京太郎「魔戒騎士它狼-TARO-」 (26)

闇に潜む魔獣・ホラー。
古より奴らは魔界に生息し、陰我のあるオブジェから人間世界に出現してきた。
人間の魂と肉体を喰らうために……。
人間の邪心がある限り、陰我は生まれ、ホラーは出現する。
しかし、ホラーと戦うためにその身を捧げた者達がいた。
闇を切り裂く希望の光。
彼らの戦いは終わることはない。

そして、今夜も。

第一話「嶺上」


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夕焼け。

夕焼けは、一日の僅かな時間にしか存在しない。
一日中の夜を、世界の果てでは見ることができる。
一日中の朝を、世界の果てでは見ることができる。
けど、一日中の夕焼けだけは、世界のどこを探してもみることができない。

夕焼けは、誰のもとにも留まらない。

けれど、夕焼けは誰かの心に焼きついている。

それは、自由で、身勝手で、奔放で、けれど私の心をつかんで離さない。そんな彼に似

「おい京太郎」

夕焼けの教室、一人高らかに手に持つ詩を朗読する金髪の少年と、それを邪魔する声が響いた。

「なんだよ『ルル』、今いいところなんだ」

金髪の少年は自らの楽しみを邪魔する声に顔を渋くするが、教室内には彼の他に一人として存在していなかった。

「この本にヤツらは憑いていない、早く別のを探せ」

しかし『ルル』と呼ばれた声は返事をする、まるで幽霊か何かのように。

「わかったよ、いたいけな少女の秘密を暴くのはここまでにしておく。次は……これ自作小説か?『私の名前は波垣さや、どこにでもいる普通の女子高生……』あいつが普通だとは思えないんだが」

彼も、それをまったく不自然なことだとは感じていない。

「なかなか興味深い作品だがこれも違うな」

「と、なるとあとは本人……」

声と彼がなにやら今後の方針を決めようとしていると。

「……京ちゃん」

彼が漁っていた机の本来の持ち主である。

「なにやってるの?」

そして、彼のクラスメイトで幼馴染みである……宮永咲が。

「……宝探し」

教室の入口からどこか焦った顔をした彼……須賀 京太郎を見つめていた。


宮永 咲、彼女が須賀 京太郎という人物を思い浮かべる際に付随する言葉は友人、幼馴染み、金髪、ハンドボール、えっち、自由、身勝手、奔放……と様々だが、そこに怪しさや、何か隠し事をしているような。

秘密を背負っているような。

そのような薄暗さや重悲しさとは無縁の人物であることは確かなのである。今までは。

けれど、今この瞬間。彼は私に隠し事をしているということを、彼女は確信していたし、事実それは核心であった。

「京ちゃん、これはどういうこと」

「イヤスコシオモチサガシヲ」

てか、モロバレって感じ。

「私がたまたま持っていた友達の自作小説『ラブラブ学園パニック』にお餅も何もないよ、とぼけてないで本当のこと言って」

「いや、それ絶対お前が書いたや」

「本当のこと言って」

「だから、それはお」

「本、当、の、こ、と!」

「……カビパン入ってないか心配になって」

「怒るよ」

「ごめんなさい」

というか土下座である。

いたいけな少女のプライバシーを覗いた罰としては、軽い方ではないだろうか。

「京太郎、もう話したらどうだ?」

突如、二人の会話を引き裂くように再び声が響く。

「だ、誰?」

「『ルル』、お前喋るなって……」

「どうせ憑いているのはこの少女みたいなものなんだ……どのみち避けては通れない道さ」

「京ちゃん、この声、誰?京ちゃんは知ってるの?」

混乱する少女を放置したまま、二人の会話は続く。

「道だけにって?」

「京太郎、俺は気が長くないぞ」

「わかってるよ……咲、これから話すことはコメディやファンタジィじゃなく混じりっけなしのノンフィクションだ」

声の謎に戸惑う咲に、京太郎が話しかける。これ以上いったい何が起こるというのか、ただでさえ友人の不振行為や苦手な……そういったものでもいそうな雰囲気だというのに。

咲の背に、京太郎の右腕がまわされる。

「きょ、京ちゃん……何を」

突然のことに、顔が赤くなる、胸の鼓動が早くなる、先ほどの声のこともすっかり頭から抜けてしまった。

長い睫毛、整った鼻、真っ直ぐこちらを見つめる瞳、その左腕に輝く指環……指環?

唐突に彼女の意識は浮上する。

指環は。

「やあ、お嬢さんはじめまして。魔導輪のルル……平たく言えば、お化けだ」

生きて、声を出していた。

「……きゅう」

「やっぱり気絶したか」

咲は京太郎に支えられ沈む意識の中、これは確かにコメディでもファンタジィでもなく。

ホラーだ、と。

そんなことを思っていた。

ホラー

魔界と呼ばれる、この世ならざる世界の住人である。

森羅万象あらゆるものに存在する『陰我』と呼ばれる闇に寄生するため、その『陰我』を持つオブジェクトの影を『ゲート』という通り道にしてこの世に現れる。

『陰我』に寄生した『ホラー』はその陰我に応じた、適性した姿に変化して人を食らい始める。

「……それ本当の話?」

「本当の話さ」

出来の悪い、質の悪い、話だった。

「それで京ちゃんがその……」

「ホラーを狩る、『魔戒騎士』だよ」

とても騎士なんて柄ではないと思うんだけど……という言葉を咲は自分の胸に閉まった。

「まだまだ半人だけどな」

「うるせーぞルル」

「で、そっちの指環……ルルさんは」

「魔導輪……言うなれば魔戒騎士の相棒でお助けアイテムみたいなものさ」

「よろしく、お嬢さん」

「よ、よろしくお願いします」

場所を変え、咲の部屋で座して話す二人と一人外。
空はいまだに夕焼けである。

夜になる前に、決着をつけなければならない。
京太郎は本題を切り出す。

「そう、それで本なんだよ咲」

本。京太郎が咲の机を漁るという真似をしてまで、手にすべきもの。

「それに、『陰我』……だっけ?それがあったの?」

「ああ、あまりに薄い臭いだったから……辿るのに時間が掛かったけど、放課後になってようやく咲から漂っていると気づいてさ」

「うむ、あれは薄い臭いだったが確かにその少女から漂ってきていた」

「臭いだとか、漂ってきたとかやめて欲しいんだけど……というか私じゃなくて本でしょ!?本!!」

「もう『陰我』に寄生したホラーが変化して咲に憑いてたらどうしようかと思っててさ、いやー確認もすんだしよかった」

「もしかしてさっきのライターの火を目の前にシュバッてしたヤツ!?怖かったんだから説明してよ!」

脱線。

「ともかく本、ああいう煤けた臭いは本特有の……ゲートが繋がる直前のものだ、というか今もプンプン漂っている」

「うぅ……なんか嫌だなぁその言い方。ともかく、今日からなんだよね?だったら、昨日買ったこれ、かな」

それは一冊の古本。題名は……。

「掠れて読めないな」

「でも、なんだか気になって買っちゃったの……学校で読もうとしたんだけど、今日に限ってやたら忙しくて」

「そりゃ、先生や委員会に感謝だな」

「なんだか気になって……というのは『陰我』の濃いもの特有の人を引き付ける感覚だ、お嬢さんは鋭いな」

「えへへ、ありがとうございますルルさん」

「被害者の素質があるって、皮肉られてるんだぞ」

そんな、会話をしている内に。

夜。

「……本を貸せ、咲」

「う、うん京ちゃん」

突如変わった幼馴染みの雰囲気に、威圧されてか、素直に従う咲。

「ルル、これは」

「ああ、既に」

繋がっている、とルルが言い切る前に。

ほんから

そんな、会話をしている内に。

夜。

「……本を貸せ、咲」

「う、うん京ちゃん」

突如変わった幼馴染みの雰囲気に、威圧されてか、素直に従う咲。

「ルル、これは」

「ああ、既に」

繋がっている、とルルが言い切る前に。

本から、

闇が、

影が、

黒が、

負が、

非が、

敗が、

不が、

邪が、

怖が、

卑が、

恐が、

零が、

夜が、

溢れ、

て、

い、

く。

「こ、これが」

咲は、溢れてくるナニカを呆然と見つめ、驚愕していた。

「ホラー」

「違う」

「え、ルルさん?違うって……じゃあこれは」

もっと恐ろしいナニカなのか、と開こうとした口にナニカが一欠片入り込む。

「うぇっ」

と、思わず吐き出すももしかしたら憑かれた?という恐怖が身体を、脳を支配する。そんな中。

「これは虫だ」

ルルの冷静な声が届いた。

「……虫?」

「ああ、虫」

咲は一気に冷えた思考で視界を確認する。

たしかに、よく見てみると細かい脚がついており羽根や甲殻もある……今まで自分が見たことのないデザインではあるが確かに、虫だ。

「……うぇええええええ」

「おい、京太郎……お嬢さんが吐いたぞ」

「ええ!?しゃあない、すぐに片付けるか」

嘔吐する少女の横で、少年が、いつの間に、どこから取り出したのか一振りの剣を掲げ宙に円を描く。

一瞬の間。

その後に少年の姿はなく、青銅色の鎧を身につけた騎士がそこにいた。

「いけ、京太郎。魔戒騎士……いや、魔戒虫退治它狼の名の下に!」

「おう!」

数秒の後、部屋には少年と指環、少女と吐瀉物しか残っていなかったという。

「魔界虫?」

片付け、着替え、不貞腐れを経て咲は京太郎に聞いていた。

「そう、そもそもホラーが出るほどのゲートってのはそうそう開くもんじゃないんだ」

あの思い出すのもおぞましい事件は一体なんだったのかを。

「そこまでの陰我が溜まる前に『番犬所』っていうところに所属するプロの魔戒騎士さん達が影を浄化したりして定期的に均衡を保っているからまずありえない」

けど、と京太郎は続ける。

「ホラーが通れなくとも魔界に存在する小さな生き物が通れるゲートや、それが発生してしまう小さい陰我までは流石に全部カバーできない」

そのために俺たち、見習いがいる。と京太郎は一旦言葉を切り、相棒のルルに言葉を促す。

「魔界にも花や虫なんかがいる、それらもゲートを通じてこちらの世界に来てしまうが……力が弱く、しばらくすると死んでしまう上に人間に与える影響も少ない」

「うぷっ」

その味や質感を思い出したのか口を手で押さえる咲、どうやら例外的に影響は根深そうである。

そんな咲に構わず話を続けるルル。

「例えば今回の魔界虫、魔界天道虫は小さなゲートから群で現れ周囲の人間の胃を弱くする」

「ああ、だから咲は……」

というデリカシーのない京太郎の一言に、咲は体当たりで応える。

「ま、まぁともかく俺たちはそういう小さな陰我やゲート、虫を処理する下請けの半人前ってことだ」

「だったらホラーとかそういう話しないよ京ちゃん!私今日眠れないよ!」

「いや、最悪の場合はそういうこともあるっていう痛っ!噛むな!」

「あれ咲、お客さんかい?」

「お、お父さん!?これは違うの……これは……」

騒がしくなった宮永宅の中で、ルルはやれやれと呟く。

「随分騒がしい夜だ」

それは誰も不幸にならなそうな、楽しい夜だった。

第一話「嶺上」了……良

というわけで咲×牙狼-GARO-です。
シリアスも考えたけどやっぱり可愛い女の子にはコメディだよね。

オリジナル魔導輪のルルはルルーシュから。
魔界虫らへんの設定はオリジナルです、いそうだけども。

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