【ラブライブ】シークレットつばさアライズ (45)

シークレットつばさアライズとは、シークレットなつばさのアライズである。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416748795

人は、しばしば嘘をつく。

それは自分の身を守るためであったり、誰かを陥れるためであったり。

もしくは……。

どちらにしても私は、そんな嘘たちが嫌いだった。

イソップ物語より 北風と太陽(ツバサ解釈)



北風と太陽が勝負をすることになった。内容は「旅人の上着脱がし一本勝負」。

北風は上着を吹き飛ばそうと強い風を吹くが、旅人は逆に上着を強く抑えてしまう。

一方、太陽は強い日差しを出す。すると旅人は暑さのあまり自ら上着を脱いだ。

私は、太陽は善良な旅人を露出狂にしてしまう恐ろしいものだという教訓を得た。

【綺羅風と太陽】



つばさ「綺羅ツバサです。よ、よろしくお願いします」



引っ込み思案で、昔から人前に立ったりするのが苦手だった。

だから今のこの状況のような……自己紹介のような場で私は気の利いたことが言えない。

しかしそれもどうということはない。

私はそんな私を素直に正直に受け入れる。

「つまらなそうな人だ」

それがどうした。余計なお世話である。

おとなしい私の胸中は、なかなかどうして穏やかではなかった。

しかし事実、私はつまらない人間であった。

みんなが手を上げれば私も手を挙げる。みんなが黙っていたら私も喋らない。

私は蝙蝠(こうもり)のようにフラフラと常に立場を変えた。

綺羅ツバサの世渡り三ヶ条。

目立たない。張り切らない。出しゃばらない。



今日も私はそれを忠実に守り生きていく。



……そうしてきたはずだった。

ところが入学早々、私は廊下で何者かに呼び止められる。

具体的には「君、名前なんていうの?」と一人の先生に呼び止められる。

つばさ「え、えと……綺羅ツバサ、です」



考える。なにをしてしまった?

先生に呼び止められるようなことはなにもないはずなのだけど……。

困惑する私とは反対に、その先生はなぜか笑顔でこう言う。

「話があるから、放課後視聴覚室まできてください」



・・・・・

・・・・・



三ヶ条に従い、私はおとなしく放課後視聴覚室に向かう(先生に従いと素直に言わない私)。

それが一番ことを荒立てない方法だと思った。

なにか怒られるなら、謝ろう。心当たりの有無に関わらず。



意を決するようなこともなく、私は扉を開けた。



「では一次審査を始めます」



その日そこで行われていたのは、スクールアイドルのオーディションだった。

……説明が遅れたが、私の通うことになったここUTXではスクールアイドルが非常に盛んだ。

毎年我こそは次世代のトップスクールアイドルを担うものだと応募者が殺到すると聞く。

スクールアイドル最高峰「A-RISE」。選抜された生徒で構成される超A級ユニット。

つまり次のA-RISEを決めるオーディションが開かれるわけだ。

そんなオーディションに、なぜか私はいた。

あれ? 先生に呼ばれてここに来たんじゃ?



「では、自己PRをお願いします」



ちょっとまって。

どの子もおよそ何日も時間をかけ吟味し、暗記してきたであろうセリフを流暢に音にする。

……私はなにも言えなかった。そう。私は何もできなかったのだ。

無理もない。だって唐突すぎて何がなんだか。

私には落ち度はない。だからもうこのまま終わってくれ。

そもそも私にそんなつもりはない。世界が違う……。

自ら例えたその言葉に、なぜか虚しくなった。

どうも今日の私は立て付けが悪い。どこからかすきま風がヒューヒューと入ってきた。

私は身を縮めてそれが止むのを待った。



・・・・・

・・・・・



太陽が昇り、沈むことに疑問を持ったのはいつだろう。

大昔の人は、それは太陽が動いているからだと言った。

しかしある一人の偉い人がそれは違うと言った。それは地球が動いているからだと言った。

正直に自分の考えをいいマジョリティを敵に回したその偉い人は処刑された。

まさにマジョ裁判だ。なんだそりゃ。

ところが現在その人は「偉い人」と認知されている。……その人は正しかった。

太陽は、その場で回って――踊って――いるだけで、決してその場から動かない。

太陽が昇るのは、地球が回って――踊らされて――いるからなのだ。

私たちが動くから、今日も東からライジングサン記念日。

A-RISE。

大きな電光掲示板に映るアレもまた星であり、太陽だ。

羨ましい……? まさか!

私は、つまらない人生に少し刺激を与えてやりたくなった。

そういうとき、私は太陽にケンカを売る。

太陽のような笑顔、太陽のような陽気さ、明るさ……眩しい人たち。

私は時折それらにケンカを売る。一方的に、心の中で。

あなたたちなんて羨ましくもなんともない! くだらない!



つばさ「そんな私が、なんでスクールアイドルのオーディションなんて……」



この一人の少女の聴くに耐えない長ったらしい独白に、なにか意味があるのかなんて私の知るところではない。



しかしそれも、どうということはない。

なにせ私が審査を通過するはずがないのだ。

なにもできなかった、なにもない私が。



ところが無常にも、なにもできなかった私に一次審査合格の通達が届いた。

私の「事なかれレーダー」が激しく反応した。

これはおかしいぞ、と。

危険だ。黄色は止まれ。

次の交差点は黄色だ。止まれ。

さもなくば、人生を棒に振ることになる。

「事なかれレーダー」は私にそう告げた(自分の直感であると素直に言わない私)。



・・・・・



後日。

「では、二次審査に入ります」



はっきり言おう。辞退すると。

多少三ヶ条に反することになるが、この際仕方がない。

……いや、待てよ。わざわざ目立ってそんなことを言う必要はない。

もう黙ってここから出よう。

それで全て解決だ。そもそも間違いで参加してしまったものなのだから。

私はこそこそと視聴覚室の出口に向かった。

そしてソロリと取っ手に手をかけたとき――。

バンッ! と大きな音を立てて扉が開いた。

私じゃないぞ!

私は速やかにこの場から離脱しようと顔をあげる。

「すみません! 遅れました! 統堂英玲奈です」

……そこには、ひどく目立つ黄色の服を着た女の子が立っていた。



黄色は、止まれ。

誰にそんなことを刷り込まれたんだったか……。

とにかく私は、その運命の交差点で立ち止まってしまった。

えれな「ん? どうしたの君、トイレ?」

つばさ「あ、いや。私は……えっと」



「早く座りなさい。さて、二次審査は三人ひと組になってもらいます」



私は座るしかなかった。その空気で帰りますと言えるほど私はおろかではなかった(素直に自分の性のためだと言わない私)。

えれな「ちょうどいい。私たちで組もう。な!」

つばさ「え、ええ? あの」

そこに――。

「じゃあ、私も入れてもらおうかなー」と不敵な笑みを浮かべながら、一人の女の子が話しかけてきた。

えれな「早くも三人揃った。お名前は?」

あんじゅ「優木あんじゅ。あなたたちさっき目立ってたし、一緒になったら有利かなーって」

えれな「ゲスい考えだな……」

つばさ「たぶん、そういう積極性とかを見るために自分たちでグループを組ませてるんでしょうね……」

えれな「なるほど! えっと……」

つばさ「綺羅ツバサ、です」



こうして引っ込み思案な私は、気さくな統堂英玲奈さんと、少しゲスい優木あんじゅさんとグループを組むことになった。



あれ?……どうしてこんなことに……。

二次審査は数日に渡って行われるらしい。

その日は組んだグループでスクールアイドル担当の先生に顔合わせだけして解散とのことだった。

私が逃げたら、この二人もひどいとばっちりを受けてしまう。

流石にそれは悪い。二次審査が終わってから辞退することにしよう。



つばさ「し、つれいします」



そこにいたのは、あの日私を視聴覚室へと誘った先生だった。

「あ、君か。悪いようにはしないよ。私は君に可能性を感じたんだ」

つばさ「あの……私は別にスクールアイドルとか……」



とまで言うと、その先生は眉をひそませ、大きく息を吸った。

この動作のあとは、大声か長台詞が始まることを私は知っている。

「まったく、その中身がよくないな。それでは売れる物も売れない。

……そうだな、綺羅ツバサ。君のそのキャラクターは今日でおしまいだ。

君は今日からカリスマ性に満ち溢れる自信家として振舞うんだ」

つばさ「は……?」

えれな「ぷっ!」

「うん。それがいい。君たちの二次審査突破の課題はこれにしよう。

個性の確立のために新しいキャラクターをつくる。今のニーズにあったとびっきりアイドルなキャラクターを。

同様に統堂英玲奈。君にはクールで無感情な大人な雰囲気の女性になってもらう」

えれな「は……?」

あんじゅ「ぷっ!」

「それから、優木あんじゅ。君はふんわりした癒し系の女の子だ」

あんじゅ「は……?」

つばさ「ぷっ!」

えれな「おお!バッサーが笑ったぞ!」

「……統堂英玲奈、クールに」

えれな「あっ、すみま……申し訳ない」





こうして私たちはそれぞれ「カリスマ」、「クール」、「癒し系」を演じることとなった。

――おそらくこれが、私の人生において最大の嘘になるだろう。

イソップ物語より アリとキリギリス(ツバサ解釈)



アリはせっせと働いた。

キリギリスはアリを馬鹿にして遊び呆けた。

冬が来て餓死寸前のキリギリスにアリが一言。「自業自得じゃないか」。

私は、年中セコセコ貯蓄しているような連中は困窮者を助ける甲斐性もないという教訓を得た。

【アリとキラツバサ】



休日、私たちは親睦を深めるために一緒に出かけることにした。



あんじゅ「やっぱり、日頃からそのキャラでいるべきだと思うの」

えれな「私が常にクールなのか! はははそりゃ無理だ」

あんじゅ「コラ、英玲奈」

えれな「失礼。少々取り乱した」

つばさ「ブフォっ!……くくっ」

えれな「ツバサには私がこう振舞うのがツボらしい」

つばさ「……!……!」

あんじゅ「カリスマ性皆無じゃない、そんなの」

えれな「あんじゅこそ、若干ゲスさが顔を出しているぞ」

あんじゅ「英玲奈はかんっぜんにポーカーフェイスね」

えれな「ああ。完全にフルハウスだ」

あんじゅ「なにそれ意味わかんない」

つばさ「ブフッ!ゲホゲホ」

えれな「あんじゅ、癒し系はこういうちょっと電波っぽい発言をするものだ。言ってみろ」

あんじゅ「えーやだ」

えれな「スクールアイドルなりたいんだろ?」

あんじゅ「か……完全に、フルハウス」

つばさ「い、いぎでぎない……ヒーヒー」

えれな「なにを一人で笑っているんだ」

あんじゅ「なによ!ツバサだってやってみなさいよ!」

つばさ「そんなこと、私のカリスマが許さないわ……フ」

えれな「最後に鼻で笑わなければ完璧だった」

つばさ「ごめんなさい。まだ少し恥ずかしい……かな」

あんじゅ「しっかりしてよ! あーあ、まさかアイドルになりたくない人と組むとは。とんだ貧乏くじ引いたわ」

えれな「おい、このあいだと言ってること違うじゃないか」

つばさ「ごめんなさい……足を引っ張らないように努力する」

あんじゅ「よく言ったわ。じゃあアレね。まずアイドルショップ行きましょう」

えれな「そうだな。スクールアイドルがどんなものかバッサーに教えてあげよう」



こうして私たちはアイドルショップに向うことになり、一から十まで二人にスクールアイドルについて説明を受けた。

・・・・・

あんじゅ「とりあえず私はこれを買うわ。レジ行ってくる」

つばさ「あ、じゃあ私も」

えれな「じゃあついでにこれも買ってくれ」

あんじゅ「なんでよ、自分で買ってよ」

店員「あの、お待ちのお客様、どうぞ」

あんじゅ「あ、はいはい……あれ」

つばさ「どうしたの?」

あんじゅ「あれ、財布がバッグのそこに埋まっちゃったみたいで……あれ」

えれな「はやくしろ。後ろが並んでいるぞ」

あんじゅ「っもう!すみません、先どうぞ」

*「あ、ありがとうございます」

*「かよちん何買ったのー?」

*「えっとね、あとで見せてあげるね!」

*「うん! 次は靴屋さんに付き合って欲しいにゃー!

ランニングシューズの靴底が磨り減っちゃってて……」

あんじゅ「あ、あったあった」

えれな「癒し系のくせにバッグが汚いんだな」

あんじゅ「大人の女性のクセにいちいちイヤミ言わないでよ!」

つばさ「ま、まあまあ二人とも……」

えれな「カリスマのクセに頼りないな」

あんじゅ「……ふふっ」

つばさ「あはは……」

アハハハハハ



不本意で始まり、なんとなくで流れ流され、こんなことになってしまった。

けど始めて三人で笑いあったそのとき、案外こういうのも悪くはないかも知れない。

そう思った(楽しかったと素直に言わない私)。

・・・・・



アイドルショップを後にした私たちはあんじゅの提案でカラオケボックスに向かった。

ドリンクバーとか、ソフトクリームを作る機械が置いてあるところだそうだ。

私は反対したのだけれど、絶対に歌わないという条件でしぶしぶ承諾した(ソフトクリームが作ってみたかったと素直に言わない私)。



つばさ「でね、私は思うわけよ。太陽は人々を露出狂に変えてしまう力を持っているの」

あんじゅ「それは曲解過ぎなんじゃ……」

えれな「なるほど。つまりツバサは太陽に嫉妬しているわけか」

つばさ「そんな、違う違う」

あんじゅ「ふうん。でもその話に沿ったら北風なんて無理やり服を脱がす……完全に犯罪者じゃない」

つばさ「あれ……本当だ。北風の方がヤバイ」

えれな「その話には実は前置きがあることをご存知だろうか?」

つばさ「そうなの? 知らないわ」

えれな「旅人の上着を脱がす前に、実は帽子を脱がす勝負をしていたんだ。北風と太陽は」

あんじゅ「その勝負はどうなったの?」

えれな「太陽が日差しを強くすると旅人は帽子を深く被ってしまって、北風が風を起こすと帽子は飛んでいったそうだ」

あんじゅ「じゃあ一勝一敗の引き分けだったのね」

えれな「場合によって最良の手段なんて変わってくるものだ。

何かでうまくいった方法が他でも通用するとは限らない。という裏メッセージ的なものがあるんだよ」

あんじゅ「これは認識を改めるべきよ。ツバサ」

つばさ「そうね……まさか北風が犯罪者であり、しかもカツラを吹き飛ばす悪者だったなんて。北風と太陽……深い話だわ。実は黒幕は北風だったのね」

えれな「カツラじゃない。帽子だ」

あんじゅ「でもやっぱり、アイドルになる最良の手段はコレよね」

そう言いながらあんじゅは小さく踊ってみせた。



えれな「そりゃあ、昔から憧れて歌や踊りを練習してきたんだ。

これが間違った手段だったら泣くよ。豪快に泣くよ」

つばさ「そうよね、二人はいっぱい努力してアイドルを目指しているのよね」

あんじゅ「なるほど。あなたが言おうとしてること私わかっちゃった。ツバサはポーカーには向いてないわね」

つばさ「あなたたちが必死にアイドルになるために努力してる間、私は雲を眺めながらボケーっとしたり、

手を背中に回してどこまで届くか試してみたり、歯の数を舌で触りながら数えたりしていたのね」



えれな「それは私もやっていたぞ」

あんじゅ「え? じゃあ歯何本?」

えれな「二十八本だ」

あんじゅ「大人の女性のクセにオヤシラズ生えてないじゃない」

えれな「関係ないだろ! そういうあんじゅはどうなんだ」

あんじゅ「口内は完全にフルハウスよ」

えれな「ドヤ顔でうまいこといいやがって! 三十二本全部生えてるのか……」

つばさ「いや……歯の話じゃないの」

えれな「わかったわかった。ようするにアリとキリギリスだろう?」

つばさ「そう。私は冬を越せないけど、二人は頑張ってアイドルになってね」

あんじゅ「英玲奈、なんか言ってるわよコイツ」

えれな「アリとキリギリスには改変されたオチがいくつもあるのはご存知だろうか?」

つばさ「知らないわ」

えれな「ツバサが言っているのは『冷酷アリ、キリギリスを見捨てる』エンドだな」

あんじゅ「他にどんなエンドがあるの?」

えれな「『聖人アリ、キリギリスに施しを与える』エンドがある。

さらに『そのあとキリギリスがお礼にバイオリンを披露する』エンドもある」

あんじゅ「へえ。平和な世界もあるのね」

えれな「ツバサが冬を越すだけの蓄えがないなら私たちは喜んで分け与えるさ」

つばさ「そんなの申し訳ないわ。私はあなたたちの足を引っ張りたくない」

あんじゅ「申し訳ないと思うなら、ホラ」



あんじゅは私にマイクを向ける。



あんじゅ「歌いなさい。ここにはバイオリンがないから、代わりに歌って踊りなさい」

・・・・・



えれな「大人の女性はコーヒーを飲まなくては」

あんじゅ「癒し系はソフトクリームを食べなくては」

えれな「作りたいだけだろ」

つばさ「カリスマはメロンソーダを飲むわ」

えれな「飲みたいだけだろ」

*「あの……あったかいほうのドリンクバーは故障中みたいです」

えれな「あ、そうなんですか? ありがとうございます」

*「ボタン押しても、なにも出てこないんですよ」

えれな「本当だ。じゃあ仕方がないな」

*「穂乃果ちゃんが、メロンソーダ持ってきてだって」

*「自分で取りに来ればいいのに本当にマイクをずっと握って離しませんね」

*「まあまあ。早く戻ろう?」

えれな「さて、大人な女性はコーヒー以外にはなにを飲むだろう?」

あんじゅ「さあ。飲みたいものを飲むんじゃない?」

えれな「じゃあ私もメロンソーダにしよう」

つばさ「あ、さっきの人たちで空になったみたいよ」

えれな「そんなことがあるのか!?」

つばさ「まあまあ。私の分を分けてあげるわ」



・・・・・

あんじゅ「じゃあ、私のソフトクリームもあげる!」

えれな「やっぱり作りたかっただけじゃないか!」


アリとキリギリスは、仲良くクリームソーダを分かち合った。



・・・・・

イソップ物語より 鳥と獣と蝙蝠(ツバサ解釈)



鳥と獣が戦争を始めた。蝙蝠は羽が生えているのを理由に鳥側に取り入った。

ところが鳥側が不利になると今度は毛が生えているからと獣側についた。

両方が和解したあとも、寝返りを続けた蝙蝠に居場所はなかった。

私は、臨機応変に対応すれば戦争でさえも生き延びられるという教訓を得た。

【鳥と獣とツバサ】



えれな「違う違う。こう、左足を右足の前に出して……」

つばさ「こう?」

えれな「そうしたら腰をひねって、両手をあげる」

つばさ「こう?」

えれな「最後に思いっきり腕を振り下ろして空を仰ぐ!」

つばさ「こう?」

あんじゅ「どうして合ってるハズなのにこんなに面白いのかしら」

えれな「歌は上手いってわかったんだから、ダンスを極めればツバサはいい感じになると思うんだが」

あんじゅ「ダンスにしたって吸収がはやいしね」



二次審査には、パフォーマンスの審査も含まれる。

蓄えのない私は、自然と二人から指導を受けることになる。

ここで私がしっかりしないと二人が落選してしまうことになるので、流石に真面目にやらざるを得なかった。



つばさ「はあ……」

えれな「おい、綺羅ツバサは自信家でなくちゃいけないんだぞ、そんなんでどうする」

つばさ「こんなタコみたいなダンスを自信満々でやってたらそれは自信家じゃなくてただのアホよ」

えれな「確かに……。じゃあアホになれツバサ」

つばさ「私にアホみたいにタコダンスするカリスマになれというの?」

えれな「カリスマならタコですら魅力的にみせるものだ」

あんじゅ「すてき。頑張ってねツバサ! いつかタコみたいなカリスマになるのよ」



私が目指すものはカリスマなのか、自信家なのか、アホなのかタコなのか。

綺羅ツバサは何になればいいのだろうか?

私はあらゆる綺羅ツバサを試した。



……まるでかつての綺羅ツバサを否定するように。

・・・・・



つばさ「英玲奈、あんじゅ。私についてきなさい」

えれな「どうした急に」

あんじゅ「どこに行くの?」

つばさ「お手洗いよっ!」

えれな「一人でいけ」



ある日の私はカリスマだった。



つばさ「どう?私のこの完璧なダンスは。刮目せよ」

あんじゅ「昨日よりはよくなっているわ」

えれな「なんだ今日は偉く自慢げだな」

つばさ「ああ、私。私はどうして私なの? 完璧すぎる」

えれな「ナルシストになったのか」



ある日の私は自信家だった。



つばさ「ニョローン。くねくね」

えれな「ついにイカれたか」

つばさ「にゅるりんーちゅーちゅー」

あんじゅ「イカじゃなくてタコねこれ」



ある日の私はタコだった。



つばさ「おはよう」

えれな「待て、なんで髪の毛の上にさらにカツラを被っているんだ」

つばさ「なんのこと?」

あんじゅ「もっさもさになってるわよ」

つばさ「ああ。これは寝癖よ。今朝起きたらこうなっていたの」

えれな「今日一日それで過ごすつもりか? クレイジー過ぎる」

あんじゅ「早く北風が吹かないかしら」



ある日の私はアホだった。

なんだか日に日に「綺羅ツバサ」という存在がぼやけて曖昧なものになっていく気がする。

えれな「ツバサ、はっきりしてくれ。君はトイレに一人でいけない子なのか?

ナルシストなのか? イカなのか? クレイジーなのか?」

つばさ「綺羅ツバサよ。私は」

あんじゅ「これは深刻だわ。きっと疲れているのよ。少し息抜きが必要みたい」

えれな「そうだな。今度の休みに衣装の下見がてら出かけるとしよう」



・・・・・



カリスマな私は、二人にお出かけに誘われた。これもカリスマの成せる技。

あんじゅ「蝙蝠となんとかのお話、なんだったかしら」

大きな買い物袋を抱えながら、唐突にあんじゅはそう言った。

つばさ「それは鳥と獣に寝返りまくる蝙蝠の話かしら?」

エレベーターの下の階行きのボタンを押して私は答える。

あんじゅ「そうそれ。今のツバサそれみたいになっちゃってる」



エレベーターに乗ると、既に二人の先客がいた。



*「ウチはこういうところ、ようわからんからなあ」

*「だから私が連れてきたんじゃない」

*「なんや流行りのものとか、うといし」

*「あのねえ……あ、何階ですか?」

つばさ「あ、一階でお願いします」



荷物を抱えた私たちの代わりにその人はボタンを押してくれた。

金髪で悪そうなのに。人は見かけによらないものだ。



・・・・・

つばさ「で、なんの話だったかしら?」

あんじゅ「蝙蝠のお話よ。鳥になったり獣になったりする『自分』がない、ね。

もっと言うと、あるときは自分はカリスマだ。って言ってみたり、

またあるときは自分にはそんなのは無理だ。って言ってみたりする、ね」

つばさ「まあ! 世の中にはとんだ卑怯者がいたものね」

えれな「その蝙蝠の物話だが、後日談のようなものがあるのはご存知だろうか?」

つばさ「知らないわ」

えれな「オーストラリアに伝わる『太陽の消えたとき』というおとぎ話がある。

鳥と獣の争いに呆れ果てた太陽がストライキをするんだ」

あんじゅ「太陽が昇らなくなってしまったのね。大変」

えれな「困った動物たちは蝙蝠に相談する。なんとかならないだろうかと」

あんじゅ「それで?」

えれな「蝙蝠が三度、水平線にブーメランを投げるとなんやかんやして太陽は再び昇ったらしい」

あんじゅ「なんでブーメラン? なんで三回? ぜんぜん意味がわからないんだけど。

なんやかんや、ってなに? 大事なところ適当か」

えれな「おとぎ話の類ってのは案外どれも適当なものだ」

つばさ「おかしいわ。太陽が昇らないってことは地球が止まっているってことじゃない」

えれな「おいおいそんな野暮ったいツッコミをするな。まったく、現代っ子ってのは恐ろしいな」

つばさ「そのお話はまだ天動説が主流だった頃に作られたのね」

あんじゅ「では現代風に翻訳しましょう」

えれな「じゃあ、鳥と獣の戦争に呆れたのは地球ということにしよう。

地球は回るのをやめてしまいました。これでいいだろう」

あんじゅ「ストライキを起こしたのは地球だったのに、太陽は濡れ衣を着せられてしまったの」

つばさ「実は黒幕は地球だったのね」



つまり、太陽を昇らせるには……。

自分が動けばいい。自分が回ればいい。



・・・・・

イソップ物語より オオカミ少年(ツバサ解釈)



羊飼いの少年は何度も「オオカミが来た」と嘘をついていた。

振り回された人々は次第に少年を信用しなくなる。

ある日本当にオオカミが来たが、少年は誰にも相手にされず羊は全滅した。

私は、羊がとばっちりを受けて可哀想だと思った。

【オオカミ少女】



「綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅ、……合格です。最終審査も頑張ってください」



私たちのグループは無事二次予選を突破した。つまり私の役目は終わりを迎えたのだ。



つばさ「よかった。じゃあ二人は最終審査頑張ってね」

あんじゅ「え!? ツバサ、まさかせっかくここまで来たのに」

つばさ「もう私が辞退しても二人は困らないでしょう? もうグループでの審査は終わったんだもの」

えれな「ここまで一緒にやってきてそれはないだろう?」

つばさ「そっちこそ、なによそれ。ライバルが減って嬉しいってもんじゃない?」

あんじゅ「そうね。確かにそのとおりだわ」

つばさ「でしょう? じゃあね、いままでありがとうございました」

あんじゅ「でも、あなたは本当にそれでいいの?」

つばさ「私? 私は別に」

えれな「いつまで自分に嘘をついているんだツバサ」

つばさ「嘘? 私は嘘が大嫌いよ。私は嘘なんてついてない」

あんじゅ「だってあなた、あんなに楽しそうだったじゃない!」




楽しそうだった? 私が?

そんな、それは……。

いや待て。私は素直で、正直で、嘘が嫌い。

なら、その姿が偽りであるはずはない……。

そうか、私は楽しかったのか。

でもそれっておかしい。私ずっとそれを認めてなかったことになる。

それってぜんぜん素直じゃない。



……私の本心は、なに?



どうして私はあの日、視聴覚室に行ったの?

三ヶ条に従って?

ちょっと興味あったんじゃないの? 本当はそこで何が行われるかなんとなく知ってたんじゃないの?

どうして、あのとき審査の会場から出て行かなかったの?

黄色は止まれ?なにそれ。

自分で思いとどまったんじゃないの?



どうしてこの二人と仲良くしているの?

ごちゃごちゃ理由つけてたけど、私が楽しかったからじゃないの?



いっつも難癖つけて自分の不甲斐なさ周りのせいにして、私は何一つ素直に言わなかったじゃない。



カッコをつけて素直に先生に従ったって言わない私。

自分の直感だって言わない私。

楽しかったって言わない私。

ソフトクリーム作りたかったと言わない私。

……。

つばさ「私が、嘘つき?」

あんじゅ「ええ」

えれな「おまけに、ひねくれものだ」

つばさ「私は……嘘つき?」

あんじゅ「私も嘘つき」

えれな「みんな嘘つきだ」



そうか。そうだ。みんな嘘つきだ。

気さくな統堂英玲奈は、クールで大人なフリをする嘘つき。

少しゲスい優木あんじゅは、ふんわり癒し系のフリをする嘘つき。

私は、引っ込み思案でおとなしいフリをしてきた嘘つき。

人間誰しも嘘をつく。

そして、そのことを誰しも知っているのだ。

知っていながら騙し騙され、信じあう。

ああ、世界はなんて優しいんだろう。



あんじゅ「オオカミ少年も、たまには本当のこと言ってよ。信じてあげるから」

つばさ「私、本当は……ずっと憧れていたの。

それに、歌うのも踊るのも楽しい。大好き。誰にも負けないくらい大好き。

私は、引っ込み思案なんじゃなくて……失敗するのが怖いだけなの」

えれな「おいあんじゅ、やっと本当にオオカミがきたらしい」

つばさ「信じてくれる?」

あんじゅ「もちろん」

つばさ「ありがとう。私も……少し自分を信じてみようと思う」



アリとキリギリスのように、オオカミ少年にも改変されたエンドがきっとある。

人々は最後までその嘘つきを信じました。

おかげでオオカミは追い払われ、羊たちは無事でしたとさ。

めでたしめでたし。



・・・・・

最終審査会場。



えれな「ついにここまで来たか。それにしてもずいぶん人が多いな」

あんじゅ「隣の会場ではピアノのコンクールがあるみたいよ」

えれな「それでか」

つばさ「お手洗いに行きたくなったわ! ついてきて!」

あんじゅ「はいはい」

えれな「緊張しているのか?」

つばさ「まさか! 私は緊張なんてしないわ」

えれな「それでお手洗いはどこだ?」

つばさ「知らないけど」

えれな「まったく……あのう、すみません」

*「はい?」

えれな「お手洗い、どこでしょうか……?」

*「ああ、そっち行って曲がったところに表札ありましたけど?」

えれな「ありがとう」

あんじゅ「あの赤毛の子、かわいかったわね」

えれな「もしかして、最終審査のメンバーだっただろうか?」

つばさ「それにしてはちょっと幼げだったし、あんな衣装で踊らないでしょう。きっとピアノのコンクールの方よ」

えれな「なるほど」



・・・・・




あんじゅ「ツバサ、しっかりスピーチは覚えてきたの?」

つばさ「バッチリよ。二人こそどうなの?」

えれな「二人のおかげでここまでこられたのは確かだ。

でもここからは……ふう、お互い頑張ろう。健闘を祈る」



「では次。綺羅ツバサさんです。どうぞ!」



呼ばれた。……前に出る。最終審査は大勢の前で様々な項目を競い合う。

その中の一つがこのスピーチだ。



つばさ「みなさんこんにちは! 私は……」



順調に覚えた内容を語りだす。何日も時間をかけて吟味し、暗記してきたセリフだ。

大丈夫。順調に頭の中のそれを読み進めていく。

思い返せば、長かったような短かったようなこれまで。

少し前の私なら、こんな大勢の前に自分の意思で立つなんてありえなかった。

あんな素敵な人たちに出会えるなんて想像もしていなかった。

ところが、私は私が思っているよりも強欲であったらしい。

まだまだ満足していない! これからも私は……。



つばさ「……です。ですから……」



ですから……。



あ、とんだ。なんだっけ?なにも出てこない。

えれな「やっぱり緊張してるんじゃないか……何がバッチリだ」

あんじゅ「大丈夫かしら?」



えーと、……ダメだ。思い出せない。ああもういいや。



つばさ「ですから! みんな私についてきて!

絶対後悔させないから。新しいA-RISEを、新しい時代を見たいんでしょう?

私が見せてあげるから。綺羅ツバサ、覚えておいて。いずれスクールアイドルの頂点に立つ女の名前よ」



えれな「……とんだカリスマ野郎だな」

あんじゅ「ふふっ。清々しいほど自信家ね」



な、なんだこれは!?

しまった、頭が真っ白になった勢いで綺羅ツバサ一世一代の大見得を切ってしまった!

恥ずかしさのあまり、私はゆでダコのように真っ赤になった。

ひええ、もうダメ……。



ワアアッ! と会場がざわめく。



……それはその日一番の歓声だった。

私の顔はゆでダコのように真っ赤であったが、そう。

カリスマはタコでさえ魅力的に見せるものなのだ。




見事に蝙蝠は真っ赤な太陽を昇らせた。

黄色は、止まれ。

長いこと黄色だった信号が赤に変わった。

きっともうすぐ青になるだろう。

そして昇ってきた太陽をみて蝙蝠は言う。「あ、ライズ」。

なんてね。

・・・・・



えれな「どうなることかと思ったよ」

あんじゅ「あとは結果を待つだけね」

つばさ「ああ……私なんかすごいこと口走っちゃった……」

えれな「戻ったか。遅かったな」

つばさ「お手洗いに寄ってきたのよ」

えれな「お手洗いズ」

あんじゅ「なんか言った?」

えれな「いや。ところでツバサ、その手に持っている花はなんだ?お花を摘みに行ったとかいう高度なギャグか」

つばさ「そこでもらったのよ。ツインテールで、私と同じくらいの背の子。『応援します』だって!」

あんじゅ「ファン第一号かもしれないわね」

つばさ「え? 私の、ってことかしら!」

えれな「A-RISEの、だろう」

・・・・・



それからほどなくして私たちは三人揃ってA-RISEとなった。



私たち三人は結局、全員元の場所に戻ってきたのだ。

そう。まるでブーメランのように……。



私たちが回れば――踊れば――日が昇る。



これからも私たちはほんの少しだけキャラを偽って……嘘をついていくことになるだろう。



人は、しばしば嘘をつく。

それは自分の身を守るためであったり、誰かを陥れるためであったり。

もしくは、誰かを幸せにするためであったり。

どちらにしても私は、そんな嘘たちが愛おしい。



カリスマ綺羅ツバサ(嘘)。クール統堂英玲奈(嘘)。癒し系優木あんじゅ(嘘)。

私たちは、一つの嘘の集まりだ。

そう。A lies(アライズ)――一つの嘘たち――。

なんてね。

もちろん、この嘘は誰にも内緒なわけだが。

・・・・・



あんじゅ「そういえば英玲奈、私謝らなくちゃいけないことがあるの」

えれな「なんだ?」

あんじゅ「この前、舌で触りながら自分の歯の数数えてみたんだけど……

三十本しかなかったわ」

えれな「なんだ! あんじゅもまだまだだな。まだまだ、フルハウスには遠いわけだ」

あんじゅ「そうね。まだスリーカードが揃ったばかりだもの」

えれな「それはそうと、私たちのキャッチコピーを考えてみたんだ」

あんじゅ「どんなの?」

えれな「今夜はかエレナい。ユウキのユバサで包んであげる」

あんじゅ「ずいぶん無理やり突っ込んだわね」

つばさ「ブフッ! アハハハハ」

えれな「ツバサにはツボらしい」

あんじゅ「フフフ!」

えれな「ハハハ!」



ポカポカ陽気。眩しい笑顔。



つばさ「暖かくなってきたわね」



私は羽織っていた上着を一枚脱いだ。





シークレットつばさアライズ



終劇

※本レスではラブライブ!およびイソップ物語に独自の解釈が多大に含まれています。誠に申し訳ありませんでした。

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