【ラブライブ】にこ「貴女の外側には」 (103)

更新遅いです。
台本形式と地の文混合しています。
短編の百合になると思います。

以上に抵抗がない方は
ぜひお付き合いください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417890274

――――――


突然だけど。
私、矢澤にこにはすごく大切な人がいる。



ファン?
まぁ、それは大切ね。
アイドルはファンがいてこそなんだから。

けれど、違う。

家族?
もちろん、家族は大切。
にこを慕ってくれる妹たちやママ。
皆がいないと、にこは絶対いや。

けど、そういう大切じゃない。

仲間?
μ's の皆も大切。
にこが音ノ木でスクールアイドルが出来てるのも皆のおかげだから。

でも、そういうことでもない。



『恋人』。

そう。
世間一般で、そう呼ばれている存在。
それが、にこのすごく大切な人。

その人は、にこと同じ女の子で。
可愛くて、かっこよくて。
にこが持ってない色んなものを、持っている人だ。

その人は、にこをどんなときも支えてくれる。
たまには、にこを甘やかしてくれる。
そして、ちゃんとにこを叱ってくれる。


にこの大切な『恋人』。
自慢の、彼女。

けれど、そんな彼女にも不満はある。


それは、彼女がいつも車道側を歩くこと。


ん?
別にいいじゃないって?
……まぁ、そうなんだけどね。

けど、にこはそれが気になったの。
気になって、それを伝えた。

そして、なんやかんやがあって……。


――――――

すみません。
言葉が出てこないので、また夜に書きます。

――――にこの部屋


にこ「んっ!!」


朝。
いつも通りに目が覚めた。
体を起こし、伸びをひとつ。

時計を見ると、午前5時半。
そろそろ夜も明け始める時間だ。

ベッドから出る。
そして、身仕度を整える。

顔を洗って、髪をセット。
制服に袖を通す。
もちろん、姿見で自分の姿の確認も怠らない。


にこ「にっこにっこにー♪」


よしっ、今日も決まってるわね。
さ、こころ達が起きてくる前にやりますか!

そう意気込むと、にこはエプロンを着けて、部屋を出た。


――――――

――――――


こころ「……おねぇさま、おはようございます」

にこ「おはよう♪ こころ♪」


まだ寝ぼけ眼のこころがキッチンへ入ってくる。
いつもこころが起きてくるよりちょっと早い時間。

隣の和室が三人の寝室代わりだから
たぶん朝食の匂いで起きてきたんだと思う。
ここあとこたろうは、いつもと同じくまだ寝ているみたいね。


こころ「いつも、ありがとうございます……おねぇさま」


ペコリと頭を下げるこころ。
まったく。
変に礼儀正しいんだから。

少し可笑しくなって、笑ってしまう。
頭を撫でてあげて、笑いかける。


にこ「顔洗って来ちゃいなさい。もうすぐご飯できるから」

こころ「はい、わかりましたぁ……」


そう答えて、こころはキッチンを出ていった。

さて、まだ時間はあるし。
ここあとこたろうは
まだ寝かせといてあげましょ。

そんなことを考えながら、カチッと、コンロの火を止める。
お味噌汁もできたし、後はご飯が炊き上がるのを待つだけ。


にこ「珍しく時間が余ったわね……」


そう呟いて、イスに座る。
ふぅ。
いつもなら、時間が余ることもないのに……。
ちょっと時間配分を間違ったのかしら。

……はぁ。
ため息が出る。
これは時間配分を間違えたせいじゃなくて……。


にこ「…………」


ううんっ!
いけないいけない!
アイドルが笑顔じゃないなんて、いけないにこ♪

首を振って、無理矢理笑顔を作った。


また、1日が始まる。


――――――

――部室


穂乃果「なんだか、にこちゃん、最近元気ないよね?」

にこ「うっ……」


朝練終わり。
教室に戻ろうとするにこを呼び止めた穂乃果は、そんなことを言ってきた。

その指摘に少したじろいでしまう。
それは、いつものような穂乃果のトンチンカンな発言、って訳じゃなく、にこにも心当たりがあるものだったから。


にこ「なんで、そう思うのよ?」

穂乃果「なんとなく!」


どうやら直感で分かったらしい。
まぁ、穂乃果らしいっちゃ穂乃果らしいけどね。


穂乃果「なにか、悩み? 悩みがあるなら聞くよ!」


そんな風に、にこに詰め寄る穂乃果。

まっすぐ、にこの目を見てくる。
まっすぐすぎる目。
にこは正直、この目が苦手だ。
にこには絶対にできないことだから……。

だから、こんな風に答えてしまう。


にこ「な、なんでもないわよ! あんたの気のせい!」


ほんと、素直じゃない。

些細なことでも意地を張って、見栄を張ってしまう。
だから、1年生の頃も。
今回のことだって、失敗してしまった。
こんな面倒な人の近くにいたい人なんていないわよね。

けれど、穂乃果は――


穂乃果「いいからっ! ほんとのことを言ってよ!」


なんて、言ってくる。
なんとなく、なんて言って、根拠もないのに。
だけど、本質を見抜いてくる。

にこの不安な気持ちを、無理矢理晴らすように、強引に……。

ほんと、そういうところ……


にこ「……憧れるわ」

穂乃果「えっ? なに? もう一回言って!」

にこ「なんでもないわよっ!」


ポツリと思わず口について出た言葉は、幸いにも穂乃果には届かなかったみたい。
ちょっと安心。


にこ「はぁ、仕方ないわね。誰にも言うんじゃないわよ?」

穂乃果「うん! 任せてよ!」


根負けした形をとって、穂乃果に話をしだす。
にこが抱えてた悩みを。

――――――

――――――

穂乃果「にこちゃん、ごめん! 穂乃果の手には負えなさそうだよ!」

にこ「…………」


にこが話をし終わると、穂乃果はそんなことを言った。


穂乃果「穂乃果、二人が付き合ってたことも知らなかったし」

穂乃果「それに、その……付き合った経験とかもないからさ、あはは」

にこ「…………」


うん、そうだったわね。
μ's の2トップと呼ばれるお馬鹿キャラの穂乃果に相談したのが間違いだったわ。
え?
3馬鹿の間違い?
うーん?
にこ、ちょっとよく聞こえなかったにこっ♪


にこ「……まぁ、いいわよ」

穂乃果「ご、ごめんね、にこちゃん」


上目遣いで、にこに謝る穂乃果。
うるうると、本当に申し訳なさそうな表情をしてる。
ほんと、犬っぽいわね。
なんて思いながら、にこは、


にこ「話すだけでも、少し楽になったわ」

にこ「ありがと」


少しだけ、素直な言葉を言うことができた。
後輩だけど、頼りになるμ's のリーダーに感謝を告げることができた。


穂乃果「お詫びといっては、なんですが!」

にこ「ん?」

穂乃果「もっと頼りになりそうな人にメールをしといたよっ!」


にこの言葉を受けて、穂乃果はそんなことを言った。
なぜか、穂乃果は得意気だし……。
……ん?
え、まさか……。


にこ「穂乃果」

穂乃果「なに? にこちゃん?」

にこ「だれに、なんて、メールしたのよ?」

穂乃果「海未ちゃんに、にこちゃんの悩みを、そのままメールしたんだけど?」


首をかしげる穂乃果。
って、おいっ!


にこ「誰にも言うなって言ったでしょうがっ!!」

穂乃果「あっ!? 忘れてた!」

にこ「穂乃果ぁぁぁぁぁぁ!!」


前言撤回。
やっぱり穂乃果は頼りにならないわ。
――――――

――屋上


その日の昼休み。
にこは、屋上でお弁当を広げていた。

ぼっち飯?
いや、違うわよっ!


海未「それで、どうしたのですか?」


にこの隣には、海未がいた。
全部のおかずが和風という、中々に手の込んだお弁当を広げている。


にこ「穂乃果から、話がいってるんじゃないの?」

海未「えぇ、まぁ。ですが、穂乃果のメールはたまに要領を得ないもので……」

にこ「あ、そう」


ちょっと納得。
まぁ、確かにそんな感じはするわよね。


海未「にこが悩みを抱えていることは、わかったのですが、詳しいことは……」

にこ「そう。まぁ、じゃあ、誰にも言うんじゃないわよ?」


穂乃果に話した時と同じように前振りをして、にこは話し始めた。


にこ「にこ達が付き合ってるのは、知ってるわよね?」

海未「えぇ、まぁ」

にこ「なら、話が早いわね」


これも説明しないといけなかったら、面倒だから助かるわ。

あ、そういえば。
にこ達が付き合ってるのを知って、最初に声をあげたのは、海未だったわね。
破廉恥です、とか言って。

健全な付き合いをするって言って、どうにかその場は収まったんだった。

まぁ、そんな海未もちょっとは理解してくれたのかしらね。


海未「にこ?」

にこ「あ、ごめん」


どうやら、少しボーッとしてしまってたみたい。
海未に謝って、話を続ける。


にこ「ねぇ、海未。質問があるんだけど」

海未「? なんですか?」

にこ「海未って、穂乃果と道路を歩くとき、どうしてる?」

海未「はい?」

にこ「車道側を歩くか、気にしてないかって話よ」

海未「……まぁ、もちろん車道側を歩きますが、それがなにか?」


それがどうかしたのか。
そんな風に、不思議そうな表情をして海未は首をかしげた。

やっぱり。
海未なら、そういうと思った。
海未はそういうことをさりげなくやりそうだものね。
……あの子と同じで。


にこ「そういうとこが気にくわなかったのよ」


ポツリと、言葉をもらした。

いつも車道側を歩いてくれる。

にこはそんなところに不満を覚えて
あの子に食って掛かったんだ。


海未「はい?」

にこ「あの子のそういうとこが、ね。気に入らなくて、喧嘩したのよ」

海未「…………」


何を言っているのか分からない。
海未の目は、そう語っていた。


にこ「ま、そうなるわよね」

海未「正直、なぜそうなるのかよく分からないのですが……」


車道側を歩いてくれる人に
それが気に食わないと食って掛かり、喧嘩をする。

確かに、普通だったら、にこだって海未と同じような反応をしただろう。

親切心でそうしてくれるのだ。
感謝こそすれ文句なんて……。
そう思う。
けれど、


にこ「もちろん、感謝はしてるわ。にこのことを大切にしてくれることも分かってる」

海未「それは確かに。いつも、にこのことを気にしてますもんね」

にこ「えぇ。過保護なくらい、ね」


そう言って、にこは苦笑する。

いつも、にこのことを気にかけて、心配してくれるあの子。
車道側を歩くのも、そのうちのひとつだ。

嬉しい。
嬉しいけど、気に入らない。


にこ「にこを気にかけすぎて、心配しすぎて」


にこ「あの子は、にこと距離をとってる」


にこ「今のにことあの子の距離感は、『恋人』のそれじゃない」

にこ「保護者と子供の、それよ」


もちろん、無意識レベルの話だろうけど。
そんな風に、言葉を付け加える。


海未「…………」

にこ「それこそ、子供じみた癇癪だっていうのは分かってるわ」


けれど、抑えられなかった。

いつもあの子は、車道側を歩いてくれる。
危ないからって言って……。
にこを守るべき対象にしか見てない。
対等に見てくれていない。

それが分かって、


にこ「ふざけんな」

にこ「そう言ってやったわ」


それが、にことあの子の喧嘩の理由。


海未「そう、ですか」


そう呟いて、海未は少しうつむいた。
やっぱり、子供じみてるなんて思われてるわよね。
しっかりしてる海未の目には、にこが子供に写っても、しょうがない。

そう思って、にこはお弁当に口をつけようとした。
けど、そんなにこに海未はこう言った。


海未「にこの気持ちも分からないではありません」

にこ「は? ……え、そうなの?」


予想外の答えが返ってきた。
少しの間、唖然としてしまったけれど、どうにか海未に言葉を返せた。
海未は、


海未「えぇ。私も中学生の頃、似たようなことをことりに言ってしまいましたから」


今思えば、ことりに申し訳ないことをしてしまいました。
そんな風に、苦笑した。

海未の話によると

中学の頃、ことりは二人から一歩引いたところから接していたらしい。
実際の立ち位置ではなくて、心情的に。

「ことりなんか」
それが中学の頃のことりの口癖。
自分を卑下するような言葉をことりは口にしていた。
穂乃果や海未を上に位置付けて、自分はいつも下で。

だから、そんなことりの姿勢に、不満が溜まりに溜まった海未はことりに怒りを露にした。

ふざけないでください。
私たちは対等なんです、と。


海未「にことは少しケースが違うかもしれませんけど」

にこ「まぁ、そうね」


海未は、ことりが自分を下に見ることに憤った。
にこは、あの子がにこを下に見ているようで怒った。

相手と対等でいたい。
その点では、確かに少し似ている。
けど、正反対だ。
相手のことを考えて怒った海未。
自分のために怒ったにこ。
ベクトルは正反対。


海未「けれど、本質は一緒ですよ」


そう言って、海未は笑った。
そう、なのかしら?
よく分からないわよ。


にこ「…………」

海未「…………」


しばらく黙る。
海未も、その沈黙を壊さないように黙っている。

その状態が少し続いて、


にこ「それで、それを言って、二人の関係性は変わったの?」


にこは、それを聞いた。
結局はそれだ。

友達と恋人。
その差異はあっても、たぶん辿る道は一緒のはずだもの。
それを聞いておきたい。
だから、聞いたのだけど……。


海未「さぁ?」


海未は首をかしげながら、そんな風に答えた。

さぁ、ってなによ……。
呆れながら、そう聞くと、海未は笑う。


海未「私にはよく分かりません」

海未「変わったような気もしますし、変わっていないような気もします」

海未「それに、言われた側であることりの心情もすべて理解しているわけではありませんから」


にこ「まぁ、そうだけど……」


まぁ、それに海未って鈍感だしね。
ことりの気持ちの変化とか、関係性の変化とかそういうものに関しては、分からないっていうのにも頷けなくもない、か。


海未「ですから、ことりにそのことを尋ねてみてはどうでしょうか?」

にこ「………」


あまり、このことを広めたくはないんだけど……。
まぁ、確かに。
こういう人の気持ちとかに関しては、ことりに聞くのが一番かもしれないわね。


にこ「はぁ、仕方ないわね」


ため息をひとつ吐く。
ま、なにもしないでウジウジと悩んでるよりは解決するために話す方がいいわ。

穂乃果にだって、話して楽になったわけだし。


海未「では、私からことりに話をしておきましょうか?」

にこ「お願いするわ」


海未なら、穂乃果とは違ってちゃんと伝えてくれるでしょ。
そう思い、海未の提案に頷いた。

と、そこで緊張が解けたにこ。
きっと、気が緩んでしまったんだと思う。
だから、


にこ「はぁっ! まったく喧嘩なんてするもんじゃないわね」

にこ「あの子とキスできないのがこんなに辛いとは思わなかったわっ!」


なんて、普通のにこなら、ぶっちゃけてしまえないようなことを。
気付いたときには、言ってしまっていた。

――海未の前で。


にこ「………………あっ」


気づいた時にはもう遅い。
にこの体は、恥ずかしさよりも先に、焦りと恐怖に支配される。


海未「…………にこ」

にこ「えっ、えっと……にっこにっこ――

海未「キス、なんて、破廉恥なことをしたのですか?」

にこ「……え、そのっ……にっこ――

海未「健全なお付き合いをする。そう言いましたよね?」

にこ「……にこ、なんのことかわからな――



海未「…………ふふっ」



にこ「ひっ!?」


結局、その昼休み、にこがお弁当を食べられなかったのは言うまでもない。

こういうとこは、素直に言葉を出さないでいいのよっ!
海未のお説教を聞きながら、にこはそんなことを考えていた。

――――――

今日はここまでです。

たぶんここまでで気づいたかと思いますが
にこさんの恋人が出てくるのは、一番最後になります。
名前も出さないまま進行します。

にこと誰なんだよ!
最後まで待ってやるほど甘くねぇよ!
という方には、大変申し訳なく思います。

恐らく、夜に更新します。
では。

ネタバレすると希

カプ名を始めに書くと高確率で荒れるからねぇ… ここの主は頭がいい 乙ぽんぬ

このカプ好きだから期待

のぞにこじゃなかったらぶちギレるぞ
のぞにこ前提と見て後でのぞにこスレに宣伝しとく

>>21
現段階では肯定も否定もしません。
その可能性もありますが、そうとも言いきれません。

>>22
いえいえ。
結果的に今の形になってしまっただけですので。

>>23
のぞにことは限りませんので、悪しからず。

>>24
期待してくださっているのは大変嬉しいのですが
のぞにことは限りませんので
宣伝は思い止まって頂いて、成り行きを見守っていただけると……。

――――部室


にこ「昼は酷い目に遭ったわ……」


まぁ、油断して変なことを口走ったにこも悪いんだけど。



ことり「海未ちゃんに、キスの話なんてしたらそうなっちゃうよ」

にこ「あのときは、油断してたのよ……はぁ」

ことり「あはは……」


にこのげんなりとした様子を見て
ことりは苦笑いを浮かべた。

放課後の練習終わり。
海未の計らいで、にことことりだけが部室に残っていた。
一応、ことりの衣装作りを手伝うという建前で。
本当のところは、にこの話をことりに聞いてもらうためなんだけどね。


にこ「悪いわね、わざわざ残ってもらって」

ことり「大丈夫だよぉ♪ 私も衣装作り進めたかったし。にこちゃんこそ、衣装作り手伝ってくれてありがとう♪」

にこ「まぁ、このくらいはね」


二人でチクチクと裁縫を進める。
建前とは言っても、衣装作りもちゃんとしている。
ライブだって近いわけだし、にこ個人のことだけに時間を割くなんて言語道断だわ。

だから、作業の合間に、話をすることになった。


ことり「それで、海未ちゃんから話は聞いたんだけど……」

にこ「よかった。ちゃんと伝わってるのね」


そこは、さすが海未といったところね。
にこは、ホッと胸を撫で下ろした。


にこ「じゃあ、早速だけど聞かせて」

にこ「例の一件があって、海未とことりの関係は変わったの?」


単刀直入に、にこはそう聞いた。
にこ達と似たような経験をした海未とことりの関係がどう変わったのかを。

えぇとね。
人差し指を頬に当てることり。
どうやら、言葉を探してるみたい。
少しの間、悩んで、ことりはこう答えた。


ことり「もっと、近づけたかな?」


近づけた、と。
そう答えることり。


にこ「近づけた、ね……」

ことり「うん。遠慮がなくなった気がするの」

ことり「もちろん、今だって、ことりは自分に自信がないよ? 穂乃果ちゃんみたいな皆を引っ張っていける力もなければ、海未ちゃんみたいにしっかりしてるわけでもない」


それは、ことりがいつか、メイド喫茶で話していたこと。

自分で曲を作って、自分の居場所を見つけたことりでも、やっぱり根底は変わってない。
それは、自信がないから。

ことりは、そんな風に言葉を繋げる。
少し俯き気味に。


にこ「ことり……」

ことり「…………でもね」


そこで、ことりはにこをもう一度見つめてきた。


ことり「私の意識は変わったよ」

ことり「自分を卑下するのは、止めたの」

ことり「中学生の頃は海未ちゃんに、今回はμ's のみんなに気づかされたから♪」

ことり「『ことりなんか』」

ことり「そんな風に言うのは、私を認めてくれたみんなに失礼だから♪」


ことりは笑う。

うん。
確かに、ことりはちゃんと変わってる。
にこが出会ったのは、今年だけど。
それでも出会った頃とは、少し違ってる。

ほんと、いい表情で笑うようになったわよね。


ことり「だから、にこちゃんも心配しなくてもきっと大丈夫だよぉ」


なんでよ?
そう聞くと、ことりは


ことり「きっと、にこちゃんの言葉は、ちゃんと届いてるはずだから」

ことり「恋人同士の喧嘩って、相手の言葉を受け入れるための準備なんだよ」

ことり「だから、きっと大丈夫♪ 二人はちゃんと近づけるから」


自信に満ちた顔でそんな言葉を返してきた。
ポジティブな恋愛理論だ。

ふふっ。
さっきまで自分に自信がないとか言ってた人間の表情じゃないわよ。
なんて、からかう。


ことり「ことりは、恋愛事には強いですからっ!」


にこのからかいに
ことりは、意外にもしたり顔でそう返した。

あまり見たことのないことりの表情。
それを見て、にこは


にこ「なによ、それ。……ふふふっ」


つい笑ってしまった。

笑わないでよぉ!
そう抗議することりにも構わず、にこはしばらく笑っていたのだった。


――――――

――――――


ことりと別れ、一人の帰路につく。
もう辺りは暗くなりはじめていた。


にこ「早く、夕飯の準備しちゃわないとね」


確か、昨日特売で買っておいた冷凍の鮭があったはず。
ほうれん草もあったから、おひたしにでもしましょうか。
お味噌汁は……。
まぁ、豆腐とネギ辺りでどうにかしましょ。

にこは今日の献立に思いを馳せながら、歩くスピードを上げた。


――――――



「………………」


にこの家の前。
そこに、誰かが立っているのが見えた。
日もほとんど落ちた今の時間では、それが誰なのかはよく分からない。

誰だろう?
身長的には、妹達じゃないのは分かる。
じゃあ、ママ?
……ううん。
それにしては、早すぎるわよね。

もしかして、不審者?


にこ「…………」


あり得ない話じゃない。
物騒な世の中だし……。

幸いこころ達には日頃から鍵をかけさせる習慣をつけさせてある。
だから、みんなは安全なはず。

でも、


「…………っ!」


そんなことを考えていると、その人物の影が動いた。
どうやら、にこの方を見たようだった。

見つかった!?
そう思って、身を固くする。

こっちに走ってきたら1発蹴りでも入れて、逃げてやるわ!

意気込みは十分。
にこは相手の出方を待つ。


「…………っ!!」

――ダッ――


が、そんな覚悟は必要なかったみたいで
その不審者はにことは反対方向に走り去っていった。


にこ「…………なんだったのかしら?」


にこは、走り去る不審者をただ呆然と見送ってしまった。


――――――

――和室


『にこぷり♪ にこにこっ♪』

にこ「ん?」


夕食の後片付けも終わり、和室でこころやここあ、こたろうと遊んでいると、にこの携帯が鳴った。

メール?
差出人を見ると、園田海未の文字があった。


にこ「海未から?」


とりあえず、メールを開いてみる。
内容は、ことりから無事話を聞けたか、というものだった。

そういう後のことも、気にしてくる辺り、さすが海未ね。

無事話もできて、すごく助かったわ。
ありがとう。

それだけを書いて、返信する。


こころ「あら? お姉さま、もしかしてお仕事のメールですか?」

にこ「そんなところにこっ♪」

ここあ「さすが、お姉ちゃん! やっぱり、スーパーアイドルはこんな遅い時間にも仕事の連絡があるんだね!」

にこ「そ、そうにこっ♪」

こたろう「あいどるぅ~」

こころ「さすがです! お姉さま!」

にこ「にこぉ……」


妹達とハートフルな会話を交わす。

μ's としての活動をすることを話しても、やっぱりこの子達のなかでは、にこにーはスーパーアイドルみたいで。
度々、こんな風に尊敬の目を向けてくる。

洗脳、もとい、お姉ちゃんの教育で素直に育ってくれた反面、将来簡単に騙されそうで不安だったりするんだけどね。

まぁ、嬉しいことは嬉しいのよ?


『にこぷり♪ にこにこっ♪』

にこ「また?」


また、海未かしら?
そう思って、差出人を見る。


にこ「…………あっ」


そこにあったのは、あの子の名前。
内容は……。

にこはそっと、携帯を閉じた。


こころ「お姉さま?」

にこ「ん? どうかしたにこっ?」

こころ「携帯、いいのですか?」

にこ「……いいのよ」


いいから、そろそろお風呂に入りなさい!
にこはそう言って、その話題をそこで打ち切った。


――――――


メールの内容は、分からない。
読む前に、それを閉じたから。

ことりには大丈夫って言われたけれど。
やっぱり、そんな簡単には割りきれない。
あの子がにこに怒っている可能性も少なからずあるわけで……。

もしかしたら――。
そう思うと、メールを見るのが、なんだか少し怖くなってしまった。

結局、にこは翌朝まで携帯を開くことはなかった。


――――――

――屋上


にこ「昨日、不審者を見たわ」


朝練終わりに、にこは昨日のことを持ち出した。

流石に、あの人物は怪しい。
もしかしたら、にこやメンバーのファンかもしれないけれど。

とにかく、注意することに越したことはない。
そう判断してのことだった。


絵里「あまり遅くまで練習するのも考えものかしら?」

海未「しかし、ライブまで日もないですし……」


しっかりもの二人が、それを受けて今後の話をし始める。


穂乃果「ことりちゃんは、理事長からなにか聞いてないの?」

ことり「う、うん。お母さんもなにも言ってなかったよぉ」

花陽「ちょっと怖いね……」

凛「かよちんは凛が守るにゃ!」

真姫「守るとかの前に、そういうときはちゃんと逃げなさいよね?」


なんて、思い思いに話を交わすメンバー。
と、そこで、


希「にこっち、ほんとに見たん?」


希がそんなことを言ってきた。
いつものように、おどけたように希は言う。


希「ほら、暗かったんやろ? なら、偶然そこにいた人を、ってこともあるし。それに、にこっちやし?」

にこ「むっ」


どうやら、希はにこの見間違いを疑ってるみたい。
確かに暗かったけど、あれは確実に、にこの家を覗いてたわよ!
そんな風に反論する。


希「……そか」


と、希はそこで納得したようだった。
……あれ?
正直、もっとグイグイ来るかと思ってたんだけど……。


絵里「とにかく! くれぐれも気を付けることっ!」

絵里「家が近い人同士で、出来るだけ一緒に帰るようにしましょ」


結局、絵里の一声でその話題は終了になったのだった。

――――――


なんて、昨日や朝とその不審者のことを気にしていたけど。
もっと重大な問題がある。
それは――



凛「無視はありえないにゃ!」

花陽「私も、それはちょっと酷いと思うよ?」


昨日のあの子からのメールを無視してしまったこと。
それについて、にこは凛と花陽に叱られていた。

凛と花陽の食欲暴走コンビが、お昼のお弁当そっちのけで、にこに怒りを示していた。


にこ「仕方ないじゃないっ! なんか、そういう気分じゃなかったのよ!」


そんな風に言い訳をするにこ。

嘘だ。
にこはメールを見るのが怖かっただけ。
もしかして、あの子が愛想を尽かしちゃって……。
もう、にこのことが嫌になったから、とか。
そんなことを考えてしまって、にこはメールを開けなかった。

……まぁ。
朝になって、寝ぼけながら普通に開けちゃったんだけど。
それで、その内容はというと、



凛「恋人から、声聞きたいとか言われて、それを無視はひどすぎるにゃぁぁ!!」

にこ「ううぅ」

花陽「もしかしたら、仲直りのチャンスかもしれなかったのに……」

にこ「ぐっ!?」


普段は温厚な花陽でさえにこをジト目で見てくる始末。
ぐうの音も出ない。
流石に、これはなんの弁明もできない。


にこ「……そりゃ、にこだって悪かったとは思ったわよ」

にこ「だから、今朝お詫びのメールは送ったし!」


そう。
一応、フォローはした。
昨日は寝ちゃってたって、言い訳つきで。


凛「そんなの送ったって、無視したって思われるよ!」

花陽「喧嘩してる最中だったし……そうかも」

にこ「…………」


まぁ、そうよね。
うん、にこ、わかってたにこ……。


にこ「じゃあ、どうすればいいのよぉ……」


にこらしくもない弱気な呟きが口をついて出た。
一年生の前で、弱音吐くなんて、ほんとどうかしてるわ。
これじゃあ、あの子がにこを子供みたいに扱うのも頷けちゃう。

……はぁ。
ため息が出てくる。

にこのそんな様子を見て、


花陽「あ、えっと……ごめんね、にこちゃん。私達、言い過ぎちゃったかも……」


花陽はそう言って、しゅんと俯く。

ほんと、いい子ね。
あぁ。
この素直さと気遣いがにこにもあれば、こんなことにはならなかったのよね。
今思えば、もっとマシな言い方だってあっただろうに……。

そんなことを考えてまた、ため息が出た。



凛「にこちゃん!」

――ガシッ――


にこ「り、りん?」


にこの肩に手を置き、真面目な顔で見つめてくる凛。
そして、落ち込むにこにこう言った。



凛「落ち込んでるだけじゃダメ!」

凛「後ろを向いてる暇があったら、前を向いて、今できることを探すのにゃ!」


にこ「……あっ」


凛が言った言葉。
それは、かつてにこが凛に言ったものだった。

――――――

今日はここでおしまいです。

色々と余計なことをしてしまったようで、申し訳ないです。
今後、レスするときは気を付けます。

更新はまた夜にでも……。

――――――


凛と花陽も少し前に喧嘩をしたことがあった。

というより、花陽が凛に怒ってたというのが正しいと思う。
花陽のあんな姿は、出会ってこの方、初めて見た。

花陽が徹底的に凛にきつく当たっていたのだ。

凛にあまあまで、抱きつかれたら照れながらもデレデレとするのが普通だったのに。
今思うと、あれは完全に花陽が意地を張っていただけだろうけど……。

それで、凛はにこと真姫ちゃんに相談を持ちかけてきた。
その時、にこは凛にこう言ったのだ。


「凛、落ち込んでるだけじゃダメよ!」

「後ろを向いてる暇があったら、前を向いて、今できることを探しなさい!」


――――――


その言葉が、今にこにそのまま返ってきていた。

今のウジウジしてるにこじゃあ、出ない言葉よね。
後輩に言った言葉がそっくりそのまま返ってくるとか……。
とんだ皮肉だわ。


にこ「ふふっ」


そんなことを思い、つい笑ってしまった。


花陽「にこ、ちゃん?」

凛「にこちゃん、何で笑ってるの?」


にこの目の前の二人は、不思議そうな顔をしている。

まぁ、そりゃそうよね。
さっきまで落ち込んでいた人間がいきなり笑い出すんだもの。

だけど、大丈夫。
大丈夫になった。


にこ「花陽」

花陽「なぁに?」

にこ「ちゃんと話を聞いてくれてありがと。助かったわ」

花陽「…………ううん。花陽で力になれたなら」


にこがお礼を告げると、そう言って、花陽は微笑んだ。
にこもそれに笑みを返した。


にこ「それから、凛」

凛「? なに?」


続けて、凛の名前を呼ぶ。

……まったく。
この子も大したものよね。
流石、次期リーダーってところかしら。


にこ「にこの言葉をそのまま返してくるなんて、やるじゃない」

凛「ふふん! 当然にゃ!」


不敵だけど、可愛らしい笑みを浮かべる凛。
その表情が、本当に得意気で――

――ナデナデ――

凛「にゃっ!?」


つい、凛の頭を撫でてしまっていた。

あー。
ちょっとまずったわね。
なんて、頭では思いながらも撫でるのは止めない。

ま、これはこれで面白いわよね。
にこの小悪魔的な本能がそう告げていた。

だから、


凛「に、にこちゃん!? な、なんで撫でるの?」

にこ「うーん、凛ちゃんがとっても可愛くて♪ 嫌にこっ?」

凛「い、いや、ではないけど……」


凛が照れながら慌てていても、撫でるのはもちろん止めない。

チラリと花陽の方を見る凛。
にこもつられてそちらを見る。
いつもと変わらず、花陽は微笑んでいた。

ふふっ、そろそろ止め時かしらね。


にこ「さて、そろそろにこは教室に戻るわよ」


凛の頭から手を離し、にこは立ち上がる。

邪魔したわね。
それだけを言って、にこはその場を去ることにした。

――――――


やることは決まった。

それは至って単純なこと。

伝えてない思いを、全部あの子に話すこと。
にこの気持ちを、全部。
そして、あの子の話を全部聞くこと。
あの子の胸のうちを。


にこの視界は、はっきりしてる。


――――――

――――――


花陽「…………」

凛「えっと、かよちん?」

花陽「……なに? 凛ちゃん」

凛「怒ってる?」

花陽「なんで? 怒ることなんて別にないよ?」

凛「…………」

花陽「…………」


――ギュッ――


花陽「っ!? り、りんちゃん?」

凛「んー!」

花陽「えっ!? な、なに?」

凛「凛はかよちんのものだからっ!」

花陽「っ!」

凛「だから、安心してにゃ!」

花陽「…………」

凛「…………」


――ギュゥゥゥゥ――


花陽「………………うん」


――――――

少なくて申し訳ないですが
今日はここまでです。

また、夜に更新します。

のそのそと更新していきます

――――――


やることが決まってからのにこの行動は早かった。
とは、言えない。

偶然か、はたまたあの子もにこのことを避けてるのか。
なかなか直接話す機会がなかった。

そして、タイミング悪く、今日は放課後の練習は休み。
いつもなら、海未のきつい指導がないって喜ぶところだけど。

だから、仕方なく、にこはあの子にメールを打った。
『今日、にこの家に来れる?』
そんな風に。

けれど、


――――――



にこ「なんで、返信がないのよ……」


自室で、一人携帯とにらめっこするにこ。
授業が終わってすぐにメールをしたし
練習もないから、もう見ていてもおかしくないんだけど。


にこ「いや、きっと用事があるのよ! きっとそうっ!」


そんな風に、自分に言い聞かせる。
よしっ!
返ってくるまで、こたろうと遊んで――


『にこぷり♪ にこにこっ♪』

にこ「あっ」


こたろうが遊んでいるであろう和室に向かうため立ち上がった、その時、にこの携帯が鳴った。
慌てて、携帯を開き、新着のメールを確認する。
差出人は――


――――――

――――――


メールを受けて、にこは真姫ちゃんの家に来ていた。

え?
なぜかって?
それは……。



にこ「真姫ちゃん、みりんどこにある?」

真姫「え? えっと……」

にこ「……あっ、ごめん、ここにあったわ」


そう。
真姫ちゃんにご飯を作ってあげるためだ。

……うん。
突然すぎるのは、わかってるわ。
なんの脈絡もないものね。
けれど、しょうがない。


にこ「真姫ちゃんも少しくらい料理できないとダメにこっ♪」

真姫「うっ、しょ、しょうがないじゃない! 急に両親が家に帰ってこれなくなったのよ!」


だ、そうだ。
それで、ヘルプをもらい、わざわざ作りにきたってわけ。

まったく。
にこが悶々として、あの子からの連絡を待ってるっていうときに……。
なので、ちょっとだけ意地悪をしてみた。


にこ「でも、真姫ちゃん、それは料理できない理由にはなってないわよ」

真姫「うっ」


にこの指摘に、渋い顔をする真姫ちゃん。
まぁ、いじめるのはこの辺で止めてあげようかしらね。


にこ「ま、にこも手持ち無沙汰だったしいいわよ」


こころとここあが帰ってきて、こたろうも遊び相手ができたみたいだしね。

それだけ言って、にこは料理に集中する。
とはいっても、あとは弱火で煮込むだけだから、集中するほどのことでもないんだけど。

でも、念のためね。



真姫「でも、にこちゃん、やっぱりうまいわね……」


カチリと、にこが火を止めたところで、真姫ちゃんがそう言った。

にこのことを誉めるなんて珍しい。

にこがそう言ったら、事実を言っただけって、赤い顔して真姫ちゃんは言葉を返した。


にこ「ふふっ」

真姫「な、なんで笑ってるのっ!」

にこ「べっつにぃ~?」


にこはそんな真姫ちゃんをニヤニヤとしながら見る。
普段からそのくらい素直なら、可愛いげがあるのに。
そう思った。
どの口が言うんだって感じだけどね。


にこ「さて……」


携帯で時刻を確認する。
液晶は午後5時半を記していて、新着のメッセージはない。


にこ「…………」

真姫「にこちゃん?」

にこ「……そろそろ帰るわ」

真姫「えっ」


そう言って、にこはリビングに置いていた荷物を手に取った。

いい時間だし、家に帰って、夕飯の準備もしなくちゃね。

そう思ったんだけど、


真姫「ま、待って」

にこ「……真姫ちゃん?」


真姫ちゃんが、にこを呼び止めた。
なんだか赤い顔をしているけれど。


真姫「一緒に、食べていかない?」

にこ「…………?」


夕飯のことだ。
少し遅れて、そう気づいた。

本当に珍しい。
さっきは、にこのことを誉めたり。
今は、こんな風に食事、まぁ、にこが作ったものだけど……。
それを一緒に食べようと誘ってくれたりしてくれた。

どういう風の吹き回しだろう?

まぁ、嬉しいことは嬉しい。
今までなついてくれなかった猫になつかれた感じ?
だから、本当は一緒に食べてあげたかったんだけど……。


にこ「こころ達の夕飯、作ってきてないのよ……」

真姫「あっ」


苦笑いしながら、そう答えると、真姫ちゃんはハッとしたような顔をしたあと、うつむいた。


真姫「そう、よね……」

にこ「……うん、まぁ」

真姫「………」

にこ「…………はぁ、しょうがないわね」

下を向いて、しゅんとする真姫ちゃんを見ていたら、にこは無意識に携帯を取っていた。


真姫「にこ、ちゃん?」


――prprprpr

にこ「もしもし?」

『あ、お姉さま!』

にこ「今から帰るんだけど……」


真姫「…………」


にこ「そのまま出掛けるから準備しときなさい」

『えっ? どこか連れていっていただけるんですか!?』

にこ「今日は、真姫ちゃん家で晩ごはんよ」


真姫「!!」


にこの電話に聞き耳を立てていた真姫ちゃんの表情が変わったのがわかった。
そんな真姫ちゃんを横目で見ながら、電話を続ける。

暖かい格好をしておくことや火元を確認しておくことを伝えて、


『分かりました! 二人にも準備させておきますね』

にこ「よろしくね、こころ」


分かりました、という、こころの返事を聞いてから、電話を切る。
そして、真姫ちゃんに向き直る。


真姫「にこちゃん……」

にこ「ま、そういうわけよ。いいわよね?」

真姫「……えぇ」


ニコリと微笑む真姫ちゃん。
ほんと、今日は珍しいものを見るわね。

まぁ、真姫ちゃんの気持ちも分かったりする。
一人でご飯を食べるのは寂しいもの。
こんな広いお家じゃ、余計に。

だから、まぁ、今日だけよ?


真姫「にこちゃん」

にこ「なに?」

真姫「…………ありがと」


最後は、真姫ちゃんらしく。
プイッとそっぽを向きながら、小さなお礼を言ったのだった。


――――――

――――――


こころ「美味しかったです」

ここあ「食後にケーキもあったし! 真姫さん、優しいね!」

こたろう「ケーキぃ」


真姫ちゃんの家からの帰り道。
にこはこころ達と手を繋いで歩いていた。

みんな、なんか真姫ちゃんになついたみたい。
まぁ、9割9分食後のケーキのおかげだろうけど……。


にこ「ふふっ」

こころ「お姉さま、ご機嫌ですね」

にこ「まぁね」


思い出し笑い。
こころ達のことを気にしながらも、子供の扱いに慣れてない真姫ちゃんの様子を思い出して、笑ってしまった。

特に、ここあになつかれて、ちょっと顔が緩んでる真姫ちゃんは面白かったわね。
写メ撮っておけばよかった。

そんな風に、四人で話しながら歩いていると、いつの間にか家の近くまで来ていた。

左に曲がれば家が見える十字路。
その角を曲がった。
その先で、にこは、


また、あの人影を見た。




いつかの不審者の影。
そいつがまた、にこの家を見ていたのだ。


こころ「お姉さま……」


自分の家を誰かがじっと見ている。
辺りも暗くて、それが誰かわからない。

そんなに不気味なことはないだろう。

こころやここあ、こたろうも少し怯えた様子で、にこの後ろに隠れていた。



にこ「っ! あんた、一体なんなのよ! 昨日からこそこそとっ!」

にこ「ストーカーなんて、趣味が悪いわ!」

にこ「この、にこにーのファンなら、ちゃんと正面から伝えに来なさい!」


こころ達を庇うように前に立ち、にこはそう啖呵を切った。


「………………」

にこ「…………」


不審者はなにも答えない。
その距離は、数十メートル。



?「…………にこっち」

にこ「は?」


そいつから、声が返ってきた。
その声は、聞き慣れたもので――。

その影が、一歩、二歩とこちらへ歩いてくる。
そして、その不審者の顔が見えるところまで近づいた。

……なんで、あんたなの?


にこ「希?」

希「えっと、ごめんな」


希はばつの悪そうな表情でそんな風に謝った。


――――――

――――――


にこ「待たせたわね」

希「えぇよ、元々ウチのせいやし」


こころ達を家のなかに入れてから、もう一度、外に出た。
もちろん、希と話すために。


にこ「それで?」

希「ん?」

にこ「あそこで何してたのよ?」


にこは、単刀直入にそう聞いた。
あんな風に、外で自分の家を覗かれていたら、正直いい気分ではない。
それが希であっても、だ。


希「ちょっと、にこっちのことが気になってなぁ」

にこ「……昨日のも?」

希「ん? あぁ、そうやね」

にこ「はぁ」


どこ吹く風で、あっさりとそういう希。
というか、学校でにこが不審者を見たことに食って掛かってきたのって……。


希「カモフラージュってやつ?」

にこ「……はぁ、あんたねぇ……」


怒るを通り越して、呆れた。
まったく、何をしてるんだか……。


希「それだけ、にこっちのことが気になってたんよ」


それにしても、やりようがあるでしょうよ。
なんて、言っても、たぶん希は飄々としてるんでしょうね。
そう思って、その言葉は心に止めておくことにした。

にこ「…………」

希「…………」

その代わりに、二人の間には無言が、


希「あ、そうや、にこっち!」


続かなかった。


にこ「なによ!?」


軽くキレるにこ。
そんなにこの様子に構わず、希はマイペースに言葉を続けた。


希「にこっちに言わなきゃいけないことがあったんよ」

にこ「……だから、なによ!」


あのな?
焦らんで聞いてほしいんやけど。
そんな風に、前置きをして、希はこう言った。

――――――



「えりち、風邪引いたらしいんよ」



――――――

――――――


ふと、目を覚ます。

ん?
目を覚ます?
あれ、私、なんで寝ているのかしら?

なぜか重い手を、頭に持っていく。
すると、おでこには濡れたタオルがおいてあった。
ひんやりと、冷たい。

……あぁ。
そうだったわね。
そういえば、私、風邪をひいてしまったんだったわ。

練習が休みで、家に帰ったのはよかったんだけど……。
そのままベッドに倒れ込んでしまったんだった。

本当は、にことちゃんと話をしたかったのに……。
私、タイミング悪すぎよ。

って、あれ?
私、制服のまま寝たわよね?
なのに、なんで今は着替えているのかしら?



――ガチャッ――


にこ「……起きたみたいね」


って、にこ!?
なんで、ここに?
ここ、私の家よね!?


にこ「無理して起き上がるんじゃないわよ?」

にこ「病人は病人らしく、ちゃんと寝てなさい」


にこ「……バカ絵里」


そんな風に、不機嫌そうな顔でにこが私の名前を呼んだ。
数日ぶりに、私の名前を。


絵里「ありがと、にこ」


私も、彼女の名前を呼んだ。
目の前の、大好きな『恋人』の名前を――。


――――――

――――――


にこ「そろそろ、起きられる?」

絵里「えぇ、大丈夫」


にことの遭遇から、少しして。
にこは私の体を支えながら起こしてくれた。


にこ「……まだ、体暑いわね」

絵里「え、あっ、そ、そうね」


にこはそう言った。
私の体温を、にこが感じているんだと思うと、少し恥ずかしくなって、口ごもった。

そんな私に首を傾げているにこ。
まぁ、いつもの私らしくないし、不審がるのも当然ね。


にこ「……とりあえず、少し食べられる?」

絵里「あっ、えぇ」

にこ「そ」


なら、よかったわ。
そう言って、にこは机に置いてあったそれを持ってきた。

これって、


にこ「……おかゆよ」

絵里「……もしかして、作ってくれたの?」

にこ「そんなのどうでもいいじゃない」

絵里「どうでもいいって……」


変に誤魔化すにこ。
にこが作ってくれたことなんて、分かりきってるのに。

だって、このおかゆ……。


絵里「たまごがゆ、ね」

にこ「そ。梅はダメなんでしょ」

絵里「……そうね」


亜里沙は、おかゆ作れないし。
なにより、塩粥より玉子粥が好きなんて、にこ以外に話したことないものね。


絵里「……にこ、ありがと」

にこ「……ん」


お椀を受け取って、お礼を言うと
にこは短く頷いた。

あれって、にこが少し照れてる時の反応なのよね。

なんて、微笑ましい気持ちになりながら、私はにこお手製の玉子粥を食べたのだった。


――――――

――――――


おかゆも食べ終わって、少し経ってから。


絵里「ねぇ、にこ」

にこ「なによ?」

絵里「なんで来てくれたの?」


私はずっと気になっていたそのことを切り出した。

数日前、私はにこと喧嘩をした。

きっかけは確か、私が車道側を歩くことが気にくわないって言われたから。

それから数日、その意味をしっかり考えたんだけど……。
正直、今でもにこの真意が分からなかった。


にこ「なんでって、希に聞いたからよ。絵里が風邪引いて倒れたって」

絵里「そ、そうじゃなくて!」


希がなんで私の風邪を知っていたか。
それは微妙に引っ掛かったけど……。


絵里「私たち、喧嘩してたわよね!」


そう。
私たちは喧嘩をしていたはず。
だから、わざわざにこが来てくれて、しかも、おかゆを作ってくれたのかも謎だった。


にこ「それが? そんなの理由にならないわよ」

絵里「え、えっと。だって、喧嘩しているのよ?」

にこ「はぁ、バカね」



にこ「恋人が風邪で寝込んでるのに、行かないわけないでしょ?」


にこ「そりゃ、絵里が平常運転だったら、来なかったかもしれないわよ」

にこ「でも、一大事なわけでしょ?」

にこ「なら、喧嘩してることは理由にならないわ」


当たり前でしょ?

そんな風に、にこは言った。

普段は子供みたいで意地っ張り。
成績も悪くて、いつも泣きついてくる。

なのに、かっこいい。
素直にそう思った。


にこ「それに……」

絵里「?」

にこ「ほら」


にこは、私の携帯を手渡してきた。
なにかと思って、携帯を開いてみる。
そこには、新着メールがあって……。


絵里「あっ」

にこ「どっちにしろ、今日、絵里と話をしたかったのよ」


今日家に来れないかという、にこからのメール。


絵里「えっと、本当、ごめんなさい。メールも見れずに……」


結果的に無視をしてしまう形になってしまった。
そのことに罪悪感を覚え、謝る。

すると、にこは


にこ「…………はぁぁぁぁ」


深いため息をついた。
え?
な、なんで?

なぜため息を吐かれたの?
慌てる私に、にこはこう言った。


にこ「にこが怒った理由、分かってないのね……」

絵里「え、えっと……」


言い淀む。
図星だった。

私は少し俯いた。
けど、にこはそんな私の顔をぐいっと引き寄せて……って、近いわよ、にこっ!?


にこ「絵里、私たちはなに?」

絵里「えっ……す、すくーるあいどる?」

にこ「いや、ここでそれは求めてないわよ……」


あれ?
違った?


にこ「いい? 私たちは――

―― ちゅっ ――


絵里「んっ!?」


いきなりのキス。
途端に、頭が真っ白になる。


にこ「んっ、ちゅっ……ん」

絵里「っ!???!??」


――――――


唇が離れる。
にこは、また私のことをじっと見据える。
そして、こう言った。



にこ「私たちは『恋人』よ」



いつもよりずっと真剣な表情で。
にこはさらに、言葉を紡ぐ。


にこ「絵里がにこを心配して、気遣ってくれてるのは分かるわ」

にこ「そこは感謝してるし、素直に嬉しい」

にこ「だけど」

にこ「それを当たり前と思わないで」


当たり前と?
どういう、こと?

そう聞くと、にこは――


にこ「あんたは、いつでもにこを気遣ってくれる」

にこ「自分が風邪の時でも」

にこ「それこそ、自分が車に轢かれそうになっても、ね」


絵里「あっ……」


そこで、はたと気がついた。

喧嘩した数日前の出来事。
事故に巻き込まれかけたことを。
あのときは、ギリギリ轢かれなかったんだけど……。

なんとなく。
なんとなくだけど、にこの言いたいことが分かってきた。


にこ「常に守ってあげるなんて、思ってたんじゃない?」

にこ「ふざけんじゃないわよ」

にこ「にことあんたは、対等なの」

にこ「片方が守ったり、守られたりするだけじゃない」


にこ「二人で守り合うって決めた、恋人同士なのよっ!」

そう、にこの言う通りだ。
私はにこを守るんだ、なんて。
そんなことを思ってた。

「二人で助け合って、生きていきましょう」

同性だから、周りからどう思われるかわからない。
それを恐れたにこに言ったのは、私なのに。

なのに――



にこ「あんたが轢かれそうになったとき、にこがどれだけ心配したか分かる!?」

にこ「それでも、車道側を歩こうとするあんたにどれだけ腹がたったか分かる!?」


にこは、私に怒鳴り付ける。

当然ね。
それだけ不満が溜まってた。
それに、不安も……。


にこ「いまだって、自分の体より、にこのメールを無視したことを謝って……」

にこ「いいかげんに――


そこまでだった。
にこの言葉を我慢できたのは。

もうだめだった。
衝動的に、私の体は動いていて、


――ギュゥゥゥ――


にこを抱き締めていた。

ごめんって気持ちを込めて。
ありがとうって気持ちを込めて。
ぎゅっと。

抱き締める私の耳元で、にこはこう囁いた。



にこ「だから、にこに……頼ってよ……」



それから、にこがどんな風に泣いたのか。
それは言わないでおく。
それは、私だけが知ってればいいことだから。

――――――

――――――

――――――



絵里「にこぷり♪ にこにこっ♪」

にこ「ちょ、ちょっと、絵里」

絵里「なにかしら、にこ?」


上機嫌で歩く恋人に、にこは声をかけた。

繋いだ手をブンブンするな、とか。
なんで今日、ツインテにしてるのよ、とか。

言いたいことは色々あるんだけど……。
そのなかでも、


にこ「にこのソロ曲を大声で歌うのはやめてくれない?」


流石に恥ずかしいわよ……。
本人隣にいるなかで、そのチョイスは特に……。


絵里「え? いいじゃない?」

にこ「いや、止めなさいよ……」

絵里「?」

にこ「? じゃなくてっ!」

絵里「ぴょんぴょこぴょんぴょん! かーわいいっ!」

にこ「うぅぅぅ」


どうやら、今日の絵里はにこのクレームは一歳受け付けないみたい。

隣の人のソロ曲を歌うとか……。
バカップルに見えるじゃないのよ。

いや、確かに。
にこを頼ってとは言ったけど!
対等だって、守らせなさいって言ったけど!

これは、距離感もなにもあったもんじゃないわね。
これじゃ、子供と保護者から恋人を通り越して、完全なバカップルよ。

頭を抱えながら、にこは絵里に聞いた。


にこ「絵里、あんた変わりすぎじゃない?」


それに、絵里は


絵里「そうね」


笑いながら、そう答えた。
自覚はあるみたい。


絵里「にこを守るとかそういうの以前に、したいことをすることにしたわ」

絵里「そうしたら、こうなったのよ」


自分でもビックリするのだけど。

絵里はそう続けた。
ビックリしてるようには見えない顔だけどね。

話し終わって、絵里はにこにこと、笑いながら
にこのソロ曲をまた歌い出した。


にこ「……はぁ、しょうがないわね」


ひとつため息をつく。

うん。
これが頼ってくれてるって証なら、しょうがない。
そんなところも含めて、受け入れるだけだ。


――――――


にこ達は『恋人』。
互いに守り合うって決めて、その関係を始めた『恋人』だ。

だから、にこは貴女を守ろう。
貴女がにこを守ってきてくれたみたいに。

その証拠に、ほら。
貴女の隣を歩く今だって。




貴女の外側には――にこがいる。





――――――fin――――――

以上で
『にこ「貴女の外側には」』
完結となります。

ここまで読んでくださった方
稚拙な文にお付き合いいただき
ありがとうございました。
にこまき、にこのぞ、その他のカップリングを望んでいた方には申し訳ない。

また近いうちに書こうと思いますが
今回で色々とご迷惑をおかけしたので
今回はカップリングに関してはお聞きしません。
頭に浮かんだカップリングを気ままに書いていこうかと思います。

それでは、また。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月11日 (木) 14:15:42   ID: ghNuHm62

まさかのにこえりww
良かったよ乙

2 :  SS好きの774さん   2014年12月11日 (木) 20:35:43   ID: SSw_kzvG

にこえりあなた方は最高です

もっと増えろよいやほんとまじで

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