うちの庭に季節売りが来たときの話 (22)

酒の勢いで適当に書いてく

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酉間違えた


「……」

『うー、おうおっ、いぇーい!』

「…………」

『るんたかるんたか、いぇっいぇーい!』

「箒ってどこにしまってたっけかな……」

『待て、箒で何をするつもりだ』


「落ち葉掻きでもしようかと」

『あれ、そんなに紅葉してる? ちょっと飲んできたから気分は高揚してるけどさ』

「枯葉しか落ちてねぇな」

『この野郎』


「で、こんな真昼間から飲んだくれてるおねーさんはどうしてうちの庭に?」

『あれ、知らない? ほらほら、巷で噂の季節売り』

「あー、巷ね。どの辺りにあるんだっけ。九州?」

『そりゃあもう、九州に限らず色んなところにごろごろよ』

「ごろごろって、どのくらい?」

『西部劇でよく見る転がる草くらいには』

「そんなに?」

『そんなに』


「巷の場所はともかく、季節売りってのは初めて聞いたな」

『読んで字の如く、季節を売ってる奴のことさ』

「どこにも書いてないから読めないなぁ」

『じゃあ書いたげるからほれ、箒でいいから貸してよ』

「箒ってどこにしまってたっけかな……」


「まあ確かに、春っぽい感じだよね」

『あ、分かっちゃいます?』

「花見の席によく居そうな感じがする」

『こいつ分かってるなー』

「もしくはただの酔っ払い」

『こいつ分かってねぇなー』


『春ってのはさ』

「春ってのは」

『やっぱり浮かれ気分になって、ちょっと変な事でもしちゃえるだろ』

「だから春先にはおかしな奴が多いのか」

『そのせいで春を売るのは禁止なんだよなー』

「やらしい言い方だなぁ」

『商売にやらしいもくそもないって。ごくごく』


「じゃあさ、春以外なら売れるの?」

『売れるよ。あんまり売れてない秋はいかが?』

「秋はどんな気分になれるのかな」

『まあまあ、そんなことより一緒にウイスキーでも飲もうよ』

「春だなぁ。乾杯」

『とことん春だよ。乾杯』


「うへぇ、ストレートはキツい」

『ん、君は何かで割って飲むタイプかい?』

「いいや、酒は飲まないんだ」

『それがまたどうして飲もうって気に』

「……春だから?」

『なるほど、新歓のアルハラだね』

「あぁ、ヴァルハラが見える」

『そりゃ幻覚だよ』

「いや、それがやけにくっきり、目の前に人型のヴァルハラが」

『そいつは季節売りだよ』


「そうそう、なんだか身体がぽかぽかしてきたんだけど、これは夏かな」

『それは恋だね』

「これが恋か」

『もしくはただの酔っ払い』

「これがただの酔っ払いかー」

『そいつは季節売りだよ』


「こんな気分になるのが春だってのは分かったけどさ、夏はどんな気分になるんだい?」

『とりあえず明るい気分になって、何でもできそうな気分になれる』

「若さを感じる夏だなぁ」

『君だって若いくせに』

「早熟なんだよ、早生まれだから」

『たった一年足らずの差なのに?』

「鼻先の差で勝負が決まるのに、一年なんて大きすぎるよ」

『勝った方は鼻高々だろうしねぇ』


「夏の気分があんまり春と変わらない気がするんだけど」

『あれだよ、春はアホで夏はバカなんだ』

「容赦ないなぁ」

『ちゃんと言っておかないと後で偽装だなんだってうるさいからね』

「偽装がなんだ!」

『そうだそうだ!』


『偽装だろうとなんだろうと、僕らの夏は始まったばかりだってのにね』

「あれか、季節売りさんは僕っ子さんか」

『違うよ、あたしっ子さんだよ。君は何っ子さんなんだい?』

「何っ子さんだと思う?」

『……鍵っ子さん?』

「正解。鍵は鍵の事を鍵って言ってるんだ」

『あたしが悪かったから心の鍵を開けてくれないかな』

「閉じた覚えはなかったんだけどなぁ」


『仮に君が鍵を開けっ放しにしていたとしよう』

「開けっ放しにしていたとすると?」

『それはとても不用心だ』

「そこまで考えが至らなかったな」

『だからあたしが留守番をしておいてやろう』

「家賃取るよ?」

『そこまで取るなら責任も取って欲しいな』

「何のだよ」

『ほら、同じ瓶の酒を飲んだ仲だろう?』


「責任云々はともかく、夏の次は秋だよ」

『秋ね、秋。秋はとても寂しい季節だ。春、夏と輝いていたものが散っていく、とても寂しい気分になれる』

「そういうのは好きだな。限りある時間を生きてるってのが感じられてさ」

『うわぁ、中二だ』

「自覚してるとの自覚してないのじゃあ、大きな違いがあるのさ」


「秋と言えばさ。お腹が空いたり、芸術的な気分にはなったりしないの?」

『ならないね、ちっともならない。みんな遠い目をしちゃうんだ』

「やっぱり儚さとか、切なさの方が強いんだ」

『強いと言うより、そっちの方がしっかり染み込んでくるからじゃないかな』

「おでんの季節だからね、秋は」

『玉子が茶色くなるまで染み込まないとね』


「さて、そろそろ最後の季節だけど」

『ありゃ、もうそんな時間か』

「まあ、季節屋さんの匙次第なんだけどね」

『そういえばそうだった』

「だから季節屋さんがまだ秋でいたいなら秋でいられるんだよ」

『いや、そろそろ限界だし終わりにしよう』


「じゃあ次は冬だね。冬はどんな気分になるんだい?」

『寒くて、誰かに寄り添ってほしいような気分かな』

「僕には季節屋さんが寄り添ってくれるのかな?」

『いや、あたしは他にも行かなきゃいけない所がいっぱいあるからね』

「寂しくなるね」

『そりゃあ、まだ秋だからね』


『来年も冬が近くなったら来るよ。だってほら、私は北風小娘だし』

「小娘って見た目じゃあ、ないけどね」

『この野郎』

「まあ、来年までには飲めるようになっておくよ」

『それじゃあ来年はとっておきを持ってこようかな』

「楽しみにしておくよ」

『うん、それじゃあ』

「……」

「…………」

「そろそろ冬だなぁ」

これにて終了です。もっと季節を絡めた話が書きたかったのになぁ

乙!
なんかもうちょいふくらましたら蟲師的な雰囲気になりそう

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