凛「凛、病気なのかもしれない」 (133)

更新遅いです。
台本形式と地の文混合です。
ほのぼのと百合百合します。

以上の点を許容できる方は
ぜひお付き合いください。

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追加
ラブライブのssです。

――部室


凛「凛、病気なのかもしれない」

真姫「はぁ?」


凛は、机を挟んで反対側に座る真姫ちゃんに打ち明けた。
それを聞いて、真姫ちゃんは呆れたような顔をする。


凛「ちょっ! 真姫ちゃん! 凛、病気なのかもしれないんだよっ!」

真姫「そんな、元気一杯に言われても……。到底信じられないわよ」


元気一杯?
今の凛が?


凛「真姫ちゃん、今の凛が元気一杯に見える?」

真姫「見えるけど」

凛「なっ!?」


真姫ちゃんの即答に、凛は思わず言葉を失ってしまった。
うぅぅ。
凛はこんなに元気ないのに……。
真姫ちゃんの目は節穴だにゃっ!
凛の言うことを信用していない目の前の女の子をじっと見る。


真姫「なによ?」

凛「ふんっ!」

真姫「……はぁ」


そっぽを向く凛を見て、真姫ちゃんはひとつため息をついた。
そして、


真姫「話してみなさいよ。私が診察してあげるわ」

凛「……真姫ちゃんっ」


なんだかんだで聞いてくれる真姫ちゃんはやっぱり優しいにゃぁ♪


真姫ちゃんが聞く姿勢になってくれたので、凛は最近のことを話すことにした。


凛「凛ね、最近ドキドキすることが多いんだ……」

真姫「ドキドキ?」

凛「うん。なんだか心臓がばくんばくんって、破けちゃうんじゃないかってくらい」

真姫「……心臓が……?」


そう。
凛は最近、心臓がドキドキすることがすごく多いんだ。
ドウキ?っていうんだっけ?
とにかくそれがひどい。

真姫ちゃんは、心臓っていう言葉に反応した。
目付きも少し変わる。
やっぱり心臓っていう重要なところだからなのかな?
真姫ちゃんは少し考えた後、こう聞いてきた。


真姫「それは、どんなときになるの?」

凛「どんなとき……」


うーん。
結構バラバラなんだよね。
授業中とか練習中とか。
下校してる時のこともあれば、家のベッドの上でゴロゴロしてるときにも襲ってくる。
ほんとに、バラバラ。


真姫「うーん……。例えば、その前後になにか激しい運動をしたりっていうのは?」

凛「……してるときもあるけど、毎回じゃないよ?」


運動をして心臓がドキドキするのはある。
練習終わりとか、下校してる時に走ったりとか。
そういうときには確かにドキドキするけど……。


凛「でも、そういうのとは違う気がするんだにゃ……」

真姫「……そ」


凛がそう答えると、真姫ちゃんは一言だけ、そう返した。
素っ気ない返事。
けど、それが興味ないからじゃないことは分かった。

だって、真姫ちゃんの表情がすごく真剣なものだったから。
それだけで、凛のこと心配してくれてるのが分かった。


真姫「…………」

凛「……真姫ちゃん?」

真姫「………」


凛が声をかけても、真姫ちゃんは顔を上げない。
なにか考えてるみたい。
どうしたんだろう?


真姫「……ねぇ、凛」

凛「なんにゃ?」


少ししてから、真姫ちゃんは顔を上げた。
その顔には、普段見せないような不安そうな表情が浮かんでいた。

そして、首をかしげる凛に、真姫ちゃんは言った。


真姫「うちの病院で一回見てもらった方がいいわ」


真面目な顔で。
そんな、いつも強気な真姫ちゃんがしないような表情を見て、凛は急に不安になってしまった。


凛「え、えっと……」


言い淀む凛。
真姫ちゃんは、凛の言葉を待っているみたいで、凛のことをじっと見つめてる。

えっと、えっと……。
凛の頭のなかは軽くパニックになっていて。
だから、だと思う。
ふいに、言葉が出てきた。


凛「かよちんに言った方がいいのかな……」


そんな言葉だった。

真姫「え? 花陽?」


凛の言葉を聞いた真姫ちゃんは、ポカンとした。

そりゃそうだ。
凛が病気かも、って話からいきなりかよちんのことに話が飛んだんだもん。
って、そんな風に頭のどこかでは考えるんだけど。
パニックになってる凛には、頭に浮かんだ言葉を次々、話していってしまう。


凛「だ、だって、かよちん、心配してくれてたから!」

凛「授業中にかよちんと目があって、心臓がドキドキしたときも」

凛「練習前のストレッチで、かよちんと組んだ時に、心臓痛くなったのも心配してくれた」

凛「練習終わりに、かよちんと手を繋ぎながら、一緒に帰ってた途中で痛くなったこともあって……」

凛「その時だって、かよちんは凛の手を優しく撫でてくれたんだにゃ」


真姫「」


そんな風に、思い付いたことをどんどん言ってく。
……って、あれ?
真姫ちゃん、なんか頭抱えてる?


真姫「ねぇ、凛」

凛「なに?」

真姫「ちなみに、夜ベッドでゴロゴロしてて心臓が痛くなった時には、花陽となにかあったりしなかったの?」

凛「おぉ! なんでわかったにゃ!?」


確かに、ベッドの上で心臓がドキドキしたときもかよちんとメールしてた!
それで、凛がそのことを話したら、電話かけてきてくれて。
そういえば、電話してる時の方がドキドキが激しかったかも……。

でも、そのことを言い当てるなんて……。
もしかして、真姫ちゃんってエスパー!?
もしくは、凄腕ドクターかも?

そんなことを考えていると、


真姫「……はぁぁぁぁ」


真姫ちゃんがため息をついた。
しかも、すっごく深いやつ。

真姫ちゃん、疲れた顔してるけど?
ん?
どうしたんだろう?


真姫「凛」

凛「なに、真姫ちゃん?」

真姫「あなたの病気、分かったわ」

凛「えっ!? 分かったの!?」

真姫「えぇ」


ほんとに真姫ちゃん、すごいにゃ!
…………。
でも、もしかしたら、凛はすごい病気なのかも……。
だって、真姫ちゃんすごく神妙な顔してるし。

正直、怖い。
もし、凛が命に関わる病気だとしたらって考えると。
そうしたら……。

凛の頭には皆の顔が浮かぶ。
もちろん、かよちんの顔も。

……うん!
凛、決めたにゃっ!


凛「真姫ちゃん、凛の病気の名前を教えてっ!」


凛は勇気を出す。
もし病気なのだとしたら、それと戦うんだ!

そう決めて、凛は真姫ちゃんの答えを待った。

そして、また真姫ちゃんはため息をついて、病名を告げた。

――――――



真姫「それ、『恋』ってやつよ」



――――――

――――――


最近、凛ちゃんの様子がおかしい。
なんでかは分からないけど、私のことを避けてるような気がする。

あれは、つい先日のこと。


――回想開始――

花陽「凛ちゃん、一緒帰ろう?」

凛「か、かかかよたん」

花陽「えっ? かよたん??」

凛「ま、間違ったにゃっ!」

花陽「ふふっ、慌てる凛ちゃん可愛いっ♪」

凛「にゃっ!?」

花陽「ね、『凛たん』一緒に帰ろう?」

凛「っ!? り――

――凛、用事あるから先に帰るにゃぁぁ!!」

花陽「り、凛ちゃぁぁぁぁん!!」

――回想終了――


っていうことがあった。
にぶいって言われてる私でも分かる。
絶対、凛ちゃんに避けられてるよ……。


花陽「なにかしちゃったかな?」


凛ちゃんが噛んじゃったことを指摘しちゃったこと?
ううん。
凛ちゃんはそれだけで私を避けたりしないよね。

うーん。
腕を組んで、悩んでいると
ふと、凛ちゃんが以前言っていたことを思い出した。


「なんだか最近、心臓がドキドキすることがすごく多いんだ」

「何でもないときにも痛いくらいドキドキしてて、ちょっと不安だにゃぁ」


花陽「…………」


まさか、とは思う。
でも、そう考えると辻褄が合う。

最近、顔が真っ赤な凛ちゃんをよく見る。
熱があるのかもしれない。
一緒に帰ってくれない。
病院に寄ってるのかもしれない。
私と目を全然合わせなくなった。
心配をかけたくないからかもしれない。


花陽「や、やっぱりそうなの、かな……」


もしかしたら、凛ちゃんは、



花陽「病気、なのかも……!?」


――――――

一旦落ちます。
また、夜に書きます。

レス下さった方、ありがとうございます。
のそのそと書いていきます。

――――――


『恋』ってなんなんだろう?


真姫ちゃんから、凛が恋してるなんて言われてから、凛はそんなことを考えていた。

恋。
恋愛。
想い焦がれること。

スマホで調べてもそんなことしか出てこない。
辞書だけじゃよくわからない。
それは、きっと凛が恋についてよく知らないからだ。
だって、今まで恋なんてしたことなかったから。

それが、突然


「凛は『恋』してるのよ」


なんて、真姫ちゃんに言われて。
しかも、相手はかよちんだなんて……。

普通は男の人にするもののはずなのに?
じゃあ、凛は普通じゃない?

…………。

ううん!
違う!
確かに、かよちんのことは好きだけど、これは友達としてだよっ!
だから、凛は普通!


凛「これは、恋なんかじゃないにゃぁぁ!」


凛は、胸の中のモヤモヤを晴らすために大声を上げる。
その時だった。


――バタンッ――

?「ひゃあっ!?」


突然、小さな悲鳴が凛の耳に入ってきた。
この声って?

その声につられて、振り返る。
そこには、その悲鳴の主、


海未「い、いきなり部室で、大声を出さないで下さい、凛!」

凛「う、海未ちゃん?」


海未ちゃんの姿があった。
あ、そういえば、ここ、部室だったにゃぁ。

ごめんにゃぁ、と謝ると
海未ちゃんはため息をつきながらだったけど許してくれた。

ただ、凛の叫びはどうやらしっかり聞かれていたようで、


海未「それで、恋がどうとか叫んでいましたが……」

凛「うっ」


そんな突っ込みを受けてしまった。
うぅぅ。
やっぱり聞こえちゃってたよね。
いくら鈍感な海未ちゃんでも、そりゃ聞いてくるよね。


海未「……誰が鈍感ですか?」

凛「にゃっ!?」


心を読まれたっ!?
まさか、真姫ちゃんだけじゃなく海未ちゃんもエスパー!?


海未「はぁ。声に出てるんですよ……」

凛「あっ」


慌てて口を両手で押さえてももう遅い。
どうやら、凛の口は自分で思ってるよりおしゃべりみたい。


海未「まぁ、それはいいです。それより、先程の叫びですが……」

凛「あ、うん」


凛に非難の目を向けるのも止め
海未ちゃんはそう言って、話を戻してきた。

ど、どうしよう?
ここは誤魔化す方がいいのかな?

やっぱり、女の子に、かよちんに恋をしたかもなんて……。
ううん!
違うってば!
凛のこれは、そんなんじゃないのっ!


海未「……凛?」

凛「あ、ご、ごめんね、海未ちゃん」

海未「いえ、私こそ不躾でしたね。話したくないことでしたら、無理に話さなくてもいいですから」


凛が一人でモヤモヤしていると
そう言って、海未ちゃんはにこりと微笑んだ。

その笑みに、海未ちゃんの優しさを感じて
なんだか話さないのが申し訳なく思って、凛はまた、ごめんねって言ってしまう。

すると、海未ちゃんは少し困った顔をしてこう言った。


海未「もし、凛がなにか悩んでいて、それを話してくれる気になったら、聞かせてくださいね?」


海未ちゃんの言葉に、コクリと、凛は黙って頷くことしかできなかった。


――――――

――――――


練習が終わって。
部室で着替えていると、


真姫「ねぇ、凛」

凛「ん? どうしたの、真姫ちゃん?」


真姫ちゃんが話しかけてきた。
綺麗な赤色の髪をくりくりといじっている。


真姫「えぇと……」

凛「?」


周りの様子をチラチラとうかがってる真姫ちゃん。
なんだか話しにくそう?

だから、凛は真姫ちゃんの方に顔を近づける。
これで内緒話できるよね!


凛「それで? なんの話?」

真姫「きゅ、急に顔近づけないでっ!」


と、真姫ちゃんは、顔を赤くして凛から距離を取った。
って!
それじゃ内緒話できないにゃ!


凛「皆に聞かれたくない話なんでしょ!」

真姫「ま、まぁ、そうだけど……」

凛「なら、ほらっ!」

真姫「ヴぇぇぇ!?」


そんなやりとりを小声でしながら
真姫ちゃんとの距離を強引に縮める凛。
そして、真姫ちゃんをガッチリと捕まえる。
真姫ちゃんも、抵抗するのを諦めたみたい。
よしっ!
完璧にゃ!

真姫ちゃんも落ち着いたみたいだから、凛は話を再開することにした。


凛「それで、なに?」

真姫「……あなた、最近、花陽と話してる?」

凛「…………」

真姫「……はぁ、やっぱり」


ため息をひとつして、真姫ちゃんは凛のことをじっと見てくる。
その目はすごく真剣なもので。
そして、さらに真姫ちゃんはこう続けた。



真姫「なんで、花陽のこと避けてるのよ?」



凛「べ、べつに、避けてなんか――


ない。
避けてなんかない。
真姫ちゃんの言葉を、凛はそう言って否定しようとした。
否定しようとして、


凛「…………」


できなかった。
だって、心当たりはあったから。

かよちんが休み時間に話しかけてきても、トイレに行くフリして話すのを避けてたし。
練習終わりも一緒に帰らないようにしてた。

……わかってるよ。
そんなの、凛が一番っ!

でも、こんなの、前まではなかったんだよ!
かよちんを見てもなにも思わなかったのに。

……そうだよ。
こんな風になっちゃったのは……。

真姫ちゃんの方を見る。
そして、凛の頭はカーッとなって――



凛「真姫ちゃんが変なこと言うからっ!」



つい、大声を出してしまっていた。
ここが部室だってことも、皆が周りにいることも忘れて。


真姫「り、りん……」

にこ「な、なに? どうしたのよ!?」

ことり「凛ちゃん? ど、どうしたの?」

絵里「凛、落ち着いて!」


皆の声も、今は凛の耳には入らない。

わかってるよ!
凛がかよちんを避けてることなんて。
だって、そうしないと、胸のドキドキが、痛みが収まんないんだもん!

それが真姫ちゃんの言う通りのものだとしたら……。

…………。

凛は普通じゃなくなっちゃうじゃん!
普通の女の子じゃなくなっちゃうじゃん!

それに、こんな風に思ってるのを、かよちんに知られたら……。


凛「っ!」

――ダッ――


真姫「ちょ、ちょっと、凛っ!?」

花陽「凛ちゃん!?」


着替え終わった練習着も入れてないカバンを持って、凛は走り出す。


――――――

――――――


真姫ちゃんのバカ!
凛がこんな風になったのは、真姫ちゃんが変なことを言ったからなのに!

そして、


凛「かよちんの……バカ……」


凛は、かよちんのことなんて好きじゃない。
大好きだけど、『好き』なんかじゃない。

そうだよ。
凛は、そんなんじゃない。
だって、女の子同士なんておかしいよ。
だから、これは、


凛「『恋』じゃ、ないもん……」


部室を出てきた時のかよちんの表情を思い出す。
悲しげな表情。


凛「……かよちんの、バカ……」


また、そんな言葉をひねり出す。
そうしないと、凛は……。

……だめ。
ズキズキって、痛い。
胸が、痛い。


――――――

――――――


真姫「……凛」


凛が飛び出していった部室のドアを見ながら、私はそう呟くことしかできなかった。
皆も同じみたいで、呆然とした様子で言葉を失っている。

少し、間が空いて、口を開いたのは、


海未「真姫、説明をしてください。なにか凛とあったのでしょう?」


海未だった。
いつもより鋭い眼差しで、私のことを見てくる。
流石の私も、それには少し萎縮してしまった。


真姫「あっ、そ、それはっ……」


うまく言葉が出てこない。
こんなとき、口下手な自分が嫌になる。

そうやって、言葉をどうにか探しだそうとしてる間にも時間はどんどん流れてしまう。


海未「真姫っ!」

真姫「っ!?」


海未が声を荒げた。
いつもの海未じゃない。
なんだかすごい感情的で……。


真姫「うっ……」


その気迫に押されて、私はもっと口が回らなくなる。
話そうって思っているのに……。

穂乃果やことりが必死に海未をなだめようとしてるのが分かる。
けど、二人の言葉は海未には入ってきてない。


海未「黙っていては、わかりませんっ! 真姫!」

真姫「っ!」


その怒声に、視界が滲んでくる。

なによっ!
私は、凛のことを思ってっ!
私は悪くなんてないわ。

そんな、反論も、いつもの憎まれ口ですら出てこない。
あ、ダメっ……。
泣いちゃう……。

そう思って、顔を伏せた、その時、



花陽「海未ちゃん! 止めてっ!」



花陽の声がした。
いつもののんびりとした優しい声じゃない。
それこそ、怒鳴るような、大声で、花陽は海未に声をあげた。

――――――

――――――

花陽のおかげで、その場はどうにか収まった。

花陽が諭してくれて
海未もいつもの冷静さを取り戻したようで。
感情的になって、責めるようなことをしてしまってすみませんでした。
そう、私にも頭を下げてくれた。

それで、そのまま海未は帰っていった。
フォローのために、穂乃果とことりも一緒にだ。

そして、今、部室には私とにこちゃん、エリーと希、そして、花陽が残っている。



絵里「それで、凛はどうしたのかしら?」


一段落して、まずそう切り出したのは、エリー。
落ち着いた様子で私に尋ねてくる。

ちゃんと、最近の凛のことを話そう。
そう思ったんだけど。


真姫「えぇと……あっ」

花陽「? どうしたの、真姫ちゃん?」


花陽がいるじゃない……。

花陽は、私の見立て……じゃなくても、凛が恋しているであろう相手。
ここで、凛のことを話すのは、私でもさすがに……。

と、そんなことを考えていると、


希「さ、花陽ちゃん。ウチらは帰ろか♪」

花陽「えっ? の、希ちゃん!?」


どうやら、なにかを察してくれたみたいで
希が花陽を連れて帰ろうとしてくれていた。

もちろん、花陽はそれに抵抗しようとしてるけど……。


希「ほぉら! 早く行こか!」

花陽「ぴ、ぴゃぁぁぁ」


希に勝てるわけもなく、結局、希に背中を押されて、強引に帰らされてしまった。

グッジョブね。
あとで、焼き肉でも奢ってあげましょ。


にこ「これで、心置きなく話せるわね」

にこ「……って、まぁ、もう大体わかったけど」


希たちが部室を出ていくのを確認して、にこちゃんはそう言った。
どうやら、こういうときだけは頭が回るみたいね。


にこ「ちょっと? なんか失礼なこと考えてない?」

真姫「べつに?」


顔を反らしながらしらばっくれる。
ほんと、こういうときだけ変に勘がいいんだから。


真姫「…………」

にこ「…………」


……はぁ。
それに比べて、


絵里「え? にこはもう分かったの? さっきのやり取りだけで? どういうことなのかしら?」


ほんと。
この人はせっかく賢いのに、こういうことには鈍感よね。


絵里「ちょ、ちょっと、真姫! 私にも説明をして!」


あたふたと狼狽えるエリーを見ながら
なにから話すべきか、なんて私は冷静に考える。
この鈍感な生徒会長様に、なんて説明しようかしら?

――――――

――――――


花陽「もう! ひどいよ、希ちゃん!」


私は、希ちゃんに抗議をした。
話の途中に強引に帰らされて……。

私も、凛ちゃんのこと心配なのに……。


希「ごめんなぁ、花陽ちゃん」


いつもみたいに柔和な笑みを浮かべて、希ちゃんはそんな風に返してきた。
その笑みに、少しだけ尖っていた私の心も丸くなってしまう。
ちょっとずるいよ、希ちゃん。

心のなかで、そんな非難の声をあげていると、希ちゃんは、


希「でも、なんだか話しにくそうやったから」


私のことを見ながらそう言った。

あ、やっぱりそうだったんだ。

言われて、真姫ちゃんの様子を思い出す。
凛ちゃんのことを話そうとしたとき
真姫ちゃんは私のことをしきりに気にしていた。
それって、つまり、


花陽「私に知られたら困ること、だったのかな?」


そういうことだよね?


希「かもしれんなぁ」


花陽の質問に、希ちゃんはそんな風に答えた。
だから、希ちゃんは私のことを連れ出したんだね。


花陽「やっぱり聞きたかったな……」


希ちゃんが凛ちゃんのことを一番に考えてそうしてくれたのは分かる。
けど、私だって聞きたかったよ。
だって、凛ちゃんのことだもん。


希「…………」

花陽「…………」


沈黙が流れる。

その間も、花陽の頭は凛ちゃんのことで一杯になっていた。
特に、凛ちゃんの『病気』のこと。

もしかしたら、真姫ちゃんは知ってるのかな?
お医者さんの娘だもんね。
凛ちゃんが真っ先に相談してもおかしくない。
今日の真姫ちゃんは、そのことについてなにかを言っちゃったのかな?
それで、凛ちゃんが怒っちゃった、とか?

ぐるぐると、色んな考えが頭のなかをよぎる。


そういえば、と思って、ふと希ちゃんを見ると、じっと空を眺めていた。
どうしたんだろう?
私もつられて、空を見上げる。

すると、


花陽「あ、星……」


少し遅くなったからだと思う。
星が、何個か夕方の空に光っていた。


希「花陽ちゃん」

花陽「え? あ、うん! なに、希ちゃん?」


視線を落とし、希ちゃんに目を向ける。
希ちゃんは、笑って、


希「心配せんでもえぇよ。きっと近いうちに、凛ちゃん本人が、ちゃーんと話してくれるから♪」


そう言った。

もしかして、カードのお告げ?

花陽がそう聞くと、意外にも希ちゃんは首を横に振って答えた。



希「ウチの経験則や♪」



そう言って笑う希ちゃん。
なぜかはわからないけど、頭の中のぐちゃぐちゃがスッと軽くなった気がした。

――――――

ちょっと休憩です。

のぞえり Radio Garden
聞きながら書いてるんですが……。
うん、いいですね。
癒されます。

はい。
どうでもいいですね。
3時頃に更新しようかと思います。
その頃に更新がなければ力尽きたと思ってください。

――凛の部屋


ズキズキズキズキ。


部屋にこもってから
凛の心はずっと痛んでいた。
ご飯も食べられなかった。

真姫ちゃんにひどいことを言ってしまった。
その事実が凛の心を攻撃していた。


凛「ごめんね、真姫ちゃん……」


あんなのは、ただの八つ当たりだ。
『恋』とはそんなのは抜きにして
真姫ちゃんは凛のことを思って言ってくれたのに。
凛がかよちんを避けてるのを見て、心配してくれただけなのに。


そして、かよちんのことも思い出す。

かよちん、真姫ちゃんを怒鳴る凛のことを見て、どう思ったかな?
心配してくれたかな?
それとも、


凛「嫌われたかも……」


ボソリとそう呟く。
それと同時に、胸に痛みが走る。
かよちんに嫌われた。
そう思うだけで、凛の心は痛む。

これは、違う。
真姫ちゃんが『恋』だって言った、その痛みとは違う。
なんだか心が暖まる痛みとは違う。

ただ嫌なだけの痛み。


凛「真姫ちゃん……かよちん……」


真っ暗な部屋で呟いて、凛はまたうつむく。
凛って、こんなに弱かったっけ?

――――――

結局、凛は次の日学校を休んだ。

――――――

――部室


穂乃果「今日は凛ちゃん休みかぁ」

ことり「心配だねぇ……」


μ's の練習が始まる前。
2年生組の二人が凛ちゃんのことを話題に挙げた。
海未ちゃんもそれに同意して、一緒に唸る。

海未ちゃんがその調子だから
代わりに絵里ちゃんが練習メニューを考えてる。
希ちゃんも、絵里ちゃんと一緒にメニューを考えてる。

にこちゃんと真姫ちゃんは、まだ来てない。

と、ボーッとメンバーを眺めていると、


絵里「花陽? 大丈夫?」

花陽「えっ?」


気づいたら、絵里ちゃんが花陽の顔を覗き込んでいた。
希ちゃんも、絵里ちゃんの後ろでこっちを心配そうに見てる。


花陽「あっ、大丈夫だよ?」

絵里「そう?」


うん、大丈夫。
凛ちゃんのことはやっぱり心配だけど。
私は、凛ちゃんが話してくれるまで待つって決めたから。

だから、私は絵里ちゃんに笑顔で答える。


絵里「そう。なら、いいわ」


絵里ちゃんも笑顔を返してくれる。
そして、頭を撫でてくれて、


花陽「え、絵里ちゃん!?」

絵里「ふふっ、照れないの。大人しく撫でられときなさい」

花陽「ぴゃぁぁぁ……」

希「ふふふ、花陽ちゃんはかわえぇなぁ」


――――――

――――――


穂乃果「あれ?」

ことり「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「そういえば、真姫ちゃんとにこちゃんもいないよ?」

ことり「あ、それはね……」

海未「少し用事があるらしいです」

穂乃果「用事?」

海未「はい。大事な用事ですよ」

穂乃果「ふーん、そっかぁ」

海未「……さて、練習を始めましょうか」

穂乃果「えー!! 今日は人も少ないし、止めとこうよー!」

海未「は?」

ことり「……あっ、穂乃果ちゃん……」

穂乃果「……あっ!」

海未「…………」

穂乃果「……海未、ちゃん?」

海未「どうやら穂乃果はたるんでいるようですね。練習量2倍にしましょうか?」ニコリ

穂乃果「ひぃぃぃぃぃ!?」


――――――

眠気に負けそうなので
また夜に更新します。

見てくださっている方には
申しまけないです。

――――――


――コンコン――


凛「……ん」


扉をノックする音。
うつらうつらとしていた凛の意識は、その音で少しずつ冴えてくる。
凛、いつの間にか眠ってたみたい。
今、何時だろう?


凛「はぁい……」


たぶんお母さんかな?
そう思って、寝ぼけ半分に返事をした。
すると、


?「凛? 起きてる?」


って、え?
この声!?


凛「え、もしかして……にこちゃん?」

にこ「そうよ。起きてるなら、開けなさいよ。せっかくにこにーがお見舞いに来てあげたんだから!」

凛「う、うん! わかったにゃ」


にこちゃんの声に、慌てて部屋の鍵を開けた。
すぐに、部屋のドアが開いて、にこちゃんが姿を見せた。


にこ「……やっぱり仮病じゃない」

凛「……あっ!」


忘れてた!
今日、凛、風邪って言って学校休んだんだった。
うぅぅ、ばれちゃったよ……。


にこ「ま、いいわ。本当に風邪じゃないなら、部屋入れなさいよ。これ、海未から」

凛「あ、うん」


手渡されたのは紙袋。
気になって、中を覗くと、


凛「……ほむまんだ」


中には沢山のほむまんが入っていたのだった。

――――――

――――――


凛「せ、狭いところですが……」

にこ「別に気にしないわよ」


うちも似たようなものだから。
そんな風に自虐るにこちゃん。
凛は、なにも言わない。


にこ「……はぁ」


と、にこちゃんは凛の顔を見て、ため息をついた。
むっ?
なんだか、それ失礼じゃないかにゃ?

そんな気持ちが表に出てしまってたようで、にこちゃんは、


にこ「そうそう。そのくらい生意気そうな方が凛らしいわよ!」


そんなことを言って、笑った。

……あ。
にこちゃん、もしかして、凛のこと気にかけてくれてる?
どうやら、それは言葉にするまでもなく、にこちゃんに伝わったらしく、後輩を気にかけるのは当たり前よ、って言葉が返ってきた。


凛「……ありがと、にこちゃん」


照れくさかったけど、凛も素直にそう言う。

やっぱり、にこちゃんは先輩なんだなって思ったにゃ。
……久しぶりに。


凛「ねぇ、にこちゃん」

にこ「なによ?」


凛のことを心配して。
世話焼きなにこちゃんなら、それだけでもたぶん凛の家に来てくれるだろう。

でも、昨日、凛は皆の前で大声をだして、そのまま帰っちゃった。
たぶん、あの後、真姫ちゃんは皆にそのことを聞かれたはずだよね。
そのなかには、もちろん、にこちゃんもいたはず。

つまり、にこちゃんは――


凛「にこちゃんは、凛が……休んだ理由知ってるの?」


答えはなんとなく分かってる。
だから、正直、聞くことが怖い。
にこちゃんが凛の質問に頷くことが。

そして、にこちゃんは答えた。


にこ「そんなの私が知るわけないじゃない!」

凛「……えっ?」


あれ?
予想外!
え?
全部知ってここに来たんじゃないの?

きょとんとしてるってことが自分でも分かる。
にこちゃんから見たら
きっと凛がビックリしてることが一目で分かっちゃうと思う。

凛のそんな気持ちを察したみたいで、にこちゃんは言葉を続けた。


にこ「そりゃ、流石に真姫ちゃんから話は聞いたわよ?」

にこ「けど、あれはあくまでも真姫ちゃんの推測よ。凛の話を聞いて、真姫ちゃんが導いた答えなの」

にこ「それがイコールであんたの悩みに繋がる訳じゃない」

にこ「だから、凛、私には凛が何で悩んで、仮病を使ってまで学校を休んだのかは分からないわ」


凛「…………」


そこまで、一息。
にこちゃんはそんな風に凛に言った。

少しの沈黙。
そうして、凛の瞳をじっと覗き込むにこちゃん。


にこ「だから、凛」

にこ「悩みがあるなら、言いなさい! 私は海未みたいにヘタレじゃないから、後輩が塞ぎこんでたら、強引にでも聞き出すわよっ!」

にこ「ほら! とっとと話しなさい!」


凛「にこ、ちゃん……」



海未ちゃんも、悩みを話してって言ってくれた。
にこちゃんも同じ。

ただ強制しない海未ちゃんとは違って、にこちゃんはすごく強引だ。
無理矢理でも聞き出すとか……。
凛が繊細な子だったら逆効果だよ?
なんて、思って。

けど、今はその強引さが、凛にはすごくしみたんだ。
だから、


凛「にごぢゃぁぁぁんっ!!」

にこ「ぎゃぁぁぁ!?」


凛は思いっきりにこちゃんに抱きついた。

涙が出始めてるのも。
鼻水が出ちゃってるのも。
にこちゃんが制服なのも。
そんなのまったく気にせずに。



にこ「ちょっ!? 鼻水は止めなさいっ! 鼻水だけはぁぁ!!」


――――――

――――――


にこ「うぅぅ、鼻水ついてないわよね……」

凛「だ、大丈夫かにゃぁ?」

にこ「大丈夫じゃないわよ」

凛「ひっ!?」


ギロリと睨んでくるにこちゃん。
うぅぅ。
さっきまでの優しいにこちゃんはどこに行ったんだろう?


にこ「はぁ。まぁ、ついてないならいいけど……」

凛「ごめんね、にこちゃん」


まぁ、いいわよ。
そう言って、にこちゃんは息を吐いた。


にこ「それで?」

凛「にゃ?」


姿見で、一通り自分の制服を確認し終わったにこちゃんは、突然そんな風に話を振ってきた。
それで?
えっと……なんだっけ?


にこ「悩みよ、悩み! 早く話してみなさいよ」

凛「あー」


そういえば、そういう話だったにゃ。

……よし。
凛は、覚悟を決める。
心のうちを全部吐き出す覚悟を。

――――――

――――――


にこ「なるほど、ね」


凛の話を聞き終わって、にこちゃんは頷いた。


にこ「結局、あんたが悩んでんのは、昨日、真姫ちゃんに怒鳴っちゃったこと」

にこ「それに、あんたの花陽への感情が一体なんなのかってことね?」


そして、そんな風にまとめた。
って、なんかすごく簡単に纏められたんだけど……。
ボソリとそんな不満をもらすと、にこちゃんはひとつため息をついた。


にこ「だって、それ以外ある?」

凛「え、えっと……」


うーん?
……あれ?
確かに、それだけかも?


にこ「ね?」

凛「う、うん」


あ、でも!
まだあるよ!


凛「でも、もしそれが、えっと……」

にこ「……『恋』?」

凛「うん。もし『恋』だったら、かよちんに嫌われないかなってことも、凛は悩んでるよ!」

にこ「あー、それね」


凛はにこちゃんに訴えかける。
だって、女の子同士なんて、普通じゃないよ。
かよちんはだって、もしかしたら気持ち悪がって、凛のこと嫌いになるかもしれないし……。

けど、にこちゃんは適当にあしらった。
雑すぎないかにゃぁ?


凛「なんで、適当なの?」


凛はそう聞く。
すると、にこちゃんは、


にこ「だって、そんなの」

にこ「ありえないでしょ?」


まるで、分かりきってることをいうように答えた。


凛「ありえないって……。そんなの分かんないにゃっ! 断言なんてできないよ!」

にこ「…………」

凛「…………」

にこ「……じゃあ、あんただったら?」

凛「……え?」



にこ「凛がもし、その気はないのに、花陽から『好き』だって言われたらどうなの?」



にこちゃんにそう言われて、考える。

もし、かよちんに『好き』だって言われたら?
…………。
そんなの、嬉しいに決まってる。

じゃあ、それが『恋』としての『好き』だったら?
…………。
気持ち悪い、なんて、思えない。
むしろ――


凛「…………っ!?」

――カァァァ――


にこ「どうやら、理解したみたいね?」


かよちんに告白される絵を思い浮かべて
思わず顔が熱くなる。

うん。
嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
たぶん今の凛じゃなくても、そう感じるはずだと思う。


にこ「たぶん花陽だって、同じよ。あんた達、昔から今までずっと一緒にいるんでしょ?」

凛「うん」

にこ「お互いを大事に思っていなかったら、きっともっと昔に、別々になってるわよ」

凛「にこちゃん……」


そう言って、にこちゃんはどこか遠くを見た。

たぶん、昔のことを、μ's ができる前のことを思い出してるんだと思う。
どこか壊れてしまいそうな雰囲気。

だから、凛は首を縦に振る。



にこ「よしっ! いい顔になったわね」


にこちゃんはニコリと笑う。
そして、凛に聞く。


にこ「じゃあ、聞くわよ」


にこ「真姫ちゃんに怒鳴ったことはどうする?」

凛「謝るにゃ!」

にこ「じゃあ、あんたの花陽への感情は一体なに?」

凛「…………」


にこちゃんの質問に、少し黙る。

それは即答できない。
やっぱりまだよくわかってないし。
女の子同士っていうのが、やっぱり凛には引っ掛かっているから。


凛「……まだ、よくわかんないにゃ」

にこ「……そ」


そこまで聞いて、にこちゃんは立ち上がった。
そして、部屋の出口に向かった。


凛「にこちゃん?」

にこ「帰るわ。もう、大丈夫みたいだし」

凛「……うん」


もう大丈夫だよ。
凛も、笑顔を作る。
うん。
もう笑えるよ。


――――――
玄関でのこと。
にこちゃんは、凛に背を向けたまま、こんなことを言った。


にこ「あ、そうだ。凛」

凛「なに?」

にこ「あんた、女の子同士だから、とか考えてる?」

凛「……あっ」

にこ「図星っぽいわね。なら、いいこと教えてあげるわ」

凛「?」



にこ「女の子同士も、案外悪くはないわよ?」



それだけ言って、にこちゃんは帰っていったのでした。

――――――

――回想開始――

絵里「なるほど、大体の話は分かったわ」


私の説明で、どうやらエリーは納得がいったようだった。


にこ「でも、それってぇ、真姫ちゃんの推測だって含んでるんでしょ?」

真姫「……それはそうだけど……」

にこ「なら、そこら辺の事実をはっきりさせることが今の凛にとって、一番いいことじゃない?」


確かに、そうかもしれない。
あくまでも、凛の気持ちは凛にしか分からないわけだし。
って、私もしかして、余計なことしたのかしら……。
凛の気持ちを決めつけて、凛のために凛のためにって、押し付けてたのかも……。

そんな負の思考に囚われかける。
けど、


にこ「真姫ちゃん」

真姫「……え?」

にこ「あんたは間違ってないわよ。たぶんね」


にこちゃんがそう言ってくれた。
その一言で、ちょっとだけ心が前向きになる。


真姫「と、当然でしょ!?」


憎まれ口しか出ないのは、前向きになった証拠ってことで。
ごめん、にこちゃん。


絵里「とにかく、よ」


と、ここでエリーが声をあげた。
キリッとした表情で私たちを見てくる。
今まではちょっとダメな方のエリーだったけど、これは期待できるかもね。


絵里「明日、凛と話をしましょう」

にこ「当然よ。というか、今からでも!」

絵里「それはダメよ」

にこ「はぁ? こうしてる間にも凛は――」

絵里「ダメよ」


感情的になるにこちゃんに、エリーが強くストップをかける。


絵里「今から凛を追っても、まず追いつけないし、なにより、凛自身が自分を見つめる時間が必要だわ」

絵里「落ち着いてからじゃないと、話もできないでしょうし、ね?」

にこ「うぐっ、た、確かに……」


エリーは冷静だ。
流石、生徒会長ね。
普通の人とは、経験値が違う。


真姫「私もエリーに賛成よ」


本当は今すぐにでも凛の後を追いたいけど。
そんな言葉は飲み込む。

にこ「じゃあ、どうするのよ!」


凛を一人にしてしまう。
そのことに納得のいっていない様子で、にこちゃんはエリーに食って掛かる。

もちろん、エリーはそんなにこちゃんの気持ち、そして、私の気持ちも組んだ上でこんな提案をしてきた。


絵里「二人にはしてもらうことがあるわ」


ニコリと笑顔で。



絵里「二人、付き合っちゃいなさい」



――回想終了――

――――――


真姫「凛は?」


凛の家から出てきたにこちゃんに声をかける。


にこ「大丈夫だったわよ」


にこちゃんの返答を聞いて、ひとつ息を吐く。
ちょっと安心した。

ほら、行くわよ。
にこちゃんの声に反応して、二人で帰路を歩き出す。


にこ「……それにしても」

真姫「?」

にこ「絵里のことよ」

真姫「……あぁ」


それだけで会話が成立する。
まぁ、エリーも変なこと思い付くわよね。


真姫「凛が何かしらの答えを出す前まで」

にこ「真姫ちゃんと恋人のフリ」

にこまき「「…………」」

にこまき「「はぁぁぁ」」


思わず、にこちゃんとシンクロしてしまう。


もし、凛のなかで、女同士っていうのがネックになってるとしたら。
そんな仮定に対してのエリーの結論がそれ。

私とにこちゃんが恋人のフリをして
凛に女同士っていうことに対する不信感を無くすっていう作戦。

まぁ、確かに凛のためなら何でもするけどって言ったけど……。


にこ「とりあえず、帰りましょうか……。こころたちもお腹空かしてるだろうし」

真姫「そうね。私も早く帰らなきゃ」


もう考えてもしょうがない。
まぁ、もしそれが凛のためになるならやるしかないわけだし。

……さて。


真姫「とりあえず、明日からよろしくね、にこちゃん」

にこ「ま、しょうがないわね。ボロ出さないでよ、真姫ちゃん」


――――――

――部室


にこ「ま、真姫ちゃん、あーん」

真姫「あ、ああーん!」



凛「え、ナニコレ……」


昼休み。
学校に出てこれた凛が見たのは、変な光景。
にこちゃんが真姫ちゃんにあーんってして、お弁当を食べさせている光景。


凛「ほ、穂乃果ちゃん、なにこれ?」


隣に座っている穂乃果ちゃんに、そう聞いてみる。
けれど、答えは返ってこなくて、穂乃果も首を傾げていた。

うーん。
他に事情を知ってそうな人は……。

部室を見渡す。
ここにいるのは、穂乃果ちゃんとにこちゃん、真姫ちゃん。
そして、


絵里「ん? どうかしたのかしら?」


絵里ちゃん。

なんだか、あの異様な光景を気にしていないみたいだけど。


凛「ねぇ、絵里ちゃん」

絵里「なにかしら?」

凛「あれ、一体どうしたのかにゃ?」

絵里「あれって、真姫とにこのこと?」

凛「うん」


昨日の今日で、あれは流石に不自然だにゃぁ。

凛が不審がっているのに、気づいていないのか、絵里ちゃんは二人を見ながら微笑む。


絵里「ふふっ、いいわね。『恋』って……」

凛「…………」


うん。
大体分かったよ。
このどうしようもない大根芝居の元凶は絵里ちゃんなんだね。


真姫「ちょ、にこちゃん、食べさせるペース速いわよ!」

にこ「はぁ? 普通、こんなものでしょ?」


凛「…………」


もう二人も演じきれてないみたい。
いやぁ。
凛が見出てから、10分も経ってないのににゃぁ……。

と、そんな光景を見ていたら


凛「ふふふっ」


笑いが込み上げてきた。
そして、思った。

もし、真姫ちゃんとにこちゃんが本当に付き合っても、たぶんあんな感じでいつも喧嘩するんだろうなぁって。
結局変わらないんだろうなぁって。

自然な姿を見せられる関係。

凛とかよちんもそうなれるかな?


凛「…………」


って、まだ結論を出すのは早いよね。
じっくり考えて、ちゃんとした答えを出さないと。

――――――

――――――

真姫ちゃんには謝った。
怒鳴っちゃったこと。

あと、ありがとうも言った。
心配してくれたことと、色々してくれたこと。
にこちゃんとの変なお芝居も含めて。

真姫ちゃんは
演技なんかじゃないわよ、なんて言ってたけどね。


よしっ!
あと、しないといけないのは、凛の気持ちをはっきりさせること。

そのためにも――

――――――

凛ちゃんが学校に来てくれた。
それに安心してつい、凛ちゃんと話すのを忘れちゃった。
うぅぅ。
花陽のドジ……。

授業終わり。
そんなことを考えながら、机の上でだれていた花陽。
そんな私に、


凛「かよちん!」

花陽「っ! り、りんちゃん!?」


凛ちゃんの声がかかる。
私はブンッて音が鳴りそうなくらいの勢いで振り向いた。


凛「う、うん」

花陽「あ、ごめんねっ! あはは……」


うぅぅ。
私の勢いに凛ちゃんちょっと引いてるよぉ。

……すぅ、はぁ。
……すぅ、はぁ。
よしっ、ちょっと落ち着けた。


花陽「凛ちゃん、あのね……」


話を切り出そうとする私。
って、あれ?
なにを話せばいいんだっけ?
えっと、えっと……。
来てくれて嬉しいってこと?
なんで避けてたか聞くこと?
悩みがあるなら言ってっていうこと?
それとも?

話したいことが多すぎる。
そのせいで、軽いパニックになっちゃった。

そんな花陽に、凛ちゃんは、


凛「あははっ、かよちん、すごく慌ててるにやぁ」


笑った。
無邪気な笑顔で。
花陽が大好きな明るい笑顔で、笑った。


花陽「え、えへへ……」


それにつられて、私も笑ってしまう。
それにつられて、凛ちゃんも――


凛「あはははっ!」
花陽「ふふふっ」


そうやって、私たちは笑いあった。

なんだかおかしくて。
またちゃんと話せたのが嬉しくて。
いつも通りに、二人で一緒に……。

――――――

――屋上


絵里「さ、今日は終わりにしましょう」


エリーの一言で、練習が終わりになった。

それが合図になって、皆、思い思いの方法でくつろぎ始める。

ごろっと寝転がる穂乃果やにこちゃん。
ことりはそんな二人にタオルを渡してるし、海未は体を少しほぐしてるみたい。

私は、というと
タオルで汗を拭いているエリーと希のところに向かうことにした。


真姫「ねぇ、エリー、希」

絵里「あら? どうしたの、練習のこと?」


そう返してくるエリー。
それには、私は首を横に振る。

と、私の様子でどうやら希は気づいたみたいで、あの二人の方をチラリと見た。
それに倣うように、エリーもそちらを見る。


真姫「そ。そのことよ」

希「どうやら上手くいったようやね」

絵里「あぁ、なるほど」


得心のいったように、二人は頷いた。
私たちの視線の先には――


花陽「あ、凛ちゃん! ゴミついちゃってるよ?」

凛「え? どこどこー?」

花陽「ほら、ここ」

凛「あ、ありがと、かよちん!」

花陽「うん♪」


凛と花陽の姿があった。
以前と変わらず、いえ。
以前よりもっと仲良さそうに、お互いの汗を拭きあったりマッサージをしあったりしてる。

よかった。
とりあえず、凛は花陽を避けるのをやめたみたいね。


真姫「…………」

希「ん? どうしたん、真姫ちゃん?」

真姫「え、あっ、いや……」


二人のことをボーッと見つめていたせいで反応が遅れてしまう。
なにやら希はその反応を変に誤解したようで……。


希「もしかして、真姫ちゃん寂しいん?」

真姫「なっ!?」


ニヤニヤとして、そんなことを言ってきた。
そんなんじゃないわよ、と言おうとして、それを希に手で口を抑えられ、止められる。

そして、そのまま近づいてくる。
手をワシワシと動かしながら……。

って!


真姫「――もがもがっ!」

希「皆まで言わなくても、ちゃーんと分かってるよー。そんな人肌恋しい真姫ちゃんにはぁぁ――」


抗議の声を挙げようとしても
口を抑えられてて発声できない。

ひっ!?
の、希、やめなさっ!?



「いやぁぁぁぁ!?」


――――――


絵里(ふふっ、やっぱり私の作戦がよかったのかしら♪)


――――――

――帰り道


凛「小さなシグナル♪ りんりんりんがべー♪」


歌を歌いながら、凛は歩く。

練習も終わって、その帰り道。
練習ですっごく動いて、正直体が痛い。
でも、凛は上機嫌だった。
だって、


花陽「ふふっ、凛ちゃんご機嫌だね」


隣にかよちんがいるから!

一昨日、一人で走って帰ったこの道はくすんで見えたけど。
今日の景色は、なんだか輝いて見える。

やっぱり凛はかよちんといると、すごく楽しいし嬉しい。
凛はそんなことを実感していた。

かよちんの言葉に頷くと、凛はくるくると回ってみる。
体は痛いけど、心は軽い。
いつかの痛みは今は感じない。


凛「にゃーんにゃーんにゃー♪」

花陽「り、凛ちゃん! あ、危ないよっ!」

凛「大丈夫にゃー!」


焦るかよちんを視界の端に見ながら、凛はそう言った。
けど、その瞬間、


――フラッ――


凛「にゃっ!?」

不意に、脚がもつれた。
って、わっ!?

バランス取ろうとしても、体勢を崩している今の状態では意味なんてなくて。
結局、ドスンと音をたてて凛は転んでしまっていた。


花陽「凛ちゃん!!」


そんな凛のことを見て、かよちんが慌てて駆け寄ってくる。
すごく心配そうな顔で。
うぅぅ、いらない心配かけちゃったにゃぁ。


凛「あはは、転んじゃったにゃ――

花陽「もうっ! 凛ちゃん!」

凛「えっ!?」


ごめんごめん。
そう、謝ろうとした凛の言葉を、かよちんが強い口調で遮った。

って、かよちん?
なんか、すごく怒ってない?


凛「か、かよちん?」

花陽「もうっ!」


すごく珍しいものを見てる。
かよちん普段あんまり怒らないのに。
皆の前では出さないような表情。
そんな凛だけが知ってる表情が増えて、ちょっと嬉しくなる。

いやいや。
怒られてるの凛だから、そんなこと考えちゃダメダメ!


花陽「凛ちゃん、病気なんでしょっ! なのに、無理しないでっ! 凛ちゃんになにかあったら、私、私ぃ…………」

凛「…………」


そんな風に早口でまくし立てて、グスグスと、泣き出すかよちん。
それを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになっちゃう。

…………。
って、ん?


凛「か、かよちん? 凛、病気なの?」

花陽「…………え? 違うの?」

凛「違うにゃ」

花陽「あれ?」

凛「…………」

花陽「…………」


りんぱな「「あれ?」」


――――――

一先ず今日はここで終わりです。
また夜に書くことにします。

たぶん明日か明後日には完結できるかと。

見てくださってる方ありがとうございます。
モチベーション上げてまた夜から頑張ります。
稚拙な文ですが、もう少しお付き合いください。

p.s
にこちゃんはμ's 1のイケメンだと思う。
異論は認める。

――――――


凛「また明日、かよちん!」

花陽「うん! じゃあね、凛ちゃん」


凛のことを家まで送ってくれたかよちんを、手を振って見送る。
やがて、角を曲がったかよちんの姿が見えなくなった。


凛「ふぅ……」


静かに手を下ろす。
ブンブン振ってたから、手が痛いや。
でも、


凛「えへへへ」


嬉しい。
やっと、かよちんとまた話せるようになったんだもん。


――トクン、トクン――

凛「…………」


まだドキドキは収まんないけど。

でも、前までとは違う。
ズキズキっていう痛みに似たものじゃない。
なんだか不思議と安心するドキドキ。

これがなんなのかは、まだ、分かんない。



凛「よしっ! あー、お腹減ったにゃぁ!」


凛はそう言って、家の中に入る。
今日のご飯はなんだろな?

――――――

――――――


角を曲がって、凛ちゃんの姿が見えなくなる。
その瞬間、私はその場に座り込んでしまった。


花陽「よかったぁ……よかったよぉ……」


そんな風に、言葉が零れてくる。
視界も潤んできて、景色が歪む。


凛ちゃんが病気かもしれない。


そう考えたあの時から、花陽の頭の中は不安と恐怖でいっぱいだった。
凛ちゃんが病気かもしれないという不安。
凛ちゃんがいなくなってしまうかもしれない恐怖。
表に出さないようにはしてたけど、怖かった。
でも、ビビりんぼの花陽には、怖くて凛ちゃんに聞くことができなかったから。

凛ちゃんが話してくれる待とう。

そんな後ろ向きな覚悟を決めてしまっていた。

けれど、凛ちゃんがまた私のところに来てくれて、また話しかけてきてくれた。
その結果、なし崩し的ではあるけど、聞くことができたんだ。


「凛は病気じゃありません!」


凛ちゃんのその言葉を聞いて
すごくほっとしたんだよ。
本当はその場で泣いちゃいそうだったけど、凛ちゃんに心配かけちゃうから……。

でも、今ならいいよね?
ちょっとくらい、泣いても。
嬉し泣きだもん、いいよね?


花陽「うぅ、ひぐっ、うぅ、わぁぁぁぁっ…………」


――――――

――凛の部屋


凛「それでね、その時、かよちんがねっ!」

真姫『…………』

その日の夜のこと。
凛は電話をしていた。
相手は、かよちんではなく、真姫ちゃん。

ほんとはかよちんと電話する予定だったんだけど、なんだかかよちん、声が掠れちゃったらしくて……。
大丈夫かな?

あ、それで、暇してたんだけど
そこで、真姫ちゃんから電話がかかってきたんだ。


真姫『……ねぇ、凛』

凛「ん? なにかにゃ?」

真姫『そ、そろそろノロケ止めてもらって、本題に入ってもいいかしら?』

凛「の、のろけなんて……そんなんじゃないにゃぁ」


ただ、かよちんのことを話してただけで、ノロケっていうなんて、真姫ちゃんもそういうことに耐性がないんだなぁ。

と、そうじゃなくて、


凛「それで、本題って?」

真姫『明日のことよ』

凛「? 明日、何かあったっけ?」

真姫『…………はぁ。学校が終わったら凛の家に私と花陽で泊まりにいくって話だったじゃない』

凛「……あっ!」

真姫『忘れてたのね……』


すっかり忘れてた!

真姫『家の人に言っておいてね』

凛「わ、わかったにゃ!」


危うく忘れるところだったよ!
かよちんとの話の中にはその話題でなかったし。
凛が病気云々の話題のせいで……。

まったく凛は、なんて
真姫ちゃんは笑いながら、ため息をついてた。

――――――

それから少し話をして。


真姫『じゃ、そろそろ切るわね』

凛「えー! もう切っちゃうのぉ!」


まだ話したいことあったのに!
そう言うと真姫ちゃんは、乾いた笑いを出して言った。


真姫『通話料、こっち持ちなんだけど?』

凛「あっ!?」


ゆうに一時間は話してたことに今気づく。
あぁ、真姫ちゃんからかけてきたから……。
これはなかなかお高くなってるよ……。

ごめんね、真姫ちゃん。
そう謝ると、


真姫『いいわよ、凛がせっかく元気になったんだし』

凛「真姫ちゃん……」


照れながら、ぶっきらぼうに言う真姫ちゃん。
ふふふ、可愛いにゃぁ♪

じゃあ、また明日。
そう言って、凛は電話を切った。

――――――


ふと、目が覚めた。

時計を見ると、まだ朝の6時前。
まだ学校の準備をするのにも早過ぎる時間。


凛「んーっ!」


ひとつ、伸びをして、ベッドから出る凛。
窓の外を見ると、雲もないいい天気。

……うん。
目も覚めてるし、二度寝するのももったいない。
こういうときは――


凛「散歩に行くにゃ!」


誰が聞いてるでもないけど、そう宣言する。

思い立ったが、なんとやら!
すぐに着替えを済ませると、凛は玄関を飛び出した。


――――――

――――――


気の向くまま、ふらふらと散歩する。

いつも通う学校への道とは反対に向かってみたり。
細い路地を通ってみたり。

普段はしないことや通らない道を通ってみる。
こうしてると、不思議な気分になってくる。

人っ子一人いない。
まるで、世界に凛だけしかいなくなっちゃったみたい。
地に脚が着かないような、ふわふわした気分になる。

なんて、そんなわけないんだけれどね。

でも、なんだか新鮮で、楽しい。


――――――


30分くらいして。

一息つくために、コンビニに入り
そこで、缶コーヒーを買って、外のベンチに座る。


凛「……んっ、苦いにゃぁ」


そう言って、ベロを出し、顔をしかめる。

うぅぅ。
凛にはまだブラックは早いかも……。
真姫ちゃんとか絵里ちゃんとかは普通に飲んでて、すごいにゃぁ。

なんて、ボーッと空を見ながら考えていた。

――――――

しばらくボーッとして。
そろそろ家に帰ろうかな、そんなことを考えていた時だった。


花陽「凛ちゃん?」

凛「か、かよちん!?」


ベンチに座って、ボーッとする凛の目の前に、かよちんの姿があった。

その姿を眺める。
ジャージ姿で、少し汗をかいている。
しっとりと汗で首筋が濡れていた。


花陽「凛ちゃん?」

凛「にゃっ!?」


気づけば、顔を覗き込まれていた。
かよちんの姿を見るのに、夢中になってたみたい。
って、近いっ!?


凛「か、かよちん、近いよ……」

花陽「あっ!? ご、ごめん……」


凛の言葉に、慌てて離れるかよちん。
その動きで、ふわっと、桜の香りが凛の鼻をくすぐった。
あっ、これ……。
かよちんのシャンプーの匂いだ。

そんなことを考えて、カーッと顔が熱くなるのを感じた。


花陽「え、えっと、凛ちゃんはどうしてこんな時間に?」


どうやら凛の顔が熱くなってるのには気づいてないみたいで、かよちんはそんな風に聞いてきた。

偶然、目が覚めて。
そう答えると、かよちんはにっこりと笑う。


花陽「私も一緒なんだ。だから、ちょっとランニングを……」

凛「ランニング?」

花陽「う、うん」

凛「……ダイエット?」

花陽「…………うん」


今度は、かよちんが顔を赤くする番だった。
図星みたい。
その様子を見て、笑みがこぼれる。


凛「えへへ! かーよちんっ♪」

花陽「り、凛ちゃん!?」

――ギュッ――


抱きつく。
あったかい。

汗くさいよ、なんて言って
かよちんが慌ててるけど、凛は気にしない。

かよちんの匂いは全部、好きだから。


――――――

――――――


世界に凛一人だけしかいないみたいだ。
さっき、そう感じた時。


凛はどうしても寂しくなってしまった。


世界が自分のものみたいになっても、楽しくない。
一人きりでは、寂しいだけだって……。
そんな風に思って。


だけど、今は違う。

隣にかよちんがいて、慌てて恥ずかしがってるけど、笑ってる。
かよちんの手の温かさがすごく心地いいんだ。


――トクン、トクン――


心臓が鳴る。

かよちんの笑み。
それに、手を握り返してくれる力に合わせて。

この鼓動は、ドキドキはやっぱりかよちんのせいだ。
かよちんが凛にくれる優しさのせいだ。


…………。


……あぁ、そっか。
やっと、分かったよ。
こういうことだったんだね、真姫ちゃん。

凛のドキドキは。
凛のこの気持ちは、きっと――。


――――――

ちょい休憩

あともう少しで完結になります。
たぶん今夜で書き終わるかも……?

申し訳ない。
用事で遅れました。

今夜中には無理ですが
ボチボチ書いていきます。

お詫びと言ってはなんですが
以下過去作です。
よろしければどうぞ
二つ目はかなり短いですが……。

【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」
【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416603707/)

【ラブライブ】海未「私たちの恋愛ゲーム、ですか?」
【ラブライブ】海未「私たちの恋愛ゲーム、ですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417028287/)

――――――


休み時間。
その時は、かよちんがクラスメイトの子に用事があって、凛の近くには真姫ちゃんだけがいた。


凛「ねぇ、真姫ちゃん」

真姫「ん、なに?」


真姫ちゃんに話しかける。
今日の朝のことを話すために、だ。

と、その前に、チラリとかよちんの方を見る。
かよちんは、クラスメイトの子と何かを話していた。
うん。
かよちん、やっぱり可愛いにゃぁ……じゃなくてっ!

かよちんの意識がこっちに向いてないことを確認して、話し始める。


凛「今日の朝ね、早くに目が覚めたんだ」

凛「それで、散歩に出かけたんだけど、そこでかよちんに会ったのにゃ」

真姫「ふーん」


興味無さそうに、気のない返事をする真姫ちゃん。
まぁ、こういうときの真姫ちゃんはちゃんと話聞いてくれてるから、信頼はしてるんだけど。

だから、話を続けることにする。


凛「そこでね、凛、気づいたんだ」

真姫「なにに?」

凛「凛のかよちんへの気持ち」

真姫「…………」

凛「…………」


二人とも無言になる。
真姫ちゃんは、じっと凛の目を見つめてくる。
そして、しばらくして


真姫「決めたのね?」


そう聞いてきた。
だから、凛はしっかりと頷く。


凛「近いうちに……」

真姫「……そ」


真姫ちゃんは、また視線を窓の外に向ける。
そして、一言だけ凛に投げかけた。


真姫「頑張りなさいよ、凛」

凛「うん!」


真姫ちゃんは、凛が自分の気持ちに気づくきっかけを作ってくれた。
だから、真姫ちゃんのためにも頑張るにゃ!


――――――

――――――

放課後の練習中。
ペアでの練習で、凛はにこちゃんと組んでいた。


凛「にこちゃん」

にこ「んっ、なにっ? さっきのステップのこと?」


にこちゃんの質問に、首を横に振る。
じゃあ、なによ?
そう聞くにこちゃんに、凛は話をする。


凛「凛のことなんだけどね」

にこ「は? 一体――」


そこで、にこちゃんは凛が言いたいことを察したみたいで、ステップを踏むのを止めた。
そして、凛に向き合う。


にこ「どうやら、決めたみたいね」


凛は今日の朝のことを話した。
すると、にこちゃんはニコッと笑って言った。


にこ「気づくのが遅いのよっ」


それだけで、凛も察した。
あぁ、なんだ。
にこちゃんはとっくに凛の気持ちに気づいてたんだ。
凛よりも早くに。

そんなことを言ったら、にこちゃんは、


にこ「にこは、乙女だからぁ♪ そういうのには、すごく敏感? みたいなぁ?」


おどけて、そう言った。

ちょっと寒くないかにゃぁ?
そんな言葉が頭に浮かんだけど。
口をついて出たのは、それとは違う言葉。

凛「さすが、にこちゃんにゃっ!」

にこ「はんっ! もっと褒め称えなさい!」

これも、凛の本心。
誰よりも自分のことを持ち上げるくせに、誰よりもみんなのことを心配してくれて、気遣ってくれるにこちゃん。
そんなにこちゃんを、凛はすごく尊敬してる。


にこ「凛っ!」

凛「なに、にこちゃん?」


ふっと、にこちゃんが真面目な表情になる。
部長としてのキリッとした顔だ。
そして、にこちゃんは凛の背中をバシッと叩いて言った。


にこ「頑張んなさいっ! あんたなら大丈夫よっ!」

凛「うん!」


にこちゃんは、凛が潰れそうな時、道を示して励ましてくれた。
にこちゃん。
凛、にこちゃんに恥じないよう、頑張るからね!

――――――

――――――


凛「海未ちゃん!」

海未「ん? どうかしましたか?」


練習終わり。
凛は帰ろうとする海未ちゃんを呼び止めた。

そして、


凛「ありがとにゃっ! 海未ちゃん!」


頭を下げた。
なんで頭を下げてるんです!?
って、慌てる海未ちゃん。

凛は、頭を上げて、話を続ける。


凛「海未ちゃん、前に凛のこと、気にしてくれたから」

海未「……はて? そうでしたか?」

凛「そうだにゃ!」


海未ちゃんは、本気で不思議がってるみたいで、しきりに首を傾げている。
しばらくしても思い出せないみたい。
え、本気で覚えてないの?

むぅ。
ちょっとむくれながら、凛はあの時のことを話す。
すると、海未ちゃんは、


海未「そのことなら、お礼を言われるようなことはしてませんよ」


事も無げに、そう言った。


凛「なんで? あれで、凛はすごく安心したのに!」

海未「そう言われても……」


苦笑いしながら、そう言う海未ちゃん。
そして、こう続けた。


海未「困っている仲間の力になりたい」

海未「そう思うのは、特別な、お礼を言われるようなことではないですから」


だから、気にしないでください。
そんなことを涼しげに言った。

カッコいい。

純粋にそう思った。

海未「それで、悩み事は解決したのですか?」

凛「……まだ全部は解決してないにゃ」

海未「…………そうなのですか」

凛「でもねっ!」


そこで、言葉を区切って、凛は強い眼差しで海未ちゃんを見つめる。
カッコいい海未ちゃんに負けないくらいの気持ちで。


凛「解決してみせるにゃ!」


そう宣言する凛。
それを見て、海未ちゃんは微笑み、言った。


海未「期待してますよ」

凛「うん!」


海未ちゃんの期待に応えたい。
もしダメだったとしても、ちゃんと胸をはって報告できるように。
海未ちゃんのカッコよさに恥じないように。
凛は全力でぶつかるよ。


――――――

本日はここまで。
明日は用事あるので、更新は遅くなるか出来ないと思います。

では。

すみません。
補足というか、参考までにお聞きしたいのですが。

このSSを書き終わったら
りんぱな以外ののカップリングでなにか書こうと思うのですが、なにかこれ書けよ、というのがあればレスして下さると嬉しいです。

よろしくお願いします。

皆様、レスありがとうございます。
予想以上にレスが来て驚いてます。

皆様の意見を参考にさせていただいて、このssが終わる頃には次のカップリングを決めようと思います。

今夜もダラダラと書いていきます。
今日で完結できればいいなぁ(ボソッ
少々お待ちを。

――――――


帰路につく。
隣にはかよちんと真姫ちゃん。

明日が休みってこともあって、凛はすごく上機嫌。
なにより、今日の夜は真姫ちゃんと凛、それにかよちんでお泊まりだしっ!
テンションが上がらないわけないよ!


凛「にゃんにゃーんにゃーんっ!」


いつかみたいにクルリと回る。
今日のかよちんはそんな凛をにこにこってして、見ていた。


凛「楽しみだにゃぁ!」

花陽「そうだねっ!」


凛の言葉に、かよちんは笑顔で答えてくれる。

けど、そんなかよちんとは対照的に、真姫ちゃんはどこか上の空で……。


凛「真姫ちゃん?」

真姫「…………」


凛が呼びかけても、返事はなし。
んー?
どうしたんだろう?


花陽「真姫ちゃん?」

凛「おーい、真姫ちゃんってばっ!」

真姫「っ!?」


と、二人で呼びかけて、やっと反応が返ってきた。
大丈夫?
そう尋ねても、真姫ちゃんは何でもないって言う。
なにか、誤魔化してる?

しばらく、そんな状態が続いて、


真姫「……私、ちょっと家に寄ってから行くわ」


いつもは真姫ちゃんとバイバイするT字路。
そこで、真姫ちゃんはそう言って、駆けていった。

ん?
どうしたんだろう?
もしかして、忘れ物でもしたのかな?
そうは思ったけど、深くは考えないことにした。
どうせ凛の家に来れば、聞けるわけだし。

よしっ!
それじゃあ!


凛「かよちん! 凛の家まで走るにゃぁぁ!」

花陽「え、えぇぇ!?」


凛はかよちんの手をとって、走り出した。

――――――

――凛の家


花陽「うぅぅぅ……」


凛の家に着いた時、かよちんはすっかりぐったりしてしまっていた。
そりゃ、練習終わりに全速力で走ったら、こうもなるよね。
凛もちょっとグロッキーだし……。


凛「ご、ごめんね、かよちん……」


凛はそう言って、かよちんに、スポーツドリンクを注いだコップを手渡す。

凛の暴走に付き合わせちゃった。
うぅぅ。
反省しなきゃ……。
こんなんじゃ、かよちんもきっと呆れちゃう。


凛「お詫びに、背中撫でてあげるにゃ」

花陽「……あ、ありがとう、凛ちゃん」


お詫びの意味で、かよちんの背中をさする。

そんなときにでも、健気にお礼を言ってくれるかよちん。
しかも、笑顔で。

かよちんはいつもそうだ。
どんなときも、すごく優しい。
正直、そういうところが、かよちんのすごいとこだと思う。

いつでも優しい気持ちでいてくれること。

昔から変わらない、包みこんでくれるような優しさ。
凛は何度もそんなかよちんに助けられてきた。

そして、そんなかよちんのことが――



――トクン――

凛「……あっ」


不意に、胸が高鳴った。
それと同時に、顔が赤くなってくのも分かる。


花陽「凛ちゃん? どうかした?」

凛「あ、ううん! なんでもない、にゃ……」


かよちんの顔を見ないように、誤魔化す。

かよちんに、顔の赤さがばれないように。
うつむきながら、凛はかよちんの背中を撫で続けた。



『出会いが、私を変えたみたい♪』


かよちんの背中を撫でていると、凛の携帯が鳴った。

ん?
この着信音は、メールかにゃ?

ちょっと待っててね。

かよちんにそう言って、凛は携帯を開いた。
そして、ホーム画面に出た新着メールをクリックする。
差出人は……


凛「真姫ちゃん?」


携帯の画面には『from 真姫ちゃん』の文字。
どうやら、メールはさっき一旦家に帰った真姫ちゃんからみたい。

なんだろう?
そう思いながら、メールを開く。
そこには――


『ごめんなさい』

『今日は急遽、用事が入っちゃったの』

『だから、今日は行けなさそう』

『二人には本当に申し訳ないのだけど、今日は二人でお泊まりしてくれる?』


凛「…………」


しばらく、開いた口が塞がらなかった。

ん?
まだ、下に文章が……。



『いい?』

『花陽と、ふ・た・り・で! お泊まりよ?』

『分かってるわね?』


凛「…………」


……………………。
………………。
…………。
……は、



凛「はかったにゃぁぁぁぁぁ!?」


花陽「ぴゃあっ!?」


――――――

――――――


確かに、今日、真姫ちゃんに言った。

凛は自分の気持ちに気づいたって。
そして、近いうちに……。
そんなことも言った。

だけどっ!


凛「まだ心の準備がぁぁ!!」


凛はひとり、自分の部屋で絶叫していた。

かよちんは忘れ物をしちゃったみたいで、今は家に戻っている。
……真姫ちゃんとは違って、ちゃんとした忘れ物だ。

なんて、真姫ちゃんに皮肉を言ってみても、意味がないのは分かってる。
それに、ちょっと強引だけど、真姫ちゃんが凛を思ってしてくれたことだし。


凛「ありがたいよ? ありがたいんだけど……」


うむむ、と唸る凛。
考えても、今の状況が変わる訳じゃない。

……今の状況。
かよちんと二人きりでお泊まり。


――ドクンッ――

凛「にゃぁぁ……」


今までより強い鼓動が聞こえた。

かよちんと二人でお泊まりなんて
今までもたくさんしてきたのに……。
なぜか緊張してしまう。

なぜか、なんて、そんなこと分かりきってるんだけどね。
でも、やっぱり――



花陽「お、お邪魔しまぁす」


凛「っ!?」


どうやらかよちんが帰ってきたみたい。
足音はだんだん近づいてくる。
そして、ガチャッと、凛の部屋の扉が開いた。


花陽「お待たせ、凛ちゃん」

凛「だ、大丈夫!」


どうにか表情を取り繕う。
自然に、自然に!
大丈夫、だよね?

と、凛のささやかな努力は、次のかよちんの一言で木っ端微塵に壊されてしまった。



花陽「それじゃあ、いつもみたいに――


――一緒にお風呂入る?」


――――――

――――――


――トクン――

うるさい。

――トクン、トクン――

うるさい、うるさい。

――トクン、トクン、トクン――

っ!
うるさいにゃぁぁぁ!!!



花陽「はい、凛ちゃん、流すよぉ♪」



ザァァァッ、と、凛の髪にシャワーから出たお湯が当たる音が聞こえる。
その音は、反響して、お風呂場がその音だけでいっぱいになる。


凛「………………」

花陽「目、つぶっててね?」

凛「わかったにゃ」


そう。
今、凛はかよちんとお風呂に入ってるのでした。
結局、断るも断りもせず、今まで通りかよちんと一緒にお風呂に入る流れになってしまった。

ドキドキするけど、嬉しい時間。
うん。
それは本当なんだけど……。


花陽「凛ちゃん、大丈夫?」

凛「う、うん」


大丈夫。
そんな風に返す。
もちろん、そんなのはウソだ。

大丈夫なんかじゃない。


――トクン、トクン、トクン――


ほら。
今だって、シャワーの音が聞こえなくなるくらいに、鼓動が響いてる。
これは、凛の胸のなかで響く音。


正直、気が狂いそうだよ。
こんなの拷問にしか思えない。
まぁ、もちろんすごく嬉しいんだけどね?


花陽「終わったよ、凛ちゃん」

凛「ありがと、かよちん」


いつの間にかシャワーの音は止まっていて
凛の耳には、かよちんの声と鼓動だけが入ってくる。


凛「じゃ、じゃあ、今度はかよちんの髪を洗ってあげるにゃっ!」

花陽「うん♪ よろしくお願いします♪」


少し落ち着くために、凛は役割を交代することにした。

二人の位置を入れ換える。
かよちんが前で、凛が後ろ。
そのまま、凛はかよちんの髪を洗い始める。


――トクン、トクン、トクン――


それでも鳴り続けるその音。

聞こえない、聞こえない!

そんな風に聞こえないフリをする。
だけど、凛がかよちんの髪を洗っている間も、洗い終わってもその音はずっと鳴り続けていた。


――――――

――――――


花陽「お風呂、気持ちいいね」

凛「うん」


二人で湯船に浸かりながら、そんな会話をする。

いつもは向い合わせで入るんだけど、今日は背中合わせ。
それは、凛がドキドキして、かよちんの顔を見れないからで……。
幸いかよちんは、そのことには気づいてないみたい。

しばらく何も話さない。
それが心地いい。
だけど、なんだかモヤモヤもする。

かよちんと話したい。
そんなことを思ったときだった。


花陽「ねぇ、凛ちゃん」


かよちんが話しかけてきた。
ドキッて心臓が跳ねる。
その音がかよちんに聞こえてないか心配になりながらも、凛は答える。


凛「どうしたの? かよちん」

花陽「あのね、凛ちゃん」

凛「うん」

花陽「…………」

凛「…………」


また、無言。
なんだかかよちんは言葉を探してるみたい。
凛は、次の言葉を待つ。

こういうことはたまにあるんだ。
かよちんが言葉を探して、黙っちゃうこと。
そんなとき、凛はいつも待つことにしてる。

かよちんを慌てさせないように。
かよちんがちゃんと伝えたいことを話せるように。

そして、それから数十秒が経って、かよちんはまた話し始めた。



花陽「昨日、凛ちゃんが病気じゃないって、聞いたときね」

花陽「私、すごく安心したんだ」

花陽「それで、凛ちゃんが私を見送ってくれた後」


花陽「私、泣いちゃったの」


凛「……えっ?」


つい聞き返してしまった。

泣いていた?
な、なんで?

凛のそんな疑問を感じ取ったみたいで、かよちんは話を続ける。


花陽「花陽、凛ちゃんが病気なんだって思い込んでたから」

花陽「ずっと、不安だったの」

花陽「凛ちゃんが一人で色んなことを抱え込んじゃってるんじゃないかなって……」

花陽「…………ううん、違うね」

花陽「私は、怖かったんだ」


花陽「凛ちゃんがいなくなっちゃうことが」

花陽「私を置いて、どこかに行っちゃうことが」


だから、凛ちゃんが病気じゃなくて安心して、つい泣いちゃった。
そう言って、かよちんは言葉を区切る。


かよちんが勘違いしただけのことなのに。

そんな風には言えなかった。
凛も同じように考えてたから。

もし凛が自分の気持ちを打ち明けて、かよちんがそれを拒絶したら……。
きっとかよちんは凛から離れていってしまう。

それが、凛は怖かった。
関係性が変わって、離れてしまうことが、凛は怖かった。

そっか。
かよちんもそんな気持ちを抱えてたんだね。

背中合わせで、かよちんの独白は続く。


花陽「凛ちゃん、小学校の時の仮装パレード覚えてる?」

凛「ハロウィンのやつ?」

花陽「うん、そう」


覚えてるよ。
凛がにゃんこを追っかけて、パレードの列からはぐれて。
迷子になったのをかよちんが一人で探しに来てくれたよね。
それで、凛がいたずらして、お化けのふりしてかよちんを驚かせちゃって……。

あ、そういえば
凛はあのときから、かよちんを守りたいって思うようになったんだっけ。


花陽「あれね、凛ちゃんのことが心配で探しに行ったんじゃないんだ」

凛「え? そ、そうだったの?」


ちょっと慌てて、首を傾げる凛に、かよちんは苦笑いしながら、頷く。


花陽「あのときね、私は凛ちゃんがどこかに行っちゃうって思って、不安になったんだ」

花陽「一人になるのが怖くて、ね」


そうだったんだ。
凛はてっきりかよちんが妹みたいにやんちゃな凛のことを心配して、お世話するみたいに探しに来たんだと思ってた。

それを伝えると、そんな胸を張れることじゃないよ、とかよちんは言った。

そして、その澄んだ声で凛に言う。


花陽「私は、いつも怖いの。凛ちゃんがどこかに行っちゃうことが」

花陽「だからね、凛ちゃん――

――――――



花陽「ずっと一緒にいてね」



――――――



――ドクンッ――


あぁ、もうダメだ。
そんな風に思った。

もう、この気持ちを抑えられないって。


凛は気づくと、


――ギュッ――


かよちんを後ろから抱きしめていた。

花陽「凛ちゃんっ!?」

凛「……っ!!」


慌てて振り向こうとするかよちん。
だけど、凛が抱き締めてるせいで、二人の体勢は変わらない。


花陽「り、りり、りんちゃん、そのっ!?」

凛「…………」


凛はなにも話さない。
ただ強く、かよちんをギュッてする。


――ドクンッ、ドクンッ――


鼓動が聞こえる。
さっきまでとは比べ物にならないくらい、強く響いてる。

これは、たぶん、かよちんにも伝わっちゃってる。


花陽「…………凛、ちゃん」

凛「……うん」


かよちんが凛の名前を呼んだ。
凛はそれに頷く。
頷いて、もう少しだけ力を込める。



凛「……ねぇ、かよちん」

花陽「……なに、凛ちゃん」

凛「凛の心臓の音、聞こえてる?」

花陽「………………うん、聞こえてる」


やっぱり聞こえちゃってるみたい。
ほら、凛も耳をすますと、聞こえる。


――ドクンッ、ドクンッ――
――トクン、トクン――

――ドクンッ、ドクンッ――
――トクン、トクン――


あれ?
凛の心臓の音以外に、もうひとつ聞こえる。

……もしかして、これって?



花陽「凛ちゃん、花陽の音も聞こえてる?」

凛「………………うん」



二人の音がお互いに聞こえる。

直に、身体が触れあうから
その分、音もはっきりと聞こえてくる。


凛「…………」

花陽「…………」


沈黙する。
だけど、嫌なものじゃない。
安心できる静かさ。
二人の音だけが凛たちを包んでいく。

やがて、


――トクン――


二人の音が、重なった。


それが合図だったみたいに、凛は口を開く。


凛「かよちん」

凛「凛も、かよちんとずっと一緒にいたい」


花陽「うん。嬉しい……」


かよちんの相づちを聞きながら、話を続けていく。


凛「でもね、凛は今のままじゃ嫌なんだ」

凛「今のまま、友達のままじゃ……」


直接、かよちんの体に触っているからかな?
かよちんの息遣いとか、微妙な動作も感じ取れる。
だから、今、かよちんが息を飲んだのだ分かった。


凛「凛はね、かよちんとは友達よりも先に行きたい」

花陽「…………親友?」

凛「それは、今だってそうだよ」


そう言って、凛は笑う。

凛が求めるのは、もっと先。
友達とは違う。
あと一歩を超えた関係性。

これを言ったら、もう元には戻れない。

そんなのは分かってる。
けどね、凛は、それでも……。

だから、凛は言ったんだ。



凛「凛は、かよちんと――

――――――



凛「『恋人』になりたいっ!」



――――――

――――――


普通じゃないのは分かってる。
女の子同士なんて、散々悩んだ今でも普通じゃないと思う。

でも、凛は決めた。

真姫ちゃんにきっかけをもらって。
海未ちゃんに励ましてもらって。
にこちゃんに勇気をもらって。


凛は、かよちんに今、気持ちを伝えた。

伝えた今だって、怖い。
手もすごく震えてる。

だけど、やっぱり、聞かないとダメだよね?

凛は息を吸い込む。
そして、かよちんへの想いと一緒に言葉を吐き出した。




凛「――お返事、くださいっ!」




凛と『恋人』になってくれるか。
その返事を、聞いた。




花陽「………………」



かよちんはしばらく黙っていた。

どのくらい経っただろう。
数秒?
数十秒?
それとも、もっと?

かよちんは、抱き締める凛の手をキュッと掴んだ。
そして、緩んだ凛の腕のなかで、向きを変える。


凛とかよちんは向かい合わせになる。


かよちんの顔がよく見える。

長くて綺麗なまつ毛。
ちょっと垂れた目尻。
さらさらでほのかに桜の香りのする髪。
そして、薄紅色の唇。

その時の凛には、唇が動くのがすごくはっきりと見えた。

その唇が、こんな言葉を紡ぐのが、はっきりと――

――――――



花陽「私でよければ『恋人』になってください」



――――――

――――――



凛は病気なのかもしれない。



ある人を見るたびに、凛の胸は張り裂けそうなくらいドキドキする。
まるで、死んじゃうんじゃないかってくらいドキドキして、体も熱くなる。

だけどね。
それがとっても、嬉しいんだ。
嬉しくて楽しくなるんだ。


真姫ちゃんは言ってた。

これは、やっぱり病気なんだって。


ドキドキしたり。
嬉しくなったり。
悲しくなったり。
楽しくなったり。
切なくなったり。

この病気のせいで、凛の心は休まることがない。
けど、それが楽しい。

この気持ち、これってまるで――



花陽「凛ちゃんっ♪」

凛「かよちんっ!」



これって、『恋』みたいじゃない?

……ううん。
これは、『恋』なんだよ。



――――――fin――――――

以上を持ちまして
『凛「凛、病気なのかもしれない」』
完結となります。

完結まで見てくださった方々
レスを下さった方々
本当にありがとうございました!
皆様のおかげで、完結までたどり着くことができました。

気づいた方がいるかわかりませんが
このSSはある曲をモチーフに書かせていただきました。
それがなにか気づいていただけたら幸いです。


前にも書きましたが、一応過去作を貼っておきます。
もしよければどうぞ。
【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」
【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416603707/)
【ラブライブ】海未「私たちの恋愛ゲーム、ですか?」
【ラブライブ】海未「私たちの恋愛ゲーム、ですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417028287/)


次回作の構想も、皆様のレスのおかげで思いつきました。
恐らく、『にこ』が関連するカップリングを書くだろうと思っております。
イケメンにこさんの乙女な部分を出したいので……。

長々となりましたが、またお会いできることを願っております。
ではm(__)m

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月10日 (水) 18:43:04   ID: IQD4Ic_m

最高に素晴らしかった
りんぱなたまらん

2 :  SS好きの774さん   2015年01月19日 (月) 16:51:53   ID: tGNyC0Ch

お返事、ください
とてもよかったです。

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