提督「朧駕籠」 (51)


~揺れる資源輸送用トラックの中~


提督 「先ほども言いましたが敬語は結構ですよ、私の方が年下じゃないですか」

陸軍兵站部資源輸送員(以下兵站) 「こりゃ失敬、話しやすい人で助かるわ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418052303


兵站の仕事は鎮守府への資源輸送だ。

男は鎮守府を支え、国を支えている仕事に誇りを持っていた。

積荷は戦闘用の資材が主で、他の衣料・食品・医療・日用品などは別に担当がいる。

今日も弾薬・燃料・ボーキ・鉄の入ったドラム缶が後ろの荷台に所狭しと並べられている。

そんな積荷に、今回は生ものが一つ載っていた。


助手席の提督を名乗る若い男は何時の間にかいた。

保安上の問題で関係者以外の同乗は基本厳禁。

ただ、端正な顔は不自然なほど白い肌色で何か庇護欲を煽ったし、

何より運転中の暇つぶしに許可をした。

男が憧れる提督職に就き働く美青年を助けるということに

何か抗えないような優越感を覚えていたことも間違いない。

今日の配送先鎮守府どこかの提督らしい。


提督 「こちらも同じ思いですよ、こんなに会話が盛り上がるのは久しぶりです」

兵站 「それはまー、トラック運転手なんて孤独を好む変人が多いからね~」

提督 「余りに皆さん話さないので私が見えてないのかって思ってしまいますよ」

兵站 「ははは、それは言い過ぎだよ。運転に集中してるだけ。大変なのよ」

兵站 「走るのは指定危険地域で道路は整備されないもんでね」

兵站 「風で瓦礫とかが道路に転がったままだったり、道が割れてたり」

兵站 「ちょっとしたものでも、速度を出してるとパンクしたり故障しやすいのよ」

兵站 「同じ道なのに毎日スリリングよ」

提督 「そうなんですか、いつもお世話になっているのに知らないことが多いもんですね」

提督 「これからは資材一つにも感謝の心を忘れられませんね」


兵站 「いやいや、危険たっても前線で戦うあんた達には比べられんよ」

兵站 「しかし、危険とは言え女性に囲まれて華やかでいいねー、うちは女っ気なくて」

提督 「いえいえ、そうでもないですよ。何事もほどほどがいいという話ですよ」

提督 「職場での男女の力関係は、人数に比例するんですよ」

提督 「鎮守府も例に漏れずで気苦労が絶えませんよ」

兵站 「じゃ、尻にしかれっぱなし?」

提督 「基本はそうなりますね」

兵站 「しかれるお尻によるけど、悪くなさそうなもんだがな」

提督 「一応軍組織ですからねー、部下の艦むすの尻にしかれるようじゃ問題ですよ」

兵站 「ハートマン軍曹みたいにできないの?」

提督 「残念ながらできません」

提督 「人権団体だの外野がうるさいですし、艦むすに適合できる人材は貴重ですから」

兵站 「はー、尻にはしかれるけど、叱れないとはね」

提督 「ふふ、そういうこともあって大成する提督はですね」

提督 「戦略的に優れている頭の切れる人より、器の大きいどっしりした人が多いですね」

兵站 「へー・・・資材の受け渡しは艦むすがやってるからさ」

兵站 「提督とは普段会わないからわからないけど、そういうもんなんだな~」


提督 「いかつい顔のハートマン軍曹みたいな人間をご所望でしたか」

兵站 「そうだよ。自分の担当鎮守府にこんなイケメンがいるとは到底思わなかったよ」

兵站 「嫉妬しちゃうね。下世話なこと言っちゃうけど、相当食ってるんじゃないの?」

提督 「食ってる・・・ですか」

提督 「そうでもないですよ、概して提督は恋愛沙汰避ける人多いですよ」

提督 「付き合うと贔屓してるとか他の娘が荒れるし」

提督 「分かれたら気まずいですよ、異動殆どないですからね」

兵站 「そこは職場内恋愛と同じ問題が出るんだな、バイトしてた時に同じことあったよ」


提督 「ですけどね。娯楽が少ないからそういうことが好きな娘が多いのも事実ですよ」

提督 「鎮守府っては、戦場と女子高が混ざったような環境ですからね」

兵站 「戦場と言えばセックス・ドラッグ・ギャンブルって感じなのはわかるが、女子高ってのは?」

提督 「私も女子高のようだというのは女性提督から聞いたことで口で説明し難いんですが」

提督 「下着で歩き回ったりする俗に言うずぼら化だったり、いじめが多かったり」

提督 「恋に恋するのが多いのも・・・同性愛とか含めて・・・」

提督 「後は、数少ない身近な異性である先生もとい提督に憧れたり惹かれたりとかですかねー」

兵站 「あー、なんとなく想像が付く。いじめ以外は男子校と少し似てるかな」

提督 「そうです、そんな感じです」

兵站 「しかし、しつこいけどあんた顔もあるし・・・もてそうなもんだが」


提督 「実はある艦むすと既に婚約してまして・・・」

兵站 「あ、そういうこと」

提督 「はい・・・」

兵站 「・・・」

兵站 「やることやってんだな」

提督 「まあ・・・」

兵站 「実はおれもある担当鎮守府の資材受け入れしてる艦むすにアタックしててな」

提督 「ほう、艦はどちらですか。参考になる意見が出せるかもしれませんよ」

兵站 「長門だよ」

提督 「長門ですかー、それはそれはいい趣味です」

兵站 「ありがとよ」

提督 「ふふ、私が婚約したのも長門です」

兵站 「気が合うな、俺た・・・ってか同じ長門じゃないだろうな」

提督 「それは確実に違いますからご安心ください」

兵站 「ふーん」


提督 「そういえば、ご存知ですか」

提督 「戦艦クラス以上の退役後保障は、夫婦二人なら働かなくてもいいくらい出ますよ」

兵站 「真面目な顔して案外あんたも汚いこと考えてるな」

提督 「いえいえ、有名なお話でしょう」

兵站 「おれも知ってたけどよ」

提督 「実は退役後保障の大きそうな娘のリストが裏じゃ高値で取引されてるって知ってます?」

兵站 「えー何それ」

提督 「私も何回か売らないかって声かけられてますよ」

兵站 「売ってねーだろーなあ」

提督 「ふふ、どうでしょうね」

兵站 「恐いこと言うなー全く」

提督 「まぁ、私はしませんけど売る人にも色々理由があって・・・」


提督 「艦むすの人員が足りなくて」

提督 「各鎮守府で配備人数に150人の制限があるのは有名ですけど」

提督 「仕事が少ない今、提督は就職希望者が溢れて倍率凄いですよね」

兵站 「あー、そうらしいな」

兵站 「かく言うおれも目指してたことあったからな」

兵站 「つい最近知ったことだけど、お袋によると親父も目指したことあったらしいわ」ハハハ

提督 「お陰様で辞める人間がいても代えがきくものだから」

提督 「給料も低いし、待遇は悪い、少し鎮守府で問題起こせば首」

兵站 「あらー大変だね」

提督 「こうなると、小銭稼ぎしたくなる気持ちも起こるというものです」

兵站 「大変なんだな~」

兵站 「関係あるかわからんけど、艦むすの個人情報保護で法律できてたな」

提督 「そうでしたっけ」

兵站 「ちまたで話題になってたけどな、おれでも知ってるくらいだし」


提督 「記憶にないな。あ、すいません、話が脱線しましたね」

提督 「長門は強いんですが、燃費もあって鎮守府にい勝ちですよね」

兵站 「そうそう。そう言ってた」

提督 「私も何かと苦労かけてますよ、駆逐艦の若い子とか任せたり」

兵站 「その娘も戦闘より小さい子扱うのがうまくなったって言ってたわ」

兵站 「それも男的にはポイント高いよな~」

提督 「艦むす経験のある女性は競争率高いですよ」

提督 「集団生活してるから炊事・洗濯・掃除等の家事全般ができる」

提督 「人付き合いもうまければ、子供を扱うのもうまい。退役後保障で家計も助けてくれる」

提督 「人気で当然ですよね」

兵站 「そうか、聞いてなかったけど料理とかも美味いのか・・・」

提督 「できると美味いは別ですけどね」


兵站 「思い立ったが吉日だな、急だけど今日いたら軽いデートにでも誘おう!」

提督 「今日は無理だと思いますよ」

兵站 「ん、もしかして長門から聞いてるの?知り合い?」

提督 「ふ、どうでしょう」

兵站 「まーいいけど、代わりにその長門さんとどう付き合ったとか教えろよ」

提督 「構いませんよ」


提督 「私は深海棲艦が最初に侵攻を開始した災厄の地にいました」

兵站 (?)

提督 「阿鼻叫喚の中を何とか逃げ、内地へ内地へと更に逃げる途中に少女がいたんです」

提督 「少女は放心して座り込んでいました」

提督 「自暴自棄になった人間が女性や裕福そうな人を襲う場面も見ていたました」

提督 「何より私は内地に実家があり助かる見込みもあったので軽い気持ちで助けたんです」

提督 「助けると言っても一緒に逃げて実家で一緒に住んでいたというだけなんですけどね」

提督 「私の両親も優しく、少女もよく手伝うし愛想も良くて器量もいい」

提督 「養子としてすぐその少女は家族に馴染みました」

提督 「その時になってやっと聞けたんですが」

提督 「少女は災厄で家族を含め全てを失ったとのことでした」

提督 「家族は少女の目の前で亡くなったそうです」

提督 「その話を聞くと健気に頑張ってる少女が益々可愛く見えてくる」

提督 「まあ、家族で蝶よ花よと可愛がりました」

提督 「私も妹ができたようなもんで一人っ子だったのもあって可愛がりました」

提督 「それに対し、少女の私に寄せる感情が・・・」

提督 「感謝だけでないと気付けなかったのは今でも後悔しています」


提督 「ここで仕事の話になりますが」

提督 「私は最初実家の農業を手伝ってました」

提督 「海外からの輸入もままならなかった時期で凄く儲かりました」

提督 「ただ半年くらいで家がなくなったりした親族が私の実家に集まりまして」

提督 「流石にそうなると生活が苦しくなる」

提督 「たまたまその時に私は友人のつてで提督になることを勧められまして」

提督 「農業なら親族に任せられるということで提督になった訳です」


提督 「当時の鎮守府はまだ運用が始まったばかりでね」

提督 「戦略に定石もなければ、wiki社の教本もすかすかでね。日々手探りでした」

提督 「提督同士で相談するんですけどね」

提督 「データも蓄積されてないもんだから殆ど胡散臭くて宗教戦争かって感じでしたよ」

提督 「そんな中で艦むす達を省みる余裕が私にありませんでした」

提督 「当然鎮守府内はばらばらで戦果を上げられるわけもなく」

提督 「その鬱憤が鎮守府を緊張させ、私と艦むす、艦むす同士で問題ばかり起きていました」

提督 「特に酷かったのが艦種ごとのいがみ合いですよ」

提督 「戦艦は燃費が悪い、重巡は劣化戦艦で全く使えない」

提督 「空母は制空圏確保しても意味ないから、他艦種の対空兵装強化すればいらない」

提督 「艦種同士言いたい放題で、いつ武力抗争になるか気が気じゃありませんでした」

提督 「そこに着任してきたのが長門でした」


提督 「長門は性能が高いとは言え燃費の悪さもあって重要作戦以外は殆ど鎮守府にいる」

提督 「その時間を使って他の艦むす達と信頼関係を築いていたようです」

提督 「少しして、長門が私に自身の考えた編成や作戦を具申してきました」

提督 「私に言わせれば効率が悪いものに見えました」

提督 「ただ、私も鎮守府の停滞を解決できず途方にくれていたんです」

提督 「何か変わればそれでいいくらいに、期待せず採用しました」

提督 「これが成功するんですね~」

提督 「理由を聞いてみると、艦むすの人間関係や個々の性格を考慮しただけだと言う」

提督 「感心した私は以後の編成や作戦を長門と協議するようにします」

提督 「そこからはそれまでが信じられないような躍進が続きました」

提督 「艦むす達の連携が円滑になり戦果が上ったことは言うまでもありませんが」

提督 「長門のお陰で私も視野が広がりまして、作戦中の指示も的確に行えるようになりました」

提督 「それまでは効率のみを考え無理なことを言っていたんです、今でも反省しています」

提督 「気付いたら幾度かの大規模作戦で戦功を上げ表彰も受け」

提督 「中堅鎮守府としてコンスタントに戦果を上げられるようになりました」

提督 「長門はその間も裏で私と艦むすが信頼し合えるよう動き」

提督 「艦むす同士の諍いがあれば率先して仲裁していたようです」

提督 「長門は誰からも好かれました、私も例外ではありません」

提督 「この時はあくまでライクであり男女の仲という訳ではありませんけどね」

提督 「そんなこんなで鎮守府が落ち着いた頃にまたあの少女に会うこととなりました」


提督 「少女といいますか、少し前は子供だったのに少し見ない間に女っぽくなってました」

提督 「艦むすになって赴任してきたんですよ、駆逐艦の朧になってました」

提督 「実家に聞いたら艦むすを目指してるのを私が知ってると思ってたと言うんです」

提督 「実家で少女は私にべったりでしたから誤解も仕方ないんですけどね」

提督 「実家からは、心細いと思うから優しくしてやって欲しいとか」

提督 「養子のように育てたけど法律上の手続き踏んでないから結婚できると言い出す始末」

提督 「朧はしっかり私のいない間に実家を味方に付けていた訳です」

提督 「私は寝耳に水でかなり焦りましたよ」

提督 「朧は狡猾さで言えば大人の女性のようなものを既に持っていたようです」

提督 「実家を味方に付け、鎮守府でも私との関係や助けられたことを少しずつ広めてきました」

提督 「いつの時代の女性も運命とかの言葉に弱いんでしょうね」

提督 「私と朧は運命の出会いだ恋だと騒ぎ立てられるようになりました」

提督 「それに対し朧も満更でない態度で、更に鎮守府の艦むす達を沸かせました」

提督 「水攻めされた備中高松城もかくやというところですね」

提督 「この頃から長門が私を避けるようになり、ぼんやりとした寂しさを感じたものです」


提督 「代わりに朧が近くにいるようになりました」

提督 「朧とはね、さっきも言いましたけど実家にいる時は殆ど一緒にいました」

提督 「実は風呂も寝るときもいつでも一緒でした」

提督 「それを鎮守府でもやろうとしてくる」

提督 「実家でない公の場、且つ朧ももう子供でないので、止める様に言いました」

提督 「結果としてエスカレートしただけでした」

提督 「一緒にいる私の傍らで誘惑するようなことも始めました」

提督 「知っていますか、水攻めされて一番辛いことは渇きなんだそうです」

提督 「井戸などの水源に死体や廃棄物や排泄物が入り混じって飲めなくなる」

提督 「それなのに、周囲は水が充ち満ちている」

提督 「私にとって朧は可愛い妹で先ほど言った汚水と全くの正反対ですけどね」

提督 「いずれにしろ、そういう目で見ることができなくなっていました」

提督 「だからこそ、渇いた私は・・・私は資源倉庫であろうことか長門を襲いました」


提督 「その日、朧をどうするかと考えるのに一人になりたくて夕方資源倉庫に向かいました」

提督 「半地下にある資源倉庫は厚い隔壁に囲まれ温湿度調整がされており」

提督 「どこか現実から隔離された空間となっていました」

提督 「誰もいないかと思って夕方に向かったのにまだ長門がいました」

提督 「長門は入って来た私を一瞥すると在庫確認と思われる作業を再開しました」

提督 「私は独りになりたかったものの、心労でそれ以上動く気力もありませんでした」

提督 「それより長門と久しぶりに二人になれたことに安堵した気持ちが大きかったです」

提督 「手ごろな場所に腰掛けて、忙しそうに動き回る長門にどうすればいいと思うと聞きました」

提督 「長門は吐き捨てるように朧と結ばれれば全て解決するだろと言いました」

提督 「その肩は震えていて、こちらに向けようとしない顔から涙のようなものがこぼれました」

提督 「大丈夫かと言いながら私が近付きますと、長門は察しろ馬鹿と怒鳴りました」

提督 「私が構わずに近付くと」

提督 「気配に気付いた長門が私を制すように片手を向けてきたので」

提督 「その片手を取り正面から抱きしめ、そこからは殆ど無言で・・・」

提督 「長門が艦むすであることを加味しても乱暴すぎる位に激しくお互いを貪り合いました」

提督 「長門は何度か気をやっていましたし、私も視界が霞んで意識が飛びかけましたよ」


提督 「私も男ですので、朧のような美少女が迫ってくれば欲情します」

提督 「行動に出せない分たまりにたまった朧への情欲を・・・長門にぶつけた部分もあります」

提督 「我ながら不純だと思いましたよ、背徳感も少なからずありました」

提督 「けど、長門にぶつけたもので一番大きかったのは愛でした」

提督 「思えば、私は長門へ感謝だけでない感情を以前から持っていたのでしょう」

提督 「朧の誘惑を最終的に耐え得た堰は兄妹という貞操感覚より」

提督 「実は自身さえ意識していない長門への恋慕があったように思います」

提督 「私の貞操感覚が真に優れているなら、長門にも手を出しませんからね」

提督 「そんなことに気付いたのは行為が終わった後ですけどね」

提督 「私は鎮守府が上手く行ってなかった頃から」

提督 「自身を客観的に見ることができないというか、鈍感だったんでしょうね」

提督 「どうしようもなく」


提督 「私は終った後、長門に愛している結婚しようと言いました」

提督 「都合がいいもんですよね、襲っておいて」

提督 「長門は上気した顔を一層赤くさせてこの確信犯といいながら胸に飛び込んで来ました」

提督 「抱き合ったまま、色々話しました」

提督 「これまでのこと何時気になりだして好きになったかどこが好きか...etcetc」

提督 「他愛もない話が全て面白可笑しくて、幸せってこういうことなんだなと」


提督 「この翌日の朝、長門が文字通り消えました」


提督 「それだけで強力な軍事技術である艦むすの運用は諸外国が注目するところで」

提督 「誘拐なんてのはない話ではありませんでした」

提督 「気付いた同室の陸奥も顔が真っ青になっていました」

提督 「他の艦むすへの影響も考え、陸奥に口止めし内密に上官へ報告しました」

提督 「その後は上官からの指示通り素知らぬ顔で日常の業務を行っていました」

提督 「内心は悪い方向悪い方向へ考えが行き、体の細胞が死滅して行くような気持ちでした」

提督 「まともな指揮ができる状態でないので出撃をせずに書類仕事を進めていたところ」

提督 「朧が私にお茶を差し出し、気分が悪そうだけど大丈夫かと心配そうに伺ってきました」

提督 「私は朧の優しさに感謝しつつ一口飲み」

提督 「心配させてすまない、体調が優れなくてね、と言いました」

提督 「そんな私に朧は表情を一変させ」

提督 「そんなにあの女がいなくなってショックですかと吐き捨てるように言いました」

提督 「私は何で知っているのかわけがわからなくて、朧を凝視していました」

提督 「湯飲みを持つ手そして全身に力が入らなくなり、そのまま意識がなくなりました」


提督 「次に起きた時は体を椅子にダクトテープで拘束され」

提督 「椅子ごとドラム缶の中にいました」

提督 「座った胸の辺りにドラム缶のふちが来ていましたかね」

提督 「一目で昨日の資源倉庫にいること、助けを呼んでも仕方ないことがわかりましたよ」

提督 「対面にも同じような拘束された人間がいるのか」

提督 「私と同じように人が椅子に座った形のものがドラム缶の上にのぞいていました」

提督 「表面をホコリを避けるために使う厚手の布が覆っているため誰かはわかりません」

提督 「何度か大声で話しかけたもののもぞもぞするばかりで反応がありません」

提督 「暫くすると朧が入ってきました」

提督 「そして・・・とんでもないことを言い出したです」

提督 「私は海の向こうの工作員だとか」

提督 「だから戸籍もないから養子縁組の法的手続きが取れないとか」

提督 「両親の供養と言ってこれまでも度々連絡員に会っていたとか、他色々」

提督 「そもそもは朧の両親が工作員だったらしく、無理にその役割をさせられていたそうです」

提督 「信じられない話ですけど、長い付き合いだから嘘ではないとわかりました」


提督 「私は自首して証人保護プログラムを受けようと諭しました」

提督 「それでも朧の涙は収まらず、朧は無理ですと言うばかり」

提督 「続けて朧はぽつぽつ言うんです」

提督 「深海棲艦の侵攻で領海線は意味を成していない」

提督 「海岸線は危険区域指定を受け人は立ち入れず、鎮守府以外に監視施設も少ない」

提督 「その鎮守府も対深海棲艦の監視施設で領海警備がぬるい」

提督 「海沿いの役所は軒並み破壊されて戸籍も紛失と再発行で滅茶苦茶」

提督 「そのお陰で工作員が大量に国内に入り込んでおり艦むすとして働く者さえいるそうです」

提督 「証人保護で逃げられる場所なんてないから一緒に死にましょうって」


提督 「私を落とせなかったら私をさらうか殺すと朧は脅されていたようです」

提督 「朧は懐から隠していた台所包丁を取り出し私を見つめます」

提督 「私は朧に教えてくれ長門はどうしたと言いました」

提督 「朧は長門さんには提督に付きまとわないように言ったのに・・・とつぶやき」

提督 「対面の人の形をしたものにかかった布を引き下ろしました」

提督 「布を下ろすと長門が出てくると思ったんです」

提督 「ところが出てきたのは蠢(うごめ)くフナムシと蟹の塊でした」

提督 「長門はどこだと私が再度問います」

提督 「これが長門よと朧が怒鳴り、そのドラム缶を蹴りました」

提督 「瞬間蠢くフナムシと蟹の動きが止まったかと思うとドッと散りました」

提督 「すると中から長門が出てきました、顔は真っ白で所々変色していました」

提督 「長門が生きていることに安堵して大丈夫かと叫びかけると」

提督 「逃げ遅れた蟹が口から這い出し」

提督 「蟹が出るのにできた口の隙間からフナムシが我先にとあふれ出しました」

提督 「その間も長門にいくら起きろと叫んでも動きません」


提督 「黙ってその様子を見ていた朧が私に近付き」


提督 「これからはずっと一緒ですね」


提督 「と言って微笑むと、私、自分と包丁を刺しました」

提督 「そこからは意識が混濁してしまい正確な記憶がありません」

提督 「私の体を這う脚の本数は何本になっていたんでしょうか」

提督 「フナムシと蟹って脚の数が同じ10本なんですよね」

提督 「何匹かわかれば脚の数がすぐわかりますね、ふふ」

提督 「最初に柔らかい眼球舌内臓、時間がたってから腐った足先手先・・・」


提督 「まぁ、そんなことはどうでもいいんですけど」

提督 「その時は最初期の軍事物資不足時期でして」

提督 「私が椅子と一緒に入っていたドラム缶は未だ使われているようです」


 兵站は話の途中から震えと冷や汗が止まらない。感じる寒気は身震いで発散できないものとなっていた。絶対に横に視線は動かしたくない。


兵站 「長門って・・・いや、提督って・・生き、いやいやいや」

兵站 「そうだ、何で鎮守府に向かってるんだっけ」

提督 「ずーっと、向かっているんですよ」

兵站 「は?・・・冗談はもういいよ・・・」

提督 「長門に会いに行かなくちゃいけないんです」

兵站 「・・・」カチカチカチ


 少しでも自分を落ち着かせようと正面ガラスにゴム吸盤でくっついていつも陽気にゆらゆら揺れている交通安全祈願のお守りを見る。ない、不自然に吸盤とちぎれた紐だけ残っていた。動悸が暴れ息が苦しい。


兵站 「はぁはぁ」

提督 「どうされました、あと少しなんで安全運転でお願いしますよ」


 近在の鎮守府はない。あるのは何かの事件で放棄されたぼろぼろの鎮守府があるだけだ。



兵站 「鎮守府なんて・・・ない」

提督 「ありますよありますありますありますあります」

兵站 「くそっ、ないってい・・・」


 声を荒げながら視線を提督によこすと目が真っ黒な人間が座っていた。正確には眼球がなく空になっていたに違いない。心臓が一瞬止まる。震えが止まらない。

 横に座っているのは何だ。

 何かがうごめくかさかさする音と吐き気のする腐ったような臭いが車内に充満する。真っ白の皮膚は所々紫に変色し、真っ黒な口と目は奥で何かがうごめいている。手足の衣服はぺちゃんこで手足の先端と思われる部分の衣服はもぞもぞ動いている。中身は想像したくない。


兵站 「ああああ」

提督 「そごみぎえう」


 提督と思われる物体は短い右腕で右を差し、ハンドルに触れようと体を伸ばす。袖口と口からはふなむしと蟹がぼとぼと落ちてきて床を這った。


兵站 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」











ぐしゃ


数時間後


警部 「お疲れさん、どうなの?」

所轄 「お疲れ様です。残念ながらもう店仕舞いですよ」

警部 「急ぎすぎじゃないか?」

所轄 「海軍の上からうちの上に圧力がありまして・・・火急速やかに検分を済ませるようにと」

警部 「ふーん」

所轄 「我々の護衛に貴重な人員を割きたくないそうですよ」

警部 「別に私達はいいけど、適当な捜査じゃ仏さんも浮かばれないね」

所轄 「静かにお願いしますよー、あそこにいる提督に聞かれたら面倒ですって」

警部 「聞こえるように言ったんだけどね。で、事故の内容は?」


所轄 「ドライブレコーダーの映像によると」

所轄 「この放棄鎮守府への分かれ道までは至って普通の安全運転なんですが」

所轄 「そこから加速して、事故現場の資源倉庫の入り口に正面衝突しています」

所轄 「仏さんは車体に押しつぶされてばらばらぺしゃんこですよ」

所轄 「鑑識も救急もどん引きで・・・今まで見たことないって」


警部 「原因は?居眠り?」

所轄 「精神錯乱していたようです。挙動不審だったと同僚や門兵から証言がありました」

所轄 「同僚によると積み込み当たりから顔色が悪く」

所轄 「聞き取りづらい独りごとをボソボソ言い、話しかけても虚ろだったようです」

所轄 「門兵も同僚と同じような証言をしています」

所轄 「ドライブレコーダーの録音もさらいましたが」

所轄 「誰かと話すように間を置いてボソボソ意味不明な声を出す様子が残っていまして」

所轄 「気持ち悪くて私も気が狂いそうでしたよ」

所轄 「加速した辺りからなんか、一変して人間の声かって音量で絶叫してましたよ」

警部 「ふーん、酒?薬?危険ドラッグ?」

所轄 「いえ。飛び出した内臓から拝借したものを数種の簡易検査キットにかけましたけど白です」

警部 「仕事とか女の関係で行き詰ってたりしたの?」

所轄 「好青年ですって」

所轄 「責任感が強くて仕事をしっかりするし、周囲の人間関係も良好だったようです」

所轄 「同僚が証言中に止めれば良かったって泣いてましたよ」

所轄 「積み込み中にあからさまに雰囲気というか様子が変わっていたそうです」

所轄 「責任感が強かったから体調が悪くなったのを言えなかったんじゃないかって」

警部 「じゃあ、体調不良で運転中パニックを起こして事故って感じか」

警部 「それじゃ自損処理でどっちにしろ早く終る捜査か」

所轄 「そうですけどね」


提督 「どうですか」

警部 「お陰様でもう終りますよ」

所轄 「ご協力有難うございます」

警部 「ところで、つかぬ事を伺いますが今回護衛の艦むすはそこの一人だけですか」

朧 「朧です、宜しくお願いします!」

警部 「こちらこそ宜しく」

所轄 (子供なのに礼儀正しいな)

提督 「一人だけですけど、ご安心ください。うちのエースです」

警部 「ほー、それはそれは・・・」

提督 「後、名刺です。追加捜査の際は個人的に連絡をもらえますか」

警部 「いえ、捜査完了なんで大丈夫ですよ。お気持ちだけ頂きます」

所轄 「感謝致します」

提督 「ですと・・・退散しても大丈夫ですかね」

所轄 「破損のない搭載資源は、代理の兵站兵員が来て積み替えと輸送を開始しています」

所轄 「事故車両を牽引するのは速度が出ないので危険、よってここに放棄します」

所轄 「なので、もう私達が撤収するだけです。お帰り下さって構いませんよ」


提督 「了解しました。これで失礼します」

提督 「朧、行くぞ・・・あ、艤装に蟹付いてるぞ」スッ

朧 「触らないで!」パチン

提督 「ってー」ヒリヒリ

朧 「・・・ごめんなさい、つい。嫌いにならないでね」

提督 「これくらいで嫌いになる訳ないけど、優しく頼むよ」

朧 「わかりました」


朧 「これからはずっと一緒ですからね」ボソ

警部 「おい」

所轄 「何でしょうか」


警部 「今の蟹・・・見えたか?」



おわり


読了有難うございました。


書き忘れてました。
このSSは、終始おっちゃんがいちゃいちゃするだけの艦これSSです。
二作目なので、至らない点多いと思いますのでご指摘ご指導大歓迎です。

>41
有難うございます。前作は『時雨「西村艦隊はむらむら」』です。お時間あれば是非


地味なキャラには腹黒・ヤンデレキャラを付与すればいいと思ってる二次創作者の鑑
作品全体としても、雰囲気で引き込んでそれらしいことを書いて読者の想像で補完してもらう感じなのに
「ハートマン軍曹」とか「wiki社」のような雰囲気に合わない単語で現実に引き戻されて
中途半端なまま恐い場面になってもいまいち感情移入できない
とりあえずグロいシーンを書きたいだけなら今のままでいいと思うんだけど恐らく違うだろうし
前作はギャグと割り切って読めたから結構好きだったが残念

皆様コメント有難うございます。
コメントが励みになる人間なので涙が出そうです。
前作と違いコメが盛り上がる内容ではないと承知していても、
投下中に一切コメがないのは流石にこたえました。

>>44
貴重なコメント有難うございます。

キャラはアニメも漫画も余り読まないんで勉強不足かもしれません。
どうしたものでしょうか。

「読者の想像で補完」に付いては本当にその通りでそこにお気づきになるとは、と驚きました。
実は作成中にマツコDXから松たか子くらいにスリムアップしていています。
代表的なもので下記内容をざっくりカット
・提督の一人語り部分は、一人語りでなく場面転換で長い過去編につなぐ予定だった
・朧と提督の刺す直前のやりとりはもっと長かった
・放棄鎮守府は朧が資材倉庫を封鎖したため、補給もままならず壊滅
カット部分は犠牲になったのだ・・・話のテンポの犠牲にな・・・

結果として読者の皆様に想像で補完してもらうのを強いる作品になってしまっています。
なんで、皆様を疲れさせるような内容になっていないかと気が気でなかったりします。

そういう事情で雰囲気は気にしていた積もりでしたけど、完全に私の注意不足です。
私も「wiki社」は「宇井木社」とか漢字にするか、省くか、で迷っていました。
ただ、「ハートマン軍曹」に付いては言われて気付きました。
想像以上に横文字が違和感を放ちますよね、艦これSSって。

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