モバP「プロフェッショナル 仕事の流儀」 (75)





時代を作り上げるアイドル達の港になりたい






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418120080

――今、全国にアイドルグループは600組いると言われている。その争いは激しく、アイドル戦国時代と呼ばれるほどである。その中で近年、破竹の勢いで成長しているプロダクションがある。その名はCGプロ。そのプロダクションは、たった一人の男によって動いている。

――モバP 少し気の抜けた28歳の彼がプロデュースするアイドルが、軒並みテレビで活躍し始めている。

――アイドル業界に新しい風を巻き起こす、若きプロデューサー!

――駆け出しの頃、どれだけアピールしても仕事の依頼が来なかった、苦難の連続!

――初のドームライブのプロデュースを託された日々に密着!

――今、アイドル業界で頭角を表している彼を、今夜は徹底取材する!!

プロフェッショナル 仕事の流儀 file:765 

featuring today

女の子は誰でもシンデレラ

職業:アイドルプロデューサー モバP(28)

テーマソング:スガシカオ「Progress」 ナレーター:橋本さとし

モバP「おはようございま~す」

――モバPの朝は早い。朝7時、彼はいつも事務所に誰よりも早く出勤する。

「今日の仕事の内容を教えていただけますか?」

モバP「え~っと…今日の仕事は、トライアドプリムスの送迎をした後、10時に雑誌の編集者と打ち合わせ、11時に藍子と一緒にあいさつ回り、それが終わり次第奏の新曲の打ち合わせ、17時から音楽番組のスタッフと進行の確認、後は3人を迎えに行って深夜まで書類整理ですね」

――モバPは常に複数のアイドルを受け持ち、ギリギリまでスケジュールを詰め込む。

モバP「やっぱり1人でも多くの娘の面倒を見たいですからね。最近はいつもこんな感じになっちゃうんです」ハハハ

――彼は笑いながらそう答えた。

夜11時 CGプロ事務所

ガチャ

「失礼しま~す」

モバP「あ、スタッフさんお疲れ様です。」

「今、何されているのですか?」

モバP「まぁちょっと仕事してました」

――朝から晩までプロデュースの仕事漬け。しかし、その表情はどこか嬉しそうだ。

モバP「ちょっと息抜きにテレビとか見ると、すぐアイドルのことばかり考えちゃうんですよね」

モバP「『あ、今こういうアイドルがこの番組に出てるんだ。今の番組はこういうのがウケるんだ。』と思ってみたりとか」

「1日中そういうことを考えてたりするんですか?」

モバP「…1日中考えてますね、そういえば。そういう事を考えるのが楽しいのかな」

――先日、CGプロに新しいアイドルがやってきた。

モバP「これからアイドルの面接をやるんですけどね、彼女はかなり期待できる娘なんですよ」

トントン

???「し、失礼しますっ」ガチャ

モバP「ああどうぞどうぞ、じゃあそこに座って。え~っと、乙倉悠貴さんでいいのかな?」

悠貴「は、はい」

モバP「じゃあ悠貴ちゃんよろしくね。あ、実は今取材でカメラ回っているけど気にしないで下さい」

悠貴「え、ええっ!?もしかして私、今テレビに映っちゃってるんですか!?」

モバP「ははは。まあこれから悠貴ちゃんもテレビに出ていくんだし、これがテレビデビューだね。じゃあこれから君の売り出し方とかを考える面接みたいなものを始めるけど、あまり緊張しないで楽しくやっていこうか」

悠貴「はいっ」

――新しいアイドルのプロデュース方針を考え始めたモバPだが、彼のプロデュースはある1つの流儀に貫かれている。





コンプレックスこそ、最大の武器




モバP「まず悠貴ちゃんってどんな感じのアイドルを目指してるの?例えば歌で売るとかモデル系のアイドルとか」

悠貴「あ、あの、実は…可愛いアイドルを目指しているんです」

モバP「可愛い系のアイドル?」

悠貴「はい。実は私島村卯月さんに憧れてて、彼女の姿を見て自分もあんな風になれたらなって思ってたんですけど…」

モバP「……」

悠貴「あ、む、無理ですよねっ!私身長が164もあるし、昔から周りにデカいデカいって呼ばれてたし、こんなに大きいんじゃ可愛い系のアイドルなんてできn「いや、それがいいんじゃないか?」

悠貴「…え?」

モバP「君が身長でそんなに悩む必要なんかないよ。むしろ良いことだぞ。背が高いのに可愛い雰囲気を持ったアイドルなんて実はいないんじゃないか?世間じゃ背の高いほうが好きな人だっていっぱいいるし」

悠貴「…」

モバP「例えば諸星きらりってアイドルを知っているか?彼女は身長が186cmもあるんだ。まあ流石に大きすぎるが、それでも彼女は自分の背が高いことを誇りに思ってアイドルをしている」

モバP「悠貴ちゃんもさ、自分の身長が高いことを卑下しなくて良いんだよ。アイドルもみんなどこかしらにコンプレックスを抱えている」

モバP「それにさ、俺は君が可愛いと思って君をスカウトしたんだ。だからもっと自分に自信を持っていいんだよ」

悠貴「…グスン、はいっ!」

モバP「よしっ!じゃあ悠貴ちゃんのプロデュース方針は、『背が高くてキュートなピュアアイドル』って感じだな。これから宜しくね」

悠貴「はいっ!本当にありがとうございますっ!!私、Pさんとならアイドルをやっていけそうです!!」

――このように、彼はアイドルのコンプレックスを肯定することからプロデュースを始めている。

――例えばトライアドプリムス 始めは歌もダンスも未熟で性格にも欠けるものがあった彼女達だった。しかし彼のプロデュースの手によって決められた、欠点を可愛く見せたキャラクターが評判を呼び、瞬く間に注目の的となった。今ではCDはミリオンセラーを達成し、メディアで引っ張りだことなっている。

――緒方智絵里 彼女は最初引っ込み思案で人の前に立つことすら出来なかった気弱な人だったが、彼は敢えてその気弱さを武器にすることで新しいジャンルのアイドルを生み出し、業界をあっと言わせた。

――前川みくは、猫系アイドルになろうとしながら、猫キャラのトレードマークである魚を食べられないという致命的な矛盾を抱えていた。しかし彼は彼女の明るい性格から、『魚が食べられない猫系アイドル』という逆転の発想で売り出し、バラエティで大ヒットした。

――他にも速水奏、高森藍子、三船美優、五十嵐響子 強い個性を持ったアイドルの彼女達は皆彼のプロデュースによって世に送り出されたものだ。

スガシカオじゃなくてkokuaなんだよな~

>>14 あ、すいません間違えました

できるだけリアルにやろうとしているので、もし場面が急に変わったら前の場面とはつながってないと考えてください。
(本物の番組は割とすぐ場面が変わるので)
因みに>>1は初SS

――彼はアイドルのプロデュースについてこう語る。

モバP「やっぱり輝けるアイドルっていうのは、自分の嫌なところをひっくるめて自分を売り出しているんですよね」

モバP「自分を表現する時にありのままの自分を肯定できる人ってどこか惹かれるじゃないですか。だから俺は普段からアイドルにありのままの自分を受け入れられるように呼びかけています」

――アイドルという作られたキャラクターを売りにしていく世界で、本当の自分を前に出してテレビに出るのは非常に難しい。

――その中でどれだけアイドルの望み通りにキャラクターを作り、かつテレビで活躍し、見る人に力を与えることができるか。2つのことを考えながらアイドルの裏を支えていく。それがモバPに求められる仕事だ。

――何人ものアイドルを抱えていく彼は、一体どのように彼女達と接し、動いているのか。

モバP「これから定期的に行われるアイドル全員との打ち合わせがあるんですよ。」

――その様子を覗いてみた。

モバP「あ~お待たせ。じゃあ早速打ち合わせを始めるか。」

アイドル達「「「「は~~~いっ!!」」」」

――この日行われるのは、主に他のアイドルの活躍を認識させ、互いに切磋琢磨させようとする定例会議だ。

モバP「まあそこにあるお菓子をつまみながら話を聞いてくれ。じゃあまず奏のCDデビューについてだが…」

みく「ふ、ふにゃあ~~!!」

モバP「ん、どうしたみく、うるさいぞ」

みく「な、何で今日のお菓子が煮干しなんだにゃあ~~!!」

響子「あ、ダメですよ捨てるなんて。煮干しはカルシウムが豊富だし、ダイエットにも良いんですよ!」

モバP「そうだぞみく。しかもこれ結構な高級品で魚嫌いな人にも食べやすいような味なのに、食べないつもりなのか」

みく「で、でも、みくに魚を食べさせるなんてPちゃん鬼畜だにゃ!」

モバP「好き嫌いするなんて失望しました。みくにゃんのファンやめます」

みく「いや何でだにゃあ~~!!」

ハハハ イイカゲンサカナタベナヨ~

モバP「ははは、ごめんごめん。今日もみくは絶好調だな!」

――このように時折見せる茶目っ気も、プロデュースする秘訣なのかもしれない。

モバP「…とまあ以上が今月CGプロで注目を浴びた成果だ。美優さんと奏は特に頑張ったな」

美優「あ、ありがとうございます」

奏「ふふ、CDデビューするって決まった時は嬉しかったわ」

モバP「うん。本当に凄いぞ、奏。他の人もいずれ曲を作るつもりだから、奏に負けないように頑張ろうな!」

アイドル達「「「「はい!!」」」」

響子「…はいっ!」

モバP「……」

――定例会議の後、モバPはあるアイドルのもとに駆け付けた。

モバP「いや、定例会議で1人元気のない子がいたんです。だからちょっとケアしないといけないかなって」

事務所

響子「……」

ガチャ

モバP「お~い、響子いるか?」

響子「…あ、Pさん。どうしたんですか?」

モバP「いや、さっきの打ち合わせで元気がなさそうだったからさ。どうかしたのか?」

響子「い、いえ。なんともないですよ!ただちょっとボーっとしてただけで」

モバP「…奏のことを気にしていたのか?」

響子「……はい」

モバP「…響子にはすまなかったと思っている。響子はかなり前からこの事務所で頑張ってくれていたのに、なかなかCDデビューさせる機会を掴めないのは俺の責任でもある」

響子「そ、そんなことありません!いつもあんなに頑張ってくれているのに、Pさんが悪いわけないじゃないですか!私の実力が足りないから…」

モバP「…響子はすごいよな。番組のレギュラーも抱えている傍らで家事もしてくれて」

響子「…え?」

モバP「皆には言ってないけどな。誰もいない時にいつも事務所を綺麗にしてくれているのは響子なんだろ?」

響子「Pさん、知ってたんですか?」

モバP「ああ。忙しいってのは言い訳にならないが、最近はあまり事務所で皆と接する機会が無かったからな。礼を言うタイミングを逃しちゃったんだ」

モバP「お腹をすかせた後輩の子に料理を作ってあげた事もあったし、仕事でもいざという時は先輩としてビシッとまとめたりしてくれるし…。こんなに周りに気を遣えている子が頑張っていないなんて言えるわけないよ」

響子「…」

モバP「いつもありがとうな、響子。本当にありがとう。響子は十分頑張っているよ。だからCDデビューはもう少しだけ待ってくれないか?必ずCDデビューの夢は叶えさせる」

響子「…私こそ、Pさんがいつも遅くまで仕事してくれているのに、お礼の言葉なんて1つも言えてませんでした。」

響子「Pさんこそ、本当にありがとうございます。私、Pさんを信じていますから。これからも頑張ります!」

モバP「おう。これからもよろしくな!」

響子「はいっ!!」

――モバPは常に1人1人の心のケアを忘れない。それこそがプロデュースする上で1番大事なことだと考えている。彼はアイドルと接するうえで、心がけていることがある。





上司ではなく、パートナー




モバP「基本的なことなんですけど、部長みたいに上司として接するとどうしても最低限のコミュニケーションしか取れないと思うんですよね」

モバP「彼女達は自分の青春を全部捧げてアイドルをやっているわけですから。時にはぶつかりあうこともあるけど、お互いが心を開きあって、100%以上をぶつけなければやっぱり成長はしないんじゃないかなって感じていますね」

――たまの休日。モバPは自宅から外出せず、本当に何もしない。

――数か月ぶりの休みが取れた彼は、ボーっとすることで頭と体にたまった疲れを癒す。

モバP「テレビを付けちゃうとどうしても仕事モードになっちゃうんですよ。だからテレビやパソコンは一切付けません。」

――常に人と接し、厳しい芸能界の裏方を支える仕事をする彼は、誰とも会わずに頭と体の疲れを徹底的にリフレッシュする。

――この日は、CDデビューを目前に控えた速水奏の新曲の打ち合わせをする為、スタジオにやってきた。

モバP「彼女が目標にしていたCDデビューがやっと実現しましたからね。気合い入れないとって感じです」

――この日会ったのは、最近音楽業界で注目されている人気バンドのギタリストだ。

「こんにちは~」

モバP「あ、初めまして。モバPと申します。今日は宜しくお願い致します」

――彼はCGプロの他のアイドルとは違う曲を作ることで聴く人に刺激を与えようと、敢えて今までとは全く違う人に曲作りを依頼した。

モバP「速水奏という子は大人びていてカッコいい印象を持つ子だけど妖艶さを持ち合わせるアイドルなんです。なので、今回の曲は早いテンポでかつ暗い感じの曲を求めているんですよ」

「そうですね。暗くてカッコいい感じのメロディーだと例えば…」ジャカジャン

♪~

――今回依頼したギタリストは楽曲の提供を初めてする。強い拘りを持って独自の世界観を作り上げる曲に定評のある彼にとって、人に向けた曲つくりは初めての試みだ。だが、モバPはどんな作曲家に対しても、完全に任せ切って曲作りの打ち合わせをすることはない。

モバP「…そうですね。1本ギターを借りて良いですか?」

「え?ああ、どうぞ」

――アイドルの曲作りをする際、彼は自ら楽器を持ち、作曲者と打ち合わせをすることが多い。

モバP「今のすごく良かったです。だけどこの部分をちょっと音下げれば…」ジャカジャン

♪♪~

「…成程、そのほうがより迫力が増しますね。じゃあこのテンポのまま…」♪~

――モバPはアイドルの人生を賭けた新曲の為に、実際に楽器を弾いて相手を説得する。

♪~

モバP「…ああ、このメロディー良いんじゃないですか!」

「ええ!最初は僕の作った方が良いと思っていましたが、こうやって聞いてみるとこの方がしっくりきますね!」

モバP「じゃあこの方向性でいきましょう。」

「そうですね。じゃあ後は細かい所を詰めていきます」

モバP「はい。じゃあ今日はありがとうございました」

――出来上がった曲は、アイドルと作曲者のイメージを壊さないようにしながら、妥協を一切抜いたダークな曲。

――今回作曲を手掛けたギタリストに話を聞いてみた。

「いや、最初は『この人は何ケチをつけているのかな』って感じましたけど、こうやってあの人と話をしていくと、何か今まで見えていなかったような新しい事が出来ると思っちゃいましたね」

「今回の曲は良い感じに仕上がりそうです」ハハハ

――モバPは、アイドルに関して人に全て任せるようなことは基本的にしない。

モバP「その人を信頼していないわけじゃないんですけど、アイドルのイメージが不本意に大きく変わってしまわないように、議論はしちゃいますね。」

モバP「本来なら奏の曲を全て彼に任せなければなりませんが、お互いにぶつかり合って新しい物を見たいという気持ちがあるんです。その為にはまず人を説得出来るくらいの実力が無ければいけませんが…」

モバP「俺自身、まだまだ勉強中です」

――モバPは、アイドルの為にこれからも妥協をせず人と向き合ってゆく。

一応今日はここまで

今後は第2部の「モバPの現在までの生い立ち」と第3部の「ドームライブの裏側」的なものを書こうと思ってます。

後実際に彼女の曲がどうなるかはまだわかってないので、想像で書きました。

因みに>>1は初SS(2回目)

お待たせしました。第2部書きます。

語り:貫地谷しほり

――今年CGプロは、ある快挙を成し遂げた。会社を設立してからわずか5年で、所属アイドルのCDシングルの売り上げがTOP3を独占するというものだった。その快挙を成し遂げた陰には、モバPの存在がある。

――現在、生活の全てをアイドルのプロデュースに捧げるモバP。その生き方は、どれだけ頑張っても成果の出ない、葛藤の日々から生まれた。

――モバPの少年時代は、人より勉強ができるだけのごく普通の少年だった。

モバP「俺が小さい頃なんて、何の特徴も無い地味なやつでしたね。何をやっても中途半端で、器用貧乏な感じだったんです」

――中学時代、ボブ・ディランや忌野清志郎に刺激され、ギターを始めた。持ち前の器用さでギターの腕はどんどん上達していった。

――その後、有名大学に進学。音楽サークルに入り、四六時中音楽漬けの日々。卒業後は、音楽を楽しむ傍らでどこかの商社に入れれば良いと何となく考えていた。

――しかし、彼に就職氷河期という波が押し寄せる。どこの企業も採用してくれず、ただ何となく生きてきた彼にとって、有名大学の肩書は何の意味も持たなかった。

モバP「あの時、初めて自分の中身が無いと痛感しましたね。どこの会社で面接をしても、ただギターしかしてこなかった俺はそこで躓いちゃって結局不採用でした」

モバP「今まで何十社と受けましたが、全部ダメでした。『社会からはもう必要とされていないな』という風に感じましたね」

――途方に空れていたある日、音楽関係の仕事をしたいと何となく面接を受けた会社で、運命的な出会いをする。現在のCGプロの社長、高木順二郎さんだ。今までに数々の会社を有数企業にした、凄腕の経営者。

――彼は、モバPを一目見るなりこう告げた。『君にティンときた。もしよければ、僕の会社で働いてくれないか』

モバP「そりゃああの時は驚きしかありませんでしたよ。一目見るなり採用って言っちゃったんですから。他に入る所もありませんでしたし、ここに入ろうと思いましたね」

――CGプロに入社した時、社員はたったの3人だけ。アイドルも殆どいなかった。そして入社初日、モバPは突然社長にある命令を下された。

――『これからアイドルをスカウトしてこい。この子ならトップアイドルになれると思うティンとくるような逸材を探すんだ』

――まだ仕事もよくわからないモバPに、スカウトをするのは到底無理だと思った。あてもなく新宿や渋谷を歩き回っても、周りの女子高生は皆同じにしか見えず、何も得られない日々が続いた。

――いつもと同じようにスカウトをしに出かけたある日、原宿で1人の女子高生と出会う。トライアドプリムスのリーダーでCGプロのエース、渋谷凛だ。

モバP「凛を見た時、社長の言ってた『ティンとくる』の意味が何となく分かったような気がして、この子なら絶対トップアイドルになれると思いました」

モバP「ひょっとしたらとんでもない事を成し遂げられんじゃないかって、何か一目惚れみたいな感覚でしたね」

――彼は早速彼女に話しかけた。しかし最初はにべもない態度で、名刺を渡すだけで終わってしまった。チャンスを逃してしまったと後悔していた数週間後、CGプロに1本の電話がかかる。彼女がアイドルをやると言ってくれたのだ。

――その後、モバPは2人の女子高生をスカウトする。北条加蓮と神谷奈緒だ。そして社長の提案で、3人グループの「トライアドプリムス」を結成。モバPは、この3人ならトップアイドルも夢じゃないと思った。

――しかし、現実は甘くなかった。どれだけ魅力をアピールしても、彼女達に仕事をさせてくれる人はいない。1か月の仕事は、グラビア撮影1本しか無かった事もあった。初めて路上でライブをした時も、お客さんの数はたったの5人。彼女達に悪い思いをさせたと苦悩した。

モバP「どれだけ彼女達の良さを伝えても全然仕事をくれなくて、やっぱ焦りましたね。このままだと3人を不幸にさせてしまうっていう焦りとプレッシャーがすごくありました」

――彼女達に仕事を与えようと駆け回っては頭を下げ、仕事に没頭する日々。二徹三徹も珍しくなかった。上司には嫌味を言われ、栄養ドリンクを買わされては飲んで疲労を誤魔化す毎日が続いた。


――ある日、彼は仕事中に意識を失い、病院へ搬送された。原因は、過労による重度の胃潰瘍。このまま死ぬのではないかという思いが頭をよぎった。

――3人がお見舞いに来た時、彼は謝った。『3人が大変な思いをしているのにこんな不甲斐ない姿を見せてしまって申し訳ない』と。その時、彼女達は意外な反応を示した。

モバP「申し訳ないと謝った時、3人に顔を引っ叩かれたんですよ。その後涙をこぼしてこう言ってくれたんです。『体を壊してまで頑張って、そんな事言わないで。あなたの無理した顔は見たくない』って」

――病院で4人は泣き、その後今まであまりしなかった世間話をした。その時、今まで見たことの無いような彼女達の笑っている姿や照れている姿を見て、ある1つの事を感じた。

モバP「その時思ったんです。普段のキャラクターとは違うこんな顔があったんだって。クールなキャラだと思っていた凛が照れ笑いしてたり、いつもムスッとしていた奈緒が恥ずかしがりながら慌てふためいてるのが凄い新鮮でした」

――病院での彼女達の自然に振る舞っている姿を見て、モバPは気付いた。アイドルをプロデュースする上で、1番大切な事に。





何気ない魅力が、アイドルを輝かせる




モバP「彼女達の心から笑っている姿を見て、『ああ、俺って全然彼女達の事知らなかったんだな』って思いましたね。ああいう姿が彼女達の魅力なんだろうなって。やっぱりアイドルに対する理解とか、理解しようとする情熱が無いと何の意味も無いなって。そういった事を3人から教わったような感じがしました」

モバP「あの時、彼女達と約束したんです。もう倒れるほどの無理はしないって事と、絶対にトップアイドルにするって事を」

――それからモバPの、プロデューサーとしての力は急速に成長した。今までのような作られたキャラクターを売りにするのではなく、彼女達の本当の魅力を情熱をかけてアピールした。

――するとトライアドプリムスは瞬く間にテレビで活躍しはじめ、発売したCDはいきなり50万枚売れるという快挙を成し遂げた。

――あれから4年。トライアドプリムスは念願のミリオンセラーを達成し、日本で最も人気のアイドルであると認知されるようになってきている。当時の様子を、そんな3人に聞いてみた。

奈緒「最初はせっかくの仕事で失敗ばかりして本当に辛かったけど、私が照れ屋で全然前に出れなかった時に『それが奈緒の魅力だからな』って言ってくれたんだ。その時、この人についてきて本当に良かったと思ってるよ。あの病院の出来事以来、レッスンに対するモチベーションも変わった気がするな」

加蓮「いつまでも仕事が無くてアイドルを辞めようかってヤケになってたのに、Pさんは『絶対に辞めないでほしい。途中で辞めたら絶対に後悔する』って、言ってくれたんです。今までやる気の無かった私をこんなに成長させてくれたのは彼が心から私達の事を思ってくれたからなんだなって心の底から思っているの」

凛「どれだけ頑張っても結果が出ないのに、あの人は決して見捨てないで私達が魅力的なんだって言ってくれました。普段私は素っ気ない態度を取っていたのに、『凛の魅力は実は可愛いことなんだ。普段はカッコいいのに時折見せてくれる笑顔が一番良い所なんだよ』って言ってくれて、『ああ、この人は私の事を知ろうとしてくれてる』って思って。あの時は本当に嬉しかったです」

凛「私のプロデューサーはあの人だけです。これからも、あの人と一緒に頑張っていこうと思っています」

――3人と結ばれている深い絆と、ありったけの情熱で立ち向かう毎日が続いている。

第2部おしまい。SSはやっぱムズいわ…
あ、皆の年齢は悠貴ちゃん以外+4歳だと考えてください

お待たせしました。第3部書きます。
野村萬斎かっこよかった。

語り:橋本さとし

――6月、CGプロにとって最大の仕事のオファーがやってきた。東京ドームでのワンマンライブだ。その発表は、ライブ中に3人に突然告げられた。

『次のライブ会場は…………東京ドームだぁぁぁぁぁ!!!!』

奈緒「…えええええええ!?」

加蓮「…嘘おおおおおお!?」

凛「…やったあああああ!!!!」

ウオオオオオオオオオオ  マジカアアアアアアアアア  スゲエエエエエエエエエエ

――日本で最大のライブ会場である東京ドーム。そのイベントを成功させようとする、モバPの闘いが始まろうとしていた。

――ライブ終了後、トライアドプリムスの3人は、早速彼のもとへ駆け付けた。

奈緒「ぴ、Pさん!!私達が東京ドームでライブできるって本当なのか!?」

モバP「ああ!!今まで隠してきたが、本当なんだ!!」

加蓮「…私達、東京ドームでライブできるんだね」

凛「…うん、ここまでくるのに短いようで長かったな」

モバP「ああ、ここまでよく頑張ってくれたよ。本当に凄いな!」

凛「それで、そのライブっていつなの?」

モバP「12月24日のクリスマスイブだ。CGプロの皆も出るビッグイベントだぞ」

モバP「このライブが成功すれば、3人はトップアイドルだって胸を張って言えるぞ!頑張ろうな!」

凛奈緒加蓮「「「はい!!!」」」

――喜びを分かち合う裏で、東京ドームでのライブという会社を左右する一大プロジェクトの命運がモバPにかかっているというプレッシャーが、彼を襲った。

モバP「今まで彼女達が築き上げた努力が東京ドームっていう成果だと思ってますからね。ここで失敗は絶対に出来ませんよ」

――最初にモバPは、東京ドームの大きさを再認識する為に下見にやってきた。

モバP「…でかいですね」

スタッフ「ええ、建築面積は約47000㎡で観客が5万5000人入ります。キャパとしては間違いなく日本最大の場所ですよ」

――数々の大物アーティストを輝かせた日本一の晴れ舞台。今までとは段違いの広さを誇る東京ドームを前に、モバPは、今までのようなライブではダメだという思いと焦りが頭に浮かんだ。

モバP「これは相当覚悟を持って仕事をしなきゃいけませんね…」

――事務所に戻ると、モバPは早速ライブの準備に取り掛かった。まず、このライブを主催するディレクターと、ライブの進行の打ち合わせを行った。

モバP「やっぱり彼女達の最大の晴れ舞台ですからね。音響業者さんやステージさんは今までと同じ方達でいきましょう」

ディレクター「そうですね。それでセトリや演出はどうしますか?」

モバP「やっぱりメジャー曲は一番盛り上げる為に、3人をここに設定しましょう。後はファンの人達に、やって欲しいマイナーな曲を応募したり…」

――モバP達は、アイドル達の為に演出を考え続けた。来る日も、来る日も、必死に案を粘り続けた。

――7月上旬。この日、企画を担当するディレクターや演出家、現場監督の人達全員での会議が行われた。

モバP「今回のライブを演出する上で、大まかにこんな表現をしたいと思います」

――モバPが提案した演出は、いずれも誰もがしたことの無いような、未知の領域。会議室にいる全員が、彼の提案に動揺の声を隠せなかった。

現場監督「うわっ、凄いですね…。こんな凄いの見たこと無いな」

演出家「う~ん。確かにかなり面白いけど、こんな事本当にできるのかな~…?」

ディレクター「予算の都合もありますしね。果たしてどの位実現できるのだろうか…」

現場監督「今までやった事の無いような部分が多いですし、分かりませんね…」

現場監督「とりあえずやってみます。というかやってみますしか言えないですねもう」ハハハ

――否定的な意見もあった中、新しい事をしてみたいというモバPの熱い思いに、やってみたいという答えが返ってきた。彼等はこう語る。

現場監督「まぁ何て無茶な注文をするもんだと思っちゃいましたけどね。あの今までに無い演出を見て僕等もやってみたいって気持ちと覚悟が湧きましたよ」

演出家「以前彼と仕事をした時もとんでもない事をやりましたけど…今回は規模がデカいだけに前以上に凄い事をしでかすのかなって感じですね」

ディレクター「やっぱり彼はアイドル達の事を深く思ってあんな事をしようとしてるからね。アイドル達への思いは伝わったが、どうなるんだろう…」

――モバPの提示した前例の無い演出を前に、期待と不安が入り混じった声が飛び交った。

――9月半ば、モバPのもとに1本の厳しい連絡が入った。提案した演出のうち、半分は技術的に不安がある等の理由で実現はできないかもしれないというものだった。

モバP「うわマジか。こんなにダメな部分があるのかよ…」

――残り3か月。刻一刻と本番が迫っていた。しかし、彼等を信じてモバPは、ギリギリまで待つという選択肢を選んだ。

モバP「これ何とかならないかね。何となくできそうな気がするだけに期待したいんだけど無理なのかな…?」

――モバP自身、この要求が極めてハードルが高いことは、十分に分かっている。それでも、敢えて拘るのには理由があった。





120%の力を出し合って初めて、100%の結果が生まれる




モバP「勿論今まで行われたドームライブの演出も凄いし、それらを参考にするべきである事も分かってはいるんですが、それを軸に『この位ならできるでしょ』っていうのは何か違う気がするんですよね」

モバP「もし短期的に利益を上げたいならば一番作りやすいやつを1つや2つ作ってはいどうぞ、ってやれば良いし、利益も最大限まで突き詰められます。まあそれはそれで悪い事では無いんですけどね」

モバP「自分の仕事はあくまで提案するだけで実際に作るわけじゃないから、その人達の苦労を知らなきゃいけないし、エラそうに何言ってんだとツッコまれちゃいそうですけど…」

モバP「何かできる範囲で革新的な事をして、10年後くらいに『あれをキッカケに何かが変わったよね』とか『あの時妥協せずにここまでやったから今の自分があるな』とか」

モバP「そういう影響を持ちうる仕事をしたいんです」

――そして演出及び構成の最終段階に差し掛かった時、現場の責任者との最後の打ち合わせをした。果たして何種類の演出が実現できたか。

ボワッ ドオオオン

モバP「うわっ!」

現場監督「どうですかプロデューサーさん。やってみせましたよ」

モバP「え、本当に実現したんですか!?」

――そこには、実現不可能だろうといわれていた幻想的な炎の演出が現実のものとなっていた。

――限られた予算内でできた、現代の最新テクノロジーと技術の粋を凝らした演出の数々

現場監督「この現場の人達全員がこの演出を面白いと言ってくれてね。少し無理しちゃいましたけど、何とかやって見せましたよ」

――さらに現場監督は、モバPの予想を超えた演出技術を披露した。

モバP「いや本当に感動しました!ありがとうございます!」

現場監督「ははは、礼なら実際に作った皆に言ってください。皆無理だろ~って文句言いながらやってくれましたし」

現場監督「それに、あなたの思いと彼女達の熱意が皆に伝わりましたからね。こうなったらコッチもやってやろうじゃねえかって躍起になりましたよ」

――思いを受け取ったモバP。彼等の思いを胸に、ライブを成功させようと思った。

――アイドル全員の最後の打ち合わせの時、モバPはアイドル全員に、彼等の情熱を記録したビデオを見せた。

モバP「…とまあこれが現場の様子だ。相当凄いだろ」

加蓮「…凄い。こんな演出が本当にできるんだ」

奈緒「うへ~。現場の人達ってこんなに大変なんだな」

智絵里「…私達、こんな大きい場所で歌えるのかな」

みく「大丈夫だにゃ!今までこんなに頑張ったんだし、イケるに決まってるにゃ!」

藍子「…現場の人達がこんなに頑張ってくれたんですし、私達も現場の人達の分まで頑張らなきゃね」

凛「うん。この人達の思い無駄にしちゃいけないよね」

モバP「ああ。会場を作ってくれた人、スタッフさん全員に感謝してライブをしなきゃいけない。だから関わった人全てに感謝の気持ちを表してライブをするんだぞ」

――彼等の思いを胸に、CGプロはライブに向けて1つとなった。

――そしてむかえた12月24日。観客は超満員。歓声の中東京ドームにいたのは、彼等の情熱と魂をこめた演出によって輝く、アイドル達の姿があった。

ワアアアアアアア

奈緒『こんな場所でライブが出来て本当に嬉しいぞ!!今まで支えてくれた皆、このライブを作ってくれた皆、そしてココに来てくれた皆、本当にありがとな!!!』

加蓮『数年前まで只の中学生だった私が今ここに立っているのは、諦めないで頑張ってきたからだと思う。夢って諦めなければ叶えられるんだよ!!!』

凛『私達CGプロ及びトライアドプリムスは、まだまだ止まりません!!これからも宜しくお願いします!!!』

ワアアアアアアアアアアアア

――ライブは大成功。モバPは、胸をなでおろした。

モバP「…良かった。こんな素晴らしいライブが出来て本当に良かった…」グスッ

――6か月に及ぶ彼の闘いは、鳴り止まない歓声と共に幕を閉じた。

――ライブ終了後、モバPはアイドル達に控室に集まるように呼びかけていた。

モバP「ライブお疲れ様。皆本当に輝いてたよ…」

凛「うん。私もまだ夢みたいに思ってるんだ…」

奈緒「で、わざわざこんな所に呼び出して何の用だ?」

モバP「ああ、実は皆にクリスマスプレゼントを用意したんだ」

響子「ええっ!?いつの間にそんなの用意してたんですか!?」

モバP「ああ。まあ取りあえず受け取ってくれ」

ガサガサ ウワー カワイー ナニコレー

――モバPは、ライブを終えたアイドル達の為に、サプライズでプレゼントを用意していたのだ。

モバP「今日こうやって東京ドームでライブをやったけど…皆が東京ドームで輝いている姿を見て、生きてて良かったって心から思っている」

モバP「だからそのプレゼントはそんな俺からのほんの気持ちだ」

ペコ

モバP「俺を東京ドームに連れてきてくれて本当にありがとう」

モバP「今まで俺みたいな若輩者を信じてついてきてくれて本当にありがとう」

モバP「今まで数えきれないくらい皆に迷惑をかけたのに支えてくれて本当にありがとう」

モバP「これからも、俺と一緒にアイドル活動を続けて下さい」

凛「そんな…私達こそPさんに何も返せて無いのにそんな事言われたら…」グスッ

加蓮「あ…グスッごめん、あたしもう限界かも」グスッヒック

奈緒「あ、あたしだって…」ウエーン

響子「ご、ごめんなさい。化粧が崩れちゃった…」ポロポロ

智絵里「わ、私、Pさんがプロデューサーで本当に良かったです…」グスッ

美優「わ、私もです…。本当にあなたがプロデューサーで良かった…」

悠貴「Pさん。私達も、あなたには本当に感謝しているんです。だから答えは決まっていますよ!」

藍子「Pさん、これからもあなたとアイドルを続けるに決まってるじゃないですか!!」

奏「ふふっ。ここまで来たら頂点の先まで一緒に行きましょう」

――彼等の間の絆が深まった瞬間だった。

――最後に、モバPにプロフェッショナルとは何か聞いてみた。

『プロフェッショナルとは?』

モバP「ん~…。常に妥協しないで、1つ1つの仕事に命を懸ける人ですかね。それでいて、周りの人に気を遣える人がプロなんだと思います」

――アイドルと二人三脚で歩み続ける彼の人生は、これからも続いてゆく。



プロフェッショナル 仕事の流儀 終

これにて終わり。日頃からモバPがあまりにも酷い扱いを受けていたのでこんなの書いてしまいました。
初SSだけど、変な所とか設定ミスとかあったら許してください。
第2部の改行の仕方とか区切り方をミスったりしちゃったのがちょっと後悔している。直せるものなら直したい…

では、お休みなさい

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