男「あれが小豆洗いで、向こうにいるのはくねくね」女「ふーん」 (114)

これは異形の物達の物語

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ザクッザクッザクッ……

男「うぅ、さみぃ」

ザクッザクッザクッ……

男「大分深く雪が積もってるなあ……ここらでは野宿は出来ないか」

ザクッザクッザクッ……

ザクッザクッザクッ……

男「うぅ、さむ」

男「お、家だ。泊めて貰えんかな」



ドンドン……

女「はーい」

男「旅の者だが、大雪で困っている。一晩泊めて貰えんだろうか」

女「ええ・・・大変でしたね。どうぞあがってください」

パチパチパチ……

男「あったけぇ・・・」

女「冬によくこの山を越えようと思いましたね」

女「この時期なんて動物は皆眠ってるんですよ」

男「余所の山はまだ始まったばかりだと言うのに、いやにここは早いな」

女「この山はそういうものなんですよ」

男「なるほど・・・」

男「この山は、と仰りましたが余所の山がもっと冬が来るのが遅いことをご存知で?」

女「ええ、元々この山の育ちではありませんし、そうした話は時たま来る蟲師の方々に聞いていましたから」

女「あなたもその部類の方なんでしょう?」

男「ええ、・・・まあ。とりあえずは」

女「蟲師の方ではないんですか?」

男「俺の専門は妖怪なんで」

女「妖怪? 蟲とはどう違うんですか?」

男「うーん、難しい質問だなあ。結構似てるんだけど」

女「じゃあ同じなんですか?」

男「いや、全く同じなんじゃあないんだ」

男「一番違うのは個体の大きさかな」

女「大きさ?」

男「蟲は凄く小さいが、妖怪はそこそこ大きい」

男「大体そんな感じ」

女「うーん、何だか曖昧ですね」

男「蟲とか妖怪ってものから曖昧なんだから区別がはっきりしてるわけないじゃん」

女「そっか。でもなー」

男「専門は神って人もいる」

女「神?」

男「妖怪よりもっと大きい奴だね」

女「神を祓うんですか、大変そうですね」

男「さあ、俺はやったこと無いけどやってる奴が言うには大変らしいね」

男「妖怪も大変だし、蟲も大変なんだけどね」

女「あはは、どれも大変ってことじゃないですか」

男「そうだな」

男「話戻すけど、」

男「来る途中やたらめったら妖怪が居たのはここが特別だからか」

女「蟲師の方は光脈筋と言っておりました」

男「へぇ、じゃあこっちの専門じゃないな。光脈の話は完全に蟲師サイドのお話だ」

女「あの、光脈とは?」

男「蟲の生まれる前の物さ。生まれる前の物、命そのものの姿」

女「あなたには見えるんですか?」

男「取りあえずはね」

男「ただ山が早く閉じかかるってことはこの山には主が居るわけだ」

男「そこは俺らの話だな、蟲と言うよりむしろ妖怪の部類だ」

男「ここの主はなんだい」

女「蟲師の方がおっしゃるには猪だとか」

男「ほら、猪ならあんたも見えるだろ? 妖怪ってのは目に見えるんだ」

男「まあたまーに見えないのも出てくるけど」

女「へぇ、面白いですね」

男「神様くらいのレベルの大きさになると、今度は逆に見えなくなる」

男「大きすぎるんだ」

男「形としてじゃなく、存在としてね」

女「畏れ多いですね」

男「見えるものが大きすぎて見えなくなるなんて滑稽な話さ」

男「奴ら見えないのに祓ってるからな」

女「え! あの人たち見えてないんですか?」

男「いや、一部分は見えてるんだろうけど、全体としては見えてないと思う」

男「実際、蟲と妖怪は図解の資料が多いが、神に関する文献はとても少ない」

男「知覚出来ないから当然っちゃ当然だが・・・」

女「お詳しいですね」

男「んで? あんたには何かそういう異形の物の類いの話は無いのかい?」

女「さあ・・・特には思い付きませんね 」

男「そ、まあ俺も妖怪しか取り扱わない堅物じゃないからさ」

男「蟲でも神でもどんな話でも良いんだけど」

女「特には・・・」

男「そっか」

女「それより、あなた妖怪を祓うのが仕事なんですか?」

男「まあ直接に飯を食うのはそれが多いかな」

女「へえ、・・・何か祟られたりしないんですか?」

男「ああ、仕事中は煙草吸ってるからね」

男「それのお陰で祟られる事は少ないかな」

女「煙草?」

男「うん、元々は蟲師の蟲煙草が元になってるらしいんだけどそういう類いの物を退ける煙草だとかなんとか」

女「どうりで臭いわけだ」

男「え? 俺臭いの? 煙草辞めようかな・・・」

女「いやいや、煙草辞めちゃダメなんでしょ」

男「まあそれはそうだけども、臭いなら辞めるしかないな」

女「あはは、不思議な人ですね」

男「そうかなあ?」

女「妖怪の話聞かせてくださいよ」

男「ん?じゃあ・・・」




男「ある日、ある御侍様が別荘に来たんだと」

男「別荘に来るのは一年ぶりか、はたまた二年ぶりか。もうそんなことも忘れてしまった」

男「別荘に来たのは娘が年になるからだ、年を迎えた娘は別荘で儀式しなくちゃいけない」

男「ただ、何年かほったらかしにした別荘だ。いきなり娘を連れてきて変な病にでも侵されたら大変だ」

男「そう思い、この御侍さん、別荘に一人で様子を見にやって来たんだと。」



女「へぇ、これから妖怪が出てくるんですか?」

男「そうだよ」

男「果たして御侍さんの予想通りに、屋敷の内は薄く埃が積もっており、掃除せねばならん状況だった」

男「御侍さんも屋敷の様子があらかた分かったので帰ろうとした」

男「そのとき、カタッ・・・カタッ・・・」

男「物音が。」

男「振り替えると小さな足跡が2つ」

男「いや、2つじゃない。」

男「ひ、ふ、み、・・・8つだ」

男「足跡は8つあった。ということは四人この屋敷にいたことになる」

男「そのとき屋根裏から、カタッ・・・カタッ・・・、物音が。」

男「御侍さんは屋根裏に行っちまったそうだ。そのあと、ガブリ」

女「・・・えっ?」

男「お話終わり」

女「どういうことなんですか?」

男「どういうことなんだろうな」

男「俺にも分からん」

女「まず、それ妖怪の仕業なんですか?」

男「まあ妖怪だろうな。御侍さん腰から上が無かったらしい」

男「食べられちゃったんだろうな、ガブッてな」

女「・・・」

男「御侍さん刀を持って別荘に行ったそうだが、刀は青錆がびっちりだったそうな」

女「青錆?」

男「な? 不思議だろ?」

男「俺もその曰く付きの刀を骨董品屋の兄ちゃんから見せて貰ったが、それはそれは強い妖気が帯びててな」

女「じゃあ間違いなく妖怪ですね・・・」

男「俺もそう思うんだよ」

男「ただ、どんな妖怪かは分からない」

男「情報が少なすぎてな」

女「その青錆、取れないんですか?」

男「取れないみたいだぞ、もう物は切れないんだと」

女「へぇ・・・刀を祟ったんですかね」

男「さあ? よう知らんが、そんなとこだろうな」

女「興味沸いてきました」

男「あっそ。じゃあ侍殺した犯人の推理でもしててくれ」

男「布団は?」

女「あっち。まだ敷いてないけど」

男「そのくらい自分で出来る」

男「今日は眠たい、もう寝るよ」

女「お休みなさい」

男「おはよう」

女「おはよう」

女「あの、私考えてみたんですけど」

男「は? 何を?」

女「えっと、昨日の不思議な妖怪の話」

男「ああ、そんな話もしたんだっけか。ふーん、じゃあ推理したわけだ」

女「はい」

男「せっかく推理したなら、聞かせてもらおうかな」

女「最初に言っておきますけど、私は蟲も妖怪も全く知らない素人ですからね」

男「大丈夫、そこは分かってる」

女「それなら話したいと思います」

女「まず、その妖怪は屋根裏に住んでいた」

女「その屋根裏とは、数年間誰も使わなかった家の屋根裏である」

男「そうだな」

女「ってことはその妖怪は人の目に付くのが苦手な妖怪ということになります。」

男「どうして?」

女「なぜなら、私が妖怪だったとしたら誰も使っていない家なんて凝った物件を探さずに適当な民家にお邪魔するからです」

女「つまりその妖怪はある程度人目に付く風貌だったと言うことです」

女「だから人気のない家をわざわざ選んだ。というか選ばざるを得なかった」

女「ここまではどうですか?」

男「ふむふむ。良くできてるな」

男「でも目立つ妖怪なんて星の数程あるからな。もう一押し欲しい」

女「次に侍様の遺体の様子ですが、あなたのお話通りだとすると腰から上を噛み契られたことになります」

女「つまり妖怪は相当な大きさである、とこのようになるわけです」

男「すると最初の人目に付く妖怪というのにも上手く合うな」

男「腰から上を食べる妖怪だ。そりゃ大きすぎて人目に付くわな」

女「侍様は妖怪の足の数を数えていますね」

男「8つだったけな」

女「8つの足をもつ妖怪なんているんですか?」

男「これはそうそう居るもんじゃないな」

男「亜種やら変異やらを除いて、8足の生き物と言えばタコかな」

女「まあ別荘にタコが居たとは考えにくいですね」

女「重力に逆らってつま先立ちするとも思えませんし」

男「なるほど、よく考えたんだな」

女「夜は暇ですからね」

女「最後に緑青、つまりは青錆が刀に付着していたとの事ですが」

女「これは刀に付着していたことも考えてると、血液でしょう」

男「なるほど、御侍さんとっさの判断で妖怪に斬りかかったんだな」

女「その時に付いた血液で刀は錆びて緑青が発生したと言えますね」

男「まあ妖怪はもう死んでるな」

男「取れない青錆付けるなんて祟り以外あり得んし、祟るって行為自体死ぬこととの引換券みたいなもんだ」

女「なるほど」

女「じゃあ駆除の必要もありませんね」

男「そだな」

女「8本足を持っていて、屋根裏に住む住民」

女「青錆が出たことから、しかも血液が青い」

女「6本足ならばどんな“虫”でも考えられますが・・・8本足となりますと」

男「あ。」


女「わかりましたか?」

男「蜘蛛だな」

女「私もそう思います」

【大蜘蛛】(土蜘蛛)
寛文時代の怪談集『曾呂利物語』には「足高蜘の変化の事」と題し、ある山野に住む男のもとに夜、大蜘蛛が60歳ほどの老婆に化け、髪を振り乱して襲いかかり、男に刀で足を斬り落とされたという話がある

『狗張子』によれば、京都五条烏丸で、ある山伏が大善院という寺に泊まったところ、夜更けに激しい音とともに、天井から毛むくじゃらの手がのびて山伏の顔をなでたので、刀で斬り落としたところ、翌朝には仏壇のそばに2尺8寸の大蜘蛛の死骸があったという

天保時代の『信濃奇勝録』には、大蜘蛛が人間の生気を吸って病気にさせたという話がある。信濃国(現・長野県)下水内郡飯山に、母子2人暮しの農家があったが、息子が病気になって「蜘蛛が来る、蜘蛛が来る」と言って苦しむようになった。母親は蜘蛛を殺そうとしたものの、蜘蛛は病人にしか見えないらしく、祈祷にすがっても効果はなかった。その内に息子を想う母の念の力か、次第に母にも蜘蛛が見えるようになり、寝床にいる蜘蛛を押さえつけたが、逆に蜘蛛の糸に捕えられてしまった。母の苦しむ声を耳にした近隣の人々が駆けつけ、蜘蛛を殺して母を救い出すと、それは見たこともない巨大な蜘蛛だった。息子は一命をとりとめたものの、血を吸われた上に体のあちこちの皮が剥げ、しばらくは杖無しでは歩けないほどだったという

これらのようなクモの怪異の伝承は、歳を経たクモが怪しい能力を持つという俗信から生まれたものとも考えられている

男「まあ、1つ良いことを教えてやるとすれば」

女「なんですか?」

男「蜘蛛の口は獲物の肉を引き剥がしてムシャムシャ食べるような事に向いた形状はしていない」

男「どちらかと言えば獲物の体液を抜き取るような食事がメインだ」





女「そりゃ、あなたの作り話ですし。そのくらいの法螺は良いんじゃないですか」

男「お、嘘だってバレてたか」

女「話が上手すぎますよ」

女「伏線もヒントも完璧、一通りの推理しかできないようにしてるじゃないですか」

女「大体8つ足跡があるって誰がそれ確認したんですか」

男「・・・」




男「あちゃー、バレてたか」

女「バレてますよ」

男「まあ似たような事件があったのは事実だ」

男「実際に刀も存在する」

男「その刀はあまりにも有名でな、名前が付いてるんだ」

男「妖刀『膝丸』と」

女「ところで、あなたはどうして山を越えようとしたんですか?」

男「ああ、この山を越えてまた2、3の山を越えたふもとに家があってな」

男「そこに呼ばれてるんだ」

女「春に山を越えて行くんじゃ間に合わないんですか?」

男「うーん、ギリギリなんだよな」

男「出来るならすぐこの山は越えたかったんだけど」

女「へー、大変ですね」

男「全くだよ」

女「そこへはどうしても行かなくちゃいけないんですか?」

男「そうだな。俺も今回が初めてだけど、多分絶対に行かなくちゃいけない類いのものだと思う」

女「その家でどんなことがあるんですか?」

男「なーに、世間話だよ」

男「蟲師と妖怪の人と神様の人と家主が集まって世間話するだけさ」

女「世間話じゃないような気がするんですけど」

男「その家主がおっかなくてな」

男「遅れて怒らせたりしたくないんだよ」

女「大変ですね・・・」

男「全くだよ」

男「というわけで今日発つわ」

男「世話になったな、ばいばい」

女「え、ちょっと!」

男「ん? どうした」

女「いや、その」

男「早くしろよ、時間押してるってさっき言ったばかりだろ」

女「一緒に行きたいな、なんて」

男「え」





男「やだ」

女「言うと思った」

男「どうして一緒に行きたいんだよ」

女「私も魑魅魍魎経験してみたい」

男「経験しない方がいいこともある」

女「いや、それは経験してみないとわからない」

男「うーん・・・もうてこでも動きそうにないな」




男「分かった。じゃあ行く途中妖怪を説明してやるから、充分満足したら帰れ」

男「いいな?」

女「了解」

男「・・・」ザクッザクッ……

女「・・・」ザクッザクッ……




ビュー……

男「お、あの風」

男「あれは木枯らしだ」

女「ん? あのちょっと茶色っぽい風?」

男「そうそう、気をつけろよ。木枯らしは大切なもんを持っていっちまう」

男「しっかり握って置かないと雪山に忘れちゃうからな」

女「うん」

男「結構見晴らしの良い山なんだな」

女「割りと良い眺めでしょ」

男「確かに、ふもとまでよく見える」

男「ほら、あそこに人形の妖怪」

女「どこどこ?」

男「あれが小豆洗いで、向こうにいるのはくねくねだな」

女「ふーん」

女「見えない」

男「双眼鏡使う?」

女「あ! 分かったあの田んぼの真ん中でくねくねしてる奴でしょ」

男「そうそう」

女「もっとよく見たいな、双眼鏡貸して」





男「て言って、覗いた奴の心を喰う妖怪なんだよ」

女「うわ、私が今心を喰われかけたの?」

男「そうだ」

男「相手は妖怪だからな、よく注意することが大切なんだ」

男「くねくねが見えたってことはその手前の民家にいる小豆洗いも見えるはずだ」

女「うーん、・・・どこ?」

男「民家の井戸で何か洗ってるおじちゃんいないか?」

女「あ、あれ妖怪なの? 人でしょ」

男「人にしては背中が曲がり過ぎてる」

女「うーん、・・・言われてみれば」

男「あの妖怪はさほど危険なもんじゃない」

男「まあ近付き過ぎると食われるけどな」

女「思いっきり危険じゃん」

男「寒いな」

女「寒いね」

男「今日はここらで泊めて貰おうか」

女「いつもそうやって泊めて貰ってたんだ」

男「夏場は蚊帳張って外で寝てるんだけどな、冬はさすがに堪える」

女「へえ、旅するってのも大変だね」

男「ああ」

男「どうなんだろうな、男女で他人の家に泊まりに行くってのは」

女「兄弟姉妹の関係って嘘ついたらいいじゃん」

男「よく泊めてくれた他人に嘘吐けるよな、しかもどうでもいいような嘘だし」

女「でもどうでもいいような事なんでしょ? なら気にせず泊めて貰おうよ」

男「まあ、そうだな。」

ドンドン……

女性「はーい」

男「旅の者だが、雪に難儀している。一晩泊めて貰えんだろうか」

女性「・・・構いませんが」

男「連れが居るんだが、そっちも構わんだろうか」

女性「ええ、構いませんよ」

女「・・・」ペコリ

男「料理おいしかったです」

女「本当に、どうやったらそんなに上手に作れるんですか?」

女性「あははは、もう、そんなに誉めないでくださいよ」

男「ところで、奥さんお名前は何と」

女性「菊と申します」

男「それでは菊さん、質問があるんですが良いですか?」

菊「ええ、いいですよ。」

男「自分実は蟲師の類いの者でして」

菊「まあ。お珍しいですね」

男「連れはそういうものじゃないんですけども」

男「菊さん、率直に言いますと、あなたから異様な妖気が溢れています」

菊「えっ?」

男「あなた妖怪の類いと関わったことがおありですね?」

男「もしくは現在も関わっておられませんか?」

菊「いや・・・私は、そんなものとは関わっておりません」

男「そうですか・・・しかし、あなたには子供がおられるんじゃないですか?」

菊「・・・どうしてそれを・・・」

女(なんで男はこんなにズバズバ言い当ててるんだろう?)


男「お子さんはどちらに?」

男「息子さんの容態を確認したい」

菊「・・・寝室です」

菊「どうぞこちらへ」

(寝室)

男「これは・・・」

女「うわっ」

菊「半年ほど前から息子の姿は徐々に透け始めました」

菊「次第にそれは勢いを増し、今や息子は僅かに影の輪郭を残すばかりとなりました」

男「・・・」

女「お菊さんにはまだ見えているんですか?」

菊「・・・辛うじてなら」

菊「もうほとんど・・・」



菊「男さん! 息子は元に戻るんですか?」

菊「男さん!」

男「・・・」

男「・・・残念ですが」

男「息子さんはもう元には戻りません」

男「息子さんはこのまま、消えてしまいます。」



女「えっ、」

菊「そんな、・・・どうして」

男「茶の間に戻りましょう」

男「息子さんと距離を取るべきです」

菊「うう・・・うぅ・・・」

女「・・・」

男「奥さんの息子さんがああなったのは、神隠しという妖怪の仕業です」

菊「神隠し?」

男「広義には天狗と同一視しますが、我々は区別している種です」

男「神隠しを沸かすと言われるものは1つしかありません」

男「天狗の小皿を息子さんは持って帰って来ましたよね?」

菊「天狗の小皿・・・?」

男「深い緑色の小皿です」

菊「ああ、それなら誰のか分からないから返して来いと言って」

男「あの小皿は持ったものに神隠しを憑かせる道具です」

男「憑かれたら最後どうしようもありません」

男「光脈の側に置いておけば治るという説もありますが・・・残念ながらあの程度まで進行してしまいますと」

男「打つ手はありません」

菊「・・・」

菊「息子、息子は、消えてどうなるんですか?」

男「生命そのものの姿に変わります」

男「変わるだけです。我々には死んだように映りますが、実際には死んでいません」

男「生きながらにして蟲に形が変わったのです」



男「ご理解頂けましたか」

菊「・・・」

(翌日)

男「御世話になりました」

女「ありがとうございました」

菊「・・・ありがとうございます」

菊「あなた方のお陰で息子の病のすべてが分かりました」

菊「・・・これからは、もっと、・・・もっと息子の事をよく看取っていこうと思います」

女「頑張ってください」

女「心から応援してます」

ザクッザクッザクッ……

ザクッザクッ……

男「・・・」ザクッザクッ……

女「・・・」ザクッザクッ……

女「天狗の小皿って結局どういうものなの?」

男「あれは神隠しを呼ぶものだ」

女「・・・持つとどうなるの?」

男「この世と向こうの世が曖昧になる」

男「そして引っ張られる、早い話が蟲の方に行くってことだよ」

女「・・・捨ててきたのに?」

男「そこだな、俺もそこが引っ掛かった」

男「俺の勝手な妄想だが、あの子たぶんまだ小皿を持ってたんだろうな」

男「あれは手放しがたい魅力を持つとも言われる」

男「・・・」

男「・・・まあそういうこった」

女「なんだか腑に落ちないな」

男「妖怪話なんて皆そんなもんさ」

男「・・・」ザクッザクッ……

女「手放しがたい魅力、ねぇ」ザクッザクッ……

男「・・・」ザクッザクッ……

女「・・・」ザクッザクッ……

男「・・・」ピタッ

女「ん? どうしたの」

男「煙草吸っていい?」

女「んん、まあ大丈夫だけど」

男「・・・」スパー

男「ぷはー」スパー

ビューーーー

男「来るぞ」

女「え?、ちょ何が?」

ビューーーーゴォオオオ!!

女「あっ!!!」

男「・・・やっぱり来たな」







ビューーーー・・・

男「見たか? あれが天狗だよ」

女「そんなの見れば分かるよ!!!」

女「なんでこんなタイミングで来たの? なんか関係あるの?」

女「どうなの? もう私パニックだよ!!!」

男「まあ落ち着けって」



男「あの天狗は小皿を渡した天狗だよ、取り返しに来たんだ」

男「けど俺らが持ってないと分かってすぐ諦めた」

男「しかも俺が妖気を妨げる煙草吸ってたしな、仮に俺らが持ってたとしてもアイツは近付けやしなかったろうよ」

女「・・・」

女「そうなんだ・・・よかった・・・」

男「助かってよかったな」

女「でも、天狗は一度渡した小皿を取り返しに来たんだよね?」

女「人にあげたものを取り返しに来るなんて変な話だよね」

男「そりゃあ、あの器には『手放しがたい魅力』があるわけだしな」

男「そらあ、人でも妖怪でもそれは同じだ」

(´・ω・`)今日はここまでにしたいと思います。見てくれた方ありがとうございました
コメントも見てます。嬉しいです。頑張って書いていきたいと思います。

男「・・・」ザクッザクッ……

女「・・・」ザクッザクッ……




男「着いたぞ」

女「本当に?」

男「ああ、あそこに見える家だ」

女「おお! かなり大きいね!」

男「そうだな、俺も見るのは今回が初めてだが、かなり大きいな」

男「まあ何にせよ間に合ってよかった」

男「早速入るか」

女「うん」

(門前)

使用人「・・・どちらで様で?」

男「よお、俺だよ。妖怪の」

使用人「・・・確認をとりますのでしばしお待ちを」

男「おう」



使用人「失礼しました。門を開けさせます」

ギギー・・・

男「それにしても大きな門だな」

女「本当に」

使用人「そちらの方は?」

男「連れ、妖気は帯びてない」

使用人「・・・しかし」

男「専門家が言ってんだから間違いないだろ」

男「見習い連れて来たんだって言っとけ」

使用人「承知しました」

女「・・・なんだか変な人だったね」

男「使用人の後ろにも何人か居たろ」

女「うん」

男「ありゃ土人形だ」

女「人形?」

男「泥を造形して妖気を込めて動かす人形のこと」

男「結構作るのは難しいんだが、誰が遊びであんなもん作ったんだか。」

女「炊事洗濯してくれる人形作ったら超便利そうだね」

男「ばか。ああいうのは四六時中妖気を込めないと動かないポンコツなんだよ」

男「四六時中妖気を込めるなんざしたら精神病みまくるわ」

男「それこそ炊事洗濯こなした方が楽だよ」

女「・・・役に立たない人形なんだね」

男「そうだ。あんなもん所詮は泥人形だ」

女「・・・それにしても広くて本殿に着かないね・・・」

男「ああ、まさかこんなにバカデカイ家だとは思わなかった」

男「こんなに広いなら逆に人形に任せた方が都合がいいのかも知れないな」

女「さっきと言ってること違うけど。」

男「ん? まあ、あれだ。そんなこともあったりするってことだよ」

子ども「わーい」スタスタスタ……

男「おい、ちょっと来てくれ」

子ども「わーい」スタスタスタ……

男「おい!」

子ども「わーい」スタスタスタ……



男「・・・すっかり自分の世界に入っちまって話を聞きゃしねぇ」

女「ねえ、」

男「なんだよ。お前からも言ってやってくれよ」



女「さっき誰に話し掛けてたの?」

男「え? お前見えないのか?」

女「うん、何にも居ないけど」

男「・・・」

男「そうか、じゃあ先に行っててくれ」

女「え? なんで?」

男「俺はこれを片付けから行く。屋敷の庭にはいるんだ。怒られはしないだろう」

男「どうしても来てほしい事情になったら文を寄越せ」

男「文の出し方は教えただろ?」

女「うん・・・」

男「見知らぬ家だから怖いこともあるだろうがな、心配するな。俺も初めてだから」

女「・・・うん」

男「じゃあ先に本殿に行け。あそこが一番安全なのは間違いない」

男「・・・さて、と」

男「おい」ポン

子ども「いて、なんだよ」

男「お前どの類いの者だ?」

子ども「たぐい? なんだそりゃ、知らんぞ」

男「・・・じゃあお前親はどうしたんだ?」

子ども「・・・」

子ども「・・・母ちゃんは、俺が見えなくなっちまったみたいで」

子ども「・・・」

男「・・・」

男「そうか・・・」

男「・・・お前いくつだ?」

子ども「さあ? もうずっとこの調子さ」

男「随分大人びてるな、もう餓鬼って年でもないんだろう」

子ども「そうだな、もう見かけよりふた回りは大きい年ごろだろうな」

男「いつかは分からんが山に登ったろう」

男「おまえ、神楽の行列で遊んだんだろう」

子ども「あんた蟲師だったのか」

男「専門は妖怪なんだがね」

子ども「そんなに変わりゃせんさ」

男「今から言うことは百も承知だろうが、お前は九十九に憑かれてるんだ」

子ども「神楽の九十九、か。あはは、そんなこともあったなあ」

【付喪神】(九十九神)
とは、日本の民間信仰における観念で、長い年月を経て古くなったり、長く生きた依り代(道具や生き物や自然の物)に、神や霊魂などが宿ったものの総称で、荒ぶれば(荒ぶる神・九尾の狐など)禍をもたらし、和(な)ぎれば(和ぎる神・お狐様など)幸をもたらすとされる。
「付喪」自体は当て字で、正しくは「九十九」と書き、この九十九は「長い時間(九十九年)や経験」「多種多様な万物(九十九種類)」などを象徴し、また九十九髪と表記される場合もあるが、「髪」は「白髪」に通じ、同様に長い時間経過や経験を意味し、「多種多様な万物が長い時間や経験を経て神に至る物(者)」のような意味を表すとされる。

男「九十九って妖怪はな、時間を狂わせる妖怪なんだ」

男「生物の体内時計を妖怪のそれとにすり替える」

男「そういう妖怪なんだ」

男「そして引っ張る。正確に言うなら妖怪を持たない者に見えない姿に変える」

子ども「あんた専門なだけあってなかなかよく知ってるね」

男「お前はこの家の息子だったのか」

子ども「そうだな、俺はもう何十年も前の“元”当主様だよ」

男「門前にあった泥人形もお前が作ったのか」

子ども「そうさ。ああでもしないと存在が忘れ去られるような気がして、な」

男「俺は治す方法を知っている」

子ども「残念だがそれはいらない。俺は今のままでいいんだ」

子ども「今さら現世に戻ったって、な。どんな顔して歩けって話だよ」

子ども「あんたが来るのがあと十年早かったら喜んで治して貰ったんだろうがな」

子ども「神楽だけに“後の祭り”ってな」

男「・・・そうか。」

子ども「大方爺様にでも呼ばれたんだろ」

子ども「もし会ったら息子は元気にやってると伝えてくれないか」

男「わかった。伝えるよ」

子ども「頼んだよ」




男「ああ、じゃあな。元気でやれよ」

(´・ω・`)今日はここまでにしたいと思います。見てくれた方ありがとうございました。

女「・・・」

女「これが、本殿・・・」

???「むむっ!? 何奴! 成敗してくれるわッ!!!」

女「わっ! ちょ、ちょっと待ってください!!」

爺「そうかそうか、あやつの連れであったか」

爺「それは来て早々、とんだ歓迎をしてしもうたな。がっはっは!!」

女「本当ですよ、はあ・・・」

爺「しかしあやつの姿が見えんな?」

爺「あやつの事じゃ。広大な庭の何処かで道草食っておるのじゃろうて」

爺「そうじゃろ?」

女「ま、まあ・・・そんな所だと思います」

爺「文出しとき」

女「えっ? ・・・なんでそれを・・・」

爺「長年やってると勘が冴えるものでな。ではまあ会おうぞ」スタスタスタ……




女「何だったんだろ」

男「・・・」スタスタスタ……


ゴトゴトゴト・・・


男「文か。どれどれ・・・」

男「こりゃ急がないかんな」

男「・・・」スタスタスタ……

男「やっと着いたー」

女「お、やっと来たか。待ちくたびれたよ」

男「爺様は?」

女「とっくの昔にどっか行っちゃったよ」

男「あちゃー、明日辺り話が始まるかな」

女「何処で会議するの?」

男「本殿の中。本殿は会議の為だけにしか使われない」

男「会議は光脈筋が動いた時にしか開かれない」

女「・・・急に難しい話になったね」

男「早い話が緊急事態の時にか開かれない会議に出席するぞってことだ」

男「わかったな?」

女「まあ、半分くらいは」

女「前回の会議は?」

男「2年前って聞いたぞ」

女「じゃ、その前は?」

男「1年前かな」

女「なんだ、緊急事態にしては定期的じゃん」

女「その前は?」

男「200年前とかなんとか」

男「それについてはもう記録すら曖昧だ」




女「・・・やっぱ緊急事態だわ」

男「この辺は、光脈そのものとしては安定してるんだがな」

男「まあ時たま動いてみたりするらしい」

女「動いちゃダメなの?」

男「都合の悪い事はいくつかあるが」

女「・・・大切な会議なんだね」

男「それでも爺が蟲師から情報聞くだけの世間話だよ」

女「爺様って何者なの?」

男「爺様は占い師だ」

男「蟲師、妖怪師、神師、結界師とかなんとかたくさん蟲関係の師はあるわけだが」

男「特に占い師だけは別格だ」

女「なんで?」

男「占い師は血統を重んじる数少ない師だからだ」

女「占い師って決まった人にしかなれないの?」

男「そうだ。占い師と言いつつ実際は術師だがな」

男「まあ占い師は色々と凄いんだよ」

女「だから爺様はあの時文を出せって言ってたんだ・・・」

男「お前が何を言われたのかは知らんが、持ち物の透視くらいは楽勝に出来るだろうな」

女「・・・スーパーお爺ちゃんだったんだ・・・」

女「人は見かけによらないもんだね」

男「そうだな」

(翌日)

ゴトゴトゴト・・・

男「む。 文が来たか」

女「なんて書いてあるの」

男「本殿を解放した至急参上すること」

男「だとさ。行こうか」

女「うん」

(本殿)

男「・・・」

女「・・・」

男「中も広すぎて何処にいったらいいのかわからん」

女「ほんと、この家広すぎだよ」

使用人「やあ、お待ちしておりました」

使用人「皆様出席なさっておりますので、お急ぎください」

使用人「こちらです」

男「おう」

ガラガラ・・・

男「おお、皆来てるな」

女「知り合い?」

男「顔くらいは見たことある」

女「知り合いではないんだ」

男「同業の人とそんなに接したことないし」

女「そうなんだ」

爺「座せよ」

男「うぃ」

爺「これでみんなちゃんと来たかの」

使用人「はい、揃いました」

爺「うむ。じゃあそろそろ始めるぞ」

爺「じゃあまず蟲師から話を聞こうかの」

蟲師「はい。西の国での光脈筋の移動ですが、これは光山の主の死が原因ではないかと考えられます」

爺「なるほど。主は跡取りを使命しなかったのかの」

蟲師「そのようですな。今その山は完全に閉じ、あとは山としての死を待つだけです」

爺「ほほう」

蟲師「その他特に変わったことはありませんでした」

爺「そうか。それなら良い」

爺「次。神の師はどうであるか」

神師「うちは特に問題は起きていません」

神師「いつも通りです。うちのとこまで問題がやって来たらそれこそ動かざるを得ないでしょう」

爺「そうじゃな。安心した。まだ由々しき事態とまでは行かないようじゃ」

爺「次。妖怪師はどうであるか」

男「まずあんたの息子が元気にやってますってよ」

爺「アレに会えたのか。お前も運が良いのう」

男「西の方から来たんだが、光脈筋の山は皆早めに閉じる傾向がある」

男「文献にはないから、この地特有の現象かもしれない」

男「調べてみることをおすすめするよ」

爺「・・・そうか」

爺「蟲が騒ぎ、妖怪が踊り、神が呑む」

爺「この地はどのみち長くはない」

爺「この地そのものが死ぬことはないとしても、主や妖怪の大部分は変わるだろう」

爺「同業の者に伝えるといい。もうこの国には寄るなと」

(本殿前)

女「もうお開きなの?」

男「ああ、そうみたいだ」

女「これから何処に行くの?」

男「分からん。でももうこの先お前と旅することはないな」

男「旅は一人が気楽で良い」

女「そうだね。私も帰るところが分かったし」

男「帰るところ、か」

女「私はあの山でこれからも暮らすよ」

男「そうか。俺もそれが良いと思う」

女「今度はいつ来てくれるの?」

男「さあな」

女「ちゃんと文くらい寄越してよ」

男「気が向いたらな」

女「・・・」

男「まあ何時かはわからんけど必ずそっちに行くよ」

男「約束する」

女「うん」

男「じゃあ、またな」

女「またね。ずっと待ってるから」

男「おう」

おしまい

物語が?

一応乙
なんかもうちょい続けて欲しいな
色々疑問残るし
続編まっちょる

>>107
(´・ω・`)そうです

>>108
(´・ω・`)もしよろしければもやもやした疑問点を教えて頂けると嬉しいです

なにか始まるのかと思ったら終わってしまった

>>110
(´・ω・`)すまぬ・・・すまぬ・・・

(´・ω・`)この話の背景の一部は漫画の蟲師から引用しています
化物語の思想も一部引用しています
(´・ω・`)もともとはびっぷらで立てたのですがその時はアイデアが続かずにすぐに断念してしまいました
その後にこちらの方でその続きを書いてみた次第であります
(´・ω・`)つらつらと喋ってしまい申し訳ないですが、一応この話の背景の説明でした。
(´・ω・`)見てくれた方ありがとうございました

>>109
なんつうか、エンディングがない感じ
起承転結の転の部分で終わった感
占い師のところに行って何か事件が始まるかと思ったら何もなく終わってしまった

起→蟲とか神とか妖怪の説明。後の伏線?
承→占い師のところまで行く
転→緊急事態発生。重大事件起こるのか?
結→終わり。あれ? 事件は?

こんな感じ

(´・ω・`)びっぷらの方でけじめを付けるという意味で転載したいと思います。ご了承ください

>>112
(´・ω・`)申し訳ないのですがこの話に起承転結の考え方は根本的にありません。
ずっと承が続いていくだけです。始めから平坦な道をずっと歩き続けています。
ですから異常事態としてもその程度の物だと考えて頂けると幸いです。

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