P「ティッヒー☆ミ Pチャン実は帰ってきてましたー!」貴音「」 (127)

このSSは>>1の投下ミスでシッチャカメッチャカになってしまった前スレ(恥)
”P「ティッヒー☆ミ Pチャン実は帰ってきてましたー!」貴音「」”
を仕切り直したものです。ご迷惑をお掛けします。

当初は貴音スレのつもりでしたが、765プロメンバーは全員登場の予定。
それぞれとそれっぽくイチャイチャしていく系です。

書き溜めは途中まであります。長いです。
軽度のキャラ崩壊などありますので苦手な方はご注意ください。

それではノーミス目指してがんばります。よろしくおねがいします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417349720

貴音(光陰矢の如しとは言いますが、月日の経つのは まこと早いもの)

貴音(あなた様が研修のために遠くあめりかの地へと旅立ってから、かれこれ一年という月日が経とうとしています)

貴音(あなた様が旅立った当初は、ひとり月を眺めて頬を濡らす夜も無かったとは申しません)

貴音(されど弱音ばかり吐いていては、遠く異国の地でひとり研鑽に励むあなた様に示しが付かぬというもの)

貴音(わたくしはあなた様を思い、もう二度と泣くものかと固く誓ったのです)

貴音(いつなんどき帰ってこられても、胸を張って「おかえりなさいませ」と言えるように……)

貴音(……さて本日は事務所で簡単な打ち合わせのあと、収録のためにろけ地まで向かう手筈)

貴音(この時間ならば今日はわたくしが事務所に一番乗りかもしれませんね)

扉 ガチャ

貴音「おはようございま」

ドンッ

貴音「あっ、申し訳ありませ……」

P「っとと……。おお、貴音。おはよう」

貴音「……!!」

P「あ、そうだ。こほん。ティッヒー☆ミ Pチャン実は帰って来てましたー!」サプラーイズ!

貴音「」

P「……って、少し痩せたか貴音? 髪も伸びたようだし、なんだか更に大人っぽくなったな」

貴音「……あ……」ジワッ

P「ん?」

貴音「……あなた様……」ポロポロ

ひしっ

P「お? おう、俺だぞ。あっはは、どうしたどうした。
  しばらく見ない間に泣き虫になったのか?」ぽんぽん

貴音「……ううっ~……うっ……うえええ……」ポロポロ

P「……オーウ。よしよし、驚かして悪かったな。ほんのサプライズのつもりだったんだが」

貴音「……すんっ あなた様はいけずです……ひぐっ
   ……せっかくの再会だというのに……このような、このような……っ!」

P「あっはは、悪かった悪かった。この通りだ貴音、ソーリー、許せ」ぽんぽん

貴音「許しませんっ…すんっ…あなた様のようなお方など……
   わたくしは……わたくしはぁっ……」ぎゅ~っ

P「……ああ、この綺麗な髪。それから優しい匂い。
  透き通った声に、相変わらずの意地っ張り。
  ハハ、本当になにもかもが懐かしい」ぎゅっ

貴音「すんっ……どう、して?」

P「……いや、実はな? 向こうで任されてた歌手の子が、ビルボードで初登場一位を取ってくれたんだよ」

P「そしたら向こうの偉い人が『お前に教えることはもう何もない』って太鼓判を押してくれたんだ。
  ほんとはあと何ヶ月かはアメリカにいる予定だったんだけどな」

貴音「……ぐすっ」

P「最後の一ヶ月、いろいろあってめちゃくちゃいいマンションに住んでたんだけど、窓から見える月を眺めてたら……」

貴音「……」

P「ふと貴音、元気でやってっかなーって思ったんだ。
  そしたら一気に765プロのみんなが懐かしくなっちゃって、気付いた時には帰りの飛行機の中」

貴音「……」ぎゅっ

P「まぁ突然日本に帰るって宣言しちまったから、向こうで少し揉めてな。
  そのゴタゴタでこっちには直前まで連絡出来ずにいたんだけど、いざ連絡してみたら社長が
  《ティンと来た! 電撃帰国サプライズにしたまえキミィ!》とか言うもんだから、
  俺も《ファック! イイっすねそれ!》なんつって……まぁその、ノリノリで……」

貴音「……たい」

P「ん?」

貴音「……度し難い、と申したのです……すんっ……高木殿も、あなた様も」すんっ

P「ハハ、いやまったく仰る通りだ。
  しかし参ったな、まさか泣かしちゃうとは思ってなかったんだ。音無さんだって……」

貴音「……?」

P「ん、実は音無さんな……って、そうだ貴音。
  そういや俺まだ貴音から言ってもらってないことがあるんだけど」

貴音「……なん、でしょう……」

P「ほら、日本ではさ、帰ってきた人に対して必ず言う言葉があるじゃないか。な?」

貴音「……知りません……っ そのようなこと……っ」

P「ハハ、つれないナー。っつってもまぁ俺のせいなんだけど……」

貴音「……」

P「しかしなぁ、これじゃあまだ日本に帰ってきたって実感がこうイマイチ湧かないんだよなぁー」

貴音「……連絡もなく勝手に帰ってきて、実感もなにもないものですっ……それに……」

P「それに?」

貴音「……こ、このような顔をあなた様にお見せするわけには、参りません……/////」

P「貴音……」

貴音「お、女には色々とあるのですっ。
   よもやあなた様、あめりかでそのような簡単なこともお忘れになったのですか?」すんっ

P「……ああ、そうだな、そうだった。だけど貴音、聞いてくれ。さっき言いかけたことだけど……」

貴音「……」

P「音無さんな、さっき俺を見るなり驚いて《プロモーターさんッ!?》って叫んだきり、
  何かを後悔したような顔のまま気を失っちゃったんだよ。だから俺、まだ誰からも言われてないんだアレ」

貴音「……小鳥嬢……きっとさぞ驚いたのでしょう……」

P「プロモーターさんて……惜しいよな。惜しいけど、らしいよな」

貴音「で、ではその……もしわたくしがあなた様にそれを申し上げれば、わたくしが……」

P「ああ、初めてだ。そうなる」

貴音「……すんっ」

P「……」

貴音「……分かりました。だ、だいぶ落ち着いて参りましたので……この際です。恥を忍んで言わせて頂きます……」フゥ

スッ

貴音「あなた様……」涙フキ

P「なんだ、貴音」

貴音「……おかえりなさいませっ」ニコッ

P「ああ! ただいま、貴音!」ギューッ

貴音「…えっ……あっ……あなっ//////」

ガチャッ

春香「おっはようございまーす! 天海春香、今日も元気に……

   アイエエエエエーッ!? ナンデ!? プリョレウサーナンデ!? そしてタカニェサンとハグナンデェ~!?」

貴音「はっ、春香!? あっ、誤解です、これはその…っ!//////」

P「(ニヤッ スゥ…)」

P「ハァァァァルゥカァァァァーッ!」

貴音「」ビクッ!

春香「」

P「……」

貴音「」

春香「」





P「ティッヒヒィー☆ミ Pチャン実は昨日帰ってきてましたァーッ! What a サプラァーイズ!」

ハァルゥカァ「」

ハァルゥカァ「……ササササッ、サップラァーイズ!?」

ハァルゥカァ(サプライズ、つまり驚かし……なら、これはドッキリ!? いつから? いや、どこから?
   さっき自販機で紅茶を買ったらおしるこが出てきたのは……いや、あれはとりあえず忘れよう!
   なら、貴音さんとプロデューサーさんが誰もいない事務所で抱き合っていること、これ自体がサプライズ!?
   いや、さっきの貴音さんのリアクションはとても演技とは思えなかった! ということは……そうだ!
   貴音さんも同じドッキリに掛かったクチに違いない!
   そこに私が登場したことでこのドッキリを継続させる方向に……流れている! そう「空気」が流れている!
   するとつまり、ハハァーン、恐らくこれは社長とプロデューサーが仕込んだ対765プロ用の電撃帰国身内ドッキリ!
   ならッ! 今ここで天海春香が取るべき行動は一つ! 《もー朝から事務所でなにやってんですかァー! とか言いながら途中で転びつつ
   その勢いでプロデューサーさんの腕の中に飛び込むこと》! これしかない!) (ここまで0.05秒)






ハァルゥカァ(……それしかない、はずなのに……)ジワッ





春香「……プロデューザーざぁ~んっ」ポロポロ

タッタッタ ひしっ!

P「ハルカァ! ひっさしぶりだなぁハルカァ! ハッハァ! 元気にしてたかハルカァ!」

春香「ぐすっ、元気でじだぁ~、元気にじでまじだよぉ~! ふえぇ~えっ」

P「そーうかそうかァ! どうやら俺がいない間も頑張ってたみたいだなァ?
  俺が教えた《高速バラドル思考法》も、ずいぶん早くて正確になったじゃないかァ! ヒャハッ! 偉いぞハルカァ!」

貴音「(高速……バラ……?)」

春香「早くなりまじだぁ~っ! なりまじだげど、いま、いま……プロデューサーさんを目の前にしたら……
   ぐすっ! 思っだ通りに動げませんでじだぁ~っ」ポロポロ

P「……」クスッ

ぽんぽん

P「……なに言ってんだ、それでいいんだぞ春香。
  バラドル思考法なんか飛び越えたところにある根っこからの素直さが、春香を特別な女の子にしてるんだ。
  それはまぎれもない春香の魅力だよ」なでなで

春香「プロデューサーさぁ~ん……」ぐすっ

P「そしてお前はバラドル思考法をクセになるまで練り上げて、しっかり自分のモノにした努力家でもある。

心配すんな。お前の目を見れば俺にはちゃんと分かる。紅茶を買ったらおしるこが出てきちゃったのか?

まったく、そんな時にも自然とリアクションするんだから、やっぱりお前はバラドルのカガミだよ。俺の自慢のアイドルだ」

春香「ふえぇ~っ……えっ、ふっ…ふうっ…ふへぇ/////」

貴音(ニヤニヤが隠せてませんよ春香)

P「……またみんなと一緒に仕事させてもらうことになるけど、俺もなにかと流行には疎くなってるだろうからさ。

なにかあったら色々と教えてくれると助かる。頼りにしてるぞ春香」涙ふき

春香「ぐすっ……えへへ、はいっ! わたし嬉しいです! プロデューサーさんに頼りにしてもらえる日が来るなんて!」

春香「今までお世話になってきた分の恩返しも出来るように、ぐすっ、えへへ、わたし頑張ります!」

P「ああ! だけど春香は頑張りすぎるところがあるからな。体調には気を付けて、ちゃんと適度な休暇を取るんだぞ?」なでなで

P(ピクッ)

春香「テヘッ、気を付けます♡ それじゃあプロデューサーさん、改めましてっていうのも変ですけど……こほん!おかえりなs」

P「シッ!」

春香「モガッ!?」

P「……まずいな。すまん、二人とも少し離れててくれ」スーツの上着脱ぎっ

貴音(なんと/////)

春香(シャツ越しでも分かる……すごいカラダ……/////)

P「コイツは……」

P(スゥー……ハァー……)













P「命に関わる」









事務所のドア バターーーンッ!!

貴音・春香「!?」ビクー

美希「この感じッ! ハニィッ!? ハニーが帰ってきてるのッ!?」

春香「み、美希……?」

貴音「ええ、プロデューサーならこちらに……!?」

春香「え!? あっ! いない!」

貴音「そんな、つい今しがた……!」

美希「ハニッ……!?」

P「ここだよ、美希」後ろからぎゅっ

美希「ふあっ…♡」とろん

P「……南西からすごい勢いで向かってくるプレッシャーがあると思ったけど、やっぱり美希、お前だったか」

美希「はにぃ……いちねんぶりに会ってスグ、あすなろ抱き、なんて…っ♡だめなの、ミキ、そ……それ……っ♡」モジモジ

P「いいよ」(ボソッ)

美希「(っ!? )」ぞくぞくっ♡

P「見せてごらん、美希の成長したところ」(耳元でボソボソッ)

美希「(だ、だめ、たかねとっ、はるかに見られてるのに……っ ミキ、ほんとに、ホントっ♡にっ♡)」もじっ もじっ

P「……ずっとあいたかったよ、美希」(ボソッ 耳たぶカリッ)

美希「(みっ、ミキもっ! ミキもっ!♡
   あっ、あいっ、イッ♡♡ッ はっ♡イッ ……くぅっ♡~~~~~~~♡♡♡!)」

ぎゅうううううううっ

P「ツッ!」ピクッ

美希「……っ……はぁっ!♡はっ、はっ、フーッ、フーッ、フーッ♡」フルフル…

春香「た、貴音さん? もしかして美希、いま……」

貴音「……春香、それは言わぬが花というものです。しかし……」

春香(美希の顔……すごい/////)

貴音(なんと妖艶な/////)

美希「……はぁっ♡ はぁっ は、ハニィ……お顔、見せて……?」

くるっ

美希「ちゃんと……、はぁっ、見てて、くれた……? ミキの、成長した、ところ……♡」

P「……ああ、見てたよ。綺麗になったな美希。本当に……」なでなで

美希「ふああ……っ やっぱり、美希のハニーは……素敵、なの……♪」スッ

春香(あっ! まさか美希、どさくさにまぎれて!)

貴音(くちづけを!?)

美希「……~~~っ きゅう……」クタッ

P「おっ、と。どうやら気を失ったみたいだ」抱きとめ

春香・貴音(ほっ)

春香「って《どうやら気を失ったみたいだ》じゃないですよ! あなた一体ナニやってんですかナニを!」

貴音「(……小鳥嬢が健在なら、ナニってそりゃナニでしょう、とでも言いそうなシチュエーションですね。それも嬉しそうに)」

P「なにって、見たまんまだよ。まぁギリギリセーフってところだな」

春香「アウトですよアウト! 朝っぱらから女子高生をイっ……!」

P「イ?」

春香「その、えっと……そう! アレ! アレさせるのの、一体どこがセーフだって言うんですか!」

P「まぁ、今のが倫理的にどうかって言われるとな……
  少なくともアメリカでは超絶アウトだ。児童ポルノ的に」美希をお姫様だっこ

春香「いや日本でもアウトですよ、アウト!」プンスカ

P「そうでもないさ」(美希をソファにもたれ掛けさせる 反対側では小鳥さんがノビてる)

P「これでよし、と。まったく可愛い寝顔だな。そうか、美希ももう高校生に……
  いや、それよりも貴音、悪いけど救急箱を取ってきてくれないか?」

貴音「はい、そう仰ると思い、こちらにお持ちしておきました」

P「ありがとう、さすが気が効くな。じゃあついでに包帯もお願いしていいか?」

貴音「ええ、よろこんで」

春香「……包帯? 美希がどこかぶつけたんですか?
   って、プロデューサーさん! 腕から血が出てますよ、血が!」

P「……ああ。さすがは美希とでも言うべきなのかな。なんとか左手一本で済んだ」ポタポタ

貴音「では、あのときあなた様の仰った《命に関わる》というのは、このことだったのですね?」

P「ああ。きっと美希は朝起きると同時に直感で俺の存在を感じ取ったんだろ。
  想念(おもい)の濃度が高過ぎて力場(フィールド)を5次元方向に向かって歪めるほどだったからな。
  下手をすれば事務所にヘリが突っ込んでくるくらいの事象を喚んでしまう可能性があったんだ」

春香「……は、はい? フィールド? ごじげん?」

P「ハハ、観測者達(月のやつら)は今頃度肝を抜かれてるだろう。まったく大した『天才』だよコイツは」ナデナデ

美希「えへへ……はにぃ~……♪ zzz」

貴音「あなた様、そのお話は」ジッ

P「ん? ああ、そうだったな。だけどな貴音、これだけは言っとくぞ」

P、貴音の顔を見つめ

P「俺はいつだって『お前たち』の味方だ。天地神明に誓っていい。この意味、分かるよな?」

貴音「あなた様……まことに、まことに嬉しゅうございます……」ホロリ

春香(な、なんだろう、唐突に意味不明なSFコント? が始まったはいいけど、瞬きしてる間に蚊帳の外……
   って違う! そんなことより!)(0.00007秒)

春香「そんなことより! その腕はどうしたんですか!?
   一体いつそんな深い傷を……最初はそんな怪我なかったはずです!」

P「これは……さっき美希が俺の腕に思いっきりしがみついた時、性エネルギーの爆発的な加速膨張に共鳴した美希の第5リミッターが外れて……」

貴音「あなた様」ジッ

P「……参ったな、どうにも慣れない。
  まぁとにかく、さっき美希にスゲェ力で腕を掴まれた時に引っ掛かれたんだよ。
  『流石は美希』ってところだな、イテテ(棒)」

春香「……なんだかみょ~に納得いかない感じが残りますけど、
   下手するとそれこそ命に関わるレベルの嫌な予感がするので深く問い詰めるのは止めておきます」

春香(ただ単に美希のあすなろ抱きとお姫様だっこが羨ましくてゴネてたってだけだし…)

P「賢明だな。直感力はアイドルにとって必要条件、なによりそっちのほうが長生き出来る」

貴音「ふふ、あの瞬間に思いつく最善の策を講じられたのでしょうが……
   あなた様も無茶をなさいます。少々妬けてしまいました。はい、腕はもう大丈夫ですよ」

P「はは、ありがとう。さて、そろそろ勘のイイのがもう一人か二人、あのドアを蹴破って入ってくるころなんだが」

春香「ええ!? 美希みたいなあんなニュータイプめいたのがまだウチにいるんですか!?」

P「いや、あれとはちょっと方向性が違う勘の良さだよ。今度のは、なんというかこう……」

事務所のドアバァーーーーン!

伊織「どうせ帰ってきてるんでしょッ!!面ァ見せなさいこのバカプロデューサー!! 」

P「世界の闇を知ってる」

伊織「ッ!! やっぱり……ッ!! こんの……
   アホバカドグサレイカレポンチの変態ドグサレプロデューサァァァー!!」ズカズカズカ

ガッ! グイッ(胸ぐら引っ掴み)

P「あはは……よう伊織。相変わらず元気そうだな」

伊織「ふざけんじゃないわよ!! 何が《よう伊織》よ!! 一体なにがどうなってんのか説明しなさい!!」

春香「ちょ、ちょっと伊織! いきなり現れてどうしたの急に!? プロデューサーさんにそんな」

伊織「春香は黙ってて! あたしはこのバカに聞いてるのよ!! さぁ答えなさい!! あんたアメリカで《一体何をしてきた》っていうのよ!?」

P「いやぁ、ハハ。話せば長くなるというかなんというか」

伊織「しらばっくれるんじゃないわよ!! なんなら今すぐはっ倒して吐かせてやってもいいのよ、ええッ!? なんとか言ったらどうなのよッッ!!」

貴音「……およしなさい、伊織」スッ

伊織「な、なによ貴音! そんな目で見たってあたしは怯まないわよ!? 邪魔するってんならいくらアンタだって容赦しないんだから!」

貴音「……わたくしも春香も、そして貴女も酷く混乱しています。
   どういった経緯があるのかは分かりませんが、まずはどうかプロデューサーを信じてあげて下さい」

伊織「あ、アンタに……アンタに何がわかるってのよ! このバカがやったことはアンタたちには……!」

貴音「ええ、分かりません。ですから、どうか伊織の口から教えて下さい。
   どうしても話せないというのならそれも結構、しかし対話する姿勢も見せないままいたずらに混乱を煽る今の貴女の様は……
   率直に言って、およそ美しいとは言えません」

伊織「……ッ!」(ギリッ)

P「……」

貴音「なにより……貴女もこの殿方を慕い、身を賭して信じ抜くと決めた仲間の一人だったはず。
   ですから伊織、どうか……」

伊織「……フンッ!」パッ

P「ふぅ……伊織、まずは謝らせてくれ。このとおりだ。すまなかった。それに貴音、春香も」

春香「あ、いえ……私にはもう何がなんだか(ひええ、あんなに怒ってる伊織はじめて見たよ……)」

伊織「……なによ、じゃあやっぱり私達に謝らないといけないようなことをしてきたってわけ?」

P「いや、そうじゃない。俺は死んでもお前たちの不利益になるようなことはしないよ」

伊織「じゃあなんでアンタは……ッ!」グッ

貴音「……伊織、話しては貰えませんか?」

伊織「……」キッ

P「……」

伊織「……」ジッ

P「……」コクリ

伊織「……ハァ、分かったわよ。あんな所見られちゃったわけだし、いまさら全てを隠そうってのも無理な話よね。
  この際だからアンタ達二人には話せるところまでは話す。その代わり他言無用よ。いいわね?」

貴音「……ええ、ありがとうございます、伊織」

春香「う、うん。ありがとう(うわー、なんかまたヤバイ空気だよこれー……(0秒))」

伊織「……アンタ達には黙ってたけど、ウチの事務所の周辺は水瀬の息のかかったソルジャ……
  んんっ! 警備チームが監視してるのよ。24時間体制でね」

P(暗部のことか)

伊織「もちろんあたしはそんなの必要ないし、世話になるつもりもないって言ったわ。
  だけど水瀬には水瀬のケジメがあるって、お爺様がね」

春香「け、警備チーム? ぜんぜん気付かなかった……」

貴音「ええ、よもやそのような……」

P(……役者だな、貴音)

伊織「……今朝早く、その警備チームが事務所の近くで一人の男を拘束したの。
   結論から言うとそいつはアメリカの……多分、知らない方がいいところから送られてきたエージェントだった」

春香「……ぷっ! ダウト~! それはさすがに無理があると思うよー伊織?
   いくらなんでもエージェントって。ふふっ、ねぇ、プロデューサーさん?」

P「……」

春香「……プロデューサーさん?」

伊織「春香」

春香「な、なに?」

伊織「……アンタはこれまで、本当に幸せな人生を過ごしてきたのね。
  ううん、バカにしてるんじゃないの。今ほどアンタみたいな人を羨ましく思ったことはないわ」

春香「え? ち、ちょっとまってよ伊織、今のは……その、伊織なりの冗談で……」

P「……」

伊織「……そうね。シャレやジョークで済むんだったらどんなにいいかしら。
  でもね春香、これは全部本当の話なの。いま話したことも、そしてこれから話すことも」

春香(ゴクリ)

伊織「……ずいぶん前からその組織が事務所と水瀬のことを調べてることは分かってた。
  なかでも特に入念に調べてたのが水瀬の最末、このスーパーアイドル伊織ちゃんのこと。
  ただひとつ分からなかったのは、その《理由》よ」

P「……」

伊織「昨日拘束された男は、これまで数多の任務をこなしてきた名の知れた熟練エージェントだった。
  にも関わらず、その男は絶対的に準備不足だった。まるで急遽、想定外の任務に就くことになったかのようにね」

(伊織、Pの顔を睨みつけ)

伊織「765プロ、水瀬、アイドル、そして《アメリカ》……。これらを一直線上に結び付ける共通項は一つしかない。
  そしてこれまで情報戦しか仕掛けてこなかったあいつらが、慌てたようにエージェントを現地に送ってきた理由。
  ……思い当たるフシは一つ。しかもそれがこのバカ面だって言うんだから、怒りもするわよ」

P「……さすがのご明察、いや、勘の良さか。恐れ入るよ」

伊織「……女の勘ってやつよ。お兄様たちもこれだけは買ってくれてるの。今朝早くに報告を聞いてすぐにピンときたわ。
  それでいざ事務所に飛んできてみれば、案の定そのバカがバカ面ひっさげて帰ってきてるし……」

P「ハハ、期待に添えて嬉しいよ」

伊織「っ……このウルトラドグサレバカ!! この際だからハッキリ言うけど、死ぬほど心配したんだからね!!
  アンタ自分が一体どこを相手にしてるか分かってるの!?」

P「まぁそう怒るなよ。手打ちは済んでる。一応な」

伊織「一応!? 一応ってなによ!? そんな甘いことで身を引くような連中じゃないってことくらいアンタにだって……!」

P「分かってる。本当だよ。手打ちが済んでるっていうのも嘘じゃない。
  ただその効力が発揮されるのに、もう少し時間が必要ってだけ」

伊織「……っ! なによ、この伊織ちゃんがこれだけ心配してやってるのよ!
  なのに当のアンタがそんなに落ち着き払っちゃってるなんて……。これじゃまるで……」

P「……」

伊織「……これじゃあ、まるで……」

春香「伊織……?」

伊織「(グッ)……ねぇ、アンタ一体どうしちゃったの? アメリカで一体……なにをやってたっていうの……?」

P「……なにって、プロデューサー研修だよ」

伊織「~~~ッッ! この、あたしをバカにするのもイイ加減に……!」

P「伊織」スッ 伊織のほっぺに手を当て

伊織「っ!」






P「それ以上は、お前も知らない方がいい」

伊織「~~~~ッッ! でもっ、だってそれじゃあアンタがっ……!」

P「聞いてくれ。確かに伊織の言う通り、そのエージェントは俺をマークしていた男に違いない。
  準備不足のまま追って来るなんて奴らしくないけど、俺も急な帰国だったから仕方なかったんだろう。
  《向こう側》に付いてる奴だが、そいつ自身は決して悪い人間じゃあない。二人で酒を飲んだこともある。本当だ」

伊織「……」

P「実はな、白状すると、さっきまで俺は貴音と春香に
  『ティッヒー☆ミ Pチャン帰って来てましたー! サプラーイズ!』とか言ってふざけ倒してたんだ。
  まぁ正直今の話は関係ないんだけどな。とにかくこんな俺を信じてくれっていう方が無理だってのは分かる。だから……」

伊織「……」

春香(えっ 今のなに?)チラッ

貴音(春香、ここは空気を読みましょう)ヒソヒソ

春香(一番空気壊してたのプロデューサーさんだと思うけど……)ヒソヒソ

貴音(春香)ジッ

春香(うう……。嗚呼そしてまた蚊帳の外……)

P「……信用してくれなくていい。だからせめて、俺にもう少し時間をくれないか?
 いつかちゃんと、全部話せるようにするから。な?」

伊織「……」うつむき

P「……」真剣なカオ

伊織「……なによ、自分勝手なことばっか言っちゃって……」

ほっぺのPの手に自分の手を合わせ

P「……すまん」

伊織「……もう、分かったわよ。アンタがそう言うなら待ってあげる。
   その代わりアンタもあたしに約束しなさい。いざとなったらあたしと水瀬を頼ること。いい?」

P「いや……ハハ。それはちょっと……」

伊織「嫌だって言ってもあたしの権限で無理矢理介入するから。
   そうなったらアンタ、両方から追っかけまわされることになるんだからね。分かる?」

P「えー……。いや伊織、それはホントに勘弁してほ」

伊織「それが嫌ならっ!」キッ Pの手ぎゅっ

伊織「……お願い、もうこれ以上……危ないことしないで……」涙 一筋ポロリ

P「伊織……」

伊織「分かったわね?」強い目でジッ

P「……」

伊織「……」

P「……ああ、分かった。約束する」

伊織「……そう。ならこの話は不問にしてあげるわ」

P「色々とゴメンな、伊織。それと……ありがとう」涙の跡を指先でスッ

伊織「ふんっ、アンタは初めからこの伊織ちゃんの言う通りにしていればいいのよ! 昔みたいにね!」

P「……ハハ、しばらく見ない間に、伊織はまた器が大きくなったな」

伊織「あったりまえじゃない! あたしを誰だと思ってんのよ!
   そ、それに……あたしだって最初からアンタのこと……てる…し……」

P「……ん?」

伊織「……さ、最初からずっとアンタのことを信じてるって言ったのよ! 文句あるっ!?」

P「な、ないです」

伊織「ふんっ! この鈍感難聴変態プロデューサー! /////」

春香「あはは、伊織、耳まで真っ赤」

貴音「……成長しましたね、伊織」

くぐもった声『ククク、話は全て聞かせてもらったぞ』



伊織「だ、誰っ!?」バッ

P「……落ち着け伊織、お前が俺を庇ってどうする」後頭部ペシッ

伊織「あたっ! な、何すんのよ!」

P「心配しなくてもあいつに敵意は無いよ」ナデナデ

伊織「あ……(この大きな手……ひさしぶり……/////)」

春香「プロデューサーさん、今のが誰の声か分かるんですか?」

P「まぁな。さっき言ったろ、勘のいいのが一人か二人って。あれは……」

事務所の扉 ギィ……

P「もう一人の方だ」

響「はいさーい! 久しぶりだぞプロデューサー!」口許のマフラークイッ

P「おう、久しぶりだな響」

春香「ってなんだ響ちゃんかぁ」オザーズ

響「な、なんだとはなんだ失礼な! それにプロデューサーもリアクション薄いぞ!
   そういう雑な扱いは春香と小鳥の役割のはずさー!」

伊織「アンタそれも失礼よ。小鳥にね」

春香「あはは、それも失礼だからね伊織」

貴音「ふふっ。おはようございます、響」

響「おはようだぞ貴音! 伊織に春香、それにプロデューサーもっ!」

P「ああ、おはよう響。今朝チラッとスケジュールを確認したけど、今日は現場に直行の予定だったよな。
  にも関わらずお前がここに居るってことは、やっぱり俺が帰って来てるのに気付いてたのか?」

響「そうだぞ! 自分、完璧だからな!」

響「ハァ……。わかったぞ、白状するさ。
  実は今朝イヌ美達の散歩に出かけたとき、街中のハトがプロデューサーのことを噂をしてるのを聞いたんだ」

春香「は、ハトがプロデューサーの噂をしてたの?」

響「うん。『きた、きた、《平和の人》がきた』ってみんな口を揃えて言ってたんだ。
  今までそんなこと一度も無かったから気になって話を聞いてみたら、どうやら765プロのことを言ってるみたいだったから
  ……もしかしてプロデューサーが帰ってきたのかもしれないって思って」

伊織「……ふぅん、なるほど動物ね。それで《響にしかない》カンってわけ」

P「まぁ、伊織も鍛えれば出来るようになると思うけどな」

伊織「遠慮しとくわ。この伊織ちゃん相手に口うるさいのなんてアンタ一人いればそれで十分よ。
   ……(ハッ!) や、やっぱり今のなし!/////」

P「? おう、わかった」

春香「にしても、プロデューサーさんが《平和の人》っていうのはどういうことなんだろう。
   ハトが《平和の鳥》だっていうなら分かるけど」

貴音「その平和の鳥たちから《平和の人》とまで呼ばれるとは、わたくしたちのプロデューサーは余程の平和主義者なのですね」

伊織「それは人間がハトに対してつけた勝手なイメージでしょ。当のハトたちはそんなこと微塵も気にしてないんじゃない?」

P「……まぁなんにせよ、いつまでもそんな玄関口に立ってないで入ってこいよ。寒いだろ?」

響「いやぁ、そうしたいのは山々なんだけど……実は……」

P「分かってるよ。せっかくの再会なんだ、気にするな」

響「ほ、本当!? 自分、どうなっても知らないからな!?」

P「おう。任せとけ」

響「へへ、ありがとうだぞプロデューサー! イヌ美、入っても良いってさ!」

タッタッタッタ ぬっ

イヌ美「ハッハッハッハッ」尻尾フリフリ

春香「お、おおう……やっぱり大きいなぁイヌ美は」

イヌ美「ハッハッハッ」キョロキョロ

イヌ美『あっ、ここ知ってる! 知ってる場所! 響ちゃん、知ってる場所だね! きたことあるね!
    あっ! 知ってる人いっぱいいる! 会ったことある人いっぱいいるね! お菓子の匂いがするね! コーヒーの匂いもするね!
    色んな匂いがするね! あっ人間のオス!』ガバッ

P「あっはは、相っ変わらず可愛いなーイヌ美は。
  俺も出来ることならお前を孕ませてやりたいんだけど、ごめんなー。
  俺たちの間では赤ちゃんできないんだよー。残念だけど諦めてくれなー」ナデナデ ニコニコ

春香「えっ」(ドン引き)

貴音「」(ドン引き)

伊織「……あ、アンタ……」(ドン引き)

響「ひっ」(真っ青)

P「……ん? なんだ、どうしたみんな。そんな公然とハナクソ食ってる奴を見るみたいな目で見て……」

春香「……いや」(ドン引き)スッ

貴音「……その」(ドン引き)スッ

伊織「……自覚なし?」(ドン引き)スッ

響「……なぁ、も、もしかしてプロデューサー……」タジッ

P「ん?」

響「イヌ美の言ってること……分かるのか……?」

P「ああ、大体な」しれっ

春香「ええっ!?」

貴音「なんと!」

伊織「嘘でしょ?」

響「う……うわあああああああっっ! わああああああああっ! わー! わー! わーーー!!」

伊織「ち、ちょっと、突然どうしたのよ響! まさか脳にハエでも入ったの!?」

春香「発想力がエグい! って違う! とにかく落ち着いてってば響! 美希と小鳥さんが起きちゃうから!
   これ以上カオスになったら誰も得しないから!」

響「だって! だってだってだってぇ! うわああああん! たかねぇえぇ!」ぎゅっ

貴音「大丈夫、大丈夫ですよ響。ほら、ぼぶまーりーも言っていたではありませんか。
   きっと全てがうまく行きますから、大丈夫です」

伊織「アンタも英語苦手なわりには渋いの聞いてるわね……」

貴音「ええ、千早に教えていただきました。のーうーまん、のーくらいですよ伊織。それに響も」

響「びえーん」ぐすぐす

春香「(ボブ……? 格闘家の人かな?)
   うーん、少なくとも私にはイヌ美がプロデューサーにじゃれついてるようにしか見えなかったけど……二人は?」

伊織「あたしだってそうよ。
   犬の言ってることなんて分かるわけないじゃない」

貴音「ええ、わたくしも同じく。
   しかし響のこの取り乱し様は……
   どうやらイヌ美の言っていたことというのが関係しているようですが」

伊織「……ハァ、なによアンタ、ついに犬の言葉まで分かるようになったってわけ?」

P「犬のっていうか、大体の生き物の言ってることは分かるようになったな。
  犬、猫、鳥、馬、それから牛……最近は調子が良いときなら花とか樹木の言葉も分かるようになった。
  ああでも、虫だけは未だに分からないなー。どうも俺たちとはまったく別のプロトコルを使ってるみたいでさ。
  どちらかといえばコンピューター言語に近いというか……」

伊織「……アンタが何言ってんのかサッパリ分かんないけど、これだけは言っとくわね。
   それはそれで引くわ」

春香「はは、まあまあ。
   突然なんの脈絡もなく《犬を孕ませられなくて残念宣言》するようなプロデューサーよりはいいんじゃない?
   あれ? あダメだそれこの人だ」

P「いやいや、いくら犬っつっても女の子だぞ?
 『貴方の赤ちゃんが欲しい』とまで言ってくれてるのに無下に扱うのは失礼だろ?」

伊織「……すごいところで律儀さのバランス取ってんのねアンタ。
   ってじゃあ何、イヌ美はそんなこと言いながらアンタの顔を舐め回してたわけ?」

春香「もっと言うと、伊織はそんなこと言いながらプロデューサーさんの顔を舐め回してるイヌ美の尻尾で顔を叩かれまくってたね」

伊織「……ぐっ! なんなのよ、生まれて初めて感じるこの感情は……!
   なんというかこう、うまく言葉に出来ないけどっ、言葉に出来ないんだけどぉー!」ムキー!

P「おいおい、犬相手に何をそんな」ハハ

伊織「倫理感のバランスどうなってんのよアンタ!」

貴音「……しかし、だとしても響のこの反応は異常です。
   貴方様、もしやイヌ美は他にも何か言っていたのではありませんか?」

P「……あー、っと……響がテンパってるのは多分……」

響「言うなぁ! お願いだからそれ以上言わないでぇ!」うえーん

P「……まぁ、そういうこと」

貴音「……ふむ、イヌ美の言動と響の反応からから察するに……」

伊織「……ま、推して知るべしってやつね」

春香「あはは、だいたい予想はつくけどね。災難だったね響、それからイヌ美も」イヌ美ナデナデ

イヌ美『? 響ちゃんの《かなしい》が多いよ? どうしたの?
    響ちゃんのかなしいが多いとイヌ美もかなしいが多くなるよ……
    響ちゃん響ちゃん……どうしたの? 大丈夫?』クゥーン……

春香「ほら響、イヌ美も反省してるみたいだし、元気出して?」

響「うう……いくら変態プロデューサーだからって、まさか動物の言葉まで分かるようになるなんて思わなかったぞ
  ……ハトの話の時に気付くべきだったさ……」

P「いやいや、そう落ち込むなよ響。俺は素直に嬉しいぞ」ナデナデ

貴音「その通りですよ響。ほら、響が落ち込んでるのを見て、なんだかイヌ美も元気がないようです」

イヌ美「クゥーン……」耳しょぼん…

響「うう……自分もうどんな顔してプロデューサーの顔見ればいいかわかんないぞ……」

P「……はぁ。まったく、響は一度拗ねると長いからな。しかたない、強行手段だ」スッ

貴音にひっついてる響の両脇に手を伸ばし

P「ほーれ、笑え響ー」こちょこちょこちょ

響「~!? うはっww うははははwww はっ! ちょっプロデューサー
  それズルっ! やめっ、あはっw あはははははははwww!!」

貴音「あっ、いけません響……そのようなところで暴れては…… んっ♡」ピクン

春香(いちいちエロいなぁ」

伊織「聞こえてるわよ春香」

響「そ、そんなこと言ったってプロデューサーがっ! www ちょっ、ホントにダメだってば! あは、あははははっwww!」

P「じゃあいじけるのやめるかー? もうイヌ美に心配かけないかー?」ぴたっ

響「そ、それは……その……」はぁ はぁ

P「ハイ、おかわりでーす」こちょこちょこちょこちょ

響「~~~っ! ぐっ、ちょっwwww わかっ、分かったから!www 普通にするっ、からぁーっ!」

P「ホントかー? 約束するかー?」こちょこちょこちょこちょ

響「するっ! するからっ! ほんとにっ、普通にするっwww からぁーっwww !」

P「ん、ならよし」ぴたっ

響「はぁ……はぁ……この、セクハラ変態プロデューサーめ……/////」

P「むむっ、生意気なやつ。かくなる上は……」スッ

脱力した響をくるっと向かせて、両脇に手を伸ばし

P「ほれ、たかいたかーい」ぐいーん

響「うわわっ、ちょっ、今度はなにするさー!?」

P「これでようやく眼を見て喋れる」ジッ

響「あっ、うう……/////」目逸らしー

P「……まったくコイツは、成長したんだかしてないんだか、完璧なんだかそうでもないんだか」

響「こ、こんなのズルいぞプロデューサー……自分、普通にするって言ったのに……/////」

P「聞こえませーん。なのでこのまま続行しまーす」

響「うう……自分、その……前よりちょっとだけ……その……」

P「大丈夫だぞ、自分めちゃくちゃ鍛えてるからな」肩の筋肉モリッ

響(ほ、ホントだ……前に見たときよりずっとガタイが良くなってる……/////)

響「ってそういう問題じゃないぞ! 乙女のカラダにベタベタ触るなんて一体何考えてるんさ!/////」

P「なにって、響のことに決まってんだろ」

響「……えっ、あっ、……えええ……/////」

P「響、お前本当はさっき登場したときよりもずっと前に事務所に着いてたな?」

響「な、なんでそれを……」

P「玄関まで来たはいいけど、俺と伊織が揉めてるのを聞いて中に入るのをやめた。
  それからこの寒い中、わざわざ空気を読んで良いタイミングを狙って入ってきた。そうだな?」

響「うう……/////」

P「はっきり言うがな響、あれは良いタイミングなんかじゃなかった」

響「ええっ!? そ、そんな……自分また間違えちゃったのか……?」ジワッ

P「いいや、違うぞ。あれは《完璧な》タイミングだった」

響「っ!! ……」ウルウル

P「俺がいない間もしっかり成長してるじゃないか。
  昔はよく番組でトンチンカンな間の取り方をしてたけど、今の響は土壇場でも完璧なタイミングを測れるようになった。
  それどころかマフラー使ってわざと声をくぐもらせて、しかもセリフまで用意するアドリブつきだ。正直、俺は感激したよ」

響「プロデューサー……」ポロポロ

P「……なぁ響、俺はお前たちのプロデューサーじゃないか。
  心配しなくても俺はお前のことをちゃんと知ってるし、ずーっと見てる。
  今更恥ずかしがったりされたら、俺だって悲しいぞ?」

響「ちがう……自分、そんなつもりじゃなくて……」

P「ああ。それも分かってる。だから約束だ、もうこれ以上ヘンに恥ずかしがったりしないな?」

響「……っ」涙ふきふき

響「えへへっ……うんだぞっ!」ニコッ

P「よし! はは、やっぱり響は笑顔が一番……」

イヌ美「バウッ!」ガバッ

P「うわっイヌ美、今はマズ……ッ」グラッ 響ズルッ

響「へ?」

春香「あ、危ない!」

響「う、うわあぁーーー!







…… ……あ、あれ? 痛くない……?」ぎゅっ

P「かっ、間一髪セーフ……」しりもちついたけど……

響(え? 自分いま……もしかしてプロデューサーに抱きしめられてる?)

P「……怪我は無いか、響?」ジッ

響の顔を覗き込むP。至近距離で真剣なカオ。
Pの匂いに包み込まれ……。

響「……あ、……、大丈夫……です……/////」きゅんっ きゅんっ

P「はは、敬語になってるぞ響。そんなに驚いたのか」ニコ

響「…… …… /////」ぽーっ

P「……響? どうした、やっぱりどこか打ったんじゃ」

響「……ハッ! ぜ、全然へっちゃらだぞ! ピンピンしてるさ! ほらこの通り、なんくるないさー!」バッ

Pから離れてぴょんぴょん 手足グルングルン

P「本当か? それなら良いんだけど……。いや、今のは俺の悪ふざけが過ぎたな。怖い思いさせて悪かった」

響「ぜ、ぜぇーんぜん!? 自分感激、いや完璧だからな! あれくらいのことでトキメ、じゃない、驚いたりしないぞ!
  本当だぞ! 特に今日は天気もいいし、イヌ美もいるしなー!」

春香(うわぁ、分かりやすい)

伊織(天気とイヌ美はぜんぜん関係ないけどね)

貴音(イヌ美……心なしか、まるで一仕事終えたとでも言いたそうな顔をしていますね)

響「そ、そうだ! そういえばそろそろテレビ局に向かわないといけない時間だったぞ!
  本当はうちから直接行く予定だったから、早めに出て早めに向かわないといけないなぁ!
  よしイヌ美、自分たちはそろそろおいとまするぞ! な、イヌ美!」

イヌ美「バウッ」

響「そうかそうか、正直自分だってよくわかんないぞ! だけど今はとにかくテレビ局に向かおうな!
  うん、そうしよう! それじゃあみんな、自分は収録に行ってくるぞ! じゃあねー!」リードグイー

ガチャッ バタンッ

ダダダダダダダダダダダダ……

< うわあー! わあああ! わあぁぁぁ…… ……!

春香「 …… …… 」

貴音「 …… …… 」

伊織「 …… …… 」

P「……おかしな奴だな」

伊織・春香「アンタが言うな!」

貴音「ふふっ、今日の響はいつにも増して可愛らしいですね」スケジュールボードチラッ

ー そのころ ー



響(うがぁー! ついついプロデューサーから離れてしまったばかりか勢い余ってそのまま飛び出して来ちゃったぞ!
  収録まであと四時間もあるのになんてもったいな、いやそうじゃなくて! そうじゃないけど、でもっ……でもっ!)





響(プロデューサーが! 帰ってきたぞぉぉぉぉーーーーーっ!)泣き笑いマジダッシュ

イヌ美(響ちゃん嬉しそう? 悲しそう? 楽しそう? 残念そう? ……イヌ美よくわかんない。
    でもなんだか幸せだよ! 幸せっていいね響ちゃん! ねっ、響ちゃん!)尻尾フリフリ



………………
…………
……

春香「……さて」(会話の中に編集点を仕込んでくるバラドルの鑑)

春香「響がいなくなっちゃったからうやむやになったままだけど、
   結局プロデューサーが《平和の人》っていうのはどういう意味だろう?」

伊織「それよりまずはアンタが動物の言葉までわかるようになった経緯よ。そっちが先だわ」

貴音「おや、存外興味を持っているようですね、伊織」

伊織「べつにそんなんじゃないわ。ただ、百歩譲って犬や猫の言葉だけならともかく
   草や花の言葉までわかるなんていくらなんでも異常よ。
   それともなに? アメリカじゃプロデューサー業ってのはそんなことまで出来ないと務まらないわけ?」

P「いやいや、もちろんそういうわけじゃないよ。そうだな、どこから話したらいいものか……」

伊織「最初からに決まってるでしょ。かいつまんで説明されたって理解できる気がしないもの」

春香「あはは、確かに」

P「……最初からか。そもそものキッカケは、俺が研修中に出会ったとある禅僧に座禅を勧められたことなんだ」

貴音「なんと! あめりかの地にも修験者の類がいるのですか!」

春香「えっ、ここにきて貴音さんが今日一番の食いつき」ビクーン

P「ああ、むこうはそういうスピリチュアルな文化が日本よりもオープンに受け入れられてるからな。
  精神鍛錬と集中力アップの一環として、禅が研修のカリキュラムに組み込まれてたんだよ」

伊織「なにもアメリカに行ってまで座禅することもないでしょうに……」

P「はは、いい経験にはなったよ。それでその禅僧ってのがまたちょっと変わった人でな。
  なぜか俺のことを気に入ってくれたみたいで、何度か会ううちに
 『お前には特別に秘伝を教えてやる』みたいなことを言い出したんだ」

春香「ひ、秘伝?」

貴音「してその内容とは!?」食い気味

P「ザックリ言えば、この世界には俺たちの使うような音声に頼った言語を超越した言語があって、それは俗に《世界の言語》と呼ばれている。
  それは人間の思考する領域よりもずっと根源的な、言わば超意識的な情報網のようなもので、俺たち人間はもとより犬や猫といった動物、
  樹木などの植物はもちろんのこと、風や砂漠・海や雨といった諸々の現象ですらその《世界の言語》のネットワークと繋がっている。
  そして絶えず、一秒間にウン兆ウン億ウン万回という頻度でお互いに情報を交換し合っている、みたいなことだった」

春香「あ、春香さんギブアップです」

貴音「……なるほど。森羅万象、万物の一切はみな想いを共有しているということですね」

伊織「それってあれじゃないの? なんとかっていう心理学者の説いた…コレクト…なんだったかしら」

P「コレクティブ・アンコンシャス(Collective unconscious)、心理学者カール・ユングの説いた《集合無意識》のことだな。
  確かにその僧も言ってたよ、《世界の言語》と《集合無意識》は基本的には同じものだって。さすがは伊織、博識だな」

伊織「あったりまえじゃない! って、でも待ってよ。
   《集合無意識》はあくまでもメタフィジカル……形而上学的な領域の概念であって
   形而下の存在であるあたし達が実際に意識して思考することは出来ないはずだわ」

のヮの「?????」

貴音「つまり、例えば《風が考えていること》というものがあったとして、
   その内容を人間である私たちが実際に知ることは出来ないということです」

のヮの「……?」アタリマエデショ

貴音「風とは言いませんが、実際にイヌ美の言葉を理解しているのが響であり、プロデューサーなのです」

のヮの「……!」スゲェ!

P「ここでさっきの《平和の人》って話にも繋がるんだが、その僧曰く、
  心の中にインナー・ピース《自分自身の中の平和》をもたらすことが出来れば
  自然と《世界の言語》の解読方法がわかるように出来ているってことだった。
  そこに短期間で到達する方法こそが《秘伝》だったわけだ」

貴音「やはりその《秘伝》は、教えていただくわけには参りませんか?」

P「そうだな、これはちょっと教えてやれないんだ。とは言っても、もうほとんど答えを言ってるようなもんだよ」

貴音「ふむ。ではいずれ響にも話を聞いてみることにしましょうか。なにかひんとが得られるかもしれません」

伊織「つまりまとめるとこういうこと?
   アンタはその《秘伝》とやらのお陰で《世界の言語・集合無意識》を解読できるようになった。
   イヌ美の言葉が分かっていたように見えたのは実際の所《集合無意識》を解読していた」

P「正確に言えば《集合無意識を介してイヌ美の言葉を解読した》って感覚だが、概ねその通りだ。要約ありがとな伊織」

伊織「なんなのよ」

春香「それ! ここまで来るともうそれしか出てこないよね」あはは

貴音「なるほど、つまりあなた様はこの一年間で急激に啓き(ひらき)つつあるということですね。まこと、感服いたします」

伊織「貴音、アンタのセリフ奪うようで悪いけどね、これほど面妖なことそうそう無いわよ」

P「はは、俺なんてまだまだだよ。
  昔読んだ小説に似たようなことが書いてあって、それが印象に残ってたっていうのもあるしな。
  そうだ、みんなも興味があるなら読んでみるといい」

春香「へぇ、なんていう小説ですか?」

P「ブラジル人の作者が書いた、アルケミストっていう作品でな。内容が濃いわりには短い話だから数日で読めるぞ」

伊織「……アルケミストって……錬金術士? ちょっとアンタまさか」

P「いや、大丈夫だよ。俺は《そっち》じゃない」

伊織「なら、うん……。いいんだけど」

春香(……あはは、《そっち》って何? なんて聞ける雰囲気じゃないですね)

貴音「あなた様、一つお尋ねしたいことがあるのですが」

P「ああ、俺を試そうってんだろ?」

貴音「! ……ふふっ。いえ、今の貴方様のお言葉で十分です。失礼いたしました」

P「そうか。じゃあラーメンは来週食いに行こう」

貴音「! それは誠ですか!」

P「ああ、その《オススメの店》ってのに是非連れてってくれ。
  美味いラーメンなんかしばらく食ってないからな、とびきりの奴を頼むよ」

貴音「はい、よろこんで!」にこっ

春香「……え、つまり今のって」

伊織「……《読んだ》んでしょ、貴音を」

春香「」ホゲェ

P「ああ、ちなみに普段は人のこと読んだりしてないからな。《そういうふうには使えない》もんなんだよ。
  だから春香の体重が増えたことなんか全然わかんないから安心してくれ」

春香「なっ、なななななっ、なんでそれをっ!?」

P「はは、残念。今のはカマかけだ」

春香「チクショウ! なんだよ、なにもかもがうまくいかねェ! どうなってんだよチクショウ!」机ドン!

伊織「……仮にも人気アイドルがなんて言葉使ってんのよ」

ガチャ

律子「おはようございまーす。ちょっと春香、外まで聞こえてたわよー。あんた一体なんて言葉遣いを……」

P「あ、先輩だ。おはようございまーす」

貴音「おはようございます、律子」

伊織「おはよう。どう、察した?」

春香「律子さん見てくださいよ! コレ(P)がコレ(ここ)なんですよ、コレがコレ!」

律子「……えっ? あの、…… ……な、なんで……?」

P「えーとな、実はアメリカで……」

貴音「(スッ Pを遮り)春香、律子に説明して差し上げなさい」

春香「(ティン!)はい! つまりですね、これは社長とプロデューサーさんが仕組んだ
   ドッキリと言う名の悪ノリですよ、悪ノリ!」

律子「ど、ドッキリ? だって現にプロデューサー殿は……
   ははぁ、読めたわ。それで悪ノリね」

P「ハハ、ヒドいな」

伊織「アンタがね。色んな意味で」

貴音「ふふ、ほんのささやかな仕返しです」

律子「……その様子だと、あんたたちもその悪ノリの犠牲になったクチね。
   それでそっちでノビてるのが……小鳥さんと美希か。まぁ、さもありなんってところかしら」

P「さすが視野が広いな。おおかた察している通りだよ。
  留守中いろいろ迷惑かけたと思うけど、まずはなんだ、久々に会えて嬉しいよ律子」

律子「……いえ。私も納得してプロデューサー殿を送り出したわけですからね、なにも気に病んでいただくことはありませんよ。
   なにより私自身の成長に繋がりましたし、プロデューサーには感謝してるくらいですよ、本当に」ツン

伊織「にひひっ、素直じゃないわねー。そういうところ、ほんと変わらないわね律子」

春香(ハハ、伊織がそれをいうかな)

貴音(伊織はこれでも素直になったほうですよ春香。さきほどの悶着の際にも……)

伊織「そこ、なにをコソコソ話してんのよ」

春香「べっつにぃー? プロデューサーさんがいない間、よく伊織と律子さんがお互いを励ましあってたなーって」

律子「は、春香っ! 余計なこと言わなくていいの!」

貴音「ええ、そういえばそうでしたね。『もっと素直にしていればよかった』と口を揃えて言っていました」

律子「貴音まで! ち、違うんですよプロデューサー殿! これはその、そうじゃなくて」

伊織「そ、そうよ? だからあたしはコイツが帰ってきたらもっと素直にしようって決めたの。なんか文句ある?」

貴音「……ふふ、もちろんありません。強くなりましたね、伊織」伊織ナデナデ

伊織「トーゼンよ! 伊織ちゃんの成長力はハンパじゃないんだから!
   ま、どっかの誰かさんはまだまだ素直になりきれてないみたいだけど?」律子チラッ

律子「うっ、むう……////」Pチラッ

P「……ティッh

春香「させないっ!」ガバッ

P「なッ!?」羽交い締められ

春香「ふふっ、分かってましたよ? 隙あらば例の『ティッヒー☆ミ』に繋ごうとしていたようですが、
   そうはいきません! ここにいるみんなが律子さん会心のデレを見たがっているんです!」
   (どさくさでプロデューサーの美マッスルボディに密着しちゃった! 役得!)

P「これは愉快! よもやこの俺がお前のような美少女に背後を取られようとはなァ!
  なれどかつては《考える肉機関車》とまで呼ばれたこの私! この程度で封じられたと思っては困ァーるッ!」

貴音「……では、これならいかがでしょう?」Pの右腕にピタッ

P「不覚ッ! まさか長年我が半身として連れ添った右半身が貴音のような美女にこうもあっさり制圧されてしまうとはッ!
  愉快だ! 実に愉快だぞ! かくなるうえは左半身の力を以ってして、背後の春香もろとも引き剥がすほかないというもの!
  ただし! もし万が一! 左半身の自由まで奪われたりするようなことがあった場合はその限りではないかもしれない!」伊織チラッ

春香「……」チラッ

貴音「……」チラッ

伊織「……はいはい、やればいいんでしょ……」Pの左腕にピタッ

P「なっ、なにィーッ!? よもや伊織のような美しい娘が直々に! おのれ765の三人娘!
  これではまるで身動きが取れない、わけでもないがお前たちに手荒なマネは出来ないから
  やっぱり実際のところ全く動けないような気がしてきましたね、はい!」

春香「さぁ律子さん! 今です!」ぎゅっ

貴音「この機を逃してはなりません律子嬢!」ぐいっ

伊織「……え、えっと……?」くいっ

律子「……っ!」コクッ

律子「ぷっ、プロデューサー殿!」

P「はい!」

律子「…………おっ……!」










律子「……おかえり、なさい。その……私も会えて嬉しい、です……/////」

春香(デレたぁーっ!)

貴音(よく頑張りましたね、律子)

伊織(あ、血が滲んでる。腕の怪我大丈夫かしら、コイツ)ジッ

P「(うずっ)あー、まぁなんだ……(うずうずっ)律子、ティh」

春香「この後に及んで『ティッヒー☆ミ』なんてやったらホントに嫌いになりますよプロデューサーさん」ボソッ

P「……! た、ただいま律子! 今までみんなを任せっきりにしてて悪かったな! それと、ありがとう!」

律子「た、大変だったんですからね、本当に。
   でも自分の成長のためになったっていうのは本当ですから、その……/////」

律子「と、とにかく! それはもう言いっこなしです!
    悪かったと思ってるならこれからのお仕事で応えてください! /////」

P「ああ、それはもちろんだ!
  俺が戻ってきたからには今まで苦労をかけた分、うんと楽をさせてやる……というふうにはぶっちゃけならない!
  これまで以上に忙しくなると思ってくれ!」

律子「……ふふっ。ええ、その覚悟は出来てますよ。
   私たちをこんなに待たせたあなたが、私に楽をさせていられる程度の成長しかして来なかったなんて、
   そんなの到底認められませんからね」

春香「そうですよ! 律子さんの言う通り!」

貴音「ええ、思えばこの一年間、土壇場での律子の気概には助けられてばかりでした」

伊織「アンタだけじゃなくて、あたしたちだってこの一年間でちゃーんと成長してんのよ。そこんとこ、分かってる?」

P「……ああ、やっぱり765の屋台骨は律子だよ。本当に、さすがは俺の憧れた先輩だ」

律子「ほ、褒めても何にも出ませんよ! それよりアンタたちはいつまでプロデューサー殿にひっついてるのよ!
   ほら、コント(用)が済んだらもう離れなさい!」シッシッ

貴音「あん、律子のいけず」スッ

春香「ちぇー、デレるまでもう少し粘ってくれても良かったのに」(当ててたのよ)

伊織「べっ、べつにあたしは引っ付きたくて引っ付いてたんじゃないわよ!
   ただコイツの腕の怪我が心配でいてもたってもいられなかっただけなんだから!」

春香「なにそのツンからデレへの早業!? 新ジャンル!?」

律子「はいはい、バカなこと言ってないで、アンタたち3人と美希は私と一緒に移動!
   予定外のことで時間を食っちゃったから打ち合わせは行きの車中でします!
   貴音、悪いけど美希を起こしてきてくれる?」

貴音「……その役はぷろでゅうさぁにお任せした方が美希は喜ぶと思いますが」

律子「プロデューサー殿にはこの時間を使ってザッと引き継ぎをしてもらいます。
   ちょっと荒技になりますけど、今日からでもお渡しできる仕事はいくらでもありますからね」

P「ああ、よろしく頼むよ」

律子「はい、ではこちらへどうぞ」ぐいっ

伊織「あっ、ちょっと!」

律子「伊織は音無さんを起こしてきてちょうだい。
   春香は眠気覚ましのコーヒーでも作ってあげて。いいわね?」

春香「たはは、なーんかついでっぽいなー私の役割」

伊織「……はぁ、しょうがないわね、今日のところは譲ってあげるわ」

律子「ふふっ、悪いわね。
   さぁプロデューサー殿、私のデスクへ参りましょう♪」腕組みー

P(いや、自分で歩けるけど……とは言わないでおくかな)

律子「~~♪ はい、取り敢えずこちらがみんなの直近のお仕事と、その進行度をまとめた書類です。
   ある程度はルーチン化されていますし、1年前と比べると各自が主導的に動いてくれるようになりましたから、おおまかな要点だけをまとめてあります」

P「ありがとう。どれどれ、千早はレコーディングで、真と雪歩が番組収録、あずささんはオフか。
  うん、オフのタイミングもバランスも申し分ない。それから……へぇ、亜美とやよいが一緒に番組! それから真美が……舞台稽古?」

律子「ええ。真美本人の強い希望で今は役者の道を広く模索しています。
   少し前に大きな役を頂けたんですが、期待以上の出来でした。ドラマ班からもよく声がかかるようになりましたよ」

P「……そうか、真美は自分のやりたいことを見つけられたんだな。あの歳で偉いじゃないか」

律子「あの子には、亜美に対するコンプレックスのようなものがありましたからね。
   今は自分の道を見つけて、一生懸命に進んでいます」

P「感激だな。まるで娘を持つ父親にでもなったような気分だよ」

律子「……それ、本人には言わないほうがいいですよ」

P「はは、言えるかそんなこと。まだ結婚すらしてないんだぞ俺は」

律子「いやそうじゃなくて……ハァ、もういいです」机の引き出し開け 中の書類取り出し

律子「そしてこちらがここ1年分のみんなのデータです。
   個別にまとめてありますので早めに目を通しておいてください」

P「おお、助かるよ。みんなと離れてた時間を埋めるのに……
  って、なんだそれ? 引き出しの中に……写真立てか?」

律子「へ? わあっ!/////」引き出しガン閉じ

P「うおっ(ビクーン)ど、どうしたんだ急に、なんかまずかったか?」

律子「な、なんでもないですから! 本当に! 気にしないで下さい!」/////

P「そ、そうか? まぁ、俺もよくは見えなかったから……」

律子「そそ、そうですか! 別に心配するほどのことじゃないですよ! あはは!」

律子「(うう……迂闊だった……まさか本人に見られてしまうとは……。
   だけどピンチはチャンス、いまこそ攻めの姿勢を見せるのよ、律子!)」

P「ま、いいや。書類ありがとな。さっそく使わせてもら」

律子「(そ、そうだ!)プロデューサー殿っ!」

P「は、はい!(ビクーン)」

律子「とっ、突然こんなこと言うのはオカシイって思いますけど!
   実はあの写真立て、そろそろ中の写真を入れ替えようと思ってて……その……」

律子「(グッ 言え! 言うのよ律子!)それで……も、もし良かったら、写真を撮ってくれませんか……?」

P「ああ、なんだそんなことか。いいぞ、俺が律子を撮ればいいのか?」

律子「そ、そうじゃなくてですね……その……私と……ふ、ふ……(ふたりで……/////)」



『ゆっ、夢じゃなかったの! ほんとのほんとに、ハニーが帰ってきてるのー!』

『ええ、まこと喜ばしいですね』



律子「(ハッ! 美希が起きた! 時間がない……こうなったら!)
   プロデューサー殿、笑って下さい!」Pと腕組み スマホ取り出し

P「えっ?」

律子「ハイ撮りますよー! せーのっ」

P(ああ、そういうことね)クスッ

パシャリ

美希「見つけたのっ! ハニー!」ガバッ

P「うおっと!」

律子「きゃっ!」

美希「ハニーっ! ハニーハニーハニィィィィーっ♪
  さびしかったの! 会いたかったの! おかえりなさいなのー!♪」Pの首に腕回して抱き着き

P「ああ、ただいま美希」片手で美希を抱きとめ 片手で律子を支え

P(大丈夫か、律子?)チラッ

律子(……え、ええなんとか)コクッ

美希「ミキねっミキねっ、最初はいつもみたいに夢だったのかなーって思ったの!
   だけどねっ、目を覚ましてもやっぱりハニーがそばにいる感じがして、
   今度は夢じゃなくてほんとのほんとなんだーって思ったら、もうドキドキが止まらないの!」

P「はは、もしかしたらまだ夢の中かもしれないぞ? なんならほっぺでも抓ってやろうか?」

美希「ふふっ、ううん!」Pの顔見つめ

美希「そんなのより、も~っとキモチイイ方法で確かめてもらったから、それはもういいの♪」

P「あっ」

律子「……ふぅん、キモチイイこと、ですか。聞き捨てなりませんねェ……?」

P「えっとね律子、それは……」マイッタ

美希「あはっ! 気にしなくていいのハニー、律子ってば単にヤキモチ妬いてるだけなんだよ?」

律子「だっ、誰がヤキモチにゃんか!」

美希「噛んでるのがそのショーコだって思うな」

律子「こ、この子はァーっ!」



ギャーギャー! ナノナノ!



貴音「……ふふ、賑やかですね」

春香「ええ、ほんとに。懐かしいなぁこの感じ」

伊織「美希とやり合う律子もなんだか久しぶりに見る気がするわね……にしても本当に起きないわね小鳥は。ひょっとして死んでんじゃないの?」

小鳥「ムニャムニャ……うへへ……もう食べられない……んだろう?」ニヘラ

春香「あはは、どんな夢見てんだろう」

伊織「……ちょっともう、いいかげん起きなさいってばー」ほっぺグイー

小鳥「ううーん、米 × 胃なのか胃 × 米なのか……消化とは果たして……zzz」

律子「と、とにかく! さっきのはどういう意味なのか説明してくださいプロデューサー殿!
   帰国早々いかがわしいスキャンダルは困りますよ!」

P「まぁその、止むに止まれぬ事情があって、美希を後ろから思い切り抱きしめたっていうことですよね」目そらしー

律子「……それも十分問題ですけど、本当にそれだけですか? ほんっとうに?」

P「えーっと……ついでに耳にあるツボを刺激したりしたかなー?」

律子「……」ジトーッ

P「だから多分それのことかなー?」

美希「まさかミキを春香と貴音の前で思いっきりイかせたとは言えないの♡」(Pの耳元でボソッ)

P「」

律子「……?」

美希「あはっ☆ ねえハニー? ハニーはあの時ミキたちのことを思ってしてくれたんだよね?
   ああしないとミキ、とんでもないことになってたかもしれないんだよね?」

P「! 美希、おまえ……」

美希「……ミキね、分からないけど、分かってるよ?
   夜寝る前にハニーのことを強く思うとね、天井のずっと先でキラキラがついたりきえたりして
   なんだかハニーと繋がってるなって思えることが何度もあったの」

律子「……??」

美希「今朝のミキね、ハニーが帰ってきてるって思ったらぶわーってなっちゃって。
   嬉しいんだけど、なんだかそのままバラバラに千切れちゃいそうで、だけどどうしようもなくカラダは動いちゃって。
   このままじゃミキだめになっちゃうかもーって思ってた……。そんな自分が、本当は凄く怖かったの」

P「……」ジッ

美希「だけどね、ハニーに抱きしめられた瞬間、
   ピタッてなって、なんだかココロがグルンってなったの。それでそのまま……あはっ☆」

P「……そうか。美希、やっぱりお前はすごいな」

美希「そうだよ? ここ一年間のミキの成長たるや、それはもういちじるしいパなさなの(エッヘン)
   だけど、それもぜんぶハニーのおかげなんだよ? ハニーはミキの宇宙なの、えへへ」

P「はは、そりゃ光栄だ」

美希「だからね、ハニー? これからもちゃーんとミキがキラキラしてることろ、見ててくれなくちゃヤだよ?」

P「当たり前だ。一番近くで見てるよ」ニコ

美希「あはっ☆ ハニーが見ててくれるなら、ミキはこれから何万倍も何兆倍もキラキラできるのー!」ぎゅうっ

P「ハハ、まるで矮星だな。核融合でも始めるつもりか」

美希「えへへ、それじゃあミキは今日から765の、ううん、みんなのフリーエネルギーになるの!」

P「おお、それいいな! 頂きだ! 律子、今度の定例ライブで美希のコーナーに……」

律子「……」ジトーッ

P「……今の……文句を……」

律子「…… ……」ジトーッ

P(><)っっっ

律子「そんな顔してもダメです! 空気を読んで黙っていれば、なんですか!
   要領を得ない話を聞かされたかと思えばいつまでたってもイチャコライチャコラ、
   ラブラブコメコメ、ゆるゆるとふわふわと! あなたの片腕に抱かれたまま二人の会話を聞かされる私の身にもなってください!」

P(><)すいませんっ

律子「なーにが《核融合でも始めるつもりか》ですか!
   上手いこと言ったつもりですかカッコイイつもりですか恥ずかしくないんですか!
   ライブではもちろん使いますけどプロデューサー殿はもうちょっと考えてからものを言ってください!
   あんなふうにそんなこと言われたら女の子は好きになっちゃうに決まってるじゃないですか!」

P(><)おっしゃるとお……

P「えっ」

律子「……ハッ!」

美希「心配しなくても、とっくの昔からミキはハニーにベタ惚れなの。ねっ、ハニー?」

P「俺に振んの!? でもありがとうっ! 本当に嬉しい!」

美希「どういたしましてなの♪」

律子「ほらまたぁー! 隙あらばラブるコメるのをやめてくださいって言ってるんですよもおおお!」

小鳥『修羅場の気配ッ!』ガバッ

春香『ええーッ!? こ、ここでェーッ!?』

小鳥『春香ちゃんコーヒー頂くわね! 貴音ちゃんは三行で状況を説明して! それから伊織ちゃんはそんな目で見ないで!』ゴクゴク

貴音『待ちに待ち 想い焦がした さる人を
   宇宙(そら)と慕うは
   吾(あれ)も同じき』サラサラ

小鳥『……私だってそう思ってますぅー! ってことね! あーもう、なんかもーアレねー! たまんないわねー!』ゴクゴク

春香『すごいですね貴音さん、よく即興であんな……』

貴音『いいえ春香、あれはいわゆる心情の吐露というものですよ』ふふ

春香『……?』

伊織『……ま、即興ではなかったってことよ』ハァ

美希「だいたい、ハニーとふたりで隠れて写真なんか撮ろうとしてた律子にとやかく言われたくないって思うな。
   腕まで組んでたの、ミキ見たもん」

律子「なっ!///// (バレテター)こっ、この子は……今だってプロデューサー殿にずっと抱き付いてっ!
   いいかげんに離れなさい! それに律子《さん》だっていつも言ってるでしょっ!/////」

美希「じゃあ机の中にハニーの写真を隠し持ってる律子さんには言われたくないの!
   ミキわかるよ、どうせ新しい写真が欲しいとか言ってハニーを誘った決まってるの!」

律子「」/////

律子「……み、みみ、美希いいぃっ! ああああ、あんたよくもぉっ!」/////

P「……はいはいその辺にしとけ律子。美希も無駄に煽るなー」

律子「ぷ、プロデューサー殿! だって美希が!」/////

美希「フーンなの」

P「……やれやれ、このコンビは相変わらずだな。
  まさか俺の腕の中でまでケンカするようになるとは、恐れ入ったよ」ハァ……

スッ

P「……ほれ律子、もう収録に行くんだろ?
  俺は他の子達の所に顔を出してそれぞれ対応していくから、今日のところはお前んとこの子だ。
  シッカリ面倒みてやれよ」美希を律子に渡す

律子「……アンタ今日の収録後のレッスン、覚悟しときなさいよ」

美希「フフーン、望むところなの!」

P(お?)

美希「本当はハニーと一緒がいい! って言いたいところだけど、ミキはもうただのわがままさんじゃないの。
   今日のところはガマンしてあげる! プロ意識全開なのっ!」

P「……そっか。えらいぞ美希」ぽんぽん

美希「えへへ、トーゼンなの! 今のミキは最強モードだよ! それとね」律子の腕ぎゅっ

律子「え?」

美希「律子さん、ハニーのこと変に疑わないで欲しいって思うな。
   確かにミキはハニーになら何されてもいいって思うけど、ミキはちゃんとアイドルだよ。
   命懸けの、プロのアイドル星井美希なの。だからファンのみんなや事務所のみんなを裏切るようなこと、ミキ絶対にしないの!」

律子「~~~っ///// あーもう、わかった、わかりましたー! 」ぎゅーっ

小鳥『すわまさかの美希律シメ! これはレアですねー、いやあなんだか感動しちゃうなー僕ァ!』

伊織『……きょうび《すわ》なんていう人初めてみたわ』

美希「えへへ、律子さんのオッパイあったかいの」

小鳥『ブーーーーーッ! いまの破壊力ゴイスー! 最強モードの美希ちゃん最強過ぎるわー!』

春香『なにが? とは聞いちゃいけないんですよね?』

貴音『あったぱい』ボソッ

伊織『え!?』

貴音『……なにか?』しれっ

伊織『べ、べつになんでもないわ……』(あれ? なんでちょっと悔しいんだろう?)

律子「も、もう! ほら、これでいいでしょ! それよりいいかげん出掛けないと入り時間に遅れちゃうわよ!」///// パッ

美希「あんっ♪ ちぇー、律子さんのいけずー」

律子「いけずで結構! さっき貴音にも言われたわよ! ほら、支度しなさい。あんた達も準備はいいわねー!?」

三人+小鳥『はーい』

春香・貴音・伊織・律子『ってなんで小鳥さんが!? 改めまして、ありがとうございました!』

本当の本当に仕切り直し篇の第一部・完

今度はいぬ美が孕むところ抜けてないか

仕切り直し篇の第一部まで終わりです。多分ミスはないと思います。

お風呂に入ってから再開します。

今日は第二部の前編(亜美・やよい)と、中編の書けているところまで投下します。

もう少しお付き合いください。

>>68
ほんとだ、やっちまいました。
マジで突然「犬孕ませられなくて残念」って言っている人になってますね。

ご指摘本当にありがとうございます。

>>32の次にこれが入ります

P「おっと。ハハ、久しぶりだなぁイヌ美! 元気だったかー? んー?
  ほれ、よーしよしよし、よーしよしぶふっ、ぶっ! かっ…顔を……www
  ブフッwww 顔をなめるなwww ぶふっwww ぷふーっwww」

イヌ美『あっ! このオス知ってる! イヌ美このオスの人のこと覚えてるよ! 響ちゃんが大好きなオスの人でしょ!
    響ちゃんが大好きなオスの人のことイヌ美覚えてるよ! いいにおいだから覚えてるよ! でもこのオスの人とんでもなく強くなってる!
    においですぐに分かるよ! すっごく強いよ! イヌ美この人の赤ちゃん欲しい! この人の赤ちゃん妊娠したいっ
    妊娠っ ねっ、いいでしょっ 赤ちゃんっ 強いオスの赤ちゃ』グイー

響「ち、ちょっとイヌ美、突然なんてこと言い出すんさ!
  ご、ごめんねプロデューサー、イヌ美ってば久々に事務所に来れて喜んでるみたいで……
  ちょっ、イヌ美、プロデューサーから、離れるんだぞ!コラ、もう!
  プロデューサーから、は・な・れ・てぇー!」リードグイー

春香「あっはは、イヌ美、すごい勢いで尻尾ふってる。久しぶりにプロデューサーに会えて、相当嬉しかったんだね」

貴音「そうでした、たしか響は今日、動物番組の愛犬紹介コーナーにイヌ美と一緒に出演するんでしたね。
   喜ぶイヌ美にあなた様、まこと微笑ましい光景です」

伊織「ちょっ、まっ、痛っ、あんっ、あんたっ、尻尾、あたしの顔にっ
   あた、当たってっ、痛っ、いっ、痛っ……っもおおおおっ!」Pの後ろに逃げる

お風呂終わりました。

意気込んで仕切りなおしたくせに早速>>69のミスが発覚してホゲェーです。

書き溜め投下タイプの人たちはどうしてんだろう。
投下ミスのコツなどのアドバイス頂ければうれしいです。

それでは再開していきます。>>67からの続きになります。

765プロ事務所

律子「はい、じゃあみんな準備はいいわね? それではプロデューサー殿、私達はそろそろ」

貴音「あなた様、後ろ髪引かれる思いではありますが、いましばらくのお別れです」ペコリ

伊織「アンタ私の目がなくってもさっきの約束はちゃーんと守りなさいよ。分かったわね?」

春香「まあまあ、またすぐに会えるんだからいいじゃない。ほら、いこっ伊織」

美希「ハニー、それじゃあ行ってきますなのー!」ぎゅっ

P「ああ、みんなそれぞれ宇宙で一番輝いてこい!」ニコッ

律子・貴音・伊織・春香・美希「いってきまーす!」

バタン


P「……ふぅ、とりあえずは一段落かな」デスクの椅子に腰掛け

小鳥「ふふ、はやくもお疲れですか?」Pのデスクにコーヒー置き

P「ああ、ありがとうございます。
 いやあ、みんな予想以上の反応を見せてくれたので、逆にこっちも驚いてしまったというか……」

小鳥「それはそうですよ。みんな本当にプロデューサーさんの帰りを楽しみにしていましたから」

P「……ええ、ありがたい話です、本当に。(コーヒー一口飲み)ああ、美味しい。
  懐かしいなあ、自分で淹れるとどうしてもこの味が出せなくて」

小鳥「ふふっ、そう言ってもらえると。でも、普通のスーパーで売ってる豆しか使ってませんよ」

P「じゃあきっと淹れる人がいいんでしょう。
  あれだけのアイドル達に愛されるほどの人ですから」ニコッ

小鳥「も、もうっ! やめてくださいよ、照れちゃうじゃないですか! /////」

P「はは、相変わらずキュートな人だ。それはそうと、今朝は本当にすみませんでした。
  まさか気を失うとは思っていなかったので、正直肝が冷えましたよ」

小鳥(きゅ、キュート!? なんでそんなことサラッと言えるのこの人!? /////)

※「キュート」は本来ごくふつうの褒め言葉なのでP本人は決して口説いているつもりはありません。少なくとも、本人には。

P「……音無さん?」

小鳥「はい!? ごめんなさい、なんでしたっけ!? /////」

P「だ、大丈夫ですか? 今朝のことですけど……」

小鳥「け、今朝ですか? 今朝って確か……」ホワンホワンホワーン……

ー 回想 ー



早朝

765プロ事務所

ガチャ
小鳥『オハヨウゴザイマース、ってあたしが一番乗りなんだけどね』

小鳥『あーあ、また今日も金玉医者(落語)聞きながら出社しちゃった……』

小鳥『志の輔の《バールのようなもの》とか《ディアファミリー》もいいんだけど、
   朝はやっぱり談志の金玉医者っていう気分なのよねぇ』

小鳥(ハァ……)

小鳥『朝から独り言の中に二回も《金玉》って……あ、今ので三回……』

小鳥『どこの世界にそんなOLがいるっていうのかしら……。
   どんな婚期がそんなOLの元にやってくるっていうのかしら……』トオイメ

小鳥『……』

小鳥『婚期が来いッ!』クワッ

婚期<来年に期待やな。今季(こんき)はナイだけに! ナンチャッテー!
   お後がよろしいようでー! スタコラサッサー

小鳥(イラッ)

小鳥『……ハァ、結婚かぁ。今年こそはと思ってたんだけどなぁ……』カレンダーチラッ

カレンダー『まもなく来年です』

小鳥『……うう…つまりまた一つ歳を重ね……』

小鳥『……(フルフル!) ダメよ小鳥! 朝から意気消沈しててどうするの!
   結婚関連の苦しみはそのいっときさえ凌げればそれでいいの! いつものことよ!
   しばらくすれば貴音ちゃんたちが事務所に来てくれるはずだから、それまでの辛抱じゃない!
   こんな時はそう、温かいコーヒーでも淹れながら明るい妄想をして過ごすのよ!』スゥ……

小鳥(入ります……妄想開始《リビルト・ゲシュタルト》!!)

カッチ コッチ カッチ コッチ……

カッ!

巨大な時計塔を背後に十字架に張り付けられた小鳥さんがカッと眼を見開くカットイン

小鳥(……虎穴に入らずんば虎子を得ず。今回のテーゼ(妄想テーマ)はあえて《結婚》に設定。
   仮想結婚相手について第四仮想小鳥《ヘクセン》から提案アリ。
   目と舌先で愛でたい相手No. 1としてファイルナンバー009β《男装した菊池真》を提案されました。
   審議中。審議中。審議中……。否決されました。
   否決の理由についてオリジナルの発言。
   《結局あたしソッチじゃないから真ちゃんは結婚相手として真剣には考えられない》。賛成多数。
   オリジナルから代替案としてファイルナンバー0015.ver KA《プロデューサーさん》が提案されました。
   審議省略。可決。仮想結婚相手は全会一致でプロデューサーさんに無条件可決されました。
   《プロポーズされる瞬間の妄想》は過去2806回の評議を踏まえて割愛。今回は《結婚式場》について評議を行います。
   結婚式場について第二仮想小鳥《プラトン》から提案アリ。提案内容は《海外で挙式を挙げるケースについて》。
   審議中。審議中。可決。これにより今回の妄想内容は《もしもプロデューサーさんと海外で挙式をあげるなら》に決定しました。
   以上をもって評議会は思考の全権及び全領域をオリジナルに返却、その後待機モードへと移行します。
   システムオールグリーン。それでは小鳥、よい夢を《スイート・ドリームス・マイリトルバード》)

コポコポコポ……(ドリッパーにお湯を注ぎつつ)

小鳥(頂きました。じゃあこういうのはどうかしら?
   その頃(適当)にはもう海外の海の見える家に二人で同棲してて、毎日仲睦まじく暮らしているの。
   籍は入れているんだけど色々な理由があって(適当)まだ式を挙げれていない……)

ザアッ!

背景(765プロ事務所)が粒子レベルに細分化し、風が吹くように粒子が飛ばされて行く。背景は一瞬にしてサンセットビーチに。
ビーチサイドを仲睦まじそうに歩く小鳥さんとP。腕を組んでいる。

その様子を第三者として見つめている現実世界の小鳥さん。コーヒーをもっている。口元でカップを傾けつつ、真剣な顔つき。

小鳥(現実世界)『……アクション』鋭い目

ザザァ……ザザァン……

波の音

遠くではしゃぐ子供たちの声

波打ち際、不意に足を止める仮想P

仮想小鳥「……どうしたの?」

仮想P「……小鳥、今まで待たせてしまってゴメン。遅くなってしまったけど、今からでも俺たち二人の結婚式を挙げよう」

仮想小鳥「……あなた、前にも言ったけれど、あたしは別に式なんて挙げなくたっていいの。
    あなたさえこうしてそばにいてくれれば、それで……」

スッと人差し指を仮想小鳥さんの唇に当てる仮想P

仮想P「いいや、俺が挙げたいんだ。言ったろ? 俺が君の人生をプロデュースするって。
   美しい君のウェディングドレス姿をみんなに見てもらって、そして証人になってもらうんだ。二人で誓う永遠の愛の証人にね」

仮想小鳥「あなた……」

トスッ

抱きつく仮想小鳥さん、強く抱きしめ返す仮想P

どこからともなく流れてくる甘いピアノの旋律。

遠くの方の波打ち際ではしゃぐ幼い姉と弟のカット。

キラキラと輝く波打ち際

小鳥(現実)『……さて、ここからだけれど……』コーヒーを一口飲みつつ

仮想P「……君さえ良ければ、このビーチで式を挙げたいと思っているんだ。二人の思い出が詰まった、この《恋人たちのビーチ》でね」

仮想小鳥「ええっ!? このビーチで!?」

仮想P「ああ、もうほとんど話はついているんだ。知り合いのイベント会社に話してみたら、是非手を貸したいと言ってくれてね。
   段取りはもう90%まで詰めてある。あとは新婦の了承を得るだけさ。どうかな?」

仮想小鳥さんの顔を覗き込むようにみつめる仮想P。無邪気な微笑み。


小鳥(現実)『……そう、プロデューサーさんが時折見せるこのイタズラ好きの子供みたいな微笑み……。これにやられちゃったのよね、あたし……』(ボソッ)


仮想小鳥「……もう、またその笑顔。弱いなぁ、ほんと」

はにかむ仮想小鳥さん

仮想小鳥「……神父様の前で……きっとその顔をしているあなたの隣で……あたしはウエディングドレスを着ていてもいいですか?」

仮想P「ああ。もちろん」ニコッ

仮想小鳥「……(じわっ)愛しています、あなた……」

見つめ合う二人。二人の距離はだんだんと近付き……

オレンジに燃える夕陽をバックにキスを交わす二人のシルエット。

BGMは最高潮に。

波打ち際、足が濡れるのも構わず、静かに唇を重ね続ける二人……。



小鳥(現実)『カット』

ピタッ



小鳥さん(現実)の一言で仮想世界の全ての動きと音が止まる。

次いで仮想世界の巻き戻しが始まり、風に乗って砂粒のような粒子が舞い戻ってくる。
徐々に765プロの事務所を形成していく粒子。
小鳥さんが事務所のエアコンを操作する「ピッ」という音をキッカケに、全てが現実世界に戻ってくる。

遠いクラクションの音、登校中の子供たちの声。静かに動き出すエアコン。

デスクの椅子に座り、困ったように人差し指をほっぺに当てて思案顔の小鳥さん。可愛い。

小鳥「……うーん……こういう時、どうも結婚式そのものよりもそこに至るまで設定から入っちゃうのがあたしの悪いクセなのよねー。
   まぁ今回のは総評して67点あたりがいいところかなぁ。
   お約束の「君の人生をプロデュース」ってのが入れられたのは評価できるけど、あとは散々。
   だいたい何よ、ビーチで式は良いにしても《知り合いのイベント会社》って……我ながら適当もいいところだわ。
   ハァ、自分で企画の立案と実行の手配までするんじゃプロデューサーというよりはむしろプロモー……)

P「おはようございまーす!」ドアガチャッ!

小鳥「プロモーターさんッ!?」
(急に現れたPに驚いたのプラス、妄想に引っ張られてプロデューサー本人に対してプロモーターと言ってしまった自分自身に対する後悔&ショックのあまり失神)




ブラックアウト

ー 回想ここまで ー

小鳥(……)ギリッ

P「あ、それです。そのなんというか苦虫を噛み潰したような表情のままあなたが失神した件についてです」

小鳥「ええ……その……はい。ほんとにすみませんでした……」

P「いやいや、謝らないといけないのは俺の方ですよ。本当に大丈夫でしたか? ひょっとしてどこか打ってたりとか……」

小鳥「いえ、ほんとに大丈夫です……いっそどこか打っておけば良かったくらいで……」

P「な、なんてこと言うんですか。……ハハァ、さてはまた何かネガティヴなこと考えてますね?」

下から小鳥さんの顔を覗き込むP

例の無邪気な微笑み

小鳥「っ! いやぁ、あはは(で、出たー!/////)」

P「まったくもう、音無さんは変わりませんねー。あ、そうだ! もし良ければ今晩少しどうですか? 奢りますよ」クイッ

小鳥「い、行きましょう! 是非!」食い気味

P「よかった! じゃあ、いつものところに……そうだな、7時か8時くらいでどうですか?」

小鳥「いいですね! それまでにお仕事終えられるように頑張ります!」

P「俺もなるべく早く戻ってこられるようにしますんで、それからまたお手伝いしますから。
  良かった、実は少し時差ボケが残ってるんでお酒でも入ればスッと眠れるかと思ったんですよ。
  一人で飲むっていうのも味気ないですし」

小鳥(や、やったぁー! まさかプロデューサーさんと二人で飲みに行けるなんて思ってなかったわー!
   いやー、棚からぼた餅とはこのこt……ハッ!)


《ミキ、事務所のみんなを裏切るようなことしないの!》

《事務所のみんなを裏切るようなこと》

《しないの!》(リフレイン……)


小鳥「……じゃあ……(グッ)もしよければ律子さんとあずささんにも声を掛けませんか?
   ふ、二人とも喜ぶと思いますから……」(苦渋の決断)

P「あ、そうか、律子ももう飲める歳になったんですもんね。ではそのお祝いも兼ねてということで。
  あずささんは今日オフのはずですけど……一応声をかけてみましょうか」

小鳥「はい。二人にはあたしから連絡しておきますね
  (トホホ、さっきの美希ちゃんの《みんなを裏切るようなことしない宣言》を聞いたら一人で抜け駆けなんて出来ないわよね……
   嗚呼、いい人止まりの鳴かない小鳥とはよく言ったもの……)」

P「ええ、お願いします。さて、じゃあ俺はそろそろ次の現場に向かいますね。コーヒーご馳走さまでした」

スッ

カップを持って立ち上がろうとするP

小鳥「あっ、いいですよ、あたしが洗っておきま……」

手と手が重なる

小鳥「あっ……」

どきっ

P「……ん」

小鳥「えっ、と……(ど、どうしよう、手を離せない……)」どきどき

P「……」

スッ もう片方の手で小鳥さんの手を包みこんで

P「……そういえば、まだちゃんと言ってませんでしたね」

小鳥「…え、えぇ?」どきどき

P「……遅くなってしまいましたけど……」手をぎゅっ

小鳥「ふぇっ!?」どきどき

P「……小鳥さん」

小鳥「……は、はい!」どきどき



P「ただいま」ニコッ



小鳥「」///// ズドーン! バキューン! ズアッ! バシュッ! (様々なものが次々と撃ち抜かれるイメージ)


小鳥「」/////

小鳥「…… /////」クスッ


Pの手をぎゅっ


小鳥「はい……。お帰りなさい、プロデューサーさん」/////

P「……」ニコニコ

小鳥「……」/////

小鳥(ど、どうしよう……小鳥さんって呼ばれちゃった……)/////

小鳥(……っていうか、あの……)

小鳥(……いま、すっごく、キスしたいです……)

P「……」ニコニコ

小鳥(この雰囲気なら……もしかすると……)チラッ

P「……?」ニコニコ

小鳥(かっ、可愛……! ええい、ままよ! 南無さ


電話 「TRRRRRRR! TRRRRRRR!」


小鳥「ヒィッ!」ガタッ

P「おっと! 大丈夫ですか?」

小鳥「ええ、はい! 大丈夫です!
   あっ、カップはあたしがやっておきますから、プロデューサーさんはどうぞお出掛けになってください! 電話電話ー!」タタタッ

小鳥「はいっ、765プロですけど!?」ガチャー

あれ? 書きこめない

小鳥「あっ、いえ、申し訳ありません! はい、そうです。765プロの音無です。
   はい、いつもお世話になっております。はい!」耳まで真っ赤

P「……」クスッ

P「ほんと、キュートな人だ」

ジェスチャーで小鳥さんにカップのことを伝えるP

カバンを持って立ち去る間際、小声で

P「行ってきます、小鳥さん」ニコッ

バタン

小鳥「(ヒエエエエエエッ! また小鳥さんって! 小鳥さんって!)あっ、はい。
   ハァハァ、その件については秋月のほうから、ハァハァ、はい。あ、いえ大丈夫です!
   お気遣いありがとうございます! ハァハァ それでは失礼します! はい!」

ガチャリ……

小鳥「……」ハァ……

小鳥「……」どきどき

小鳥「……」どきどき

小鳥「……まだ……どきどきしてる……」

小鳥「……」目線ツイー

玄関の扉を見つめて

小鳥「……行ってきます、小鳥さん……」ボソッ

小鳥「……」ニヘラ自分の手を見つめながら

小鳥「……小鳥さん、ただいま……」

小鳥「……」ニヘラ

小鳥(ニヨニヨ)

小鳥(クネクネ)
コーヒーカップを見つめながら

小鳥(……キュートな人、かぁ……)

小鳥(……)ホウ……

ストン


デスクの椅子に座り

小鳥「……あっ……」




小鳥「……濡れてる……/////」

うつむいて真っ赤ー

……………………
………………
…………
……

P「……さて、っと。せっかくだからみんなの差し入れを何か買っていこう」

P「スタッフさんにもお出しするわけだから、みんなのタレントとしての沽券にも関わるし、あまり安っぽいものを買うわけにもいかない……」

P「……今思うとアメリカはそのへん楽だったなー。ウイスキーかチョコレートかの二択で済んでたし。あ、ピザってのもあったな」

P「……うーむ、やっぱりここはベタにアレかなー。軽く挨拶もしときたいし、ちょっと寄って行こうか」


ー 20分後 ー


支配人「いつも変わらぬご愛顧を頂きましてまことにありがとうございます」ペコリ

P「いえ、こちらこそ慌ただしくなってしまい申し訳ありません。
  買い占めるみたいなマネまでしたうえに、こんなに沢山のお土産まで……」

支配人「765プロの皆様はもとより、P様には日頃からお世話になっておりますので。
    これくらいのことは喜んでお手伝いさせていただきます」

P「ええ、予想よりも早く軌道に乗って安心してます。ニューヨークではちょっとした社会現象になってますよ。
  本場のフランス菓子より美味いって評判です」

支配人「それもこれも、すべてPさまにご尽力いただいた戦略プロデュースのおかげでございます」

P「光栄ですが、やはりモノがいいから売れるんですよ。俺はそのキッカケを作ったに過ぎません。
  おっと、申し訳ない。少々急ぎますので今日はこれで失礼させていただきます。ご挨拶にはまた日を改めて」

支配人「ええ、皆様お待ちかねでしょうから。ご挨拶には是非こちらからお伺いさせていただければと存じます」

P「……はい。ご厚意痛み入ります。お忙しいところをお邪魔してしまって申し訳ない。
  お土産本当にありがとうございました! あいつらきっとすごく喜びます! それでは!」

支配人「はい、お気を付けて。またのご来店を心よりお待ち申し上げます」フカブカ



P「いやぁ、買えてよかったゴージャスセレブプリン。
  こんなに沢山譲ってくれた上にお土産まで頂いてしまって……」

P「まぁこれもご縁だよなぁ、こんなによくして頂けるなんて本当にありがたいよ。
  ゴージャスセレブプリンのアメリカ展開を少し手伝っただけなのに……」

バタン

車に乗り込み

P「ま。それはそれとして、まずは亜美とやよいの現場に向かうかな。場所は確か……」


………………
……………
…………
………
……

ー 数十分後 ー

某所 収録スタジオビル

衣装や小道具が並んだ廊下を歩くP

P「えーっと……あったあった、Bスタジオ! おっ、今まさに収録中……」ソーッ



<うーん、でもさぁ、亜美的には遠距離ってオーエンしてあげたくなっちゃうかな→

<つらいのは分かるけど、あきらめないでほしいっていうのもあるなぁー。それに、きっとまた会えた時のうれしさは倍以上だよー!

P(…………へぇ、なるほど。女の子の部屋っぽいファンシーなセット……
  ピンクのカウチソファーに亜美とやよいが向かい合ってハガキテーマトーク……)

P(……これはアレだな、昔あった芸人さんが座ったまま二人で向き合ってゆるめのトークをする深夜番組……アレの焼き直しだ。
  なるほど、考えたな。ターゲットは女子小中学生と大きいお友達……放送時間は……やっぱり日曜の朝か)

P(……亜美とやよいというチョイスもなかなか深みがあって良い。
  色んなテーマについて真面目に話すこの二人は普通に面白そうだし……今度録画しとこうかな?)

<そ→そ→! 正ーっ直ね、亜美的には遠距離なんてムリムリムリムリカタツムリって感じ。
 だけど、それでも「待てる」相手っていうのが出来たとしたら、それはその相手のことを本気で好きってことじゃん?

<うん、そうだと思う

<お手紙をくれた「猫リンゴさん」もさ、えっと、いくつって言ったっけ?

<えっと……13歳って書いてありますねー

<じゃあ亜美たちと同じで……なんていうか……恋愛のケーケンチがまだまだ低いんだと思う。
 前に真美とも話したことがあるんだけど、それってつまり
 「自分自身のことを知ってる度」のケーケンチが低いってことなんじゃないカナ?

<うんうん。この遠距離恋愛を通して、自分自身のことをもっと良く知れるよーってことー?

<そしてそれが自信にも繋がる的な、ね。だってレンアイってどの道ぜーんぶ自分のためになるじゃん?
 それにオンナノコはやっぱ恋してナンボっしょ!

<そーだそーだ! ふふっ、さすが亜美だねー

<だからさ、好きだ→! って思う気持ちがあるなら辛いからとか寂しいからとか
 そ→ゆ→ リユーをつけて自分の気持ちにウソつくのは……なんていうか好きっていう気持ちに失礼なのかな→って思うYO!

<……うん、そうだよね。猫リンゴさん、私も亜美とおんなじ気持ちですー。
 もしも相手があなたを「笑顔にしてくれる人」なら、どれだけ待ってもどれだけ遠くにいても想いつづけるほうがいいと思います!
 じゃあ亜美、そろそろ猫リンゴさんにまとめの一言をおねがいしまーす

<りょ→かいだよやよいっち! ウォッホン!

 「遠距離ラブは1日にしてならず! そして長距離バスは意外と安い!」

スタッフ「おおーっ!」

P「ハハハ、なかなかうまいじゃないか」

<わあーっ! 今日のはいいねー!

<ふっふっふ、今日の亜美は遠距離恋愛にピント合っとりますからなぁ!
 お家のお手伝いとかしてお小遣い貯めたらさ、会いに行けるだけのお金なんてきっとすぐに貯まるYO!
 やっぱ考えるよりもまずはコードーっしょ!

<というわけでお手紙をくれた猫リンゴさんには『あみゃヨイ!』と月刊シュシュがコラボして作った
 こちらのオリジナルポーチを差し上げまーす! おたよりありがとうございましたー!

<おたよりの宛先はー……

……………………
………………
…………
……

スタッフ「ハイオッケーでーす!」

亜美「……ふぃー、さっきのなかなかヘビーなしつもんだったね→」

やよい「そうだねー、でも気持ちわかるなぁーって思うところも多かったー」

ディレクター「二人ともお疲れさま! 今日も良かったわよー! 亜美ちゃんの最後のまとめ、バッチリだった!」

亜美「ありがとうございま→す!」

ディレクター「今日は撮れ高も十分だから、ひょっとしたら二週に分けてもいいかもね。
    そのへんは追って秋月さんのほうに回しておくわね。それじゃお疲れさま! 」

亜美「お疲れさまでした→!」

やよい「おつかれさまでしたぁー!」

スタッフ「おつかれさまでーす! えー、765プロさんから洋菓子の差し入れ頂きましたー!
  皆さんで召し上がって下さいとのことでーす!」

一同「ありがとうございまーす! いただきまーす!」

亜美「……へ? やよいっち、お菓子なんか持ってきたの?」

やよい「えーっ、私しらないよー?」

亜美「だよね→?じゃあ誰が持ってきたんだろ→? 変な人がここまで入ってこれるわけないし……」

やよい「……ひょっとして、プロデューサーだったり?」

亜美「んなわけないっしょ→ 兄cは今頃ハリウッドのビーチでキンパツ美女と傘のついたメロンソーダ飲んでるよ→」

やよい「えーっ、いっしょうけんめいおしごとがんばってるに決まってるよー!
   でも、じゃあだれが持ってきたんだろうー?」

楽屋ドア
『あみゃヨイ!』
双海 亜美 様
高槻 やよい 様

ガチャ

亜美「どうせ律ちゃんっしょ→」

P「まぁ俺なんだけどな」椅子に座って上半身のストレッチをしている


亜美「」

ドア バタン

亜美「」

やよい「? どうしたの亜美?」

亜美「」

やよい「……亜美?」

亜美「」クイッ

ジェスチャーでドアを開けるように指示

やよい「なに? ど、ドアを開ければいいの?」

亜美「」コクッ

やよい「な、なに? なんだか怖いよ、まさか本当に……楽屋の中に変なひとが……」

亜美「」コクッ

やよい「ええっ!? じゃ、じゃあスタッフさんを呼んで……!」

亜美「」ガシッ クイッ クイクイッ

やよい「……うう……っ、 な、なにー? プロデューサー……助けてぇー……」


ガ チャ

ギィィィ……

P「呼んだか?」ハイキックのように高く上げた足を壁に押し付けてストレッチをしている


やよい「」

ドアバタン

やよい「」

亜美「……見た?」

やよい「」コクッ

亜美「……亜美が思ってるのと同じひとだった?」

やよい「」コクッ コクコクコクッ!

二人、目を見合わせる

亜美「……」

やよい「……」

徐々に瞳が潤んでいき、口角が上がっていく

だんだん顔に赤みが差して、満面の笑みに

堰を切ったように

ガチャッ!

亜美「にいちゃああああーん!!」

やよい「ぷろでゅーさぁあぁー!!」

P「さぁこい!」ガシッと

やよい「プロデューサー! プロデューサープロデューサー! プロデューサー!」ぎゅーっ

亜美「にいちゃんにいちゃんにいちゃんにいちゃーん!」ぎゅーっ

P「あみゃよいあみゃよいあみゃよいあむあっ……!」ガリッ! (舌噛んだ)

やよい「えっ!? えっ!? えーっ!?
   な、なんでですかアメリカにいるじゃなかったんですかハリウッドなんじゃないんですかーっ!?」ぴょんぴょん

亜美「いつ帰ってきたのいつ来たのいつからいるのいつまでいるのーっ!?」ぴょんぴょん

P「昨日帰国した! 今日から復帰してこれからはずっといる! 以上!」

亜美・やよい「うわーーーい!!」ぴょんこぴょんこ

P「うわははははは! 相変わらず元気だなぁお前らは!
 さっきの収録見てたぞー? いやぁ二人とも立派なもんだった!」頭なでなでくしゃくしゃ

亜美「うひゃひゃっ! くすぐったいよ→ 兄c!」

やよい「うっうー! プロデューサーの手、とってもなつかしいですー!」

P「1年ぶりだもんなー。どうだ二人とも、寂しくなかったかー?」

亜美「むっふっふー、兄cこそ亜美のせくちーぼでぃーが恋しかったんじゃないのー?」スリスリ

やよい「見てくださいプロデューサー! 私3センチも背が伸びたんですよー!」グイグイ

P(……おお、言われてみれば確かに大きくなっている! まぁなんだ、慎ましくもその、色々と!)

P「いやいや、お前たちの成長にはホント眼を見張るものがあるよ。あんなに大人びたトークが出来るなんて正直驚いたぞ」

P「やよいの合いの手は柔らかくてテンポもいいし、亜美のトークは小気味がいい。
 番組の視聴率も良いそうじゃないか。凄いぞ二人とも!」

亜美「デヘヘ→ もっと褒めて褒めて→!」ニマー

やよい「もー、亜美ったらー」ニマー

P「……あ、そうだ! お前たちにも差し入れ持ってきたんだ。聞いて驚け、今日の差し入れはなんと……!」

亜美「ゴージャスセレブプリンっしょ→!」

P「ゴージャ……えっ」

亜美「さっきスタッフさんの差し入れ見たらゴージャスセレブプリンと同じとこの箱だったかんねー。
  そりゃいくら亜美でもピンと来るってもんだよ兄c!」

やよい「えーっ、全然気付かなかったー! そうなんですかプロデューサー?」

P「くっ! そ、そうなんですよ高槻さん」

亜美「ふっふーん! 美少女名探偵亜美の目は衰えるばかりか、なお鋭さを増しているのだ!
  にいちゃん君のヒネリのない差し入れなど、この亜美にかかれば月を見るより明らかなのだよ、ワトスン君!」えっへん

P「……美少女名探偵亜美はなんか生意気だから二人だけで食おうぜワトスン君」やよいだけぎゅっ

亜美「うあうあ、ちょっ、ひどいよ→っ!」ぴょんぴょん

やよい「えーっ、私ワトスン君じゃないですよー? それに亜美だけ仲間はずれはかわいそうかなーって」

P「……やよいはそういうところほんっとに変わんないな。なんつーか頭が下がる思いだよ。
 ほれ、プリン用意してやるから二人とも座ってろ。収録で疲れたろ」パッ

亜美「!」ぎゅっ

やよい「!」ぎゅっ

P「……」ズルズル ズルズル

P「……っかしーな、なんかカラダが重たい気がする……」ズルズル

P「……まるで腰のあたりに中学生が二人くらいまとわりついてるような……」ズルズル

亜美「」ぎゅっ

やよい「」ぎゅーっ

P「……よし、これでいいな。さて二人が待ってるテーブルにプリンを……って居ない!
 あれ!? 座って待ってろって言ったのにいない! 日本語で言ったのに! もしかしてインド人だったのかな!?」

亜美「……」ぎゅっ

やよい「……」ぎゅーっ

P「……」

亜美「……/////」

やよい「……/////」

P「……ミキだよー☆ ミキってもしかしてインドジン ダッタノカナ~!」

亜美「……」プルプル/////

やよい「……」プルプル/////

P「……こほん。四条貴音です。聞いて下さい。
 曲名は《Even if my heart stops beating tomorrow》」流暢に

亜美「……ブフッ!」

やよい「……プフーッ!」

P「ハァ……。はい、俺の勝ち。ほれ離れて、ちゃんと座って食べなさい」

亜美「ぶー、そんなルールズルイよ兄c! そんなの笑うに決まってるっしょー!」

やよい「み、美希さんと貴音さんにもちょっと失礼かなーって……」

P「フハハ、聞く耳もたんな! 良いからはよう座りんさい! プリン様がかわいそうだとは思わんのかね!」プンスカ

亜美「そりゃ亜美だって食べたいけどさ→……。あっ、じゃあ兄cここ、真ん中に座って!」

P「え、いや俺は別に」

やよい「(ティン!)なるほどーっ! はーいプロデューサー、ちゃんと座って食べましょうねー!」グイグイ

P「いやだから俺は食わな……聞いてないね」ハァ

P、やや横長のテーブルの真ん中にストン

Pの両サイドに亜美とやよいもストン

ぴたっと

亜美・やよい「いっただっきまーす!」

P「や、やったー! 気が付いたらいつのまにか両手に花状態だー!
 どうだ亜美、どうせそうやっていじってくると思って自分から先に言ってやったぜ!」フフン

亜美「兄cうるさい」モグモグ

P「」

やよい「おいしーですー! ありがとうございますプロデューサー!」モグモグ

P「……はい……」

亜美「……それにしてもさー兄c、なんで急に帰ってきたわけ→?
  あー、まさかアメリカのエージェントに追われてたりしてー?」ニヤニヤ

P「」

やよい「もー、亜美はゲームのやり過ぎだよー。プロデューサーはそんな悪いことするようなひとじゃないよー。
   ね? プロデューサー?」純粋な目

P「」

やよい「……プロデューサー?」

P「……ハハ、なーに、かえって免疫がつく」

亜美「はぁ?」

やよい「どうしたんですかー?」

P「……いやなに、少しアメリカにいた時のことを思い出してな……
 ジャスミンにアンナ、セリーヌやローラは今頃どうしているだろうか……」トオイメ

亜美(……え、いまのってもしかして……)

やよい(ぜんぶ女の人の名前……?)

亜美・やよい(もしかして……アメリカ人の……)

亜美・やよい(ムッ)

P「……アメリカでの壮絶な毎日……今思えばなにもかもが懐か」

亜美「ちょっと兄c! マジメな話してるときに勝手に変なコント始めないでよ!」ズイッ

やよい「そうです! ウソでもホントでも私達の前で違う女の人の名前ばかり出すなんてよくないと思います!」ズズイッ

P「えっ、ジャックとロドリゲスとタイラーの出番はまだこれから……」

亜美「そういうことじゃないYO! こんな両手に花の状態で他の女の話をするのがズルイって言ってるの!」プックー

P「あ、やっぱり言った」膨れた亜美のほっぺを手で潰す

亜美「ブィッ!」ぐぬぬ

やよい「もう、プロデューサー! 帰ってきてくれたのは嬉しいですけど、だからってあんまり女の子をからかうのはめっ! ですよ!」ジッ

P「……は、はい。スミマセン」

亜美「そうだよ! 兄cの居る場所はこのニッポンなんだよ!
  それに兄cは765プロのプロデューサーなんだから、いつまでもキンパツ美女のことなんか考えてちゃダメっしょ!」ズズイッ

P「き、キンパツ美女?」

やよい「考えちゃダメです! めっ!」ズイッ

P「……わ、わかったよ。わかったから、その、お前ら……」

亜美・やよい「何(ですか)!?」

P「……ちょっとその、近い、よ」目逸らしー

二人、いつの間にかPの顔まで5センチ

同時にPの唇に目が行く二人

興奮のあまり気づいたら片手をPの《股間》の近くに置いていた二人

亜美・やよい「!!!!」

バッ!

亜美「……!? ッ! ……!?(今触ってたのって……もしかして……!/////)」←違います

やよい「ッ!! !? ……ッ!?(か、硬くなってた……!/////)」←ケータイです

P「……お前らさ……」

亜美・やよい「……っ!!」ドキッ

P「…………いや、やっぱりいいや」

亜美・やよい(な、なにっ!? なんだったの!?)

P(やっぱいい匂いだな、なんて言ったら引かれちゃうしな。やめとこう)

P(……にしてもそうか、そうだよな。
 当たり前だけど、この子たちは俺がアメリカで何をしていたかなんてこと、まるで知らないんだ。
 知らないままのほうがずっといいけど、気にするなっていう方が無理な話だよな……)

亜美(さっき兄ちゃん何を言いかけたんだろう……? むっちゃ気になるけどタイミングが……今更聞くのもヘンだよね……)どきどき

やよい(……ももも、もしかして月刊シュシュ(少女マンガ)に出てくるような……「なあやよい、もっと先まで進んでみないか?」みたいなてんかい……)どきどき

P(……この子達を心配させないためにも、汚いところはうまく隠して、それでいて嘘をつかずに済む方法を考えないといけないな。
 《世界》の闇を知るにはまだこの子たちは幼すぎる……)

亜美(……さっきから兄cずっと黙ってる……もしかしてホントにアメリカに彼女がいて……その人のこと考えてるんじゃ……)チラッ

やよい(……プロデューサーはお兄ちゃん、だけど……私みたいな子供じゃダメかな……アメリカにはスタイルのいいひとがたくさん居たのかな……)チラッ

P(……まる一年も765プロから離れてた俺のことを、まだちゃんとプロデューサーだと思ってくれてる。
 それは……うん、素直に嬉しいな。俺がこの子達を護ってやらないと、なんて思ってたけど……
 そういう意味では護られていたのは俺の方、か。何をいきがってたんだ俺は。バカだな、ホント)フッ……

亜美(……あっ、兄ちゃん笑ってる……でも……)きゅんっ

やよい(……なんだか、寂しそう……)きゅんっ

亜美・やよい(……やだな……)きゅんっ きゅんっ

亜美「……に、にいちゃん」

P「ん? どうした?」

亜美「……あ……あ……」

P「あ?」










亜美「……あーん、して……」/////

P「…………どうしたの急に」

亜美「い、いいからっ。はやくクチを大きく開けるんだYOっ!」/////

P「……?」あーん

亜美、スプーンでプリンをひとすくいして

亜美「……っ、/////」プルプル どきどき

スッ

P「ん……」モグモグ ごくん

亜美「……/////」どきどき

P「んん、やっぱり美味いなコレ。でも急にどうし……」

やよい「プロデューサー!」

P「えっ、はい。……えっ?」

やよい「……/////」プリンの乗ったスプーンを差し出している

やよい「……あ、あーん……」/////

P「……??」あーん

スッ

P「……」モグモグ ごくん

やよい「……はわわ……」/////

P「ん。んまい。っていうか、えっ? なにこr」

亜美「にいちゃんっ」

P「あっ、はい。……はい??」

P振り返る、亜美がプリンとスプーンの柄のほうを差し出している

亜美「こ、今度は……亜美に、あーんして……/////」

P(なんじゃこりゃ)取り敢えずプリンとスプーン受け取り

スプーンでプリンをすくい

P「あ、あーん……」スッ

亜美「……あー……/////」真っ赤

亜美「……ん」モキュモキュ……モキュモキュ……モキュモキュ……

P(えっプリンってそんな噛むもの?)

やよい「おっ、お兄ちゃんっ」

P「えっ!? (なんか違う角度で来た!?)」

P振り返る、プリンとスプーンの柄のほうが差し出されている

やよい「……私にも、あーん、して……」///// 耳まで真っ赤

P、取り敢えず手に持っていたプリンとスプーンをテーブルに置き、やよいのプリンセットを受け取る

P「あ、あーん……」

やよい「……あー……」/////

やよい「……ん……」///// モキュモキュ……モキュモキュ……モキュモキュ……

P(……スプーンまで咥えて持ってかれた……。え? なん…、何…? なんなんだ……?)

亜美「にっ、にいひゃん」

P(今度はなんですか?)

P振り返る

心なしかほっぺが膨らんだ亜美が正座している

亜美「……くっ、くひ……あけてよ……」モゴモゴ プルプル/////

P(oh……)

亜美、Pの驚いた顔を「口を開けた」と勘違い

そのままくちづけを交わすように……

スッ

P「やめい」デコペシッ!


亜美「んくっ! ……ケホっ! ケホッケホッ!」

P「……ハァ、何をアイドルがプリン口移し体験なんかしようとしてるんだ。
 やよいもプリンを口に掻き込むのをやめなさい」亜美にハンカチ渡し

やめい「……」シュン……

P「いやいや、なんだそりゃ。しっかりしろやよい」

やよい「……はい……」

亜美「ケホッ……ーっ……死ぬかと思ったー……」

P「こっちの台詞だ。なんだあの甘々シュガーでスイートポテトな空間は。血糖値上がりすぎて成人病になるかと思ったわ」

亜美「ぶー、だって兄cが……その……いつまでもアメリカのパツキンボインのプラスティック美女のこと考えてると思ったから……」

P「パツキ……なんだって?」

やよい「……もしかして私たちなんかよりも綺麗な人がいて……その人のこと思い出してるのかなーって思ったら……」

P「……ああ、なるほど」

P(つまり、ヤキモチやいてくれてたのか……嬉しいな、本当に俺を765プロの仲間だと思ってくれてるんだ)


亜美「だって兄cが悪いんじゃん! 女の人の話ばっかりして、変なところで話し止めたりしてさ!」

P「……ああ、確かにそうだな。悪かった亜美、それにやよいも」ぎゅっ

亜美・やよい「んっ……」

P「二人とも、一年も離れていた俺のことをまだ仲間だと思ってくれてる。ありがとう、本当にうれしいよ」

やよい「うっうー……そんなのあたり前です……私たちずっとプロデューサーの帰りを待っていたんですよぉ……」じわっ

亜美「そっ、そうだよ……こんなに待たせてさ。亜美ホントは待てない子なんだよ? それなのに……一年もほっといて……」じわっ

P「ああ、すまなかった。これからはもう何処にもいかない。
 俺はアメリカでもハリウッドでもない、765プロの……お前達のプロデューサーだよ。だから……」

P、二人の目を交互に見つめ


P「ただいま、二人とも」

亜美・やよい「っっ!!」うるうる

ガバッ

亜美「おかえりだYO 兄c→!」うええん

やよい「おかえりなざいブロデューザァー!」うええん

P「おうおう、よしよし」ぎゅーっ


コンコンッ


ディレクター「失礼しまーす。765プロのプロデューサーさんへご挨拶に伺いましたー」

P(おっと来客か。うーん、どうするかな)チラッ

亜美(……こくっ)ぐすっ

やよい(……コクッ)すんっ

スッ

二人、Pから離れて涙を拭く

P(そっか。偉いぞ二人とも)

P「はーい、どうぞー!」

ガチャ

ディレクター「失礼します。わたくし番組制作会社の……と申します。
    以後お見知りおきを頂ければと思いましてご挨拶に伺いました」名刺差し出しー

P「これはご挨拶が遅れまして。わたくし765プロのPと申します。
 いつもご贔屓にしていただいて、高木もわたくしも常々感謝をしております」名刺差し出しー

ディレクター「いえいえ、わたくしどもも765プロさんには本当にお世話になっておりますので。
なによりこうして噂のプロデューサーさんに直接ご挨拶出来るのは光栄ですわ」

P「……噂のプロデューサー?」

ディレクター「ええ、たった2年で11人の女の子を押しも押されぬトップアイドルに成長させた伝説のプロデューサーP。
    この業界ではもはや知らない者はいないと言っても過言ではありませんわ」

P「えー、いやぁ。あはは。それはちょっと買いかぶり過ぎですよ。俺一人のチカラじゃないですし……」

ディレクター「またまたご謙遜を! 亜美ちゃんもやよいちゃんも、いっつもプロデューサーさんのお話ばかりしてましたのよ。
    うちの兄ちゃんはホントにすごいんだからーって、ね、二人共? って、あら、もしかしてお邪魔だったかしら……?」

亜美「い、いえっ、大丈夫です!」

やよい「久しぶりにプロデューサーとあえて嬉しくなっちゃって……ちょっと泣いちゃいました、えへへ」

ディレクター「……健気ねぇ、私にもあんなころが……っと、そうじゃなくて。
    亜美ちゃんもやよいちゃんも、本当によくやってくれています。
    企画の段階から積極的に意見を出しれくれるので、番組としての盛り上がりはいつも絶好調です」

P「よかったな、二人共」

亜美「えへへー」

やよい「照れちゃいますー」

ディレクター「これから先も亜美ちゃんやよいちゃんと一緒に、何年も続く番組していきたいと思っています。
    これは私個人の見解ではなく、スタッフ一同みんな同じ気持ちでいると思います」

P「ありがとうございます。こちらこそ二人をよろしくお願いします」ペコリ

ディレクター「ええ、もちろんです。……それでその、いきなりで不躾だとは思うんですが、この本……」

P「……げぇっ! 一体どこでそれを……」

ディレクター「安心してください、ほとんどの人はあなたが著者だとは知りません、名前も変えてらっしゃるようですし。
    ただ、ごく一部の間では以前からあなたの名前が実しやかに……」

P「……まいったな、名前まで変えて、しかも英語で書いたのに……」

ディレクター「ではやはり……今やドラッカーの《マネジメント》と並ぶ経営者・企画者・そして実行者にとってのバイブルとなった
    この《プロデュコ》……やはりあなたが……」

※("produce"の語源、ラテン語の "produco")

P「あの……出来ればこのことは内密にしていただければ……」

ディレクター「も、もちろんです! すごい、本当に本当だったんですね! お会い出来て本当に光栄です! あ、握手してください!」

P「えー……、まぁ、はい……」

スッ

ガシッと

ディレクター「きゃーっ! どうしよう、夢みたい! 本当にありがとうございます!
    不躾ついでにお願いします! サインしてください!」本差し出し

P「……タハハ、参りましたね。じゃあ……偽名のほうでいいですか?」

ディレクター「はい!《……さんへ》って入れてもらっていいですか? 漢字は……きゃーっ! ステキな筆記体っ! すごーい!」

P「はい。じゃああの、なんというか……お買い上げいただきありがとうございます……?」

ディレクター「とんでもないです! こんなに素晴らしい本を書いていただき、こちらこそありがとうございます!
    世界を代表して申し上げます!」深々

P「えっと、はい、どうも……」

亜美(ポカーン)

やよい(ポカーン)

亜美(……ねえねえやよいっち、つまり兄cはいつの間にやら本まで出してたってこと?)

やよい(うん、よく分かんないけど多分そうだと思う……
   しかもディレクターさんの様子からすると、なんだかすごい本を書いたみたいだね……)

亜美(あ、亜美たちどうしてればいいんだろう? やよいっち、まだプリン残ってる?)

やよい(ううん、もうぜんぶ食べちゃった。あ、でも昨日春香さんにもらったクッキーが残ってるよ)

亜美(うーん、待ってたほうがいいんだろうけど……長くなりそうだから二人でお茶してよっか?)

やよい(……そうだね。なんだか今になって急につかれてきちゃったよ……)

ディレクター「あのっ、最後の質問なんですけど!」

P「は、はい。なんでしょう?」

P(あ、よく見たらこの本すごい量の付箋が付いてるし、所々傷がついてる……。
 そっか、何度も何度も読んでくれてるんだ)

ディレクター「ここ、ここです! 140ページの、この部分!」

P「……ああ、世界の一部としての精神性と認識のコマ抜きについて書いてるところですね。
 ハハ、この辺は《それじゃ結局宗教と同じじゃないか》ってバッシング受けたところです。
 私は《そうじゃない、速読と同じものだ》と言うんですけれども」

ディレクター「この章ではよく《イリュージョン》という言葉が出てきますが……
    これはやはり立川談志の説いたあのイリュージョンと同じもののことですよね?」

P「……正直なところ、それは《分かれば分かる》ようになっています。
 言葉で教えられる概念ではないですね。こんな本を書いておいて無責任といえば無責任ですが」

ディレクター「分かれば分かる……。いえ、私にとってそれはまさに画竜点睛を打つ一言です。
    この章で、貴方は《貴方を貴方だけの存在として見ていない》。つまり貴方は……」

P「そこから先はまだ言葉にしないほうがいいでしょう。
 私からいまのあなたに言えることは……そうですね、《時間はもう残されていない》ということでしょうか。
 大丈夫、あなたは素晴らしい才能と情熱に満ちた方だ。あなたならきっと、この本の答えを見つけ出すことが出来ます」

ディレクター「っ!! ありが……ありがとうございます!」ペコッ

P「オファーが来ているんでしょう? なら恐れずに行ってみてください、海外に。
 一度日本を捨ててみて、そうして初めて「日本」が見えて来ます。
 そして気付くはずです。《日本》のレベルの高さに。日本にとあなたに託された、本当の役割に」

ディレクター「……ッッッ!」ポロポロ

亜美(うわ、すげ→! ねえねえやよいっち、兄cついにディレクターさんまで泣かしたよ?)クッキーもそもそ

やよい(でも悲しくて泣いてるようには見えないよー? どっちかっていうと嬉し泣きのような……)

ディレクター「……グスン。今日は……今日は本当にありがとうございました。
    突然のご挨拶にも関わらず、こんなに懇切にお話を聞いて頂いて……」

P「いやいや、とんでもない。私の話を真剣に聞いて頂いて、ありがとうございました」

ディレクター「やよいちゃんと亜美ちゃんを見ていれば分かります。あなたがどれだけ素晴らしい方なのか……」

P「私がやっているのは彼女たちの《もと》、つまり根っこにある魅力を引き出しているだけに過ぎません。
 彼女たちが愛されているのは、私の手柄なんかではありませんよ。むしろあなた方のお陰です」

ディレクター「いいえ。あんなステキな子たちに心の底から愛されているあなたを見れば、という話ですよ。
    私も女ですから。何故か私は彼女たちに対して、言葉には出来ない焦燥感を覚えていた。
    それも今にして思えば分かります。あれはきっと……会ったこともないあなたに愛されている彼女たちに対して……
    きっと嫉妬していたんだと」

P「……」

ディレクター「プロデューサーさん、いえ、Pさん。私は貴方に逢って、この一瞬一瞬に全力で生きる決意が付きました。
    だからいま、この瞬間も全力で貴方にお願いします。Pさん、どうか私を抱いて下さい!!!」ペコーッ!

亜美「ブーーーーーーッ!!」クッキー吹き出し

やよい「!? ……! !? !?!?」ケホッ

P「…… ……」ジッ

亜美(えっ!? えっ!? えええええーーーーっ!?)

やよい(だ、だだだだ、だっ、だっっっ……!?!?!?)

亜美(抱くって! 抱くって! 抱くってっ!!! アダルティーだよ、エロティックだよ、R指定だよ!!!)

やよい(お、大人の世界だぁ……シュシュよりずっと進んだ芸能界の……)

亜美・やよい(いや、それより!)

亜美・やよい「だ、ダメェエエエエエエエェ!!!!」

ダダダッ

ひしっ! ぎゅっ!

P「……おっと」

亜美・やよい、Pの背後に隠れつつ両サイドから抱きついて

亜美「兄ちゃんは亜美たちのプロデューサーなんだから、いくらディレクターさんだってそんなアダルティーなことに誘うなんてルール違反っしょ!」

やよい「そうです! わ、私たちの前でそんなやりかたするのはよくないと思います!」

P「……お前達……」


ディレクター「……」頭を下げたまま

亜美「ううううううっ」(威嚇)

やよい「ぐうううううっ」(威嚇)

P「……顔をあげて下さい、ディレクターさん。俺が言いたいことは、ほとんどこの子達が言ってくれました」

ディレクター「……」スッ 頭をあげ

P「……貴方はまだ若く美しい。そう自分を安売りしないでください。
 それに、そこまで俺を崇拝するような態度をとるのは、ハッキリ言えば間違っている」

ディレクター「……」目を閉じている

P「……お気持ちだけは受け取ります。それから、貴方の全力も。本気で向かってきて頂いてありがとうございました」

ディレクター「……」

P「……何年か、何十年後かは分かりませんが……
 あなたがあなたなりの答えにたどり着いたとき……その時またお会いしてみたい。
 本当に、心からそう思います」

ディレクター「………」スッ 目を開き

ディレクター「はいっ! 大変な失礼をお見せしてしまったこと、お許しください!
    わたくしもこれから、765の皆さんにも負けないくらいに精進して参ります!
    本日は、本当に、ありがとうございましたっっ!!」ペコリッ!

ダッ!
ガチャ バタン!

亜美「……(泣いてた……)」

やよい「……(だけど……)」

P「……」

亜美「……」Pチラッ

やよい「……」チラッ

P「……亜美、やよい」スッ 頭に手を置き

P「あの人のことは信用していい。失敗はするかもしれないが、悪人ではない。
 それともう一つ。確かにアメリカには綺麗できらびやかな女性がたくさんいた。
 だけどアメリカ中を探したって、お前たちに敵うような女性は一人もいなかったよ」

亜美「に、兄c! それほんと→!?」

やよい「うっうー!もしそうなら、すっごく嬉しいですー!」

P「ああ本当だ。俺が言うんだから間違いない」なでなで

P「さあ、もう行こう、俺たちには次のステージが待ってる。
 グズグズしてたら振り下ろされちまうぜ、このトップアイドル坂からよ!」キラッ


亜美「応!」ギラリ
やよい「承知!」ギラリ





第二部 前半 おしり

ひとまず元スレまで追いつきました。

駆け足にしたのでひょっとしたらまたやらかしてるかもしれません。
なにか変なところを見つけたら遠慮なく教えて下さい。

引き続き、第二部中篇を書けているところまで投下していきます。

その前にちょっと休憩。

第二部 中篇

某テレビ局 地下駐車場

765プロ社用車の前で立ち話をするPと亜美

亜美「……うん、オッケー! ではでは兄ちゃんくん、送ってくれてありがとう! うちの真美にもよろしく言っておいてくれたまえよ!」

P「おう、まかせとけ。次の収録もバチッと決めてこい」

亜美「もっちのロンすけ! んにゃ、行ってきま→す!」

亜美、踊るようにして走っていく

テレビ局入館口の前でピタッと立ち止まり、次いでパッと振り返る

亜美(えへへ、バイバーイ!)Pに向かって大きく手を振る

P「……」クスッ(小さく手を振り返す)

亜美、それを見て満面の笑み

そのまま入館口の中に消えていく

P「……ったく、元気なもんだな」

車のドア バタン

P「さて……次はちょっと気合い入れていかないとな。手土産に抜かりはないが、これが果たして吉と出るか凶と出るか……」

スッ

P、ダッシュボードに手を伸ばし

ガバッ

P「……頼みますよ、諸々の神々様」

……………………
………………
…………
……

ー 数十分後 ー

某所 レコーディングスタジオ

千早「…… ……」

コントロールルーム(レコーディングブースからガラスを挟んで反対側、機械が沢山あるほうの部屋)で椅子に座り、ヘッドホンを当てて音楽に耳を傾ける千早。

目を瞑り、時折音楽に合わせてなだらかに首を動かしている。

あたかも音楽の中に喜怒哀楽を見出そうというかのように、曲に合わせて微かではあるが明確に表情を変える。

千早「…… ……」

徐々に集中していく千早。

淡い照明の部屋、徐々に暗転していき、ついには暗闇に。しかし千早の姿だけは、淡く光るようにハッキリと映し出されている。

突如、千早の上からスポットライト。

千早の聞いている曲(千早が歌うせつない曲調のバラード)だけが大きく響いている。

千早「…… ……」

集中している千早。頬は紅潮し、それでいてせつない表情。

千早のバラード、最後の大サビに差し掛かる。

千早「…… ……っ……」

ピタリと動きを止める千早。

瞬間、音楽は小さくなっていき、ついにはヘッドホンから漏れ聞こえる程度の音量に。

徐々に明るくなっていく周囲。スタッフが数人、作業中だったり千早を眺めていたりする。音楽よりも室内の雑音のほうがハッキリと聞こえる。

千早、微かに眉間に力が入り、疑念の表情。

やがてヘッドホンから微かに漏れていた音楽が止まる。

数秒ほど余韻を味わってから、

千早「違います」

ファサ

千早、ヘッドホンを外してからゆるりと首を振り、サッと髪を整える。

スッと眼を開く千早。凛と澄んだ美しい瞳。

千早「やはりこれでは狂気が多すぎます。まるで、恋の危うさという範疇を超えて、いっそ狂うことを楽しんでいるような印象すら与えてしまっている……」

テーブル上の譜面を指差し、手近にあった赤ペンで該当する箇所を丸く囲み

千早「……ここのところ、やっぱりもう一度やらせてもらえませんか?」

エンジニア「……如月さん、今日はあともう2本歌入れが控えてるんだ。ここだけにそう何度も時間は割けないよ」

千早「お願いします。一回で決めてみせますから」

エンジニア「……わかった。こちらも少し機材の調整があるから……そうだな、休憩も兼ねて15分したら撮り直そう。その間に気持ち作っておいて」

千早「ありがとうございます!」

エンジニア「如月さんは言い出したら聞かないからな。それに、なんだか良いものが出来そうな気がするし。
   おっと、おい誰か水買ってきてくれないかー? どっかに置いてきちゃったみたいだー」

千早「あ、じゃあ私行ってきます。少し歩きながら考えたいので、そのついでで良ければですが」

エンジニア「あ、そう? じゃあお願いしようかな」

スタッフ「エンジニアさんまさか千早ちゃんをパシリに使うつもりっすかー?
  へぇーずいぶん偉くなったもんですねー!」

エンジニア「いやそういうんじゃねーだろ今のは。ちゃんと話聞いてたのかお前」

スタッフ「帰って娘さんに話してあげれば良いですよ、パパは今日、あの如月千早をパシリに使ったぞ、どうだ娘、凄いだろうって。千早ちゃんの 大 フ ァ ン の娘さん(8歳)にね!」

エンジニア「ぐっ……! 如月さん、水のことは忘れなさい。そしてすぐにでも散歩に行ってくるといい……俺はやるべきことが出来た……」ユラァ

スタッフ「……ほう? ククク、我欲に突き動かされ、紺碧の歌姫の心身煩わせんとした汝の愚行目に余る。塵は塵へと還るもの……汝のその首、再び煉獄の鎖へと繋ぎなおしてくれるわ。来い! 裁きの時は今ぞ!」バッ

エンジニア「て、テメェ! やっぱりモバプロの蘭子ちゃんにハマってやがったな! 765一筋で通してきた俺たちの結束、それをこんなくだらない理由で!」

スタッフ「ぬるいわぁ!! そのようなことでは此度の大峠は越せぬぞ! この世始まってから二度とない、三千世界の大洗濯! 汝がごとき腑抜けに耐えられるものと思うたか!」

エンジニア「そいつを……そいつを命懸けでこじ開けるっていうんだろうがあーっ!」ギラリ

エンジニア、唐突に天元突破のポーズ

その他スタッフ「俺もいるぜ!」ザッ

別のスタッフ「俺だって!」ザザッ

女ススタッフ「あたしだって負けてられない!」ズァッ!

スタッフ「な、なにいいいい!? ま、まさかお前は、お前たちはァーッ!?」

千早、しばらく会話の成り行きを眺めてから、呆れたような表情。

不意に目をそらすとチカチカと光る千早の携帯が目に入る。

軽く会釈をしてから、譜面と携帯を片手にそのままフラリと部屋から出ていく千早。

エンジニア達「そう、俺たちは大和、天の道を歩む者! その名も! 天d」

ドアバタン

千早「……ハァ。賑やかな人たちね。あれで皆さん優秀なのだから不思議……」

千早「……メール……春香から……?」

From: 天海春香
件名: よかったね、千早ちゃん!

『(^ - ^v)』

千早「……これだけ? どうしたのかしら……誤送信……?」

To: 天海春香
件名:Re: よかったね、千早ちゃん!

『どうかしたの?』

Pi

返信後、携帯をデニムのお尻ポケットにしまい、廊下を歩き出す千早。
角を曲がると自販機が何台か並んでいる。

千早、譜面にチラリと目をやってから、ページをめくり歌詞カードを見つめる。

千早「……

 《 思い出から 捨ててしまおう
   あれでもなくて これでもない
   宝石のような あなたとの思い出すべて
   いまここで 澄み渡る空の淵に置いて 私は 》

  ……か……」

コツコツコツコツ……

遠くから響く何者かの足音

気にする風でもなく、自販機で水を買う千早。

千早「……《宝石のようなあなたとの思い出すべて》……」

コツコツコツコツ……

近付いてくる足音

千早「……わからないわ、どうして良い思い出まで捨てる必要があるのかしら。それも真っ先に《思い出から捨てる》だなんて……」

コツコツコツコツ……

千早(……………あれ……? この足音のリズム…………って…………)

コツコツコツ……コツ。

千早の背後で止まる足音。

自販機に向いたまま動けない千早。

不意に近くの自動ドアが何かに反応し、ゆっくりと開く。風が吹き抜けて、微かに揺れる千早の髪。

千早「……」(グッ)

息を飲む千早。胸元で譜面を握る手に、ひとりでに力が入っていく。

ゆっくりと閉じる自動ドア。あたりは静寂に包まれる。高鳴る千早の鼓動だけが響いている。

千早「……」

トクン トクン トクン……

無人のはずの玄関口で、自動ドアに反応した小さな何か。

それは確かに、寒空の下を唄うように飛び回る、一羽の蒼い鳥だった。

千早「……プロ……デューサー……?」

P「……ああ。ただいま、千早」

千早「っ」

その声を聞いた瞬間、勢いよく振り返り、Pの胸の中に飛び込む千早。

散らばる譜面、床に転がるペットボトル。

Pの存在を確かめるように縋りつく千早。千早の肩を優しく包むP。

千早「……おかえりっ……おかえりなさい……おかえりなさいっ プロデューサー……っ」

P「うん。ただいま、千早」

千早、胸元に置いていた手から徐々に力が抜ける。だらりと脱力したあとゆっくりとPの背中に手を回すも、すんでのところで戸惑いをみせる。
行き場を失った手は、結局Pのスーツのスソをキュッとつかむことで落ち着く。

少しのあいだそうしている二人。
ややあって、Pの足元から顔に向かってゆっくりと見つめて行く千早。

そして、目と目が合う。

千早「……やっぱり、そうなんですね……」

千早の潤んだ瞳、柔和な笑み。

P「そうって?」

千早「……いいえ、こちらの話です」クスッ

いたずらっぽく笑う千早。魅力的な表情。

P、千早の両肩に手を乗せて少し距離を取り、微笑む千早を嬉しそうに見つめる。

P「……いい表情が出来るようになったな、千早。それだけで今のお前の歌声が聞こえるようだよ」

千早「……あなたの前だから、ですよ。だって私はあなたのこt…きゃあっ!」

飛び上がり、顔を真っ赤にしてお尻をおさえる千早。何故かPをジッと見つめている。

P「えっ。なに、俺じゃないよ?」

千早の肩から両手を離して何かの潔白を訴えるP。

千早「……わ、わかってます! もうっ、こんな時に……」

デニムのお尻ポケットからスルリと携帯を取り出す千早。どこかスタイリッシュに見えてしまう一連の動作。なおもブルブルしている携帯。

P(なんかよかったな今の。千早に携帯のCM来ないかな。いいや、こっちから取りに行こう。新曲でタイアップも……っと……)

千早「……春香から……。フフッ、ええ、今届いたわ」クスッ

嬉しそうに携帯を操作する千早。

床に散らばった譜面とペットボトルを拾うP。譜面の赤丸と歌詞カードを見比べている。

さしあたって今日はここまでです。こうして見比べると最初の頃と文体が全然違いますね。
今は適度な割合で地の文を入れて行けたらいいなと思っています。とにかく少しでもいいものを書けるようになりたいです。

前のスレはHTML化希望届けを出してあるので、いずれ消えると思います。

それではここまで見てくださった方、お付き合いくださり本当にありがとうございました。続きはまた近いうちに。

あ、今年もいよいよあとひとつきですね。ホゲェー

おやすみなさい。

>>1です。
すみません、年末商戦で仕事がクソ忙しくなっているのと、千早との対話が思いのほかうまくいっていないのとで、まとまった更新にはもうしばらく掛かりそうです。
来週の頭にはもう少しだけ続きを投下出来るようにしますが、こんなゴミSS(直球)を読んでくださっている方があればもう少しだけお待ちいただければ幸いです。本当にすみません!

>>1です。

量は少ないですが投下していきます。

>>108からの続きです。

P「バラードか。この様子だと……最後の大サビ、ここんところで引っかかってる?」

千早「! そうです、大切な人とのいい思い出まで捨ててしまう理由がどうしても分からなくて……!
 私なりにこの曲は恋の危うさというか、過去の辛い恋を乗り越えようともがく女性の想いを歌った曲だと解釈しているんです。
 歌詞の中で芯の強い一面も描かれているので、女の子というよりはきっと私よりも年上の……ちょうど音無さんくらいの年齢の女性で……せつない曲調なんですけどどこか温かみのあるオケが特徴で、この「思い出を捨てる」という表現を除けば全体的に前向きで力強い歌……。
 だからこそおかしいんです、自棄になっているのならともかく《宝物のような》とまで言っている思い出を《捨てる》という表現に行き着くはずがなくて……だからもういっそ狂ってしまっている人の歌なのかとも思ったのですが……作詞家の先生は『自分で考えてみなさい』の一点張りで……」

勢いよく喋り出す千早。その横で歌詞カードと譜面をジッと見つめるP。

喋り終わり、自信なさげな千早。

P「……ふむ。なるほどな」

スッ

P、歌詞カードを千早に見せる。

P「最後の大サビ。この歌詞の中であえて一番重要な部分を一行選べと言ったら、どれを選ぶ?」

歌詞カード、Pが指差す部分には

《  思い出から 捨ててしまおう
   あれでもなくて これでもない
   宝石のような あなたとの思い出すべて
   いまここで 澄み渡る空の淵に置いて 私は  》

と書いてある。

千早「……むずかしいですけど……多分、最後の一行だと思います。澄み渡る空の淵というのはきっと綺麗な場所ですから、そこに思い出を置いて先に進んでいくという意志を表して……」

P「なるほどな。ちなみに俺はココだと思う」

P、《あれでもなくて これでもない》の部分を指差す。

千早「……ここ……ですか?」

訝しげな千早。顎に手を当てて思案顔。

P「そう、ココ」トントン

千早「……お言葉ですが、私にはそうは思えません。むしろここは文字合わせのために入れた……あえて言うなら最も不要な部分だと思います」

P「そうも読める。だがこの歌詞と譜面を読む限りでは、このたった一文のためにこそ書かれた曲だと言っても過言ではない、とも読める」

千早「……それは一体どういう……」

女スタッフ「あ、いたいた。千早ちゃーん! そろそろお願いしますー!」

千早「あ、はい! ごめんなさい、もう少しだけ!」

女スタッフ「ええ? それは……って、ああっ! プロデューサーさんじゃないですか! いつこちらに帰って……あっと……(察し)」

女スタッフ「……えー、エンジニアさんには私からなんとか言っておきます。だけどなるべく早くお願いね!」

千早「はい! ありがとうございます!」

P、苦笑いでペコリ

女スタッフ、無言でウインク。去っていく。

P「……さて。そうか、先生はこれを自分で考えろと言ったのか。なるほど、実にあの人らしい」クスッ

P「とはいえ時間もあまりないようだから簡潔に答えだけを教える。だけどその答えの先には、もう一つ別の答えがある。それを念頭に置いて聞いてくれ」

千早「は、はいっ」ビシッ

P「はは、そんなに改まることでもないけどな。ズバリ言うと、これは失恋の曲じゃない。恋の危うさを歌った曲でもないし、まして狂った女の歌でもない。
 そうだな、彼女は《いまここで》その大切な人とすでに一緒にいると考えて、もう一度歌詞を読んでみろ」

千早「……いまここで、既に……」


《 思い出から 捨ててしまおう

    あれでもなくて これでもない
    宝石のような あなたとの思い出すべて
    いまここで 澄み渡る空の淵に置いて 私は 》

千早「……!」

千早「……」バッ!

千早、食い入るように歌詞を最初から読み直す

千早「うそ……じゃあこの人は……」

P「いや、それも違う。いいか千早、思い出というのはすべからく過去の産物、言わば《かつて今だったもの》の断片にすぎない」

P「そして過去の本質は《善か悪か》ではない。ある思い出を切り取って、これは良い思い出、悪い思い出というふうに選り分けること自体がそもそもの間違いなんだ」

千早「過去の……本質……?」

P「そう、本質だ。俺たちは間違いなく《いまここ》にいる。だからこそ過去のことを思えるし、思い出すことができる。しかしその逆はあり得ない。
 つまり過去の本質は過去そのものではなく《いま》の中にある

P「過去が宝物のように見える理由、それは《いま》からの乖離だ。過去を脚色し、意味を与えて額縁に入れ、心の中の鑑賞室にしまい込んだ。そしてあるとき、それを良い思い出と呼ぶことにした」

P「その《良い思い出》を鑑賞しにいくために《ここ》を離れてしまっている……言わば過去に逃げ込んでいるってところかな。それが《いま》からの乖離だ」

千早「……そんな……誰にだって大切な思い出はあります。私だって……」グッ

P「その大切な思い出を《大切な思い出》と呼ぶのをやめる、それだけのことだよ」

P「それは例えば花を見て綺麗だとか不格好だとか、だれかをみて美人だとかブサイクだとか思うのをやめることと同じだ。
 目の前の《いまここ》を、鏡のようにただ映し出し、そしてありのままをただ見る。そこに一切言葉を付け加えないということ」

P「つまりな、彼女が捨てようとしているのは思い出そのものではなくて、大切だった人を大切な過去に閉じ込めて、宝物に仕立て上げて悦に入っていた自分自身だ」

千早「……でも、それじゃあ……この人は一体なにを思ってこれから……!」

P「そこだ。《何を思って生きていくのか、何を考えて生きていくのか》という問いがそもそもの間違いなんだ」

P「思い出せ、千早。《自分》とは、如月千早とはなんだった? もちろんすぐに答えは出ないだろう、だが少なくともそれは千早の《思考》のことではなかったはずだ。
 むしろ千早の《行動》こそが千早を千早たらしめている」

千早「……」

P「私は歌手だ、アイドルで765プロのメンバーで、そして如月千早だとお前の思考は言うだろう。そうして自分を納得させるための理屈や理論をいくらでも掘り返してくるだろう。
 思考はいつだって思考に忠実だ。それゆえ思考そのものが苦しむことのないように、瞬く間に《もっともらしい答え》をお前に提示してくる。
 だけどな千早、思考はお前自身の《本質》そのものを提示することが出来ないんだ」

千早「私自身の本質……」

P「いいかい、《お前の思考はお前そのものではない》。思考の言葉に遮られてはいけないよ。思考とはあくまでもお前の従者であり、便利な道具だ。
 ゆえに《お前は思考に仕えてはならない》。思考によって定義された自分を思っても、それは《どこにもいない誰でもない何か》の表面を撫でているだけに過ぎない」

P「なぜといって、定義とはすべからく記録から生まれる。そして人が何かを記録するとき、それらは皆一様に何かが乱れた時だ。
 日記から事件簿、日本史や世界史、人類史から母子手帳に至るまで、そのすべてが《騒乱》の記録にほかならない。なにも起こらない、全てが調和している時の記録は残らないし、残らなくていい。残す必要がないからだ。
 ゆえに《起こったこと》の本質は《起こらなかったこと》にこそある」

P「《起こらなかったこと》こそが本当の歴史だ。そしてそれは千早にも同じことが言える。如月千早の本質は《如月千早ではないもの全て》にこそ隠れているんだよ。
 《如月千早が生きている》ではなく、《如月千早ではないもの全てによって生かされている》という見方をするとわかりやすい」

P「そして千早、これから言うことはハートで聞きてくれ。いいかい、お前の中には《鏡》があることを思い出しなさい。
 《鏡のようにありのままを映し出しているだけのお前自身》と、《鏡に写るものに絶えず言葉を付け加えようとしている思考》とを区別するんだ。
 前者、つまり鏡であるお前自身が常に心の王座についていなければならない。思考に王座を奪われてしまっては、お前はお前ではないものに仕えていることになる」

P「音楽の世界とのつながりが深いお前には分かるはずだ。”Beat" とは "Be at” と書く。つまり《そこにいること、そこにあること》だ。思考から自由になってビートにのっているとき、お前は《いまここ》にいる。それは《思考の夢から覚めている》ということなんだよ」

千早「……」

P「思考は常に過去や未来の出来事にむかって飛んでいってしまう。あっちにぶつかり、こっちにぶつかり、こうしている間にも《いまここ》から離れていこうとしてしまう。
 そんなときはただ一言、自分の心のなかで思考に向かって「おいで」といってやるといい。そうして安心させてやることだ。
 ここにいて良いのだと、いまここで、ありのままで良いのだと。そして王座は千早自身のものなのだと教えてやる訓練をするといい」

P「そうして訓練することで、思考もだんだん慣れてくる。ああ、いまここに居続けることが思考にとっても千早にとってもベストなのだということが分かってくる。
 これを《自分自身と和解する》とか言ったりもするな。堅っ苦しくて俺はあんまり使わないけど」

千早「……なんだか不思議な話ですね。まるで四条さんと話しているような気分です。それでも、あなたが言いたいことは分かるような気がします」

千早「いままで私だと思っていたものがすべて思考が創りだしたマボロシのようなものだったということですよね。それはなんとなくわかりました。
 それでも私はなにか言葉がほしいんです。かつての私にとってあなたがそうだったように、自分の名前よりも確かに自分ことを示す言葉……そんなものがあれば、ですが……」

P「Neither that, nor this.」

千早「……え?」

P「"Neither nor 構文"とか言うんだったか? もう学校で習ってるはずだが……意味はわかるか?」

千早「……ええ、それは。そのまま訳すと……《あれでもなく、またこれでもない》ですか?」

P(トントン)

《  あれでもなくて これでもない  》

千早「……!」ゾクッ

P「……千早、《彼女》の答えはここに書いてある。そしてお前の探している言葉もこれだ。それこそが《あれでもなくて これでもない》だ」

千早「……」

P「それがどういう意味なのか、思考を使って定義しようとすればその時点でズレる。彼女の答えとは違ってしまう。
 定義した時点でそれは《あれ、あるいはこれ》になってしまうからだ。本当の答えはあくまでも《あれでもなくて、これでもない》だよ」

千早「……そんなの、まるで……」

P「禅問答、か? その通りだ、さっきから俺はお前に禅を説いているよ。いやなに、アメリカでちょっと縁があってな」

千早「……」

P「なあ千早、こんな話を知っているか? どこの国の赤ん坊でも、必ず虚空を指差して《タ・タ・ター》と声を出す時期がある。
 その時赤ん坊は、《あれでもなくてこれでもないもの》を指している。彼女がたどり着いた答えは、この《タタター》に近い」

P「赤ん坊には《過去》がない。まして宝物のような思い出など持ち合わせていないし、未来という概念すら持ち得ない。
 故に《タタター》は純粋なる《いまここ》の産物だ。とても簡単なことなんだがな、言葉で伝えようとするとこんなにもややこしく聞こえてしまう」

P「だが、彼女はその向こう側に辿り着いたんだ。とどのつまり、一口に言ってしまえば……」

P「これは思い出の中に生きるのをやめて、《いまここ》で生きることを決意した人の唄だ。
 彼女はその《大切なひと》に感謝しているだろう。これだけのことに気付かせてくれたんだからな」

P「故に、その《大切なひと》が実際に彼女のそばに居るか居ないかは、もはや彼女にとって重要ではないんだよ。彼女の思考は、もう完全に彼女自身にひれ伏している」

千早「……」

P「千早にも、思い当たるフシがあるんじゃないか」

千早「……優……」

P「……」スッ ナデナデ

千早「……なんだか……はぐらかされているような気もしますし、とても大事なことを教えていただいたような気もしています……」

千早「……とにかく信じられないほど多くの情報を一度に受け取ってしまったような……そんな気分です……」

P「さすが、筋がいい」ナデナデ

千早「……あれでもなくて、これでもない……それが彼女の答えなら、なんだか少し寂しい気もしてしまいます。それと同時に羨ましくも思える。彼女のその、強さが」

P「……」

千早「……一時期、プロデューサーがアメリカに発ってしばらくしたころ、ずっと考えていたんです……どうしてあなたが、プロデューサーが私のそばにいないんだろうって」

P「……」

千早「……もちろん、そこに理由をつけることは簡単でした。私がアイドルで、あなたはプロデューサーだから。お仕事だから。夢のためだから。そんな理由を見つけようと思えば、それは驚くほど簡単で……」

P「……」

千早「……でもある時、私の中で全部の疑問が《ひっくり返った》んです。あなたがいない理由そのものではなくて、どうして私はそんなことを考えてしまうんだろう、って……」

千早「……結局のところ……私はただあなたのそばに居たかった、それだけでした。
 あなたがそばにいて、その喜びを歌に込めていくこと。それが私にとっての幸せなのだと、そう考えていた自分に気付いた……だから……」グッ

P「……」

千早「……教えてください、プロデューサー。どうして彼女はそう強くあれるんですか? 一体何が彼女の心を満たしているんですか? どうすれば彼女のように……」

P「《ただ幸せであるという選択》だよ」

千早「……!」

P「幸せに条件なんか必要ないんだ。《あれだから、これだから》という条件つきの幸せは、《あれではないから、これではないから》という反対の条件が整った途端、不幸の種になる」

P「《あれだから、これだから》《あれではないから、これではないから》……一見正反対のようにも見えるそれらは、因果の振り子の上では同じ一つのものだ。
 だから千早、お前は中道を行くんだ。善悪の、正負の、足し算と引き算の振り子を乗りこなすことより、ただ中庸であることのほうがはるかに尊く、そして揺るぎない」

P「……《吾唯足るを知る》《Enough is enough》……昔の人は良い言葉を残してくれたもんだ。
 中道を行くということ、それはいまここにあるものを淀みなく見つめ続け、そんな己を生かしてくれている森羅万象万物一切に感謝のこころを持ち続ける道だ。
 そしてお前は今この瞬間にだってその道を選択することが出来る」

千早「……」

P「お前の才能とこの歌なら、きっとそれを表現できるはずだよ」

千早「……」グッ

P「……さて、そろそろ戻らないと。さすがにこれ以上はもう待ってもらうわけにもいかないし。いけそうか、千早?」

千早「やれるとはいえません。だけど、今こそ歌ってみたいとも思います」

P「さすがは千早だ。それじゃあ、最後に宿題を一つ残しておこう」

P『過去はかつて今だったもの、未来はいずれ今になるもの。ならば《今》とはなにか?』

P「その答えを見つけ出せれば、お前は世界一の歌手にだってなれるよ」

千早「……」

P「さあ行ってこい千早! お前にしか歌えない歌を世界が待ってる!」クシャクシャ

千早「……」ペコリッ

スッ

タッタッタッ……

駆けていく千早

自販機の前、一人取り残されるP

P「」ハァ

P(……《そっ啄同時》……やってみるとこんなにも難しいものか……)

P(最後に出した宿題……答えの先のもう一つの答え……千早ならきっと気づいてくれると思う)

P(……バッドコミュニケーション? そいつは違うさ。去り際に見せたあの目……あれはたしかに……)


ーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーー
ーー

今回はここまでです。

年内に完結…とまでは言わずとも、もう少し更新できるようにしたいと思います。

せめて千早篇だけでも締めくくっておきたいところです。

それでは。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 10:33:58   ID: nlU9tFqK

これは厨二病作者

2 :  SS好きの774さん   2015年11月21日 (土) 14:37:31   ID: ItyMUnlC

台本形式をなんか勘違いして戯曲形式で書いてる無能

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom