千早「眠り姫」 春香「THE SLEEPING BE@UTY」 (75)

劇場版アニマスの嘘予告を基にしたSSです。
こういったまともなSSを書くのは初めてなので、お見苦しい点がありましたらごめんなさい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418052565

―――ねえ、知ってる? 桜の木の下には、女の子が眠ってるんだって

チハヤ「ん…」

鼻先に落ちてきた花弁の感触で思わず目を覚ます。
ここは私のいつもの特等席、校舎裏の桜の木の下だ。
あまりに日差しが気持ち良かったから少し横になってみたのだけれど、そのまま寝入ってしまっていたようだ。
…今日は休日だからよかったけれど、これで風邪を引くのも馬鹿らしいし、気をつけなければ。
それにしても、変な夢を見たわね。
学園内で囁かれる噂話。
孤立しがちな私でも耳にした事があるくらいだから、誰でも知っているくらい有名な噂なのだろう。
この桜の木の下を定位置にして読書をするのが習慣になっている私には、少し迷惑な噂話だ…。

チハヤ「まあ、なんでも、いいのだけれど」

別にこの桜が学内唯一の桜というわけでもないし、他の桜のことかもしれない。 気にする必要はないわね。
不気味だという気持ちは、完全には払拭できないけれど。

涼やかな風を身に受けながら、読みかけの本に目を落とす。
本のタイトルは

『眠り姫 ~THE SLEEPING BE@UTY~』

-Awake in the Dark-


山奥に建てられた閉鎖された古い建物。
様々な条件を基に選抜され、半ば強制的に入学する事になる全寮制の女学園。
それがこの、765学園。

乙女の園とも言えるこの学園は、半ば強制的に入学という事からも察せられる通り、少し普通ではない。
もちろん、教養というのは大事だし、通常通りの勉学も教えられている。
だが、他と決定的に違うのは、アイドル(能力者)としての覚醒へ導くための授業があるということだ。
ある、というよりもそれがメインと言った方が適切か。


選抜されるにあたっての様々な条件とはそういう事だ。
能力者としての才能を見出された者が、この学園に入学する事になる。
能力と一口に言っても、皆が皆同じ能力を使うわけではない。
それぞれ個人によって目覚める能力の内容は違ってくる。
例えばテレパシーやサイコキネシス、それを応用した浮翌遊能力といった基礎的な能力は能力者であれば誰でも使えるが、
テレポートやパイロキネシスといった能力は個々の才能によってくるので誰でも使えるというわけではない。
そういった基礎的な能力から個々の能力の目覚め、そして目覚めた能力の制御と成長。
最終的に能力者としての頂点である“アイドル”を作り出す。
それらを目的としてこの学園は成り立っている。

ヒビキ「なあ、知ってるか?」

自習のため教室に集まっていたイオリ、ヤヨイ、ヒビキの三人が、一段落つけて帰る準備をしているところでヒビキが声をあげた。
その問いかけに、イオリとヤヨイが不思議そうに振り向く。

ヒビキ「私たちの中から、アイドルが選ばれるかもしれないんだって!」

自慢げに喋るヒビキ、律儀に驚いてみせるヤヨイ。
反して、イオリだけは少し呆れ気味の表情を見せる。

イオリ「あんたね…能力者ってのは極端に数が少ないし、見つかればこの学園に送られてくるのよ?」

ヤヨイ「うん、そうだよね。 イオリちゃん、それがどうかしたの?」

イオリ「つまり能力者は基本的にこの学園にしかいないわけ。 私たちの中からアイドルが選ばれるのは当たり前じゃない」

ヒビキ「…あ」

まったくもう、と呟きながら、イオリも少しだけ昂ぶりを感じていた。
『アイドルに選ばれる』事を目指し、期待する少女たち。
それは理知的で思慮深いイオリとて例外ではないのだから。

基礎的な能力はもう皆身に付けている。
それどころか、個々の能力の発現もほぼ全員が出来ている。
その中でも私はトップの成績だ。
大人たちに印象の良いように猫を被った振る舞いも徹底している。

イオリ「大丈夫、選ばれるのは私よ」

自分に言い聞かせるよう、イオリはそう呟いた。



“アイドル”(能力者)
それは女の子たちの永遠の憧れ…

だが、その頂点に立てるのはほんの一握り…

チハヤ「…ふぅ」

ぱたん、と本を閉じながらため息を一つ。
どうも今日は余計な考えが頭を巡り、読書に集中できない。
普段はあまりこういう事はないのだが、何かの予兆だろうか?
私はアイドルにさして興味はないのだけれども…。
この学園に閉じ込められた、自分と同じ境遇の中でアイドルを目指す彼女たちを想い、チハヤは教室の方角を一瞥した。

チョキッ チョキッ

広々とした教室に二人。 ハサミの音が響いている。

ユキホ「マコトちゃん、やっぱり綺麗な髪してるね」

マコト「…そう? ありがとう」

マコトを椅子に座らせ、その髪を切りそろえていくユキホ。

ユキホ「うん。 他の人になんか切らせたくない、なんて考えちゃうかも」

マコト「………」

ユキホ「私、マコトちゃんの事が…好き」

マコト「…うん」

ユキホの気持ちを聞かされたのはこれが初めてではない。
ボクはそれに応える事はできないけど、ボクだってユキホの事は好きなんだ。 もちろん友人として、だけど。
ユキホと同じ気持ちではないけど、お互いがお互いを好きなんだから、それでいいじゃないか。
そんな言い訳をしながら、ボクとユキホは、ぬるま湯のようなこの関係を続けている。
これまでも、これからも。

【翌日】

チハヤ「おはようございます」

抑揚のない声で、誰ともなしに朝の挨拶をする。
登校はいつも私が一番乗りだから返事がないのはいつもの事だと思っていたが、今日は先客がいたようだ。

アズサ「おはよう、チハヤちゃん」

チハヤ「…おはようございますアズサさん」

アズサ=ミウラ…この学園の生徒としては最年長にあたる人だ。
物腰柔らかで、転校して来て以来ずっと孤立している私の事を気にかけてくれているらしい。
が、独りでいる方が気楽だと思っている私には、ありがたいながらも、ちょっと苦手な人だというのが正直なところだった。

アズサ「今日はね、チハヤちゃんに大ニュースを持ってきたのよ」

チハヤ「大ニュース…ですか?」

アズサ「ええ、昨夜にティーチャー・リツコとお話をしていたら偶然聴こえちゃったのよ。 あ、もちろん内緒の話よ?」

うふふ、と笑いながら人差し指を自分の口に当てるジェスチャーをとるアズサさん。
比較的年齢が近いこともあってかアズサさんはティーチャー・リツコとは仲が良いようで、
時折こういった教師同志の話を聞きつけてはクラスに持ってくる。
無論、あまり褒められた行動ではないのだが、話題にして良い内容と悪い内容をしっかり分別しているからか特に問題とはされておらず、
ティーチャー・リツコも黙認しているようだ。

しかし、アズサさんはのんびりとしたその性格の通り、朝の登校はそんなに早い方ではない。
わざわざ早朝にここで待っていたという事は、その大ニュースとやらは私に関係がある事なのだろう。

アズサ「実はね、現時点でのアイドルの最有力候補は、チハヤちゃんだっていう話なの」

チハヤ「!!」

ドクンと、鼓動が鳴った。

チハヤ「そ、そんな…! 私が!?」

思わず声を荒げてしまう。

アズサ「チハヤちゃん」

チハヤ「え? …あ」

アズサさんは私の名前を呼ぶと、サッとカーテンで二人の身体を覆い、今度は私の口元に人指し指を当てて

アズサ「しーっ、人が来ちゃうでしょ?」

そう優しく微笑んだ。
おかげで少しだけ冷静になれたけれども、やはり今の話に対する驚きは消えないし、そもそも信じられない。

チハヤ「…信じられません。 転校して間もない、未だ基礎能力しか操れない落ちこぼれの私が何故…」

アズサ「そこまではわからないわ。 ちょっと小耳にはさんだ程度のお話だし、まだ決定してるっていうわけではないみたいなの」

笑みを崩さないままアズサさんが続ける。

アズサ「でも、チハヤちゃんが現在のアイドル候補である事は間違いないわ。 近々皆にも発表するみたいよ? あくまで『候補』として、みたいだけど」

ここまで断言するという事は、ティーチャー・リツコにも確認したんでしょうね。

チハヤ「アズサさんを疑うわけではありませんが、やっぱり信じられません」

アズサ「あらあら」

突然、ふわっとした感触に身体を包まれた。
アズサさんが私を抱きしめているのだ。

アズサ「チハヤちゃんは自分を落ちこぼれだと言ったけれど、私はそうは思っていないわ。 個々の能力の発現なんてね、タイミングときっかけの問題でしかないの」

チハヤ「タイミングと、きっかけ…」

アズサ「そう。 だからチハヤちゃんは、もうちょっとだけ自分に自信を持ちなさい」

チハヤ「…わかりました」

アズサ「ふふ、約束よ?」

…アイドルの事なんてどうでもいい、というのはたしかな本心ではあるけれど、
それは自分が落ちこぼれだというコンプレックスもあったのだろうか。
アズサさんの言葉で、少しだけ心が楽になった気がした。

「………」

そうしていると、不意に視線を感じた気がして窓の外に目を移す。
向かいの校舎の窓際で、一瞬だけ綺麗な銀髪が舞うのが見えた気がした。

チハヤ(銀髪の人なんて、教師にも生徒にもいない…わよね)

アズサ「どうしたのチハヤちゃん?」

チハヤ「…いえ、なんでもありません。 それより…そろそろ皆が登校してくる時間ですので…」

アズサ「あらあら、ごめんなさいね。 でも、私は皆に見られてもいいから、もう少しこうしていたいわ~」

チハヤ「ア、アズサさん! ちょっと! 本当にやめてください…!」

やっぱりこの人は少し苦手だ。


あの後なんとかアズサさんを振りほどいて自分の席に座ったものの、
顔が赤くなっていたようで登校してきたタカツキさんに心配されてしまった。
平静を装って「何でもない」と答えはしたが、しばらくタカツキさんは怪訝そうな表情でこちらをチラチラと見ていた。

昼休み、いつもの桜の木の下で本を読んでいると、誰かに声をかけられた。
…今日は珍しい事がよく起きる日ね。

「あなた…アイドルになりたいの?」

振り返ってみると、名前も顔も知らない、私と同じくらいの年齢の女の子が立っていた。
よく見れば制服も私たちのものとは違う。
他校の生徒だろうか? でもここは関係者以外の立ち入りは禁止されている…。
どこかから潜り込んできたにせよ、目的は?
女の子だとはいっても、素性も目的もわからない人間と二人きり。
能力の秘密、もしくは能力そのものを手に入れようとする外部の者たちも、少ないながら確かにいるらしい。
万が一の事かもしれないが、もしかしたら私はいま危険な状況なのではないだろうか?
一瞬のうちに色々な考えが浮かんだが、目の前の少女は、不思議な安心感を漂わせていた。

「アイドルに、なりたいの?」

再度の問いかけ。
少し考えてはみるが、私の答えは決まっていた。

チハヤ「別に…なりたいというわけではないわ。 見出されてここに入学する事になっただけで、興味は薄いわね。 やる気は…ちょっとだけ出たけれど」

今朝の出来事を思い出す。

「ふーん…」

少女は短く頷きながら私を真っ直ぐに見据えている。
堂々とした態度を見るに、先ほど考えた私の心配は的外れだったのだろう。
今度ここに転入してくる生徒かしら?

チハヤ「ところで、あなたは誰?」

ハルカ「私? 私は、ハルカ。 また会おうね、チハヤちゃん」

そう言い残し、彼女は校舎の方に歩いて行った。

チハヤ「…私、自己紹介したかしら?」

そして、事件の始まりはこの日のうちに起きた。
今日の授業が全て終わり、ホームルームの際にティーチャー・リツコの放った言葉がきっかけだった。

リツコ「はい、それじゃあお知らせよ。 貴女たちもわかっているとは思うけど、近々この中からアイドルが選ばれるわ」

途端にクラスがざわめき出す。
それをイオリが静止し、ティーチャー・リツコに続きを促す。
ごくり、と唾を飲み込む音が聴こえるようだった。

リツコ「現時点での候補は、チハヤ、貴女よ」

イオリ「―――なっ!?」

リツコ「それじゃあまた明日ね、ごきげんよう」

ごきげんよう、と皆が口々にティーチャー・リツコに挨拶を返す中、
イオリだけは何も言えないでいた。
自分はアイドルに選ばれないのか、という絶望と――
父や兄に認めてもらうチャンスがなくなるのか、という恐怖と――
どうして自分を差し置いてあの劣等生が、という怒り故にだった。

イオリ「…ない…」

ティーチャー・リツコが教室を出て少し経ち、続いて教室を出ようとしたチハヤに対し、イオリが声を絞り出した。

イオリ「私は認めない…! あなたがアイドルだなんて!!」

能力の実践授業のために用意され、まだ片付けられていなかった林檎が宙に浮き、爆ぜる。
イオリ=ミナセの発する電撃による破壊だった。

チハヤ「………」

そんなイオリの様子を、チハヤは一瞥しただけで教室を後にする。

チハヤ(私だって、ミナセさんの方がアイドルに相応しいと思うわ。 でも、私に言われてもどうしようもないじゃない…!)

元々、アイドルに強い憧れがあるわけではない。
だけれど、アズサの言葉に少しだけ救われ、ちょっとだけやる気が出た。
だからと言って、それは能力への向き合い方の話であって、やはりアイドルの事はどうでもいいというのが本音。
変わってあげられるならそうしたいとも思う。 が、自分にそんな権限があるわけではない。
仮にそんな権限を持ったとしても、アズサの言葉を受け救われたと感じた以上、そういった軽はずみな事はしたくないとも思う。

相反する自分の心と周囲をとりまく環境に答えを出せないまま、チハヤは自室へと歩を進めた。

「それで、どうなったの?」

この地下室にいるのは、わたくしと、この双子の姉妹だけ。
お揃いのネグリジェに身を包んだこの双子の姉妹には、
話相手と言える人間はわたくしだけ。

「旧校舎のその桜の下には女の子が眠っていて、何年も何年も、そこの扉を開くのを待っているのです。 何年も、何年も…」

この地下室で生み落とされ、力の強大さ故に外に出されず、
能力の制御のために与えられたおしゃぶりを強制された、
過去のわたくしたちと同じ境遇の哀れな双子。

「可哀想…」

そう、可哀想で、愛おしい、双子の姉妹。
…わたくしは、このままでは終わりません。

ミナセさんの宣戦布告から数日。
生徒たちは目に見えて浮き足立っていた。 …アズサさんだけはいつも通りだけれど。
マコトとハギワラさんはあまり気にしてないようにも見えるが、やはりアイドル選抜の事が気になっているようで何事にもいつもより力が入っているように見える。
タカツキさんとガナハさんは、ミナセさんを心配しているが、どうすればいいかわからないといった様子だ。
…私の方には、時折ミナセさんからの敵意のこもった視線が向けられている。
少しやりにくいわね…。
まあ、授業以外はいつも通りあの桜の下で読書をしているから、あまり関係はないのだけれど。
たまにハルカと会う事もあったが、転入してくるというわけでもなさそうだし、相変わらず素性は謎のままだった。
ハルカに関して私が知っているのは、少しおっちょこちょいで、花のような明るい笑顔で、いつの間にか現れて、帰る時は校舎の方へ向かうという事くらいだ。
それでも、そんなの気にならないくらい彼女との時間は楽しく、安らぎ、気づいたら私の中でとても大事な時間になっていた。

チハヤ「さすがに話しすぎたわね、もうこんな時間。 私はそろそろ帰るわ」

ハルカ「うん、またね、チハヤちゃん」

チハヤ「ハルカもそろそろ帰った方がいいわよ。 もうこの時間は肌寒いし、風邪をひいてしまうわ」

ハルカ「…うん、私は大丈夫だから」

チハヤ「…?」

ハルカ「それよりチハヤちゃんこそ帰らないと風邪ひいちゃうよ。 気をつけてね」

チハヤ「え、ええ…」

一瞬だけ表情を曇らせたハルカだったが、すぐに笑顔に戻り私を送り出す。
その表情の変化に少しだけ不安を覚えたものの、かける言葉も見つからず「またね」とだけ言い残して寮に向かって歩き出す。
振り向くと、ハルカが手を振っているのが見えた。

寮へと向かう道の途中、旧校舎の近くを通りがかる。
いつ見ても不気味な建物だけど、日の落ちかけたこの時間では尚の事。 逢魔時とはよく言ったものだ。
あまり視界に入れて愉快なものではないと前を向き直そうとした時に、思いがけないものが目に入った。

チハヤ「あれは…ティーチャー・リツコと…タカツキさん…?」

いつもの厳しくも優しい温和な笑顔の影さえ見えない無表情のティーチャー・リツコが、
いつもの元気さの欠片も感じられない幽鬼のような顔色をしたタカツキさんを連れて歩いている。

チハヤ(様子がおかしいわね…それにこんな時間に旧校舎で何を…?)

どうしても気になった私は、二人の後を尾行する事にした。


二人は旧校舎の奥の一室に入っていったようだ。
私が転入した時には既に使われなくなっていた旧校舎だけあって相当古い建物らしく、
立て付けが悪くなっているのかドアがきちんと閉まっていない。
これ幸いとドアの隙間から室内を覗き込んだ私の目に映ったのは、とても信じられない光景だった。

チハヤ(あれは…注射器!? タカツキさんに何をしてるの…!?)

【同時刻】

イオリ(…イライラするわね。 アイドル候補がこの私じゃないどころか、あの劣等生だなんて!)

あれから数日経っても納得がいくはずもなく、ここ数日の私はいつもこんな風にイラついている。
ルームメイトのヤヨイとヒビキもそれは察してるらしく、オロオロと心配したり、一人にしてくれるよう気を遣われたりしている。

イオリ(あの二人には今度謝って、お礼をしないといけないわね…はぁ…)

仲良しの二人の事を頭に浮かべた事で多少の落ち着きを取り戻し、ため息をつきながらベッドに腰かける。
もうパジャマに着替え、寝る準備は万端だ。
ティーチャー・リツコに呼び出されたヤヨイが帰ってくるまで待とうかと思っていたが、
ヒビキが早々に眠ってしまい、自分も最近のイライラに疲れていたのか、少し落ち着いたところで眠気がきてしまった。

イオリ(ヤヨイには悪いけれど、今日はこのまま寝てしまおうかしら…)

ぼんやりとそんな事を考えながらベッドの中にもぐりこもうとした時

「アイドルに…なりたいの?」

声が聴こえた。

イオリ「っ!?」

驚いて振り向くが、ヒビキは先ほどと変わらず気持ちよさそうに寝ている。
そもそも、さっきの声はヒビキの声とは全然違っていた。

「アイドルに、なりたくないの?」

まただ。
この私に向かって、言うに事欠いて「アイドルになりたくないのか」ですって?
そんなの決まってるじゃない。

イオリ「なりたいに決まってるでしょ! 誰だか知らないけど、勝手な事を言ってるんじゃないわよ!」

声を出してハッとする。
ヒビキは…寝てるわね。 よかったわ。
誰だかわからないけれど、よく考えたらこれはテレパシーよね。
私の知らない能力者…?

「だったら…アイドルの事を教えてあげるの」

謎の声は自分の居場所と、そこに至るためのカギの事だけ言い残し、何も喋らなくなった。
カギって…掃除の時に見つけたあのカギの事かしら?
旧校舎の螺旋階段の奥にある、カギのかかった部屋の中にいる、ですって?
怪しさ満点じゃないのよ…。
普段なら歯牙にもかけないところだけれど、もしかしたらアイドルになれるかもしれない。

イオリ「誰かもわからない奴の言う事を聞くなんて癪だけど、虎穴に入らずんば虎児を得ずってね」

追い詰められていた私は、謎の声に乗ってやる事にしたのだった。

イオリ「この扉ね…」

そろそろ消灯時間だというのに、校舎から厳重に保管されていた様子のカギを持ち出し、
今度はその足で旧校舎に忍び込み、これまた厳重に封印された様子の扉を開けようとしている。

イオリ(せっかく優等生で過ごしてきたのに、見つかったら大目玉ね…)

見るからに『開けてはいけない秘密の扉』といった風情の扉を前に、脳の中で警告が鳴り響く。
それでも、アイドルになりたいという想いは抑える事ができない。
次第に動悸が激しくなり、肩で息をし始める。

イオリ(はぁ…はぁ…、私は…アイドルに…!)

カチャッ

禁忌の扉は開かれ
  “それ”は暗闇の中で目を醒ました―――


起こすと怖い―――眠り姫

-the End of the Dream-


ドオオオオォォォンンン…

チハヤ「!?」

爆発音…!?
大きな音と空気の振動、そして地鳴り。
地下からのようだけれど、何が起こったというの…?
そこまで逡巡した後、すぐに今の状況を思い出す。

チハヤ(まずい! 今のでティーチャー・リツコが部屋の外に注意を向けていたら)

慌てて部屋の中の方を振り向き

チハヤ「ッ!!」

扉をはさんですぐの位置でこちらを見ているティーチャー・リツコと目が合った。

ガシッ

リツコ「…何をやっているのかしら?」

扉の隙間から腕を掴まれ、ゆっくりと扉を開きながらティーチャー・リツコは質問する。
だが、答えを求めているわけではないようで、そのまま一人で喋り続けている。
タカツキさんは放心状態で座ったままだ。

リツコ「先ほどの爆発音はチハヤ、貴女の仕業ですか? いえ、地下の方で起きたようでしたね…。
    協力者がいるのでしょうか? 位置からしてアミとマミに影響はなさそうですが…」

チハヤ(…?)

雰囲気もそうだが…口調がいつものティーチャー・リツコとは違う?
不思議に思ったが、普段が演技なだけかもしれないし、今はそんな事を気にしてる場合ではない。
この場をどう切り抜けるか懸命に考えていると

リツコ「…ふふっ。 どうやら封印が解かれたようですね。 運命はわたくしに味方しているようです」

不意に腕を離され

リツコ「何処へなりと行きなさい。 こうなってしまえば、貴女などわたくしにとっては瑣末な存在です」

そう告げて、ティーチャー・リツコは部屋の中に戻っていく。
放心状態のタカツキさんの腕をとり、投薬を再開しているようだ。

チハヤ「ティーチャー・リツコ! タカツキさんに何をしているんですか!?」

リツコ「…そうですね、せっかくですので貴女にはヤヨイの実験成果の確認に付き合っていただきましょうか」

そう言ってティーチャー・リツコが歪んだ笑顔で何事か呟くと、タカツキさんは私を真っ直ぐに見据えた。
不気味に赤く光るその両の瞳で。

カチャッ

イオリ(開いた…!)

扉を開け、逸る気持ちを抑えながら中を覗き込む。
何も存在していないかのような暗闇だったが、その中に二つの光が灯る。

イオリ「あれは…瞳…?」

赤く光る瞳が近づいてくる。
少しずつ顕になるその姿は長い黄金の髪をまとった美しく、神々しいとすら思える少女だった。

「あはっ☆ 起こしてくれてありがとなの、でこちゃん」

イオリ「な…! 誰がでこちゃんよ! っていうかアンタは何者なの!?」

ミキ「ミキはミキだよ。 “アイドル”なの!」

イオリ「ア、アンタがアイドルですって!? いきなり何言ってんのよ!!」

ミキ「信じられない? じゃあ今から見せてあげるね」

そう言うと、ミキは扉の向こうの暗闇に向かって掌をかざし

カッ

ドオオオオォォォンンン…

フレッシュグリーンの閃光が走ったかと思うと、轟音とともに爆発が起きる。

ミキ「あふぅ…これでもうミキを閉じ込める事はできないの。 じゃあね、でこちゃん♪」

高速で飛行し地上へと向かうミキの後姿を見ながら、私はとんでもないヤツを目覚めさせた事を認識するのだった。

チハヤ「はぁ…はぁ…!」

正気を失ったタカツキさんに襲われ、なんとか逃げられたけれど…。

ヤヨイ「ぅぅぅぅぅ………うーっ!」

やっぱり追ってくるわね…。
幸い、まだ私を見失っているみたいだけれど。
どうすれば…!
しかしさっきの爆発音はなんだったんだろう?
あの口ぶりからするにティーチャー・リツコ絡みではないようだ。
わからない事ばかり。 本当に、この学園は何だというの!

アズサ「チハヤちゃん!」

チハヤ「アズサさん? こんな時間にこんな所で何を…」

アズサ「それはこちらが聞きたいわチハヤちゃん。 私は何か大きな音がしたから気になって出てきたの」

さっきの爆発音。
言われてみればあんなに大きな音がしたのだから当たり前の話ね。
タカツキさんが気がかりではあるけれど、まずは落ち着いて事態の把握に努めるべきね。

チハヤ「私にも何が起きてるのかはわかりません。 わかる限りお話しますので、まずはここを離れましょう」

アズサ「…わかったわ。 外に他の皆もいるから、そこまで合流しましょう」

そう言ってアズサさんが私の手を握る。
アズサさんの能力はテレポート。 直接触れてさえいれば自分以外も一緒に移動できるのだ。

アズサ「行くわよ、手を離さないでね」

シュンッ

ここは…旧校舎から少し離れた広場のようだ。

ヒビキ「アズサ!」

テレポートで移動した時、最初に声をあげたのはガナハさんだった。
事情を聞くと、ルームメイトのミナセさんとタカツキさんが二人ともいなくて心配しているらしい。
タカツキさんは見たけれど…ミナセさんも?

アズサ「旧校舎でチハヤちゃんを見つけたの、まずはチハヤちゃんの話を聞きましょう」

アズサさんに促され、私は自分の見た事を伝える。

ヒビキ「そんな…ヤヨイが…」

ユキホ「あの優しいティーチャー・リツコが…信じられないですぅ…」

マコト「姿が見えないイオリが気になるね…それともう一つ」

そう言ってマコトが旧校舎に目を向けて

マコト「旧校舎から凄い魔翌力と、敵意を感じるよ」

その言葉に、その場の全員が一斉に旧校舎の方を見る。
たしかに、膨大な魔翌力を感じる。 同時に、胸をおしつぶすような圧迫感も。

マコト「結局なにが起きてるのかはわからないけど、あの魔翌力の主が関係してるのは間違いないんじゃないかな」

ヒビキ「…マコトの言う通りだぞ。 もしかしたらイオリの事も知ってるかもしれない」

マコト「そういう事。 ボクたちに敵意を持ってるみたいだし、こっちから討って出るべきだと思う」

ユキホ「ひぅ…! た、戦いになるんですかぁ…?」

マコト「大丈夫だよユキホ、ボクが守るから…」

ユキホ「マ、マコトちゃん…」

ヒビキ「私はマコトに賛成だぞ。 ヤヨイの事も心配だけど、正気に戻す方法もわからないし、まずは情報を増やさないと」

アズサ「…そうね、手がかりが他にない以上、行ってみるしかないかもしれないわ。 …戦闘にならないに越したことはないけれど」

どうやら方針が決定したらしい。
…なんだか嫌な予感がする。

明確な敵意が感じられる以上、こちらも準備をしていかなければ。
皆、能力を最大限行使するための聖衣を纏い、能力発動の媒介となるマイク型の補助具を手にしていた。

アズサ「それじゃあ移動するわよ、みんな集まって」

テレポートで旧校舎まで移動するため、皆でアズサさんの元に集まる。

アズサ「行くわよ」

アズサさんの号令とともに覚悟を決める。

「チハヤちゃん…!」

その刹那、ハルカの声が聴こえた気がした。

シュンッ

ミキ「…どこからにしようか迷ってたけど、そっちの方から来てくれたんだね」

ヒビキ「…? 何の話だ? それよりもイオリの事を知ってるか!?」

ミキ「ミキはミキなの。 イオリって…でこちゃんかな? でこちゃんにはミキの封印を解くのを手伝ってもらったの」

アズサ「封印? イオリちゃんは無事なの!?」

ミキ「ミキは何もしてないの。 まだ、ね。 まだ地下にいるのか…移動しちゃってるのかまではわからないの」

マコト「で、君は何者なんだい?」

ミキ「ミキはね、アイドルなの」

ユキホ「あなたが…アイドル?」

その場にいた全員が驚愕する。
でも、彼女から感じる膨大な魔翌力を考えれば、それも嘘ではないのだろうと皆が納得していた。

ミキ「ミキはね、アイドルになって軍事兵器として利用されるところだったの。 でも、そんなのヤ、って言ってたら、暗い部屋に閉じ込められちゃったの」

チハヤ「アイドルが…軍事兵器?」

ミキ「何も知らないんだね。 でも、ミキのやる事は変わらないの。 バイバイ☆」

そう言いながら、ミキは笑顔でこちらに掌をかざす。
反応する暇もなく、フレッシュグリーンの閃光が眼前に迫る。

ドオオオオオオン

衝撃。
煙が舞い上がり、破壊の跡のみが残る。

ミキ「あはっ☆ それじゃあ次に…。 ?」

チハヤ「…!」

アズサ「この壁は…チハヤちゃん? 目覚めたのね!」

私たちの前に広がる青い防壁。
これが、私の固有能力…?

マコト「危なかったけど、チハヤのおかげで助かったみたいだね。 まさかこんなにいきなり攻撃してくるなんて…!」

ヒビキ「しかもとんでもない破壊力だったぞ…」

ミキ「ふーん、今のを防ぐなんて、そこの人、なかなかやるの」

チハヤ「くっ…! アズサさん、私がミキを防壁で閉じ込めます! いったん外に避難を!」

アズサ「わかったわ!」

ミキ「…ミキを閉じ込めるの? …また?」

まだ上手く扱えないけど、人間を一人囲むくらいなら…!
なんとか防壁を作り出し、すぐにアズサさんのテレポートで避難する。

シュンッ

テレポートをしてすぐ、全員で戦闘態勢を整える。
マイク型の補助具を媒介にしてマコトは炎の剣を作り出し、ガナハさんは『家族』と呼ぶ魔法生物の召喚する。

アズサ「このままチハヤちゃんの防壁に閉じ込められてくれればいいのだけど…」

アズサさんが呟くと同時に

ドオオオオオオオオオオオオオンンン

さっきまで私たちがいた場所から爆発が起きる。
やっぱりそう甘くはないようね。

ヒビキ「駄目だ、外に出てくるよ!」

マコト「これ以上話をする気もないようだし、やるしかみたいだね!」

爆発し、崩れ落ちた旧校舎の最上階からゆっくりと姿を現し、口元を歪めながら地上に降り立つミキ。
その手には魔翌力の鎌を携えている。
ミキの正体、そして目的、その口から語られた『アイドルは軍事兵器』という言葉。

チハヤ「結局、わからない事ばかりですね」

アズサ「新しい情報も断片的なものばかりだものね…。 全部知るためにも、ここで倒れてはいられないわ」

その通りですね。 まずはミキを何とか無力化しなければ…!

ユキホ「お願い、当たって!」

ハギワラさんが叫びながらシャベル型の魔翌力を大量に撃ち出す。
ハギワラさんの固有能力は魔翌力の射出。
出力を上げる際、ハギワラさんの精神に呼応してシャベル型になるようだ。
数多のシャベルがミキに向かって降り注ぐ。
が、ミキはその全てを避けていく。
シャベルは皮肉にも、本来の役目通り地面に穴を空けるだけの結果に終わってしまった。
そして避けきったミキはそのまま飛び上がり、真っ直ぐハギワラさんに向かっていく。

ユキホ「速い!」

アズサ「ユキホちゃん!」

間一髪のところでアズサさんがテレポートでハギワラさんを助け出す。
残されたミキに、今度はマコトが突進する。

マコト「はああああああああっ!!!」

マコトの能力は発火能力。
色々と応用はできそうだが、マコトの性格からか、剣の形を成して正面からぶつかっていっている。

マコト「せい!!!」

ギィン

裂帛の気合とともに炎の剣を叩きつけるが、ミキはものともせずに鎌で受け止める。

マコト「は!! でぇい!!!」

そのまま続けて斬り結ぶが、ミキは余裕の表情で対応し

ドン!

マコト「うぅっ!!」

ついには簡単にマコトを突き飛ばてみせた。
だがまだ猛攻は止まない。

ミキ「…」ピクッ

大型の犬にまたがったガナハさんがミキの後ろから襲い掛かるが、ミキはすぐに反応して身をかわす。
ガナハさんの能力は魔法生物の召喚。
一度に複数の生物を召喚可能で、ガナハさんは『家族』と呼び可愛がっている。
『いぬ美』による奇襲はかわされたが、すぐさま二頭の蛇『へび香』がミキを狙う。

ミキ「…ふふ♪」

ミキはそれも笑みを崩さないまま払いのけていた。
固有能力に目覚めたばかりで、その能力も攻撃向けではない私には、
眼前で繰り広げられる激しい戦闘についていく術はない。
私は何もできないのか…。 やっぱり私は落ちこぼれなのか…。

イオリ「あんなのを呼び起こしちゃうなんて、私はいったい何をやってんのよ!」

自分を叱りつけながら階段を昇り、急いで寮に向かう。

ドォォォォォンンン……

遠くからまた爆発音。
あいつが暴れてるのね…!
早く皆に知らせて避難して、大人たちに対処してもらわないと大変な事になってしまう!
急ぐ気持ちに足が追いつかない。 もどかしく焦る気持ちを何とか落ち着けながら走る。
しかし、聴き覚えのある声に思わず足を止める。

ヤヨイ「うーっ!」

イオリ「…ヤヨイ? あんた何でこんな所に」

見ればたしかにヤヨイだが、何か雰囲気が違う。
というか、何故か聖衣を纏っている。

リツコ「おや、先ほどの最初の爆発…封印を解いたのはイオリでしたか」

イオリ「!」

コツ、コツ、と音を立てながらこちらに歩いてくるティーチャー・リツコ。
自分のしでかした事に一瞬保身を考えないでもなかったが、今はそんな場合ではない。
ミキの事を知らせようと探していた大人が目の前に現れた事を喜んだが、何かこの二人から違和感がぬぐえない。

イオリ「ティーチャー・リツコ…よね?」

リツコ「ふふふ…そのような事、今はどうでもいいではありませんか。
    本当の“アイドル”が封印から目覚め、そして目の前のヤヨイも、わたくしの手で今アイドルに劇的に近づいているのです」

イオリ「ヤヨイが…アイドルに?」

リツコ「そう…貴女たちの知らない、兵器としてのアイドルに…」

ヤヨイ「うぅぅぅぅ…うーーーーっ!!」

イオリ「ヤヨイ!?」

突然襲い掛かってきたヤヨイの突進をすんでのところで避ける。
何がなんだかわからないけれど、今この二人は私の敵のようだ。
でも、応戦するにしても、相手がヤヨイじゃ…。

リツコ「知りたいようですし…最後に教えてあげましょう。
    アイドルというのは、軍事兵器として用いるために作られているのですよ」

イオリ「なんですって!?」

リツコ「この学園には他にも貴女たちの知らない暗部が存在します。
    先ほど封印を解かれたミキ、地下に幽閉された姉妹…」

リツコの言葉にショックを受けるが、このままここでこいつの話を聞いていても埒が明かない。
寮の皆の所に行って、他の大人たちに連絡しないと…!

リツコ「残念ですが、通信施設には妨害魔法を、学園全体には封印魔法をかけさせていただいています。
    山奥に閉鎖されたこの学園の異変に、すぐさま駆けつけられる者はいないでしょう」

イオリ「っ!!」

とにかく、まずは寮よ!
余裕の表情で嘲笑うリツコを尻目に私は駆け出す。

イオリ「はぁ…はぁ…!」

進入した時と同じ裏口の方から外に出ると、旧校舎の正面玄関のあたりでミキとマコトが戦っているのが見える。
よく見ればアズサ、ユキホ、ヒビキ、そしてチハヤもいる。

イオリ「全員揃ってるのはいいけど、なんであんたらがミキと戦ってんのよもう!」

嘆くその背中に、ヤヨイが追いついた。

イオリ「…そうね、まずはヤヨイをどうにかしなきゃ『全員』ではないわね」

だが、ヤヨイは正気を失っている。
話をしてどうこうというわけにはいかない。
まずは何か手を考えないと。
そう考えながらヤヨイの追跡から逃げている内に本校舎まで来てしまった。
このまま逃げ続けても仕方ないわね。 ミキと戦ってるあいつらの事も心配だし…。
私は足を止め、聖衣を纏ってヤヨイと正面から相対した。

ヤヨイ「うぅぅぅぅぅぅぅ……」

バコン!

石の柱を強引に掴み寄せ、身の丈に似合わない武器として持ち出すヤヨイ。

イオリ「…あんたの固有能力は身体能力の強化だったわね。 不器用だから、怪力くらいにしか使えてなかったけど」

身体強化で走力を高めて私を捕まえるなんて事も能力的には出来たはずなのに、
結局それが出来ずに怪力としての能力行使しかできない。
やっぱりあんたはヤヨイなのね。

ヤヨイ「うぅぅぅ、うーーっ!!」

ドゴン!

力任せに柱を振り回すヤヨイ。
咄嗟に避けながら間合いをとる。
…やっぱりヤヨイに攻撃なんて出来ないわ。

イオリ「やめなさいヤヨイ!」

ヤヨイ「うー!!!」

投げつけられた柱を跳躍してかわす。
やっぱりヤヨイに攻撃なんて出来ない…けど!

イオリ「目を覚まして!」

バチバチッ

私は自らの固有能力、電撃を発動した。

ミキ「あふぅ…やっぱり皆そんな程度なの?」

ミキの凄まじい力に私たちはなす術はなかった。
満身創痍で地に降り立つマコト、ユキホ、ヒビキの三人。

アズサ「皆、一度ここを離れて体勢を立て直しましょう!」

リツコ「うふふ…」

仲間の元に駆け寄ろうとしたアズサを、突如現れたティーチャーー・リツコが羽交い絞めにする。

チハヤ「アズサさん!!」

ヒビキ「ティ、ティーチャー・リツコも敵だったのか…?」

アズサ「う…ティーチャー・リツコ…なんで…!?」

信頼している教師、そして親しい友人でもあるリツコの突然の裏切りに驚き問いかけるアズサ。
リツコは楽しそうに笑いながら手で自らの顔を覆う。
変装魔法が解かれ、そこに居たのはティーチャー・リツコではなく、銀髪の美しい女性だった。

「お久しぶりですわ、お姉さま…」

アズサ「タ、タカネちゃん!?」

アズサの目が驚愕に見開かれる。

タカネ「わたくしはこの時を、お姉さまに会える日を心待ちにしておりました。
    …ご安心ください。 リツコ嬢には催眠魔法で眠っていただき、その姿を借りているだけです」

妖しい笑みを浮かべたタカネはアズサを催眠魔法で眠らせると、闇の中へと消えていった。
あっという間の出来事に呆然とする。

チハヤ(あれはティーチャー・リツコではなかった…?)

違和感の正体が判明した。 あれはティーチャー・リツコの偽者だったのだ。
だが今この状況で問題はそこではない。
アズサさんが連れ去られたという事、そして同時に逃げる事もほぼ不可能になってしまったという事だ。

ミキ「みんな消えちゃえばいいって思うな!」

上空でミキが両手を掲げ、背後に三つの魔方陣が浮かび上がる。
ミキの力は皆を大きく上回っている。
当然、私なんかではなんの太刀打ちもできない。
魔方陣が光を帯び、あの閃光がまた放たれるのだとわかると、ここで全部終わるんだと諦めが心を支配しそうになる。
明らかに本気じゃなかった最初の時はともかく、あの膨大な魔翌力を私なんかの能力で防げるわけがない…。
だが、その諦めの中にほんの小さな希望がある事を私は思い出した。

『だからチハヤちゃんは、もうちょっとだけ自分に自信を持ちなさい』

チハヤ「くっ…!」

そうだ、私は向き合うって決めたんだ!
防壁を作り出せるんだったら、せめて皆を守らなきゃ!

カッ

ズドドオオオオン

三筋の連なる閃光を二層の防壁でなんとか防ぐ。

チハヤ(防げた! ギリギリだけれど、皆を守れる!)

マコユキヒビ「「「チハヤ!!!」」」

ミキ(…防壁の強度が…さっきよりも格段に上がってるの…)

上空から赤い瞳で私たちを見下ろすミキを見据える。

チハヤ(あれが、アイドルの力だというの…? あれが、あんなのが、皆の憧れていた…アイドルだというの!?)

少女たちの憧れ―――
  “アイドル”の真の姿を見せられ、少女たちの憧れは、
       魅かれ追い求めた“夢”は終わりを告げていた

-the Fate of the World-

チハヤ(ミキの攻撃を防げた…それはいいけれど、これからどうする…?)

攻撃は防げても、私にはこちらから攻撃する手段がない。
マコトもハギワラさんもガナハさんも、ミキとの戦いで消耗しきっている。
それに攻撃を防げたといっても、本当にギリギリだ。
このままでは私も消耗するばかりで、いつ防壁を保てなくなるかわからない。

ユキホ「…チハヤちゃん。 ミキちゃんの背後に防壁を出せる?」

ハギワラさんが、暗く、強い瞳でそう私に問いかけた。

チハヤ「ええ、出来ると思うわ」

ユキホ「それじゃあ、私のシャベルにタイミングを合わせて、防壁でミキちゃんの逃げ場を塞いでもらえる?」

チハヤ「…わかったわ」

マコト「ユキホ…大丈夫なの?」

ユキホ「うん。 私も、大切なものを守るために頑張りたいの」

ヒビキ「ユキホ、サポートするぞ」

争い事の苦手な優しいハギワラさんが、覚悟を決めた。
フラフラになりながらも立ち上がり、上空のミキに狙いを定めてシャベルの射出準備を始める。
マコトが心配そうにハギワラさんを見つめている。

ヒビキ「へび香! オウ助! いっけえええ!」

ミキ「ふん! 何度きても同じ事なの!」

ミキが鎌で払いのけるが、ガナハさんの家族たちはのらりくらりと動き回り、ミキの注意を引き付ける。

ミキ「ええい! うっとおしいの!」

痺れを切らしたミキが自分から前に出てへび香とオウ助を斬り払う。
二匹は雲散してしまったが、既にハギワラさんの態勢は整っている。

ヒビキ「ユキホ、頼むぞ!」

ミキ「またそれなの? 残念だけど、簡単に避けられるって思うな」

ユキホ「ううん、今度は当たってもらうよ。 チハヤちゃんお願い!!」

チハヤ「ええ!!」

ミキの背後から防壁を出現させ、同時にハギワラさんがシャベルを撃ち出す。

ミキ「防壁が…! 小賢しい真似をするの!」

逃げ場を失ったミキにシャベルが直撃する…!
そう思っていた私の視界にあったのは、あの閃光と、倒れたハギワラさんの姿だった。

マコヒビ「ユキホ!!!!!」

ミキ「ちょっとびっくりしたけど、避けられないなら消してしまえばいいだけなの。 ついでに攻撃にもなって一石二鳥ってやつなの」

マコト「あぁぁ……ユキホ…」

マコトがハギワラさんを抱きかかえるが、ハギワラさんは力なく倒れたままだ。
ガナハさんもショックで動けなくなっている。

チハヤ(本当に…打つ手がなくなったわね…)

そう思った時、背後から馴染みのある声が聴こえた。

ハルカ「遅くなってごめんね、チハヤちゃん」

チハヤ「ハルカ!?」

ハルカ「本当はもっと早く来たかったんだけど、そうもいかなくて…」

申し訳なさそうな表情のハルカ。
それよりも私が驚いたのは、ハルカが聖衣を纏っている事だった。

チハヤ「ハルカ…あなた、能力者なの…?」

ハルカ「…黙っててごめんねチハヤちゃん。 私はね、アイドルなの」

それだけを言い残して、ハルカはミキに向かって飛び立った。

桜に囲まれた幻想的な光景の中、旧校舎の屋根の上で対峙する二人の“アイドル”

ミキ「遅かったね。 待ってたよ…ハルカ」

ハルカ「帰ろう、ミキ。 ここは私たちの居ていい所じゃない」

ミキ「そうだね。 ハルカと一緒ならそれもいいかもしれないの。 でも、まずはミキを閉じ込めた大人たちと、この765学園を壊してからね」

ハルカ「…私がそれをさせると思う?」

ミキ「思ってないの。 でも、実体を持たず、その姿を維持するのに力を使っている今のハルカが、ミキに勝てるとも…思ってないの!」

一足飛びでハルカに迫り鎌を振るうミキ。
両端に刃をつけた薙刀で迎撃するハルカ。
幾合も斬り結び、刃と刃をぶつけ合う二人。
だが互角に見える戦いも、先のミキの言葉通り、わずかだが確かにミキが優勢だった。

マコト「ねえ起きて! 起きてよユキホ!!」

取り乱し、涙を浮かべながらハギワラさんを起こすマコト。

ヒビキ「イオリ…ヤヨイ…」

全てを諦めたかのようにうなだれ、力なくルームメイトの名前を繰り返すガナハさん。

チハヤ(ハルカ…)

絶望が支配したこの場で、後は終わりを待つ事しかできないのかもしれない。
だけど私は、まだ諦めたくない。 諦めないと決めたから。
何者なのかもわからないけど、ハルカはたしかに私の友達で、
そのハルカがいま独りでミキと戦っている。
ならば、私のとるべき行動は一つだ!

タカネ「ふふふ…必要な要素はこれで全て揃いました。 喜びなさい、アミ、マミ。 これでわたくしたちは地上に出る事ができるのです」

眠ったアズサを連れ地下室に戻ったタカネは、喜びを抑えきれない様子でアミとマミに語りかける。

アミ「で、でも、それじゃあ色んな人が犠牲に…」

マミ「そうだよ! そんな事になるんだったら、マミたちはここで三人で過ごしたい…」

だが姉妹は自分たちよりも、まったく関わりのない他人の幸せを優先した。
映像魔法で外の様子を観ていたアミとマミは、外で戦うあの者たちの事が気になっている様子。
思えばおとぎ話を聞く時も、登場人物に哀れみを向けるだけで、自分たちの不幸には無頓着な姉妹でした。
ですが、わたくしはそのようには振る舞えません。
この学園で生を受け、力の大きすぎたアズサお姉さまとわたくしは、今のアミとマミと同じ境遇でした。
成長とともに力は落ち着いていきましたが、外に出されたのはアズサお姉さまだけ。
精神面に問題があると評されたわたくしは地下に閉じ込められたまま…。

タカネ「よいのです。 これはわたくしが勝手にやっている事…。 わたくしがわたくしの為に行う外法なのですから」

わたくしを置いて行ったアズサお姉さま。
お慕いしながらも、同時に憎らしくもあるお姉さま。
わたくしは今この時、貴女様を生贄に、復讐と悲願を達成させましょう。

タカネ「時は来た。 今こそ“誕生(でびゅぅ)”の時!」

ドクン!

アミマミ「「タカネお姉ちゃん!!」」

イオリ「…ヤヨイ」

イオリは横たわるヤヨイを正面から抱きかかえ涙をこらえていた。
電撃を発動したがそれでもヤヨイを攻撃する決心は持てず、
暴走を続けるヤヨイはついに、自らの限界を迎え倒れていたのだった。

あの優しいヤヨイが人を攻撃し、自分の身体が耐えられなくなるほど能力を行使し続け、ついには倒れてしまった。
こんな、正気を失い凶暴化した姿を、あの女は『アイドルに劇的に近づいた』と言った。 『アイドルは軍事兵器だ』とも。
だったら、アイドルとは、私が目指したアイドルとは…。

イオリ「いったい…アイドルってなんなのよ…」

耐え切れず、イオリの頬を涙がつたった。

ミキ「ハルカも頑張ったけど、もう終わりにするの。 ミキもすぐ行くから、先に行って待ってて」

ハルカ「…ッ!!」

ミキ「最大出力なの!!! アルティメットおにぎり波!!!!!」

魔方陣が浮かび上がり、これまでとは比較にならない威力の閃光がハルカを目指し奔る。
苦悶の表情でミキを見ながら、ハルカは終わりを受け入れた。
だが、訪れたのは終わりではなかった。

チハヤ「くっ!」

ハルカ「チハヤちゃん!?」

ハルカの前に飛び出したチハヤが、ミキの最大出力を受け止めていたのだ。

チハヤ「諦めては駄目よ、ハルカ。 私なんかでもこんなに頑張れるのだから…!」

ハルカ「…『なんか』じゃないよチハヤちゃん。 チハヤちゃんは私の友達で、本当は凄いんだから…!」

眼に光を取り戻したハルカは、そう言いながらチハヤと並んでミキの攻撃を防ぐ。
最大出力で捩じ伏せにきていたミキは、自分の本気を耐える二人の力に驚愕する。

ミキ「この力…! お前もアイドルの器を持っているというの!?」

映像魔法でその光景を観るアミとマミは、このままではチハヤが力を使い果たしてしまう事に気がついた。

アミマミ「「駄目! 新たな眠り姫が生まれてしまう!」」

アイドルとして絶対的な力を持ちながら封印されたミキ―――

いつか来る復活の日にミキを止めるため、そしてアイドル候補生を見守るために自ら肉体を捨て眠りについたハルカ―――

二人の眠り姫という悲劇。
また新たな悲劇が生まれてしまう可能性に、心優しい双子は思わず声をあげてしまったのだ。
そしてこの悲劇の可能性に、ハルカも当然気づいていた。

ハルカ「チハヤちゃん。 チハヤちゃんはね、本当は凄い力を持ってるの」

チハヤ「私が…?」

ハルカ「うん、でもね、自分の力や、それに関わる色んなものが怖くて、気づかない振りをしてるんだ。
    『アイドルに興味ありません』って思ってたのも、ううん、思い込もうとしてたのもそういう事。
    でもね、チハヤちゃんなら、大丈夫!」

語りかけながら、片手をチハヤに伸ばすハルカ。

チハヤ「ハルカ…。 私、アイドルになるわ!」

そのハルカに応え、差し出された手を握る。
内気で、怖がりで、それが故に周囲に壁を作り続けていたチハヤ。
その壁を壊した初めての親友ハルカと、いま結んだ約束。
その“約束”は永遠となる。

ミキ「な…!?」

実体をもたず、魔翌力で形成されたハルカの力がチハヤに流れ込む。
それまでの力を遥かに凌駕する魔翌力がチハヤを包み、

――今、伝説のアイドルが誕生(デビュー)する――

アルティメットおにぎり波はかき消され、一瞬で力の差を理解するミキ。

ミキ「そんな…!」

チハヤ「…あなたも本当はわかっているんでしょう? こんな事しても、無意味だということに」

目の前のミキに優しく声をかける。
強大な力をもつ故に今までは気づく事ができなかったが、
ハルカの想いと力を受け継いだ今ならわかる。
アイドルの真実と、理不尽な封印。
ミキは、ただそれらの絶望を振り切りたいだけ。
我が儘を言い、周りを困らせる子供と同じだったのだ。

チハヤ「アイドルの能力は『守る』ために使う。 私が約束するし、これからはあなたを縛り付ける人なんていない。 この、チハヤ=キサラギがさせないわ」

ミキ「…チハヤさん」

ゆっくりと手を差し伸べるチハヤ。
叱られた子供が許しを請うように、おずおずとその手をとるミキ。
チハヤが空いたもう片方の手を振ると、甘い匂いと微かな光があたりを包む。

ユキホ「ん…マコトちゃん…?」

マコト「ユキホ!! よかった…目が覚めたんだね…!!」





ヤヨイ「う…ん。 はわっ、イオリちゃんどうしたの?」

イオリ「ヤヨイ!! 正気に戻ったのね!!」

ミキ「この匂いと光…ハルカの…?」

チハヤ「ええ、力が増してるから、怪我した皆も完全に快復してるはずよ。 壊れた建物なんかも直してるわ。 さ、一緒に皆に謝りに行きましょう」

ミキ「…は、はいなの!」

チハヤ「これでタカツキさんも正気に戻ってるはずだから、ミナセさんを探して、後はアズサさんを連れ去った銀髪の人ね…」

そこまで口に出したところで、大気が揺れた。

チハヤ「!? なに?」

異変に周囲を見渡すと、あの銀髪の女性が姿を現した。

タカネ「久方ぶりですね。 どうやらそちらは丸く収まったようですが、わたくしの用件は未だ終わっておりません」

チハヤ「どういう事かしら?」

タカネ「アズサお姉さまの魔翌力を生贄に、わたくしたち能力者の力の源とも言える魔獣を召喚いたしました。
    この魔獣の力を用いて、わたくしは全てに復讐し、自由となるのです! いきなさい! 魔獣『タ・カギ』よ!!」

大気の振動は激しさを増し、魔翌力の波となって、魔獣の姿を形作った。
闇よりも昏い、禍々しいまでの暗闇そのものとしか表現できないその魔獣は、召喚主の声に応えこちら目掛けて突進してきた。
だが、その突進を阻む者がいる。

チハヤ「ミキ!?」

ミキ「ごめんねチハヤさん。 ミキ、やっぱりハルカと一緒に行かないと駄目みたいなの。 皆にはごめんねって伝えておいて」

チハヤ「そんな…ミキ!」

ミキ「ミキも元々この世界にいちゃいけないの。 本来あるべき所に還るだけだから、心配いらないの…」

チハヤ「っっ!? 私の中から…ハルカの力が抜けて…?」

「さよなら、チハヤちゃん」

頭の中に響いたハルカの声と同時に、あたりは光に包まれた。

世界の運命をも揺るがす一夜の戦いは終わり、私たちには日常が戻った。
あの晩ずっと眠らされていたティーチャー・リツコは事情が一切掴めず困惑していた。
ミキが自らを犠牲に消し去った魔獣は本当に能力者たちの力の源だったのか、私たちはあれ以来まったく能力が使えなくなっていた。
不思議には思っていたが、アイドルの真実を知らされていた私たちは今更それを残念だとも思わず、
生徒みんなで顔を合わせて笑いあったのだった。


まだ能力者を諦められないようで、学園自体は運営されている。
私たちも、もうしばらくこのメンバーと離れたくないから好都合だ。
…私が『このメンバーと離れたくない』なんて思うようになるとは、あの夜以前の私からは考えられないわね。

アズサ「それにしても、チハヤちゃんが私たちと一緒にいてくれるようになって嬉しいわ~」

イオリ「にひひ! いっつも不機嫌そうな表情で、露骨に『私に関わらないで』ってオーラを出してたものね」

ヤヨイ「うっうー! みんな仲良しが一番ですー!」

チハヤ「ふふ、どこかの誰かさんに敵視されてたものだから、ごめんなさいね」

イオリ「な…? このあたしに皮肉だなんて、あんたいい度胸してるじゃない!」

語気は強いが、こんな事を言いながらもミナセさんは笑顔だ。

ヒビキ「特に、チハヤがアイドル候補って知らされた時のイオリ凄かったもんなー」

イオリ「あ、あんたたちねー!」

ユキホ「ふふ、あの時は私たちも口をはさめなかったもんね、マコトちゃん」

マコト「そうだね。 でも、チハヤも『関わらないで』オーラを出しながらも、
    自己紹介のときにボクが言った『早く仲良くなりたいし、ボクの事は呼び捨てにしてよ』って言葉の通り、ボクの事だけは呼び捨てにしてたからね。
    もっと早くこうするべきだったかもね♪」

チハヤ「………!」

自分自身も意識していなかった私の心の奥を見透かされたようで、思わず言葉に詰まる。
鏡がなくても、熱をもった私の顔が赤面しているのはわかる。

チハヤ「もう! 先に言ってるわよ!」

赤く染まった顔を見られたくなくて、それだけ言い残して走り出してしまう。

ヒビキ「あはは! そういえばアズサ、前に話してくれた妹さんが見つかったんだって?」

アズサ「ええ、あの事件の後にお話して、もう少ししたら一緒に暮らす事になると思うわ。
    双子の姉妹も一緒にって事だったから、これからまた楽しくなりそうね~」

イオリ「あの事件絡みって時点で一癖も二癖もあるんでしょうね…。 ま、アズサの妹だっていうのなら歓迎してあげるわ! ついでにその双子もね!」



チハヤ「はぁ…はぁ…」

走りながら、私の特等席だったあの桜の木が視界に入る。
ハルカに会える気がしてしばらくは毎日足を運んでいたのだけれど、最近はあまり行かなくなってしまったわね。
…一度もハルカに会えなかったのは、つまりそういう事なのだろう。

チハヤ(あるべき場所に還る…か)

足を止め、桜の木へと体を向ける。
春の香りがする風を身に受けながら、初めての親友に伝えよう。


私、あなたのこと忘れない―――――

終わりです。
お付き合いくださってありがとうございました。

序盤の方で指摘されたニコニコの記事ともうひとつの眠り姫SSについては見たことありません。
劇マスの嘘予告という同じ映像を題材にしてるので発想が似通ってしまったのかもしれません。

それと途中で気づいたんですが、『魔翌力』がこちらにコピペすると『魔翌翌翌力』となってますね。
別に何かの用語とかじゃなく普通に『魔翌力』と書きたかっただけでした。

えー、なんか『翌』が増殖してる…

sage進行にするべきなのかと思ってましたが、そうでもなかったみたいですね…。

蛇足かとも思いましたが、本編内で書ききれなかった部分をちょいちょい投下していこうと思います。

千早の衣装やマイクスタンドがないし最初に皆で美希の封印を見付けて鍵が掛かってるのに気付くシーンとか一部実際の映像と台詞が違ったりするね

・ハルカ
過去にミキと同世代のアイドルとして選ばれた。
ミキが軍事利用に際して激しく抵抗し暴れたため、それが隠れ蓑となって比較的平穏に過ごす。
ミキが封印されてしまったため、ミキが復活した際にミキを止めるため自らを桜の木の下に封印する。
が、封印するのもされるのも自分で全て独りでやったため、封印自体が不完全で体は朽ちてしまう。
(体は死んで、力によって精神だけが残ってる幽霊状態)
実はハルカ以外の生徒たちには見えても聴こえてもいません。

・タカネ
能力は『魔法』
といっても大げさな魔法が使えるわけではなく、作中でやっていたような変装、催眠、
簡易的な洗脳(といってもちょっとした記憶改変や簡単な命令しかできず、能力者には通じにくい)といったちょっと便利な能力程度。
ちなみに能力者の力の大小を『魔力』と表現してますが、他にいい言葉が思い浮かばなかっただけです。
本当は超能力的なイメージで書いてました。

・全体的に
問題なさそうな部分というか嘘予告で特に描写のなかった部分は出来るだけ演じるアイドルをそのまま持ってきてます。
が、ヒビキは嘘予告で一人称が「私」だったため「自分」という一人称を使えず…。

>>65
千早の衣装やマイクスタンドについては特に描写をしなかっただけで、設定としてなくなってるわけではありませんでした。 すいません。
ハルカと合体するシーンなんかは嘘予告の映像を脳内で流していただけると…。
最初に皆で鍵を見つけるシーンも描写は省略してますが、イオリが「掃除の時に見つけたカギ?」って言ってるあたりで回想として入ったと思っていただければ…。
扉の方を見つけるシーンってありましたっけ?
映像との台詞の違いは、前後に台詞を付け加えたりはしてますが、なるべく映像の台詞はそのまま持ってくるよう気をつけたつもりです。
それでも違ってるところがあるなら完全にミスですね。 すいません。

×ハルカ以外の生徒たちには→○チハヤ以外の生徒たちには

書ききれなかった部分はいっぱいあったのに、いざ書き出そうとすると書く内容が出てきませんね。
HTML化依頼して落ちようと思います。
ありがとうございました。

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