑だぞ人間」

上条「まあ作れるんなら作りなおせばいいじゃないか、この世界で」

オティヌス「そんな簡単にできるなら苦労はしない……」

アレイスター「最初はあたかも強そうに出てきた魔神がいまや型無しだな」

オティヌス「反論する気力もわかない……」

エイワス「台詞が全て三点リーダに彩られているな」

上条「そう凹むなってー。壊しちゃったのは悪かったからさー。グングニルだっけ?かっこよかったぞ」

オティヌス「うったえてやる……うったえてやるからな貴様ら…………」


ぐずぐずと弱音をこぼし続けるオティヌス。そこに魔神としての威厳は欠片もない。



上条「あれ?この世界ならアレイスターの好きに直せるんじゃないのか?壊れたものも」

オティヌス「!」

アレイスター「『主神の槍』レベルになると位相の管理外に位置するからな、直せるかどうかは確実ではない」

上条「そうか……」

アレイスター「が、直せないとは限らない」

オティヌス「本当か!!」

エイワス「………で、直すのか?」

アレイスター「直せるかもしれないがお前の態度が気にくわない」

オティヌス「……幻想殺し。呼ばれているぞ」

上条「どう考えてもお前だろ」

アレイスター「人にものを頼む時はそれなりの態度と言うものがあるだろう」

オティヌス「………本当に直してくれるのか?」

アレイスター「ああ、考えてやろう」

エイワス「………」

上条「何笑ってんだお前」

オティヌス「………します」

アレイスター「あーもう一回言ってくれ。こちらは老人なのでね。耳が遠くてかなわん」



オティヌス「お願いします直して下さい!!これでいいか!?」



アレイスター「ん?今、なんでもするって」


オティヌス「いい加減にしろ貴様!!さっさと直せ!!!」


エイワス「……」

上条「何で笑ってんだ」

アレイスター「少し眠っていろ」


オティヌス「へぶっ」


上条「あっ」

アレイスター「流石に飽いた」

上条「お前気絶させるんだったら最初からやってくれよ……なだめるの大変だったんだぞ」

エイワス「あれはなだめていたのだろうか」

アレイスター「どう見ても聞き流していたのだが」

上条「細かい事はいいんだよ、別に」

アレイスター「やれやれ、とんだ邪魔が入ったものだ」

エイワス「彼女をどうするつもりかね?」

アレイスター「ふむ。魔神のサンプルとして保管するのもいいが、その為には『妖精化』の術式が邪魔だな。上条当麻、そこで伸びてる彼女の胸元の杭を引き抜いてくれないか?」

上条「オッケー」


上条当麻は躊躇なく胸元へ手を伸ばし、右手で光の杭を砕き割った。


アレイスター「これで『妖精化』は一旦進行を止めるが、今まで浸食してきた影響が完全に消える訳ではない」

上条「え、じゃあ駄目だったんじゃないか」

アレイスター「だから、オティヌスの『魔神』としての力の一部を破壊する。力が残っていると管理も難しいからな」

エイワス「ならば、魔神としてのサンプルの意味も無くなるのではないか?」

アレイスター「正直そこまで欲してはいない。『滞空回線』で監視できる範囲にあれば十分だ」

上条「破壊ってどうするんだ? なんか魔術でも使うのか」



アレイスター「レベルを上げて物理で殴る」



そう告げると、アレイスターの手から現れた『衝撃の杖』から、大量の衝撃波が放たれた。



上条「ちょ!?」

アレイスター「安心しろ、死にはしない。そこまで弱いものでもないし、少し手を加えるからな」


そんな事言う間にも衝撃波は放たれる。もはや碧眼の少女の姿は目視すらできない。
これで死なないって、いやないだろ………そう思い、上条当麻は衝撃波を打ち消す。



だが、そこに最早魔神の姿はなかった。

上条「おおおおい!! 死んでるよ!! 消えちゃったよ!?」

アレイスター「だから安心したまえ上条当麻。『魔神』としての力はこの位相にまだ残留している。これに方向性を与えてまとめ上げれば……」



そういうと、不思議で不可視な『力』の渦が彼らの前に現れる。

ずずずずず、何かが這い寄るような音と共に、『力』はさらに集まり色を持っていく。

それはあたかも、どこぞのAIM拡散力波の集まりを彷彿とさせるものだった。

やがて、それは一つの形を取る。










上条「……………いやこれはどうなってんだよ」

アレイスター「『魔神』の力を大半失わせたからな。もう少し縮まないと思っていたが」

エイワス「どうするんだこれは。どこで監視するんだ?」

アレイスター「上条当麻の家でいいだろう。すでに猫や居候がいることだしな」



上条「え、俺?」











そこにいたのは、全長15センチメートルほどの、人形のような姿となった金髪碧眼の少女だった。



ちなみに、まだ目を覚ましていない。

ぁ? オティヌス大活躍だって? ねぇよそんなもん。

というわけでオティヌスたん化。扱いが雑? 警戒してたならともかく上条さんにいきなり不意を打たれたらどうにもならないんじゃないですか?

ちょい後に投下再開するやで

上条「結局この子の事良く知らないんだけど」

エイワス「まあそれはおいおい知って行けばいいだろう。今はもっとやるべき事があるはずだ」

上条「やることとはいってもなぁ。たった一つしかない訳で」


上条当麻は、視線を宙に浮く人間に向ける。
人間は、にっこりと笑った。


アレイスター「とんだ邪魔が入ったものだが、どうしようか。待つのももう飽いてしまった。第17戦以降はもうショートカットでいいんじゃないか?」

上条「随分と適当なんだな、アレイスター。そんなんで目的は達成できるのか?」

アレイスター「緻密で綿密なプランは崩壊を迎えたのでな。多少は余裕を持ってもかまわんだろう」

エイワス「アレは綿密ではあったが正確とは言い難かったのではないかね?」

アレイスター「人の心とはままならないものだということを学べたからな。良しとするさ」

エイワス「何百年もかけて、そんなことも学べなかったのか」

アレイスター「そこも含めて、実にままならないものだな」

上条「ていうか結局、お前は何がしたかったんだよ? 大層なプラン何かたてて。色んな恨みを作って」

アレイスター「なぁに、なんてことはない。ただの一人の人間の感傷さ」






上条当麻は、激戦をくぐり抜け、しかし傷一つない運動靴を踏みならしながら。
アレイスターは、ゆっくりと空を舞いながら。





上条「じゃあこれは何が目的だったんだ?」

アレイスター「生きながら精神を壊せば、力はむき出しになる。この位相ならそれも抑え込めると思った」

上条「この右手の力か?」

アレイスター「もちろん。私はエイワスと違って君の事をプランの歯車の一部として以外に認識していなかったのでね」

エイワス「まあ私も直接接触しに行く程ではなかったがね」







一歩。一歩。また一歩。






上条「これで最後、なんだっけ?」

アレイスター「だとは思うが、正直君の精神力は予想外だったからね。どうなるかはわからんよ」

エイワス「本来の彼の予定なら後方のアックアの時点で折れる予定だったらしいぞ」

上条「そりゃあ折れそうになったよ。ありゃ普通無理だ」







その度に二人は近づいて。







アレイスター「さあ、『幻想殺し』」

上条「さあ、『人間』」

そして。目と鼻の先。

アレイスター「上条当麻」

上条「アレイスター=クロウリー」






二人は。真っ直ぐ向かい合って。











エイワス「……頑張れ、とでも言っておこうか?」








上条「ッ…………!!!!!」

アレイスター「…………!!!!!」






激突する。


金属同士がぶつかる音とも、コンクリートが破砕する音とも違う。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
どこか甲高いような、それでいて武骨な轟音が、絶えることなく鳴り響く。
そこは光に包まれ、常人ならば目視もできないような状態だった。

左から、閃光。上条当麻は、右手で受ける。
その時すでに、アレイスターはさらに三回。銀の光を振るっている。
常人には反応すら、知覚すらできるはずのない連撃。



それを。





上条当麻は、全てを打ち消した。






エイワス(………文字通り、人間業ではないな)


エイワスは、静かに二人を観察する。


『衝撃の杖』からは、数え切れないの光の刃が顕現している。全てが、かの窓のないビルすらも切断しうる、絶対の一撃を持つ光。

アレイスターは全てを掌握している。
一筋の光条を動かしながら、全ての方角から刃を動せるほど。
時に時間差で、時に完全に同時に。一撃に数十の光を重ね、二撃目に数百の力を束ね。音速を超え、光速に迫り。




それらを全て、上条当麻は打ち消し切っている。

エイワス(あの光の刃は、『上条当麻の右手の幻想殺し』に打ち消し切れるようなものではない)


そう、明らかに、もともとの幻想殺しでは出力不足。『竜王の殺息』など遥かに超える出力を、かの魔神の『弩』の程の質量で振るわれ続けているのに、上条当麻は何の事もなしに消し続けている。かわす事すらせず、受け流す事すらせず。


エイワス(いや、あれは受け流している……とは違うが、それに近しい。衝撃を、利用している)


そう。幻想殺しは、出力不足。例え打ち消そうと、それでも完璧に衝撃を消し切れるはずがない。
それを利用する。


刃を打ち消し弾かれたまま、その右手は『不思議と』次の刃を打ち消せる場所に移動している。
吹き飛ばされて光と激突する右手は、勢いが相殺されることすら織り込んで、次の一撃へと向かう。
絶対的な速度で完全に同時に迫って来る刃も、その衝撃の強さを利用しコンマ1秒すらかからずに次の光へと向かい、全てを消し切る。



ありえん。
人間にできる事ではない。
もしかしたら、魔神にすら不可能かもしれない。魔神ならば、そもそも全てを消し去るから、こんな妙な対応の仕方はできないだろう。



上条当麻の『前兆の感知』。もっともそれは、感知と呼べるレベルではない。未来予知ですら生ぬるい。







エイワス「無自我無思想での完全なる対応」





知った所でどうにかならないものもあるだろう。身体が付いて行かない。判断が間に合わない。そんなことは幾らでもあるはず。


しかし、上条当麻はそれすらも超える。


身体が自然に反応するのも違う。反応できる領域になどとうに超えた。



つまり、運。


つまり、偶然。


つまり、運命性。


運よく右手が吹き飛ばされた先に攻撃があった。偶然吹き飛ばされた先の攻撃を受けて次の攻撃を打ち消した。運命的にその幻想殺しが発動した事により命の危機が迫る攻撃を体勢が変わることで全てかわし切った。



考えられない。
有り得ない。
幻想殺しの『マイナスに可能性を歪める』性質と逆。
幸運。不幸との対極。

また、右手も耐えられるはずがない。
幻想殺しの性能、だけではなく。
単純に、彼の右手は音速などを例に出すのもおこがましいほどの速度で吹き飛ばされ続けているのだ。
世界に傷をつけるほどの衝撃を受けながら。





オティヌス「…………なんだ、これは」



魔神が一人、目を覚ました。


エイワス「おや、お目覚めかな」


そんな声も、耳に入っていないように。
魔神は、激昂するように、困惑するように。


オティヌス「どうなっている!? なぜあの二人が、幻想殺しがあんな戦いを繰り広げているんだ!!!?」


その質問の意はなんだったのか。
彼女は、もっと持つべき疑問があったはずだ。
何故自分の魔神としての力がほぼ消えているのか。
何故自分の肉体がこんな人形のようになったのか。
何故そもそもアレイスターと上条当麻が戦っているのか。


それらを全て吹き飛ばして、たった一つ。

『上条当麻という人間があの領域にいる筈がない』。

二人の―――――いや二人と言うのも最早滑稽だ。

アレイスターと上条当麻の衝突は、さらに上の段階へと登る。

アレイスターは3人に分裂、とも違う。同じ世界に同じ人間が複数存在する状態で、同じく三本に増えた『衝撃の杖』を三倍に増えたのか分からない程の刃を振るう。
しかも、瞬間移動まで使い始めた。
戦いの理屈など全く役に立たない。全く異質の次元にいる敵。

そして、それに対応し続ける幻想殺し。


実はエイワスも、結構呆れていたりする。
……右手以外特別な力のない高校生はどうした、と。



オティヌス「どういうことだ、あれは本当に『上条当麻』なのか!?」

エイワス「もちろん。あれは紛れもなく、『上条当麻』だよ」

オティヌス「奴は人間だ、人間だったはずだぞ。それがあの領域に届くはずがない。人が、神に抗おうとでも言うのか!!?」

エイワス「簡単な事だよ」

エイワスは告げる。






エイワス「上条当麻は、そんな程度で止まるような小さな器ではなかったということだ」





そんな事を言いつつも、ひいき目なしにエイワスは上条当麻を観察している。


両者の戦いは実にシンプルだ。


アレイスターが攻撃を繰り出し、上条当麻はそれを防ぐ。それがずっと続いている。
これだけ聞くと上条当麻に勝ち目はないように思えるが、実際勝ち目などある方がおかしい。

だけど上条当麻は、時に、信じられない事に、本当に信じられない事に。アレイスターに攻撃を繰り出す事がある。

一瞬の、隙。とすら言うのもおこがましいほどに僅か。まさしく刹那と呼ぶにふさわしい時間。

そこに意志が存在するのかどうかもわからないが、確実に。アレイスターへと拳を振るう時があったのだ。
当然アレイスターは攻撃をかわす。
その後になんのこともなく攻撃を続ける。


けれどそれは、いつかアレイスターに届きうる。




しかし。




エイワス(……彼らは気付いているのだろうか?)

いや、気付いているに決まっている。それでも問いかけるように思う。それは何故だろうか。エイワス自身にもわからない。





上条当麻は、『幻想殺し』の力を解放し始めている。





アレイスターの攻撃を打ち消しているのも。
余波だけで簡単に肉体が消し飛ぶほどの衝撃を受け続けてもまだ動き続けるのも。
『不幸』だとか『幸運』だとか、そういうを丸ごと馬鹿らしくなるような事象を引き起こしているのも。

確実に上条当麻の『中』の力が関連している。関連しているどころか、そのまま原因だと言ってもいい。
最初のアレイスターの思惑通り、『幻想殺し』は確実に上条当麻をむしばんでいる。



エイワス(ただそれだけならば、彼らにとってもわかりやすかっただろうに)



あろうことか上条当麻は、その力を制御し始めている。


幻想殺しの異能消去の領域を、手首から先だったのが肘から先へ。
運命の歪める力を、自身の都合のいい方向へ。

それが意識的か無意識的かはわからないが、確実に利用し始めている。
あまり解放しすぎると、衝撃を利用する事が出来なくなるからか。
自身の強化と、相殺力を、絶妙なバランスで。


暴走しない程度に、自身が飲み込まれない程度に。



これでは当初のアレイスターの『プラン』の目的は遠ざかるばかりだ。




エイワス(だが、どうしてだろうな。君は)



どうしてそんなに、笑っているのかな。アレイスター。








上条「―――――ッハ!!!!!」

アレイスター「―――――ッ!!!!!」






ほんの偶然。だったのか。



上条当麻の拳が、一人のアレイスターにぶつかる。それだけで、アレイスターは二人に減る。
増えたと言ってもそのアレイスターは一人の人間であり、生きていて、それでいて異能に依存していた訳ではないと言うのに。
これも幻想殺しの覚醒の作用か。


それでもアレイスターは、攻撃の手を緩めない。
変わらず、攻撃を続ける。
上条当麻も、それを打ち消す事をやめない。
それが、当然の事のように。

オティヌス「上条当麻は、何を体験してきたんだ」

エイワス「そうだな……君とは大差はないと思うがね」

オティヌス「たかが『人間』に、いくら経験を積もうが、能力を持っていようが、魔術を使わず世界を捻じ曲げるのなど」

エイワス「そうだな、通常の経験などでは不可能だろう」



―――――だから、アレイスターは調整した。
彼が、上条当麻が、幻想殺しが、ある指向性を持つように。
彼だけが破壊され、『力』は残るように。



エイワス(もっとも、彼も最後まで辿り着き、それどころか全く思惑と逆の方向へ向かうとは思っていなかったようだがね)

エイワス「おっと、ますます面白い事になっているようだな。見てみるがいい」

オティヌス「…………」

それもまた、いつぞやの魔神の如し。

アレイスターは数多に分裂し、そして、『自分を巻き込みながら』それも顧みず絶対の一撃を吹き叩き込み続けている。


アレイスター「フ………」

上条「……………」


しかも厄介な事に、吹き飛ばされたはずのアレイスターが新たな攻撃となる。
弾け飛んだはずの死体が、閃光をまき散らしながら起爆するのだ。

そう、一人や二人のアレイスターを消した所で、彼の存在は1であり0でもある。
彼は無限であり、本体などは存在しないのだ。まるでどこぞの大統領のように。


つまり、万に一つ、億に一つも、上条当麻の勝利の可能性など残ってはいない。


エイワス(だが、どうしてだろうな。君は、君たちは)
どうしてそんなに、楽しそうな顔をしているのかな。




アレイスター「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

上条「はははははははははははははははははは!!!!!」







エイワス(探し物でも見つけたのかい?)






オティヌス「いやあれは俗に言うバーサーカー状態じゃないか?」

休憩。

こっから(今更ですけど)激しい独自解釈がはいるやで

再開。
今日中に終わるかな……


今更。そう、ひどく今更ではあるが、アレイスターの目的について話しておこう。



上条当麻には、『二つ』力が宿っている。



『幻想殺し』は、その二つのうち片方の力の余波。本来の『異能を食らう力』は、彼の『神上』へと至った右方のフィアンマすら食い散らす程の力。
そして『もう片方の力』は、その力すらも無理やり抑え込むほどの力。

普段の上条は、『異能を食らう力』と『もう片方の力』が相殺し合い、『異能を食らう力』がほんの少し漏れ出し右手だけに留まっている状態だ。これが、俗に言う『上条当麻の幻想殺し』の正体である。

そして、もう一つ。上条当麻は『もう片方の力』を任意とまでは言わないまでも、使役できる。
それは、暴走した『異能を食らう力』を抑える、という形で。
暴走すると、それに応えるかのように力を増して。
そしてこの力は、上条当麻の精神にも呼応するのだ。

アレイスターの利用したい力は、『異能を殺す力』。
しかし、ただの『幻想殺し』では、出力不足。
だけどある一定以上解放されてしまえば、『もう片方の力』が抑え込んでしまう。。

だからアレイスター=クロウリーは、策を弄す。
上条当麻の精神を殺す事によって、『もう片方の力』の解放を抑える。
それにより、『幻想殺し』はほんの少し、強く解放される。
だけど、例え上条当麻の精神が死んだとしても、『もう片方の力』自体が消える訳ではない。
暴走、しかしある程度は相殺された状態。

それならば、アレイスターとこの位相において、支配をするのは容易い。

そして支配した『力』を使い、余った『力』を少しずつ制圧していく。

『もう片方の力』は、『異能を殺す力』に呼応する。

ならば、『異能を殺す力』が少しずつ力をなくせば、『もう片方の力』も弱まるのは道理。





エイワス(しかしここで困った事になる)

そう、今の上条当麻は、意図的に『もう片方の力』を抑え込んでいる。
『異能を食らう力』が暴走をせず、しかし有効に使えるレベルに。
それどころか、『もう片方の力』の片鱗と思わしき、アレイスターの攻撃を防ぎ続けると言う奇跡とも思える可能性を起こし続ける力を一部だけ解放している。


つまり、アレイスターの狙いとは相反する状態なのだ。




エイワス(上条当麻が勝利する可能性は、ただ二つ)



一つは、『異能を食らう力』を解放し、アレイスターの分身(とも違うが)を殺し尽くすこと。



アレイスターは今でこそ戦闘の為にその力を振るってはいるが、もともとは『異能を食らう力』を抑え込むために力を用意していた。
よってある程度までなら『異能を食らう力』が暴走しようと、それごと倒すことはできる。
とはいっても、それはある程度まで抑え込まれた状態に対して敷いた対策だ。
上条当麻が意図的に『異能を食らう力』を全開放すれば、勝機があるだろう。

だがそれは、あまりにもリスクが多すぎる。
下手を打てば、この位相を突き破り他の位相すらも壊滅させかねない爆弾。


エイワス(アレイスターは実際に見た訳ではないが、言える)


右方のフィアンマの時とは違うのだ。アレは、右手が奪われた衝撃によって一瞬だけ『もう片方の力』の効果が消失した。
しかし本来『上条当麻』という存在に備わっていた力は、すぐさま暴走に応じて機能を取り戻した。


しかし、もし上条当麻の意思で『異能を食らう力』を解放する為に『もう片方の力』を抑え込んで行ったら?


暴走しようとする『異能を食らう力』を自動で抑えようとする『もう片方の力』を自分の意思で無効化したのなら。


暴走の歯止めをすぐさま止めるものはなくなり、『上条当麻』の器は破壊され、『もう片方の力』はそのよりどころをなくし、『異能を食らう力』は手をつけられなくなるだろう。
そしてそのまま、溢れ出た力が世界を破壊していく事すら有り得る。



エイワス「八方塞がり。まさしくそうだな」



そんな程度で止まるような小さな器ではない。
先程エイワスが告げた台詞は、高く評価しているようで、しかし皮肉も含んでいるのだ。

だからこそ、面白い。

エイワスは思考する。
上条当麻に勝ち目はあと一つある、と考えた。
だがそれは、なんてこともない答え。


アレイスターの体力(魔力)切れ。


だがそれはこの位相において、そしてアレイスター自身において、ほぼ無いと言ってもいい。
もし切れるとすれば、それは優に1000年近くの時間を要する事だろう。
彼が力を振るうのに最適化された位相だ。魔力消費は限りなく抑えられる。


そして何より、詰まらない。




だからエイワスは待っている。

上条当麻が。アレイスター=クロウリーが。
『法の書』を授けうるだけの知能を持つ存在である自身、エイワスが思いつかないような。



とびっきりの『最高の結末』を作り出してくれる事を。



アレイスター(…………何かを狙っている)

上条「………」


その戦いはまさに、『銀の星』。
幾千幾万幾億幾兆。無限に等しい眩い光が、恒星の如き輝きを放ち続ける。
物理的に、構造的に回避など不可能なはずの攻撃を防ぎ続ける上条当麻に驚愕しつつも、どこか当然だとアレイスターは考えた。


アレイスター(これくらいでなければ、欲する価値も無い)


しかし、上条当麻があえて利用しているとなると話は違ってくる。
彼は時に無謀で、時に無茶ではあるが、常に最高の結末を目指している。

つまり、無駄に闘い続ける意味が、必ずあるはずなのだ。


アレイスター(最初は、力試し。倒せれば倒す、という方針だったのだろう)

アレイスター(次に瞬間移動を使い始めると、魔力切れを狙い)

アレイスター(しかし近距離主体に変えてから、それを狙う事も無くなった)

アレイスター(今『力』をある程度制御している事を踏まえると、私に勝利する為には幻想殺しの解放がもっとも可能性が高い)

アレイスター(ただし、そのリスクも本能で理解しているだろう)


何が狙いだ?

勝利を狙っているか?

もしかしたら何か別の目的があるのではないか?

位相を超えるだけでも彼にとっては目的を達成する事になるのではないか?

だとすれば、最初からこの勝負は捨てる気で上条当麻は闘っていると言うのか?






アレイスター「―――――否」




アレイスターの内一人は呟く。


あの瞳は、そのようなつまらない事を考えているものではない。

確かに何かを狙っている。それが何かはわからないが、とにかく何か、勝利へと続く何かを。

今はまず、戦いに身を委ねる時だ。








無限かもわからないような衝撃が二人を駆け巡り、その時は訪れた。








上条「――――――――――――――あ」




上条当麻の左足が、塵と消えた。

休憩。
上条さんは右手以外も損傷すべき





エイワス(―――――!!!)


オティヌス「これは―――――ッ」


エイワス「いや、まだだ!!!!!」


アレイスターが、渾身の威力で刃をふるう。







上条当麻は、なんのこともなしに右手で砕き割った。

アレイスター(感嘆……その一言に尽きるな)


戦闘は、全く緩まない。それどころか激しさを増すばかり。


だというのに、上条当麻は左足が灰塵と帰す前とほぼ変わらないまま攻撃を受け続けている。



慣れ。



それは、本来慣れてはいけない感覚。

例え片足が吹き飛ばされようと、両足が粉微塵になろうと、三本の四肢がこの世に存在しなくなろうと。


それでもなお即座に通常と大差のないような動きを再構築できる。


人の身には永過ぎる悠久に近い時を、絶え間なく傷付けられ続けていた上条当麻にとって、その程度は容易い。


人は本来どこか一部でも人体が欠損すると、すぐにはバランスをとれなくなるという。

それを馴らすには、リハビリを経て、今までの人生で築きあげてきたものを0から作り直す必要がある。



つまり。



アレイスター(……哀れな事だ)



アレイスターは、自身が原因だと言う事を理解しつつもこぼさずにはいられない。



アレイスター(人としての命を守る為の最低限の機構。それすらも捨て去っている)



そんなものは、既に存在しないということだ。

積み上げてきたものは全て、全く別のものへと変容した。



実際に肉体が欠損した経験を、文字通り命を削って積み重ねる事によって。

きっと達磨にされようと、上条当麻は戦うのを辞めないのだろう。



その時人は、その姿を見て、感動するのだろうか。それとも畏怖するのだろうか。














上条当麻の、左腕が霞と消えた。




エイワス(それでも、限界はある)


例え五体満足の状態にほぼ近く動けるとしても、それでもやはり劣化はする。

結果、先ほどよりも遥かに早い時間で新たなダメージが現れた。


このままでは、決壊も時間の問題だ。






アレイスター(何を狙っている)


やはり幻想殺しの解放か? だがそのリスクを理解してはいないはずがない。

いくら制御し始めたといっても、そこまでできるならばさっさと決めてしまえばいい。

そもそも、そんな容易くできるものとは思えない。


……もっとも、その有り得ないを引き起こしているのが上条当麻なのだが。






何秒たったか。

1秒だったかもしれないし、10秒だったかもしれないし、100秒だったかもしれないし。






無限に続くかに思われた戦闘は、終局へと向かう。






オティヌス「!!!!!」





エイワス「―――!!!」







上条当麻の体勢が、完全に崩れた。

今までのように奇跡的に回避するような動きではなく、致命的な、隙。







もちろん、その隙を見逃すアレイスターではない。





全方位から、光の刃が迫る。





それをせめて少しでも軽減するかのように、上条当麻の右手は伸ばされ―――――




アレイスター(―――――わかった)



時が圧縮される。



アレイスター(上条当麻の狙いが)



光の刃は、上条当麻の右手の肩から指先まで、全てを細切れにできる密度と範囲で迫っている。



アレイスター(彼は、『右手を切断させる』気だ)



意図的に『異能を殺す力』を使うために『もう片方の力』を抑えるから、暴走した時に歯止めが利かなくなる。


ならば、いつぞやの右方のフィアンマの時のように。





『偶然『もう片方の力』が抑えられ、すぐさま再発動するような状態』へ誘導する―――――!!!



そのトリガーが、右手の消失。



アレイスター(捨て身もここまでくると恐ろしいが)



それを理解すれば、わずか刹那の間だろうと、対応できないアレイスターではない。


勢いは流石に殺し切れないが、狙いを変える程度は容易い。





全ての右手を切断しうる光の刃を、右手首より先にぶつける―――それだけで、幻想殺しにより、右手の切断は起こり得ない!!!

この刃の処理に追われ、二つの『力』は、他の奇跡を起こす余裕もなくなる!!!





これで―――――







アレイスター「私の勝ちだ、幻想殺し!!!!!」









バギン。













そうして、絶対の刃は。



謎の力に、食い散らかされた。

終了。
そう、オティヌスは解説役だったのです








アレイスター(……バカな!!!!!)






世界が、変わる。

まるでその空間の支配権が移動してしまったように。



刃は全て消えた。

上条当麻は生きている。




右手首より先は、彼の身体には存在しなかった。

アレイスターは混乱する頭を整理する。



間違いなく私の刃は、上条当麻の右手首より先を狙った。

命よりも先に、彼の右手を切り裂くなどと言う事は間違いなくなかったはず。

前に右手をかざされていたとはいえ、全方位から同時に切り裂いた。

下手なことにならないように、コンマ一秒の隙間もなく同時に攻撃が入ったはず。

それは確定的だ。なのに、彼の右手だけはあっさりと切り裂かれ―――――





バギン。

再び、世界を食らう音。



アレイスターが一人を残して全て食べられる。




その直後、『もう片方の力』が、『異能を食らう力』を飲み込み、右手が再構築される。



アレイスターの胸に、右手首の指を添えた状態で、幻想殺しの暴走は完全に抑えられた。




つまり、アレイスターの詰み。

アレイスター(そうか………単純な事だ)




アレイスターは、目を瞑り。




アレイスター(すでに理解していた。それも含めて攻撃を加えていた。加えていたとは思っていたが)




とどのつまり彼は、乗り越えることができなかった。



無限に等しい経験を、過信してしまった。





上条当麻の幻想殺しは、右手首より先にはいつも絶対的な防御手段としてあると、信じて疑わなかった。






アレイスター「君は、幻想殺しの範囲を操れるのだったな」




上条「御明察」

そう、アレイスターに狙いが看破され、すぐさま対応してくることも読まれ。


アレイスターがすべての経験から、いざというとき、上条当麻は右手を盾にすると信じ込まされ。


肘先など拡張されることがあっても、右手首の先だけは、どんなことがあろうとも幻想殺しで守られていると誤解させられ。






そして、本当に命の危機の土壇場、一瞬の攻防の中で、幻想殺しの範囲を操作し。






アレイスター「一気に抑え込んだのは、その反動で暴走が起こりやすくなることも狙っていたのか?」


上条「そんな深いことは考えてないよ、アレイスター。ただ俺は、右手をぶっ飛ばさせようと思っただけさ」






上条当麻の右手は、依然アレイスターの体に触れている。

異能を殺す、右手が。







アレイスター「―――――見事だ、上条当麻」







ここで、アレイスターは。








上条「俺の勝ちだ、アレイスター」









完全に、敗北した。







そして、白き世界が粉々に砕け散った。



ーーーエピローグーーー

  





こうして俺は、日常に帰ってきた。



 



インデックス「とうまが! とうまが目を覚ましたんだよ!!」

冥土帰し「やれやれ……ようやく話を聞けるね? 君は原因不明の意識不明だったんだよ?」

上条「ハハハ……もうしわけないです」



青ピ「カーミやーん!!!! 会いたかったでー!!!!!」

上条「オラァ!!!!!」

青ピ「ごっぱぁぁッ!!!!!」

土御門「あ、危なかった……オイラも飛びついていたらカミやん渾身のアッパーカットを食らうところだったぜい」

青ピ「ぐ……ふ……なんでいきなりボク殴られたん……?」

上条「教室の扉開けたら2m近い大男がボディアタック仕掛けてきたらそりゃビビるわ!!!」

吹寄「上条当麻! ようやく学校に来たと思ったらいきなり何をしてるの!」

上条「俺ェ!?」




土御門「いや今のはカミやんぜよ」

小萌「か、上条ちゃーん!!! 会いたかったのですよー!!!」

上条「ごふっ……こ、小萌先生、鳩尾に頭が刺さってます」

青ピ「羨ましいっ!ずるいでカミやん!!」

御坂「ホントに起きたの!? ホントに!?」

御坂妹「さっきから何回同じ事を繰り返すのですか、とミサカは呆れます。というか速いです、お姉様」

御坂「じゃあおいてくわよ!! これでもセーブしてるんだから」

御坂妹「バカな、これでまだ全力を出していないだと、とミサカはオリジナルと量産型の差に歯噛みします」

御坂「病院で『妹達』の一人が見たっていうんだから間違いないんでしょうね!?」

御坂妹「そうですから、超能力者の力を全力で使って、走らないでください、とミサカは息絶え絶えに懇願します」

御坂「大丈夫、病院で待ってるわ。先行ってるわよ!!」

御坂妹「さ、さらに速く……軍用クローンたるミサカを置いてきぼりにするなんて、とミサカはあまりの衝撃に言葉を失います」

御坂妹「……病院で目撃されたのが三日前なのだから、病院にはいないのですが、とミサカはため息をつきました」






打ち止め「あなたあなた!! ビッグニュースだよってミサカはミサカはあなたの胸に飛び込んでみたり!!」

一方通行「あァ? なンだ急に」

打ち止め「ヒーローさんが起きたの! 病院で!!」

一方通行「………!! チッ、またとンでもねェトラブルでも引き起こしそうだな」

番外個体「なんて言ってるツンデレ一方通行は、ホントはヒーローさんに会いたくて会いたくてたまらないのであった☆」

一方通行「バカな事言ってんじゃねェ」

打ち止め「そうはいってもあなたが喜んでるのはホントのことってミサカはミサカは」

一方通行「黙ってろクソガキ」






アレイスター「ふう。思った形とはまるで違うが、ようやくひと段落ついたと言うところかな」


アレイスター「…………」


アレイスター「…………」


アレイスター「話し相手がいないのは久しぶりだな」

アレイスター「学園都市の情勢でも確認しておくか」




とはいったって、あんな体験をしたからと言って日常が劇的に変わった訳じゃない。


変わったことと言えば……




小萌「はーい、今日もみんなHRにいますねー。上条ちゃんが遅刻せずにくるようになって先生は嬉しいです」

上条(不良とか瞬殺出来るようになったからなぁ)

小萌「そしてなんと! 今日は転校生が来てくれたのですよー!」

青ピ「て、転校生やと……? センセー、野郎ですか!? 女の子ですか!?」

小萌「ふっふっふ。喜んで下さい野郎どもー。綺麗な女の子ですよー!」

クラスメイト「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

青ピ「綺麗ってどんな感じですか!? クール系!? 優雅系!? それとも」

小萌「うーん、神秘系、ですかねー。スピリチュアルな雰囲気があったのです!」

上条「………この時点で上条さんにはいやな予感しかないんですが」

土御門「奇遇だなカミやん。何故かオレまでそんな予感がしてきたぞ」

上条(いや、最近は特にデカイトラブルは引き起こしてないし、大丈夫なはず……!)

小萌「それでは教室に入ってもらいましょう!」











小萌「イギリスから一週間だけ短期留学してきた、エイワスちゃんです!!」









土御門「ああっ、カミやんが窓から空にダイブを!?」

青ピ「なんて見事な五点着地なんや!! あれは完全に衝撃を殺したといっても過言ではないで!!」




~昼休み・屋上~

上条「いや!! なんで!! だよ!!」

エイワス「学校に来いと言ったのは君だろう? 自分で言った事に責任を持つのは大事なことだぞ」

上条「そうだけど!! テメェなんで顕現してんの!? 打ち止めへの負荷は!!?」

エイワス「エイワスと便宜上名乗ってはいるが、私は『ドラゴン』ではない。いわば、操り人形のようなものさ。私の意思を持つが、私の力とはほとんど関係がない」

上条「つまり?」

エイワス「特に力も持たないし、ミサカネットワークに負荷を掛ける訳でもないと言う事だな」

上条「確かにあの時よりも縮んでるし、光とかも放ってないけどさ……」

エイワス「もちろん。この身体は君も良く知る『冥土帰し』が用意したものだしね」

上条「あの人よくそんなこと引き受けたな……」

エイワス「まああの人物は患者と認めればその為にどんなものでも揃える人間だ。アレイスターも敬意を払うくらいだしね」

上条「アレイスターに許可は取ったのか? というかお前が出てきて問題ないのか? 学園都市とか科学サイド的に」

エイワス「私の存在をまず知る者はあまりいないしね。土御門元春も私の姿とドラゴンを結び付けることはできなかったようだ」

上条「……まあ、問題がないならいいんだけど」

青ピ「やぁっとみつけたでカミやん!! 何新しい女の子とフラグ建てとんのや!!」

土御門「なぁ青ピ、悪い事は言わない。あれはやめとけって」

青ピ「なんでや! つっちーは悔しくないん? カミやんがまたフラグを独占して!!」

土御門「いや、あれは嫌な予感がする。本能レベルで駄目だ」

上条「……土御門と何かあったのか?」

エイワス「少し気絶させた」

上条「だめじゃん」

青ピ「うおおおおおお!! こうなったらラキスケ狙いの特攻やぁあああああ!!!!」

土御門「落ち着け青ピ!! 狙われたラキスケは最早ラッキーではない、タダのスケベだ!!」

エイワス「あ、私に攻撃するのはやめておいた方が」

青ピ「ご、がああああああああああああああああああああ」

土御門「ああ! 青ピが説明できない謎の光の翼にノーバウンドで10m以上吹き飛ばされた!!」

上条「何の力も無いはどうした」

エイワス「アレイスターに組み込まれた防御機能は残っていたようでな……」

エイワスがクラスメイトになって、あとは、







トール「やっほう上条ちゃん、ぶん殴りに来たぜ!!」

上条「………お前も飽きないなぁ。ココ三週間ぐらい俺のとこに通いつめてるだろ」

トール「バカかお前!! ようやく見つけた周りに被害を出さない莫大な経験値を持つ敵だぜ!!! 戦わずにしてどうするんだ!!!」

上条「テンション高いな……まあいいけど」



金髪の少年が、静かに拳を構えた。

その手のグローブから雷光の溶接ブレードが顕現し、『メギンギョルズ』の力で、己の肉体の強度を引き上げる。



そして、その上に。



上条「来いよ、『全能』」



トール「行くぜ、『幻想殺し』!!!」




『全能神トール』としての力を全て解放する。

雷光ブレードが真っ直ぐに上条当麻の元へ振るわれた。

最大2kmにも達するその一撃は、その気になれば学園都市の学区をひとつ崩壊させる事すらできる一撃。

上条当麻は、右手首を振るい、反動なしに打ち砕く。もっとも、この程度ならばアレイスターとの戦闘をする前も行えたことだ。


トールは畳みかける。強化された肉体で、一気に懐に潜り込み怒涛のラッシュを打ち込む。

右左上上右右左左。拳膝肘頭肩指踵二の腕掌。ブレードも含めてあらゆる『経験値』を全力で駆使し、物理魔術両手段にて。


それを全てを、大きなダメージを受けることなく捌き切った上条は、攻撃の間隙を縫って裏拳をトールに繰り出した。




しかしそこに、トールの姿はない。




上条「……つくづく反則だよな、『全能』って」


トール「いーや、上条ちゃんの『幻想殺し』も大差ないと思うぜ?」





再び、衝突。





トール(楽しい)




己の足で敵に近づき、己で考えて攻撃を繰り出す。

それでも届かない。それでも敵わない。



トール(楽しい)




楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。




上条ちゃんのカウンターを瞬間移動してかわした。上条ちゃんの背後にいる。そのまま掌底。

ようやくまともに命中。だけどそれは、意図的かどうか、ダメージがほとんど通らない位置に当たった。




楽しい!!

彼の力は、『全能』。その力は、『どんな状況でも絶対に自分の攻撃が当たり、相手の攻撃をかわせる位置に自動で移動する』というもの。

厳密に言えば彼が移動しているのではなく世界の方が移動しているのだが。

ただ拳を振るえば、相手がノックアウトされる。

ただそこにいれば、攻撃は全てかわされる。

それはまさしく『全能』だ。絶対に負けることはないのだから。

だけどそれは、ひどく詰まらない。『経験値』なんて、考える事すらできない。

何もしていなくても勝てる。そんな戦いにどこに成長の余地がある?




トール(だけど、違う)




上条ちゃんとは、違うんだ。

何故攻撃する時に瞬間移動しない? 何故自分で考えて攻撃できる? 『全能』は発動しているのに?



答えは簡単。



トール(上条ちゃんに、『絶対に当たる位置』が存在しない!!)



つまり、そういうこと。




存在しない位置に移動なんてできない。

右手の影響か、上条ちゃんの実力なのか。

絶対に当たる『全能』の力ですら、100%を見つけることが出来ない。

だから、自分で考えて攻撃するしかない。

トールの左手のアッパーが、瞬間移動と共に放たれた。場所は、上条の真上。

強化され聖人並みの筋力を持つトールの渾身の一撃は、鉄球クレーンのように上から上条当麻の肩を打ち抜き、





上条当麻のカウンターは、絶対にかわせる『全能』の腹に突き刺さった。





トール(……カウンターパンチで勢いを殺されちまったな)





いや、そんなことは問題じゃない。



『全能』の自分に、攻撃が当たった。



こちらの攻撃も入ったけれどな!




トール「上条ちゃんは!」



砕いた地面の瓦礫を蹴り飛ばす。石つぶてを、上条は後ろに飛び退くようにして衝撃を軽減する。

既にトールは己の脚力で上条の背後に回り込んでいる。

しかし、上条は既に裏拳を打ち込もうとしていた。

絶対にかわせる『全能』が発動する。再び、上条の前。

鞭のようにしなり振るわれた雷光は、幻想殺しに打ち消された。




トール「意図的に、『絶対当てられる場所』を作り出すことが出来る!!」



雷光ブレードが消されようと、グローブを巻き込んだ自分の動きが消される訳ではない。

振るった腕を、そのまま叩きつける。

上条は、左手の肘を構えている。設置型のカウンター。

絶対にかわせる『全能』、すぐさま移動。

そこは、上条当麻から10mは後方の位置。

攻撃に転じることが出来る位置がなかったということか。




トール「そして、そこからの攻撃は、100%食らっちまうけど!!!」



超高速の加速で、一瞬で距離を詰める。

常人には視認すら不可能な速度の突進を上条当麻はカウンター気味に左手を振るった。

絶対に当たる『全能』、場所は上条の真下。

地面から打ち上げるようにブチ込んだタックルが上条を上空に吹き飛ばすと同時に、トールの後頭部に上条の踵が入った。



トール「……ッ!! かわりに、『その瞬間』だけは!!!! カウンターを当てられる!!!!!」



そう、絶対に当たる『全能』と、絶対にかわせる『全能』が同時に発動しない事を利用して。

『絶対に当たる』、それは、『絶対に当ててしまう』。

『絶対に当たる全能』で瞬間移動したならば、例えカウンターが入れられようと絶対に入れてしまうことを利用して!!



本来は『絶対に勝てる位置に移動する』筈の力にブレが生じているのは、トールが人間ゆえか、上条の右手ゆえか。



……もっともそれを行うには、一撃必殺級の『雷神』の一撃を軽減しつつ、絶対にかわす『全能』が発動しない、攻撃が当たるのと完全に同時のタイミングでカウンターを打ち込むという、常識外れどころか理から外れかねない技量が必要なのだが。

上条当麻との戦闘において、トールに『絶対』の勝利はない。

お互いに同時に攻撃を当て合い、どちらが先に力尽きるかのドッグファイト。



経験値が膨大に手に入り、何度でも戦え、周りに迷惑を掛けない。





トール「楽しい、楽しいぜ上条ちゃん……!! 俺は今最高に生きてる……ッ!!!」




頭の中が、快楽でオーバーヒートする。


楽しい!! 楽しい!! 楽しい!!!





俺は、今この瞬間の為に生まれてきた―――――!!!!!





がっし。







上条「お前そのたまに戦闘中に恍惚として動きが鈍くなるの何とかした方がいいと思うぞ……」




上条当麻が、宙に浮いた彼を追撃しようとして移動したトールの左拳を受けつつ、トールの腕を掴んだ。

流石に幻想殺しが自分の肉体に触れていれば、『全能』と言えど発動しない。




トール「2、24敗目ぇえええええええええええええ!!!!!」





そのままトールは、地面に顔面から叩きつけられた。






トール「いやぁだからさ? 俺ってばこんな風に戦える相手がいなかった訳よここ最近上条ちゃん?」

上条「いいからお前は早く病院に行け」

トール「それでさ? やっぱこんだけ熱い戦いだと途中でトリップしちまうというかなんというか」

上条「いやいいからデコの血を速く拭け」

トール「つまり何が言いたいかっていうともう一回やろうぜ上条ちゃん!!!」

上条「俺は疲れたんだよ!! 帰れバカ!!!」

トールが喧嘩友達になったことかな。

いやアイツもいい奴なんだけどなぁ……いかんせんめんどくさい。

あと変わったことと言えば……



新しい居候とか。




インデックス「ん! 美味しいんだよ、久し振りに食べるとうまのご飯は最高かも。しかもなんか量が多いし!」

上条「はっはっはー。アレイスターに迷惑代と称して結構なお金をせびったからなぁー!!」

オティヌス「奴もまさかそんなことで金を奪われるとは思っていなかっただろうに」

インデックス「む! オティヌス、そのお肉は私のかも」

オティヌス「知った事じゃないな。鍋は戦場なのだろう?」

上条「とはいっても所詮15cmだしロクに食べないだろ……」

インデックス「気持ちの問題なんだよ! だいたい意識が戻ったと思ったら謎のマスコットが傍にいて、しかも居候するなんて驚きだし」

オティヌス「私も甚だ不本意だ。大体この位相にも『オティヌス』は存在するのだろうし、面倒な事になるに違いない」

インデックス「ほお一杯にお肉をほおばりながら言っても説得力がないかも」

オティヌス「む」

上条「……まあインデックスのことを守ってくれる奴が増えたと考えればいいか」

これくらいかな。

日常が劇的に変わったとかは、ない。


ただいつもの騒ぎが、ちょっと楽になっただけだ。





ああ、そうそう、もう一つ。



大事な事を忘れてた。



そうだな。

「ようこそ、上条当麻」


「……相変わらず暇そうだな」


「いいや、これでも忙しいのだぞ。主に私のいなかった間に暴れまわっていた輩の討伐でな」


「よく考えたらそれ大変じゃないか?」


「そうでもない、私には優秀な友人がいたからね」


「友人と言うのも少し違う気がするよ、アレイスター。私は所詮ただの犬さ」


「うおお!? 葉巻を吹かしたゴールデンレトリバーが!?」


「始めまして、上条当麻。私の名は木原脳幹。まあ本来の役割とは違うのだが、妙な輩の殲滅を担当していた」


「なに? このハードボイルドな犬さんは、異世界からやってきた生物の端末だったりするの?」


「私は唯の犬だよ。もっとも、『木原』の一員ではあるがね」


「わけわかんねぇな……」


「それで私を呼ぶとは何の用だい? 君がそんな無意味な行動を取るとは思えないが」


「いや、ただ上条当麻に君を紹介したかっただけだが。暇だったのでね」


「……」


「やっぱり暇じゃねーか」


「そんなことはない」


「数秒前を思い出せ」


「……はぁ、まあ君が意外と感情的なのは知っているからいいけどね」


「そうそう、上条当麻。エイワス(仮)は元気かな?」


「ああ、元気だよ。たまにヘッダが足りないとかいうけどな」


「何をしているんだい君たちは」


「エイワスに肉体端末を与えて学校に通わせている」


「仮にも最高機密に本当に何をしているんだ……」










俺に、話し友達が増えた、とか。

その程度だよ。







おしまい。

完結。
オチが弱いですって? 戦闘の中で壊れて行く上条さんが書きたかっただけなので……申し訳ない。

お付き合い頂きありがとうございました。

そういえばはってなかった。

上条さんの対戦記録

一戦目:一方通行(8月・第10032次絶対能力者進化実験時)
ニ戦目:御坂美琴(6月・路地裏で不良と上条さんに初対面時点時)
三戦目:ステイル=マグヌス(7月・上条さんと初体面時)
四戦目:一方通行(10月・ロシアにて番外個体にフルぼっこ直後)
五戦目:エツァリ(8月・上条さんを襲撃時)
EX.1:麦野沈利(8月・VS御坂時)
六戦目:自動書記(インデックス)(7月・VS上条時)
七戦目:アウレオウス=イザード(8月・三沢塾時点)
八戦目:アニェ―ゼ=サンティクス(9月だっけ?オルソラ教会時点)
九戦目:シェリー=クロムウェル(9月・学園都市襲撃時)
十戦目:不良×5(7月時点・酒と煙草で身体を壊し、靴も機能性ゼロのブーツ、しかもペース無視の全力疾走を続けているのに2キロ近く走る事のできる程度には強い)
EX.2:御坂妹(8月・絶対能力捨身化実験終了直後)
11戦目:ビアージオ(アドリア海の女王時点)
12戦目:テッラ(C文章時点)
13戦目:浜面(スーパーむぎのん撃退時)
14戦目:オリアナ(大覇星祭時)
15戦目:ヴェント(学園都市襲撃時)
EX3:削板軍覇(とある自販機の存在証明時)
16戦目:土御門元春(御使堕し時)
17戦目:神裂火織(禁書回収時)
18戦目:キャーリサ(クーデター、カーテナ=オリジナル所持連合の意義発動前)
19戦目:フィアンマ(ベツヘルムの星内部、聖なる右完成時)
20戦目:ウィリアム=オルウェル(学園都市内、上条当麻襲撃時)
EX4.:垣根帝督(未元物質で肉体を再構成済み、白垣根未覚醒時)
21戦目:トール(上条達と学園都市でわいわいやってた時)


22戦目:アレイスター・クロウリー(現在)

まだ立ってないですー。書き終わってないので。


待っている方々がいらっしゃるのに申し訳ないんですが、ローマこれかなり辛いです。
オリ設定ぶち込みすぎた。いや設定はまだいいけど上条さんは肉弾戦or右手じゃないと……ただの幻想殺し持った関係ないキャラに
今更ですけど。
当時はまだ若く中二の拗らせ方が良くなかった。

書き上げるのは相当後になる気がします

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月19日 (月) 03:04:17   ID: NefOj41V

オティヌス出たあたりから最低系まっしぐらだな
主神の槍はともかく本体は質量違いすぎて処理落ちするだろうに

2 :  SS好きの774さん   2015年06月12日 (金) 02:15:32   ID: AL0ZVcz4

↑と、SS評論家様が申しております
何やねん最低系て

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