男「女さん、今日もいい天気ですね」女「…」 (38)

男 「今日は大学も休講ですし、河川敷の方まで散歩しましょうか」

女 「…」コクン

男 「最近やっと春らしい天気になってきましたね」

女 「…」

男 「お、草野球やってる」

女 「…」

男 「けっこう歳のいったおじさんもいるんですね。あ、打った」

女 「…」

おばさん 「こんにちは」

男 「こんにちは、かわいいワンちゃんですね!」

女 「こん…にちは」

おばさん 「ふふふ、ありがとう」

男 「女さん、ほらお揃いですよ」

女 「…」

女 「…」ポリポリ

男 「女さん、痒いですか?」

女 「…」コクリ

男 「じゃあ、向こうの橋を越えたところにある公園でトイレに入りましょう」

女 「…」

男 「最近だと危ない遊具はすぐ撤去されてしまうから、さみしい公園ですね」

女 「…」

男 「…よし、人もいないし急いで入ってください」

女 「…」

男 「さすがに公園の男子トイレはそんなに綺麗じゃないですね」

女 「…」

男 「じゃあこの個室に入って」

女 「…」

男 「今はずしてあげますからね」カチャカチャ

女 「…」

男 「あー…あせもが出来てる。こんど首輪の裏にメッシュ加工してあげますね」

女 「…」ポリポリ

男 「痒いですか」

女 「…」コクリ

男 「そうだ!絆創膏はってあげます。前にTVでかゆみが静まるって言ってました」ゴソゴソ

女 「 」ドン

男 「いたっ」

女 「 」ガチャガチャ

男 「あー、逃げちゃダメですよ女さん。はい絆創膏」グイッ

女 「…」

男 「よし、じゃあ首輪もまいて、マフラーで隠して、出来ました!」

女 「…」

男 「じゃあもう出ましょう。くさいですし」

女 「…」

男 「そうだ女さん、ブランコ乗りましょう」

女 「…」

男 「さすがにちょっと小さいですね」

女 「…」ユラユラ

男 「…」ユラユラ

男 「女さん」ユラユラ

女 「…」ユラユラ

男 「今日のお夕飯は何にしますか?」ユラユラ

女 「………」ユラユラ

男 「野菜とかはけっこういろいろ残ってましたけど」ユラユラ

女 「…生春巻き」ユラユラ

男 「いいですね。でも、それだとちょっと遠いスーパーに行かなくちゃ」ユラユラ

男 「いつもだったら車で行きますけど、ここから近いし歩いて行ってみますか?」ユラユラ

女 「…そのために…」ユラユラ

男 「車じゃ途中で逃げれませんものね」ユラユラ

女 「…」ピタ

男 「よーっし!じゃあ行きましょうか!」

男 「歩いてここの商店街まで来たのもひさしぶりですね」

女 「…」

男 「やっぱり休日だと人が多いな…女さん、手を」

女 「…」

男 「女さん」

女 「…」

男 「手をつなぎましょうね」ガシ 

おばあさん 「あれ、女ちゃん?」

女 「!…惣菜屋のおばあちゃん…」

おばあさん 「ひさしぶりだねぇ。いつも買いに来てくてたのに秋頃に急に来なくなったから
       心配してたんだよ?」

女 「…」

おばあさん 「でも、余計な心配だったみたいだねぇ。彼氏さんかい?」

女 「…」

男 「あはは、照れるな」

女 「…あちゃ…けて」

男 「女さんはよくこの店に?」

おばあちゃん 「ええ。かぼちゃコロッケが好きでよく買って言ってたんだよ」

男 「じゃあ、せっかくだしかぼちゃコロッケ二つください」

おばあちゃん 「ちょっと安くしてあげるねぇ」

男 「ありがとうございます」

女 「…」 

男 「女さん、ちょっといいですか」

女 「…」

男 「こっち、この廃ビルの中です」

女 「…?」

男 「ここの3階…」

女 「…」

男 「ほら、ここから見てみてください!」

女 「…」

女 「……!」

男 「懐かしいですね、女さんが住んでたアパート。ここからだとよく見えるんです」

男 「女さん、座って」ハンカチファサッ

女 「…」スッ

男 「…」ギュッ

女 「…」

男 「女さん。大好きです」

女 「…」

男 「ねえ女さん」

女 「…」

男 「女さん」

女 「…」

男 「女、さん」

女 「…」

男 「あの日、いつものように僕はここからあなたを見ていました」

女 「…」

男 「でも、どうしてもあなたと話したくて、僕を見て欲しくて」

女 「…」

男 「あの日、僕はあなたの部屋に行きました」

女 「…」

女 『痛い』

女 『苦しい』

女 『息が、できない』

女 『なんで、なんでこんなことをするの』

女 『逃げ出したいのに』

女 『下半身が熱い』

女 『もう出さないで』

女 『意識が遠く』

女 『いやだ』

女 『死にたくない』

女 『死にたくない』

女 『死にたくな』

男 「日が暮れてきましたね、もう行きましょうか」

女 「…」

男 「生春巻きの材料を買いに行きましょう」

女 「…」

男 「女さん」

女 「…」

男 「生春巻きの皮って、この水で戻すやつでいいんですか」

女 「…」コクン

男 「ネギとかはあったし、エビも冷凍の買ったし、ほかに何買います?」

女 「…」カラカラ

男 「お酒ですか?女さんお酒弱いじゃないですか」

女 「…」

男 「女さん、もう缶ビールの箱買いはしなくていいんですよ。僕もそんなに飲みませんし」

女 「…」

男 「こっちのりんごのチューハイにしましょう。これ好きでしたよね?」

女 「…」

男 「女さん、すっかり暗くなっちゃいましたね」

女 「…」

男 「さすがに、もう草野球も終わってる」

女 「…」

男 「もう少しあったかくなったら、首輪を隠す方法も考え直さないといけませんね」

女 「…」ギュッ

男 「女さん」

女 「…」

男 「…ねえ、その首輪をとったら、あなたは別の男を探しに行ってしまいますか?」

女 「…」

男 「こんなにあなたを縛っているのに、まだ首輪がないとダメですか?」

女 「…」ポリポリ

男 「ただいま」

女 「…ただいま」

男 「やっぱ、まだ夜は冷え込みますね~、生春巻きとコロッケなら、もう一品あったかい汁物が欲しいです」

女 「…味噌汁。インスタントのだけど」

男 「せっかくいろんな味噌が楽しめるお徳用買ったのに、赤味噌のばかり残っちゃってますね」

女 「…白味噌がいい」

男 「じゃあ僕は赤味噌で」

男 「生春巻きって初めて食べました」

女 「…」モグモグ

男 「かぼちゃコロッケも美味しいですね。」

女 「…」モグモグ

男 「女さんは味噌汁は白味噌派ですか?」

女 「…信州味噌」ズズズ

男 「赤味噌も悪くない」ズズズ

ジャアアアア

男 「余った冷凍エビはどうしましょうか」ゴシゴシ

女 「…明日、エビチャーハンにする」バシャバシャ

男 「いいですねえ…」ゴシゴシ

女 「…」バシャバシャ

男 「…女さん、また次の休みも散歩行きましょうね」ゴシゴシ

女 「…」バシャバシャ

男 「…」キュッ

女 「…うん」

男 「女さん、はずしますよ」カチャカチャ

女 「…」

男 「じゃあ、入りましょうね」

女 「…」

男 「…ふーっ。ぼく、大学卒業したらすぐにお金稼ぎますから。そしたらもっと大きなお風呂がある家に引っ越しましょう」

女 「…」

男 「お風呂あったかさが骨身にしみる…」

女 「…」

男 「…(さすがにもう、あいつの手の痕は消えている)」

女 「…」バシャッ

男 「女さん、首輪ないからって逃げちゃダメです。風邪ひきますよ」

女 「…」ズブズブ

男 「…(あせも、赤くなってて痒そうだな)」

男 「お風呂上がりのお酒もいいものだ…」

女 「…発泡酒だけどね」

男 「女さんだってチューハイじゃないですか」

女 「…」ポチ

ニュースキャスター 「~~~、~~~~~~~、~~~~」

男 「動物園でパンダが生まれたらしいですよ」

女 「…かわいいね」

男 「次の休日、動物園でもいいかもしれませんね」

女 「…うん」

男 「電気消しますよ」

女 「…」

男 「…」カチ

女 「…」

男 「…」

男 『ビルから彼女とあいつが住んでいる一室を覗く』

男 『小さな喧嘩の声は、やがて暴力の音へと』

男 『最初は、大学で右目を腫らした彼女が気になったから』

男 『そのうち、彼女をあいつから助けなくてはという使命感から』

男 『そしていつの間にか、彼女そのものに惹かれていた』

男 『あの日、勢いで飛び込んだ僕の目の前で、彼女はあいつに犯されながら首を絞められていた』

男 『とっさに近くにあった置物であいつの頭を殴り、そのまま恐ろしくなって逃走』

男 『僕が彼女を遠くから見ているだけだったのも幸いして、最後まで犯人は謎の強盗ということになった』

男 『あいつが大学をやめて、彼女はやっと解放されたと思っていたのに』

男 『それは僕の独りよがりで』

男 『彼女はただ、寄り代をなくしただけだった』

女 『私の新しい寄り代はあの人を奪った恐ろしいストーカーで』

女 『私を助けてくれた命の恩人で誠実な人で』

女 『私は誰かに「無理やり拘束されて」いないと私を保つことができないのに』

女 『私は』

女 『私、は…』

女 『…』

男 「おはようございます、今日もいい天気ですよ」

女 「…」

男 「ねえ、女さん。僕昨日の夜考えたんですけど」ガバッ

女 「…!?」バサ

男 「…」ギュウウウウウウウウ

女 「…グ、カハッ」

男 「ん」パッ

女 「ガ、ゲホゲホッ!!」

男 「鏡どうぞ」

女 「…」

男 「ほら、首輪みたいに手の跡が残りました」

女 「…」

男 「これで、逃げないでくれますよね?女さん」

女 「…」

女 「…」

男 「また消えたらつけ直してあげますからね」

女 「…」

男 「朝ごはん食べられそうですか?」

女 「…うん」ニコニコ



終わり

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