中野有香「兄弟子Pと後ろ回し蹴り」 (44)

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有香「兄弟子Pとブラジリアンキック」
有香「兄弟子Pとブラジリアンキック」 - SSまとめ速報
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独自設定
兄さん=プロデューサー
有香と同じ神誠道場で空手をやっている

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「互いに礼!」

「押忍!」

「えっ? おっ押忍であります」

主審の合図で礼をし、構えを取ります。相手は、一拍遅れてあたしの真似をしました。

「始め!」

こんにちは、中野有香です。あたしは今、異種格闘技戦に挑んでいます。

先日、あたしはアイドルになることを決心しました。
アイドルといっても、まだ候補生にすらなっていない段階ですが。
今日は初レッスンなので、気合いを入れるために道着を着てきました。
他の候補生のみんなは、カラフルなジャージやトレーニングウェアなのでちょっと浮いています。
プロデューサーであり、今日のトレーナーでもある兄さんも少し笑ってました。
今日のレッスンは、本格的にダンスレッスンを始める前の基礎トレーニングです。
運動経験のない候補生には体力作りから、経験のある場合はこれからの自主トレーニングの方法を教えていくそうです。

そこから、ダンスレッスンについていける体力がついたと兄さんが判断した人から、このトレーニングは卒業です。
年齢や体力には個人差があるので、卒業までの期間は人によってまちまちです。
あたしは、開始10分で卒業を言い渡されました。そして、

「ちょうどいいや、今日は人数多いから、手伝ってくれ」

兄さんのこの一言で、候補生から一転してトレーナー補佐に仕立てあげられました。
このままでは、何もすることがなかったので、それはいいのですが、兄さんはあたしを便利屋か何かだと思ってないか心配です。
仕方ないので、空いた時間で兄さんと組手をすることを条件に引き受けました。

「中野有香殿、でありますな?」

「はい……えっと……大和亜季さんですよね?」

「その通りであります」

レッスンも終盤に差し掛かろうとする頃、スタジオの隅で休憩していたら、
あたしと同時期に入社した候補生である大和亜季さんに話しかけられました。

「私、先程プロデューサー殿から基礎レッスン卒業を承りまして、暇を持て余しているのです、みれば中野殿も同じご様子。どうですかな、私と一戦お手合わせ願えませんか?」

「いいですけど、ルールはどうしますか?」

こういったことは普通、よく考えて引き受けなければなりません。
ですが、あたしは今、神誠道場の名前の入った道着を着ています。
軽量級とはいえ、全国を制したあたしです。道場の名を背負っているのに、逃げることなど許されません。

「そのあたりは許可するかどうかも含めて、プロデューサー殿にお尋ねいたしましょう。プロデューサー殿!!」

大和さんは兄さんを呼んで、説明し始めました。

「おもしろいことになってるな。空手対軍隊格闘の異種格闘技戦か」

「押忍」

「腕が鳴るであります」

兄さんは少し考えるそぶりを見せ、

「ちょっとしたショーにしてやるから、二人とも準備運動して待ってな」

そう言うと携帯電話を取り出し、どこかへ電話し始めました。

大和さんは、カバンからオープンフィンガーグローブを取り出し、両手に装着しています。いつも持ち歩いているのでしょうか。
あたしは柔軟体操をしながら、対戦相手の情報を集めます。
鏡に向かってシャドーボクシングをする大和さん。
大和さんは迷彩柄のブラトップにショートパンツという、露出度の高い格好をしています。
そこから見える筋肉、パンチのスピード、揺れる胸。
実戦経験はわかりませんが、いろんな意味で強敵であろうことは容易に想像がつきます。
レッスンを受けている他の子達も、こちらのただならぬ雰囲気を感じているのか、チラチラとこちらを伺っています。

「後で面白いもん見せてやるからなー。今はこっちに集中」

兄さんがぱんぱんと軽く手を叩きながら、こちらを見ていた人たちに対して集中を促します。
出入り口の方を見ると、兄さんが呼んだであろう今日のレッスンを受けてない人たちまで集まり始めました。
あたしは柔軟体操を終え、正座し、目を閉じ精神統一します。

「よし、少し早いが今日はここまでにしよう。さて、みんな気付いてると思うが、今日はこれからちょっとしたイベントを行う。題して『めざせ! 最強のアイドル決定戦! 中野有香vs大和亜季 3分間1本勝負inレンタルスタジオ』だ」

「なんかへーん」だとか、「センスなーい」だとか、ネーミングに対する不評があちこちから上がります。
すいません兄さん、あたしもちょっとそれはどうかと思います。

「とにかく、これから準備するから、レッスン組は荷物をひとまとめにしてスペースを開けるように。珠美と早苗さん、ちょっとこっちに来てください」

目を閉じているので、音しか聞こえませんが、みんなが一斉に動き出し騒がしくなりました。
反対に、あたしは深くそして静かに意識を集中します。

「中野、準備はいいか?」

「押忍」

5分くらいたって、兄さんに声をかけられたあたしは、目を開き、静かに立ち上がりました。
今日の兄さんはノーネクタイだったのですが、今は蝶ネクタイが巻かれています。
どこから用意したんでしょう。いつの間にか、実況席まで用意されています。
折りたたみ机とパイプ椅子が置かれ、インカムをつけた元アナウンサーの川島瑞樹さんがマイクテストをしています。隣には、木場真奈美さん。タブレットパソコンで何かをしています

『ちひろさん、プロデューサーさん、こちらは準備オーケーです』

ちひろさんと兄さんが目配せして、頷き合いました。ちひろさんは事務所をほったらかしにして大丈夫なんでしょうか。
木場さんがタブレットを操作すると、カンカンカンとゴングの音がなり、ちひろさんはマイクを口元に当て、

『お待たせいたしました。ただいまより、異種格闘技エキシビジョンマッチを開始します』

拍手が巻き起こり、観客のボルテージが上がります。なんというか、みんなノリノリです。

『赤コーナー……東京都出身、神誠道場所属、88パウンド……中野ォー有ー香ァーーー』

私は右手を挙げ、声援に応えます。

『青コーナー……福岡県出身、112パウンド……大和ォー亜ー季ィーーー』

大和さんは左手を挙げ、同じく声援に反応しています。

『試合に先立ちまして、国歌斉唱を行います。誰か自信のある人は挙手!』

なんかすごく壮大なイベントになっちゃってます。空手の大会では開会式で、国歌斉唱しますけど、自分の試合のためだけに国家斉唱なんて当然初めてです。

「はいっ! あたしやりたい!!」

即座に手を挙げたのは、野球好きアイドル姫川友紀さん。

『それじゃあ、友紀ちゃんにお願いしましょう。他のみんなもアイドルなんだからこれくらいの積極性は持ってほしいですね』

姫川さんの歌声を聞きながら、コンセントレーションを高めます。

独唱が終わり、姫川さんが拍手で迎えられました。

『ありがとうございました。では、プロデューサーさん』

ちひろさんが、マイクを兄さんに渡しました。

『今回のルールは、肘打ち、膝蹴り、頭部への攻撃は禁止。危険防止のため、打撃技はクリーンヒットが決まった時点で一本勝ち、関節技・締め技は完全に極まったと俺が判断した時点で勝利とする。試合時間は3分間。時間切れの場合、判定は行わず、引き分けとする』
『また、クリーンヒットの判定には、武道経験者の珠美と早苗さんに副審として参加してもらう。俺を含めた3人はクリーンヒットだと判定した場合、手を挙げる。全員もしくは2人の手が挙がったら一本勝ちとする。以上だ、二人ともこれでいいな?』

あたしも大和さんも無言で頷きました。

『お互いに怪我のないよう注意するように。自分がアイドルだということを忘れるなよ』

「押忍」

「無論であります」

兄さんはちひろさんにマイクを渡すと、実況席の川島さんに目で合図しました。

『実況の川島です。格闘技はよくわからないという子のために、解説として木場真奈美さんにお越しいただいております。真奈美さん、早速ですが、この試合の見どころはどういったところになるのでしょうか』

『有香は空手家だから、寝技の技術なんて無いに等しいだろう。亜季は当然そこを突くだろうね、有香だってそんなことは百も承知だ。組みついてグラウンドに持ち込めたならば亜季、それができないようなら有香に分があるだろうね』

『ありがとうございます。さて、レフェリーのプロデューサーさんが中央に立ちました。いよいよ試合開始です』

「両者、前へ」

あたしと大和さんが中央で対峙し目を合わせます。

「互いに礼!」

「押忍!」

「えっ? おっ、押忍であります」

礼をし、構えを取る。大和さんは一拍遅れてあたしの真似をしました。

「始め!」

開始の合図がかかりましたが、あたしも大和さんも互いを牽制し、動きません。
大和さんは左利きなので、右手を前に出すサウスポースタイルで構えます。
わずかに前傾姿勢を取り、あたしが隙を見せれば即座にタックルしてくる気でしょう。

『なかなか動きませんね』

『間合いを計っているんだ。タックルは失敗すると、大きな隙を晒すことになるからね。特に亜季の方が慎重になっている』

このままでは埒があかないので、こちらから仕掛けます。
ジャブやローキックで距離を取りながら、相手の反応を伺います。

「こちらも行くであります!」

大和さんはタックルを諦め、打撃で応戦してきました。
これは想定内でしたが、思ったよりパンチが速くて厄介です。
そして、さらに厄介なのが打たれ強さです。パンチに合わせてカウンターで突きを入れているのですが、大和さんは怯まずに打ち返してきます。

『近距離の打撃での応酬ですが、ここからどう動くでしょうか』

『袖や襟を掴むか否かだね。掴まれたら有香に勝機は薄いだろう。亜季のパワーで一気に引きずり倒される』

木場さんの言う通り、あたしは掴まれないように警戒しながら、次の一手を模索します。
ジャブをいなし、ストレートをバックステップでギリギリかわし、ミドルキックを打とうとしたところで、異変に気付きました。
ストレートを空振りした大和さんの体が、急に力を失ったかのように倒れてきます。
あたしは一瞬、虚を突かれ、動きを止めてしまい、

「死んだふり作戦、大成功であります」

道着の袖を掴まれてしまいました。

あたしは、振りほどきにかかりますが、大和さんの強い力で引っ張られて、前のめりに倒れこむ体勢になります。
大和さんは体の位置をあたしと入れ替え、あたしは床に投げられました。
半身になって受け身を取ることはできましたが、それでもかなりの勢いです。
視界の片隅で、副審の珠美ちゃんが手を挙げるのが見えました。
しかし、主審の兄さんから声はかからず、試合は続行です。

『副審の珠美ちゃんの手が挙がりましたが、早苗さんとプロデューサーさんは動きません、これはどういうことでしょう?』

『柔道では技をかけて、勢いよく、仰向けに投げなければ一本とは認められないんだ。有香はうまく体をひねって、背中から落ちるのだけは避けたから、技ありといったとっころだろう。今回の判定基準は、一本か否かというものだから、2人は動かなかったのさ』

一本だけは免れたものの、グラウンドになってしまいました。
大和さんは、マウントポジションに移行するため、上体を起こそうとします。
マウントになってしまっては、あたしに勝ち目はありません。
でも、今ならまだ勝機はあります。あたしは、なんとか片腕だけ振り解くと、掌打をみぞおちに叩き込みました。


「うぐっ!」

大和さんが怯んだ隙に抜け出そうとしましたが、袖を掴んだ左手だけは離してくれません。
脱出は諦め、足を上げ、左足を相手の首に沿って直角に当て、右足で大和さんの左肩を巻き込みつつ、
膝の裏で左足を固定。左の内腿で片側の頸動脈を、大和さん自身の肩で反対側の頸動脈を締める体勢に入りました。

『三角締めです! グラウンドは不利と予想されていた中野選手、劣勢から一気に反撃に転じました!!』

『これは驚いた。倒された状態から相手をのけぞらせる威力の掌底もだが、窮屈な体勢から足を組みに行ける柔軟性が素晴らしい』

テレビで見ただけの見様見真似でしたが、なんとか決まりました。
技が完全に入れば終了の取り決めなのでもう勝ったも同然、そう思っていました。


「まだ終わらないであります」

大和さんは、三角締めを受けながらも、技を外すことなくそのまま私の体を持ち上げます。
このままでは、地面に叩きつけられてしまいます。そうなったら、ただではすみません 。
あたしは三角締めを外し、背中から着地すると、後転しながら立ち上がり、次に備えます。
大和さんは、間髪入れずに掴みかかってくる体勢でしたが、三角締めのダメージがあったのでしょう、一瞬動きがふらつきました。
この隙を見逃すほどあたしは甘くありません。

「セイヤァ!!」

「がっ!」

下段後ろ回し蹴りが大腿部に完璧に入りました。
大和さんは、たまらず膝をつきました。しかしそれでもなお、闘志は尽きることなく、
すぐさま立ち上がり、タックルしようとしたところで、その動きを止めました。
早苗さん、珠美ちゃん、兄さん、3名の審判全員の手が挙がっていました。
あたしの一本勝ちです。

『みごとな蹴りが決まりました中野選手の一本勝ちです。今、両者が中央で一礼し、激闘を繰り広げた2人に惜しみない拍手が送られます。
真奈美さん、最後の技はどういったものでしょうか』

『下段後ろ回し蹴りだね。回転の勢いをそのままに、かかとで太ももを打ち付ける大技だ。今みたいに軸足に決まれば、相手は立ってなんていられない。
K-1で活躍した空手家、アンディ・フグの得意技、フグトルネードという名前でもおなじみだ』

『はい、ありがとうございました。それでは、このあたりで実況を終了させていただきます。
解説は木場真奈美さん、実況はわたくし川島瑞樹でお送りいたしました』

書きためはここまでです
あと少しなので明日までには完結します

実況席の2人が一礼して、拍手が起こりました。
兄さんがマイクを片手に全員の前に出てきました。

『はい、注目! さて、このイベントを見て、みんなに考えてほしいことがある。
茜、亜季と中野が戦ってるのを見てどう思った?』

「はいっ! お二人とも、とっても真剣で見ていて私も熱くなってきました」

興奮気味に答えたのは、熱血少女、日野茜ちゃん。

『そうだな、真剣にやったからこそ、見る人に感動を与えられるんだ。
アイドルも人に見られる商売だから、真剣にやって初めて、人に見てもらえると思ってほしい』
『それともうひとつ、副審をやってくれた早苗さん、珠美。実況解説の川島さん、真奈美さん。
国家斉唱をやってくれた友紀、急な話だったのに色んな道具類を準備してくれたちひろさん。
茜、俺が何を言いたいかわかるか?』

「はいっ! アイドルの仕事も、色んな人が協力してくれているということですね?」

『そうだ、これはとても大事なことだ。候補生はもちろん、デビューしてる人も絶対に忘れないでほしい。
はい、じゃあ今日はここまで、解散!』

「しっかし、プロデューサー君もよくやるわよねえ、ただの手合わせをあんな一大イベントにしちゃって。
びっくりしたわよ、事務所で楓ちゃん達と飲みに行こうかなんて話してたら、
いきなり呼び出されて、審判やってくれ、だもん。それで、アイドルの心構えなんか立派に語って、
あれで入社して半年も経ってないってんだから」

所変わって、ここは居酒屋です。目の前には早苗さんがいて、今日の感想を語っています。
あたしは今、年長組の飲み会についてきています。
兄さんは始め渋い顔をしましたが、早苗さんに

「今日の主役呼ばないで、誰呼ぶってのよ。あたしが、責任持って見るからさ」

の一言で押し切られました。

もうちょっとだけ続きます
明日か明後日くらいにまた

ごめんなさい
絶対に完結させますんで

来週中には完結させます

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