ハンジ「酔った勢いで求婚したら」(589)

*現パロ。リヴァイ×ハンジで、リヴァイとハンジがもしも会社の営業課の人間だったら。サブでエレン×ミカサ(ミカエレ)

*一部、性的描写あり。苦手な方はご注意ください。

*リヴァイとエレンの性癖がやや斜め上。格好いいドSリヴァイが好きな方は退避して下さい。

とある年の瀬の忘年会。その日の会社の飲み会は大いに盛り上がっていた。

酒を浴びるように飲まされる新人社員を横目で見つめながら、彼女はビールのおかわりをしていた。

もう20杯以上、既に飲み終えている酒豪の彼女はシンゲキ飲料の営業部の所属だ。

営業マンは酒に強い人間が多い。肝臓が強い人間でないと営業は出来ない。

ハンジ「ぷはー! うめえええ!」

彼女の名前はハンジ・ゾエ。

営業課の中では古株の女性社員であり、今年で35歳を迎えた。

長い髪をハーフアップにあげて、縁なしの楕円形の眼鏡をかけた彼女は、営業課のベテランだ。

営業成績は常に上位から数えてベスト3に入る。男性顔負けのやり手の女性だ。

背も高く、すらっとした体型の細身の彼女は、今日は灰色の上下のスーツ姿だった。

既に身体が暑いのか、前ボタンのシャツは2個外してだらしない格好になってビールを飲み続けていた。

ハンジ「あれええ? リヴァイは飲んでないねえ? 飲まないのおお?」

彼女の隣に座っていた小柄な男性に絡みながら彼女は言った。

リヴァイと呼ばれた彼もまた営業部に所属する社員だった。

彼の名前はリヴァイ・アッカーマン。

営業成績は常にトップで、彼が営業に回ると100%契約を取ってくるという偉業から「営業最強」の異名を持つ。

外見は常に清潔に保ち、また身なりもいい物を着ている。

黒い髪をきちんと整え、後ろの方は刈り上げて、眉やムダ毛の処理は常にしている小奇麗な男だ。

彼はハンジより3つ程年上で、今年で38歳になるという。

リヴァイ「ああ。飲んでない。別に飲む必要はねえだろ」

ハンジ「え? 何で? 会費勿体なくない? 5000円も出しているのに」

リヴァイ「いや、俺はウーロン茶で十分だ」

ハンジ「あれ? でも接待の時のお付き合いじゃ良く飲んでいるよね? 何で会社のこういう会では飲まないの? いつもそうだよね?」

リヴァイ「…………」

リヴァイは少し考えてから答えた。

リヴァイ「会社の飲み会は、仕事の範囲じゃねえだろ? ただの親睦会だからな」

ハンジ「親睦会だから飲むべきでしょうか! ほら、ビール!」

と、言いながら無理やり自分の飲みかけをリヴァイに渡すハンジだった。

リヴァイ「…………………」

ハンジ「ほら、飲んで飲んで! お金が勿体ないよ! 酒強いんだったら飲もうよ!」

リヴァイ「………………いいのか?」

ハンジ「ぐっと、ほら……どうぞ!」

仕方なく、残りを飲み干すリヴァイだった。

ハンジ「いい飲みっぷりだね! おかわり頼もうか。すみませーん!」

リヴァイ「いや、いいから」

ハンジ「なんでよー! 私の酒が飲めないってか? 営業成績3位の私の酒は飲めないか? ん?」

リヴァイ「営業成績は関係ねえだろ」

ハンジ「あらそう? 別に私を見下している訳じゃないのね?」

リヴァイ「何で見下す必要があるんだよ」

ハンジ「え? 見下さないんだ。意外。私、見下されているんだとばかり思っていたよ」

と、ハンジはおかわりのビールを自分で飲みながら言った。

ハンジ「女の癖に3位にいるのを嫉妬する男もいるしね。常にトップで居続けるリヴァイから見たら、私なんて取るに足らない存在かと」

リヴァイ「何でそうなる………」

ハンジ「いやー……この間さー、いろいろ陰で言われちゃったんだよね」

と、どんどん酔っ払いながらハンジは言った。

ハンジ「私、男性社員の中では結構、邪魔な存在みたいだし。私さえ居なければ……みたいな? 自分の努力の不足を棚に上げていろいろ文句言われていたみたいでさ」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「だから、私、本当にここに居ていいのかなあってたまに思う時もあるんだよ。契約取ってくるのは楽しいし、仕事好きだから辞めたくはないけど。周りからグチグチ言われるのは苦手なんだ」

リヴァイ「ほぅ………」

ハンジ「若い頃は、同期の男性社員も結構、ちやほやしてくれたけどさ。でも、仕事に慣れてバリバリこなせるようになってきたら……何か、空気が急に変わってしまって。私としてはそういうつもりで言ったつもりじゃないのに、変に受け取られて、嫌だなあって思うんだ。本当は皆とは仲良くしたいけど」

と、どんどん愚痴が零れていった。

ハンジ「加えて私の同期の女性社員は殆ど男を捕まえちゃったし。残っていたナナバも先月、結婚が決まったって報告されたから、もう売れ残っているの私だけだよおおおお」

リヴァイ「……………」

ハンジ「もうどおおしよおおお……私、本当にこのままここで働いていいのかなああ? いっそ、転職した方がいいのかなああ?」

リヴァイ「向いている仕事を途中で辞めるのは勿体ないと思うが」

ハンジ「あらそう? 営業トップのリヴァイ先輩。私、営業に向いていると思います?」

顔が赤いままハンジがそう言うと、リヴァイは小さく頷いた。

リヴァイ「でなければ女性でありながら、常にトップ3の圏内に入る訳ねえだろ」

ハンジ「やったあああ! 先輩! あざーす!!」

リヴァイ「陰口は気にするな。嫉妬しているだけだろ。男としてのプライドがそうさせるだけだ」

ハンジ「うふふふ……それもそうだね。嫉妬する暇があるなら、契約増やせっての!」

と、言いつつハンジはビールを更におかわりして泥酔していく。

ハンジ「あーでもなあ。最近、寂しいんだよね」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私の周りの友達も、仕事仲間も、どんどん結婚していって、昔のように気軽に一緒に飲んだり遊びに行ったり出来なくなってきたんだ」

リヴァイ「………」

ハンジ「男友達も、所帯持ちが増えて来たし、以前のように気軽に遊べなくなったし、だんだん孤独になってきた感じがする」

リヴァイ「………」

ハンジ「仕事をしている最中はそういうのを感じる事は全くないけど、ふと、家に帰って一人で飲んだりしている時とか、しんみりしちゃう時あるんだよ。独身貴族のリヴァイ先輩も同じような事はないですかね?」

リヴァイ「ない、と言えば嘘になるな」

ハンジ「やっぱり? そっか。それなら安心した」

リヴァイ「…………」

ハンジ「あーごめんね? グチグチ言っちゃって。リヴァイ主任はご結婚のご予定はないんですか?」

リヴァイ「なんで急に敬語?」

ハンジ「いや、畏まった質問なので」

リヴァイ「別に……予定はない」

ハンジ「本当に~? 来月急に若い子と電撃結婚したら恨むよ?!」

リヴァイ「ハンジ、ちょっと酔い過ぎじゃねえか?」

と、リヴァイは半眼で睨み返すが全く意に介さないハンジだった。

ハンジ「だって、予定無いです! って言う人に限ってすぐその後、結婚するじゃーん!」

リヴァイ「まあ、その法則は確かにある気がするが」

ハンジ「でしょでしょ? もうアレだよね。お約束みたいなもんですよね」

リヴァイ「……………」

ハンジ「はあ……実は最近、実家の母からの催促も多くなってきてですね? そろそろ結婚しないと子供産めなくなるのにどうするの? とか何とか言われて……」

リヴァイ「……………」

ハンジ「人生の岐路に立たされているような気分になっている訳ですよ。はあ……誰か枯れかけた花を摘んでくれる奇特な男性が通りかかってくれないかな」

リヴァイ「……………」

ハンジ「リヴァイ主任、独身ですよね。貰い手がいないんで、貰ってくれないですかね?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あ、いやでも、ダメか。リヴァイ主任は立場的に選び放題なのに、私なんかを貰っても………」

リヴァイ「ああ………別に構わんが」

ハンジ「え?」

と、其の時、ビールを飲む手を止めてハンジは驚いた。

リヴァイ「いや、だから別に……そっちがいいなら、いいぞ」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「結婚相手、欲しいんだろ? 俺でいいなら、その相手になってやっても構わんが」

ハンジ「え? ええええ?! いいの?!」

リヴァイ「ああ」

ハンジ「二言はないよね? 後で前言撤回しないよね?!」

リヴァイ「しないしない」

ハンジ「じゃあ、今すぐ婚姻届けを出しに行こう! 気が変わらないうちにいこうぜ!」

リヴァイ「ああ、まあ、そうだな」

という訳で、酔ったハンジを抱えつつリヴァイは酒の席を立った。

そしてその飲み会に出ている社員一同の前で宣言した。

リヴァイ「すまん。今、ハンジにプロポーズされたから、結婚する事になった。今から婚姻届を出してくる」

エルヴィン(ぶほっ)

リヴァイの上司にあたるエルヴィンと、その上司の人間たちが一緒に酒を噴いていた。

ハンジ「すんませーん! という訳でなんで、先にあがります~お先に! (ヒック)」

そして2人は酔っぱらった社員一同に「おめでとおおおお!」と騒がれながら退出していったのだった。














翌日。日曜日の朝。リヴァイの自宅マンションにて。

目が覚めると、何故か隣にリヴァイが寝ていて肝が冷えるハンジだった。

お互いの姿を見て赤面する。裸だったのだ。

ハンジ「ええっと、昨日の記憶が途中で途切れている……」

脱いだ衣服が適当に散らかっていた。

髪は乱れて眼鏡もなかったので慌てて眼鏡を装着する。

安らかな寝顔を浮かべて眠っているリヴァイを見つめて慌てて衣服を回収するハンジだった。

リヴァイ「ん……? もう朝か」

と、リヴァイも遅れて目を覚ます。

ハンジ「すんませんでしたあああああああああ!!!!」

リヴァイが目を覚ました直後、ベッドの上でシャツだけ着て正座と土下座をするハンジだった。

ハンジ「酔った勢いでやらかしたんだよね? 私、リヴァイを食った? 記憶がないんだけど」

リヴァイ「あー……いや、別にセックスはしてねえけど」

ハンジ「じゃあ何でお互いに裸なの?! 私、一体何をやらかしたの?!」

リヴァイ「何って……その」

と、頭を掻きながら、

リヴァイ「何処から記憶がないんだ?」

ハンジ「ええっと、忘年会の途中から。リヴァイに自分のビールの飲み残しを無理に飲ませた後の記憶が全くない」

リヴァイ「…………本当に?」

ハンジ「うん。私、その後、何をやらかしたの?」

と、滝汗を浮かべてハンジが問うと、

リヴァイ「…………」

リヴァイはがっくり項垂れて落ち込んでしまったのだった。

ハンジ「うわああああ?! 私、余程酷い事をやらかした? ねえ、やらかしたの?」

リヴァイ「いや、酷いというか……」

ハンジ「お願いします! 真実を話して! 嘘、言わなくていいから! 怖いけど!」

リヴァイ「…………結婚した」

ハンジ「え?」

リヴァイ「だから、酒の席でハンジが俺にプロポーズしてきたから、それを受け入れて、昨日の夜、籍入れてきた」

ハンジ「じょ、冗談だよね?」

リヴァイ「いや、事実だ」

ハンジ「ちょっと待って!! 何で酒の席の事を真に受けた?! 多分それ、冗談で言ったんじゃないの?! 私が!!」

リヴァイ「冗談だったのか?」

ハンジ「いや、だって、酒が入っていた訳でしょ?! 何で断らない!?」

リヴァイ「………………断る理由が思い浮かばなかったからだ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「いや、だから……そのままの意味だ。別に断る理由がない」

ハンジ「…………………」

ハンジの魂が抜けて何処かに消えようとしていた。

リヴァイ「おーい、ハンジ?」

ハンジ「は?! ヤバい、今、逝きかけた?!」

リヴァイ「魂がどこかに逝きかけたな」

ハンジ「いや、ちょっと待って下さい。頭の整理が追い付かないのでちょっと待って下さい」

という訳でしばし待つリヴァイだった。

ハンジ「つまり、私の結婚記念日は12月20日になった訳ですか」

リヴァイ「そうなるな」

ハンジ「現在、12月21日ですよね。ええっと、凄く普通の日に入籍しちゃった訳ですか」

リヴァイ「記念日にした方が良かったか? しかし気が変わらないうちにいこうと言い出したのはハンジの方だぞ」

ハンジ「それ完全に酔っぱらっていますよね?! 無理に酔っ払いの戯言に付き合わなくても良かったのに!!」

リヴァイ「………戯言だったのか?」

ハンジ「じゃないの? え……だって、酔っていたんでしょ? 記憶ないんだもの! 本当に!」

リヴァイ「…………お前、酒強い方だから、酔ったふりをしていたんだとばかり思っていたが、違ったのか」

ハンジ「!」

その言葉にハンジは唖然となった。

ハンジ「いや、プロポーズを酔ったふりしてやらかす女が何処にいますか」

リヴァイ「ハンジならやりそうだなと思った」

ハンジ「いくら私がおふざけの酷いと言っても流石にそこまで酷い女じゃないですよ!」

リヴァイ「しかし婚姻届を出したのは事実だ。今日からハンジは『ハンジ・アッカーマン』になった」

ハンジ「ゾエの姓を本当になくした訳ですか、私は……」

リヴァイ「新しくなったと、言え」

ハンジ「いや、でも……その………」

リヴァイ「……………」

ハンジ「あの、その………ええっと」

リヴァイ「……………服、取ってくれないか? そっちの下着も」

ハンジ「はい! どうぞ!」

ハンジに自分の衣類を受け取りながら着替え直すリヴァイだった。

リヴァイ「……………」

ハンジ「あの、その……今日はお休みだけど、この後、どうしますか?」

リヴァイ「とりあえず、朝飯食うしかねえだろ」

ハンジ「ですよねー……ええと、何、食べる?」

リヴァイ「冷蔵庫の中を確認する。少し待っていろ」

と、言って先にベッドを降りるリヴァイだった。

ハンジも服を着替え直して一緒にキッチンに移動する。

リヴァイ「食べられない物はねえよな?」

ハンジ「まあ、嫌いな物は殆どないけど」

リヴァイ「卵とハムとキャベツとピーマンと人参がある。普通に炒飯でいいか?」

ハンジ「あ、はい。じゃあそれで」

という訳で朝から簡単な食事を造り始めるリヴァイだった。

ハンジは遅れてテーブルの席に座ってその様子を眺める。

ハンジ「おおお……自炊していたんだ。意外……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、食事とかは外食で済ませるタイプかと思っていた」

リヴァイ「金が続かねえだろ。自炊の方が安上がりだ」

ハンジ「え? でも結構、稼いでいるでしょ? 営業なんだし」

リヴァイ「…………ケチだと言いたいのか?」

ハンジ「いや、そういう意味じゃないけど。偉いなあと思って」

リヴァイ「………別に偉くはねえよ。趣味みたいなもんだ」

ハンジ「へーそうなんだ。やるね!」

と、話している間にもあっという間に食事が完成したのだった。

皿に炒飯を盛って向かい合って席に着く。

ハンジ「あら美味しそう♪ すごいねえ」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。私、炒飯作れないもん。美味しそう……」

リヴァイ「普段、飯はどうしているんだ?」

ハンジ「ええっと、コンビニ弁当か外食が殆どですねえ」

リヴァイ「体に良くねえぞ」

ハンジ「いや、それが意外と今のコンビニは栄養バランスがきちんと考えられていましてね? 昔のコンビニと比べたら、そのクオリティの高さに目を瞠る物がありまして」

リヴァイ「それでも味は濃い目に作られているんだろ? 保存料だって多めに入れられている筈だ。俺は好んではあまり食べようとは思わん。忙しくて作れない時は別だが、基本的には自炊の方がいい」

ハンジ「あらそうなの? でもそうだね。自炊出来るんだったらそっちの方がいいか」

と、しゃべりながら簡単に朝食を済ませる2人だった。

腹に食べ物を入れて頭に血が回り出すと、急に冷静になるハンジだった。

ハンジ「ええっと、結婚を取り消す事って出来ない?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「だってこれって、どう見たって勢いで決め過ぎでしょう? やっぱりやめようよ」

リヴァイ「やめるとすれば、それはお互いにバツ1同士になってしまうぞ」

ハンジ「いや、そうなんだけどさ……うーん」

と、其の時、ハンジは思い出した。

ハンジ「あ、確か自分の意志によらず、婚姻届けを提出された場合、家庭裁判所での裁判をして認められたら無効に出来るんじゃなかったかな?」

リヴァイ「そうだったか?」

ハンジ「正確じゃないかもしれないけど。昔、何処かでそういう話を聞いた事がある様な……」

リヴァイ「その場合『酔った勢いで間違えて提出したので訂正して下さい』と裁判官の前で告白する事になるぞ」

ハンジ「うぐっ……」

そう突っ込まれると、反論出来ないハンジだった。

ハンジ「それもそうですね。それは流石に恥ずかしいかな」

リヴァイ「だろう? それでもいいなら、まあ、その選択もなくはないが、面倒だからやめよう」

ハンジ「えっと、それって、つまり……このまま結婚生活を今日から始めると受け取っていいのかな?」

リヴァイ「ん? まあ……そうなるが」

と、リヴァイの方は普通にそう答えた。

ハンジ「ええっと、確認したい事がありますが、いいかな?」

リヴァイ「何だ?」

ハンジ「リヴァイは今、彼女いないの?」

リヴァイ「いたらプロポーズを受け入れてはいねえよ」

ハンジ「ええ? でも、リヴァイはモテていたよね? 庶務課の子とか、会計課の子とか、受付の子とか、しょっちゅうリヴァイに声かけていたよね? あの女子のグループの中にそういう相手の子、いなかったの?」

リヴァイ「あんなもん、社交辞令に決まっているだろ」

ハンジ「本当に? 本当に、本当なの?」

リヴァイ「何で疑う………」

と、ちょっと嫌そうにリヴァイが言い返すと、

ハンジ「だって、疑うよ! 営業最強と呼ばれるうちの会社の看板主任が、この年まで独身で、同じ独身の嫁に行き遅れの女社員と結婚してくれるなんて、思わないでしょ普通は!!!」

リヴァイ「自分からプロポーズした癖に何言ってんだ?」

ハンジ「だから、何でそのプロポーズを受け入れたのかって聞いているんだけど」

リヴァイ「断る理由がない。以上」

ハンジ「それ、さっきも聞きました! 絶対、嘘だ」

リヴァイ「は?」

ハンジ「もしかしてお金目的? いや、でも稼ぎはリヴァイの方が断然上の筈だし、意味ないか。何が目当てだ? ううーん」

リヴァイ「……………」

ハンジ「あの、この結婚のメリットって何かあるの? リヴァイの方から見て」

リヴァイ「うーん」

ハンジ「私の方は、そりゃ母に報告出来るし、親を悲しませないで済むっていう最大のメリットがあるんだけど」

リヴァイ「親の為に結婚したのか?」

ハンジ「いや、うちの母も大分年齢がいっていますからね。いつまでも元気でいて欲しいけど、でも分かんないでしょ? 人生は。だから、花嫁姿を見せられるのであれば、それに越したことはないし」

リヴァイ「相手は俺でなくても良かったのか? ハンジにとっては」

ハンジ「いや、そういう話じゃないけど。というか、なんか……棚からぼた餅が降って来たような話に思えて怖いんだ」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「本当に良かったの? 私と結婚しちゃって。リヴァイ、初婚? それとも2度目?」

リヴァイ「あー……まあ、一応、初婚にはなる」

ハンジ「ん? 一応? どういう事?」

リヴァイ「嫁にした訳じゃねえが、ずっと世話をしている女はいる」

ハンジ「んん? つまりやっぱり、彼女が別にいるって事?」

リヴァイ「彼女じゃねえ。でもずっと、治療費を俺が代わりに払ってやっている女はいる」

ハンジ「………その話、詳しく聞いても大丈夫?」

リヴァイ「別にいい。隠すような事じゃねえよ。むしろ先に話さないで悪かった」

と、前置きしてからリヴァイは詳しい事情を話し始めた。

リヴァイ「そいつはとある事故に巻き込まれて、現在植物人間状態になっている。身寄りのないそいつには、治療費を払ってくれる親戚もいなかった。金を払えなければ、そいつは死ぬしかねえ。だから俺がずっと……もう10年、そいつの治療費を俺が出している」

ハンジ「………」

リヴァイ「もう目覚める可能性はゼロに近いと医者には言われているが、心臓が自然に止まらない限りは生かしてやりたいと思っている。そいつとは、事故に遭う前に「嫁にしてくれ」と頼まれていたが………」

ハンジ「その子、今、いくつなの?」

リヴァイ「もう、今年で25歳だ。10年前だから、事故に遭ったのは15歳の時だな」

ハンジ「……………………」

リヴァイ「別に本当に結婚の約束をしていた訳じゃねえ。俺にとってそいつは妹に近い感覚だったし、ただの戯言だと思って聞き流していた。でも、嫁にした訳ではないにしろ、世話をしているのは事実だから、ハンジから見たらあまりいい気持ちはしないかもしれんと思って今、言った」

ハンジ「いや待って。いい気持ちしないとか、あり得ないし」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「むしろ立派な事じゃない。というか、その子の事を待ってやらなくて良かったの?」

リヴァイ「俺も独り身で居続けるのは寂しいと思い始めていたのは事実だ」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「ああ。だから寂しさを紛らわしてくれる相手が欲しかった。それが俺にとってのメリットになる。これで納得して貰えるか?」

ハンジ「で、でも……寂しさを紛らわしてくれる相手なら、何も私でなくとも……」

リヴァイ「別の女でも良かったんじゃないかって?」

ハンジ「私、35歳だよ? 若い子じゃなくて良かったの?」

リヴァイ「俺も12月の25日で38歳になる。年齢差でみれば丁度いいんじゃねえか?」

ハンジ「あら、クリスマスが誕生日だったんだ」

リヴァイ「知らなかったのか?」

ハンジ「初めて知ったよ。御免ね。じゃあ、その日はちょっとお祝いしようか」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「え? 普通しない? お祝いしようよ」

リヴァイ「してくれるのか」

ハンジ「だって、誕生日だよ? 営業のメンバー集めてパーティやろうよ!」

リヴァイ「いや、そこは仕事仲間を集めないでくれ」

ハンジ「2人でいいの?」

リヴァイ「むしろそっちの方が落ち着ける」

ハンジ「そうなんだ。分かった。じゃあそうしよう!」

と、話し合っているうちに気持ちが落ち着いたハンジだった。

ハンジ「ええっと……何か、勢いでプロポーズして結婚しちゃったけど、この後、どうしたらいいんだろう?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「今日は私もお休みだし、その……リヴァイはお休みの日はどうやって過ごしているの?」

リヴァイ「買い物したり、部屋の掃除をしたりしたら一日の休日はすぐ終わる」

ハンジ「どこにも出かけないの?」

リヴァイ「出かけたいのか?」

ハンジ「私はついつい、街中を探検したりするね。1人カフェだったり、1人博物館巡りだったり……」

リヴァイ「ああ……じゃあ、とりあえずデートをしてみるか」

ハンジ「え? いいの?」

リヴァイ「今日から奥さんになったんだろ? だったら2人でデートくらいしてもいいんじゃねえか?」

ハンジ「はあ、まあ……それもそうか」

と、妙に納得するハンジだった。




という訳で、結婚初日、デートをしてみる2人だった。

ハンジ「男の人とデートするの何年ぶりだろ……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「ダメだ! もう思い出せない! 学生時代にはしたような気もするけど、記憶が遠すぎる!」

リヴァイ「…………彼氏、居た経験はあるのか」

ハンジ「うーん。彼氏って言っていいのか微妙なラインだったけど。でも男の人と2人でお出かけした経験は少しだけあるよ」

リヴァイ「そういう時は何処に行ったんだ?」

ハンジ「ええっと、映画館とか、カラオケとかが定番だったかな。後は遠出する時は遊園地だね」

リヴァイ「どれもあまり行かない場所だな」

ハンジ「あ、やっぱり? リヴァイそう言う場所が好きじゃないんだ?」

リヴァイ「付き合いで行くなら別だが、自分から行こうとは余り思わない」

ハンジ「リヴァイが普段、良く行く場所でいいよ? あんまり気張らないでいいんじゃない?」

リヴァイ「あーなら、スーパーに寄ってもいいか? 今日は確か、肉が安い日だった筈だ」

ハンジ「マジか! じゃあ私も買う買う♪」

リヴァイ「…………俺の家に住むんだから、ハンジは別に金出さなくてもいいぞ」

ハンジ「へ?」

と、其の時、唐突に立ち止まるハンジだった。

ハンジ「えっと……あ、そっか。そうだよね。私、何言っているんだろ。今日から別に自分の家に帰らなくてもいいのか」

リヴァイ「少しずつでいいから、荷物は俺の家に運んでいくぞ。部屋なら余っている。自由に使っていい」

ハンジ「そう言えばリヴァイの家は大きなマンションだったよね。何LDKなの?」

リヴァイ「3LDKだ。昔は3人で暮らしていたからな」

ハンジ「3人?」

ハンジが意外そうな顔で聞き返す。

リヴァイ「俺の世話している女と、もう1人、男と住んでいた。3人暮らしだったんだ。昔は。今もそのまま住み続いているから一人じゃ広過ぎる」

ハンジ「引っ越しは考えなかったの?」

リヴァイ「それもそれで面倒だった。ハンジがマンション暮らしは嫌なら新しい住居を探しても構わんが」

ハンジ「いや、部屋が空いているなら別にそこで構わないけど。空いている部屋の広さは?」

リヴァイ「8帖と6帖だ。俺の部屋は10帖あるけど」

ハンジ「いい部屋に住んでいるね。流石は営業最強の男だなあ」

リヴァイ「ハンジの家はどんな間取りなんだ?」

ハンジ「ああ、ええっと……2LDKのお部屋だよ。まあ、女の独り暮らしにはちょっと贅沢な感じかな」

リヴァイ「なら荷物を移動させた後は契約を切って俺の家に正式に住んでくれ」

ハンジ「…………本当にいいんだ?」

リヴァイ「ん?」

と、其の時、リヴァイが怪訝そうに目を細めた。

ハンジ「なんか、本当にいいのかなあ」

リヴァイ「何で躊躇う?」

ハンジ「いや、トントン拍子過ぎて面喰うと言うか」

リヴァイ「ああ……気持ちの整理が追い付いてないのか」

ハンジ「そうとも言いますね。はい」

リヴァイ「だったら、今夜は一度、自分の家に帰っていいぞ。慌てる必要はない」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「ハンジの方は親にも報告しないといけないだろ。俺の方は報告する親もいないから気楽でいいが」

ハンジ「あ、そうだったんだ」

リヴァイ「夕食はうちで食っていけ。その後はちゃんと送ってやる。じゃあスーパーに行くぞ」

という訳で、2人で最寄りのスーパーに足を運ぶのだった。





スーパーでの買い物を済ませてリヴァイの自宅に帰宅後、ハンジは言った。

ハンジ「スーパーでの買い物は歩いて行くんだ? 毎日?」

リヴァイ「場所が近いから車を出す必要性はないだろ。あと歩ける時は歩いた方が体にもいい」

ハンジ「いや、つくづくリヴァイは偉いねえ。私はついつい、車を使って買い物しちゃうよ。どかーっと、まとめて買い物しちゃう方だから」

リヴァイ「消費が激しい女だな」

ハンジ「いや、使う時と使わない時の差が激しいだけかも。ちょこっとずつ買い物するって経験は余りないかな」

リヴァイ「だったら、トータルで考えたら余り変わらないのかもしれないな」

ハンジ「かもね。というか、デートするつもりが自宅に戻って来ちゃったね」

リヴァイ「買い物した肉を持って歩いてデートする訳にもいかんだろ」

ハンジ「そりゃそうだけど。午後はどうしようか?」

リヴァイ「洗濯物、そう言えば干し忘れていたな」

ハンジ「ああ、じゃあそれを先にやる?」

リヴァイ「してもいいか?」

ハンジ「どうぞどうぞ。私はリビングで適当に寛いでいい?」

リヴァイ「いいぞ。自由にしておけ」

と、言ってリヴァイは洗濯物の処理に移動した。

一人で待っている間、ハンジはリビングのソファに座っていた。

ハンジ「ううーん。何だろ。この感じ」

と、首を独りで傾げてみる。

ハンジ「結婚したって言うのに、やけに淡々としているような気がする。結婚生活ってこんなのでいいのかな?」

と、呟いてみる。

ハンジ「もっとこう……なんていうか、想像していた物と違う気がするけど」

と、考え込むが………。

ハンジ「ま、いっか! あんまり深い事は考えなくても。結婚出来たんだから上出来だよね~」

と、自分に言い聞かせるハンジだった。

そして洗濯籠に洗濯物を入れて戻ってくるリヴァイ。ハンジを見つめて、

リヴァイ「ん? テレビとか自由に使っていいんだぞ?」

声をかけて立ち止まる。

ハンジ「え? あ、それもそうか」

リヴァイ「まあ、ブルーレイとかも適当に漁っていい。録画している物の中から興味のある物があれば観ていいぞ」

ハンジ「わーいありがとう♪」

と、いう訳でリヴァイが家事をやっている間にブルーレイレコーダーを漁るハンジだった。

ハンジ「何か面白い番組あるかな~? おお、割といろいろある。ドラマもアニメもスポーツも、沢山撮ってあるね。意外だ!」

リヴァイ「ああ……営業先でお勧めを教えて貰ったら一通り見るようにしたんだよ」

手早く仕事を終わらせたリヴァイはハンジの隣に座った。

ハンジ「はや! え? もう洗濯物干してきたの?」

リヴァイ「自分の分だけだからな。そう時間はかからん。で、何か観たい物はあったか?」

ハンジ「私は市村動物園が見たい!」

リヴァイ「動物が好きなのか?」

ハンジ「超好きだよ! 犬猫もワニも爬虫類も虎も何もかも好き!」

リヴァイ「……動物園のデートでもするか?」

ハンジ「え? いいの?」

リヴァイ「今日はもう時間が中途半端だから、別の日にでも」

ハンジ「わーい! じゃあそうしようか♪」

と、言いつつ2人は動物番組を見てわいわい楽しんだのだった。





そして夕食を頂いて自宅に帰宅後、ハンジは実家の母親に連絡を入れて結婚の報告をしたが、突然の結婚の報告に母親がキレたようだった。

ハンジ「ええええ?! あんだけ結婚しろって言っておきながら、いざしたら何でキレるのよ?!」

母親『順番がおかしいでしょうが! 挨拶も無しに、結納も無しに、何で勝手に結婚した?!』

ハンジ「だから、その……この人ならいいかな? って人に私からプロポーズしたらOK貰えたからしたんだってばあ」

と、話していたらますますキレられる。

母親『あんたは結婚をなんと思ってるの?! そんな簡単にしていいもんじゃないでしょうが!』

ハンジ「えええ? 私、今年で35歳になったんだからもう別にいいじゃない。自分の意志で決めたのに」

母親『いいから一度、その相手の方を連れて実家に戻って来なさい! お父さんも怒っているんだから!!』

プープー

ハンジ「ガチでキレられた。何で……?」

久々に連絡入れて結婚の報告をしたらキレられてしまった。

ハンジ「どーしよう。これ、実家に帰りにくいなあ。リヴァイになんて説明しよう?」

とりあえず、1回連絡を入れようと思い、ハンジはリヴァイに電話した。

リヴァイ『ん? 何か忘れ物でもしたのか?』

ハンジ「いやー実はかくかくしかじかで、キレられたんだよね。どうしよう?」

リヴァイ『あー……』

と、少しリヴァイは考えて、

リヴァイ『まあ、当然だろうな。暫く連絡してこなかった娘が突然、電話で結婚報告したら普通はそうなる』

ハンジ「そんなものかな?」

リヴァイ『そもそも、結婚の報告は本来なら俺も一緒に同席して、前もってその席を設けて貰うべきだった。俺としてはその為の段取りをハンジに任せるつもりだったんだが』

ハンジ「あちゃーそうだったの? ごめん。なんか、リヴァイの顔に泥塗っちゃったかも?」

リヴァイ『そこは後でフォローするから別にいい。ハンジのご両親の好物を教えろ。特に父親の好きな酒の銘柄を教えてくれ』

ハンジ「あーうちは別にこだわりはないけど、麒麟ビールでいいんじゃない?」

リヴァイ『いや、ビールじゃ安い。分かった。だったら少々値は張るが、いい酒を持参する。お母さんは、何が好きだ?』

ハンジ「うちの母親は……そうだね。とりあえず甘い物は大体好きだけど」

リヴァイ『分かった。エルヴィンに聞いて銘菓を選んでくる。ハンジは実家に帰る日を調整して段取りを進めておいてくれ』

ハンジ「了解ーではまた!」

と、何故か仕事の時のような感覚で打ち合わせをするハンジだった。






そして翌日。会社に出勤すると、エルヴィンに何故か「本気だったんだ?」と尋ねられたハンジだった。

ハンジ「え? 何が?」

エルヴィン「いや、リヴァイとの結婚。酒の席の冗談だと思っていたけど、本当に籍を入れたんだよね?」

ハンジ「あーそう言っていたよ。リヴァイは。うん」

ピクシス「本当に本当じゃったのか! これはめでたい!」

と、そこに何故かピクシスも加わってワクワクした目でハンジを見つめたのだった。

ハンジ「ピクシス部長……人事部の方はいいんですか?」

ピクシスの仕事場は別の部署だ。彼は人事部の部長である。

ピクシス「今はそれどころじゃなかろう。ビックニュースじゃ! リヴァイ主任とハンジの結婚式はいつ頃になる予定だ?」

ハンジ「いやーまだそんな段階じゃないですよ。うちの両親にリヴァイを紹介しないといけなくなったんで」

エルヴィン「ああ……なるほど。だからか」

ハンジ「ん?」

エルヴィン「いや、何でもない。分かった。そういう事なら私も協力しよう」

ハンジ「お? ご祝儀弾んでくれるの?」

エルヴィン「まあ、そこは当然として、ここから先がむしろ本番だよね」

ハンジ「ん? どういう事?」

ピクシス「確かに。ここからが本番じゃ。さてさて。ワクワクしてきたのう……」

と、ニヤニヤしながら退散していったピクシスだった。

そして社員が続々と朝から出勤して来て、瞬く間にリヴァイとハンジの結婚の話が本当だったと聞き、女性社員は悲鳴を上げたのだった。

ニファ「ほ、本当に結婚、されるんですか? ハンジさんと」

リヴァイ「ああ。そうだが」

ペトラ「さ、酒の席の冗談、ではなく?」

リヴァイ「そうだ。冗談ではないな」

パタパタと貧血のような状態を起こして倒れていく若い女性社員たちだった。

エルヴィン「罪深いねえ。リヴァイ主任」

リヴァイ「営業部長に言われてもな」

エルヴィン「いやいや、リヴァイの罪作りの度合いに比べたら私なんてまだまだ」

リヴァイ「そのテクニックを俺に仕込んだのはどこのどいつだ?」

エルヴィン「吸収して学んで大きくなったリヴァイの方が凄いんだよ。さて、と。リヴァイ。確認したい事があるが、いいか?」

リヴァイ「何だ?」

エルヴィン「ハンジのご両親を怒らせてしまったそうだね? どう攻略するつもりだい?」

リヴァイ「その件に関してはエルヴィンの力を借りたい。頼めるか?」

エルヴィン「タダじゃ私もやりたくないねえ。何か見返りはあるのかな?」

リヴァイ「タダ酒と、部屋の掃除、どっちがいい?」

エルヴィン「風呂掃除と台所の大掃除、頼んでもいい?」

リヴァイ「それなら安い。むしろやらせろ」

エルヴィン「はは……毎年、年末の大掃除をやらせてごめんね?」

リヴァイ「別に構わん。その代り、例の件、頼んだぞ」

エルヴィン「了解。ジェバンニ並みに仕上げてみせるよ」

一晩で仕事をこなす事をジェバンニすると言う。

何故か浸透しているその用語は、彼らの中でも使われていた。

そして来たる12月23日、仕込みを完了させてリヴァイはハンジの両親の元へ挨拶へ行く事になったのだった。









ハンジ「あーうちはごく普通の中流家庭だからね」

と言いつつ、古びたアパートの駐車場に車を留めるハンジだった。

ハンジの車に乗せられて助手席のリヴァイが「そうなのか」と相槌を打った。

ハンジ「うん。普通の家だと思う。考えた方は古いかもしれないけど。私、一人娘だし、ちょっと過保護に育ったかも」

リヴァイ「ふーん」

ハンジ「あれ? あんまり興味ない? こういう話は」

リヴァイ「そんな事はない。大事に育てられたんだろ?」

ハンジ「かなあ? まあ、習い事とかは自由にさせて貰えたし、学校も好きなところに行かせてくれたし、私の成績が結構良かった事もあって、今の会社に一発採用された時は凄く喜んでくれたんだけどね」

と、話しながら車から出る2人だった。

ハンジ「でも、仕事が楽しくなり過ぎて、仕事人間になったらなったで、今度は嫁に行けって言い出して……いざ嫁に行ったら文句が出てくるってどういう事なんだろうね?」

リヴァイ「まあ、両親なんてそんなもんだろ。多分」

ハンジ「もしうちの両親が失礼な事を言い出したらごめんね。先に謝っておくよ」

リヴァイ「そんな事は心配するな。多少の罵詈雑言は覚悟の上だ」

と言いつつ、実家に帰るハンジだった。

ハンジ「ただいまー」

母親「やっと帰って来た! 全くあんたって子は!!!」

ハンジ「あーごめんね? 最近、全然帰ってなくて」

母親「全くだよ! 3年ぶりくらいだよ! 1年に1回くらい帰ってきたっていいじゃないか!」

ハンジ「いやーついつい、ね?」

母親「そちらの方がそうなのかい?」

リヴァイ「初めまして。リヴァイ・アッカーマンと申します」

と、言いながら深々と丁寧な挨拶をするリヴァイだった。

母親「はあ……とりあえず部屋に上がって下さい。詳しい話はまた後で」

リヴァイ「はい。お邪魔させて頂きます」

玄関をあがる際、リヴァイは丁寧に靴を脱いで揃えて靴箱の向きに揃えて靴を横向きにした。

ついでにハンジの分の靴までそうしたので、ぎょっとするハンジだった。

ハンジ「あわわ……そこまで丁寧にしなくていいってば!」

リヴァイ「ん? ああ……すまん。ついつい癖で」

と、元に戻そうとするが、

母親「すみません。うちの娘が不作法で」

リヴァイ「いえ、こちらこそすみません。ハンジさんのおうちのやり方を存じてなかったもので」

と、言いながらハンジの靴の向きと揃えるリヴァイだった。

そして和室の居間の隅の方で正座してリヴァイとハンジが待機していると家の主人であるハンジの父親が入って来た。

リヴァイ「初めまして。リヴァイ・アッカーマンと申します」

父親に席につくように促されて三人が揃った。綺麗な正座をして深々と礼をするリヴァイだった。

父親「あーリヴァイ君か。歳はいくつかね?」

リヴァイ「ハンジさんの3つ上の、今年で38歳になります」

父親「うちの娘の上司にあたるのか」

リヴァイ「形式上は、そうなりますが、彼女とはほぼ同期にあたります」

ハンジ「入った年が近いんだ。私が1年後だったってだけ」

父親「ふん………同じ営業部の人間同士だと聞いたが」

リヴァイ「はい。主任をやらせて頂いております」

父親「うちの娘のどこを気に入ってくれたんだ?」

ハンジ「お父さん! ちょっと、さっきから質問多くない?」

父親「別にいいだろ。答えられるのか?」

リヴァイ「はい。彼女の忍耐強くて努力家である一面に惹かれました」

父親「……………」

リヴァイ「加えていつも明るくて、職場の皆に気を遣う細やかなところも好きです。彼女はうちの会社になくてはならない存在ですし、自分も数多く、助けられました」

ハンジ(ええっと、なんか痒いんだけど、ええええええ?!)

と、鳥肌を立たせて沈黙するハンジだった。

父親「そう言われて悪い気はせんが………まるでカンペを読んでいるような言い方だな」

リヴァイ「……………」

父親「まるで台本を作ってそれ通りに読んでいるように聞こえるが? 本心でそう思っておるのか?」

ハンジ「お父さん! それは流石に失礼過ぎない?!」

リヴァイ「そう、聞こえましたか?」

父親「そもそも、結婚を事後報告で済まそうとする男なんざ、信用は出来ん」

リヴァイ「その件についてはこちらから謝罪させて頂きます」

と、言ってリヴァイは深く頭を下げた。

リヴァイ「どうも情報がうまく行き渡っていなかったようで……実はまだ、籍の方は入れておりません」

ハンジ「?!」

其の時、ハンジは動揺したが、リヴァイはこっそり太ももを触って合図をした。

しゃべるな、という意味で。

父親「なに? しかし娘は『結婚した』と電話で言ってきたと……」

リヴァイ「ですので、そこは間違いです。ちょっといろいろあって……すみません。まだ、書類は提出していないんです」

と、言って記入済みの婚姻届けの方を取り出したリヴァイだった。

リヴァイ「結婚の話はちゃんとご両親に挨拶を済ませてからするつもりでした。本当に申し訳ありませんでした」

父親「では、これから提出するつもりだと?」

リヴァイ「はい。勿論、式を先にあげた方がいいと言う事でしたら、段取りを変更させて頂きますが」

父親「ふむ……そういう事だったのなら、こちらもすまなかったな。一方的に言ってしまって」

と、バツの悪そうに頭を掻く父親だった。

父親「なるほど。ちゃんと筋を通す男であるなら、わしも文句は言わん。あとは2人の好きにしなさい」

ハンジ「お、お父さん……」

父親「むしろこんな娘を嫁に貰ってくれてありがとう。リヴァイ君。娘を頼んだぞ」

リヴァイ「はい。必ず、彼女を幸せにします」

ハンジ(うわああ……なんか、急に恥ずかしくなってきた!?)

と、顔を赤らめるハンジだった。

リヴァイ「あの、こちらを今日は持参させて頂いたんですが」

父親「ふむ……これは、日本酒か」

リヴァイ「口に合うといいのですが」

父親「いや、頂くよ。君も一杯やっていくか?」

リヴァイ「宜しいですか?」

父親「酒は飲める方なんだろ? 営業の主任を任せられる男の底を知りたい」

リヴァイ「大した底はないですが」

父親「ふふふ……まあ、一杯。母さん、コップ!」

母親「はいはい」

と言いながら後は和やかに時間を過ごしたのだった。

そして挨拶が一通り終わり、車に2人で戻ると、車の中でハンジが冷や汗を掻いていた。

ハンジ「いやーまさか、あそこを嘘で乗り切るとは思わなかったよ」

リヴァイ「ああ……すまん。先に言ってなくて」

ハンジ「ホントにもう! そういう事は先に言って!」

リヴァイ「でも別にバレねえだろ? 結婚した日付なんざ、調べるような事じゃねえし」

ハンジ「まあ、そうだけど。多分、わざわざそれを確認するような親じゃないとは思うけど」

リヴァイ「調べられたら其の時でまた考えるから心配するな」

ハンジ「いや、それは有難いけど。リヴァイって、流石主任をやっているだけあって肝が太いね」

リヴァイ「ん? そうでもないぞ。手汗は掻いている」

と、言ってハンカチで手汗を早速拭う。

リヴァイ「あと、カンペを読んでいるようだと言われた時はひやっとしたぞ。あの時は本当に、エルヴィンが考えた台本通りに事を進めただけだったからな」

ハンジ「え? そうだったの?!」

リヴァイ「ああ。見るか? ほら」

と、言って小さなメモ帳を見せるリヴァイだった。

ハンジ「本当だ! スゴイ! ちゃんと指示が書いてある!」

リヴァイ「こういう事をやらせたらエルヴィンに敵う奴はそうはいない。ピンチに陥った時はエルヴィンが台本を考えて、俺はそれを元に演じるだけだ」

ハンジ「ひえええ。実はエルヴィン監督の、リヴァイ主演だった訳だ」

リヴァイ「まあな。それで何度も契約をもぎ取って来た。だから今度の事も何とかうまくいったんだよ」

ハンジ「なーるほど。こりゃ後でエルヴィンに何か奢らないといけないね」

リヴァイ「お礼はあいつの家の大掃除で手を打っている。年末の大掃除は俺が毎年やってやっているからな」

ハンジ「家政婦ですか?! ええええ……意外な一面だね」

リヴァイ「まあ、そうかもしれんな。会社じゃ余りそういう一面を前面には出さないようにはしている」

と、言いつつ車の中の埃も気になってハンカチでついつい拭いてしまうリヴァイだった。

ハンジ「あら、掃除してくれるの? ありがとう!」

リヴァイ「いや、まあ……これは掃除というより手癖みたいなもんだが」

ハンジ「いやいや、綺麗になる事はいい事ですよ?」

リヴァイ「綺麗にしても気持ち悪くねえか?」

ハンジ「え? 何でそう思うの?」

リヴァイ「お前以前、俺の潔癖症を『キモイwww』って言って笑っただろ」

ハンジ「? いつの事だっけ?」

リヴァイ「え……覚えてねえのか?」

ハンジ「全然……そんな事、言ったけ? いつ?」

リヴァイ「………去年の忘年会の時だ。あの時もハンジは結構、酒入っていたけど」

と、言って、リヴァイは再び項垂れた。

リヴァイ「そうか。クソ……覚えてねえのか」

と、今頃悔しがるのだった。

リヴァイ「まあいい。覚えてねえなら仕方がねえか」

ハンジ「というか、私、結構酷い事を言っていますね? キモイとか。ごめんね?」

リヴァイ「…………実際、キモイんだからしょうがねえだろ」

と、言いつつ手癖は収まらないリヴァイだった。

リヴァイ「まあ、そういう訳だから、ちょっと車の中を今から見させてくれ」

と言って車の中をチェックし始めるリヴァイだった。

リヴァイ「あーこことか、ゴミが溜まっているな。車内用のハンディークリーナー持ってないのか?」

ハンジ「え? そんなのあるの?」

リヴァイ「あるぞ。俺の自宅に戻ればあるんだが……今日は俺の家に寄って帰って貰えるか?」

ハンジ「いや、それは当然そうするけど。いいの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「リヴァイの家に帰ってから車掃除して……私、家に帰るの遅くなるけど」

リヴァイ「うちに泊まって行かないのか?」

ハンジ「あ、そっか。そうすればいいのか。ごめんね。まだ感覚に慣れないや」

と、頭を掻いてしまうハンジだった。





そしてリヴァイの方のマンションの駐車場に車を留めて早速、車内を掃除するリヴァイだった。

ハンジ「掃除早い! え? もう終わったの?」

リヴァイ「30分もあれば大体済む」

ハンジ「うわあああ?! 綺麗になった! 車の中が爽やかになった!」

リヴァイ「埃っぽかったからな。ハンジの車の中は」

ハンジ「いや、本当にすみません。掃除下手くそで」

リヴァイ「ハンディー2台目が必要だな」

と、言いつつ自宅に戻るリヴァイとハンジだった。

そして自宅マンションに戻って、荷物を置くリヴァイだった。

ハンジ「なんかしきりに泊まって行けーって言われたけど、ごめんね? しつこくて。明日も仕事あるから無理だって何度も言ったのに」

リヴァイ「まあ、そう言ってくれるのは有難い事だろ」

ハンジ「うん。まあそうなんだけどさ。リヴァイからみてうちの両親、大丈夫だった?」

リヴァイ「何が?」

ハンジ「取っつきにくいとか思わなかった? あと、うっとおしいとか」

リヴァイ「思う訳ねえだろ。いいご両親じゃねえか」

ハンジ「いや、だったらいいんだけど……」

リヴァイ「何の心配をしているんだ。さっきから」

ハンジ「いや、その……何か急に、その」

リヴァイ「ん?」

と、言いつつ水を飲むリヴァイだった。

ハンジ「今頃になってやっと結婚したんだって、実感が沸いてきて、その……」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「あ、それで思い出したけど、さっきの婚姻届け! よく用意していたね!」

リヴァイ「こっちの婚姻届は書き損じた物だ。字が汚いから、一回清書し直してから提出した」

ハンジ「そうだったんだ。全然覚えてない……」

と、言って頭を悩ませるハンジだった。

ハンジ「いやーなんかもう、勢いで結婚したのに至れりつくせりで申し訳ないよ。この調子でいけば両親も安心するだろうし、とりあえず、ほっと出来そうだよ」

リヴァイ「……………そうか。なら良かった」

ハンジ「うん。ありがとうね。私の方から無茶言ったのに。引き受けてくれて」

リヴァイ「貰い手がないから貰ってくれと言い出したのはハンジだ」

ハンジ「私そんな事言ったの?! うわああ……恥ずかしい」

そう言って顔を隠してしまったハンジだった。

ハンジ「全然、覚えてない。本当、酒飲み過ぎたよね。我ながら酷過ぎる」

リヴァイ「今日は飲まないのか?」

ハンジ「明日も仕事あるし、ちょっと今日は自重しようかな。うん……」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「あ、でもリヴァイは飲み足りない? 飲みたいなら私に遠慮しなくていいよ」

リヴァイ「………あと少しだけ飲みたい気分だな。酌を頼んでもいいか?」

ハンジ「いいよ。ビールでいい?」

リヴァイ「ああ。頼む」

という訳で、延長戦に入るリヴァイだった。

トクトクトク………

ビールをコップに注いで貰って一杯飲み干す。

リヴァイの飲みっぷりに惚れ惚れするハンジだった。

ハンジ「やっぱりリヴァイって酒強いよね」

リヴァイ「そうでもない。エルヴィンに比べたら」

ハンジ「いや、エルヴィンと比べたら皆そうなるよ。エルヴィンはザル過ぎる」

リヴァイ「ハンジも量は飲める方だろ。あと二日酔いもないようだったしな」

ハンジ「まあね。滅多に二日酔いは来ないけど。でも、たまに記憶がぶっ飛ぶのがなあ」

リヴァイ「…………俺もたまにあるけどな」

ハンジ「ああ、やっぱり? だよね! そうなるのが普通だよね」

リヴァイ「ああ。そうだ。だから、深酒は余り得意じゃない」

ハンジ「いや、深酒は本来はしちゃダメだしね」

リヴァイ「………ハンジ」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「今夜、一緒に寝ないか?」

ハンジ「ああ、ベッドは一つしかないもんね………って」

と、其の時、ふと気づいた。

ハンジ「あ………そっか。そうだよね。私達、夫婦になった訳だから、その」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ああ、そっか。ごめん。ちょっとその件、考えてなかった」

リヴァイ「嫌なのか?」

ハンジ「嫌じゃないけど! ええっと………その」

リヴァイ「…………」

ハンジ「ええっと、その」

リヴァイ「…………」

ハンジ「その、最初に裸でお互いにベッドに入った時、本当にセックスしなかったの?」

リヴァイ「その時の事も本当に覚えてねえんだな?」

ハンジ「はい。ごめん。これっぽちも」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「何がどうなってああなったのか、さっぱりで」

リヴァイ「………」

ハンジ「その、そういう意味でちゃんと、私の事、見られるんだ?」

リヴァイ「そうじゃねえなら、流石に嫁にする件を承諾はしねえよ」

ハンジ「!」

と、言われた直後、顔を赤くするハンジだった。

ハンジ「あ、そっか。それもそうか」

リヴァイ「慈善事業か何かと勘違いしたのか? ハンジは」

ハンジ「感覚的にはボランティアみたいな?」

リヴァイ「俺もそこまでお人好しじゃねえよ」

ハンジ「じゃあ、本当に……?」

リヴァイ「しつこいな。何でそんなに確認する?」

ハンジ「いやだって! …………御免なさい」

と、言ってハンジの方は視線を落とした。

ハンジ「今の今まで、そういう事を全く考えないで事を進めていました」

リヴァイ「…………」

ハンジ「むしろそういう部分を一番に考えないといけないのに。何やっているんだろうね? 私は」

リヴァイ「気が進まねえなら無理にとは言わん」

ハンジ「いや! そこはほら! 当然の事だから、その、頑張るよ! うん!」

と、言って顔をますます赤くする。

ハンジ「ただね? 私も久々ですし、巧くはないと思いますので、その辺はご勘弁下さい」

と言いながら頭をテーブルに擦りつけるハンジだった。

リヴァイ「処女じゃねえのか」

ハンジ「え? まあ、一応。いや、三十路過ぎた女が処女だったら逆に変じゃない?」

リヴァイ「別に。いや、まあ、そうか……ちっ」

ハンジ「え?」

一瞬見えた、表情の黒さにちょっと驚くハンジだったが、

リヴァイ「何でもない。その……する事は嫌じゃねえんだな?」

ハンジ「嫌って感じはしないよ」

リヴァイ「………………」

ハンジ「ん? 何? その唐突な間は」

リヴァイ「いや、その…………出来なくはない程度なのかと思って」

ハンジ「え?」

リヴァイ「無理しているんだったら止めておく。俺もそこまで鬼畜じゃねえよ」

と、言ってリヴァイが先に提案を引っ込めた。

リヴァイ「先に寝る。今日はそっちがベッド使っていいから。俺はソファで寝る」

ハンジ「え? でも………」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「ええっと、それって妻としてやっていい事なの?」

リヴァイ「気乗りしないのにやっても意味ねえだろ」

ハンジ「気乗りしないなんて言ってないけど」

リヴァイ「じゃあ、一緒に寝てもいいのか?」

ハンジ「うん。ただ、その………あははは」

リヴァイ「何で笑う?」

ハンジ「何か照れちゃうなあと思って。まさかリヴァイ主任とそういう事をする自分がいるなんて、想像もしていなかったし」

リヴァイ「…………」

ハンジ「ええっと、今更だけど、今後も宜しくお願いします」

と、言ってハンジが軽く頭を下げると、リヴァイは………。

席を立ってハンジを放置して毛布を取り出し、ソファに一人寝をするのだった。

ハンジ「あれ? 一緒に寝ないの? 何で?」

リヴァイ「うるさい。今日はしなくていい」

ハンジ「ええええ? 何かおかしくない? いいって言っているのに、しないの?」

リヴァイ「気が変わった。するのは結婚式を挙げた後でいい。その方がいいだろ」

ハンジ「ええっと……なんかマニュアル通りのような気もするけど、まあ、リヴァイがそれでいいなら」

と言ってハンジもベッドに潜り込むのだった。

そして、ハンジが寝付いたのを見計らって、リヴァイがぽつりと呟いた。

リヴァイ「……………このクソ眼鏡が」

と、悪態をついて強く両目を瞑るのだった。

今回はここまで。

リヴァイの誕生日であるクリスマスにかけてちょっとずつ投下していきます。
物語は完結まで書き上げているので、
最終話を25日までに投下していく予定です。
ではまた続きは後日。ノシ

乙乙

>>54
乙ありがとうございます。
では夜中ですが、ぼちぼち続きを投下します。







12月24日。クリスマスイブ。街中は浮かれていても、会社の人間は仕事納めまでの最後の仕事に追われる時期である。

社会人にとっては恋人や家族がいない場合、ただの憂鬱期間である。

そして会社の若い女性社員にとってもそれは同じだった。

ペトラ「まさかリヴァイ主任が今年、結婚を決めるなんて思わなかった(ズーン)」

ニファ「同感……(ズーン)」

オルオ「おいおい、いつまで落ち込んでいるんだ。さっさと気持ちを切り替えろよ」

ペトラ「だって、いきなりだったんだもの! 恋人募集中なら立候補したのに!」

ニファ「いや、もしかしたら前々から決まっていたのかもしれないよ?」

ペトラ「でも、酒の席でプロポーズされてそのまま届け出したって言っていたよ?」

エルド「俺は酒の席の冗談だと思っていたんだがな」

グンタ「全くだ。まさか本当に結婚しに行ったとは思わなかったな」

と、営業担当の社員達が昼休みに口々に言っていた。

ペトラ「結婚式、いつ挙げるんだろう?」

オルオ「まだ先じゃねえのか? 普通はこういうのは半年先で考えると聞くが」

ペトラ「なのかな。はあ……いいなあ。リヴァイ主任のお嫁さんになりたかった」

ニファ「もう席は埋まったから諦めるしかないんじゃない?」

ペトラ「まあそうだけど。士気は下がるよね。どうしても。やる気出ないよおおお」

オルオ「グダグダ言い過ぎだろ。しょうがねえだろ。こればっかりは」

ペトラ「そうだけど、オルオはショックじゃないの?」

オルオ「別に。この程度の事で動揺していてもな」

ペトラ「………なんか今、その言い回しにイラッとした。主任の言い方、真似しているつもり?」

オルオ「そう聞こえたのか? だったらそれで合っている」

ペトラ「うわあああキモイ!! やめてよ! 微妙に似ている時あるから余計に気持ち悪い!!」

エルド「普段は似てないけど、今のは確かにちょっと似ていたな」

グンタ「ああ。地味にレベルアップしているな」

オルオ「そうか? なら良かった」

と、何故かオルオは上機嫌だった。

ペトラがオルオの背中を蹴っていた其の時、

ハンジ「あーやっとお昼食べられる! 残り何分? あと15分しかない! やべええ急げ!」

と言いながら営業部の部屋にバタバタ戻って来たハンジだった。

ハンジ「あら? 皆勢ぞろい? お昼はもう食べたの?」

コンビニ弁当を冷蔵庫から取り出して電子レンジで温めながらハンジが言った。

ニファ「はい。お先しました。その……おめでとうございます。ハンジさん」

ハンジ「あら、ありがとう! というかごめんね? いろいろ。発表が唐突過ぎたよね」

ニファ「正直言えば驚きましたが、でも前々から付き合っていたんですか?」

ハンジ「いや全然! ただ酒の席で私がうっかり「貰い手がないから貰ってくれ」みたいな旨をリヴァイに言ったらしくて、それをあいつが鵜呑みにしちゃって今に至るのよ」

ペトラ「えええええ?! だったら私も自分から貰って下さいって言えばよかった(がっくり)」

ハンジ「あははは! そうだね。先にペトラが言えばペトラが先に嫁になっていたかも?」

エルド「いや、流石にそれはないような」

ハンジ「どうだろう? ただリヴァイ主任は「寂しい」って言っていたから、たまたまタイミングが合っただけかもしれない。いや、言ってみるもんだね! 交渉は自分からするべきだよ!」

オルオ「流石、営業の鏡ですね」

ハンジ「まあ私もこの仕事、長いからね。あんまり考え過ぎない事だよ。まずはやってみないと。行動の早さが仕事に直結する訳だし」

と、言いながらも昼食を取る手は休めない。

ハンジ「そんな訳でごめんね? なんか女性社員全員に後ろから刺されそうな事態になっちゃったけど。まあ、その辺はプライベートな事だし、余り仕事に影響を持ち込まないでね。でないと会社に迷惑がかかるし」

ニファ「まあ、そこは当然ですよ」

ペトラ「そんな事をしたらリヴァイ主任に嫌われてしまいますし」

ハンジ「だろうね。仕事と私情を混ぜる奴は嫌いみたいだし。まあ、今リヴァイと結婚したからと言っても、ちゃんとやっていけるかはこれからだしね」

オルオ「意外と冷静なんですね」

ハンジ「ん? んーまあ、そうかな。別に結婚したからと言って生活が変わる訳じゃないから」

エルド「あれ? 結婚退職はされないんですか?」

ハンジ「え? そういう話は一切してないよ。辞めろとも言われてないし」

グンタ「そうなんですか。共働きでやっていくなら、でも大変ですよね」

ハンジ「え?」

グンタ「営業職を両方続けながら結婚生活をするのって、結構大変そうだと思いますが」

オルオ「まあ、その辺はリヴァイ主任の度量の深さもあるんだろ。きっと」

エルド「だろうな。リヴァイ主任は懐が深い」

ペトラ「だよね。我儘言っても全部聞いてくれそうな気がする」

オルオ「それはペトラの妄想だろ?」

ペトラ「一言多いよ?!」

と、こっちはこっちで夫婦漫才をしていたが……。

ハンジ(そっか。そう言えば、それもそうだよね)

と、思い直す。

ハンジ(その辺の事、ちゃんとあいつに確認しておいた方がいいのかもしれない)

そう思ってハンジは昼食をさくっと食べ終えるのだった。




仕事を深夜までこなして帰宅する。ハンジはリヴァイの自宅の方に居た。

夜中の1時を過ぎた頃、ハンジは話を自分から切り出す。

ハンジ「あーあのね? リヴァイ、ちょっといい?」

リヴァイ「なんだ?」

スーツを脱いで着替えている最中、手を止める。

ハンジ「あの、結婚したのはいいけど、私、このまま仕事続けていいのかな?」

リヴァイ「辞めたいのか?」

ハンジ「いや、まったく! 続けたいよ。でも、共働きで結婚生活って出来るのかな?」

リヴァイ「それをしている夫婦は世の中にごまんといるが?」

ハンジ「そうだけど、その場合は女の方が事務職だったり、パートだったり、仕事の時間が少ない場合が多いじゃない。私とリヴァイの場合、朝から夜中まで出っ放しも珍しくないし、今日みたいに12時を過ぎる帰宅だって普通に多いでしょ?」

リヴァイ「まあ、そうだな」

ハンジ「仕事納めは……今年は27日までだけど。その後は少し休みも取れるけど。でも、普段は忙しいでしょ? いいのかなあって思うんだけど」

リヴァイ「俺は別にハンジに辞めて欲しいとは思っていない」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「ハンジ自身が辞めたいなら止めたりはしないが、続けたいと言っているのに辞めさせる必要性は感じない」

ハンジ「その辺は私の自由にしていいんだ?」

リヴァイ「転職したい場合も止めない。その辺はハンジの裁量に任せる」

ハンジ「ええっと………本当にいいのかなあ?」

リヴァイ「何でそんなに考え込む?」

と言いながら室内着に着替え終えてからテーブルの席に着くリヴァイだった。

ハンジ「いや、だって………その」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私、言っちゃ何だけど、女として出来る事は少ないよ? だからこそ、今まで売れ残っていたんだし」

リヴァイ「家事仕事が苦手か?」

ハンジ「まあ、そうですね。他にも……その、そっちの方もあんまり得意とは言えないし」

リヴァイ「下手くそとか言われた経験があるのか?」

ハンジ「それに近い事は言われた経験があるね」

リヴァイ「そいつ、殺してやりてえな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「あ、いや……何でもねえ。気にするな。で、不安なのは家事の分担についてなのか?」

ハンジ「そういう諸々の件も含めてだね」

リヴァイ「家事仕事に関しては今までずっと自炊してきたし、俺自身、3人暮らしをしていた経験もある。其の時に比べたら負担も少ないし、別に気にする必要はない」

ハンジ「それって、私の分までリヴァイが請け負ってくれるって事?」

リヴァイ「そう聞こえなかったのか? 別にそれでいい」

ハンジ「ええっと、何から何まで優良物件で怖いなあ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「ええっと、失礼な言い方だけど、何で今までリヴァイは結婚していなかったの?」

リヴァイ「何でって……」

ハンジ「だって、営業主任で、モテモテで、収入も多くてマンション暮らしで……背はちょっと低いけど、顔だってまあまあいい顔しているし、何より家事仕事をこなせるし、ここまで条件揃っていて何で今まで結婚してないのよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「何か、私に隠している事ない? 実は凄い変態とか? 性癖が斜め方向とか?」

リヴァイ(ギクリ)

ハンジ「あ、今、ちょっと動揺したね? そっちの方面で過去にドン引きされたとか?」

ハンジが詰め寄ると、リヴァイの額に少しだけ汗が浮かんだ。

リヴァイ「別に性癖は普通だと思うが……」

ハンジ「性癖は、って事は別の事が普通じゃないと受け取っていいのかな?」

リヴァイ「お前、なんでそういう時だけ鋭いんだ。腹立つな」

ハンジ「私の観察力を舐めて貰っては困ります。伊達に女で営業職やってないよ」

リヴァイ「だったらこっちの事も気づいても良さそうなのに」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「何でもねえよ。お前の言う通り、俺には致命的な欠陥がある」

ハンジ「じゃあその部分があるせいで、結婚出来なかったんだ。今までは」

リヴァイ「その通りだ」

ハンジ「その欠陥って何? 教えて」

リヴァイ「既に知っている筈だが?」

ハンジ「え? どこよ」

リヴァイ「だから…………潔癖症ってところだよ」

と言いながらリヴァイはテーブルの上の布巾を手に取って話しながらテーブルを拭いた。

リヴァイ「俺は人よりちょっとアレな程、潔癖症らしい。自分ではそう思っていなかったが、女に多々言われてきた。綺麗好き過ぎて「気持ち悪い」とな」

ハンジ「え? そんなに酷かったけ?」

リヴァイ「雑巾持ってないと落ち着かない時もあるしな。何だろうな? 自分でもその原因が良く分かってない」

といいつつフキフキ繰り返すリヴァイだった。

リヴァイ「だからその件がバレた直後に別れを切り出されて何度も破局してきた。結婚までいきつく事がなかったから、ハンジの方から結婚を申し込まれた時は、本当に棚からぼた餅が降って来たと思ったな」

ハンジ「ええええ? じゃあお互いに同じ事を思っていた訳なんだ?」

リヴァイ「そうだな。むしろ俺の方が本当に「良かったのか?」と思うくらいだが」

ハンジ「ええでも、潔癖症って見様によっては欠点じゃなくて、むしろ良いところじゃないの?」

リヴァイ「何でも過ぎると良くねえだろ? 今はまだお前も俺の欠点の全容が見えてねえからそう言えるだけかもしれんし……」

ハンジ「あーまあ、そらそうか。まだ本格的にお互いの事を知り始めてそんなに日が経ってないしね」

リヴァイ「だろう? だからその………どうしても無理だなと思った時点で結婚生活を止めてもいい。其の時は俺もちゃんと諦めるし、受け入れようと思っている」

ハンジ「今のところ大丈夫じゃない? むしろ掃除してくれてありがとう! って気分だし?」

リヴァイ「……………本当は掃除のやり方もハンジに仕込みたいんだが」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「あ、いや、何でもねえ。自重する(プイッ)」

と、言ってリヴァイはよそを向いた。

リヴァイ「今日はもう遅いから泊まっていくよな?」

ハンジ「ああ、そうだね。もう1時過ぎているしね」

リヴァイ「じゃあ今夜もソファで寝かせて貰うか」

ハンジ「いや、一緒に寝ても全然いいけど」

リヴァイ「………………式挙げてからでいいって言っただろ?」

ハンジ「まあ、そう言われたけど。なんか、悪いなあ」

リヴァイ「結婚式について何か具体的な案があるなら煮詰めておいてくれ。そっちに出来るだけ合わせるから」

ハンジ「その辺は両親にも相談してから決めるよ」

リヴァイ「その方がいいだろうな。じゃあ、俺は先に寝る。おやすみ」

と、言って本当に先に寝るリヴァイだった。

ベッドを借りてハンジは独りで考え込む。

ハンジ(成程。そういう事だったんだ。リヴァイもこの結婚を前向きに捉えてくれていたんだね。嬉しいなあ)

と、思いながらニヤニヤしながら眠りにつくハンジだった。





そしてリヴァイの誕生日。12月25日が訪れる。

この日も今年最後の仕事に追われて会社の中はバタバタしていた。

仕事が片付いて家に帰ったら12時を過ぎて、結局、誕生日のお祝いも出来ずじまい。

リヴァイの家に帰宅後、ハンジはがっかりするのだった。

ハンジ「あーせめて12時前には帰りたかったねえ。何も出来なかったね」

リヴァイ「毎年そんなもんだ。12月25日に産まれた俺が悪いんだろ」

ハンジ「でも、本当ならクリスマス程、恋人や夫婦の語らいの場になる日はないのに」

リヴァイ「社会人だからしょうがねえだろ」

ハンジ「まあ、そうだけど。淡々としているねえ」

リヴァイ「今年はハンジがいるだけでも全然違う。独りじゃない分マシだ」

ハンジ「…………そうなんだ?」

リヴァイ「ん? 何で意外そうな顔をする?」

ハンジ「いや、なんか嬉しくて」

リヴァイ「……………」

ハンジ「寂しいって言っていたのは本当だったんだ?」

リヴァイ「ああ。そうだが、何か?」

ハンジ「嘘かと思っていた。だって、会社ではあなたの周りには人がいつもいるじゃない」

リヴァイ「そんなもん、会社での繋がりに過ぎねえだろ」

と言いながらリヴァイはまた着替えながら話をする。

リヴァイ「あいつらは俺の本当の姿を知らない。会社での俺は幻想のリヴァイ・アッカーマンだ」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「本当の俺を知ったら幻滅されるだろうな。出来るだけ自重はしているが」

ハンジ「それって、私も含めてそうなるの?」

リヴァイ「………………」

ハンジ「私はまだまだリヴァイの本当の姿を見ていない気がするんだ。いや、見せたくない部分は見せなくてもいいけど」

リヴァイ「少なくとも、今はまだ見せたくねえ部分はあるな」

ハンジ「今はって事は、時期が来たら見せてくれるの?」

リヴァイ「その時まで結婚生活が続けばの話だ。それは」

ハンジ「あーそうなんだ。じゃあ私も頑張ってみようかな」

と、言ってハンジがにししっと笑う。

ハンジ「前よりリヴァイの事に興味が沸いてきたんだよね。いろいろ知れて楽しい自分がいるよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「まあ、まだ通い妻になってからそんなに日は経ってないけどね。うん」

リヴァイ「ハンジの私物の移動はまだ時間がかかりそうか?」

ハンジ「まだもうちょいある。翌朝に一度自宅に帰って、荷物を車に乗せて夜はこっちに来て、の生活を続けているけど、もう少しかかりそう」

リヴァイ「仕事納めが過ぎたら、業者に頼んで残りは一気に片付けてしまうか」

ハンジ「その方がいいかもね。ええっと、ベッドとか本棚とかの大物は流石に自分じゃ運べないし」

リヴァイ「何か新しく欲しい物はないか?」

ハンジ「要らないと思うよ。別に」

リヴァイ「…………欲しい物は何もないのか?」

ハンジ「欲しいと言うか……結納、いつする?」

と、ごく当たり前の事を言いだしたハンジだった。

ハンジ「一応、結納の話を通してから挙式する方がいいみたいだし、其の時に必要な品物とかは揃えた方がいいかも」

リヴァイ「分かった。休みに入ったら詳しい段取りを決めていくか」

ハンジ「うん。宜しくお願いします」

と、打ち合わせを済ませて、お互いに分かれて寝床に入る。

ハンジが寝息をたてはじめた頃、リヴァイはまた呟いた。

リヴァイ「………………こっそり抜いておくか」

と、言いながら体を起こして男の処理を始める。バレないように。

男の処理に入ろうとしていた其の時、ガタガタと音がした。

ハンジ「あーごめん、リヴァイ。忘れていた事があるんだけど………?!」

リヴァイ「?!」

男の処理の最中に、ハンジがその様子を直視した。

勿論、電気は消したままやっていたので、はっきりと見えた訳じゃないが、その様子そのものはバレてしまう。

ハンジ「ああああ?! ごめんごめんごめん! 間が悪くてごめんなさい!!」

と、慌ててよそを向くハンジだった。

慌ててズボンを元に戻して平静を装うリヴァイだった。

リヴァイ「忘れていた? な、何を?」

流石に冷や汗を掻いてそう答えると、

ハンジ「いや、誕生日……プレゼントくらいは渡しておきたいと思っていたから、一応、用意はしておいたんだけど、渡すの忘れていたからさ」

リヴァイ「明日で良かったのに」

ハンジ「そうですよね?! 今思うとその通りですね?! 明日の朝、渡すね!」

赤面したままベッドに戻ろうとするハンジを、つい、リヴァイは引き留めた。

ハンジ「え……?」

腕を引っ張られて、戸惑うと、リヴァイの方も戸惑っていた。

リヴァイ「あ、いや……起きたんだったら、今、貰う。何を用意してくれたんだ?」

ハンジ「ああ……ええっとね。これ……昼休みに買った物で申し訳ないけど」

と、言いながらクリスマスの定番の物を取り出した。

サンタの帽子だ。赤い三角帽子だ。

ハンジ「こんなのしか思いつかなくてごめん。あと、しゃぼん玉石鹸もついでに買ってみた。これ、使いやすいよね」

リヴァイ「おお……しゃぼん玉石鹸はいいよな。確かに。俺も洗い易くて好きだ」

ハンジ「良かった。ごめんね? 本当は腕時計とかそれなりにいい物を買ってあげたかったけど。時間の方が取れなくてさ」

リヴァイ「その気遣いだけで十分だ。ありがとう」

ハンジ「うん。どういたしまして。その……お、おやすみなさい」

と言ってハンジが引っ込んでいったが………。

自分の息子の方は逆に引っ込みがつかなくなって困るリヴァイだった。

とりあえずここまで。
続きは次回また。ノシ






仕事納めも無事に過ぎて休みに入ると、ハンジは両親と今後について話し合っていた。

ハンジ「だーから、何でそこまで豪華な式を挙げないといけないの?! 金かけ過ぎだよ! お色直しは1回で十分! 食事も普通のでいいじゃん!」

母親「今の食事は食べるのが忙しないから好かん! やっぱり昔ながらの御膳の食事の方がゆっくり出来るし、和装でいくべきでしょう?」

ハンジ「えええ……着物着せる気? しんどいよ。ウェディングドレスとイブニングドレスで良くない? バイキング形式か、フルコース形式でする方が今の普通だよ?」

父親「しかし、そのやり方は年配の方にはしんどいぞ。御膳で食事をする方がゆっくりしていいじゃないか」

ハンジ「何でそこまでお膳推しなのよ……あー分かった。じゃあそこは妥協するから、せめて服装は洋装にさせてよ」

母親「御膳で洋装だとちぐはぐでしょうが! 揃えた方がいいでしょう!」

ハンジ「何でそんなに自分達の希望を出すかな?! 結婚するのは私なのに?!」

と、ずっと言い争っている。

そんなこんなで話し合いが平行線になっている件をリヴァイに電話で相談すると、

リヴァイ『あーなるほど。昔ながらのやり方でやって欲しい訳だな』

ハンジ「みたい。うちの親、古い世代だからさ。今風の結婚式より昔のやり方がいいみたいだよ」

リヴァイ『俺は別にその辺の拘りはないが、ハンジ自身はどう思っているんだ?』

ハンジ「あんまり細々とした段取りはしたくないんだよね。ざっくりとした式と披露宴で十分なんだけど」

リヴァイ『だったら、その辺の事は俺も一緒に話し合った方がいいか』

ハンジ「その方がいいかも……ごめん。今日、こっちに来て貰える?」

リヴァイ『分かった。今から支度する。待っていろ。1時間以内にはそっちに行く』

と言って本当に時間以内にハンジの実家に到着したリヴァイだった。

リヴァイ「すみません。お邪魔します」

父親「おお、リヴァイ君も来てくれたか。まあまあ上がりなさい」

と、すっかりリヴァイを気に入った父親がハンジの時とは打って変わって態度を改めた。

リヴァイ「結納の日取りと、式の件についてお話させて頂くてきました」

父親「ふむ。結納はいつ頃にしたいと思っておる?」

リヴァイ「出来たら年明けてすぐに。結婚式の方は、ハンジさんの誕生日付近で考えていますが」

母親「だとすれば、少し先になりますね」

リヴァイ「9月になりますが、季節的には気候も良い時期ですし」

ハンジ「そ、そう思っていたの?」

リヴァイ「恐らくそれくらいで設定して丁度いいと思うぞ。いろいろやる事が多いからな」

父親「ふむ。無理のない計画を立てる方が良いだろう。結婚はそれくらい慎重に進めて丁度良い」

ハンジ「そうなんだ……」

と、今頃実感するハンジだった。

父親「式場の方はどれくらいの規模で考えておる?」

リヴァイ「会社の人間で世話になっている方々や自分の友人知人を呼ぶだけになるので、全部で20人も集まればいい方だと思っています」

父親「ん? 意外と人数が少ないな。そんな小さな規模の式で良いのか?」

リヴァイ「親戚の数を含めていないので。その……訳あって、そういう方々と縁がない人生を歩んできたので」

父親「ふむ。そうか………」

リヴァイ「その代り、会社の方には親戚よりもむしろ繋がりの強い戦友もいます。彼らは式に呼ぶつもりでいるので、そういった方々に喜ばれる式にしたいと思っています」

父親「なるほど。では、その会社の方々にも合わせた式にした方が良いな」

リヴァイ「そうして頂けるとこちらとしても助かります」

と、深々と頭を下げた。

リヴァイ「ハンジさんは出来れば洋装でいきたいと考えていますが、自分としては和装でも構わないと思っています」

ハンジ「えええ……そうなの?」

リヴァイ「花嫁の為の式だろ? それは男側が拘る話じゃない」

ハンジ「じゃあ私の希望を通してよ」

リヴァイ「でも、結婚は2人だけの物じゃない。親戚の方々との新しい繋がりが出来るんだ。だったら自分の意志だけ通してもダメだ」

ハンジ「妥協しないといけないの?」

リヴァイ「ある程度は、だな。そこでこっちから提案したい事があります」

と、言ってリヴァイは用意してきたファイルを取り出した。

リヴァイ「ハンジさんのモデルプランがこちらで、これにご両親の希望を合体させていく形は如何でしょうか?」

ハンジ「おお……見やすいように表にしてくれたんだ」

リヴァイ「ハンジが前に話していた構想を元にエクセルで図面化してみた。ハンジが絶対妥協したくない部分は何処になる?」

ハンジ「ううーん。お色直しは1回までかな。2回以上着替えたくない」

リヴァイ「だったら、その場合は洋装、和装、両方やっていいと思う。最初に和装をして、後から洋装にしたらどうだ?」

ハンジ「でもそうなると、食事の方が……」

リヴァイ「フルコース形式が忙しなくて苦手だと言う年配の方は意外と多い。御膳でゆっくり食べたいのであれば、そこは和洋折衷でも構わないと思うぞ」

母親「でも、周りからごちゃごちゃ言われるかもしれないんですよ。あまり奇抜な形式はちょっと……」

リヴァイ「まあ、そうですね。なので自分がひとつ提案したいのは……バイキング形式の御膳です」

と、ファイルの空白部分にイメージを書き込んだ。

リヴァイ「席がちゃんとある方が落ち着くのであれば、それを用意して、式を始める前に来客の方々に自分の食事を自分で選んで頂く形式はどうでしょうか?」

ハンジ「え?! そんな結婚式の食べ方は聞いたこともないよ?!」

リヴァイ「オリジナルのやり方だからな。初めての試みだ。余り聞いたことがない形式だが、別に食べ方は自由だろ?」

ハンジ「その発想が凄いよ。へー」

リヴァイ「加えてその食事の内容は俺が大体作ってきてもいい。別にホテル側に作って貰う必要はないし、会場も結婚式場を押さえなくても、そうだな……旅館の大広間とかでも別に構わないんじゃないか?」

ハンジ「えええ? 式場を使わないの? そんな結婚式、あるんだ?」

リヴァイ「結婚式そのものは式場を使って、披露宴は移動すればいいだろ」

母親「なるほど。別にするんですね」

リヴァイ「移動が面倒ではありますが、今の結婚式場はそう言った自由度のある会場は少ないと聞きます。式場のプランナーの意見に乗っかるより、自分達でやる方が予算も抑えられるかもしれません」

父親「ただ、そうなると何かトラブルが起きた場合が面倒だな」

リヴァイ「そうですね。なのでこれはあくまで一つ目のプランと考えて下さい。もう一つのプランは……」

と言って二つ目のプランを出してきたリヴァイだった。

リヴァイ「ベースをご両親の意見にハンジさんの意見を重ねていく方法です」

母親「ん? 同じではないのかしら?」

リヴァイ「微妙に変わってきますね。こちらの場合は、どこを一番妥協したくないですか?」

父親「それは………」

空白の表に父親と母親が見つめ合って考える。

母親「どこなのかしら?」

父親「うむ。そう言われると、答えに困るな」

リヴァイ「…………」

母親「全部妥協したくないのが本音ですけどね」

ハンジ「無茶言わないでよ」

母親「だって、どこが一番かって聞かれても……」

リヴァイ「もしかしたら『他の親戚の方に喜ばれる披露宴にしたい』という部分ですか?」

父親「ああ、そう言われたらそうかもしれん。やはり後でいろいろ言われるのが一番堪えるからな」

母親「そうですね。いろいろ陰で言われたら娘が可哀想ですし」

ハンジ「いや、その辺はどうでもいいんだけど」

リヴァイ「ハンジ、そういう事は言うんじゃない」

ハンジ「だって……」

リヴァイ「だとしたら、そこはご親戚の方に実際に聞いてみて、そこから始めた方がいいかもしれません。もしかしたら、こちらが勘違いしている場合もありますし」

父親「というと?」

リヴァイ「御膳の形式が苦手な親戚の方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。その場合、こちらが良かれと思ってしたことが仇になる場合も有ります」

母親「あ、それもそうね。その可能性もあるのね」

リヴァイ「ですので、その辺は時間をかけてじっくり調査をした上で事を進めていきましょう。時間はまだあります。なので焦る必要は全くないので、ゆっくり考えられて下さい」

父親「分かりました。ではそうさせて頂くよ。リヴァイ君」

リヴァイ「では、今日のところはこの辺でお暇させていただいていいですか?」

父親「泊まって行っても構わんのに」

リヴァイ「すみません。他にも野暮用を抱えているもので。ハンジ、じゃあまた後で」

という訳で先にハンジの実家を出て行ったリヴァイだった。

ハンジ「ほへー」

母親「あんたの旦那様は凄く頭のキレる方みたいねえ。大丈夫?」

ハンジ「あ、いや……まあ、うん。大丈夫。しっかりしているから安心出来るよ」

父親「みたいだな。いや、男はあれくらいしっかりしている方が安心出来ていい」

と、父親はニコニコしていたのだった。




そして再び夜、リヴァイの自宅マンションにて。

ハンジ「今日はありがとうね。うちの両親、なんかニコニコしていたよ」

リヴァイ「ああ……結婚の式の段取りの事か」

ハンジ「うん。すっごくしっかりした旦那様だっていう認識になったみたいだよ」

リヴァイ「まあ、半分くらいはエルヴィンが台本を考えてくれたんだけどな」

ズコー。

と、思わずこけそうになるハンジだった。

ハンジ「えええ? そうだったの?」

リヴァイ「前にも言っただろ? 具体的なプランニングについて俺は余り得意じゃねえから、その辺の事はエルヴィンが考えてくれる場合が多いんだ」

ハンジ「えええ……じゃあリヴァイ自身はあんまり考えてないの?」

リヴァイ「いや、そういう訳じゃねえ。俺の考えをエルヴィンに話してあいつが巧い事文章に書き起こして台詞をまとめてくれるんだ。俺自身は、自分の言葉が巧くねえ事は自覚しているし、分かりにくいと言われる事が多々あるから、あいつが編集してくれるんだよ」

ハンジ「へーそうだったんだ」

リヴァイ「俺が営業最強と呼ばれる成績を叩きだしているのもエルヴィンのおかげだ。あいつの影の支えがなかったら、きっとハンジより契約数は取れていない」

ハンジ「え? そこまで言うの?」

リヴァイ「そもそも俺は営業なんか向いてねえよ。性格的にも」

ハンジ「そうかなあ? 私、リヴァイは営業マンとして優秀だと思うけど」

リヴァイ「何で」

ハンジ「だって必ず約束を守るでしょ? 時間だって遅れた事は一度もないし、リヴァイなら信頼出来るって皆、思っていると思うけどなあ」

リヴァイ「……………そうだろうか?」

ハンジ「何も自分からガンガン行って契約を取るだけが営業マンの仕事じゃないよ? 取引先の要望とこっちの要望を巧い事すり合わせて契約を交わして……それって地味で大変な作業だけど、そこには信頼がないと出来ないじゃない。リヴァイは誠実な性格だし、押しつけがましい事もしない。スマートで、さり気なく気遣い出来るし、その……とにかく私より優秀だと思うけど」

リヴァイ「……………」

その言葉を聞いた直後、リヴァイはよそを向いた。

ハンジ「ん? どうした? 何か気に障った?」

リヴァイ「いや……お前はお前で、テクニシャンだな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「何でもねえ。クソ……伊達に3位を維持してねえな。ハンジも」

ハンジ「はい?」

リヴァイ「はー……なあ、ハンジ。お前、過去にどれくらい男がいたんだ?」

ハンジ「いきなり何の話ですか?! 今の話の流れのどこにそれが関係した?!」

リヴァイ「大いにある。そのたらしテクニック、何処で身につけたのか興味が出てきた」

ハンジ「たらしテクニック? え? 何の事? 私、思った事をポンポン言っただけだけど?」

リヴァイ「………このクソ眼鏡」

ハンジ「何で悪口言われるの?! え?! 私、何か変な事を言ったの?!」

リヴァイ「いいや、別に変な事じゃないけどな」

ハンジ「じゃあなんで怒られるの?!」

リヴァイ「怒ってねえよ」

ハンジ「嘘ばっかり! 顔、怖いんだけど?!」

リヴァイ「違う。その……ああもう! どうしたらいいんだ」

と、リヴァイは困惑顔で頭を抱えた。

ハンジ「え? 何なの一体?」

リヴァイ「何でお前、いつもそうなんだよ」

ハンジ「何が?」

リヴァイ「言いたい事をポンポン言いやがって。自分の意見、言いやがって」

ハンジ「それの何が悪いのよ」

リヴァイ「そのせいで、どれだけこっちが苦労していると思っているんだ」

ハンジ「え? 何か苦労かけた? それはごめんなさい」

と、シュンとするハンジだった。

ハンジ「知らない間に、迷惑かけたのかな? だったらごめんね?」

リヴァイ「違う」

ハンジ「だからさっきから何なの? 何が言いたいのよ」

リヴァイ「………………クソ眼鏡だなと言いたい」

ハンジ「ループした?! 会話がループしていますよ?!」

リヴァイ「うるせえよ。もう黙れ。頼むから黙ってくれ」

ハンジ「ええええ? じゃあ、ちょっとだけ黙るけど」

と、口にチャックするハンジだった。

その直後、リヴァイはその口を閉じたハンジを目に入れて自分もまた、口を閉じる。

ごくりと、嚥下して。見つめていた。

ハンジ(さっきから、様子が変だな。リヴァイ……)

そして真っ直ぐハンジに近づいて、ハンジをテーブルの席に無理やり座らせる。

ハンジ(ん? 座らせて来た。え? 本当に何がしたいんだろう?)

ハンジはリヴァイを見上げる。リヴァイは、その様子をじっと見つめて……。

そのまま、顔を近づけて、ゼロ距離に近い位置まで持っていく。

ハンジ(え………?)

息かかかる程の至近距離に、ハンジは思わず目を瞑る。

しかし予想した物は訪れずに熱は離れていった。

リヴァイ「………すまん」

一言だけ謝って、リヴァイはハンジから離れて行った。

そしてもう一度、同じ言葉を繰り返す。

リヴァイ「すまん。ちょっと気持ちを落ち着ける。暫く一人にしてくれ」

と言ってリビングに逃げて行った。

キッチンに残されたハンジは、何も言えずに困り果てた。

ハンジ(え? 今の、何? 何だったの?)

心臓が煩くなって耳が赤くなる自分に気づいた。

ハンジ(ええっと、顔、近づいたよね? 目、瞑っちゃったけど、途中で)

でも恐らく、きっと、直前まで近づいて、止めたのだ。

ハンジ(キス、したかった……のかな?)

でも、だったら何故、途中で止めた? とハンジは首を傾げた。

ハンジ(え? 意味分からないんだけど。キス、したいならしたらいいじゃない)

別にそれを拒否するつもりはなかったハンジは、頭の中が混乱していた。

ハンジ(だって、一応、曲がりなりにも奥さんだし、キスされてもいいんだよね? 私はリヴァイに)

キスをする権利は持っている。リヴァイはハンジに。

ハンジ(ええっと、結婚式をしてからするっていうのはリヴァイが決めた事で、私は別にどっちでもいいし)

と、心の中を整理する。

ハンジ(やっぱり、式を挙げる前にしたいって思いなおしたんだったら、別にそれでもいいんだけどなあ)

と、またまた首を傾げる。

ハンジ(何で止めちゃったんだろう? 何か変なところあったのかな?)

自分自身の過失を考えてみる。

ハンジ(あ……もしかして、体が臭いとか?! 汗臭いとか?! そういう事かな?!)

と、思い当たる。

ハンジ(やべえ! 仕事から離れると風呂入らなくなる悪い癖が発動していた!)

反省してハンジは立ち上がった。

ハンジ(営業マンに配属されてから、身だしなみは最低限やっているけど、必要なくなると本当、風呂忘れちゃうのがいけなかったのか。休みの時って、油断すると風呂忘れるもんね、私は)

と、カレンダーを見つめながら反省するハンジだった。

そしてハンジは着替えを用意して風呂に入る事にする。

この時、一言、リヴァイに声をかけようとも思ったが……。

ハンジ(暫く一人にしてくれってさっき言っていたし、声をかけない方がいいかな)

と判断して勝手に風呂に入る事にしたのだった。

ハンジ「お風呂頂きます……」

と、言いつつ勝手に中に入ってハンジは自分の体を洗う事にした。

シャワーを浴びながら湯船を入れていく。長期休暇に入ってから自分の事を少し忘れていた自分を反省する。

ハンジ「あーあ。営業マンは面倒臭いよね。こういうところが」

と、ブツブツ呟く。

ハンジ「本当は営業部より、開発部の方に所属したかったなあ。採用されたのが営業だったから我慢して今までやってきたけど」

元々そっちの畑の方が自分には向いていると思っているハンジだった。

ハンジ「本当はそっちの仕事がやりたいなあ。そしたらお風呂もそんなに気遣わなくて済むのに」

生来の面倒臭がりな部分が顔を覗かせてくるハンジだった。

ハンジ「はあ。まあでも、しょうがないか。何もかもうまく行く選択なんてないもんね」

独り言をそこで止めて後はシャワーに専念していると………

バタバタ……バタバタ……

唐突に足音がした。

リヴァイ「ハンジ?! 何処に行った?! おい、ハン……」

ガララ……

リヴァイが慌てて風呂に入ってきて鉢合わせた。

ハンジ「え、あ……うは?!」

リヴァイ「?!」

慌てて風呂のスライドドアをしめ直すリヴァイだった。

リヴァイ「風呂に居たのか。びっくりさせるなよ」

スライドドア越しに会話をする。

ハンジ「ご、ごめん。独りにして欲しいって言っていたから、声かけるのもアレかと思って風呂、頂いていたけど」

リヴァイ「いや、それはいいんだが……鞄はあるのに姿だけないからどうしたのかと思った。焦ったぞ」

ハンジ「心配かけたの? ごめん……」

リヴァイ「そういう時は、声だけかけてくれりゃいいから」

ハンジ「つ、次からそうする」

微妙な空気が流れてしばし沈黙する2人だった。

ハンジ「あ、あのね……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「さっき、臭かったのかなって思って」

リヴァイ「え?」

ハンジ「顔近づけた時に匂ったのかなと思ってとりあえず風呂に入ろうとしたんだけど」

ズルー…

と、直後、リヴァイが腰を抜かして座り込んでしまった。

リヴァイ「ああ、そういう事だったのか」

ハンジ「いやーごめんね? 私、仕事に必要ないなら普段は風呂入らないから、ついつい」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「最近、風呂入ってなかったのを思い出して。今は冬だからちょっと油断していました」

リヴァイ「…………」

ハンジ「だから、その………キスしようとして躊躇ったんでしょ?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「そういう意味で抵抗感があった訳でしょ? ごめんね」

リヴァイ「いや………」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「そうじゃない」

ハンジ「え? 違うの?」

リヴァイ「ああ。その……別に匂いが気になったとかじゃないんだが」

ハンジ「だったら何で、キスするの止めちゃったの?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「別に我慢する必要はないけど」

リヴァイ「それ、本気で言っているのか?」

スライド越しの会話がまだまだ続く。

ハンジ「うん。別に構わないよ」

リヴァイ「嘘つけ。無理している癖に」

ハンジ「え? 何で無理していると思うのよ」

リヴァイ「義務感でやる必要なんてねえよ」

ハンジ「んん? 義務感?」

リヴァイ「お前、結婚も義務感でしたんだろ?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「年齢的な事とか、親のへの義理とか。そういうしがらみのせいで結婚を選択したんだろ」

ハンジ「あー……」

リヴァイ「だとしたら、俺に対して義務感で応えなくていい。出来る範囲でいいんだよ。無理されるとこっちも辛いからな」

ハンジ「それって、私がしたくないって思う事はしないでいいって事なの?」

リヴァイ「そもそも、夫婦間でも合意がない行為は強姦にあたるんじゃねえのか?」

ハンジ「あーそうなのかな? まあ、そうなのかもしれないけど」

ハンジは少し考えて答えた。

ハンジ「でも……キスくらい、別にいいのに」

リヴァイ「……………」

ハンジ「というか、されるのかなって、思ってちょっと期待しちゃったんだけどなあ」

その台詞にリヴァイの方は立ち上がった。

リヴァイ「本当に、いいのか?」

ハンジ「何でそう念押しするの? おかしいでしょ。私達、夫婦に………」

と、ハンジが言った直後、スライドドアを一気に開けてリヴァイは風呂場に突入した。

ハンジ「え? な、なに? 急に……リヴァイ?」

そしてそのまま、裸のハンジに近づいて、後ろから抱き付いた。

リヴァイ「……………」

ハンジ「リヴァイ、さっきから何がしたいの? 訳が分からないんだけど」

リヴァイ「自分でも分からん」

ハンジ「えええええ?!」

意味不明な回答に戸惑うハンジだった。

ハンジ「ええっと、自分で自分の行動の意味が分からないって何?」

リヴァイ「知るか。分からん物は分からん。ハンジは俺にこうやってされるのが、嫌じゃねえのか」

ハンジ「ええと、まあ、はい。というか、ちょっと痛いので気持ち緩めてくれませんかね?」

リヴァイ「嫌だ……(ぎゅっ)」

ハンジ「うっ……ちょっと、苦しいんだけど!」

リヴァイ「…………はあ」

ハンジ「人の話、聞いてないね? その……リヴァイ、あの、怒っているのかそうじゃないのかだけでも教えて欲しいんだけど」

リヴァイ「両方だ」

ハンジ「なんじゃそら?!」

つい言い返す。

ハンジ「ええっと、だったら私はどうしたらいいんですかね?」

リヴァイ「…………」

ハンジ「あの、こっちは裸なので、あんまりこのままで居続けたら風邪ひくし」

リヴァイ「ああ……それもそうだな」

ハンジ「湯船に入らせてくれる? ちょっと一回冷静になってよ」

リヴァイ「……………」

仕方なくハンジを解放するリヴァイだった。

切なげに、睨みつけて。

ハンジ「あー、落ち着こうよ。一緒に湯船に入る?」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「温まろうよ。体冷やすと風邪ひくよ?」

リヴァイ「なら、俺も入る」

そして身体はかけ湯だけして湯船に一緒に入る2人だった。

リヴァイ「…………………」

ハンジ「リヴァイの家の風呂はうちより大きいね。2人で入って丁度いいくらいだ」

リヴァイ「まあ、大きめのところを選んだからな」

ハンジ「手足伸ばしても大丈夫だよね。いい大きさだ」

伸ばしてきた手を掴んで離さない。

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「うん」

リヴァイ「俺と一緒に居て、幸せなのか? お前は」

ハンジ「え? うん。幸せだよ」

リヴァイ「本当に? 嘘はついてねえんだよな?」

ハンジ「だから何で疑うのよ」

リヴァイ「俺の方が幸せなのかと思って」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ハンジ、今からする事を『嫌だ』だと思ったら遠慮なく止めろよ」

そう前置きしてからリヴァイはハンジの右手を自分の口の方に持っていった。

その奇妙な動きに眉を顰めて待っていると……

ペロ……

舌を使って指先を舐めるという行為に及んだリヴァイにハンジは面喰った。

ハンジ「え? ちょ……何で、今、ここで舐めるの?!」

リヴァイ「黙っていろ」

ハンジ(ビクッ……!)

命令されて思わず口を噤んだ。

リヴァイの行為は止まらない。少しずつ、本当に少しずつだが、指先の神経を撫でるように舌でなぞっていた。

ハンジ(ええっと、これは何を……えっと……)

擽ったい。ただひたすらに、耐える。

思わず目を瞑ると、その直後、指の根元まで口の中に含まれたのが分かった。

ハンジ「!」

思わず目を開けると、今後は手の平の方に口が移動していた。

ハンジ「あ……え……えっと……」

神経がざわめいてきた。視覚的にもエロいと思った。

ハンジ(そうか、これって……)

今、夫婦の営みの一部を享受しているのだと、頭で理解した。

ハンジ(ただ、手を舐められているだけなのに)

今まで経験した事のない感情が背中を奔っていった。

ハンジ(なんか、変な感じになる……)

頭が少々ぼーっとしてきて、思わず両目を閉じてしまった。

その直後、また、今度はもっと強い愛撫がきた。

ハンジ「!」

今、手首の内側あたりに強いキスが降ってきた。

ちゅぱっ……

そのリップ音が風呂場に響いて、耳の中に浸透していく。

ハンジ「ん……」

今度は軽い甘噛みだ。二の腕の方に顔を寄せて、唇の位置がだんだん、ハンジの顔の方に近づいてくる。

ハンジ(待って)

其の時、咄嗟に思った。

ハンジ(待って。待って。何か、変なんだけど)

自分の内側から湧き上がってくるその感情をどう呼べばいいのか分からなかった。

ハンジ(何、これ。今まで経験した事、ないよ。こんなの!)

風呂での愛撫その物、ではなく。

湧き上がってくる熱すぎる感情にハンジは混乱を覚えた。

ハンジ(こ、このまま続けさせたら、ダメ……!)

其の時、ハンジの本能が咄嗟に体を動かして、ストップをかけた。

ハンジ「待って! リヴァイ、待って!!」

そして当然、その言葉通りに待つリヴァイだった。

リヴァイ「やっぱりな」

ハンジ「…………」

リヴァイ「幸せなのは俺の方だけだったのか」

ハンジ「え……?」

リヴァイ「でも、もう逃がしてはやらん。俺もそこまでお人好しじゃねえし」

ハンジ「…………」

リヴァイ「まあ、最後まで出来ないって言うならそれでもいい。でも、離婚は絶対してやらねえからな」

ハンジ「なんで、今、離婚の話?」

リヴァイ「折角繋がった関係を断ち切るつもりはねえって事だ。こっちは」

ハンジ「え? え?」

リヴァイ「ここまで言っても、まだ分かんねえのかよ」

リヴァイはそして風呂場の中でハンジを正面から抱きしめてやっと言ったのだ。

リヴァイ「ずっと好きだと思っていた女からプロポーズされて断る馬鹿が何処にいる」

ハンジ「え………?」

身体を離して、真正面から見つめた。

リヴァイ「今から約一年前、俺はお前に堕ちた。俺はずっと、密かにハンジの事が好きだと思っていたんだよ」

ハンジ「………………」

その言葉を聞いて、頭の中が真っ白になる。

体中が、変に震えて声が出なくなったハンジだった。

ハンジ「………………」

カラカラに口の中が乾いていった。

嚥下して、唾を飲み込んで、必死に頭の中を整理する。

ハンジ「………………」

でも、言葉が出てこなかった。何故か分からない。

リヴァイ「ハンジ、お前は俺の事を嫌いじゃねえんだろうが、好きでもねえだろ」

ハンジ「え? そ、そんな事は………」

リヴァイ「無理するな。今の愛撫の反応で分かった。今日はこれ以上触らねえよ。ただ……」

彼は目を伏せて悲しげに言った。自分の中の妥協点を探しながら。

リヴァイ「俺も一応、男だからな。その……そういう意味で触りたいと思う時くらいある。そういう時に、余り煽り過ぎるな。俺も無理やりお前を抱きたい訳じゃねえ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「あと、嫁になったからっていう義務感で応えなくてもいいからな。俺はそこまで望んでない。無理させるんだったら、そもそも結婚生活の意味がなくなる」

ハンジ「で、でも………」

リヴァイ「してもいいのは、キスだけだろ? 違うのか?」

ハンジ「う、うん」

きっと、そうだと思った。

リヴァイ「なら、キスまでだ。それ以上は、今はいい」

リヴァイはそこでハンジの唇に触れた。舌を入れようとして、ビクッと強張るのを感じて止める。

リヴァイ「……はあ」

ため息が漏れた。憂鬱なため息だった。

リヴァイ「体は正直なもんだな」

ハンジ「…………」

リヴァイ「まあ、英語で言うところの『ライク』の感情で結婚を選んじまう事もあるんだろ」

ハンジ「ライク? ええっと、それって私の方が間違っていたって事なのかな?」

リヴァイ「別に間違っちゃいねえよ。結婚をする理由なんて人ぞれぞれだ」

リヴァイはそう言ってもう一度、ため息をついた。

リヴァイ「例えばそれこそ、家同士の姻戚関係を強める為だけに、道具のように嫁に行かされる女も昔はいた訳だしな。そういうのじゃねえからまだマシだろ」

ハンジ「まるで戦国時代の話だね」

リヴァイ「今の時代も、似たような事はあるだろ。上流階級の家柄の奴とかな」

ハンジ「あはは……遠い世界だね」

リヴァイ「まあ、だろうな。だから別にハンジが俺の事をそういう意味で好きじゃねえんだとしても、別に構わん」

ハンジ「そ、そんな寂しい事を言わないでよ」

ハンジが反論するが、

リヴァイ「途中でギブアップした癖に」

ジロリと言い返すリヴァイだった。

ハンジ「えっと、それはその、あの……」

リヴァイ「まあいい。俺も焦り過ぎた。なんか浮かれたんだよ。ハンジに褒められたせいで」

ハンジ「え? 褒められた……さっきのアレ?」

リヴァイ「そうだ。俺をあんまり調子に乗らせるな。暴走したら無理やり抱くぞ」

ハンジ「!」

リヴァイ「………いや、それは嘘だけどな」

ハンジ「いや、その……ええっと、私もどう反応していいのやら」

困った表情でハンジが答えると、リヴァイもそっぽ向いた。

リヴァイ「やれやれ。順番がおかしい自覚はあるが、それでも浮かれているな。俺は」

ハンジ「え?」

リヴァイ「前にも言っただろ? 『棚からぼた餅が降って来たと思った』って」

ハンジ「確かに、言っていたね。じゃあ本当にそういう意味で……」

リヴァイ「そうだ。俺はハンジに惚れている」

ハンジ「一年前、私、何したんだっけ?」

リヴァイ「覚えてねえんだろ?」

ハンジ「だから聞いているんだけど」

リヴァイ「説明したくねえ」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「口で説明しても意味ねえだろ」

ハンジ「いや、あるよ。リヴァイが私を好いてくれる理由、ちゃんと知りたいし……」

リヴァイ「そのうち嫌でも分かるだろ」

ハンジ「ええ? そうなの?」

リヴァイ「………やっぱり前言撤回して、手出すべきか? (ユラリ)」

ハンジ「いや、待って! 御免なさい。ここでやるのは、流石にちょっと」

リヴァイ「ほらな。やっぱり無理な癖に」

ハンジ「何でそう短絡的に結論付けるかな。ちょっと考える時間くらいくれたっていいでしょうが」

ハンジが少々不機嫌に答えた。

ハンジ「あのね、私だって、その……結婚相手を誰でもいいなんて思ってないし、酔っていたとはいえ、それでもリヴァイがいいなって思ったのは事実だと思うんだよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「むしろ酔っていてそういう行動に出ちゃったって事は、本音が漏れちゃっただけなのかもしれないし、無意識にリヴァイを求めてプロポーズしたのかもしれないよ? 私は」

リヴァイ「それは、本音は俺の事を好きだと思っているのか?」

ハンジ「だーから、リヴァイの中の『何を』私が求めているのかイマイチ自分でも分かってないんです」

リヴァイ「自分で分かってない?」

リヴァイの眉間の皺がどんどん深くなっていった。

ハンジ「うーん。なんていうのかな。リヴァイとこうやって裸で風呂に入っても嫌悪感、全くないからねえ」

と、腕を組むハンジだった。

ハンジ「もうちょっと頑張ればセックス、出来ると思うんだけどなあ。それじゃダメなの?」

リヴァイ「いや、お前……今、さっきビクッて強張っただろうが」

ハンジ「そこは段階を踏んで慣れていけばいずれ出来そうじゃない?」

リヴァイ「は?」

ハンジ「うーん。さっき、こう「カッ」って芯から熱くなる感覚があって、ちょっとそれが怖いなあって思ったのはあったけど」

リヴァイ「……………」

ハンジ「なんだろ? 自分でも良く分かんない。ただリヴァイを拒絶している訳ではないと思うんだよね。私は」

リヴァイ「あんまり調子に乗らせるなって、さっき言っただろ」

ハンジ「いや、そうだけど。でも事実だし」

リヴァイ「おい、だったら風呂あがってから、試しにヤッてみるか?」

ハンジ「うん。いいよ」

即答されて絶句するリヴァイだった。

リヴァイ「おい、ハンジ。今、なんて言った」

ハンジ「だから、いいよって言った」

リヴァイ「お前、自分でも好きか良く分からん相手とセックス出来るのか?」

ハンジ「いや、リヴァイの事はちゃんと好きだってば」

リヴァイ「だからそれは、俺のそれとは違うんじゃねえかって、さっき……」

ハンジ「え? でもリヴァイはさっき、それでもいいって言わなかったけ?」

リヴァイ「それは結婚生活についてだろ。セックスを含めたつもりは……」

ハンジ「何でそこを別に考えるの? え? リヴァイ、やりたくないの?」

リヴァイ「やりたくない訳ねえだろ!!!!」

遂にキレ出してしまったリヴァイだった。

リヴァイ「お前、俺が今までどれだけ堪えて耐えてきたか分かって言ってんのか?!」

ハンジ「え? 耐えていたの? 全然分からなかった」

リヴァイ「耐えていたんだよ。クソ………あの時だって、俺は」

ハンジ「あの時? いつ?」

リヴァイ「泥酔してプロポーズした後に決まっているだろ! お前、自分で服脱いで、俺を脱がしにかかって、その後ぐーすか爆睡して先に寝たんだぞ! 生殺しにも程があるだろうが!!」

ハンジ「OH……何という暴挙」

リヴァイ「あとクリスマスの夜もそうだ! いきなりリビングに戻ってきてサンタの帽子とシャボン玉石けんとか、俺にサンタになれというつもりか?! 煙突ねえのに、部屋に入っていいのか? と一瞬思った俺をどうしてくれる!!!」

ハンジ「どうどう……リヴァイ、ちょっと落ち着いて」

ハンジが笑いながらリヴァイを宥めた。

ハンジ「あの時はタイミングが悪かったね。そこは謝るよ……」

リヴァイ「いや、そういう意味じゃねえ。そこじゃねえんだ。そういう問題じゃねえ」

ハンジ「じゃあ何が問題?」

リヴァイ「お前、それ、計算なのか? それとも何も考えないでやっているのか?」

ハンジ「何の話なのよ」

リヴァイ「何でお前は俺のツボをイチイチついてくる?!」

ハンジ「はい?」

さっぱり意味不明な主張にハンジは首を傾げるばかりだ。

しかしリヴァイは自分の言い分を引っ込めない。

リヴァイ「腹が立つ……! 何でこんなクソ女に惚れたんだ! 俺は!?」

半眼で睨んでくるリヴァイにハンジはついに腹の底から笑い出した。

リヴァイ「……何で笑う?」

ハンジ「いや、そんなに力いっぱい理不尽に怒鳴るリヴァイを見るのが可笑しくて……!」

リヴァイ(ジロリ)

ハンジ「そんなに可愛い睨み方してもダメだって! 腹痛い…!」

リヴァイ「可愛いとか言うんじゃねえよ」

ハンジ「だって、職場じゃそんな風に感情を思いっきり出さないでしょうが!」

リヴァイ「出せる訳ねえだろうが。素の俺を表に出したらドン引きされるのがオチだ」

ハンジ「じゃあ会社じゃ猫被っているんだ?」

リヴァイ「猫を被れと、エルヴィン営業部長の命令だから仕方がねえだろ。おかげでこっちはストレスが溜まって仕方がねえ」

と言いつつ、リヴァイは深いため息をついた。

リヴァイ「本当は営業じゃなくて事務の方を希望していたのにな。何の因果かしらんが営業に配属されて今に至る」

ハンジ「あらら。私と似たようなもんだね。私も開発の方を希望していたけど、営業の方に採用されちゃったからねえ」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「うん。私、本当は身綺麗にして外回りするより、部屋に籠って研究したりする方が好きなんだ」

リヴァイ「俺もだ。家の中で過ごせるならそれが一番いい」

ハンジ「じゃあ籠るの得意なんだ?」

リヴァイ「家の中が一番だろ」

ハンジ「その辺は似たような考え方なんだね。あ、でも綺麗好きは真逆か」

リヴァイ「ハンジは片づけが苦手なんだったな」

ハンジ「集中してやりたい事が出てくるとそっちに時間を注ぎ込む方だから他に気が回らないのかも」

リヴァイ「まあ、その辺は俺がやってやるから別にいい。ただ、あまり酷い有様になったらその時は片付けさせるぞ」

ハンジ「はい、肝に銘じます」

リヴァイ「………何の話をしていたんだったか。脱線したような」

ハンジ「だからリヴァイは私とエッチなことしたくないの? って話だったでしょ」

リヴァイ「…………本当にしていいのか」

ハンジ「その件に関しては既に回答をしておりますが?」

リヴァイ「何で急に会社の顔になった」

ハンジ「いや、そっちの方がいいのかなって思って」

リヴァイ「あー……」

ハンジ「ねえ、思うんだけど、リヴァイはちょっと難しく考えすぎていない?」

リヴァイの顔を覗き込むようにしてハンジが優しく言った。

ハンジ「というか、よく一年も片思いしていたねえ。そっちの方が私にとってはびっくりだよ」

リヴァイ「う………」

そっぽ向いて逃げるリヴァイをハンジは追いかけた。ニヤニヤしながら。

ハンジ「ねーねー何ではっきり今まで言わなかったの? もっと早く言ってくれても良かったのになあ」

リヴァイ「そうだったのか?」

ハンジ「だあって、私、こんなんだし」

リヴァイ「まあ、そうだな」

ハンジ「ちょっと、そこは否定してよ。好きな女なんでしょ? 私は」

リヴァイ「気のせいのような気がしてきた」

ハンジ「前言撤回が早すぎるよ?!」

リヴァイ「いや、まあ……その……嘘だけどな」

ハンジ「じゃあ、いいよ。うん。先にあがって待っているから」

ハンジは風呂からあがって体を拭いて風呂場を出た。

バスタオルを体に巻いて脱衣所で準備をしていると、その最中……

ハンジ「!」

後ろから、濡れた裸のままリヴァイがハンジに襲い掛かった。

ハンジ「え? ちょっと、髪がまだ濡れていますけど! ベッドで待っているって言ったでしょ?」

リヴァイ「ここでいい。もう何処でもいい」

ハンジ「え? えええ?」

リヴァイ「濡れた髪ごと、愛させてくれ」

ハンジ「!」

スイッチが入ってしまったリヴァイの熱量を感じてハンジは思わず体が強張った。

身を竦むように体がびくっと反応したのを見て、一瞬、リヴァイの手が止まる。

リヴァイ「………」

でも、今度は引かなかった。リヴァイはそのまま脱衣所でハンジを後ろから押し倒して好き勝手に愛撫を開始した。

バスタオルが緩んで裸が見え始める。幸い、脱衣所にも小さな暖房器具は置いてあったから、寒いと言う感覚はなかったが。

ハンジ「えっと……さ、寒くないの?」

リヴァイ「むしろ熱いくらいだ」

ハンジ「そう、なの?」

リヴァイ「ハンジ、お前の体が熱い。湯上りのせいだろうけど。もう一回、汗掻かせるから覚悟しろ」

ハンジ「!」

後ろから手が伸びて乳房に両手がかかった。

リヴァイの唇は髪の毛を食うように後ろから探っている。

ハンジ「えっと……その……あっ……」

また、やってきた熱い感覚にくらっと眩暈を感じた。

ハンジは両目を瞑ってその感覚に自分の意識を委ねてみる。

ハンジ(2回目は、最初より怖くない……)

むしろ気持ち良さは最初より段違いに良くなっていた。

ハンジ「ああっ……!」

ビクン……!

大きく跳ねてしまった体の反応に、リヴァイも目を瞠る。

リヴァイ「え?」

最初と反応が違う事にリヴァイ自身も気づいたようだ。

リヴァイ「…………」

目の色が変わった。ゾクゾクとする感覚が、彼の中を支配していく。

尻の方にも手を伸ばして、右手は乳首の方を探る。

ハンジ「ん……ああっ」

背中に舌を這わせてハンジの体を徐々に支配していく。

後ろからの乳首の愛撫と尻への撫でまわしを同時に行い、後ろから乗っかる形でハンジの動きを完全に封じていった。

そして右手の指は乳首を離れて下の方へ移動する。無防備な、あそこへ。

ハンジ「やっ……そこ、は……!」

クチュクチュ……

水音が立てられる程度には濡れ始めていたようだ。

ハンジ「は……は……はあ!」

腰が少し浮いて、四つん這いが潰れたような姿勢のまま喘いでいる。

リヴァイ「ハンジ……こっち向いてくれ」

リヴァイはハンジに耳元でそう囁いて同意させた。

ゆっくりと体を回転させて、はらり、とバスタオルが完全に落ちる。

赤く染まり始めた素肌にリヴァイは嚥下して、正面からキスをして壁際に追い詰めた。

ハンジ「ん………」

今度は舌を入れるキスをしても拒否反応がなかった。

急に変わったその反応に違いに戸惑いを隠せないが、今はその理由を知るよりも中に入っていきたいと思ったリヴァイは、そのまま舌を絡め続けた。

リヴァイ「はあ……はあ……」

ハンジ「はあ……はあ……」

うっとりとお互いを見つめ合って目を再び閉じて、呼吸を合わせていく。

二酸化炭素の匂いを嗅ぎながら、その息苦しさに溺れながら。

どの辺が気持ちいいのかを探っていく。リヴァイの舌がハンジの口の中を洗っていく。

歯茎の内側に舌を沿わせると、吐息が漏れた。キスをしながら手は胸の方に寄せる。背中から肉を持ってくるような手の動きと、親指の按配を利用しながら、乳首を時々掠めさせた。

リヴァイ(何が変わったんだ?)

ハンジの拒否反応が消えた事にリヴァイは心底驚いていた。

リヴァイ(さっきと今で、何が違ったんだ?)

自分でも良く分からぬまま、それでも彼女の熱量に飲み込まれていく。

リヴァイ(でも、いいんだよな? もう体の方が嫌がっていない)

言葉でも確認した。していいと。

でも、一抹の不安がリヴァイの頭の隅に残っている。

残っているのに、自分の欲望を止める事が出来ずにハンジに溺れていった。

ハンジの方は、リヴァイの愛撫を受けながら、その熱さにだんだん慣れていった。

ハンジ(うん。少し慣れてきた……)

ハンジは自分の両腕をリヴァイの背中に回す。

ハンジ(最初はちょっと怖かったけど、この熱い感じ、嫌じゃないかも)

過去と比べて雲泥の差がある性行為にハンジは自然と笑みを浮かべていた。

ハンジ(なんか、凄く、いいよ。リヴァイ……)

そう思いながら両目を閉じて、全身で快楽を貪っていた。

リヴァイ「…………」

ハンジの様子に戸惑いを隠せないままリヴァイは一度、止めた。

ハンジ「ん? どうしたの? 何で止めるの?」

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「ベッドに移動していいか?」

ハンジ「あ、うん。出来たらそうして欲しいな」

リヴァイ「分かった」

確認後、リヴァイはハンジを軽々と持ち上げて、所謂お姫様抱っこをしてベッドまで移動した。

ハンジ「うひゃ? ええ? 力持ちー!」

リヴァイ「そっちが軽いんだろ? 体重いくつだ」

ハンジ「60kgだよ。普通にあるけど」

リヴァイ「俺より軽いのか」

ハンジ「えええ?! リヴァイ、私より重いの?! いくつよ」

リヴァイ「65kgある」

ハンジ「見えないよ。あ、もしかして意外とがっしりしているから、筋肉の重さのせいなのかなあ」

リヴァイ「さあな? 自分でも理由は良く分かってない」

リヴァイはベッドの布団をかぶりなおすと仕切り直しした。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「なあに?」

リヴァイ「お前、さっきと全然、反応が違うんだが、何か変わったのか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「さっきは身体が拒否している感じだったのに。どうして……」

ハンジ「本当だね。何で変わったんだろ? でも、凄く良かったよ」

リヴァイ「え?」

ドキッ……

思わず赤面してハンジの言葉を待つリヴァイだったが、

ハンジ「…………というか、今までで一番いいかも」

リヴァイ「本当か?」

ハンジ「うん。すっごく、楽しい。私、リヴァイに触られて凄く楽しいよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「こういう感覚は初めて経験するなあ。いいのかなあ? こんな贅沢なエッチをして」

リヴァイ「贅沢だと?」

その言葉が妙に引っかかった。

リヴァイ「お前、過去にどんな酷いセックスをしてきたんだ」

ハンジ「いや、別に強姦されたとかじゃないよ? ただ……」

と、言ってハンジは遠い過去の記憶を引っ張り出してみた。

ハンジ「その……なんていうかなあ? しんどい感じかなあ? ふーやっと終わったあって感じ?」

リヴァイ「その説明じゃ良く分からん」

ハンジ「あーだから、一言で言えば『つまんない』って思ったの。身体の相性が悪かっただけかもしれないけど」

リヴァイ「セックスがつまんないって……」

ハンジ「何でだろうね? 普通、こういうのって気持ち良くなる筈でしょ? でも最初のエッチは……あんまり楽しくなかった」

リヴァイ「……………」

ハンジ「おまけに相手には『不感症か』みたいな事を言われたしね。だから2回目以降は自分の方から頑張って、相手に尽くしてみたりもしたけど。結局その相手とは長続きしなかったな」

リヴァイ「でも、ここはちゃんと濡れているぞ?」

と、言いつつリヴァイはベッドの中でハンジのあそこにしれっと触れる。

ハンジ「あん……話している途中でそこ触らないでよ」

リヴァイ「すまん。でも、不感症じゃねえだろ、これはどう見ても」

ハンジ「みたいだね。いやでも、こんな風に一気に体が変化する感覚は初めて経験するよ」

リヴァイ「初めて……だと? えっと……一人ではしないのか?」

ハンジ「いや、する事もたまにありますけど! やだ、もう。そんな事を聞いてどうするのよ」

リヴァイ「オカズに………いや、何でもない。話が脱線した。つまり、そういう時ですら、こんな風にはならないのか?」

ハンジ「ならない訳じゃないよ。でも凄く時間がかかる。最低でも30分はかかるし、濡れにくい時期だと1時間はかかるかも」

リヴァイ「濡れにくい時期なんてあるのか?」

ハンジ「ああ、あるよ。月のリズムによって、性欲のリズムも変わるしね」

リヴァイ「初めて知った……(ズーン)」

ハンジ「あはは! まあ男の人には無縁の事だろうね。いつでもOKっていいよねえ」

リヴァイ「そういう気分に持っていくのに苦労はしないが………逆に堪える事の方が多いからな」

ハンジ「なるほど。男は我慢強くないといけない訳ですね」

リヴァイ「そうだな。常に我慢を強いられる。だからこそ、それから解放された瞬間が堪らなくなるな」

そう言いながらリヴァイはハンジの乳房の間に顔を埋めた。

リヴァイ「はあ……はあ………」

ハンジ「おお? 早速興奮している?」

リヴァイ「当たり前だろうが。こっちはもうパンパンだ」

ぐいっ!

手を掴んで無理にそこを触らせると、ハンジがびっくりした。

ハンジ「ひゃ?! うわ……ガッチガチ!」

リヴァイ「もう先にコンドームつけた方がいいか。ちょっと待って貰えるか?」

ハンジ「あ、はい。どうぞ。むしろお願いします」

待たされている間、ハンジは思った。

ハンジ(いやーサイズ、結構大きかったなあ。ええっと、××cmくらい? 正確に測りたいな)

ハンジ(いやいや、それは流石に失礼だね! やめておこう!)

リヴァイ「さっきから何、百面相してやがる」

ハンジ「な、何でもないよ。うふふふ~♪」

リヴァイ「大方、あそこの品評中ってところか?」

ハンジ「なんでバレた」

リヴァイ「こっちも同じ事を考えるからな。ふん」

ハンジ「えええ?! こっそり品評されていたのか?! 私も!」

リヴァイ「胸のカップサイズは………」

ハンジ「やめてえええ! そこ、推測しないでええええ!」

リヴァイ「スリーサイズは上から78、58、80ってところか?」

ハンジ「ぎゃあああ?! 大体合っているところが怖いよリヴァイ!」

リヴァイ「目測と触った感触でそのあたりかと予想したが。そうか。大体合っているのか」

ハンジ「もーやだあ。あなた、結構変態だね」

リヴァイ「男ならこの程度の事はそう難しい事じゃない。エルヴィンの奴はもっと正確に目測出来るぞ」

ハンジ「ぎゃああ?! 流石、営業部長?! よく人を見ている事で」

ハンジが顔を隠しながら待っていると、準備完了したリヴァイだった。

リヴァイ「足、大きく広げられるか? とりあえず正常位でやってみる」

ハンジ「ああ……はいはい。大丈夫だよ」

ぐいっと、大きく股を開いて見せると、リヴァイが一気に赤面した。

そして何故か一度、足を元に戻させるのだった。

ハンジ「何故元に戻す?」

リヴァイ「いや………素直に言う事を聞き過ぎだろ。ちょっとは躊躇えよ」

ハンジ「ええ? そうしろってそっちが言った癖に」

リヴァイ「はー……やっぱりそういうところが、俺と違うんだな」

ハンジ「え? え? 何の話?」

リヴァイ「本当に俺の事が好きなら、もう少し、こう………」

ハンジ「恥じらった方が好みですか?」

小首を傾げてハンジが問い合わせると、

リヴァイ「そういう意味じゃない。お前、ちょっと冷静過ぎないか?」

リヴァイは少しだけ悲しげな表情で答えたのだった。

ハンジ「冷静?」

リヴァイ「こっちは心臓バクバクなんだけどな。ほら……」

と、言ってリヴァイはハンジの顔を自分の方にぐっと引き寄せて心臓の音を聞かせてやった。

ハンジ「脈拍、超早い! え、大丈夫? なんか凄くドキドキしているけど」

リヴァイ「セックスするっていうのはこういう事じゃねえのか?」

ハンジ「ええっと、私より早いね。うーん。私の今の脈拍は……」

自分の手首をさっと触って大体測ってみる。

ハンジ「ああ、平常値にちょっと上がっている程度かな。軽いランニング程度の脈拍だ。リヴァイの方は全力疾走直後のそれに近いみたいだね」

リヴァイ「そのテンションの差が嫌だから、式の後でいいって言ったんだがな」

ハンジ「つまり、同じくらいドキドキして欲しかったの?」

リヴァイ「そういう事だ。だから嫌いじゃねえけど、好きでもねえのかなって思った」

ハンジ「あーうー。そういう意味だった訳ね。やっと理解した」

リヴァイ「もっと慌てて冷静で居られないハンジを見てみたい。そう思うくらいには、俺はハンジを好きだと思っているんだが」

そう切なげに言われてハンジも反応に困った。

ハンジ「私、そんなに冷静に見えるの?」

リヴァイ「結婚の最大のメリットを『親を悲しませないで済む』なんていう奴が冷静じゃないならなんだっていうんだ」

ハンジ「うぐ……?!」

リヴァイ「そこは嘘でもいいから『あなたと一緒に居られる』とか言って欲しかったんだけどな」

ハンジ「うはあ?! それもそうですね! はい、すんませんでしたああああ!」

と、今頃謝り倒すハンジだった。

リヴァイ「いや、ハンジがそういう部分で裏表が全くない女だっていうのは既に知っているから別にいいが」

ハンジ「あははは……」

乾いた笑いで誤魔化すハンジに、リヴァイは顔を寄せた。

リヴァイ「そこも含めて好きだが、寂しい思いをしたのも事実だ。俺はハンジの中でどの程度、占めているのか見えないしな」

ハンジ「あーなるほど。確かにそれはあるかも」

リヴァイ「別に『寝ても覚めてもあなたを思う程、好き』とか、そういう事を求めている訳じゃねえけど。夫に出来る程度には好かれているのは嬉しいが、俺の方ばかり惚れている今のこの状態がちょっとだけムカつく」

ハンジ「えええ? それは、その……文句を言われても困るんだけど」

リヴァイ「分かっている。だから俺は…………あの歌のように、やるしかねえかなと思っている」

ハンジ「あの歌?」

リヴァイ「知らねえか? 昔、CMで流れていた歌だ」

ハンジ「うーん。どんな曲だったっけ?」

リヴァイ「銃爪(ひきがね)っていう曲だ。メロディを聞けば思い出すかもしれん」

ハンジ「じゃあ、歌って見せてよ」

リヴァイ「ああ、いいぞ」

そしてリヴァイは有名なそのフレーズを口ずさんだ。



Tonight Tonight Tonight Tonight

今夜こそ オマエを おとしてみせる


ハンジ「ああ! なんかそれ、聞いたことあるよ!」

リヴァイ「だろ? 俺も最初は歌のタイトルを知らなかったが……」

ハンジ「調べてみたんだ?」

リヴァイ「まあな。歌詞を全部目に入れた後は、まるでハンジみてえな女だなと思った」

ハンジ「ええ? 歌の内容がそういう歌詞なんだ?」

リヴァイ「詳しい内容は後でお前も自分で調べろ。全部歌うのは流石に恥ずかしい」

ハンジ「ええ? 今、歌ってよー(ニヤニヤ)」

リヴァイ「断る。知りたきゃ自分で調べろ」

ハンジ「ちぇ………まあ、分かった。後で自分で調べるよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「何でそこでだんまりなのよ」

リヴァイ「いや………やっぱり、歌ってやってもいい」

ハンジ「どっちなのよ?! ええ? リヴァイ、何がしたいのよ」

リヴァイ「いやだから、それは歌の中で言っているだろ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「今夜、お前を……堕としたい。そう思っている」

ハンジ「!」

リヴァイ「何度でも挑戦してやる。ハンジを俺に夢中にさせるまで」

そう言って、リヴァイはその日の夜、初めてハンジを抱いたのだった。

とりあえずここまで。
続きはまた次回。ノシ




















翌日の早朝。

カレンダーを確認して、新しい年がやってきたことを実感する。

ハンジ(大晦日から新年にかけてやっちゃった………)

ベッドの隣でリヴァイは眠りこけている。

ハンジ(流石に正月は仕事もお休みだけど、4日から仕事も始まるしなあ)

リヴァイ「ZZ………」

ハンジ(それまでに自分の私物、リヴァイの家に全部移動させて完了させないといけないよね。まだ今は中途半端だし)

リヴァイの寝顔を見つめながらハンジは思った。

ハンジ(なんか、凄かったなあ。こういうセックス、初めて経験したんだけど)

頬を少しだけ赤らめてハンジは笑っていた。

ハンジ(私、そんなに冷静だったのかな。でも、この感じ、凄く幸せだけどなあ)

眠っているリヴァイの頬に自分の唇を近づける。

ハンジ(むしろこれ以上を望む方がバチ当たるんじゃないのかな? リヴァイは私よりも幸せなのかな?)

リヴァイ「キス、しろよ」

ハンジ「!」

其の時、唐突にリヴァイが目を覚ました。たぬき寝入りだったようだ。

リヴァイ「なんで躊躇う? さっさとしろ」

ハンジ「いや、キスしようと思っていた訳じゃないんだけど」

リヴァイ「じゃあ、何で顔を近づけているんだよ」

ハンジ「脳内で昨日の反省会をしていました」

リヴァイ「ああ? 何で」

ハンジ「いや、冷静だって言われた事、ちょっと自分でも引っかかっていて」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私、今のこの状態、本当に幸せなんだよね」

本心を話してみる。そこに偽りは全くなかった。

ハンジ「むしろこれ以上、望む方がバチ当たりそうな気もするし、その……」

リヴァイ「…………」

ハンジ「リヴァイから見たら、不満もあるのかもしれないけど。私、本当にこれで十分だよ?」

リヴァイ「不満があるのは俺の方だって言いたいのか?」

ハンジ「そうだとしたら、こっちとしては申し訳ないけどね」

リヴァイ「いや、俺の方はこうやってハンジと一緒に居られるだけでも、幸せだが」

ハンジ「その感覚と、私の今、思っている感覚の違いは結婚生活をする上でどうしても変えないといけない部分かな?」

リヴァイ「………………」

ハンジ「凄く、良かったよ? リヴァイとのセックス。セカンドバージンみたいな感じで久々だったから、大変だったのはリヴァイの方でしょ? こんな風に大事に愛されて嬉しくない女はいないと思うけど」

リヴァイ「嬉しかったのか?」

ハンジ「だからなんでそこがリヴァイにちゃんと伝わってないの? え? 私、何度も言っていますよね? 最中も何度も強請ったし、その………私、本当に嬉しいよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「私、贅沢だと思うよ。だって女性社員の中で人気のある営業主任に嫁にして貰った訳だし。陰でいろいろ言われていると思うなあ」

リヴァイ「そんなのは、無視しろ」

ハンジ「いや、そういう訳にもいかないよ。仕事する上でそういう部分は無視できないし。一応、表向きは『仕事に影響を持ち込まないで』と釘は刺しておいたけど。でも、陰で何人、女性社員が泣いていることやら……」

リヴァイ「……………」

ハンジ「彼女達には悪いとは思うけど。でも、私、酔っていたとはいえ、リヴァイにプロポーズして後悔してないよ」

リヴァイ「素面だったらもっと良かったのに」

ハンジ「いや、そこはほら……もうしょうがないじゃん」

リヴァイ「まあ、それもそうだけどな」

ハンジ「というか、リヴァイの方からさっさとしても良かったんじゃないの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「何で去年の時点で私に告白しなかったの? 惚れた時点でさっさと手出せば良かったんじゃない?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「こらー? なんでだんまり?」

リヴァイ「惚れた理由がアレ過ぎるからだ」

ハンジ「なにそれ。アレって何よ」

リヴァイ「説明したくねえ……(顔隠し)」

ハンジ「ええ? 惚れた理由を言いたくないってなんなのよ」

リヴァイ「多分、嫌でも後で分かる」

ハンジ「それ2回目だよね? 何で勿体ぶる?」

リヴァイ「本当に言いたくねえんだよ」

ハンジ「まるでクイズだね。あ、でも徐々に推理して当てるのも面白そう! 分かった。徐々に解明していけるように自力で頑張ってみるよ」

リヴァイ「なんでそこで『もういい』ってならねえんだ。お前は」

ハンジ「えー? むしろ誘っているのはそっちでしょうが。私の探求心を舐めないで頂きたいね!」

リヴァイ「クソ……墓穴掘った」

ハンジ「だね! いやー本当、こういうの大好き。うふ♪」

ハンジが可愛らしく笑うとリヴァイの方の息子がピクッと反応した。

リヴァイ「…………………姫初めするか?」

ハンジ「あ、そう言えば言い忘れていたね。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

一度体を起こして深々と礼をすると、リヴァイも同じように返した。

リヴァイ「いや、こちらこそ……って、何やっているんだ。俺達は」

ハンジ「恒例でしょ? 新年の挨拶は大事だよ」

リヴァイ「まあ、そうだけどな。で、姫初めはするか?」

ハンジ「その前に、お正月だから御餅でも食べません?」

リヴァイ「ああ……確かにちょっと腹も減っているな。分かった。腹ごしらえを先にしよう」

そしてリヴァイは服を着なおして、ハンジは眼鏡をかけ直した後、服を着なおした。

ハンジ「へっくしょん!」

リヴァイ「ん……あ、しまった! お前、髪の毛濡れっぱなしだったよな」

ハンジ「あー乾かすの忘れていましたね。はい」

リヴァイ「すまん。俺が強引にやったせいだな。髪の毛、中途半端に乾いているようだ。今からドライヤーで乾かそう」

ハンジ「あーもう、ここまで乾いているなら残りは放置でもいいんじゃない?」

リヴァイ「ダメだ。ちょっとそこで待っていろ」

リヴァイはドライヤーを洗面所から持って来てハンジの髪をベッドの上で乾かし始めた。

ハンジ「あら? やってくれるの? いいのに。自分でやるって」

リヴァイ「いいから、じっとしてろ」

ボー……

ドライヤーの熱を浴びながらハンジは目を閉じた。

ハンジ「人にして貰うのは気持ちいいけどね」

リヴァイ「ん? けどなんだ?」

ハンジ「いや、子供になったみたいでちょっとくすぐったい」

リヴァイ「甘やかしたらダメなのか?」

ハンジ「うち、共働きだったし、あんまりそういうの、して貰った記憶がないんだ」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。子供の頃は今より貧乏で、親も構う余裕が余りなかったのもあって、私は独りで勉強する事が多かった。幸い頭はまあまあ良かったから、高校は有名な進学校に一発合格してね。大学もいいところに入れたから、その後は逆に過保護になり始めて両親がああなった」

リヴァイ「ふむ。今年の正月は実家に戻るんだよな。俺も一緒に帰るからな」

ハンジ「あ、そう言えばその件、すっかり忘れていましたよ! あちゃー」

リヴァイ「なんで『あちゃー』なんだよ」

ハンジ「いやー正月、家に帰ると今までいろいろ煩かったから、ついついいつもの癖で」

リヴァイ「今年は旦那がいるんだから大丈夫だろ」

ハンジ「いや、次はきっと『子供はいつ頃作るの? 早めに作りなさいよ』攻撃が待っている」

リヴァイ「ああ、そういう意味か」

ハンジ「それが終わったら次は『2人目はまだなの?』攻撃がきて、次は『家族が増えたら新居は建てないの? 同居しない? 子育て大変でしょ?』攻撃がきっと……」

リヴァイ「先の事まで計画してくれて嬉しい限りじゃねえか」

ハンジ「そう思うのはリヴァイだけだってば! って、ニヤニヤし過ぎだよ?!」

リヴァイ「いや、ついつい。そうか。ハンジはそんな先まで俺と一緒に居てくれるつもりなのか」

ハンジ「へ?」

其の時、ハンジは間抜けな声を出してしまった。

するとリヴァイはドライヤーを止めて乾いた髪に触れながら言った。

リヴァイ「俺はいつ、三行半を突きつけられるかと冷や冷やしているけどな」

ハンジ「ちょっと、それは自虐的過ぎない?」

リヴァイ「そうでもない。先の事なんて分からんだろ」

ハンジ「…………一応、新婚ほやほやなのにそういう事を言うのやめようよ」

リヴァイ「すまん。ハンジは俺との子供を作ってもいいのか?」

ハンジ「あー……」

其の時、少しだけ考えてハンジは言った。

ハンジ「今すぐって言うのは、ちょっと困るかもしれない」

リヴァイ「仕事の関係上、そう思うのか?」

ハンジ「うん。その辺はエルヴィン部長とかにも相談するし、時期を見て計画的にいこう。その方が皆にも迷惑かけないですむと思うんだ」

リヴァイ「お前は、本当に気遣うよな」

ハンジ「当然でしょ。社会人としては当たり前の配慮だよ」

リヴァイ「そういうところを壊してしまいたいのに」

ハンジ「はい?」

リヴァイ「いや、何でもねえよ。気にするな。餅、食うか?」

ハンジ「うん。食べる食べる」

リヴァイは少しだけ寂しそうにしながらハンジから離れてキッチンに向かった。

ハンジも一緒にキッチンに向かって、キッチンの小さなテレビに電源を入れてテーブルの席に着いた。

正月番組を適当に見ていたら、携帯の方に実家からの電話がかかってきた。

ハンジ「あー無視したいなあ」

リヴァイ「俺が出よう」

ハンジ「ダメだって! 火使っているでしょうが!」

リヴァイ「じゃあ、諦めて出ろ」

ハンジ「はいはい」

そして実家からの電話に出て、今日は帰ってくるように念押しされた。

ハンジ「リヴァイを連れて来いってさ。本当に大丈夫? 多分、飲まされるよ?」

リヴァイ「大丈夫だろ。普段の接待よりは楽な筈だ」

ハンジ「いやーうちの両親、両方結構強いよ。エルヴィン程ではないにしろ」

リヴァイ「成程。ハンジの両親なだけあるってか」

ハンジ「適当なところで誤魔化してもいいからね? 無理しちゃダメだよ」

リヴァイ「まあ、心配するような事じゃねえだろ。ほら、出来た」

しゃべりながらも手は動かして餅が焼けた。

別に作った料理と合わせて皿に盛って完成させる。

ハンジ「御雑煮風にしたんだ。美味しそう」

リヴァイ「野菜と一緒に食った方が消化にもいい」

ハンジ「いやーなんか、普段はリヴァイの方が私の嫁って感じだね」

リヴァイ「…………そう言われたらそれもそうだな」

ハンジ「男女逆だったら良かったね。その方がくっつくのも早かったかも?」

リヴァイ「ああ……いや、でもそうなると、アレだな」

ハンジ「何がアレ?」

リヴァイ「ますます俺が変態になるかもしれない」

ハンジ「変態? 女の子の方が変態なの?」

リヴァイ「いや、これってどっちの人口が多いのか分からんが」

ハンジ「何の話?」

リヴァイ「何でもない。さっさと腹に入れて実家に帰る準備をするぞ」

ハンジ「えーヒントそれだけ? ケチ!」

リヴァイ「………探り入れてやがったな?」

ハンジ「バレたか。てへ☆」

リヴァイ「油断も隙もあったもんじゃねえな。お前は」

ハンジ「虎視眈々と狙っていますよ。リヴァイがうっかり情報を漏らさないかと」

リヴァイ「黙って食べろ。食べ終えたらすぐ行くぞ。車はハンジが運転しろよ」

ハンジ「はいはい。あ、でも、そうなると姫初めがお預けになるけどいいの?」

リヴァイ(ぶほっ)

食べている最中に言われて噴いてしまうリヴァイだった。

ハンジ「あ、ごめん。タイミング悪かったね」

フキフキ。台拭きは常にあるので零した分は綺麗にする。

リヴァイ「いや………その、実家に帰る方が優先だろうが」

ハンジ「私は姫初めでもいいけどなあ」

リヴァイ「そういう時は、自分の感情を優先するのかよ」

ハンジ「冗談だよ。ちゃんと実家に帰ります」

リヴァイ「お前の中の基準が良く分からん……」

ハンジ「自分中心に生きているだけだと思うけど」

リヴァイ「まるで気ままな猫のようだな」

ハンジ「リヴァイも猫っぽいじゃない」

リヴァイ「まあ、猫は嫌いじゃねえな」

ハンジ「猫、飼わないの?」

リヴァイ「忙しいから難しいだろ。2人とも共働きなら猶更だ」

ハンジ「でも犬より世話は楽らしいけど」

リヴァイ「まあ、迷い猫とか、誰かが貰ってくれと言って来たら飼ってもいいが」

ハンジ「あはは! それじゃあ私と同じだね。貰って下さいって言われたら引き受けちゃうんだ?」

リヴァイ「あーじゃあ、もう、一匹大型の猫を飼っているようなもんか」

ハンジ「猫扱いされた?!」

リヴァイ「冗談だ」

ハンジ「え? リヴァイもそういう冗談を言うんだ。ちょっと意外……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「やっぱり、家の中のリヴァイと外のリヴァイ、凄くギャップがあるね」

リヴァイ「……………」

ハンジ「なんていうか……私、家の中のリヴァイ、好きだよ。外のリヴァイも好きだけど。そっちのリヴァイはもっと好きだな」

直後、血が顔に集まってまともにハンジの方を見られないリヴァイだった。

リヴァイ「……このクソ眼鏡が」

つい毒ついて誤魔化す。

ハンジ「?! だから何で悪口言うのよ! 私、今、好きだって言っただけだよ?」

リヴァイ「だから、そういうところがクソ眼鏡なんだろうが」

ハンジ「意味分からないんですけど?!」

リヴァイ「理解しないでくれ。むしろするな。それ以上なんか言ったら眼鏡かち割るぞ」

ハンジ「眼鏡ないと生活が出来ないんですけど?!」

リヴァイ「だったらちったあ自重しろ。この奇行種猫が」

ハンジ「なんか今、酷い事を言われたような気がする」

リヴァイ「大体合っている」

ハンジ「なんかリヴァイって、意外と口悪いね? 本当に会社じゃ猫被っていたんだ」

リヴァイ「これでも大分、丸くなった方だ。若い頃はもっとヤンチャしていたしな」

ハンジ「マジか。それは是非とも機会がある時に詳しい昔話を聞きたいねえ」

リヴァイ「今日は無理だろ。そろそろ用意していくぞ」

ハンジ「あ、待って。汁も飲むから」

ズズズ……

ハンジ「……はい。ご馳走様でした! (パン!)」

リヴァイ「…………」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「いや、食べる時も終える時も、毎回、手合わせるのかと思って」

ハンジ「うちじゃそうしているけど。え? 何か変?」

リヴァイ「いや、嬉しいもんだなと」

ハンジ「じゃあいいじゃない。何か問題?」

リヴァイ「問題がないのが問題だ」

ハンジ「なんかとんちみたいな事言い出した」

リヴァイ「ハンジ、俺をどうしたいんだ? お前は」

ハンジ「え? どうしたいって………ええと、笑ってくれたらいいんじゃない?」

リヴァイ「それは幸せでいて欲しいと言う事か?」

ハンジ「人生で一番大事な事でしょ?」

リヴァイ「そうか………」

その言葉に応えてほんの少し、口角を釣り上げたリヴァイだった。

ハンジ「あ、今の顔、いい感じだよ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「たまにはそうやって自然に笑ったらいいのに」

リヴァイ「うまく笑えているのか?」

ハンジ「今のはすごくいい微笑みだったよ。いいと思う」

リヴァイ「だとしたら、それが出来たのはハンジのおかげだな」

ハンジ「そう?」

リヴァイ「ああ。ハンジ、ちょっとじっとしていてくれ」

ハンジ「ん?」


ちゅ…………


ハンジ「!」

ハンジ「ん………」

ハンジ「ん! ん! んー!」

ハンジ「ぷは! お雑煮の味がした!」

リヴァイ「だろうな」

ハンジ「何で急にキスしたの? この間は躊躇ったのに」

リヴァイ「さあな? 自分で考えろ」

ハンジ「えー? またクイズが増えた。まあ、いいけど。むしろやる気出るし?」

リヴァイ「ふん……さて、そろそろ出かける準備をするか」

ハンジ「はーい」

という訳で、実家に一度、帰る事にした2人だった。





実家に戻ると豪華な正月料理が待ち構えていた。

ハンジ「えらく奮発したね! 四人しかいないのに食いきれないでしょ!」

リヴァイ「いいんですか? こんなに沢山用意して貰って」

母親「余った分は持ち帰ってくれたらいいわよ」

ハンジ「やった。ラッキー♪」

母親「本当ならあんた自身がこういう料理を作れないと困るんだけどねえ」

リヴァイ「あの、レシピ下さい。後でじっくり読ませますので」

母親「お願いしますね。バシバシ鍛えてやって下さい」

ハンジ(あ、あの顔は自分で作る気満々の目だ。騙されているけど、ま、いっか♪)

父親「ささ、席についてくれ。あけましておめでとう」

リヴァイ「おめでとうございます(ぺこり)」

ハンジ「おめっとー」

リヴァイは早速、ビールからどんどん飲まされていくが、仕事で酒は慣れているので顔色は変わらない。

父親「いやーリヴァイ君は酒に強いようだね。流石は営業主任でいるだけはある」

リヴァイ「恐縮です」

父親「謙遜しなくていい。ところで……以前、言っていた件だが」

リヴァイ「何でしょうか?」

父親「結納の日取りは10日くらいでよいかな?」

リヴァイ「はい。そちらに合わせます」

父親「ではその日に何処か、食事の出来る場所を押さえておこう。時間はまた追って決めようか」

リヴァイ「はい。では日が近くなったらまた連絡させて頂きます」

父親「………にしても、君は本当に丁寧な男だな」

リヴァイ「え?」

父親「何処か、欠点はないのか? ハンジ。彼の悪い部分を挙げられるか? 今ここで」

ハンジ「えええ? 何で欠点の方を言わせるのよ」

父親「あんまりいい部分だけ見せられるとかえって怪しいと思ってしまう性なんだよ。仕方がないだろ。わしも長年、人事課の仕事をした事があるから、人を見る目だけは養わないと生きていけなかったんだから」

リヴァイ「…………」

ハンジ「それって私から見た欠点? それとも一般論?」

父親「ん? どういう意味だ?」

ハンジ「私から見たら欠点だとは思わないけど、一般人から見たら欠点に思える部分はあるよ」

リヴァイ「おい、ここで言うなよ」

ハンジ「いいじゃん。聞かれている以上、答えない訳にはいかないでしょ」

リヴァイ「こっちは恥ずかしいんだが?」

ハンジ「そういう部分も慣れて頂戴。ええっとね、彼は少々、掃除が好き過ぎて、潔癖症な時があるんだ」

父親「潔癖症?」

ハンジ「なんか、雑巾持ってないと落ち着かない時があるらしくて……気が付いたらいつも掃除しているよ」

母親「まあ……爪の垢を煎じて飲ませたいくらいね。あんたに」

ハンジ「言われると思った! いや、だから私にとっては欠点にはならないけど、本人はそれをちょっとだけ気にしているよ」

リヴァイ「…………」

父親「ふむ。他にはないのか?」

ハンジ「んーあとは、たまに会話というか……意思疎通がちぐはぐになる時があるかな。こっちが注意深く聞いておかないと、彼の言いたい事がたまに分からなくなるから、こっちは集中して聞かないと置いてけぼりになるね」

リヴァイ「すまん……」

ハンジ「いや、難易度ある方が楽しいから別にいいよ。それはこっちが頑張って攻略するから大丈夫♪」

ハンジがニコニコそう答えると、リヴァイは頭を掻いていた。

父親「その辺は時間がいずれ解決するから大丈夫だろう。そのうち「アレ」とか「ソレ」で会話が成立するようになる」

母親「まあ、最初は皆、そんなもんよ」

ハンジ「あ、じゃあ別に心配するような事じゃないんだね」

父親「そうだな。それよりむしろ、わしはリヴァイ君の本音が見えないのが怖い」

リヴァイ「え?」

父親「最初に会った時は緊張していたのもあるだろうが、今ならもう一度、聞いてもいいだろうか? うちの娘のどこに惚れたのかを」

リヴァイ「あの……それは」

父親「あの時の言葉は余所行き用の物だと分かっている。初対面だった訳だし、そういう言い方になるのも当然だ。それはそれで間違っていない。ただ、わしとしては、嘘はついていないが、本当の事を言っていないという時の人間の顔の表情くらいは見分けがつくと思っているが」

リヴァイ(滝汗)

ハンジ(親父すげえ! バレてたんだ!)

2人でこっそり汗を掻いて焦っていると……

母親「まあまあ、あんまり焦らなくてもいいじゃないの」

父親「しかし、そこをはっきり聞いておかないと。大事な事だろ?」

母親「大丈夫よ。ハンジがこんなに幸せそうな顔を見せているんだから、心配いらないわよ」

ハンジ「え? 私、幸せそうに見える?」

母親「実家に帰るの嫌がる癖に、今日は機嫌いいじゃない。幸せじゃないならなんなのよ」

ハンジ「あは☆ バレてーら♪」

リヴァイ「そうだったのか?」

ハンジ「リヴァイと一緒じゃなきゃ帰ってないですよ。いや、割とマジで」

リヴァイ「ううーん……」

ビールをチビチビ飲みながらリヴァイは考え込んだ。

ハンジ「それにその件については今、クイズにして貰っているんだよね」

父親「クイズ?」

ハンジ「その件については私もはっきりと答えを聞いてないんだ。だから私が推理して当てる約束をしているの」

父親「ほう? 面白い事をやっているな。ならここでわしが聞くわけにもいかんか」

ハンジ「お父さんもクイズに参加してもいいよ。推理していこうよ。そっちの方が面白いでしょ」

リヴァイ「ええ……」

父親「はは! それはいいな。わしも参加しよう。どっちが先に正解するか競争するか」

ハンジ「お父さんには負けないよ!」

リヴァイ(頭掻いている)

そしてハンジは父親と話し込み、リヴァイは母親の方と話し込み始めた。

母親「ふふ……困っているわね。リヴァイ君」

リヴァイ「まさか、お父さんまで参加するとは思わなかったですよ」

母親「御免なさいね。似た者親子なのよ」

リヴァイ「ですね。性格はお父さんに似ておられるようだ」

母親「顔は私に似たようだけどね。中身は父親にそっくりよ」

リヴァイ「聡明な部分が似ていますね。人を見る目も、意見をズバズバ遠慮なく言うところも」

母親「たまに勘吉になるけどねえ。でも、そこも含めて好きなんでしょう?」

リヴァイ「はい………(しまった!)」

母親「うふふ……今、答えを言っちゃった?」

リヴァイ「いや、その……全部ではないですが」

母親「当ててみせましょうか? 本当の理由を」

リヴァイ「だ、ダメです。バラさないで下さい」

母親「多分、私がうちの旦那に惚れた理由と同じだと思うわよ?」

リヴァイ「……そうなんですか?」

母親「今、答え合わせする? こっそり。耳貸して頂戴」

リヴァイ「はい」

コショコショ……

リヴァイ「!」

リヴァイ「それ、本当ですか?」

母親「うん。本当よ。あなたはどうなの?」

リヴァイ「ほぼ、同じです。いやまさか、そんな事があるなんて……」

母親「何だか私達、似ているようね。気が合いそうだわ」

リヴァイ「はい。あの、この味付け、全部お母さんが?」

母親「料理は得意よ。それで旦那を落としたからね」

リヴァイ「では、その……あの」

母親「もしかして、料理も出来る方?」

リヴァイ「自炊生活が長かったですし」

母親「そうだとしても、やらない男性はやらないわよ。成程ね。ハンジにあなたのような男性がくっついてくれて助かったわ」

母親は本当に嬉しそうに言った。

母親「いろいろ問題の多い娘だけど、末永くお願いね」

リヴァイ「はい、あの……こちらこそ宜しくお願いします」

ハンジ「あー何でそっちはそっちで仲良くやっているのよ!」

と、父親の酌をさせられていたハンジがリヴァイの方に意識を向けた。

母親「ん? ふふふ……お母さん、もう答え分かっちゃったから」

ハンジ「え?! ずるい! 先に教えちゃったの?!」

リヴァイ「いや、当てられたんだよ。一発で」

父親「何だと? また母さんに先を越されたか」

ハンジ「本当だよー何でそう、勘が鋭いの?」

母親「勘じゃないのよ。カンニングしたようなものよ」

父親「どういう意味だ?」

母親「私はお父さんに昔、同じ事を言っている筈なんだけどねえ」

父親「なんだと? そうなのか?」

母親「私がお父さんに惚れている理由と、リヴァイさんがハンジに惚れている理由は殆ど同じって事よ」

父親「…………ヒントを貰ってしまったか」

母親「これで答えにいきつかないなら、ダメねえ」

といいつつキッチンに一度引っ込む母親だった。

ハンジ「なにそれー! くそう。お母さんに先越されて悔しいなあ」

リヴァイ「いや、まあ……そこはしょうがねえだろ」

ハンジ「そうだけど! うーん。お父さん、昔、お母さんに言われた事を思い出してよ」

父親「すまん。思い当たる事が何も思い浮かばない。これは由々しき事態だぞ」

ハンジ「本当だよ! 思い出さないとお母さんが可哀想だよ!」

父親「ううーん……(冷や汗)」

そんなこんなでいろいろ話しながら酒を飲み、あっという間に夕方になった。

リヴァイ「そろそろお暇させて貰おうか」

父親「ん? 泊まって行かないのか?」

リヴァイ「明日と明後日にハンジさんの荷物を俺の自宅マンションに全て移動させる予定なんです」

ハンジ「4日から仕事始まるからね。それまでに完了させておきたいんだ」

父親「いつになったらうちに泊まってくれるんだ。リヴァイ君」

リヴァイ「ええっと……すみません。落ち着いたら必ず」

父親「いけずな男だな。そうだとしても今夜くらいいいじゃないか。そうだ、ハンジを飲ませよう」

ハンジ「ぎゃー! やめて! 誘惑しないで! 酒入れたら帰れなくなるでしょうが!」

リヴァイ「その時は2人でタクシーで使って帰りますよ。明日の朝一で引っ越し業者に来て貰う予定ですし」

父親「予定通りに事を運ぶ方が好きな性格か」

リヴァイ「え? (ドキッ)」

父親「しかしそういう堅物では、女を幸せにするのは難しいぞ? リヴァイ君」

リヴァイ「ええっと……」

ハンジ「お父さん! 誘惑するのは止めて!」

父親「すまんすまん。そちらも予定があるなら仕方がない。無理には言わんよ」

しかしビールの誘惑が、チラチラと覗かせる。

リヴァイ「泥酔しても、知りませんよ?」

父親「おや? 本音が見えて来たか?」

リヴァイ「あまり得意ではないんですよ。泥酔する姿を人に晒すのは」

父親「上等じゃないか。むしろ見せて貰おうか。君の限界を」

リヴァイ「分かりました。挑まれたからには、限界までいきましょう」

ハンジ「え? じゃあ本当にこっちに泊まるの?」

リヴァイ「すまん。引っ越しは明日の午後からに変更してくれ」

ハンジ「いや、まあ…そういう事ならいいけど。無理してない?」

リヴァイ「酒自体は嫌いじゃねえよ。ただ………もしもの時は頼んだぞ」

ハンジ「う、うん」

そして男2人による飲み比べの競争が起きたのだった。

ハンジはその様子を心配そうに見つめながら、自分もちょっとだけビールを飲んだ。

ハンジ(意外だった。リヴァイ、あんまり予定を変更するのは好きじゃないのに)

グビグビグビ……

美味しそうにビールや日本酒を飲み干す様子に色気を感じてうっかりドキッとする。

ハンジ(やだ……なんか、いつものリヴァイとちょっと違うなあ)

会社の飲み会では殆どアルコールは入れない。自分の為の酒もそう多くは飲まないのに。

酒に溺れていく様子にハンジはハラハラしながら見守った。

そして夜の10時を過ぎた頃、やっとお互いに手を止めた。

父親「クソ……若いな。やっぱり」

リヴァイ「もういいですか?」

父親「なかなかの兵だという事は分かった。わしの方がもう限界だ。今日はここで勘弁してやろう」

リヴァイ「良かった。俺もそろそろ限界だったんで……(ぼーっ)」

大体、4時間くらいかけての耐久レースに勝利したリヴァイはその場で飯台に潰れた。

ハンジ「ぎゃあ?! やっぱり無理したんじゃないの!」

リヴァイ「ん? いや、別に。無理してねえけど」

ハンジ「顔、相当赤いよ! 大丈夫?! お父さんも、顔赤いし!」

父親「ははは! 酒飲んだら顔が赤くなるのは当然だろうが」

ハンジ「そうだけど! ええっと、立てる? リヴァイ」

リヴァイ「無理だな。運んでくれ」

ハンジ「私が使っていた部屋でイイかな? 布団敷いてくるね」

和室の空き部屋に布団を敷いてそこに寝かせる事にした。

リヴァイをおんぶしてそこに寝かせて、そして……。


グイッ……!


ハンジ「ん? ぎゃあ?!」

ハンジを自分の隣に引っ張り込んで口角を釣り上げるリヴァイだった。

ハンジ「な、なに?」

リヴァイ「一緒に寝るぞ」

ハンジ「酒臭いのに?! えええ……」

リヴァイ「嫌なのか?」

ハンジ「匂いきついんだけどなあ。まあ、しょうがないか」

リヴァイ「そこは『匂いきついから無理!』って跳ね除けろよ」

ハンジ「ええ? そっちが正解なの?」

リヴァイ「いや、其の時は『無理と言われるとしたくなる』と返して押し倒す予定だった」

ハンジ「どっちにしろ、一緒に寝るんじゃないか! アホか!」

リヴァイ「そういうのがいいんだろ?」

ハンジ「ええ? 注文が多いなあ……」

リヴァイ「まあ、どっちでも正解なんだけどな」

ハンジ「じゃあ、どっちでもいいじゃん」

リヴァイ「そうだな。という訳で一緒に寝よう(グイッ)」

布団の中に引っ張り込まれて困惑するハンジだった。

ハンジ「あの、リヴァイ……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「今日は、私の両親が家にいる自覚はある?」

リヴァイ「ああ……あるぞ」

ハンジ「じゃあ、今日は流石にしないよね?」

リヴァイ「いや、するけど」

ハンジ「はい?! いや、ちょっと待て。無茶言うな。あっ……」

さわさわ……

リヴァイの手は既にハンジの太ももを捕えていた。

ハンジ「えっと、その気になってます?」

リヴァイ「こっちは24時間営業中だ。いつでも構わん」

ハンジ「こっちは出来れば2人きりの時の限定にして欲しいんだけど……あ」

だがいやらしい手つきは止まらない。

ハンジ「待って待って。本気で待って。うちのアパート、安いし、声、聴かれちゃうってば」

リヴァイ「新婚だからその辺は大目に見るだろ」

ハンジ「いやいやいや、よそのお宅に聞かれるのが一番嫌だよ! 防音設備のいいリヴァイの自宅マンションとは勝手が違うから……って、ああっ!」

思わず、嬌声が跳ねあがりそうになって慌てて口を閉じた。

ハンジ「まずいって……ねえ、お願いだから鎮めてよ(小声)」

リヴァイ(じーっ)

ハンジ「今の声も、外に聞こえたかも。嫌だよ。近所のおばちゃんとかにからかわれるのは(小声)」

リヴァイ(じーっ)

ハンジ「それにその……両親が隣の部屋にいるの考えたら、その……(小声)」

リヴァイ(じーっ)

ハンジ「何でさっきからだんまりでじっと見るのよ(小声)」

リヴァイ「ハンジは可愛いなと思って見ていた(小声)」

ハンジ「話が脱線していませんかね?(小声)」

リヴァイ「いや、全然脱線していない。いい女だなあ。お前は(小声)」

ハンジ「な……どの辺が? (小声)」

リヴァイ「やっと恥じらうところをまともに見たなと思ってな(小声)」

そう答えて、リヴァイはハンジの唇に自分の唇をしっとりと重ねた。

ハンジ「ん………んー」

話をはぐらかされた気がしてハンジが抵抗するがそれを押さえつけるようにして深いキスをした。

そのうちにだんだん、力が抜けて抵抗出来なくなっていくハンジだった。

ハンジ「はあ……はあ……もう! (バシッ!)」

頭を軽くはたいてやると、リヴァイが半眼になって言い返した。

リヴァイ「なんだ? 何か文句あるのか?」

ハンジ「大いにある。何でキスしたのよ」

リヴァイ「自分で考えろって言っただろ」

ハンジ「今のはどう考えても話を誤魔化す為だよね?」

リヴァイ「不正解だ。全く違う」

ハンジ「じゃあ何なのよ」

リヴァイ「まだダメか……」

ハンジ「何が?」

リヴァイ「今夜こそ、堕としてみせたいんだが……」

ハンジ「え?」

リヴァイ「まだ全然ダメだな。俺もまだまだだな」

そう言ってリヴァイは残念そうに眉を顰める。

リヴァイ「どうしたらいいんだろうな? お前の中に、どうやって入って行けばいい?」

ハンジ「…………」

リヴァイ「何もかも忘れて、もっと俺を欲しがるハンジが見てみたいのに」

ハンジ「!」

リヴァイ「理性的な女だって事は知っているが、たまにそれが憎たらしい」

ハンジ「えっと…その……」

顔に血が集まってきて、ハンジは目を逸らしてしまった。

ハンジ「えっと、もしかして、口説いているの? 其の為にキスするの?」

リヴァイ「それ以外に理由なんているのか?」

ハンジ「ええ……えええ?!」

リヴァイ「おいおい、本気で言っているのか? お前は。何で今更驚いているんだ?」

ハンジ「だって、だって……その」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「な、なんか、恥ずかしいんだけど」

リヴァイ「だろうな。俺はもっと恥ずかしい」

ハンジ「じゃあ、なんでするのよ!」

リヴァイ「お前を堕としたいからに決まっているだろ」

ハンジ「いや、そうか。そこにループするのか」

と、何故か納得するハンジだった。

顔を俯かせたハンジの眼鏡を勝手に奪ってその辺に放置する。

ハンジ「あ! 眼鏡!」

リヴァイ「もう外していいだろ。一緒に寝るんだから」

ハンジ「いや、そうだけど。歯もまだ磨いてないのに」

リヴァイ「ああ……じゃあ、寝る準備してくるか?」

ハンジ「出来ればそうさせて欲しいんだけど。リヴァイも寝る前は歯を磨くでしょ?」

リヴァイ「まあ、そうだな。しかしそうしたいのは山々だが、体を起こすのが面倒だ」

ハンジ「ええ? じゃあ、歯ブラシこっちに持ってきた方がいい?」

リヴァイ「そうして貰えるなら、嬉しいが」

ハンジ「そこまで体動かすのだるい癖に何でエッチはしたがるの?!」

リヴァイ「男はそういう生き物だ」

ハンジ「それは初めて知りました。あーもう。しょうがないなあ」

ハンジは一度離れて、眼鏡をかけなおして歯ブラシと水を入れたコップと洗面器を持ってきた。

ハンジ「はい、ここで歯磨いて寝ちゃいましょ」

リヴァイ「ん……」

身体を上半身だけ起こして、いつもの習慣を行う。

歯を磨いて口の中を濯いで、洗面器に吐き出して、ハンジが洗面器を片付けて部屋に戻って来た直後、リヴァイは辛抱堪らずハンジに抱き付いた。

ハンジ「!」

リヴァイ「ハンジ……」

布団の中で再び夫婦の時間が始まる。

ハンジ「あ、いや……その、リヴァイ……なんか、今日、変じゃない?」

リヴァイ「そうか? いつも通りのような気もするが」

ハンジ「深酒したせいかな。初めての夜より、ギラギラしているように見えるよ」

リヴァイ「ああ………そういう意味か。確かにそうかもしれないな」

リヴァイの手先はハンジの髪に絡みつく。

髪を遊ばせながら、彼は耳元で言った。小さな声で。

リヴァイ「あの時はまだ、本気出してねえしな」

ハンジ「はい?!」

リヴァイ「久々にやる女を前に本気でガンガン突っ込むわけにはいかんだろ」

ハンジ「え……ちょっと待って。アレで本気じゃないって……」

リヴァイ「力は50%程度しか出してねえよ。あの時は極力、ハンジを気遣って抱いた」

ハンジ「そ、そうだったんだ……」

リヴァイ「本気でやったら、ハンジは次の日に立てなくなるかもしれん。それでもいいなら、本気を出すが?」

ハンジ「ダメだよ! 明日はお引越しの予定が入っているし! 午後に延期して中止とか、ダメでしょ! もうさっき引っ越し業者に連絡入れたし、これ以上変更したら面倒だよ!」

リヴァイ「そういうところが、憎たらしいのに好きなんだよな」

ハンジ「えええ?」

リヴァイ「いや、すまん。俺も今、結構酔っているからな。聞き流してくれ」

そう言いながらリヴァイはハンジの唇に自分の唇を重ねた。

酒の匂いに包まれながらハンジは両目を閉じる。

眼鏡が邪魔になるから、リヴァイはそれを外して丁寧に避けた。

ハンジ(どーしよう……)

キスをされながらハンジは思った。

ハンジ(なんか、どんどん、気持ち良くなってくる)

身体が慣れてきたせいだろうか? それとも……。

ハンジ(リヴァイは不安がっているけど、私、リヴァイの事、好きだと思うんだけどなあ)

リヴァイの主張にやっぱり首を傾げてしまうハンジだった。

ハンジ(そりゃあ、このままガンガンやっちゃって、リヴァイの好きにさせたい気持ちもあるけれど)

両目を閉じながら考える。

ハンジ(引っ越しを早く完了させたいのは、リヴァイとの未来の時間をもっと増やしたいからなのに)

そう思う自分がいるのに、それは好きとは違うのだろうか?

ハンジ(どうしたら、リヴァイを不安がらせないで済むんだろう?)

ハンジは考えた。リヴァイの望む事をしてあげたいと思って。

ハンジ(ねえ、リヴァイ。私、今、凄く幸せだよ。どうしたら、この気持ちを伝えられるの?)

目を開けてじっと見つめると、リヴァイの方は目を閉じていた。

ハンジ(いい顔しているよね。イケメンだよ。なんでこの人が私を好いてくれるんだろ?)

両腕をぐっと背中に回して自分の方に引き寄せた。

リヴァイ「ん………」

行為に耽っている最中、リヴァイの手が素早くハンジの衣服を外していく。

前のボタンを外して手を中に入れていく様子が少しだけ性急だった。

ハンジ(もしかして、もっと私、欲深くなってもいいのかな?)

理性的なところが憎たらしいのに好きだと言われてしまったなら。

逆に感情的に行動を起こしたらどうなってしまうのだろう?

ハンジ(感情的に行動したら嫌われないのかな? リヴァイ、どういう反応をするのかな?)

受け身でいるだけではダメなような気がして、ハンジは自分もリヴァイの衣服に手をかけた。

リヴァイ「ん……?」

その様子に気づいてリヴァイは目を下に落とした。

リヴァイ「何、やっているんだ?」

ハンジ「いや、脱がそうと思って、ええっと、こうかな?」

スカーフを緩めて、胸元を晒すとそこに綺麗な鎖骨が見えた。

第一ボタンを外して、第二ボタンを外そうとした其の時、その手を止められてしまった。

リヴァイ「いや、やらなくていい。自分で外す」

ハンジ「なんで?」

リヴァイ「そこまでサービス過剰にせんでもいい」

ハンジ「サービス? 別にサービスじゃないよ。脱がせてあげたくなったのよ」

リヴァイ「え?」

ハンジ「だから、その………まあ、実験?」

リヴァイ「実験?」

ハンジ「私の方からいろいろして、リヴァイはどう反応するのかなっていう」

からかうように笑うと、リヴァイの眉間に皺が寄った。

リヴァイ「それを知ってどうするつもりだ」

ハンジ「え? だから、理性的な女が憎たらしいなら、逆に好き勝手にやる感情的な時の私はどうなるのかなって」

リヴァイ「………お前、馬鹿か?」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「そう考えている時点で既に『理性的』に行動しているって事に気づいてねえのか?」

ハンジ「え? あー……あ、そっか」

ハンジは手を止めて気づいてしまった。

ハンジ「感情的に動くってそういう事じゃないか。ええと、じゃあ、どうしたらリヴァイは喜んでくれるのかなあ?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「だから、リヴァイにも喜んで欲しいのよ。どうしたらいいかなあ?」

リヴァイ「………ッ」

其の時、リヴァイは拳を作ってぐっと耐えた。

ハンジ「ん? 震えているけど、どうした?」

リヴァイ「またか。また、お前に先に堕とされるのか、俺は」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「ハンジ、お前、俺をどうしたいんだよ」

ハンジ「その質問、前にも聞いたような?」

リヴァイ「あんまり調子に乗らせるなって前にも言ったのに」

ハンジ「え? なんで調子に乗るの?」

リヴァイ「俺の方ばっかり、幸せな気がするのが怖いな」

ハンジ「ちょっと待て。まずそこがおかしい。その認識をまず改めて欲しいんだけど」

リヴァイ「何で」

ハンジ「私、今、本当に幸せなんだってば。どう言ったら納得してくれるのよ」

リヴァイ「……………」

リヴァイの方は、もう涙腺が崩壊寸前だった。

リヴァイ「……………気が変わった」

ハンジ「え?」

リヴァイ「明日の事なんか、もうしらん」

ハンジ「え?!」

其の時、理性が完全に切れたリヴァイは自分の中の獣を完全に解放した。

そして脱がされたスカーフをハンジの口に咥えさせて、声を遮断させる。

ハンジ「?!」

リヴァイ「もう知らん。お前が悪い。もう俺も本気出す」

ハンジ(ええええええ?!)

リヴァイ「明日の事は明日、考える。覚悟しろよ、ハンジ」

そしてその日の夜は、畳の部屋で、激しい夜を過ごしてしまったのだった。

今回はここまで。
続きはまた次回。ではではノシ








元旦の姫初めがまさかここまで激しい物になるとは予想もしていなかったハンジだった。

目が覚めると、我に返る。現実に帰ってきた直後、腰の周りに筋肉が引き攣る感覚が奔って、ビクンと体が抵抗した。

ハンジ(う、動けない……)

よく考えたら、2日連続でセックスをしたのだ。

今までご無沙汰だった分、その反動が余計に感じられてハンジはグロテスクな気分に陥っていた。

ハンジ(最初の時と全然、違った。きっつ……!)

手加減したという意味が理解出来た。これはセックスというよりも、

ハンジ(なんか、3セットマッチのテニスをした後のような倦怠感なんだけど)

スポーツに近い感じのセックスを味わって、身体が悲鳴をあげていたのだ。

ハンジ(最近、体を動かすのサボっていたから余計にきつい……)

仕事をするようになってからは、外回りで歩き回る程度の運動はしていたが、それ以外の筋肉は余り使っていなかった。

ハンジ(使っていなかった筋肉をフル稼働させた感覚がある。というか、リヴァイ、体力あり過ぎ!!)

イイ体をしているとは思っていたがまさかここまで凄いとは思わなかった。

しかも酒が入っていてこれなのだ。素面で本気出していたらと思うともっとぞっとする。

ハンジ(あーどうしよう? 今日、引っ越しする予定だったのに。これじゃあ今日は1日、何も出来ないよ)

しくしく。感情に流された自分に落ち込んでいると、リヴァイがのそのそ起き出した。

リヴァイ「……………」

目が合って、気まずい空気が流れた。

リヴァイ「…………すまん」

すぐに謝ってきたが、謝るくらいなら手加減して欲しかったハンジだった。

リヴァイ「理性吹っ飛んだ。なんかもう、気持ち良すぎて」

ハンジ「だよね。というか、ゴム無しでやりましたね?」

リヴァイ「う………」

ハンジ「計画的に子供を作ろうって言ったのに……」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「ううーん。リヴァイって、結構、アレだね。キレたら衝動的に行動しちゃう時もあるんだ?」

リヴァイ「………………そうだな」

少しの間の後にリヴァイは肯定した。

リヴァイ「元々の性格は短気な方だ。仕事中は極力そうしないように気をつけているだけだ」

ハンジ「いや、私も似たようなもんだからそこはいいとして」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「やっちゃった事をグダグダ言ってもしょうがないでしょうが。それより、先の事を考えないと」

リヴァイ「…………」

ハンジ「えっと、今日やったからと言って、妊娠する可能性は限りなく低いです」

リヴァイ「安全日だったのか?」

ハンジ「生理開始予定日4日前だったからね。ただ、可能性は0%ではありません」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「女の体は不思議なもので。妊娠しやすい時期にやったからといって必ずしも出来る訳じゃないし、出来ないと思われた時期にやったら妊娠したりする事もあるのよね」

リヴァイ「妊娠しちまえばいいのに」

ハンジ「あーた、ちょっと短絡的過ぎよ? いや、出来たらちゃんと産むけどさ。問題はそこじゃなくて」

リヴァイ「勝手に押し倒した事を怒っているんだろ」

ハンジ「そこでもなくて」

リヴァイ「じゃあどこを怒っているんだ?」

ハンジ「何で、私が幸せじゃないって思うのよ」

リヴァイは口を閉じてしまった。

ハンジ「なんか、そこのズレがどうしても気になるのよね。自分ばっかり幸せで怖いとか何とか。その言い分、変じゃないの?」

リヴァイ「………………」

ハンジ「私、ちゃんとリヴァイの事、好きだよ。なのにどうして不安そうな顔をするの?」

リヴァイ「そういう顔をしているのか?」

ハンジ「怯えているように見えるよ。何がそんなに怖いのよ」

リヴァイ「お前が、俺を幸せにするからだろうが」

リヴァイはきつく両目を閉じて反論した。

リヴァイ「こんなに浮かれている自分が、おかしいって思っている。ハンジの何気ない一言にいつも振り回されているんだよ」

ハンジ「そんなに酷いのかしら?」

リヴァイ「自覚ねえから余計に性質が悪い。だからクソ眼鏡なんだよ」

ハンジ「あれ?! クソ眼鏡ってそういう意味で使っていたの?!」

リヴァイ「そうだ。やっと気づいたか。この鈍感女が」

ハンジ「だって、悪口かと思っていたんで」

リヴァイ「愛情と憎悪を込めて言っている。意味は両方だ」

ハンジ「じゃあ、間違ってはいないのか。ううーん」

リヴァイ「何を考え込んでいるんだよ」

ハンジ「いや、その………私、本当は早めに自分の荷物、リヴァイの家に運び入れたいと思っていたけど、そういう事なら、無理にしない方が良かったのかなって思って」

リヴァイ「え?」

ハンジ「だって、早めに引っ越ししたいと思っていたのは私の希望であって、リヴァイの希望じゃないでしょ。今日みたいに、リヴァイの好きなやり方でセックスしたいって思うなら、予定変更した方がいい訳だし」

リヴァイ「…………ちょっと待て、今、なんて言った?」

ハンジ「え? 早めに引っ越ししたいって」

リヴァイ「その後の、私の希望って……」

ハンジ「ああ、だから、リヴァイとの時間、増やせるように早めにそうしたいと思っていたんだけど」

ズルー……

リヴァイが再び力を抜いた。

ハンジ「何、落ち込んでいるの?」

リヴァイ「クソ眼鏡、お前、そういう事は先に言え!!!」

ハンジ「あれ? 言ってなかったけ?」

リヴァイ「聞いてない。お前自身の気持ちの方は聞いてない」

ハンジ「あらら。いっけね☆」

リヴァイ「誤魔化すな。いや、これは聞かなかった俺の方も悪いか」

シュン……

反省するリヴァイの様子にハンジはまたもや腹を抱えて笑いを堪えた。

リヴァイ「何で笑う?」

ハンジ「だって、分かりそうなもんじゃない。引っ越しを急いでいるのに、何でそこは察してくれないのよ」

リヴァイ「単に、スケジュールの都合上でそうしたんだとばかり」

ハンジ「私自身にそういう気持ちがないなら、引っ越しそのものをのんびりマイペースにやりますよ。急ぐ意味を考えてくれなかったの?」

リヴァイ「……………そこにお前の感情が入っていたのか?」

ハンジ「あなたも人の事、言えないじゃない。鈍感だね」

リヴァイ「いや、でも……本当か?」

ハンジ「何でそこで疑うのかな?」

リヴァイ「疑う癖がついているのかもしれん。これは職業病か?」

ハンジ「ああ、成程。だったら仕方がないか」

そう思ってハンジは改めて答えた。

ハンジ「リヴァイだけが幸せな訳じゃないってこれで分かったかな?」

リヴァイ「信じていいのか?」

ハンジ「形は違うかもしれないけど。お互いの熱量が違うって意味も理解はしているけど。多分、私の場合は恋愛に対する自分の中の%が人より少なめなだけだと思うよ」

と、言いながら、部屋の中のノートを取ってと、リヴァイに頼む。

ペンも一緒に持って来て貰って、布団の中でゴロゴロしながら図解するハンジだった。

ハンジ「リヴァイの頭の中を仮に100%で全体を表すとして、仕事が50%、恋愛が50%だとするよ?」

リヴァイ「恋愛の方が70%くらいありそうな気もするが」

ハンジ「あれ?! 意外と恋愛脳なの? 乙女だね!」

リヴァイ「家に帰ったら真っ先に仕事の事を忘れるようにしているんだから、俺の人生の中では仕事は50%も占めてねえよ」

ハンジ「ええ? でも、仕事は凄く真面目で熱心なのに?」

リヴァイ「失敗したら休日返上でフォローに回らないといけなくなるからな。それが嫌で真面目にやっているんだよ。休日の為に働いているんだ」

ハンジ「あらら。意外だなあ。私、リヴァイは仕事人間だと思っていたよ。私より、熱意ないんだ?」

リヴァイ「仕事はあくまで生きていく為の手段だ。俺の場合は治療費と……後、もう一人、面倒をみてやった男がいたから、そいつの学費の為に頑張っていただけだ」

ハンジ「以前、同居していたもう一人の男の人の事だね?」

リヴァイ「そうだ。あいつは頭が良かった。医者になりたいと言っていたから、その為に必要な金は俺が肩代わりしてやった。今は脳の勉強をする為にアメリカに留学中だ」

ハンジ「それってもしかして……もう一人の彼女の為に?」

ハンジがそう察して問うとリヴァイは頷いた。

リヴァイ「そうだ。絶望的だと分かっていても何かせずにはいられない。そう言い残してあいつは旅立った。最近は会ってねえが、たまにメールは来るから一応、元気にはしているようだ」

ハンジ「そっか。リヴァイの場合は仕事そのものにそこまで執着心がないんだね」

リヴァイ「ハンジの方が俺より余程仕事熱心だろ」

ハンジ「女の中じゃ、そうかもしれない。私、仕事するの好きだしね」

リヴァイ「俺の場合は自分に出来る仕事で、ある程度稼げればそれでいいと思っている。本来なら苦手な分野は余りやりたくないと思っているが」

ハンジ「じゃあ、リヴァイは恋愛70%、仕事30%ってところなの?」

リヴァイ「恋愛70%、仕事10%、休日20%ってところだな」

ハンジ「仕事の優先順位ひっく! え……そんだけ熱意ないのに営業最強って呼ばれるのってある意味凄いね」

リヴァイ「その異名も正直、微妙なんだけどな(ズーン)」

ハンジ「仕事熱心な人間から見たら困惑されそうな頭の中だね。仕事出来るのに、仕事の事をあんまり考えてないって意外だな」

リヴァイ「かもしれんな。いや、俺だけじゃねえけどな。エルヴィンとかピクシス部長も似たようなもんだろ」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「仕事をいち早く終わらせて帰りたいから、仕事をいかに早く終わらせられるか命賭けで考えるんだよ。効率を考えて、1分でも早く家に帰って、残りの時間を自分の為に使いたい。そう思う人間ほど、仕事を捌くのが早い気がする」

ハンジ「目から鱗の論理だよ! そっかあ。そういう考え方は有りかもしれないね!」

リヴァイ「………なんか話が脱線したような気がするが?」

ハンジ「あ、そうだった。ええっと、つまり頭の中の%の話の続きだけど」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「私の場合は多分、仕事70%、恋愛20%、休日10%くらいだと思うんだよね」

リヴァイ「20%しかないのか……(ズーン)」

ハンジ「いや、だからその20%のMAXの状態なのよ。今は」

リヴァイ「え?」

ハンジ「元々の許容量がそれだけしかないから、そこに強い依存心もない代わりに、MAX以上の愛情表現も苦手なだけかも? と私は思ったんだけど」

リヴァイ「それはつまり、今までのハンジの人生の中で過去最高の恋愛を経験していると受け取っていいのか?」

ハンジ「そうだよ。今は20%程度だけど、それが徐々に大きくなるかもしれないし、それは今後の展開次第じゃない?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ここまで言えば、もう分かるよね? リヴァイは不安になる必要性がないって事が」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。だからあんまり悲しそうな顔をしないで欲しいな。折角、一緒に居るんだし」

リヴァイ「分かった。ハンジ」

ハンジ「分かってくれた? (ほっ)」

リヴァイ「ムラムラしてきたから、もう1回やろう(キリッ)」

ハンジ「人の話聞いてない?! え? 流石にもう無理だよ! というか、引っ越しの件、どうするのよ! 今、何時? もう11時じゃないか!」

リヴァイ「ああ……なんかもう、ハンジの家具は全部、新調してもいい気がしてきた」

ハンジ「ダメ過ぎるでしょ! ちょっと、頭おかしいよ?! 冷静になって!」

リヴァイ「すまん。引っ越し業者には今から連絡して延期して貰おう」

ハンジ「本当に面倒臭い事するねえ……」

リヴァイ「風邪でも引いて体調を崩した事にすればいいだろ。インフルエンザにでもかかった事にしよう」

ハンジ「いや、インフルエンザは大げさだから、普通に体調不良でいいって」

リヴァイ「じゃあそうするか。ちょっと待ってろ」

という訳で、本当に引っ越しの件を延期するリヴァイだった。

そんなリヴァイのけだるげな様子にハンジはちょっと呆れ返っている。

電話で延期をし終えると、リヴァイは再び布団の中に潜り込んでハンジに肌を擦り合わせた。

リヴァイ「はあ……」

ハンジ「まだ酒の匂い、残っているね。二日酔い大丈夫?」

リヴァイ「気分は別に悪くねえよ。吐き気もねえし。ハンジに酔っている自覚はあるが」

ハンジ「そのさらりと気障な事を言う癖はなんなのよ」

リヴァイ「ん? そう感じたのか?」

ハンジ「狙った訳じゃないんだ? こそばゆいからやめて欲しいんだけど」

リヴァイ「断る。俺を堕としたハンジの責任だ」

ハンジ「だから、何がどうなってそうなったのか、こっちはさっぱりなんだってば」

リヴァイ「………………クソ眼鏡が」

ハンジ「はいはい。もうそれでいいです。ええっと、だったら今日は一日、実家でゆっくりする?」

リヴァイ「そうさせて貰えるなら助かる」

ハンジ「引っ越しの件は明日、出来る範囲でやって、残った場合は後日に回しましょうか」

リヴァイ「ああ。すまんな」

ハンジ「いいよ。私もリヴァイの気持ちをちゃんと確認していなかったのが悪いし」

リヴァイ「……………好きだ」

ハンジ「! いきなり何?!」

ハンジがちょっとだけ照れると、リヴァイは再びため息をついた。

リヴァイ「もう何なんだろうな? いっそ仕事辞めて専業主夫になったらダメか?」

ハンジ「えええ? リヴァイ、そういう願望があるの?」

リヴァイ「ハンジが稼いでくれるなら、それでもいいと思っているぞ」

ハンジ「……………」

ハンジは少しだけ真剣に考えた。それは悪くないかもしれないと思ってしまった自分がいる。

ハンジ「ちょっと待ってね。リヴァイ」

リヴァイ「あ、すまん。流石にそれはドン引きするよな。聞き流して……」

ハンジ「いや、そうじゃなくて。それ、案外悪くないよね」

リヴァイ「え?」

リヴァイの方がきょとんとなる。

ハンジ「だって、リヴァイってそこまで仕事熱心じゃないんでしょ? 私の方が収入は少ないけど、それはリヴァイがやりくりすればかえって経済的な気もするし」

リヴァイ「…………」

ハンジ「あ、でも例の彼女の件の治療費を含めて考えたら、足りない可能性もあるか。彼女の分も私が賄うとしたら……私が副業して仕事増やしちゃえばいいかも?」

リヴァイ「待て、ハンジ。ちょっと待て」

計算し始めたハンジを無理やり引き止めた。

リヴァイ「今のは、冗談だからな? 真に受けるな」

ハンジ「え? 冗談だったの?」

リヴァイ「すまん。その……こうやってハンジと一緒にダラダラ休日を過ごせる幸せに浸り続けたい欲望が出てきたせいで、現実逃避しただけだ」

ハンジ「なんだ。そういう事か」

リヴァイ「休み明けに出勤したくねえって、思わず思っただけだ。あんまり本気にするな」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「女の肌にずっと触れていたいだけだ。男なんてそんなもんだ」

ハンジ「ダメ人間じゃん」

リヴァイ「皆、そんなもんだろ。その為に仕事するようなもんだ」

ハンジ「なんかもう、リヴァイのイメージがどんどん変わっていくなあ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「でも、悪くないね。そういう今まで見えなかったところをもっと見たいよ」

リヴァイ「幻滅するぞ。いつかは」

ハンジ「そうかな? 今のところ、そういう気配はないけど」

リヴァイ「さっき、呆れ返っていただろ? 違うのか?」

ハンジ「ああ、引っ越しの件を延期した時? それはそうだね」

リヴァイ「はっきり言ったな」

ハンジ「だって、二度手間じゃない。その手間が面倒だなって思う方だから、私は」

リヴァイ「まあ、そうだろうな。でも俺はハンジとの時間を優先したかった」

ハンジ「私は未来のリヴァイとの時間の為に動いていたんだけどね」

リヴァイ「その件を先に知っていれば、ハンジに合わせたんだけどな」

ハンジ「はい、その点は私も至らなかったので反省します。ま、こういう細かいすれ違いは良くある事だから、水に流しましょうか。お互いに」

リヴァイ「そうだな。………体の方は大丈夫か?」

ハンジ「正直言えばバキバキです。腰回り、しんどい」

リヴァイ「そうか………」

ハンジ「私も学生時代はそれなりに体鍛えていたけど、社会人になってからは以前ほど身体を動かしてなかったからね。多分、明後日くらいが筋肉痛のピークになるかもしれないなあ」

リヴァイ「スポーツを何かやっていたのか?」

ハンジ「えっと、空手と硬式テニス。中学時代に空手部、高校でテニスをやっていたよ」

リヴァイ「テニスって、あのミニスカートでボールを追いかける球技か?」

ハンジ「はい、エロい目で見ましたね? 間違ってはいないけど、そういう目で見ないように」

リヴァイ「無理だろ。当時のハンジの写真は残ってないのか? 見せてくれ」

ハンジ「あーアルバムあるかなあ? 卒業アルバム、探してみないと分かんない」

リヴァイ「勝手に漁っていいか?」

ハンジ「まあ、いいけど」

許可を貰ったので、リヴァイは服を着なおしてからハンジの使用していた部屋を漁ってみた。

本棚の中には学生時代の教科書などもそのまま放置されている。

その古い本棚の中に卒業アルバムも一緒に入っていたので取り出してみる。

リヴァイ「これか?」

ハンジ「あーそれそれ。懐かしいな。何年ぶりにアルバム開くか覚えてない」

リヴァイ「ハンジは……これか。成程。いいミニスカートだ」

ハンジ「そればっかりか! いや、まあ……ミニスカートに食いつくのは仕方がないんだろうけど」

リヴァイ「すまん。ついつい。この当時も眼鏡だったのか」

ハンジ「あー私は小学生の頃から眼鏡っ子でしたよ。視力悪くなるの早かったからね」

リヴァイ「小学生の頃のハンジも見ていいか?」

ハンジ「あーもう、小中高全部見てもいいよ。大して変わってないから」

ハンジの言葉は本当だった。確かに余り外見に差がないように見えた。

リヴァイ「おい、小学生の時点でこの背丈ってどういう事だ?」

ハンジ「ああ……小学六年生、つまり12歳の時点で165cmありましたからね」

リヴァイはそれを聞いてハンジの頭をぐりぐりした。

ハンジ「嫉妬をぶつけないで! 身長だけはどうしようもないでしょうが!」

リヴァイ「羨ましい奴め」

ハンジ「当時は嫌だったよ。女でこの身長だったのは。特に小学生の頃は」

リヴァイ「何で」

ハンジ「だって、その………からかわれたし」

リヴァイ「男子に?」

ハンジ「そうそう。小学生の頃は『のっぽ』でからかわれて、中学に入ったら『貧乳』の方面でよくからかわれたなあ」

リヴァイ「当時、からかってきた男子を殴りに行って来ていいか?」

ハンジ「ダメだよ! 今更仕返ししても意味ないから!」

リヴァイ「それって、ハンジがその男子から好かれていただけじゃねえのか?」

ハンジ「え? そ、そうかな? それはないと思うけど……」

リヴァイ「分からんぞ? 案外。単に触りたかっただけかもしれんしな」

ハンジ「あー確かに中学時代は男子が女子の背中を触るのが流行っていたのはあったけど」

リヴァイ「は?」

ハンジ「こう、いきなり背後に忍び寄って背中を「つつつ」って指で触って逃げるだけっていう、変な遊びが流行っていたよ。私もその被害に何回か遭ったな」

リヴァイ「やっぱり、当時のそいつらを今から殴りに行こう(ギリッ)」

ハンジ「拳作らないで! え、そういうのって、普通じゃないの?」

リヴァイ「俺のいた中学じゃそんなのはなかったな」

ハンジ「そうなんだ。じゃあ地域が違うとそんなもんかな」

リヴァイ「高校時代のハンジはテニスが強かったのか?」

ハンジ「まあ、そうだね。今はテニスしていないけど、当時はそれなりに強かったと思うよ。私、背丈あったから、テニスに向いているって誘われて入ってみたんだ。実際にやってみたら結構、面白くてね。相手を分析して、弱点突いて、リターンが決まった時とか最高だったよ!」

リヴァイ「そうか……テニスウェアを着たハンジを見てみたいな」

ハンジ「えええ? この年でスコートはくの?! それは勘弁……」

リヴァイ「年は関係ねえだろ。ついでに俺にもテニスを教えてくれ」

ハンジ「あら、リヴァイはテニスやった事ないの?」

リヴァイ「ないな。ルールも碌に知らない。球を打ち合うって程度の事しか知らない」

ハンジ「そっかあ。じゃあ今度、ゆっくり出来る時間が出来たら一緒にやってみようか」

未来の約束が増えて心ひそかに喜ぶリヴァイだった。

その感情がつい、手を動かして、ハンジの背中に回る。

まだ裸のまま、布団の中にいるハンジは、その手癖にびくっと反応した。

ハンジ「な、なに……?」

リヴァイ「いや、触りたいだけだが?」

ハンジ「ええっと、体痛いから、これ以上はちょっと」

リヴァイ「筋肉を解しておかなくていいのか? ケアなら出来るぞ」

ハンジ「マッサージ出来るの? いやでも……何か途中で違う方向に行きそうだなあ」

リヴァイ「バレたか」

ハンジ「いや、バレるでしょ。もー……私の何がそこまでリヴァイを動かしているんだろうね? 謎過ぎる」

リヴァイ「…………」

ハンジ「嬉しいけど、ちょっと怖いな。リヴァイを独占しちゃって本当にいいのかな?」

リヴァイ「独占というより、土足で部屋の中に入って来たようなもんだけどな」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「いや、何でもねえ。これ以上、ヒントをいう訳にもいかねえよ」

ハンジ「今の、ヒントなの?! ううーん。土足で部屋に入った覚えないけど」

リヴァイ「あくまで感覚的な例えだ。これ以上はタダでは説明してやらねえ。して欲しいなら、こっちも要求したい事がある」

ハンジ「な、なに?」

リヴァイ「今度、テニスウェアを着て見せてくれ(キリッ)」

ハンジ「そこお?! そこ、そんなに重要なの?!」

リヴァイ「重要に決まっているだろ。最優先事項だ(キリッ)」

ハンジ「ええええ………困ったなあ」

ハンジは赤面して本当に困ってしまった。

リヴァイ(じーっ)

ハンジ「分かった! 分かったから、じっと見つめないでくれないかな」

リヴァイ「だったら、ハンジの胸でも眺めるか(じーっ)」

ハンジ「余計悪い! もーリヴァイ、どんどん遠慮が無くなって来たね?」

リヴァイ「言っただろ? 会社じゃ猫被っているって」

ハンジ「いい加減、私も服を着ようかな。どこいったっけ?」

リヴァイ「ああ……ここにあるぞ」

ハンジ「なんかいつの間にか畳まれている。畳んだ覚えがないんだけど」

リヴァイ「ハンジが気絶した後、ちゃんと畳んでおいたぞ」

ハンジ「そういうところは気遣えるのに、何でセックスの最中はイケイケだったんですかね?」

リヴァイ「昨日はハンジが俺を煽ったせいだろ」

ハンジ「そんなに煽りましたかね?」

リヴァイ「ほらな? 自覚がねえ。だからクソ眼鏡だって言ってんだろ」

ハンジ「なんか、その言い方はちょっとムカつくなあ。まるで私が悪いような言い方だね」

リヴァイ「…………いや、悪いのは俺だけどな」

ハンジ「そしてそこですぐ反省するのもずるい!」

リヴァイ「じゃあどうしろって言うんだ?」

ハンジ「ヒント、もうちょっと欲しいな」

リヴァイ「テニスウェアが先だ」

ハンジ「うぐっ……分かった。だったらそれで手を打つか」

交渉で負けてしまったようだ。ハンジはそこを妥協点にした。

テニスウェアを着たハンジを妄想したら、ぐぐっと自分の息子が復活してしまい、リヴァイはついつい赤面する。

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「いや、なんか……すまん、ハンジ」

ちゅ……

ハンジ「?! ん……ちょ……何? 突然、あっ……」

ハンジ(もう、唐突過ぎる! 流石にこれ以上セックスするのはしんどいって、言ったのに!)

しかしリヴァイのキスは全く止まらない。

ハンジ(あっ……もう……馬鹿っ………強引なのにっ……)

少しずつ覚え始めたリヴァイのやり方に合わせてしまう自分がいた。

ハンジはそんな自分に気づいて、自分もまた赤面する。

ハンジ(気持ちいいから、拒否出来ないなあ……全くもう!)

そんな風に、2人が再び盛り上がりかけた其の時………

母親「いつまで寝ているのー? もうすぐお昼になるわよー?」

ふすま越しに母親の声が聞こえて慌てて動きを止めるリヴァイだった。

リヴァイ「!?」

ハンジ「あ、はーい。起きまーす」

キスを止めて体をよいしょっと起こすハンジだった。

リヴァイ(ドキドキドキドキ)

ハンジ「あはは! タオルが入ったね。今日はここまでって事だよ」

リヴァイ「す、すまん(シュン)」

ハンジ「お昼、食べようか? 着替えるから手伝って」

リヴァイ「あ、ああ……(赤面中)」

ハンジ「立てるかな? んーまあ、いけなくはないか。よいしょ」

筋肉がパンパンに張っているのを感じながらも、ハンジは立ち上がって着替えを済ませて居間に顔を出した。

どうやら父親はまだぐーすか寝ているようだ。

母親「ふふ……」

母親は全てを察しているようだった。

母親「出来るだけ早いうちに子供の姿を見せて頂戴ね。お母さんも、年だから、孫の面倒は早い方が助かるわ」

ハンジ「やっぱりそうきたか。はいはい。分かっていますよ。もー」

昨日の正月料理の残りを頂きながら親子の会話をする2人だった。

今回はちょっと時間ないのでここまで。
続きはまた次回。ノシ。
乙してくれる人、いつもありがとうございます。





次の日。引っ越し業者に頼んでハンジの家の大きな家具を運んで貰う事になった。ベッドと本棚はリヴァイの家に運び入れて、使っていたテーブルやリビング用のソファはリサイクルショップに引き取ってもらった。

時間に余裕を持って当初は2日間にかけて作業をするつもりだったが、そこは流石プロだ。短縮になった作業時間でもきっちり仕事を終わらせてくれたのだった。

ハンジ「すみません。無理言って」

業者「いや、大丈夫っすよ。むしろ基本は1日で仕上げる方が多いので、いつも通りですし」

という訳で、1月3日を持って、ハンジは正式にリヴァイの家に移り住む事になったのだった。

リヴァイ「ハンジ。俺の家の合鍵を渡しておく」

ハンジ「あ、そっか。はいはい」

チャリン♪

リヴァイ「鍵、失くさないように気を付けろよ」

ハンジ「うん。気を付けるよ」

リヴァイ「この後はどうする?」

ハンジ「向こうの部屋の掃除をして、大家さんに挨拶して、不動産屋にも鍵を返しにいかないといけないね」

リヴァイ「分かった。じゃあ一緒に行くぞ」

そして一通り、やるべき事をやり終えたらすっかり夜になった。

ハンジ「ふー終わった……あたたた」

リヴァイ「大丈夫か?」

ハンジ「年ですかね? 今頃になって筋肉痛が激しくなってきた」

リヴァイ「そんなに腰を振らせたか」

ハンジ「ガンガンやってきたのはそっちでしょうが。リヴァイは平気そうだね」

リヴァイ「伊達に鍛えてないからな」

ハンジ「格闘技、やっていた身体っぽいね。柔道? 剣道? レスリング?」

リヴァイ「…………ノーコメントだ」

ハンジ「ずるーい。当てろって事?」

リヴァイ「さて、夕食は何を食べるかな」

ハンジ(本気で答える気がないようだ。ちぇ)

口を尖らせてテーブルの席についていると、リヴァイは夕食の準備に取り掛かった。

少し時間は遅くなったが、これから2人の夜の時間だ。

野菜を切る音がキッチンにリズムよく響いている。その後姿をハンジがじっと見つめていた。

ハンジ(でも、本当に不思議だな)

ハンジの口元はついついにやけた。

ハンジ(腰、細い方なのに脱ぐと結構、筋肉あったよね。着痩せするタイプみたいだ)

背中から腰にかけての筋肉のラインをじーっと眺めてみる。

ハンジ(背丈は小さいけど。いい身体しているよね。リヴァイは)

リヴァイの背中をじっと見つめていたら、ドキドキしている自分がいた。

ハンジ(あ、しまった。これじゃあやっている事はただのスケベ親父と一緒だな。私は)

リヴァイ「テレビつけないのか?」

リヴァイは振り向かないでそうハンジに言う。

ハンジ「え? ああ……そうだね。テレビでも見るかあ」

ぽちっ……

適当な夜のバラエティ番組をBGMにして、でも結局視線は、

ハンジ(リヴァイの料理する様子、本当、手際がいい。うちの母も料理作るの早いけど。同じくらい早い気がするよ)

リヴァイの方に向かってしまう。

リヴァイ「…………何でさっきからこっちを見ている?」

其の時、流石に視線に気づいてリヴァイが振り向いた。

ハンジ「え? ああ……ごめん。邪魔だった?」

リヴァイ「いや、邪魔ではないんだが、腹減っているのか? もう少し待っていろ」

そして出来上がったのは、何故かそばだった。

ハンジ「あれま。年明けなのにそばなのか」

リヴァイ「年越しそば作り忘れたのと、引っ越しそばという事で」

ハンジ「なーるほど。頂きます(パン!)」

ずるずる……ずるずる……

ハンジ「おいしー!」

リヴァイ「ちゃんと噛んで食べろよ」

ハンジ「うん! うま! なにこれ? お店のそばより美味い気がするんだけど」

リヴァイ「そう言ってくれるなら嬉しいが」

ハンジ「リヴァイ、職業を間違えたんじゃない? 料理人に転職しないの?」

リヴァイ「俺の場合、安定した収入を優先しないといけないからな。料理人は博打の面もあるから難しい」

ハンジ「そうか……もし失敗したら借金抱えちゃうか。でも、リヴァイの作るご飯は美味しいから、店も繁盛しそうだけど」

リヴァイ「お世辞でも嬉しいもんだな」

ハンジ「お世辞じゃないって! あ、でも店を経営するのって料理の腕だけじゃダメっていうよね。店員の教育も大事だし、何より店の経営学も学ばないといけないし」

リヴァイ「自分の城を持つのは並大抵の事じゃねえからな。俺の場合は趣味で十分だ」

ハンジ「そっか……」

リヴァイ「それにハンジと違う職場で働いたら、会える時間も減っちまうだろ」

ハンジ「おお……さり気に甘い台詞を吐きますね?」

リヴァイ「なんか文句あるのか?」

ハンジ「いや、さらりと言われると、こっちもどう反応して良いのやら」

リヴァイ「何でそこで赤面してくれねえんだよ」

ハンジ「期待していたの?」

リヴァイ「まあな。難しいな。俺も頑張っているんだがな……」

そばを食べながら困惑顔になる様子にハンジはつい、ふき出してしまった。

リヴァイ「何で笑う?」

ハンジ「リヴァイが脳内%の比率を恋愛70%って言っていた意味がちょっと分かった気がする」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「そんなに頑張らなくてもいいのに」

リヴァイ「頑張っちゃいけないのか?」

ハンジ「なんかズレているような気がするよ。1回冷静になった方がいいって」

リヴァイ「うーん」

ハンジ「いや、気障な台詞が嫌だって話じゃないのよ? でも、やり過ぎると鳥肌立ってくるから程ほどにして欲しいのよ」

リヴァイ「それって効果がないって事なのか? ハンジにとっては」

ハンジ「そこじゃない感はあるね。私、別に口説かれたい訳じゃないし」

リヴァイ「な、なんだと……? (ざわっ)」

ハンジ「何で驚いているの?」

リヴァイ「いや、女なのに、口説かれたくないとか初めて聞いたぞ」

ハンジ「あらそう? 過去の女とは違うのかしら?」

リヴァイ「いや、そういう意味じゃなくて、その……」

ハンジ「ああ……もしかして、そういう「攻略本」を読んだとか? アレ、あんまり当てにしない方がいいよ。書かれている内容は、一部の女子向けだから。万人がそうである訳ないでしょうが」

リヴァイ「!」

リヴァイは箸を止めてしまった。

リヴァイ「何で分かった? というか、当てにしない方がいいのか」

ハンジ「いや、今の会話の流れで分からない方がアホだと思うけど」

リヴァイ「クソ………恥ずかしい(顔隠し)」

ハンジ(ぶふー!)

ハンジの腹筋がますます鍛えられてしまった。

ハンジ「やだもう……真面目なのもそこまで行くと国宝級だよ。何やっているのよリヴァイは」

リヴァイ「し、仕方がねえだろ! 俺もこういう浮かれた気分になるのは初めての経験で……」

ハンジ「え? 初めて? 嘘だー」

リヴァイ「何で信じない?」

ハンジ「だって、それって私が初恋って事? 遅咲きにも程がある……」

リヴァイ「…………」

ハンジ「え? 否定しないの? 本当に?」

ハンジ「え? ガチで? 本当に? 私が、初めての恋愛相手なの?」

リヴァイ「ハンジは、いつ初恋をしたんだ?」

ハンジ「こっちの質問の答えがまだですが?」

リヴァイ「そっちが答えたら答える」

ハンジ「またずるい事言い出して……あーもう。私の初恋は、多分、中学生の時だよ。でもフラれました。以上」

リヴァイ「何で」

ハンジ「ええっと『自分より背高い女と付き合うのはしんどいから無理』だって言われたの。以上」

リヴァイ「……………」

ハンジ「はい。答えたからそっちも本当の事を話して」

リヴァイ「………そうだと言ったら引かないか?」

ハンジ「何で? 別に引かないよ。むしろすげえって思うけど」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「でも、セックスの方は腕がいいから、童貞は早めに捨てたタイプと見た」

リヴァイ(ぶほっ)

リヴァイは再びふいてしまった。

リヴァイ「クソ……なんでバレた」

ハンジ「いや、あれだけいろいろやってくれる男が初めてとかありえんわ」

リヴァイ「………………」

ハンジ「まあ、男の人だしね。どうせ童貞はプロのお姉様に手ほどき受けて捨てさせて貰ったんでしょ? 若い頃に」

リヴァイ「なんでハンジはそんなにサバサバしているんだ?」

ハンジ「あーヤキモチ妬いて欲しかったの?」

リヴァイ「嫌悪感ねえのか? 風俗とか」

ハンジ「ん? んー……何だろね? あるんだけど、ないような?」

リヴァイ「どっちだよ」

ハンジ「風俗の役割は、社会には必要な部分だっていうのは理解しているのよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「でも、出来ればあんまり直視はしたくないかな。女の立場から言わせればね」

リヴァイ「それは、行くなとは言わない。みたいに聞こえるが」

ハンジ「行って欲しくないけど、行かないでとは言わない。が正解だよ。いや、結婚したのに風俗行くようなのは流石に許容出来ませんよ? でも独身の男性だったら、そこは仕方がない部分かもね? くらいの感覚かな。私にとっては」

リヴァイ「自分の彼氏が風俗行ったらキレないか?」

ハンジ「私が言いたいのはフリーの独身男性の方だよ。パートナーがいる状態だったら行ったらダメだよ。不誠実でしょうが」

リヴァイ「成程。それを聞いて少し安心した」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「行って欲しくないって思っているって事だろ。そこまで自由にさせられたら逆に不安になる」

ハンジ「ん? そういうものなの?」

リヴァイ「ハンジにどの程度、愛されているのか未だに測りかねている。信じていない訳じゃねえけど。これは俺の方のエゴだろうな。きっと」

ハンジ「エゴ……ねえ」

リヴァイ「ハンジに我儘を言って欲しいって思っている自分がいる。でも、頼んでどうこう出来る問題でもねえよな」

ハンジ「え? 私、最初にとんでもない我儘を言っていますよ? 既に」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「貰い手ないから貰ってくれって言ったんでしょ? それが我儘じゃないなら、何が我儘なのか分からなくない?」

リヴァイ「………………」

リヴァイはまたもや、顔に血が集まって項垂れてしまった。

ハンジ「ん? 何かおかしい事、言った? あれ?」

リヴァイ「いや、そう言われたらそうなるんだろうが。クソ……油断した」

ハンジ「はい?」

リヴァイ「そんなのは、我儘じゃねえって、今、思っちまった時点で俺の負けじゃねえか」

ハンジ「リヴァイは何と勝負しているのかな?」

リヴァイ「ハンジとだろ。惚れた方が負けってよく言うじゃねえか」

ハンジ「あー確かに。それはよく聞く話ではありますね」

リヴァイ「やっぱりどう考えても、俺の方が浮かれ過ぎだな。クソ……」

悔しそうにそばを食べ終えるリヴァイだった。

ハンジも粗方食べ終えて、汁を飲み干す。

ハンジ「ん~……そこってそんなに重要な事なのかなあ?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私から見たら、両方浮かれるより、片方が少し冷静な方が丁度いいと思うけど」

リヴァイ「そう思うのか?」

ハンジ「うん。今までの経験上、両方が浮かれまくって勢いで結婚したカップルはすぐ破局するパターン多いよ?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「結婚してすぐ離婚してバツイチでシングルマザーの子もそこそこいるし。勿論、幸せな家庭を築いて頑張っている子もいるけど。成功している子のご家庭を見ていると、どちらかというと、旦那が嫁に惚れ込んでいる方がうまくいっているように思えるけどな」

リヴァイ「じゃあ、今のままの方がかえってうまくいくんだろうか?」

ハンジ「それはやってみないと分からないけど。でも、我儘を言っていいなら、私も少し考えるよ」

リヴァイ「ほぅ……何を言うつもりだ?」

ハンジ「ええっと、とりあえず今夜は夜の営みはお預け日って事で」

リヴァイ(ピシッ)

ハンジ「流石に三連荘は無理です。一日、筋肉疲労をとる時間を下さい。若い頃ならいけたと思うけど、ちょっとしんどい」

リヴァイ(ズーン)

ハンジ「リヴァイが体力有り余っているのは分かったから、私も出来るだけ筋トレして昔の体に近づける努力はするから。それまでちょい待って」

リヴァイ「……分かった」

ハンジ「そう言う訳で、今日は先に寝かせてね。くれぐれも、夜這いは仕掛けないように」

リヴァイ「部屋の鍵、かけるつもりか?」

ハンジ「そこまではしないけど。あ、部屋って内鍵かけられたっけ?」

リヴァイ「一応、そういう仕様にはなっているが、内鍵はかけないでくれ。頼む」

ハンジ「了解。じゃ、そういう事でお先♪」

ハンジがさっさと新しい自室に引っ込んでしまったので、残されたリヴァイはその場で落ち込んでしまった。

しかし、其の時、リヴァイは沸いてきた感情にまた悩まされてしまう。

リヴァイ(これが俗にいう『お預けプレイ』ってやつか……)

悪くない。そう言ったらきっと、ドン引きされるに違いない。

こっそり頬を赤らめながら、一人で皿洗いをするリヴァイだった。






そして月日が流れて結納の日取りを決めた1月10日。

その日の正午、リヴァイとハンジはハンジの両親と共に食事の席につく約束をしていた。

しかしその直前、リヴァイの元に緊急の連絡が入ってしまう。

リヴァイ「どうした? エルヴィン?」

エルヴィン部長からの緊急連絡だった。

その内容を聞いて瞬時に仕事の時の顔に変わるリヴァイだった。

エルヴィン『すまない。リヴァイ。緊急事態だ。新人のエレン君がやらかした』

リヴァイ「何を」

エルヴィン『スケジュールのブッキングだ。取引先の契約する時間帯を、間違えて二か所、重ねて請け負ってしまったそうだ。今、私は九州に出張に出ているからそっちに戻れない。片方の取引先はミケに向かわせるが、もう一つの方はエレン君だけではきっと対応しきれないと思う。リヴァイ、本当に申し訳ないんだが、今から現地に向かってくれないか』

リヴァイ「少し待て。ハンジに確認する」

リヴァイは一度、電話を離してハンジに言った。

リヴァイ「ブッキングをやらかした新人がいるそうだ。今からフォローに向かわないとまずいそうだが」

ハンジ「えええ? 誰がやらかしたの?」

リヴァイ「新卒のエレンとか言ったか。確か、男にしては目の大きい顔の」

ハンジ「ああ、あの子か! あちゃー。こういう日に限ってやらかしたか」

リヴァイ「すまん。エルヴィンが泣きついてきたんだが……」

ハンジ「いいよ。こういう時は仕方がないよ。いってらっしゃい」

リヴァイ「本当にいいのか? お前にとって大事な席なのに」

ハンジ「ん? 仕事の方が大事だよ。何で迷うの?」

リヴァイ「………………すまん」

リヴァイは苦痛の表情を浮かべながら仕事の準備に取り掛かった。

まだ自宅を出ていなかったのが幸いだった。

リヴァイ「後で必ず、お父さんとお母さんに謝罪しに行くから。それまで頼む」

ハンジ「うん。もし手におえない感じだったら私も応援に駆けつけるからね」

リヴァイは後ろ髪を引かれる思いを抱えながら急いで自宅を出た。

ハンジの方は独りで両親の元へ行って事情を説明したのだが、

父親「何だって? それで、本当に仕事を優先したのか。お前の旦那は」

ハンジ「私が許可を出したのよ。しょうがないでしょ。エルヴィン部長が動けない場合はリヴァイ主任が動くしかないんだもの」

母親「でも、折角の結納の日取りに……」

ハンジ「結納の方はまた別の日にしてもいいじゃない」

父親「そういう話をしている訳じゃない。ハンジ、お前、厄介な男を旦那にしたな」

ハンジ「え? 何で」

父親「そうか。リヴァイ君の本質が見えた気がするな」

正装をした父親は複雑そうな表情で娘に言った。

母親「そうね。ハンジは苦労するかもしれないわね」

ハンジ「え? え? 何で? 何でそんなに2人とも悲しそうな顔をするのよ」

父親「ううーん」

ハンジ「お父さん?」

父親「怒らないで聞いてくれるか?」

ハンジ「う、うん」

父親「リヴァイ君は今日、ちゃんと休日を取っておったんだろ?」

ハンジ「そうだね。前もって申請していたけど、でも営業職はトラブルが起きたら休日返上は当たり前の世界だし」

父親「いや、それは分かっている。わしも激務と呼ばれる部署で働いた経験もあるからな」

ハンジ「だったら……」

父親「だが、それとこれとは別問題だ。ハンジ。それを言い出していたら、家庭を築く事は出来ないぞ」

ハンジ「え………」

父親は真剣な表情で話を続けた。

父親「今日はハンジにとっては大事な日だった筈だ。それを優先出来ないような男であるなら、そのしわ寄せはハンジ、お前にくるんだぞ」

ハンジ「しわ寄せ? どういう意味なの?」

父親「今回はたまたま結納という、変更のきく物だから良かったが、これがもしも、それこそ、ハンジの一大事だった場合はどうするんだ」

母親「出産とか、事故とか、いろいろあるわね」

父親「そうだ。職場でも緊急事態は起きる事もあるだろうが、それは家庭でも同じだ。そういう時に、彼はちゃんとハンジの方を選んでくれるのかね?」

ハンジ「そ、それは………」

父親「もしかして彼は職場では、仕事をポンポン任せられる優秀な男ではないのか?」

ハンジ「そりゃ主任だからね。営業部営業課のまとめ役だし」

エルヴィンが営業部の部長で、営業課の一番トップがリヴァイになる。

営業部営業課と営業部事務課の二つを束ねているのがエルヴィンなので、営業課のトラブルが起きた場合、エルヴィンが動けない場合はリヴァイが動かないといけなくなるのだ。

父親「所謂、中間職はしわ寄せがきやすいのは分かってはいるが……それでも、自分の事をある程度出来るように会社でうまく立ち回れない男であるなら、彼はいずれ、会社に食い殺されるぞ」

ハンジ「え……? (ざわ…)」

何だかその言い方が嫌な感じだった。

父親「冗談では言っておらん。わしは今まで、そうやって真面目に働いて、心身ともに会社に食い殺されて……酷い場合は自殺して亡くなった方も多々見てきている」

ハンジ「自殺? え……そうなの?」

父親「過労で心身症になった奴もいたりした。そういう奴の共通点はこういう場合、仕事を優先するような『不器用なお人好し』なんだよ」

ハンジ「……………」

父親「悪い事は言わん。ハンジ、まだ籍を正式に入れてないのなら、一度頭を冷静にして考えなさい。愛だけでは、結婚生活はやってはいけないぞ」

母親「勿論、愛も必要だとは思うけどね。でも、ハンジ自身が苦労する覚悟を持てないなら、この縁を考え直した方がいいわ」

ハンジ「苦労する覚悟?」

父親「最悪の場合、リヴァイ君自身を失うかもしれない覚悟だ。勿論、そうさせないようにハンジがうまく舵取りをしないといかんぞ」

ハンジ「……………」

ハンジは両親の言い分にすぐに返事が出来ず黙り込んでしまった。

ハンジ「そうだね。分かった。ちょっと一度、冷静になってみる」

ハンジはそう答えて、両親の言葉をまっすぐ受け入れたのだった。





結局その日一日は休日返上でトラブルの対応に追われてしまい、リヴァイが自宅に帰り着いたのは夜の10時を過ぎてしまった。

リヴァイ「ただいま……」

ハンジ「おかえりなさい」

リヴァイ「すまん。少々長引いてしまった。はあ……」

ハンジ「取引先とのトラブル、しんどかったの?」

リヴァイ「とりあえず怒りは宥めてきたが……あのエレンとかいう新人、俺と同じくらい短気だ。あいつ、営業には向いてねえんじゃねえか?」

ハンジ「その向いてないリヴァイが主任やっているんだから大丈夫じゃない?」

リヴァイ「俺の場合は、ハンジがいたからここまでやってこられた部分もあるぞ」

ハンジ「へ? そうだったの?」

リヴァイ「ああ。話した事はなかったか? 俺はハンジが入社してくる前の一年前、つまり入社したての一年目はそりゃあもう、ダメ社員だった」

昔の事を懐かしく思い出しながらリヴァイは着替えて部屋着になる。

リヴァイ「営業部事務課を希望していたのに、営業課の方に回されてやる気ないのもあって、仕事でトラブルを抱えてしまう事も多かった。ただ入社したてですぐ辞めて転職するのは印象悪いし、とりあえず一年だけは堪えてやってみるかと思って、ダメながらも続けた。そして二年目に入ってハンジと出会って………俺はその後に少しだけ変われたんだよ」

ハンジ「私、何かしたっけ?」

リヴァイ「いや別に? ハンジは何もしてねえけど。でも、ハンジがいつも、営業から帰って来たメンバーに『おかえりー!』とか、出て行く時は『いってらっしゃい!』みたいな挨拶していただろ? あれに和んでいる自分に気づいてから少しずつ仕事に対する苛つきが収まっている自分に気づいた」

ハンジ「へーそうだったんだ」

リヴァイ「ああ。ハンジは女性で初めて営業課の方に配属された女だっていうのもあったから、当時はマスコットみたいな扱いだったよな」

ハンジ「入社当時はそうだったね。皆、ちやほやしてくれたっけ」

リヴァイ「ああ。俺も仕事に疲れて営業部に戻って来た時に、ハンジの一声で元気になっていた時もあった。恐らく俺だけじゃねえ。皆、お前に陰で助けられていたと思うぞ」

ハンジ「そういう効果があったとは! 全く気づいてなかったよ」

リヴァイ「別に男を堕とそうとしてやっていた訳じゃなかったのか」

ハンジ「気分は応援団のそれです。入社当時すぐは外回りの仕事に連れていかれなかったからね。営業事務とは別の、なんだろ……留守番係みたいな事ばっかりさせられていたからね。当時は暇だったんだよ」

リヴァイ「そうだとしても、やっぱりハンジの存在は大きかった。俺はむしろ、何でさっさと結婚退職しねえんだろう? ってずっと思っていたんだぞ」

ハンジ「あー……そうだったんだ?」

リヴァイ「全くコナかけられてない訳じゃなかっただろ? 特に若い頃は」

ハンジ「まあ、そうだね。でも、何かそれが嫌だったんだ」

リヴァイ「何で」

ハンジ「うーん。だって私、まだ何もしてないような気がして」

リヴァイ「何も?」

ハンジ「そう。折角就職したんだから、ちゃんと仕事をやってみたかった。最初のうちは取るに足らない仕事ばかりだったけど、でも全部、ちゃんとやったよ。お茶くみから、コピーも。営業事務の方に回して良さそうな物も何故か私に仕事が回ってきていたけど。私の方が仕事早いから、だんだん私に皆、回してくるようになっちゃったけど。でもいつか、営業課に配属されたからには、ちゃんと一度、営業の仕事もやってみたかった。だから粘ったんだよ」

リヴァイ「俺より余程、優秀だな」

ハンジ「そうかな? でも契約数じゃリヴァイには敵わないよ」

リヴァイ「俺の場合はエルヴィンの支えがあるって言っただろ」

ハンジ「そうだとしても、そのシナリオを活用できるのはリヴァイだからこそでしょ?」

リヴァイ「…………」

ハンジ「まあ、本当は開発の方を希望していたけど。でも、営業は営業で楽しいって思えるようになったから、だんだん嵌ってきてね。頑張るようになってからは、男性社員がライバルになってしまったから、それからは距離が出来てしまって、寂しい思いもしてきたよ。リヴァイだけは、そういう差別をしてこなかったから、ついつい甘えていたかもしれない」

リヴァイ「……………成程」

ハンジ「でもね、今日、ちょっと両親といろいろ話して……頭の中、整理したんだ」

リヴァイ「え……?」

ハンジ「真面目な話をしてもいいかな?」

ハンジはそう言って、テーブルの席に座ってお互いに向かい合うように促した。

席についてからリヴァイは頷いた。

リヴァイ「いいぞ」

ハンジ「あのね。今日、両親に『愛だけでは、結婚生活はやってはいけない』って釘を刺されたんだ」

リヴァイ「………今日の事、やはり怒ってらっしゃったんだな」

ハンジ「いや、全然。むしろ心配している様子だった。リヴァイの本質が見えたとか言っていたよ」

リヴァイ「俺の本質?」

ハンジ「リヴァイは『不器用なお人好し』なんだってさ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「リヴァイみたいな真面目なタイプは会社に食い殺されやすいみたいな事も言っていたよ。今回、自分の事を放置して会社の為に動いたでしょ? そういうのを続けていたらいずれ会社に食い殺されるって事だと思うんだ」

リヴァイ「仕事かハンジか、どちらかを取る場合、ハンジを取らなかった俺を責めているんだよな」

ハンジ「責めるという言い方はちょっと違うと思う。今回の場合は私が「行け」いって指示したようなもんだし」

リヴァイ「しかしご両親から見たら印象は悪かっただろ」

ハンジ「そうだとは思うけど。問題はそこじゃない」

リヴァイ「どこだよ」

ハンジ「本当は、私を取りたかったのに、仕事を選んでしまった事じゃないかな」

リヴァイ「当たり前だろ。本音はハンジを優先したかった」

ハンジ「その板挟みの状態が、ストレスになってリヴァイを傷つけるんじゃないの?」

リヴァイ「………」

ハンジ「こういう言い方すると、リヴァイは傷つくかもしれないけど、もし立場が逆だった場合は、私はストレスにはならないと思うんだよね」

リヴァイ「そうなのか?」

ハンジ「うん。すぐ気持ちを切り替えられると思う。優先順位が仕事寄りだから。もしそれで破局しても、仕方がないかと思う方だから」

リヴァイ「そうか……」

ハンジ「そんな悲しい顔をしないで。それは決してリヴァイを愛していないという意味じゃない」

リヴァイ「…………」

ハンジ「考え方の違いって奴だよ。リヴァイは私よりも情が深い人間だから。義理とか感情で動いてしまう方でしょう?」

リヴァイ「エルヴィンの失敗だったら、絶対手助けにはいかねえな」

ハンジ「やっぱりね。部下の失敗だったから、行っちゃったんでしょう?」

リヴァイ「オルオが新人の教育係をしていたからな。あいつ、絶対、自分を責めるし、フォローしてやらんと後々響くと思って」

ハンジ「やっぱり。そうだよね。リヴァイは根が優しい人だから」

リヴァイ「でも………俺はハンジを選ばなかった訳だしな」

ハンジ「そこで自分を責めてストレスを感じるのが一番よくない」

リヴァイ「う………」

ハンジ「ねえ、リヴァイ。提案があるんだけど」

リヴァイ「なんだ?」

ハンジ「私、リヴァイさえ良ければ、リヴァイを養う覚悟はあるよ」

リヴァイ「は?」

その言葉を受け止めて間抜けな声が出た。

リヴァイ「何でお前が俺を養うんだよ」

ハンジ「リヴァイの人生の優先順位を考えた上での結論です」

リヴァイ「優先順位って……」

ハンジ「恋愛70%だって言ったでしょ? それって、私を優先したいって意味じゃないの?」

リヴァイ「……そうなるか」

ハンジ「だったら、無理してここで仕事する意味、なくない?」

リヴァイ「何でそうなる?」

ハンジ「金を稼げる仕事なら営業職以外でもいくらでもあるよ。営業職に未練がないなら転職してもいいと思うよ」

リヴァイ「今のご時世、そう簡単に転職は出来ねえだろ」

ハンジ「まあ、そうだろうけど。だったらせめて移動を願い出るとか」

リヴァイ「それは毎年やっている。営業事務課か、庶務課か、会計事務課とか、その辺の方が本来の俺の性格に合っている」

ハンジ「だろうね。でも、それが出来ない訳だから、私は仕事を辞めてリヴァイは専業主夫を選ぶという道も有りだと思うよ」

リヴァイ「本気で言っているのか?」

ハンジ「あくまで道の一つだけど。リヴァイが苦しそうな顔をして家を出て行ったのを見ていたら、私も苦しくなったんだ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「一番怖いのは、知らず知らずのうちにストレスを溜めこみ過ぎて、ある日突然、リヴァイの体を病魔が蝕む事だよ」

リヴァイ「!」

ハンジ「リヴァイ、体が強いでしょ。健康過ぎる程だ。でも、だからこそ無理が利くから、異変に気付いた時は既に遅いなんて事もあるかもしれないよ?」

リヴァイ「まるでそういう人を見てきたような言い方だな」

ハンジ「うちの祖父がそうだったの。だから若くして過労で亡くなったそうだよ」

リヴァイ「そうか……」

ハンジ「うん。勿論、お金が足りないっていうなら、今すぐに変更は出来ないけど。私はリヴァイが仕事優先で生きても全然大丈夫だけど、リヴァイ自身がそれを負担に思うなら意味がないと思うんだ」

リヴァイ「それは……とても難しい選択だな」

ハンジ「なんで?」

リヴァイ「ご両親になんと思われるだろうか?」

ハンジ「そりゃあごちゃごちゃは言われると思うけど。周りに気遣っていたら自分のやりたい事なんて出来ないよ」

リヴァイ「いや、待て。俺はハンジがご両親に責められるような事はしたくない」

ハンジ「でもそれはリヴァイの気持ちを犠牲にするって事じゃない?」

リヴァイ「そんな事はない。俺はハンジのご両親とは仲良くやっていきたいと思っているぞ。その為には俺自身、ちゃんと働いていないとまずいだろ」

ハンジ「世間体を気にしていたら何も出来ないよ」

リヴァイ「それだけじゃない。イザベルの治療費の件もあるし、ファーランにも金が足りない時は今も支援してやっている。俺自身、今の収入源を減らしたくはないんだ」

ハンジ「彼女の名前、初めて聞いたよ。その彼の方も」

リヴァイ「ああ、すまん。言いそびれていた」

ハンジ「その子達の件も、私がなんとかしてみせるってば」

リヴァイ「そこまで甘えられるか。ハンジには関係ない話だろ」

ハンジ「だったら、どうすれば一番いいのかな?」

ハンジ自身、煮詰まって頭を悩ませ始めた。

ハンジ「こういうのって、誰かに相談した方がいいのかな? エルヴィンにも話してみる?」

リヴァイ「そうだな。2人だけで話しても結論が出ないような気がする」

ハンジ「じゃあ、この件は一旦、保留って事で棚上げしようか」

と、言いながら棚上げする動作をするハンジだった。

そんな彼女の様子に、リヴァイは悲しげに言い返す。

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「何?」

リヴァイ「お前、そんなに仕事が好きなのか」

ハンジ「え? まあ……リヴァイがいない時は、仕事が恋人みたいな部分もありましたしね」

リヴァイ「クソ……嫉妬する」

ハンジ「仕事に嫉妬するってどういう事よ?!」

リヴァイ「そのままの意味だが?」

ハンジ「ややこしい性格しているね。私から見たら、仕事を愛していないのに、仕事が出来るリヴァイの方が不思議だけど」

リヴァイ「その件でエルヴィンやピクシス部長にも話を振ってみたが、奴らは俺より酷かったぞ」

ハンジ「どういう意味?」

リヴァイ「仕事に関してエルヴィンは5%、ピクシス部長に至っては3%しか頭の中にないと断言された」

ハンジ「超少ないな! え……何その法則。仕事愛してない奴らに限って仕事出来る法則があるのか?! 腹立ってくるけど」

リヴァイ「エルヴィンは休日90%、残り5%は恋愛だと言い切った。ピクシス部長には残りの97%を女の事を考えていると言い切られたけどな」

ハンジ「ピクシス部長、エロ過ぎる! いや、エルヴィンの90%の休日も気になるけど!」

リヴァイ「人間としてアレ過ぎる奴ほど仕事が出来る法則と言えるかもしれん。それを考えたら、俺なんかまだまだだ」

ハンジ「ううーん。何だかいろいろ思うところが出てきてしまうよ」

リヴァイ「ハンジみたいに仕事をモリモリ頑張る女の方が世間から見たら珍しいんだよ」

ハンジ「そうなのかな?」

リヴァイ「俺から見たら羨ましいとさえ思う。俺は毎日、けだるげに出勤して、家に帰る頃になると元気になるからな」

ハンジ「そうなんだ。だったらますます、家に居た方がいいんじゃない?」

リヴァイ「家に居たら、どんどんダメ人間になりそうな予感もある」

ハンジ「引き籠っちゃう?」

リヴァイ「スーパーやコンビニには買い物に行くけどな。その形が一番理想的だと思う自分もいるが、そこまで甘えるのが怖いとも思うんだよ」

ハンジ「何が怖いの?」

リヴァイ「ハンジには理解しづらい感覚だろうな。ハンジにこれ以上、嵌ったら怖いって事だ」

ハンジ「ん? んー? うーん」

リヴァイ「ほらな。やっぱり分かってねえ」

ハンジ「うん。ごめん……」

リヴァイ「もう十分、俺はハンジにいろいろして貰っている。これ以上は贅沢だろ」

ハンジ「リヴァイもそう思うんだ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私もその点に関しては同意するよ。でもだからこそ、リヴァイに無理はさせたくないな」

リヴァイ「………………」

ハンジ「明日、エルヴィンに時間を作って貰おうか。昼休みとか。一緒にご飯しよ」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「じゃあ、今夜は少し早めに寝ようか。疲れているでしょ」

リヴァイ「いや、全然。疲れは吹っ飛んだ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「むしろ今からの時間の方が本番だ。ハンジ、今夜は一緒に寝ていいか?」

ハンジ「あー……あんまり激し過ぎないなら、いいけど」

リヴァイ「ご両親に今日の件を今日中に電話で謝罪しておいた方がいいか?」

ハンジ「その辺は明日の方がいいかもしれない。もう夜だし。夜に電話すると話が長くなるかもしれないよ」

リヴァイ「分かった。明日の朝一だな。出勤前に電話させて貰おう」

ハンジ「うん」

そして2人はリヴァイの部屋の方に一緒に入ってベッドインした。

ハンジ「夕食は外で取って来たの?」

リヴァイ「一応な。エレンが酷く青ざめていたし、食わせてやってきた」

ハンジ「いい上司だね。男の子なのにたらしこんじゃったんだ?」

リヴァイ「俺は別にそっちの趣味はねえよ」

ハンジ「いやー分かんないよ? 向こうに惚れられたりして」

リヴァイ「………そういう意味じゃオルオの方が余程俺に惚れているように見えるな」

ハンジ「モテモテだね! 浮気しちゃダメだぞ」

リヴァイ「え?」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「いや…………クソ、油断した」

ハンジ「え? 何が?」

リヴァイ「ハンジ、お前どんどん可愛くなっていくな」

ハンジ「え? そう?」

リヴァイ「やっぱり今夜も本気出そうかな……」

ハンジ「ダメだって言っているでしょうが! 肉離れ起こさせたら流石にキレますからね?!」

リヴァイ「筋トレやっているか?」

ハンジ「いきなりは戻せません。ブランクあるんだから大目に見てよ」

リヴァイ「了解。今夜は優しく抱いてやる」

そして部屋の灯りを消して、2人は夜をゆっくりと過ごしたのだった。

今回はここまで。
次回また。ノシ





翌日の昼休み。エルヴィンとリヴァイとハンジは会社の営業部の中で一緒に昼食を取っていた。

エルヴィン「え……? 何でそれを先に言わなかったんだ」

エルヴィンは事情を聞いて少しだけ額に汗を浮かべた。

エルヴィン「そんな大事な用事が入っていたのを先に知っていれば、リヴァイに仕事を回さなかったよ。というより、籍を既に入れているのに結納を後でやるってどういう事なんだ?」

ハンジ「あー実はね、両親はまだ籍を入れてないって思い込んでいるの。順番がね、ほら」

リヴァイ「手順を間違えたら両親の心証が悪くなるだろ。だから嘘をついている状態なんだ」

ハンジ「騙して悪いとは思っているけどね。でもそれで円滑にいくならそっちの方がいいでしょ?」

エルヴィン「そうだったのか」

ハンジ「御免ね。事情を先に説明しておけばよかったね」

エルヴィン「いや、まあ辻褄を合わせているなら仕方がない。そうか。だからか」

リヴァイ「すまん。だからその……今後についていろいろ迷っている状態なんだ」

リヴァイは自作の弁当を食べながら言った。

リヴァイ「俺自身は、本当なら営業事務の方の仕事をしたいんだが、移動は難しいんだろうか?」

エルヴィン「営業事務ねえ。宝の持ち腐れになるよ」

リヴァイ「欠員が出る予定もないか?」

エルヴィン「営業事務のキース主任に聞いてみないと分からないけど、もし欠員が出たとしても新入社員で賄うかもしれない」

リヴァイ「そうか……」

エルヴィン「なまじ実力があり過ぎるから、前線に出ざる負えないんだよね。リヴァイの場合は」

リヴァイ「エルヴィンが陰で助けてくれるおかげだ。一人じゃハンジの半分も契約を取って来られる自信はない」

ハンジ「いや、でもそれでも十分凄いと思うけど」

エルヴィン「そうだよ。リヴァイの武器は、営業でこそ一番威力を発揮する」

リヴァイ「俺の武器?」

エルヴィン「リヴァイの持つ最強の武器だ。君は『信頼』に足る男だって事だよ。ほら、私はなんとなく、胡散臭い感じがするだろ? だから営業には向いてないんだよ」

リヴァイ「そういうもんだろうか?」

エルヴィン「私は裏方的な仕事の方が好きだからね。裏でこそこそ画策する方がいい。表はリヴァイに任せる」

リヴァイ「…………」

ハンジ「でもそのせいでリヴァイが過労死したら嫌なのよね。リヴァイは仕事より私の方を本来は優先したいって思っているし」

エルヴィン「そうなんだ? 愛されているね。ハンジは」

ハンジ「有難い話だけどね! 何とか妥協点、探せないかな?」

エルヴィン「うーん。もしかして2人は子供を作る予定が入っているのかな?」

ハンジ「出来たら近いうちにそうしたいとは思っているけど。時期を見て考えてはいるよ」

エルヴィン「成程。だったら尚更この問題はちゃんと考えないといけないか」

エルヴィンはうーんと、頭を悩ませた。

エルヴィン「すまなかったね。リヴァイは既婚者になった訳だから、確かに以前と同じように考えていた私が悪かった。その辺は今後、調整出来るようにちゃんと考えるよ。リヴァイにだけ負担がいかないように、仕事の形態を変える必要が出て来たな」

リヴァイ「営業部の組織を編成し直すのか? そんな事が出来るのか?」

エルヴィン「その手の話に関してはピクシス部長の方が上手だから、相談してみる」

ハンジ「ありがとう! 前向きに検討してね!」

という訳で、話が大体片付いて、ハンジが先に営業部の部屋を出る。

2人きりになった時、エルヴィンはリヴァイに言った。

エルヴィン「リヴァイ、聞いてもいいかな?」

リヴァイ「ん? 何を」

エルヴィン「騙しているのは、どっちだ?」

リヴァイ(ギクリ)

エルヴィン「おや? 今、あからさまに動揺したね? 私の勘が当たったのかな?」

リヴァイ「………何の事だ?」

エルヴィン「籍、本当はまだ入れてないんだろ?」

リヴァイ「いいや? 入れたけど」

エルヴィン「怪しいなあ。その顔の変化、嘘ついているようにしか見えないけど」

リヴァイ「………クソ、何でバレた」

エルヴィン「ああ、やっぱりそうか。騙しているのはハンジのご両親じゃなくて、ハンジ自身の方か」

リヴァイは営業部の部屋の中で2人きりでいる事を確認してからエルヴィンに言った。

こんな内密な話、他に聞かれたらまずい。

リヴァイ「そもそも結婚なんて大事な話を酔った勢いで本当にやる馬鹿はいねえだろ」

エルヴィン「そりゃそうだけど。ハンジを騙しているのは、何で?」

リヴァイ「…………つい、うっかり」

と、リヴァイはバツが悪そうに言った。

リヴァイ「あいつからプロポーズしてきた事は本当に嬉しかったんだ。酒が入っていたとはいえ、有頂天になっちまって。でも、次の日、目が覚めたらその時の記憶が全くないとあいつは言い出した。それが憎たらしく思えて……もう本当に結婚した事にしちまえって思って魔が差したんだ」

そう言いながら、汚い字で書きこまれた婚姻届けをエルヴィンに見せた。

いつも持ち歩いているそれは、ハンジの両親に見せた時の物と同じ物だった。

リヴァイ「酔った状態で書いたから字がヨレヨレだしな。こんな酷い婚姻届けを提出するのは流石に躊躇われた。だから何とか宥めすかして、とりあえずハンジを自宅に連れ帰ったんだが……そこであいつ、自分から服を脱ぎだして、俺の服も脱がしてくれて。その後、爆睡して。もう何かいろいろ、腹立ったしな」

エルヴィン「ご愁傷様だね……でも今後、その件がハンジにバレたらどうするつもりだ?」

リヴァイ「その時はぶん殴られて破局するかもしれんが、まあ誠心誠意謝る。というより、結婚式をやった後にもう一度、ちゃんと確認する。あいつの本当の気持ちを」

エルヴィン「ハンジの気持ち? ハンジはすっかりリヴァイの嫁の心構えになっているように思えるが」

リヴァイ「それはあいつ自身、両親に対する義理を果たしたいと言う面もあってそうなっているだけだ。今はまだ、俺の方が惚れ込んでいるようだしな」

エルヴィン「ふむ………」

リヴァイ「正直言って悔しいんだよ。あいつ、俺の事を受け入れてくれてはいるが、俺の気持ちと同じ程度には好きって訳じゃねえ。あいつはそれの何が悪いのか分かってねえし、それでもいいんじゃないかって思っているようだが、俺としてはもう少し、その………」

エルヴィン「惚れさせたい訳か。成程ね」

リヴァイ「そういう事だ。その上で、ハンジにプロポーズする。今度は俺の方から、正式にするつもりだ」

エルヴィン「営業主任の腕の見せ所だね。交渉術、全てを使って堕とさないといけないね」

リヴァイ「今のところ、全部から回っているような気もするけどな……(シュン)」

そんな風に2人が話している様子を、ドア越しに聞いてしまった男がいた。

新卒の男、エレン・イェーガーである。

エレン(やべえ! なんかまずい事、聞いちまった気がする!)

エレンは内心、滝汗を掻いて頭の中を整理していた。

エレン(ええっと、ハンジさんはリヴァイ主任に今、騙されて結婚していると『思い込んでいる』状態なんだよな?)

だとすれば、現在は「婚約期間」のような物だと考えたらいいのだろうか?

エレン(いずれ、ちゃんと正式にプロポーズをするって言っているし、別に問題はねえのか? これって)

いやでも、本当にそうなのだろうか?

エレン(ううーん。人の事だしな。あんまり首を突っ込んだらまずい気もするけど)

こういう時は聞かなかった事にした方がいいな。そうしよう。

エレンはそう結論付けて、うんうん頷いたのだが、

ミカサ「エレン、ドアの前で何やっているの?」

同期入社のミカサ・アッカーマンがエレンに声をかけた。

エレン「うわ?! 驚かすなよ(小声)」

ミカサ「? 何故声が小さいの? (小声)」

2人は幼馴染の関係であり、また一緒に暮らしている家族でもある。

ただ、恋人同士という関係ではない。ちょっと複雑な関係であった。

エレンは男性にしては少し細身の優男であり、ミカサの方は女性にしては筋肉質で逞しい女性だった。

エレンがシンゲキ飲料に就職試験を受けたので、ミカサも追いかけるようにして就職試験を受け、エレンは営業、ミカサは営業事務の方に採用されていた。

エレンはこの間、仕事の失敗をやらかしてしまったので、改めてリヴァイ主任にお礼を言おうと思って探していたのだった。

そのせいで、今の極秘情報を盗み聞いてしまった訳だが。

エレン「いいから、声、落とせ(小声)」

ミカサ「うん(小声)」

エレン「そーっと、退散するぞ。そーっと……(小声)」

ツル……

べったーん!

リヴァイ「?!」

エルヴィン「?」

ドアの向こう側で何か大きな音がして、リヴァイは慌てて部屋のドアを開けた。

リヴァイ「エレンか。どうした? コケたのか?」

エレン「あ、はい……なんか、ツルっといきました」

リヴァイ「やれやれ。お前はたまに変な行動をするな。ちょっと落ち着け」

エレン「すみません……あの、昨日は本当に、ありがとうございました」

リヴァイ「ああ……もうブッキングはするなよ。昨日はたまたま、俺も動けたから良かったものの、誰も応援に行けなかったら、一人で対応しきれなかっただろ」

エレン「はい……」

ミカサ「人間なので、ミスくらいある(ジロリ)」

ミカサはリヴァイを睨みつけているが、リヴァイは気にせず言い返した。

リヴァイ「こっちは休日返上になったんだ。それくらいの小言は言わせろ」

ミカサ「肝の小さい上司……」

リヴァイ「ああ?」

エレン「ミカサ! 馬鹿! 失礼な事を言うんじゃねえよ!」

ミカサ「ちっ……」

ミカサが舌打ちすると、リヴァイも頭を掻いた。

リヴァイ「ミカサとか言ったな? お前に何か恨まれるような事をしたのか? 俺は」

ミカサ「自分の胸に聞いて下さい」

リヴァイ「思い当たる節がない」

ミカサ「エレンに無理やり土下座させた件は決して忘れない(キリッ)」

エレン「それはオレが悪いんだから、当然だろうが!」

リヴァイ「ああ……昨日のトラブルの件か。エレンの頭を下げさせた件を怒っているのか」

ミカサ「当然です。あれはやり過ぎです。何もあそこまでやる必要はなかった」

リヴァイ「まあ、そう言わればその通りだな。すまん」

ミカサ「ん?」

リヴァイ「だから、すまないと言っている。咄嗟の判断だったから、俺のアドリブでああした。本来ならエルヴィン部長に判断を煽ってからするべきだったが、それをする時間がなかった。だから俺の独断で動いた。その件で不満があるなら、甘んじて受けるし、嫌われても仕方がない」

ミカサ「……………」

リヴァイ「その件でこっちも罪悪感があったから、昨日の夜はエレンに夕食を奢ってやったんだが。それだけじゃダメだったか?」

エレン「いえ! 十分です! むしろ本当にすみません!」

ミカサ「うぐぐ……」

エレン「その、こっちも失礼な事言ってすみません。ミカサ、謝れ!」

ミカサ「すみませんでした(棒読み)」

エレン「ちゃんと謝らないなら、今日は一緒に風呂入ってやんねえぞ!」

ミカサ「すみませんでした(土下座)」

リヴァイ「ならいいんだが……」

そして昼休みが終わって、次の仕事に気持ちを切り替えるリヴァイだった。








そして深夜、帰宅後、エレンは小さな自宅のアパートの中で唸っていた。

エレン「ううーん」

ミカサ「どうしたの? エレン」

ミカサのご飯を和室の居間で食べながら、エレンはやっぱり唸っていた。

エレン「いや、その……いや、でもなあ」

ミカサ「何だか便秘の時のエレンみたいな顔ね」

エレン「飯食ってる時にそういう事、言うなよ」

ミカサ「エレンが唸るから……」

エレン「気持ち的には似ているけどな」

ミカサ「何かあったの?」

エレン「うーん」

ミカサ「あのクソちびに苛められたら言って。報復するので」

エレン「リヴァイ主任を目の敵にするのやめろよ。そういう話じゃねえよ」

ミカサ「ではエレンは何を悩んでいるの?」

エレン「ミカサ、例えばだけど」

ミカサ「ん?」

エレン「もし、俺がミカサと結婚したって言って」

ミカサ「結婚するの?! (ぱあ!)」

エレン「例え話って言っただろ。本当にする訳じゃねえよ」

ミカサ「うぐ……」

エレン「本当は籍、入れてなかったって後でバレたらどう思う?」

ミカサ「それは結婚詐欺になるのでは?」

エレン「やっぱりそう思うか?」

ミカサ「え? だって、婚姻届けを出したって騙した訳よね?」

エレン「いや、婚姻届けを後で出すつもりではいるみたいだけどな」

ミカサ「でも、出したって言って本当は出してない状態は、やはり詐欺なのでは?」

エレン「………やっぱりそう思うよな。ミカサがもし、そういう目に遭ったら、どう思う?」

ミカサ「相手に対して幻滅すると思う」

エレン「やっぱりそうか」

ミカサ「エレンが相手なら、ギリギリ許すけれど、その場合はそれがバレた時点でちゃんと婚姻届けを出させる。逃げたら許さないと思う」

エレン「ミカサでもそう思うのか。だったら、普通の人はもっと……」

ミカサ「普通の女性なら凄く傷ついてしまうと思う。そういう事は信頼を壊す行為だと思う」

エレン「………………」

思っていた以上の爆弾を抱えていると思ってしまったエレンだった。

ミカサ「でも何故、その話を今、したの?」

エレン「え?」

ミカサ「まさか、その……リヴァイ主任と何か関係あるの?」

エレン(ギクリ)

ミカサ「その話、まるで……」

エレン「ミカサ、絶対、人には話すなよ」

ミカサ「………本当に?」

エレン「知らないのはハンジさんだけのようだしな」

ミカサ「可哀想! (ガーン)」

エレン「いや、これには深い事情があってな……」

ミカサ「そうだとしても、許せない。あのクソちび上司、許すまじ」

エレン「だから、目の敵にすんなって! オレ、リヴァイ主任に助けられたんだぞ?!」

ミカサ「でもハンジさんはいい人。騙されているのは女側から見たら絶対許せない(ゴゴゴ…)」

エレン「騙すっていうより、保留にしている状態なんだけどな」

ミカサ「でも、ハンジさんはすっかり嫁の気分に浸っている筈……」

ミカサ「きっと、内心、ウキウキしていると思う。それが嘘だったなんて分かったらがっかりすると思う」

エレン「だよな……」

エレン(これって、俺からこの意見をリヴァイ主任に伝えた方がいいんだろうか?)

エレン(ミカサですら、こんな風に言うんだ。きっと、真実を知ったらハンジさんは……)

エレン(リヴァイ主任がフラれるところを見るのは忍びねえな)

エレン(一肌脱ぐべきか? でも、どう伝えたらいいんだ?)

ミカサ「私からハンジさんに伝えて、破局させてやる(キリッ)」

エレン「それだけは絶対やめろ!!! そんな事したら、ミカサとの同居もやめるぞ!」

ミカサ「うぐっ……」

エレン「この件に関しては内密にしてくれ。ミカサを信頼してオレも話したんだからな」

ミカサ「そうなの?」

エレン「黙っていてくれ。ミカサ、頼むから」

ミカサ「……エレンに頼まれたからには仕方がない」

ミカサ「でも、ハンジさんを泣かせるような事をしたらあのクソちびを許さない(ギリッ)」

エレン「分かった。オレからもリヴァイ主任に話してみるよ」

ミカサ「そうして欲しい。ところでエレン」

エレン「なんだよ」

ミカサ「私達はいつになったら結婚するのだろうか?」

エレン「いつも何も、オレ達は結婚する予定はねえぞ?」

ミカサ「何故?」

エレン「義理の兄妹みたいなもんだからだ」

ミカサ「日本の法律では血の繋がりがない場合は結婚出来る」

エレン「そうだとしても、オレはミカサと結婚するつもりはねえよ」

ミカサ「何か至らない部分があるのだろうか?」

エレン「いや、別に不満は何もねえけど」

ミカサ「だったら何故、嫁にして貰えないの?」

エレン「ミカサの裸を見ても、その気にならねえんだよ」

ミカサ(ガーン)

エレン「あそこが勃起しねえんだから、そういう対象じゃねえんだよ」

ミカサ「ううう……(しくしく)」

エレン「言っておくけど、別に女に興味がねえとかじゃねえからな? ちゃんとエロ本とか持ってるし」

ミカサ「その件は私も知っているけど」

エレン「勝手に見たのか?! やめろよ! そういう事するな!」

ミカサ「エロ本の女と、私はどう違うの? 大して変わらない気がする」

エレン「全然違う。全く違う」

ミカサ「では、エレンを勃起させたら、私は嫁にして貰えるんだろうか?」

エレン「無理だと思うけどな」

ミカサ「触って擦れば……」

エレン「いや、その方法をされたら流石にオレもそうなるけど、そういう話じゃねえだろ」

ミカサ「だったらどうすれば……」

エレン「ミカサが嫁に行くまでは一緒に居てやるけど」

ミカサ「私を追い出す気満々なの…? (涙目)」

エレン「気持ちとしては、オレはミカサの兄のような立場だと思っているからな」

ミカサ「私の方が誕生日、早いのに」

エレン「一か月程度だろ。そこは細かいところだから気にするな」

ミカサ「だとしても、私はよそに嫁に行く気はない」

エレン「何でだよ。そもそも何でミカサはオレにそこまで執着する?」

ミカサ「エレンの事が好きなので」

エレン「その好きは、インプリンティングに近い感覚じゃねえの?」

ミカサ「刷り込み現象だって言いたいの?」

エレン「そんな気がしているんだけどな。吊り橋効果みてえな? オレが好きっていうより、そういう『恋に堕ちやすい条件』がたまたま重なったせいで、オレを欲目で見ているだけじゃねえの?」

ミカサ「そんな事はない」

エレン「オレ、ミカサのそういう思い込みの激しさがちょっと怖いと思ってる」

ミカサ「うぐ……」

エレン「愛されているのは嬉しいけどな。オレもミカサの事は可愛いと思ってる。でも、それとこれは別問題だ。お前、もっと世間をよく見て、本当に自分に相応しい相手を見つけろよ」

ミカサ「エレンも見つけるの…? (涙目)」

エレン「ミカサが先だ。ミカサを見送ったら、次は自分の番だと思っているけど」

ミカサ「だったら、一生見つけに行かない」

エレン「………」

ミカサ「エレンがいい。エレンがいいので。エレンの傍に居る」

エレン「はあ………」

エレンは天井を見上げてため息をついた。

エレン「隠れて就職したのに、追いかけて来やがって……」

ミカサ「現代社会の情報力を舐めないで欲しい(キリッ)」

エレン「そういうの、ストーカーって言うんだぞ? ミカサ」

ミカサ「そうかもしれない。でもエレンは私を訴える気はない筈」

エレン「そりゃ家族だからな。そんな事はしねえけど」

ミカサ「?」

エレン「あーもう。考えるのが面倒くせえ。もう寝るわ。風呂入って寝る」

ミカサ「背中を流しましょう(キリッ)」

エレン「分かった分かった」

と、慣れた様子で一緒に風呂に入る2人だった。

今回はここまで。次回また。ノシ




数日後、時間を作ってエレンはリヴァイを昼飯に誘った。

リヴァイ「ん? どうした? 何か相談ごとか?」

エレン「はい。出来れば2人だけでお話ししたい事が」

リヴァイ「しかしお前の連れがこっちを睨んでいるようだが……」

ミカサがこっそり、廊下の陰から睨んでいるが、

エレン「アレは気にしないで下さい。出来れば、外で食べませんか?」

リヴァイ「外は寒いぞ。冬だし」

エレン「では、会議室でも構いません」

リヴァイ「………余程内密な話のようだな」

エレン「はい」

リヴァイ「分かった。会議室で食べるか。アレは放置して本当にいいんだな?」

ミカサ<●><●>

エレン「はい。放置して下さい」

リヴァイ「分かった。じゃあ行くぞ」

という訳で、会議室を借りて部屋の内鍵をかけて、2人で向かい合って席に着いた後、エレンは本題を切り出した。

エレン「すみません。まずは先に謝ります」

リヴァイは自作の弁当を広げながら首を傾げた。

リヴァイ「また何かやらかしたのか?」

エレン「ええっと……この間、廊下でコケた時、実は聞いてしまいまして」

リヴァイ「何を?」

エレン「実はまだ、ハンジさんと籍、入れてらっしゃらないんですよね?」

リヴァイ(ぶほっ!)

不意打ちを食らって咳き込むリヴァイだった。

リヴァイ「まさか、エルヴィンとの会話を聞いていたのか?」

エレン「ドア越しに、聞こえてしまったので。すみません」

リヴァイ「いや……そうか。聞かれたのはエレンだけか?」

エレン「ミカサにも、話しています。現場で聞いた訳じゃないですが、どうしてもミカサの意見を聞いてみたかったので」

リヴァイ「どういう意味だ?」

エレン「あの、今の状態、まずいと思います」

リヴァイ「え?」

エレン「オレ、ミカサに女の立場から見た意見を聞いてみたんですよ。婚姻届けを出したって言って、本当は出してなかったって後でバレたらどう思う? みたいな感じで聞いてみたらはっきり『相手に対して幻滅すると思う』って言ったので」

リヴァイ「…………」

リヴァイは箸を止めて真剣に聞いていた。

エレン「その……ハンジさんの方から見たら、もう気持ち的にはすっかり「嫁」だと思うんですよ。それが嘘だったって分かったら、がっかりすると思うんですよね」

リヴァイ「そ、そうなのか」

エレン「はい。なので、今からでも遅くないと思います。婚姻届け、持っているならさっさと提出した方がいいと思います」

リヴァイ「…………俺は間違った事をしてしまったのか」

エレン「だと思います。その……リヴァイ主任側の気持ちも分からなくはないんですが、事が露見したらほぼ間違いなく、フラれるんじゃないのかなって思ってしまって」

リヴァイ「……………」

リヴァイは頭を抱えて項垂れてしまった。

エレン「あの、余計なお世話かとも思ったんですが、オレ、リヴァイ主任に助けて貰ったし、主任がフラれるところを見るのは忍びないと思ったんで、その、生意気だとは思ったんですが……」

リヴァイ「いや、良く言った。エレン。お前の選択は間違っていない」

むしろよく決断してくれたと、リヴァイは心の底から感謝した。

リヴァイ「今日は何日だ? 1月17日か。今日は早上がり出来る日だから、早速帰りに出してくる」

エレン「その方がいいと思います。男のプライドに拘っている場合じゃないと思います」

リヴァイ「そうだな。いや、意見を言ってくれて助かった。エレン」

というか、何でエルヴィンはその件について何も言わなかったんだ?

と、今更ながら理不尽な思いを抱えるリヴァイだった。

リヴァイ(あいつも俺の汚点に気づいた筈だよな。何で何も言わなかったんだ?)

いや……そこまで考えて、頭を振った。

リヴァイ(人の人生だ。そこまで干渉する方がおかしいな。あいつは基本的に人の事には余程の事がない限り、手は出さない)

エレンのように言ってくる人間の方が珍しいのだ。そう思いなおして、リヴァイは心から感謝した。

そしてその日の仕事を猛スピードで終わらせて、リヴァイは帰り支度をしようとして……。

リヴァイ(?!)

普段、持ち歩いている筈の婚姻届けが見当たらない事に気づいた。

リヴァイ(え……なんでない? どこで失くした?)

まずい。アレがないと、提出出来ない。

もう1回書いてくれなんて、言えないのだから、絶対見つけないと。

自分の机でバタバタしていると、後ろからハンジが怪訝そうな顔で声をかけた。

ハンジ「あれ? 今日はリヴァイ、早上がりの予定じゃなかったけ? まだ帰らないの?」

リヴァイ「ああ……その、ちょっと探し物を」

と、言いかけて慌てて口を噤んだ。

まずい。必死に例のアレを探している事がバレたら「何で?」と問われる。

本当はまだ書類を提出していないと知ったら、詰られて……。

リヴァイ(まずいまずいまずい!)

リヴァイの顔色が一気に悪くなったので、ハンジも手伝う事にした。

ハンジ「珍しいね。整理整頓の鬼のリヴァイが失くし物?」

ハンジの気配が近づいて、慌てて振り向いて、机を触らせまいと防御する。

ハンジ「ん? 何で邪魔をする?」

リヴァイ「いや、その…大丈夫だ。一人で探す」

ハンジ「二人で探す方が早いでしょうが。何を見つけているの?」

リヴァイ「何でもない」

ハンジ「何でもないって顔してないよ?」

リヴァイ「その……すまん。先に帰ってくれないか?」

ハンジ「え? 何で。折角今日は早上がり同士なのに?」

リヴァイ「残業する。ちょっと、したいことがあって」

ハンジ「ん? 何か疚しい顔をしているね?」

ハンジの女の勘が鋭く働いた。

ハンジ「なーにを隠しているのかな? リヴァイは」

リヴァイ「何も隠していないぞ(キリッ)」

ハンジ「リヴァイは嘘が苦手なのかな? 隠されると余計に気になるんだけど」

リヴァイ「隠してない」

ハンジ「まさか、浮気しているとか?」

リヴァイ「する訳ねえだろ」

ハンジ「いや、レベル的にはそれくらいの動揺に見えるけど」

リヴァイ「……………」

ハンジ「うーん。だんまりか。こりゃこれ以上は聞きだせないみたいだね」

リヴァイ「……………」

ハンジ「分かった。じゃあ、先に帰る。でも、あんまり根を詰めたらダメだよ」

ハンジを先に帰してリヴァイはほっと項垂れた。

ハンジと入れ違いに今度はエルヴィンが営業部に戻ってくる。

エルヴィン「リヴァイ、この書類についてだけど」

と、言いつつ婚姻届けの書類を出してきたので、リヴァイは青ざめた。

リヴァイ「何でエルヴィンが持っている!?」

エルヴィン「すまん。昼休み、リヴァイが背広を脱いでいたから其の時にしれっと抜き取った」

リヴァイ「本人に確認してから持っていけ! 死ぬかと思ったぞ!」

エルヴィン「大げさだな。えっと、一応、ざっと目を通して不備がないか確認させて貰ったんだが、証人の欄、記入がないけど」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「いや、だから、婚姻届けには証人の欄にも記載が必要だよ? 無記入だったから、このままじゃ提出は出来ない」

ズルー……

リヴァイは机の上に顔を伏せてぐったりした。

リヴァイ「す、すまん………」

エルヴィン「うん。あと、少し迷ったけど、言ってもいいかな?」

リヴァイ「何を」

エルヴィン「やっぱり婚姻届け、さっさと提出した方がいいと思うよ。ハンジの気持ちを考えたら、本当はまだ出してないって知ったら彼女は悲しむと思うんだ」

リヴァイ「その件についてなら俺もそう思いなおした。今日、出してくる」

エルヴィン「ああ、そうなんだ。だったら証人の欄は私が書いてあげよう」

と言いながらエルヴィンはすらすらと記入した。

エルヴィン「証人は2名要るから、後はピクシス部長にでも書いて貰ってこようか?」

リヴァイ「いいのか?」

エルヴィン「喜んで書いてくれると思うよ。ちょっと待っていて」

そしてエルヴィンは証人の欄を埋めてリヴァイの元に戻って来た。

エルヴィン「これで大丈夫だ。誤字脱字もないし、これで提出は出来る筈だよ」

リヴァイ「すまん……」

エルヴィン「いやいや? 大した事はしていないよ。ごめんね? どうしても気になってね。書類の件を」

リヴァイ「ああ。俺も馬鹿だった。自分の事ばかり考えて、ハンジの気持ちの方をないがしろにしていた気がする」

エルヴィン「リヴァイの気持ちも分からなくはないけどね。でも、もう2人は夫婦として実際に生活し始めているし、そういうややこしい事をする必要はないと思うよ」

リヴァイ「ややこしい?」

エルヴィン「うん。私から見たらそう見える。リヴァイは自分の方ばっかり惚れていると思い込んでいるだけだと思うけど」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「傍から見たら、ちゃんと相思相愛に見えているのに。あんまり心配しなくていいんじゃないかな」

リヴァイ「そうなのか?」

エルヴィン「やれやれ。困った男だな。リヴァイは。ま、それが君のいいところでもあるんだが」

リヴァイ「……………」

リヴァイ「すまん。エルヴィン」

エルヴィン「何?」

リヴァイ「俺は自分の汚点に気づいた時、何でエルヴィンはその事をすぐに言ってくれなかったと、詰ってしまった。心の中で」

エルヴィン「ああ、まあ、そうだろうね」

リヴァイ「でも実際は、それ以上の事をしてくれた。本当に感謝している」

エルヴィン「いやいや? 私は元々、冷たい人間だからね。今回はたまたまだよ」

リヴァイ「しかも汚点に最初に気づいたのは、自分じゃなくて、エレンに指摘されて、だったしな」

エルヴィン「え? バレたの? エレン君に」

リヴァイ「エレンにエルヴィンとの会話を聞かれていたそうだ。エレンはミカサに問い合わせて、確認した後に、俺の行動の汚点を指摘した。そこで初めて俺は自分の馬鹿さ加減に気づいたんだよ」

エルヴィン「ちょっと待って。それ、いつの話かな」

リヴァイ「え? エレンにその事を指摘されたのは今日の昼休みで」

エルヴィン「それじゃなくて、エレン君にバレたのが、だよ。いつだったっけ」

リヴァイ「1月11日だ。エルヴィンに例の件を話したのはその日の昼休みだった筈だが」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「どうした?」

エルヴィン「中、6日か」

リヴァイ「何の話だ?」

エルヴィン「いや、エレン君からミカサ君に情報が流れたんなら、ミ彼女から拡散されてないとも限らない。他人の口からその事がハンジの耳に入ってきたら、ちょっとまずいんじゃないか?」

リヴァイ「!」

今更ながら血の気が引くリヴァイだった。

エルヴィン「一応、本人に拡散してないか確認するべきか。いや、でも触らない方がかえっていいかもしれない」

リヴァイ(滝汗)

エルヴィン「ハンジは普通の様子だったよね。まだ、耳に入ってないと見ていいのかな?」

リヴァイ「お、恐らく……」

エルヴィン「だったら尚更急いだ方がいいね。行ってきた方がいい」

リヴァイ「すまん。行ってくる!」

そしてリヴァイは駆け足で会社を退社していったのだった。









ハンジ(はー……リヴァイに隠し事されるのは地味に堪えるな)

車で自宅まで帰る途中、運転中についついそう思うハンジだった。

ハンジ(何で隠したんだろ? 余程何かやらかした感じがするけど)

そう思い、ふと今日は何日だったか思い出す。

ハンジ(1月17日か。籍入れてからもうすぐ一月経つのか。時が経つのは早いね)

と、其の時、ふと思った。

ハンジ(あれ? ちょっと待て)

冷静になってから思い直す。

ハンジ(よく考えたら婚姻届けって、確か「証人」を書く欄があるんじゃなかったけ?)

ぼんやりと思い出す。だとすれば、あの時、それが出来た筈がない。

2人きりだったのだ。別の誰かにそれを頼める筈がない。

ハンジ(あれ? なんか怪しいな。リヴァイ、もしかして、嘘ついている?)

だとしたら、何故?

ハンジ(あーまあ、理由はこの際、置いて)

ちょっと確認してみよう。そう思い、ハンジはそのまま車で移動した。

自分の戸籍が変更になっているか否かを、自分で確認しに行ったのだ。

そしてその事を確認すると、案の定………

ハンジ「……………戸籍、変わってなかった」

という事は、リヴァイは嘘をついていた事になる。

ハンジ「ぬぬぬ………何故騙された?」

ハンジの頭の中は少々混乱していた。騙された理由を考えてみる。

ハンジ「結婚詐欺? え、でも別に私、金を貢がされてないしなあ」

むしろ金は出して貰っている状態だ。家賃も全額リヴァイの負担である。

食費も何も入れていない。自分の給料は全て自分の為に使っていい状態だ。

ハンジ「本当に、何で? 何であの時、嘘ついた?」

待合室の椅子に座って考え込んでいたら、そこにリヴァイが遅れてやってきた。

リヴァイはハンジと目が合って、そして青ざめてしまう。

ハンジ「あ、丁度良かった。リヴァイ、ちょっと……」

しかし何故かリヴァイはダッシュで逃げ帰ってしまう。

ハンジ「?! 何で逃げるのよ!」

ハンジも慌てて追いかけた。建物の外に出た直後を捕まえて、後ろからスライディングをかましてリヴァイを引き留める。

リヴァイ「て、てめえ……今、スライディングした?!」

ハンジ「あなたが人の顔を見るなり逃げるからでしょうが」

リヴァイ「うぐ……」

ハンジ「えっと、何でここに来たか、よりも聞きたい事があるんだけど」

リヴァイ「………」

ハンジ「あのね。ふと、思い出した事があって、戸籍を確認したら、私、変わってなかったんだけど」

リヴァイ「…………」

ハンジ「私達、戸籍上はまだ、結婚していなかったよ。結婚したっていうのは嘘だったんだよね?」

リヴァイ「………バレたのか」

ハンジ「うん。婚姻届け出す時は書類に証人を書く欄がある事を思い出して、あの時、それが出来た筈がないって思って、怪しいなあと思い直して確認させて貰ったの」

リヴァイ「…………………」

ハンジ「どういうつもりで騙したの? 答えによっては、私にも考えがあるんだけど」

人生の分岐点に立たされて、リヴァイの脳みそは真っ白になっていた。

台本が全くない状態で舞台に立たされて、アドリブで演じないといけない。

人生最大のピンチに思えたのに。今回はエルヴィンの援護は期待出来ない。

リヴァイ「…………」

すぐに答えられなかった。その様子を見てハンジは言った。

ハンジ「まあ、こんなところで立ち話をするような事じゃないから、ちょっと喫茶店にでも寄ろうか」

リヴァイ「あ、ああ……」

そして2人は移動して、適当な静かな喫茶店で紅茶を飲む事にしたのだった。

リヴァイ「…………」

重苦しい空気にリヴァイの顔色はどんどん蒼くなっていった。

そんなリヴァイの様子とは対照的にハンジは普通だった。

ハンジ「あーなんか、顔色悪いけど、そんなに悪い事しちゃったの?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「別に怒ってないけど。私は、理由を知りたいだけだよ」

リヴァイ「い、いっそ詰られた方がまだマシなんだが……」

ハンジ「それはちょっと面倒臭いので勘弁して」

ハンジの冷めた対応に、リヴァイの心臓はグサッと刺さった。

ハンジ「あー何か追加注文しようか。チーズケーキでも頼んでいい?」

リヴァイ「任せる」

ハンジ「すみません。チーズケーキ2つ追加注文でー」

そしてケーキをつつきながら、ハンジは話を続けた。

ハンジ「あー……ずっとだんまりされるとこっちも困るんだけど」

リヴァイ「…………」

ハンジ「まあ、結果的には私の両親は騙してなかったって事にはなるよね。うん」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「でも、これってある意味結婚詐欺だよね?」

リヴァイ「うぐ………」

ハンジ「いや、でもこの場合、目的が良く分からないんだよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「普通、結婚詐欺って言うのは『結婚するからお金を出して』って感じで相手に貢がせるのが目的でしょ? 私達の場合、そういう金銭的なトラブルは一切なかった」

リヴァイ「………」

ハンジ「むしろ、金はリヴァイの方が殆ど出してくれた。引っ越しの資金まで出してくれたし、私は何も傷ついてない」

リヴァイ「………」

ハンジ「だから別に怒る理由もないんだよ。ただ、解せないだけ。リヴァイがあの時、嘘ついちゃった理由って何?」

リヴァイ「魔が差した」

ハンジ「え?」

リヴァイ「プロポーズしてくれた癖に、それを覚えてないって言い出したハンジが憎たらしく思えて……もう本当に結婚したって事にしちまえって、思った」

ハンジ「………………」

リヴァイ「加えて酒に酔った勢いでこんな大事な事、決めるなんてやっちゃいかんだろ。だから日を改めて、本当に結婚していいのか、ハンジに確認するつもりだった」

ハンジ「………………そうだったんだ」

リヴァイ「すまなかった。俺の勝手な気持ちのせいで、事を進めて」

ハンジ「うーん………」

リヴァイ「俺の事、幻滅したか?」

信頼を裏切ったのだ。その代償は受けるしかない。

そう覚悟を決めてリヴァイがそう問いただすと……。

ハンジ「いや、よくよく考えたら、嘘だってすぐバレるような事だよね」

リヴァイ「え?」

ハンジ「私、言ったでしょ。無理に酔っ払いの戯言に付き合わなくても良かったのにって」

リヴァイ「そう言えば言ったな」

ハンジ「だから、本来ならそうやって『付き合わなかった』事の方が正解だよ。なのに、リヴァイの嘘を信じ込んじゃったのは………やっぱり私の方にその願望があったとしか思えないなあ。これは」

リヴァイ「え………?」

ドクン……

心臓が大きく跳ね上がり、その続きの言葉を聞く。

ハンジ「だって、今、籍入れてなかった事に対して、残念に思っている自分がいるんだよ。なんだよって、拗ねている自分がいるんだもん。これって、もう後戻り出来ないよね」

リヴァイ「…………」

ハンジ「リヴァイの方は、本当は私と結婚したいんだよね?」

リヴァイ「当たり前だろ」

ハンジ「じゃあ、今度こそ、する?」

リヴァイ「いいのか? 今は素面だけど」

ハンジ「素面の時に確認したんだから、いいでしょ。うん。結婚、しようか」

リヴァイ「!」

リヴァイ「待て。ちょっと待ってくれ」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「俺の方から言おうと思っていたのに……」

ハンジ「早い者勝ちでいいんじゃない?」

リヴァイ「バーゲンセールじゃねえんだから」

ハンジ「惚れた方が負けっていうんでしょ?」

リヴァイ「うぐ……」

ハンジ「本当はほっとしている癖に」

リヴァイ「なんでバレた」

ハンジ「顔に書いてある」

リヴァイ「ちっ……」

リヴァイ「フラれるかと思って構えた俺が馬鹿だったな」

ハンジ「あらら。だから青ざめていたわけだ」

リヴァイ「まあな。バレたらフラれるかもしれんと思っていたからな」

ハンジ「だったら後からでもさっさと、婚姻届けを提出すれば良かったのに」

リヴァイ「証人の件をエルヴィンに指摘されて慌てて記入して貰った。今日、出そうと思えば出せるけど」

そう言いながら、書類を見せてみたが……。

ハンジ「良く見たら、字汚いね。ヨレヨレだあ」

リヴァイ「酔った状態で記入していたからな」

ハンジ「これは流石に出さない方がいいんじゃない? 書き損じたって言われたの、信じたのも頷けるクオリティだよ」

リヴァイ「綺麗に清書、しなおすか?」

ハンジ「その方がいいよ。そうしよ」

リヴァイ「分かった。そうするか」

そしてお互いにチーズケーキを食べ終えて……。

ハンジ「ぷぷっ……」

リヴァイ「何で笑う?」

ハンジ「いや、だって…………ねえ?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「酔った勢いで求婚したら、本当に結婚出来ちゃうなんて思わなかったんだもの」

リヴァイ「俺もまさか、酔った勢いで求婚されて、本当に結婚までいきつくとは思わなかった」

ハンジ「酒の力って怖いねー。本音がぽろっと出ちゃうから」

リヴァイ「全くだ。その本音が出たせいで、俺もハンジに堕ちた訳だしな」

ハンジ「あ、もう答えを教えてくれるの?」

リヴァイ「んー……まだ隠した方がいいか?」

ハンジ「本当なら、当てたかったけど。教えてくれるなら聞きたいな」

リヴァイ「もう一昨年の忘年会になるが、あの時のハンジの一言のせいだ」

そう言いながら、リヴァイは懐かしそうに眼を細めてあの時の事を思い出したのだった。





一昨年の忘年会。その年の忘年会は鍋だった。

リヴァイは鍋を大勢で囲むのが苦手だった。何故なら、箸をつきあうから。

裏箸を使って気を遣う人間も一応、中にはいたが、酒が入り始めると、その辺の気遣いはだんだん薄れていく。

だからそれを想像すると、食欲が湧かなくなってしまうのだ。

リヴァイ(自分でも潔癖すぎると思うけどな)

だから飲み物に逃げる事にした。鍋は殆ど手をつけず、ソフトドリンクで誤魔化して逃げる事にする。

しかしその隣にハンジがやってきて、勝手に鍋の中身を盛り付けてリヴァイに渡してきたのだ。

ハンジ『はい、どうぞ! お肉好きでしょ? 野菜も一緒に食べようね!』

リヴァイ『いや、俺はいい。ハンジが食べろ』

ハンジ『なんでよー? 全然食ってないじゃん! おまけに酒も飲んでないし! 何しに忘年会に来たのよ』

リヴァイ『とりあえず、顔を出す為に来ただけだ』

ハンジ『何それ。義理で参加しているの? 勿体ない』

リヴァイ『皆そんなもんだろ? 真面目に参加しているような奴はいねえだろ』

ハンジ『いや、逆でしょ。仕事より忘年会の方がいいよねー?』

オルオ『そうですね。リヴァイ主任とも話したいですし』

ペトラ『そうですよ。いろいろ教えて欲しいです』

リヴァイ『教えられる事なんて、何もねえよ』

エルド『そんな事、言わず、是非、営業テクニックを伝授して欲しいです』

グンタ『そうです。リヴァイ主任の技を盗みたいです』

リヴァイ『……………勝手に盗め。俺は教えない』

当時のリヴァイは後輩に物を教えるのが苦手だった。今も苦手だが。

特に仕事に関しては余り教えられる事はないと思っていたので余計にそう思っていたのだ。

オルオ『せめて真似させて頂きます! リヴァイ主任!』

リヴァイ『そうか?』

オルオ『はい! まずは真似からが基本だと思いますので』

ペトラ『あんたの場合、全然似てないけどね』

エルド『全くだな』

とか言いながら、普通に鍋を食べている一同にリヴァイは無口になっていく。

ハンジ『はい、あーん。リヴァイ、口開けてー』

リヴァイ『?!』

いきなりの、はい、あーん攻撃に後ずさる。

リヴァイ『おい、やめろ。俺は食べたくねえのに』

ハンジ『何で? リヴァイ、好き嫌いあったっけ?』

リヴァイ『いや、別に殆どねえけど』

ハンジ『食べられるなら食べないと勿体ないよ。会費の分は元取らないと!』

リヴァイ『いや、だから俺は……』

ハンジ『なんでそんなに頑な? あーもしかして、鍋が苦手な人なの?』

リヴァイ(ピシッ)

しまった。バレた。リヴァイは気まずそうにそっぽ向く。

ハンジ『あひゃひゃひゃ! 神経質だね! 気にしなければいいのに!』

ペトラ『あ、もしかして、箸をつつき合うのが苦手だったとか?』

オルオ『すんません! それを知っていたら、ちゃんと別々によそいだのに』

リヴァイ『いや、その……』

部下に気を遣わせて気まずくなってしまい、リヴァイは落ち込んだ。

ハンジ『気にし過ぎだって! 一回慣れちゃえば大丈夫だよ! はい、あーん』

リヴァイ『やめろ。恥ずかしいだろ』

ハンジ『あら照れているの? 可愛いー!』

リヴァイ『いいから、自分で食べろよ。俺は別に腹減ってねえ……』

ぐう……

腹の虫は正直だった。

ハンジ『あひゃひゃひゃ! 嘘ばっかり! すきっ腹でソフトドリンクだけじゃ腹にたまる訳ないでしょうが!』

リヴァイ『くっ……』

ペトラ『あの、別に注文出しましょうか? おにぎりとか』

オルオ『その方がいいな。すみませーん』

という訳でリヴァイの分だけ別メニューを追加する一同だった。

リヴァイ『す、すまん……』

オルオ『いえいえ、むしろこっちこそ、すんません。気遣うべきでした』

ハンジ『ええ? この場合はリヴァイがダメ過ぎるでしょ。一緒に鍋をつつけないって、どうなのよ。それって』

リヴァイ『仕方がねえだろ。気になるんだから』

ハンジ『神経質過ぎてキモイよー。大したことじゃないっしょ。こんなの』

と、言いつつパクパク食べるハンジだった。

リヴァイ『き、キモイ……? (ざわっ…)』

ハンジ『キモイwww超キモイ! 部下に気遣わせて、可哀想じゃんか』

リヴァイ『うぐ……』

オルオ『あの、ハンジさん、その辺で押さえて……』

ペトラ『そうですよ。別にキモイなんて思っていませんから!』

ハンジ『いやいや、こういう時はハッキリ言った方がいいって! じゃないと苦労するでしょ? 部下が』

ニファ『あの、ハンジさん、リヴァイ主任、ちょっと涙目なんですが』

ケイジ『イジメに見えますよ』

ハンジ『皆優しいね。でも、あんまり甘やかしたらダメだよ』

リヴァイ『……………』

ハンジ『たまにキモイじゃん。リヴァイの潔癖症。今もおしぼり触りまくっているしwwww』

リヴァイ(はっ…!)

手癖に気づいて我に返るリヴァイだった。

ハンジ『テーブル拭くのは店員さんの仕事だから、リヴァイはしなくていいんだってば! 仕事取ってどうすんのよ』

リヴァイ『…………』

ハンジ『はいはい、今日くらいは普通に鍋を楽しんで! 酒は飲みたくないならしょうがないけど、せめて一口は食べなさい!』

と、言ってハンジに無理やり肉を食わされて、リヴァイはぐったりするのだった。

オルオ『リヴァイ主任! 大丈夫っすかあああ?!』

リヴァイ『あんまり大丈夫じゃない……(げっそり)』

ペトラ『あの、吐きたいなら準備しますので!!』

リヴァイ『いや、吐く程じゃねえけど……』

ハンジ『じゃあ、二口目いくか? ウリウリ』

リヴァイ『いや、それは流石にやめておく』

ハンジ『慣れた方がいいのに。ねー?』

ニファ『普通、こういうのって、上司が部下にやるものでは?』

ケイジ『うちは逆なのか? 下剋上?』

ハンジ『かもね! 皆でリヴァイを弄ってやろうぜ!』

リヴァイ『やーめーろー(ぐったり)』

と、そんなこんなで、鍋を無理やり楽しまされた後、

リヴァイはその時に感じた感情に頭を悩まされる事になるのだった。






ハンジ「ん? あれ? 待って待って」

リヴァイ「なんだ?」

ハンジ「この一昨年の忘年会のどこに、私に惚れる要素があった?」

リヴァイ「…………」

ハンジ「むしろ、これ、嫌われても仕方なくねえ? パワハラやってるじゃん!」

リヴァイ「………まだ分からんか」

ハンジ「分かんないよ! 意味不明だよ! 私、結構、最低な女ですよね?!」

リヴァイ「確かに、クソ眼鏡だな。そこに異論はない」

ハンジ「じゃあ何でそんな私に惚れちゃったわけ?」

リヴァイ「…………キモイって思うなら、何でお前、俺に近づくんだよ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「俺の事、キモイって思うなら関わらなければいいだけの話だろ。なのに、何で俺のところに来る?」

ハンジ「え? だって、目についたら言いたくなるでしょ。普通は。言われたくないなら自重しなよ」

リヴァイ「それがおかしいだろ。不快に思うなら無視して避ければいいだけの話だろ」

ハンジ「いや、だからそれは……」

リヴァイ「実際、人間なんてそんなもんだろ。わざわざ、相手の欠点を指摘してやったりしない。社会人になれば尚更だ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「初めての経験だったんだよ。なんかもう、土足で部屋の中を踏み入られたような気分だったのに………」

リヴァイは紅茶を口に含んで口の中を湿らせた。

リヴァイ「詰られているのに、落ち込んでいるのか浮かれているのか良く分からん感情に悩まされた。おまけに無理やり肉を食わされて気持ち悪いと思ったのに、何か、変な気分になった自分がいた」

ハンジ「あの、それって、もしかして………まさか」

リヴァイ「エルヴィンに相談したら『目覚めちゃったね。おめでとう☆』と皮肉言われたけどな」

ハンジ「あちゃー………」

ハンジはリヴァイの言いたい事をやっと理解して頭を抱えたのだった。

リヴァイ「幻滅しただろ?」

ハンジ「予想の斜め上だったね」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「あの時、ギクリってしていたのは、やっぱり性癖が斜めだったからか」

リヴァイ「いや、こういう性癖自体は、別に珍しい事じゃねえらしいぞ」

ハンジ「マジか?! ええ……そうなの?」

リヴァイ「ただ、それが全てって訳でもねえよ。たまにそうなるってだけの話だ。あの時、ギクリとした理由は……ハンジの事を本当は愛しているという事を、あの時点ではまだ言えなかったからだ」

ハンジ「あ、そっか。そう言われたら、本当の意味で告白してくれたのは大晦日の入浴中だったね」

リヴァイ「そうだ。ハンジは親への義理の為に結婚をしたんだろうと思っていたからな」

ハンジ「その部分が全くないかと言われたら嘘になるけど、でも、それだけじゃないんだけどな」

リヴァイ「その件は既に了承している。そういう部分があったからこそ、むしろ踏み切ったんだろ?」

ハンジ「まあねえ。でも、確かに忘年会のそれが切欠なら、言いにくいのも頷けるかも」

リヴァイ「ハンジのお母さんも似たような経験があると聞いた時はびっくりしたけどな」

ハンジ「そう言えばそうだった! えええ……お母さん、そっちの人だったの?!」

リヴァイ「いや、ハンジのお母さんの場合は『不愛想過ぎる』と文句を言われたそうだ。女だから、少しは笑ったらどうだ? みたいな事を言われてムカついたのに、それ以後、何故か近づいてくるハンジのお父さんに『何で?』という思いが芽生えて来たそうだ。腹が立つのに、気になる相手だったそうで……」

ハンジ「そうだったんだ」

リヴァイ「その感覚が殆ど同じだと思った。言われた内容は少し違うが、やってる事は変わらん」

ハンジ「確かに、似ているかもしれない」

リヴァイ「ハンジの方から俺に構ってくる事が多いだろ。気に入らないところがあるのに、文句言う癖にこっちに来るから、俺も最初はムカついていたんだが……だんだん、来ないなら来ないで寂しいと思うようになった。ハンジの一挙一動にだんだん、振り回されている自分に気づいた。お母さんも、似たような事が多々あったそうだ」

ハンジ「私、リヴァイにも愛想良くしようぜ! みたいな事を言ったのもあったかも……」

リヴァイ「かもな。俺も細かいところは覚えちゃいないが」

ハンジ「そっか……私、酷い事していたのに、それが原因で惚れさせたのか」

リヴァイ「自分でも頭おかしいと思っているけどな。何でこんなクソ眼鏡に惚れたんだか」

ハンジ「本当にね! 奇特過ぎるよ!」

リヴァイ「でも、俺に貰われて、嬉しいだろ?」

ハンジ「はい。正直に言えば、その通りですが、何か問題でも?」

リヴァイ「クソ………真顔で返しやがって」

ハンジ「にしし。赤面しているリヴァイ、可愛いな♪」

リヴァイ「…………ここの会計、ハンジが払え。俺は先に帰る」

ハンジ「え? ちょ……それは酷くない?! 何で先に帰るのよ! 一緒に帰ろうよ!」

リヴァイ「………嘘に決まっているだろ。鈍感女め(会計支払中)」

ハンジ「あー?! なんなのよその意味不明な行動は?!」

リヴァイ「こっちを見るな。今は」

ハンジ「照れ隠しか?! ただの照れ隠しか!」

そして会計を済ませた後、店の外に出てから、ハンジは後ろから、リヴァイの逞しい背中に飛びついた。

リヴァイ「………何で飛び乗る」

ハンジ「だって、構っていいんでしょ? いいじゃん。乗っからせてよ」

リヴァイ「……………当ててんのよも出来ない癖に」

ハンジ「馬鹿にしたな?! 今、貧乳を敵に回したね?!」

リヴァイ「早いところ、妊娠しろ。そしたら胸もでかくなる」

ハンジ「貧乳が嫌なら大きい子、選べばよかったじゃん」

リヴァイ「別に嫌とは言ってねえだろ」

ハンジ「じゃあ何で妊娠しろなんて言うのよ」

リヴァイ「子供が欲しいからに決まっているだろ」

ハンジ「リヴァイの会話の仕方って、本当に面倒臭いなあ!」

リヴァイ「攻略してくれるんだろ?」

ハンジ「はいはい、分かっていますよ! 難易度高いと萌えますけどね!」

リヴァイ「なんか、今、イントネーションが違ったような?」

ハンジ「ん? 気のせいじゃない? ふふふふ……」

そう言って、上機嫌でリヴァイの背中から降りて、手を繋いだ。するりと、さり気なく。

リヴァイ「!」

ハンジ「今度、指輪を見に行こうよ」

リヴァイ「え?」

ハンジ「だって、私達、結婚するんでしょ?」

リヴァイ「……………そうだな」

そう言い合って、見つめ合い、2人は愛の巣へ帰って行ったのだった。

今回はここまで。ここでようやく全体の半分。
折り返し地点です。あともう少しお付き合いください。では。ノシ









そんなこんなで後日、無事に結納も交わして、順調に結婚までの準備を進めていた2人だった。

その年の4月。新入社員も新たに加わり、シンゲキ飲料の組織体系が少しだけ変更になった。

各部署の部長と主任の下に副官的存在を置く事になったのだ。

リヴァイ「主任の下に副主任がつくのか」

エルヴィン「今までは、部長の副官が主任みたいな感じだったけど、部長にも副部長、主任にも副主任っていう役職を設けようって話になったんだ」

ピクシス「うちの会社も徐々に規模が大きくなって育ってきたからの。そろそろ、副官的存在が必要になってくる頃じゃろ」

リヴァイ「成程。これなら俺に何かあった時も、そいつに優先的に仕事を回せるのか」

エルヴィン「そういう事になる。そこで、リヴァイから聞きたいんだが、副主任は誰を推す?」

リヴァイ「俺が選んでもいいのか?」

エルヴィン「今年はまだ、組織体系の移行の試験的な年になるから、現在、重要な役職に就いている人の移動は無しになった。だから副主任はリヴァイが選んで構わないよ」

リヴァイ「………………」

エルヴィン「あ、でも……ハンジは選んじゃダメだよ。それやっちゃうと、流石に困る」

リヴァイ「それは分かっている。公私混同に見られる事をあいつは良しとしねえだろ」

リヴァイは新人の育成を目的に、ある人物を推した。

リヴァイ「オルオかな。あいつが一番、熱心だと思う。まだまだ荒い部分はあるが、俺の傍でいつも何かを学ぼうと必死に食いついてくるから、後を任せるとすればオルオだな」

エルヴィン「了解。では、オルオを4月付で副主任に昇格させよう」

リヴァイ「お前、営業部長なのに人事部の事まで口出していいのか?」

ピクシス「エルヴィンの方が人事部に向いておるからいいんじゃよ」

エルヴィン「たまにこっちに仕事回してくるしね。ピクシス部長は」

ピクシス「それを言ったらお主もじゃろ? 営業先のお得意さんの情報を寄越せと言ってくるではないか」

エルヴィン「持ちつ持たれつと言って下さい」

どうやら同盟関係を築いているようである。

エルヴィン「あ、ちなみに営業部の副部長はハンジにするからね」

リヴァイ「?! な……何で」

エルヴィン「え? 私の副官に指名したらダメなの?」

リヴァイ「………それって、ハンジの方が俺の上司になるのか?」

エルヴィン「いや、上司ではないけど。でも私が動けない時はハンジが動く事になるかな。今まではリヴァイかキース主任に回していた事を、優先順位として先にハンジに回す事になる」

リヴァイ「それって、営業だけでなく、営業事務の仕事も兼任する事になるのか?」

エルヴィン「元々、ハンジはどっちも出来る子だから問題ないよ」

リヴァイ「それってかえって忙しくなるんじゃ……」

エルヴィン「これでもいろいろ考えたんだよ? それに私の副官なら、産休だって取りやすい筈だよ」

リヴァイ「そこまで考えてくれていたのか」

エルヴィン「うん。もしくはもう一つの方法もあるけど」

リヴァイ「もう一つ?」

エルヴィン「ハンジはずっと開発部研究課の方の移動を願い出ていたから、移動してもいいんじゃないかって話も出ている」

リヴァイ「ああ……成程」

エルヴィン「部署は離れるけど、ハンジをそっちの主任に移動させて副主任にモブリットをつけるっていう話も出たよ」

リヴァイ「ううーん」

エルヴィン「ただし、こっちは今年じゃなくて、来年以降になるかも。今年はまだ、主任クラスは移動させないで副官をつけようって話だから」

エルヴィン「どっちがいい? リヴァイから見たら」

エルヴィンが問うと、リヴァイは少し複雑そうに答えた。

リヴァイ「まあ、ハンジ自身がいずれ開発の方に行きたいってずっと思っていたのなら、いずれそっちに移動させた方が本人の為にもいいだろう」

そう言って、リヴァイは続けた。

リヴァイ「ただし、副官は出来れば女性にして欲しいんだが……」

ピクシス「ん? 公私混同はしないんじゃなかったのか? リヴァイ主任」

リヴァイ「う………」

エルヴィン「そこは難しいかな。両方女性だと、もし万が一、両方同じ時期に産休に入られたら引継ぎが困る」

リヴァイ「ああ……そういう事か。だったら仕方がないか」

エルヴィン「うん。そこは我慢してくれ。大丈夫だよ。ハンジは浮気するような女じゃないって」

リヴァイ「そういう意味じゃねえよ」

エルヴィン「ん? だったら何が心配なのかな?」

リヴァイ「ハンジの傍に俺の良く知らない男がいるってだけで、もやもやする」

エルヴィン「………………これは重傷だ」

ピクシス「全くじゃ。リヴァイ主任の意外な側面が見えたの(ニヤニヤ)」

リヴァイ「自分でも頭おかしいと思っています。はあ……」

けだるげな表情でリヴァイは頭を抱えた。

リヴァイ「入籍自体は9月5日にして、結婚式は6日にやる予定だが……もっと早く設定すれば良かったかな」

エルヴィン「待ち遠しいね。もうちょっと先だけど」

ピクシス「準備の方は順調なのか?」

リヴァイ「はい。今のところ、何も問題は起きていません。式場も予約したし段取りも煮詰めています。ハンジのご両親の意向でフルコース形式はどうしてもダメだという話だったので、出来るだけ和風の披露宴になりそうです」

ピクシス「それは有難い。わしもフルコース形式は忙しないから好きじゃない」

エルヴィン「年上受けしそうな披露宴になりそうだね」

リヴァイ「まあ、俺はどんな披露宴でも構わないんだけどな。ハンジの方がしんどそうだった」

エルヴィン「結婚は女の方が大変な訳だからね」

リヴァイ「俺は貰う側だから気は楽だ。話が脱線したが、とりあえず今年はエルヴィンの副官の位置にハンジは収まるんだよな?」

エルヴィン「それで試験的に今年からやってみようって話だから。全部署、それで何も問題がなければそのまま定着すると思う」

リヴァイ「了解した。こっちもそのつもりで心構えをしておく」

そしてリヴァイが先に人事部の部屋を出て行き、残ったエルヴィンとピクシスは苦笑した。

ピクシス「エルヴィン、気づいたか?」

エルヴィン「何がですか?」

ピクシス「リヴァイの奴が『それって、ハンジの方が俺の上司になるのか?』と言った瞬間の顔じゃよ」

エルヴィン「ああ……なんか、ちょっとだけ嬉しそうでしたね」

ピクシス「あやつ、やっぱり少々、そっちの性癖もあるようじゃの」

エルヴィン「ですねえ。初めてそれに気づいた時の絶望的なリヴァイの顔は今でも忘れらないですよ。可笑し過ぎて」

エルヴィンが腹筋を鍛える様な細かい笑いを堪えている。

ピクシス「ああ………鍋の時のアレじゃな? わしも遠目で見ておったぞ。無理やり肉を食わされているリヴァイの奴の、あの何とも言えない表情を」

エルヴィン「後日、相談された時は何事かと思いましたよ。思わず『おめでとう☆』と言ってしまいましたが」

ピクシス「本人からすれば皮肉にしか聞こえんだろ」

エルヴィン「でも他に言える言葉が思い浮かばなかったんですよね」

ピクシス「まあ、わしも同じ対応をしたとは思うがの。しかし元々、リヴァイの奴はハンジの事を最初から好いておっただろ。ここまで来るのに何年かかったんじゃったかな?」

エルヴィン「ええっと、ハンジが入社したのは22歳になる年の4月だから……今年は36歳になる年だから、引き算して大体14年くらいですかね?」

と、大まかな計算をするエルヴィンだった。

ピクシス「鈍行列車のような恋愛じゃの。まあ、のんびりした旅行も悪くはないが」

エルヴィン「ですね。ただ、結婚まで行き着いたのは、ハンジの方のご両親が心配されていたせいもあったようですよ」

ピクシス「そりゃ当然じゃろ。やっぱり周りからけしかけんと、今の若いもんはそこまでなかなか行きつかんようじゃな」

エルヴィン「ですかね。ま、ピクシス部長の作戦勝ちとも言えますけど」

ピクシス「ああ……昔、営業課は男性しか採用しておらんかったからな。わしが革命を起こして、女性を無理やり採用させたのが効いたな」

エルヴィン「ピクシス部長の『男性社会における女性の重要性』の論を説いたのが効きましたね。実際、ハンジが入社した後の営業成績は、それ以前に比べたら右肩上がりに伸びましたしね」

ピクシス「何が悲しくて男だけで仕事せにゃならん。一輪でもいい。女がいるのといないのでは、やる気が全く変わってくる」

エルヴィン「上役は最初、それを信じていませんでしたけど。実際、特にリヴァイの営業成績が一気に伸びたのを見て顔色を変えましたしね」

ピクシス「そういう意味ではわしはリヴァイに感謝せんといかんな。あやつが頑張ってくれたおかげで、女性の採用率を上げる事が出来た。それに加えてうちの会社は産休システムも確立出来た。女性も働きやすい職場を作れたのも、リヴァイのおかげかもしれんの」

エルヴィン「本人は全くその件については気づいてなさそうですけどね」

ピクシス「今年も若い美人の女性社員を増やしたから、春から楽しみじゃのう……」

エルヴィン「春のレクレーション、今年はテニスにしたそうですね?」

ピクシス「リヴァイの方から頼んできたんじゃ。何故か知らんが。あやつ、テニス経験者か?」

エルヴィン「経験者はハンジの方ですが……あ、成程」

ピクシス「ほほう……やはりリヴァイはドスケベじゃのう」

エルヴィン「ですね。まあ、だからこそ、営業最強なんですよ」

そう言い合いながら、2人はお茶を飲んで笑っていたのだった。






そして4月の春のレクレーション大会では、テニス大会が社内で行われた。

ハンジ「マジで女性社員に全員、スコートを支給するって、うちの会社は馬鹿なの?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ねえ、リヴァイ。久々にスコート履いたから、不安なんだけど、大丈夫かな?」

テニスコートの脇でくるりと回転して見せるハンジに、リヴァイのテンションも静かに盛り上がっていた。

リヴァイ「問題ない。似合っているぞ」

ハンジ「なんか、口元、いやらしいんだけど?」

リヴァイ「笑みを殺すだけで精一杯だ」

ハンジ「本当にもう、スケベ! まあ、いいけど。他の女性社員の方はジロジロ見ないように」

リヴァイ「ん」

ハンジに命令されて普通に返しているが、エルヴィンとピクシス部長はその表情の変化に気づいていた。

エルヴィン(リヴァイ、浮かれているなあ。本当に)

ピクシス(アホじゃのう)

そんなこんなで、男性ダブルス部門、女性ダブルス部門、ミクスドダブルス部門の三つに分かれて社内でテニス大会が行われた。

男性ダブルス部門はエルヴィンとリヴァイのペアが順調に勝ち進んでいく。

リヴァイ「エルヴィン、お前、テニス巧いな。経験者か?」

エルヴィン「ちょっとだけね。背高いとテニス部から勧誘が来るんだよ」

リヴァイ「ハンジも同じような事を言っていたな」

エルヴィン「学生時代、バレーとかバスケ部も誘いがきたけど、一番私の性に合っていたのはテニスだったから」

リヴァイ「成程。それっぽいな」

2人の息は合っていた。

ビックサーバーのエルヴィンと、前衛で守るリヴァイのコンビネーションに他の男性社員はタジタジだった。

ピクシス「情けないの。エルヴィンもリヴァイもそれなりの年なのに。若いもんはもっと頑張らんか!」

エレン「無茶ですよ! あの2人は隙が無さ過ぎます!」

アルミン「確かに。強すぎるよね」

営業2年目に入った2人がそうぼやいていた。

女性ダブルス部門ではハンジとナナバがコンビを組んで順調に勝ち進んでいたが、それと同じくらいのスピードでミカサとアニのペアも勝ち進んでいた。

ハンジ「おお……ミカサのサーブはかなり速いね!」

ナナバ「アニの前衛も巧いよ。経験者かな?」

ハンジ「いや、別のスポーツかも。ライバル出現だね!」

そんなこんなで、男性ダブルス部門の決勝はエルヴィン・リヴァイペアとライナー・ベルトルトペア。女性ダブルス部門はハンジ・ナナバペアとミカサ・アニペアの戦いになった。

ミカサ(エレンの為に、私は戦う。絶対優勝して見せる!)

エレン(おおお! リヴァイ主任、すげえ!)

決勝は同時に別のコートで行われた為、エレンの視線はリヴァイの方に向いていた。

ミカサ(うぐ……エレンがこっちを見てくれない)

ミカサのパワーが20%ダウンした!

アニ「ミカサ! エレンの方を見ている場合じゃないでしょ!」

ミカサ「御免なさい」

気持ちを切り替えて正面を向いたミカサだった。

ハンジ(ははーん。ミカサは男の為に戦うタイプと見た。だったら……)

ハンジはちょい強めのサーブを打って、前に出た。

ミカサ「は!」

ハンジ「よいしょおおお!」

サービスダッシュを決めて先制点を取る。

ハンジ(短期決戦で決めよう。体力のアドバンテージは向こうにある。リヴァイがエレンを引き付けているうちに勝負を決める!)

ミカサ「うぐぐ……」

アニ「気持ち切り替えて! エレンの事は一旦、忘れて!」

アニの激励にミカサは苦しそうにしていた。

そう思えば思う程、ミカサの焦りが募っていく。

ミカサ(何で、エレンはリヴァイ主任の事ばかり……)

土下座させられたのに、エレンは変わらずリヴァイ主任を慕っていた。

その事がミカサの嫉妬の心を燃やして冷静な判断が出来なくなっていた。

そんなミカサの様子にアニも困った表情で居る。

アニ(優勝したら、商品券10万円分貰えるから、ガチで欲しいんだけど)

アニは商品券が目当てで頑張っていた。だからこそ、ミカサと組んだのに。

アニ(肝心のミカサがこれじゃ、宝の持ち腐れだ。どうするか)

アニはそこで、奇策に打って出た。

コートチェンジの隙をついて、アニはアルミンを呼び出す。

アルミン「なに?」

アニ「エレンに、ミカサを応援するように言って」

アルミン「え?」

アニ「優勝したいんだよ。ガチで商品券が欲しい。アルミン、どうにかして」

アルミン「えええ……」

アニ「どうにかしてくれたら、アルミンのいう事、私がひとつだけ叶えてあげるから」

アルミン「了解した(キリッ)」

アルミンを釣って、間接的に誘導した。これで何とかなる筈だ。

アルミン「エレン、ミカサの方も応援しようよ」

エレン「え? 何でだよ。どうせ勝つんじゃねえの?」

アルミン「いや、よく見てよ。劣勢だよ? このままだと、ミカサ達が負けちゃうよ」

エレン「え……?」

てっきりミカサが勝つとばかり思っていたエレンはそこで初めて気づいた。

エレン「ほ、本当だ。負けていたのかよ」

アルミン「そうだよ。だから応援しないと。ミカサ、頑張れって言わないと!」

エレン「ううーん」

アルミン「何で迷うの?」

エレン「いや、ちょっと恥ずかしくてな」

アルミン「照れている場合じゃないよ。優勝したら、商品券、貰えるんだよ?」

エレン「そう言えばそうだったな! ミカサ! 頑張れ!」

ミカサ「!」

商品券が目当てとはいえ、エレンの声援を受けてミカサのメンタルは完全復活した。

ミカサ「はあああああ!」

ドオオオオ!

ミカサ「てりゃああああ!!!」

パコオオオオ!

ナナバ「くっ……!」

ハンジ「なんて重いリターン!!」

その後はミカサ無双状態になり、1セットマッチの試合はミカサ・アニペアの逆転勝利となった。

ハンジ「あちゃー……負けちゃったか」

ナナバ「若さって怖いね」

と、ベテラン組はお互いにドンマイし合ったのだった。

女性ダブルスの試合が先に終わってしまったので、残りは男性ダブルスの試合を見学する事になった。

ハンジ「どれどれ……おお! いい感じにシーソーゲームだ」

ナナバ「若手もなかなかやるね」

ハンジ「だね。特にあのライナーって子のフォローが巧い!」

現在、4-4だった。まだまだ試合の行方は分からない。

リヴァイ「ふむ。なかなかやるな。向こうのコンビネーション」

エルヴィン「いや、殆ど初心者のリヴァイも十分凄いよ」

リヴァイ「そうか?」

エルヴィン「どんな球でも拾ってくれるのは有難い。そうだ。リヴァイとならアレやれるかも」

リヴァイ「アレ?」

エルヴィン「ちょっと特殊なフォーメーションなんだけど」

ごにょごにょ。

リヴァイ「分かった。試しにやってみるか」

エルヴィンは作戦を立てて、その準備に取り掛かった。

そして、その新しいフォーメーションにライナー・ベルトルトペアは面喰う。

ライナー「な…!」

ベルトルト「え……?」

なんと、前衛だったリヴァイが後衛に回って、後衛だったエルヴィンが前衛にチェンジしたのだ。

エルヴィンの高身長の壁にライナーは焦って、ボレー勝負で負けてしまう。

エルヴィン「うん。こっちの方がやりやすいな。このままいこう」

リヴァイ「俺の方が後衛の方が良かったのか」

エルヴィン「リヴァイはフットワークSSって感じだからね。リターン巧いよ」

そんな訳で、新しいフォーメーションに切り替わってからはエルヴィン・リヴァイペアに勝てる筈もなく。

男性ダブルス部門はエルヴィン・リヴァイペアが優勝を果たしたのだった。

ハンジ「お疲れ様! リヴァイ、テニス巧いね! 格好良かったよ!」

リヴァイ「そうか?」

エルヴィン「リヴァイは運動神経いいから呑み込み早いよ。本格的にやってみる気はないか?」

リヴァイ「趣味程度で別にいい。まあ、エルヴィンとのコンビは悪くはなかったが」

エルヴィン「次はいよいよミクスドだね。2人は出るの?」

ハンジ「勿論、出るよ! 優勝、2個目を狙いましょうか!」

リヴァイ「そうだな」

優勝賞品の商品券をエルヴィンと分け合って、昼の休憩を挟んでミクスドの試合を行う事になった。

ミクスドの方は希望者だけの試合になるが、優勝賞品がもっと豪華になっていた。

なんと、旅行宿泊券3泊4日の温泉旅行の大分の旅だったのだ。

リヴァイ「大分いいな。温泉はいい」

ハンジ「日田の温泉だって! やっほおおお!」

リヴァイ「浮かれ過ぎだ。油断するなよ」

ハンジ「うん。絶対、一緒に温泉入ろうね!」

リヴァイ(ぶほっ……!)

ハンジの遠慮ない発言にリヴァイはついつい肩を震わせて、周りはクスクス笑っていた。

エルヴィン「いやーお熱いねえ。ご両人」

ハンジ「え……あ! ごめんごめん! リヴァイ、ごめんって!」

リヴァイは顔を両手で覆って恥ずかしそうにしている。

リヴァイ「いや、別にいいんだが、少しは自重してくれ(嬉しいけどな)」

ハンジ「うん。ここからは本気出してやるよ(キリッ)」

テニスラケットのガットを微調整してハンジはやる気満々で試合に臨んだ。

ミクスドダブルス部門の方は、リヴァイ・ハンジペアだけでなく、ゲルガー・ナナバペア、オルオ・ペトラペア、ケイジ・ニファペア、マルロ・ヒッチペア、イアン・リコペア、ライナー・クリスタペア、ベルトルト・ユミルペア、コニー・サシャペア、マルコ・ミーナペア、フランツ・ハンナペア、アルミン・アニペア、そしてエレン・ミカサペアなど多数エントリーしていた。

ジャン「クソ……誰も女性を誘えなかった」

余ってしまったジャンは寂しそうにミクスドダブルス部門を見学していた。

ミカサ(温泉旅行……絶対、獲る!)

ミカサはミカサでやる気満々だった。

ミカサ(エレンと温泉旅行に行って、無理やり押し倒して既成事実を作ってしまえばきっと嫁にして貰える!)

という、邪な事を考えていたせいか、その気配を感じてエレンがやる気失くしてミスを連発する。

エレン「あーわり! なんか調子でねえ」

ミカサ「ど、ドンマイ……エレン!」

ミカサは冷や汗を掻いている。エレンの冷めた目にドキドキしている。

ミカサ(大丈夫……私が頑張れば、勝てる筈)

審判(ピクシス)「ダブルフォールト!」

ミカサ「ああ!? (ガーン)」

エレン「あーわり!」

ミカサ「ど、ドンマイ……(シュン)」

リヴァイ(どうしたんだ? 手抜きしているように見えるが)

ハンジ(本当だね。意味が分からない)

対戦相手のリヴァイとハンジはお互いに怪訝な表情だった。

しかし何度やってもエレンのサーブは入らず、ミカサが遂にエレンに詰め寄った。

ミカサ「エレン、どうしてわざとサーブを外すの?」

エレン「え?」

ミカサ「酷い。そんなに私と温泉に行きたくないの? そんなに勝ちたくないの?」

エレン「あー流石に気づいたか」

ミカサ「酷い。酷い。酷い……」

途中でペアがもめだしたので、一度タイムを取るピクシスだった。

ピクシス「痴話喧嘩か? どうしたんじゃ?」

エレン「すみません。ちょっと待ってて貰えますか?」

ピクシス「ふむ。まあ、少しなら」

その間、リヴァイ達は不思議そうにしながら水分補給をした。

直後、エレンはミカサの頭に頭突きをかました。

プシュー……

ミカサ「い、痛い……」

エレン「今、邪な事、考えただろ」

ミカサ(ギクリ)

エレン「ミカサがそのつもりなら、オレはこの試合、棄権すっからな」

ミカサ「えええ?! (ガーン)」

エレン「真剣に、やれ。温泉旅行は別にいいけど、その後の事は考えるな」

ミカサ「うぐ……!」

エレン「折角、リヴァイ主任と手合せ出来るんだ。ちゃんとやってくれよ」

ミカサ「分かった。エレンがそう言うなら……」

そんな訳で試合再開。

以後は普通にゲームが進んで、なかなか見ごたえのある試合展開になっていった。

しかしそこは経験者のいるリヴァイ・ハンジペアの方が優勢だった。

ミカサも健闘したが、リヴァイとハンジのコンビネーションには敵わず、6-4でリヴァイペアの勝利となった。

リヴァイ「なかなかいい勝負だったな」

エレン「ありがとうございました」

ミカサ「ぐぐぐ……」

エレン「ミカサ! 握手!」

ミカサ「くっ……! (>_<)」

凄く嫌そうな顔でリヴァイと握手をするミカサだった。

そして別のペアが試合をしている最中、反省会をするハンジだった。

ハンジ「いやー何度か冷や冷やしたね! あのミカサって子、運動神経、いいよ」

リヴァイ「そのようだな。営業事務には勿体ない逸材だな」

ハンジ「本当だよ。何で営業の方に来なかったんだろ?」

リヴァイ「さあ?」

エルヴィン「ああ、その件ならピクシス部長の判断でそうなったそうだよ」

リヴァイ「そうなのか?」

エルヴィン「うあの2人は複雑な関係みたいだし、一緒の課で働かせたらちょっとまずいかも? みたいな話だった」

リヴァイ「ん? 恋人同士じゃねえのか? いつも一緒にいるようだが」

エルヴィン「同居はしているけど、恋人同士じゃないそうだよ。エレン君がきっぱり否定していた」

リヴァイ「なんだそれは? まさか片方だけ血が繋がった兄妹とかか?」

エルヴィン「それもないそうだけど。でも、戸籍上は親戚になるそうだ。ミカサ君のご両親は既に亡くなっていて、エレン君の家に養子縁組の形で入っているそうだから、2人は義理の姉弟の関係だそうだ」

リヴァイ「あーそういう事か」

それなら仕方がないか。そう思ったけれど。

リヴァイ「ん? でも姉弟の関係だからと言って、必ずしも同居する必要はなくねえか?」

ハンジ「あーそれもそうだね。社会人になったら別々に住居を構えても不思議じゃない」

エルヴィン「まあ、その辺は2人の様子を見ていれば分かるけど、ミカサ君の方が過剰にエレン君に依存しているらしい。エレン君もほとほと困っているそうで、いつもあんな感じだそうだ」

リヴァイ「ああ、だから俺はミカサの奴に過剰に嫌悪されているのか」

ハンジ「みたいだね。そっか……」

リヴァイ「エレンの方がミカサを嫁にしちまえばいいのに」

エレン「冗談でもそんな事は言わないで下さい」

目ざとく聞きつけてエレンが反論した。

リヴァイ「居たのか」

エレン「逃げてきました。今、ミカサはアニと商品券を分配しているので」

言われて目を向けると、ミカサと目が合ってしまう。こっちに来るようだ。

ミカサ「エレンを勝手に呼び出さないで下さい」

リヴァイ「エレンの方からこっちに来たんだよ」

ミカサ「そうなの?」

エレン「そうだよ。オレの方がリヴァイ主任に用事があったからな」

ミカサ「何の用事?」

エレン「ミカサに話す事じゃねえよ」

ミカサ「うぐ……」

エレン「あの、リヴァイ主任。この間の件、本当にありがとうございました(ぺこり)」

リヴァイ「どの件だったか?」

エレン「えっと、先月の失敗の件です」

リヴァイ「ああ。アレか。別に大した事じゃねえよ」

エレン「いえ! 助かりました! ありがとうございます!」

ミカサ「また、エレンは怒られたの? (ゴゴゴ…)」

エレン「怒られたんじゃなくて、フォローして貰ったんだよ!」

2人が険悪な空気になるが、リヴァイはどうしようもなく頭を掻いた。

リヴァイ「いや、怒ったのは事実だが」

ミカサ「!」

エレン「主任! 余計な事は言わないで下さい!」

ミカサ「やっぱりクソちび上司……」

リヴァイ「ああ、もうそれでいいから。別に呼び方はどうでもいい」

ミカサ「くっ……クソちび上司ではダメージを与えられないのね」

リヴァイ「恨まれるのは慣れている。逆に慕ってくれる奴もいる。社会に出たらそんなもんだ」

ミカサ(ムキー!)

ミカサは悔しそうに退散していった。余程悔しいようだ。

リヴァイ「やれやれ…」

ハンジ「ちょっと、リヴァイ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「若い子に浮気しちゃダメだってば。やめてよ?」

リヴァイ「は? 何言っている。今のどこが浮気だ?」

ハンジ「えー……だって、口元、綻んでいるよ?」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。自分で気づいてないんだ?」

リヴァイ「…………妬いているのか?」

ハンジ「当然でしょ。嫌だよ。リヴァイが若い子と親しげに話すところを見るのは」

リヴァイ「!」

思わぬ不意打ちにリヴァイは顔中が赤面してその場に座り込んでしまった。

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「いや……その………そうか」

やっとその位置まで来てくれたと実感して、リヴァイは歓喜に震えていたが、それを表面に出さないように必死に努めていた。

ハンジ「ん?」

リヴァイ「すまん。なんか、興奮した」

ハンジ「何でだ?! (ガビーン)」

リヴァイ「お前が本当に妬いてくれるとは思わなかったからだ」

ハンジ「あれ? そうだったの? 私、ヤキモチ見せた事なかったけ?」

リヴァイ「前に冗談で『浮気しちゃダメだぞ』と言ったのは聞いたが」

ハンジ「え? 別にアレ、冗談じゃないんだけど」

リヴァイ「え?」

ハンジ「今の時代、女とか男とか関係ないよ。仕掛けてくる奴は仕掛けるから。目光らせないと」

リヴァイ「……………」

エレン「何の話ですか?」

ハンジ「ああ、エレンにも言っておくよ。リヴァイに手出したらダメだからね? (黒微笑み)」

エレン「オレ、男ですから! ないですよ!! (ガビーン!)」

ハンジ「ミカサはそう思ってないようだよ? ほら、睨んでいる」

ミカサ<●><●>

遠くから睨みつけている様子に気づいてエレンがびびっていた。

エレン「ねえから!! 誤解すんなよ!!」

ミカサ「本当に?」

エレン「オレはちゃんと、女好きだから! 男に走る趣味はねえから!!」

リヴァイ「だったら、ミカサを嫁にしたらダメなのか? 法律上は問題ねえだろ。血さえ繋がっていなければ」

そうリヴァイが問いただすと、エレンは頭を掻いた。

エレン「オレにとっては、ミカサは女じゃないんで。妹に近い感覚なので」

リヴァイ(俺でいうイザベルみたいな存在か?)

エレン「そういう目で見られないんですよね。一緒に風呂入っても、普通で居られるんで」

リヴァイ「そう言えばこの間もそんな感じの事を言っていたな」

エレン「あいつが無理やり背中洗うって言って入ってくるんですよ。たまに本気で襲ってこようとするから困るんですけどね」

リヴァイ「それは嫌悪感があるという意味か?」

エレン「いや、嫌悪感じゃないですけど。なんていうか、そこまで甘やかされるのは男としてその……」

リヴァイ「自立したいのか?」

エレン「されるのは、あんまり好きじゃないんです。世話をしてやる側ならいいんですが」

ハンジ「あー気持ちは分からなくないかも」

リヴァイ「そういうもんか?」

ハンジ「うん。リヴァイに口説かれている時にそう感じる時がたまにあった。私、別に口説かれたい訳じゃないから」

リヴァイ「だったら俺はどうすればいいんだ?」

ハンジ「特別な事はしなくていいんだ。自然にしていてくれたら、それでいいって」

エレン「分かります! その気持ち! そうですよ! 普通で十分なんですよ!」

ハンジとエレンは何故か意気投合してしまった。

エレン「ミカサの奴、空回りし過ぎて暴走するから怖いんですよ!」

ハンジ「あはは! 愛が重い時があるんだね?」

エレン「気持ちは有難いとは思うんですが、たまに『OH…』って気分になると言うか」

ハンジ「まーその辺はその都度、エレン側が調整してやるしかないと思うよ? 私もそうしているしね?」

リヴァイ「まるで俺の愛が重いと言わんばかりだな(ズーン)」

ハンジ「重いって感じたら、その都度言うってば。前にも言ったでしょ? 『なんかズレているような気がする』とか『やり過ぎると鳥肌立ってくる』とか」

リヴァイ「ああ……あの時の説明はそういう意味もあったのか」

ハンジ「そうそう。砂糖を入れたらいいってもんじゃないでしょ?」

リヴァイ「ふむ。それもそうか」

リヴァイは料理に例えられて妙にしっくりきた。

リヴァイ「甘くし過ぎるのも考え物という事だな」

ハンジ「分かってくれたかな?」

リヴァイ「分かりやすい例えだった。ありがとう」

ハンジ「どういたしまして」

リヴァイとハンジは解決したが、エレンの方は未解決のままだった。

エレン「そういう訳で、オレとしてもどうしたら良いのか」

リヴァイ「ふむ………」

エレン「ずっとこのままって訳にもいかないと思うんですけどね」

リヴァイ「血の繋がらない妹のような存在なら、俺にもいるが」

そう、前置きしてからリヴァイは言った。

リヴァイ「俺はそいつと一緒に風呂に入った事はなかったな」

エレン「まあ、普通はそうですよ。ミカサが異常なだけですよ」

リヴァイ「いや、俺が言いたい事はそういう事じゃねえ」

エレン「え?」

リヴァイ「俺の場合は、嫌悪感、あったからな」

エレン「え? あったんですか?」

リヴァイ「ああ。そういう意味で接してやれない場合は、裸の関係は嫌悪感、出るだろ」

エレン「……………」

リヴァイ「押し切られている時点で、エレンの方も異常じゃねえか?」

ハンジ「あー………」

ハンジもそれに気づいて同意した。

ハンジ「嫌悪感がないっていうのは、確かにある意味では受け入れているって事になるのかも?」

リヴァイ「ハンジがそうだったんだろ? 最初は」

ハンジ「そうだね。全く嫌悪感、なかったね。ただ、ドキドキする感覚もそんなになかったけど。最初は」

リヴァイ「俺を異性として認めたのはどの時点だった?」

ハンジ「ええっと、多分………怒鳴ったリヴァイを見たおかげじゃないかな?」

リヴァイ「怒鳴った俺?」

ハンジ「会社では見せないリヴァイの一面を見た後に、自分の中の意識が変わった気がする。がらりと」

リヴァイ「素の俺に惹かれたって受け取っていいのか? それは」

ハンジ「素も、が正解かもしれない。両方見て、そのギャップが楽しいって思った」

エレン「……………」

エレンは何も言えずに黙り込んでいる。

ハンジ「だから、そこが境界線だったのかもしれない。その直後に、やらしー事されても、体が拒否しなくなったでしょ?」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「私も後で気づいた事だけどね」

リヴァイ「そんな事なら、もっと早くハンジの前で素を出せば良かった」

ハンジ「プライベートでも遊べば良かったね。こっちからたまに誘っても振られてばかりいたしなあ」

リヴァイ「それは、その……本当は誘われて嬉しかったんだが、怖かったんだよ」

ハンジ「本当の自分を知られるのが?」

リヴァイ「その通りだ。ヘタレですまん」

ハンジ「まあ、過ぎた事だし。いいよ」

エレン「オレ、ミカサの事を拒否した方がいいんですかね?」

エレンの額に汗が浮かんでいた。

リヴァイ「その気がないなら、同居していること自体が残酷なような気もするが」

ハンジ「そうだね。それは私もそう思うよ。それって女の方に期待させる行為だよ」

エレン「でも、あいつ、オレの住所を無理やり調べて後から追いかけて来たんですよ。貯蓄はたいて探して、残金ゼロの状態で転がり込んできて……保護しない訳にはいかないじゃないですか」

リヴァイ「一度、それだけ拒否したのに追いかけて来たのか」

エレン「はい。一度は心を鬼にして、ミカサの元を離れたんです。この会社にこっそり就職して、元居た家を出て、新しいアパートに一人で移り住んで。でも、すぐバレちまって、ミカサがオレの家に来ちまって」

ハンジ「彼女も頑張るね。余程、エレンの事が好きなんだね」

エレン「多分、そういう条件が重なって、そうなっているだけかもしれないとも思うんですけどね」

リヴァイ「……………それの何が悪いんだ?」

エレン「え?」

そこで、エレンは意外な顔をした。

リヴァイ「いや、恋愛なんて、事故みたいなもんだろ。偶然が重なってそうなる事の方が多いんじゃねえか?」

ハンジ「吊り橋効果の事を言っているの?」

リヴァイ「それも含めてだ。ミカサが何を切っ掛けにエレンを好いたのかは知らんが、そういう事件を境に恋に堕ちたのなら、それは仕方がねえ事だ。俺も最初は、恋に堕ちた自覚を持つのは怖かったし、気のせいにしてしまいたかった。でも、ハンジの方に意識が向かうのは止められなかった。だから、どうしようもなかったしな」

ハンジ「そんな素振りは全然なかったのに」

リヴァイ「バレないように頑張っていたんだよ。当時の俺は」

ハンジ「そういうところが面倒臭いのに」

リヴァイ「面倒臭い俺に貰われた癖に何言っているんだか」

ハンジ「はいはい」

リヴァイ「話が脱線したな。何の話をしていたんだったか」

ハンジ「エレンはミカサを拒否するべきか否かって話?」

リヴァイ「そうだったな。その気がねえなら、せめて風呂だけは別にした方がいいんじゃねえか?」

ハンジ「そうだね。同居をすぐに解消出来ないなら何処かで線引きしてあげないと」

リヴァイ「何なら、ピクシス部長とかに頼んで、見合いの話でも持って来てやろうか? エレンに」

エレン「え………」

リヴァイ「お前自身が、さっさと嫁さん貰う方が早いだろ。そうしたら、流石にミカサも諦めるんじゃねえか?」

エレン「いや、俺は……ミカサを先にと、思っていたんですが」

リヴァイ「無理だろ。ミカサはエレンを好いているのに」

ハンジ「諦めさせたいなら、それが一番かもしれないね」

エレン「…………少し、考えさせて下さい」

そう言ってエレンは目を細めて2人の元を離れて行ったのだった。

ここからはエレンとミカサの話がクロスしていきます。
続きはまた次回。ノシ








テニスの大会は無事に終わり、帰宅後、リヴァイとハンジはベッドの中で今日の事を話していた。

当然、ミクスドダブルス部門はリヴァイとハンジが優勝をもぎ取ったが、その宿泊券を眺めながらハンジは微妙な顔をしていた。

ハンジ「ねえねえ、リヴァイ」

リヴァイ「言わなくても分かる。その宿泊券、あいつらに譲ろうか否か迷っているんだろ?」

ハンジ「良く分かったね!」

リヴァイ「そういう顔をしている。いや、俺もその考えには賛同してもいいと思っている」

ハンジ「そうなんだ。ごめんね? 折角、宿泊券、手に入ったのに」

リヴァイ「その分、ハネムーンで贅沢させてやるよ。結婚式が終わってから、行きたいところに連れて行ってやる」

ハンジ「わーい♪ 何処に連れていって貰おうかな」

ワクワクしてハンジが喜んでいると、

携帯電話に連絡が入った。エレンからの電話だった。

リヴァイはその連絡を受けて、真剣な表情で答えた。

リヴァイ「本当にいいのか? 話を通して」

エレン『はい。確かに俺の方が先に結婚しちまえば、あいつも諦めると思い直しました。もしお願い出来るなら、ご紹介下さると助かります』

リヴァイ「お前たちに今日の宿泊券、譲ってやろうかと今、ハンジと話していたのに」

エレン『いや、そこまで気遣わなくていいですよ! お2人で使われて下さい!』

リヴァイ「そうか? そういうなら仕方がないな」

そう言う訳で話が変更になり、微妙な顔になるリヴァイだった。

リヴァイ「エレンの奴が見合いをしてみるそうだ」

ハンジ「え? 本当に?」

リヴァイ「ああ。ピクシス部長に話を通していいって言ってきた。あいつ、本気なんだろうか?」

ハンジ「うーん。その辺はピクシス部長に詳しい事を話した上で切り出した方がいいんじゃない?」

リヴァイ「だろうな。慎重に事を運んだ方がいいかもしれない」

そう思いながら、エレンの事を考えるリヴァイだった。




社内テニス大会から数日後。4月18日。

リヴァイはピクシス部長のいる人事部の部屋に訪れて、ピクシスを昼食に誘った。

その席にハンジも同席して、とりあえず、外の定食屋で昼飯を食う事になった。

生姜焼き定食とかサバ煮込み定食など、定番の定職を食べながら例のエレンの見合いの件を切り出してみると……。

ピクシス「ふむ。見合いの話ならいくらでも出来るが、エレン君は本当にそれを望んでいるようには思えないな」

と、ピクシス自身も渋い顔をしたのだった。

リヴァイ「まさか俺も本当にOKを出すとは思わなかったですが、ただ、エレンの方がそう言う以上、1回くらいは見合いをした方がいいかもしれないとも思います」

ハンジ「成功するか否かは別にして、だよね」

リヴァイ「そうだ。俺は失敗してもいいから、ミカサ以外の女をちゃんと見るべきなのはエレンの方が先のような気がする」

リヴァイはそう言いながら定食をつついた。

リヴァイ「ミカサ以外の女を見て、それでそっちに惹かれるなら、本当にミカサを女としては見ていないという証明にもなる。俺の場合、イザベルと一緒に生活をしていたが、そういう意味では心は動かなかった。無意識かもしれんが、俺はハンジと出会った時点でハンジの方に意識があったのかもしれん」

ハンジ「あれ? 好きになったのは忘年会の暴挙が切欠じゃなかったの?」

リヴァイ「まあ、はっきりと自覚したのはアレが原因だけどな。ただそれ以前に全くその気がなかったかと問われれば、違うような気がする」

ピクシス「当たり前じゃろう。リヴァイは最初からハンジに気が合ったとしか思えんかったぞ?」

ハンジ「そうだったんですか?!」

ピクシス「だからこそ、ハンジの周りに居た男性は察して距離を取っておったんじゃろうが」

ハンジ「え? それってまさか、リヴァイが原因で?」

ピクシス「周りはなんとなく察しておったぞ? リヴァイに睨まれるのが怖くてハンジから離れた奴もおった」

ハンジ「ええええ………じゃあ、私、結構前からリヴァイに目つけられていたんですか?」

ピクシス「目、つけておったんじゃろ? のうリヴァイ」

リヴァイ「自覚はなかったですけど………まあ、今思えばそうかもしねえな」

ハンジ「酷い! 目つけておきながら、こっちの誘いは断るとか! 何がしたかった?!」

リヴァイ「すまん。グズグズしていた俺が悪いな」

ハンジ「もー! 本当、酒の勢いでこっちから交渉しなかったら危なかったな! 私の人生!」

ピクシス「全くじゃな。ギリギリセーフじゃったな」

リヴァイ「すまん……(シュン)」

ハンジ「まあ、今は幸せだからいいんだけどね。うん……」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。幸せ。何度でも言うから。リヴァイが不安にならないように」

リヴァイ「ハンジ……」

ピクシス「籍入れるのを延期した癖にすっかり新婚気分じゃな。あんまり調子に乗ると、直前で破綻するぞ?」

リヴァイ「え?」

ピクシス「わしはそういうカップルも多々見て来ておる。くっついたからといって、油断はしたらいかんぞ?」

ハンジ「まあ、そうですよね。はい。肝に銘じます」

リヴァイ「自重します」

ピクシス「お主らの事は順調じゃからいいが、問題はエレン君の方じゃのう」

と、悩ましげに眉を顰めるピクシスだった。

ピクシス「エレン君のご家庭は少々、複雑のようで、彼自身がミカサ君を面倒見ようとしているのも仕方がないとは思う」

リヴァイ「身内の感覚なんですよね。それは俺にも分かります」

ピクシス「そう言えば、お主のところの例の彼女はまだ目覚めんのか」

リヴァイ「難しいですね。医者には確率的には5%未満と言われています。ゼロではないですが、ずっと停滞状態です」

ピクシス「そういう意味では、他人の娘と同居していたお主は、例の彼女の方に全くその気にはならなかったのか?」

リヴァイ「俺の場合は、そうですね。イザベルの方は違ったけれど。その諍いをした直後にあいつは家を飛び出して、事故に遭ってしまった」

ハンジ「え……そうだったの?」

衝撃の事実をさらりと言われて驚くハンジだった。

リヴァイ「ああ。だからエレンに言ったんだよ。『同居していること自体が残酷なような気がする』とな。俺自身、そういう事をやらかしてしまった過去がある。今思うと、本当にイザベルには悪い事をした」

ハンジ「……………」

リヴァイ「それに加えて、ファーランの方はイザベルを好いていたからな。俺はイザベルとファーランが結ばれるもんだとばかり思っていた。感覚的には、本当に養父のような気分だった。養子縁組していた訳じゃねえが、いろいろあって、あいつらを引き取る事になって。家族のような生活をしていたんだ。昔は」

ハンジ「そうだったんだね」

リヴァイ「すまん。飯時にこんな重い話をして」

ピクシス「構わんよ。むしろ飯時じゃないと話せんだろ」

ピクシスに先を促されてリヴァイはしんみり続けた。

リヴァイ「俺とイザベルの場合は年齢差もあったからな。10歳以上年も離れていたし、何よりあいつはまだ16歳にもならない年だった。イザベルの事は18歳になるまでは面倒をみようと思っていたから、思春期を迎えてまさかああいう展開になるとは、思わなかったんだ。当時の俺は」

馬鹿だった自分を責めながらリヴァイは遠い過去を思い出す。

リヴァイ「エレン自身が本当にミカサを家族以上に見られないなら早いうちにエレン自身が嫁を貰った方がいい。でないと、ミカサの方が可哀想だ」

ハンジ「ミカサの方に肩入れしちゃうんだ」

リヴァイ「人を好きになる感覚を知った今なら、分かる」

リヴァイはそう言ってハンジの方を見た。

リヴァイ「俺は幸いハンジに受け入れて貰ったけれど、この気持ちが大きくなればなるほど、諦めるのが辛くなる筈だ」

ピクシス「わしはエレン君が少し我慢して、もうミカサ君との事を腹括った方がいい気もするが。リヴァイのケースの場合は、三角関係だったから、リヴァイが拒否したのも頷けるが、2人の場合は、相思相愛になっても誰も悲しまんじゃろ」

ハンジ「ううーん。でも恋愛って計算だけで事は進まないですよ」

女性の立場からハンジは言った。

ハンジ「理想は確かにあるかもしれませんが、自分の気持ちですら、迷走する事もありますし」

リヴァイ「そういう経験があるのか?」

ハンジ「それが感覚的に嫌だから、遠ざけていた部分もあるよ。私の場合は。私はエレンの気持ち、結構分かる気がするな」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ハンジ「今はそういう恋愛事に目を向けたくない時期なんじゃないかな。彼、うちの会社にきて2年目でしょ? まだまだミスも繰り返しているし、リヴァイにフォローされている事も多いでしょ? そんな時期に、ミカサとの事、真剣に考えたくないんじゃないかなあ」

ピクシス「あーだから尚更、見合いをする事で逃げている可能性もあるわけじゃな?」

ハンジ「かもしれないですけど。なんていうんですかね? 本気になる可能性がある場合、慎重に進みたいって気持ち、出てきますよね。リヴァイもそうだった訳だし」

リヴァイ「俺の場合、亀並みにノロマだった訳だが」

ハンジ「でも、それだけ真剣だったんでしょ?」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「つまり一旦、離れようとする心理が起きると思うんだよ」

リヴァイ「それがエレンにとっての『見合い』という選択という事か?」

ハンジ「見合いを切っ掛けにして、ミカサの事を考えられるようになるかもしれないし、やってみるのも有りとは思うけど」

リヴァイ「けど?」

ハンジ「もし万が一、トントン拍子に行ったら、ミカサの方がどうなる事やら」

リヴァイ「想像したくねえな。いろんな意味で」

もしハンジが別の男性と見合いをしてトントン拍子で縁談が決まったら、凹む。絶対凹む。

そういう感情があるのに、リヴァイはエレンの行動を止める事は出来なかった。

エレン側の気持ちも分からなくはないからだ。

ピクシス「偽装の見合いでもやらせてみるか?」

リヴァイ「偽装?」

ピクシス「もしくはただの見合いの練習じゃ」

ハンジ「ああ、なるほど。マナー講座のような扱いで1回やらせてみる訳ですね」

ピクシス「そうじゃ。いきなり本番をやらせても緊張するじゃろうし、演技指導も含めて、面接の練習のノリでやらせてみるのもいいかもしれん」

リヴァイ「その感触でも十分かもしれません。エレンにそう伝えましょうか」

ピクシス「問題はその女子の相手を、誰に頼むかじゃが……」

ハンジ「相手が困りますよね。被害のない人に………リヴァイ、女装してやってみる?」

リヴァイ(ぶほっ!)

酷い提案にリヴァイはつい、動揺した。

リヴァイ「何で俺なんだ?」

ハンジ「実害がないでしょ?」

リヴァイ「お前、浮気するなって言った癖に」

ハンジ「演習だからしょうがないでしょ。それとも、協力してくれそうな女性いるかなあ?」

リヴァイ「………ペトラとか、どうだ?」

ふと思いついた女性の名前を言ってみた。

ハンジ「ペトラ? ペトラは独身だったっけ?」

リヴァイ「独身だ。あいつは割と結婚願望があるみたいだし、あいつ自身の練習にもなるんじゃねえか?」

ピクシス「案外いいかもしれんの。だったらその方向で考えてみるか」

という訳で話が大体まとまったのだった。




4月25日。その日の空いた時間を利用して、エレンはペトラと見合いの練習をする事になった。

エレン(本当の見合いをする前に練習をやらせられるとは思わなかったぜ)

エレンは初めての事に緊張していた。

会議室を利用しての会話の練習だが、さてどうなる事やら。

エレン(でも相手がペトラさんで良かった。ペトラさんなら話しやすいし、優しいし、練習相手としてはうってつけだ)

そしてその練習にピクシス部長が仲人役で参加している。

リヴァイも本当は協力したいと申し出ていたが、流石にそこまで暇ではないので、ピクシス部長に託すことになった。

エレンのお見合いの練習の件は一応、極秘に進められたが、そこは情報力の長けたミカサだったので、犬並みの嗅覚でその件に関して嗅ぎ付けてこっそり見守っていた。

盗聴器をこっそり仕掛けて部屋の会話を別の部屋で盗み聞きしているのである。

営業事務の仕事をしながらの調査である。器用な女とも言えるが、人として真似はしてはいけない。決して。

ミカサ(エレンが見合いの計画を進めているという事は、結婚を考えているという事……)

自分以外の女と結婚して逃げようとしている。

その事が凄く腹立たしい思いもあったが、本当に別の女性を好きになって離れてしまう場合は腹を括るしかないとも思う。

エレンのやる事に口は出せない。ミカサはそういう姿勢の女だ。

エレンはそんなミカサの闇の部分は知らずにペトラとのお見合いの練習を開始した。

ペトラはその日に合わせて制服を着替えて私服で会議室を訪れた。

ワンピース姿のペトラにエレンも少し照れている。

エレン「雰囲気が違いますね」

ペトラ「え? そ、そうかな?」

エレン「はい。とても似合っていると思います! (ニコッ)」

ミカサ(ううう……)

ドロドロする嫉妬の感情に悩まされながら書類仕事をこなしているミカサだった。

ペトラ「あ、ありがとう……何だか照れるね。こういうの」

エレン「あの、あまり緊張なさらないで下さい。練習ですし」

ピクシス「ふむ。まずは2人きりで会話をする練習からじゃな。わしは別室で待機するので、30分程度2人で話してみなさい。そしてその感触を後で報告するように」

エレン「はい。では、宜しくお願いします」

ペトラ「よろしくお願いします」

お互いにお辞儀をして会話の練習をやってみる事にした。

エレン「ええっと、まずは自己紹介からですよね」

ペトラ「そ、そうね!」

エレン「シンゲキ飲料入社2年目のエレン・イェーガーと申します。年は22歳です」

ペトラ「あ、そっか。3月生まれだからまだ22歳だっけ」

エレン「はい。大学卒業してすぐ営業課に入社しました」

ペトラ「ええと、私の方は入社6年目になるかな。エレンより4年先輩になると思う」

エレン「ということは、今年で26歳になられるんですか?」

ペトラ「今年でそうなるね。まだ誕生日はきてないから25歳だよ」

エレン「年上女房、いいですよね」

ペトラ「ぶふ!」

エレン「ペトラさん、しっかりしているし、そろそろ結婚を考えていらっしゃるんですよね」

ペトラ「だからこそ、練習に付き合う事にしたのよ。親も期待しているみたいだしね」

ミカサ(私も一応、一か月だけ年上女房なのに……)

誕生日は一か月程度、ミカサの方が上である。2月生まれだ。

ペトラ「エレンの方はまだ、早くない? 20代の前半なんてまだまだ遊びたい盛りじゃない?」

エレン「いえ! 早めに身を固めた方がいいと思いまして」

ペトラ「………本当に? 何か事情があるの?」

エレン「あーミカサの件、どこまで話していますっけ?」

ペトラ「同居している件は一応、聞いたけど。義理の家族だって」

エレン「そうなんです。ミカサの件があって、オレ、早めに嫁さん貰わないとまずいかなって思いなおしたんです」

ミカサ(…………)

エレン「ミカサの依存が酷いんですよ。オレが好きっていうより、なんかもう……神様を信仰する宗教の教祖みたいな扱いするときあるから、たまに怖くて」

ペトラ「そうなんだ……」

エレン「だから、ミカサの為を思うなら、いつかはオレを諦めさせないとって思っていて。嫁さん貰うのが一番いいかなって」

ペトラ「うーん。エレンは本当にミカサを異性としては見ていないんだ?」

エレン「そういう気分にはならないですね」

ペトラ「だったら、どういう人が好みなの?」

エレン「オレより小さい人がいいですね」

ミカサ(うぐ……?!)

エレン「あと、可愛らしい顔立ちが好きです。目が大きいと尚いいです」

ミカサ(ううう……?!)

エレン「女性らしい人が好きですよ。そういう意味ではミカサは真逆だからなあ」

ペトラ「外見は確かに逞しいけれど……スポーツされていたのかしら?」

エレン「格闘技は一通り出来ますよ。柔道剣道空手。全部段位持っています」

ペトラ「それで何で営業事務の方にいった?! 営業課に来ればよかったのに!」

エレン「まあ、その辺はその……きっと察して下さったんだと思います。いろいろと」

ミカサ(何ですって? それは知らなかった)

ミカサは会社の裏事情を知って激怒していた。

ミカサ(営業課を希望したのに営業事務の方に回されたのはエレンのせいだったのね)

きっと、いろいろ告げ口をしたに違いない。

ペトラ「そうだったのね。まあ、あんまりべったりだと重いって思うのも分からなくはないけど」

エレン「そうなんですよ。ペトラさんの方は、どういう男性が好みなんですか?」

ペトラ「それは……当然仕事が出来る人、かな」

エレン「う……だとしたらオレはダメですね(シュン)」

エレンは露骨に落ち込んでしまった。

エレン「オレ、結構失敗が多いし、リヴァイ主任にまだまだフォローされているし、オルオさんにも怒られる事多いですし」

ペトラ「でも、ちゃんと一年続けたじゃない。偉いわよ」

エレン「そうですか?」

ペトラ「営業課は一年未満で辞めていく社員も多いわよ? 私達の同期も何人か途中で抜けていったし、同期で残っているのはオルオとエルドとグンタとニファとケイジと……うん。10人満たないわね」

エレン「そうだったんですか」

ペトラ「営業はあちこち歩き回るし、全国出張も多いし、不規則な仕事の形態だし、酒は飲まされるし、会社の前線部隊のようなもんだからね。しんどいと思って辞めていく人も多いのよ」

エレン「オレは営業、嫌いじゃないですよ。体動かすのは好きですし。ただたまにカチンとくる時があるから、そういう時に堪え性がなくて……」

ペトラ「トラブル起こしちゃうんだよね。それは追々、改善していかないといけないわね」

エレン「はい……(シュン)」

ペトラ「ふふ……私も最初の年はいろいろ苦労したわよ。慣れるまでは」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「今でこそ、仕事をある程度こなせるようになったけど、最初のうちは陰で泣いていた事も多かったわ」

エレン「ペトラさんでもそうなんですか?」

ペトラ「皆、通る道なのよ。リヴァイ主任も一年目は苦労したって言っていたよ?」

エレン「あのリヴァイ主任もですか?!」

それは驚きの事実だった。エレンにとっては。

ペトラ「以前、酒の席でぽろっと話してくれたの。ちょっとだけね。でも二年目に入ってからは急に営業成績が伸びて来たんだって。コツみたいな物を掴んだのかな? 良く分からないけど。でも、数字がそれを表していたから、続ける事にしたんだって」

エレン「へーそうだったんですか」

ペトラ「うん。だから今は失敗してもいいから、頑張ろうよ。お嫁さんが欲しいなら猶更ね」

エレン「はい! オレ、まだまだ仕事頑張ります!」

ペトラ「エレンは休みの時とかは何をして過ごしているの?」

エレン「オレですか? うーん。とりあえず、外に出ますね。あてもなく」

ペトラ「ノープランなんだ?」

エレン「はい。オレ、歩くのが趣味みたいなところがあって、街中を探検するのが好きなんですよ。新しい店とか見つけたらチェックして、アルミンと別の日に入ってみたりします」

ペトラ「アルミン……ああ、あの子も営業課に一緒に入った子よね」

エレン「オレの親友です。シンゲキ飲料を紹介してくれたのもアルミンなんですよ」

ペトラ「確か、エレンの同期ではトップの営業成績叩きだしている子よね」

エレン「そうなんですよ。アルミン、すげえ交渉術が巧いから、どんどん契約取ってくるし、オレとしては悔しいけど、誇らしくもあるんですよ」

ペトラ「そのうち出世しそうな子よね。ライバルはいた方がいいわよ」

エレン「ペトラさんのライバルは誰ですか?」

ペトラ「オルオ……と言いたいところだけど、あいつ、今年の4月から副主任に出世したからね。すっごい悔しいいいいい!」

エレン「オルオさんも仕事出来ますよね。尊敬します」

ペトラ「たまに緊張して舌噛む癖に、契約数はいいんだよね。腹立つわー」

エレン「オルオさんは彼女いないんでしたっけ?」

ペトラ「さあ? そういう話はした事ないなあ。彼女持ちはエルドだけじゃなかったかな? 私の同期では」

エレン「結婚されるんですかね?」

ペトラ「視野には入れて計画立てているみたいだよ」

エレン「結婚って、お金かかりますよね」

ペトラ「そりゃあ……あーそうか。エレンはまだ貯金がないのか」

エレン「まだ2年目ですしね。100万くらいしかないです」

ペトラ「え? 1年で100万溜めたの?」

エレン「いえ、大学時代のを合わせてですよ? 社会人になってからは、50万くらいしか溜めてないです」

ペトラ「それでも凄いわよ。営業は金使い荒い子も多いから、意外……」

エレン「オレの場合、趣味にそんなに金かからないのが効いているんだと思います」

ペトラ「そっか。外を出歩くのが趣味って、確かにあんまり金かからないかも」

エレン「外出られたら、山とか海でも十分ですし、ドライブでも構わないんで」

ペトラ「そういう意味じゃ、エレンは営業の仕事、あんまり苦にならないのか」

エレン「移動は全く苦になりませんね。でも、交渉の場で毎回やらかします……(ズーン)」

ペトラ「うーん。今は固定でペアを組んでいる子って誰だっけ?」

エレン「ジャンです。あいつとは本当に合わないんで、正直、ペア解消したいです」

ペトラ「そうねえ。合わない人といつまでも一緒に仕事しても効率悪いし、主任にも相談した方がいいかもしれないわね」

エレン「え…でも、それって我儘じゃないんですか?」

ペトラ「その辺の判断はリヴァイ主任が決める事だから。一応、後で打診しましょ」

エレン「ありがとうございます! ペアを解消できるなら、本当に助かります!」

ペトラ「まあ、話してみないと分かんないけどね。私もオルオと初めてペアを組まされた時は喧嘩ばっかりして大変だった……(ズーン)」

エレン「やっぱり合う合わないってありますよね」

ペトラ「そうだよね。私の場合はエルドとの仕事がやりやすかった。流石彼女持ちなだけあって、女の扱い慣れているわ」

エレン「オレの場合、アルミンと組みたいですけど。今、アルミンはクリスタと組んでいるしなあ」

ペトラ「その辺のペアは定期的にシャッフルする筈だから、まあもう少しの辛抱よ」

エレン「ですね」

ペトラ「……あれ? なんかいつの間にか仕事の話ばっかりしてない? 私達」

エレン「あ……しまった! お見合いの練習なのにいつもの会話になっちまった!」

ペトラ「ごめんね。私がちゃんと誘導しないといけなかったのに」

エレン「いや、オレも調子に乗って愚痴ったのがいけないんです」

ペトラ「軌道修正しようか。ええっと、私の趣味は、甘い物を食べる事かな」

エレン「マジですか?! オレもそうですよ! オレ、甘党ですし」

ペトラ「甘党なんだ! 嬉しい! じゃあ、駅前のどら焼きとか」

エレン「あそこの美味いっすよね! オレも食べますよ」

ペトラ「三丁目のソフトクリームは?」

エレン「知ってます! あそこのも美味いですよね!」

ペトラ「うそー! 男で甘党な人って初めて出会った! 嬉しい!」

ミカサ(うぐぐぐ……)

盛り上がっている様子を感じてミカサの仕事の手が止まってしまった。

息が苦しくて顔が青ざめる。こんな感情、本当に嫌だ。

ミカサ(まさかこのまま、エレンはペトラさんと……)

想像して、ゾッとした。そんなの、嫌だ。

腹を括るつもりだったけれど、そんなの、無理だ。

そう感じてしまい、ミカサが涙目になっていると……

ジャン「あーミカサ、書類まだ出来てねえのか?」

同期入社のジャンがミカサに声をかけた。

ミカサ「御免なさい。待たせて」

ジャン「いや、残業して貰っている立場だから、無理にとは言えねえけど」

ミカサ「…………」

ジャン「なんか、顔色悪いな? 大丈夫か?」

ミカサ「あんまり……」

ジャン「お茶でも飲むか? オレ、今日は仕事大体片付いているし、この後、時間あるけど」

ミカサ「早上がりなの?」

ジャン「なんか、ペアのエレンの奴が人事部のピクシス部長に呼び出されているらしいから、オレ一人で動くわけにもいかないんだよ。抱えている仕事がねえ訳じゃねえけど。今日は何も出来ねえな」

ミカサ「…………」

ジャン「何か悩みがあるならオレ、相談に乗るぞ?」

ミカサはジャンの方を見ないまま言った。

ミカサ「エレンが結婚を考えているみたい……」

ジャン「はあ?! あいつ、彼女いたのか?!」

ミカサ「違う。お見合いを考えているみたい」

ジャン「マジか……あいつ、まだ入社2年目なのにすげえな」

ミカサ「もやもやする。エレンが他の女とくっつくところを想像したくない」

ジャン「…………」

ジャンは悲しそうな表情で返した。

ジャン「ミカサは、エレンに惚れているのか」

ミカサ「私の命はエレンの物。私の一生を捧げると決めた人が、エレンなので」

ジャン(なんてこった……)

ミカサの言葉にジャンは頭を抱えるしかなかった。

ジャン(ミカサの想いはそこまで……)

ミカサ「御免なさい。今日はこれ以上、仕事をしたくない……」

ジャン「ああ、いいよ。急ぎの依頼じゃねえし、明日に回してくれていい」

ミカサ「明日には必ず仕上げるので」

ジャン「無理すんな。今日はもう、あがれよ。オレ、何か奢ってやろうか?」

ジャンの気遣いは有難いとは思ったが、その気になれなかった。

ミカサ「大丈夫。早めに帰ってエレンのご飯を作らないといけないので」

ジャン「同居しているだったっけ」

ミカサ「うん……私が無理やり頼んで住まわせて貰っている」

ジャン(羨まし過ぎるだろ!!!!!)

ジャンは嫉妬玉が出来そうな勢いで拳を震わせた。

ジャン「だったら、スーパーにつき合わせてくれよ」

ミカサ「え?」

ジャン「オレも買い物に付き合う。お袋に帰りに人参買って来いって言われているし」

ミカサ「お母さんと同居しているの?」

ジャン「まあ、本当は家出たいんだけどな。ちょっと今、病気しているから、家に戻っているんだよ」

ミカサ「体を悪くされているの?」

ジャン「大した事じゃねえけど。一回、脳梗塞でちょっと……」

ミカサ「それはいけない。だったら早く帰ってあげないと」

ジャン「生活に不自由するほど後遺症があるわけじゃねえから心配は要らねえよ。多分、ストレスのせいだろ。傍にいてやんねえといけねえけど、大事に至っている訳じゃねえ。家事仕事は出来る程度には回復しているから」

ミカサ「そう……」

ジャン「すまねえ。気遣わせて」

ミカサ「いいえ。そんな事はない。では、一緒に出よう」

ミカサはジャンに付き添う形で会社を退社していった。

そしてその頃、エレンの方はペトラとの会話が弾んで、30分のつもりが、結局一時間以上、2人で話し込んでしまった。

エレン「まじっすか! ペトラさん、結構甘い物、制覇していたんですね!」

ペトラ「もしかして、エレンが街中をプラプラする目的って……」

エレン「美味い物の食べ歩きも兼ねていますよ。勿論、それだけじゃないですけど」

ペトラ「何だか趣味が似ているわね。今度、一緒に食べ歩く?」

エレン「いいんですか?! うわあ……それ、嬉しいですよ!」

ペトラ「休みが合えば、だけどね。うん。いいわよ。私のお勧め店を教えてあげるわ」

エレン「あざーっす!」

ピクシス「まだ話し込んでおるのか? (ぬっ)」

エレン「え?」

ペトラ「あ……もうこんな時間?! やだ……30分オーバーしていましたね!」

ピクシス「予定時刻を過ぎても一向に出てこないから、おっぱじめたか? と思ったぞ」

エレン「何言っているんですかピクシス部長!!」

ペトラ「会社でそんなふしだらな事しませんよ!!」

ピクシス「しかし意外と2人きりで話して盛り上がっていたようじゃが」

エレン「趣味が似ているというか、味覚が似ていることが分かったんですよ」

ペトラ「まさか甘党同士とは思わなくて」

エレン「甘い物の話で盛り上がっていたら、ついつい話が長くなってしまいました」

ペトラ「本当、話してみるもんね。こういう話をしたの初めてじゃない?」

エレン「ですね!」

ピクシス「ふむ……なんかもう、見合いの話は必要なくなったようじゃな」

エレン「え?」

ピクシス「お主ら、付き合ってみたらどうじゃ? これを切欠に」

ペトラ「へ?」

エレン「え?!」

ピクシス「エレン君の方は彼女がいた経験もないんじゃろ?」

エレン「まーそうですね」

ピクシス「初めてだったら年上の方がいいかもしれんぞ? 期間限定でもいい。他の女性に慣れる練習をしてみたらどうだ?」

エレン「え……でも」

ペトラ「私の方は、別に構わないわよ」

エレン「いいんですか?!」

ペトラ「うん。今、彼氏いないし、まあ、お試し感覚なのは私も同じだし」

エレン「え……じゃあ、甘えてもいいですか?」

ペトラ「うん! 今度の休みを合わせてあそこの店に行きましょう!」

エレン「では、是非!」

ピクシスはその様子を眺めて「ふむ」と思った。

ピクシス(ミカサ君の事を異性として見ていないと言う話は本当だったのか?)

ピクシス(いや、でも……わしが見た感じ、そういう風には思えなかった)

ピクシス(社内のテニス大会をしていた時、エレン君は他の女性のスコートにデレデレしている様子もなかった)

ピクシス(違和感があるの。エレン君は、ミカサ君から逃げている訳ではないのか?)

ピクシス(ペトラ君と話している感じから、年上の世話好き女房が好きそうな気配はある)

ピクシス(でも、世話好きの女を受け入れられるなら、ミカサ君を受け入れないのも変な話だ)

ピクシス(分からん。エレン君の『本当の好み』は、一体どこにあるんじゃろうか?)

エレン「ピクシス部長?」

ピクシスが黙り込んでしまったのでエレンがきょとんとすると、

ピクシス「すまん。少し考え事をしておった。まあ、本人同士が意気投合するのが一番じゃからな。まずは一回、デートしてみるのも良かろう」

エレン「はい! ペトラさん、宜しくお願いします!」

ペトラ「こちらこそ、宜しくね!」

そして2人は本当に意気投合して会議室を出て行って、一人残ったピクシスは腕を組んでしまうのだった。





そしてエレンとペトラが付き合い始めたというニュースは瞬く間に社内に轟いた。

特にその事を耳に入れたオルオ副主任はすぐさまペトラ本人に確認を取った。

オルオ「おま……! エレン、引っかけたって本当か?!」

ペトラ「引っかけたとは失礼ね。まあ、成り行きで付き合う事にはなったわよ」

オルオ(絶句中)

ペトラ「年下だけど、エレン可愛いし、この間デートしてみたけど案外、良かったわよ」

オルオ「デート、したのか……?!」

ペトラ「うん。ええっと、26日にたまたま休みが半分だけ重なったから、午後からちょっとだけ。久々にデートしたけど楽しかったなあ」

オルオ「お前、年下が好みだったのか? リヴァイ主任の件は……」

ペトラ「ああ……結婚を決めた人をいつまでも追いかけたら迷惑だしね。いい機会だから、他の男も探してみようかなって」

オルオ(なんてこった……)

オルオは頭を抱えていた。

ペトラ「エレンの方は早くお嫁さん欲しいらしいけど、彼女もいた経験ないし、まずは女性に慣れたいんだって。だから私は練習相手みたいな感覚だけど、私もお試しならいいかなって思ったのよ。合わない部分が出てきたらやめるつもりだよ」

オルオ「順調に交際が進んだらどうするつもりなんだよ」

ペトラ「え? まあ……その時はそれでもいいわよ? 私、エレンの事、嫌いじゃないもの」

オルオ「でも、好きでもねえだろ」

ペトラ「え? 割と好きだけど」

オルオ「本気で言っているのか……?」

ペトラ「何でそんなに突っかかるの? オルオに何か関係あるの?」

オルオ「いや…その……」

ペトラ「ははーん。私の方が早く結婚したらムカつくのね? ま、其の時はご祝儀たんまり頂きますけど! 期待しているわよ! 副主任!」

そう言いながらペトラは営業部を出て行って、オルオはその直後、orzの状態になった。

その様子をこっそり見ていたニファは「南無…」と思った。








そして時が少し経って、30日の昼休み。

エレンの方からまたリヴァイを昼食に誘って、外の定食屋で昼飯を食う事になった。

ハンジはまだ外回りの途中なので、今日はお昼を一緒に出来ないので仕方がない。

エレン「あの、リヴァイ主任。この間の件、ありがとうございました!」

リヴァイ「ああ……お見合いの練習の件か」

エレン「はい! アレが切欠で、ペトラさんとお付き合いさせて貰える事になって、今のところ順調に交際させて貰っています!」

リヴァイ「良かったのか? 本当に」

エレン「はい! 勿論です! 年上女房、悪くないですね!」

幸せいっぱいのエレンは、惚気たいのかリヴァイに向かってデレデレしていた。

エレン「オレ、こういうの初めての経験で、すげえ浮かれているんですよ。ペトラさん、凄く聞き上手だし、丁寧にメールも電話も返してくれるし、冷静だし、ミカサと違って、凄くいいです」

リヴァイ「………そうか」

エレン「加えて絶対、無理させないというか、こっちの事を空気で察してくれるんですよね。オレが眠い時は寝かせてくれるし、我儘言わないし、オレの趣味に合わせてくれるし、何で今までペトラさん、彼氏いなかったのかな? あんなにいい女性なのに」

リヴァイ「……………そうだな」

リヴァイはその原因に薄々気づいてはいたがここでは言わなかった。

ペトラは好きになった相手には一途で尽くすタイプだった。

だからこそ、その気配を感じた時にリヴァイは距離を置いてしまった。

尽くされる事は嫌ではないが、自分はどうやらそういう物を女性に求めている訳ではないと気づいたからだ。

リヴァイ(俺は恐らく、男としてはアホなんだろうな)

追われるよりも追う方が好きな癖にヘタレでもあると言う難儀な性格にほとほと呆れるが、それが自分だから仕方がない。

リヴァイ(尽くされるより尽くしたいと思うのに、性癖はМの時もあるから自分でも訳分からん)

矛盾を抱えている自分に怪訝な気分を抱えつつ、リヴァイはエレンの話を聞き続けた。

エレン「まだ、付き合い始めて一週間も経ってないですけどね。でも手繋いでデートしたりは出来たので、このまま順調に行けたらきっと……」

リヴァイ「ん?」

エレン「あの、その……こういう事を主任に聞いてもいいか迷うんですが」

リヴァイ「ああ……エレンはまだ童貞なのか」

エレン「う……まあ、そうですね」

エレンが照れくさそうに答える。

エレン「今はそういう空気になる訳ではないんですが、もしかしたら、そういう機会が来るかもしれないと思うので、其の時の為に、心構えをした方がいいですかね?」

リヴァイ「エレンは風俗にも行ったことねえのか」

エレン「いく訳ないですよ!!!」

リヴァイ「俺が営業に配属された最初の年はピクシス部長に無理やり連れていかれたけどな」

エレン「えええええ?!」

リヴァイ「俺が入社した当時はピクシス部長が営業部長で、キース主任が営業主任だった。エルヴィンはキース主任とピクシス部長が移動になってから、営業部長になったから、ピクシス営業部長の時代はいろいろとアレだったな」

遠い目をして過去を振り返るリヴァイだった。

リヴァイ「男性社員が多い時代だったから、営業の奴は一度は風俗に行っておけ! みたいな無茶振りしてきて、こそこそ逃げていたら無理やりピクシス部長に連れていかれて女を抱く羽目になった」

エレン「ええええ……そんな捨て方、酷くないですか」

リヴァイ「縦社会だったから仕方がない。まあ、女を抱く練習だと頭を切り替えてやったけど。ただ、其の時の事は今でもはっきり覚えているぞ」

リヴァイは苦笑いを浮かべながらエレンに言ってやった。

リヴァイ「なんていうか、至れり尽くせりでかえって萎えた」

エレン「へ?」

リヴァイ「だから、プロの女はその辺、きっちりし過ぎてつまらん。最初は何も分からないまま手探りでやる方が楽しいと思う」

エレン「それって、素人同士の方がいいって事ですか?」

リヴァイ「んー人によるかもしれんが。ただまあ、俺も人並みに性欲はあったから、世話になる事が全くなかった訳じゃない。営業の場合はそういう『繋がり』も仕事に関わってくるし、裏情報も回してくれる女もいる。仲良くなっておくに越したことはないが、それは特定のパートナーがいない場合に限る」

エレン「彼女がいるなら行く必要はないですよね」

リヴァイ「彼女が居ても行く奴は行くけどな。その辺は男の価値観次第だ」

エレン「だったらオレはいいです。今はペトラさんがいる訳だし」

リヴァイ「真面目な男だな。エレンは」

エレン「エルヴィン部長の時代になってからは、そういう無茶振りは無くなったんですか?」

リヴァイ「ああ……まあそうだな。エルヴィンはそこまで他人に干渉する性格じゃない。エルヴィンは「休める時は休もう」が座右の銘らしくて、家でゴロゴロするのが生きがいみたいなところがあるからな」

エレン「営業職なのにそれでいいんですか?! (ガビーン)」

リヴァイ「気持ち分からんでもないけどな。俺も休みの時は家の事を優先したい」

エレン「う……休日返上させてしまってすみません」

エレンが過去を思い出して肩をすくめる。

リヴァイ「まあ、過ぎた事だ。気にするな。そう言う訳だから、あんまり気張らず、自然とそうしたい時が来たら手出したらいいんじゃねえか?」

エレン「そうですね。自然に身を任せるのが一番ですよね」

リヴァイ「エレンの場合は俺なんかより余程積極的だし、大丈夫だろ」

エレン「え? そうですかね? リヴァイ主任、受け身なんですか?」

リヴァイ「…………尽くしたいと思う方だが、構ってくるのはハンジの方からが多いな」

エレン「そうなんですか」

リヴァイ「夜の生活は、俺の方から誘う事が多いが。うーん。何だろうな? このバランスは」

エレン「おおお……リヴァイ主任、受け身じゃないじゃないですか。誘えるなら、凄いです」

リヴァイ「ハンジはあんまり甘い空気になるとかえって逃げるから、さらりと『一緒に寝よう』でいいそうだ。その辺はサバサバしているな。あいつは」

エレン「一緒に寝よう……いいですね。シンプルで」

リヴァイ「そうか?」

エレン「はい。その技、盗ませて貰います」

リヴァイ「本当に一緒に寝るだけになっても知らんぞ」

エレン「う……それもそうか」

リヴァイ「まあ、そこで『いいよ』と返してくれるような女なら大丈夫って事だろ」

エレン「そうですかね……」

そんな仲の良い上司と部下の様子をこっそり覗いている女がいた。

ミカサである。跡をこっそりつけて様子を伺っていたのだ。

勿論、一人ではない。ジャンも付き添っていたのだ。

ジャンはミカサの事を好いているが、ミカサは全くその事に気づいていない。

ミカサ「エレンが大人の男性になってしまう(ズーン)」

ジャン「ペトラさんと付き合い始めたっていうのは本当だったのか」

ミカサ「みたい。最近、家で良く電話をしているし、休みの日もペトラさんと合わせる約束をしているようだった」

ジャン「そうか………」

ジャンにとってはチャンスに思えたが、憔悴しきっているミカサを見ていると心が痛んだ。

顔色がずっと悪いのだ。あの日からずっと。

ミカサ「どうしたらいいのだろうか? エレンは本当にペトラさんと結婚するのだろうか?」

ジャン「まだ一週間も付き合ってないんだろ? そうすぐに結婚の話に飛躍はしねえだろ」

ミカサ「でも、分からない。リヴァイ主任は酒の席でハンジさんにプロポーズされて、そこからいろいろあって、結局結婚すると決めたそう。その期間は一か月程度だった」

ジャン「去年の忘年会の時点で籍入れたのは嘘だったけど、話し合って2人が結婚する事になったのは本当だったんだよな」

ミカサ「そう。だから分からない。エレンも一か月程度でペトラさんとの結婚を決めてしまうかもしれない」

ジャン「ううーん」

ミカサ「もしそうなったら、私はきっとエレンに出て行けと命令されてしまう。嫌だ……」

ミカサがどんどん底なしに落ち込んでいくのが可哀想だった。

ジャン「なあ、ミカサ」

ミカサ「何だろうか?」

ジャン「もし万が一、そうなった時は、オレのところに転がり込んでもいいぞ」

ミカサ「え?」

ジャン「だから、エレンに出て行けって言われてしまったら、其の時はオレの家に来ていい。母親と同居になるけど。それでもいいなら」

ミカサ「え? え? 何故?」

ジャン「だって、住むところがないと困るだろ」

ミカサ「その時は独り暮らしをすれば……」

ジャン「ミカサは女性だろ。独りで暮らすのはあぶねえだろうが」

ミカサ「私は柔道剣道空手の有段者なので大丈夫だと思う」

ジャン「そういう話をしてねえよ。いや、それも含めてだけどさ」

ジャンは鮭定食を突きながら言った。

ジャン「とにかく、独りでいると、いろいろ考え込むだろ? そういうのも含めてあぶねえって言ってんだよ」

ミカサ「精神的に病んでしまう事を心配してくれるの?」

ジャン「そうだよ。しんどい時はうちに来て全然構わねえから」

ミカサ「………ありがとう」

ミカサはそこでほんの少し微笑みを浮かべた。

ミカサ「ジャンはとてもいい人なのね。彼女はいないのだろうか?」

ジャン「い、いねえよ……(目の前に好きな女はいるが)」

ミカサ「とても勿体ないと思う。世の中の女は見る目がない」

ジャン(ぐさあああ)

テニス大会のミクスドダブルスであぶれた事を思い出して凹むジャンだった。

ミカサ「出来ればそうならない方がいいけれど。万が一の時はお願いするかもしれない」

ジャン「!」

ミカサ「今は様子を見るしかない。私に出来る事は何もない……ので」

ジャン「おう……」

そう言い合いながら、お互いに同じ味噌汁をかき込むのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ







そして世の中はGWに突入して、リヴァイとハンジも一日だけ休暇を貰えたのでその日を利用して動物園デートをする事にした。

ハンジ「やっほおおおお! 白熊超可愛いwwwww」

リヴァイ「お前は猛獣ほど、テンションが上がるな」

ハンジ「虎とか可愛いでしょ。え? 可愛いと思わないの?」

リヴァイ「可愛いのか? ううーん」

リヴァイはいまいち同意は出来なかった。

リヴァイ「俺はキリンの方が可愛いと思うけどな」

ハンジ「キリンも可愛いよね! 分かる分かる!」

リヴァイ「お前のその差はどこにあるんだ?」

ハンジ「動物はオールOK? そんなに差はないかも」

リヴァイ「やれやれ」

ハンジは生物学者にでもなった方がいいような気がするリヴァイだった。

リヴァイ「そういえば、ハンジ」

ハンジ「なにー?」

ハンジはスマホで動物の写真を撮りまくりながら答えた。

リヴァイ「身体の調子は大丈夫か?」

ハンジ「ん? 元気だよ。何で?」

リヴァイ「いや……アレだけ避妊しないでやっているのに、気配がねえなと思って」

ハンジ(ぶほっ!)

外でいきなりそんな話をされてハンジは顔を赤らめて、リヴァイの背中を軽く蹴った。

ハンジ「流石にその話を動物園の園内でするな!」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「あー気になるなら、ちょっと話す? 移動しよ」

園内の喫茶店のような場所に移動して2人で席についてからお茶をする事にした。

ハンジ「その事なんだけど……」

リヴァイ「何か問題が出て来たのか?」

ハンジ「うーん。もしかしたら、だけど。私、妊娠しづらい身体なのかもしれない」

リヴァイ「検査してみたのか?」

ハンジ「まだそこまではしてないけれど。でも、可能性はあるかも」

リヴァイ「だったら俺の方も原因があるかもしれん。一緒に時間を見つけて検査をするぞ」

ハンジ「かなあ?」

リヴァイ「もし俺の方に原因があれば、治療も困難だと聞いた事がある」

ハンジ「男の方が大変らしいね。その辺は」

リヴァイ「ああ。其の時は、諦める。仕方がない」

ハンジ「…………本当にいいの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、だって、リヴァイ、子供欲しいんじゃなかったの?」

リヴァイ「子供を欲しがらない男なんて聞いたことがねえな」

ハンジ「だったら……」

リヴァイ「でも、どうしようもねえ事もあるだろ。その場合は仕方がない」

ハンジ「……………」

リヴァイ「まずは検査が先だ。時間を見つけて、今度いくぞ」

ハンジ「怖いなあ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「もし、私の方に原因があった場合が、だよ」

ハンジは俯いて答えた。

ハンジ「その場合、やっぱり年齢的な事とか、今までの不摂生が原因って事になるよね」

リヴァイ「女の場合は不妊治療もしやすいだろ」

ハンジ「そうだとしても、お金かかるよ?」

リヴァイ「構わん。金ならいくらでも稼いで来てやる。俺を誰だと思っていやがる」

ハンジ「営業最強の男」

リヴァイ「だったら、金の事を心配する必要はねえ」

ハンジ「でも、あなたの場合、他にも金が必要なんだし」

リヴァイ「ファーランの件はそろそろ援助を打ち切ってもいいと本人から連絡が来た」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ファーランはもう28歳だ。医者としては駆け出しだが、自分で金を稼げるようになってきたから、そろそろ俺から独立したいと言ってきた。今までかかった金は必ず後で返すとも言っている。だからこれから先はイザベルの治療費だけの負担だけで済むんだよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「だから心配はいらない。余計な事は考えなくていい」

ハンジ「それだけじゃないんだ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あのね。妊娠しにくいのは、私が仕事を続けているせいもあるかもしれない」

リヴァイ「…………」

ハンジ「女って、ストレスのかかる環境にいると、だんだん体が男性的になって、女性的な要素が消えていくそうなんだ」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「環境に適応していくというべきかな。だから、働いている女性は仕事をやめて家の事に専念した方が妊娠もしやすいと言われているよ」

リヴァイ「あくまで統計学的な話だろ。それは」

ハンジ「そうかもしれないけど。でも、もしそうなら、一度仕事から離れた方がいいのかな」

リヴァイ「離れたいとは思ってねえだろ」

ハンジ「まあ、ね」

ハンジは少しだけ辛そうに答えた。

ハンジ「エルヴィンの横で営業副部長になってから、外回りの仕事も減ったけど、それでも仕事の量はあるしね。エルヴィンが凄く気遣ってくれるから、仕事そのものはやりやすいし、今が一番、いい感じだから……」

リヴァイ「エルヴィン自身は、ハンジがいつ産休に入ってもいいように、その位置に置いたって言っていたが」

ハンジ「だろうね。元々はエルヴィン、独りで今までの仕事をこなしていたしね。エルヴィンの仕事の3分の1を私が受け持っているような状態だから、元に戻そうと思えばすぐ戻せる筈だし」

リヴァイ「だったら………」

ハンジ「だけど、それを考えたら、凄く悔しく思えちゃって」

リヴァイ「悔しい?」

ハンジ「男の人が羨ましいよ。全力投球できる、その体を持っている事その物が」

リヴァイ「……………」

ハンジ「女って、面倒臭いんだ。体のリズムだったり、気分の上下だったり。どんなに頑張っても私は女だし、男の人程、仕事は捌けない。圧倒的な差を感じる。エルヴィンの仕事ぶりをみていると特にそう思うよ」

リヴァイ「まあ、あいつは仕事早いからな。早く家に帰りたいから」

ハンジ「でも、居ても居なくてもいい位置にいるっていうのって、精神的にちょっと辛い」

リヴァイ「!」

ハンジ「エルヴィンが私の為に今の位置に置いてくれて、仕事を回してくれるのは嬉しい。立場的には出世したんだし、不満を言うのはお門違いだってのも分かっているけど」

リヴァイ「………」

リヴァイはなんと答えればいいのか分からなかった。

ハンジ「ごめん。私、我儘だよね。本当に。こんなに幸せにして貰っているのに。どんどん欲深くなっていくのが怖い」

そう言って涙ぐむハンジに慌ててリヴァイはハンカチを取り出した。

リヴァイ「泣かなくていい。いや、泣いてもいいんだが……」

ハンジ「泣いた方がいいから、泣かせて……」

リヴァイ「分かった」

ハンジの好きにさせる事にした。彼女の思うようにさせてやりたかった。

少し時間が経って、落ち着いてからリヴァイは言った。

リヴァイ「男の人程、仕事を捌けないっていうのは謙遜し過ぎじゃねえか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「むしろ、平均的な男よりハンジは仕事を捌ける方だろ。そりゃエルヴィンやピクシス部長とか、役職クラスの男と比べたらそうなるかもしれんが、会社全体の平均から数えたら、ハンジは上から数えた方が早い成績を出しているし、貢献もしているだろうに」

ハンジ「そうなのかな?」

リヴァイ「それに、ハンジの場合は自分だけじゃなくて、周りにも十分に影響を与えているぞ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ハンジが頑張るから、俺も頑張れるんだよ。それはきっと俺だけじゃない」

ハンジ「……………」

リヴァイ「むしろそれだけ頑張れるお前の方が俺にとっては羨ましい。何でそこまで『仕事』を愛せるんだ。お前は」

ハンジ「なんでって……」

リヴァイ「俺の場合はたまたま営業職に縁があったからここにいるだけだ。むしろ仕事なんて憎いとすら思っているし、やらないで済むならそれに越したことはないとすら思っている。もっと金を稼ぐ方法が他にあるなら、そっちに流れるかもしれん」

ハンジ「金の為に仕事をするの?」

リヴァイ「俺の場合はそうだな。それ以上でも以下でもない」

リヴァイにとってはその程度の物だった。

リヴァイ「もし自分に向いた『天職』のような物に出会えていればまた違った人生もあったかもしれんが、ハンジの場合はそうじゃねえよな。自分に向いていようがいまいが、仕事熱心だ。何でもやるって感じだろ?」

ハンジ「そうかもしれないね」

リヴァイ「そこには金の為って理由が介在していないように思えるが」

ハンジ「そうだね」

リヴァイ「金は二の次なのか」

ハンジ「そうだと思うよ」

リヴァイ「何の為に、仕事するんだ?」

ハンジ「生きていく為だよ」

即答されて、リヴァイは困惑した。

リヴァイ「どう違うんだ?」

ハンジ「繋がっていたいんだ。世界と」

リヴァイ「世界?」

ハンジ「そう。それが生きる事だと思う。私にとっては」

リヴァイ「意味が分かりにくいんだが……」

ハンジ「ちょっと話が脱線するけど、いいかな」

リヴァイ「いいぞ」

ハンジ「私は、「金」は人間でいう「血」だと思っている」

リヴァイ「えらく飛躍した例えだな」

ハンジ「そう?」

リヴァイ「まあいい。続けてくれ」

ハンジ「うん。この場合、血液は多すぎても少なすぎても体に害を与えるの。その人にとっての適切な量じゃないと、体の中にうまく循環しないのね」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「貧乏だと、血が足りないような感じになるでしょ」

リヴァイ「まあ、分からなくもねえな」

ハンジ「でも、多すぎると、今度は逆に体を壊すの。狂っていくよ。多すぎるのも」

リヴァイ「…………」

ハンジ「だから適切な量さえあればいい。でも、血だけじゃ人間は構成していない。タンパク質や骨やそういう部分もあるよね」

リヴァイ「まあ、な」

ハンジ「私にとっては「仕事」は「酸素」に近い感覚だよ。一定量、吸っていかないと死んでしまうような心地さえある」

リヴァイ「…………」

ハンジ「人が好きなんだろうね。きっと。誰かと関わって生きていきたいんだよ。見知らぬ他人も含めて。人間って、面白いんだもの。自分を含めて」

リヴァイ「凄い考え方だな」

そういう考えを聞くのは初めての事だった。リヴァイにとっては。

ハンジ「だろうね。私、良く人から『変わっている』って言われるから」

リヴァイ「いや、そういう意味じゃない」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「仕事を酸素と同等の位置に捉えるハンジが凄いと思ったんだ」

リヴァイはそこまで考えた事はなかった。

リヴァイ「成程な。だから70%だと言ったのか。確かにそれを失くしたら生きていくのは難しいな」

ハンジ「でしょ?」

リヴァイ「だったら今後はもう、子作りをしない方がいいのか?」

ハンジ「ううーん」

リヴァイ「子供が出来たら、社会的な意味での仕事は休憩せざる負えない。それが本当は嫌なんだろ?」

ハンジ「嫌、という話ではないんだけど」

リヴァイ「どう違う?」

ハンジ「忘れ去られないかな?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「半年から一年近く、現場から離れたら世間は様変わりするよ。きっと浦島太郎の状態になる」

リヴァイ「………」

ハンジ「そういうハンデを抱えてもいいけどさ。もし戻って来た時に、必要とされなくなったら、辛いなって思うんだ」

リヴァイ「必要とされたいのか」

その言葉が引っかかって、リヴァイは言った。

ハンジ「………………」

リヴァイ「ハンジ、お前を今、一番必要としている人間は目の前にいるぞ」

ハンジ「え…………」

そこでリヴァイはハンジの両手を握って説得した。

リヴァイ「子供を産む事だけは男には出来ない。女だから出来る『仕事』だと捉える事は出来ないか?」

ハンジ「!」

リヴァイ「世界と繋がって居たいなら、子供を通じて新しい世界と繋がれるとは思わないか?」

ハンジ「新しい……世界?」

リヴァイ「立場が変われば、見える世界も変わってくると思う。俺が初めてイザベルやファーランと同居した時にそう感じた」

養父のような立場になって初めて分かる事も多かった。

独りで生きる時とは違った世界を経験させて貰った。数えきれないほどに。

リヴァイ「母親という立場になれば、今までの生き方は出来なくなるかもしれないが、そこには別の人生が待っていると思う。それはそれで、世界と繋がっていく事は出来ると思うぞ」

ハンジ「………………」

リヴァイ「それにうちの会社は女性の現場復帰に関しては他の会社に比べたら優遇されている方だと思う。ピクシス部長が会社における女性の重要性を説き伏せて改革を押し進めたからな。エロいだけかもしれんが、それでも女性は社会に必要だ。ハンジの役割は、必ずある」

ハンジ「おばちゃんになっても続けられるのかな?」

リヴァイ「続けている人は大勢いるだろ。何がそんなに不安なんだ?」

ハンジ「良く分からないんだよ……」

その不安の正体が、見当たらなくてハンジは混乱し始めていた。

ハンジ「これって初めての経験で、どう分析したらいいのか分からない。私、これからどうしたいんだろ……」

リヴァイ「ハンジ……?」

胸の中がざわめいた。正体不明の不安に悩まされいるハンジにリヴァイも戸惑ってしまう。

ハンジ「こんなの、おかしいよね。リヴァイに幸せにして貰っているのに。子供、出来ないのが不安なのか、それともほっとしているのか、良く分からない」

リヴァイ「…………」

こんな時に不謹慎だと思ったが。

リヴァイは弱っているハンジを今、この場で押し倒してベッドに連れ込みたいような気分になっていた。

外だから自重したが、自宅だったら間違いなく、お姫様抱っこコース行きだと思った。

リヴァイ「今日はもう、家に帰るか?」

ハンジ「え? それは嫌だよ。折角、動物見に来たのに」

リヴァイ「だったら、続きを悩むのは家に戻ってからにしよう」

ハンジ「そうだね。今、この事を考えても仕方がない気もするし、ちょっと歩こうか」

リヴァイ「ああ。そうしよう」

そして2人は手を繋いで喫茶店を出た。

その2人の様子を目の端に入れてしまったカップルがいた。エレンとペトラだった。

2人もまた、動物園でデートをしていたのだが、偶々、リヴァイとハンジの会話を聞ける位置の席に先に座っていたのだ。

リヴァイ達がエレン達に気づく事はなかったが……。

話を聞いてしまって気まずい思いをする2人だった。

2人は少々、変装していたのもあって、気づかれなかったようだった。

変装していたのは、勿論、ミカサを撒く為である。

ペトラ「敵わないなあ……」

エレン「え?」

ペトラ「勝てる筈ないよ。今ので納得した」

エレン「営業成績の件ですか?」

ペトラ「違う違う。そっちじゃなくて、女としてよ」

ペトラはオレンジジュースを飲みながら言った。

ペトラ「リヴァイ主任が入れ込んでいる理由が分かった気がした。アレじゃ勝てないわ」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「だって、人として格好良すぎるでしょ。仕事が酸素とか。ストイックにも程があるわよ」

エレン「その感覚、分からなくもないですよ」

ペトラ「え?」

エレン「オレも感覚的には近いです。酸素というか、食べ物? ですかね」

ペトラ「え? そうなの?」

エレン「だって、仕事楽しいですよ。失敗すると悔しいし、美味い物が食べられなかったような気分になります」

ペトラ「………こっちもこっちで凄いわー」

ペトラが微妙に凹んでしまった。

エレン「そうですか?」

ペトラ「うーん。私の場合、結婚したら営業やめて事務の方に回して貰おうかなって考えていたし」

エレン「事務職も立派な仕事じゃないですか」

ペトラ「いや、そういう意味じゃなくて、仕事の量とか立場の重要度を下げて貰おうと思っていたの。女としてそれが当然みたいな気持ちだった」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「誰かと結婚したら子供を産んで育てて……家庭を優先出来るのであれば、専業主婦でも構わないし、お金が足りないなら職場復帰する。その程度にしか考えてなかった」

エレン「それはそれでいいんじゃないんですか?」

ペトラ「でも、ハンジさんは違ったじゃない。仕事その物に誇りを持っているように思えたわ」

エレン「うーん。どっちも間違いではないと思いますよ?」

ペトラ「そうかしら……」

エレン「そこは個人の考え方であって、どっちがいい悪いとか良いとかの話ではないと思うんですが」

ペトラ「そうなのかな」

エレン「はい。ハンジさんはそういう人なだけで、ペトラさんはそうじゃないだけです」

ペトラ「エレンは何だか面白い子ね」

エレン「そうですか?」

ペトラ「うん。凄く、今、格好良く見えたよ」

エレン「え? そう言われるとちょっと照れますよ」

エレンが頭をついつい掻いて笑ってしまう。

ペトラ「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ」

エレン「そうですか?」

ペトラ「うん………でも、やっぱり悔しいなあ」

そこでペトラは一筋の涙が溢れて来たのだった。

ペトラ「そこだったのかなあ? リヴァイ主任がハンジさんを選んだ理由って」

エレン「………リヴァイ主任の事、好きだったんですよね」

ペトラ「ごめん。本当は今でも好きなの。それを吹っ切る為にエレンを利用しただけかも」

エレン「………分かっていましたよ。それはなんとなく」

エレンも流石にそこまで鈍感な男ではなかった。

エレン「でないと、オレみたいな新人がペトラさんみたいな人に相手にされる筈ないですよ」

ペトラ「え?」

エレン「ペトラさん、とてもいい女性だと思いますよ。リヴァイ主任が好きだから、今まで頑張っていたんですよね」

ペトラ「………うん」

ペトラは涙腺を緩ませて答えた。

ペトラ「頑張ったんだけどね。ダメだったの。リヴァイ主任の心に引っかかる女になれなかった」

エレン「……………」

ペトラ「リヴァイ主任、結構その辺の線引き、分かりやすいんだよね。そういう意味では、あのミカサって子もリヴァイ主任の好みのタイプかもしれない」

エレン「へ?」

思わぬ言葉にエレンの耳は疑った。

エレン「ミカサが? そんな馬鹿な。ミカサ、思いっきりリヴァイ主任、嫌って………」

しかし其の時、エレンは思い出した。ハンジの言葉を。

ハンジ『えー……だって、口元、綻んでいるよ?』

という、あの言葉を。

エレン「あ」

ペトラ「思い当たる節、あるでしょ?」

エレン「そう言われたら、そうかもしれないです」

ペトラ「つまりそういう事なのよ。私じゃ、ダメだって分かっているのよ。エレンの言う様にタイプが違うから」

エレン「………すみません」

ペトラ「謝らなくていいわよ。事実だし。リヴァイ主任、少々男性的ではっきりとした女性の方が好きみたいなのよね」

エレン「そう言われたらミカサも男性的かもしれない」

女にしては、そうかもしれない。

ペトラ「理性的で社交的で明るくて………多分、自分にない物を全部、ハンジさんが持っているのかな。だからそっちに惹かれていったのかも」

エレン「そうなんですかね?」

ペトラ「私にはそう見える。私、リヴァイ主任にあげられるものなんてなかったし、上司として慕う以上の事は出来なかった」

エレン「それでもペトラさんは努力してきたんじゃないんですか?」

ペトラ「仕事を頑張る以外の事は何も出来なかったわよ」

エレン「それでも、頑張った自分くらいは認めていいと思いますよ」

ペトラ「!」

ペトラは唇を噛んで俯いてしまった。

ペトラ「やだ………後輩の癖に。生意気言って」

エレン「え……すんません。言い過ぎましたか?」

ペトラ「ううん。いいの。そうだね。ありがとう。エレン、本当にありがとう」

エレン「あの、ハンカチ! ティッシュも沢山、用意してきているんで!」

ペトラ「ごめんね」

泣いている彼女を慰めながら、エレンの中に不思議な感情が湧いてきた。

エレン(なんていえばいいんだ。これ……)

今すぐ、ここでペトラを抱きしめて、よしよししてあげたいような。

そんな感情が沸いてきて非常に困った。

エレン(オレ、もしかして本気でペトラさんの事、好きになりかけているのかな)

もしかして、これが恋愛感情という物なのだろうか?

そう思い始めて戸惑う自分がいるのを感じたのだ。

ペトラが泣き止んで、会計を済ませて喫茶店を2人で出ると、エレンは思い切って言った。

エレン「あの……」

ペトラ「ん?」

エレン「その………」

ペトラ「うん」

エレン「いや、やっぱりダメか」

ペトラ「え? 何がダメ?」

エレン「すんません。オレ、こういうの、初めての経験で」

ペトラ「ん? どういう事?」

エレン「ちょっとだけ、動かないで下さい」

ペトラ「!」

人の波に見えない位置の建物の陰で、エレンはペトラを正面から抱きしめた。

ペトラ「あの……エレン?」

エレン「その、元気だして下さいね」

ペトラ「え?」

エレン「なんか、胸がぎゅっとしたんですよ」

ペトラ「そう?」

エレン「はい……どう慰めたらいいか分からないんですが」

ペトラ「もう十分、慰めて貰ったわよ。エレンに」

エレン「そうですか?」

ペトラ「エレンが居てくれて良かったわ。ありがとうって言ったでしょ」

エレン「……………」

ペトラ「でも、だからこそこれ以上利用するのは悪い気がしてきたわ」

エレン「え?」

ペトラ「ごめんね。お試し期間、もうちょっと続けようと思っていたけど、これ以上続けたら、エレンを利用するだけの悪い女になりそうだわ」

エレン「どこが悪い女ですか! むしろいい女ですよ?! ペトラさんは!」

ペトラ「今、エレンがそう思うのは、女の子に優しくしたい男の子の気持ちを私が利用しているからよ」

エレン「そうなんでしょうか?」

ペトラ「うん。それにエレンとこのまま付き合い続けたら、ミカサに後ろから刺されそうだし」

エレン「ミカサの事は、オレが何とかします」

ペトラ「でも、立場的にはミカサの気持ちを一番理解出来るのは私なのよね」

エレン「!」

ペトラ「振り向いて貰えない思いだと分かっていても止まらない気持ち、分かるのよ。ミカサと自分を重ねて見てしまうから。だから、エレンとはお試し以上の関係になりたくないな」

エレン「そうなんですか……それは凄く残念です」

お試しから本気になりかけていたエレンはすっかりしょんぼりしてしまった。

エレン「あの、せめて……ひとつだけ、お願いしてもいいですか」

ペトラ「なあに?」

エレン「触れるだけのキスを、頬にさせて下さい」

ペトラ「それで、終わりにする?」

エレン「はい。10日間だけの短い恋人ごっこだったけれど、オレ、凄く、良かったです」

ペトラ「分かったわ」

5月4日。その日、エレンは初めて女性にキスをした。

頬に優しい、一瞬のキスだったけれど。

物悲しくて切ないキスだったけれど。

それを最後に、エレンはペトラとの関係を元に戻す事にしたのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ







そしてGWが終わって、世間の連休気分が抜けた頃。

オルオ「おま……エレンと10日間で別れたって、早すぎるだろ!」

ペトラ「そんな事はないわよ。濃い10日間だったわ。十分、良かったわよ」

オルオ「な、何が原因で別れたんだ?」

ペトラ「え? エレンがいい男過ぎたから」

オルオ「いい男なら何で別れた?! (ガビーン)」

ペトラ「オルオには分からないわよ。オルオはまだ私の域に達していないから」

オルオ「?! それ、いつか俺が言った台詞のパクリじゃねえか!」

ペトラ「そうだったかしら? 忘れたわ。ふふ………」

オルオ「エレンと気まずくないのか? 大丈夫なのか?」

ペトラ「元の先輩後輩の関係に戻っただけよ。別にそんなに変わらないわ」

オルオ「その違いは何なんだ……」

ペトラ「手繋いだのと、キス1回だけ」

オルオ「?! (エレンの奴、キスしたのか!!!!!)」

ペトラ「頬にキスして貰っただけよ。何想像した?」

オルオ「いや……(頬キスか。いや、それでも十分、クソ……!)」

ペトラ「私は女だから。女の気持ちが分かるのよね」

オルオ「何の話だ?」

ペトラ「私の恋が叶わなかったから、せめてね」

そう思い、呟いて、ようやく心の整理をつけたペトラだった。








仕事が終わってからエレンはちょっとだけぼーっとしていた。

そんなエレンの様子にミカサはオロオロしている。

ミカサ「エレン、ご飯は食べないの?」

エレン「あー食べる食べる」

エレン(もぐもぐ)

ミカサ「ペトラさんと別れたという噂を聞いたけれど、本当?」

エレン「あー本当だ。短い春だったな」

ミカサ「どうして別れたの?」

エレン「悪い女になりたくないって言われちまった」

ミカサ「ペトラさんは悪い女なの?」

エレン「いや、むしろいい女だと思う。いい女が過ぎるんじゃねえのかな」

ミカサ「だったら尚更何で別れたの?」

エレン「何でも度が過ぎると良くねえのかも」

ミカサ「え?」

エレン「だからこそ、リヴァイ主任も断ったのかなあ」

ミカサ「え? ペトラさん、リヴァイ主任の事が好きなの?」

エレン「好きだったんだってさ。失恋したんだって」

ミカサ「あんなクソちび上司の何処がいいの? 理解不能」

エレン「でも、リヴァイ主任の方はミカサの事、嫌いじゃなさそうだぞ」

ミカサ「ふわっつ?! (鳥肌)」

エレン「うーん。ハンジさんがいるから無理だけど。もうちょい早くリヴァイ主任と出会っていれば、ミカサの旦那にして貰う手もあったかもしれんな」

ミカサ「冗談でもやめてえええええええ!!! (大絶叫)」

エレン「おま、声、でかすぎる!! 近所迷惑だろ!!」

ミカサ「エレンが残酷な事を言うから……(しくしく)」

エレン「そんなにリヴァイ主任の事が嫌いなのか?」

ミカサ「エレンを土下座させた件はまだ許していない(キリッ)」

エレン「あーそれ、いつの話だったっけ? もう忘れた」

ミカサ「なんで?! (ガビーン)」

エレン「つか、よく考えたら、其の時の事があったおかげでリヴァイ主任と仲良くなれたような気もするし、結果オーライだから別にいいや」

ミカサ「そ、そんな………」

エレン「それより結婚式、早く来ねえかな。オレ、リヴァイ主任の結婚式、すげえ楽しみなんだよな」

ミカサ「何故………」

エレン「だって初めてだし。会社の人の結婚式」

エレン「あ……でも招待してくれた訳じゃないから、もしかしたらオレは参加出来ねえかも(シュン)」

ミカサ「うぐ……エレンが参加したいのであれば、私も出る」

エレン「無理しなくてもいいのに」

ミカサ「リヴァイ主任に、会社の人をどの程度招待するのか確認した方がいいのでは?」

エレン「ええ? こっちから聞いていいのかな?」

ミカサ「気になるなら聞いた方がいいと思う」

エレン「あーじゃあ、今聞いてみるか。図々しいけど」

電話してみると、リヴァイはすぐさま電話に出た。

リヴァイ『ああ……結婚式の件か。来たいのか?』

エレン「是非!」

リヴァイ『式の方は無理だが、披露宴の方なら呼んでもいいぞ。まさかお前の方から来たいと言い出すとは思わなかったな』

エレン「きっとオレだけじゃないですよ! 披露宴に出たい会社の方は他にも一杯いると思うのですが」

リヴァイ『そうかあ? まあ……じゃあ一応、他の奴らにも聞いてみるか』

そう言う訳で、翌日、リヴァイが皆に聞いてみると……








オルオ「いいんですか! 主任!」

エルド「出ていいのなら絶対行きます!」

グンタ「呼ばれないから、寂しいと思っていたんですよ!」

リヴァイ「え? そうだったのか?」

営業部下メンバーのふたつ返事にびっくりするリヴァイだった。

ペトラ「そうですよ! 皆、出たいに決まっているじゃないですか!」

リヴァイ「会社の上司の結婚式だぞ? ご祝儀を気遣わせるだけかと思っていたが」

ハンジ「上司とうちらの同期の会社の人間だけ呼ぼうかなって思っていたけど、案外皆、大丈夫だったんだね」

ナナバ「まあ、同期は参加するけど、部下は気遣わせるかなって思うよね。普通は」

ゲルガー「だな。でもリヴァイ主任の場合はいいんじゃないか?」

ミケ「ああ。リヴァイ主任を嫌っている部下は少ない」

リヴァイ「ああ……ミカサとかか」

エレン「あ、でもミカサも来るそうです。オレが行くので」

リヴァイ「まるで犬だな」

エレン「え?」

リヴァイ「いや、何でもない(げふげふん)」

ハンジ(今、うっかり素が出たな。ぷぷっ!)

アルミン「営業部の人間は殆ど来る事になりそうですね」

クリスタ「何着て行こう?」

ユミル「やべえ……それっぽい服は全然、持ってない」

サシャ「ですねえ。ドレス買った方がいいんでしょうか?」

コニー「男はスーツでイイから楽だよな!」

リヴァイ「あー………」

人数が大幅に増えそうな気配になって困るリヴァイだった。

リヴァイ「参ったな。会場の広さが足りるか?」

ハンジ「ワンランク、あげる? 会場の広さ。広いところに変更するのは出来ると思うよ」

リヴァイ「念の為にそうするか」

そう打ち合わせて、押さえた会場の別の大広間に予定を変更することになったリヴァイだった。

家に帰宅後、頭を掻いているリヴァイにハンジはついつい笑ってしまった。

ハンジ「意外そうな顔をしているね?」

リヴァイ「ああ。まさか部下の方から『出たい』と言われるとは……」

ハンジ「それだけ慕われている証拠だよ。良かったね」

リヴァイ「特にエレンは、いろいろ怒ったり、土下座させたり、嫌われてもおかしくねえ事ばっかりしているんだけどな」

ハンジ「あの子、素直だよね。こっちが怒っても素直に聞いちゃって可愛いよ」

リヴァイ「指導してやればやる程イキイキしているような気もする」

ハンジ「仕事が好きなんだよ。気持ち分かるなあ」

リヴァイ「………ハンジと同じ種類の人間か?」

ハンジ「かなあ? 一度、酒飲ませて徹夜で語り合いたいね!」

リヴァイ「浮気すんなって言った癖に、お前は浮気するのかよ」

ハンジ「冗談だってば! ちょ………今日もするの?!」

お姫様抱っこをさせられてベッドインする。

リヴァイ「ハンジ………」

ハンジ「なに……?」

リヴァイ「もしかして、マリッジブルーってやつなのか?」

ハンジ「え……?」

リヴァイ「結婚前にそういう状態になる女がいるそうだ。GWに動物を見たいと言い出したのも、ストレスが溜まっていたせいじゃないか?」

ハンジ「あーそれはあるかもしれないね。でも、それだけじゃないよ?」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「だって、約束していたじゃない。いつか動物園のデートをしようって」

リヴァイ「覚えていたのか?」

ハンジ「え? 何で忘れると思うの?」

リヴァイ「プロポーズや鍋の時の暴挙は忘れていたからだ」

ハンジ「あの時は酒入っていたからしょうがないでしょ! 断片的な記憶の残り方になる事も珍しくないし!」

リヴァイ「素面の時の約束は忘れないって言いたいのか?」

ハンジ「私、記憶力はそれなりに自信ある方だよ?」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「伊達に進学校を出てないですよ。プン」

と、ちょっとだけ拗ねて見せるハンジに萌えるリヴァイだった。

リヴァイ「なんか、今すぐ子供を作らなくてもいい気がしてきたな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「もう少し、新婚気分を味わないか? お母さんには悪いが」

ハンジ「え……でも、年齢の事を考えたら……」

リヴァイ「俺達はこういう関係になってまだやっと半年程度だぞ?」

ハンジ「そう言えばそうだった。一緒の会社に居たからそんな感じしないけど、ラブラブになってからはまだ日が浅いんだった」

リヴァイ「だろ? 昨年の12月の忘年会がスタートとして考えて……まだまだ恋人気分を味わってもいい頃だ」

ハンジ「本当にいいの?」

リヴァイ「今はまだ、其の時じゃねえだけかもしれねえだろ」

そう言ってリヴァイは身体を起こしてその日を境に再び避妊具を使用したセックスに移行する事にした。

そのリヴァイの気遣いにハンジは何故か涙が溢れて止まらなくなった。

リヴァイ「何で泣く……?」

いきなり泣き出したハンジの様子に固まるリヴァイだった。

ハンジ「分からない。何故、涙が出るのか、分からないよ……」

リヴァイ「おい、ハンジ?」

ハンジ「分からないの。こんな気持ち、初めて経験するから…………」

どうも最近のハンジは情緒が不安定な気がする。

そんな彼女の様子の変化に、リヴァイはピンときた。

リヴァイ「なあハンジ」

ハンジ「なに……?」

リヴァイ「お前、今もしかして、生理前か?」

ハンジ「何で分かった?」

リヴァイ「いや、こういうのって、月経困難症って言うんじゃねえの?」

ハンジ「そうだよ。だから女は嫌なんだ。たまに気分の上下がおかしくなるから」

リヴァイ「なるほど。合点がいった」

リヴァイの中で腑に落ちるものがあった。

リヴァイ「何でそれを隠そうとする? 別に言ってもいいじゃねえか」

ハンジ「だって、恥ずかしいよ」

ハンジは涙を拭いながら答えた。

ハンジ「月によるんだけどね。普通で居られる月もあれば、グダグダになる月もあるの。年齢を重ねるにつれて、その振れ幅が酷くなってきた気がする」

リヴァイ「5月はたまたま、グダグダな月だった訳だな」

ハンジ「そうかもしれない」

リヴァイ「しかし5月は普通の奴でも気鬱になる時期だぞ?」

ハンジ「そうだっけ?」

リヴァイ「5月病って良く言うだろ? あれは季節の変わり目の関係もあるし春先とかでも、精神が不安になりやすい奴もいる。その辺の話はファーランから聞いた事がある」

ハンジ「医者だから?」

リヴァイ「そうだ。1年の内でも、人間は気候に影響を受けて精神が揺らぐ時期がある。ずっと同じ状態じゃねえんだよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「そういう意味じゃ女は男より影響を受けやすいって言うな。月の物の関係も、月との引力の関係でそうなるらしいし」

ハンジ「意外と物知りだね。リヴァイは」

リヴァイ「ああ。イザベルがなんでああいう事を言いだしたのか、自分なりに分析してみた事もあるからだ」

リヴァイはそう言いながら過去の事を再び思い出した。

リヴァイ「人間にはそういう『時期』のような物が有って、その影響を受けながら生きているという説がある」

ハンジ「時期……?」

リヴァイ「種を大地に植えて育てればいずれ芽が出て成長して実をつけるだろ。それと同じ意味だ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「風の流れのような物だろうか。感覚的な物だから、俺もうまく説明出来ねえが。格好つけて言うなら人はそれを『運命』とでも呼ぶんだろ」

ハンジ「エルヴィンも似たような事を言っていた気がする」

リヴァイ「だろうな。あいつはそれを「博打」だと言うが。風の流れのような物を感じるのは、俺も分かる」

ハンジ「……………」

ハンジは真剣にリヴァイの言葉を続けて聞いていた。

リヴァイ「もっと細かい事を言えば「気」の流れみたいなもんか。そういう意味では、ハンジが入社する前と後では、営業課内の空気がガラリと変わったぞ」

ハンジ「そんなに違ったの? 私はそれ以前を知らないから分からないんだけど」

リヴァイ「濁っていたな。どんよりしていて、クソみてえな職場だと思った」

ハンジ「そんなに酷かったんだ………」

リヴァイ「ああ。当時は男性しかいない職場だったし、何より皆、疲れ切っていて、表情が暗かった。そんな営業じゃ契約なんて取れる訳ねえ。だから当時のピクシス部長は『革命が必要じゃ!』と言い出して、無理やり人事部に直談判して、一人だけでいいから、女性を営業課に回してくれと拝み倒したそうだ」

ハンジ「そこで白羽の矢が立ったのが私だったんだ」

リヴァイ「そうらしい。俺も後で聞いた話だったけど。だから体力があって、頭が良くて、中性的な女性なら何とかなるんじゃないかという話になって、ハンジが営業課に採用されて………まあ、後はお前が応援団みたいなノリで職場を明るくしてくれて、どんどん全体の営業成績が伸びて来たから、上役も「マジか?」みたいな顔になったそうだ」

ハンジ「へええええ…」

裏話をきいてびっくりした。そんな逸話があったとは。

リヴァイ「だからその……仕事は目に見える物だけじゃねえと思うんだよ。俺は」

ハンジ「え?」

リヴァイ「確かに契約を取ってくるっていう一番大事な仕事はあるが、そこに行きつくまでには他の要素も絡んでくるって事だ。其の為には男だけの力じゃそこに辿り着けない」

ハンジ「…………」

リヴァイ「サポート役っていうべきか。事務の仕事とはまた別の……その、裏方的な仕事とはまた別の……なんて言えばいい? こういうのは」

ハンジ「もしかして『癒し』みたいなもの?」

リヴァイ「それだ。その仕事に関しては女程、エキスパートはいねえと思っている。女にしか出来ない仕事じゃねえか?」

ハンジ「そんな事はないよ。男の人だって癒される人はいるよ?」

リヴァイ「少なくとも、俺やエルヴィンにその仕事が出来ると思うか?」

ハンジ「うー……」

それを言われてしまうと出来ない気もする。

ハンジ「まあ、リヴァイに癒されるのは、女性側だけになるかなあ」

リヴァイ「男は男に癒される事は滅多にない。アルミンとか言った、あいつくらいだろ。男で男を癒せそうなのは」

ハンジ「あーそう言われたら彼もある意味中性的ですね」

リヴァイ「ああいう奴はごく稀だ。言っておくが、男だけになるといろんな意味でげんなりする。女はそこに居るだけでも価値がある。器量が悪くても愛想が良ければいい。不愛想な場合は美人を採用する。ピクシス部長の理論は男側の自分勝手な願望がぶち込まれているが、実際それで営業の力がアップしたんだから間違っちゃいねえよ」

ハンジ「ピクシス部長、無茶苦茶だなあ」

ハンジは呆れ返っているが、リヴァイも大体同じ気持ちだった。

リヴァイ「俺もあの人は無茶苦茶だと思っているが、だからこそ仕事が出来るんだよ」

リヴァイはそう言って若い頃のピクシス部長を思い出していた。

リヴァイ「人間の心理を『本能』の観点から考えて仕事を捌くから、昼寝も採用して無理はしない方針に変えたら、実際休暇を願う社員が減った。夏場の冷房に関しても女性が冷えやすい事を知っているから温度を下げ過ぎず、その時期だけは男性は背広を着なくてもいい事になったし、そういう細かい事を変更して改革を進めていったら、どんどん会社が大きくなってきた。勿論、そこに行きつくまでにいろんな衝突はあったとは思うが……そういう意味で、ハンジもピクシス部長のように自分にしか出来ない仕事を目指してみればいいんじゃねえか?」

リヴァイがそう言うと、ハンジの目は大きくなった。

ハンジ「自分にしか出来ない仕事……?」

リヴァイ「そうだ。ピクシス部長がやった事は、ピクシス部長がエロ過ぎるからこそ出来た事だ。あの人程、女に気遣える男はそうはいない。女が生きがいみたいな人だからな。アレはピクシス部長にしか出来ねえよ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「エルヴィンの仕事もそうだな。あいつはシナリオを考えるのが好き過ぎるから、交渉の場のパターンを分析して体系化して、こういう人間にはこう台詞を返した方がいいという「台本」を作る。それが100%うまく行く訳じゃねえが、それでもマニュアルのような物があるのとないのじゃ、精神的な負担が全然違う」

ハンジ「…………」

リヴァイ「俺の場合は……まあ、出来るのは整理整頓と掃除と身だしなみを整えるくらいだが、自分に出来ない部分はエルヴィンに助けて貰っている。後は遅刻しねえ事か。スケジュール管理のミスをしない。そこを徹底している。自分がやれる事を優先しているんだ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「ハンジの場合は、俺よりももっといろんな事が出来るだろ。だから、その………」

ハンジ「うん。もう大丈夫だよ。リヴァイ」

リヴァイの中の内側の熱を感じて、ハンジは微笑み返した。

ハンジ「そうだね。私、間違っていたよ。仕事って、何も他の人が出来る事を自分で無理にしなくても良かったよね」

リヴァイ「そうだ。自分が出来る事を優先していい。他の奴が出来る仕事は、他に回していいんだよ。だからエルヴィンはお前に出来る仕事を回すんだ」

ハンジ「そっかあ。私、結構エルヴィンに頼られていたのかな?」

リヴァイ「だと思うぞ。エルヴィンから見たらな」

ハンジ「私も自分がやりたい事、やっていいんだ」

リヴァイ「その為に生きてもいいと思うぞ?」

ハンジ「私………もっと皆の事を知りたいかも」

ハンジはそこで初めて自分の気持ちをリヴァイに伝えた。

ハンジ「職場の皆の事をまだまだ知らないから。知っていれば、もっと効率よく、仕事を動かせると思うんだよね」

リヴァイ「ハンジの分析力を活かしてみればいいじゃないか」

ハンジ「うん…そうする! 皆の事、沢山観察しちゃうおうかな♪」

リヴァイ「あ、でもあんまり男性社員はジロジロ見るなよ」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「勘違いする野郎も出てくるかもしれんだろ」

ハンジ「あれ? ヤキモチですか? ん?」

リヴァイ「そうだと言ったら?」

ハンジ「…………面倒臭いかも」

リヴァイ「おい!」

ハンジ「にしし。嘘だよ。嬉しいに決まっているじゃないか」

そう言って、ハンジは自分の方からリヴァイに軽いキスをした。

その直後、

リヴァイ「……………」

クラッときた。この感じ、まずい。

リヴァイはがくんと、堕ちて深いところに嵌った感覚を覚えた。

ハンジ「おいどうした? 急に動かなくなったな? ん?」

リヴァイ「クソ眼鏡……」

ハンジ「またそれですか?! え? 今の変だった?」

リヴァイ「最高過ぎる………だろうがこのクソ女!!!!!」

ハンジ「だからどっちよ?!」

リヴァイ「両方だ!!!! もう、今夜も本気でやる! 足腰立たなくさせてやる!!」

ハンジ「ちょ……何で急にやる気出した?! 本当、意味分かんないんだけど?!」

リヴァイ「分析しろ!! いや、しなくていいが、もう何でもいい!」

ハンジ「ええええ?! 意味不明すぎるけど………まあいいか」

押し倒されながら今夜もリヴァイの体重を感じてハンジは笑う。

ハンジ「ずっと分かんない方が楽しいかもしれない。いや、でも分かった方がいいのかな?」

リヴァイ「知らん。もう、何も考えたくない。頭が疲れた」

ハンジ「だろうね! 一生懸命考えて、一杯喋ってくれたよね!」

リヴァイ(モミモミモミ)

ハンジ「そこで何故おっぱいをもむー?!」

リヴァイ「癒されたいからに決まっている」

ハンジ「あらそうなの? でも小さいのに?」

リヴァイ「でかくなれー」

ハンジ「それ、酷い! 今更それ言うの酷い!!」

リヴァイ「嘘だ。そのままの方がいい」

ハンジ「訳分からん! リヴァイ、本当、実は酔ってる?」

リヴァイ「前にハンジに酔っていると言っただろ?」

ハンジ「アレ本気だったの?! 嘘ー……冗談かと思っていたのに」

リヴァイ「今夜もハンジを飲ませろ」

ハンジ「!」

リヴァイ「酔い足りない。狂わせてくれ。もっと………嵌ってみたい」

ハンジ「え……ちょ……どうした? や、やめてよ」

ハンジはこの手の甘い台詞が少し苦手だった。ムズムズするからだ。

でも今夜のリヴァイはそれを止める様子はなかった。

前に甘い物は入れすぎるとダメだと伝えた筈なのに。

その事を忘れているのだろうか? いや、これは……。

リヴァイ「体が滾る。ハンジのせいだ。俺を目覚めさせた責任を取って貰うぞ」

ハンジ「ど、どうすれば……?」

リヴァイ「俺に愛されろ。一生、離してやらん」

甘い言葉を言っている自覚がない……?

ただの本音がダダ漏れしている状態のように思えた。

ハンジ「ひえっ……ああっ……!」

リヴァイ「俺の嫁として、ずっと、ずっと一緒に居てくれ」

ハンジ「分かっているってば! 婚約したのに、今更言わなくても……!」

リヴァイ「愛している……」

ハンジ「こらああ! 人の話聞いてないね?! 甘い言葉はそんなに要らないって前にも言ったのに!」

リヴァイ「クソ眼鏡の癖に……」

ハンジ「だからなんでそこでまた、悪態つくかなあ?」

リヴァイ「黙れ。もう、喘ぐだけでイイから」

ハンジ「ええええ? 無茶振りにも程が……ん」

キスで口を無理やり塞がれて思い出す。

初めて体を繋いだ時の、あの時と比べたら、今は。

ハンジ(キス、巧くなった……お互いの感じやすいところがだんだん分かるようになってきた)

回数を重ねていく度に、リヴァイが学習していくのが良く分かる。

思い出す。最初に抱かれたあの日のキスを。

おずおずと、震えるように戸惑っていた愛撫を。

だけど愛おしそうに、慎重に進めるリヴァイの動きを。

緊張がこっちにも伝わってくるようなセックスだった。

心臓の音が激しくて、しんどそうな表情のリヴァイの顔を思いだした。

それでも全身をくまなく愛撫して、舌で汗を吸い尽くして、少しでも反応を見せたらそこを追及して。

まるで荒れた畑を手あたり次第、開墾する農家の人のような、そんな苦労が伺えた。

ハンジ(あの時の、リヴァイ……汗、相当掻いていたよね)

ボタボタと落ちてくる汗を今でもはっきり覚えている。

あの時の、体臭も一緒に思い出して、胸の奥が苦しくなってきた。

精一杯、愛してくれた。きっと不安で堪らないのに。それでも手を出してきて。

正常位で何とか事を済ませて。痛みはあったけれど、それ以上に充実感のあったセックスだった。

そして2回目は実家の畳の部屋での、荒れ狂うような激しいセックスだった。

スカーフで口を塞がれて、声を出せない状態で、完全に体を固定されてしまった。

リヴァイが本気を出して腰を振ると、とんでもない事になるのを初めて知ったあの夜。

前からと、後ろからと、イク感覚を味遭わされて、何回絶頂を受け入れたのか。

ハンジ(多分、前2回、後ろ3回、計5回はイッた気がする)

体位はいろいろ変更してきた。正常位は当然、バックと寝バックも経験した。

あと思いっきり足を持ち上げられ、最後は逆に腰を振らされた。

感じる事より、とにかく筋肉の疲労が激しいセックスを経験させられた。

そして流石に3連続は無理だと判断してお預けしたら、次の時は凄く優しいセックスになった。

結納を予定していた日。その日は結納がキャンセルになってしまったけれど。

その日の夜は、凄く暖かな愛撫だった。

最初の時のような焦りも薄れて慣れたのか、リヴァイの愛撫に余裕が見られるようになった。

ハンジ(言葉通りに優しく抱いてくれたっけ……あの日の夜は)

腰の振り方にも気遣いが見られた。静かに、静かに事を進める様子が凄く可愛いと思った。

言葉は多く交わさなかったけれど。触ってくれる時間を多くして貰えた。

そしていろいろ真相が分かって、籍を本当はまだ入れてなかった事がバレた日の夜。

あの日を境に避妊具を使う事を完全に止めて、体を繋ぐようになったのに。

ハンジ(一向に妊娠の気配が来なかったんだよなあ)

生理は多少のズレはあるものの、ちゃんときていた。

ハンジ(あの日を境にガンガンやるようになったのに。時期を見て……とか考えていたのも忘れるくらいに、リヴァイとのセックスに夢中になっていたのに)

身体が疼くようになったのだ。リヴァイを求めるように、自然と女の体になってきたのに。

リヴァイが若い女性社員と軽口を叩いているのも嫉妬するくらいにはリヴァイが好きだと思っていたのに。

ハンジ(3か月程度しか経ってないのに、焦り出した自分がいたんだよね)

もしも、産めない体だったらどうしよう。

リヴァイに女として、必要されなくなったら、どうしよう。

恋愛に溺れたら、きっと、今までの自分では居られなくなる。

だから、理性でブレーキをかけていたのに。

仕事をしていれば、必要とされている自分を実感出来たのに。

このままで本当にいいの? 私は幸せになっていいの?

この状態がずっと続くわけない。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

リヴァイがどんどん、自分の中に入ってくる。

ハンジ「あああっ……!」

怖い。

未知の領域に吹っ飛ばされる。

この快楽の先に、まだ先があるのか。

いっそ、このまま意識が堕ちてしまえばいいのに。

リヴァイはそれを許さない。今はまだ、現実に引き戻してくる。

ハンジ(馬鹿……本当に、この人、馬鹿だ……)

何で、堕ちて来たんだろう。キモイって詰ったのが原因?

そんなのは、私でなくとも、他の人も同じ事を思った筈だ。

ただ、言ったのが、伝えたのが自分だったってだけ。偶々、そうなっただけ。

偶然の産物。そうとしか思えないのに。

ハンジ(何で、そこで堕ちた上に、1年もそれを黙っているかなあ?!)

その恋愛の持続力に恐怖したのと同時に、嬉しいとも思った。

数か月で別れる事も多い恋愛しかしてこなかったのに。

片思いだけで、1年なんて、本当に信じられなかった。

それに加えて、ピクシス部長のあの言葉も。

ピクシス『当たり前じゃろう。リヴァイは最初からハンジに気が合ったとしか思えんかったぞ?』

こっちからプライベートを誘っても断って来た癖に。

気がある癖に、気のない振りを何年やってきたんだ。

ハンジ(本当に、分かりにくい人だよ。リヴァイは……)

でも、好き。

分かりにくいからこそ、知りたいって思う。

一挙一動を見て、正確にあなたの、心が知りたい。

そう考えてしまうのだから、きっと。

ハンジ(私はもう、とっくの昔に、あなたに………!)

リヴァイ「ハンジ……!」

耳元に声が響いて、体が浮く感覚が来る。

リヴァイ「いくぞ……」

頷いた。ここから一気に、速度が上がる。

ハンジ「ああっ……ああっ…ああ……あああああああ!」

避妊具越しなのが悲しいと思えるようになった。

今日は中には出さないと決めたから仕方がないけれど。

リヴァイの表情は満足げで、そしてニヒルな笑みを浮かべていた。

リヴァイ「やっと………か」

ハンジ「え?」

リヴァイ「やっと、堕ちてきたか。ハンジ」

ハンジ「!」

リヴァイ「そういう顔が、ずっと見たかった。ハンジの女の顔、もっと良く見せてくれ」

ハンジ「み、見なくていいよ!!! (顔隠し)」

リヴァイ「嫌だ。見せろ(グイグイ)」

ハンジ「ぎゃああ?!」

リヴァイ「色気のない声で反抗するな」

ハンジ「だって………」

リヴァイ「恥ずかしいのか?」

ハンジ「だってねえ? うん……」

照れながらそう答えた。

ハンジ「やっぱり、避妊具無しの方が良かったかなあなんて」

リヴァイ「え?」

ハンジ「そう思うくらいには、もうリヴァイに堕ちているんですよね。私は」

リヴァイ「……………」

ハンジ「%が拡大していますよ。はあ。20%の時代が懐かしい」

リヴァイ「今、%まで増えた?」

ハンジ「んー………60%くらい?」

リヴァイ「大分近づいて来たな。あと30%差か」

ハンジ「10%の間違いじゃないの?」

リヴァイ「何を言っている。現在は90%に決まっているだろ」

ハンジ「20%拡大していますよね?! いつの間に?!」

リヴァイ「さっき、ハンジからキスしてきた瞬間に拡大した」

ハンジ「今さっきじゃないか! あ、だからか」

リヴァイ「そうだ。急に動かなくなったのはそのせいだ。書き換えた」

ハンジ「じゃあ、残り10%の配分は……」

リヴァイ「9%が休日。仕事は1%で十分だ」

ハンジ「それもう、一瞬しか考えてないですよね?!」

リヴァイ「それでいい。一瞬しか考えたくない」

ハンジ「それで営業最強の座から落ちたら困りますよ」

リヴァイ「その時は其の時だ。その異名もどうでもいいしな」

ハンジ「うーん。エルヴィンに怒られそうだな」

リヴァイ「大丈夫だろ。ピクシス部長も若い頃はそんなもんだったと言っていた」

ハンジ「え?」

リヴァイ「後で訂正してきたんだ。現在は3%しか仕事の事を考えていないが、俺と同じ年くらいの時は、もっと女のことばかり考えていたと」

ハンジ「ひっど! ピクシス部長、本当人としてアレ過ぎる!」

リヴァイ「だが、仕事は出来る男だった。良く言うだろ? 英雄色を好むと」

ハンジ「なるほど。昔の人はいい言葉を残していますね」

リヴァイ「だから仕事は1%で十分だ。ピクシス部長は若い頃には99%女の事を考えて、残り1%で仕事をこなして今の位置にいるんだから」

ハンジ「男の人って、本当馬鹿だよね」

リヴァイ「馬鹿だからいいんだよ。他の余計な事を一切考えないからな」

ハンジ「なるほど。これは勝てない訳だ。男はそういう風に出来ているんだね」

リヴァイ「だからこそ、女が必要なんだよ」

そう言いながらリヴァイはハンジの乱れた髪を手ぐしで整えた。

リヴァイ「男だけの社会なんてクソ過ぎる。体臭もそうだが、いろいろ臭い」

ハンジ「あ、なるほど。そこから違うのか」

リヴァイ「そうだ。女の為に生きて何が悪い。あー仕事したくねえ」

ハンジ「あちゃー口の悪いリヴァイ主任が表に出て来たぞ」

リヴァイ「取引先のピー(自主規制)社長、死ねばいいのに。あのよくしゃべる豚野郎が」

ハンジ「それはあかん!!! リヴァイ、本音がダダ漏れ過ぎるよ!!!」

リヴァイ「皆、思っているけど言わないだけだろ。エルヴィンはもっと酷いあだ名つけて遊んでいるぞ?」

ハンジ「なんかもう、アレだね。男性って意外と繊細な生き物なのかしら?」

ハンジがちょっとだけ汗を掻いて言うと、

リヴァイ「だと思うぞ。女の方がその辺は図太くて立ち直りも早くて逞しくて羨ましい。一生勝てない気がする……(スリスリ)」

ハンジ「そうなのか。うーん。自分ではそう思わないけどなあ」

リヴァイ「自分の事は自分では見えないかもしれないけどな」

ハンジ「そうだね。ところでリヴァイ」

リヴァイ「なんだ?」

ハンジ「気のせいかな? 以前に比べて、ちょっと逞しくなった?」

リヴァイ「ああ……筋トレ、暇みてやっているからな。特に腕の筋肉は常に鍛えている」

ハンジ「いつやっているのよ。家でやっている素振りないのに」

リヴァイ「ああ。仕事の移動途中とか。歩いている時に、鞄で筋トレとか」

ハンジ「えええ?」

リヴァイ「あと、移動途中は鉛をつけて歩いたりする。重りをつけて仕事している」

ハンジ「えええええ? なんか漫画の修行みたいな事していたの?!」

リヴァイ「あとプロテインも常に飲んでいるし、牛乳も毎日飲んでいる。身長欲しい」

ハンジ「まだ諦めてないんだ」

リヴァイ「諦めたらそこで試合終了だって誰かが言っていた気がする」

ハンジ「ぶふ! 確かにその名言はあるけれど! そうか。リヴァイって一途だね」

リヴァイ「諦めが悪いだけかもな」

ハンジ「そうかな」

リヴァイ「筋肉を鍛えているのは何も自分の為じゃない。ハンジの為だ」

ハンジ「え……?」

リヴァイ「お前、俺の二の腕とか好きだろ?」

ハンジ「何でバレタ!? (真っ赤)」

リヴァイ「顔みりゃ分かる」

ハンジ「もー……」

リヴァイ「営業先でも受けがいいぞ。女性社員の受けがもっと良くなった」

ハンジ「う……そういう効果もあるのか」

リヴァイ「ピクシス部長が若い頃、女の事を99%考えて仕事が出来る理由が分かったか?」

ハンジ「なんとなく、分かりました」

ハンジ「だとしたら、私もちょっとお色気頑張った方がいいのかな?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「うーん。項でも見せてみるかあ? 髪あげるとか」

リヴァイ「やめろ」

ハンジ「なんで」

リヴァイ「その………オフィスラブをさせる気か? 俺に」

ハンジ「職場で押し倒すのはダメだよ?! いくらなんでも!! (ガビーン)」

リヴァイ「ああ。妄想したらヤバくなってきた。もう1回しよう」

ハンジ「この絶倫主任が! (ビシッ!)」

そんなこんなで、2回戦。

ハンジ「はあ……はあ……」

リヴァイ「……………」

ハンジ「もう、なんか、だめぇ……」

リヴァイ(うっ………)

ハンジ「ああ……ん………はあ……はあ」

リヴァイ(なんか、ハンジの感じ方がどんどん)

ハンジ「ああ……」

リヴァイ(色っぽさが増してきたな)

ハンジ「もっと、して………」

リヴァイ(誘い方も、イイし)

ハンジ「ああ!」

リヴァイ(何処を触っても感じてくれる様になってきた気がする)

ハンジ「ふ……ん………はあっ……!」

リヴァイ(最初の時は、触っても反応が薄い部分もあったのに……)

ハンジ「あっ……ああ!」

リヴァイ(今は身を捩るくらいに感じている)

ハンジ「ああ……いや……ああ……!」

リヴァイ(あの時は、ただ愛撫をするだけで精一杯だった)

思い出す。何処から触ればいいのか迷うような営みを。

とにかく一挙一動を観察して、少しでも反応がきたらそこを責めて。

リヴァイ(プロの女の時と勝手が違い過ぎた)

それでも経験が全くない訳じゃないから、手順は分かっていたけれど。

これでいいのだろうか? 不安が常に付きまとうセックスだった。

2回目は煽られて、理性が吹っ飛んでしまって。

腹の底から、叫びたいような衝動を止められなくて。

ハンジを壊したい。そんな凶暴な自分を知った。

終わってから我に返って、罪悪感に落ち込んだけれど。

気持ち良さが酷すぎて、頭の中が溶けるかと思った。

浮かれる自分をどんどん抑えきれなくて。

一緒に暮らす様に仕向けた癖に、それを少しだけ後悔していた。

リヴァイ(これ以上、俺を幸せにしてどうする気なんだ)

ハンジは幸せだと言ったが、こっちはそんな比の幸せじゃなかった。

リヴァイ(ダメ人間になりたいと、一瞬でも思いかけた自分が怖くなった)

専業主夫になってもいいなんて、そんな事を言うな。

いや、言ってくれて嬉しかったけれど。そこまでどっぷり幸せになってしまったら。

リヴァイ(失くした時の喪失感を想像したら、生きていけないと思った。あの時に)

ギリギリの理性で耐えた。男としての小さなプライドが危険を察知して動いた。

リヴァイ(ハンジに甘えきってしまったら、俺はもう一人で立てなくなる)

そういう人間になってしまったら、本当の意味で幻滅されるだろう。

それが怖くて、甘い誘惑を振り切ったのだ。

リヴァイ(独占しちゃっていいのかな……なんて)

独占というより、とっくの昔に占拠されていた。

ハンジ自身が気づかないまま、こっちはもう、白旗をあげていたのに。

リヴァイ(ハンジにもっと、欲深くなって欲しくなって……)

ハンジの我儘を全部叶えたいような気持ちになってきて。

それを打診した直後に何故かお預けプレイ。

リヴァイ(なんなんだ。この振り回されっぷりは。クソ……)

ハンジにとっての我儘は自分にとっての我儘じゃない事が分かってしまった。

完全に負けている。圧倒的な差がついている事に気づいた。

結納の件は本当に申し訳なかった。仕事が憎いと思ったのはあの時が最高潮だった。

なのにあっさり仕事に行かせるハンジが少しだけ憎いと思った。

『仕事に行かないで。私を優先して』と言ってくれたら、喜んでそうしたのに。

ハンジはそれを良しとしない。でもだからこそ、惚れたのかもしれない。

仕事を終えてからのあの日の夜は本当に楽しかった。

最初の時のような焦りが少しだけ抜けて、徐々にハンジの体を知っていった。

冷静にハンジの体を攻略出来るようになってきた。感じやすい場所を繋いで快楽を与えて。

言葉を多く交わした訳ではないが。それでも心で通じ合えたような気がした。

リヴァイ(エルヴィンに真相を追及された時は本当に焦った)

エルヴィンの勘の鋭さを甘く見ていた。

でもあのおかげで本当の意味でハンジと向き合う機会を持てた。

もしも結婚式までバレないで、事を進めていたら今のような関係では居られなかったかもしれない。

真相がバレた日を境にハンジとは避妊具を使わずにガンガンやるようになってしまった。

蜜月というのはこういう事を言うのだろう。

その言葉の意味を理解して、幸せ過ぎて仕事をするのがだんだん嫌になってきた自分がいた。

その事をピクシス部長にこっそり相談したら「それが普通だ」と言われたから、安心出来たけど。

だからもう、自分を抑えるのをやめる事にした。

会社のレクレーションにテニスを希望したのもそのせいだ。

しかし5月に入ると様子がおかしいハンジに気づいた。

GWの一日だけの休暇を利用して動物園で話を聞いた時は本当に驚いた。

ハンジの本当の姿をあの時に見た気がして、心の底から、愛おしいと思った。

リヴァイ(ああ………!)

ハンジ「あああ……!」

ハンジ以外の女と付き合った経験がない訳ではない。

だけど、そういう関係にいきつく前に本性がバレて、すぐに去って行った。

女は変わり身が早い。一度、冷めてしまうと颯爽と離れていってしまう生き物だ。

だから職場では出来るだけ猫を被って、感情を表に出さないようにしていたのに。

ハンジ『会社では見せないリヴァイの一面を見た後に、自分の中の意識が変わった気がする。がらりと』

まさか、そこが原因だったなんて。その言葉を聞いた時は本当に。

今までの自分の馬鹿さ加減に腹が立ってしまった。

リヴァイ(口が悪くて、感情的で、短気な部分を見て大丈夫とか)

そんな事を言うのはきっと、この女しかいない。

一生、離したくない。こんなにも自分を受け入れてくれる女は他にいない。

ハンジ「だめ……ああ……リヴァイ、もう……やばい!」

リヴァイ「どうやばいんだ?」

ハンジ「怖いよ……こんなに、ああ……体が熱い……!」

リヴァイ「俺もそうだ。大丈夫だ。同じだ」

ハンジ「本当に?」

リヴァイ「俺だって怖い。こんなに震えているんだぞ」

手先を見せてやると、同じようにハンジも震えていたのだった。

ハンジ「同じなんだね」

リヴァイ「同じだ。だから、大丈夫だ」

ハンジ「うん………」

そして2人は二度目の幸せの絶頂に辿り着いて、お互いの意識を現実から解き放ったのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ










そして時が流れて、あっという間に9月5日が訪れた。

婚姻届けを綺麗な字で書き直して、証人の欄をもう1回書いて貰って不備がないかどうか確認する。

リヴァイとハンジは一緒に役所に訪れてその書類を提出する事にしたのだ。

ハンジ「あっという間だったね」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「計画を立てた時は、結構先かなって思っていたけれど」

リヴァイ「もう少し早く入籍したいと思っていたけど、仕事をしながらの準備だったからかえって丁度良かったかもしれねえな」

ハンジ「うん。無理のない計画だったと思うよ」

ハンジ「じゃあ、そろそろいこうか」

リヴァイ「ああ」

9月5日。朝9時。

その日の午前中に書類を提出して、2人は正式な夫婦として法律的に受理されたのだった。

ハンジ「……………」

リヴァイ「どうした?」

ハンジ「明日は、きっと人生で一番長い一日になるよね」

リヴァイ「やる事が目白押しだからな」

ハンジ「うん。覚悟決めなきゃ」

リヴァイ「あんまり気合入れすぎなくてもいいぞ。しんどくなったら途中で休め」

ハンジ「でも……」

リヴァイ「妊婦なんだから無理はするな。気分が悪くなったらすぐ言えよ」

ハンジ「うん。大丈夫だよ」

ハンジはあの後、5月の後半に入ってからすぐに妊娠して、現在大体4か月に入っていた。

安定期はもう少し先になるが、式の予定が先に入っていた為、マタニティのまま式をあげる事にしたのだ。

リヴァイ「お前はすぐ無理するからな」

ハンジ「う」

リヴァイ「おかげで洋装だけの式になったから、まあハンジにとっては好都合だったか」

ハンジ「まあね。作戦勝ちかな」

リヴァイ「狙っていやがったのか」

ハンジ「嘘だよ。偶然だってば」

リヴァイ「どうだかな? まあ俺はどっちでも構わんが」

ハンジ「もうちょい先だったら和装でもOKらしいけどね」

リヴァイ「延期してもよかったのに」

ハンジ「嫌だよ! もう面倒臭い」

リヴァイ「昔の女性は着物で生活していた訳だから、妊婦でも和装をしてはいけないって事はないんだろうが」

ハンジ「それは着なれているから大丈夫って話じゃないのかな」

リヴァイ「それもそうか」

ハンジ「そうだよ」

リヴァイ「……………あんまり顔色は良いように思えない」

ハンジ「え? そう?」

リヴァイ「やっぱり無理しているんじゃないのか? そもそも安定期に入ってからの方が」

ハンジ「境目あたりだから大丈夫じゃない?」

リヴァイ「うー」

ハンジ「つわりは収まって来たから大丈夫だよ」

リヴァイ「そうか………」

ハンジ「もう心配性だな。リヴァイは」

リヴァイ「心配するなという方が無理だ」

ハンジ「そりゃそうか。じゃあいっぱい心配して」

リヴァイ「………心配する必要がなくなったようだ」

ハンジ「何でそう、反対の行動を取るかな?!」

リヴァイ「そういう性格だから仕方がない」

ハンジ「もー……一周回って面白くなってきた」

リヴァイ「は?」

ハンジ「ぷぷ……リヴァイの取り扱い方がだんだん分かってきたって事ですよ」

リヴァイ「ほぅ……」

ハンジ「口が悪い時ほど、本当は心配しているのとか、ね?」

リヴァイ「気のせいだろ?」

ハンジ「いやいや? あなたの憎まれ口は愛情の裏返しでしょ?」

リヴァイ「さあな? 本心で言っている時もあるからな」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「常々クソ眼鏡だなと思っている」

ハンジ「もう眼鏡やめてコンタクトにした方がいいかしら?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「だって、クソ眼鏡なんでしょ? 眼鏡やめた方がいいかも?」

リヴァイ「………………………」

ハンジ「なに、その変な間は」

リヴァイ「其の時はクソ女と呼ぶだけだが?」

ハンジ「どっちにしろ、逃れられない運命なんですね」

リヴァイ「そうだ。お前は、俺の傍に居ろ」

ハンジ「はいはい……って、え?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あー危うく聞き逃すところだった」

リヴァイ「聞き流していいのに」

ハンジ「いや、折角耳まで真っ赤にして言った言葉を聞き逃すのは勿体ないかなと」

リヴァイ「!」

リヴァイ「そんなところまで観察するなよ」

ハンジ「ふふふ……観察するのが好きな私を嫁にしたんだから我慢して頂戴」

リヴァイ「クソ………やっぱりクソ眼鏡だな」

ハンジ「はいはい♪」

そして2人にとっての、長い一日がいよいよ、始まる。








9月6日。結婚式場にて。

父親「体の方は大丈夫か? ハンジ」

ハンジ「大丈夫だよ」

母親「着物に着なれていれば着物の方がかえって楽なのにね」

ハンジ「しょうがないでしょ。そういう機会があんまりなかったんだし」

父親「まあ、なにはともあれ、今日一日、大変だと思うぞ。気分が悪くなったらすぐに言いなさい」

ハンジ「はい。お父さん、お母さんもはしゃぎすぎないでね」

母親「生意気言って……」

ハンジ「ごめんね。洋装に変更したから教会式に変えちゃったけど」

母親「仕方がないわよ。こっちの希望ばかりいう訳にもいかないわ」

父親「着物姿はまた別の日に写真だけでも撮ればいいだろう」

ハンジ「うん。そうするつもりだよ。じゃあ、着替えてくるよ」

ハンジは控室に入って純白のドレスに着替え始めた。

化粧ものせて、過去最高の華やかな自分に変身する。

リヴァイは別室で白タキシードに着替えて、花嫁姿のハンジを見に行った。

ハンジ「あーもうちょい待って。あと少しかかるよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「いや…………何でもない」

ハンジ「また意味深な間を作って……似合うよくらい言ってよ」

リヴァイ「そんな言葉じゃ足りねえよ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「はー…しんどい」

ハンジ「何で?!」

リヴァイ「今日は一日、耐久レースだな。クソ……」

ハンジ「何の話?」

リヴァイ「過去最高のお預けプレイだ。家に帰ったら爆発しそうだな」

ハンジ「何を言いだすのかな?! いきなり下品な話はやめて下さい!」

メイクの人「ぷぷぷ……」

ハンジ「ほら、メイクの人も困っているでしょうが! 花婿は外に出て!」

リヴァイ「ちっ……(退散中)」

ハンジ「本当にすみません。うちの旦那がアホで」

メイクの人「いえいえ。愛されていますね」

ハンジ「ですかね? まあ、いつもこんな調子ですけどね」

メイクの人「普段からお預けプレイされているんですか?」

ハンジ「あっちが勝手にそう思っているだけですよ!!」

メイクの人「でも、嬉しそうでしたよ?」

ハンジ「だったらいいんですけどね……(苦笑)」









オルガンの音に導かれて花嫁が入場する。

父親の腕に引かれて花嫁が壇上へ。

ハンジ側の親戚と、会社の親しい人間だけを呼んでの教会式の結婚式だ。

恒例の牧師のお話と、サインの儀式と、指輪の交換。そして誓いのキス。

慌ただしく過ぎて、午後からは披露宴に移動する。

場所を移動して、大広間で招待客を迎える。

エレン「おおおおおおお」

初めての大きな披露宴にエレンとミカサは緊張していた。

2人はこの日の為に新しいスーツとワンピースを購入して挑んでいる。

深緑色のスーツと、同じ色の煌びやかなワンピース姿のミカサはその会場の大きさに驚いていた。

エレン「我儘言って良かったぜ! 来て良かった!」

ミカサ「そうね」

エレン「アルミン達もいるぜ! おーい!」

先に席についていたアルミンを見つけた。

料理については披露宴が始まる前に招待客の方でAかBを選ぶ形式になっていた。バイキング形式だとそれが苦手な方もいるという事だったので、前もって2種類のメニューを決めて御膳形式にする形にしたのだ。

長いテーブルで3列の席を作って、ハンジ側の親戚の列、会社の上司と同期と部下の列、その他の友人知人の列に分かれて貰った。

当初の予定では20~30人程度の披露宴にしようと思っていたのに、気が付いたら100人近い人間が集まる事になってしまった。

リヴァイの仁徳が伺える大きな披露宴になってしまったのだ。

エレン「アルミンもスーツを新調したのか」

アルミン「まあ、一応ね」

エレン「似合っているぞ! 青いスーツにしたんだな」

アルミン「エレンは深緑色だね」

エレン「だな。このスーツが一番しっくりきたからな」

アルミン「ミカサも来たんだ。意外……」

ミカサ「エレンを独りにはさせない」

エレン「無理しなくていいって言ったけどな」

ミカサ「エレンと一緒に居る方がいい」

アルミン「ミカサは相変わらずだね」

ミカサ「私はいつも通り」

アルミン「今日は電車できたの? 飲むつもり?」

エレン「そりゃそうだろ。飲むに決まっているだろ」

ミカサ「私も一応、飲むつもり」

アルミン「そっかあ。僕はそこまで飲めないから車で来ちゃった。2人を乗せて帰ろうか?」

エレン「いいのか? なんか悪いなあ」

アルミン「2次会もあるかもしれないけど、其の時は出る?」

エレン「勿論だ! その………ペトラさんと別れた後は彼女もいねえし、いい女性がいたら声かけてみようかなって思ってる」

ミカサ「ガーン……」

アルミン「ミカサの前でそんな事言わない方がいいんじゃない?」

ミカサ「エレン、私という物がありながらどうして……(涙目)」

エレン「ミカサも男を捕まえればいいじゃねえか」

ミカサ「エレンよりいい男なんていない」

エレン「だからそれは盲目だっつの! オレよりいい男なんて沢山いるだろ?」

ミカサ「いない。エレンが最高」

エレン「アルミン、どう思う? これ(指差し)」

アルミン「これ呼ばわりは酷くない?」

エレン「だってよ………騙しているような気分になるんだけどな」

ミカサ「エレンは素直な人なので騙してはいない」

エレン「オレ、悪い男かもしれねえぞ?」

ミカサ「そうだとしても、別にいい」

アルミン(ミカサの攻め方は一辺倒だなあ)

エレン「はあ……もう何言ってもダメだな。こりゃ」

アルミン「諦めて君達も籍入れちゃえば?」

エレン「えええ……ミカサと結婚しろってことか?」

ミカサ「準備はいつでも出来ている(*婚姻届けを持ち歩いています)」

エレン「証人の欄、書いてねえから出せないぞ」

ミカサ「うぐ……」

アルミン「僕が書いてあげようか?」

クリスタ「あ、私も書いてあげようか?」

アルミンの隣に座っていたクリスタも話を聞いて挙手した。

ミカサ「是非お願いします」

エレン「余計な事するなよ! 2人とも!」

ライナー「ふむ。しかし2人は同居しているんだろ? もう結婚してしまえばいいのに」

ベルトルト「別に法律的には問題ない関係なんだよね?」

コニー「だったらよくねえ? 結婚しちゃえよ」

マルコ「まあまあ、2人の問題だから皆も茶化さない」

ジャン「………(リア充死ね)」

ジャンだけは何も言わず黙っていた。

ユミル「そんなにミカサと結婚するの嫌なら別の女を引っかけちまえば? 2次会とかで」

エレン「そのつもりでいるぞ」

ミカサ「絶対、させない(キリッ)」

2人が牽制し合っていると、そこにペトラ達がやってきた。

ペトラ「やっほー! 皆大体集まったかな?」

エレン「あ、はい!」

オルオ「一応、披露宴の終了予定時刻が4時だから、5時過ぎくらいに2次会をしようと思っているんだが」

エレン「良かった! 2次会楽しみです」

エルド「全員、出られそうか?」

アルミン「大丈夫だと思いますよ。この日の為に皆、頑張りましたから」

ペトラ「留守番組は今頃、泣いている頃かしら」

オルオ「しょうがねえだろ。営業部全員が休むわけにはいかん」

エルド「グンタは泣いているかもな。あいつも披露宴出たがっていたし」

営業部は年末年始を除いては完全シフト制の仕事の形態なので、土日は余り関係ない。

なのでこのメンバーが一挙に休むのは珍しい事であり、職場に残っているメンバーは貧乏くじをひかされたようなものだった。

ペトラ「グンタも2次会には合流出来るでしょ。ニファとケイジも今日は職場に残っているから後で来るってさ」

クリスタ「サシャがこっちに来られないとなった時の絶望的な顔は忘れられないね」

ユミル「まあ、仕方がねえだろ。誰かが残らないといけなかったんだし」

ミカサ「後でお土産でも渡してあげよう」

アルミン「引き出物で我慢して貰うしかないね」

そんなこんなで披露宴の開始時刻になり、席に着いて一同は新郎新婦を待つ。

司会は当然、ピクシス部長だった。こういう宴会事をやらせたら彼に敵う者はいない。

リヴァイは黒いタキシードに着替えて、ハンジの方は薄いオレンジ色のドレスに着替えて入場してきた。

お祝いのスピーチやカラオケや2人の馴れ初め話やら。

酒も少しずつ入って盛り上がっていると、ミカサは披露宴そっちのけで酒に溺れていた。

ミカサ(どうにかして阻止しなければ。エレンがナンパするのを)

ミカサ(でもどうすればいいのだろうか? エレンは他の女性ばかり見ている)

ミカサ(今度は誰を誘うんだろう? ペトラさんの次は誰を彼女にするんだろう?)

ミカサ(嫌だ。エレンが他の女と一緒にいるところを想像したくない)

ミカサ(この感情を、捨てられたらどんなに楽か……)

ミカサ(私の何が悪いんだろう? こんなにエレンが好きなのに)

ミカサ(ああ、お酒が美味しい。こんなに美味しいお酒は初めてかもしれない)

ミカサ(全部飲んでしまおう。今だけは、何も考えたくない……)

エレン「おい! ミカサ!」

ミカサ「なに? (ヒック)」

エレン「飲み過ぎだ!! 何本、ワイン空けたんだよ!!」

ミカサ「さあ?」

エレン「他にも飲む人がいるのに! 周りにちったあ気を遣えよ!!」

ミカサ「会費分は元を取らないと」

エレン「そうだけど! あああもう! 酔い過ぎて顔赤いぞ!?」

ミカサ「エレンが私と結婚しないからこうなった」

エレン「オレのせいにするなよ!!」

ミカサ「私の何が悪いの? 私の悪い部分をちゃんと言って……」

エレン「だから、そういうところがダメなんだって!」

ミカサ「もっと分かりやすく……」

エレン「ミカサの中心が、オレなのがダメなんだよ!!」

ミカサ「?」

エレン「あーだから、ミカサはオレをなんだと思っているんだよ!」

ミカサ「イケメン。史上最高にいい男……」

エレン「その認識が間違っているだろうが!」

アルミン(あーまた痴話喧嘩が始まっているなあ)

酒は飲まないで様子を見守っていたら、ミカサがどんどんエスカレートしてきた。

ミカサ「間違っていない。エレンは最高の男……」

エレン「営業成績だって下から数えた方が早いような男のどこが最高だよ(イライラ)」

ミカサ「仕事の出来高は関係ない」

エレン「関係あるだろうが!! 同期の中じゃ、オレ、本当ダメ過ぎるし!」

ミカサ「そうだとしても、それは関係ない」

エレン「なんでだよ」

ミカサ「エレンを評価するのは私であって、周りではない。私が最高だと言えばエレンは最高」

ミカサ「私からみたらエレンがいい。それ以外に何か理由が必要だろうか?」

エレン「ミカサがオレを慕うのは、昔、命を助けてやったからで、それだけだろうが」

ミカサ「違う」

エレン「どう違うんだよ」

ミカサ「確かに命を助けられた事は切欠ではあるけれど、決してそれだけではない」

そしてミカサは昔の事を思い出していった。

ミカサ「エレンは必ず、私がピンチに陥ると、私を助けてくれた。私だけのヒーロー」

エレン「…………」

ミカサ「だから私は、今度は私がエレンを守る番だと思った。身体を鍛えて逞しくなった」

エレン「鍛え過ぎて男みたいな体になっちまったじゃねえか」

ミカサ「やり過ぎたのは分かっている。でもいつの間にかこうなった」

エレン「ミカサがそんなんじゃ、オレの出番がまるでねえじゃねえか」

ミカサ「え?」

エレン「何でもねえ! もう、酒飲むな! グラス没収!」

ミカサ「いや……! 今日は飲む!」

エレン「おい、ミカサ……(珍しいな。いつもはいう事きくのに)」

ミカサ「もう、酒に溺れてやる! 現実逃避しないとやってられない!」

グビグビ………

ミカサ「ヒック……(トローン)」

エレン(なんか、こういうミカサを見るのは初めてだな)

エレン(アレ? 何でだ? 今、ちょっと可愛いと思ったぞ?)

ミカサ「大体エレンはおかしい」

エレン「なんで」

ミカサ「こんなに頑張っている私を何故、跳ね除ける?」

エレン「だから、それは頼んでねえだろ」

ミカサ「エレンの好きなご飯をいつも作って待っているのに」

エレン「それも頼んでねえ! 飯くらい自分で用意するし! 自炊出来ねえ訳じゃねえんだから!」

ミカサ「でも、仕事から疲れて帰ってきたら自炊する気力もない癖に」

エレン「その時はコンビニで済ませる」

ミカサ「体に悪い! そんな事をしていては、エレンがいつか倒れてしまう!」

エレン「それを言ったらミカサの方が余程だろうが! そっちも仕事終わってから何でもかんでもやってるだろ!」

アルミン(なんかもう、夫婦喧嘩にしか聞こえない)

アルミンは半眼になって隣の席の諍いを聞いていた。

ミカサ「私は営業事務の方なので、営業に比べたら楽なので」

エレン「そうだとしても、だ。ミカサはミカサで自分の時間を過ごしていいだろ!」

ミカサ「家事仕事をする事の何が悪いか分からない」

エレン「オレの仕事が無くなるだろうが! オレのパンツを勝手に洗いやがって!」

ミカサ「穴が開いていたから補強もついでにしてあげたのに」

エレン「勝手にパンツにアップリケをつけられた時のオレの気持ちの方を察しろ!!」

アルミン(あちゃー)

アルミンはだんだん腹が痛くなってきた。

アルミンだけではない。周りは笑ってはいけないアレ状態だ。

ミカサ「可愛くしたらダメだったの?」

エレン「そういう問題じゃねえよ! そこまで世話するなって話だよ!」

ミカサ「私の生きがいを奪わないで欲しい」

エレン「ミカサはそこまでオレをダメ人間にしたいのか」

ミカサ「私無しでは生きられないように改造したいとは思う時もある」

エレン「こえええ事言うな! あーもう、今日は絶対、2次会で誰かナンパする」

ミカサ「ガーン……」

エレン「ニファさんは後で来るって言っていたし、サシャも絶対後で来るよな。どっちかに声かけよう。うん。そうするぞ」

ミカサ「ふ、2人も目をつけているの……? (涙目)」

エレン「ピクシス部長に、仕事出来るようになる為には女性経験が必要だって言われたんだよ。ダメだったからって、落ち込む必要はないってさ。どんどん女性に自分から声をかけていいって。若いうちはその練習をしないとダメだって言われた」

ミカサ「ピクシス部長の馬鹿……(顔覆う)」

エレン「女を知る事で、相手を知ろうとする気持ちが育つそうだ。オレ、仕事出来るようになりたいし、頑張ろうと思うんだよ」

ミカサ「頑張る方向が間違っている気がする」

エレン「でもピクシス部長はその方法で営業成績がトップだった時期があったんだぞ?」

ミカサ「リヴァイ主任の場合はそうじゃないのに」

エレン「あーリヴァイ主任の場合は、そうだけど」

ミカサ「ピクシス部長を習うより、リヴァイ主任を習った方がいい気がする」

エレン「え? ミカサはリヴァイ主任が嫌いじゃなかったのか?」

ミカサ「そうだけど。男としてはリヴァイ主任の方がいいような気もする」

ミカサ「ピクシス部長のように女たらし過ぎるのはちょっと……」

エレン「でもリヴァイ主任も、ハンジさん以外の人とそういう関係になった事もあるんだぞ」

ミカサ「嘘……(ガーン)」

エレン「ハンジさんと付き合う前の話だけどな。リヴァイ主任だって通って来た道だ。習っていいって言うなら、オレもリヴァイ主任の真似をする」

ミカサ「やめて……他の女と寝ないで!」

エレン「彼女面するのはやめてくれよ。オレ、ミカサをそういう意味で見ている訳じゃ……」

ミカサ(カチーン)

ミカサ「もういい(*目が据わりました)」

エレン「え?」

ミカサ「もう、好きにしたらいい!!! 別の女と寝たいなら、それでも構わない!! その代り、私の旦那になって!!!!」

エレン「はいいいいいい?!」

ミカサ「さあ、ここにサインして。今すぐ結婚しましょう<●><●>」

ミカサはエレンの手を取って無理やりサインを書かせようとするが……

エレン「ちょっと、ミカサ! 酒に酔い過ぎだ!!! やめろ!! 馬鹿!!」

エレンは必死に抵抗する。

エレン「皆も見てないで止めろよ!!! ミカサの暴走を止めてくれ!!!」

アルミン(生暖かい目)

クリスタ(生暖かい目)

ユミル(生暖かい目)

ライナー(生暖かい目)

ベルトルト(生暖かい目)

マルコ(生暖かい目)

ジャン(涙目)

コニーだけは飯に夢中で見ていなかった。

エレン「止める気ゼロかよ! あ…待ってって! ミカサ、腕がいてえから離せ!!」

ミカサ「いや!!!!」

エレン「クソ……馬鹿力だな!! 酒の力でリミッター外れているのか?!」

ミカサ「うっ………」

その直後、ミカサが酔い過ぎて吐いてしまった。

エレンの胸に向かって。ゲロゲロと。

アルミン(ぶは?!)

突然の珍事に、一同は驚いて流石に新郎新婦もそれに気づいた。

リヴァイ『おい、飲み過ぎた馬鹿が出たか? 誰か介抱しろ』

と、冷静にアナウンスして、会場の中はざわめいた。

ミカサは控室に運ばれて、新調したスーツを汚されたエレンはがっくりする。

この恰好じゃ2次会どころではない。仕方なく、ミカサに付き添う。

控室で弱り切った青ざめたミカサを見ていたら、ふと思い出した。

一緒に暮らし始めた頃、まだ小さい時の事を。

エレン(あの頃はまだ、体調を崩す事も多かったな)

その当時は今ほどミカサも強くは無く、普通の少女だったのに。

エレン(なんでこう、どんどん強くなっちまったんだろうな? ミカサは)

それは彼女の努力の結果ではあるが。

エレン(オレの出番がどんどんなくなって、オレの存在価値が分からなくなった)

なのにミカサはエレンがいいと言い続ける。

エレン(男として、全然格好良くねえのに。何でだよ)

自己嫌悪に陥る。慕ってくれるのは嬉しいのに。

エレン(何でミカサはオレがいいんだよ……)

青ざめているミカサを見ていたら、

エレン(もういっそ、このままずっと弱っていればいいのに)

そう思った直後、心臓が一度、大きく跳ねた。

エレン(ん? アレ?)

今の感触は、一体なんだ?

エレン(え? 今、オレ、何考えた?)

心臓の音が高鳴っていく。勝手に顔が赤くなっていく。

エレン(え? え? 待て。待ってくれ)

そして体が少しだけ変化している自分に気づいた。

エレン(おい、ちょっと待て。息子よ。何で反応している?)

俯いて、もう一人の自分に問いかける。

エレン(ミカサを見ても勃起した事なんて今まで一度もなかったのに)

何で、弱り切っているミカサを見て、反応した?

エレン(何でだ? え……待ってくれ。そういう意味で見られないと思っていたのに)

ミカサ「ううーん……」

具合が悪そうに意識を回復する。

ミカサ「あれ? ここは何処?」

エレン「控室だ。ミカサ、オレのスーツに吐いたんだよ」

ミカサ(ガーン)

エレン「覚えてねえのかよ。もう今日は帰った方がいいかもな」

ミカサ「帰りたくない。エレンが2次会に行くのであれば」

エレン「このスーツの姿でいける訳ねえだろ。行くとしても、一旦家に帰らねえと」

ミカサ「では、一緒に帰ろう」

エレン「………………」

エレンは視線を逸らした。つい、うっかり。

ミカサ「?」

エレン「タクシー呼んで帰るか」

ミカサ「うん………」

そして2人は披露宴の途中で抜けるという選択を取った。

リヴァイ主任に一応、一言だけ伝えて、先に帰る事にした。

リヴァイの方は心配そうにしていたが、エレンがその件をミカサに伝えると、酒に酔っている癖に「余計なお世話だ」と悪態をついた。

エレン「酒に酔っている癖に悪態だけは一人前だな」

控室でタクシーを待つ間、エレンは言った。

ミカサ「リヴァイ主任に気遣われるとムカつく」

エレン「……………リヴァイ主任はいい男なのに」

ミカサ「私にとっては、エレンの方が上」

エレン「お前の価値観、やっぱり変だぞ」

ミカサ「そんな事はない。エレンの方がいい男」

エレン「そんな事を言うのはミカサくらいなもんだ」

ミカサ「だったら、私と結婚すればいいのに」

エレン「………………」

ミカサ「法律的にも年齢的も問題ない。エレンさえ頷けば私達は結婚出来る」

エレン「………………」

ミカサ「何がいけないの? 私の何が悪いの? この気持ちをどうすればいいの?」

エレン「………………」

ミカサ「毎日が不安で堪らない。エレンの姿を見ないと落ち着かない。私はエレンがいないとダメな女なのに」

エレン「………………」

ミカサ「ううう………酒を飲み過ぎて気持ち悪い(げっそり)」

エレン「ミカサ」

ミカサ「何?」

エレン「ちょっと、動くなよ」

ミカサ「?」



ちゅっ…………



ミカサ「?!」

エレン「どうだ?」

ミカサ「におsdんlsgんsldbgldfbg……!?」

突然の、軽いキスに吃驚し過ぎて声が出ない絶叫をするミカサだった。

過呼吸を起こしかける感じで息が乱れてまずい事になっている。

ミカサ「な、何故、今、軽いキスをしたの……?」

訳が分からない。突然の触れ合いにミカサは全身が染まっていた。

エレン「おまえ、この程度の接触でそんな風になるんじゃ、セックス出来ねえんじゃねえか?」

ミカサ「そ、そんな事はない。きっと出来る筈……」

エレン「そうかあ? 無理そうだなあ」

ミカサ「頑張る! 頑張るので、もう1回キスを!」

エレン「後悔しねえな?」

ミカサ「しないしないしないしない!」

エレン「じゃーするけど」



ちゅ………


ミカサ「におsdんlsgんsldbgldfbg……!?」

触れるだけのキスだけで絶頂にいきそうになるミカサの様子にエレンも困り果てる。

エレン「んー………やっぱり、気のせいだったんかなあ」

ミカサ「何が?」

エレン「今のキスは、別に何ともなかった」

ミカサ「ガーン……」

エレン「でも、1回目のキスは、結構良かった」

ミカサ「え!?」

エレン「何が違うんだ? 自分でも良く分からねえ」

ミカサ「私はどっちも良かった」

エレン「うーん」

ミカサ「でもエレンは、私に手を出せる。だとすれば、夫婦になれるのでは?」

エレン「まあ、理屈を言っちまえばそうなるけど」

ミカサ「今、ここでする? (ドキドキ)」

エレン「んなアホな事はしねえよ」

ミカサ「では家に帰ってから……」

エレン「とりあえず、スーツをどうにかしてから考える」

そしてタクシーが来て、2人は先に会場を出る事になった。

車の中でもミカサは青ざめていた。気持ち悪そうにしている。

ミカサ「何杯飲んだのか覚えてない……うぷ……」

エレン「…………」

ミカサ「また吐きそう……ううう……」

エレン(なんだ? この感じ)

エレン(ミカサがぐったりしているのに)

エレン(それに比例するように、オレ、ドキドキしている)

エレン(背中擦ってやりてえな)

スリスリ……

ミカサ「!」

ミカサ「エレン?」

エレン「吐きたいなら、エチケット袋貰ってきたから、吐いていいぞ」

ミカサ「でも車内が臭くなるのでは」

エレン「気にしなくていい。気にするような仲じゃねえだろ」

ミカサ「き、気にする仲になりたいのに」

エレン「いいから、吐けって」

ミカサ(オロオロ……)

エレン(オレ、吐いているミカサを見ても全然、嫌悪感がねえな)

エレン(むしろ、何か、いつもより、可愛く見える)

エレン(何でだ? 意味分かんねえ。オレ、どうしちまったんだ?)

そして自宅に何とか帰り着き、ミカサを寝かせる為に布団を敷いた。

ミカサはぐったりして横になり、着替え終えてからそのすぐ傍であぐらをかいてエレンは考えた。

エレン(これってどういう事なんだ? 自分で自分の事が良く分からねえ)

エレン(えーっと、振り返って考えてみるぞ)

エレン(まず、ペトラさんと付き合っていた時、胸がキュンとしたのは、ペトラさんが弱って泣いちまった時だ)

エレン(あの時のペトラさん、本当に可愛かった。もう、ハグしたい気持ち止められなかったしな)

エレン(だってあの、ペトラさんが、弱っているんだぞ? いつも気の強いしっかり者のペトラさんが)

エレン(そんなペトラさんが、うっかり泣いて、萌えない訳ねえだろうが!)

エレン(んで、問題は次だ)

エレン(ミカサの場合だ。こっちは、ミカサが酒に独りで溺れている様子が可愛いって思った)

エレン(普段はそう飲まないし、飲んでもここまで酷い酔い方はしねえ)

エレン(普段と違うミカサにちょっとだけ、可愛いと思った)

エレン(んで、弱り切って吐いた青ざめたミカサを見ていたら)

エレン(なんか、また胸が…………)

エレン(!)

そこでようやくエレンは気づいた。

エレン(え……)

エレン(あ、そうか! もしかして、そういう事なのか?)

エレン(オレって、弱っている女に、弱いのか!)

エレン(洒落じゃなくて)

エレン(なんか、守ってやりたくなるって思った時に、胸がキュンとして)

エレン(だから、ちょっと小さい外見の女が可愛いって思ったのかも?)

エレン(自分が守りたいって思った女に対して、ムラムラするのか!)

エレン(そっか……ミカサに今までムラムラしてこなかった理由は)

エレン(ミカサが大きくなり過ぎて、しっかりし過ぎて、オレじゃミカサを守れないって思ったからか)

エレン(だから、ミカサを介抱している時に、ドキドキして)

エレン(なんかこう……いつもと違う感じになったのか)

エレン(謎が解けたああああ!)

ぐっと拳を握ってガッツポーズをするエレンだった。

ミカサ「エレン、さっきから何故、百面相?」

エレン「起きていたのか」

ミカサ「エレンの気配が気になって」

エレン「寝ていいのに」

ミカサ「エレンが気になって」

エレン「じゃあ、一緒に寝るか」

ミカサ「え?!」

エレン「添い寝したら、眠れるか?」

ミカサ「よ、余計に眠れなくなる!」

エレン「じゃあ、どうして欲しい?」

ミカサ「ええっと………」

ミカサ「何故、急に優しいの?」

エレン「謎が解けたからだよ」

ミカサ「謎?」

エレン「オレが今まで、ミカサにムラムラしなかった理由だ」

ミカサ「分かったの?」

エレン「ああ。ミカサがしっかりし過ぎだったんだよ」

ミカサ「え?」

エレン「たまには失敗して、ドジなところも見せてくれよ」

ミカサ「え? え?」

エレン「料理の味付けを失敗してもいいし、髪の毛、寝癖つけてもいいし」

ミカサ「え? え? え?」

エレン「風邪ひいたら困るけど、たまには風邪をひいても大丈夫だ」

ミカサ「矛盾しているような?」

エレン「とにかく、ミカサが頑張り過ぎだったのが原因なんだよ」

ミカサ「では、頑張り過ぎないようにすれば、エレンはムラムラするの?」

エレン「多分な。だから、まあ………結婚するか」

ミカサ「え?」

エレン「いや、結婚したいんだろ? 多分、出来る。今なら、オレ、ミカサを抱けると思う」

ミカサ「……………」

エレン「今日じゃなくてもいいけど。体調良くなったら、婚姻届け出しに行くぞ」

ミカサ「ほ、本当に……?」

エレン「嘘ついてどうすんだよ。今日はエイプリルフールじゃねえぞ?」

ミカサはその直後、涙が溢れ出て、わんわん泣きじゃくってしまった。

エレン「何で泣くんだよ?! (ガビーン)」

ミカサ「ああああああああ!」

エレン「子供みてえな泣き方だな。あーもう」

よしよし。頭を撫でながら、エレンはミカサにキスをした。

ミカサ「!」

エレン「ほら、お望み通り、ちゃんと体が変化しているからさ」

服の上から確認させたら、ミカサが赤くなり過ぎて、気絶した。

エレン「ええええ? この程度で気絶するのかよ!」

興奮し過ぎて意識が飛んだミカサに、エレンは苦笑する。

エレン「ま、いっか。やるのはいつでも出来るしな」

そう思い、エレンはのんびり構えたのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ








そして結婚式が終わって、暫くの時が流れて。

エレンはまずはリヴァイに婚約の件を報告する事にした。

昼休み。一緒にご飯を食べながら、エレンは話を切り出した。

エレン「えーなんか、いろいろあって、結局ミカサと結婚する事にしました」

リヴァイ「そうか」

エレン「あれ? あんまり驚いてないですね」

リヴァイ「まあな」

エレン「気づいていたんですか?」

リヴァイ「そうなるような予感はあった」

エレン「そうだったんですか」

リヴァイ「自分の性癖に気づいたんだな?」

エレン「はい………多分、そういう事ですよね」

リヴァイ「まあ、気づいたなら、仕方がない」

エレン「ですね。まあ、自分でもびっくりしましたけど」

リヴァイ「俺もそうだった。自分の性癖に気づいた直後は落ち込み過ぎて泣きたくなった」

エレン「え? オレは別にそこまでは………」

リヴァイ「ん? そうなのか」

エレン「オレの場合、弱っている女に弱いって事なんで」

リヴァイ「んー」

エレン「ミカサが酒を飲み過ぎて吐いているのに、嫌悪感がねえ自分に気づいて、『あ、これか』って思いました」

リヴァイ「ほぅ……」

エレン「今までのミカサって背伸びし過ぎてダメだったんですよ。オレが女に求めているのはそこじゃないって分かりました」

リヴァイ「あー尽くされ過ぎると逃げたくなるって奴だな」

エレン「そうです。酔った勢いで求婚された時はマジで焦りましたけど。結果オーライですね」

リヴァイ「お前もか」

エレン「え?」

リヴァイ「いや、俺もそうだったからだ」

エレン「ああ、そう言えばそうでしたね」

リヴァイ「ああ。向こうが勢いでプロポーズしてきた時は、心臓止まるかと思ったが」

エレン「オレはリヴァイ主任とは違った意味で息の根止まるかと思いましたけど」

リヴァイ「意味は違うが、2人とも酔った勢いで求婚されてしまった訳だな」

エレン「本当ですね。これって凄い偶然ですよね」

リヴァイ「全くだ」

お互いに苦笑を浮かべてしまう。

リヴァイ「籍はいつ入れるんだ?」

エレン「あーミカサの方はすぐにでも入れたいって感じだったけど、結婚記念日は覚えやすい数字の方がいいかなって思って、今は保留にしています。今は婚約期間って事です」

リヴァイ「よく我慢しているな」

エレン「ミカサは基本的にオレの意見を優先する女なんで」

リヴァイ「調教しているな」

エレン「その言い方は適切じゃないですよ。オレ、そのつもりは全くないですし」

リヴァイ「しかし、苦しんでいる女にムラムラするというのは、Sの気がある証拠じゃねえか?」

エレン「え…………」

リヴァイ「そういう事じゃねえのか? 違うのか?」

エレン「ち、違いますよ! それは誤解ですって!!」

リヴァイ「だが吐いている女に嫌悪感を持たず、むしろムラムラするって、余程だぞ」

エレン「え…………」

リヴァイ「普通は吐いている女を見たらげんなりするもんだ」

エレン「お、オレの場合は介抱してあげたくなる意味ですから! 全然違いますよ!」

リヴァイ「ふーん」

エレン「信じてないですね?! 違いますよ!」

リヴァイ「まあいい。そういう事にしておこう」

エレン「主任も意地悪ですね! Sの気あるんですか?」

リヴァイ「まあ、そういう気分の時もあるが、多分本質はМ寄りだ」

エレン「え?」

リヴァイ「でなければ、休日返上で駆り出されているのに、会社の言う事を聞いて仕事に戻る訳ねえだろ」

エレン「…………」

リヴァイ「あと、後輩の尻拭いもS寄りの人間ならやらねえよ。放置して逃げる。自分の事が可愛いからだ」

エレン「……………」

リヴァイ「それにハンジに無理やり肉を食わされて、なんかイイとか思った時点でアウトだと思った。俺は巻き込まれる災難を受け入れちまう性質のようだ」

エレン「つまり、ハンジさんの方がSっ気あるんですか?」

リヴァイ「さあ? そこは分からんが、少なくともあいつはオレを弄ぶ事に関しては天才的だ」

エレン「そうなんですか………」

意外な一面を知ってびっくりするエレンだった。

エレン「リヴァイ主任、ハンジさんに惚れているんですね」

リヴァイ「まあな。自分でも何でここまで惚れたのか意味分からんが」

エレン「いいじゃないですか。好きなら」

リヴァイ「エレンはミカサの何処が好きなんだ?」

エレン「え? まあ、泣いているところとか、可愛いなあって思いましたけど」

そしてエレンは考える。

エレン「弱い部分を見せてくれるとキュンとします。あと、たまに口が悪くなって、イライラして物に八つ当たりしているところを見ると、ミカサも人間なんだなあ…と思ってしまいますね」

リヴァイ「それは人としての欠点じゃないのか?」

エレン「え? あんまり完璧超人だと嫌ですよ。人間って、欠点があって当然じゃないですか」

リヴァイ「……………」

エレン「普段が完璧超人過ぎるから、欠点が見えた時のギャップがいいです。そこが見えなかったから、今まで手出せなかったのかって気づいたら、一気に意識が変わりました」

リヴァイ「そうか」

エレン「あ、でも口が悪いのはオレの前だけにしておけって言ってます。会社で言うのはちょっとまずいですし」

リヴァイ「…………」

エレン「まあ、口悪いのはリヴァイ主任の件ばっかりなのが傷ですが」

リヴァイ「ああ……ミカサの場合は別に陰口じゃないから対応はしやすいぞ」

エレン「ですか?」

リヴァイ「ただのヒステリーか? ヤキモチを妬いているだけだろ。現に今も、そこにいるぞ」

エレン「あーなんか、みたいですねえ」

別の席で女子と一緒に昼食を取っている。

ユミルとクリスタとサシャと同席して、女子の輪に入る様にしたようだ。

エレン「ヤキモチ妬きが過ぎるのがちょっと困りますけどね」

リヴァイ「俺とエレンが仲良くするのもヤキモチ妬いているようだな」

エレン「はい……」

リヴァイ「可愛い女じゃねえか。それだけ思われている証拠だろ」

エレン「…………リヴァイ主任、やっぱりミカサの事を気に入っています?」

リヴァイ「ん? んー別に嫌いじゃないって程度だが」

エレン「リヴァイ主任って、大柄な女性が割とタイプですよね?」

リヴァイ「あんまり意識した事はないが……そう言われたらハンジも背が高いな」

エレン「そういうのって、無意識でしょうか」

リヴァイ「うーん。傾向はあるかもしれないな」

エレン「オレ自身は自分より小さい人が好きだと以前は思っていたんですけど」

リヴァイ「実際は違った訳だろ? ケースバイケースだ」

エレン「……………多分、リヴァイ主任が女性だったら好みだったかもしれないです」

リヴァイ(ぶほっ!?)

リヴァイは突然の告白にちょっとだけ動揺した。

エレン「オレ、自分の好みがだんだん見えてきました。遅いって言われるかもしれないですけど。強い人がふとした時に見せる素のような物を見た時に、ぐっと惹かれるみたいです」

リヴァイ「俺はエレンの前で素を見せたか?」

エレン「え? ちょっとイラッとしていたじゃないですか。オレのミスのせいで休日出勤させられた時に」

リヴァイ「バレていたのか」

エレン「こっちは滅茶苦茶申し訳なかったですよ! それなのに夕食まで奢って貰って」

リヴァイ「アレはまあ、俺もやり過ぎたと後で反省したせいだ」

エレン「そうですか? でもあの演出のおかげで相手先も怒りを宥められたし、別にいいですよ」

リヴァイ「俺の事を恨んでねえのか?」

エレン「その件に関しては必要な事だったと認識しているので問題ありません」

リヴァイ「ふっ……」

リヴァイはふと可笑しくなって笑ってしまった。

リヴァイ「成程。エレンは少しだけハンジに似ているのか」

エレン「リヴァイ主任もミカサに似ていますよ」

リヴァイ「男同士でもバランスが取れているのはそのせいか」

エレン「リヴァイ主任がミカサを嫌わないのは、自分に似ているからですね?」

リヴァイ「ああ。性格もそうだが、不愛想なところもな。親戚みてえな感覚だ」

自分には血の繋がりのある人間はいないが、もしいたとすれば、あんな感じかもしれないとリヴァイは思った。

エレン「だったら、変に心配する必要はないですよね」

リヴァイ「ん? ミカサは別にそういう相手じゃねえな」

エレン「良かった。もしも好みだったら困るなって思っていました」

リヴァイ「ふん………エレンも十分、ヤキモチ妬きじゃねえか。人の事言えねえぞ」

エレン「え? まあ……はははは」

リヴァイ「そうやって笑って誤魔化すところもハンジと同じパターンだな」

エレン「え? そうですか?」

リヴァイ「やれやれ。俺はどうしてこういう奴らと縁があるのか」

ふと、其の時リヴァイは以前獲得した宿泊券の事を思い出した。

リヴァイ「そう言えば、以前貰った日田の温泉宿泊券、まだ使ってなかったな」

エレン「え?」

リヴァイ「もし良ければ結婚祝いに譲ってやる。2人でゆっくりしてくるといい」

エレン「いいんですか? でも……」

リヴァイ「俺とハンジは10月に一週間ほど休暇を取ってオーストラリアに行ってくる。コアラが見たいそうだ」

エレン「コアラ目当てですか! へー」

リヴァイ「あいつ、動物が好きだからな。中国のパンダと迷ったそうだが」

エレン「凄いですね。いいなあ。海外の新婚旅行ですか」

リヴァイ「エレン達も行けばいいじゃねえか」

エレン「いやーまだまだ貯蓄がないです」

リヴァイ「それもそうか。ふむ」

エレン「日田の温泉旅行を新婚旅行の代わりにさせて貰いますよ。ありがとうございます」

リヴァイ「日本もいいところはいっぱいある。楽しんで来い」

エレン「はい!」

ミカサ(エレンと温泉……! やった!)

会話を盗み聞きしていたミカサは心密かに喜んでいたのだった。











そして10月10日。

エレンとミカサは婚姻届けを正式に提出して夫婦として認められた。

ミカサ「何故、この日にしたの?」

エレン「分かりやすいだろ? 覚えやすいからだ」

エレン「ミカサの誕生日は2月10日だし」

エレン「結婚記念日の4か月後にミカサの誕生日が来るって思えば」

エレン「記念日をスルーする事もねえかなって」

ミカサ「成程。納得した」

エレン「誕生日の方が良かったか?」

ミカサ「いいえ。ちょっと先過ぎて待ちきれなかったので」

エレン「だよな。ミカサはその辺、せっかちだしな」

エレン「丁度いいんじゃねえかな。うん」

ミカサ「結婚式はどうしよう?」

エレン「うーん。オレ、あんまり貯金ねえから、リヴァイ主任の時みてえな豪華な披露宴は出来ねえな」

ミカサ「では、式だけにする?」

エレン「出来ればミカサには着物を着て欲しいなあ」

ミカサ「では、神前式にする?」

エレン「そうだな。そうするか」

そしてエレンとミカサは後日、黒袴と白無垢の衣装を着て、慎ましい神前式を行う事にした。

会社で世話になっている上司は当然出席したが、2人の親類は既に亡くなっていた為、ごく少数の結婚式となった。

ピクシス「ふむ。やはり和装は良いのう」

ハンジ「私も和装の方が良かったかな?」

リヴァイ「今更何言ってんだ」

ハンジ「いやーお嫁さんって感じだね! ミカサ綺麗だなあ」

リヴァイ「もう1回、式やるか? 今度は和装の方で」

ハンジ「え? 結婚式って2回やっていいの?」

エルヴィン「別にやってはいけないって事はないんじゃないかな? 某タレントは何度か式を挙げていたような?」

ハンジ「ううーん。それって有難味が減っちゃいそうで嫌だなあ」

リヴァイ「だったら文句言うな」

ハンジ「文句じゃないよ。妄想しただけだよ」

エルヴィン「まあ、どっちを選んでも間違いじゃないよ」

ピクシス「そのカップルに合った式を挙げるのが一番じゃよ」

11月1日。その日に式を行い、エレンとミカサは皆に祝福されたのだった。







12月。年の瀬に追われて仕事が忙しくなる頃。

仕事をこなしながら、昼休みの営業部の中で3人は話していた。

エルヴィン「エレン君の営業成績が伸びてきたね」

リヴァイ「そうなのか?」

エルヴィン「ペアをジャンからアルミンに変えたおかげもあるかもしれないが、以前に比べたら落ち着きが見えてきた。やはり嫁を貰うと人が変わるようだな」

ピクシス「当然じゃ。まあ、少々早い結婚のような気もするが、エレン君のようなタイプは守るべき女がいた方が力を発揮する」

リヴァイ「女の為に戦える男って事ですか」

ピクシス「嫁がいるから堪えるようになるんじゃよ。堪え性がないのが欠点だったが、克服出来たようじゃ」

エルヴィン「リヴァイの方の嫁は順調なのか?」

リヴァイ「今、大体8か月くらいか。このまま順調にいけば、1月末から2月中旬辺りが出産予定日になる」

ピクシス「今年の忘年会はハンジを連れて来られんのが寂しいの」

リヴァイ「妊婦に酒は飲ませられないですよ」

リヴァイ「忘年会、俺も欠席したらダメですか?」

エルヴィン「寂しい事を言うなよ。リヴァイ主任」

ピクシス「全くじゃ。嫁に入れ込みおって」

リヴァイ「何でそこで2人とも拗ねる」

エルヴィン「幸せを妬んでいるんだよ」

リヴァイ「だったらエルヴィンも結婚すりゃいいだろ」

エルヴィン「うーん。嫁にしたいと思った女はナイル部長に先に取られてしまったので」

リヴァイ「そうだったのか」

エルヴィン「うん。まあ、私も昔はいろいろあったけど。恋愛はすっかりご無沙汰だな」

ピクシス「まだまだ現役だと思うがの。見合いせんのか? エルヴィンは」

エルヴィン「私は休日に家でひたすらゴロゴロするのが趣味みたいな人間ですし、それを許容できる女性なんていますかね?」

ピクシス「外と家のギャップが激しいのう。お主は」

エルヴィン「ですね。家に居る時の私を見たらきっと幻滅されると思います」

しかし其の時、リヴァイはちょっとだけ考えて答えた。

リヴァイ「…………そうとも言えねえかもしれねえぞ」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「俺とハンジがくっついた要因の一つは、家での俺をハンジに見せたからだ」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「素の俺を見てもハンジは引かなかったんだ。むしろ腹の底から笑っていた。職場ではエルヴィンの言う通り、出来るだけ猫を被る様にしているが、俺は元々口が悪いし、粗暴だし、短気で感情的な人間だ。でもそのギャップに惹かれたそうだ」

エルヴィン「へえ……」

リヴァイ「案外いるかもしれんぞ? エルヴィンの表の顔と裏の顔を知っても一緒に居てくれるような女は、何処かに」

リヴァイはそう言うと、エルヴィンは少しだけ悲しそうな表情で答えた。

エルヴィン「もしもそういう人間に出会えたら、私はきっと気が狂ってしまう」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「恋の奴隷に成り下がって、何もかも捨ててその一人だけを愛してしまったら……私は自分を保てなくなるだろうな」

ピクシス「本気の恋が怖いのか」

エルヴィン「ええ。恐ろしいです。そういう意味では私はリヴァイを尊敬しています」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「恋愛だけじゃないよ。君は根底の情がとても厚い。今まで、いろんな悲しい出来事もあっただろう?」

リヴァイ「………そうだな」

そう言われて最初に思い帰すのはイザベルの事だった。

エルヴィン「そういう事から逃げずに受け止めて生きてきたリヴァイは本当に凄いと思うよ」

リヴァイ「俺はそういう風にしか生きられなかっただけだ」

それは別に特別な事ではなかった。

リヴァイ「俺はエルヴィンの方が羨ましいけどな。お前は俺にない物を持っている」

ピクシス「お互いにない物があるから、うまくいくんじゃろ」

そこで最年長のピクシス部長が苦笑した。

ピクシス「そういう意味では、お主らもお互い、バランスが良いの」

エルヴィン「でしょうね。ここまで来られたのもリヴァイの力が大きい」

リヴァイ「俺は大したことをしていない」

エルヴィン「ね? この謙遜ぶりが憎らしいですよ」

ピクシス「そもそも、20代で養父のような事をしていた時点で器が大きい男じゃろ」

リヴァイ「その選択も、今思えば間違っていたのかもしれないですが」

ピクシス「何故そう思う?」

リヴァイ「イザベルの人生を俺は食い潰してしまった。あいつの大事な人生を俺のせいで………」

ピクシス「愛を告白されて拒絶したことを後悔しているのか。今でも」

リヴァイ「……………自分を誤魔化して受け入れていれば、少なくともイザベルが事故に遭う事はなかった」

突然の告白。そして、それを拒否した後に自宅を飛び出してしまったイザベルを追いかけた。

嫌な予感がした。そう思った時はもう遅くて。

イザベルは夜中のトラックに衝突して、致命傷を負った。

リヴァイ「医者には生きているのが奇跡のような事故だとも言われましたが、俺はあの時、本当に後悔した。断るにしても、せめてもっと言い方があった筈だし、あいつを傷つけない方法があったかもしれないのに」

ピクシス「それは無理じゃろ」

リヴァイ「え?」

ピクシス「今なら分かるじゃろ。もしもハンジに拒否されたら、お主はイザベルと同じ気持ちになった筈じゃぞ?」

リヴァイ「………そうですね」

その言葉を理解してリヴァイは俯いてしまった。

リヴァイ「愛は残酷だ。結ばれれば幸せになれるが、それが叶わない時の心の傷は人を殺しかねない」

エルヴィン「私がヘタレになる理由も分かるだろ?」

リヴァイ「ああ。納得したよ」

ピクシス「それでも人は愛を求めずには生きてはいけんのじゃ。それは男と女だけの話ではない」

リヴァイ「恋愛だけではないんですか?」

ピクシス「当然じゃよ。恐らくリヴァイはイザベルに対しては子供を愛するような感覚でいたじゃろ? 当時は」

リヴァイ「そうかもしれません」

ピクシス「誰かと繋がっていたいという感情は家族愛も含まれる。それを満たす為に2人を引き取ったのかもしれん」

リヴァイ「………………」

ピクシス「自分の欲望から目を背けたらいかんぞ。人間なんて大した生き物じゃない。己の欲望を満たす為に生きるんじゃ」

エルヴィン「その点に関しては激しく同意します」

エルヴィンが苦笑いを浮かべて答えた。

エルヴィン「自分勝手な生き物ですよね。本当に。悲しいくらいに」

ピクシス「そのせいで悲劇が起きる時もある。愛は諸刃の刃なのじゃ」

リヴァイ「その刃で俺はイザベルを傷つけてしまったんですが」

ピクシス「そうじゃな。ただわしはもう、お主は十分、その罪を償っていると思うぞ」

リヴァイ「……………」

ピクシス「10年以上、世話を続けているんじゃろ?」

リヴァイ「もう11年目になりますね」

ピクシス「ずっと、世話を続ける気なのか?」

リヴァイ「はい。イザベルが生き続ける限りは」

ピクシス「その役目は、もう一人のイザベルを好いている男にバトンタッチをしてはならんのか?」

リヴァイ「え………」

ピクシス「ファーランとか言ったな? 無事に医者になれたんじゃろ?」

リヴァイ「そうですね」

ピクシス「だったら、金の心配はいらんじゃろ。今後は彼に託した方がいいとわしは思うが」

リヴァイ「でも………」

ピクシス「リヴァイは既に所帯を持った。ハンジを幸せにする方が優先じゃ」

リヴァイ「……………」

ピクシス「一度、そのファーランという彼とも話し合ったらどうじゃ?」

リヴァイ「その方がいいんでしょうか」

エルヴィン「私もその件に関しては、ピクシス部長に同意するよ」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「勿論、出過ぎた意見だとは思っているが。リヴァイ自身の人生もこれからどんどん変わっていく。その時に、彼女の存在がリヴァイの中にずっといる事は、リヴァイ自身にとっても辛い事じゃないか?」

リヴァイ「辛いなんて思った事は一度もねえよ」

ピクシス「そうか?」

リヴァイ「辛いのは俺じゃねえ。イザベルだ。意識は無くとも、あいつは今もきっと苦しんでいる」

ピクシス「そう思えるのが、リヴァイの凄さなのかもしれんな」

リヴァイ「祈るしかないと思っています。奇跡がいつか、訪れる事を」

そう呟いて、そしてその日の昼休みは終わってしまったのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ











12月23日に忘年会が行われて、深夜に帰宅すると、ハンジがまだ起きて待っていた。

リヴァイ「まだ寝ていなかったのか」

ハンジ「あ、おかえりー待っていたよ」

リヴァイ「何で?」

ハンジ「いや、ある意味1周年でしょ?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「私達の愛の歴史は、忘年会を境に始まった訳だからさ。記念って事で」

小さなホールのケーキを用意してハンジは待っていたのだ。

その小さいサプライズに唖然として言葉が出ないリヴァイだった。

クラッと眩暈がして、思わずorzの姿勢になると、ハンジはきょとんとした。

ハンジ「何でそのポーズ? 尻でも叩いて欲しいの?」

リヴァイ「違う……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「お前、本当にそういうところ、記憶力がいいんだな」

ハンジ「まあね! こういうの好きなんだよ」

不意打ちを食らってなんていえばいいのか分からなかった。

ハンジ「食べないの? お腹いっぱい?」

リヴァイ「いや、食べる」

リヴァイはスーツから着替えて部屋着に着替えてちゃんと手洗いを済ませてテーブルの席についた。

ケーキを2人で食べながら、ハンジの方から本題を切り出す。

ハンジ「記念ついでに、誕生日プレゼントも前渡し」

リヴァイ「え?」

ハンジ「去年はサンタの帽子としゃぼん玉石鹸だけだったから、今年はグレードアップしたよ」

渡された箱を見つめる。その箱を恐る恐る開けると……。

リヴァイ「腕時計か」

ハンジ「リヴァイは時間に追われる生活をしているから。腕時計はいくつか持っていた方がいいと思って。スマホだと、確認するのにちょっと手間かかるでしょ」

リヴァイ「ああ。腕時計が一番だ。その……高かったんじゃないのか?」

ハンジ「値段は聞いちゃダメだよ! マナーだよ!」

リヴァイ「ああ……悪い」

早速付け替えてみる。しっくりくる感じに、自然と笑みが零れた。

ハンジ「どう?」

リヴァイ「ありがとう。嬉しい」

ハンジ「良かった」

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「あの時、俺にプロポーズをしてくれてありがとう」

ハンジ「完全に酔っぱらっていましたけどね。むしろ、無茶ぶりしたのは私の方だけど」

リヴァイ「無茶なんかじゃない」

リヴァイは其の時、腕時計を握りしめながら答えた。

リヴァイ「望んでいたのは俺の方だ。もっと早くハンジにそれを伝えれば良かった……」

ハンジ「ん~ま、それは結果論だって」

リヴァイ「それはそうなんだが、でも」

ハンジ「私、リヴァイと結婚して後悔してないよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「この選択をして良かったと思っているんだから、いいじゃない」

リヴァイ「そうか」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「正直に答えてくれ」

ハンジ「何を?」

リヴァイ「お前、俺がイザベルの世話をしている事について、どう思っている?」

ハンジ「それ、前にも答えなかったっけ? 立派な事だと思っているよ」

リヴァイ「本当に?」

ハンジ「何で嘘をつく必要がある?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「何か迷っているような表情だね」

リヴァイ「分かるのか」

ハンジ「うん。その程度の事なら私にも読み取れるけど」

ハンジ「どうも、複雑な感情が絡んでいるように見える」

ハンジ「とりあえず、話してみ?」

ハンジに促されて重い気持ちを少しだけ吐き出す。

リヴァイ「ピクシス部長に、今後はイザベルの世話はファーランに託した方がいいんじゃねえかという感じの事を言われた」

ハンジ「え? でも彼はまだアメリカにいるんじゃないの?」

リヴァイ「いずれこっちに戻ってくるつもりではいるようだが」

ハンジ「だとしたら、それは戻ってきてから話し合えばいいんじゃない?」

リヴァイ「ハンジは俺が他の女を世話している事に嫌悪感はねえのか」

ハンジ「だって、女っていうか、彼女の場合は子供に近い関係だったんでしょう?」

リヴァイ「まあ、家族ごっこみてえなもんだったな」

ハンジ「リヴァイと彼女の関係は私には見えない部分だから何とも言えないけど、その関係を断ち切って欲しいなんてこれっぽっちも思ってないし、そこはリヴァイが気の済むようにしていいんじゃないかな」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「……………………」

ハンジ「凄く苦しそうだね。私の答えが気に入らない?」

リヴァイ「違う」

ハンジ「だったら、何?」

リヴァイ「ずっとこのままかもしれない」

ハンジ「え?」

リヴァイ「イザベルはずっと、目が覚めないかもしれない。俺があの時、拒否したばかりに」

ハンジ「………………」

リヴァイ「今なら分かる。イザベルの気持ちが。あの時の、あいつの気持ちが」

ハンジ「………………」

リヴァイ「なのにあの時の俺は、ただ、あいつを………」

ハンジ「自分を責めているんだ」

リヴァイ「そうだ。もうずっと、自分を責めている」

ハンジ「リヴァイは、ずっと傷ついたまま生きていくの?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「それはきっとしんどいね。私だったら耐えられないよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「成程。ピクシス部長が口を出したのはそのせいか」

ハンジ「うん。だったら正直な気持ちをリヴァイに話すよ」

リヴァイ「ん………?」

ハンジ「本音を言えば、イザベルの件はリヴァイにはもう忘れて欲しいと思っている」

リヴァイ「…………」

ハンジ「だってリヴァイ、辛そうだもの。辛そうにしているリヴァイを見るのはこっちも辛いから」

リヴァイ「そんなに辛い顔をしているのか?」

ハンジ「自覚ないの?」

リヴァイ「辛いと思った事は一度もねえよ」

同じ台詞をもう一度言ったけれど、ハンジは首を振った。

ハンジ「そう言い聞かせているだけに思える。もしくは、そう思う自分を許せないんじゃない?」

リヴァイ「………そうなんだろうか」

ハンジ「うん。私、リヴァイの思いの持続力には感嘆するよ。あなたは本当に一途な男だ」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「一度決めた事は絶対やり通す強さがある。だからこそ仕事も任せられるし、営業最強の座に君臨しているんだろうけど」

リヴァイ「営業の方はエルヴィンの力の方が大きいぞ」

ハンジ「影の支えがあるとしてもだよ。それだけで、その成績は叩きだせないよ。リヴァイ以外には」

リヴァイ「……………」

ハンジ「自分だけ幸せになるのが許せないの?」

リヴァイ「……………罪悪感がないと言えば嘘になるな」

リヴァイはそこで自分の気持ちを吐露した。

リヴァイ「普段は考えないように努めているが。それでも、ふとした時にイザベルの事を思い出す事はある」

ハンジはそこで紅茶のおかわりを注いでやった。それを一口飲みながらリヴァイは続けた。

リヴァイ「あの時のイザベルは様子がおかしかった。いつもはあんなに情緒不安定な女じゃねえのに。あの日に限って、やたら俺の事を尋ねてきた。仕事中の俺の様子や、交友関係や、特に女について聞いてきて………」

ハンジ「うん」

リヴァイ「その日は忘年会で帰りが遅くなったせいもあった。だから妙にいろいろ聞いてきて……口紅がシャツについているところをイザベルに見られて」

ハンジ「口紅?」

リヴァイ「あ、いや……何でもねえ」

リヴァイは口を滑らせてしまった事を悔いた。

ハンジ「………ねえ、まさか」

リヴァイ「…………」

ハンジ「それって、私がやっちゃった? リヴァイに」

リヴァイ「酒の席の事だ。ハンジじゃなくても、別の女もたまにやるだろ」

ハンジ「でもその時は、私がリヴァイに絡んだせいだったんじゃ」

リヴァイ「ハンジは覚えてねえだろ」

ハンジ「酒が入っている上に、11年も前の事ならねえ…」

リヴァイ「ハンジのせいじゃねえよ。それはその……俺のせいだ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「隣の席に座っていたからな。あの頃から、俺は恐らく無意識にハンジを選んでいた」

ハンジ「という事は、その事をイザベルに感づかれてしまったと?」

リヴァイ「そうなのかもしれない。俺の心の奥底に女の影がある事を感じ取って、焦ったせいだろうな。イザベルの方から俺に襲い掛かってきて」

ハンジ「…………」

リヴァイ「俺は軽いパニック状態になった。力は俺の方が上だから、すぐ振り解く事は出来たが。其の時に俺は『俺はお前を抱けない。そういう意味では見られない』とはっきり言ってしまった」

ハンジ「エレンの場合とは違うみたいだね」

リヴァイ「そうだな。俺はロリコンじゃねえ。いや……でもよく考えたら、15歳という微妙な年頃の女を未婚の男の元に住まわせている状態がそもそも間違っていたんだよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「ある程度の年齢になったら俺の方が気をつけるべきだったんだ。でも当時の俺はそこまで気が回らなかった。イザベルを預かったのはあいつが9歳の時だったし、当時の俺の中では2人共、可愛い子供のような感覚だった」

ハンジ「という事は、ざっと計算して17年前か。リヴァイは22歳くらいの若さで子供2人も養っていたのか」

リヴァイ「俺が今の職場に来たのは大体15年前だから、安定した収入を得たいと言った意味が分かるだろ?」

ハンジ「確かに。子供2人もいたら、ちゃんとした仕事に就かないとまずいよね」

リヴァイ「最初はあいつらに合わせて定時で帰る事の出来る仕事をしたかったが、そこはなかなかうまくいかなくてな。妥協して今の職場に落ち着く事にした。それまでは転職もしてみたが、収入の増減があるとやはり子供を養うのは難しい。しんどいと思う時もあったが、それでもあいつらの顔を見ていると心が安らいでいた」

ハンジ「もしかして、リヴァイはそのバランスを壊す事が怖かったのかな」

リヴァイ「そうだな。ずっとこのままでいたい。そう思う自分がいたのは否定出来ない。でも少しずつあいつらは大きくなって、望んでいた関係を続ける事が出来なくなってしまった」

ハンジ「それはリヴァイの責任じゃない気がするんだけど」

リヴァイ「そうだろうか」

ハンジ「うん。なんていうか………誰のせいでもない気がする」

リヴァイ「……………」

ハンジ「だって、リヴァイは間違った事はしていないじゃない。身寄りのない子供を引き取ったようなものでしょう?」

リヴァイ「まあ、そんな感じだ」

ハンジ「うん。その若さで2人も子供を引き取るとか、良く考えたら凄い事だよ。なかなか出来る事じゃない」

リヴァイ「そうだろうか」

ハンジ「それがたとえ自分の為だったとしても、私はリヴァイのやった事自体を否定したくないよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「リヴァイ。あなたのしたいようにしていいから。私はそれに付き合うよ」

リヴァイ「本当にいいんだな?」

ハンジ「うん。大丈夫。不安にならなくていいからね」

リヴァイはそこでようやく気持ちを落ち着けて、頷いた。

リヴァイ「風呂、入ってくる。ハンジはもう入ったか?」

ハンジ「あ、いっけね。忘れていたな。てへっ」

リヴァイ「だったら一緒に入ろう。背中を流してくれ」

ハンジ「お? 珍しいね。自分から頼んでくるとは」

リヴァイ「今夜はそんな気分だ。頼む」

ハンジ「了解♪」

そして2人は、いつもの日常の中に帰って行った。
















そして月日が再び流れて、ハンジが無事に2月の頭頃に出産を迎えて、1人目の子供を持ち、産休に入っていた頃。

アメリカに居たファーランが帰国する事になり、リヴァイは久々にファーランを自宅に向かえて再会を喜ぶことになった。

ファーラン「ただいま……遅くなってすまねえ。リヴァイ」

リヴァイ「老けたな」

ファーラン「医者はそれなりに激務だからな。リヴァイは相変わらず年齢不詳だな」

リヴァイ「俺ももうすぐ四十路に入る。少しは老けたに決まっているだろ」

ハンジ「どうも。初めまして。妻のハンジです」

ファーラン「話だけは聞いていました。こちらこそ、初めまして。ファーランといいます。リヴァイに世話になっていた者です」

リヴァイ「ハンジには丁寧だな」

ファーラン「リヴァイには今更気遣う必要はねえだろ」

軽口を叩きながら、夜、テーブルの席で話し合っていると、

ファーラン「今まですまなかった。後の事は俺に任せてくれ」

リヴァイ「ん?」

ファーラン「イザベルの事だ。ずっとリヴァイに頼りっぱなしだった。今後は俺があいつの面倒をみる」

リヴァイ「………いいのか?」

ファーラン「其の為に戻って来たんだ。あいつを助ける為に」

リヴァイ「何か手がかりはあったのか?」

ファーラン「成功するかは分からねえが、それでも可能性はゼロじゃねえ」

リヴァイ「手はあるのか?」

ファーラン「その為の資金繰りも済ませてきた。それに事故に遭って昏睡状態にあると信じられていたある男性が、実はずっと意識があった例を見つけた。身体が麻痺しているせいで、周りに意識がある事を伝えられないまま生き続けた人間もいる」

リヴァイ「……何だって?」

ファーラン「イザベルがそのケースに当てはまるかは分からねえが、まだ可能性はゼロじゃねえって事だけは分かった。俺はこれから出来る限りの事をイザベルにしてやるし、絶対、諦めない」

リヴァイ「……………」

ファーラン「リヴァイは所帯を持ったんだし、これからは俺に任せてくれ。今までかかった費用は後で必ず返す」

リヴァイ「本当にいいのか?」

ファーラン「今後は子供にも金がかかるだろ。俺もいつまでも子供じゃない。もう一人でもやっていける力はつけた」

リヴァイ「……………」

ファーラン「むしろ今まですまなかった。リヴァイ、後は俺に任せてくれ」

リヴァイ「分かった。頼んだぞ。ファーラン」

そして2人は久々の再会を喜び、酒を飲んでその日の夜は積もる話を咲かせて夜遅くまで語り合った。









そしてまた少しの月日が流れて、今度はミカサの方の懐妊のニュースが社内に広まって皆、騒いでいた。

アルミン「思っていたより早かったね! 今、何か月?」

エレン「ええっと、妊娠したのが12月の始めくらいだから、今は3月1日だから、ええっと……」

ミカサ「大体4か月になる。もうすぐ安定期に入る」

アルミン「どうしてすぐ言ってくれなかったの?」

エレン「ええっと、安定期に入るまでは本当は発表を控えるつもりだったんだが」

ミカサ「多分、大丈夫だと思う。順調に育っている」

アルミン「へー……何か、2人とも落ち着いてきたね」

エレン「そうか?」

アルミン「うん。以前のような喧嘩も少なくなったし、夫婦になってからは凄くいい関係に変わった気がする」

エレン「んーそうかもな。ミカサも以前程は無茶苦茶しなくなったしな」

ミカサ「妊婦になってから特に、自分に出来る事が制限されてしまって、エレンに頼る事が多くなった」

エレン「頼ってくれていいんだよ。無理すんなよ」

アルミン(成程。エレンはずっと、本当はミカサに頼られたかったのか)

アルミン(男としての役割を自覚してからはエレンも落ち着いてきたんだね)

アルミン(良かった。収まるところに収まって。安心したよ)

ユミル「産休、いつ頃から取るんだ?」

ミカサ「出産直前から、1年間は休ませて貰うと思う。育児に専念したい」

クリスタ「赤ちゃん、生まれたら是非見せてね」

ミカサ「それは勿論」

サシャ「男の子ですか? 女の子ですか?」

エレン「それはまだ、内緒だ。産まれてから発表する」

コニー「えー何だよ。まあ、その方が楽しみだけどな」

仲間とわいわい話している最中、複雑そうな表情の男が一人。

ジャン「…………」

マルコ「おめでとうって、言ってあげないと」

ジャン「あ、ああ……そうだな」

マルコ「もう人妻だよ? いつまでも引きずっていたらダメだって」

ジャン「…………」

マルコ「……………ジャンも早いところ、彼女を見つけないとね」

ジャン「…………そうだな」

そう呟いて、ミカサから視線を逸らすジャンだった。





そして3月末。組織の形態の試験的年は終わり、次の年は本格的な始動の年になり、各役職の移動がされる事になった。

役職同士の内輪話にリヴァイは耳を傾けて少々驚く事になる。

リヴァイ「え? ダリス本部長が社長に出世したのか」

エルヴィン「うん。本部長にはピクシス部長が格上げされて、人事部の方に私が移動になる予定だ」

リヴァイ「つまり、営業部を離れる事になるのか。エルヴィンは」

エルヴィン「そうなるね」

エルヴィン「そこでリヴァイ、営業部の部長を君に引き継いで欲しい」

リヴァイ「待ってくれ。そこはキース主任が上がるんじゃねえのか? キャリア的にも」

エルヴィン「いや、私はリヴァイを推したいと思っている。君はもう、その力を持っているよ」

リヴァイ「俺はエルヴィンの台本があったから、成績が良かっただけで……」

エルヴィン「もう私の台本は必要ないよ」

リヴァイ「………」

エルヴィン「経験という台本があるじゃないか。リヴァイ、君はもう十分、戦える」

リヴァイ「ハンジの方が適任じゃねえのか?」

エルヴィン「産休中の彼女に無理はさせられないよ」

エルヴィン「それに、彼女にはいずれ開発部の方に移動して貰いたいと思っている」

リヴァイ「産休明けは来年の1月以降になる予定だが」

エルヴィン「うん。だから予定としては、来年の4月以降、彼女には開発部へ移動して貰いたい」

エルヴィン「3か月程度だけど、一緒に営業部を切り盛りして貰えないかな」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「俺が営業部の部長になるなら、営業主任はオルオに引き継いでいいのか?」

エルヴィン「まあ、順番で言えばそうなるよね」

リヴァイ「副主任は…………エルドか、ペトラか」

成績はほぼ互角だ。エルドの方が若干上ではあるが。

オルオと組ませた場合を考えた場合は……。

リヴァイ「まあ、相性を考えたらペトラの方が上か」

エルヴィン「だったら彼女を副主任に上げよう」

リヴァイ「俺に出来るんだろうか」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「俺はそもそも、組織の上に立つような種類の人間じゃねえと思っている」

エルヴィン「んー」

リヴァイ「そういう意味じゃ、ハンジの方が余程、人を使うのが巧いし……」

エルヴィン「あ、そうだ。リヴァイ」

リヴァイ「なんだ」

エルヴィン「猫被り命令、解除するよ」

リヴァイ「は?」

エルヴィン「だから、リヴァイが営業部長を引き継いでくれるなら、好きにしていいから」

リヴァイ「何をいきなり言い出す」

エルヴィン「つまり、営業部のカラーをリヴァイの好きにしていいと言っている」

リヴァイ「今更何を……」

エルヴィン「そもそも、リヴァイに猫被り命令をした理由は、君が思っているような理由じゃない」

リヴァイ「? 仕事に差し障るから猫を被れって言った訳じゃねえのか?」

エルヴィン「差し障るの意味が違う。まあ、解除してみれば分かるとは思うけど」

リヴァイ「言っている意味がさっぱり分からん」

エルヴィン「そこは自分で気づいて欲しい。だからリヴァイ、君の好きなように営業部を変えていいよ」

リヴァイ「…………本当にいいのか?」

エルヴィン「ピクシス部長の時も、私の時も、自分の色に染めて仕事をしてきた訳だから、リヴァイも習っていいんだよ」

リヴァイ「………………」

エルヴィン「営業部長になれば、営業事務の仕事も同時に采配する事になるから、実質、外回りより中の仕事が増えるよ」

リヴァイ「あ、成程」

エルヴィン「忙しくはなるとは思うけど。そこは私がちゃんと引き継いであげるから」

リヴァイ「うーん」

リヴァイは悩んでしまう。本当にいいのかと。

リヴァイ「俺は別に出世を望んじゃいないんだが」

エルヴィン「ああ……子育てを優先したいんだ?」

リヴァイ「まあな。ハンジの負担を減らしてやりたい。だから仕事が終わったら真っ先に帰っているから、残業したくねえ」

エルヴィン「リヴァイは営業主任のままでいいの?」

リヴァイ「それが許されるならそうしたいが、やっぱりキース主任が上にあがる方がいいんじゃねえか?」

エルヴィン「うーん」

リヴァイ「営業事務の方は、ミカサが主任を引き継げばいいんじゃねえか? あいつ、仕事が滅茶苦茶早いだろ」

エルヴィン「あれ? まだ知らなかった? ミカサ君は現在、妊娠しているよ」

リヴァイ「?! もう子供作ったのか。早いな。あいつら」

エルヴィン「君が日田の温泉旅行券、譲ったんじゃないか。嬉しそうに言っていたよ。旅行先で仕込んできたと」

リヴァイ「エレンの奴……」

エルヴィン「いや、自慢していたのはミカサ君の方だが」

リヴァイ「なお悪いな」

エルヴィン「そういう訳だから、現在、営業事務の方の主任を引き受けられそうな人材が……」

リヴァイ「待て。それだったら俺がそっちに移動したい」

エルヴィン「え?」

リヴァイ「キース主任が営業部長に上がるなら、俺が営業事務の主任に移動していい。いや、させてくれ」

エルヴィン「事務職好きだねえ」

リヴァイ「元々はそっちの仕事がやりたかったんだよ。俺は」

エルヴィン「うーん。一応、キース主任にも聞いてみるか」

そしてその日、キース主任も交えて空いた時間に話し合う事になった。

キース「それだったらわしもリヴァイが上にいく方がいいと思うぞ」

リヴァイ「何故……」

キース「君はわしにはない物がある」

リヴァイ「何ですか」

キース「人望だよ。わしはそう人に好かれる気質ではないし、営業職をしていた時も成績は普通だった。君自身は上に立つのは苦手としているようだが、わしは部下に慕われやすい君の方が営業部をまとめられると思うぞ」

リヴァイ「俺自身は部下に慕われているなんて思っちゃいないですが」

キース「そうか? 結婚披露宴では部下の方から出席したいと言う打診をされたと聞いたが」

リヴァイ「一部の奴らだけですよ」

キース「そうだとしても、部下の方から寄ってくるのは珍しい事だぞ」

エルヴィン「そうだよね。普通はその辺は線引きされちゃうもんだよ」

リヴァイ「……………」

リヴァイ「ハンジとも、話し合ってみてもいいか?」

エルヴィン「勿論いいよ。ハンジの意見も聞いてみたい」

そしてその日の夜、リヴァイはハンジに移動の件を早速、話してみた。

ハンジ「おおお! 私、いずれは、開発部の方に移動出来るかもしれないんだ!」

リヴァイ「エルヴィンが人事部に異動になれば希望を通すのは出来ると思うぞ」

ハンジ「リヴァイは上にあがるのは気が進まないの?」

リヴァイ「子供を優先したいんだよな。俺自身は」

部屋に寝かしつけた息子の寝顔を優しく見つめながらリヴァイは言った。

リヴァイ「今はまだ産まれたばかりだから、そこまでしんどくねえだろうが、これが掴まり立ちして歩くようになると戦場になるとハンジのお母さんも言っていただろうが」

ハンジ「まだ先の事だよ」

リヴァイ「そうだとしても、だ。俺は仕事人間って訳じゃねえし、役職に執着があるわけでもねえ」

ハンジ「出世したくない人間に限って上にあがっていっちゃう法則でもあるのかな」

リヴァイ「そうなのかもしれねえな」

ハンジ「でも子育ては私とリヴァイだけでやる訳じゃないし、お母さんも助けてくれるって言っていたから、あんまり心配しなくていいんじゃないかな」

リヴァイ「申し訳ないだろ。それは……」

ハンジ「なんかむしろ、うちの両親、孫の面倒をみたくて堪らないって顔しているけど」

リヴァイ「……………」

ハンジ「私がやっと子供を持ったから余計にそう思っているみたい。待望の男の子だし」

リヴァイ「まあ、1人目で男の子を持ったのはご両親にとっては嬉しかっただろうな」

ハンジ「リヴァイは娘の方が欲しかったんだよね」

リヴァイ「希望を言えばの話だが、まあ、どっちでも構わん」

ハンジ「もう一人くらいならいずれいけると思うけど」

リヴァイ「…………煽るなよ」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「こっちはいつでも準備して待っている。いけるなら4人くらい欲しい」

ハンジ「おおおお……プレッシャーかけてきますね」

リヴァイ「年齢的に厳しいだろうから、2人でも十分だが」

ハンジ「双子ちゃんが産まれたら一気にいけると思うけど」

リヴァイ「そこは神のみぞ知る世界だろ」

ハンジ「まあね」

リヴァイ「話が脱線したが、つまりハンジのご両親にある程度甘えてもいいんだろうか?」

ハンジ「うん。大丈夫じゃない?」

リヴァイ「その件についてはちょっと直接話をしにいかないといけねえな」

ハンジ「電話でよくない?」

リヴァイ「失礼だろ。明日、仕事が終わってからでいいから夜、時間を作って貰って話にいくぞ」

そして翌日の夜、リヴァイは会社の事情をハンジの両親に話す事になった。

父親「おお。出世するのか。それはめでたい事だな」

リヴァイ「まだ、返事をしていない状態ですが……」

父親「何故躊躇う?」

リヴァイ「収入の面から考えたらもう十分過ぎる程、得ています。俺としてはそれより、子供にかける時間を削減される方が痛いと思うので」

母親「大丈夫よ。孫の面倒なら私達が見てあげるわ」

父親「わしらは厚生年金で気ままな暮らしをしているからな」

リヴァイ「……………でしたら、同居をして貰えませんか」

ハンジ「え?! 同居?!」

リヴァイ「その方が良くねえか?」

父親「まさかリヴァイ君の方から打診してくるとは」

母親「私達もそっちの方がいいわ」

ハンジ「ええええ……同居はちょっと………」

リヴァイ「何で娘のお前が嫌がるんだよ」

ハンジ「ううう………いろいろ煩い事になりそうだな」

母親「何言っているのよ。面倒見てあげるって言っているのに」

ハンジ「そうだけどさあ」

リヴァイ「同居が難しいなら俺達の方がご両親の家の近くに引っ越す手でもいい。今のままでは距離があるし、子供を預かって貰うならその方がいいだろ」

父親「まあ、その方がかえっていいかもしれんな」

母親「全くもう」

リヴァイ「では、近いうちにご両親の家の近くの部屋を借りるようにします」

ハンジ「まあ、その方がいいかな」

そんなこんなで、計画が進んでいく。








4月。リヴァイはエルヴィンの推薦もあり、営業部長へ昇格した。

リヴァイは猫被りを解禁されたので、本当に自分のやりたいように仕事をする事にした。

リヴァイ「あーまずは、今日は営業部の部屋の中を全面改装する」

オルオ「え? 改装?」

リヴァイ「部屋の中には後日、サンドバックとルームランナーと、ウエイトトレーニング用の機材を投資する。全部俺の自腹で投資するから、皆、暇な時間が出来たら存分に使え」

営業社員一同「「「?!」」」

リヴァイ「営業は体力勝負だ。営業事務の奴らも体が鈍るといけないから、気分転換に使っていい。ただし使用した後はきちんと片づけて汗を拭っておけよ」

リヴァイ「あと、机やソファや本棚の位置も全部変更する。図面を作ってきたから、この通りに改造していくぞ」

リヴァイは動線を考えた場合、尤も効率の良いと思われる物の配置を考えて部屋の中を変える事にした。

エルヴィンの時代は余り細かい部屋の配置には拘らない方針だったが、リヴァイはまずそれを変える。

特に一番、人の通りの大きい部分は道を広めに設定し、要らない部分は全部排除した。

新年度最初の仕事が模様替えになるとは思わなかった営業部一同だったが、いざ変更してみるといい感じになったと思った。

キース「ふむ。成程。確かにこっちの形の方がいいかもしれんな」

リヴァイ「すみません。自分のやり方でしていいという話だったので」

キース「遠慮する必要はない。今後はリヴァイ部長が指揮を取るんだ。どんどん変えていきたい部分は変更して行っていいぞ」

リヴァイ「もしやりにくい点が出てきたら後で言って下さい」

キース「大丈夫だろ。よく考えられた配置だと思うぞ」

そして新メンバーを加えた営業部のメンバーの前でリヴァイは挨拶した。

リヴァイ「エルヴィン営業部長から引き継いだリヴァイだ。今後は俺が営業部長になる訳だが……エルヴィンの時代とはやり方を変えるつもりでいる。心して聞け」

営業部の社員は緊張して聞いた。

リヴァイ「まずは、外回りから帰ってきたら絶対、うがいと手洗いは徹底しろ」

ジャン(まるで小学生みてえだな)

リヴァイ「おい、そこのお前。今、小学生みてえだなって思ったな?」

ジャン(何故バレた)

リヴァイ「まあ、皆同じ事を思っているだろうな。今、説明する」

リヴァイ「バレている奴にはバレているだろうが、俺は極度の潔癖症の人間だ」

ペトラ(知っています)

オルオ(承知しています)

リヴァイ「だから俺は、部屋の中が汚い事は勿論、風邪ひいている奴がくしゃみや咳をあたりにまき散らすのも好きじゃねえ」

リヴァイ「体調が悪い場合は無理に出勤するな。営業部の人間に風邪を蔓延させる方が迷惑だからだ」

リヴァイ「どうしても出勤したい場合はマスクして来い。その場合は外の仕事は絶対させない。出来る仕事を回して調整する」

リヴァイ「ただあんまり休まれるとこっちも困る。だから普段から体は鍛えて自己管理をして欲しい」

リヴァイ「昼休みの時間は寝るか昼飯を食うか、くっちゃべるか、外で遊ぶか室内トレーニングなどをしてくれ」

リヴァイ「休むべき時間は仕事をするな。こっそり仕事していたら、後で便所掃除をやらせるからな」

リヴァイ「あと、部屋の中の換気は徹底しろ。1時間に1回は最低5分間、窓を開けろ。これは冬も夏も徹底させる」

エレン「換気口、あるのにですか?」

リヴァイ「ああ。換気口じゃ追いつかない。夏は暑いし冬は寒いだろうが、空気が澱むのは好きじゃねえんだ」

エレン(へー)

リヴァイ「外回りから帰って来て、部屋に入る前には上着を一度脱いで、花粉や埃をはたいてから戻れ。花粉症の奴も中にはいるからそこは気を遣って欲しい」

ジャン(こまけえな……)

リヴァイ「今、こまけえなって思ったな?」

ジャン(だから何でバレた?!)

リヴァイ「ふん。花粉症の恐ろしさを知らんからそう思うんだよ。アレルギー持ち、どのくらいいる?」

チラホラと挙手が上がった。

リヴァイ「ほらな? 現代社会にはアレルギー持ちの奴も多い。俺は幸いアレルギーを持っていないが、お前ら毎年大変だよな」

新入社員「その通りです」

リヴァイ「そういう奴らもいるって事は頭に入れておけ。自分だけで仕事している訳じゃねえからな」

エレン「でも換気をしたら、花粉も中に入ってくるのでは?」

リヴァイ「その可能性はあるが。そこは100%防げない。ただアレルギーは掃除や換気を徹底する事である程度、抑える事が出来るらしいと聞いた事がある。それに上着をはたいたからといって、花粉が全て取り除ける訳じゃねえ。あくまで予防策だ」

エレン「成程」

リヴァイ「エルヴィンは余りその辺の生活についての指示は細かい事を言わない性格だったから最初は戸惑うかもしれん。だが俺はそういう細かい部分が気になる性質なんでな。俺のやり方に合わせてくれ」

営業社員一同は大体頷いていた。

リヴァイ「そしてこれは全員に支給する。一人1セットずつ携帯する事を義務付ける」

リヴァイは用意していたそれを営業部全員に配った。

エレン「ソーイングセット?」

ミカサ「私は既に持ち歩いていますが」

リヴァイ「そうか。持っている奴は返してくれ」

営業部の中でソーイングセットを持っていたのはミカサだけだった。

リヴァイ「今から説明する。この道具の必要性について」

そしてリヴァイは道具を支給した理由を説明し始めた。

リヴァイ「ボタンの解れや衣服の解れを絶対、外部の奴らに見せるな。そこを見られただけで相手に不快感を与える場合がある。そういう細かい積み重ねが会社のイメージを悪くする場合がある」

リヴァイ「事務の方は余り外部の人間と接触する機会はないが、それでも取引先の方がうちに来て下さる場合もある。其の時に、もしそういう場面に遭ってしまった場合、すぐ自分で直せるようになって欲しい」

リヴァイ「100円均一で買ってきた物だから安物ですまん。まあ、持ち歩く分には小さい方が便利だからこれで我慢してくれ」

リヴァイ「ミカサのように、自分用を自分で持っている奴はそっちを使って構わない」

リヴァイ「自分で揃えたい奴は、後で俺に返却してくれ。こちらも予備で持っておく」

リヴァイ「あと、ここからは営業課の奴らに徹底させる事項だが」

リヴァイ「ハンカチとティッシュは必ず携帯しろ。使い捨てのナフキンも営業部でまとめ買いしたから、外で飯を食う時はそれを使用するように心掛けて欲しい」

エレン「ナフキン? ああ! マックとかモス等のファーストフードで貰えるアレですか」

リヴァイ「そうだ。そういう店で昼を取る場合はいいが、そうじゃない場合もあるだろ。飯を食う前には必ず、手を拭くか洗え。それを徹底するだけでも体調管理はしやすくなる筈だ」

ジャン(まるで母ちゃんみてえだな)

リヴァイ「今、過保護だと思った奴、手挙げろ」

ジャン(うぐ……だから何でバレる?!)

ジャンは手を挙げなかったが、新入社員は何名か馬鹿正直に手を挙げた。

リヴァイ「ふむ。まあ、そうだろうな。自分でもアレだとは思っている」

リヴァイはそう前置きした上で続けた。

リヴァイ「ただ、それが俺の性格だからな。今後も気が付いたら細かい部分にどんどん口を出していくから、面倒臭いと思いつつも聞いてくれ」

アルミン(面倒臭いって思っていいんだ)

キース「リヴァイ部長、ひとついいか?」

リヴァイ「なんだ?」

キース「機材を自腹で投資すると言っていたが、そこは会社側に負担して貰えるんじゃないか?」

リヴァイ「いや、無理だろ。完全な趣味だからな」

アルミン(趣味なんだ……)

キース「予算を通せるなら会社に負担して貰った方がいいだろう」

リヴァイ「怒られないか?」

キース「昔、ピクシス部長の時に仮眠用のベッドを入れたんだから、大丈夫じゃないか?」

リヴァイ「ん? 仮眠用のベッドは必要だろ?」

キース「目的は仮眠じゃなかったからな。女とイチャコラする為に入れたようなもんだ」

と、裏話が飛び出すと、一同はぶはっと吹いてしまった。

エレン(ダメだろ。それ)

アルミン(そこに痺れる憧れるけど)

リヴァイ「そうだったのか」

キース「名目は社員の体力作りの為とすればいけると思う。少なくとも、全額負担はしなくてもいいと思うぞ」

リヴァイ「分かった。その辺はキース主任の裁量に任せよう」

キース「他にも、ソーイングセットやナフキンの方も予算を通せたら通してやる。何でもかんでも自腹で揃えなくてもいいぞ」

リヴァイ「仕事増やすのが面倒だったんだが」

キース「そうだとしても、そこはリヴァイ部長の負担を負うべき部分じゃない。会社の事は会社の範囲でやらないとずるずると境界線が曖昧になるぞ」

リヴァイ「分かった。今後は気を付けよう」

キース「その辺の事は、エルヴィン部長は絶対、自分の金は出したがらない性格だったからな。あやつが営業部長の時は事務の仕事がピクシス部長の時の倍以上になったぞ」

リヴァイ「何だって? そうだったのか」

キース「ああ。おかげでこっちはいろいろ苦労したが。リヴァイの場合は自分でやれる時は自分でやっちまう方が早いと思うタイプだろ。確かにそういう時もあるが、そこは余り遠慮しなくていい。こっちもその辺は覚悟をしているからな」

リヴァイ「助かる。ありがとう」

ほんの少し笑顔を見せると、一同はざわめいた。

リヴァイ「ん? どうした?」

アルミン「いや、今、微笑んで見せたからびっくりして……」

リヴァイ「そうだったか?」

エレン「え? アルミン、リヴァイ部長の笑ったところ見た事なかったのか?」

アルミン「ないよ! 初めて見たよ」

エレン「オレは何度もあるけどな」

アルミン「そうなんだ! 超レアだと思ったけど、リヴァイ部長も笑うんだ」

リヴァイ「おい、アルミン。そりゃどういう意味だ」

アルミン「あ、いえ……すみません! 失礼しました! (ぺこり)」

オルオ(まあ、たまにしか笑わないしな)

ペトラ(よーく見ないと分かんないレベルだったけど、今の笑顔は自然だったな)

エルド(もしかして、以前より社員との壁が無くなったのかな)

グンタ(だとしたら、嬉しいけどな)

リヴァイは頭を掻いてちょっとだけ困っている。

リヴァイ「ふむ………」

キース「リヴァイ部長は普段表情が硬いが、一回ツボに嵌るとずっと笑ってしまう癖もあるぞ」

リヴァイ「! おい、あんまり内輪話をするな。キース主任」

キース「あと、たまに口が悪くなって、某社長の事を豚野郎呼ばわりしたり……」

ミカサ「クソちびは口が悪いのね。本性はやはり、そっち側の人間」

エレン(お前もなー)

リヴァイ「キース主任、その辺にしてくれ」

リヴァイが思わず止めると、

キース「すまん。まあ、そういう訳だから、以前のように固くならなくてもいいぞ。皆、リヴァイに構いたければ構い倒せ。こいつは根が真面目で面倒見がいい。怖いのは顔だけだ」

リヴァイ「あんたにだけは言われたくねえな」

と、お互いに旧知の仲だからか、軽い口を叩き合うと、

アルミン「でしたら、リヴァイ部長の昇格祝いをしましょうか」

リヴァイ「え?」

アルミン「営業部だけで、やりましょうよ」

オルオ「それはいい考えだな。皆でやるか」

ペトラ「そうね! それはいい考えだわ!」

リヴァイ「待ってくれ。そんな時間は……」

エレン「時間は作る物ですよ! 勿論、全員参加は難しいですが、やれるメンバーだけで是非」

グンタ「今度こそ、参加したい」

サシャ「飲み食いさせて下さい……」

ニファ「まあ、その辺はシフト次第だけど」

ナナバ「だな。まあ、今回は私、残ってもいいけど」

ゲルガー「そうだな。同期に近い奴らは留守番でもいいか」

リーネ「部下との交流の方が大事でしょうしね」

リヴァイ「ええっと………」

突然の申し出に内心、オロオロするリヴァイだった。

リヴァイ「いや、その……なんだ。エルヴィンの時はそういうの、なかっただろ?」

キース「それはあいつが休日を休む方だからだろ」

ナナバ「プライベートはあんまり誘っても来ないでしょ」

ゲルガー「ですね。エルヴィン部長、会社の義理は果たすけど、プライベートは謎過ぎる」

リヴァイ(あいつ、家でゴロゴロするの好き過ぎるもんな)

リヴァイ「でも、エルヴィンの時はしていなかった事を俺がするのも」

キース「ピクシス部長の時は月1でやっておっただろ」

リヴァイ「ピクシス部長はやり過ぎだった。後で苦情が出て大変だっただろ」

キース「まあ、そうだが」

リヴァイ「そういうのは、いい。なんか恥ずかしいからな」

ペトラ(やばい。はげ萌える)

ニファ(こういうところ、可愛いですよね)

アルミン「だったら、会社の忘年会をリヴァイ部長の誕生日に合わせるとか。クリスマスが誕生日と聞きましたが」

リヴァイ「!」

キース「ああ、今年はそうするか。それでいこう」

リヴァイ「待て。勝手に先の事を決めるな。アルミン、お前、さくさく計略を立てるな」

エレン「いいじゃないですか。別に。何が問題ですか? リヴァイ部長」

リヴァイ「いや、問題というか……」

キース「それが嫌なら昇格祝いをするべきだな。部下の申し出なんだ。別にいいだろ」

リヴァイ「………はあ。お前ら、ゴマ擦っても何も出してやんねえぞ」

そう言いながら、リヴァイは天井を仰ぐのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ





4月末。GWに入る手前の休みを利用してリヴァイの昇格祝いを営業部の人間で集まって行う事になり、皆でカラオケをする事になった。

会社の飲み会と違って、有志が集まってのプライベートな会だったのもあり、皆、私服で遊びに来た。

リヴァイの私服姿を見たメンバーは一同、「おおお」と驚いていた。

アルミン「やっぱり年齢不詳ですよね。リヴァイ部長は」

リヴァイ「ああ?」

アルミン「もうすぐ四十路になるとは思えないですよ」

リヴァイは仕事着と違ってラフで地味な格好だった。

フード付きの緑色の上着を着ている。ズボンは白だ。

リヴァイ「俺は歌わねえからな」

エレン「えー何でですか」

リヴァイ「若い奴らが歌えばいいだろ」

アルミン「そう、言わず」

リヴァイ「全員揃ったのか?」

オルオ「後で合流する奴もいますけど。大体揃いましたかね」

リヴァイ「だったら移動を開始するぞ」

そんなこんなで、カラオケ店にて盛り上がる一同だった。

リヴァイ(やれやれ。遊びたかっただけか。こいつらは)

そういえばピクシス部長が営業部長の時代は頻繁にこういう会も行っていた。

その回数が多過ぎて後で苦情が出て、渋々年に2回程度になったけれど。

リヴァイ(まさか、部下の方からやろうと言い出すとはな)

結婚式の時もそう思ったが、自分は案外、若い奴らから慕われているようだ。

何が良くて近づいてくるのかは知らんが。

リヴァイ(まあいい。今日は聞き役でゆっくり眺めよう)

とりあえず適当に聞き流しながら紅茶を飲んでいると、そこに……。

ハンジ「やっほー」

リヴァイ「?!」

いきなり自分の嫁が部屋に乱入して来て紅茶を拭き零しかけたリヴァイだった。

オルオ「あ、お久しぶりです! ハンジさん!」

ピクシス「わしも来たぞ」

リヴァイ(ぶほっ)

思わぬ珍客達にリヴァイはびくんと動揺した。

リヴァイ「おい、ハンジ。子供は………」

ハンジ「お母さんにちょっとだけ見て貰ってる。顔だけ出しに来ただけだよ」

ピクシス「わしも混ぜろ。若い者と交流したいんじゃ」

リヴァイ「かえって気遣わせるからやめて下さいよ」

オルオ「いや、いいですよ。どうぞどうぞ」

何故かピクシス本部長も加わってカラオケの会が始まってしまった。

意外と今どきの歌も歌えるピクシスにリヴァイは目を丸くする。

ハンジ「皆、ありがとう! リヴァイの為に集まってくれたんだってね?」

エレン「はい! お祝いしようって話が出て、カラオケで遊ぶことになりました」

ミカサは「あなただけ見つめている」を歌いながらエレンをガン見していたが、エレンは気づかずハンジに話しかけた。

エレン「ハンジさんも歌っていきます?」

ハンジ「いやいや? 私は長居出来ないから、ちょっとだけだよ」

そしてハンジはリヴァイの隣に座って悪い顔をして言った。

ハンジ「ねえねえリヴァイ、アレ歌ってよ」

リヴァイ「なんだよ」

ハンジ「銃爪(ひきがね)だよ。アレ、格好良かったよ?」

リヴァイ(ぶほっ!)

リヴァイが赤面して咳き込むとピクシスも反応した。

ピクシス「ほほう? リヴァイの歌っているところは久々に見るが」

エレン「歌えるんですか? リヴァイ部長」

ハンジ「歌は巧いよ。普段はあんまり歌ってくれないけど」

アルミン「はい、どうぞ(*マイク手渡し)」

リヴァイ「え? あ……待て! 本当に入れやがったのか?!」

グンタ「是非ともお願いします」

エルド「お願いします」

リヴァイは天井を仰いで、それでも仕方がなく、その歌を照れながら歌った。

すると………。

リヴァイ『今夜こそ~おまえを~おとしてみせ~る!』

のフレーズで女性社員がギャーギャー言い出して大変な事になった。

ペトラ「は、破壊力がヤバい……」

リヴァイ「ええ?」

ニファ「腰抜けた……」

ハンジ「あひゃひゃ! やっぱり! やっぱりエロボイスだよねえ。リヴァイは」

ペトラ「それは同感します」

ニファ「他にもリクエストしていいですか?」

リヴァイ「あー知っている曲ならいいが」

歌わないつもりだったが、そういう訳にもいかない空気にリヴァイが妥協すると、

ニファ「だったらラブファントムお願いします!」

思わぬ難曲を言われて汗を掻くリヴァイだった。

リヴァイ「無茶振りだろ。キー高すぎねえか?」

ペトラ「下げてもいいですので!!」

リヴァイ「しょうがねえ奴らだな……」

そしてラブファントムを歌わされて、一同はキャッキャと盛り上がる。

そんな彼らの様子に調子が狂うような気分でリヴァイが頭を掻くと、今度は…。

エレン「次は『ウルトラソウル』を入れておきましたんで!」

リヴァイ『おい! エレン、おま……それ歌えっていうのか?!』

どんどん調子に乗ってリヴァイに歌わせていく空気にリヴァイ自身、困り果てていたが。

ハンジはゲラゲラ笑っていた。ピクシスはしれっと酒を頼んで飲んでいる。

アルミン「次は『フォーエバーラブ』入れておきました」

オルオ「俺は『ZERO』を入れておきました」

リヴァイ『お前ら、難しい曲ばっかり歌わせやがって……!』

顔を赤らめていろいろ歌わされているのに。

何故か断れず、項垂れてしまうリヴァイだった。

そして途中参加でミケとモブリットが合流してきた。仕事を終えて合流したのだ。

ミケ「盛り上がっているようだな。おお……ハンジ、久しぶり」

ハンジ「ミケー! 会いたかったぞ!」

モブリット「ご無沙汰しています。ハンジさん」

ハンジ「モブリットも! ごめんね! 全然顔出さなくて!」

モブリット「いえいえ。いいんですか? 今日はお時間は」

ハンジ「1時間だけね。皆の顔を見たくて、お母さんに我儘言ってきた」

モブリット「そうなんですか」

ハンジ「うん。私も育児ばっかりやっているのは気が滅入るから。少しだけ息抜き」

ハンジ「皆の顔を見られて安心した。新しい子も入ったし、元気そうで何よりだよ」

ミケ「俺もハンジの元気そうな顔を見られて良かった」

モブリット「ですね」

ハンジとの付き合いの長い2人は端の席で盛り上がっていた。

ミケ「リヴァイ、ハンジにラブソングを歌わなくていいのか?」

リヴァイ『ぶふっ?!』

ハンジ「あ、それならさっき歌って貰ったからいいよ」

ミケ「ん? 俺達が来る前に歌わせたのか」

ハンジ「そうそう。銃爪っていう曲にはね、ちょっとしたエピソードがあって」

リヴァイ『ハンジ、それ以上言ったら俺はもう先に帰るぞ!!!!!』

真っ赤になって抵抗するリヴァイにハンジは「いっけね!」という顔になった。

ハンジ「ごめんごめん! これ以上は黙秘します」

ピクシス「なんじゃ? つまらんのう。ハンジ、後で詳しく」

ハンジ「えーっと、リヴァイに怒られるので言いません」

とか何とか言いながらリヴァイ弄りで皆、盛り上がっていく。

ラブソングコールが来てリヴァイが遂にキレた。

リヴァイ『連続で歌うのはきつい! エレン、次はお前が歌え!』

エレン「え? ちょ……次の曲なんですか?!」

リヴァイ『さあ? 誰がいれた?』

エルド「BAD COMMUNICATIONを入れておいたんですけど。エレン歌えるか?」

エレン「あーうろ覚えかもですが、いきます!」

ミケ「この曲はエルヴィンが好きだった気がするが」

ハンジ「そうなの?」

ミケ「ああ。E.Styleの方が特に好きだった筈だ」

ハンジ「意外! エルヴィンも呼べばよかったのに」

ピクシス「あやつは休みの日はなかなか外に出ないからのう」

エレン『あれ? これ、全部英語の奴ですか?! そっちは分からないです!』

ミカサ「エレン、貸して。私が適当に歌う」

エルド「あ、すまん。個人的にそっちが好きだから入れてみた」

ペトラ「エルドが歌えばいいのに」

エルド「いや、ここはリヴァイ部長の英語の色気を堪能させるべきかと」

リヴァイ「お前ら……」

リヴァイがついつい半眼になって呆れる。

そこに遅れて今度はサシャとコニーとユミルとクリスタが合流した。

コニー「やっと抱えていた仕事が終わりました! 飯食わせて下さい!」

リヴァイ「ああ、好きに頼んでいいぞ」

サシャ「やったー! 食いまくりますよ! (じゅるり)」

新入男性社員「あ、ピザとたこ焼きは先に頼んでいましたので残り食べていいですよ」

サシャ「あざーっす!!!」

コニーとサシャは歌うのより先に腹ごしらえを優先していた。

ユミルとクリスタは隣同士で座り、早速歌う曲を選んでいる。

クリスタ「何歌おうかな~」

ユミル「ワールズエンドいこうぜ」

クリスタ「ボカロいいの?」

ユミル「別にいいですよね?」

リヴァイ「ボカロ?」

ハンジ「そういうジャンルの曲があるんだよ。いいよ。どんどん歌っていこう!」

そしてユミルとクリスタのハモりが巧すぎて皆唖然とした。

エレン「すげえ! 早口完璧だったな!」

ユミル「普段から歌って練習しているからな」

クリスタ「2人でハモるの得意だよ」

エレン「へーすげえなあ」

ミカサ「エレン、私達もハモりの練習をしよう(キリッ)」

エレン「ええ? ハモれる歌、あったかなあ?」

アルミン「ライオン歌ったら?」

エレン「リヴァイ部長、分かんねえだろ」

リヴァイ「ああ、別にその辺は気遣わなくていいぞ。好きにしろ」

ハンジ「いいよ。世代間で違うの歌うから面白いんじゃない」

ミカサ「では、ライオンを歌おう。エレン」

エレン「じゃーミカサが先で、オレが後で」

女同士で歌うデュエット曲だが、エレンとミカサは意外と息の合った歌い方だった。

リヴァイ「ほぅ……悪くない。いい曲だな。初めて聞いたが」

ハンジ「アニメソングも馬鹿に出来ないよね! 名曲が結構隠れているもんだよ」

リヴァイ「やっぱり1曲くらい、ハンジも歌っていけばいいのに」

ハンジ「え? でも……」

エレン「そうですよ。折角来たんですし」

ハンジ「ううーん。アニメソングの流れなら、この曲にしようかな♪」

押し切られてハンジも1曲だけ曲を入れた。それは…

アルミン「うわあああ! それいきますか!」

ハンジ『古い曲でごめんね! このアニメ曲は好きなんだ! 『give a reason』いきまーす!』

凄くポジティブな曲だった。リヴァイは目を見開いてその曲を聞いている。

ハンジ『どうもお粗末様でした! てへ!』

わーパチパチ!

エレン「ハンジさん、歌巧いっすね!」

ハンジ「そうかな?」

ミカサ「うまいとおもう。リヴァイ部長よりも」

リヴァイ「かもしれねえな」

ハンジ「いやだもう、謙遜しちゃって。リヴァイも十分巧いよ?」

リヴァイ「そうか? それより今選んだ曲……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「凄く、ハンジらしいと思った。前向きな曲だな」

ハンジ「そうかな? でも、そうかもね。元気になれる曲だよね」

アルミン「僕は新装版の方で知りましたが、この作品は、貧乳のヒロインの金字塔のような存在だったそうですね」

リヴァイ「貧乳?」

ハンジ「リヴァイ、私の胸を見ながら言うのはやめなさい(ぺし!)」

と、夫婦漫才をしていたら、

ピクシス「ふむ。アニメ曲でいいなら、わしの大好きな曲がひとつある」

リヴァイ「え? 何を歌う気ですか?」

ピクシスが入れた曲は……

アルミン「ぶふー! これは、まさかの……!」

ピクシス『だいみだらー発進じゃ!!!』

と、伝説のエロアニメのOPソングを歌い出したピクシスにリヴァイは目が点になった。

勿論、歌を知らないのだが、歌詞がアレ過ぎて、その、なんだ。

コメントに困るので、リヴァイは黙り込んでいた。

しかし何故か若い男性社員は知っている奴も意外と多くノリノリで笑っていた。

女性社員はドン引きしていたが。青ざめている。

ペトラ「何コレ……」

ニファ「酷い歌詞……」

ピクシス『わしの孫が見ていたロボットアニメじゃ。一緒に観ている内に覚えた』

アルミン「一緒に観ちゃったんだ……」

特に2番が酷かった。途中でピー音が入ると言う謎の歌だった。

ペトラ「なんか、無駄に格好いい曲調なのがムカつく」

オルオ「それがいいんだろ」

ペトラ「あんた、このアニメ観た事あるの?!」

オルオ「別にいいだろ。怖い物見たさで観たぞ」

アルミン(男性受けは抜群のアニメだもんなあ)

ピクシス「話の内容は良く分からんかったが、なかなか面白い作品じゃったぞ」

リヴァイ「そうなんですか」

ピクシス「男なら一度は観ておくべき作品じゃな」

とか言いながら、流れがアレな方向になって来たので、軌道修正をするべくペトラが立ち上がった。

ペトラ「あー普通の歌、歌っていいですか?」

リヴァイ「いいぞ。流れを変えてくれ」

ペトラ「じゃあ、これ入れます」

ペトラが入れた曲は……

ピクシス「ほほう。『走れ!』か。なかなかいいところをつく」

リヴァイ「ピクシス本部長、いろいろ詳しいですね」

ピクシス「カラオケは飲み会の定番じゃろ? わしは若い奴らの歌う曲もちゃんとチェックするぞ」

リヴァイ「勉強熱心だな」

ピクシス「少なくとも、部下が好きな曲くらいは把握出来んと営業部長は務まらんだろ」

リヴァイ「そんなもんですかね?」

ハンジ「エルヴィンはその辺、あんまり強制はしなかったよ?」

ピクシス「その代り、あやつは仕事中の雑談で情報を得ておったからな。あやつは聞き上手だった」

リヴァイ「ふむ」

ピクシス「まあ、その辺はリヴァイのやりやすいやり方で良かろう。わしのやり方を真似する必要はないが。こうやってたまには部下と向き合う時間はどこかで作った方がいいじゃろ」

リヴァイ「…………」

ピクシス「そういう見えない情報が積み重なって、ある日、勘の領域で動けるようになる。理屈じゃない」

リヴァイ「勘、ですか」

ピクシス「勘じゃな。仕事する上で一番重視するべきところじゃ。それを磨くには、人と関わる力を養う必要がある」

リヴァイ「面倒くせえな。本当に」

ピクシス「人が嫌いか?」

リヴァイ「好き嫌いが激しいと自分では思っている。でも、今の感じは……悪くねえ」

リヴァイはそう思いながら紅茶を飲んで目を細めた。

リヴァイ「何が良くて俺についてくるのか知らんが。こいつらも変わってやがる。つくづく」

ピクシス「ふん………照れおって」

リヴァイ「こういう性格なので。もう変える気ねえし」

ハンジ「だからこそ、萌えるよね」

ピクシス「全くじゃ」

リヴァイ「勝手な事を言いやがって」

若い者同士でカラオケは盛り上がっていた。大人組は雑談に集中する。

そしてエレンが其の時『いつかのメリークリスマス』を歌いだして、リヴァイの目線が画面へ動く。

エレン『い~つまでも手をつないで~いられるような気がしていたあ♪』

サビの部分の歌詞が心に沁みてそれ以上聞いているのが。

リヴァイ「……………」

ハンジ「ん? どうしたの? リヴァイ」

リヴァイ「いや……この曲はちょっと」

ハンジ「?」

リヴァイは目頭を押さえて必死に涙を堪えていた。

その異変に気づいてエレンが歌うのを止める。

エレン『え? リヴァイ部長? どうかされましたか?』

リヴァイ「何でもねえ」

エレン『でも……この歌、嫌いですか? リヴァイ部長がクリスマス生まれだからと思って選んだんですが』

そうだろうとは思った。でもリヴァイはこの歌だけは苦手だった。

リヴァイ「すまん。ちょっと便所に行ってくる」

皆に涙を見せたくなくて部屋を出た。その様子に慌ててハンジが追いかける。

ハンジ「どうしたの? いきなり」

リヴァイ「………大した事じゃねえよ」

ハンジ「嘘ばっかり」

リヴァイ「…………思い出すんだよ」

ハンジ「誰を」

リヴァイ「イザベルの事を」

ハンジ「…………」

リヴァイ「今はファーランが世話しているし、俺も以前ほどはイザベルのところに見舞いには行かなくなったが」

それでも彼女の事を忘れた事はない。常に頭の中に居る。

ハンジ「そっか」

リヴァイ「…………」

ハンジ「本当は、愛していたんだね」

リヴァイ「…………」

ハンジ「なんとなく、そんな気はしていたよ。ファーランがいたから理性が働いてリヴァイは拒否をしただけだったのか」

リヴァイ「いや、それは違うと思うが」

ハンジ「無理しなくていいよ」

リヴァイ「無理してねえよ」

ハンジ「だったら、何で涙が出るの?」

リヴァイは泣いていない。しかし、背中が泣いているように見えたのだ。

リヴァイ「そう見えるか?」

ハンジ「うん。しんどそう」

リヴァイ「…………」

ハンジ「どうしようもないよ」

リヴァイ「分かっている」

ハンジ「分かってないよ」

リヴァイ「分かっているって言ってるだろ」

ハンジ「本当は、部下と一緒に居られて楽しい癖に」

リヴァイ「………」

ハンジ「本当に、分かりにくい人」

そう思いながらハンジはリヴァイを後ろから緩く抱きしめた。

ハンジ「でも私は好きだから。大丈夫だよ」

リヴァイ「…………」

リヴァイは何も答えられなかった。

ハンジ「私、先に帰るね。そろそろ時間だし」

リヴァイ「ああ。気をつけて帰れよ」

ハンジ「リヴァイもね。皆との時間、楽しまないとダメだよ」

リヴァイ「……ああ」

そしてハンジと別れて、リヴァイは部屋に戻った。

部屋に戻るとエレンは歌を途中でキャンセルして、アルミンが次の曲を歌っていた。

エレンはリヴァイの隣に移動して頭を下げた。

エレン「なんかすんません。思い出させたことでもありました?」

リヴァイ「お前は鋭いな」

エレン「見たら分かりますよ。リヴァイ部長、目の表情がありますからね」

リヴァイ「そんな事を言うのは部下じゃお前くらいなもんだな」

エレン「………………でも、歌の歌詞によってはそういうのありますよね」

リヴァイ「まあな」

エレン「すみません」

リヴァイ「謝るような事じゃねえよ。気にするな」

エレン「……はい」

そしてそれ以後は、部下の歌っている様子を眺める事にしたリヴァイだった。

リヴァイ(いつまでも手をつないでいられるような気がしていた……か)

まさにあの日のあの時の自分を歌っているような曲だと思った。

色褪せたのも遠い記憶だからだろうか。

こうやって、しんみりと幸せに浸っていると、それを享受している自分が悪い事をしているような気分になる。

リヴァイ(ハンジは本当に、勘が鋭い)

本心はこうやって、部下の様子を見ているだけで楽しい。

参加しなくてもいいのだ。ただ、眺めているだけでも十分に幸せで。

そう思う自分がいるのに。それを思う自分が悪い事をしているような気持ちにもなる。

リヴァイ(奇跡は簡単に起きないから奇跡って言うんだろうが)

それでも、一縷の望みがあるのなら。

イザベルに伝えたい言葉がある。彼女に、言いたい言葉はずっと。

心の奥に残っているのに。

リヴァイ(どうか………いつか、目覚めてくれ。俺の眠り姫)

そう思いながらリヴァイは視線を落として、紅茶を全部飲み干したのだった。









時が慌ただしく過ぎていき、8月。ミカサが無事に出産を終えて産休に入った。

アルミン「女の子だったんだって?」

エレン「ああ。女の子だったぞ」

アルミン「どっち似?」

エレン「オレに超似ている……」

アルミン「だったら可愛い女の子だね」

エレン「ミカサに似た方が良かった気もするけどな」

アルミン「そんな事ないって。良かったね。無事に出産を終えて」

エレン「まあな。名前まだ決めてねえけど」

アルミン「名前が決まったら教えてね」

エレン「アルミン、考えるの手伝ってくれよ」

アルミン「それは遠慮しておくよ。責任重大過ぎる」

エレン「ううーん」

エレン「アルミンは結婚とか考えてねえの?」

アルミン「まだまだ全然。今は仕事の方が楽しいよ」

エレン「でもオレ、結婚してからの方が仕事が楽しくなったぞ」

アルミン「そうなんだ」

エレン「ああ。ピクシス本部長が前に言っていた言葉の意味を実感している」

アルミン「女を知った方がいいって話?」

エレン「そうだ。相手を知ろうとする心って、大事だよな。オレ、結婚してからの方がミカサの事、好きになった気がする」

アルミン「へえ………」

エレン「今まで見えなかった部分が見られて驚く事も多いぜ。同居している時のミカサは、オレの前で相当、格好つけていたんだって事が分かった」

アルミン「背伸びしていたんだよ。きっと。エレンに好かれたくて」

エレン「だろうな。それが抜けたから今は自然に会話も出来る。たまに喧嘩するけど、でも以前のようなピリピリする感じは大分減ったな」

アルミン「良かったね。お酒に酔った勢いで結婚したみたいなもんだったけど」

エレン「今思うと、酒の力に感謝だな」

そんな風に言い合いながら、苦笑を浮かべ合う2人だった。






そして9月。ハンジの誕生日の直前。

その吉報は突然、リヴァイの耳に届いた。

リヴァイ「なんだって? それは本当か? ファーラン」

ファーラン『ああ。本当だ。全く反応のなかった手が、動いたんだ。何度か』

リヴァイ「それは回復の兆しが出ていると言う事か?」

ファーラン『俺が見つけたこの治療法は最低でも変化が出始めるのに半年かかると言われている。イザベルはまだ若い。十分に可能性はある。続けて行けばあるいは』

リヴァイ「そうか………」

電話越しの報告に息が漏れた。

変化が見え始めて胸のつかえが少しだけ取れたリヴァイだった。

電話を切ってハンジがすぐに声をかける。子供の面倒を見ながら、嬉しそうに。

ハンジ「いい報告だったみたいだね」

リヴァイ「ああ。まだ変化が見え始めた段階だろうが。ファーランが根気強く治療に当たってくれている」

ハンジ「良かった。リヴァイ、本当に嬉しそうな顔をしているよ」

リヴァイ「まだ分からんけどな。ただ、変化が見えた事は大きな前進だ」

そう言いながらリヴァイはテーブルの席に着いた。

リヴァイ「…………………」

ハンジ「感無量って感じだね」

リヴァイ「いや、まだ分からん。あんまり期待し過ぎるのも良くない」

ハンジ「だとしても、だよ。リヴァイ、久々にお見舞いに行って来たら?」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「差支えがなければ私も一緒に行きたいよ」

リヴァイ「………………」

その有難い申し出に頷きそうになって、寸前で堪えた。

リヴァイ「子供をむやみに病院に連れて行くようなもんじゃねえ。もし風邪でも引かせたらどうする」

ハンジ「過保護だな! そこまで神経質にならんでも」

リヴァイ「病院は雑菌だらけだろうが。子供は小さいうちは過保護で十分だ」

ハンジ「やれやれ。その辺の価値観だけは合わないなあ。私達は」

リヴァイ「気持ちは有難いが、ハンジは子供を優先してくれ。留守を頼む」

ハンジ「はいはい。リヴァイも気を付けて」

そしてリヴァイは久々にイザベルの入院している病院へ足を運ぶことになった。





病院に到着してイザベルの居る集中治療室に足を運ぶ。

全身の雑菌を消毒するような事はしなくてもいいが、それでも気を遣ってリヴァイは様子を見守った。

リヴァイ(もうすぐあれから12年近くの月日が経つのか)

老けたと思った。自分もイザベルも。

本来なら今のイザベルは女の盛りだ。一番いい時期なのに。

筋肉は痩せて衰えて元々小さい体がもっと小さくなっている。

リヴァイ(どんな治療法をしたのか分からんが、変化が見えたなら凄い事だ)

ファーランに後の事は任せていたので詳しい治療法についてはリヴァイは耳に入れていなかった。

リヴァイがイザベルの様子を見ていたら、そこにファーランがやってきた。

ファーラン「見舞いに来てくれたのか」

リヴァイ「居ても立ってもいられなくなってしまってな」

ファーラン「まだ変化は小さいけどな。でも確かに手が何度が動いた。それは間違いない」

ファーランは医者の顔で言った。

ファーラン「イザベルの神経は完全に死んじゃいねえ。人間の体は失った神経を別の神経を発達させて補おうとする力がある」

リヴァイ「そうなのか」

ファーラン「詳しい説明をすると話が長くなるから省略するが。俺もこんな治療方法があるとは知らなかった。アメリカまで渡っていろいろ治療法を探したっていうのに。灯台元暗しだった」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ファーラン「日本にあったんだ。別の治療方法が」

リヴァイ「そうだったのか」

ファーラン「熱を利用して人間の治癒力を高める治療法だ」

リヴァイ「危ない方法なのか?」

ファーラン「逆だ。限りなく安全だ。でも、凄く時間がかかる」

リヴァイ「それでも希望があるなら続けてくれ。俺はいくらでも待つ」

ファーラン「ああ。俺もだ。イザベルを必ず、目覚めさせる」

そう誓いを新たにファーランが強く拳を握っていた。








9月5日。ハンジの誕生日兼結婚記念日。

一周年を記念して何をしようかとリヴァイが話していると、ハンジは答えた。

ハンジ「ふふふ……誕生日プレゼント、強請っていいんだ?」

リヴァイ「強請ってくれた方がこっちとしては助かるが」

ハンジ「だったら、リヴァイを好きにしていい?」

リヴァイ「…………は?」

ハンジ「今日一日、リヴァイを私の好き勝手にさせて貰おうかな」

リヴァイ「………体にリボンでも巻けっていうのか?」

ハンジ「それでもいいけど、それよりこれを着て見せて」

そう言って取り出したのは何故か着ぐるみ風のパジャマ。

猫のデザインのそれを見て困った顔になるリヴァイにハンジはゲラゲラ笑った。

ハンジ「いいリアクションだね! ぷぷぷ……」

リヴァイ「もうすぐ四十路になる男に何着せようとしてんだ。お前は」

ハンジ「いいじゃない。可愛いでしょうが。着せて見せて」

リヴァイ「ちっ……」

そう言われて渋々着てみると……。

ハンジ「サイズぴったり! 超可愛い!!」

リヴァイ「やめろ。可愛くねえよ」

ハンジ「可愛いよ! 超可愛い。やばい。飼いたい」

リヴァイ「アホか。俺を飼い馴らすのは…………まあ、ハンジにしか出来ねえだろうけど」

ハンジ「でしょう?」

リヴァイ「なんで自慢げなんだよ」

ハンジ「にしし。実はサイズ違いの、息子用も用意してありまして」

リヴァイ「ぶふっ?!」

ハンジ「現在、既に着せておりまして」

リヴァイ「やめろ。ハンジ。それ以上は……」

ハンジ「記念撮影じゃあああああ! (*息子連れてきました)」

リヴァイ「クソ……! 嵌める気満々だったな! お前は!」

ハンジ「はい、抱っこ抱っこ!」

結局、猫のパジャマ姿の親子写真を撮らされるリヴァイだった。

ハンジ「いやーいい写真撮れたわー」

リヴァイ(ぐったり)

ハンジ「こういう時じゃないと、こういうネタ写真撮らせてくれないしね?」

リヴァイ「強請っていいなんていうんじゃなかったな」

ハンジ「一生の宝物だよ。ありがとうね。これで十分だよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「お前は着ないのか?」

ハンジ「私の分は用意してないよ」

リヴァイ「分かった。じゃあ今から買ってくる」

ハンジ「その恰好で外に出るつもり?」

リヴァイ「勿論、着替えてから行く。ハンジは虎柄にしよう」

ハンジ「なんでよ」

リヴァイ「猛獣みたいな女だからな。あとセクシーだし」

ハンジ「ええええ?」

リヴァイ「じゃあ行ってくる」

そんなこんなで、親子で記念撮影をして、ささやかな誕生日を過ごしたのだった。

今回はここまで。次回また。ノシ





その年の忘年会は何故か12月25日に行われて、小さなサプライズが行われた。

リヴァイ用にホールケーキが登場して、ハッピーバースディソングを添えて会社の人間に祝われてしまったのだ。

リヴァイ「やめろって言ったのに」

リヴァイは遠い目をして逃げていたが、周りはニヤニヤ笑っている。

リヴァイの隣の席にいたエルヴィンが苦笑した。

エルヴィン「大分、部長職に慣れたみたいだね」

リヴァイ「全然慣れてねえよ。主任時代の方が楽だった」

エルヴィン「でも、君の周りには君を慕う部下が徐々に増えて来たじゃないか」

リヴァイ「あいつらが変なだけだろ」

エルヴィン「いいや? リヴァイが魅力的だからだよ」

リヴァイ「あんまり煽てるな。こういうのは苦手なんだよ」

エルヴィン「そうやって照れるから余計にからかいたくなるのに」

ミケ「全くだ」

リヴァイ「ミケまで何言っている」

ミケ「ふん……」

リヴァイ「ただまあ、エルヴィンが言っていた意味は理解した」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「猫被り命令を解除してからの方が、部下との距離が縮まったような感覚はある。たまに悪態をついても、あいつら案外、俺を怖がらない。むしろ以前の方が怖がられていた気もする」

エルヴィン「感情を出来るだけ殺せって命令をして御免ね」

リヴァイ「今思うと、何故その命令を出したんだ?」

エルヴィン「んー……これ言っちゃうと、リヴァイが気遣うかなと思って」

リヴァイ「どういう意味だ?」

エルヴィン「多分、素の魅力で言えば私よりリヴァイの方が上司として上なんだよね」

リヴァイ「………」

エルヴィン「例えば何か問題が起きた場合、人は私情で動くじゃない? そういう時に、私よりリヴァイの方を優先する部下が出てきたら、命令系統がまずい事になるかなと思って」

リヴァイ「それは考えすぎじゃねえのか?」

エルヴィン「そんな事はないよ。君は人の為になら修羅になれる男だ」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「でも私は結局、自分が一番可愛い人間だから。本当ならば全体の為に動かないといけないのに。私情を優先して可愛い子を優先して助けてしまいそうだ」

リヴァイ「そうか? お前はそういうタイプには見えねえが」

エルヴィン「根底は卑しい人間だよ。きっと。だからこそ、それを全て見せられる相手がもしも現れたら困る」

自嘲気味に言い切るエルヴィンにリヴァイも何も言えなかった。

そこにミケが口を挟む。

ミケ「エルヴィンの魅力と、リヴァイの魅力は別物だろ。どっちが上とか下ではないと思うが」

エルヴィン「ん?」

ミケ「俺はエルヴィンのやり方も、リヴァイのやり方もそれぞれ長所と短所があると思っている。でもそれでいいんじゃないか?」

リヴァイ「ミケの言う通りだな。俺も同意する」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「人ぞれぞれ性格が違うんだ。それでいいんだよ。必要以上に卑下するな」

エルヴィン「君達は本当に優しい人間だな」

リヴァイ「今、エルヴィンは人事部にいる。人の素質を見抜いて采配する大事な部署にいるんだ。エルヴィンに向いた仕事だろ」

エルヴィン「ピクシス本部長の方がやり手だとは思うけどね」

リヴァイ「いや、お前の方が上だろ」

ピクシス「わしを呼んだか?」

しれっと席を移動してピクシス本部長がやってきた。

ピクシス「エルヴィン、人事部の方の仕事は慣れたか?」

エルヴィン「まあ、元々ピクシス部長時代の頃から人事部には良く顔は出していましたし」

ピクシス「後継者にするつもりだったからな。こそこそ仕事を教えておいて正解だった」

エルヴィン「ね? こういうところがやり手だと思わないか?」

リヴァイ「本当だな」

ミケ「確かに」

ピクシス「先を見通して行動するのは当たり前じゃろ?」

リヴァイ「まあ、それはそうか」

ピクシス「リヴァイは四十路おめでとう。男の盛りじゃな」

リヴァイ「ついにその大台に乗ってしまったか(ズーン)」

ピクシス「何言っておる。むしろ四十路の時代が一番楽しい時期じゃろうが」

リヴァイ「え?」

ピクシス「荒れ果てた荒野を開墾して種を植えるのが三十路だとすれば、芽が出始めるのが四十路の時代じゃ。お主は今からが一番大変で楽しい時期に差し掛かるんじゃぞ。子供も産まれたし、今後が楽しみじゃ」

リヴァイ「ううーん」

ピクシス「わしももうすぐ定年になる。定年になる前に2人目の顔も見せるんじゃぞ」

リヴァイ「まあ、そのつもりではいますが」

ミケ「へえ。意外だな。ハンジはあまり子供を多く持ちそうな感じではないと思っていたが」

リヴァイ「ハンジのご両親にも協力して貰っている。それにある程度大きくなったら保育園も利用する。ただハンジの年齢を考えれば、あと1回か2回だな。出産のチャンスは」

ピクシス「いや、案外そうでもないぞ? 子供を持つようになったら体が変化して、子供をポンポン産んだ女もいる。そこは人それぞれじゃ」

エルヴィン「そう言えば、息子はどっちに似ているの? 写真ない?」

リヴァイ「あーこの間、ハンジの誕生日の時に撮らされた奴ならあるが」

エルヴィン「見せてくれ。是非見たい」

リヴァイ「……………これだ」

少々恥ずかしかったが、皆に注目されて画像を出すと、

ピクシス「ぶほっ」

ミケ「ぶっ」

エルヴィン「あら、可愛い。猫のパジャマか」

リヴァイ「エルヴィンは言うと思った。ハンジの命令で着ろって言われてこうなった」

エルヴィン「顔立ちはハンジに似ているね。性格はどっち?」

リヴァイ「多分、俺に似ている。意外と物を散らかさない。子供にしては行儀がいい」

ミケ「それはただのイケメンだな。将来が楽しみだ」

リヴァイ「顔がハンジに似てくれて良かった。俺に似ない方がいい」

エルヴィン「寂しい事を言うなよ」