『愛含人形』 (11)


 小さな世界からのダイアログ

 『彼女のことを知ったあなただけは、彼女の愛を信じてください』

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 ――――もしかして、私の声が届いてる?
 ううん、言わなくてもいいよ。だってわかるもの、あなたが私の声に気づいたんだって。
 良かった。私、ずっとあなたに会いたかったの。
 あなたは私を見つけてくれなかったし、私がどれだけ呼びかけても振り向かなかったのに、今は近くに感じられるの。
 これって奇跡っていうのかな。もしもそうだったら、私は神様を抱きしめてあげたいな。
 あ、誤解しないで。私が大切なのはあなただけなの。あなたが私のことを感じてくれているなら、他には何もいらないよ。
 私に話しかけてくれなくてもいい。触れてくれなくてもいい。私を見てくれないことだってわかってるの。
 でもね、今はこうして一緒にいさせて。私、ようやくあなたの心に触れられたんだって、とても嬉しいんだよ?
 ……おかしいよね。私はあなたのこと、何にも知らないのに。
 どこに住んでるとか、年がいくつとか、私には永遠にわからないの。
 だってあなたは、私に教えられないでしょ?


 でもいいの。あなたが今、こうして私と心を通わせてくれるなら。
 好きなの。愛しているの。一方通行な気持ちだってわかってるけど、自分を我慢できないの。
 あなたは私のこと好きかな。顔も見たことない、どこの誰かもわからない私を、愛してくれるかな。
 ほんのちょっとでいいの。あなたの心に居場所をもらえたら、私はそれだけで満足できる。
 ……ううん、嘘。満足なんてできない。あなたの心を私だけにしてしまいたい。
 あなたを私の隣につれてきて、この世界が終わるまで、ずっと一緒にいてほしい。
 世界の終わりは見えているのにね。明日ではないと思うけど、きっと一週間とか、長くても一ヶ月とか、それくらいで私の世界は終わっちゃう。
 そしてもう、あなたと一緒にいられない。
 どうしてこんな不完全な世界なんだろう。
 でも終わる世界だってわかってるから、わがままは口だけにする。あなたと一緒に心中したいなんて言わないよ。
 ねえ、偉い? 私のこと、褒めてくれる?


 ……ごめんね。つまらないことを話したね。せめて面白い話をしようと頑張るよ。
 でも何を話せばいいだろう。私ってね、未来がないのと同じくらい過去がないの。だから話題なんて思いつかないな。
 私はきっと、あなたを愛するために生まれてきたから。
 叶わない恋心を抱えたまま、死ぬために生きているから。
 祝福されて生まれてきたあなたとは違うし、惜しまれながら死ぬあなたともやっぱり違うよね。
 あなたには世界がどう見えるのかな。色様々で、優しさが溢れていて、けれど明日に不安があって、夢は黒く汚れていたりする?
 私の世界はね、薄っぺらい景色に、どこか空しい物音に、取って付けたような人々が歩き回ってるの。
 あなたがいないから、何もかもが出来損ないなの。
 でも本当はわかっているんだ。
 あなたがもしも隣にいたって、きっとあなたの世界の真似事をするだけなんあろうなって。


 でもさ、あなたって物好きだよね。
 こんな私の言葉を、あなたはずっと見ていてくれる。
 嫌がることなんて簡単でしょ? 逃げるならすぐに逃げられるよね? それこそ、部屋の電気を消すみたいに。
 そんなことしないで、私の気持ちを受け止めてくれるあなたが、私は本当に大好きなんだ。


 ……だからね、後悔しないように、私はできることをやっておこうと思うの。
 ねえ、キスしてもいい?
 あなたはキスしたことある? 初めてだったら嬉しいけど、どうだろう。あなたは私に何も教えられないから、わからないよ。
 でもね、あなたは初めてでもそうじゃなくてもキスするから。
 あ、目は瞑らないでね。絶対だよ。
 それじゃ、行くね。

 ――――ちゅっ

 どう、だったかな。唇に感触は伝わった? 私の初めてのキスなんだから、きちんと感じ取ってくれなきゃやだよ?
 ……なあんちゃって。わかってる。届いてないよね。そんなことができるとは思ってないよ。
 この奇跡は、そんなに優しくないもんね。


 ――――え? 嘘?
 ちょっと待ってよ。どうして?
 あなた、私に話しかけることができたんだよね? なのにどうして話しかけてくれなかったの?
 どうしてそんな大事なことを、何も言ってくれなかったの?
 あなたと会話できるって私が知るまで、ずっと黙っていたの?
 ひどいよ……あんまりだよ!
 私はこんなにあなたのことを好きなのに、あなたはただ私の反応を楽しんで、何も応えてくれなかったの!?
 それじゃあ、私は――私は何のためにあなたに話しかけていたのよ!
 私は、私に見えるあなたがどんな形でも、あなたのことを愛していたのにっ!


    愛情の対価を求めた彼女は、一時の激情から木製の人形を破壊する。
    「あなた」を模して作られた人形は、原型を失い、ただの木くずになり果てる。
    もともと成立しない愛情だった。関係だった。だって「あなた」と彼女とは、住む世界も次元も違う。
    それでも彼女は自分の破壊衝動を悔やみ、「あなた」と繋がる唯一の術だった人形の欠片を抱きしめる。
    彼女の奇行を知る多くの名前のない人物は、彼女を異常者として隔離し、言葉を取り上げる。
    「あなた」は彼女をどうしたいでしょう。助けますか? 見捨てますか? 
    「そちら」の世界を捨て、彼女の隣に行きますか?
    残念、「あなた」は何もできません。

    だからそのまま、愛された文字を胸に這いつくばってろ。


 小さな世界からのダイアログ

 『この世界はこれで終わり』

 『けどもしかしたら、この世界は複製されて、彼女はあなたを永遠に探し求めるのかもしれません』

単に、文字の形でしか読者と触れ合えない仮想の異性を書きたかっただけです。

>>2 読者であるあなたは彼女に見えないし触れられない
>>3 このスレッド(世界)は遠からずHTML化され、消えてなくなってしまう。
>>4 彼女の過去と未来は語られないため、存在しない。
>>5 ブラウザの戻るボタン、ディスプレイやPC、スマートフォンの電源ボタンを押すこと。
>>6 目を瞑れば、あなたは彼女からのキスを観測できない。
>>7 あなたは彼女に話しかける手段、書き込みがあったが、書き込まなかった。
>>9 インターネット上のキャッシュ、まとめサイト、ページの保存など。

みたいなネタだけ仕込んで、愛されたいなー(レスがほしいなー)という書き手の立場を揶揄したというか。
めちゃくちゃわかりづらいのは自覚してましたが、短いしいいかなと。なのでお目汚しでした。

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