【艦これ】伊勢「超弩級戦艦、伊勢型の1番艦伊勢、参ります!」日向「その2だ」 (271)

以前書いていたものの続きになります。
よろしくお願いします。


【艦これ】伊勢「超弩級戦艦、伊勢型の1番艦伊勢、参ります!」
【艦これ】伊勢「超弩級戦艦、伊勢型の1番艦伊勢、参ります!」 - SSまとめ速報
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~伊勢と日向の部屋~

青葉「報告書によりますと、『我が軍の機動部隊は以前より演習を重ね──」

青葉「──最新鋭の戦闘機を用いて奇襲を成功させた』、となっています」

日向「送り出した利根、筑摩、阿武隈は支援部隊だったというわけだな……」

伊勢「『以前より演習を重ね』……か」

伊勢「どおりであんまり合わなかったわけね……」

青葉「既に長門さんを損傷した空母を収容するために送り出していたようですが」

青葉「無駄足だったようですね」

伊勢・日向「……」

青葉「あと鎮守府を離れたのは利根さん達だけじゃないようです」

伊勢「えっ!? 他の娘も行っちゃったの?」

青葉「はい。えーっと、私が知っているのは夕張ちゃん、天龍型姉妹、睦月型姉妹ぐらいですかね」

青葉「他にも居ない娘もいるんですけど、輸送任務扱いになってました」

青葉「どうやら今回の作戦では完全に情報封鎖を行っていたようですね」

伊勢「──大体分かった。ありがとう、青葉」

青葉「いえ、私もお部屋にお邪魔しちゃってすいません」

青葉「でも提督から伊勢さんたちにと渡された資料がどうしても気になっちゃいまして……」

日向(なんで青葉に渡したんだろうな……)

伊勢「そういえば提督はどこに行ったの?」

青葉「青葉にこれを渡してどっかに行っちゃいました」

伊勢「そう……」

青葉「あっ、あと提督からお二人に伝言が」

日向「うん? なんだ?」

青葉「『今回のことを黙っていてすまなかった』だそうです」

日向「そうか……」

伊勢「……」

青葉「──じゃあ、青葉はもう帰りますね」スッ

伊勢「うん、おやすみ」

日向「おやすみ」

青葉「おやすみなさい」バタンッ

伊勢「……」

日向「……」

伊勢「……ねぇ?」

日向「……」

伊勢「……ねぇってば」

日向「──どうしたんだ?」

伊勢「……何か話そうよ……」

日向「何かって……何をだ?」

伊勢「何かは何かだよ……」

伊勢・日向「……」

日向「わかった、わかったよ……」

日向「そうだな、私も伊勢と同じ気持ちだ」

伊勢「……」

日向「こう何て言えば良いのかな……?」

日向「戦う為に生れてきたのにその機会を与えられないというのは……」

日向「……なんとも歯がゆいものだな」

日向「……さぁ、私はしゃべったぞ?」

日向「次は伊勢の番だな」

伊勢「えぇ~……私もぉ~?」ダルー

日向「当然だろう?」

伊勢「うーん……何というか」

日向「……?」

伊勢「提督に会いたいな」

伊勢「……最近、全然話してない気がするからから会ってお話したいなぁ……」

日向「……どうしたんだいきなり?」

日向「会ってないというほど疎遠ではないだろう」

伊勢「いやぁ~、本当はこんなに提督大好きっ子じゃないはずなんだけどさ」

伊勢「なんだかねぇ~」

日向「……なかなか可愛いところもあるんだな」フッ

伊勢「今の私はちょっと茶化されたぐらいじゃ怒らないのです」

日向「……お前は電にはなれないからな」



電「……へくちゅ!?」

雷「風邪!? 今すぐお薬とお布団の用意をしなきゃ!?」

電「なのです!?」

中途半端ですが今日はこの辺で。

投下します。

日向「提督も忙しそうだしな」

日向「宣戦布告を行った上に新型装備の開発まで任せられて」

伊勢「そりゃ私たちに構ってる時間もないよね~」

日向「工廠妖精が優秀なのを良いことに丸投げされているようだしな」

日向「自分の専門じゃない射出機の開発まで任されているしな」

伊勢「寂しいね~」ゴロゴロ

日向「……人のベッドの上で転がらないでくれ」



伊勢「これからどうなるんだろうね?」

日向「どうって、何がだ?」

伊勢「いや、私達の生活はどう変わるのかなぁって」

日向「うーん、難しいな」

日向「やはり、今まで訓練を積んできたのだから一戦交えたいという気持ちはあるが……」

日向「燃費も悪く低速で空母と比べて射程も短い私たちは援護に回ることが多くなるんじゃないかな?」

伊勢「うっ……随分辛口ね……」グサッ

日向「本当のことを言ったまでだ」



日向「駆逐艦や巡洋艦の方が使い勝手が良いかもしれないな」

伊勢「あの子たちも戦地に行くのかぁ……」

日向「──大丈夫だ。皆優秀な艦船たちだ」

日向「……大丈夫だ」


───

──



~提督の執務室~

伊勢「えーっと、この書類がこっちでこれが……」ゴソゴソ

伊勢「あっ、これ提督のハンコ貰わないと……」

日向「……資材の発注も大変だな」カリカリ

伊勢「最近多いわね~。まぁ、前とは状況が違うしね」

日向「そうだな」


伊勢「うーん、疲れた~。もうお昼か~」ノビー

日向「昼食は全部片付いてからだな、少し休憩にしよう」

伊勢「……そうね。お腹すいてるけど…」グゥ~

伊勢「ちょっと、お茶入れてくるね」ヨット…スタスタ

日向「ああ、ありがとう」

──ガチャ

提督「二人ともいるか?」

伊勢「わぁ!? びっくりした~」

提督「おっと、済まないな。何か用事があったのか?」

日向「いや、ちょっと休憩しようと思ってな。大したことじゃないさ」

日向「──で、私たちに何か用かな?」



提督「お前たちに見せたいものがあるんだが」

提督「悪いが工廠まで来てくれないか?」

伊勢「もしかしてカタパルトですか!?」ハッ

日向「ついに私たちにも艦載機が…」シミジミ

提督「今の君たちのどこにカタパルトを載せるスペースがあるんだ……?」

日向「むぅ、それもそうだな」

伊勢「えぇ~……」ガーンッ


提督「なんだ? 艦載機なら既にあるじゃないか、水上機だが……」

伊勢「いやぁ~、赤城とか見てると偵察機じゃなくて戦闘機が欲しいなぁ~って」

提督「また贅沢な……」

日向「確かに今の私たちには載せる場所がないな」

日向「水上機を降ろすだけで手一杯だな」

提督「だろう? それに今は一航戦、二航戦や五航戦もいる」

伊勢「五航戦?」

提督「ああ。翔鶴と瑞鶴だったかな。最近配備された正規空母だ」

提督「今回の奇襲作戦にも主力では無いが参加したようだな」

伊勢「あぁ~、新人さんにも先を越されちゃったかぁ~」

提督「あと最近になって軽空母も幾つか増えたようだな」

伊勢「軽空母?」

提督「ああ、正規空母よりは小さいが戦闘能力は十分ある」

提督「開戦前に他から艦娘を引っ張ってきて改装したらしいな」

日向「では、以前から着々と準備は進められつつあったというわけか」

提督「まぁ、そういうことだな」


提督「確かに、以前から流れはあったんだ」

提督「軍縮条約が無くなってから着々と艦娘を増やしていたしな」

日向「ふむ……なるほど」

伊勢「で、でも作戦については知らされていたんですよね?」

提督「まあ、この鎮守府からも支援の為に何人か出撃したからな」

提督「彼女らには概要だけ伝え後は現場指揮官に従うよう指示した」

提督「艦娘の中には訳も分からず連れてこられて決行直前に知らされた者もいるらしい」

伊勢「そこまでして……」

提督「ああ。奇襲作戦というのはそういうものだ」

提督「だから君たちにも内容を教えるわけにはいかなかったんだ」

日向「そうか……」

伊勢「いやぁ、私達はてっきり仲間外れにされちゃったのかと」アハハ…

提督「なんだ? そんな心配していたのか?」ハハハ


日向「ところで、工廠に何かあるのか?」

提督「おっと、大分話が逸れたな」

提督「ちょっと見せたいものがあるから来てくれないか?」

日向「開発工廠か?」

提督「いや、建造のほうだ」

伊勢「建造? って、いつの間に?」

提督「本部から直接且つ極秘で指令が来てな…」

日向「資材を使った形跡もなかったが?」

提督「資材調達も全て俺がやった。必要材料でさえ表に出すわけにはいかないからな」

伊勢「そこまでして……」

提督「内部の構造に至るまで全て極秘。妖精も自分の担当区域以外の構造は知らされていない」

提督「全容を知ってるのは上層部とこの鎮守府だと俺と建造妖精の親分ぐらいだな」

日向「彼は全部知っているのか」

提督「大丈夫だ。あれはあれで口が堅いからな」ハハハッ


提督「じゃあ、俺は先に行ってるからな。直ぐ来るように」バタンッ

日向「新しい艦娘か、楽しみだな」

伊勢「これも開戦に伴う戦力増強かしら?」

日向「そうだろうな。しかし、そこまで隠す必要があったのか?」

伊勢「確かに。私も気にしていなかったけどずっと建造工廠には入っていなかったわね」

日向「──そうか。少し前の視察の目的はカタパルトなんかじゃなく新型艦娘だったのか?」

伊勢「視察って……あっ?」ソウイエバ…

日向「よく考えればカタパルト自体は最新鋭の兵器ではないからな」

日向「本当の目的は新型艦娘の建造状況と考えるのが妥当だろう」

伊勢「二人揃って茶菓子に釣られたわけね」ヤラレタ…

日向「そういえばそうだったな……」

日向「建造妖精、なかなか侮れない奴だ」フゥ…

今日はこんなところで。また投下します。

投下します。



~建造工廠~

大和「大和型戦艦、一番艦、大和です。宜しくお願いします」

伊勢「おお~っ」スゴイ…

日向「これは凄いな。こんなに大きな主砲見たことない」

提督「凄いだろう? 新型の46センチ3連装砲だ」

伊勢「46センチ!?」

日向「大艦巨砲主義もここまでいくと凄いな……」コレハ…

提督「お前らも同じようなもんだろう……」




提督「じゃあ、俺は色々と報告しなきゃいけないことがあるから……」

提督「取りあえず二人で大和に鎮守府と居室を案内してくれ」

伊勢「うん、分かった」

日向「了解した」

大和「宜しくお願いしますね」ペコッ



~案内中~

大和「お二人はこの鎮守府に来られてから長いんですか?」テクテク

伊勢「そうね~。ここでは一番の古参かも」テクテク

大和「ではずっとあの提督と一緒にお仕事をされてきたんですね?」

伊勢「そうね~。まあ主に事務仕事と演習だけど」

日向「あと新型艦の指導係かな」

大和「そうなんですか」

大和「……三人共、仲が良さそうで羨ましいです」

伊勢「そうかなぁ~」テレテレ

日向「まぁ、鎮守府が出来た時からずっと一緒にいるしな」

大和「……」

大和「今回のこと、あまり提督を責めないでくださいね」



伊勢「えっ?」

大和「私の建造に関しては本当に極秘事項が多かったんです」

大和「もうやり過ぎだと思うぐらいに──」

日向「……」

大和「私の建造に関する情報統制については聞きましたか?」

伊勢「うん。少しだけなら……」

大和「そうですか」

大和「私が言うのもなんですが仕方がなかったのです」

大和「恐らく巨大な戦艦を造り相手を出し抜く目的があったのではないでしょうか」

伊勢・日向「……」



───

──




ちょっと席を外します。

戻りました。再開します。



~大和の部屋~

大和「今日はありがとうございました。ではお休みなさい」

伊勢「いえいえ、お休みなさ~い」

日向「お休み」

──バタンッ

伊勢「じゃあ、私達も戻りますか」

日向「そうだな。一度執務室に行って報告だな」

──テクテク

伊勢「ふぅ~、それにしても今の時期に新造艦かぁ~」

伊勢「まぁ、戦況がどうなるか分からないけど戦力増強にこしたことは無いわね」

日向「そうだな。大和は大きな戦力になるだろう」

伊勢「特にあの46センチ砲ね」

日向「ああ。あれだけ大きければ敵戦艦の射程外から砲撃できる」

伊勢「頼もしいわね」



~執務室前~

──コンコン

提督「どうぞ~」

──ガチャ

伊勢「失礼します」

提督「おっ、終わったか。それにしても随分時間がかかったな」

日向「同じ戦艦同士だ。話題には事欠かないさ」バタンッ

提督「なるほど。そういえばお前達以降初の戦艦だな」

伊勢「そういえばそうですね。最近は小型艦ばかりだったから」

提督「まあ、色々と制約があったし、最近は空母のほうに力を入れていたからな」

提督「大和の様子はどうだ?」

日向「多少緊張はしているようだがやはり落ち着きがあるな」

日向「淑やかさとどっしりと構える余裕を持っていると思う」

提督「なるほど。流石は戦艦といったところだな」

提督(時々落ち着きのない奴もいるけど……)

伊勢「……?」





日向「彼女もこれからは実践に向けて訓練するんだろう?」

伊勢「じゃあ、私たちと一緒に演習しなきゃ」

提督「実は彼女の運用については上層部でも意見が分かれていてな」

伊勢「どういうことですか?」

提督「いや、まあ……普通運用するには何かと不便な大きさになってしまってだな」

日向「確かに資材の消費量はケタ違いだろうな」

提督「まあな。まだ試算の段階ではあるが心臓に悪い数字だ」

提督「恐らく実戦投入は大分先だろう」

伊勢「私たちも実践投入されていない身だしね」

日向「戦わない戦艦……か」ボソッ…

提督「抑止力になればそれでいいんだ」

提督「……と、言いたいところだがここ最近の情勢ではそうも言ってられないようだな」

伊勢・日向「……」

提督「今回は奇襲に成功し、こちらの損害は無かった」

提督「だが今後はどうなるか分からない。戦況は変化する」

提督「傷付いて帰ってくる者もいるだろうし、最悪の場合帰ってこないものも出てくるだろう」

提督「君たちもそれを覚悟し、他の者達──特に駆逐艦、軽巡辺りだな──彼女らをサポートしてやってくれ」

伊勢「了解です」

日向「了解した」

提督「頼んだぞ。これは私からのお願いだ」

伊勢・日向「……」




───


──



今日はこのへんで。

なかなか遅筆ではありますがよろしくお願いします。

>34
ありがとうございます。ただいまです。

>35
私もそんな気がしてきました。

少し間が空いてしまいました。投下します。



~三週間後・提督室~

伊勢「……うーん」カリカリ

日向「……」

伊勢「……えーっと、あれ?」

日向「どうしたんだ?」

伊勢「えーっと、あっ、大丈夫大丈夫。解決しました!」

日向「ならいいが……」

伊勢・日向「……」カリカリ



──コンコン

伊勢「どうぞー」

──ガチャ

天龍「おーう、帰ったぜー」

伊勢「あっ、お帰りなさい!」ガタッ

龍田「只今帰りました~」

阿武隈「帰りました~」

夕張「あぁ~疲れた……」フゥ…

利根「なかなかの強敵じゃったな」

睦月・望月「……」



日向「よく帰ってきた。お前たちの戦果は聞いているぞ」

天龍「へぇ、また随分情報が早いんだな」

龍田「そうね~、まだ数日しか経ってないのに……」

伊勢「えっ? もう三週間位経ってるけど?」

夕張「それはおかしいですね?」

日向「一航戦、二航戦と一緒だと聞いていたが?」

天龍「俺たちが一緒だったのは二航戦だけだぜ?」

伊勢・日向「えっ?」

天龍「俺としたことがちょっと手こずっちまってな。帰還途中の蒼龍と飛龍に応援を頼んだんだ」

伊勢・日向「……?」

天龍「あっれ? 俺なんか変なこと言ったか?」

利根「あぁ……大体分かった。悪いのは提督じゃな」



──ガチャ

提督「おーう、なんだか賑やかだな」

天龍「おっ、提督じゃねーか。どうやら伊勢と日向には俺様の活躍が伝わっていないようだぜ?」

提督「天龍の活躍……?」

伊勢「……」

日向「……」

天龍「どうした? 声も出ないか?」フフン

夕張「……アハハ」

龍田「天龍ちゃん、分かってるでしょ? 提督さん、私たちの活躍には興味がないみたいよ?」

龍田「私たちを最前線に出しておきながら良いご身分ね~」

提督「……うっ、すまない。作戦概要は把握していたんだけどな……」

天龍「ちっ、分かってたよ」

提督「上層部は奇襲作戦成功で歓喜しているみたいだしな」

提督「結果についてはまだこちらに情報が伝わっていないんだ」

天龍「へぇ~、提督ってのは何でも知っているのかと思っていたぜ」

提督「上には上がいる……そう解釈してくれ」



提督「で、どうだったんだ?」

提督「君たちが従事したのはウェーク島だったな、確か」

天龍「それが……」

提督「……」チラッ

睦月・望月「……」

提督「……何かあったのか?」

天龍「……作戦自体は成功した。今ウェーク島は俺達の占領下にある」

提督「そうか、あそこは敵哨戒基地もあったし輸送機の中継地でもあったしな」

提督「よくやってくれた、ありがとう」

天龍「でもな……」

提督「どうした?」

天龍「……まあ、あれだ。一回目の攻撃の時に手こずっちまってな……」

睦月「あの……提督、これ」スッ

提督「……これは」

望月「……」

提督「そうか……如月がいないとは思っていたが」フゥ…



日向「これは……」

伊勢「──如月が着けてた髪飾り……?」

天龍「一回目の攻撃作戦が失敗して撤退途中に敵戦闘機の爆撃を受けてな……」

夕張「あとちょっとで海域から出られたんですけどその手前で……」

提督「そうか……君たちは無事だったんだな?」

天龍「まあ、大分消耗はしたけどな。何とかって感じだ」

天龍「空襲が収まって現場まで戻ったんだけどそれくらいしか見つけられなかった」

提督「………」

提督「──海軍ってのは海の上で死ぬから何も残らないと兵学校時代の教官が言っていたが」

提督「それは艦娘も変わらないようだな」

伊勢「………」

日向「………」



夕張「その後、奇襲攻撃から帰還途中の娘達に応援を頼みました」

利根「そしてわしらが加わって何とか相手を倒すことができたのじゃ」

提督「──蒼龍と飛龍も来たと言ったな?」

夕張「はい、こちらの無線を傍受して応援を送ってくれたようです」

提督「そうか、今度礼を言わなければな」

伊勢「……」

日向「……」

提督「取りあえず君たちだけでも無事で良かった」

提督「少しでも装備に不備があるものは入梁してくれ」

提督「あと補給は全員するように」

一同「了解しました」

提督「伊勢と日向も入梁・補給を手伝ってやってくれ」

伊勢・日向「了解」

提督「私からの指示は以上だ。解散別れ」


───

──






~入梁ドック~

伊勢「じゃあ、睦月と望月はこっちね」

睦月「は~い……」テクテク

望月「ああ~しんど~」トボトボ

伊勢(さっきまでは落ち込んでた様子だったけど……)

伊勢(──やっぱり強い娘達だなぁ)

伊勢(私だったら──もし日向が突然いなくなったら…)

伊勢(私どうなっちゃうんだろう?)

伊勢「……」ボーッ…

睦月「──伊勢さん……?」

伊勢「うわっ!? ごめんごめん、ちょっとぼーっとしちゃって……」

伊勢「……って、睦月、泣いてるの?」

睦月「──ぐすっ」コクッ



睦月「私は……やっぱり寂しい。今まで如月ちゃんとはずっと一緒にいたから……」グスッ

睦月「あの時も一緒にいたのに……守れなくて」

伊勢「……」

睦月「──私お姉ちゃんなのに」

伊勢「睦月……」ギュッ

睦月「……? これは……」

伊勢「いやぁ、少し落ち着くかなと思って」アハハ

伊勢「……嫌だった?」

睦月「嫌じゃないよ……。あったかい……」ギュウ

伊勢「私はね、まだ自分の妹を失ったことがないから睦月の気持ちを知ることは出来ないの」

睦月「……うん」コクッ

伊勢「でもね、これだけは言わせてほしい」



伊勢「睦月は頑張った。悪いことなんてないよ」

睦月「えっ? でも……!?」

伊勢「ないったらないの。まだ今は気持ちの整理がつかないかもしれないけど……」

伊勢「そんなに自分を責めないで、ねっ?」

睦月「………」

睦月「……うーん、まだ難しいかも」

伊勢「ゆっくりで良いんだよ」

睦月「……うん、頑張る」

伊勢「よしよし」ナデナデ



伊勢「望月はどうなの?」

望月「いやぁ……私はいいよー」

伊勢「いいって何が?」

望月「いや……そのギュッてされるの」テレテレ

伊勢「遠慮しない遠慮しない」ガシッ

望月「うっ…うわわっ……!?」ギュッ

伊勢「うーんやっぱり可愛いなぁ♪」ナデナデ

望月「……うー」

伊勢「~♪」

望月「……」

望月「……本当はね、まだ実感が湧かないんだ」

伊勢「……うん」

望月「今までずっと一緒に訓練やってきて部屋も近くていつも一緒にいたから──」

望月「部屋で漫画読んでたらまたひょっこり現れるんじゃないかなぁ…って」

伊勢「……そっか」

望月「ほら、私は"その瞬間"を見てないからさ」

望月「避退中だったし黒煙でよく見えなかった」

望月「だから今でも信じられない」

望月「──信じたくないよ……」



───

──



伊勢「じゃあ、二人ともお休み。しっかり体を休めるんだよ?」

睦月「はーい」

望月「は~い」


──バタンッ


伊勢「……はぁ」

伊勢「取りあえず執務室に戻ろうかな」テクテク


──ピタッ


伊勢「あれ? この部屋って……」

伊勢「──そっか。睦月は如月と相部屋だったわね」

伊勢「今日は望月の部屋で寝るのかな……?」

伊勢(やっぱりショックだよね……)



日向「伊勢、こっちの様子はどうだ?」

伊勢「あっ、日向。うん、今二人とも部屋に入ったところだよ」

日向「二人とも寝たのか?」

伊勢「いや、そこまで確認してないけど……」

伊勢「そっとしておいたほうが良いかなって」

日向「そうだな。今はそれが賢明だろう」

伊勢「軽巡のみんなは?」

日向「皆入梁も補給も終わってそれぞれ部屋に戻った」

日向「彼女らはある程度大人だ。心配ないだろう」

日向「しかし、睦月と望月はまだ幼い。しかも自分の姉妹を失っているからな」

日向「心配になって見に来たんだが……ちょっと遅かったようだな」フウッ…

伊勢「そうね」



伊勢「二人ともそれぞれ違う気持ちだけどショックを受けてるよ」

伊勢「まだあまり気持ちの整理もついてないみたい……」

伊勢「でも大丈夫だよ。あの娘達ならきっと乗り越えてくれる───」

伊勢「私たちが信じてあげなきゃ……!」

日向「……そうだな」

──テクテク

日向「とりあえず提督に報告しないとな」

伊勢「そうだね」

──コンコンッ

伊勢「失礼しま……って、あれ?」ガチャガチャ

日向「どうした?」

伊勢「鍵がかかってる……?」

日向「どれ……」

──ガチャガチャ

日向「本当だ、珍しいな」



伊勢「提督どこに行ったんだろう?」

日向「ふむ……」

伊勢「どうする?」

日向「どうするも何も……ここが開いていなければ何もできないからな」

伊勢「だよねぇ……うーん……」

日向「──今日はもう部屋に引き上げよう」

伊勢「そうするしかないかぁ……」

日向「……」



~伊勢・日向の部屋~

──ガチャ

伊勢「ただいまぁ~、うー疲れたぁ……」

日向「演習とは違う嫌な疲労感だな」

伊勢「そうだね……」

日向「……」

伊勢「……」

伊勢「──私もね正直言うとまだ実感が湧かない」

伊勢「今皆が戦っている場所は遠いところだし、まだ鎮守府に直接的な被害は無い」

伊勢「無責任だとは思うんだけどね……何でかなぁ……」ハァ…

日向「そうか……」

伊勢「これが平和ボケってやつかなぁ……?」

日向「平和ボケの一言で片づけられる問題ではないだろう」

日向「そう焦って答えを出す必要もないだろう」

日向「私達は私達で自分の仕事をキッチリとやろう」

日向「実践に備えた演習は勿論、秘書艦としての仕事もな」

伊勢「そうだね、私達も頑張らないとね!」

ちょっと急用ができたので席を外します。
また投下します。

すいません、最近多忙でなかなか書き込めません。

少しづつですが投下していきます。



~翌朝~

伊勢「………」

伊勢(さて、望月の部屋に来たけど……)

伊勢(なんて声をかければ良いのかなぁ……)

伊勢「うーん……」

日向「伊勢っ」

伊勢「わっ!? って日向、急に話しかけないでよ!!」

日向「いや、何回か呼んだんだが」

伊勢「あーびっくりした、というか何でここにいるのよ?」

日向「いやなに、さっき提督と会ってな」

日向「睦月と望月は3日間完全休養とするという提督の伝言を伝えに来たんだ」

伊勢「えぇ~、3日間? 随分短いわね。もっと長くてもいいじゃん?」

日向「今は戦時中だ。3日間でも十分長い」

日向「あとそれ以上の休養を取ると今度は復帰がつらくなるからな」

日向「ブランクが長くなれば勘も鈍るからな」

日向「その辺も考えての期間なんじゃないか?」

伊勢「そういうもんなのかなぁ……?」



伊勢「それにしても提督も早起きね~」

日向「あの人も仕事熱心だからな。あまり休んでいるところを見たことないな」

日向「──で、君は何しにここに来たんだ?」

伊勢「いやぁ、やっぱり昨日あんなことがあったから心配になっちゃって──」

日向「やはりな、君がこんなに朝早くから行動しているのは珍しいからな」

伊勢「なんだか酷い言われようね……」グスッ

日向「どうもこうも事実だろう」ウソナキスルナ



日向「まあ、彼女らに関しては私も気になってはいたんだ」

日向「取りあえずノックしてみるか?」

伊勢「そんなことしたら起きちゃうじゃない!?」

日向「いや、もうすぐ起床時間だから起きているんじゃないのか?」

伊勢「ここはこっそり扉を開けて……」コソコソ

日向「この光景は見られたくないな」コソコソ

伊勢「って言いながら日向も覗き込んでるじゃない」

──ソ~

睦月「……スースー」

望月「……ムニャムニャ」

日向「よく寝ているみたいだな……」

伊勢「そうね。とりあえずそのままにしておきましょうか」

日向「ああ、そうだな」




日向「とにかく私たちは見守ることに専念しよう」

伊勢「残念だけどそうするしかないわね」

日向「提督には私から報告しておこう」

伊勢「わかったわ」

日向「………」

伊勢「……どうしたの?」

日向「──いや」

伊勢「ふーん? まあいいけど」

伊勢「私はご飯食べてこよーっと」スタスタ

日向「………」

日向(伊勢……お前はいなくなったりしないよな……?)




~昼~

伊勢「さーて、お昼御飯も食べたことだし午後も頑張りますか」

日向「そうだな」

──コンコン

─ガチャ

提督「おう」

伊勢「失礼します、お待たせしました提督……って、えっ?」

??「君達が噂の伊勢型艦の二人か話は聞いているよ」

伊勢「………」

伊勢「──って、どちらさま?」

??「うん、まあそれが普通の反応だな」

日向「提督、こちらの女性は?」

提督「俺と同じ提督さ。違う鎮守府で勤務しているがな」

提督「水雷学校高等科時代の同期に当たるんだったかな、確か」

提督「俺より歳は下だがなかなか優秀でな、もう追い越されそうだよ」ハハハ…

女提督「よろしく」

伊勢(綺麗な人だなぁ……)

日向「女でも提督になれるんだな」

女提督「君達も女だけど戦っているじゃないか、同じだよ」

日向「………」



提督「彼女は一航戦や二航戦がいる鎮守府で勤務しているんだ」

日向「演習の時に見かけたときはあるな、遠目からだが」

提督「そうだな、何回か演習に来ていたが。君たちと話すのは初めてかな」

伊勢「そうですね~。今まで他の鎮守府の提督と会ったことはなかったですね」

女提督「今まで演習とかでは結構近くに居たんだけどね」

女提督「なかなかタイミングがなくてね」

女提督「今日は本部に行った帰りにふらっと寄ってみたんだ」

提督「へぇ~、本部に? なんの用事だ?」

提督「わざわざ本部のエロじじい達にセクハラされに行ったのか?」ハハハ

女提督「もしそんなことをすれば残りの少ない人生を流動食しか食べられない最高の生活にしてあげよう」

提督「……うん、セクハラはいけないな、セクハラは」

日向「それ以前の発言自体がセクハラだと思うが……」




提督「で、本当は何しに行ったんだ?」

女提督「ああ、前回の奇襲作戦では私が指揮を執ったんだ」

提督「へぇ、他のお偉いさん方はどうした?」

女提督「奴らは艦娘の扱い方を知らないからな」

女提督「化石的な戦術に囚われている連中には任せられんよ」

提督「なるほどね」

女提督「それで勲章を貰ってきたわけだ」

飛龍「これですよ♪」サッ

提督「ほ~、こりゃまた立派な」

日向「飛龍、お前何時から居たんだ? 喋らないといるかいないか分からないな」

飛龍「いましたよ~、ずっと」ニコッ

提督「あれ? さっき貰ったのにもう外しちまったのか?」

女提督「うん? ああ、はっきり言って邪魔だしな」

提督「さいですか……」

伊勢(勲章を邪魔呼ばわりとは……)

日向(また凄いのが出てきたな……)



女提督「ところで……君が伊勢か?」

伊勢「あっ、はい。伊勢型戦艦一番艦、伊勢です!」

女提督「で、こっちが日向か」

日向「ああ、二番艦の日向だ、よろしく頼む」

女提督「ふーん、なるほどねぇ」

提督「どうした?」

女提督「君の大艦巨砲主義は昔から変わらないようだな」

提督「……どういう意味だ?」




提督「………」

女提督「少し前までは戦艦こそ全てで空母は補助的なものだと考えられていたが…」

女提督「前回の作戦では艦載機が爆弾で戦艦を沈めてその常識を覆した」

女提督「戦艦を沈める艦載機に戦艦を上回る機動力、そして最高の艦載機零戦」

女提督「君も分かっているだろ?」

提督「それは攻撃する場合だろ? 空母じゃ国を守ることは出来ないよ」

女提督「攻撃こそ最大の防御だ、違うか?」

提督「双方に損害を伴い国家情勢を刺激するような防御は俺は防御と認めない」

女提督「………」

提督「………」

飛龍「……あっ、あの……」オロオロ

伊勢「………」

日向「………」

女提督「──まあ、いいさ。今に分かる」

提督「そうかな?」

女提督「この話はもう終わりにしよう」

提督「──そのほうが良さそうだな」

飛龍「……ほっ」


今日はこのへんで。

お久しぶりです。作者です。
ちょっと仕事の関係で年末から年始にかけて更新できませんでした。

最近少し落ち着いたのですが以前よりも遅筆になりそうです。
細々と続けていくつもりですので何卒宜しくお願いします。

投下します。



提督「あっ、そういえば……」

女提督「んっ? どうした?」

提督「ウェーク島に二航戦を送ってくれたのは君か?」

女提督「うん? ああ、あれか。確かに無線は聞いていたよ」

女提督「私はそうではなかったのだが、蒼龍と飛龍の二人が行くって聞かなくてね」

飛龍「えっ? ああ、はい。そうでしたね……!?」

提督「ほーう」ニヤニヤ

女提督「──何だ? 言いたいことでもあるのか?」

提督「ああ、どういう経緯かは興味ないが助かったよ」

提督「二人が来なければ作戦は失敗していた」

提督「ありがとう」

女提督「………」

女提督「君はそういう性格だから出世しないんじゃないか?」

提督「そうかな。まあ、今でも十分だからあまり興味ないよ」


提督「飛龍も、ありがとう」

飛龍「えっ!? あっ、はい」

提督「蒼龍にも宜しく伝えておいてくれ」

飛龍「了解しました♪」

女提督「ふむ、まあいい」

女提督「君ももう一度戦場に出たほうが良いんじゃないか?」

提督「何だまた急に……」

女提督「いや、一度外に出れば昔を思い出すんじゃないかと思ってな?」

提督「思い出すほど大した経験はしていないよ」

女提督「そうかな…君は現場の人間だと思うんだが…」

提督「………」

提督「──考えておくよ」


女提督「そろそろ私はお暇するよ」

提督「そうか? もう少しゆっくりしていけばいいのに」

女提督「私の鎮守府で今も艦娘達が訓練に励んでいる。私がこんなところで油を売っているわけにはいかないだろう」

伊勢「こんなところって……」

提督「聞いたか、伊勢? 俺たちの鎮守府が"こんなとこ"だってさぁ」

伊勢「料理はおいしいし、お風呂はあったかいし……最高なのに」

女提督「──あと最近気になる噂を聞いたんだが」

伊勢「無視か……」

提督「君が噂話か、めずらしいな」

女提督「信憑性があれば十分な情報源だ」



女提督「一つ聞くが……」

女提督「大和は君のところで製造されたんだよな?」

提督「………何を言っているか分からないな」

女提督「ほう」

伊勢「………」

日向「………」

女提督「伊勢」

伊勢「はっ、はい!?」ビクッ

女提督「君も聞いたことぐらいあるだろう?」

伊勢「いやっ……えーっと、その……」

伊勢「………っ」

伊勢「キ、キいたことないですよ?」

提督「伊勢、もういいから黙ってろ……」

伊勢「ううぅ……」ガクッ

日向「まったく……」


女提督「で、大和のことなんだがな」

提督「あーはいはい、いるよいますよ、大和さんは」アーアー

女提督「建設に関する情報を詳しく大本営に送っていたか?」

提督「していたな。図面から改良に伴う設計変更まで詳しく送っていた」

女提督「──なるほど。そういうことか」

提督「自分だけで納得していないで俺にも教えてくれ……」

女提督「既に大和型の二番艦の建造が始まっているぞ」

伊勢「えっ? もうですか」

日向「ほう」

提督「………」

女提督「大和の設計変更点も反映した巨大戦艦になる」

伊勢「えっ? 凄いじゃないですか提督!?」

日向「これだけの戦力増強は大きいな」


提督「──で?」

伊勢「?」

提督「それで終わりじゃないだろう?」

日向「どうしたんだ?」

提督「大和型二番艦の話くらい俺でも予想できている」

提督「わざわざそんなことを言いふらしに来たわけじゃないだろう?」

女提督「──君との話はスムーズに進むから面白いよ」フフフ

伊勢(この二人、意外と仲が良さそうだな……)


女提督「単刀直入に言おう。伊勢、日向」

伊勢「はっ、はい」

日向「なんだ?」

女提督「君たちを練習艦にしようとする動きがある」

伊勢「」

伊勢「……またまた御冗談を」ハハハ…

日向「いや笑い事じゃないぞ」

提督「それはどういうことだ?」

提督「確かに最新鋭の戦艦に比べれば見劣りする部分はあるかもしれない」

提督「だが戦艦としての戦力を考えればまだ問題ないはずだ」

女提督「上層部はどうやらそう考えていないようだ」

女提督「やはり戦闘機で戦艦を仕留められると分かった今」

女提督「巡航速度も遅く燃費も悪い戦艦はこのままどんどん時代遅れになるだろう」

提督「………」


女提督「長く話をしすぎたな。じゃあ、私はこれで」ガチャ

飛龍「じゃあね、みんな」

伊勢「うん、じゃあね」

日向「また」

提督「次来るときは何か手土産ぐらい持って来いよ」


───バタン


提督「………]

伊勢・日向「………」

提督「はあ………」

提督「進歩はなく問題は山積みだな」

日向「彼女の話は本当なのか?」

日向「まだ本部から通達も来ていない情報がなぜ……」

提督「ふむ、まあ確かに日向の言う通りまだ通達は来ていない」

提督「今はこの前の作戦で負傷した者たちの回復に力をいれて」

提督「あるかどうかもわかりもしないが通達を待つとしよう」

伊勢「わかったわ」

日向「了解した」


────


───


──

少し席を外します。

また投下します。

投下します。


~翌日・提督室~

提督「そうか、やはり彼女の話は本当だったか」

大淀「ええ……」

大淀「伊勢型の二人はどうしますか?」

提督「どうするもなにも……」

提督「今すぐにほっぽり出してどうなるものでもないだろう」

提督「それに今までずっと駆逐艦の面倒を見てきたんだ」

提督「彼女たちの存在は鎮守府にとって大きい」

大淀「そういうと思ってました」

提督「不本意だとは思うが彼女たちには暫く私の補佐をやってもらう」

大淀「他の娘達が自分の使命を果たしている中、鎮守府に残る……」

大淀「私たちにとってそれ以上の苦痛はありません」

提督「そうは言ってもそれは君も同じだろう」

大淀「それはっ……私は、ここにいて通信など提督の補佐をするのが使命です」

大淀「ですが彼女たちは違います。彼女たちは戦うために生まれてきたのに……」

大淀「あなたたちはそれを奪うんですか?」

提督「君たちの使命は戦うことだけじゃない」

大淀「………」

提督「……すまない。だが今は耐えてくれ」

提督「彼女たちなら分かってくれるはずだ」


大淀「本部にはなんと伝えるんですか?」

提督「そんなの適当に返答しておけ」

大淀「そんな無茶な……」

提督「別に彼らの意向に反する訳じゃない」

提督「ただ設備の維持には今までと同じだけの物資を使う」

提督「資材簿の数字は上手く合わせておいてくれ」

大淀「はぁ……分かりました。工廠の方には私から伝えておきます」

提督「ありがとう」

大淀「本部への報告は提督がやってくださいね?」

提督「へーい……」

大淀「頼みますよ。この鎮守府の未来はあなたにかかっているんですからね」

提督「鎮守府の未来ねぇ……」


────


───


──


~数か月後・演習場~


伊勢「主砲斉射、てっー!!」


──ドドドーンンッ


川内「うわっっとと」ササッ

吹雪「回避っ! 回避っ!」ザザッ

伊勢「うん、うん! なかなかやるじゃない!」

川内「今度はこっちの番だ! 白雪、援護射撃!」

白雪「了解、弾幕はります!」

初雪「私も……」

川内「吹雪、行くよ!」

吹雪「はい!」

川内「魚雷発射、行っけぇー!」シュバッ

吹雪「当たってください!」シュバッ

妖精「雷跡、2時の方向!」

伊勢「了解、取り舵逃げろー!」

──ザザッ

伊勢「こっちも行くよ、第二主砲、てっー!」

日向「………」


日向(あれから…数か月ほど経った)

日向(鎮守府は戦時中とは思えないほど平和だ)

日向(あれからこの鎮守府で未帰還者はいない)

日向(でも今もどこかで誰かが戦っている)

日向(私たちは……)


伊勢「まだまだぁ!」ザザッ


日向(ひたすら演習に励む日々だ……)


提督「様子はどうだ、日向」

日向「うん? ああ、君か」

提督「お前はいまだに俺を君呼ばわりだな、まあ構いはしないが」

日向「ああ、そうか。すまない、提督」

提督「別に君でも構わん」

日向「そういってくれると助かるな」

提督「で、どうなんだ?」

日向「今は第三水雷戦隊が演習中だ」

提督「ほう」

日向「上手くやっていると思う」

日向「だが伊勢のほうが一枚上手だ」

日向「火力で相手を動かし疲労を高めながら常に優位な位置を確保している」

提督「なるほど」

日向「今まで演習での経験しかないのに相手の攻撃に対する嗅覚はかなり高い」

日向「演習だけでここまで練度を高めるとは、いいセンスだ」

提督「………」


日向「あれから暫く経つな」

提督「あれ……ああ、そうだな」

日向「皆、帰ってくるごとに強くなっている」

日向「彼女たちに戦闘の"イロハ"を教えた私達にとってこれ以上嬉しいことはない」

提督「そうか、なによりだ」

日向「こうやって外から見ていてもそうだし実際に手合わせするとそれ以上に感じるな」

提督「俺も以前より演習を見てやれないからな」

提督「出撃も多いし、それに伴って使用する資材量も多い」

日向「君は君の仕事をやるといい。こちらは私たちに任せてくれ」

提督「感謝しているよ、本当に」


日向「でも……」

提督「……?」

日向「こうやって一人でいると考えることがある」

日向「私達はこの鎮守府にいる間、誰かが命を懸けて戦っている」

日向「そう考えると、何かな……」

日向「──こう自分の中で何かが満たされない感じがするんだ」

提督「欲求不満ということかな?」

日向「出来ればその言い方はやめてほしいな……」


提督「どうしたんだ? 日向にしては珍しいな」

日向「たまには良いだろう。部下のボヤキを聞くのも上官の仕事じゃないのか?」

提督「そうなのか?」

日向「そういうものだ」ハハハ

提督「まあ、日向の番まで時間はあるからな」

提督「いいだろう、なんでもお兄さんに言ってみたまえ」キリッ

日向「そうだな──」


日向「君に聞きたいことがある、正直に感じていることを応えてくれ」

提督「正直に……か、質問によるな」

日向「むっ……、まあいいだろう。ではいくぞ?」

提督「どうぞ」

日向「私たちは運が悪いのかな?」

提督「………」

提督「どういう意味だ?」

日向「私達伊勢型の処遇に関することだ」

日向「大和型は世界最高の戦艦、それに次ぐ長門型」

日向「金剛型は多少古いがその速力を買われ各地で活躍している」

提督「ふむ……」

日向「どうも私たちは時代に取り残されている気がしてな」

日向「そして何より……戦場に出れないのが残念でならない」

提督「………」


日向「私も戦場に出たい、皆と一緒に戦いたい」

日向「私たちは運が悪いだけなのか? それとも力不足なのか?」

提督「いや、君たちが力不足ということはない。これは俺が保証する」

日向「では今の状況をどう説明するんだ?」

提督「どうと言われてもな、偶々まだ君達が活躍する機会がないだけだ」

日向「詭弁だな」

提督「何とでも言えばいい」

日向「この数か月、自分を納得させるだけの理由を自分なりに探してきた」

提督「………」

日向「──だがもう限界だ」

日向「私はワガママだ。不器用だし伊勢ほど愚直でもない」

日向「本当に私自身、どうすればいいのか分からない」


日向「君は前、戦艦は抑止力になると言っていたな?」

提督「ああ、言った。それは俺の信念だ」

日向「じゃあ抑止力にもならず、戦いにも参加しない戦艦は何になる?」

提督「………」



伊勢(あれ? あれは提督と日向?)

伊勢(何話してるんだろ……)




提督「……そろそろ君の番が始まるぞ? みんな引き上げて来てる」

日向「私の質問に答えないのか?」

提督「答えるかどうかは質問によると最初に言ったはずだがな」

日向「まあ、いいさ。今日の演習が終わったら聞かせてもらおう」


伊勢「日向、次出番だよ」タタタッ

日向「ああ、分かった。今行くぞ」

提督「日向、今は目の前のことに集中しろ。分かったな?」

日向「ああ、分かった」タタッ

伊勢「………」


伊勢「提督」

提督「うん? どうした?」

伊勢「ちょっと気になったんですけど日向と何を話してたんですか?」

提督「いや、まあ、大したことじゃない」

伊勢「ふぅん……」ジトー

提督「な、何だその目は……!?」

伊勢「ジト目ですよ、ジト目」ジトー

提督「はぁ……? まあ、大したことじゃないんだが」

伊勢「じっー」ジー

提督「声に出すな、面倒くせぇ」

伊勢「ヒドイっ!?」ガーンッ


提督「──はぁ、分かったよ。お前に聞きたいことがある」

伊勢「私の質問に答える前に質問ですか?」

提督「お前の質問の答えでもある質問だ、まあ聞け」

伊勢「………」

提督「お前は今の自分の状況をどう思う?」

伊勢「──と、言いますと?」

提督「何ていうかな、戦場には出ずに毎日事務仕事か演習をやっている状況についてだ」

伊勢「ああ、そういうことですか」

提督「どう思う?」

伊勢「うーん……」


伊勢「あんまり考えたことがないですね」

提督「ぷっ、ははは! 実に伊勢らしい回答だな」

伊勢「ちょ!? 笑わないでください!!」

提督「そうか~、考えるとか伊勢にはちょっと難しかったかな」ハハハ

伊勢「むぅ~」

提督「いや、ありがとう。正直に答えてくれて良かった」

伊勢「もしかして、そういうことを日向と話してたんですか?」

提督「まあ、そうだな」

伊勢「で、日向は何て?」

提督「それは言えない」キッパリ

伊勢「えっー!?」


伊勢「ズルいですよー、二人の秘密なんてー」

提督「心配するな、伊勢と話したことも日向には秘密だ。おあいこだ」

伊勢「うーん、気になるなぁ……」

提督「一つ言えることとしては……そうだな」

提督「日向の事、頼んだぞ?」

伊勢「えっ? 日向のこと? 何で私が頼まれるんですか?」

提督「何でって……お前らは姉妹艦で伊勢のほうが姉だろう?」

伊勢「でも日向に『お姉ちゃん』って言われたことないですよ?」

提督「確かに想像できない……ってそういうことじゃない」

提督「日向は少し考えすぎるところがあるからな」

提督「上手くサポートしてやってくれ」

伊勢「提督の頼みなら仕方ないですけど、私が日向をサポートですかぁ……」

伊勢「自分で言うのもあれですけど想像できないですねぇ……」ウーンッ

提督「自分で言ってて悲しくならないか……?」


~演習中~


日向(伊勢のやつ、提督と何を話しているんだ?)

日向(まさかさっきの話を伊勢に……!?)

日向(もしそうだったら後でとっちめてやろう)

日向「っと、今は演習に集中しないとな」

日向「主砲斉射用意、9時の方向、目標那珂」

那珂「えっ? 那珂ちゃんもしかして狙われてる!?」

日向「よし、主砲一斉射、てーっ!」




──ドドーン


──ボン……ボチャ





日向「?」

日向(おかしい、第五砲塔から出た砲弾の着弾点が大分手前だ)

日向「つぅ!?」

日向(これは……マズい!?)

日向「第五砲塔弾薬格納庫、注水急げ!」

日向「っ……うう」ガクッ


提督「うん?」

伊勢「どうしました?」

提督「日向の様子がおかしい」

伊勢「えっ? ああ、そういえば」

伊勢「さっきの一斉射、日向にしては大分外してましたね」

伊勢「確かにおかしかったな、主砲なのに全然飛んでないし……」

提督「………!?」

提督「伊勢、演習中止だ。無線で皆に伝えろ」

提督「あと今すぐ工廠に行って入梁の準備をしておいてくれ」

提督「俺は日向のところに行く」

伊勢「えぇ? 入梁ですか?」

提督「早くしろ!」

伊勢「はっ、はい!?」ビクッ


提督「日向っ!」

日向「き、君か……どうしたんだそんなに血相変えて……」ハァハァ…

日向「私なら何ともないぞ……?」ハハ…

提督「何ともないならその汗は何だ?」

日向「これか? ちょっと動きすぎてな」

提督「嘘つくな、いつも眉ひとつ動かさないお前が……」

提督「……!?」ハッ

日向「……どうした?」

提督「第五砲塔だな?」

日向「………っ」

提督「手を見せろ、今すぐだ!」

日向「………」

日向「まったく君は……勘が良い」スッ

提督「!?」


那珂「もぉ~、演習中止ってどういうこと?」

那珂「那珂ちゃん絶好調なのに……ひゃあ、その手!?」

提督「……強がるもんじゃない、血だらけじゃないか!?」

提督「どうしてこんなことに……」

日向「私にも分からない」

日向「だが何らかの原因で第五砲塔内部が爆発した……」

日向「その衝撃がもろに手に来てな……」

日向「あと腹部も少しやられてしまった……」


提督「お前、なにが何ともないだ。そんな損傷誤魔化せるとでも思ったのか!?」

日向「最初は誤魔化せると思ったんだがな、思ったよりも損傷が大きかったようだ……」ハハ…

提督「笑い事じゃない、今すぐ入梁だ!」

提督「那珂、日向に肩貸してやれ」

那珂「はっ、はい」

日向「すまないな……ぐぅっ」ヨロッ…

提督「……日向、今回の原因に心当たりはないのか?」

日向「………」

提督「どうなんだ?」

日向「ふぅ、誤魔化すことは出来なさそうだな。五番砲塔なら心当たりがある」

提督「……あとで話を聞かせてもらうからな」

今日はこの辺で。

最初から読ませていただきました。
単純な提督ハーレム物よりずっと好きです。
頑張ってくださいね。

>>106
ありがとうございます。
細々と続けていきます。

投下します。


そのころ……

~本部~

女提督「ここはいつ来ても苦手だな。建物が大きすぎて迷いそうになるよ」スタスタ

飛龍「そうですか? さっきから迷っているようには見えませんが……」テクテク

女提督「いやいや、私の記憶もかなり曖昧だ」

女提督「同じような部屋が続いているし、ついている名前も同じようなものばかりだ」

飛龍「確かにそれはありますね」

女提督「しかも、来るたびに新しい名前の役職ができている」

女提督「どうせやっていることは変わらないのだから名前を考えるだけ無駄な労力じゃないかな?」

飛龍「……そんなに大きな声で言っていると誰かに聞かれますよ?」

女提督「聞かれたところで構わんさ」


女提督「少しぐらいぼやいてもいいじゃないか?」

女提督「最近の出撃頻度は非常に高い。私も疲労が溜まってきている。愚痴の一つや二つは出るものだ」

飛龍「疲労が溜まっているようには見えませんが……」

女提督「周りに気づかれないようにしているだけだ。君はどうなんだ?」

女提督「ここ数か月は出撃回数も多い。その合間に秘書官の仕事もしてれば疲れるだろう?」

飛龍「いえいえ、私は全然へーきです!!」グッ

女提督「そうか、なら昨日の会議中に居眠りをしていたことは気づかなかったことにしよう」

飛龍「えっ!? いやその、それは……」

女提督「部内のものだから良いが、よだれを垂らした報告書を出すもんじゃない」

飛龍「ううぅ……」

女提督「あと今日来る時も車の中で寝ていたな。口によだれの跡が残っているぞ」

飛龍「えっ!? 嘘!?」ゴシゴシ…

飛龍「これぐらいかな、取れました!?」

女提督「ああ、最初から跡付いていないからな」

飛龍「」

女提督「やはり飛龍はからかい甲斐があるな。まあ、蒼龍にも言えることだが」フフフ

飛龍「むぅ~……」

女提督「まあ、会議中に寝るのは良くないが移動中は寝ても良いんじゃないかな?」

女提督「食える時に食う、寝られるときに寝る、これは鉄則だ」

飛龍「そうなんですか?」

女提督「そうだ、私の短い軍歴で得た鉄則だ」

飛龍「でも今も戦っている娘がいる以上、私も頑張らないといけませんので!」

女提督「翔鶴や瑞鶴のことか?」

飛龍「そうです。あとうちの鎮守府からですと祥鳳もですね」

女提督「そうだな、本当は私が現場指揮を執りたかったのだが」フゥ…


女提督「しかし、あまり気にしないほうが良いんじゃないかな?」

飛龍「どういうことですか?」

女提督「今は戦時下だ。出撃していない以上、休息に徹するべきだ」

女提督「飛龍は頑張り屋だからな。私はそれが心配だよ」

飛龍「意外ですね。訓練の時は鬼のように厳しいのに……」

女提督「本人を前に言う君もなかなかだな……」

女提督「まあ、私が君たちや戦闘機乗りの間でどんなふうに呼ばれているかは知っているよ」

女提督「だが私は戦果を挙げるために訓練させているわけじゃない」

女提督「君たちが無事帰ってくることを常に願っているんだよ」

飛龍「鬼の目にも何とやらですね」

女提督「ふむ、やはり私も疲れているな。ついこんな話をしてしまった」

飛龍「そうですね。『戦果を挙げるためじゃない』とか聞く人が聞いたら……」

女提督「このことは内密にな。飛龍秘書艦?」

飛龍「大丈夫です。これでも口は堅いんですよ♪」



────


───


──


~会議室~


大将A「──この作戦では北方と西方、両方を同時に攻略する」

大将A「まず北方に進軍し、敵機動部隊を牽制する」

大将A「そして間髪を入れず今度は西方に進軍し敵基地を叩く」

大将A「これが大まかな作戦概要だ」

女提督(大まかすぎるだろう……)

大将B「我が作戦本部では北方進軍の作戦をAL作戦、西方進軍の作戦をMI作戦と名付けることにしました」

大将B「これからの通信にあってはこれらの呼称を使用してください」

大将A「では作戦について細かい指示を出す──」


───

──


大将A「──以上だが何か質問は?」

少将A「何故今回二つの作戦を同時に行う必要があるのですか?」

大将A「AL作戦により敵の出撃を促し、MI作戦を優位に進めるためだ」

大将B「実際には敵艦隊を完全に北方に吸引することは不可能かもしれません」

大将B「しかし敵軍の指揮をある程度混乱させることは出来ます」

大将A「どちらも戦術的に重要な施設が多数存在する場所だ」

大将A「この作戦が成功すれば戦局は大きく動くことになる」

女提督「………」

少将A「しかし、これだけ大きい戦力を動員すれば本土が手薄になりませんか?」

大将B「この作戦は現在北方を拠点に活動している敵勢力が行っている本土攻撃を抑える目的があります」

大将B「これ以上本土を攻撃される前に彼らの本拠地を叩くのです。各艦隊が連携をとれば隙を突かれる心配はありません」

大将B「それにその北方の基地が現在のところ、本土攻撃の恐れがある唯一の基地です」

大将B「他から艦隊が来ることはまずないと思って大丈夫でしょう」

少将B「その北方に進軍する艦隊の中に正規空母がいないのは何故ですか?」

大将A「敵戦力を十分に検討したうえで司令部が出した結論だ」

少将A・B「………」


女提督「しかし、この作戦では戦力が集中しすぎないか?」

大将B[どういう意味でしょう?」

女提督「もし、敵の奇襲を受けた場合、損害が大きくなる可能性がある」

女提督「先の奇襲作戦時とは違う。敵もそこまで馬鹿じゃない」

女提督「これだけの勢力が一か所に集まればよい的だ」

女提督「正規空母を2隻後方支援に回し、そのほかの空母にあっても分散させるべきだ」

大将A「ダメだ。変更は認められない」

女提督「ほう、そんなにMI作戦が重要か?」

大将A「そうだ、これは元帥がかねてから構想していた作戦だ」

大将A「絶対に成功させなければならない」

女提督「しかし、リスクも考えるべきだ。ここで全兵力を攻撃に使うのは危険じゃないか?」

大将A「危険を避けていては戦いには勝てない」

大将A「それにわが軍の機動部隊は無敵だ。敵の奇襲作戦にも動じない」

女提督「元帥に尻尾を振るだけじゃなくて少しは自分の頭で考えたらどうだ?」

大将A「むっ、何だその口の利き方は!?」

女提督「本当のことを言ったまでだ。貴様の話は矛盾点が多いんだよ」

女提督「機動部隊が無敵なら尚更それを丁重に扱うべきだ」


女提督「彼女たちは今、快進撃を続けているようにあんた等には見えるかもしれない」

女提督「しかし、現実には連戦で疲労は溜まるばかり。訓練もロクに出来ていない」

大将A「実戦こそ最高の訓練だ。乗り方さえ教えてあとの感覚は実戦で養え」

女提督「訓練をせずに実戦に出ればそんな感覚とやらを養う前に撃ち落されるのが関の山だ」

女提督「彼女たちは貴重な戦力なのはあんたも分かっているだろう?」

女提督「ではなぜこんなリスクの大きい作戦なんだ?」

大将A「十分に戦力を考えた上での判断だ」

女提督「………」


──ガチャ

元帥「大分白熱した議論を行っているようだな」スッ

大将A「こ、これは……!? 長官殿!?」ガタッ

女提督「………」スッ

──ガタガタッ

元帥「いや、立たなくて結構。みな楽にしてよいぞ」

女提督「ならお言葉に甘えて」スッ

元帥「君たちの声は大きすぎる。作戦会議というのはもっと静かにやるものだ」

元帥「途中からそとまで声が漏れていたぞ?」

大将A「大変失礼いたしました」

元帥「まあ気にすることはない。で、今回の作戦に疑問を持つ者が多いようだね?」

大将A「いえ、そんなことは……」

元帥「隠す必要はない。そういうこともある」


元帥「──君の噂は聞いているよ。この業界で女性は珍しいからね」

女提督「それはどうも」

元帥「ところで、君は博打は好きか?」

女提督「──と、言いますと?」

元帥「賭け事だよ、賭け事。やらないのか?」

女提督「私は賭け事はあまり……」

元帥「そうか、私は博打が大好きでね。博打をやらん男はロクな男じゃない」

女提督「はあ……」

元帥「博打というのはね、小さい金をみみっちく賭けていたのでは上手くいかない」

元帥「時には大きく、大胆に行動しなければならない」

女提督「──戦争は博打ではありません」

元帥「だが、似ている。通じるものがある。将棋でも相手の手を読み大胆に打たなければならんだろう?」

女提督「艦娘と将棋の駒を一緒にしないでください」

元帥「大局を見据えるためには時にはそういう考え方も必要だよ」


元帥「先の奇襲作戦で君は現場指揮を執っていたね?」

女提督「はい、そのとおりです」

元帥「あの奇襲作戦を強く推し、実行にこぎつけたのはこの私だ」

女提督「………」

元帥「君にあのような大胆な作戦を考えることができるかね?」

女提督「……恐らく出来ないと思います」

元帥「そういうことだ。君は有能な指揮官ではあるがまだ大きな戦局を見極められない」

元帥「それが君と私との違いだ」

女提督「………」


────


───


──


飛龍「会議お疲れ様でした」

女提督「………」

飛龍「どんなこと話されたんですか?」

女提督「今後の作戦についてだな。君達にも関係のあることだ」

飛龍「へぇ~、私と蒼龍ですか?」

女提督「いやみんなだ。一航戦、二航戦……あと今出撃中の五航戦にも関係がある」

飛龍「かなり大きな規模の作戦になりそうですね」

女提督「そうだな。鎮守府に帰ったら直ぐに物資の手配だ」

飛龍「はい、分かりました」

女提督「………」


女提督「ふむ……」ジー

飛龍「……?」

飛龍「ど、どうしたんですか? そんなにじっと見て」

女提督「いや、特に何もない」

飛龍「……そうですか」

女提督「………」ジー

飛龍「えっ、えっと……」

女提督「………」

飛龍「そ、そんなに見ないでください。恥ずかしいですよ……」カアァ//

女提督「そうかな? 私は恥ずかしくないが」

飛龍「……///」


飛龍「て、提督……? 近くないですか?」

女提督「………」

飛龍「うぅ~///」

女提督「……ちょっと失礼」ギュッ

飛龍「わひゃあ!? 提督!? ダメです、艦載機が落ちちゃいます!」

女提督「毎回思うがそんなものどこにしまっているんだ?」

飛龍「……そ、それは秘密です」

女提督「……ふむふむ。まあ別に良いが」

飛龍「……どうしたんですか? 急に……」

女提督「いや、こうやって見ると本当に人と変わらないな……と」

女提督(この娘たちをコマとして扱う……か)

女提督(それがこれより上に行くために必要な条件なら)

女提督(私は今のままで良いかもしれない)

飛龍「………」

今回はこの辺で。
また投下します。

書き溜めたので投下します。


~工廠・修復ドック~

提督「──で、日向の様子はどうだ?」

建造妖精「どうって?」

提督「修復には時間がかかりそうか?」

建造妖精「うーん、何とも言えないな」

提督「そうか……」

建造妖精「実を言うと轟沈しなかったのが不思議なくらいの事故だよ」

提督「そ、そんなに酷いのか!?」

建造妖精「ああ」

建造妖精「五番砲塔下の弾薬庫が滅茶苦茶になってた」

建造妖精「なんでそうなったかは分からないが、すぐに日向が異変に気付いて注水したから助かったんだろうな」

提督「火薬庫火災か……。確かに轟沈してもおかしくない大事故だ」

建造妖精「何か原因に関して心当たりはないか?」

提督「いや、俺は分からない。しかし、本人には心当たりがあるらしい」

建造妖精「そうか……。じゃあ本人に聞くしかねぇか」スッ


───ガチャ


提督「伊勢、いるか?」コンコン

伊勢「はい? あっ……提督」ガチャ

提督「日向の様子を見に来た。ちょっと中に入れてくれないか?」

伊勢「ひ、日向……ですか? まだちょっと動揺しているみたいなんですけど……」

提督「それを含めて様子を見に来たんだ」

伊勢「わ、わかりました。どうぞ」スッ

提督「よっと……日向いるのか?」

日向「………」

提督「……いるなら返事位してくれ」

日向「……私に何か用か?」

提督「様子を見に来たんだ」

日向「様子……?」

提督「ああ」

日向「………」


提督「教えてくれ、あの時どうなったのか」

提督「火薬庫が爆発していれば下手すれば轟沈してもおかしくない」

提督「お前は心当たりがあると言っていたな」

提督「日向の知っていることを話してほしい」

日向「………」

日向「わかった。話そう」

日向「以前からあったんだ。五番砲塔には…なんとういうか癖みたいなものが」

日向「射撃のタイミングが何となく合わないことがな」

提督「ふむ、機関系のトラブルを抱えていたのか?」

日向「結果的にはそうだったのだが私はそこまで深刻に考えていなかった」

日向「それがこんな事態を招いてしまった」


建造妖精「機関系のトラブルだけじゃなぁ。もっと詳しく分からねえのか?」

日向「今なら何となく分かる」

日向「砲撃前に主砲弾を装填したんだがな、多分尾栓が閉じないうちに火管から電流が流れたんだと思う」

建造妖精「それで火薬の圧力が後ろに逆流したってことか……」

提督「………」

提督「他の砲塔には同じような現象は起きてなかったのか?」

日向「私が知る範囲ではないな」

提督「そうか、でも念の為、全ての砲塔を点検する。艤装は工廠にあるのか?」

日向「ああ、外して預けてきた」

提督「分かった、直ぐに日向の艤装を点検してくれ」

提督「あと伊勢の艤装もな」

建造妖精「了解、よし伊勢。お前の艤装もだ。工廠行くぞ」

伊勢「えっ!? 私もですか?」

建造妖精「そりゃそうだろう。日向と同じような艤装積んでるんだ」

建造妖精「同じようなトラブルがあるかもしれん」

建造妖精「それに日向でも見過ごしたトラブルだ。日向より馬鹿のお前が気づいているとは思えん」ガハハ

伊勢「ヒドイ!?」ガーンッ

建造妖精「さっさと行くぞ、おら」ダーッ

伊勢「ちょ、ちょっと待ってください!?」


──ダーッ

提督「相変わらず騒がしいな……」

日向「………」

提督「まあ、日向が無事で何よりだ」

日向「………」

提督「どうかしたのか?」

日向「……私は自分が情けない」

提督「あまり自分を責めるな。これは事故だ。お前のせいじゃない」

日向「慰めはいい。私は予兆に気付いていたんだ。なのに何もしなかった」

日向「──これが…私のせいでないなら何なんだ!?」

──ズキッ

日向「ぐっ……!?」

提督「そんなに声を荒げるな、落ち着け」

提督「暴れると傷に響くぞ、ベッドで寝てろ」

日向「………うぅ」スッ

提督「………」


提督「君はしばらく休め。君自身もそうだが主砲も修復には時間がかかる」

日向「休め休めと君は簡単に言うな……」

提督「仕方がないだろう、今は戦える身体じゃないんだ」

日向「……提督」

提督「………」

日向「もう休むのは嫌なんだ……」グスッ

提督「………」

日向「──お願いだ。戦わせてくれ……」

日向「私をいるべき場所に返してくれ、お願いだ」ポロポロ

提督「何度も言わせるな。その身体じゃ無理だ」スッ

提督「──少し熱もあるようだ」

日向「………」

提督「今は寝るんだ、分かったな」

日向「君の手は冷たいな……」

提督「お前に熱があるからだろう」

提督「じゃあ、俺は工廠に向かうから。安静にしてるんだぞ」

──ガチャ

──バタン


提督「………」

提督「……はぁ」

伊勢「あっ、提督」

提督「伊勢か、もう戻ってきたのか」

伊勢「はい、まあ艤装を持っていくだけでしたからね」

提督「そうか」

伊勢「日向の様子、どうでした?」

提督「やはり、まだ動揺しているようだな」

伊勢「そうですよね……」

提督「伊勢」

伊勢「は、はい」

提督「演習の前にも言ったことだが……」

提督「──日向のこと、頼んだぞ」

伊勢「はい、任せてください!」

伊勢「大切な……たった一人の妹ですから」

提督「………」


~工廠~


提督「……はぁ」

建造妖精「おっ、来たか」

提督「ああ、日向の艤装はどうだ?」

建造妖精「まず原因についてだがほぼ日向の言っていることに間違いはないと思う」

提督「………」

建造妖精「ざっとしか見てねぇが砲塔から後ろの損傷が激しい」

建造妖精「と言っても、問題の砲弾は海の中だし尾栓やら機械部分は吹っ飛んじまってるからな」

建造妖精「状況から判断することしかできないが……」

提督「なるほど、確かに主砲弾が暴発すれば大きな被害が出ることには間違いないな」

建造妖精「まあ、日向が機転を利かせて注水してくれたおかげで助かったがな」

建造妖精「その辺は艦娘の本能みたいのが働いたんじゃないか?」

提督「………」


建造妖精「で、日向の様子はどうだった?」

提督「皆同じようなことを聞いてくるな……」

提督「伊勢にも同じようなことを聞かれたよ」

建造妖精「そりゃあそうだ、俺たちは同じ鎮守府で戦う仲間だからな」

提督「しかし、本人の損傷具合なら君のほうが分かっているだろう?」

建造妖精「俺は"分かる"だけだ。彼女らを"理解"するのはあんたしかできない」

建造妖精「それに俺が言っているのは単なる損傷じゃない、精神面の話だ」

提督「精神面……か」

建造妖精「──あんた、忘れてるんじゃないか?」

提督「忘れてる……? 何をだ」

建造妖精「彼女たちは艦娘だ。ただの兵器じゃない」

建造妖精「──そして人でもない」

提督「………」


建造妖精「あいつらは戦って心を充足するしかない」

建造妖精「根本的に俺達とは違うんだ」

建造妖精「あんたのよく言う抑止力には構造的にならないんだ」

提督「………」

建造妖精「……あいつらは戦ってないといけないんだよ」

提督「そんなことはない」

建造妖精「どうしてそう言い切れる?」

提督「艦娘は兵器じゃない。平和を求める心は艦娘も人も変わらん」

提督「俺はあいつらを信じてるからな」

建造妖精「信じる信じるってあんたは信じるだけだな」

提督「──何が言いたい?」

建造妖精「そうやってあいつらに押し付けているだけじゃないのか?」

提督「………」

建造妖精「信じるだけで相手の心が救われるのか?」

提督「………」

建造妖精「それだけあいつらを信じているなら、それをあいつらに伝えてやれ」

提督「……俺にはこれ以上のやり方が分からん」

建造妖精「それをするのが提督っていう人間の役目だ」

提督「………」


建造妖精「すまんな、少し言い過ぎたかもしれん」

提督「いや、構わんさ」

建造妖精「しかし、どうするかなぁ。この第五砲塔今から直すのは骨が折れるな」

提督「仕方がない、暫くは第五砲塔を撤去してその上に高角機銃を設置して運用するか」

建造妖精「それなら直ぐに作業は終わるな」

建造妖精「しかし、日向が納得するか? 主砲は戦艦にとって象徴みたいなもんだ」

提督「第五砲塔の修繕が完了するまでの一時的な処置だ。こればかりは仕方がない」

提督「そのまま戦場にほっぽり出すわけにはいかんからな」

提督「あと今開発しているあれがあるだろ? 日向に乗せられないか?」

建造妖精「あれって……おいおい、あれはまだ試作品だ。上の許可がないと使えねえよ」

提督「そんなもん俺が何とかしてやる。試験運用だ何だ言えば納得するだろう」

建造妖精「……そう上手くいくか?」

提督「今お偉いさん方は今度実行するAL/MI作戦にご熱心だからな」

提督「試作品の決裁なんかめくら判だろ」

建造妖精「………(大丈夫かな?)」

提督「こっちの攻撃力が低くなるならそれをある程度補いつつ──」

提督「重要なのはいち早く敵の場所を察知することだ」

提督「許可のほうは俺に任せろ。そっちはもう作業に移ってくれ」

建造妖精「そうだな。最終的な調整とかは時間かかるし……」

建造妖精「高角機銃の設置はほかのやつに任せて俺はそっちをやるか」

提督「すまんな、頼んだぞ」


────


───


──


~修復ドック~

伊勢「日向……大丈夫?」ガチャ

日向「伊勢か……」

伊勢「ごめんね、入るよ」

日向「ああ……」

───バタン

───スタスタ

伊勢「ここ座るね?」

日向「………」

伊勢(目が赤い……提督と何話してたんだろ?)

伊勢「……あのさ」

伊勢「……うん。元気出そう!? 大丈夫だよ、怪我が治ればまた元通りだよ!」

日向「………」

伊勢「頑張ろう? 私も頑張るからさ!」

日向「……元に戻ったところで私たちはまた戦えずに日々を過ごすだけだろう」

伊勢「良いじゃん? みんな私達と演習やって強くなってくれるし」

日向「──良くないっ!!」

伊勢「ひ、日向……?」

日向「私たちは戦艦だ。戦わず演習だけの日々を過ごしてお前は悔しくないのか!?」

伊勢「………」

日向「………」


日向「私は嫌なんだ。こうやって戦わずに鎮守府で過ごすのは……」

日向「そして何より──怖いんだ」

日向「私たちがこうしている今も誰かが生きるか死ぬかの世界で戦っている」

日向「今日元気に出てった娘が帰ってこないかもしれないと思うと……」

伊勢「……日向」

日向「私は怖い。私が知らない場所で誰かがいなくなってしまうのが」

日向「できることなら同じ場所に立って戦いたい、彼女らを護りたい」

日向「───それが私の正直な気持ちだ」

伊勢「日向……」

伊勢「ありがとう」ギュッ

日向「……礼を言われるようなことはしていないぞ」

伊勢「いつも日向はね、自分の気持ちを言ってくれなかったから」

伊勢「私は嬉しいんだ」ニコッ

日向「可笑しな奴だ……」

伊勢「~♪」

日向「………」


日向「伊勢」

伊勢「なに? 日向」

日向「伊勢に聞きたいことがある」

日向「前に提督が言っていたな、戦艦は抑止力になると」

日向「なら戦時下である今、私たちは何の意味があるんだ?」

伊勢「………」

日向「……伊勢?」

伊勢「あーっ、うん。言ってたねそんなこと!」

日向「……覚えていないんだな?」

伊勢「……うん」スイマセン

日向「ぷっ」フフフ

伊勢「……そんなこと言ってたかなぁ」ウーン

日向「いや、いいんだ。今の事は忘れてくれ」

日向「伊勢に聞いた私が間違いだったな」ハハハ

伊勢「ヒドイ!?」


日向「ふふふ」クスクス

伊勢「……日向がどう思っているかは分からないけど」

伊勢「私はこれでいいと思うよ」

日向「……そうか」

伊勢「今のままでいいんだよ、そのうち私たちが活躍する時が来る」

伊勢「戦うことでもいい、人を助けることでもいい」

伊勢「それまでは日々訓練を積んで有事に備えるのが私たちの役目じゃない?」

日向「………」

伊勢「提督もそう思ってくれるよ!」

日向「……そうだな」

伊勢「提督は最近忙しいから話す機会があまりないけどその分私たちがサポートしなきゃ」

伊勢「秘書艦の私たちに休んでる暇はないよぉ~?」

日向「ならば早くこの怪我を直さないとな」

伊勢「そうそう、ああ見えて提督も結構大変なんだから」

日向「随分と分かり切ったような言い方だな……」




提督「へっくし!?」

建造妖精「うわ、汚ぇ!? 唾飛ばすなよ!?」

提督「すまん、誰かが俺の噂を……」



─────


───


今日はこの辺で。

週末に書いてまとめて投稿みたいなペースが暫く続くと思います。
遅筆ですがご容赦ください。

この後、少しだけ女提督・二航戦メインの話になると思います。
よろしくお願いします。


??「次はMI作戦ですか!?」

投下します。


~女提督の執務室~

女提督「………」

蒼龍「………」カキカキ

飛龍「………」カキカキ

女提督「……ふむ」

蒼龍「どうかしましたか?」

女提督「いや、電報で今度の作戦についての指示が来てな」

飛龍「前回本部に行った時のですね? 内容は何ですか?」

女提督「『一航戦、二航戦及び五航戦をミッドウェー島に投入せよ』という指示だな」

蒼龍「やったっ! 私たちの出番ですね!?」

女提督「そうだな、これほど大規模な作戦は久しぶりだ」

女提督「私も心して挑まなければな」


女提督「一航戦の二人は今どこにいる?」

飛龍「今は演習場で訓練をしているはずです。見に行きますか?」

女提督「いや、いい。彼女らの好きなようにやらせろ」

蒼龍「………」

女提督「どうかしたのか、蒼龍?」

蒼龍「あっいえ、その……何でもありません」

女提督「そうか? 何か気になることでもあるのか?」

女提督「遠慮するな。言いかけて何でもないじゃ私も気になるからな」

蒼龍「そうですか? じゃあ……」


蒼龍「前から少し気にはなっていたんですけど……」

蒼龍「──提督って一航戦の二人と私達で態度が少し違うなぁ……と」

女提督「そうか? あまり部下に対して分け隔ててるつもりはないのだが」

蒼龍「いや、何となく私達には何から何まで細かく指示を出すのに──」

蒼龍「赤城さんと加賀さんに対しては放任だなぁって」

女提督「………」

飛龍「あっ、確かに」ソウイエバ

蒼龍「飛龍もそう思う?」

飛龍「まあ、言われてみればって感じだけどね」


飛龍「でも赤城さんと加賀さんは私達より断然強いからなぁ……」

蒼龍「確かにあの二人は別格だよね……」

飛龍「私たちはまだ提督の指示がないと何もできないしなぁ~」

女提督「うむ、確かに私にもそういうところはあるかもしれないが君達の実力が低いからというわけではないよ」

蒼龍「そうなんですか?」

女提督「そうだ。君たちは確実に強くなってきている」

女提督「個人的な意見では地力を出せば君たちのほうが強いと思っているよ」

蒼龍「………」

飛龍「………」

女提督「──だから安心して……ってどうかしたのか?」

飛龍「い、いやだなぁ。私たちは分かってますから」

蒼龍「そ、そうそう。私たちのほうが一航戦の二人より強いって……そんなことあるわけないじゃないですか」アハハ

女提督「い、いや私は本気で……」

蒼龍「大丈夫ですよ提督、分かってますから」

飛龍「私たちは提督のそのお気持ちだけで幸せです」

女提督「………」


女提督「なぁ、お前たち。今まで言ってなかったんだが──」

───ガチャ

鳳翔「提督!」

飛龍「鳳翔さんじゃないですか、どうしたんですか?」

蒼龍「凄い慌てた様子ですけど」

鳳翔「ええ、実は今出撃中の瑞鶴さんから報告が入って……」

女提督「瑞鶴からか。そろそろ入るころだと思っていた」

女提督「で、戦況はどうなんだ?」

鳳翔「はい、機動部隊は敵空母一隻を撃沈しました」

飛龍「やったぁ、すごいじゃん!!」

蒼龍「流石ですね!!」

女提督「でかした。で、敵防衛拠点の攻略はどうなった?」

鳳翔「結果から言いますと攻略には成功していないようです」

鳳翔「そして作戦途中、翔鶴が中破。祥鳳が沈没したようです……」

女提督「──沈没だと!?」

鳳翔「はい……」


女提督「それは確かなのか!?」

鳳翔「現在現場付近の海域を捜索中のようですがほぼ絶望的と……」

女提督「………」

蒼龍「………」

飛龍「………」

女提督「……くそっ、私が指揮を執ってさえいれば」

鳳翔「………」


女提督「しかし、翔鶴も損傷しているのだろう?」

鳳翔「はい、そのようです」

女提督「そんな状況で捜索を続けるのは危険だ。撤退を指示しろ」

鳳翔「ですがまだ祥鳳の捜索が……!?」

女提督「今この状況でこれ以上の犠牲を出すわけにはいかない」

女提督「作戦中止、撤退だ」

鳳翔「わ、分かりました。すぐに」タタタ

───バタン

女提督「………」

蒼龍「………」

飛龍「………」

女提督「……戦いに犠牲はつきものだと言うが」

女提督「やはり慣れないものだな」


女提督「しかし、翔鶴が負傷か……」

蒼龍「痛手ですね、次のMI作戦でも参加予定だったのに……」

女提督「仕方がない。そのまま引きずって行く訳にはいかないからな」

女提督「しかしどうするか……」

女提督「私も作戦に随伴するから鎮守府を離れることになる」

飛龍「えっ!? 一緒に行くんですか!?」

女提督「ああ、元からそういうつもりだったがな」

女提督「今回翔鶴が負傷したからな、絶対に行くつもりだ」

蒼龍「そっかー、提督が一緒に来るのは奇襲作戦以来ですね」

飛龍「そうだねー、提督ったら私たちがウェーク島に言ってる間に先に帰っちゃうんだもん」

女提督「まあ、うん。あれは本部への報告もあったからな」

蒼龍「途中まで私と一緒にいたのにねー。赤城さんと一緒に帰っちゃうし……」

女提督「過去のことを穿り返してどうした? 寂しかったのか?」フフフ

蒼龍「いやー、なんというか……」

蒼龍「やっぱり提督がいないと心細いなぁって」

女提督「……ふむ」

飛龍「ほほぅ、蒼龍さんは直球勝負ですね~」ニヤニヤ

蒼龍「えっ!? いや、飛龍これは違くてっ!? その……」

女提督「………」


女提督「そうだな、じゃあ次の作戦では最後までいられるようにしよう」

飛龍「本当ですか!?」

女提督「ああ。少し早く帰るぐらいでは忙しさは変わらないからな」

女提督「鎮守府に戻ってからすぐにかかれば問題ないさ」

飛龍「やったぁ。よーし、次の作戦は頑張っちゃおうかな!!」

蒼龍「私も飛龍に負けないように頑張るよ!!」




女提督「問題は翔鶴をどうするかだな」

蒼龍「そうですね。修復には時間がかかりそうですし」

女提督「ふむ、ならばやつのところに頼むしかないか」


────

───

──


~数日後・提督室~

──ガチャ

日向「おはよう」ヒョコ

伊勢「あっ日向、おはよう!」

提督「おっ、日向か。身体は良くなったか」

日向「まだ本調子ではないがな。まあ事務仕事ぐらいはできる」

提督「そう無理をする必要はない。休んでいても良いんだぞ?」

提督「今はあまり急な仕事はないしな」

日向「いや、いいんだ。少し身体を動かしたいし。それに……」

日向「一人で居室に籠っているのもなかなか気がめいるんでな」

提督「確かに本を読むぐらいしか娯楽がないしなぁ……」

日向「ここに来れば伊勢も提督もいるからな」

提督「なるほど」


提督「伊勢」

伊勢「はい、何ですか?」

提督「すこし休憩にしよう」

提督「ちょっと間宮さんの酒保まで行ってお菓子でも買ってきてくれ」

提督「あと君たちは向こうで何か食べてくるといい」

伊勢「やった、もちろん提督のおごりですよね?」ニコッ

提督「まあいいだろう。間宮さんには俺のツケだと言っておいてくれ」

日向「君は行かないのか?」

提督「いや、俺はいいよ」

伊勢「えー……、行かないんですかぁ?」

日向「偶には良いじゃないか。一緒に行こう」

提督「いや、まだ仕事が……」

伊勢「あとでやれば良いんですよ」グイッ

日向「そうだそうだ、私も手伝うからな」グイッ

提督「こらこら服を引っ張るな」

提督「わかった、わかったから。じゃあ一緒に行くか」

伊勢「やった!」

日向「じゃあ早速行こう」


─────

────

───


~酒保~

間宮「はーい、いらっしゃ……あら提督さん。珍しいですね」

提督「どーも」

伊勢「お邪魔しまーす」

日向「こんにちわ」

間宮「まぁ、両手に花ですねぇ~」ホワホワ

提督「妻子持ちをあまりからかわんで下さい……」

伊勢「いやあ、花だなんてそんな//」テレテレ

日向「うん、悪くないな//」コホン

提督(単純だなこいつら……)


間宮「じゃあこちらの席で」

伊勢「はーい、私いつもので!」ビシッ

日向「私も」

提督「いつもの!? お前らそんなに常連なのか!?」

伊勢「ええ、まあ……」

日向「そうだな、最近は来ていなかったがな」

間宮「提督は何にします?」

提督「じゃあ、みたらし団子で」

日向「し、渋い……」ボソッ

伊勢「おっさん……」ボソッ

提督「おい伊勢、聞こえたぞ」

伊勢「あっやば」


~そんなこんなで席へ~

提督「まさか二人もここの常連だったとは」

伊勢「そんなに不思議ですか?」

提督「俺は駆逐艦の子たちがアイスを食べている風景を想像していたよ」

日向「ここにいるとあまり娯楽がないからな」

伊勢「ついつい足がいっちゃうんだよねぇ~」

提督「なるほど。確かに俺も兵学校の時は時々同期と行く近所の屋台が唯一の娯楽だったな」

伊勢「提督にもそういう時期があったんですね~」

提督「この組織にいる限りみんな一緒だな。人間も艦娘も変わらん」

日向「同期か……。じゃあ例の空母提督もか」

提督「空母提督ってヒドイあだ名だな……」

提督「何を勘違いしているか分からんが男と女が同じところで勉強する訳ないだろ」

伊勢「へぇ~、じゃあどうやって知り合ったんですか?」

提督「前も言ったが水雷学校高等科同期で俺が主席であいつが次席だったから顔は知っていたんだ」

提督「兵学校だから女は珍しいし、あいつは文武両道だったからな」

伊勢「なるほど、そんな過去があったんですね~」

提督「今では同じような仕事場だしな、腐れ縁だ」

日向「………」


伊勢「──ってどうしたの日向?」

日向「いや、今の話の中で気になる内容があるのだが……」

提督「何かおかしなところでもあったか?」

日向「一つ聞きたいのだが君は主席だったのか……?」

提督「そうだけど?」

日向「なんてことだ……」ガクッ

提督「その言い方はないだろう……」

伊勢「ふーん。えっ? 主席って何?」

日向「主席というのは要するに成績が一番ってことだ」

伊勢「一番……ってえぇー!?」

提督「単語の説明からしなきゃいけないのかお前は」

伊勢「凄いじゃないですか提督、知らなかったぁ!?」

日向「私も驚いたな」

提督「成績なんて関係ないさ」

日向「関係なくはないだろう。君が今ここにいるのもそのお蔭なんだから」

提督「まあ、自分なりに精いっぱいやった結果だよ」


間宮「はーいお待たせしました~」

伊勢「来た来たっ!」

日向「うん、美味そうだ」

提督「……俺も驚きだ。なんだその丼みたいのは?」

間宮「間宮特製、戦艦あんみつです」ニコッ

提督「いやあんみつなのは何となく分かるが大きさが……」

伊勢「いただきまーす!」

日向「いただきます」

間宮「はい、こちらはみたらし団子です!」

提督「あ、ありがとう……」

提督「………」

提督(経費で落ちるかな……?)


───バクッ

伊勢「うん、美味しい!」

日向「ああ、美味しいな」

提督「………」

提督(日向も少し元気になったな……)

提督(やはり姉妹でいるときが一番元気そうだ)

伊勢「提督、お団子食べないんですか?」チラッ

提督「い、いや食べるぞ! やらないからな!」パクッ

伊勢「……ちぇ」

提督「……ん。うん、美味しいな。素朴な味だ」

間宮「~♪」


~食事終了~

伊勢「うーん、美味しかったぁ~」テクテク

日向「やはりいいものだな」

提督「俺は食べてる二人を見てただけで胸焼けしそうだよ」

伊勢「そうですか? あれぐらいならペロリと食べられますよ」

提督「……そうか」

日向「よし、腹ごしらえも済んだし仕事を終わらせるかな」

───ガチャ

女提督「おっ、やっと帰ってきたな」

伊勢「………」

日向「………」

提督「………」


提督「おい、何でここにいるんだ?」

女提督「何故って君に用があったからだ」

提督「だからって勝手に部屋に入っていいわけじゃ……」

女提督「あっ、前回言われた、ほら土産だ」ポスッ

伊勢「あっ、ありがとうございます。こ、これは……どら焼き!?」キラキラ

日向「……」ジュル

伊勢「いやぁ、こんないいものを買ってきてくれるなんて」パクパク

提督「もう食ってるし……」

日向「うむ、なかなk美味いな」モグモグ

提督「………」

女提督「君のところの秘書艦は納得済みのようだな」フッフッフ


女提督「なるほど、うん。ところで奥さんは元気か?」

提督「なんで家内の話になる?」

女提督「いやここに写真があったからな。随分と大事そうに執務机に飾ってあるもんだ」

提督「人の写真を勝手に見るんじゃない」

女提督「良いじゃないか? 美人な奥さんだ。見て減るものでもあるまい」

提督「………」

女提督「で、元気なのか?」

提督「この前連絡を取った。妻も子供も元気だそうだ」

女提督「それは良かった」ニコッ

女提督「家族は大切にしなくてはいけない。特に私達のような人間はな」

提督「………」

提督「お前は会うたびに俺を怒らせたいみたいだな」

女提督「相手の頭に血を上らせたほうが話し合いが優位に進むことが多いからな」

提督「………」


提督「──で、俺を怒らせてまで呑ませたい話って何なんだ?」

女提督「うむ、私の鎮守府にいる翔鶴の話だ」

女提督「彼女らはポートモレスビー攻略に参加していたんだ」

提督「ああ、それなら俺も把握している。天龍型姉妹と菊月がツラギに行っているからな」

女提督「菊月? 菊月について何も聞いていないのか?」

伊勢「えっ? どういうことですか?」

提督「………」

日向「私は何も聞いていないが……」

提督「まだ決まったわけじゃない。報告の段階では座礁して動けないという話だった」

伊勢「動けないって……そんなところを攻撃されたら……!?」

日向「ただでさえ損傷している船体ではひとたまりもないぞ!?」

提督「推測を皆に伝えても動揺するだけだ」

女提督「………」


女提督「もう少し……皆に情報を教えたほうが良いんじゃないか?」

提督「何が言いたい?」

女提督「今の情報もそうだがそれを隠すのに何の意味がある?」

女提督「後から知って辛くなることもあるんだぞ?」

提督「うちはお前の鎮守府みたいに皆が熟練された艦娘という訳じゃない」

提督「特に駆逐艦の娘達は精神的にも成熟していないんだ」

女提督「だが伝えないわけにはいかないだろう!?」

提督「自分の仲間、兄弟が沈んだことを確実でもないのに言える訳ないだろう!?」

女提督「戦場では常に誰かが死ぬ可能性がある。綺麗事だけではやっていけないぞ!?」

提督「そんなことは分かってる!!」

女提督「そんなこと? 君はそうやって問題を先延ばしにするから──」

伊勢「──もう止めてください!!」

提督「………!?」

女提督「………!?」


伊勢「お互いに言い過ぎです! 私はお二人が喧嘩するところなんて見たくありません!!」

提督「………」

女提督「………」

伊勢「もう……二人とも少なくない数の部下を率いていることを自覚してもう少し大人らしくですね──」

提督(一番大人らしくない奴に言われてしまった……)

女提督「………」

女提督「そうだな、すまない。私も悪かった」

提督「そうだそうだ、お前が悪い──」

伊勢「提督っ!!」

提督「うっ……、分かった分かった。俺も熱くなった。悪かったよ」

伊勢「よろしい」フフン

女提督「………」


日向「で、頼みというのは何なんだ?」

女提督「あーそうだ、どこまで話したんだっけ?」

日向「翔鶴が負傷したというところまで聞いたが」

女提督「そうだったな」

提督「損傷の具合はどうなんだ?」

女提督「まだ無線通信での報告しか受けていないが発着艦は出来ないようだ」

提督「また随分とやられたんだな」

女提督「損傷だけ言えば中破程度だ。だが甲板は繊細だからな」

女提督「今の状況では敵に襲われても護衛の戦闘機さえ発艦できない」

女提督「だから作戦を中止し瑞鶴に援護させながらこちらに向かっている」

提督「なるほど、まあ賢明だな」


女提督「で、頼みというのは君に翔鶴の手当てをお願いしたいんだ」

提督「ここでか!? 自分とこの工廠はどうした?」

女提督「私は今度のMI作戦で前線に行く。だが恐らく今の損傷具合ではそれまでに完治させることは難しい」

女提督「私の鎮守府の工廠妖精たちは私の指揮なしで入渠作業が出来るほど練度が高くない」

女提督「そこで君のところの工廠妖精に修理をお願いしたいんだ」

提督「なるほどね、お前もここの鎮守府の妖精の技術に関しては認めているようだな」フフン

女提督「別に君が鍛えたわけじゃないだろう? 君は単なるお下がりを受け取ったにすぎん」

提督「」

伊勢「うわぁ……」

日向「バッサリだな」


提督「コホン……まあ良いだろう。今のところうちのドックは空いてるし、受入体制は整ってるぞ」

女提督「そうか、ありがとう。早速、瑞鶴に直接こちらに向かうよう指示を出そう」

提督「瑞鶴に損傷は無いのか?」

女提督「聞いたところによると彼女は無傷のようだ」

提督「へぇ、姉と一緒に行動してたのに」

女提督「戦場ではさもありなんだな」


女提督「あと君に本部からの伝言を伝えに来た」

提督「ほう、そんなもんわざわざ来る必要があるのか?」

女提督「書類で渡されたからな。来ないわけにはいかないだろう」スッ

提督「変なところでアナログだよな」ドウモ

提督「どれどれ──ほう今度のMI作戦にはうちからも動員されるんだな」

女提督「飽くまで案だがな。ほぼそのままだと思って間違いないだろう」

提督「──うん? こりゃ日向の名前が入っているぞ?」

伊勢「えっ? どれどれ……本当だ。私の名前もある!」

日向「どれ……確かに。第二戦隊の名前があるな」

女提督「そういうことだ」

提督「いやそういうことって言われてもな。何かの間違いじゃないか?」

提督「日向の事故は本部にも伝えたぞ?」

女提督「それでも戦列に復帰させろという話だろう」

女提督「あと伊勢と日向が行くのはアリューシャン方面だ」

女提督「我々一航戦、二航戦とは場所が異なる。そちらはあまり激戦にはならないと本部は踏んでいるようだ」

提督「踏んでいるって……どちらも敵の基地がある重要な場所だ」

提督「蜂の巣をぶっ叩けばそれなりに反撃が来るもんだぞ?」

女提督「そうだ。私もそれを危惧している」


提督「話が呑み込めないな。ちゃんと説明してくれ」

女提督「この計画は杜撰すぎるんだ。ただでさえ一航戦二航戦は疲労の色が濃い」

女提督「ここ最近出撃続きだからな」

日向「………」

女提督「ミッドウェー島には敵飛行場がある。そこを攻略、占領するのが主たる目的だが──」

女提督「もちろん相手の機動部隊も黙ってはいないだろう」

女提督「しかし、司令部は飛行場と機動部隊を同時に叩こうとしている」

提督「飛行場と艦船を同時にか……。飛行場攻略部隊と機動部隊攻略部隊を編制するとか?」

女提督「いや、全てが同時だ。相手の出方を見てから決めるそうだ」

提督「おいおい、そんな不明確な目的で大丈夫なのか?」

女提督「私も機動部隊の実力は重々承知している。しかし今回に限っては無理があると思う」

提督「すでに本部に何回か行ってるんだろう? 意見はしたのか?」

女提督「いや……元帥のじじいが『この作戦が実行されないなら辞める!』と言い出してな……」

提督「あのおっさん、またか……」

提督「流石に二度目は大本営もきかないだろう?」

女提督「今回に関してはその交換条件がAL作戦の実行のようだな」

提督「………」


伊勢「へぇ~、私も観艦式とかで見たことありますがそんな事言う人なんですか?」

提督「まあな。だが軍政家としての実力は確かなものだ。簡単に司令長官になれるほどうちの組織は甘くない」

日向「なるほど。実力は確かなものということか」

提督「そういうことだ」

女提督「そこで君に頼みたいことがある」

提督「今日のお前は頼みごとが多いな。どうした急に?」

女提督「……私もいっぱいいっぱいなんだ。察してくれ」

提督「………」

伊勢「………」

日向「………」


提督「──で、頼みって何なんだ?」

女提督「実は明日から本部でMI作戦の図上演習が行われる」

女提督「その図上演習で君に敵軍を担当してもらいたい」

提督「──俺が敵軍をやることに何の意味がある?」

女提督「彼らにこの計画に無理があることを少しでも知らしめてもらいたい」

女提督「計画中止と行かなくても計画変更にこじつけることが出来るかもしれない」

提督「………」

女提督「頼む。もう私にはこれぐらいの方法しかない」

提督「──作戦中止を意図した計画……捉えようによっては軍法会議ものだぞ?」

女提督「………」

提督「俺が本部に報告しないとでも思ったのか?」スッ


───ガチャ


女提督「………!?」ビクッ

伊勢「電話って提督待ってください!?」

日向「待て、彼女の話はもっともだろう」

日向「ここで仲間を売るのか!?」

提督「組織を動かすのは個人の主観じゃない。規律だ」スッ


───ガシッ


提督「………」

女提督「──本気か?」

提督「本気だ。その手を離して貰おう」グッ

女提督「私も本気だ」グッ

提督「………」


提督「考え方は兎も角、図上演習だけで何かが変わるとは思えんな」

女提督「それでもだ。頼む」

提督「………」

提督「分かった。俺が敵軍を担当しよう──」

女提督「本当か!?」

提督「俺がやっても勝利判定を取れるかどうか分からんがな」

女提督「──ありがとう。助かるよ」

提督「礼を言われるようなことじゃない」

提督「敵軍を俺に担当させるのは元々本部の指示だろう」

提督「お前に重要な図上演習の担当者を決めるほどの立場があるとは思えないからな」

女提督「………」

日向「そこまで察していたなら普通に引き受ければ良かったじゃないか?」

提督「………」

日向「わざわざ電話を取って報告しようとする必要は無かっただろう?」

提督「──だってあまり面白くないだろう。こいつに上手く騙されるのはな」

日向「………」


提督「大体図上演習ってのはほとんどお偉いさんの意向で結果を良いように変えられちまうんだよ」

提督「それでも図上演習を本気でやらせるためにあんな事言ったんだろ?」

女提督「………」

提督「そんなこと言われなくても俺は最初から全部本気でやるつもりだよ」

女提督「ありがとう」

女提督「じゃあ明日私が迎えに来るからそこから本部に行くぞ」

提督「はいはい、了解しました」


女提督「じゃあ、私は鎮守府に戻る。また明日」

提督「じゃあな」

伊勢「次のお土産もどら焼きでお願いします!」

日向「私も」

女提督「ふふ、良いだろう。期待しておいてくれ」ガチャ


──バタン


伊勢「よーし、明日は本部にお出かけですかー」

日向「うん、久々だからなしっかり準備しないと」

伊勢「待ち時間もあるからね、本持っていかないと」

提督「うん? お前たちも一緒に行く気か?」

伊勢「えっ? 行かないんですか?」

提督「次の作戦にうちからも出撃する者が多いんだ。資材の発注を早急にしなければならない」

提督「お前たちは留守番して発注作業をしてもらいたい」

提督「よってお出掛けはなしだ」

伊勢「………」

日向「………」

提督「……どら焼き買ってきてやるから」

伊勢「戦艦伊勢、喜んで執務に当たらせて頂きます」ビシッ

日向「戦艦日向、同じく」ビシッ

提督(ちょろい……)


────


───


──

今日はこの辺で。
ありがとうございました。

ちょっと少ないですが投下します。


~翌日・提督室~


───ガチャ

女提督「おはよう、準備は出来ているか?」

提督「お前、ノックぐらいしろよ……」

蒼龍「ありゃ? 着替えに遭遇するイベントはないんですか?」

提督「そんなもんあるか!!」

蒼龍「……ちっ」

提督「おい、今の聞こえたぞ……?」

蒼龍「あっ、やば……!?」

提督「まったく……」

提督「そういや今日は飛龍は来ないのか?」

女提督「彼女は今日は留守番だ」

蒼龍「はい、私も飛龍に負けていられませんからね!」

女提督「いくらなんでも本部に行くだけで秘書艦を二人も侍らせて行く訳にはいかないからな」

提督「侍らせるって……」


~翌日・提督室~


───ガチャ

女提督「おはよう、準備は出来ているか?」

提督「お前、ノックぐらいしろよ……」

蒼龍「ありゃ? 着替えに遭遇するイベントはないんですか?」

提督「そんなもんあるか!!」

蒼龍「……ちっ」

提督「おい、今の聞こえたぞ……?」

蒼龍「あっ、やば……!?」

提督「まったく……」

提督「そういや今日は飛龍は来ないのか?」

女提督「彼女は今日は留守番だ」

蒼龍「はい、私も飛龍に負けていられませんからね!」

女提督「いくらなんでも本部に行くだけで秘書艦を二人も侍らせて行く訳にはいかないからな」

提督「侍らせるって……」


蒼龍「まあ飛龍は残念がってましたけどねー」

提督「まあ本部には色々あるからなぁ。酒保に最新の娯楽用品とかもあるし」

蒼龍「いえいえ、そっちじゃありません。目当ては貴方ですよ」

提督「……は?」

蒼龍「いやぁ、飛龍って提督さん推しなんですよ~」ハハハ

提督「………」

女提督「うむ、そういえばそんな事言っていたな」

提督「お前らなぁ……」

蒼龍「そういう私も結構提督さんのこと……」エヘヘ

伊勢「ストップ、ストーーップ!!」ズイ

日向「お前ら何を考えているんだ!?」

蒼龍「……ちっ」

提督「今日二回目だな」

女提督「なんだ君達いたのか?」

伊勢「いますよ!! 秘書艦ですからね!!」


女提督「じゃあ秘書艦のお前ら知ってるか? こいつは昔は結構やり手だったんだぞ?」

伊勢「ええっ!? 提督がっ!?」

日向「……破廉恥だ」

提督「誤情報を流すんじゃない!!」

提督「つーか、破廉恥ってなんだ!? いきなり話が飛びすぎだ」

女提督「本当だ。一体何を想像したのかな?」ニヤニヤ

日向「……っ」///

蒼龍「あはは」ケラケラ

伊勢「ぷくく」ニヤニヤ

日向「お前が笑うのは納得いかん!!」ビシッ

伊勢「あだっ!!」


提督「馬鹿な話してないでさっさと行くぞ?」

女提督「昨日の夜連絡したが大和は来てくれるのか?」

提督「ああ。ちゃんと話してあるからもう来る頃だろう」

女提督「そうか、良かった」

伊勢「それにしても何で大和が必要なんですか?」

提督「図上演習をやる上でやはり専門家がいたほうが信頼度が増すってことだろうな」

日向「ならばその役は空母のほうが適任だろう。なぜ大和なんだ?」

提督「大和は本部のお偉いさん方のお気に入りだからな」

提督「何かにつけて呼びつけたいんじゃないか?」

日向「下心が見え見えだな」

提督「まあ、そういうな」


───コンコン

提督「どーぞ」

───ガチャ

大和「失礼します。戦艦大和、参りました」

提督「噂をすれば何とやらだな」

大和「えっ? 私のお話ですか?」

提督「ああ。そろそろ来る頃だと思っていたからな」

大和「なるほど、そういうことですか」

女提督「すまないな。急な話で」

大和「いえ、私もお役に立てて光栄です」

提督「よし、準備は出来たな。じゃあ二人とも俺がいない間任せたぞ」

日向「了解した」

伊勢「いってらっしゃ~い」ヒラヒラ

提督「何かあったら本部に電話してくれ。俺の名前を出してくれれば繋ぐようにしておく」

女提督「じゃあ、行こう。出発だ」


────


───


──


~本部・会議室前~


提督「何回来てもここは嫌いだな」

女提督「ああ」

蒼龍(この二人似てるよなぁ~)

女提督「じゃあ、蒼龍は外で待っていてくれ。そこの角を曲がると座れる場所があるはずだ」

蒼龍「了解しました♪」

女提督「さて、行くか」

提督「ああ」

───コンコン

提督「失礼します」ガチャ

女提督「失礼します」スッ

大将B「ああ、君達ですか。おはよう。久しぶりですね」

提督「そうですね、少し時間が経ちましたか」

大将B「えーっと、最後にあったのは君がまだ小さいころだったかな?」

提督「そうですか? 大和の建造計画の時にお会いしましたが……」

大将B「ああ、そうでしたそうでした。こう歳を取ると物忘れが激しくてね」

大将B「印象に残ったことしか覚えてないんですよ」ハハハ

大将B「君はこの前もあいましたね?」

女提督「ええ、少し前の作戦会議の時に」

大将B「そうだそうだ、思い出しました」


大将B「君達二人を見てるとあの人を思い出すよ」

大将B「やはり血がつながってなくとも何処か似るものがあるんですね」

提督「私達が……? さて、そんな風に感じたことはありませんが……」

大将B「まあ年寄りの独り言だと思ってください」

提督「………」

女提督「………」

大和「………」


───ガチャ

大将A「おはよう、全員そろっているな」

提督「おはようございます」

女提督「………」ペコッ

大将A「ああ、君が今回赤軍を担当するのか?」

提督「そういうお話を聞いておりますが?」

大将A「図上演習に呼ばれたからと言って調子に乗るんじゃないぞ?」

大将A「図上演習は既に決まっている作戦の注意点を洗い出すものにすぎん」

大将A「大体お前が呼ばれたのも元帥のトランプ仲間で偶々本土にいて……」クドクド

提督(また始まったよ……)

大将B「コホンッ──そういえば大和はどちらかな? 今日演習で審判をやってくれると聞いたが」

提督「ああ、大和ですが……ってあれ? どこにいった?」

女提督「あっちで他の大将と話しているな」

大将A「そうだった、今日は大和が来ているんだな」ササッ


大将A「失礼、君が大和か?」

大和「あっはい、大和型戦艦一番艦大和です」

大将A「おお、何て美しいんだ……。これこそ我が海軍の技術の粋を集めた戦艦だ」

大将A「まさに大艦巨砲主義の象徴だ」

大和「お誉めに預かり光栄です」

大将A「どうだ? 私の鎮守府に来ないか?」

提督「………」

女提督(あのじじい……)

大将A「君はやはり中央に近い鎮守府にいるべきだと私は思うがね」

大和「……えっ、いえ、私は──」

大将B「そんな急な話をすべきではありませんよ」

大将A「いや、急ではないさ。私は前から考えていたことだ」

大将B「相手がその話を聞くのは今日が初めてですよ」

大将A「これは最高の戦艦だ。これがあれば我が軍は無敵だ」

大将A「私のような地位の人間の鎮守府にいるべきだと思うがね」

大将B「まあ、それは追々。今日の目的は図上演習ですからね」


──ガチャ

元帥「おお、全員そろっているな」

大将A「これは元帥殿……!? 整列!!」

大将B「………」スッ

提督「………」スッ

女提督「………」スッ

大和「………」サッ

大将「敬礼!!」

一同「………」サッ

元帥「……うむ」スッ

大将A「───直れ!!」

大将A「これより図上演習を行う。初めに元帥殿からお言葉を頂戴する」

元帥「──うむ。先の奇襲作戦以来我が軍は破竹の勢いで勢力範囲を広げている」

元帥「このまま行けば艦隊決戦も近いだろう」

元帥「敵空母機動部隊を誘き出す為にも敵基地であり輸送の拠点であるミッドウェー島の攻略は不可欠だ」

元帥「このMI作戦はこの戦争を左右する重要なものになるだろう」

元帥「我が軍の威信をかけて成功させなければならない」

元帥「以上だ」

大将「──敬礼!!」

一同「………」サッ

元帥「………」スッ

大将A「直れ!!───準備開始!!」


~図上演習~

大和「では青軍、赤軍とも準備をしてください」

提督「俺は赤軍だな」

中将A「うむ、私は青軍だ」

大和「ではそれぞれの席に着き作戦を考えてください。指示伝票はそれぞれ私のところへ持ってきてください」

大和「今回の図上演習ではMI作戦、そしてその後に行われるFS作戦を続けて行います」

大和「それぞれ了承してください」

提督「了解した」

中将A「こちらもだ」

大和「では演習開始します」


────

───

──


女提督「………」

大将B「随分と厳しい顔をしていますね」

女提督「そうですか?」

大将B「まあ、そう難しく考えないでください。これは図上演習、飽くまで演習なのですから」

女提督「………」

大将B「君は私を使って元帥に彼を赤軍の指揮官に選ばせましたが───」

大将B「恐らくそんな事では結果は変わらないでしょう」

女提督「いや、彼はなかなか頭の回転が良いからな。他の人間にやらせるよりよっぽどいい」

大将B「いやいや、私が言っているのは演習の”結果”ではありません」

女提督「……と言うと?」

大将B「この作戦の事です。恐らく図上演習でどんな結果になろうとも作戦決行は変わりません」

女提督「………」

大将B「なかなか思い通りにはならないものですよ」

女提督「──私はより確実な図上演習を求めていただけで作戦について不満はありませんが」

大将B「まあ、そういうことにしておきましょう」

女提督「………」


提督「さて、どうするか……」

少将A「敵はどのように出てくるかな?」

提督「恐らく飛行場を占領するために全戦力を投入して短期決戦を狙ってくるだろう」

少将B「その線が濃厚ですね。本土からも離れてますから物資の供給が難しい」

少将B「長期戦になれば擱座する艦も出てきますね」

提督「漬け込むとすればそこだな」

提督「よし、大体の方針は決まった。あとは乱数がどう出るかだな」


────

───

──





大和「青軍、ミッドウェー島に向けて進攻します」

大和「青軍、ミッドウェー島飛行場に攻撃開始」

大将A「よしよし、いいぞ」

女提督「………」

大和「赤軍、空母機動部隊から攻撃隊発艦。一航戦、二航戦に向けて攻撃を行います」

大将A「うん?」

大和「赤軍攻撃隊、青軍空母機動部隊を攻撃。空母加賀9発命中、沈没。他1隻沈没、1隻大破」

大将A「何だと!?」

元帥「………」

大将A「どういうことだ!? 9発も当たるのか!?」

大和「ちょうど飛行場攻撃の為に攻撃隊が発艦した直後でしたので……」

大将B「ぐぬぬ……」


元帥「ううむ、それでは困る」

大和「どういうことでしょう?」

元帥「この作戦で飛行場攻略は敵空母機動部隊を誘き出す為に過ぎない」

元帥「敵機動部隊が現れるのが早すぎるのだ。既に敵機動部隊がミッドウェー島周辺にいるとは到底思えんな」

大和「えっと、ですが演習結果では……」

元帥「この図上演習ではこの後のFS作戦についても検討しなくてはならない」

元帥「ここで青軍の機動部隊がいなくなってしまっては演習が続けられん」

大和「……ではどのようにしましょう?」

大将A「命中弾を3発に変更し、沈没判定は取り消しだ」

女提督「……!?」

大将A「どうかしたのかね?」

女提督「………」

女提督「──いえ、何でもありません」

大将B「………」



────


───


──

短いですが今日はこの辺で。

投下します。

>>193

大将B「ぐぬぬ……」→大将A「ぐぬぬ……」

の間違いです……


大将A「ではこれにて図上演習を終了する──」

提督(結局加賀の撃沈判定は取消し……)

大将A「今回の演習では──」

提督(その後の演習でもいくつか青軍側の撃沈判定があったが……)

大将A「いくつか作戦に至らぬ点もあった。実行部隊にはこのようなことが無いよう指導する」

提督「………」

大将A「作戦実行は予定通り一か月後とする」

女提督「………」

大将A「一か月の間に各種訓練を行うように」

女提督「一か月ですか」

大将A「何か意見でもあるのかね?」

女提督「先の奇襲作戦の時と比べると大分訓練期間が短くはありませんか?」

女提督「皆疲労が蓄積している。短期間の訓練では……」

大将A「いや、決行日時に変更はない」

女提督「ですが訓練期間が短いと損害が──!?」

元帥「何度も言わせるな。それは出来ん」


女提督「それは何故ですか!? 理由をお聞かせ下さい!!」

大将A「君!! 言葉には気をつけたまえ!!」

元帥「いや、いい。現場の人間、命を背負っているものなら当然感じる疑問だ」

女提督「………」

元帥「今回の作戦はこの戦争を有利に進めるうえで非常に重要なものだ」

元帥「特にミッドウェー島は軍事的に重要な位置にあり必ず攻略しなくてはならない」

女提督「それはこちらも重々承知しています。ですがあまりにも準備期間が短い」

女提督「2か月ないし3か月は準備期間が欲しいのです」

元帥「7月になればアリューシャン列島周辺には濃霧が発生する日が多くなる」

元帥「作戦決行中の濃霧の発生は艦隊に余計な犠牲を生む可能性がある」

元帥「そして問題はミッドウェー島周辺の潮の流れだ」

女提督「潮の流れ……?」

元帥「そうだ。今この時期の潮の流れを逃せばミッドウェー攻略は一年以上遠くなる」

元帥「情勢は刻一刻と変化している。戦時下の一年はとてつもなく大きい」

元帥「今回実施されなければ永遠に好機は来ない」

元帥「戦争が長引けば必ず消耗戦となり犠牲が多くなるのは君も分かっているだろう?」

女提督「………」

元帥「この国の未来のためにもこの作戦は必要なのだ」


────


───


──


~廊下~

提督「結局何も変わらなかったな」スタスタ

大和「そうですね。かなり際どい判定ばかりでした」テクテク

提督「まあ、元々図上演習は確率に左右されるものだからな」

提督「今回は偶然最も悪い結果が出ただけで実際にはこうならないかもしれないしな」

女提督「………」

提督「すまんな。あまり力にはなれなかったようだ」

女提督「いや、いいさ。君は良くやってくれた」

提督「………」

女提督「しかし、こうなった以上態勢を整えなければならないな」フム…

女提督「次の作戦に向けて補給や修復はもちろん、搭乗員の訓練や場合によっては改修が必要になるな」

提督「こっちも早く日向を復帰させないと」

女提督「ああ。蒼龍、いるか?」

蒼龍「………」

女提督「蒼龍」

蒼龍「………」ボー

女提督「ん? 蒼龍、いるなら返事位して……って何を見ているんだ?」

蒼龍「……あっ、提督。もう会議は終わったんですか?」

女提督「そうだ。鎮守府に戻るぞ」

蒼龍「はい、分かりました」

提督「この絵は……潜水艦か。誰が書いたんだろうな」

蒼龍「そうですね。誰が書いたんでしょうかね?」

提督「恐らく軍の関係者じゃないだろうな。こんな潜水艦見たことないからな」

蒼龍「そうなんですか。残念ですね~」


女提督「何か気になることでもあるのか?」

蒼龍「いやぁ、私は海の上しか行動できないんで」

蒼龍「海に潜るのはどんな気持ちなのかなぁ……って」

女提督「うん? 蒼龍は海に行ったことがないのか?」

蒼龍「いや海には行ってますよ、出撃の度に。泳いだことがないんです」

蒼龍「ずっと飛龍と一緒に訓練場で過ごしましたし……一応訓練で水泳があったから泳ぐことは出来ますけどね」

提督「そうだな。鎮守府周辺は基本的にどこも遊泳禁止だし出撃中に海で遊んでいるわけにはいかないからな」

蒼龍「こんなに近くにあるんですけどね~」

蒼龍「そうだ、提督! 今度海水浴に行きましょう!」

女提督「……はぁ?」

蒼龍「海水浴ですよ、海で泳ぐんです」

女提督「いやさすがに海水浴の意味位分かるぞ」

女提督「しかし、戦時下で海水浴など……」

提督「少しは良いんじゃないか? 機動部隊は開戦以来休みなしだからな」

提督「鎮守府全員では無理だろうけど一人や二人なら……」

女提督「おいおい、それだと私は何回行くことになるんだ!?」

提督(あっ、全員と行くつもりなんだ)


蒼龍「良いじゃん、海水浴。飛龍も誘って一緒に行きましょう!?」

女提督「うーむ……」

女提督「……か、考えておく」

蒼龍「やった、決まりですね。今度水着買いに行こうっと」

女提督「いや……まだ決まったわけじゃ」

提督「……くく」ニヤニヤ

女提督「お前、いらんこと吹き込んだな……」

提督「お前も偶には休め。気を張りすぎたって良いことはない」

提督「偶には他の者にも任せないと後続は育たないぞ?」

女提督「………」


女提督「……うん、まあ海水浴については追々考えるとして」

女提督「蒼龍、早速だが明日から今度のミッドウェー攻略に向けて訓練に入る」

蒼龍「はい、了解です」

女提督「私は出来れば翔鶴瑞鶴も作戦に参加させたいと思っているのだが」

蒼龍「えっ? あの二人をですか?」

提督「………」

蒼龍「うーん、翔鶴さんは今修復中なんですよね?」

提督「ああ、今から突貫でやっても作戦までには応急処置しかできないぞ?」

提督「そんな艦船を戦場に出したところで良い的になるだけだ」

女提督「……む。瑞鶴はどうだ? 彼女は無傷だろう?」

蒼龍「それが瑞鶴も珊瑚海で半数近く艦載機を失ったようで」

蒼龍「今から人員を補充しても戦力になるかどうか……」

女提督「そうか……。今から訓練しても着艦さえ危ういな……」

蒼龍「ちなみに私達も奇襲作戦の時と比べて少し搭乗員が入れ替わっています」

蒼龍「恐らく一航戦、二航戦全員全く変わってない人はいないでしょう」

女提督「ふむ、彼らの訓練に力を入れたほうが得策かもしれんな」

蒼龍「ええ、私もそう思います」

女提督「よし、鎮守府に帰り次第予定表を作成するぞ」

蒼龍「了解しました」

提督「よし、俺達も帰ろう。うちの鎮守府からはアリューシャン方面とミッドウェー方面両方に出撃するからな」

提督「それぞれの作戦にそった演習を行って態勢を整えよう」

大和「了解しました」


~提督の鎮守府~

提督「ただいま~」ガチャ

大和「只今帰りました」

伊勢「あっ、提督。おかえりなさい」

日向「お帰り」

提督「ああ、ただいま」

提督「やっぱりここが一番落ち着くなぁ……」ヨッコイセ

日向「まるで年寄りだな」

伊勢「よっこ伊勢?」

提督「年寄りでもないし、呼んでもいないぞ」

伊勢「あっ、提督。どうぞお茶です」スッ

提督「おっ、ありがとう。今日はやけに気が利くな」

伊勢「いえいえ、いつもですよ」ニコニコ

提督「………」ズズッ

伊勢「………」ニコニコ

提督「………」

伊勢「………」ニコニコ


提督「……どうかしたのか?」

伊勢「どら……いえ、なんでもないですよ」

提督「どら……?」

大和「どら……やき……?」

提督「あっ」

大和「あっ」

伊勢「えっ?」

日向「………」



────


───


──


提督「ちょうど間宮さんがどら焼きを注文していて良かった」

伊勢「もう、忘れるなんてヒドイですよ」モグモグ

日向「私は予測していたがな」モグモグ

提督「日向、お前食わなくていいぞ?」

日向「撤回しよう」

建造妖精「んくっ……んくっ……」ゴクゴク

建造妖精「かぁ~、仕事中のイッパイはたまらんな!!」プハー

提督「言っておくがラムネだからな」

日向「誰に言ってるんだ?」

伊勢「さぁ……?」

提督「こいつが紛らわしい飲み方するからだ!」

建造妖精「いや~悪いねぇ。ちょうど部屋に来た時に提督が出てきてどら焼き買いに行くなんて言うから」

提督「解説どうもありがとう。お前のラムネ代は給料から天引きするからな」

建造妖精「えっ?」

提督「冗談だよ。そんなこの世の終わりみたいな顔するな」


提督「で、ここに来た用事は何だ?」

建造妖精「ああ、あれだよ。こいつらに搭載する試作品が出来たんだ」

伊勢「試作品!?」

日向「私達にか!?」

建造妖精「ああ、まだ試作品だからあんまし信頼度は高くないけどな」

伊勢「ついにカタパルトですか!?」

提督「いや違う。カタパルトではない」

提督「君達に載せるのは電波探信儀、通称電探だ」

伊勢「……電?」

日向「……探?」

提督「そうだ。電波を発射してその反射波を観測して……」

伊勢日向「……?」

提督「……要するに実際に目で見えていなくても敵の位置が分かるようになる」

伊勢「そうなんですか!?」

日向「それは凄いな!?」

建造妖精「まあ、そういうこったな。まだどれぐらい遠くまで分かるかは不明だが目視を超えられれば十分使える」

建造妖精「あと夜やシケの日みてえに目視が役に立たない時は重宝するはずだ」

提督「取りあえず試作品を二つ製造した。一つは対空用、もう一つは水上用だ」

提督「それぞれ伊勢には対空用、日向には水上用を搭載してもらう」

伊勢「分かりました」

日向「了解した」

提督「よし、ではこれから出撃までは二人には主に電探の使い方を勉強してもらう」

伊勢「えっ、勉強!?」

提督「そうだ、使い方が分からなきゃ宝の持ち腐れだろ?」

伊勢「わ、私勉強苦手で……」

提督「大丈夫だ。弾道計算が出来るならこっちも出来るだろ?」

伊勢「うぅ……」

提督「日向もそのつもりでいてくれ」

日向「了解した」

提督「この鎮守府にいる連中はアリューシャン方面、ミッドウェー方面どちらにも行く」

提督「メンバーはそれぞれ示達するから君達は彼女達の物資の補給、訓練を行ってくれ」

伊勢「了解しました」

日向「了解だ」


────


───


──

すいません、今日はこの辺で。

ちなみに来週は恐らく更新できません。
遅筆になりますがご容赦ください。

お待たせしました。
少しですが投下していきます。


~数日後・提督室~


提督「さて、編制をどうするかと……」

提督「確か金剛姉妹と長門姉妹はMI方面に行くんだったな……」

提督「大和も恐らく元帥のおっさんと一緒に行動するだろう」

提督「とすると伊勢日向はAL方面だな」

提督「他の艦はMI方面……と」


───コンコンッ


提督「どうぞ」

大淀「失礼します」ガチャ

提督「大淀か。どうだ二人の様子は?」

大淀「今は基礎的な使用方法を座学で勉強してもらっています」

大淀「後に実際に海上に出て演習を行ってもらう予定でいます」

提督「なるほど」

大淀「二人とも大丈夫そうですね」

提督「ほう。日向はともかく、伊勢はもう少し苦戦すると思ったが」

大淀「そうですか? 試しにペーパーテストをやってもらいましたがも日向とあまり変わらない結果ですよ?」

提督「そうか。馬鹿なのはキャラクターだけか?」

大淀「ヒドイ言い方ですね……」

大淀「私にはあまり馬鹿キャラには見えませんが」

大淀「伊勢は夜自室に戻ってから日向と一緒に勉強しているようです」

提督「なるほどね」

大淀「私も一緒に頑張る姉妹艦が欲しいですねぇ……」チラッ

提督「うん、まあ考えておくよ……」

大淀「お願いしますね?」ニコッ

提督「時々君の笑顔は無性に怖くなる時があるな……」

大淀「それは提督に何か後ろめたいことがあるからじゃないですか?」

提督「うーん、無いはずなんだけどなぁ……」


大淀「それと本部から幾つか書類が届いていました」ピラッ

提督「どれ……MI作戦の事前偵察作戦『K作戦』について?」

大淀「はい。敵空母機動部隊の動きを探るために潜水艦の投入を決めたようです」

大淀「散開線を張ってそこを通過する艦船の動きを把握するのが目的のようですね」

提督「潜水艦って……また急だな」

提督「確か今、潜水艦は入梁中が多いだろ?」

大淀「はい。出撃続きで消耗が激しく整備中の艦がほとんどです」

提督「潜水艦は艦船と比べると消耗が激しいからな……」

提督「水中でも波をもろに受けながら航行するからな、潜水艦の宿命だな」

大淀「現在作業は順調に進めています」

大淀「しかしもう少し早く言ってくれれば必要最低限の処置だけで済んだと思うのですが……」

提督「まあ、今更とやかく言っても仕方がない。予定を組み直して必要最低限の処置だけしてもらおう」


大淀「あとこんな書類も届いていました」ピラッ

提督「今度は何だ……?」

提督「ミッドウェー島は水不足……? どういうことだ?」

大淀「現在ミッドウェー島は蒸留器が故障しているらしく水が不足しているようです」

大淀「各鎮守府に送られている情報のようですが上陸作戦は違う戦隊の担当なので私達にはあまり関係ないですね」

提督「まあ、それはどちらでもいいが……ん?」

大淀「どうかしましたか?」

提督「ちなみにこの情報はいつの時点での話だ?」

大淀「と、言いますと?」

提督「いや、故障したのが何週間も前ならもう修理は出来ているかもしれない」

提督「MI作戦が決行される頃にはもう水不足は解消されているんじゃないか?」

大淀「ああ、そういうことですか。正確な日付は分かりませんがここ最近のようですよ?」

提督「最近……? だがこれは敵の無線を傍受して得た情報だろ?」

大淀「はい、恐らくそうだと思います」

提督「最近得た敵無線がもう解読されてるなんてちょっと信じられないな」

大淀「確かにそうですね……。私もちょっと早すぎる気がします」

提督「だろう?」

大淀「まさか敵が暗号化されてない平文で情報をやりとりしていたとか……?」

提督「こんなヤバい情報を平文でやり取りするなんてそれこそ馬鹿だろ……」


提督「この情報は書面通知だけか? 無線でのやり取りは?」

大淀「さぁ……私もそこまでは。この鎮守府に来たのは書面だけですね」

提督「……ふむ」

大淀「気になりますか?」

提督「うん、何だろうな。妙な違和感がある」

提督「今回の作戦全般に言えることだが今まで何かが上手くいっていない」

提督「先の奇襲作戦やこれまでの作戦では俺達は苦戦しながらも勝利を収めてきた」

提督「だが今回の作戦は何かが上手くいっていない。その何かってのは俺にもよく分からんが……」

提督「図上演習の結果、五航戦の不参加、そして今回の無線……」

提督「このほんの僅かな綻びが気になって仕方がないんだ」

大淀「私は気にしすぎだと思いますが……。今は機動部隊の士気も練度も最高潮です」

大淀「彼女達なら多少の不利は難なく押し返してくれると私は信じています」

提督「いや、俺も彼女らの強さは十分分かっている」


提督「赤城も加賀も蒼龍も飛龍も、彼女たちは本当に強い」

提督「そして指揮を執るのはあいつだ。ハッキリ言って負ける要素はほぼない」

大淀「──それなら何故?」

提督「……いや俺にもよく分からん」

大淀「………」

提督「………」

大淀「分かりました。今回の無線の件は私のほうでも少し調べてみます」

提督「ありがとう」

大淀「それと提督」

提督「ん? どうした?」

大淀「今の話はみんなの前ではしないでくださいね」

大淀「あなたは私達の指揮官です。指揮官は何事にもどっしりと構えてもらわないと」

大淀「愚痴は私と伊勢さん達の前だけにしてくださいね?」ガチャ

提督「……善処するよ」

大淀「お願いしますよ?」

───バタンッ

提督「………」

提督「──愚痴……ね」


────


───


──


~女提督の部屋~

赤城「───という結果でした」

女提督「………」

赤城「如何でしょう? 更に訓練を続けたほうがよろしいでしょうか?」

女提督「ふむ……」

女提督「確かに以前と比較して命中率が下がっているのは事実だが───」

女提督「新しい搭乗員が多い今では仕方がないだろう。良くやってくれてると思う」

赤城「ありがとうございます」

女提督「これ以上訓練を続けても仕方がない。訓練用の数機を残してあとは整備を行ってくれ」

赤城「分かりました」

女提督「……よし、以上だ」

赤城「………」

女提督「ん? どうした? まだ何かあるのか?」

赤城「……提督、この作戦、必ず成功させてみせます!」

女提督「どうしたんだ? 急に」

赤城「いえ、今回の作戦は戦力を総動員して行う重要な作戦」

赤城「私達の未来のためにも必ず成功させてみせます!」

女提督「そうか──」


女提督「──本当に頼もしい空母になったものだ」

女提督「初めてこの鎮守府に来た君はまだ右も左も分からなかったのに……」

赤城「いきなり昔の話ですか……?」

女提督「いや、ちょっと思い出してしまってな」

女提督「今でも覚えているよ。君がこの鎮守府に来た時のことは───」

女提督「元々戦艦として作られた君はまだ空母の何たるかを全く分かっていなかったな」

赤城「ふふっ、そうですね」

赤城「建造工廠で完成を待っていた時に空母の役割を命ぜられたときはかなり戸惑いましたね」

女提督「あの時は焦ったよ。急に空母を二隻造れと言うんだから」

女提督「君のお姉さんもその予定だったんだがな……」

赤城「あれは不幸な事故です。悲しいことですが仕方がありません」

女提督「それで急遽加賀に声をかけたんだったな」

赤城「ええ、これも運命だと思います」

赤城「私は加賀さんとともに一航戦を名乗れることが本当に嬉しいです」

女提督「そうか……」


赤城「二航戦の子達も頑張ってくれています」

赤城「恐らく訓練量なら私達よりもはるかに上ですね」

女提督「あの二人の最近の成長ぶりには目を見張るものがあるな」

赤城「ええ。特に飛龍はもともとの性能も良いので蒼龍と比べて一歩前に出ています」

赤城「蒼龍もそれに負けないよう追いすがっていますね」

女提督「あの二人はこの鎮守府で生まれたからな」

女提督「私も思い入れがある。あの二人が成長すると私も嬉しいんだ」フフフ

赤城「……そうですね。私も自分の事のように嬉しいです」

赤城「彼女たちは私達一航戦と違い、元来空母として設計された艦娘」

赤城「やはり地力が違いますね。私達もうかうかとしていられませんね」

女提督「お互いが刺激になるのは良いことだな」

女提督「一応、一、二と番号はつけているが私は優劣はないと思っている」

女提督「戦果などは気にせず互いに最大限の結果を出せるよう協力してくれれば私はそれでいい」

赤城「………」

女提督「でも二航戦の二人は少し劣等感を抱いているようだがな……」


赤城「そうなのですか?」

女提督「うむ、少し言葉の節々からそう感じることもある。まあ無理もないかもしれない」

女提督「君達は戦歴が長い上に奇襲作戦前には編成替えで優秀な人材を君達に集めたからな」

赤城「それでも奇襲作戦前の戦果はあまり変わらないように思えたのですが……」

女提督「それほど彼女らをしごいたんだよ、私がな」

赤城「なるほど、通りで」

女提督「仕方がないことだ。戦場で死なない為には普段の訓練は厳しいものでなければならない」

女提督「陰で鬼だとか人殺しとか言われようが私は自分の部下が無事帰ってくればそれでいいんだ」

赤城「前にも同じような事をおっしゃってましたね?」フフフ

女提督「何度でも言うさ」

赤城「大丈夫です。今回も無事に帰ってきますよ」

女提督「是非そうしてくれると助かるな」

赤城「ふふふ」クスクス


赤城「───では私はこれで」

女提督「そうか、すまない。随分と話が長くなってしまったな」

赤城「いえ、いいんですよ。提督とは最近あまりお話していませんでしたから」

女提督「そうか、最近忙しかったからな」

赤城「またゆっくりお話ししたいですね」

女提督「ああ」

赤城「あっ、そういえば……」

女提督「どうした?」

赤城「今思いついたんですけど二航戦の二人に何かプレゼントをあげるのはどうですか?」

女提督「なんでまた急に……」

赤城「いえ、さっきお二人が、戦闘に関して不安に思っているという話を聞いたので」

赤城「何か提督のお気持ちを伝えられる方法をと思いついたのですが」

女提督「ふーん、プレゼントって新しい装備とか何かか?」

女提督「残念ながら今の鎮守府にそんな余裕はないぞ?」

赤城「そんな大きなものでなくていいんですよ。ちょっとしたものでいいんです」

女提督「ちょっとしたもので喜ぶかなぁ……」

赤城「喜びますよ。提督からのプレゼントですから一瞬でキラキラ状態です!」フフン

女提督「そうか、うーん……」

女提督「……考えておこう」

赤城「ちゃんとお願いしますね? 頑張っているのですから労ってあげないと」

女提督「………」

赤城「では──」ガチャ


───バタン


女提督「はぁ……。労う……ねぇ」


────


───


──

今日はこの辺で。
今週以降はもう少し頻繁に書けると思います。

長らく空けてしまいました……
ちょっとずつ書いていきます。


~機動部隊出撃前日・提督の鎮守府~


女提督「翔鶴の調子はどうだ?」

提督「いや、まだ出撃出来るほど回復していない」

女提督「そうか……。今回ばかりは仕方がないな」

提督「そこまで五航戦を出撃させたかったのか?」

女提督「今回の作戦は総力戦だ。できる限りの戦力を投入する必要がある」

提督「最初のほうは戦力を集中させることに反対していたじゃないか」

女提督「ここまで来たらもうとことんやるしかない」

女提督「そしてやるからには勝たねばならない。それが我々の使命だ」

提督「………」


女提督「それで編制は大体決めたのか?」

提督「ああ、俺の中では大方決まっている」

提督「明日、機動部隊に同行するのは榛名、霧島、あと第八戦隊の利根、筑摩」

提督「警戒隊は長良と第十駆逐隊、第十七駆逐隊───」

女提督「ふむ、なかなかの面子だな」

提督「主力部隊の出撃は機動部隊の二日後だ」

提督「そっちも大方決まっているが……」

提督「何かあったら直前でも変更するつもりでいる」

女提督「ほう、何か思うところでも?」

提督「いや、ない。今のところ」

女提督「そうか、ではもう出撃を待つだけといったところだな」

提督「そうだな……」

提督「お前、今回出撃するのか?」

女提督「私は出撃しない。私自身が戦う訳じゃないからな」

女提督「指揮を執るだけだよ、私は」

提督「戦場に行くんだからそれは立派な出撃だろ?」

女提督「そうなのか?」

提督「そういうもんだろう。ちゃんと周りの人間に挨拶しておくんだぞ?」

女提督「今回の作戦は曲がりなりにも極秘の作戦だ。他人に教えるわけにはいかないよ」

提督「まぁ、『遠くに出かける』とさえ言っておけば相手も察してくれるさ」


女提督「そういえば君は所属の艦娘達に何か物を贈ったことはあるか?」

提督「どうした、藪から棒に……?」

女提督「いや、大して意味はないんだが……」

提督「贈り物ねぇ……プレゼントってことか?」

女提督「まぁ、そういうことだ」

提督「改良型零戦とか……?」

女提督「やはり君も同じ発想か……」ハァ…

提督「いや、それぐらいしか思い浮かばないし……」

女提督「なんかこう、もっとあるだろう?」

提督「……うーん、あるかなぁ?」

提督「でも、どうしてまた急に?」

女提督「いや、実はな──」


────


───


──


~同時刻・部屋の外~

伊勢「二人で何話してるんだろうね?」コソコソ

蒼龍「さぁ、ちょっと良く聞こえないですね」ボソボソ

飛龍「二人とも黙ってください、よく聞こえない!」ボソボソ

日向「何やってるんだ……?」ハァ…

蒼龍「いやぁ、あの人たち二人きりだと何話すのかなぁ……って」

伊勢「うーん、なかなかそういう機会は無かったからねぇ~」

飛龍「私達に翔鶴の様子を見に行かせて二人で何をやっているのか」ニヤニヤ

蒼龍「そう! 気になるのはそこ!」ビシッ

伊勢「そうそう! 問題はそこ!」

飛龍「若い男女が一緒に居ればそりゃあもう……」ケラケラ

日向「若いって……」

伊勢「ねぇ、日向も気になるでしょ?」

日向「三十路男女の色恋沙汰がそんなに気になるのか?」ハァ…

蒼龍「えっ?」

飛龍「えっ?」

伊勢「えっ?」


日向「えっ? 彼らは水雷学校時代の同期なんだろ?」

日向「私達の提督はもう30超えてるはずだから……」

蒼龍「あれ? 前に聞いたときはうちはぎりぎり(ピー)だったような……」

伊勢「画面の前の人的には規制が入ったか……」

日向「よくあの提督に年齢訊けるね……」

飛龍「いえ、盗み聞きしただけです……」

蒼龍「歳を聞くなんて、そんなこと怖くて出来るわけないじゃないですか……」

日向「それにしてもその歳で、しかも女で提督か」

伊勢「私達の提督も若いとは思ってたけど凄いわね~」

蒼龍「そうですね~。周りで女性の提督はいませんね」

飛龍「確かにうちの提督は"出来る女"って感じがするもんね~」



飛龍「ふむふむ、ではでは本題に戻りますか?」

伊勢「そうね」

蒼龍「あれ……? 急に静かになった気が……」

───ガチャ

伊勢蒼龍飛龍「あっ……」

女提督「……お前ら何やってんだ?」

日向「はぁ……」

提督「ぷっ……ははは」ケラケラ


───

──



~その後~

女提督「……全く何をしているかと思えば」

蒼龍「あはは……」

飛龍「えへへ……」

女提督「──で、翔鶴の様子はどうだった?」

蒼龍「うーん、出撃は難しそうですねぇ……」ハァ

飛龍「瑞鶴が看病してくれていたんで見たところ元気そうでしたけど」

女提督「そうか、仕方がない。今回五航戦の出撃は難しそうだな」

蒼龍「大丈夫です! 私達が翔鶴、瑞鶴の分まで活躍して見せます!」

飛龍「そうです! 私達に任せてください!」

女提督「そうか。頼もしいな」フフフ


提督「で、みんな明日の出発の準備は出来ているのか?」

蒼龍「その辺は心配ありません。着替えから何から全部用意しました」フンスッ

飛龍「夜にみんなで遊ぶ用のトランプと花札も持ちました」フンスッ

伊勢「何それ楽しそうっ!」キラキラ

提督「いや、遊びに行く訳じゃないんだから───」

女提督「まあ良いじゃないか。現地までは数日かかる」

女提督「気を紛らわせる娯楽用品も大切だぞ?」

日向「む、確かに部隊規律を保持するうえで娯楽も重要だな」

提督「確かにそうなんだが……」

蒼龍「楽しみだなぁ♪」ワクワク

飛龍「夜はみんなでトランプ大会だね♪」ワクワク

伊勢「いいなぁ。私も一緒に行きたいなぁ……」

提督「こいつらを見てると遠足に行くのかと勘違いするよ……」

日向「確かに……」

女提督「ふふふ」クスクス


女提督「よし、あまり長居してもあれだからな。私達はそろそろ帰ろう」

伊勢「えぇ~、もう帰っちゃうんですか?」

女提督「出撃は明日だ。少しでも体を休めておいたほうが良い」

提督「確かにな」

女提督「───あと帰りに用事もあることだしな」

提督「ほう」ニヤニヤ

蒼龍飛龍「?」

女提督「コホン、ではそういうことだ。蒼龍、飛龍帰るぞ」

蒼龍「分かりました」

飛龍「はーい。じゃ、また今度ね、提督さん、伊勢、日向」

伊勢「またね」

日向「ああ、帰ってきたら飲みにでも行こう」

提督「おう。こっちの鎮守府からも何人か一緒に行く予定だからよろしくな」

蒼龍「へぇ~。誰が来るんですか?」

提督「取りあえず、第八戦隊と第十戦隊の予定だ。利根、筑摩、長良かな」

飛龍「その娘達は今日はいないんですか?」

提督「一昨日から休暇を取らせてるからな」

提督「と言っても、昨日までは皆自主的に訓練を行っていたようだ」

提督「今日は市街のほうに買い物に行ったようだな」

女提督「うむ、その辺は年相応の女の子だな」


女提督「よし、区切りをつけないと長話になりそうだからな。帰るぞ」

蒼龍「了解しました。じゃ、またね~♪」

飛龍「じゃあね~♪」

伊勢「ばいばい~♪」

日向「ああ、またな」

───バタン

提督「ふぅ。出撃前とは思えないぐらいの落ち着きぶりだな」

伊勢「──えっ?どういうことですか?」

提督「いや、指揮官艦娘ともにこう気負った感じが全然なかったからな」

提督「もう少し緊張感があってもいいんだが……」

伊勢「そういうものなんですか?」

提督「ああ。ある程度出撃するようになると分かるが出撃前は何かと神経質になるものだ」

提督「でも、二航戦の二人に関してはそういう雰囲気が全くなかったな」

日向「なるほど。言われてみれば確かに」

提督「あいつもこの作戦が決まるまでは色々と言っていたが今となっては大分落ち着いてきた気がするよ」

日向「やはり指揮官としての自覚がそうさせるんだろう」

提督「指揮官としての───か」

伊勢「………」


伊勢「──提督。私達も頑張りましょう」

伊勢「一航戦、二航戦がMI方面を攻略する間、私達はAL方面攻略の任務があります」

伊勢「私達は私達に与えられた任務を完遂しましょう」

日向「そのとおりだ。私達も自分の仕事をしよう」

提督「……そうだな。俺達も頑張らないと」

提督「俺達の出撃は機動部隊の二日後だ」

提督「時間がある分、今できる一番良い状態で臨もう」

提督「───ところで電探の使い方はもうマスターしたのか?」

伊勢「はい、まだ何となくですが目標物の位置が分かるようになってきました」

日向「同じく、大体の位置は分かる」

提督「そうか、まだあまり正確ではないようだな」

提督「試作品だから仕方のない部分はあるが……」

伊勢「……うーん、これ以上正確にというのもちょっと難しいですね」

日向「同じくだな……」

提督「よし、俺もあとで工廠に見に行こう」

提督「あとは日向に積む予定の高角砲だな」

提督「高角砲は新しい装備じゃないから大丈夫だと思うが……」

日向「……うむ」

提督「もう艤装の確認はしたのか?」

日向「ああ、それなら問題ない」

提督「そうか。ならいいが……」




───


──





~その日の夜・女提督の執務室~

女提督「………」

蒼龍「お出掛けお出掛け~♪」

飛龍「ふんふ~ん♪」

女提督「………」

蒼龍「あれ? 提督はあんまり楽しそうじゃないですね?」

飛龍「何か嫌なことでもあったんですか?」

女提督「いや、別に嫌なことがあったわけじゃないが……」

女提督「出撃前にそこまで無邪気に浮かれることも出来ないな」

飛龍「へ? どうしてですか?」

女提督「うん……何というか。君達は……その」

蒼龍「?」

女提督「その飽くまで仮にだ。もしかしたら死ぬかもしれない場所に行くのに……」

女提督「どうしてそんなに楽しそうなんだ?」

蒼龍「う~ん……そういわれると……」

飛龍「何でですかね? 私は怖いと思ったことがないですね」

女提督「そうなのか?」

飛龍「───だって楽しいじゃないですか?」


女提督「………」

女提督「私が新人の時は戦場に出るたびに震えが止まらなかったものだが……」

蒼龍「でも私達は新人っていわれるような立場じゃないですけどね」

飛龍「何てったって栄えある第二航空戦隊ですからね」

女提督(見た目の年齢で言ったら私の新人時代と変わらないのに……)

女提督(本当にこの子たちは……艦娘なんだな)

女提督「──ところで君達に渡したいものがあるんだが……」

飛龍「えっ!? なんですか!?」

蒼龍「もしかして改良型零戦ですか!?」

女提督「何で君達も発想が一緒なんだ……?」ハァ…

女提督「実は今日、帰りに買ってきたんだ」ゴソゴソ

女提督「ほれ」ポン

蒼龍「えっ?」

飛龍「これって……?」


蒼龍「ってなんですか? この布きれ?」

女提督「布きれ言うな。これは鉢巻だ」

飛龍「鉢巻ですか。何でまた急に……」

女提督「いや、今まで君達には兵装しかあげてこなかったんだが」

女提督「偶にはこういうプレゼントもどうかなと思ってな」

飛龍「へぇ~、珍しいことしますね~」スッ

───シュルシュル

──キュッ

飛龍「こんな感じかな?」

蒼龍「キャー!! 飛龍似合ってる~」カワイイー

飛龍「えっ? そ、そうかな~」テレテレ

女提督「ああ、良く似合ってる。蒼龍も着けたらどうだ?」

蒼龍「じゃ、じゃあ私も……」キュッ

飛龍「か、可愛い……」ゴクリ

蒼龍「そ、そう?」テレテレ

飛龍「照れてるところがもっと可愛い~♪」


飛龍「どれどれ~鏡で見てみよっと……あれ?」

女提督「どうした?」

飛龍「いや、最初お揃いかと思ったら二人で違うな~、と」

蒼龍「あっ、ほんとだ。飛龍のには赤い丸がある」

女提督「あれ? おかしいな同じものを頼んだはずなのに……」

女提督「すまん、お揃いにしようと思ってたんだが……」

蒼龍「良いんですよ。少し違いがあったほうが見分けが付きやすいですから」

飛龍「これだけ目立てば味方も分かりやすいしね~」

女提督「そうか、よかった」ニコッ

蒼龍(可愛い……)

飛龍(三十路近いけど可愛い……)

女提督「飛龍、お前失礼なこと考えただろう?」


蒼龍「提督」

女提督「ん?」

蒼龍「──ありがとうございます。この鉢巻、大切にします」

女提督「そうか、そうしてくれるとあげたほうとしてもありがたいよ」

飛龍「私も。この鉢巻着けて頑張りますね」フンス

女提督「ああ、頑張ってくれ」

飛龍「よーし、今日は鉢巻着けたまま寝ちゃおっと~♪」

蒼龍「えーっ!? 寝癖がついちゃうよー!?」

飛龍「カチューシャみたいに巻けば大丈夫でしょ!?」

女提督「はしゃぐのもいいがしっかりと休むんだぞ?」

女提督「明日からまた暫く外の海での生活が続くからな」

女提督「地面の上でしっかり身体を休めておくんだ。わかったな?」

蒼龍飛龍「はい!」ニコッ

女提督「いい返事だ」


───


──




~その頃・部屋の外~

赤城「~♪」

加賀「赤城さん妙にご機嫌ですね」

赤城「そうですか?」ニコニコ

加賀「ええ、とても嬉しそうです」

加賀「あのプレゼントを考えたのは赤城さんなんですか?」

赤城「いえ、私はプレゼントを勧めはしましたが内容に関しては何も言ってませんよ」

加賀「そうですか。鉢巻とは何とも提督らしい……」

加賀「でもあの二人があんなに無邪気に喜ぶなんて……」

赤城「やっぱり───」

赤城「───大切な人からのプレゼントというのは特別なものですよ?」フフフ



───

──


ところどころキャラの語尾がおかしいところがありますね(汗)

まあ、今日はこんな感じで。
おつでした。

お久しぶりです。作者です。

仕事の都合上、なかなか話を書けない日が続いております。
のんびりとお付き合いいただければ幸いです。

では、投下します。


~機動部隊出撃の日~

──シトシト

女提督「雨か……」

飛龍「雨は嫌ですねぇ……」

女提督「そうだな。風邪もひくしな」

飛龍「いや、艦娘は雨に打たれても風邪はひきませんよ」

女提督「そういうものなのか? じゃあ、何で嫌いなんだ?」

蒼龍「そうですねぇ。雨だと波が高くて発着艦が出来なくなっちゃいますし……」

飛龍「艦載機が落ちちゃいますし……」

女提督「確かに。晴れの日は空母は丸裸だ。雲が低ければ敵爆撃機に見つかる可能性も低いが」

女提督「万が一索敵が不十分だと一方的にやられてしまうからな」

飛龍「索敵は大切ですね」

女提督「うむ。航空戦では相手の空母、航空機がどこにいるかを知ることが大切になる」

女提督「索敵も自分たちの周りすべてを完全に網羅することは出来ないからな」

女提督「ある程度、天候などの事前情報を判断しておおよその場所を推測しておく必要がある」

蒼龍「なるほど……」フムフム

飛龍「勉強になりますね……」フムフム


~機動部隊出撃の日~

──シトシト

女提督「雨か……」

飛龍「雨は嫌ですねぇ……」

女提督「そうだな。風邪もひくしな」

飛龍「いや、艦娘は雨に打たれても風邪はひきませんよ」

女提督「そういうものなのか? じゃあ、何で嫌いなんだ?」

蒼龍「そうですねぇ。雨だと波が高くて発着艦が出来なくなっちゃいますし……」

飛龍「艦載機が落ちちゃいますし……」

女提督「確かに。晴れの日は空母は丸裸だ。雲が低ければ敵爆撃機に見つかる可能性も低いが」

女提督「万が一索敵が不十分だと一方的にやられてしまうからな」

飛龍「索敵は大切ですね」

女提督「うむ。航空戦では相手の空母、航空機がどこにいるかを知ることが大切になる」

女提督「索敵も自分たちの周りすべてを完全に網羅することは出来ないからな」

女提督「ある程度、天候などの事前情報を判断しておおよその場所を推測しておく必要がある」

蒼龍「なるほど……」フムフム

飛龍「勉強になりますね……」フムフム


女提督「どうやら伊勢と日向の鎮守府では索敵せずとも敵の位置を知ることが出来る装備を開発しているようだが……」

蒼龍「へっ!? そんなこと出来るんですか!?」

女提督「ふむ、私も詳しい構造は分からないが……」

女提督「どうやら電波を使うものらしいな」

飛龍「へぇ~、電波って私達が使ってる無線と同じですよね?」

飛龍「遠くの声が聞こえるのも不思議だけど遠くにいる敵が見えるのも不思議だなぁ」

女提督「一昔前はは無線さえ無かったのを考えると技術の進歩というのは素晴らしいな」

蒼龍「うーん、遠くのものが見える……想像できない……」ムムム…

女提督「そのうち私達の艦にも配備される日が来るかもしれないな」


女提督「───むっ、そろそろ時間か」

赤城「………」チラッ

女提督「………」コクッ

赤城「ふぅ───では、行きましょう」

大将B「ああ、宜しく頼むよ」

赤城「はい」

赤城「一航戦赤城出撃します!!」

赤城「艦隊、予定順序に出航!!」

長良「よし来たー!」

利根「重巡利根、出撃するぞ!! 行くぞ、筑摩!!」

筑摩「はい、利根姉さん」

榛名「榛名出撃します!!」

霧島「マイクはOKね! 出撃よ!」


───ザザァ

伊勢「提督、先発部隊出航します」

提督「これだけの艦艇が集まるとは、壮観だな」

日向「今回出撃するのはその一部だがな」

提督「それでも今機動部隊を支えている空母達が皆出撃するんだ」

提督「これを壮観と言わずして何というんだ?」

日向「それもそうだな」

日向「初めて演習を行った頃が懐かしい。あの頃とは大分雰囲気が変わったな」

伊勢「そうね、鎮守府の威信を背負う気迫のようなものを感じるわ」

提督「やはり成長するもんだなぁ……」

提督「無論君達も同じぐらい、いやそれ以上に成長していると思うけどな」

伊勢「そうですか? 自分だとあまり実感が湧かないですね」

提督「まあそういうものだよな」ハハハ


提督「よし、今はあいつらを全力で送ってあげよう」

伊勢「そうですね」

日向「ああ」

大将A「よし、全員、帽子振れ!!」

提督「………」スッ

伊勢「私達は帽子ないけど……」スッ

日向「手ぐらいは振ってやらんとな」スッ

提督「全力で見送ってやれ、暫くは無線封鎖で話すことも出来ないからな」


───ワーワー

赤城「………」

加賀「行きましょう、赤城さん」

赤城「──ええ」

大将B「では私達は指揮用艦艇で後方にいますので」

女提督「よし、ここから暫くは無線封鎖だ」

女提督「緊急時以外使用を厳禁する」

女提督「各自鎮守府海域から出る際、索敵機を飛ばせ」

女提督「対潜水艦警戒にあたらせろ。いいな?」

一同「了解!」

女提督(雨か……逆に都合がいいかもしれない)

女提督(今回も奇襲作戦、航行中万が一にでも敵艦艇と遭遇する訳にはいかないからな……)


───


──






~道中にて~

女提督「………」

赤城(──かなり霧が深いですね)

赤城(このままの速度を維持するのは危険ね)

赤城(ただでさえ無線が封鎖されている今)

赤城(一度艦隊が崩れてしまえば立て直すのは難しいですね)

赤城(───仕方ありません)

赤城「各自速度を一段階落としてください!」

赤城「互いに距離を詰め、僚艦を見失わないようにしてください!」

赤城「申し訳ありません、提督」ペコッ

女提督「いや、仕方がない。正しい判断だ」

女提督(───到着時刻に影響が出るが、仕方がないな)


蒼龍「全然前が見えませんね~」

飛龍「索敵機からも連絡はありません」

女提督「そろそろ索敵も控えよう」

女提督「この濃霧では上空からの索敵は難しい」

女提督「何より未帰還機が出るかもしれないしな」

赤城「了解しました」

女提督「それと各自、航行しつつ補給を行ってくれ」

女提督「先は長いぞ」

一同「了解!」


大将B「ここまで天気が崩れるとは予想外ですね」

女提督「ふむ、この時期のこの海域は霧が出るとは聞いていましたが───」

女提督「逆に他の艦船がいないので隠密行動には向いているかもしれないですね」

大将B「この霧は私達にとって利となるのか、それとも……」

女提督「今の状態では何とも言えませんね」

女提督「問題はこのまま進路を濃霧に遮られると……」

女提督「予定している期日に間に合うのかどうかというところです」

大将B「それは私も懸念しています」

大将B「場合によっては大きく進路を変更して最短距離でミッドウェー島に向かう必要がありますね」

女提督「ふむ、濃霧の中では転進にも時間がかかる」

女提督「もしもの時は早めに決断する必要があるな」

赤城「………」




───

──


~数日後・主力部隊出撃の日・提督室~

提督「いよいよか」

伊勢「いよいよですね」

日向「いよいよだな」

提督「第三水雷戦隊からの連絡は入ったか?」

伊勢「いえ、それがまだ……」

提督「そうか、あいつを昨日の夜から鎮守府海域の掃海に行かせたのは間違いだったかな……」

伊勢「そういえば『夜戦だー!』とか言いながら飛び出していきましたね……」

提督「作戦内容も聞かずに飛び出していったからな……」

提督「吹雪に内容を教えて後から追わせて事なきを得たが」

日向「そもそも何で川d……夜戦馬鹿を夜から掃海に行かせたんだ?」

提督「わざわざ言い直すとかお前も結構酷いな」

提督「理由は単純だ。今回の戦力で潜水艦警戒に関しては奴の三水戦が一番練度が高いからだ」

提督「そこらへんで変な差別はしないよ、たとえ夜戦馬鹿でもな」

伊勢(この人も割と自然に夜戦馬鹿って言ってるなぁ……)



──ガチャ

川内「………」

提督「おっ、噂をすればだな」

吹雪「川内さん! ノックしなきゃダメですよ!」タッ

伊勢「どうしたの? 元気ないけど……」

提督「……?」

川内「……なかった」

日向「は?」

川内「敵が居なかった! 夜戦出来なかった!」ウワーン

提督「俺はお前に交戦を指示した覚えはないがな」

川内「敵が居なきゃ夜戦出来ないじゃん!!」

提督「鎮守府海域にそう敵がわんさか居てたまるか!」

川内「むー」

伊勢「ま、まあ川内も落ち着いて──」

吹雪「そうですよ、川内さん」


日向「で、掃海作戦はどうだった?」

吹雪「はい、鎮守府海域周辺、敵潜水艦による脅威はありません」

提督「そうか、わかった。ご苦労だったな」

提督「よし、君達も出撃の準備をしてくれ」

提督「損傷した艦娘はいないな?」

吹雪「はい。艦隊に損傷した艦娘はいません」

提督「ならいい。じゃあ、皆補給を済ませてくれ」

提督「補給を済ませたら直ぐ港に集合だ。わかったな?」

川内「はーい、了解でーす!」

吹雪「了解しました! では失礼します」タッ

───バタンッ

提督「君達も出撃の準備をしてきてくれ」

伊勢「はい!」

日向「了解した」


───


──




大将A「元帥殿、出撃の準備が出来ました」

元帥「うむ」

元帥「数日前とは違って良い天気だ。風も凪いでいる」

元帥「艦隊の様子はどうだ?」

大将A「はい、旗艦の大和以下、戦隊・水雷戦隊共に万全です」

元帥「ふむ、なかなか良いじゃないか」

大将A「では出航は予定通りに」

元帥「ああ、そうしてくれ」



───ガヤガヤ

提督「皆出揃って来たな」フム

伊勢「そうですね。大和に長門姉妹、扶桑姉妹もいますね」

提督「彼女らも久しぶりの実戦だ。変に力が入って硬くならないといいが……」

日向「その心配はないんじゃないかな?」

日向「今日のために皆訓練をしてきたんだ」

日向「心配ないさ」

提督「そうか。やはり同じ艦娘が言うと説得力があるな」


鳳翔「あっ、提督」コンニチワ

提督「あれ? 鳳翔さん?」ドウモ

鳳翔「提督、お久しぶりです」

提督「今回は鳳翔さんも出撃なんですか?」

鳳翔「ええ、主に役割は後方支援ですが……」

鳳翔「私は最近の艦載機は運用できませんから」

提督「いや、貴女にはそれを覆すぐらいの経験がある」

提督「どうか彼女たちを護ってほしい」

鳳翔「分かりました。私は伊勢さん、日向さんの第二戦隊とは途中から別行動になりますが──」

鳳翔「──全力で任務を遂行します!」

提督「頼もしい限りです」


伊勢「提督って何で鳳翔さんには敬語なのかしら?」ボソボソ

日向「前に雰囲気がどうとか言っていた気がするが」ボソボソ

伊勢「鳳翔さんって設定的に提督より年上なのかしら?」ボソボソ

日向「設定とかいうな」ボソボソ


───ピーッ

伊勢「あっ、そろそろ時間だ」

提督「お呼びがかかったみたいだな」

提督「───じゃあ皆、行って来い!」

提督「あー、俺から言いたいことは一つだけだ」











提督「必ず帰ってこい! これは命令だ!」

提督「わかったな!?」

一同「はい!」ビシッ


川内「じゃあ、提督行ってくるね!」タタッ

提督「ああ、行って来い」

吹雪「司令官、行ってきます!」タタッ

提督「ああ、必ず帰ってこい──」

伊勢「私達も一声掛けて行きますか」

日向「うむ、そうだな」

提督「──お前たちで最後かな?」

伊勢「はい、そうです!」

提督「執務室も暫く静かになるな……」

日向「大丈夫だ。ほんの一時のことだ」

日向「皆帰ってくればまた元通りだ」

提督「……そうか」


提督「──俺から言うことはさっきと同じだ」

提督「二人とも、必ず勝ってこい」

伊勢「はい──。必ず鎮守府に帰ってきます」

日向「同じく」

伊勢「あっ、日向。ちゃんと言わなきゃだめだよ?」

日向「む、どういうことだ?」

伊勢「私に合わせて以下同文みたいなことしないで、恥ずかしがらずにちゃんと提督に言いなさい」

日向「べ、別に私は恥ずかしがってなど……」

伊勢「暫く無線封鎖で話せないんだから」

伊勢「行ってきますはちゃんと言わなきゃだめよ!」

提督(ほう、伊勢が日向に物申すこともあるんだなぁ)


日向「お、おほん──」ンンッ

日向「あー、提督」

提督「おう」

日向「行ってくる。そして必ず帰ってくる」

提督「ああ、行って来い!」

伊勢「うん、じゃあ行こう、日向」タタッ

日向「あっ、おい待て──」タタッ

提督「はははっ」


───


──





大将A「では元帥、私達は指揮艦艇のほうに」

元帥「そうだな」

大将A「よし、一同抜錨!!」

大和「戦艦大和、連合艦隊出撃です!」ザザッ

長門「戦艦長門、出撃する!」ザザッ

伊勢「私達も行くよ、日向!」ザザッ

日向「ああ、久々の実戦だ!」ザザッ




───ザザァア


提督「………」

提督「……たった一人の帽子振れだな」スッ



伊勢「あっ、見て、日向!」

日向「ああ、こっちからも手を振らないとな」

伊勢「よし!」


───ブンブン

伊勢「提督ー! 行ってきまーす!」ブンブン

伊勢「絶対っ、絶対帰ってきますからー!」

提督「………」

日向「何を言っているのか聞こえないな」

伊勢「──行ってらっしゃいだって!」

日向「ほー、良く聞こえたな」

伊勢「聞こえないよ。でも何となくね」エヘヘ





提督「行ってらっしゃい! 皆ー、気を付けてなー!」

今日はこのへんで

では

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