モビルフォースガンガル 『ガンガル大地に立て』 (11)

西暦は三千を越したというのに、人間は未だ地球に縛り付けられていた。

第三次世界大戦は、六芒星の下に集う正義の枢軸軍が勝利を収め終結。

あれから六十年。
人は疲弊仕切っていた。
空に夢を抱く若者も消え、争いは絶えることを知らない。
宇宙開発は、他国に自国の軍事開発状況を知らせる為だけのものであって、そこにロマンは存在しなかった。

かつて宇宙(そら)を見た君は、この時代に何を思う。

――君は生き残って何を見たい?

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――極東居住区 砂漠地帯

かつて『日本』と呼ばれたこの居住区も、大戦中に投下された大気汚染爆弾の攻撃を受け、干ばつにより砂漠地帯へ姿を変えていた。

今日も枢軸軍とゲリラの攻防が続く。

ゲリラを追うのは、6m程の緑色のロボット。
その名も『ズク』。

元々介護などの多目的パワードスーツとして開発された『モビルフォース』は、軍事転用され大戦において多大な功績を残した。

ズクもその中の1つ。
左手には拠点破壊用の大型ドリルが備え付けられている。

『お前達は包囲されている。諦めて投降しろ!』

2体の緑色の巨人はスピーカーから呼びかけを行うが、銃弾の雨は一向に止む気配を見せない。

ゲリラとしても、ここは退く訳にはいかない。
今朝、枢軸軍の施設から盗み出した『ある物』を拠点まで持ち帰らねばならないからだ。

『ある物』は棺のような物に収められ、トラックで運ばれていた。
ダミーのトラックは5台。
既に4台はズクに破壊されている。

枢軸軍のモビルフォースの力は強大だ。
関節などの脆い部分を狙って叩かないうちには、銃でも傷一つ付けることはできない。
愚鈍な印象を与える見た目に反し、動きは軽い。
鉄の塊が人間を殴り殺す、踏み殺す。

ゲリラはそんな脅威と日々戦わねばならない。

――

砂漠に隠された地下道路を走り抜けたその先にゲリラの拠点がある。
棺を積んだトラックは無事そこに到着する。

待ち構えていたゲリラ隊員らの歓声の中、『ある物』の運搬作業が行われた。

マスカー「おい、アレは大丈夫なんだろうな」

オーカー「脳に傷でも付いていたら話にならないぞ」

トラックの運転手に詰め寄る男は、『マスカー』と『オーカー』。
親戚でもないのに顔も行動も似ていて、ゲリラは誰も彼らの見分け方を知らない。

ライセ「無事帰って来た人間にそういうこと言うのね」

マスカーらに言い返す金髪碧眼の美少女は、『ある物』を乗せたトラックの運転手『ライセ・フナ(来世 鮒)』。
祖母の代から続くゲリラの家系で、その美しく凛とした姿は人を惹きつける。

マスカー「むぅ……」

オーカー「むむぅ……」

マスカーとオーカー「おんn」

ライセ「また顎に一発ずつ食らいたくなければ『女の癖に』なんて言わない方が賢いわ」

マスカーとオーカー「「むむむむぅ……」」

トライブ「まぁ落ち着きなさい」

3人の喧嘩を仲裁する老人の名は『トライブ・アーノ』。
ゲリラのリーダーで、主に戦闘指揮を取る。

トライブ「ライセ、よく帰った。ゥラフも天で喜ぶだろう」

ライセ「はい、おじい様」

トライブ「オスカー、『彼』は元気かね?」

棺を見つめるトライブの目はどこか懐かしげだった。

マスカー「マスカーです。バイタルは正常、いつでも冷凍睡眠解除可能です」

トライブ「分かった。では、集会を始めよう。マーカー、皆を集めてくれ」

オーカー「オーカーです。分かりました」

――集会所

トライブ「第三次世界大戦が終わって60年。かつての『正義の枢軸軍』は腐敗仕切り、その面影はもうない」

トライブ「私も嘗ては、その枢軸軍の艦隊に所属し大いに貢献してきたつもりだ」

トライブ「モビルフォースを脅しに使った圧制に我々は屈してはいけない!」

「「「おおーっ!」」」

トライブ「枢軸軍の政治に苦しめられた民衆から立ち上がってくれたゲリラの諸君よ」

トライブ「枢軸軍に正義を思い出させる為、民衆の力を見せる為。みんな、私に命を預けてはくれまいか」

「「「おおおおおおおおーーっ!!」」」

トライブ「本題に入ろう。本日の作戦の話だ」

トライブ「まずは作戦成功に関わった5つのダミートラックに自ら志願し乗りこみ囮になってくれた戦士の冥福を祈ろう」

トライブ「……今日諸君らに運んでもらった棺の正体を作戦に関わる一部の者にしか教えなかったことは謝る」

トライブ「この作戦が成功するまで情報漏洩を避けたかったのだ」

トライブ「この棺の中には……」

トライブ「嘗ての我が戦友(とも)『アムラ・リョウ(亜斑 亮)』が眠っている」

突然のトライブの口から出た偉人の名前に、集会所がざわつく。
『第三次世界大戦』の枢軸軍の英雄、エースパイロット『アムラ・リョウ』。
モビルフォースの代名詞『量産型ズク』のプロトタイプ『モビル・ズク(以下モズク)』に乗り込み、枢軸軍の敵である『北部朝鮮率いるアジア軍』に大打撃を与えた。

モビルフォースの存在が広まっていない時代、飛行機のように飛ぶ人型ロボットにアジア軍は『UFO Fighter(未確認飛行戦士)』というあだ名を付けている。

トライブ「やはり驚くか。オスカーとマーカー、君の学校ではアムラが最終的にどうなったと教えた」

マスカー「マスカーです。『モズクのアムラ』は英雄であるとともに、大量殺戮者でもあります」

オーカー「オーカーです。大戦後、アムラは枢軸の『S級戦犯』となり処刑されたと聞きます」

トライブ「そうだ。アムラは処刑されることになった。表向きはな」

トライブ「アムラは優秀なパイロットだった。アムラのモズクに積まれた学習型CPUのデータは量産型ズクにも使われている」

トライブ「しかし、彼のパイロット技能はコンピュータで解析し尽くせるほどチャチな物ではなかったのだ」

トライブ「ちょうど枢軸国内からも『戦争の落とし前』を付けろという声が上がってきた」

トライブ「それでエースパイロットである彼が選ばれた」

トライブ「私は反対した。戦いが終われば兵士は人間に戻らなければいけない。戦争を引きずり生きてはいけないのだ、と」

トライブ「その時の私は19歳だ。青かったよ。この考えが甘いと知るのに60年必要だった」

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