城ヶ崎莉嘉「Pくんに貼ってもらおう!」 (15)

・モバマス
・莉嘉視点の地の文のみ



●城ヶ崎莉嘉

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こういうの、さ。

みんながもっと注目するところへ、Pくんにいれてもらって、
それをみんなに見せびらかしたら、どんな気分がするかな。



ある日、事務所の休憩室に入ると、アタシのお姉ちゃんがウンウン唸っていた。
机には、テカテカ光るラミネートがいっぱい散らばっていて、
ママに見られたら『片付けなさーいっ!』って怒られちゃいそうな感じ。

大丈夫かなぁ、と思ってみてたら、
Pくんがやってきて、やっぱり片付けるように叱られちゃってた。

机の上にあった、ラミネートの一枚を拾ってみる。
ラミネートに厚紙が包まれてて、白い台紙に、黒でクモの絵が描いてあった。

あ。これ、タトゥーシールだ。


何でお姉ちゃんが、こんな机いっぱいのタトゥーシールを持ってるの?
Pくんに聞いてみると、事情を教えてくれた。

お姉ちゃんは、仕事で雑誌とコラボして、
付録につけるタトゥーシールをプロデュースすることになったんだって。
アタシたちはプロデュースって聞くと、Pくんの仕事しか頭に浮かばないから、
シールのプロデュースといわれてもピンとこないけど。

今のお姉ちゃんは、送ってもらったサンプルのなかから、実際の付録に使う候補を選んでるみたい。
Pくんによると、付録につけられるのは4種類だけなのに、サンプルは100種類ぐらいあるんだって。

これは、しばらくかかるだろうな~。
お姉ちゃん、見た目よりユージューフダン? だから。
買い物で服を選ぶとき、スパッと決められないし。

ちなみに、アタシが拾ったクモのタトゥーは、真っ先に却下されたみたい。
お姉ちゃん、ムシ全般がニガテだからな~。

アタシは、これイイと思うんだけど。
クモってスマートでセクシーな感じがするじゃん。




アタシは、せっかくPくんがいるので、
このタトゥーシールをPくんに貼ってもらうことにした。

雑誌のヒトは、このコラボにすごく気合が入ってて、
フツーだったらサンプルなんて紙に刷っただけの絵で選ぶのに、
なんとこのサンプルは全部、シールとして使えるんだって。
そういうことなら、お姉ちゃんが捨てちゃったシール、アタシが持って帰っちゃお☆

するとPくんは、ハサミとか、濡れタオルとか、ベビーオイルとか持ってきた。
どうやら、お姉ちゃんが試せるように最初から用意してたみたい。
カンジンのお姉ちゃんが、まだ試すところまでたどりついてないけど。

ナニナニどーしたのPくん、そんな紙切れ読んでさー。
もしかして貼ったことないんだ。ダメじゃん、そんなんじゃ。
お姉ちゃんに貼ってあげなきゃならないかもしれないじゃない!

これはもう、アタシのカラダで練習させてあげるしかないね☆
うわー、もーアタシすごくイイ子でしょ?
こんなアイドルをプロデュースできてPくんは幸せものだな~。




アタシは、このシールを右の二の腕に入れてもらうようお願いした。

Pくんがハサミでしゃらしゃらとタトゥーを切り抜いていく。
ハサミの刃が進んでいく様子から、アタシは不思議と面白く見えた。なんだかとってもワクワクする。
クモがけっこう細かいデザインだったから、Pくんは時間をかけて丁寧にやってくれた。



Pくんは、銀色の薄くて小さい、クスリの小袋みたいな包みを爪で切って開けた。
保健室に入った時みたいなニオイがする。
なかから取り出された白っぽい紙は、アルコールシートって言って、
タトゥーシールを貼る前の肌を拭くためにあるんだって。
そうしたほうがシールが長持ちするらしい。

Pくんがアルコールシートをアタシの肌にくっつける。ひやっ、ぞくっとしちゃう。
右の二の腕なんて場所にしたから、なんか予防注射みたいだよー。

そしてPくんが切り抜いてくれたタトゥーシールを、アタシの肌に貼って、
水分で絵を写してから、ラミネートと台紙を剥がす、ってコトね。

Pくんがタトゥーシールを、アタシの肌に貼ってくれる。
キレイに貼り付くよう、Pくんの指でシールが伸ばされる。
シールの薄くてツルツルした触り心地と、Pくんの抑えてくる指の動きで、
Pくんに印つけられちゃってるのかなぁ、とか思っちゃって、なんかこうウズウズと――

『あ……』ってPくんの声が聞こえる。どうしたのか見てみると、Pくんが固まってた。
そのすぐあとに、アタシも思わず『あ……』って言っちゃった。

アタシが肩のあたりをもぞつかせたせいで、タトゥーシールにシワが寄っちゃってる~!
ああーっ、失敗だぁ~!




Pくんにベビーオイルを塗ってもらって、ズレちゃったクモの絵柄を落とす。
塗ってもらってるほんのちょっとの間も、なんだかPくんの指で触られたところが落ち着かなくて、
もう自分でやったほうがうまくやれる気がした……けど、これPくんの練習だからね。しょうがないね。

クモのタトゥーシールが使えないから、代わりを探す。
カブトムシの絵とか、あったりしないかなー。さすがに見つからない。
もう一枚、今度はクモの巣のシールでPくんにお願い。
クモそのまんまよりも、もっとオトナっぽい感じがするかな。



Pくん、今度はサッと台紙を切り抜いて……ま、ほとんどただの六角形だしね。
アタシの二の腕に貼り付ける。アタシも、腕とか肩とか動かないように気をつける。

でもそう思ってると、Pくんの指の動きとか、今アタシの肌に色つけられてるのかーとか、
かえって意識しちゃう。寝よー寝よーと思ってると、逆にぜんぜん眠れないみたいな?
クモの巣は糸の模様が細かいから、ちょっとずれただけでも不格好になっちゃう。そんなのダメ。

Pくんの指が離れると、今度は濡れたタオルをあてられる。
ただ流しの水で濡らしただけなのに、すごく冷たく感じる。

30秒くらい経って、紙がふやけてきたら、
Pくんがアタシの肌と紙の間に爪を差し込んで、紙を剥がしてくれる。

Pくんはキレイに剥がそうと、ゆっくりゆっくり指を動かすから、
爪先で肌がくすぐられる、ほんのちょっとの感触が、くすぐったくて、
こんな先っぽだけの刺激なのに、しずまれ胸のリズム♪ なんて歌さながらに心臓が鳴っちゃう。
Pくんの邪魔をしないようガマンするの、もー大変だったよー。

そうして剥がし終わった後に、Pくんが手鏡でタトゥーシールの具合を見せてくれる。
うん、キレイに貼れてるじゃない☆ でも、まだオシマイじゃないんだな~。




最後の仕上げ。このままだと、肌とくらべてタトゥーシールがテカりすぎで、
いかにも『シールです!』みたいなニセモノ感が出ちゃってるから、
ツヤ消しパウダーでシールのツヤを落とすんだ。

もうここまで来たら、ちょっとぐらい腕が動いちゃったとしても、型崩れはしない。
でも、Pくんが耳かきのポンポンみたいな小さい棒で、パフンパフンとパウダーをはたいてて、
その肌にくる感触のせいで、アタシはそわそわしてたまらない。

二の腕から、肩だったり、首だったり、そわそわがいつの間にか広がってっちゃう。
わけわかんないよ。こんなあるんだかないんだかビミョーな感触でムズムズしてたら、
Pくんに変な子だと思われちゃうよー……あーそれは困る。

Pくんがしてくれると、アタシの肌に、ナニか気になってしょうがない感じが残っちゃうんだ。



思ったより手間取ったけど、やっとPくんにしっかりタトゥーシールいれてもらった。
二の腕にかかったクモの巣が、Pくんがアタシに残してくれた印みたいで、
眺めてるだけでも顔がニヤニヤしちゃう。いやぁー、やっぱり変な顔しちゃってたかなぁ☆



でも、二の腕に一ついれてもらっただけで、こんなになっちゃうんだったら、
みんながもっと注目するところへ、Pくんにいれてもらって、
それをみんなに見せびらかしたら、どんな気分がするかな?

そう言って、Pくんにもう一枚ねだったら、ダメだって言われちゃって、いれてくれなかった。
Pくんのケチー。タトゥーシールなら、お姉ちゃんのおかげでいっぱいあるじゃないー!



でも、この不思議と浮かれた気分もすぐ終わっちゃった。
タトゥーシールってさ、モノにもよるけど、けっこう熱に弱いんだ。

だから、オフロでちょっと熱めのお湯に触れると、少しずつ形がひび割れてきちゃう。
アタシがいれてもらった柄は、クモの巣だった。細かい線で模様を描いてるから、
ちょっとでも形が崩れると、全体がダメになる。

Pくんがつけてくれたものが、グズグズになっちゃうのが悲しくて、
アタシはシャワーを浴びせて、二の腕の肌からクモの巣を落とそうとする。
クモの巣の黒色は、往生際悪くへばりついてて、左手でこすり続けてやっと見えなくなった。

カラダのなかから、何かが抜け落ちちゃったような、ひどく寂しい感じがして、
二の腕では、シャワーの雫が弾けるのも、お湯の温度も感じなかった。

あーあ、また、Pくんにお願いしなきゃいけないなー。


(おしまい)


読んでくれた人どうも。

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