A国兵「あ、私3枚ね」B「………ほら」 (70)

ここは世界の何処か…かなり昔に戦争が起き、その停戦条約により国境には2つの国の兵士が一人ずつ配置された、何故一人だけなのかは誰も知らない


A国兵「~~♪」

B国兵「………」

A国の兵士は鼻歌を歌っていた、国はまだピリピリしたムードだからいつ攻めてきてもおかしくないというのに

ヒュウウウ

B「……!」

そこへちょうど国境を挟む様にB国側から帽子が飛んできた、目を凝らすと子供の物と確認出来た

B「どうしたものか…誰も監視していないとはいえあそこまで近付くのは危険かもしれないな」

A「……」

そう思っているとA国兵士が大きなコンクリートの門を後にして走ってきた、どうやら取りにきたらしい

B「バカ!」

久しぶりの全力疾走で駆け寄りA国兵士が手を出す寸前の所で帽子をひったくった

B「いったい何を考えているんだ!」

A「えっ?」

A国兵士に悪びれる様子はない。その顔は見る者にはまるで、公園に遊びにきた子供の様に罪悪感を感じさせなかった

B「お前があと半歩前に出ていたら侵入者だ、それがカメラに映っていたらたちまち戦争だろうがっ!」

A「あ、あはは…まあそう怒らないで」

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B国兵士は目の前にいる者をじっと見据えた。顔はまだ幼さが残り、身体つきもひょろひょろとしておりどう見ても兵士向きではない。極め付けは女である。今まで何ヶ月と対峙してきたこの相手に兵士は少し衝撃を受けた_______というのもお互いこれまでここまで近くに寄る事が無かったからである

B「おい女、これはお前の国から飛んできたものだろう。投げるから受け取れ」

返事も聞かずに兵士は白いレースが縫い付けられた麦わら帽子をフリスビーの様に投げる

A「おわっとと!」

なんとか地面に落ちる前に受け取ると顔を上げ、男にニコリと笑った。男は依然しかめ面のままだった

A「へいパースっ」

今度は女が投げる番であった。まさか投げ返されるとは思っていなかった男は少々面食らいながらも同じく地面に落とす事なく手に掴み取った

B「……ふざけているのか?」

A「ふざなきゃこんな事しないよ!ほら貴方は私に帽子を返さなきゃいけないでしょ?でも私はまたそれを返す」

B「何故そんな事をする?」

女は次の答えには答えずこう言ってまた麦わら帽子を投げる構えになった

A「落としたら負けだから!」

次の投球、いや投帽子はかなり上まであげられ、それを落とさずに掴むには走りざるを得なかった。男は走る。しかしそれはA国兵士の提案に乗った訳ではなくせっかく取れにくい砂の汚れを丹念に落としたのにそれを無駄にされたくなかったからである

B「はぁ…はぁ」

A「ブラボー!おおブラボー!」

無駄な労力を使った上、バカにしているとしか思えない賞賛を浴びた男はその場を後にし、80M先の門へ着くと門番に麦わら帽子を渡し、何かを耳打ちしてもとの場所へ帰ってきた

A「えっ、どしたの…帽子がなきゃ……」

B「持ち主には悪いがお前の遊びに付き合うのは癪だからな。明日郵送される」

A「うえええぇーーっっ!!」

酷く落胆して手と膝をつくと同時にやかましいベルの音がなった。交代の合図だ

夜、男は一人で更衣室にて着替えていると突然ドアが開いた

「よう、調子はどうだい?」

B「アル」

アルフレッド・リッグス。男にとって数少ない友人である。口数が少ない男とは対象的にかなりのお喋りだ

アル「まあ良いに決まってるよな?久々に女の子と話したんだから」

何故俺が話していたのかを知っているのか…それは聞くだけ無駄だ。それよりもっと理解出来ないことがある

B「何故彼女が女だと知っていた?」

アル「俺は諜報員だぜ?そんなことぐらいお見通しよ」

無論、アルフレッドは諜報員なんかではなく監視カメラをチェックする仕事を与えられているだけである。

B「そうか、俺と彼女があそこまで近付いたからお前のカメラにも顔が分かるくらい映ったのか」

アル「ご明察。我らが長がお前のこと呼んでたぜ」

B「そうか…」

アル「心配すんなって、クビにはまだ早い」




元気に扉を開け、元気にアルフレッドは言った

アル「隊長!無事連れて戻りました!」

ブルース「よく戻った。怪我はないか?そうか、よかった。勲章の代わりにコーラを贈呈しよう。君も飲むかね?」

B「結構です」

ブルース・ウィリアムズ。彼は昔は戦争中英雄とまで言われ、数々の勲章を手にしたが今はこの警備隊隊長へ着任し、穏やかな生活を送っている

ブルース「そうか、じゃあ私は頂くよ」

二つビンを取るとアルフレッドに投げやり、自分は持ち前の分厚い手のひらでフタを開け、アルフレッドは愛用しているビクトリノックスで開けた。男はこの2人は本質的に似た所があると睨んでいる

B「所で私を呼び出した訳はなんでしょうか」

ブルース「ジョン、そこの彼がしつこく私を呼ぶから今日の君の仕事振りを見たぞ…ブワッハッハッハ!」

アル「イヒヒヒックククッ!」

ジョン「………」

ブルース「隣の国の兵士とフリスビーか!ブフッ」

アル「隊長、違いますよ」

アルフレッドが急に真剣な顔になって言う

ブルース「…なんだと?」

ブルースも真面目な顔に戻る

アル「こいつは女の子としてたんですよ……ぷっ!」

ブルース「アハハハッ!」

ブルースとアルフレッドはまた涙が出るくらい笑って机をバンバン叩いた。

ジョン「からかいに呼び出しただけなら帰りますが」

ブルース「はは…悪かった、少し笑い過ぎた。しかしまあ、呼び出したのもそれだよ」

ジョン「というと?」

ブルース「昔、2人の兵士が喧嘩をしたのが発端で両国を巻き込む争いになった事がある。君は見た所彼女とは一方的に話を打ち切り帰っていったね?私達は仮にも冷戦状態なんだ、ぶっきらぼうな態度はやめてもらわなくては困る。嫌うのは私とアルフレッドだけにしてくれ」

ジョン「別に嫌っている訳では…」

アル「本当か!」

ジョン「お前は嫌いだ」

アル「……」

ブルース「ともかく、私の言葉の意味が分かるな?これでも君を買っているつもりなんだ」

ブルースはコーラを持つ手で指を差しながら言った

就寝前ジョンは1人思いにふける。
あの女はどうして俺と戯れようなどと危険な行為に及んだのだろうか。最初に監視の目が無いと言ったがそれはあくまでその場に誰も居ないという意味で、監視カメラを注意深くみる物好きがいたら厳しく罰せられるというのに
だがそれも考えるだけ無駄なのかも知れない、変人の思考を正気の人間が読み取る事など出来ないのだから。




ジョンはいつも通りの位置に立った。
すると向こうには何やら台車で色々な物を持って歩いてくる者がいた。例の兵士だった

ジョン「………」

A国兵士はテキパキと台車に積んであった折りたたみ式の長方形テーブルを組み立てるとイスを並べ手招きをしていた

A「こっちこっち~」

ジョンは無反応を通す気でいたがブルースの言葉を思い出し、やむなしと女の元へ歩いた

ジョン「なんのマネだ」

A「ずっと立ちんぼなのも暇でしょ?だからトランプとか持ってきた」

ジョン「見つかったら怒られると考えなかったのか?」

A「大丈夫、カメラ見てる人は私のお姉ちゃんだから」

ジョン「………」

A「ねー何して遊ぶ?」

ジョン「俺はお前の名前さえ知らん」

A「あっ、ごめんなさい!私の名前はリカよ」

ジョン「ジョン・ゲインズ」

リカ「そう、よろしくジョン!」

ジョン「随分と馴れ馴れしいな」

リカ「じゃあブラックジャックする?あっ、ポーカーも知ってるけど」

ジョンの喧嘩腰には意も返さずリカはまくし立てた。ジョンはポーカーを選んだ




ジョン「フラッシュだ」

リカ「はわわ…」

チャイムが鳴った。ジョンはテーブルの上に置いてある金をリカに押し戻すと踵を返した

ジョン「金は返す、じゃあな」

リカ「ええーっ。いいの?せっかく勝ってたのに」

ジョン「素人同然の奴から貰うのはな」

リカ「ヒューッおっとなー!」

ジョン「お前は身も心もガキだろ」

リカ「失敬な!これでも高卒です!」

ジョンは背を向けたまま手を帰路についた。リカは見える訳でもないが両手を振った

次の日、ジョンが門を潜ると既にリカは席へついていた

ジョン「お前は付き合わされる俺の気持ちを考えた事は無いのか」

リカ「嫌なら無視すればいーじゃん」

ジョン「………」

それが出来ないから困っているんだ。とは言えず席に着く

リカ「今日はお菓子と紅茶を持ってきたよ。ほらこっちの伝統料理なんだけどね……」

ジョン「お前が先に食え」

リカ「えっ?別にいいけど……ま、まさか毒が入ってると思ってる!?」

ジョン「当たり前だ」

リカ「酷いなぁもう」

リカはバケットの中にあるパイを齧ると微笑んだ

リカ「ほら平気でしょ?」

ジョン「…そうらしいな」

するとジョンはリカが齧った物を口に運んだ

リカ「えっ、ちょっ!なあ!?」

ジョン「…不味くはない」

リカ「待って待って!なんで自然と関節キスやっちゃう訳!?」

ジョン「ゴッドファーザーという映画を見た事があるか?相手に毒味させても他の部分が毒入りだという場合もある。俺に食べさせたければ全てお前が齧ってからの物だけだ」

リカ「~~~!!」

赤面したリカにすかさずフォローを入れる

ジョン「心配するな、飲み物はお前が一杯飲むだけでいい」

その後2人はまたポーカーを興じた。ジョンとリカが共通して知るカードゲームはこれしかなかったからだ。チェスを提案したがどちらも持っていないので次までにリカが買う事になった


アル「その後はどうだ?良い感じか?」

ジョン「冷やかしはやめてくれ」

アル「隊長もあの調子なら大丈夫だと言ってたぜ」

ジョン「ずっと監視させられながらというのも腹が立つな」

アル「まあそう怒るなよ。お前だって今の方がブスッと立ってるより楽しいだろ?」

ジョン「どうだろうな」

ジョンはさっさと着替えるとロッカーの中に仕舞い、アルと街を闊歩した。

これは良いss
青背っぽい

なんか論述謎系かと思って注意深く読んでたが違うみたいだね
普通に面白いから期待

アル「雨に唄えば!弾む心、蘇る幸せ!」

散々飲み明かした帰り、路上で彼は歌った。歌詞とは裏腹に空は透き通るほど星がよく見えたが彼にとって歌える曲はこれしかないので隣の観客は我慢するしかない。歌の完成度自体は非常に高いのがせめての救いである

ジョン「ご機嫌だな」

アル「ああ、遂に彼女がプロポーズを受けてくれたんだ。これほど嬉しいことがあると思うかい?」

ジョン「へえ!そいつはおめでたいな」

ジョンは問いには答えなかった。純粋に祝いたい気持ちもあったが仮にガールフレンドすら居ないと答えようものならまた例の兵士の事でからかわれるからだ

アル「だろ?……あれっ、この話さっきもしたかしら」

ジョン「17回から数えていない」

アル「まあいいか。それじゃあ俺はこっちだから」

ジョン「ああ。また明日」

アル「また明日!二日酔いになるなよ!」



ジョンはアルフレッドが2軒目のバーで話していた事を思い出した

ジョン「A国の財政難ね…」

A国とB国は最初こそすれ均衡を保っていたが最近になって財政悪化が目立つ様になってきたとアルフレッドが漏らしたのだ。末端にまでその内情を知られているというのにA国はそれを隠すかの様に軍備強化を推進した。ジョンはリカがそれによってこの仕事をクビになったりはしないのだろうかと心配したが駆け足でテーブルに就く彼女の笑顔を見て余計なことを考えた物だと自虐的に苦笑した

リカ「はぁはぁ…チェス…持ってきた…やろ…」

ジョン「頭に酸素を充分行き渡らせてからな」

片言で説明する彼女を見ると自然と顔がほころぶ。まだお互い顔を合わせて一週間も経っていないがジョンにとって既にリカはアルフレッドと並ぶ親友に近かった、またリカもジョンにただならぬ信頼を寄せている

リカ「じゃあ私白でいい?」

ジョン「ポールは真っ正面の敵は取れないぞ」

リカ「ルールくらい知ってるから!」

ジョン「先行はコイントスで決めよう」

リカ「私オモテ」

ピンと心地よい音をたてて仕事が始まった。




ジョン「何故だ………」

リカ「やったー!」

チェスの成績、リカの勝ち。リカの残った駒はキング、クイーン、ビショップ2つにナイト1つとポーンが3つ。ジョンの残った駒は無し

ジョン「お前チェスの教室に通っていたのか?」

リカ「いや全然。お姉ちゃんがやってるの隣で見てて型とか覚えちゃった」

ビショップがあんな動きをするとは思わなかった。あの手慣れた動作は恐らくジョンの人生で一度か二度見たことがある程度だろう。ブルースと一戦交えたことがあった、彼もまたチェスの対戦に長けていたがここまで圧倒されたのは始めてである。ポーカーに続きこちらでも勝てると思っていただけあってジョンはひどく落ち込んだ

リカ「はい」

そんなジョンにリカは自分の残った駒を彼の手に握らせた

ジョン「……これは?」

リカ「素人同然の奴から貰うのはな!」

ジョン「殺すぞ」

チャイムがなった、いつの間にか夜である。ジョンはあれでも長期戦だった事を自分の自尊心に訴えかけ心の痛みを和らげた

リカの様子と反比例する様にA国の悪い噂は絶えない。

「聞いたか、あっちの陸軍の偉いさんがクーデター起こしたんだってよ」

「もしかするとあっちで勝手に自滅してくれたりしてな」

人々が心の中で小さくガッツポーズをする中ブルース、アルフレッド、ジョンの3人はなんとも言えない気持ちであった。
ある日、ジョンの仕事が終わる時間を見計らってブルースは再び2人を署長室へ呼び出した

ブルース「この事は秘密だぞ」

ブルースはそう前置きをして席へついた

ブルース「実はな。今朝の会議でA国へ宣戦布告する事が決定した、予定日は3日後だ」

アルフレッドは言った

アル「ジョン、これは仕方が無い。敵国が混乱している時が突入する絶好のチャンスなんだ。国の判断は間違っちゃいない」

ジョン「…………」

ジョンは内心穏やかでは無かった。それでも矛先の向けようがない激情を周りに当り散らさないようにと目を張り爪を皮膚に食い込ませるまでに収めた

アルフレッド「隊長…なんとか彼女だけでもこちらに寄越すのは…」

ブルース「お前も無理なのは分かっているだろう。この時期に元敵国の、しかも政府関係者を迎えるなんて!それに彼女の生活もある。我々には彼女を救える手立ては残されていない」

ブルースもまたジョンと同じ気持ちであった。ただ違うのはその様なやりきれない理不尽を軍人時代に幾つも耐えて来た事だ。そのためどの様な事態になろうとも冷静な判断を下せられる。事実、彼の着任後この警備隊において目立った事件は無かった

ジョン「ブルース隊長。俺は馬鹿げた事を申し上げてもよろしいでしょうか」

ブルース「ああ」

ジョン「俺は彼女をこのまま放っておいてこの戦争に参加したとします。そして運良く彼女…リカと俺が生き延びたとしても俺は合わす顔がありません」

ブルース「そうだろうな」

ジョン「何か手はありませんか?どんな手段でも構いません」

アル「ジョンお前…」

ブルース「無いわけではない。だがこれはほぼ勝つ見込みのない賭けに等しい、運が良ければハッピーエンドだが奇跡を起こさない限り2人とも早死にするぞ。勝手にあの子の運命までお前が選択するのだ」

ジョン「………」

ジョンはいつもと変わらず警備にあたっていた。大きなリュックサックを背負っていることを除いては

ブルース『忘れるな。先ほども言ったがこれは彼女救うのではない、あくまで彼女自身の賭けだ』

ジョンは結果的に彼女が最後まで無事になれるならそれでもいいと思っていた。この戦争はほぼB国が勝つと言ってもいい。だからこそ行動しなくては。戦争に略奪、強姦、不当な処刑は付き物だ、仮に全てをまぬがれたとしても後々ここの監視記録を見られたらおしまいだ。
勝利国としては厳しい注意、あるいは刑罰で済むだろうが敗戦国はそうはいかない。一生国の人間から責め続けられるだろう、「お前が敵兵と仲良くしていたから情報が漏れ、負けたのだ」と
もちろん敗戦の理由はまったく他の場所にあるだろうが、人間は常に身近な失敗の原因を探る生き物だ。その白羽の矢に当てられた彼女はどうなるか…ジョンは考えたくも無かった。

しばらく待っているとリカがやって来た。

リカ「あれっ、どうしたのジョン?そんな大荷物を抱えて…」

ジョンは実行する前に最後まで彼女の選択を聞こうと思った。反対するなら無理に押し切り、賛成ならば共に進むだけだが。
しかしジョンはそんな事よりも小さな所に目を付けた。

ジョン「お前…どうして長袖なんだ」

その言葉を放った瞬間リカから一瞬笑顔が消えた

リカ「なんでって…」

ジョンは全身の細胞が燃えた気がした。そしてその勢いに任せ、リカさえ守っていたタブーを恐れる事なく破った。
彼は歩み寄ったのだ。

ジョン「リカ!」

見せる事を嫌がる手を強引にこじ開けると彼の大きな両手で袖を捲った。腕には痛々しい傷がいくつもあった。

ジョン「いったい何があった!」

リカ「何でもないよ…ちょっとみんなピリピリだけ」

彼は少ない言葉から国の現状とリカが置かれている環境を察した。

ジョン「お前、確かこのカメラは姉が見てると言っていたな」

リカ「ああ、あれは嘘よ。ごめんなさい、本当は3ヶ月前の人事異動の何かの手違いで監視役ずっといないの。でも貴方がもし私を襲って来たらと思ってつい嘘吐いちゃってそれで」

ジョンは言葉を遮ると静かに言った。

ジョン「そうか、なら出発だ」

リカ「えっ、出発?ピクニックへ?」

ジョン「ああ、ピクニックだ。多分ここへは二度と戻れんがな」

リカ「………どういうこと?」

ジョンは今までの流れを母が子供に説明する様に丁寧に話した。

リカ「嘘」

注意深く耳を澄まさなければ彼女の声は聞こえなかった。この様な弱ったリカを見るのは彼にとって初めてだった。

ジョン「だから行くんだ。どこか遠い所へ、こんな国なんて聞いたことがないと誰もが口を揃えて唱えるような所へ」

リカ「ここがあとちょっとで皆攻めてくるの」

ジョン「ああ。ところで以前言っていた両親が亡くなったのも嘘じゃないよな?」

リカ「それは本当!」

ジョン「そうか。ならこの国に未練はないだろ?」

リカ「待ってよ私に唯一無二の親友がいるって可能性は考えないの!?」

ジョン「少なくとも俺の友人は腕に傷なんかつけたりしないね」

リカ「そうよ、貴方のお友達は?あなただってご家族もいるんじゃないの?」

ジョン「この提案はその友人たちがした物だし、どうせ俺たちが勝つから家族の心配はいらない」

リカ「うわムカツク」

ジョン「とにかく、これでも一刻を争う状況だ。お前の国はあんなだから末端1人消えただけじゃ捜索隊を派遣せんだろうが俺の方が来るかもしれんからな」

時計と一体型のコンパスを見ると言った

ジョン「西へ行こう。あっちなら森がある」

リカ「歩きで行くの!?」

ジョン「ここまで来るのに自転車なんか持ってきたら怪しまれるに決まっているだろ。さあ行くぞ」

リカ「あっ、ちょっとだけ待って!」

リカは国境線のちょうど中心に置かれていたテーブルの上のトランプを掴み取った。

リカ「これがなくちゃ暇つぶし出来ないでしょ?」

リカはお宝を見せつける様に笑った。

ジョン「暇があればいいな」

2人は歩いた。

昨日までに書き上げるつもりだったけど前半終了

>>13
はい、自分はハヤカワ文庫SFが好きです!

>>15
論述謎系……?

歩けども歩けども視界には砂漠が広がっている

リカ「…西ってこっちであってるの?」

ジョン「俺自身、何度も確認した」

リカ「森とか嘘なんじゃない?」

ジョン「そんな訳がない」

リカ「水飲む?」

ジョン「飲む」




ブルースは遂に来たかと落胆した。
しかしその表情は大統領に向けるだけあってその硬い皮膚は険しいまま動かなかった。

「ブルース中佐」

ブルース「そいつは何年も前の話です大統領」

「以前、それほどまでの地位に上がった君がこの様な失態を犯すとはね」

ブルース「申しわけありません」

「君のことだ、何かそうする意図があったんじゃないかね?」

ブルース「決してそんなことは」

「まあとにかくだ。我が兵士とあちらの国の兵士がどこかへ行ってしまったというのは戦争直前のこちらの国にとって危険な不安材料だ。彼らを見つけ、どの様なことを企んでいるのか吐くまであちらへの布告は中止する。既に数十名を追跡に当たらせた、無論監視係りはクビだ」

ブルースは一礼するとその場をあとにした。

アル「こうなることは覚悟していました」

ブルース「ああ。すまないな」

ブルースはアルフレッドからバッジを受け取ると机の引き出しに直した。

ブルース「これだけは覚えておけ、君は正しい決断をしたのだ。友人のためにここまでする者はここまでおるまい」

アル「その言葉、婚約破棄されない様に俺の彼女にも言ってやって下さいよ」

ブルース「そうしたら今度こそおしまいだ」

ブルースとアルフレッドは声を殺して笑った。

ブルース「次の職はもう探してある。どうだね?」

アル「えっ、本当ですか!?」

ブルース「うむ、かつての仲間をなんにもしてやれず解雇する訳にはいかない」

アル「俺はいい上司を持った!本当に何から何まで世話になりました」

ブルース「よいよい」

アル「それで早速なんですが次はどんな所で?自分、こう見えても清掃は苦手なんですが…」

ブルース「そんな君にぴったりの仕事だ。国境線警備隊隊長補佐というのはいかがか?心配するな、私に口出し出来る方々は君の顔なぞ見たことがない。君さえよければなんとかしよう」

アル「ヒュー!愛しちまうぜまったく!」

感極まってキスしかねない勢いでブルースの頬を掴んだが、その手を掴み返すとブルースは静かに言った。

ブルース「おっと、私はゲイじゃないぞ?」

リカは午後になり初めて嬉々とした笑顔を浮かべた。

リカ「やっと着いた!森!」

ジョン「よし、今日はここでテントを貼ろう。」

リカ「これからどうするの?」

ジョンは地図を開きリカにライトで照らさせた。

ジョン「今はここだ。この近くの川に沿って歩くとこの国に辿り着く、なんとか入国したらパスポートを作ってどこか遠い場所に行こう。そしてめでたしめでたし…という寸法だ」

リカ「じゃあ私たち死ぬまで一緒にいるの?」

ジョン「いや、そこまで来たら別々の生活を送ろう。…まあついてくるかはお前の自由だが」

リカ「ついてきてほしいんでしょ?」

ジョン「…所で逃亡先の国はどこにする?」

強引に話を変えたジョンだったがリカは特にその事を言及しなかった。

リカ「私テヴアがいいな!」

ジョン「そうか。直行便があるなら考えておこう。さあ寝ろ、明日はとてつもなく早いぞ」

リカ「はーい」

数時間前、大統領命令を受けたゴードン・カルロイはガソリン独特の匂いを漂わせた鉄の馬に股がる。ゴードンは親が自動車修理を生業としていたからかこの匂いが好きだった。

「ゴードン、今回の指令をもう一度確認してみろ」

彼に命令するのはレオ・デント。ゴードンがこの職に就く5年前からいたが未だ昇進の話が毛ほども聞こえないのが悩みである

ゴードン「監視カメラに映った男女を探し出し目的を吐かせる。吐いた場合速やかに本部へ伝達し、2人を連行する」

レオ「そして抵抗した場合射殺」

と付け加えるとレオもまた出発の準備を整えた。

待ってる

>>32
ありがとうございます…心の支えとして頑張ります

追跡人はゴードン達の他にもいた。各人がそれぞれ独自の捜査網を引いており移動方法も徒歩からヘリまで様々だ。
フリーランサーの彼らは国から多額の賞金を手に入れるため皆躍起となっているのだ。

ゴードン「ここまま真っ直ぐ向かうと森です、時間から察するに奴らはそこでキャンプをしているでしょう」

レオ「そんなこと分かってるんだよ!ボヤボヤしてるとせっかくいち早く情報屋から手に入れた物がオジャンだぜ、森に着くまで休憩は無しだ!」

ゴードン「…はい」

レオの大きな声はヘルメットのお陰で最小限に緩和されたが彼特有のキンキンとした金切り声は聞くに耐えなかった。

ジョンはテントの中で目が覚めた。それは敵の気配を察知したという類ではなく単に浅い眠りを意識していたお陰でヘリのプロペラ音に気付いたのだ。

ジョン「リカ、起きろ」

リカ「ううん…」

隣で自分と同じく紫色の芋虫と化したリカに呼びかける

ジョン「追っ手がこちらへ来ている。今なら川沿いに木々に紛れて移動すればバレないはずだ」

リカ「待って…寝袋…」

ジョン「ああ、今開けてやるから……」

ジョンは急に動きを止めた。その原因は彼女の服が充分な役を果たしていない姿を目に焼き付けてしまったからである。
しかし今はそんな事で固まっている場合ではないと判断したジョンはリカが半覚醒状態のうちに素早く服を直したことを確認すると顔に水を浴びせた。

リカ「うっわ…冷た…っ!」

ジョン「残念ながらリカ、今からもっと冷たい体験をするぞ」





ゴードン「レオさん、こちらへ」

ゴードンはバイクへ乗った時から顔を崩さずレオを手招きした。

レオ「何か見つけたのか?………こいつは…テントか!」

ゴードン「ええ、情報屋は間違っていなかった。ここから奴らを追い込みましょう」

レオの顔はみるみる内に口角が上がり太い眉はつり上がっていた。

レオ「はは!これで捕まえたも同然だ!お前は最高だぜっ、やはり雇って良かった!」

ゴードン「このテントはどうしますか?」

レオ「手がかりになりそうな物が無かったら跡形もなく焼いて見つかりそうに無いような場所へ捨てておけ、他の奴らに見られたら困る」

リカ「うう、足が寒い…ね、一回出ちゃ駄目?」

ジョン「そんなことしたら今までの苦労が水の泡だ。あと1kmは覚悟しておけ」

リカ「ええーっ!!」

2人は川に両足をつけて歩いていた。理由は足跡を残さない様にする事と臭い消しのためだった。



リカ「ねえジョンー!」

彼は50m進むたびに後ろなら自分の名前を呼ばれていたがことごとく無視していた。途中から何となしに呼ばれた回数を数えていたが13辺りからそれもやめていた。

ジョン「……仕方が無い、少し休むか」

辺りは夕方で他の人の気配もしなかったので一旦川から出るとホウキの様な物をバッグから取り出し足跡を消していった。

リカ「そんなのあったの!?あったなら最初から使えば良かったのにっ!」

ジョン「森まではどうせ監視カメラで見られてるから意味がない。しかもそれを両国が公開するまでに映像を入手した輩が居たお陰でこんな目に遭ってるんだ。ほれお前の」

2人は川を迂回し、また森へ入ると寝床となりえる場所を探した。

リカ「ねえさっきなんでテント持ってこなかったのよ…」

ジョン「さっきも言っただろう、時間が……おお、俺たちは運が良いらしいな」

リカ「洞窟!」

もう少し行った所にそれはあった。森に急な段差があり、大昔に人が来た形跡があったのでもしやと思ったのが当たったようだ

ジョン「今日はここで一日を過ごそう。奴らもすぐにここを特定は出来ないだろう。リカ、乾燥した枝と大きな葉を集めてくれ、カモフラージュと焚き火の準備だ」

リカ「はーい!」

とにかくこれで休息が得られると踏んだリカは脱兎の如く収集に取り掛かった。

ゴードン「……奴らはここから川へ入ったらしいですね」

レオ「奴らも頭が回るらしいな。まあ逃げようだなんて考えている時点でバカに決まってるけどな…まさにキレる馬鹿!」

ゴードン「とりあえず出た形跡が無い限り川の分岐点まで行きましょう。徒歩ならまだそう遠くへは言ってないはずです」

レオ「よし来た!」

火を付けると中は奥に広く高さは2mといった所で、気温も暖かく野宿よりはるかに文明的な暮らしが出来た。

ジョン「ここで寝袋を敷いておこう。食料はまだまだ余裕があるはずだからここからは交代で見張りだ。それぐらいならお前にも出来るだろう」

リカ「さっきの時はしてなかったのに?」

ジョン「カモフラージュする分、外の様子が分かりづらい」

リカ「えー」

ジョン「仮にもお前だって訓練をパスしたんだろ?」

リカ「うー」

ゴードンはふいに止まった。

ゴードン「レオさん、これを」

指を指した方向には直径10cm程度の欠けた石が転がっていた。

レオ「欠け方が妙だな…石に少し泥が付いている、奴らはここから俺たちに気付いて森に入った様だな」

ゴードン「ええ。恐らく間違いないかと」

レオ「へっ、やっぱプロを舐めてんな…。おい、ここからは二手に別れて探そう。もう夕暮れだから寝所を探しているに違いない」

ゴードン「分かりました」

レオ「見つけたら連絡しろよ」

彼らはバイクを人目につかない場所へ移動させると銃やライトなどの必要な物だけを持っていくと別々の道を辿っていった。

リカ「もうそろそろ交代じゃなーい!?」

ジョン「あと30分だ、それと大きな声を出すな、見張の意味がないだろ」

辺りはすっかり暗くなっていた。
静寂の闇。得体のしれない虫の声。恐怖とは認知出来ない物自体だとリカは思った、例えばジョンの声をずっと聞いていれば少しは気が楽だろうが彼にも休んでもらわなければならない。ぐっと我慢すると缶の豆スープを啜った。

リカ「まじい…」




ゴードンは一際観察力と動体視力に優れた男だった。実力だけで言えばレオの方が上であるが仕事の取り引きや経済面では劣るし、何より彼はあらゆる方向に顔がきくのでタッグで組む様になった。
しかし今は前者が圧倒的に必要な時。そのため彼より早く発見したのは言うまでもない。

ゴードン「………」

無言で見張り役の人間を睨み付けて、腰にあるP・ベレッタの9mm拳銃に手をかけた。周りの闇に同化し、ゆっくり呼吸を整え忍び込む。
相手の顔が見える距離に来ても見張りは呑気な顔のままだった。後に女だと分かるがそんな事は関係ない、ギリギリまで近付くと暗視スコープを外し、静かに言った。

ゴードン「そこの女」

女は素早くこちらを振り向き口をあんぐり開けたが、銃を向け、ジェスチャーで「黙れ」と示したので、か弱い喉から音は発せられなかった。

ゴードン「腕をこちらへ」

抵抗しない素振りだったので不用意に更に近付いたのが間違いだった。女は足で銃を蹴飛ばすと大声で叫んだ。

リカ「ジョーン!助けてー!追っ手がー!」

ゴードンは失敗した後でも冷静な思考を保ったのが功を奏した。手早く落ちた拳銃を掴むと女の首に腕を絡め、すぐに出てきたもう一人に銃口を向けた。

ゴードン「はあ…はあ…」

ジョン「クソッ……」

ジョンが声に気付いた時には遅かった。
洞窟から出た先にはリカが謎の男に人質に取られている所だった。

ゴードン「お前達はリカ・バンデンハッスとジョン・ゲインズか?」

ジョン「その通りだ、だが名を聞くなら名乗るってのが筋だろう」

ゴードン「余裕そうだな。俺はゴードンだ」

ジョン「これからどうするんだ?」

ゴードン「お前達には少し聞きたいことがある。手を首の後ろに組んで洞窟に戻れ」

ジョンは言われた通りにした。後ろから付いてくる気配を感じとる。

ゴードン「おい、今度は変な真似はしてくれるなよ?」

リカ「うーっ!」

よくこんなのがここまで逃げて来れた物だと呆れた。ゴードンはリカをジョンの元へ乱暴に返すと結束バンドを渡した。

ゴードン「バンデンハッスがゲインズに掛けろ。その後俺が掛けてやる」

ゴードンはリカが手を抜いていない事を確認するとリカにも掛けた。

ゴードン「さて、相方を呼ぶ前に2人に聞こうと思うことが幾つかある」

ゴードン「何故貴様らは逃げようとした?仮にも敵国同士だろう」

ジョン「どうコンタクトをとったのかは監視カメラの映像通りだ。理由については分かってるはずだ。A国の内部事情は知ってるだろ?」

ゴードン「俺は誰を捕まえればどれほど貰えるかしか聞かない」

ジョン「リカ」

リカ「うん」

リカの許可を得てジョンは話始めた。

ジョン「なら話そう…これは麦わら帽子が飛んできた時の話だ」





レオは無数の枝を分け入っていくとほんの小さな灯りが見えた。

レオ「とうとうこっち側にゃ何も無かったがゴードンから連絡が来てないってのはこういう事か」

双眼鏡で覗くとゴードンの後ろ姿が見えた。

レオ「ったく、見つけたらすぐ言えって言ったのになァ…」

まあいい、誰より早く捕まえられたらそれで万々歳だ。なんせ100万ドルさ、多少の事は目を瞑ってやろう。
レオは軽い足取りで金の鉱脈へ向かった。

ジョン「……で、今に至る」

ゴードン「………」

ゴードンは裕福な両親の生まれで、小さな頃から映画の主人公に憧れていた。明確なイメージや具体的な人物像は無いがとにかく主人公になりたかった。
しかし臆病な彼はそんな気持ちは誰にも話さないまま、ただ親の用意した人生に流されるように生きていた。
高校や大学で何をやる訳でもなく気付けば会社の歯車の一部と化していたゴードンはある日小さな頃から抱いてきた思いを抑えられなくなり、これなら俺にも運命的な衝撃の出会いがあるだろうとこの職に就いた。
家族とは絶縁したが才能があったのか食うには困らずそこそこの稼ぎも安定して手にいれていた。後にレオと組む様になり今回の仕事もレオが知らせてきた事だった。

今、追うべき者の理由を本人達から聞いたゴードンはかつてないほどの衝撃が走った。これこそ自分が求めてきた物だ!

ゴードン「バンデンハッス、手を出せ」

リカ「……?」

サバイバルナイフを出すゴードンにリカは少し怯えたが彼は手首まで刃を近付けると器用に細いナイロン製の紐を切った。

リカ「ええっ!?」

今拘束されたばかりの手を自由にされて彼女は某然とするばかりだった。

ジョン「どういうつもりだ」

ゴードン「気が変わったのさ、俺はお前達の様な奴に出会うためにここまで来たのかもな」

ジョン「は?」

ゴードン「もしこれが一つの物語だとするならこのままだと俺は間違いなく敵役だ。それなら良い役で居たい、少なくともここでレオに引き渡すのは主人公のやる事じゃないからな」

リカ「…見逃してくれるの?」

ゴードン「見逃す?馬鹿言うな、ここでほっぽり出した所であっという間に他の奴らに捕まるさ。国境近くで解放してやる」

ジョン「…この時代には珍しくリスクを行動の天秤に置かない奴だな」

ゴードン「リスクばかり考える人間は必ず全員死ぬ間際に後悔する物だ、ぬるま湯に浸かり続けていたことをな」

ゴードン「……待てバンデンハッス、もう一度しゃがめ、相方が来る」

それから数秒もおかずレオが洞窟の中に姿を現した。

レオ「おーいゴードン!大丈夫かー!?」

ゴードン「俺が制圧したのを見たからそれほど不用心なんでしょう」

レオ「はは、まあお前ならわざわざ見なくても安全なのは決まってる。今何やってんだ?」

ゴードン「女の方を拘束しようと思ったんですがアレが足りなくて今レオさんを呼ぼうとした所です」

レオ「なんだお前が備えを忘れるとは珍しいな!どれ確か……がっ!」

ゴードン「一時間持つはずだ。一応連絡手段と武器一式は持っていこう…ゲインズ!」

ジョンはレオが背負っていた黒い斜め掛けのバッグを受け取った。中にはライトと発煙筒と携帯食糧が入っていた。

ゴードン「銃は使えるな?」

ジョン「もちろん」

ゴードン「ならレオのを持っていけ。行くぞ」

ジョンは手榴弾と拳銃とマガジンを持てるだけ持っていった。

リカ「ねえ、私の武器は?」

「「そんなものあるか!」」




ゴードン「ここだ」

ウッドランド迷彩のシートを外すと2台のバイクが出現した。

ゴードン「お前はバンデンハッスを乗せろ、この先に国へ入る抜け道がある。俺の知り合いが案内をするから他の賞金稼ぎがやってが来る前にそこへ」

ジョン「ああ。リカ、お前はヘルメットが無いから背中に顔をうずめておけ」

リカ「ん」

リカはすぐさま言う通りにするとゴードンが茶化した

ゴードン「なんというか…お似合いだな、まったく」

ジョン「お前!」

ゴードンは返事を聞く前に走らせた。文句を言いつつジョンも後に続く。

レオ「う…く……」

レオは意識を取り戻すと目を細めた。どうやら強い光を当てられている様だ

「おい貴様。何者だ!?」

レオ「誰だお前は…」

「国から依頼された捜索犬って所だ」

顔に浴びせられているライトを退けると彼の他に7人いる事が確認出来た。全員自分と同じプロフェッショナルらしい。
大体状況を把握してきたレオは愉快で仕方がなかった。

レオ「へ…へへ、俺ァついてるぜ」

「こいつ気でも狂ったか?身ぐるみはがされて笑ってやがる」

レオ「なあ…取り引きしねえか?上手く行けば賞金は俺たちの物だぜ、あの裏切ってくれた野郎に制裁を加えられるオマケ付きだ」




先頭のゴードンがバイクを止めた。

ゴードン「案外早く着いたな、数十分はここで待機だ」

ジョン「ここが待ち合わせの場所なのか?」

リカ「森の中だけど…」

ジョン「それは森の中に国境があるからだろう、まあ柵の回りは流石に伐採してるだろうがな」

ゴードン「ご明察。ここをもう少し行った先に国境があるが有刺鉄線が貼られていて警備も中々だ。そこで先人の不法侵入者様は地下道を作ってそこから通った」

ジョン「そこまでの道を案内するのがこれから来る人間という訳か」

ゴードン「そうだ。名前はルーシー、出来れば頼りたくなかった」

ジョン「女か」

だんだん籠ったような音が聞こえた。それは遥か上空からで、そこにいる全員がそれを視覚する前に正体に気付いた。

ジョン「ヘリだ!」

バイクを倒し大樹の影に身を潜めた。

『あーあー…聞こえるかゴードン?』

ヘリから何者かが身を乗り出してスピーカーを使った。

ゴードン「レオ……馬鹿な、早過ぎる!」

『何を思ったのか知らんがよく今までの地位を不意に出来たな。お前の位置は大体特定出来ている、後は俺たちが探すからお前は安心して逃げ回ってくれ』

レオは至って冷静な声だった。彼は少々楽観的で時に調子になる場面もあるが決して感情の高ぶりに任せて動くことはない、ただ今回のそれは怒りがありありと見えた。

ゴードン「携帯からGPSで…察するところ、誰かに拾われたな」

ゴードン「急いでバイクを…」

携帯を躊躇なく踏み潰してそう言いかけた瞬間先のバイクが爆発した。その火が回りに引火し辺りが急に明るくなる。

リカ「きゃっ…!」

ジョン「やられた!」

レオ「キツネに道具は使わせねえ」

見返すと先程右手に持っていたはずのスピーカーがm320グレネードランチャーに置き換わっていた。

ジョン「あの距離からか…」

ゴードン「腐っても元軍人だ、逃げるぞ2人とも!」

レオ「降りろ!行け!行け!」

ヘリからロープが降ろされ数十名の兵士が訓練通り規則正しく着地した。
もはや暗視スコープは使用する意味が無かった、3人はしゃがみながら木の影に隠れて駆け巡る。

ジョン「これからどこへ逃げる!」

ゴードン「非常時の場合に備えて別の場所を用意してある、奴がバカじゃない限りそこへ向かってるはずだ!」

パシュッ。木の幹が弾丸によって抉られた。

リカ「う、う、撃ってきた!?」

ジョン「もはや生け捕りの必要さえ無いってか!政府は我慢が足りんな」

ゴードン「あっちがその気なら遠慮は要らないな」

ゴードンは自前のMP5K(クルツ)を腕のみ上げて牽制射撃を行った。
炎によって燃え上がる森に怒涛の銃声が轟く。
リカは思わずジョンにしがみついいた。
ジョンは構わずそのまま先へ急ぐ。

ジョン「どこへ行けばいいんだ!」

ゴードン「俺から見て南西へ300m、そこに鉱山のトンネルの様な所がある。恐らくルーシーはそこに居るはずだ!」

ジョン「分かった!」

リカ「ね、ゴードンは!?」

ゴードン「後から行く」

ゴードンの言葉の最後はNATO弾が掻き消した。

ジョンが先頭を切り、その手首を力強く握られたリカが続いた。
ゴードンは一旦立ち止まり木と木の間を掃射し、それと同時に悲鳴が上がり、銃撃も少し弱まっていく。

ゴードン「ここじゃコレの方が相性がいい。____とは言え数が多過ぎるな」

手持ちのマガジンでは目的地へ着く前に弾が切れてしまうだろう。ゴードンは取り分け近くにいた数人を仕留めるとスモークを投げた。
そして数秒待ち、相手が暗視スコープを着けた頃を見計らってフラッシュ弾を浴びせ、2人の後を追った。

ジョン「ここだ」

そこは森を抜けた所にあった。一目見ただけでは壁の様にしか見えないが注意して観察するとカモフラージュされた扉が見える。
すると後ろから爆発音が聞こえた。

ゴードン「そこだ、走れ!」

リカ「ゴードン!」

なおも迫り来る銃撃の嵐から3人は肺が潰れそうになる程両足を働かせた。
するとゴールの扉が勢いよく開いて中から人が見えた。

「早く入って!」

ゴードン「……ッ!」

待ち構えていた者はブロンドのショートヘアーでに身を包んでいた。顔はよく見えなかったが声と胸の膨らみから女だと分かる。
3人は転げる様に入り込むと女は素早く鋼鉄製の扉を閉めた。

ジョン「はあ…はあ…あんたは?」

ゴードン「……これがルーシーだ」

ルーシー「まったく!あんたらの所為でもうここ使えないわよ…さっきのアレ正規の部隊でしょ?」

ゴードン「別に構わない。どうせもうここへは戻れないだろうからな」

ルーシー「でしょうね。貴方は私に借りがあるのにまだ増やす気?」

ゴードン「今回はそれ相応の金を渡すと言ったろ」

ルーシー「……ま、いいわ。とりあえずそこの扉を爆破される前に早く行くわよ。私この年で死にたくないもの」

訂正

ジョン「ここだ」

そこは森を抜けた所にあった。一目見ただけでは壁の様にしか見えないが注意して観察するとカモフラージュされた扉が見える。
すると後ろから爆発音が聞こえた。

ゴードン「そこだ、走れ!」

リカ「ゴードン!」

なおも迫り来る銃撃の嵐から3人は肺が潰れそうになる程両足を働かせた。
するとゴールの扉が勢いよく開いて中から人が見えた。

「早く入って!」

ゴードン「……ッ!」

待ち構えていた者はブロンドのショートヘアーでBDUに身を包んでいた。顔はよく見えなかったが声と胸の膨らみから女だと分かる。
3人は転げる様に入り込むと女は素早く鋼鉄製の扉を閉めた。

ジョン「はあ…はあ…あんたは?」

ゴードン「……これがルーシーだ」

ルーシー「まったく!あんたらの所為でもうここ使えないわよ…さっきのアレ正規の部隊でしょ?」

ゴードン「別に構わない。どうせもうここへは戻れないだろうからな」

ルーシー「でしょうね。貴方は私に借りがあるのにまだ増やす気?」

ゴードン「今回はそれ相応の金を渡すと言ったろ」

ルーシー「……ま、いいわ。とりあえずそこの扉を爆破される前に早く行くわよ。私この年で死にたくないもの」

そう言った瞬間、分厚い鉄の扉が鼓膜を破る程の音を出し弾け飛んだ。
ゴードンがいち早く振り向くと兵士の1人がRPGを使用した事が分かった。

ゴードン「あっちもなりふり構っていられないか」

ルーシー「…これはマズいわ」

ゴードン「お前らは先に行け」

ジョン「ゴードン!」

ゴードン「いいんだ、この中じゃ俺がてき面だ」

ゴードンは片足を見せた。
その足はとても直視できる物でなかった。太ももから下は痛々しく出血して黒ずみ、布で縛り応急処置を施してはいるが血が滲み出していた。

ゴードン「どうせ走れやしない。ルーシー、早く2人を案内しろ」

ルーシー「……」

ルーシー「分かったわ。2人とも急ぎましょう」

リカ「そんな…こんなところに置いてっちゃったら!」

ルーシー「大丈夫よ、彼はこれぐらいならすぐ追いかけてくるから」

もちろんルーシーの言った事は虚勢だった。しかしこの状況でリカの様な倫理観にとらわれている者は無理やりにでも連れていかなければ全てが水の泡となる。
ジョンはそれを見越して一度離れたルーシーの手を強引に掴み前へ進んだ。

リカ「ちょっとジョン!」

ジョン「ゴードン、恩に着るぞ」

ゴードンはその言葉に無言で頷いた。
彼等にとってはそれで気持ちは十分伝わる物なのだ。
そうしていると兵士が数名こちらへ向かってきた。
流石に地下で爆発物は使えないのだ。
3人は入り組んだ十字路を進んでいき、ゴードンはそれを見送ると角に隠れて兵士達に向け発砲した。

ゴードンは考えた。
自分はいつも主人公を夢見て決断してきた。
しかしこんな風なら、脇役でも悪くない。
今、生きる意味を見出した彼は深い満足感に満たされていた。
ほとんど笑う事が無かった口角は自然と上がり、大胆な動きをしても弾丸は彼を避けるかの様に当たらなかった。
次第に前進していきゴードンは刺客を何人も葬っていった。
しかし1人仕留め損ねたのか後ろから銃弾が彼の脇腹を貫通した。

ゴードン「ぐっ……」

すぐさま振り向き銃の持ち主に弾を送り返したが流れは確実に止まった。
ゴードンは横へ倒れる様に逸れて体制を立て直す。

こちらの武器はフラッシュが一つと小銃、拳銃のみであった。
MP5Kの残りの弾を数えると残り5発だった。それを既に撃ち尽くした拳銃のマガジンへ装填した。
今から倒れている兵士の武器を頂戴しよう物ならハチの巣になるのは確実だった。
残る案はフラッシュを投げ、この五発で前に飛び出す意外に無かった。
ゴードンは今ならその覚悟は出来ていた。

ゴードン「どうしてこんな事になっちまったんだろうな…あの2人のお陰か」

自嘲気味に笑い、ゴードンはM92FSのスライドストップを戻しフラッシュを前へ投げた。

いくつもの曲がり角を迷う素ぶりもなくルーシーらは走っていった。ジョンはゴードンの銃声が次第に消えていくことと同時に自分達の危機も去っていくような気がした。
しかし今は取り残す彼のことを考えるのは後にせざるを得ない。

ルーシー「ここよ」

先の扉と変わって場違いなほど上品な扉を前にルーシーは息を全く切らせずに言った。
ただそのため口調から意気消沈していることが見て取れる。

鍵でドアを開け、中に入った。

ジョン「ここはあちらのどこだ?」

ルーシー「ホテルの地下よ。そろそろ朝だから人も増えると思うわ」

突然小さな音がした。

ルーシー「あっ…!」

突然ルーシーは倒れ、驚いたリカは彼女のそばへ駆け寄った。
どうやら腕を撃たれたらしい、先程の音は消音器を付けた拳銃の様だ。

レオ「ご機嫌よう」

ジョン「お前はさっきの…」

声のする方を振り向くと、上に繋がるエレベーターの前にレオが銃を持って立ち尽くしていた。

レオ「この地下へ行かれると流石に俺も分からん。だがその出口なら先回りをすれば無事間に合うって訳だ。所で1人足りん様だがゴードンは?_____ははあ、なるほど!」

レオは銃を構えて言った。

レオ「政府はな、実を言うとお前らを生け捕りにしろとしつこく忠告されている。何を企んだか知るまではな」

ジョン「知らずに終わったら?」

レオ「いい質問だ!」

レオは右手の物がステッキならクイズ番組の司会者だといっても不思議で無い口調で言った。

レオ「逆に2人を殺しさえすればたちまちB国は宣戦布告をする。お前らが銃のセーフティーレバーなのさ」

レオは再び発砲した。次はジョンの腹部に。

リカ「ジョン!」

レオ「だからここで殺す。なァに、ここにゃ監視は居ないしそうすれば俺たちの仕事は一気に増える」

ジョン「他の兵士を連れてこなかったのはそのためか」

痛みで気絶するのを何とか収め、荒い息をしながらそう呟く。

レオ「その通りだ。まあ、あんな格好の奴等が高級ホテルに入れるはずもないが」

ルーシーは震える手で銃を構えたがレオが見逃すはずは無かった。
ボスッとこもった音を発しジョンの前に銃を弾き出された。

レオ「お前は最後に殺すからやめとけ」

ルーシー「糞ったれ!」

レオ「そろそろお話は終わりだ。」

レオはナイフを取り出すと自分の頬と鼻を軽く切った。

レオ「へへ、一応それっぽくするのは得意なんだ」

にやりと笑い、再びレオは銃を構える。今度はジョンの頭に。

レオ「あばよ」

次の瞬間リカはレオが銃を彼女に構え直すより速くルーシーが携帯していたコンバットナイフをレオへ投げた。
それは頬へ刺さり地下一体を悲鳴で満たすには充分の傷を付けた。

ジョン「隠れろ!」

リカは数台ある洗濯機の影へ、ジョンは前の拳銃とルーシーを掴み、こちらは幾つもの液晶テレビの後ろへ隠れた。

レオ「チクショウ!やりやがったな糞が!」

レオは何発も洗濯機へ撃ったがリカまでは届かなかった。

レオ「お前は後だ!」

次はルーシーとジョンの方へ撃った。
しかしその銃弾はテレビを3台ほど貫通させた所で止まってしまった。

ジョン「どうすりゃいい!」

ルーシー「…こっちを使って」

かすれた声でルーシーが別のマガジンを手渡す。

ジョン「これは?」

ルーシー「完全被甲弾(フルメタルジャケット)よ」

ジョンはマガジンを変え、レオのいる方向へ撃ち尽くすまで撃った。
硝煙の匂いが消えた後も辺りは静かだった。恐る恐る立ち上がると拳銃を持ったまま目を見開き、大の字になって倒れている男の姿が確認出来た。

弾はレオの頭に1発、腹部に3発命中していた。
顔は地獄を見てきたかのように苦痛で歪みきっていた。

ジョン「2人とも大丈夫か!」

ルーシー「私は大丈夫」

リカ「うん」

するとエレベーターが空き、中には警備員と思われる者が3人いた。

ジョン「動くな!」

ジョンは見られる前にスライドストップを元へ戻し、弾が入ってるかの様に叫んだ。
はたからみると男が女2人を人質にとっている様に見えるため、警備員達は動けなかった。

ジョン「他に出口は?」

ルーシー「後ろに非常階段がある」

ジョン「よし」

ジョンは警備員を後ろへ向けると銃底で殴り気絶させた。

階段を上がり裏口から出た。辺りは既に明るくなっており、通りには通行人やバスが通っていた。
ビルやファーストフード店が並んでおり、朝の静けさもしばらくすると無くなるだろう。

リカ「これからどうするって?」

ルーシー「ああそれは…」

言いかけて黒塗りのBMWが前に止まった。
ジョンとリカは警戒したがルーシーは手を上げて2人に言った。

ルーシー「大丈夫、彼らは私の仲間よ。まずは貴方と私の治療をしなくちゃね?それにこの装備で出歩いたらとっ捕まえられるわ」

「居たぞ追え!」

ホテルの表からあの3人と同じ格好の者がこちらへ走って来た。

ルーシー「さあ乗って早く!」

急いでドアを閉めると急発進して警備員を置き去りにした。





一ヶ月後

リカ「ジョーン!電話鳴ってるわよー?」

ジョン「ああ、今出る_____もしもし?」

『ようジョン!』

ジョン「その声は…アルフレッド…アルフレッドじゃないか!」

ブルース『私もいるよ』

ジョン「隊長!」

リカ「誰?知り合い?」

リカはジョンの頬にくっ付き問う。

ジョン「ああ、国の仲間だ。もう二度と喋れないかと」

ブルース『まあ職権乱用するとざっとこんな物だ』

アル『にしても無事で良かったぜ』

ジョン「ああ、お前の歌が聴けなくて寂しがっていたところだ」

アル『へえ!じゃあ今歌ってやろうか?雨に唄えば…』

と言いかけた所でブルースが制止する。

ブルース『おいおい、勘弁してくれ』

ジョン「所でそちらはどうです?」

ブルース『ああ。君らが消息を絶ってくれたお陰で戦争は始まらずに済む様だ』

リカ「やった!」

ブルース『ほう、君がリカか。なかなか可愛い声をしている』

アル『ダメですよナンパは!今は他の奴の物だから』

ブルース『おっとそうだったな!』

ブルースとアルフレッドのお得意の冷やかしが始まる。

ジョン「…………」

リカ「…………」

ブルース『おお図星か!アッハッハッ!』

ジョン「これだけですか?もう切りますよ」

ジョンはぶっきらぼうに言った。

ブルース『ああ、すまんすまん。そう拗ねるな。それより重大な発表がある』

ジョン「なんですか?」

アル『タラーン!うちに新人が配属されましたー!』

ジョン「は?」

ブルース『声を聞かせてやろう』

『…………元気にしてるか?』

突然の懐かしい恩人の声に2人は心底驚いた。リカに至っては満足に礼も出来なかった人に。

ジョン・リカ「「ゴードン!」」

ゴードン『数奇な運命の巡り合わせと言ったところか、気付けば隣のオヤジに助けられていてな。今はこうして立派な職に付いている』

ジョン「そうかよかった……本当によかった!」

ゴードン『バンデンハッスは?』

ジョン「隣で泣いている」

そう言うとリカは声を押し殺しつつもジョンの腕を叩いた。

ゴードン『ふっ、意外だな』

ジョン「これで心のつっかえが取れたよ」

ゴードン『またいつか会おう』

ジョン「それはそっちがこちらへ来てくれないと困る」

ゴードン『そうだった、今どこにいるんだ?』

ジョン「ああ、とてもいい所だ。以前リカともここへ来ようと言っていたんだが~~」








the end

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