俺「し、静まれッ!俺の右腕ッ!」 (42)

中沢「ん?どうしたの?」

俺「いや…何でもない。気にするな」

中沢「?」

俺 (知られてはならない…俺の本当の姿を)

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俺はここ、県立雲湖高校の3年生だ。

…というのは仮の姿で、ブラック団というデーモンの組織から派遣されたスパイである。

初めての人間界で分からないことが多く、友達はいなかった。

しかしこの中沢という親友を得て、調査は進展しつつある。

中沢「…ククク」

俺「え?」

友人「愚か者め…それで隠しているつもりか?」

俺「なにッ…!?」

背筋が凍った。
何を知っているというのだ?今まで隠し通していた筈だ!

友人「安心しろ。我も秘密の任務を負いし者。互いに協力できるだろう」

すみません。友人=中沢です


俺「本当か!?」

協力者の存在は大きい。だが、奴が黒邪神ヴェルティアの手先という可能性がある。
俺を、スフィアリングをベリエンドするためにステイルするつもりかもしれない。

とりあえず、俺は協力を受け入れることにした。

キーンコーンカーンコーーーン

数学の時間である。

「おはようございます」

ドアを静かに開けて、教師の斎藤が入ってきた。
ブルドッグのような顔のババアである。

こいつは、ただ教科書を読み上げるタイプの教師だ。そのため、真面目に聴く生徒はいない。

しかし今日は珍しく、生徒に問題を解かせるという。

「えー、安川君」

俺だ。

「問3を解いてください」

慌てて教科書を開き、該当する箇所を探す。

問3

8月生まれのたかし君は、コンビニで100円の昆布おにぎりを買いませんでした。さて、ゆうすけ君の身長は何cmですか?


俺は、問題を見つめたまま固まった。

難しい。数学が得意な俺でも、即座に答えが出ない。

何とか時間を稼ぐのだ。

「まず、たかし君がなぜおにぎりを買わなかったかを考えます」

俺はゆっくりと話し始めた。
斎藤が小さくうなずく。

「可能性としては…金がなかった、昆布以外が欲しかった、もしくはパンを食べたかった…などがあります」

「ですが、100円すら持っていなかったというのは考えづらい」

「その通りです」

斎藤は挑むような目つきだ。

「つまるところ、たかし君は昆布おにぎりを買いたくなかったのです。ですからローソンの定理を使うことができます」

「おお!」

周囲から感嘆の声が上がった。
俺は得意げに、回答の最終段階に入った。

「ローソンの定理とは、『Aの身長=Bの生まれ月+円周率×回答者の好きな食べ物』です。僕はチャーハンが好きです。つまり、ゆうすけ君の身長は…」

そこまで言い、俺は口をつぐんだ。
斎藤が不敵な笑みを浮かべている。

何かがおかしい。
俺は改めて考えてみた。何かを見逃していないか?

昆布おにぎりを買わなかった
昆布おにぎりを買わなかった…

俺は気づいた。大きな間違いに。

「ちがう…たかし君は…コンビニに行っていない!!」

俺は叫んだ。

クラスが静かになった。
皆、驚いて目を剥いている。

青山さんの目玉が飛び出し、コロコロと床を転がった。

「『コンビニでおにぎりを買わなかった』…。そう、コンビニに行ったとは言っていない。だから使うのは、ローソンの定理ではなくセブンイレブンの定理!!」

「よく分かりましたね」

斎藤は感心している。

危うく騙されるところだった。

セブンイレブンの定理すなわち、『Aの身長=Bの生まれ月+ガリガリ君定数−教師の好きな動物』!

「斎藤先生、お好きな動物は?」

「キリンです」

斎藤は即答した。
しかし首を振って付け足した。

「…でも、ゾウさんの方がもっと好きです」

「ではゆうすけ君の身長は…167cmです!!」

一瞬、静寂があった。
斎藤はうなずき、笑みを浮かべた。

「お見事です」

全身の力が抜け、俺はイスに座りこんだ。

「やったぜ!!」

「すげえぞ安川!!」

「安川君!!」

歓声が巻き起こる。
クラスの全員が、俺に盛大な拍手を送った。

キーンコーンカーンコーーーン…

チャイムが鳴って斎藤が去ると、クラス中の女子生徒が俺の席に詰めかけた。

「サインちょうだあああい!!」

「安川さん!こっち向いて!!」

「お願い!握手してえええ!!」

「祇園精舎の鐘の声」

俺が対応に困っていると、中沢が割り込んできた。
心配そうな顔をしている。

「なあ安川、科学の宿題って提出したか?」

「諸行無常の響きあり」

「…しまった!忘れてた!」

『点字ブロックと焼きうどんの関係を、科学的に考察せよ』という宿題が出ていたのだ。

科学の教師である大沼田は、こういった難解な課題を出すことで有名だ。しかも、締切にはやたらと厳しい。

俺は女どもを蹴散らし、中沢と共に理科室へと向かった。

道中、俺が階段で転んだり教頭先生がハゲだったりしたが、何とか理科室の前までやって来た。

「こりゃヤバイな」

中沢が暗い声で言った。
開いた扉から異臭が漂っている。

「大沼田の野郎、また解剖しているのか」

大沼田の趣味の一つが、解剖である。

彼は授業中に突然カエルの腹を割いたり、高級な掛け布団を解剖して部屋を羽毛だらけにするなど、しばしば生徒に迷惑をかけている。

俺は意を決して、理科室に入った。

案の定、大沼田は大きな机の上にシートを広げ、3年2組の吉川さんを解剖していた。

「先生、どんな具合ですか」

「へっへっっへっへっへっへっへっへっへっへ、絶好調じゃ!」

大沼田は満面の笑みで、両手に持ったメスをカチンと鳴らした。

年齢は50歳くらいか。ボサボサの髪の毛には白髪が目立っている。
ちょび髭にまん丸メガネ。いかにも変態だ。

「君たちも観なさい。これからがパーティじゃぞ!」

「ええっと…レポートを出しに来たんですが」

「後でよい!」

俺は中沢と顔を見合わせた。
気は乗らないが、少しは付き合ってやるか。

吉川さんに近づくと、彼女は青白い顔でこちらを見た。

「あれ、起きてますよ」

中沢が驚いて言った。

「麻酔から覚めたようじゃな。局部麻酔は効いておるし、問題はない」

「安川君?あたし…どうなってるの?」

自分の腸が引き出されていることは知らないらしい。

「大丈夫だよ」

俺はぶっきらぼうに答えた。

吉川さんは、お世辞にも美人とは言えない。生真面目で扱いづらい女だ。

「さあ!始めるぞお!」

大沼田はハサミを使って、胃と十二指腸を切り離した。
そして妙な機械からホースを伸ばして十二指腸と繋げた。

「一体何を…?」

俺の言葉を無視して、大沼田は吉川さんのスカートを脱がし始めた。

「え…」

脚の感覚はあるらしく、彼女は怪訝そうな顔をしている。

「あいや!」

掛け声と共に、大沼田は力いっぱいスカートを下ろした。

驚いたことに、パンツも同時に脱がされている。

「秘技、ダブル脱衣じゃ!」

手入れのされていない陰毛と、焦げたような色の陰部があらわになる。

俺は少し残念な気持ちになった。

「スイッチオンじゃ!」

大沼田がボタンを押すと、機械が大きな音を立て始めた。

「何ですか?それは」

「送風機じゃ!」

よく見ると、彼は大腸の末端を握り締めて空気を止めている。

「ブラックジャックにこんな話があったよな。腸に空気を送るやつ」

中沢が言った。

次第に小腸が、風船のように膨らんでいく。

「痛い!いたああああい!!」

吉川さんが悲鳴を上げた。

「わ、割れそうです!」

俺も悲鳴を上げた。

「腸ってもんは、驚くほど丈夫なんじゃよ!」

腸はまだまだ膨張し、まるでツチノコのようだ。

大沼田は舌なめずりをした。

「準備はいいかあ?いくぞ!!」

彼は大腸から手を離した。

バアン!!!

すごい音がして、肛門から大便が飛び出した。

「ああああああああああ」

ボボボブビビビブブ!!

マシンガンのように、次々と大便が発射される。最初は硬いものだったが、だんだんと液状になっていく。

ブベベベベ!!

「ひやあああ!!」

飛び散った軟便が中沢に降りかかった。

「どんだけ入ってるんだよ!!」

便はとどまるところを知らず、スプリンクラーのように部屋中に撒き散らされる。

プスーーーー

弾丸が切れたらしく、肛門からは空気だけが出ている。

吉川さんは白眼を剥いている。

大沼田は機械をオフにした。

「大惨事だ…」

ものすごい匂いが立ち込めている。
天井、黒板とあらゆる物に茶色い飛沫が付着していた。

「たまらんな!へっへ!」

大沼田は上手いこと便をかわしたらしく、白衣は真っ白のままだ。

「研修生の小浜が片付ける!心配はいらん!」

彼は踊り出した。

「さ、次は膀胱に取り掛かるか!君たちもやるかね?」

俺たちは呆然と突っ立っていたが、慌てて首を振った。

「いえ、遠慮します」

「授業があるんで、失礼します」

大便まみれの教卓にレポートを叩きつけ、理科室から逃げ出した。

「いやあ、すげえもん見ちまった」

中沢は茶色く染まったカーディガンを脱ぎ捨てた。

「急ごう。授業に遅れるぞ」

「うん」

俺たちは走り始めた。
次は現代文。教師の高橋は、遅刻に厳しいことで有名だ。

いつの間にか、俺たちは全速力になっていた。

まずい、こんなに走っていると…

「待て!!止まれ!!」

背後から怒号が飛んできた。

予感的中だ。
俺は舌打ちした。
そう、生活指導の飯山に見つかったのだ。

捕まれば反省室送りになる。そこでは、牛乳を拭いた雑巾に囲まれ、森鴎外の舞姫を暗記しなくてはならない。

だが逃げようにも、飯山は元陸上選手だ。100m走、幅跳び、ビール早飲み、ブラジャー早外しなどで日本代表になったとか。

俺たちは、大人しく降参することにした。

「さあ、反省室に行くぞ」

飯山はゆっくりと近づいてきた。

「10時2分、確保!!」

俺たちは手錠をかけられた。
その時だ。

「飯山先生、ちょっとよろしいですか?」

校長先生が立っていた。

俺たち3人は、驚いて10cmほど飛び上がった。

「校長!こんなところで何を?」

「先生…その2人、私に任せてもらえませんか?」

校長が歩み寄ってきた。

「な、何ですか?急に…」

飯山はたじろいでいる。

「廊下を走った…。反省室だけで償える罪ではありません。私が直に説教をしましょう」

「そうですか…、では」

飯山は納得していないようだが、俺たちを校長に引き渡した。

「さ、校長室に行こうか」

俺は身震いした。
校長はバーコード頭のごく一般的なオヤジだが、話の面白さから生徒にも人気がある。

校長室に呼ばれたことは無いし、そもそも校長が説教をしたなど聞いたことも無い。

校長「どうぞ」

ドアを開けて中に入ると、応接室だった。室内の装飾は思ったより質素である。
革張りのソファを横切り、『執務室』と書かれた扉に入った。

貫禄がある大きな机がある。校長は几帳面らしく、整理整頓されている。

彼は椅子には座らず、俺たちの周りを歩きながら言った。

「あなたたちの任務は分かっています」

俺は驚いて、中沢を見た。それは彼も同じらしく、目を見開いている。

「私もブラック団のスパイ。敵対組織『たんぽぽ組』について調査しています」

「では、黒邪神ヴェルティアは!?」

俺は身を乗り出した。

「はい…、奴は意外と近くにいるかもしれません。なぜなら…」

ファンフォンファンフォン!!!!

突然、頭上のスピーカーからけたたましい音が飛び出した。

「テロリストが侵入!繰り返す、テロリストが侵入!」

緊迫した声が響いた。

「な!テロリストだとっ!!」

校長はあわてて廊下に出た。

「逃げましょう!あっちに非常口があります!」

「いや…、戦います!」

俺はポケットからAK74uを取り出した。
中沢も黙ってMP5を構える。

「その武器は…」

うろたえる校長を無視して、俺たちは部屋を飛び出た。

皆の命、俺が必ず守る!!
俺が…!

「ねえ、あれって絶対起きてるよね」

吉川の声が聞こえた。

せっかく良いところまで行ったのに、俺の妄想は中断されてしまった。

仕方がないので、俺は顔を上げ、美少女を描く作業に戻った。

「あ、やっぱり。クスクス」

「バレバレだよねー」

陰口をたたく女どもに目もくれず、俺は絵に没頭した。

リア充のグループから笑い声が起こった。
イケメンの中沢が、面白いことを言ったのだ。

俺は溜息をつき、窓の外を見た。
きれいな青空が広がっている。

どんなに妄想の世界に浸ろうと、ぼっちなのは変わらない。

そう俺に告げているようだった。


END

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